説明

電圧制御発振器

【課題】構造が簡単で制御電源が不要な電圧制御発振器を提供する。
【解決手段】本発明の電圧制御発振器は、抵抗スイッチング素子11と、抵抗スイッチング素子11に直列接続された抵抗12とを含む回路を備える。そして、その回路に直流電圧が印加される。抵抗スイッチング素子11の好ましい一例は、二酸化バナジウム結晶の薄膜11bを用いて構成された抵抗スイッチング素子である。二酸化バナジウム結晶の薄膜11bの厚さは、たとえば2μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧制御発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
制御電圧によって発振周波数を制御する電圧制御発振器(VCO)は、従来から研究・提案されてきた(たとえば特許文献1)。これらは、すでに市販されており、マイクロ波送受信器などの無線装置など、様々な分野で利用されている。
【特許文献1】特開平10−290116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来から提案されている電圧制御発振器は、トランジスタやコンデンサなどの多数の素子を用いて構成されている。また、従来の電圧制御発振器では、駆動電源の他に、周波数を制御するための制御電源を必要としていた。
【0004】
このような状況において、本発明は、構造が簡単で制御電源が不要な、新規な電圧制御発振器を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために検討した結果、発明者らは、抵抗スイッチング素子を用いることによって電圧制御発振器を構成できることを見出した。本発明は、この新規な知見に基づく発明である。
【0006】
すなわち、本発明の電圧制御発振器は、抵抗スイッチング素子と、前記抵抗スイッチング素子に直列接続された抵抗とを含む回路を備え、前記回路に直流電圧が印加される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電圧制御発振器は、回路要素の数が少なく、また、駆動するための電源が1系統でよい。そのため、本発明の電圧制御発振器は、市販されている電圧制御発振器と比較して、構成が非常に簡単である。また、本発明の電圧制御発振器は、振動電圧の振幅を大きくすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態および実施例に限定されない。以下の説明では、特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
【0009】
[電圧制御発振器]
本発明の電圧制御発振器は、抵抗スイッチング素子と、抵抗スイッチング素子に直列接続された抵抗とを含む回路を備え、その回路に直流電圧が印加される。
【0010】
抵抗スイッチング素子は、電界(電圧)の印加によって相転移が生じ、それに伴って不連続な抵抗変化を示す素子である。抵抗スイッチング素子の抵抗変化の一例を、図1に模式的に示す。なお、本発明で用いられる抵抗スイッチング素子は、相転移によって抵抗変化が生じる素子である。抵抗ランダムアクセスメモリ(RRAM)などでは、抵抗スイッチング特性を示す素子として、酸化物薄膜の酸化/還元反応に由来する抵抗スイッチング特性を示す素子が用いられているが、本発明で用いられる抵抗スイッチング素子とは異なる。
【0011】
抵抗スイッチング素子に電圧が印加されていない状態では、素子は高抵抗状態にある。その状態から印加電圧を上昇させて印加電圧の絶対値がVHmaxに到達すると、素子の抵抗が不連続に変化し、素子は低抵抗状態になる。低抵抗状態には、印加電圧の下限値VLminが存在する。印加電圧の絶対値が下限値VLminよりも小さい場合、素子は高抵抗状態となる。
【0012】
抵抗スイッチング素子は、電界誘起抵抗スイッチング特性を示す結晶に電極を接続することによって形成できる。そのような結晶としては、たとえば、二酸化バナジウム(VO2)、Pr0.5Ca0.5MnO3、チタンマグネリ相化合物Tin2n-1(n=2〜10)といった結晶が挙げられる。
【0013】
抵抗スイッチング特性を示す結晶は、薄膜であることが好ましい。抵抗スイッチング特性を示す結晶では、相転移によってその抵抗が変化する。しかし、厚いバルク結晶では自由な相転移が阻害されるため、厚いバルク結晶は明確なスイッチング特性を示さない。そのため、抵抗スイッチング特性を示す結晶は、厚さが2μm以下の薄膜であることが好ましい。その薄膜の厚さは、1μm以下であってもよい。また、その厚さは、0.01μm以上であってもよく、0.1μm以上であってもよい。その厚さは、一例では、0.1μm以上2μm以下である。
【0014】
抵抗スイッチング素子に直列接続される抵抗の抵抗値Rserを変化させることによって、発振周波数と、発振が開始する駆動電圧とを変化させることが可能である。そのため、抵抗値Rserは、抵抗スイッチング素子の特性、および望まれる発振器の特性に応じて選択される。抵抗には、市販の抵抗を用いてもよい。また、公知の半導体素子製造プロセスを用いて、抵抗スイッチング素子と同一基板上にモノリシックに抵抗素子を形成してもよい。
【0015】
本発明の電圧制御発振器では、抵抗スイッチング素子が、抵抗スイッチング特性を示す薄膜を含み、その薄膜が二酸化バナジウムの結晶からなることが好ましい。また、その薄膜の厚さが2μm以下であることが好ましい。二酸化バナジウムの結晶薄膜は、優れた抵抗スイッチング特性を示すため、それを用いることによって、優れた特性の電圧制御発振器が得られる。
【0016】
二酸化バナジウム結晶の薄膜の厚さは、1μm以下であってもよい。また、その厚さは、0.01μm以上であってもよく、0.1μm以上であってもよい。その厚さは、一例では、0.1μm以上2μm以下である。
【0017】
抵抗スイッチング素子のサイズに特に限定はなく、たとえば100μm角以下のサイズにすることが可能である。
【0018】
過去において、二酸化バナジウムの単結晶に直列抵抗を接続した回路に、直流電圧を印加すると、二酸化バナジウムの電圧が振動することが報告されている(Y.Taketaら、Appl. Phys. Lett.、27、PP.212〜214、1975年。および、B.Fisher、J. Appl. Phys.49(10)、pp.5339〜5341、1978年)。しかし、Y.Taketaらの文献では、幅1mm、長さ2mm、厚さ1mmのバルクの二酸化バナジウム単結晶が用いられた。また、B.Fisherの文献では、針状の二酸化バナジウム単結晶が用いられた。これらバルクの結晶は、電圧の印加によって抵抗が徐々に変化し、明確なスイッチング特性を示さない。それは、バルクの結晶では、自由な格子変形が阻害されるためであると考えられる。そのため、上記文献では、印加電圧に対する電圧振動の振幅が非常に小さかった。たとえば、Y.Taketaらの文献では、17ボルトの電源電圧に対し、電圧振動の振幅は約2ボルトであった。また、振動周波数も約0.9kHzと低かった。また、B.Fisherの文献では、5ボルトの電源電圧に対し、電圧振動の振幅は約0.4ボルトであり、振動周波数は約5kHzであった。
【0019】
これに対し、本件発明者は、二酸化バナジウムの結晶薄膜が非常に明確な抵抗スイッチング特性を示し、それを用いた電圧制御発振器が非常に良好な特性を示すことを見出した。その詳細については、実施例に示す。
【0020】
抵抗スイッチング特性を示す結晶(たとえば、二酸化バナジウムの結晶)は、気相成膜法によって形成できる。気相成膜法の好ましい一例は、パルスレーザー堆積法である。なお、結晶を堆積させる基板には、少なくとも表面が絶縁性である基板が用いられる。基板の一例は、サファイア基板(Al23基板)である。
【0021】
本発明の電圧制御発振器では、通常、回路に印加される直流電圧の絶対値Vappl(V)が以下の式を満たす。
【0022】
【数2】

[式中、Rserは、抵抗スイッチング素子に直列接続される抵抗の抵抗値(Ω)を示す。RjHは、抵抗スイッチング素子が高抵抗状態にあるときの抵抗値(Ω)を示す。VHmaxは、抵抗スイッチング素子が高抵抗状態から低抵抗状態に変化するときの電圧の絶対値(V)を示す。]
【0023】
直流電圧の絶対値Vappl(V)が上記式(1)の右辺に等しいとき、発振が開始される。
【0024】
[実施形態1]
本発明の電圧制御発振器の一例について、構成を図2に模式的に示す。図2の発振器10は、抵抗スイッチング素子11と、抵抗12と、それらに電圧を印加する直流電源13とを備える。抵抗スイッチング素子11は、サファイア基板11aと、サファイア基板11a上に形成された二酸化バナジウム結晶の薄膜11bとを含む。薄膜11b上には2つの電極端子が形成されており、一方は直流電源13に接続され、他方は抵抗12に接続されている。なお、本発明の効果が得られる限り、本発明の電圧制御発振器は、他の回路素子を含んでもよい。
【0025】
抵抗スイッチング素子11は、サファイア基板11a上に、薄膜11bと2つの電極端子とを形成することによって作製できる。
【0026】
発振器10における発振について、推測される過程を図3に示す。まず、直流電源13を用いて所定の電圧を回路に印加することによって、抵抗スイッチング素子11にVHmaxを超える電圧が印加される(S1)。すると、抵抗スイッチング素子11が、低抵抗状態に転移する(S2)。すると、抵抗12に印加される電圧が、瞬間的に増大する(S3)。このとき抵抗12には分極が発生している。抵抗12の誘電率は低いので、回路を流れる電流が増加するよりも速く抵抗12における分極が緩和し、抵抗12に印加される電圧がS2の前段階における値に戻る(S4)。すると、抵抗スイッチング素子11に印加される電圧が再び増大する(S5)。その結果、抵抗スイッチング素子11にVHmaxを超える電圧が印加される(S1)。このようにして、S1〜S5が繰り返されることによって発振が生じると考えられる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0028】
[抵抗スイッチング素子の作製および評価]
まず、サファイア単結晶基板の(0001)面上に、二酸化バナジウム結晶の薄膜(厚さ:220nm)を形成した。二酸化バナジウム結晶の薄膜は、パルスレーザー堆積法によって形成した。具体的には、圧力2.66Pa(20mTorr)の酸素ガス雰囲気中、金属バナジウム多結晶のターゲットをKrFエキシマレーザーでアブレーションし、500℃に加熱した基板に堆積させることによって、二酸化バナジウム結晶の薄膜を形成した。
【0029】
次に、フォトリソ・エッチング工程によって、二酸化バナジウム薄膜を幅10μmで長さ400μmの形状に加工した。次に、二酸化バナジウム薄膜の長手方向に直交するように薄膜をまたぐ電極端子を2つ形成した。2つの電極端子の間隔は、10μmとした。このようにして、素子サイズが10μm×10μmである抵抗スイッチング素子を作製した。
【0030】
作製した抵抗スイッチング素子の電流−電圧特性を、大気中、室温において2端子法によって測定した。測定結果を図4に示す。図4に示すように、二酸化バナジウム結晶の薄膜を用いた抵抗スイッチング素子は、高抵抗状態と低抵抗状態との間で急峻なスイッチング特性を示した。
【0031】
[電圧制御発振器の作製および評価]
次に、作製した抵抗スイッチング素子を用いて、図2に示した構成の電圧制御発振器を作製した。抵抗12には、3.5kΩの抵抗を用いた。直流電源13の出力電圧(電源電圧)を、9V、9.4Vおよび9.8Vに変化させたときの、抵抗スイッチング素子の両端の電圧変化を図5に示す。なお、図5(a)では、波形を見やすくするために、波形をなぞる白線を付している。
【0032】
図5に示すように、抵抗スイッチング素子の両端では、電圧の発振が観察された。電圧振動の発振周波数は、電源電圧によって変化した。また、電圧は、約0.7Vと約6.7Vとの間で振動した。これらの電圧は、コンピュータの論理演算の”0”と”1”とに直接対応させることが可能な電圧であり、応用に有利である。なお、作製した発振器の電圧振動の振幅は約6Vであったが、振幅は、抵抗スイッチング素子のサイズを変化させることによって制御できると考えられる。
【0033】
次に、直流電源の出力電圧を変化させて、電源電圧と発振周波数との関係について測定した。測定結果を図6に示す。図6に示すように、電源電圧が大きくなるにつれて、発振周波数は、130kHzから400kHzに変化した。発振周波数は、100kHz以上と非常に高かった。
【0034】
次に、電源電圧と抵抗12の抵抗値とを変化させて、抵抗12の抵抗値と、発振が開始する電源電圧との関係について測定を行った。また、抵抗12の抵抗値と、発振が消滅する電源電圧との関係について測定を行った。測定結果を図7に示す。図7に示すように、発振が開始する電源電圧が抵抗12の抵抗値の一次関数であるような結果が得られた。同様に、発振が消滅する電源電圧が抵抗12の抵抗値の一次関数であるような結果が得られた。なお、図7では、発振領域にハッチングを付して示す。
【0035】
発振が開始する発振開始電圧は、上記式(1)の右辺で表される。発振開始電圧の計算値は、図7に示すように実験結果とよい一致を示した。
【0036】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態および実施例の説明に限定されず、本発明の技術的思想に基づいて他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、電圧制御発振器に利用できる。この電圧制御発振器は、携帯端末のクロックや、様々な周波数を同時に出力する集積型発振器など、様々な分野に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】抵抗スイッチング素子の電流−電圧特性の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の電圧制御発振器について、一例の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の電圧制御発振器について、推測される動作原理を示すフローチャートである。
【図4】実施例で作製した抵抗スイッチング素子の電流−電圧特性を示すグラフである。
【図5】実施例で作製した電圧制御発振器の特性を示す図である。
【図6】実施例で作製した電圧制御発振器について、電源電圧と発振周波数との関係を示すグラフである。
【図7】実施例で作製した電圧制御発振器について、発振領域を示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
10 発振器
11 抵抗スイッチング素子
11a サファイア基板
11b 薄膜
12 抵抗
13 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗スイッチング素子と、前記抵抗スイッチング素子に直列接続された抵抗とを含む回路を備え、
前記回路に直流電圧が印加される電圧制御発振器。
【請求項2】
前記抵抗スイッチング素子が、抵抗スイッチング特性を示す薄膜を含み、
前記薄膜が二酸化バナジウムの結晶からなり、
前記薄膜の厚さが2μm以下である請求項1に記載の電圧制御発振器。
【請求項3】
前記結晶が、気相成膜法によって形成された結晶である請求項2に記載の電圧制御発振器。
【請求項4】
前記直流電圧の絶対値Vappl(V)が以下の式(1)を満たす請求項1〜3のいずれか1項に記載の電圧制御発振器。
【数1】

[式中、Rserは、前記抵抗の抵抗値(Ω)を示す。RjHは、前記抵抗スイッチング素子が高抵抗状態にあるときの抵抗値(Ω)を示す。VHmaxは、前記抵抗スイッチング素子が高抵抗状態から低抵抗状態に変化するときの電圧の絶対値(V)を示す。]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−55570(P2009−55570A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222930(P2007−222930)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)