説明

電動膨張弁

【課題】
弁ポート前後の流体の流れを妨げる流体だまりや、さまざまな突起形状を少なくし、流体の流れにおいて、流れの抵抗をなくす電動膨張弁を提供する。
【解決手段】
流体の流れをスムーズにするために、第1冷媒循環形態時、弁室から弁ポート側に形成される通路Aを円錐形状にし、第2冷媒循環形態時、通路B先端から弁ポート側に形成される通路Bを円錐形状にしたことにより、渦流による流体流動音を低減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコンなどに用いられる冷媒回路中に設けられる電動膨張弁や、一般の産業分野でマイコンと組み合わせて使用する比例制御弁として利用される電動膨張弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクル装置の電動膨張弁等として用いられる弁装置として、弁室に弁室と前記弁室に開口した第1の入出口ポートおよび第2の入出口ポートを有し、ニードルが前記弁室内に配置され、ステッピングモーター駆動の送りねじ機構によって前記ニードルを軸線方向に移動させ、当該ニードルの軸線方向移動によって前記弁室に設けられている弁ポートの実効開口面積を増減し、流体の通過量を調節する電動式の弁装置がある。
【0003】
冷凍サイクル装置の凝縮器から膨張弁へ送られる冷媒は、完全な液冷媒が流れたり、完全な液冷媒でなく液相と気相が混在した二相冷媒であり、膨張弁を気液二相流が流れる。このような場合、液相と気相が弁ポートを不規則に通過することになり、このことによって弁室内の圧力変動が発生しやすく、流体通過時の騒音(流体流動音)の発生の原因となる。特に、液相中の気相(気泡)が大きく、大きい気泡が弁ポートを断続的に不規則に通過するほど、気液二相流が通過する際の弁ポートの圧力変動が大きくなり、流体流動音の発生しやすく、大きい音を発生する。
【0004】
また、弁ポートに流れ込む流体の状態が不均一であると、弁室内の圧力が変動し、この圧力変動が弁室や継手などに伝わると、音を発生し騒音となる。弁室の底部中央にある弁ポートに対して弁室の側部に入出口ポートの継手がある構成であると、弁ポートの方向に対し、流体が流れ込み難いために、流体の状態に不均一を生じ、流体流動音の増大を招く。
【0005】
また、第1の入出口ポートと第2の入出口ポートのどちらから流れてきた流体でも、ニードルと弁ポートによる絞り部のみで導入側(1次側)の圧力から排出側(2次側)の圧力までの減圧を行っているため、急激な圧力低下が生じ、弁ポートを通過する時の流速が非常に早く、キャビテーションの発生や、ニードルの振動現象が発生し、この点も騒音の原因となっている。
【0006】
弁装置におけるキャビテーションは、弁室内に導入された流体が弁ポートを通過する際に、弁ポート前後の圧力差によって加速されることで、弁ポートの下流側の圧力より低い圧力まで急激に減圧するため、液流中に気泡を発生する。そして、流体が弁ポートを抜けて再び広い空間に出ることで、流速が下がり、圧力は弁ポートの下流側の圧力まで上昇することで、弁ポートで発生した気泡が崩壊する現象を生じる。この気泡が崩壊する瞬間に生じる衝撃波が流路内にダメージを与え、騒音を発生させる。
【0007】
特に圧力差の大きい状態で弁ポートに流体を通すと、高い流速となり、流体の圧力は低下し、この時の圧力が飽和蒸気圧力を下回ると、液流中の気泡の発生がより顕著になる。この状態はフラッシング流れと呼ばれ、流体音の原因の一つとなっている。更に、排出側圧力が飽和蒸気圧力以上である場合には、気泡が崩壊し、衝撃波やマイクロジェットが発生する。この状態がキャビテーション流れと呼ばれ、流体音及び配管への損傷の原因となる。
【0008】
【特許文献1】特開2001−241562号公報この発明による弁装置では、モータの回転子と一体である弁軸の雄ねじと弁本体に設けた推進軸受けの雌ねじにより弁軸を直進運動に変換させて弁本体にある弁座の開口度を制御する電動弁に於いて、前記弁軸の雄ねじ部下方に形成されるニードルのストレート部外径を弁座とほぼ同径に形成し、流体の出入り口を備えた前記弁本体には、弁座の下方に流出チャンバーを設けると共に該流出チャンバーとケース内のチャンバーに連通する縦方向の導通孔を設け、前記弁本体の上方には、上方より段付き状に開口を形成して、上方開口部を推進ねじ室とし、その内面に雌ねじを設けると共に下方開口部の内面を前記ニードルのガイド部として設け、さらに、下方開口部と前記チャンバーとを連通する貫通孔を設けてなる推進軸受を固着し、閉弁時に、弁本体の流出チャンバーと導通孔並びに推進軸受の貫通孔を通して、流体の出入り口と推進ねじ室とが均圧になるようにしたことを特徴とする電動弁があり、ニードルの先端で乱流を起こさないようにしている。
【0009】
【特許文献2】特開2006−84108号公報この発明による弁装置によれば、前記弁室内に設けられた仕切壁によって第1の入出口ポートと弁ポートとの間の流路長が増大し、第1の入出口ポートと弁ポートとの間を流体を直進する場合に比して、この間の流路が長くなり、この流路長に応じて第1の入出口ポートと弁ポートとの間に流路長に応じた緩やかな圧力勾配ができる。これにより、1次側と2次側との間の圧力差が大きくても、弁ポート前後の圧力差は小さくなり、キャビテーション流れやフラッシング流れが発生することが抑制され、これらに起因する流体流動音が低減する。
【0010】
しかし、上述したような従来のものは、流体の流れが複雑で流体流動音低減効果を大きく改善することができず、また、必要部品点数が増え、構造が複雑になり弁装置側に細工を施さなくてはならない等の不具合があり、実用化するには問題が残る。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、弁ポートの前後に流体の流れを妨げる流体だまりや、さまざまな突起形状を極力少なくし、渦流の発生しにくい形状にすることと、また、必要部品点数の増加をまねかない構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、弁室(3)に臨む第1の入出口ポート(11)と第2の入出口ポート(12)とを、第1の入出口ポート(11)が弁室(3)の軸心の側方に、第2の入出口ポート(12)が軸心上に、それぞれ位置するようにして開口させるとともに第2の入出口ポート(12)側に弁ポート(4)を設けた弁座(1)と、弁座(1)の弁室(3)の軸心部を貫通して配置され且つその通路B(5)が弁ポート(4)に対向せしめられるとともに、ステッピングモーター部(6)によって進退駆動されるニードル(2)とを備え、冷媒が第1の入出口ポート(11)側から弁室(3)に流入して第2の入出口ポート(12)側に流出する第1冷媒循環形態時においては、ニードル(2)が弁室(3)から弁ポート(4)側に形成される通路A(10)を狭小とせしめ、また、冷媒が第2の入出口ポート(12)側から弁室(3)に流入して、第1の入出口ポート(11)側に流出する第2冷媒循環形態時においては、ニードル(2)が通路B先端(7)から弁ポート(4)側に形成される通路B(5)を狭小とせしめるように作動する電動膨張弁であって、
第1冷媒循環形態時、弁室(3)から弁ポート(4)側に形成される通路A(10)が円錐形状を有し、また、第2冷媒循環形態時、通路B先端(7)から弁ポート(4)側に形成される通路B(5)が円錐形状を有していることをその要旨とする。
【0013】
このような構成によると、弁ポートに気液二相状態の冷媒が流入した場合に、第1の入出口ポートと弁ポートとの間で流体は徐々に絞られ緩やかな圧力勾配ができる。これにより、第1の入出口ポートの1次側と第2の入出口ポートの2次側との間の圧力差が大きくても、弁ポート前後の圧力差は小さくなる。
また、弁ポート部と第2の入出口ポートとの間では、流体は徐々に開放され、流体の渦の発生を抑制することができる。
その結果、流体の流動音や配管の衝撃等を低減できる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、ニードル絞り部(2b)からニードル摺動部(8)にかけて形成される外形を、R形状と直線にて形成したことをその要旨とする。
このような構成によると、ニードルの外形における段々形状がなくなったため、流体の渦の発生を抑制することができる。その結果、流体の流動音等を低減できる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1において、第2冷媒循環形態時の第2の入出口ポート(12)側から冷媒の流れる通路B先端(7)の内側(7a)をR形状にしたことをその要旨とする。
このような構成によると、第2冷媒循環形態時の第2の入出口ポート(12)側から冷媒の流れがスムーズになり、流体の渦の発生を抑制することができる。その結果、流体の流動音等を低減できる。


【発明の効果】
【0016】
従って、弁ポートの前後に流体の流れを妨げるような突起形状をなくしたことにより、渦流の発生が少なくすることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。
図1および図2には、本願の請求項1、2および3に記載した各発明の実施例にかかる電動膨張弁を示している。
この電動膨張弁は、弁室(3)を設けた弁座(1)に弁室(3)に臨んで第1の入出口ポート(11)と第2入出口ポート(12)の二つの通路を設けている。
電動膨張弁は、弁室(3)から弁ポート(4)側に形成される通路A(10)が円錐形状をし、弁ポート(4)側に近づくに従って、流体が絞られる構造になっている。
上記の第2入出口ポート(12)は、弁室(3)の軸心と同軸上に位置するように設定されるとともに、その弁室(3)から弁ポート側に形成される通路の先には、弁ポート(4)が設けられている。通路B先端(7)から弁ポート(4)側に形成される通路B(5)が円錐形状をし、弁ポート側に近づくに従って、流体が絞られる構造になっている。
一方、上記弁室(3)の軸心部には、ステッピングモーター部(6)により進退駆動させるニードル(2)が弁室(3)を貫通した状態で配置されている。そして、このニードル(2)は、その先端側の突起状のニードル先端(2a)を弁ポート(4)に対向させるとともに、その直軸状のニードル摺動部(8)を弁室(3)内に位置せしめている。ニードル摺動部(8)は、ステッピングモーター部(6)による進退駆動により、筒状体の摺動ガイド(9)を案内に上下作動させるように設定されている。摺動ガイド(9)は、ステッピングモーター部(6)の冷媒だまりを防止するために逃し溝(13)が設けられている。
ニードル(2)のステッピングモーター部(6)に繋がる部分については、特開2001−241562と同じのため省略する。
ニードル(2)は、ニードル摺動部(8)からニードル絞り部(2b)、ニードル先端(2a)にかけて先細り形状とし、その繋がりはすべてR形状にしてある。
弁ポート(4)から通路B先端(7)にかける通路B(5)は、弁ポート(4)から徐々に開口するように円錐形状に形成され、通路B先端内側(7a)は、R形状にしてある。
【0018】
なお、上記ニードル(2)は、第2の入出口ポート(12)側からガス冷媒が流入する第2冷媒循環形態時においては、図1に実線図示する位置よりも上方に後退し、弁ポート(4)の通路面積を拡大するように、制御される。
【0019】
続いて、かかる構成をもつ電動膨張弁の作動を、本願発明がその特有の作用効果をあらわす図1の実線矢印で示す第1冷媒循環形態において、すなわち、実線矢印で示すように液冷媒が第1の入出口ポート(11)側から弁室(3)に流入し、弁ポート(4)にて絞られて膨張し、第2の入出口ポート(12)側に冷媒が流れる場合について説明する。
【0020】
この第1冷媒循環形態において、第1の入出口ポート(11)を通って液冷媒が高速で弁室(3)内に流入する。この場合、液冷媒は上記第1の入出口ポート(11)よりニードル摺動部(8)を包むように弁室(3)に流入し、円錐形状の通路A(10)を通り、ニードル(2)の後退作動によりニードル絞り部(2b)と弁ポート(4)との通路面積を拡大された弁ポート(4)を通り、弁ポート(4)から円錐形状の通路B(5)を通り、通路B先端内側(7a)のR形状をへて、第2の入出口ポート(12)側に流出する。この時、液冷媒の流れを妨げる角形状がなく液冷媒の渦流などが発生しにくいため、スムーズに液冷媒が流れ、大きな流体流動音や、キャビテーションなどが発生しにくくなった。
【0021】
次に、第2冷媒循環形態において、ガス冷媒は図1の破線図示するように第2の入出口ポート(12)側から通路B先端内側(7a)のR形状を通り、円錐形状の通路(B5)から弁ポート(4)を通り、ニードル(2)の後退作動によりニードル絞り部(2b)と弁ポート(4)との通路面積を拡大された弁ポート(4)を通り、弁ポート(4)から弁室(3)を経て第1の入出口ポート(11)側へガス冷媒が流れる。この時、ガス冷媒の流れを妨げる角形状がなくガス冷媒の渦流などが発生しにくいため、スムーズにガス冷媒が流れ、大きな流体流動音や、キャビテーションなどが発生しにくくなった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本願発明の最良の形態に係る電動膨張弁 のニードルの弁軸部分の拡大断面図である。
【図2】同膨張弁のニードルの要部図である。
【図3】同膨張弁の全体的な構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1は弁座 2はニードル 3は弁室 4は弁ポート 5は通路B
6はステッピングモーター部 7は通路B先端 8はニードル摺動部
9は摺動ガイド 10は通路A 11は第1の入出口ポート
12は第2の入出口ポート 13は溝




【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室(3)に臨む第1の入出口ポート(11)と第2の入出口ポート(12)とを、前記第1の入出口ポート(11)が前記弁室(3)の軸心の側方に、前記第2の入出口ポート(12)が軸心上に、それぞれ位置するようにして開口させるとともに
前記第2の入出口ポート(12)側に弁ポート(4)を設けた弁座(1)と、前記弁座(1)の前記弁室(3)の軸心部を貫通して配置され且つその通路B(5)が前記弁ポート(4)に対向せしめられるとともに、
ステッピングモーター部(6)によって進退駆動されるニードル(2)とを備え、
冷媒が前記第1の入出口ポート(11)側から前記弁室(3)に流入して前記第2の入出口ポート(12)側に流出する第1冷媒循環形態時において、
前記ニードル(2)が前記弁室(3)から前記弁ポート(4)側に形成される通路A(10)を狭小とせしめ、
また、冷媒が前記第2の入出口ポート(12)側から前記弁室(3)に流入して前記第1の入出口ポート(11)側に流出する第2冷媒循環形態時において、
前記ニードル(2)が通路B先端(7)から前記弁ポート(4)側に形成される通路B(5)を狭小とせしめるように作動する電動膨張弁であって、
前記第1冷媒循環形態時、前記弁室(3)から前記弁ポート(4)側に形成される前記通路A(10)が円錐形状を有し、
また、第2冷媒循環形態時、前記通路B先端(7)から前記弁ポート(4)側に形成される前記通路B(5)が円錐形状を有していることを特徴とする電動膨張弁。
【請求項2】
請求項1において、ニードル絞り部(2b)からニードル摺動部(8)にかけて形成される外形を、R形状と直線にて形成したことを特徴とする電動膨張弁。
【請求項3】
請求項1において、第2冷媒循環形態時の前記第2の入出口ポート(12)側から冷媒の流れる前記通路B先端(7)の内側(7a)をR形状にしたことを特徴とする電動膨張弁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−128603(P2008−128603A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316417(P2006−316417)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)