説明

電動義歯ブラシ

【課題】義歯の形態を問わず、目的の清掃部位に確実に刷毛の毛先を当てることができ、容易且つ短時間に、義歯の汚れを落とすことができ、さらに、植毛部から周囲に洗浄剤が飛散するのを防止することができる電動義歯ブラシを提供すること。
【解決手段】本発明は、植毛基面9a、12aに刷毛群が植設されて構成された第1植毛部2と第2植毛部3とを有するヘッド部7と、その周面が把持されるハンドル部5と、ヘッド部7とハンドル部5とを連結するネック部6とを備え、第1植毛部2が第1駆動機構によって往復回転運動するように構成されている。そして、第1植毛部2は、その刷毛14が、広い平らな面を清掃するのに適した植毛条件とされ、第2植毛部3は、その刷毛15が、狭く細かい部位や奥まった部位を清掃するのに適した植毛条件とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯の清掃に用いられ、植毛部が電気的に駆動される電動義歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、義歯の清掃には、手用義歯ブラシが使用されるが、口腔内の歯の清掃に用いられる手用歯ブラシを義歯ブラシとして代用することも多く行われている。以下に、一般的な手用歯ブラシ及び手用義歯ブラシについて説明する。
【0003】
一般的な手用歯ブラシ101は、図13、14に示すように、一側面に複数の刷毛102aが植設されたヘッド部102と、使用者が把持するハンドル部103と、ヘッド部102とハンドル部103とを連結するネック部104とを有している。このような手用歯ブラシ101では、使用者が、ハンドル部103を把持してヘッド部102を口腔内に挿入し、口腔内の限られた空間で、ヘッド部102の向きを様々に変えながら往復運動させることによって歯を清掃することができる。このため、手用歯ブラシ101は、口腔内でのヘッド部102の操作性を考慮して、ヘッド部102は小さく(植毛面積が小さく)、ネック部104は長く、ハンドル部103は細めに設計され、刷毛102aはヘッド部102の片側にのみ設けられる。また、刷毛102aは、その長さが7〜9milとされ、比較的柔軟なものとなっている。
【0004】
そのため、手用歯ブラシ101を義歯用歯ブラシとして代用すると、例えば上顎総義歯が有する床のように広い平らな面を清掃する場合には、ヘッド部102の植毛面積が小さいため、清掃効率が悪く、清掃作業に手間と時間がかかってしまう。一方、維持装置(クラスプ等)を備え、狭く細かい部分や奥まった部分を有する部分義歯を清掃する場合には、このような部分に刷毛102aの毛先が届き難いなど、仮に刷毛102aの毛先が届いたとしても、刷毛102a全体が柔軟であるために、その場所で手を動かしながら毛先を操作しなくてはならず、上手く清掃することができないという不具合が生じる。
【0005】
一方、手用義歯ブラシは、義歯を口腔外で清掃するものであるため、ヘッド部の寸法を比較的自由に設計することができる。このため、手用義歯ブラシ105は、例えば、図15〜図17に示すように、手用歯ブラシ101に比べてヘッド部106が大きめに設計される。そして、このヘッド部106の一方の側面に、植毛面積の大きい第1植毛部107が設けられ、他方の側面に、第1植毛部107に比べて植毛面積が小さく、且つ、長く硬めの刷毛が植設された第2植毛部108が設けられる。
【0006】
このような手用義歯ブラシ105では、総義歯の広い平らな面を清掃する場合には、植毛面積の広い第1植毛部107を用いることにより、手用歯ブラシを使用する場合に比べて短時間に汚れを落とすことができる。また、狭く細かい部分や奥まった部分を有する部分義歯を清掃する場合には、長く硬めの刷毛が植設された第2植毛部108を用いることにより、目的の清掃部位に容易に毛先を当てることができ、この部位を効果的に清掃することができる。
しかし、このような手用義歯ブラシ105は、使用者が、義歯を把持し、固定しつつ、ハンドル部109を把持した状態で手を細かく動かすことによって義歯を清掃するものであり、作業が面倒であり、疲労感も伴う。このため、特に高齢者には不向きな問題がある。
【0007】
これに対しては、植毛部を電力で駆動するように構成された電動歯ブラシを義歯の清掃に用いることが考えられる。この電動歯ブラシでは、使用者は、目的の清掃部位に植毛部が当たるようにハンドル部を操作するだけで、手を細かく動かすことなく、歯の清掃を行うことができる。このため、歯の清掃に要する労力を軽減することができる。
【0008】
しかし、電動歯ブラシは、一般に、口腔内用の歯を清掃することを目的として設計されており、ヘッド部が小さめに設計され、このヘッド部の片側にのみ電動駆動される植毛部が設けられている(例えば、特許文献1参照)。このため、このような構成の電動歯ブラシを用いると、大型義歯の広い平らな部分を清掃する場合には、やはり時間がかかってしまう。
【0009】
また、電力による駆動では、手動操作に比べて植毛部が高速で運動するため、植毛部に付けた洗浄剤(液、ペースト、粉末、固形物等)が周囲に飛散し易い問題がある。ここで、例えば、ヘッド部が口腔内に挿入された状態であれば、植毛部から洗浄剤が飛散しても口腔壁に当たるため、さらに周囲に洗浄剤が飛び散ることはない。しかし、義歯を清掃する場合には、そのような障壁がないために、植毛部から飛散した洗浄剤と汚れがさらに義歯の周りに飛び散り、周囲を汚してしまうおそれが高いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−160498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記した問題に鑑みて提案されたものであり、義歯の形態を問わず、目的の清掃部位に、刷毛の毛先を確実に当てることができ、少ない労力で、容易且つ短時間に義歯の汚れを落とすことができる電動義歯ブラシの提供を目的とする。さらに本発明は、上述の効果を得た上に、植毛部から周囲に洗浄剤や汚れが飛散するのを防止できる電動義歯ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
本発明は、植毛基面に刷毛群が植設されて構成された複数の植毛部が異なる箇所に設けられたヘッド部と、その周面が把持されるハンドル部と、前記ヘッド部と前記ハンドル部とを連結するネック部と、前記植毛部の少なくともいずれかを電力で駆動する駆動機構とを有し、前記複数の植毛部は、互いに刷毛の植毛条件が異なることを特徴とする電動義歯ブラシである。
本発明において前記ヘッド部の一の箇所に設けられた植毛部の各刷毛は、前記一の箇所以外の、少なくともいずれかの箇所に設けられた植毛部の各刷毛と毛先の方向が異なるものでも良い。
本発明において前記駆動機構によって駆動される前記植毛部は、その一部の刷毛群のみが前記駆動機構の作動によって運動し、他の刷毛群は静止状態である構成でも良い。
本発明は、静止状態の前記刷毛群は、前記駆動機構の作動によって運動する前記刷毛群の周りを囲むように植設されている構成でも良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ヘッド部が、異なる箇所に設けられた複数の植毛部を有し、各植毛部の刷毛の植毛条件が互いに異なっているので、各植毛部を使い分けることにより、異なる形態の部位を、それぞれ効果的に清掃することができる。また、植毛部の少なくともいずれかが電力による駆動機構によって駆動されるため、その駆動される植毛部によって義歯を清掃する際、使用者は、その植毛部が目的の清掃部位に当たるようにハンドル部を把持しているだけで、手を細かく動かすことなく、義歯の汚れを落とすことができる。
このため、各植毛部を、それぞれ、例えば義歯の広い平らな面、狭く細かい部分や奥まった部分等に適した植毛条件とすれば、広い平らな面を有する義歯、狭く細かい部分や奥まった部分を有する義歯、広い平らな面と狭く細かい部分や奥まった部分の双方を有する義歯等の各種形態の義歯を、少ない労力で、容易且つ短時間に清掃することができ、付着した汚れを確実に落とすことができる。
【0014】
前記ヘッド部の一の箇所に設けられた植毛部の各刷毛が、他の箇所に設けられた植毛部の各刷毛と毛先の方向が異なる場合には、一方の植毛部を用いて清掃を行っている際、他方の植毛部の各刷毛が義歯の一部(義歯床縁等)に当たることが防止される。このため、他方の植毛部が邪魔になることなく、一方の植毛部を用いて容易に義歯の清掃を行うことができる。
前記駆動機構によって駆動される植毛部において、その一部の刷毛群のみが駆動機構の作動によって運動し、他の刷毛群が静止状態である場合には、運動している刷毛群から洗浄剤が飛散しても、静止状態の刷毛群に当たって制止され、洗浄剤がさらに周囲に飛び散るのが防止される。
【0015】
また、特に、静止状態の刷毛群が、駆動機構の作動によって運動する刷毛群の周りを囲むように植設されている場合には、静止状態の刷毛群が、洗浄剤の飛散をより効果的に制止する。その結果、運動している刷毛群から飛散した洗浄剤と汚れが周囲に飛び散ることをより確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る電動義歯ブラシの第1実施形態を前方から見た側面図である。
【図2】図1に示す電動義歯ブラシを後方から見た側面図である。
【図3】図1に示す電動歯ブラシを横から見た側面図である。
【図4】本発明に係る電動義歯ブラシの第2実施形態を前方から見た側面図である。
【図5】図4に示す電動義歯ブラシを後方から見た側面図である。
【図6】図4に示す電動歯ブラシを横から見た側面図である。
【図7】本発明に係る電動義歯ブラシの第3実施形態を前方から見た側面図である。
【図8】図7に示す電動義歯ブラシを後方から見た側面図である。
【図9】図7に示す電動歯ブラシを横から見た側面図である。
【図10】本発明に係る電動義歯ブラシの第3実施形態を前方から見た側面図である。
【図11】図10に示す電動義歯ブラシを後方から見た側面図である。
【図12】図10に示す電動歯ブラシを横から見た側面図である。
【図13】従来の手用歯ブラシの一例を前方から見た側面図である。
【図14】図13に示す手用歯ブラシを横から見た側面図である。
【図15】従来の手用義歯ブラシの一例を前方から見た側面図である。
【図16】図15に示す手用義歯ブラシを後方から見た側面図である。
【図17】図15に示す手用義歯ブラシを横から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した電動義歯ブラシについて、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴を理解し易くするために、特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各構成要素の形状や寸法比率などが特に制限されるものではない。
(第1実施形態)
まず、本発明の電動義歯ブラシの第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態の電動義歯ブラシを前方から見た側面図、図2は、図1に示す電動義歯ブラシを後方から見た側面図、図3は、図1に示す電動義歯ブラシを横方向から見た側面図である。なお、以下では、図3における下方を「前方」、上方を「後方」として説明する。
図1〜図3に示すように、電動義歯ブラシ1Aは、第1植毛部2と第2植毛部3とを備え、第1植毛部2が駆動機構の作動によって往復回転運動するものである。この電動義歯ブラシ1Aは、駆動機構が内蔵された本体部4を備え、この本体部4は、ハンドル部5と、ハンドル部5の一端から軸線方向に延長されたネック部6とヘッド部7とを有している。なお、先のネック部6がハンドル部5から着脱自在とされてブラシ交換できるように構成されるのが一般的であるが、ハンドル部5とネック部6とヘッド部7が一体的に構成された構造であっても良いのは勿論である。
【0018】
ハンドル部5は、使用者が把持する部分であり、その形状については特に限定されないが、例えば略円柱状を為している。このハンドル部5の内部は、駆動モータや、駆動モータの回転運動をハンドル部5の軸線方向の往復直線運動に変換する第1運動変換機構、駆動モータに電力を供給する内部電源(いずれも図示せず)等が配置された水密構造となっている。
内部電源としては、例えばニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の二次電池(バッテリ)を搭載することが可能である。また、内部電源として二次電池を搭載する場合には、外部電源(商用電源)から充電器を介して内部電源への充電が可能である。この場合、無接点充電方式を用いた方が、使用性が高く安全性の点で望ましい。なお、内部電源としては、上述した二次電池の他にも、例えば一次電池(単3又は単4の乾電池)を交換可能に搭載する構成としてもよい。
また、ハンドル部5の側面には、使用者が押圧操作する操作ボタン8が設けられている。操作ボタン8が押圧操作されると、内部電源と駆動モータとの間に設けられたスイッチがこれと連動して作動し、内部電源と駆動モータとの接続/非接続が切り替わる。
【0019】
ネック部6は、ハンドル部5とヘッド部7との間を連結する部分である。ネック部6は、細長く、若干、先細り形状を有しており、図1〜図3に示すようなストレート形状に限らず、窪んだ部分に届き易いように緩やかなカーブ形状としてもよい。また、ネック部6の幅又は厚みは、操作性と強度を考慮して、4〜12mmの範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは5〜9mmの範囲である。ネック部6の内部には、第1運動変換機構の往復直線運動を後述する第2運動変換機構に伝達する図示しないシャフト等が配置されている。なお、ネック部6及びハンドル部7を交換自在な構成とする場合は、ハンドル部5の先端側に、図示を省略するが、ネック部6を着脱自在に取り付けるための取付機構等が設けられており、シャフトの先端には、後述するネック部6に内蔵された第2運動変換機構と連結するための連結機構等が設けられている。
ヘッド部7は、ネック部6と連通するケーシング9と、ケーシング9の前方側(図3中下側)に回動自在に支持された第1植毛部2と、ケーシング9の後方側(図3中上側)の傾斜面9aに固定して設けられた第2植毛部3とを有する。
【0020】
ケーシング9は、義歯を清掃し易い形状や大きさであればよく、その形状について特に限定されないが、本実施形態では、後方側となる端面が膨大した略扁平円柱状を為している。このケーシング9は、ネック部6の軸線方向に対してその円柱軸が略直交するようにネック部6に取り付けられている。
ケーシング9の内部には、シャフトによって伝達された往復直線運動を往復回転運動に変換する図示しない第2運動変換機構等が内蔵されている。また、ケーシング9の前方側の壁部の略中心には、後述する第1植毛部2の回動軸10が回動可能に支持される軸孔11が穿設されている。本実施形態では、前述の第1運動変換機構、シャフト及び第2運動変換機構が、第1植毛部2を往復回転運動させる駆動機構を構成する。
【0021】
第1植毛部2は、第2運動変換機構の作動により往復回転運動するものである。
第1植毛部2は、その一主面が第1植毛基面12aとされた円盤状の植毛プレート12と、植毛プレート12の第1植毛基面12aに植設された複数の刷毛14と、植毛プレート12の第1植毛基面12aと反対側の主面(他方の主面)12bに設けられた回動軸10を有する。
植毛プレート12は、他方の主面12bの回動軸10以外の領域が、ケーシング9の前端面9bに対して僅かに離間するように配設されている。この植毛プレート12の厚みは、1〜5mm程度が好ましく、より好ましくは2〜3.5mm程度である。
【0022】
回動軸10は、植毛プレート12の他方の主面12bの略中心に設けられている。回動軸10は、ケーシング9の軸孔11に挿通されて回動可能に支持されており、これにより、第1植毛部2はケーシング9の前方側に回動可能に支持される。回動軸10の端部は、ケーシング9内に侵入し、ピンやフック等によって第2運動変換機構と連結されている。この回動軸10は、第2運動変換機構の作動によって往復回転運動する。これにより植毛プレート12が往復回転運動し、該植毛プレート12に植設された各刷毛14が植毛プレート12(回動軸10)の中心を公転中心として往復公転運動する。
【0023】
ケーシング9の後端面は、傾斜面9aを有し、この傾斜面9aに複数の刷毛15が植毛されている。本実施形態では、この複数の刷毛15が植設された傾斜面9aが第2植毛基面9aを構成し、この第2植毛基面9aに植設された刷毛群が第2植毛部3を構成する。ここでは、第2植毛基面9aは、第1植毛基面12aよりも面積が小さく形成されており、第2植毛部3の各刷毛15の毛先方向は、第1植毛部2の各刷毛14の毛先方向に対して斜め後方向となっている。
【0024】
第1植毛部2と第2植毛部3とで各刷毛14、15の毛先方向が異なることにより、一方の植毛部2、3を用いて清掃を行っている間に、他方の植毛部2、3の各刷毛14、15が義歯の一部(義歯床縁等)に当たることが防止される。このため、他方の植毛部2、3が邪魔になることなく、一方の植毛部2、3を用いて円滑に義歯の清掃を行うことができる。ここで、第1植毛部2の各刷毛14の毛先方向と第2植毛部3の各刷毛15の毛先方向との関係は、具体的には、一方の植毛部2、3の毛先方向に対する他方の植毛部2、3の毛先方向が、背面方向、側面方向、斜め前方向、斜め後ろ方向であるのが好ましい。これにより、前述の効果を確実に得ることができる。
【0025】
次に、第1植毛部2と第2植毛部3の各刷毛14、15について説明する。本発明では、第1植毛部2及び第2植毛部3には、それぞれ、他方の植毛部2、3と異なる植毛条件で刷毛14、15が植設されている。ここで、刷毛14、15の植毛条件とは、植毛面積、刷毛の形状(縦断面形状、横断面形状、毛先形状等)、刷毛の毛丈及び太さ(刷毛径)、植毛密度(植毛本数/面積)、刷毛の植設パターン、毛束の束ね形状、刷毛の植毛方法等に関するものであり、これら各項目は目的とする清掃部位の形態によって最適条件が異なる。したがって、各植毛部2、3における刷毛14、15の植毛条件は、その目的とする清掃部位に応じて設定するのが好ましい。本実施形態では、第1植毛部2は、第2植毛部3よりも植毛面積が大きく、電力による駆動によって往復回転運動するように構成されていることから、義歯の広い平らな面を清掃するのに適しており、第2植毛部3は、第1植毛部2よりも植毛面積が小さいことから、義歯の狭く細い部分や奥まった部分を清掃するのに適している。したがって、ここでは、第1植毛部2が広い平らな面を清掃対象とし、第2植毛部3が狭く細い部分や奥まった部分を清掃対象としているものとして、各植毛部2、3の刷毛14、15の植毛条件について説明する。
【0026】
各刷毛14、15は、その材質について特に限定されないものの、例えばポリアミド(例:6−10ナイロン、6−12ナイロン)、ポリエステル(例:ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート)、ポリオレフィン(例:ポリプロピレン)、エラストマー(例:オレフィン系、スチレン系)などの合成樹脂材料を挙げることができる。また、これらの樹脂材料を複数組み合わせて用いてもよく、例えば芯鞘構造などのように、芯部と鞘部で異なる樹脂材料を用いることもできる。
【0027】
また、各刷毛14、15の構成材料として、これらの樹脂材料に、セラミックファイバーや研磨材(例:金属酸化物、シリカ、炭化ケイ素等)を混ぜ(練り)込んだ複合材料を用いるようにしても良い。これにより、義歯に対する清掃効果を向上させることができる。ただし、複合材料における研磨材の配合量が多くなり過ぎると、義歯への為害性(磨耗性・傷等)が問題となってくる。すなわち、義歯は、一般に、樹脂、金属、セラミック等から構成されており、義歯材料のほとんどを占める樹脂及び金属は柔らかいため磨耗し易く、傷がつきやすい。義歯の表面が磨耗や傷によって荒れていると汚れが付きやすくなるため、不衛生となったり、義歯の損傷・破損(折れ、割れ等)の原因となったりする。このため、複合材料に添加する研磨材の材質、大きさ、配合量は、これらのことを考慮して設定することが必要である。
【0028】
各刷毛14、15の縦断面形状は、通常は円形であるが、そのような形状に限定されるものではなく、例えば、楕円形、三角形、四角形、六角形、星型、三つ葉のクローバー形、四葉のクローバー形など任意の形状とすることができる。
また、各刷毛14、15の横断面形状は、通常は長手方向の辺縁が平行な直線状であるが、そのような形状に限定されるものではなく、振幅及び波長が規則的な波状などであってもよい。さらに、周面に凹凸を有する刷毛、例えばクリンプ加工やエンボス加工等が施された刷毛を用いることもできる。
【0029】
また、各刷毛14、15の毛切形状は、一般的な平切り状の他、ドーム状、山切り状など、任意の形状とすることができる。このうち、特に、義歯の広い平らな面を清掃することを目的とする植毛部(本実施形態では第1植毛部2)の場合には、毛先形状が平切り状や緩やかなドーム状の刷毛を用いるのが好ましい。これにより、このような義歯の広い平らな面を、効率的に清掃することができる。また、部分床義歯が備える維持装置の根元部のように、狭い部位や深い部位を清掃することを目的とする植毛部(本実施形態では第2植毛部3)の場合には、毛切形状が尖った山切り形状(1山の円錐状等)を用いるのが好ましい。これにより、このような狭い部位や深い部位に、刷毛先端を容易に当てることができ、効果的に清掃を行うことができる。
なお、各植毛部2、3を構成する複数の刷毛14、15は、それぞれ、同じ形状(縦断面形状、横断面形状、毛先形状等)であってもよく、形状の異なる複数種の刷毛が組み合わされていても構わない。
【0030】
各刷毛14、15の毛丈は、各植毛基面12a、9aから7〜25mmが好ましく、さらに好ましくは10〜20mmの範囲である。このうち、特に、義歯の広い平らな面を清掃することを目的とする第1植毛部2の場合には、12〜15mmの毛丈であるのが好ましい。また、部分床義歯が備える維持装置の根元部のように、狭い部位や深い部位を清掃することを目的とする第2植毛部3の場合には、20mm程度の毛丈であるのが好ましい。これにより、このような狭い部位や深い部位に、刷毛15の毛先を容易に当てることができ、効果的に清掃を行うことができる。なお、各植毛部2、3を構成する複数の刷毛14、15は、それぞれ、毛丈が同じであってもよく、毛丈の異なる刷毛が組み合わされていても構わない。本実施形態では、第1植毛部2では、各刷毛14が略等しい毛丈とされており、第2植毛部3では、各刷毛15は、第2植毛基面9aの中心部にいく従って毛丈が段階的に長くなるような長さとされている。これにより、第1植毛部2では、広い平らな面をより効率よく清掃することができ、第2植毛部3では、狭く細い部分や奥まった部分を容易且つきれいに清掃することができる。
【0031】
各刷毛14、15の太さ(刷毛径)は0.15mm〜0.38mmであることが好ましく、さらに好ましくは0.20mm〜0.33mmの範囲である。このうち、特に、義歯の広い平らな面を清掃することを目的とする第1植毛部2の場合には、刷毛14にタワミが必要であるため0.15〜0.23mmの太さであるのが好ましい。一方、部分床義歯が備える維持装置の根元部のように、狭い部位や深い部位を清掃する場合には、刷毛が細いとコシが弱いため、刷毛の先端部が狙った(清掃したい)場所に届かない。そのため、このように狭い部位や深い部位を清掃することを目的とする第2植毛部3の場合には、0.25〜0.33mmの太さであるのが好ましい。なお、各植毛部2、3を構成する複数の刷毛14、15は、それぞれ、太さが同じであってもよいが、清掃部位(平らな面や凹凸がある面、広い面や狭い面、浅い凹凸・深い凹凸等)、清掃効果、耐久性、及び義歯材料(樹脂、金属、セラミック)に対する為害性(傷、磨耗)等を考慮して、太さの異なる複数の刷毛を任意に組み合わせても良い。
【0032】
なお、第1植毛基面12a及び第2植毛基面9aには、通常、複数の刷毛14、15が束ねられた毛束が、同心円状、格子状、千鳥状に所定の間隔で複数並んで配置されるが、これら毛束の配置や間隔、それらの組み合わせ等については、特に限定されるものではなく、目的用途に応じて任意に設定することができる。
また、毛束は、通常は複数本の刷毛14、15を略円形状に束ねたものを用いるが、このように略円形状に束ねたものに限らず、略三角形や略四角形などの略多角形状に束ねてもよく、さらに、略楕円形状や、略長円形状、略長方形状などの長径と短径が異なる形状に束ねたものを用いてもよい。
【0033】
各刷毛14、15の植毛方法としては、各刷毛14、15の毛束を二つ折りにし、その間に平線(例:金属)を挟んで各植毛基面9a、12aに設けられた植毛穴に固定する平線植毛法や、各刷毛14、15の下端を各植毛基面9a、12aとなる溶融樹脂中に圧入して固定する熱融着法、各刷毛14、15の下端を加熱して溶融塊を形成した後に、金属のキャビティ内に溶融樹脂を充填して各植毛基面9a、12a(プレート12)と一体に成形するインモールド法などを用いることができる。
【0034】
これら各項目のうち、植毛面積、刷毛の毛丈及び太さ、植毛密度は植毛部の「かたさ」に大きく影響し、特に刷毛の太さは、植毛部の「かたさ」を決める主因子となる。このため、第1植毛部2と第2植毛部3の刷毛14、15の植毛条件を設定するに当たっては、特に、これらの項目について異ならしめることが好ましい。これにより、第1植毛部2及び第2植毛部3を、それぞれが目的とする清掃部位を清掃するのに最適なものとすることができる。
【0035】
以上のような電動義歯ブラシ1Aでは、操作ボタン8を押圧操作して内部電源と駆動モータとの電気的接続をONにすると、駆動モータが回転し、この回転運動が第1運動変換機構の作動によって往復直線運動に変換される。この往復直線運動は、シャフトによって第2運動変換機構に伝達され、第2運動変換機構の作動によって往復回転運動に変換される。これにより、第2運動変換機構に連結された植毛プレート12が回動軸10を中心に往復回転運動し、該植毛プレート12に植設された各刷毛14が植毛プレート12の中心を公転中心として往復公転運動する、すなわち第1植毛部2が駆動状態となる。
【0036】
このような電動義歯ブラシ1Aを用いて、例えば、義歯の広い平らな面を清掃する場合には、使用者は、ハンドル部6を把持して、操作ボタン8の押圧操作し、第1植毛部2を駆動状態にする。そして、第1植毛部2を目的とする清掃部位に当てる。ここで、この電動義歯ブラシ1Aでは、第1植毛部2は、広い平らな面を清掃するのに適した植毛条件とされており、且つ、電力による駆動によって往復回転運動しているので、広い平らな面を、少ない労力で、容易且つ短時間に清掃することができる。また、義歯の狭く細い部分や奥まった部分を清掃する場合には、使用者は、操作ボタン8を押圧操作して第1植毛部2の駆動状態をOFFにし、第2植毛部3を目的とする清掃部位に当てた状態で手を細かく動かす。ここで、第2植毛部3は、狭く細い部分や奥まった部分を清掃するのに適した植毛条件とされているので、部分義歯が備える維持装置の根元のように、狭く細かい部位や奥まった部位に容易に刷毛の毛先を当てることができ、このような部位を、容易且つ短時間に清掃することができる。
【0037】
したがって、このような電動義歯ブラシ1Aによれば、これ1本で、「広い平らな面を有する総義歯」や「維持装置があり、狭い細かな部分が多い部分義歯」、さらには「広く平らな面」と「深く奥まった凹み」の双方を有する義歯、例えば、「顎堤部を有する義歯」や「平らな面と複雑な維持装置のある部分義歯」等の各種形態の義歯を、少ない労力で、容易且つ短時間に清掃することができ、付着した汚れをきれいに落とすことができる。
【0038】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る電動義歯ブラシの第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態においては、前記第1実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
図4は、本発明に係る第2実施形態の電動義歯ブラシを前方から見た側面図、図5は、図4に示す電動義歯ブラシを後方から見た側面図、図6は、図4に示す電動義歯ブラシを横方向から見た側面図である。なお、ここでは図6における下方を「前方」、上方を「後方」として説明する。
【0039】
図4〜図6に示す電動義歯ブラシ1Bは、第1植毛部2とともに第2植毛部3が駆動機構の作動によって往復回転運動するように構成されている以外は、前記第1実施形態の電動義歯ブラシ1Aと同様である。
ハンドル部5は、前記第1実施形態と同様の形状とされており、その内部に、第1駆動機構を構成する駆動モータ及び第1運動変換機構と、第2駆動機構を構成する駆動モータ及び第1運動変換機構と、内部電源等が配置されている。
ハンドル部5の側面には、使用者が押圧操作する第1操作ボタン16及び第2操作ボタン17が設けられている。第1操作ボタン16が押圧操作されると、第2駆動機構において内部電源と駆動モータとの間に設けられたスイッチがこれと連動して作動し、内部電源と駆動モータとの接続/非接続が切り替わる。これにより、第2駆動機構による第2植毛部3の駆動/停止が切り替わる。また、第2操作ボタン17が押圧操作されると、第1駆動機構において内部電源と駆動モータとの間に設けられたスイッチがこれと連動して作動し、内部電源と駆動モータとの接続/非接続が切り替わる。これにより、第1駆動機構による第1植毛部2の駆動/停止が切り替わる。このように、第1植毛部2と第2植毛部3の駆動/停止が別々の操作ボタン16、17によって切り替わるように構成されていることにより、例えば、使用したい植毛部2、3を駆動状態とし、使用しない植毛部2、3を停止状態とすることや、両方の植毛部2、3を同時に駆動状態とすることができる。前者の状態とすることにより、使用しない植毛部2、3の空運転による内部電源のエネルギー消耗を抑制することができる。また、後者の状態とすることにより、使用する植毛部2、3を瞬時に変更したい場合に、スイッチ操作することなく他方の植毛部2、3を用いることができるため効率的である。また、操作性の点から、駆動/停止する植毛部と、操作ボタンの配置は適宜配置しても良い。
【0040】
ヘッド部7は、ケーシング9と、ケーシング9の前方側(図6中下側)に回動自在に支持された第1植毛部2と、後方(図6中上側))の傾斜面9a側に回動自在に支持された第2植毛部3とを有する。
ケーシング9は、傾斜面9aを構成する壁部に刷毛が植設されておらず、その代わりに軸孔18が穿設されている以外は、前記第1実施形態と同様の形状とされており、その内部に、第1駆動機構を構成する第2運動変換機構及び第2駆動機構を構成する第2運動変換機構が内蔵されている。
【0041】
第1植毛部2は、前記第1実施形態と同様の構成とされている。第2植毛部3は、第2駆動機構の第2運動変換機構の作動により往復回転運動するものであり、ケーシング9の後方の傾斜面9a側に回動自在に支持されている。
第2植毛部3は、その一主面が第2植毛基面19aとされた円盤状の植毛プレート19と、植毛プレート19の第2植毛基面19aに植設された複数の刷毛15と、植毛プレート19の第2植毛基面19aと反対側の主面(他方の主面)19bに設けられた回動軸20を有する。植毛プレート19は、第1植毛部2の植毛プレート12よりも小径とされている。
植毛プレート19は、他方の主面19bの回動軸20以外の領域が、ケーシング9の後方側の傾斜面9aに対して僅かに離間するように配設されている。
【0042】
回動軸20は、植毛プレート19の他方の主面19bの略中心に設けられている。回動軸20は、傾斜面9aを構成する壁部の軸孔18に挿通されて回動可能に支持されており、これにより、第2植毛部3はケーシング9の後方の傾斜面9a側に回動可能に支持される。回動軸20の端部は、ケーシング9内に侵入し、ピンやフック等によって第2駆動機構の第2運動変換機構と連結されている。この回動軸20は、第2運動変換機構の作動によって往復回転運動する。これにより植毛プレート19が往復回転運動し、該植毛プレート19に植設された各刷毛15が植毛プレート19(回動軸20)の中心を公転中心として往復公転運動する。
第2植毛部2の刷毛15の植毛条件は、前記第1実施形態と同様である。
【0043】
以上のような電動義歯ブラシ1Bでは、第1操作ボタン16と第2操作ボタン17とを押圧操作して、第1植毛部2あるいは第2植毛部3を回転運動させて使用する。この第2実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
また、第2実施形態の電動義歯ブラシ1Bでは、特に、第1植毛部2とともに第2植毛部3も電力による駆動によって往復回転運動するので、第2植毛部3を用いて義歯を清掃する場合に、使用者は、ハンドル部5を把持して第2植毛部3を目的とする清掃部位(狭く細かい部分や奥まった部分等)に当てるだけで、手を細かく動かすことなく、この部位をきれいに清掃することができる。このため、義歯を清掃する際の疲労感をより軽減することができ、また、義歯の狭く細かい部分や奥まった部分に付着した汚れを、より確実に落とすことができる。
【0044】
<第3実施形態>
次に、電動義歯ブラシの第3実施形態について説明する。なお、第3実施形態においては、前記第1実施形態及び前記第2実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
図7は、本発明に係る第3実施形態の電動義歯ブラシを前方から見た側面図、図8は、図7に示す電動義歯ブラシを後方から見た側面図、図9は、図7に示す電動義歯ブラシを横方向から見た側面図である。なお、以下では、図9における下方を「前方」、上方を「後方」として説明する。
図7〜図9に示す電動義歯ブラシ1Cは、ケーシング9の形状、第2植毛部3及び第2操作ボタン17の配設位置が異なる以外は、前記第2実施形態の電動義歯ブラシ1Bと同様である。
【0045】
この電動義歯ブラシ1Cでは、第2操作ボタン17がハンドル部5の側面に設けられている。
ケーシング9は、周面の先端側が膨大した略扁平円柱状を為している。ケーシングの膨大した周面は、前方にいくに従って基端側となるように(図9中、下方にいくに従って右側となるように)傾斜した傾斜面9cを有し、この傾斜面9cを構成する周壁に、後述する第2植毛部3の回動軸20が回動可能に支持される軸孔21が穿設されている。第1植毛部2は、前記第2実施形態と同様の構成とされ、同様の位置に配設されている。
【0046】
第2植毛部3は、前記第2実施形態と同様の構成とされているが、本実施形態では先端の傾斜面9c側に配設され、第2植毛部3の各刷毛15の毛先方向は、第1植毛部2の各刷毛14の毛先方向に対して斜め前方向となっている。
以上のような電動義歯ブラシ1Cでは、第1操作ボタン16を押圧操作して第2植毛部3を回転駆動して使用し、第2操作ボタン17を押圧操作して第1植毛部2を回転駆動して使用する。この第3実施形態においても、前記第2実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0047】
<第4実施形態>
次に、電動義歯ブラシの第4実施形態について説明する。なお、第4実施形態においては、前記第1実施形態及び第2実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
図10は、本発明に係る第4実施形態の電動義歯ブラシを前方から見た側面図、図11は、図10に示す電動義歯ブラシを後方から見た側面図、図12は、図11に示す電動義歯ブラシを横方向から見た側面図である。なお、以下では、図12における下方を「前方」、上方を「後方」として説明する。
【0048】
図10〜図12に示す電動義歯ブラシ1Dは、第1植毛部2において、内周側の領域に植設された各刷毛22のみが第1駆動機構の作動によって往復回転運動するように構成され、外周側の領域に植設された各刷毛23は静止状態となっている以外は、前記第2実施形態の電動義歯ブラシ1Bと同様である。この電動義歯ブラシ1Dにおいて、ケーシング9は、その前端面に、平面視で円状の凹部24が設けられ、凹部24の周囲が円環状の周壁部25となっている以外は、前記第2実施形態と同様の形状とされている。この凹部24の底部24aの略中心には、後述する第1植毛部2の駆動部29の回動軸27が回動可能に支持される軸孔28が穿設されている。
【0049】
第1植毛部2は、第1駆動機構の作動によって往復回転運動する駆動部29と、該駆動部29の周りを囲むように配設された固定部30とを有している。
駆動部29は、その一主面が植毛基面31aとされた円盤状の植毛プレート31と、植毛プレート31の植毛基面31aに植設された複数の刷毛22と、植毛プレート31の植毛基面31aと反対側の主面(他方の主面)31bに設けられた回動軸27を有する。
植毛プレート31は、その外径がケーシング9の凹部24の内径よりも僅かに小径とされており、他方の主面31bの回動軸27以外の領域が、凹部24の底部24aに対して僅かに離間するように、凹部24内に嵌入されている。
【0050】
回動軸27は、植毛プレート31の他方の主面31bの略中心に設けられている。回動軸27は、凹部24の底部24aに穿設された軸孔28に挿通されて回動可能に支持されており、これにより、駆動部29はケーシング9の凹部24内に回動可能に支持されている。回動軸27の端部は、ケーシング9内に侵入し、ピンやフック等によって第1駆動機構の第2運動変換機構と連結されている。この回動軸27は、第2運動変換機構の作動によって往復回転運動する。これにより植毛プレート31が往復回転運動し、該植毛プレート31に植設された各刷毛22が植毛プレート31(回動軸27)の中心を公転中心として往復公転運動する。
【0051】
ケーシング9の周壁部25には、駆動部29の周りを囲むように、複数の刷毛23が植設されている。本実施形態では、この複数の刷毛23が植設された周壁部25の表面25aが固定部用の植毛基面25aを構成し、この植毛基面25aに植設された刷毛群が固定部30を構成する。すなわち、固定部30の各刷毛23は、ケーシングの周壁部25に直接設けられ、第2運動変換機構に連結されていない。
第1植毛部2の駆動部29及び静止部30の刷毛22、23の植毛条件は、前記第1実施形態の第1植毛部2と同様である。
また、第2植毛部は、前記第2実施形態と同様の構成とされ、同様の位置に配設されている。
【0052】
以上のような電動義歯ブラシ1Dでは、第2操作ボタン17を押圧操作して第1駆動機構の内部電源と駆動モータとの電気的接続をONにすると、第1駆動機構が作動状態になる。ここで、本実施形態の第1植毛部2では、駆動部29のみが第2運動変換機構に連結され、固定部30はケーシング9に直接設けられ、第2運動変換機構に連結されていないことにより、第1駆動機構が作動状態になると、第1植毛部2の駆動部29のみが往復回転運動し、固定部30は静止状態のままである。また、第1操作ボタン16を押圧操作して内部電源と駆動モータとの電気的接続をONにすると、第2駆動機構が作動状態になり、第2植毛部3がその回動軸20を中心にして往復回転運動する。
この第4実施形態においても、前記第2実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
また、第4実施形態では、特に、第1植毛部2は、その内周側の領域(駆動部29)のみが第1駆動機構の作動により往復回転運動し、外周側の領域(静止部30)が静止状態を保持するように構成されていることにより、次のような効果が得られる。
すなわち、第1植毛部2は広い平らな面を清掃対象としていることから、第2植毛部3よりも植毛面積が比較的広く設定されるが、植毛面積が広いと、植毛部を往復回転運動させたときに、回転中心部から遠い部分(外周側の刷毛)ほど遠心力が強く働き、植毛部に付着させた洗浄剤(液、ペースト・粉末・固形物等)と洗浄した汚れが周囲に飛散し易い。
【0053】
これに対して、本実施形態のように、第1植毛部2の内周側の領域(可動部29)のみが第1駆動機構の作動によって往復回転運動するように構成され、外周側の領域(静止部30)が静止状態となっていると、往復回転運動している可動部29から洗浄剤や汚れが飛散しても、その周囲に設けられた静止部30の刷毛23に当たって制止され、周囲に飛び散るのが防止される。従って、第1植毛部2によって、少ない労力で、容易且つ短時間に義歯を清掃することができるとともに、その際に、洗浄剤と除去した汚れによって周囲が汚れるのを抑制できる。
以上、本発明の電動義歯ブラシの具体的な実施形態について説明したが、前記各実施形態において、電動義歯ブラシの構成は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
例えば、前記各実施形態では、第1植毛部及び/または第2植毛部は、駆動機構の作動によって往復回転運動するように構成されているが、これら植毛部の運動方式は、一方向の回転運動、直線方向の往復運動、振動またはこれらの組み合わせによる運動であってもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
(実施例1)
図1〜図3に示す第1植毛部及び第2植毛部を有し、このうち第1植毛部のみが駆動機構によって駆動されるように構成された電動義歯ブラシを製造した。第1植毛部及び第2植毛部の刷毛の植毛条件を表2に示す。
(実施例2)
図4〜図6に示す第1植毛部及び第2植毛部を有し、これら植毛部の両方が駆動機構によって駆動されるように構成された電動義歯ブラシを製造した。第1植毛部及び第2植毛部の刷毛の植毛条件を表2に示す。
【0055】
(実施例3)
図7〜図9に示す第1植毛部及び第2植毛部を有し、これら植毛部の両方が駆動機構によって駆動されるように構成された電動義歯ブラシを製造した。第1植毛部及び第2植毛部の刷毛の植毛条件を表2に示す。
(実施例4)
図10〜図12に示す第1植毛部及び第2植毛部を有し、第1植毛部の可動部と第2植毛部が駆動機構によって駆動されるように構成された電動義歯ブラシを製造した。第1植毛部及び第2植毛部の刷毛の植毛条件を表2に示す。
【0056】
(比較例1)
植毛部を1つのみ有する手用歯ブラシを用意した。植毛部の刷毛の植毛条件を表2に示す。
(比較例2)
第1植毛部及び第2植毛部を有する手用歯ブラシを用意した。第1植毛部及び第2植毛部の刷毛の植毛条件を表2に示す。
(比較例3、4)
植毛部を1つのみ有し、この植毛部が駆動機構によって駆動されるように構成された電動歯ブラシを用意した。植毛部の刷毛の植毛条件を表2に示す。
(比較例5)
植毛部を1つのみ有し、この植毛部が駆動機構によって駆動されるように構成された電動義歯ブラシを用意した。植毛部の刷毛の植毛条件を表2に示す。
【0057】
[評価]
各実施例及び各比較例の電動義歯ブラシ、電動歯ブラシまたは手用歯ブラシについて、中・小サイズの部分床義歯使用者、大きな部分床義歯使用者、総義歯使用者の男女各13名(40〜60才代)を対象に使用実感及び汚れの落ち具合に関する調査を行った。なお、使用日数は2日間である。これら調査の評価基準を表1に、評価結果を表2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表2に示すように、各実施例で製造した電動義歯ブラシは、いずれも各比較例の歯ブラシに比べて、清掃部位に毛先が届き易く、容易且つ短時間に義歯の汚れを落とすことができる。特に、第1植毛部及び第2植毛部の両方が駆動機構によって駆動される実施例2〜実施例4の電動義歯ブラシは、細部における汚れの落ち具合がより良い結果となっている。さらに、実施例4の電動義歯ブラシは、駆動部を高速で運動させた場合にも洗浄剤と汚れがほとんど飛散せず、他の歯ブラシに比べて、洗浄剤と除去した汚れによる周囲の汚染が顕著に抑えられていた。
【符号の説明】
【0061】
1A、1B、1C、1D…電動義歯ブラシ 2…第1植毛部 3…第2植毛部 4…本体部 5…ハンドル部 6…ネック部 7…ヘッド部 8…操作ボタン 9…ケーシング 9a…第2植毛基面(傾斜面) 9b…前端面 9c…傾斜面 10…回動軸 11…軸孔 12…植毛プレート 12a…第1植毛基面 14、15…刷毛 16…第1操作ボタン 17…第2操作ボタン 18…軸孔 19…植毛プレート 20…回動軸 21…軸孔 22、23…刷毛 24…凹部 24a…底部 25…周壁部 25a…静止部用植毛基面 27…回動軸 28…軸孔 29…駆動部 30…静止部 31…植毛プレート 31a…可動部用植毛基面。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
植毛基面に刷毛群が植設されて構成された複数の植毛部が異なる箇所に設けられたヘッド部と、その周面が把持されるハンドル部と、前記ヘッド部と前記ハンドル部とを連結するネック部と、前記植毛部の少なくともいずれかを電力で駆動する駆動機構とを有し、
前記複数の植毛部は、互いに刷毛の植毛条件が異なることを特徴とする電動義歯ブラシ。
【請求項2】
前記ヘッド部の一の箇所に設けられた前記植毛部の各刷毛は、前記一の箇所以外の、少なくともいずれかの箇所に設けられた植毛部の各刷毛と毛先の方向が異なることを特徴とする請求項1に記載の電動義歯ブラシ。
【請求項3】
前記駆動機構によって駆動される前記植毛部は、その一部の刷毛群のみが前記駆動機構の作動によって運動し、他の刷毛群は静止状態であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動義歯ブラシ。
【請求項4】
静止状態の前記刷毛群は、前記駆動機構の作動によって運動する前記刷毛群の周りを囲むように植設されていることを特徴とする請求項3に記載の電動義歯ブラシ。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−187997(P2010−187997A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36931(P2009−36931)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】