説明

電動穿孔工具

【課題】
本発明の課題は、姿勢報知装置を備えるハンマドリルのような電動穿孔工具において、姿勢報知回路の消費電力を低減することにある。また、姿勢報知装置による不要な姿勢報知を無くして作業効率を改善することにある。
【解決手段】電動穿孔工具1の制御装置50は、動力スイッチ61のオン時点(t2)から先端工具20による被削材90に対する穿孔動作の終了時点(t3)までの穿孔作業中の所定時点において、姿勢検出センサ82a〜82cおよび姿勢報知器84を含む姿勢報知手段の少なくとも一部の動作を停止させるための動作停止手段51aを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビットを電動モータで駆動するハンマドリル等の電動穿孔工具に関し、特に、ワークの加工面に対して電動穿孔工具本体の着座状態を検知するための姿勢検知機能を備える電動穿孔工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータにより駆動されるハンマドリル等の電動穿孔工具において、電動モータによってドリルビット等の先端工具へ回転力もしくは打撃力、またはそれら両者を与えることによって、コンクリートやレンガ等のワーク(被削材)に孔をあけ、または孔を削る作業が行われている。
【0003】
このような電動穿孔工具にあっては、被削材が硬質または軟質の材料によってドリルビット等の先端工具の振動も大きくなり、先端工具が被削材の加工目的位置から位置ズレを起こし易くなるという問題がある。また、被削材の加工面に対して先端工具が直角に穿孔することなく、傾斜した角度で穿孔する等の加工不良が発生し易い。このため、従来のドリルドライバやインパクトドライバのような回転式工具では、下記特許文献1に開示されているように、先端工具の傾きを監視する姿勢報知器を搭載せしめ、工具本体の傾きを常に表示器または警報器等により報知し、工具本体の姿勢を補正しながら作業を継続できるように構成したものが公知である。
【0004】
【特許文献1】特開2001−277016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の姿勢報知装置を備える回転式工具においては、ワークに対する穿孔作業の間、工具の動力スイッチをオンしてから穿孔作業またはネジ締め作業が完了するまで、常時、姿勢検知センサ(距離センサ)、姿勢駆動回路、および姿勢報知器を作動させていた。このため、姿勢報知回路の消費電力が大きくなるという欠点があった。特に、電池パックを駆動電源とする電動穿孔工具では、電池パックの放電時間が短縮されてしまうという問題を生ずる。また、姿勢報知器に基づく姿勢補正が安定した後も、常時、姿勢報知回路が作動しているために、姿勢報知器が不要となった作業中には姿勢報知器の表示または警報が作業者にとって目障りまたは耳障りの原因となり、これによって、作業者は穿孔作業に集中できず、作業効率が低下するという問題を招く場合があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、姿勢報知装置を備える電動穿孔工具において、姿勢報知回路の消費電力を低減することにある。また、姿勢報知装置による不要な姿勢報知を無くして作業効率を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の目的を達成するために、本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば、次のとおりである。
【0008】
本発明の一つの特徴によれば、動力スイッチのオン状態により回転力が与えられる電動モータと、前記電動モータの回転力によって駆動される先端工具と、穿孔時に前記先端工具のワークの加工面に対する姿勢を検知するためのセンサを有し、該センサの出力に基づいて前記ワーク加工面に対する前記先端工具の姿勢を決定し、姿勢情報を出力するための制御部と、前記姿勢情報に基づいて姿勢を報知するための姿勢報知手段と、を具備する電動穿孔工具において、前記制御部は、前記動力スイッチのオン時点から前記先端工具による前記ワークに対する穿孔動作の終了時点までの穿孔作業中の所定時点において、前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を停止させるための動作停止手段を具備する。
【0009】
本発明の他の特徴によれば、前記制御部は、前記穿孔動作の開始前までに、前記先端工具の姿勢を決定し、前記動作停止手段は、前記穿孔動作の開始前に前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を停止させるように構成する。
【0010】
本発明のさらに他の特徴によれば、前記制御部は、前記動力スイッチのオン時点から前記穿孔動作が所定深さの位置に達するまでに前記先端工具の姿勢を決定し、前記動作停止手段は、前記穿孔動作が前記所定深さの位置に達した後に、前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を停止させるように構成する。
【0011】
本発明のさらに他の特徴によれば、前記制御部は、前記穿孔動作の開始後の一定時間を経過するまで、前記先端工具の姿勢を決定し、前記動作停止手段は、前記穿孔動作が前記一定時間を経過した後に、前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を停止させるように構成する。
【0012】
本発明のさらに他の特徴によれば、前記電動穿孔工具は、少なくとも「回転モード」および「回転・打撃モード」の作業モードの一つを選択的に前記先端工具に伝達する切替機構を有するハンマドリルである。
【0013】
本発明のさらに他の特徴によれば、前記電動穿孔工具は、「回転モード」、「回転・打撃モード」および「打撃モード」の一つの作業モードを選択的に前記先端工具に伝達する切替機構を有するハンマドリルであって、前記動作停止手段は、前記切替機構が前記「打撃モード」を選択した場合、前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を、常時、停止させるように構成する。
【0014】
本発明のさらに他の特徴によれば、前記動作停止手段は、前記切替機構が前記「打撃モード」を選択した場合、前記切替機構を構成する移動部材の移動位置に応答して、前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を、常時、停止させるように構成する。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明の特徴によれば、穿孔作業中の工具の姿勢を設定した後は、姿勢報知回路の一部または全部を動作停止状態とする停止手段を有するので、姿勢報知回路の消費電力を著しく削減することができる。また、姿勢報知器は、不要な時間は停止しているので、作業者は穿孔作業に集中できるようになり、作業効率を向上させることができる。
【0016】
また、上記本発明の他の特徴によれば、ハンマドリルの作業モードのうち、打撃モードについては、姿勢報知回路の動作を停止状態に常時、維持するので、ハンマドリルの消費電力を低減し、かつ打撃モードによるハツリ作業等の作業効率を向上させることができる。
【0017】
本発明の上記および他の目的、ならびに本発明の上記および他の特徴は、本明細書の以下の記述および添付図面から更に明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材または要素には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
図1は本発明に係る電動穿孔工具をハンマドリルに適用した場合の全体構造図、図2は図1に示したハンマドリルの要部拡大断面図、および図3は図1に示したハンマドリルの全体ブロック図をそれぞれ示す。
【0020】
<ハンマドリルの全体構成について>
最初に、図1〜図3を参照して本発明の実施形態に係るハンマドリル全体の構成について説明する。
【0021】
図1の構成図に示すように、ハンマドリル1は、ブラシレスモータ等の電動モータ40の回転軸と同一方向(水平軸方向)に沿って、一端部(図面の右端部)から他端部(図面の左端部)に延在する胴体ハウジング部37と、胴体ハウジング部37より垂下するハンドルハウジング部38とから構成された工具本体を含み、胴体ハウジング部37の他端部に配置された先端工具保持部(チャック部)39には、工具本体より回転力または打撃力を受けて、被加工物90(図4参照)を穿孔または打撃するための先端工具20(例えばドリルビット)が着脱自在に装着される。
【0022】
ハンドルハウジング部38には、商用交流電源を供給するための電源ケーブル63と、動力スイッチ(スイッチトリガ)61とが装着される。このハンマドリル1は、電源ケーブル63によって商用電源を供給する例を示したが、例えば、ハンドルハウジング部38の下端部に電池パックを搭載した直流電源を電力供給源として構成することもできる。
【0023】
胴体ハウジング部37には、後述するように、電動モータ40の回転出力軸にギヤで結合された中間軸および回転力を打撃力に運動変換するための運動変換機構部を含む第1の動力伝達機構部71と、該第1の動力伝達機構部71とクラッチ機構を介して機械的結合され、第1の動力伝達機構部71から伝達される回転力または打撃力を先端工具20へ伝達するためのシリンダ19(図2参照)およびピストン16(図2参照)を含む第2の動力伝達機構部72とが装着されている。また、胴体ハウジング部37の一端部には、姿勢報知器84、報知時間設定部85および制御装置(回路基板)50および姿勢報知時間を設定するための報知時間設定部(ダイヤル)85が装着されている。姿勢報知器84は、先端工具20または工具胴体ハウジング部37の被削材90の加工面90a(図4参照)に対する姿勢を表示する液晶表示装置等の表示モニタから構成されている。
【0024】
胴体ハウジング部37の他端部側には、図1の(a)および(b)に示すように、距離を測定するための3つの距離センサ82a、82bおよび82cが設けられている。各距離センサ82a、82b、82cは、図示されていないが、発光素子と受光素子を備え、各距離センサの発光素子から発光された光を被削材90の加工面90a(図4参照)から反射させて受光素子で受光することにより、先端工具20または工具本体1と被削材90の加工面90aとの間の距離を制御装置50で算出する。
【0025】
また、胴体ハウジング部37の他端部側には切替部材(チェンジレバー)8が設けられ、切替部材8は切替位置検出センサ(距離センサ)8cによって必要に応じて電気量に変換される。この切替部材8によって、後述するように、「回転・打撃モード」、「回転モード」、「打撃モード」、および「ニュートラルモード」の各種の作業モードから所望のものが択一的に選択される。
【0026】
図1の(c)は、本発明に係る表示モニタ84の一例を示す。モニタ84には、X軸84xと、X軸と直交するY軸84yと、X軸84xとY軸84yが直交している中央部分84aが表示され、図4に示すように被削材90の加工面90aに先端工具20の先端部に対向した場合に、先端工具20の加工面90aに対する傾きポイント84bが映し出される。もし、先端工具20(工具本体1)の姿勢が適正の位置から傾いている場合は、図4の(b)に示すように、表示ポイント84bが中央部84a内に位置することが不可能となるので、図4の(c)に示すように、表示ポイント84bが中央部84a内に位置するように工具本体1の姿勢を調整することができる。なお、表示モニタ84の報知時間の設定は、報知時間設定部85によって必要な時間に設定できるように構成されている。
【0027】
(第1の動力伝達機構部71および第2の動力伝達機構部72の構成について)
図2の構造断面図に示すように、一端部が軸受部48に支承されたモータ40(図1参照)は、ギヤケーシング30内においてピニオン出力軸部2を有し、回転駆動力を出力する。ピニオン出力軸部2の回転駆動力は、ピニオン出力軸部2からギヤ3を介して中間軸14の後半部14bに伝達される。中間軸14bには回転軸14bに対して回転可能に遊嵌された、回転力を打撃力に変換する運動変換部材4が設けられる。運動変換部材4が後述する第2クラッチ機構部CL2によって中間軸14bに結合される場合、運動変換部材4によって変換された打撃力は、先端工具保持部(チャック)39に保持された先端工具20に伝達するための第2の動力伝達機構部72(打撃機構部)に伝達される。また、中間軸14自体は、中間軸14の前半部14aに結合された第1クラッチ機構部CL1と共に、先端工具20に回転力を伝達するための第1の動力伝達機構部71(回転伝達機構部)を構成する。
【0028】
さらに詳細に述べるならば、先端工具20を保持するシリンダ19にはセカンドギヤ15が設けられており、セカンドギヤ15に対応して中間軸14の前半部14aに、セカンドピニオン10が、中間軸14aに対して回転可能に、かつ中間軸14aの軸方向に移動可能に付設されている。
【0029】
セカンドピニオン10の先端工具20側には、セカンドピニオン10のピニオン部10aと係合可能な歯車12aを有したピニオンスリーブ12が中間軸14aに圧入して設けられている。なお、上記中間軸14は、図示左側に位置する中間軸前半部14aと、図示右側に位置する中間軸後半部14bとに2分割された構成となっており、中間軸前半部14aは、中間軸後半部14bに圧入されて一体に回転するように接続されている。
【0030】
セカンドピニオン10のピニオン部10aとピニオンスリーブ12の歯車12aは係合するように構成され、両者が係合すると、中間軸14aの回転運動がピニオンスリーブ12を介してセカンドピニオン10に伝わり、さらにセカンドギヤ15を介してシリンダ19に伝わり先端工具20を回転させる。
【0031】
もし、切替部材(チェンジレバー)8によって作業モードを切替る場合は、切替部材8のモード切替えによって切替部材8の突出部8aを移動させて回転係止部9をモータ40側(右側)へ移動させる。回転係止部9をモータ40側(右側)へ移動させれば、セカンドピニオン10がモータ40側へ移動するので、ピニオンスリーブ12との係合がはずれ、セカンドピニオン10の内径部で中間軸14が空転し、シリンダ19への回転力の伝達が中断される。すなわち、ピニオンスリーブ12とセコンドピニオン10は、切替部材8によって回転力が伝達または中断される第1クラッチ機構部CL1を構成する。
【0032】
例えば、図2に示した切替部材8の位置は、距離センサ8cからの回転係止部9の位置(距離)をD1に保持し、付勢バネ7によってセカンドピニオン10をピニオンスリーブ12にスプライン結合させて回転力を中間軸14aからセカンドギヤ15を介してシリンダ19に伝達する場合(「回転・打撃モード」の場合)を示している。また、図7に示した切替部材8の位置は、距離センサ8cからの回転係止部9の位置(距離)をD2(D2>D1)に保持し、回転係止部9によってセカンドピニオン10とピニオンスリーブ12間のスプライン結合を切り離すことによって、中間軸14aをセカンドピニオン10に対して空転させ、セカンドギヤ15への回転力の伝達を中断させた「打撃モード」の場合を示している。
【0033】
一方、中間軸14b上には、中間軸14bの軸方向に移動可能に設けられ、かつ中間軸14bに対してスプライン係合して回転不能に結合されたスリーブ6が設けられる。また中間軸14bに対して回転可能に遊嵌され、中間軸14bの軸方向に移動不能に設けられた運動変換部材4が設けられる。スリーブ6と運動変換部材4とは互いに係合可能な爪が設けられており、運動変換部材4の爪部4aにスリーブ6の爪部6aが係合している間は、中間軸14bの回転運動がスリーブ6を介して運動変換部材4に伝達され、運動変換部材4の往復動作によって打撃運動に変換され、先端工具20へ打撃力が伝達される。
【0034】
切替部材8によって回転係止部9のツバ部9aを先端工具20側へ移動させ、これによって、スリーブ6を先端工具20側へ移動させれば、スリーブ6と運動変換部材4との爪部(4a、6a)の係合を外すことが可能となり、先端工具20への打撃運動の伝達を中断できる。このようにして、スリーブ6と運動変換部材4とによって先端工具20への打撃伝達を制御する第2クラッチ機構CL2が構成されている。
【0035】
図2に示すように、中間軸14上のセカンドピニオン10とスリーブ6との間には、上記第1クラッチ機構CL1および上記第2クラッチ機構CL2が連結される方向にセカンドピニオン10とスリーブ6を常に付勢するための付勢バネ7(付勢手段)が設けられている。
【0036】
切替部材8は、回転可能でかつ外部より操作可能に設けられており、中心軸から偏心した位置に突出部8aを有する。この突出部8aは、切替部材8が回転操作されてモータ40側へ移動するとき、セカンドピニオン10を、回転係止部9を介して、モータ40側に移動させる。これによって、セカンドピニオン10をピニオンスリーブ12と非係合とし、第1クラッチ機構CL1を離脱させる方向に移動させる手段として働く。
【0037】
図2に示すように、セカンドピニオン10付近には回転係止部材9が設けられている。回転係止部材9は、詳細な構造が図示されていないが、中間軸14の軸方向に移動可能となっており、セカンドピニオン10のツバ部の歯車10bの外周部と係合可能な貫通孔(図示なし)を有する。回転係止部材9は、回転係止部材9をモータ40側へ移動させた際、歯車10bと上記貫通孔とが係合してセカンドピニオン10の回転を規制し、シリンダ19および先端工具20の回転を規制する。なお、回転係止部材9は、付勢手段として使用された第2の付勢バネ(図示なし)によって常にセカンドピニオン10と係合する方向に付勢されている。上述したように、回転係止部材9は、セカンドピニオン10と共に、先端工具20の回転を規制する第3クラッチ機構CL3を構成する。
【0038】
回転係止部材9に一体に形成された、ツバ部9aは、スリーブ6を運動変換部材4と非係合とする方向に移動させる手段であり、突出部8aおよび回転係止部材9を介して切替部材8の回転動作に連動して中間軸14の軸方向に移動し、回転係止部材9とセカンドピニオン10とが非係合状態、すなわち第1クラッチ機構CL1が離脱した状態にある際にスリーブ6を運動変換部材4と非係合とする方向に移動させることができる移動手段である。
【0039】
ピストン16は、第2クラッチ機構CL2によって運動変換部材4の爪部4aがスリーブ6の爪部6aに係合した場合、運動変換部材4によって往復運動を受ける。一方、ピストン16と打撃子17の間には空気室16aが画成されているので、ピストン16の往復運動により、ピストン16と打撃子17との間に画成された空気室16aは、圧縮と膨張を繰り返す空気バネとして機能する。その結果、空気室16aの空気バネを利用し、打撃子17および中間子18を介して先端工具20に打撃力を伝達する。
【0040】
(制御装置50の構成について)
図3の機能回路ブロックに示されるように、制御装置50は演算部51を具備する。演算部51は、図示されていないが、処理プログラムとデータに基づいて後述するモータ駆動回路55の駆動信号を出力するためのCPU、処理プログラムや制御データを記憶するためのROM、データを一時記憶するためのRAM、タイマ等を含むマイクロコンピュータから構成され、モータ40の回転数制御、および姿勢報知器84の報知制御を行う。
【0041】
また、制御装置50は、動力スイッチ(スイッチトリガ)61のトリガ引込量を電気量(電圧)に電気変換するための印加電圧設定回路52と、距離センサ82a、82bおよび82cの出力に基づいて先端工具20または工具本体1と被削材90の加工面90a(図4参照)との間の距離を算出する本体姿勢演算回路53と、切替部材8に切替位置検出センサ8cを介して電気的に結合された作業モード判定回路54とを具備する。切替位置検出センサ8cは、例えば、発光素子と受光素子から構成された距離センサによって構成できる。図2は距離センサ8cを使用した例を示す。図2に示すように、切替部材8による「回転・打撃モード」、「回転モード」、「打撃モード」、および「ニュートラルモード」の各種の作業モードの切替によって、クラッチ機構CL3を構成する回転係止部材9が異なる位置へ移動する。従って、胴体ハウジング37の基準面に取付けられた切替位置検出センサ8cによって回転係止部材9の移動位置D1を検出することにより、作業モードに応じて異なる位置を検出することができる。切替位置検出センサ8cは、切替部材8の切替えに同期して抵抗値が変化する可変抵抗器によって構成してもよい。
【0042】
さらに、制御装置50は、演算部51によって形成されたモータ駆動信号によってモータ40を駆動するための駆動回路55を含んでいる。本実施例では、モータ40としてブラシレスモータを使用しているので、モータ駆動回路55は、モータ40の電機子巻線(固定子巻線)を駆動するためにブリッジ接続された6個のパワーMOSFET(絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)を含むインバータ回路によって構成され、演算部51によって形成されるパルス幅変調された3相駆動信号(PWM変調信号)によって駆動される。演算部51は、動力スイッチ61のトリガ引込量に対応する印加電圧設定回路52の出力信号に基づいて、3相PWM変調信号のパルス幅(デューティ比)を変化させることによりモータ40への電力を調整し、モータ40の回転数を制御する。
【0043】
<各モードの動作について>
(回転・打撃モードについて)
図2に示すように、モータ40の回転は、ピニオン2からギヤ3を介して中間軸14bに伝達され、中間軸14bにスプライン係合するスリープ6に設けた爪部6aと運動変換部材4に設けた爪部4aが係合し、ピストン16を往復運動させる。一方、ピストン16と打撃子17の間には空気室16aが画成されているので、ピストン16の往復運動により、ピストン16と打撃子17との間に画成された空気室16aは、圧縮と膨張を繰り返す空気バネとして機能する。その結果、空気室16aの空気バネを利用し、打撃子17および中間子18を介して先端工具20に打撃力を与える。
【0044】
同時に、モータ40の回転は、上述したように第1クラッチ機構CL1を介してセカンドピニオン10に伝達され、セカンドギヤ15を介して先端工具20を保持するシリンダ19に回転を伝達する。これにより、先端工具20に回転力と打撃力を伝達する「回転・打撃モード」を得ることができる。
【0045】
(ニュートラルモードについて)
上述した「回転・打撃モード」の状態から切替部材8を操作し、切替部材8の突出部8aをモータ40側に移動させれば、突出部8aによってセカンドピニオン10が第1付勢バネ7の付勢力に抗してモータ40側へ移動し、第1クラッチ機構CL1が離脱する。
また、同時に第2付勢バネ(図示なし)で付勢されている回転係止部材9は、切替部材8の突出部8aに突き当たっており、セカンドピニオン10のツバ部の歯車10bと係合しない位置にある。これにより、先端工具20への回転伝達を中断すると共に、先端工具20は空転状態となり、先端工具20の刃先を任意の向きにすることができる。すなわち「ニュートラルモード」を得ることができる。
【0046】
(打撃モードについて)
図7に示すように、上述した「ニュートラルモード」の状態から、先端工具20の刃先を任意の向きに合せたまま切替部材8を操作し切替部材8の突出部8aをモータ40側へ移動させると、上記第2付勢バネで付勢されている回転係止部材9の突き当てとなっていた突出部8aが回転係止部材9の開口部(図示なし)に入り、回転係止部材9は第2の付勢バネの付勢力によりモータ40側へ移動し、回転係止部材9とセカンドピニオン10のツバ部の歯車10bが係合して第3クラッチCL3が連結する。
【0047】
これにより、先端工具20の空転が抑止できる。この時、スリーブ6は第1付勢バネ7により付勢されているため、スリーブ6の爪部6aと運動変換部材4の爪部4aとは連結され、結果的に、第2クラッチ機構CL2は連結される。これにより、先端工具20の空転は回転係止部材9で抑止され、この時、スリーブ6は第1のバネ7によって付勢されているため第2クラッチ機構CL2は連結されたままとなる。その結果、先端工具20には打撃力のみを伝達する「打撃モード」を得ることができる。なお、回転係止部材9の内径は、ピニオンスリーブ12と係合する、セカンドピニオン10の外径より大きい径を有している。
【0048】
(回転モードについて)
上述した「回転・打撃モード」の状態から、切替部材8を操作して切替部材8の突出部8aを先端工具側へ移動させれば、突出部8aによって回転係止部材9が先端工具20側へ移動する。
【0049】
この時、回転係止部材9に一体に設けられたツバ部9aがスリーブ6に突き当たり、ツバ部9aによってスリーブ6も回転係止部材9と共に先端工具20側へ移動し、第2クラッチ機構CL2が離脱して先端工具20への打撃伝達を中断する。セカンドピニオン10は第1付勢バネ7により付勢されているため、第1クラッチ機構CL1は連結した状態にあり、先端工具20に回転力のみ伝達する。すなわち「回転モード」(回転のみモード)を得ることができる。
【0050】
かかるハンマドリル1においては、「回転モード」や「回転・打撃モード」の作業モードでは、穿孔作業中でのハンマドリル本体の適切な姿勢保持が必要となるので、姿勢報知器84による姿勢監視が必要となる。以下に、図4および図6を参照して姿勢報知器84の動作について説明する。
【0051】
(穿孔開始前の報知停止制御について)
図6の(a)〜(d)に制御タイミング図の一例を示す。最初に、切替部材8によって姿勢報知器84による姿勢監視を必要とする「回転モード」または「回転・打撃モード」を選択する。本実施例では、図2に示したように、「回転・打撃モード」が選択された例を示す。作業モードの判別は、図2に示すように、距離センサ8cによって回転係止部材9の移動距離D1を検出して判別する。
【0052】
次に、図6の(a)および(b)に示すように、時刻t1において電源スイッチ(図示なし)をオンすると、図3に示したセンサ82a〜82cと、本体姿勢演算回路53と、演算部51と、報知駆動回路83と、姿勢報知器84とを含む姿勢報知回路が同時にオンする。
【0053】
時刻t1〜時刻t2において、図4の(a)に示すように、先端工具20が取付けられたハンマドリル1を被削材90の加工面90aの穿孔位置にセットする。セットされたハンマドリルの工具本体1は、内蔵された距離センサ82a、82b、82cによって加工面90aからの距離信号Da、Db、Dcが本体姿勢演算回路53によって検出され、演算部51に出力される。演算部51は、距離信号Da、Db、Dcに基づいてハンマドリル1の被削材90の加工面90aに対する直交方向に対する傾きを算出し、報知駆動回路83を介して姿勢報知器84の表示モニタ84の座標に姿勢スポット84bをリアルタイムで表示する。
【0054】
もしハンマドリルの工具本体1が被削材90の加工面90aに直角より傾斜している場合は、演算部51は、図4の(b)に示すように、表示モニタ84の中心部84aからずれた位置に姿勢スポット84bを表示する。この表示モニタ84を監視しながらハンマドリルの工具本体1の姿勢を適正な位置(加工面90aに対して直角の位置)に調整すれば、図4の(c)に示すように、姿勢スポット84bを中心部84aに表示することができ、ハンマドリル1の姿勢が加工面90aに対して直角方向に適切に保持されたことを表示することができる。
【0055】
次に、図6の(b)および(c)に示すように、時刻t2において、ハンマドリル1の姿勢を適切な位置に保持しながら動力スイッチ61をオンする。動力スイッチ61をオンすると、動力スイッチ61の操作信号が印加電圧設定回路52(図3参照)を介して演算部51に入力され、演算部51は、設定された「回転・打撃モード」に基づいてモータ駆動回路55を駆動し、同時に、図6の(d)に示すように、動作停止回路51aを起動して姿勢報知器84を含む姿勢報知回路(センシングおよび姿勢報知関係回路)の一部または全部を停止する制御信号を出力し、姿勢報知器84またはその他の姿勢報知関係回路の動作を停止(オフ)させる。
【0056】
このようにして、姿勢報知器(表示モニタ)84は、穿孔作業の開始前の時刻t2において表示動作を停止できる。従って、穿孔作業中の不要な姿勢報知器84の動作を停止状態にできるので、姿勢報知器84を含む姿勢報知回路の消費電力を著しく低減させることができる。また、作業者は、穿孔作業中に不要な姿勢報知84の映像が目障りにならないので、穿孔作業に集中できるようになり、作業効率を改善することができる。
【0057】
本実施例のように穿孔作業の開始前の姿勢報知方式は、特に、被削材90の材質が軟質の場合に消費電力の低減を図り、かつ作業効率の向上を図ることができる。すなわち、被削材90の材質が軟質の場合、穿孔開始前に姿勢報知器84により電動穿孔工具本体1を正確な位置に一旦保持すれば、穿孔作業中の振動等による位置ずれが発生し難くなるので、適正な姿勢を容易に保持できて、姿勢報知器84による姿勢監視は不要となる。
【0058】
(穿孔開始後の報知停止制御について)
図6の(d)に示した報知停止制御は、被削材90が比較的軟質の材料に有効であるが、被削材90が硬質材料の場合で、穿孔開始直後の先端工具20の加工面90aに対する姿勢(傾き)が安定し難いときは、図5の(a)および図6の(e)に示すように、先端工具20が被削材90の所定の深さDhまで穿孔するまで、センサ82a〜82cによるセンシングと姿勢報知器84による姿勢報知を継続して行い、姿勢報知器84によって先端工具20の姿勢を監視しながら工具本体1を適正な位置に調整する。
【0059】
図5の(a)に示すように、先端工具20によって穿孔した孔が所定の深さDhに達した場合、演算部51は、動作停止回路51aを起動し、姿勢報知器84の表示動作を停止させる。姿勢報知器84の動作停止後は、深さDhの孔を先端工具20のガイドとして使用することにより、その後の先端工具20の姿勢(傾き)の変化を防止できる。
【0060】
先端工具20による穿孔の深さDhは、予め被削材90の材質を考慮して、動力スイッチ61による穿孔開始時点(図6に示した時刻t2)を基準とした穿孔時間Tdで設定してもよく、また、距離センサ82a〜82cによって直接検出した深さDhを、予め演算部51に設定した基準値(閾値)と比較しながら制御してもよい。
【0061】
図6の(e)に示す例では、穿孔作業を開始する時刻t2から先端工具20の先端が深さDh(図5(a)参照)に達するまでの時刻t3までの時間Tdを予想して設定しておき、設定時間Tdを経過した時刻t3において姿勢報知器84の表示動作を停止するように構成したものである。報知時間Tdの設定は、被削材90の材質等を考慮して報知時間設定部85によって行う。
【0062】
(打撃モードにおける報知停止制御について)
ハンマドリル1において「打撃モード」(ハンマモード)の作業モードを設定した場合は、ハツリ作業(破砕作業)のように、先端工具20へ打撃力のみを伝達することになるので、姿勢報知器84によるハンマドリル1の姿勢監視は不要となる。本実施形態によれば、特に、作業モードとして「打撃モード」が設定された場合は、作業モードが「打撃モード」であることを検出し、動作停止回路51aによって姿勢報知器84を含む姿勢報知回路の一部または全部の動作を常時停止させる。「打撃モード」の判別は、図7に示したように、距離センサ8cと回転係止部材9との距離D2によって判別する。
【0063】
以上のような姿勢報知器84の停止制御によれば、姿勢報知は、穿孔開始前または穿孔開始直後の所定経過時間後において停止状態とされ、また、作業モードの「打撃モード」において常時停止状態とされるので、不要な姿勢報知を防止することができる。その結果、消費電力の低減と作業者の作業効率の向上を図ることができる。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上記姿勢報知器は、表示モニタによるものでなく、スピーカを介して異常姿勢の警告音を発生させるように構成してもよい。また、上記穿孔作業途中での姿勢報知停止は、先端工具の先端が所定の穿孔深さに到達したときに停止させてもよい。また、姿勢報知器の報知停止タイミングは、穿孔開始前または穿孔開始後において任意に設定できるように構成してもよい。さらに、作業モードを切替部材の切替位置検出センサは、距離センサ以外にポテンショメータ等の他のセンサを使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る電動穿孔工具の全体構成図。
【図2】図1に示した電動穿孔工具の一作業モードにおける要部拡大断面図。
【図3】図1に示した電動穿孔工具の機能ブロック図。
【図4】図1に示した電動穿孔工具を用いて穿孔作業を行う場合の電動穿孔工具の姿勢状態図。
【図5】図1に示した電動穿孔工具を用いて穿孔作業を行う場合の電動穿孔工具の他の姿勢状態図。
【図6】図1に示した電動穿孔工具を用いて穿孔作業を行う場合の姿勢報知器の制御タイミング図。
【図7】図1に示した電動穿孔工具の他の作業モードにおける要部拡大断面図。
【符号の説明】
【0066】
1:電動穿孔工具 2:モータのピニオン出力軸 3:ギヤ
4:運動変換部材 4a:運動変換部材の爪部 6:スリーブ
6a:スリーブの爪部 7:第1の付勢バネ 8:切替部材(チェンジレバー)
8a:切替部材の突出部 8c:切替位置検出センサ(距離センサ)
9:回転係止部 9a:回転係止部のツバ部 10:セカンドピニオン
10a:ピニオン部 10b:歯車 12:ピニオンスリーブ
12a:歯車 14:中間軸 14a:中間軸前半部
14b:中間軸後半部 15:セカンドギヤ 16:ピストン
16a:空気室 17:打撃子 18:中間子 19:シリンダ
20:先端工具 30:ギヤケーシング 37:胴体ハウジング部
38:ハンドルハウジング部 39:先端工具保持部(チャック)
40:電動モータ 50:制御装置 51:演算部 51a:動作停止回路
52:印加電圧設定回路 53:本体姿勢演算回路 54:作業モード判定回路
55:モータ駆動回路 61:動力スイッチ(スイッチトリガ)
71:第1の動力伝達機構部 72:第2の動力伝達機構部
82a、82b、82c:距離センサ 83:報知駆動回路
84:姿勢報知器(表示モニタ) 84a:表示モニタの中央表示部
84x:表示モニタのX軸 84y:表示モニタのY軸 85:報知時間設定部
90:被削材(ワーク) 90a:被削材の加工面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力スイッチのオン状態により回転力が与えられる電動モータと、前記電動モータの回転力によって駆動される先端工具と、穿孔時に前記先端工具のワークの加工面に対する姿勢を検知するためのセンサを有し、該センサの出力に基づいて前記ワーク加工面に対する前記先端工具の姿勢を決定し、姿勢情報を出力するための制御部と、前記姿勢情報に基づいて姿勢を報知するための姿勢報知手段と、を具備する電動穿孔工具において、前記制御部は、前記動力スイッチのオン時点から前記先端工具による前記ワークに対する穿孔動作の終了時点までの穿孔作業中の所定時点において、前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を停止させるための動作停止手段を具備することを特徴とする電動穿孔工具。
【請求項2】
前記制御部は、前記穿孔動作の開始前までに、前記先端工具の姿勢を決定し、前記動作停止手段は、前記穿孔動作の開始前に前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を停止させることを特徴とする請求項1に記載された電動穿孔工具。
【請求項3】
前記制御部は、前記動力スイッチのオン時点から前記穿孔動作が所定深さの位置に達するまでに前記先端工具の姿勢を決定し、前記動作停止手段は、前記穿孔動作が前記所定深さの位置に達した後に、前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を停止させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された電動穿孔工具。
【請求項4】
前記制御部は、前記穿孔動作の開始後の一定時間を経過するまで、前記先端工具の姿勢を決定し、前記動作停止手段は、前記穿孔動作が前記一定時間を経過した後に、前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を停止させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載された電動穿孔工具。
【請求項5】
前記電動穿孔工具は、少なくとも「回転モード」および「回転・打撃モード」の作業モードの一つを選択的に前記先端工具に伝達する切替機構を有するハンマドリルであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載された電動穿孔工具。
【請求項6】
前記電動穿孔工具は、「回転モード」、「回転・打撃モード」および「打撃モード」の一つの作業モードを選択的に前記先端工具に伝達する切替機構を有するハンマドリルであって、前記動作停止手段は、前記切替機構が前記「打撃モード」を選択した場合、前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を、常時、停止させることを特徴とする請求項5に記載された電動穿孔工具。
【請求項7】
前記動作停止手段は、前記切替機構が前記「打撃モード」を選択した場合、前記切替機構を構成する切替部材の移動位置に応答して、前記センサおよび前記姿勢報知手段の少なくとも一方の動作を、常時、停止させることを特徴とする請求項6に記載された電動穿孔工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−167505(P2010−167505A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9631(P2009−9631)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】