説明

電動車両

【課題】車両の盗難防止を確保しつつ、第三者による車両の一時的な移動を許容することが可能な電動車両を提供する。
【解決手段】電動車両10は、非動作状態である場合、電動車両10が走行不能となる第1電気部品46、58、68と、非動作状態である場合、電動車両10は走行可能であるが、動作状態である場合に比べて電動車両10の走行可能距離が短くなる第2電気部品22、66、86とを有する。さらに、電動車両10は、第1電気部品46、58、68及び第2電気部品22、66、68を動作状態にする通常起動モードと、第1電気部品46、58、68を動作状態とし第2電気部品22、66、68を非動作状態とする移動距離制限起動モードとを、キー装置112から出力される起動信号に応じて切り替える起動モード切替装置46を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一時的な移動と盗難防止を両立可能な電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の盗難防止装置(イモビライザ)が知られている。盗難防止装置では、解除されることを困難にするための技術(特許文献1)や、解除され一旦盗難されたとしても直ぐに車両を取り戻すための技術が開発されている(特許文献2)。
【0003】
特許文献2では、車両が盗難された場合、警察又は情報提供者は、当該車両に関する盗難車両情報を電波で配信する。そして、盗難車両がその盗難車両情報を受信した場合、車両システムが起動していなければ、車両システムの起動を規制し、車両システムが起動していれば、盗難車両の駆動を制限する([0020]〜[0021])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−151121号公報
【特許文献2】特開2005−247293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献2では、警察又は情報提供者からの盗難車両情報が受信された場合、車両システムが起動していれば、盗難車両の駆動を制限する。換言すると、特許文献2では、車両の盗難が明らかになった場合に駆動を制限する。
【0006】
これとは反対に、車両の盗難防止を確保しながら、車両の所有者が第三者による車両の一時的な移動を許容する要望が存在する。例えば、当該所有者が何らかの理由(例えば、電動車両の充電中の買い物)で車両から離れるとき、充電終了後、第三者に自己の車両を充電設備から移動してもらいたい場合がある。特許文献2の技術では、盗難された場合を想定しているため、上記のような要望に応えることができない。
【0007】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、車両の盗難防止を確保しつつ、第三者による車両の一時的な移動を許容することが可能な電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電動車両は、電動機に電力を供給する第1蓄電装置と、前記第1蓄電装置よりも低電圧の第2蓄電装置とを有するものであって、さらに、前記第2蓄電装置から電力供給を受けると共に、非動作状態である場合、前記電動車両が走行不能となる第1電気部品と、前記第2蓄電装置から電力供給を受けると共に、非動作状態である場合、前記電動車両は走行可能であるが、動作状態である場合に比べて前記電動車両の走行可能距離が短くなる第2電気部品と、ユーザの操作により前記第1電気部品及び前記第2電気部品の起動モードを設定するキー装置と、前記第1電気部品及び前記第2電気部品を動作状態にする通常起動モードと、前記第1電気部品を動作状態とし前記第2電気部品を非動作状態とする移動距離制限起動モードとを、前記キー装置から出力される起動信号に応じて切り替える起動モード切替装置とを備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、電動車両の走行可能距離に制限を加える移動距離制限起動モードをユーザの操作により設定することができる。これにより、例えば、電動車両の所有者であるユーザは、電動車両の盗難を防止しつつ、第三者に電動車両の一時的な移動を許可することが可能となる。盗難を防止しつつ一時的な移動を許可する場合としては、例えば、電動車両の所有者であるユーザが何らかの理由(例えば、充電中の買い物)で電動車両から離れている状態で、当該電動車両の一時的な移動(例えば、充電終了後、他の電動車両の充電のための移動)を認める場合を挙げることができる。
【0010】
前記第2電気部品は、前記第1蓄電装置が接続される高電圧バスと前記第2蓄電装置が接続される低電圧バスとの間に接続され、前記高電圧バスに供給される電力を前記低電圧バスに供給する電圧変換装置を含み、前記第1電気部品は、前記電動車両の走行を制御する走行制御装置と、前記第1蓄電装置と前記高電圧バスとの間に配設された開閉器とを少なくとも含み、前記開閉器は、前記第2蓄電装置から前記開閉器への電力供給が不足する状態で開となり、前記開閉器が開となる電圧は、前記走行制御装置が停止する電圧よりも大きくてもよい。
【0011】
上記構成では、移動距離制限起動モードが選択された場合、第2電気部品である電圧変換装置が非動作状態となり、第1蓄電装置から低電圧バス及び第2蓄電装置への電力供給が停止される。これにより、低電圧バスにおける電力は限定されるため、第1電気部品での電力消費により第2蓄電装置の電力は徐々に低下する。その結果、第1蓄電装置と高電圧バスとの間の開閉器が開となり、第1蓄電装置から電動機への電力供給が停止され、電動車両は走行を停止する。ここで、第1蓄電装置から第2蓄電装置への電力供給が停止されているため、開閉器を再度閉にすることはできず、電動車両の移動可能範囲を確実に制限することが可能となる。
【0012】
前記第2電気部品は、前記電動機及び前記電動機用の電力変換器の少なくとも一方を冷却する冷媒を循環させる冷媒循環ポンプを含み、前記第1電気部品は、前記電動機又は前記電力変換器の温度が閾値を上回った場合、前記電動車両を停止に向けて制御する第2走行制御装置を含んでもよい。
【0013】
上記構成では、移動距離制限モードが選択された場合、第2電気部品である冷媒循環ポンプが非動作状態となり、電動機及び電動機用の電力変換器の少なくとも一方の冷却が停止され、その温度が通常よりも上昇する。ここで、電動機及び電力変換器の少なくとも一方の温度が閾値を上回った場合、電動車両を停止に向けて制御する。このため、第2蓄電装置に電力を残した状態で電動車両を停止に向かわせることが可能となる。従って、その後、電動車両の所有者であるユーザがキー装置を操作して通常起動モードに戻した場合、第2蓄電装置から第1電気部品への電力供給が可能となり、電動車両を再始動させることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、電動車両の走行可能距離に制限を加える移動距離制限起動モードをユーザの操作により設定することができる。これにより、例えば、電動車両の所有者であるユーザは、電動車両の盗難を防止しつつ、第三者に電動車両の一時的な移動を許可することが可能となる。盗難を防止しつつ一時的な移動を許可する場合としては、例えば、電動車両の所有者であるユーザが何らかの理由(例えば、充電中の買い物)で電動車両から離れている状態で、当該電動車両の一時的な移動(例えば、充電終了後、他の電動車両の充電のための移動)を認める場合を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の一実施形態に係る電動車両の電力系統のブロック図である。
【図2】前記電動車両の制御系統のブロック図である。
【図3】前記電動車両の概略背面図である。
【図4】前記電動車両の概略右側面図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【図6】前記電動車両の冷却系統のブロック図である。
【図7】セーフモード中における高電圧バッテリのSOCと視認ランプの点灯状態との関係を示す図である。
【図8】モータの巻線温度の上昇時に前記モータの出力を制限するフローチャートである。
【図9】前記巻線温度の低下時に前記モータの出力制限を緩和するフローチャートである。
【図10】前記巻線温度の上昇時及び低下時における前記モータの出力制御を示す説明図である。
【図11】前記モータの出力、出力削減インジケータ、過熱インジケータ、巻線温度、車速及び低電圧バッテリの電圧の関係の一例を示すタイミングチャートである。
【図12】インバータの素子温度の上昇時に前記モータの出力を制限するフローチャートである。
【図13】前記素子温度の低下時に前記モータの出力制限を緩和するフローチャートである。
【図14】前記素子温度の上昇時及び低下時における前記モータの出力制御を示す説明図である。
【図15】前記モータの出力指令及び出力、出力削減インジケータ、過熱インジケータ、素子温度、車速並びに低電圧バッテリの電圧の関係の一例を示すタイミングチャートである。
【図16】前記低電圧バッテリの電圧を用いて前記モータの出力を制限するフローチャートである。
【図17】前記モータの出力、過熱インジケータ、車速及び低電圧バッテリの電圧の関係の一例を示すタイミングチャートである。
【図18】高電圧バッテリのSOCを用いて前記モータの出力を制限するフローチャートである。
【図19】前記モータの出力、出力削減インジケータ、過熱インジケータ、車速及びSOCの関係の一例を示すタイミングチャートである。
【図20】タイマを用いて前記モータの出力を制限するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.一実施形態
1.電動車両10の構成
(1)電力系統
図1は、この実施形態に係る電動車両10(以下「車両10」ともいう。)の電力系統のブロック図である。車両10の電力系統は、走行用のモータ12(電動機)と、インバータ14と、高電圧バッテリ16(第1蓄電装置)と、チャージャ18と、低電圧バッテリ20(第2蓄電装置)と、ダウンバータ22(電圧変換装置)と、高電圧系部品群24と、低電圧系部品群26と、コンタクタ28とを有する。
【0017】
モータ12は、3相交流ブラシレス式であり、インバータ14を介して高電圧バッテリ16から供給される電力に基づいて車両10の駆動力F[N](又はトルク[N・m])を生成する。また、モータ12は、回生を行うことで生成した電力(回生電力Preg)[W]を高電圧バッテリ16等に出力することでバッテリ16の充電等を行う。
【0018】
インバータ14は、3相フルブリッジ型の構成とされて、直流/交流変換を行い、高電圧バス30における直流を3相の交流に変換してモータ12に供給する一方、回生動作に伴う交流/直流変換後の直流を高電圧バッテリ16等に供給する。
【0019】
高電圧バッテリ16は、複数のバッテリセルを含む蓄電装置(エネルギストレージ)であり、例えばリチウムイオン2次電池又はキャパシタ等を利用することができる。本実施形態ではリチウムイオン2次電池を利用している。なお、インバータ14と高電圧バッテリ16との間に図示しないDC/DCコンバータを設け、高電圧バッテリ16の出力電圧又はモータ12の出力電圧を昇圧又は降圧してもよい。
【0020】
チャージャ18は、高電圧バス30を介して高電圧バッテリ16に接続され、外部電源32から高電圧バッテリ16への充電を可能にする。ダウンバータ22は、高電圧バス30における高電圧を低電圧(例えば、12V)に変換して低電圧バス34に供給する。
【0021】
高電圧系部品群24は、高電圧バス30からの電力、すなわち、高電圧バッテリ16又はモータ12からの電力により動作する。外部電源32がチャージャ18に接続されている場合、高電圧系部品群24は、外部電源32からの電力により動作してもよい。低電圧系部品群26は、低電圧バス34からの電力、すなわち、低電圧バッテリ20からの電力又はダウンバータ22を介して供給された高電圧バッテリ16からの電力により動作する。外部電源32がチャージャ18に接続されている場合、低電圧系部品群26は、ダウンバータ22を介して供給された外部電源32からの電力により動作してもよい。
【0022】
コンタクタ28は、インバータ14と高電圧バッテリ16を結ぶ高電圧バス30上に配置されたノーマルオープン型のスイッチであり、後述する統合電子制御装置46又はバッテリ電子制御装置68によりオンオフ制御される。
【0023】
(2)制御系統
(a)全体構成
図2は、電動車両10の制御系統のブロック図である。車両10の制御系統は、前述のチャージャ18及びダウンバータ22に加え、モータ系40、高電圧バッテリ系42、車体系44及び統合電子制御装置46(以下「統合ECU46」という。)を含む。
【0024】
(b)モータ系40
モータ系40は、相電流センサ50、巻線温度センサ52、素子温度センサ54、レゾルバ56及びモータ電子制御装置58(以下「モータECU58」という。)を有する。相電流センサ50は、モータ12の巻線(図示せず)におけるU相、V相及びW相のうち少なくとも2相の電流(相電流)を検出する。巻線温度センサ52は、モータ12の前記巻線のいずれかの温度(以下「巻線温度Tms」という。)を検出する。巻線温度Tmsは、複数の巻線の温度の平均値等であってもよい。素子温度センサ54は、インバータ12の複数のスイッチング素子(図示せず)のいずれかの温度(以下「素子温度Tinv」という。)を検出する。素子温度Tinvは、複数のスイッチング素子の温度の平均値等であってもよい。レゾルバ56は、モータ12の図示しない出力軸又は外ロータの回転角度である電気角θを検出する。モータECU58は、統合ECU46からのトルク指令、前記相電流、巻線温度Tms、電気角θ等を用いてモータ12の出力を制御する。
【0025】
(c)高電圧バッテリ系42
高電圧バッテリ系42は、前述のコンタクタ28に加え、バッテリセルサーミスタ60、電流センサ62、電圧センサ64、冷却ファン66及びバッテリ電子制御装置68(以下「バッテリECU68」という。)を有する。バッテリセルサーミスタ60は、高電圧バッテリ16を構成する各セルの温度(セル温度)を検出する。電流センサ62は、高電圧バッテリ16の出力電流(第1バッテリ電流Ibat1)を検出する。電圧センサ64は、高電圧バッテリ16の出力電圧(第1バッテリ電圧Vbat1)を検出する、冷却ファン66は、高電圧バッテリ16に生じた熱を放出することにより高電圧バッテリ16を冷却する。バッテリECU68は、前記セル温度、第1バッテリ電流Ibat1、第1バッテリ電圧Vbat1等を用いて高電圧バッテリ16、コンタクタ28及び冷却ファン66等を制御する。
【0026】
(d)車体系44
車体系44は、車速センサ70、電動ブレーキサーボ72、電動パーキングブレーキ74、セレクタセンサ76、アクセルセンサ78、セキュリティロック80、SOCインジケータ82、回転センサ88、ブレーキポンプ84、電動ウォータポンプ86(冷媒循環ポンプ)、灯火類90、デフロスタ92、ワイパ94、キーレス信号受信部96、ドアロック98、パワードアミラー100、ナビゲーション装置102、エアコンディショナ104、室内灯106、メータ類108及び視認ランプ110a〜110c(以下「視認ランプ110」と総称する。)(図3〜図5)を有する。
【0027】
車速センサ70は、車両10の車速Vを検出する。電動ブレーキサーボ72は、いわゆる倍力装置の一種であり、ブレーキペダルに対する踏力を増大させてホイールシリンダに伝達する(いずれも図示せず)。電動パーキングブレーキ74は、車両10の停止時に作動する電動式のパーキングブレーキである。セレクタセンサ76は、図示しないセレクトレバーの位置を検出する。アクセルセンサ78は、図示しないアクセルペダルのストローク量を検出する。セキュリティロック80は、ドアロック等、防犯に必要なロックである。SOCインジケータ82は、図示しないインスツルメントパネルに設けられ、高電圧バッテリ16の残容量(以下「SOC」という。)を表示する。ブレーキポンプ84は、配管中のブレーキ油の圧力を調整するために用いられる。
【0028】
電動ウォータポンプ86(冷媒循環ポンプ)は、モータ12、インバータ14等の冷媒を循環させる。回転センサ88は、ウォータポンプ86の回転数を検出する。キーレス信号受信部96は、携帯型の電子キー112(キー装置)と無線通信が可能である。電子キー112は、いわゆるスマートエントリを可能にするキーである。本実施形態における電子キー112は、後述する移動距離制限起動モード(以下「セーフモード」ともいう。)の設定をすることができる。
【0029】
メータ類108は、図示しないインスツルメントパネルに設けられ、モータ12の出力を削減していることを示す出力削減インジケータと、巻線温度Tms又は素子温度Tinvが過度に上昇していることを示す過熱インジケータとを含む。
【0030】
視認ランプ110は、セーフモード中に、高電圧バッテリ16のSOCの状態を示すものである。図3及び図4に示すように、視認ランプ110は、車両10の上部後方に設けられている。また、図5に示すように、視認ランプ110のうち真ん中の視認ランプ110bは、他の視認ランプ110a、110cよりも車両10の後方にずれて配置されている。このため、真ん中の視認ランプ110bは、車両10の側面側からも視認することが可能である。
【0031】
(e)統合ECU46
統合ECU46は、車両10の制御系統全体を制御するものであり、各部のオンオフ等を制御する。本実施形態において、統合ECU46は、通常起動モードと、移動距離制限起動モード(セーフモード)とを切り替える。なお、図2において、太枠で囲まれた部品は、セーフモードで起動する部品である。セーフモードについては後に詳述する。
【0032】
(3)冷却系統
図6は、電動車両10の冷却系統のブロック構成図である。車両10の冷却系統は、前述した走行用のモータ12、インバータ14、チャージャ18、ダウンバータ22、冷却ファン66及び電動ウォータポンプ86を含む。
【0033】
冷却ファン66は、冷媒路120中の冷媒を放熱させる。電動ウォータポンプ86は、冷媒路120中の冷媒を循環させる。これにより、冷媒は、モータ12、インバータ14、チャージャ18及びダウンバータ22を冷却する。
【0034】
2.通常起動モードと移動距離制限起動モード(セーフモード)
本実施形態における統合ECU46は、車両10の通常走行に必要な全ての電気部品を起動して車両10を走行させる通常起動モードと、車両10の通常走行に必要な電気部品の一部のみを起動して車両10の移動距離を制限する移動距離制限起動モード(セーフモード)とを選択して用いることができる。本実施形態において、通常起動モードからセーフモードへの切替え及びセーフモードから通常起動モードへの切替えは、電子キー112を介してのユーザの操作により行うことができる。すなわち、ユーザが電子キー112を操作することにより電子キー112からキーレス信号受信部96に起動信号Smが出力され、統合ECU46は、この起動信号Smに応じて上記各モードを切り替える。
【0035】
本実施形態において、車両10の通常走行に必要な全ての電気部品とは、例えば、図2において、太線で囲った部品である。すなわち、モータ系40の相電流センサ50、巻線温度センサ52、素子温度センサ54、レゾルバ56及びモータECU58と、高電圧バッテリ系42のコンタクタ28、バッテリセルサーミスタ60、電流センサ62、電圧センサ64、冷却ファン66及びバッテリECU68と、車体系44の車速センサ70、電動ブレーキサーボ72、電動パーキングブレーキ74、セレクタセンサ76、アクセルセンサ78、セキュリティロック80、SOCインジケータ82、ブレーキポンプ84、ウォータポンプ86、回転センサ88、灯火類90、ワイパ94、キーレス信号受信部96、ドアロック98及びメータ類108が当該電気部品に含まれる。
【0036】
上記各電気部品のうち、例えば、モータ系40の相電流センサ50、レゾルバ56並びにモータECU58(及びインバータ14)と、高電圧バッテリ系42のコンタクタ28と、車体系44の電動ブレーキサーボ72、セレクタセンサ76、アクセルセンサ78及びブレーキポンプ84と、統合ECU46は、それらが非動作状態である場合、車両10が走行不能となる部品(第1電気部品)である。
【0037】
一方、上記各電気部品のうち、例えば、ダウンバータ22、冷却ファン66及びウォータポンプ86は、それらが非動作状態であっても車両10は走行可能であるが、それらが動作状態である場合に比べて車両10の走行可能距離が短くなる部品(第2電気部品)である。本実施形態のセーフモードでは、前記第2電気部品は起動されない。
【0038】
図7には、セーフモード中における高電圧バッテリ16のSOC(以下「SOC1」という。)と視認ランプ110の点灯状態との関係が示されている。すなわち、SOC1が60%以上である場合、統合ECU46は、3個の視認ランプ110a、110b、110c全てを点灯させる。SOC1が31%以上60%未満である場合、統合ECU46は、2個の視認ランプ110a、110cを点灯させる。SOC1が15%以上30%以下である場合、統合ECU46は、1個の視認ランプ110bを点灯させる。SOC1が15%未満である場合、統合ECU46は、1個の視認ランプ110bを点滅させる。これにより、車両10の周囲にいる者は、視認ランプ110の点灯又は点滅状態に基づいて、車両10がセーフモードであること及び高電圧バッテリ16のSOC1を知ることが可能となる。
【0039】
3.移動距離制限起動モード(セーフモード)の詳細
次に、移動距離制限起動モード(セーフモード)の詳細について説明する。上記のように、セーフモードは、車両10の通常走行に必要な電気部品の一部のみを起動して車両10の移動距離を制限する。換言すると、セーフモードでは、車両10の通常走行に必要であるダウンバータ22、冷却ファン66及びウォータポンプ86を非動作状態とすることで車両10の走行距離を制限する。更なる詳細については以下に述べる。
【0040】
(1)モータ12の巻線温度Tmsを用いた制限
冷却ファン66及びウォータポンプ86を非動作状態とすることにより、モータ12及びインバータ14の冷却が不十分となる。これにより、巻線温度Tms及び素子温度Tinvが上昇する。
【0041】
(a)巻線温度Tms上昇時のモータ12の出力制限
図8は、巻線温度Tmsの上昇時にモータ12の出力(モータ出力Pm)を制限するフローチャートであり、図9は、巻線温度Tmsの低下時にモータ12の出力制限を緩和するフローチャートである。図10は、巻線温度Tmsの上昇時及び低下時におけるモータ12の出力制御を示す説明図である。図11は、モータ出力Pm、出力削減インジケータ、過熱インジケータ、巻線温度Tms、車速V及び低電圧バッテリ20の電圧Vbat2の関係の一例を示すタイミングチャートである。
【0042】
まず、図8、図10及び図11を参照して、巻線温度Tmsの上昇時におけるモータ12の出力制限について説明する。ステップS1において、統合ECU46は、モータECU58に対して、モータ12の出力を最大(=100%)にすることを許容する。ステップS2において、統合ECU46は、巻線温度Tmsが閾値α+1℃以上であるか否かを判定する。閾値αは、モータ12の出力制限のために設定された巻線温度Tmsの閾値である。
【0043】
巻線温度Tmsが閾値α+1℃以上でない場合(S2:NO)、ステップS1に戻る。巻線温度Tmsが閾値α+1℃以上である場合(S2:YES)、ステップS3において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる出力削減インジケータを点灯させる(図11の時点t1)。
【0044】
ステップS4において、統合ECU46は、所定期間P1を置いた後にモータECU58に対してモータ12の出力を第1段階の出力(本実施形態では80%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第1段階の出力に制限する(時点t2)。
【0045】
ステップS5において、統合ECU46は、巻線温度Tmsが閾値α+3℃以上であるか否かを判定する。巻線温度Tmsが閾値α+3℃以上でない場合(S5:NO)、ステップS4に戻る。巻線温度Tmsが閾値α+3℃以上である場合(S5:YES)、ステップS6に進む。
【0046】
ステップS6において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を第2段階の出力(本実施形態では60%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第2段階の出力に制限する(図11の時点t3)。
【0047】
ステップS7において、統合ECU46は、巻線温度Tmsが閾値α+5℃以上であるか否かを判定する。巻線温度Tmsが閾値α+5℃以上でない場合(S7:NO)、ステップS6に戻る。巻線温度Tmsが閾値α+5℃以上である場合(S7:YES)、ステップS8に進む。
【0048】
ステップS8において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を第3段階の出力(本実施形態では30%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第3段階の出力に制限する(図11の時点t4)。
【0049】
ステップS9において、統合ECU46は、巻線温度Tmsが閾値α+7℃以上であるか否かを判定する。巻線温度Tmsが閾値α+7℃以上でない場合(S9:NO)、ステップS8に戻る。巻線温度Tmsが閾値α+7℃以上である場合(S9:YES)、ステップS10において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる過熱インジケータを点灯させる(図11の時点t5)。
【0050】
ステップS11において、統合ECU46は、所定期間P2を置いた後にモータECU58に対してモータ12の出力を第4段階の出力(本実施形態では0%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第4段階の出力に制限する(時点t6)。その後、車両10は惰性で走行しながら停止に向かい、最終的に停止する(時点t7)。
【0051】
なお、図8の処理をしている最中に、巻線温度Tmsが閾値α+7℃に到達せずに低下し始めた場合(例えば、車両10を停止した場合)、図8の処理を終了し、図9の処理を開始することができる。
【0052】
(b)巻線温度Tmsの低下時にモータ12の出力制限緩和
次に、図9及び図10を参照して、巻線温度Tmsの低下時におけるモータ12の出力制限緩和について説明する。ステップS21において、統合ECU46は、モータECU58に対して、モータ12の出力を第4段階の出力(本実施形態では0%)に制限するよう要求する。ステップS22において、統合ECU46は、巻線温度Tmsが閾値α+6℃以下であるか否かを判定する。図8のステップS9よりも温度が低いのはヒステリシス特性を持たせるためである(後述するステップS25、S27、S29も同様である。)。
【0053】
巻線温度Tmsが閾値α+6℃以下でない場合(S22:NO)、ステップS21に戻る。巻線温度Tmsが閾値α+6℃以下である場合(S22:YES)、ステップS23において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる過熱インジケータを消灯させる。
【0054】
ステップS24において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を第3段階の出力(本実施形態では30%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第3段階の出力に制限する(出力制限を0%から30%に緩和する。)。
【0055】
ステップS25において、統合ECU46は、巻線温度Tmsが閾値α+4℃以下であるか否かを判定する。巻線温度Tmsが閾値α+4℃以下でない場合(S25:NO)、ステップS24に戻る。巻線温度Tmsが閾値α+4℃以上である場合(S25:YES)、ステップS26に進む。
【0056】
ステップS26において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を第2段階の出力(本実施形態では60%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第2段階の出力に制限する(出力制限を30%から60%に緩和する。)。
【0057】
ステップS27において、統合ECU46は、巻線温度Tmsが閾値α+2℃以下であるか否かを判定する。巻線温度Tmsが閾値α+2℃以下でない場合(S27:NO)、ステップS26に戻る。巻線温度Tmsが閾値α+2℃以下である場合(S27:YES)、ステップS28に進む。
【0058】
ステップS28において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を第1段階の出力(本実施形態では80%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第1段階の出力に制限する(出力制限を60%から80%に緩和する。)。
【0059】
ステップS29において、統合ECU46は、巻線温度Tmsが閾値α℃以下であるか否かを判定する。巻線温度Tmsが閾値α℃以下でない場合(S29:NO)、ステップS28に戻る。巻線温度Tmsが閾値α℃以上である場合(S29:YES)、ステップS30において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる出力削減インジケータを消灯させる。
【0060】
ステップS31において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を最大(=100%)にすることを許容する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力制限を停止する。
【0061】
なお、図9の処理をしている最中に、巻線温度Tmsが閾値α℃に到達せずに上昇し始めた場合(例えば、車両10を停止した後、再度走行を開始した場合)、図9の処理を終了し、図8の処理を開始することができる。
【0062】
(2)インバータ14の素子温度Tinvを用いた制限
(a)素子温度Tinv上昇時のモータ12の出力制限
図12は、素子温度Tinvの上昇時にモータ12の出力Pmを制限するフローチャートであり、図13は、素子温度Tinvの低下時にモータ12の出力制限を緩和するフローチャートである。図14は、素子温度Tinvの上昇時及び低下時におけるモータ12の出力制御を示す説明図である。図15は、統合ECU46からモータECU58へのモータ出力指令、モータ出力Pm、出力削減インジケータ、過熱インジケータ、素子温度Tinv、車速V及び低電圧バッテリ20の電圧Vbat2の関係の一例を示すタイミングチャートである。
【0063】
まず、図12、図13及び図15を参照して、素子温度Tinvの上昇時におけるモータ12の出力制限について説明する。ステップS41において、統合ECU46は、モータECU58に対して、モータ12の出力を最大(=100%)にすることを許容する。ステップS42において、統合ECU46は、素子温度Tinvが閾値β+1℃以上であるか否かを判定する。閾値βは、モータ12の出力制限のために設定された素子温度Tinvの閾値である。
【0064】
素子温度Tinvが閾値β+1℃以上でない場合(S42:NO)、ステップS41に戻る。素子温度Tinvが閾値β+1℃以上である場合(S42:YES)、ステップS43において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる出力削減インジケータを点灯させる(図15の時点t11)。
【0065】
ステップS44において、統合ECU46は、所定期間P3を置いた後にモータECU58に対してモータ12の出力を第1段階の出力(本実施形態では70%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第1段階の出力に制限する(時点t12)。
【0066】
ステップS45において、統合ECU46は、素子温度Tinvが閾値β+3℃以上であるか否かを判定する。素子温度Tinvが閾値β+3℃以上でない場合(S45:NO)、ステップS44に戻る。素子温度Tinvが閾値β+3℃以上である場合(S45:YES)、ステップS46に進む。
【0067】
ステップS46において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を第2段階の出力(本実施形態では40%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第2段階の出力に制限する(図15の時点t13)。
【0068】
ステップS47において、統合ECU46は、素子温度Tinvが閾値β+5℃以上であるか否かを判定する。素子温度Tinvが閾値β+5℃以上でない場合(S47:NO)、ステップS46に戻る。素子温度Tinvが閾値β+5℃以上である場合(S47:YES)、ステップS48に進む。
【0069】
ステップS48において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を第3段階の出力(本実施形態では15%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第3段階の出力に制限する(図15の時点t14)。
【0070】
ステップS49において、統合ECU46は、素子温度Tinvが閾値β+7℃以上であるか否かを判定する。素子温度Tinvが閾値β+7℃以上でない場合(S49:NO)、ステップS48に戻る。素子温度Tinvが閾値β+7℃以上である場合(S49:YES)、ステップS50において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる過熱インジケータを点灯させる(図15の時点t15)。
【0071】
ステップS51において、統合ECU46は、所定期間P4を置いた後にモータECU58に対してモータ12の出力を第4段階の出力(本実施形態では0%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第4段階の出力に制限する(時点t16)。その後、車両10は惰性で走行しながら停止に向かい、最終的に停止する(時点t17)。
【0072】
なお、図12の処理をしている最中に、素子温度Tinvが閾値β+7℃に到達せずに低下し始めた場合(例えば、車両10を停止した場合)、図12の処理を終了し、図13の処理を開始することができる。
【0073】
(b)素子温度Tinvの低下時にモータ12の出力制限緩和
次に、図13及び図14を参照して、素子温度Tinvの低下時におけるモータ12の出力制限緩和について説明する。ステップS61において、統合ECU46は、モータECU58に対して、モータ12の出力を第4段階の出力(本実施形態では0%)に制限するよう要求する。ステップS62において、統合ECU46は、素子温度Tinvが閾値β+6℃以下であるか否かを判定する。図12のステップS49よりも温度が低いのはヒステリシス特性を持たせるためである(後述するステップS65、S67、S69も同様である。)。
【0074】
素子温度Tinvが閾値β+6℃以下でない場合(S62:NO)、ステップS61に戻る。素子温度Tinvが閾値β+6℃以下である場合(S62:YES)、ステップS63において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる過熱インジケータを消灯させる。
【0075】
ステップS64において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を第3段階の出力(本実施形態では15%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第3段階の出力に制限する(出力制限を0%から15%に緩和する。)。
【0076】
ステップS65において、統合ECU46は、素子温度Tinvが閾値β+4℃以下であるか否かを判定する。素子温度Tinvが閾値β+4℃以下でない場合(S65:NO)、ステップS64に戻る。素子温度Tinvが閾値β+4℃以上である場合(S65:YES)、ステップS66に進む。
【0077】
ステップS66において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を第2段階の出力(本実施形態では40%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第2段階の出力に制限する(出力制限を15%から40%に緩和する。)。
【0078】
ステップS67において、統合ECU46は、素子温度Tinvが閾値β+2℃以下であるか否かを判定する。素子温度Tinvが閾値β+2℃以下でない場合(S67:NO)、ステップS66に戻る。素子温度Tinvが閾値β+2℃以下である場合(S67:YES)、ステップS68に進む。
【0079】
ステップS68において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を第1段階の出力(本実施形態では70%)に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を第1段階の出力に制限する(出力制限を40%から70%に緩和する。)。
【0080】
ステップS69において、統合ECU46は、素子温度Tinvが閾値β℃以下であるか否かを判定する。素子温度Tinvが閾値β℃以下でない場合(S69:NO)、ステップS68に戻る。素子温度Tinvが閾値β℃以上である場合(S69:YES)、ステップS70において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる出力削減インジケータを消灯させる。
【0081】
ステップS71において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を最大(=100%)にすることを許容する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力制限を停止する。
【0082】
なお、図13の処理をしている最中に、素子温度Tinvが閾値β℃に到達せずに上昇し始めた場合(例えば、車両10を停止した後、再度走行を開始した場合)、図13の処理を終了し、図12の処理を開始することができる。
【0083】
(3)低電圧バッテリ20の第2バッテリ電圧Vbat2を用いた制限
セーフモードでは、ダウンバータ22を非動作状態(オフ)とすることにより、高電圧バッテリ16からの電力が低電圧バッテリ20及び低電圧系部品群26に供給されなくなる。これにより、高電圧バッテリ16から低電圧バッテリ20を充電することができなくなる。また、低電圧系部品群26は、低電圧バッテリ20の電力のみにより駆動されることとなる。
【0084】
図16は、低電圧バッテリ20の電圧(第2バッテリ電圧Vbat2)を用いてモータ出力Pmを制限するフローチャートであり、図17は、モータ出力Pm、過熱インジケータ、車速V及び第2電圧バッテリ電圧Vbat2の関係の一例を示すタイミングチャートである。
【0085】
ステップS81において、統合ECU46は、モータECU58に対して、モータ12の出力制限を命令しない。その結果、モータ12の出力を最大(=100%)にすることが可能となる。ステップS82において、統合ECU46は、第2バッテリ電圧Vbat2が閾値ψ(プサイ)V以上であるか否かを判定する。閾値ψは、モータ12の出力制限のために設定された第2バッテリ電圧Vbat2の閾値である。本実施形態において、閾値ψは、コンタクタ28の閉状態を維持することができなくなる値C1より若干大きい値であり、統合ECU46、モータECU58及びバッテリECU68の最低動作保障電圧ζ(ゼータ)Vよりも高い値に設定される(ψ>ζ)。
【0086】
第2バッテリ電圧Vbat2が閾値ψV以上である場合(S82:YES)、ステップS81に戻る。第2バッテリ電圧Vbat2が閾値ψV以上でない場合(S82:NO)、ステップS83において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる過熱インジケータを点灯させる(図17の時点t21)。
【0087】
その後、期間P5の経過後に、ステップS84において、第2バッテリ電圧Vbat2が前記値C1以下となると、コンタクタ28が開となる。その結果、高電圧バッテリ16からモータ12への電力供給が停止されるため、モータ12の出力がゼロになる(時点t22)。その後、車両10は惰性で走行し、最終的に停止する(時点t23)。
【0088】
なお、閾値ψをより高い値に設定し、第2バッテリ電圧Vbat2が値C1より大きい場合であっても、モータ12の出力をゼロとすることも可能である。
【0089】
(4)高電圧バッテリ16のSOCを用いた制限
図18は、高電圧バッテリ16のSOC1を用いてモータ出力Pmを制限するフローチャートであり、図19は、モータ出力Pm、出力削減インジケータ、過熱インジケータ、車速V及びSOC1の関係の一例を示すタイミングチャートである。
【0090】
ステップS91において、運転者が電子キー112を操作することにより、イグニションをオンにする操作を行うと、統合ECU46は、キーレス信号受信部96を介してこれを検知する。
【0091】
ステップS92において、統合ECU46は、電圧センサ64が検出した高電圧バッテリ16の第1バッテリ電圧Vbat1に対応して算出されたSOC1が閾値σ(シグマ)%以上であるか否かを判定する。閾値σは、モータ12の出力制限のために設定されたSOC1の第1閾値である。SOC1が閾値σ%以上である場合(S92:YES)、ステップS101に進む。SOC1が閾値σ%以上でない場合(S92:NO)、ステップS93に進む。
【0092】
ステップS93において、統合ECU46は、SOC1が閾値ε(イプシロン)%以上であるか否かを判定する。閾値εは、モータ12の出力制限のために設定されたSOC1の第2閾値であり、閾値σよりも低い値に設定される(σ>ε)。SOC1が閾値ε%以上でない場合(S92:NO)、ステップS94において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる過熱インジケータを点灯させる。
【0093】
ステップS95において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力をゼロに制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力をゼロに制限し、車両10を停止させたままにする。ステップS96において、統合ECU46は、運転者によるイグニッションオンの操作にかかわらず、イグニッションオンを許可しない。ステップS97において、統合ECU46は、コンタクタ28のオフを維持する。その結果、高電圧バッテリ16からモータ12へと電力が供給されない。このため、ステップS98において、統合ECU46は、車両10を停止させたままとする。但し、統合ECU46は、電動パーキングブレーキ74を作動させず、車両10を手押し可能とする。
【0094】
ステップS93に戻り、SOC1が閾値ε%以上である場合(S93:YES)、ステップS99において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる出力削減インジケータを点灯させる。ステップS100において、統合ECU46は、所定期間P6を置いた後にモータECU58に対してモータ12の出力を30%に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を30%に制限する。
【0095】
ステップS101において、統合ECU46は、電子キー112を介してのユーザによる操作に対応してイグニッションオンを許可する。ステップS102において、統合ECU46は、コンタクタ28をオンする。
【0096】
ステップS103において、統合ECU46は、SOC1が閾値σ%以上であるか否かを判定する。SOC1が閾値σ以上である場合(S103:YES)、ステップS103を繰り返す。SOC1が閾値σ以上でない場合(S103:NO)、ステップS104において、統合ECU46は、SOC1が閾値ε%以上であるか否かを判定する。SOC1が閾値ε%以上である場合(S104:YES)、ステップS105において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる出力削減インジケータを点灯させる(図19の時点t31)。ステップS106において、統合ECU46は、所定期間P6を置いた後にモータECU58に対してモータ12の出力を30%に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を30%に制限する(時点t32)。ステップS106の後は、ステップS104に戻る。
【0097】
ステップS104において、SOC1が閾値ε%以上でない場合(S104:NO)、ステップS107において、統合ECU46は、メータ類108に含まれる過熱インジケータを点灯させる(時点t33)。ステップS108において、統合ECU46は、所定期間P7を置いた後にモータECU58に対してモータ12の出力を0%に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を0%に制限する(時点t34)。その後、車両10は惰性で走行しながら停止に向かい、最終的に、ステップS109において、車両10が停止する(時点t35)。但し、統合ECU46は、電動パーキングブレーキ74を作動させず、車両10を手押し可能とする。
【0098】
(5)タイマを用いた制限
図20は、タイマTMRを用いてモータ出力Pmを制限するフローチャートである。ステップS111において、電子キー112を介してのユーザの操作によりセーフモードが設定されると、統合ECU46が起動する。
【0099】
ステップS112において、統合ECU46は、イグニッションオンを許可するか否かを判定する。当該判定は、高電圧バッテリ16のSOC1、低電圧バッテリ20の第2バッテリ電圧Vbat2及び地絡、短絡等の発生に応じて行う。すなわち、SOC1が閾値σ2%(例えば、10%)以下であること、第2バッテリ電圧Vbat2が閾値ψ2V(例えば、8V)以下であること又は地絡若しくは短絡等の不具合が発生していることのいずれかの条件を満たす場合、統合ECU46は、イグニッションオンを許可しない。反対に、上記いずれの条件をも満たさない場合、統合ECU46は、イグニッションオンを許可する。
【0100】
統合ECU46がイグニッションオンを許可する場合(S112:YES)、ステップS113において、統合ECU46は、タイマTMRに初期値TMR1を設定してカウントを開始する。本実施形態のタイマTMRはカウントダウン式であるが、カウントアップ式としてもよい。
【0101】
ステップS114において、統合ECU46は、キーレス信号受信部96を介して電子キー112と通信し、電子キー112の図示しない表示部にセーフモードが設定されたことを表示させると共に、SOCインジケータ82を点滅させる。これにより、ユーザは、セーフモードが設定されたことを認識することが可能となる。
【0102】
ステップS115において、統合ECU46は、モータECU58を起動させる。ステップS116において、統合ECU46は、コンタクタ28をオンにする。これにより、高電圧バッテリ16の電力がダウンバータ22を介して低電圧系部品群26に供給される。
【0103】
ステップS117において、統合ECU46は、制御系統の各電気部品(図2)のうち車両10の通常走行に最低限必要な部位のみを作動させる。当該部品には、例えば、コンタクタ28、統合ECU46、モータECU58及びバッテリECU68が含まれる。
【0104】
ステップS118において、統合ECU46は、タイマTMRがゼロ以下になったか否かを判定する。タイマTMRがゼロ以下でない場合(S118:NO)、ステップS117に戻る。タイマTMRがゼロ以下である場合(S118:YES)、ステップS119において、統合ECU46は、モータECU58に対してモータ12の出力を0%に制限するよう要求する。これを受けたモータECU58は、モータ12の出力を0%に制限する。その後、車両10は惰性で走行しながら停止に向かい、最終的に、ステップS120において、車両10が停止する。車両10が停止すると、統合ECU46は、電動パーキングブレーキ74を作動させる。
【0105】
ステップS112に戻り、統合ECU46がイグニッションオンを許可しない場合(S112:NO)、ステップS121において、統合ECU46は、ドアロック98の解除を許可する。これにより、ユーザがドアロック98を操作した場合、ドアロック98が解除される。
【0106】
ステップS122において、統合ECU46は、電動パーキングブレーキ74を一旦オンにする。これにより、車両10は、手押しによる移動ができなくなる。ステップS123において、統合ECU46は、車両10を手押しするのに必要な部位の解除を許可する。当該部位は、例えば、電動パーキングブレーキ74が含まれる。従って、車両10に対して手押しによる一定以上の力が加わると、統合ECU46は、電動パーキングブレーキ74の解除等により車両10の手押しを可能にする。
【0107】
なお、本実施形態では、車両10の移動可能距離の制限方法として上述した方法、すなわち、モータ12の巻線温度Tmsを用いた方法(図8〜図11)、インバータ14の素子温度Tinvを用いた方法(図12〜図15)、低電圧バッテリ20の第2バッテリ電圧Vbat2を用いた方法(図16及び図17)、高電圧バッテリ16のSOC1を用いた方法(図18及び図19)並びにタイマTMRを用いた方向(図20)を組み合わせて用いることができる。
【0108】
4.本実施形態の効果
以上のように、本実施形態によれば、車両10の走行可能距離に制限を加える移動距離制限起動モード(セーフモード)をユーザの操作により設定することができる。これにより、例えば、車両10の所有者であるユーザは、車両10の盗難を防止しつつ、第三者に車両10の一時的な移動を許可することが可能となる。盗難を防止しつつ一時的な移動を許可する場合としては、例えば、車両10の所有者であるユーザが何らかの理由(例えば、充電中の買い物)で車両10から離れている状態で、当該車両10の一時的な移動(例えば、充電終了後、他の車両10の充電のための移動)を認める場合を挙げることができる。
【0109】
本実施形態では、セーフモードが選択された場合、ダウンバータ22が非動作状態となり、高電圧バッテリ16から低電圧バス34及び低電圧バッテリ20への電力供給が停止される。これにより、低電圧バス34における電力は限定されるため、動作中の低電圧系部品群26(例えば、統合ECU46、モータECU58、バッテリECU68)での電力消費により低電圧バッテリ20の電力は徐々に低下する。その結果、高電圧バッテリ16と高電圧バス30との間のコンタクタ28(低電圧系部品群26に含まれる。)が開となり、高電圧バッテリ16から走行用のモータ12への電力供給が停止され、車両10は走行を停止する(図16及び図17)。ここで、高電圧バッテリ16から低電圧バッテリ20への電力供給が停止されているため、コンタクタ28を再度閉にすることはできず、車両10の移動可能範囲を確実に制限することが可能となる。
【0110】
本実施形態では、セーフモードが選択された場合、モータ12及びインバータ14用の冷媒を循環させるウォータポンプ86が非動作状態となり、モータ12及びインバータ14の冷却が停止され、モータ12の巻線温度Tms及びインバータ14の素子温度Tinvが通常よりも上昇する。ここで、巻線温度Tmsが閾値α+1℃以上となった場合又は素子温度Tinvが閾値β+1℃以上となった2を上回った場合、車両10を停止に向けて制御する(図8、図10、図11、図12、図14及び図15)。このため、低電圧バッテリ20に電力を残した状態で車両10を停止に向かわせることが可能となる。従って、その後、車両10の所有者であるユーザが電子キー112を操作して通常起動モードに戻した場合、低電圧バッテリ20から低電圧系部品群26への電力供給が可能となり、車両10を再始動させることができる。
【0111】
B.変形例
なお、この発明は、上記実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0112】
1.車両10
上記実施形態では、車両10は、モータ12の駆動源として高電圧バッテリ16を有する電動車両であったが、通常起動モードと移動距離制限起動モードを有するものであれば、これに限らない。例えば、モータ12の駆動源として、高電圧バッテリ16に加え、内燃機関を有する電動車両(ハイブリッド車両)又は燃料電池を有する電動車両(燃料電池車両)であってもよい。或いは、高電圧バッテリ16を有さないガソリンエンジン車又はディーゼルエンジン車であってもよい。
【0113】
2.高電圧バッテリ16及び低電圧バッテリ20
上記実施形態では、高電圧バッテリ16としてリチウムイオン電池を用いたが、これに限らない。例えば、高電圧バッテリ16はキャパシタであってもよい。上記実施形態では、低電圧バッテリ20として鉛蓄電池である12Vバッテリを用いたが、これに限らない。例えば、アルカリ蓄電池であってもよい。
【0114】
3.第1電気部品
上記実施形態では、通常起動モード及びセーフモードの両方で動作状態とされる第1電気部品として、例えば、統合ECU46、モータECU58(及びインバータ14)、バッテリECU68、コンタクタ28を有したが、これに限らない。例えば、第2電気部品としてのダウンバータ22、冷却ファン66及びウォータポンプ86の少なくとも1つを第1電気部品としてセーフモードで動作状態としてもよい。
【0115】
4.第2電気部品
上記実施形態では、通常起動モードでは動作状態とされる一方、セーフモードでは非動作状態とされることで車両10の移動可能距離を制限するものとして、例えば、ダウンバータ22、冷却ファン66及びウォータポンプ86を有したが、これに限らない。例えば、ダウンバータ22、冷却ファン66及びウォータポンプ86のいずれか1つ又は2つのみを第2電気部品としてセーフモードで非動作状態としてもよい。
【0116】
5.移動可能距離の制限方法(セーフモード)
上記実施形態では、セーフモードの設定を電子キー112を介してのユーザの操作によって行ったがこれに限らない。例えば、車両10専用の電子キー112としてではなく、移動携帯端末を用いてセーフモードを設定することもできる。この場合、当該移動携帯端末と車両10の通信機器(例えば、ナビゲーション装置102)との間で通信を行うことができる。或いは、車両10側にシリンダ錠を設け、セーフモードの選択位置でシリンダキーを抜くと、セーフモードになるようにすることもできる。或いは、セーフモードの設定をユーザの操作によってではなく、車両10側で(例えば、統合ECU46により)自動的に行うこともできる。そのような場合としては、例えば、車両10が外部充電器を用いて充電を完了した場合を挙げることができる。
【0117】
上記実施形態では、車両10の移動可能距離の制限方法として、モータ12の巻線温度Tmsを用いた方法(図8〜図11)、インバータ14の素子温度Tinvを用いた方法(図12〜図15)、低電圧バッテリ20の第2バッテリ電圧Vbat2を用いた方法(図16及び図17)、高電圧バッテリ16のSOC1を用いた方法(図18及び図19)並びにタイマTMRを用いた方向(図20)を用いたが、これに限らない。例えば、上記各方法の一部を除いてもよい。或いは、低電圧バッテリ20のSOC又は高電圧バッテリ16の第1バッテリ電圧Vbat1を用いることもできる。或いは、セーフモードを設定した地点からの車両10の移動距離を測定し、当該移動距離に基づいて制限をかけることもできる。車両10の移動距離の測定は、例えば、走行距離計の検出値又はナビゲーション装置102が検出した位置情報を用いることができる。或いは、特許文献2のように、外部から盗難車両情報を受信したときに移動可能距離を制限してもよい。
【符号の説明】
【0118】
10…電動車両 12…走行用のモータ(電動機)
14…インバータ(第2電気部品、電動機用の電力変換器)
16…高電圧バッテリ(第1蓄電装置)
20…低電圧バッテリ(第2蓄電装置) 22…ダウンバータ(第2電気部品)
28…コンタクタ(第1電気部品、開閉器)
30…高電圧バス 34…低電圧バス
46…統合ECU(第1電気部品、モード切替装置、第2走行制御装置)
58…モータECU(第1電気部品、走行制御装置)
66…冷却ファン(第2電気部品) 68…バッテリECU(第1電気部品)
86…電動ウォータポンプ(第2電気部品、冷媒循環ポンプ)
112…電子キー(キー装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の電動機と、前記電動機に電力を供給する第1蓄電装置と、前記第1蓄電装置よりも低電圧の第2蓄電装置とを有する電動車両であって、さらに、
前記第2蓄電装置から電力供給を受けると共に、非動作状態である場合、前記電動車両が走行不能となる第1電気部品と、
前記第2蓄電装置から電力供給を受けると共に、非動作状態である場合、前記電動車両は走行可能であるが、動作状態である場合に比べて前記電動車両の走行可能距離が短くなる第2電気部品と、
ユーザの操作により前記第1電気部品及び前記第2電気部品の起動モードを設定するキー装置と、
前記第1電気部品及び前記第2電気部品を動作状態にする通常起動モードと、前記第1電気部品を動作状態とし前記第2電気部品を非動作状態とする移動距離制限起動モードとを、前記キー装置から出力される起動信号に応じて切り替える起動モード切替装置と
を備えることを特徴とする電動車両。
【請求項2】
請求項1記載の電動車両において、
前記第2電気部品は、前記第1蓄電装置が接続される高電圧バスと前記第2蓄電装置が接続される低電圧バスとの間に接続され、前記高電圧バスに供給される電力を前記低電圧バスに供給する電圧変換装置を含み、
前記第1電気部品は、前記電動車両の走行を制御する走行制御装置と、前記第1蓄電装置と前記高電圧バスとの間に配設された開閉器とを少なくとも含み、
前記開閉器は、前記第2蓄電装置から前記開閉器への電力供給が不足する状態で開となり、
前記開閉器が開となる電圧は、前記走行制御装置が停止する電圧よりも大きい
ことを特徴とする電動車両。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電動車両において、
前記第2電気部品は、前記電動機及び前記電動機用の電力変換器の少なくとも一方を冷却する冷媒を循環させる冷媒循環ポンプを含み、
前記第1電気部品は、前記電動機又は前記電力変換器の温度が閾値を上回った場合、前記電動車両を停止に向けて制御する第2走行制御装置を含む
ことを特徴とする電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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