説明

電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置

【課題】 環境電位安定性、残留電位などの電子写真特性が非常に良好であり、また、繰り返し使用時にも安定した性能を発揮することができる電子写真感光体を提供する。
【解決手段】 支持体上に中間層および感光層をこの順に有する電子写真感光体において、該中間層が非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質の重合物を含有し、該非加水分解性重合性官能基が非加水分解性の縮重合性官能基であり、該非加水分解性の縮重合性官能基がアミノ基またはアルデヒド基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置に関し、詳しくは、支持体上に中間層および感光層をこの順に有する電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体には、支持体上の欠陥の被覆、感光層と支持体との接着性向上、感光層の電気的破壊防止、支持体から感光層へのキャリア注入阻止などのために、中間層と呼ばれる層(下引き層と呼ばれることもある)を介在させることが行われている。
【0003】
現在、一般的に使用されている、負帯電型の電子写真感光体の場合、その中間層は、残留電荷の上昇防止、表面電位のサイクルアップ防止などを考慮に入れると、感光層から支持体へのキャリア(電子)注入性向上が必要である。そのため電子輸送性の材料(電子輸送物質)を用いることが好ましく、例えば、特開平5−27469号公報(特許文献1)、特開平9−319128号公報(特許文献2)、特開2000−321805号公報(特許文献3)などには、中間層に電子受容性物質を含有させることが記載されている。この目的に電子輸送物質を使用する場合、例えば、中間層に使用する場合には、中間層塗布形成時には塗布溶剤に溶解し、中間層上にさらに感光層を塗布によって形成する際には、上層である感光層の形成に用いる塗布液の溶剤に対して不溶性であることが必要である。しかしながら、前述公報に記載の材料を用いてこの要求を満たすことは困難であり、上層の塗布による形成時に電子輸送物質が溶解し、中間層がはがれる、クラックなどが生じる、溶出により十分な電子輸送性が保持できないなどの問題があった。
【特許文献1】特開平5−27469号公報
【特許文献2】特開平9−319128号公報
【特許文献3】特開2000−321805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この点の改善を目的として、例えば、特開平11−119458号公報には、アルコキシシリル基を有する電子輸送物質を中間層に用いることが記載されている。しかし、加水分解性を有する基が存在すると、電子写真特性が温湿度の影響を受けやすく、また感光体塗工液の劣化による塗工性の悪化や、それに伴う画像欠陥が生じるなどの問題があった。
【0005】
本発明は、従来技術における上記問題点を解決するために成されたものである。
【0006】
つまり、第一に、残留電位が小さく、繰り返し使用時における電位変動が極めて小さい電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することにある。
【0007】
また、第二に、電子写真特性に温湿度の影響が小さく、また、感光体塗工液の劣化による画像欠陥の発生を防止した電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、非加水分解性の重合性官能基を有する電子輸送物質を含有する中間層を有する電子写真感光体が上記課題を解決するものであることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、支持体上に中間層および感光層をこの順に有する電子写真感光体において、該中間層が非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質を含有することを特徴とする電子写真感光体である。
【0010】
また、本発明は、上記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子写真感光体は、環境電位安定性、残留電位などの電子写真特性が非常に良好であり、また、繰り返し使用時にも安定した性能を発揮することができる。
【0012】
また、該電子写真感光体の効果は、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置においても発揮され、欠陥のない高画質画像を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の電子写真感光体について詳細に説明する。
【0014】
本発明の電子写真感光体の支持体としては、導電性を有するものであればよく、例えば、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、亜鉛およびステンレスなどの金属や合金をドラムまたはシート状に成形したもの、アルミニウムおよび銅などの金属箔をプラスチックフィルムにラミネートしたもの、アルミニウム、酸化インジウムおよび酸化錫などをプラスチックフィルムに蒸着したもの、導電性物質を単独または結着樹脂とともに塗布して導電層を設けた金属、また、プラスチックフィルムおよび紙などが挙げられる。
【0015】
本発明の電子写真感光体の中間層は、アルコキシシリル基などの加水分解性重合基ではない非加水分解性の重合性官能基を有する電子輸送物質を含有する。
【0016】
上記中間層は、上記電子輸送物質を含有する溶液を塗布し、常温乾燥または加温乾燥、もしくは熱/電磁波などにより、重合/架橋させることによって形成する。
【0017】
上記非加水分解性の重合性官能基としては、例えば、環状エーテル基、アセチレン基、炭素−炭素二重結合基であるビニル基、ビリニデン基などの付加重合性官能基や、または、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、カルボン酸クロリド基などの縮重合性官能基が挙げられる。
【0018】
これらの中で、付加重合性官能基の中でも、ビニル基、ビリニデン基を有している官能基であるアクリロイル基、メタクリロイル基、スチレン基がより好ましく、環状エーテル基の中でもエポキシ基が望ましい。また、縮重合性官能基の中でも、水酸基、アミノ基、カルボキシル基がより好ましい。
【0019】
1分子中に、この重合性官能基が2つ以上ある場合は、すべて同一でもあってもよく、また、互いに異なっていてもよい。
【0020】
また、上記電子輸送物質の中でも、下記式(A−1)〜(A−11)からなる群より選択される電子輸送物質が好ましい。
【0021】
【化1】

【0022】
上記式中、R11と、R21およびR22の少なくとも一方と、R31およびR32の少なくとも一方と、R41およびR42の少なくとも一方と、R51およびR52の少なくとも一方と、R61およびR62の少なくとも一方と、R71およびR72の少なくとも一方と、R81およびR82の少なくとも一方と、R91およびR92の少なくとも一方と、R101およびR102の少なくとも一方と、R111、R112およびR113の少なくとも1つは、非加水分解性重合性官能基を有する基である。そして、その中で、R11、R21、R22、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82、R91、R92、R101、R111は、水素原子や、置換基を有してもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基や、置換基を有してもよい、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルフリル基、チエニル基などのアラルキル基や、置換基を有してもよい、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、チオフェニル基、フリル基、ピリジル基、キノリル基、ベンゾキノリル基、カルバゾリル基、フェノチアジニル基、ベンゾフリル基、ベンゾチオフェニル基などのアリール基や、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基や、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基や、アシル基や、エステル基や、シアノ基や、ニトロ基や、アミド基や、スルホン酸基や、スルホン酸エステル基や、スルホン酸アミド基や、ヒドロキシ基や、アルデヒド基や、ハロゲン原子を示し、R102、R112、R113は、置換基を有してもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基や、置換基を有してもよい、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルフリル基、チエニル基などのアラルキル基や、置換基を有してもよい、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、チオフェニル基、フリル基、ピリジル基、キノリル基、ベンゾキノリル基、カルバゾリル基、フェノチアジニル基、ベンゾフリル基、およびベンゾチオフェニル基などのアリール基や、エステル基を示す。
【0023】
また、上記式中、m1、m2、n2、m3、n3、m4、n4、m5、n5、m6、n6、m7、n7、m8、n8、m9、n9、m10、m11は、0以上の整数である。
【0024】
また、上記式中、m1、m2、m3、m4、m5、m6、m7、m8、m9、m10、m11が2以上のとき、それぞれ、R11、R21、R31、R41、R51、R61、R71、R81、R91、R101、R111は、互いに異なる基であってもよい。
【0025】
また、上記式中、n2、n3、n4、n5、n6、n7、n8、n9が2以上のとき、それぞれ、R22、R32、R42、R52、R62、R72、R82、R92は、互いに異なる基であってもよい。
【0026】
なお、m2とn2が、m3とn3が、m4とn4が、m5とn5が、m6とn6が、m7とn7が、m8とn8が、m9とn9が、それぞれ同時に0になることはない。
【0027】
また、上記式中、Q11、Q12、Q21、Q22、Q31、Q32、Q41、Q51、Q61、Q71、Q72、Q81、Q82、Q91、Q92、Q101、Q102、Q111、Q112、Q113、Q114は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、C(CN)、CRQ1CN、CY(Yはフッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子)、C(COORQ2、CRQ3COORQ4、NRQ5、および、NCNのいずれかである。
【0028】
また、上記式中、RQ1、RQ2、RQ3、RQ4、RQ5は、それぞれ独立に、水素原子や、置換基を有してもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基や、置換基を有してもよい、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルフリル基、チエニル基などのアラルキル基や、置換基を有してもよい、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、チオフェニル基、フリル基、ピリジル基、キノリル基、ベンゾキノリル基、カルバゾリル基、フェノチアジニル基、ベンゾフリル基、ベンゾチオフェニル基などのアリール基を示す。
【0029】
また、上記式中、Q42は酸素原子、硫黄原子およびSOのいずれかである。
【0030】
また、上記式中、A、A、B、A、B、A、A、B、A、B
【0031】
【化2】

【0032】
は、置換基を有してもよい、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、チオフェン環、フラン環、ピリジン環などのアリール環である。
【0033】
なお、R11、R21、R22、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82、R91、R92、R101、R102、R111、R112、R113、Q11、Q12、Q21、Q22、Q31、Q32、Q41、Q51、Q61、Q71、Q72、Q81、Q82、Q91、Q92、Q101、Q102、Q111、Q112、Q113、Q114、RQ1、RQ2、RQ3、RQ4、RQ5、A、A、B、A、B、A、A、B、A、Bが有してもよい置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子や、ニトロ基や、シアノ基や、水酸基や、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基や、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基などのアルコキシ基や、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基や、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルフリル基、チエニル基などのアラルキル基や、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、ピレニル基などのアリール基などが挙げられる。
【0034】
また、上記表現のアルキル基は、炭素数10以下のアルキル基であることが好ましい。
【0035】
また、この非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質は、還元電位(電子親和力Eaに対応する)が、参照電極SCE(SCE:飽和カルメロ電極)の電位に対して、−0.2Vから−1.2Vの範囲にあることが好ましい。−0.3Vから−1.0Vの範囲にあることがより好ましい。−1.0Vを越えると、電荷発生物質からの電荷(電子)の注入が起こりにくくなって、残留電位の上昇、感度悪化および繰り返し使用時の電位変動が大きくなるなどの問題が生じる場合があり、また、−0.3V未満であると、帯電能低下などの問題が生じる場合がある。
【0036】
なお、本発明において、還元電位は、以下の方法によって測定される。
【0037】
(還元電位の測定法)
飽和カロメル電極を参照電極とし、電解液に0.1N(n−Bu)N+ClO−ジクロロメタン溶液を用い、ポテンシャルスイーパによって作用電極(白金)に印加する電位をスイープし、得られた電流−電位曲線がピークを示したときの電位を酸化電位とした。
【0038】
詳しくは、サンプルを0.1N(n−Bu)N+ClO−ジクロロメタン溶液に1mmol%程度の濃度になるように溶解する。そして、このサンプル溶液に作用電極によって電圧を加え、電圧を0Vから−1.5Vに直線的に変化させ(この電流―電位曲線において電流値がピークを示したピークトップの位置の電位をE1)、さらに、−1.5Vから0Vに直線的に変化させたときの電流変化を測定し(この電流―電位曲線において電流値がピークを示したピークトップの位置の電位をE2)、電流−電位曲線を得る。この得られた(E1+E2)/2をここでの還元電位とした。
【0039】
またさらに、上記非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質は、その電子輸送能として、1×10−7cm/V・s以上のドリフト移動度を有しているものが好ましい(ただし、印加電界:5×10V/cm)。1×10−7cm/V・s未満では、電子写真感光体として露光後現像までに電子が十分に移動できないことがあり、見かけ上感度が低減し、残留電位も高くなってしまう問題が発生する場合がある。
【0040】
以下に、本発明の非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質の代表例を挙げるが、本発明は、これらに限定されるものではない(化合物No.の下の数字は各化合物例の還元電位(−V)である)。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
なお、これらの中でも化合物1、4、5、9、12、14、17、18、19、20、22、23、25、26、28、30、31、34、35、38、39、41、42、58、60が好ましく、さらには、1、9、17、19、20、25、26、28、34、38、39、58、60がより好ましい。
【0045】
本発明の電子写真感光体の中間層は、非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質を1種もしくは2種以上有してもよい。また、非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質以外に、電子輸送物質の非加水分解性重合性官能基と架橋可能な官能基を有する化合物を混合して用いてもよく、その場合、非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質と、電子輸送物質の非加水分解性重合性官能基と架橋可能な官能基を有する化合物との中間層中の含有比率は、質量比で9/1〜1/9が好ましく、さらには、7/3〜3/7がより好ましい。
【0046】
また、その他にも中間層として公知の材料と混合して用いてもよい。その例としては、ポリビニルアルコール、ポリ−N−ビニルイミダゾール、ポリエチレンオキシド、エチルセルロース、エチレン−アクリル酸共重合体、カゼイン、ポリアミド、N−メトキシメチル化6ナイロン、共重合ナイロン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタールなどの樹脂が挙げられる。
【0047】
また、中間層の膜厚は、0.1〜15μmが好ましく、0.4〜10μmがより好ましい。
【0048】
本発明の感光体の感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層および電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を積層した構成(機能分離型、積層型)、また、電荷発生物質と電荷輸送物質を同一層中に分散した単層からなる構成(単層型)のいずれの構成をとることも可能である。
【0049】
これら構成の中でも、電荷発生層および電荷輸送層をこの順に積層した構成の積層型感光層が電子写真特性的に好ましく、以下、この構成の場合を例にとり説明する。
【0050】
電荷発生層に用いる電荷発生物質としては、セレン−テルル、ピリリウム、チアピリリウム系染料、また、各種の中心金属および結晶系、具体的には例えば、α、β、γ、εおよびX型などの結晶型を有するフタロシアニン化合物、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、トリスアゾ顔料、ジスアゾ顔料、モノアゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、非対称キノシアニン顔料、キノシアニンおよびアモルファスシリコンなどが挙げられる。
【0051】
電荷発生層は、上記電荷発生物質を0.3〜4倍量の結着樹脂および溶剤とともにホモジナイザー、超音波分散、ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、アトライターおよびロールミルなどの方法でよく分散し、分散液を塗布し、乾燥されて形成されるか、または前記電荷発生物質の蒸着膜など、単独組成の膜として形成される。
【0052】
電荷発生層の膜厚は、5μm以下であることが好ましく、特に0.1〜2μmの範囲であることがより好ましい。
【0053】
結着樹脂を用いる場合、その樹脂の例としては、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレンなどのビニル化合物の重合体および共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0054】
電荷輸送層は、主鎖または側鎖にビフェニレン、アントラセン、ピレン及びフェナントレンなどの構造を有する多環芳香族化合物;インドール、カルバゾール、オキサジアゾール及びピラゾリンなどの含窒素環化合物;ヒドラゾン化合物及びスチリル化合物などの電荷輸送物質を成膜性を有する樹脂に溶解した溶液を塗布し、乾燥することによって形成する。
【0055】
成膜性を有する樹脂としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメタクリル酸エステル及びポリアリレートなどが挙げられる。
【0056】
電荷輸送層の膜厚は、5〜40μmであることが好ましく、特に8〜30μmの範囲であることがより好ましい。
【0057】
これらの溶液を塗布する方法は、例えば、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、カーテンコーティング法およびスピンコーティング法などが知られているが、効率性/生産性の点からは浸漬コーティング法が好ましい。
【0058】
また、蒸着、プラズマ、その他の公知の製膜方法が適宜選択できる。
【0059】
本発明における感光層には、各種添加剤を添加することができる。該添加剤とは酸化防止剤および紫外線吸収剤などの劣化防止剤や、テトラフルオロエチレン樹脂粒子およびフッ化カーボンなどの潤剤などである。
【0060】
図1に本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成を示す。
【0061】
図において、1は本発明の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。感光体1は、回転過程において、一次帯電手段3によりその周面に正または負の所定電位の均一帯電を受け、次いでスリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)からの露光光4を受ける。こうして感光体1の周面に静電潜像が順次形成されていく。
【0062】
形成された静電潜像は、次いで現像手段5によりトナー現像され、現像されたトナー現像像は、不図示の給紙部から感光体1と転写手段6との間に感光体1の回転と同期取り出されて給紙された転写材7に、転写手段6により順次転写されていく。像転写を受けた転写材7は、感光体面から分離されて像定着手段8へ導入されて像定着をうけることにより複写物(コピー)として装置外へプリントアウトされる。
【0063】
また、像転写後の感光体1の表面を、クリーニング手段9によって転写残りトナーの除去し清浄面化してもよい。
【0064】
一次帯電手段3や転写手段6は帯電ローラーなどの接触手段、コロナ帯電器などの非接触手段のいずれでも良い。
【0065】
また、前露光手段(不図示)からの前露光光10により除電処理した後に、繰り返し画像形成に使用してもよい。なお、一次帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0066】
本発明においては、上述の電子写真感光体1、一次帯電手段3、現像手段5およびクリーニング手段9などの構成要素のうち、複数のものをプロセスカートリッジとして一体に結合して構成しこのプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱可能に構成してもよい。例えば、一次帯電手段3、現像手段5およびクリーニング手段9の少なくとも一つを感光体1とともに一体に支持してカートリッジ化して、装置本体のレール12などの案内手段を用いて装置本体に着脱可能なプロセスカートリッジ11とすることができる。
【0067】
また、露光光4は、電子写真装置が複写機やプリンターである場合には、原稿からの反射光や透過光、あるいはセンサーで原稿を読みとり、信号化し、この信号にしたがって行われるレーザービームの走査、LEDアレイの駆動および液晶シャッターアレイの駆動などにより照射される光である。
【0068】
本発明の電子写真感光体は電子写真複写機に利用するのみならず、レーザービームプリンター、CRTプリンター、LEDプリンター、液晶プリンターおよびレーザー製版などの電子写真応用分野にも広く用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【0070】
なお、「部」は「質量部」を意味する。
【0071】
(実施例1)
まず、導電層用の塗料を以下の手順で調整した。10%の酸化アンチモンを含有する酸化スズで被覆した導電性酸化チタン粉体50部(質量部、以下同様)、フェノール樹脂25部、メチルセロソルブ20部、メタノール5部およびシリコーンオイル(ポリジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量3000)0.002部を直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して調整した。この塗料を直径30mm、長さ260mmのアルミニウムシリンダー上に浸漬塗布方法で塗布し、150℃で30分乾燥して、膜厚20μmの導電層を形成した。
【0072】
次に、表1の例示化合物No.19を30部、下記式で示される構造を有する化合物(AIBN)0.5部、
【0073】
【化3】

【0074】
モノクロロベンゼン30部、THF20部からなる中間層用塗料を調製し、これを導電層上に乾燥後の膜厚が3μmになるように浸漬コーティング法で塗布し160℃で60分乾燥して、中間層を形成した。
【0075】
次に、CuKαのX線回折におけるブラッグ角2θ±0.2°の7.4°および28.2°に強いピークを有する結晶型を持つヒドロキシガリウムフタロシアニン化合物3部とポリビニルブチラール樹脂(ブチラール化度65モル%、数平均分子量35000)2部をシクロヘキサノン80部に添加し、ガラスビーズとともにサンドミルで4時間分散し、これに80部の酢酸エチルを加え希釈し、これを中間層上に乾燥後の膜厚が0.15μmになるように浸漬コーティング法で塗布し100℃で10分乾燥して電荷発生層を形成した。
【0076】
次に、下記式で示される構造を有する正孔輸送物質10部、
【0077】
【化4】

【0078】
および、Z型ポリカーボネート樹脂15部を、モノクロロベンゼン50部およびTHF20部の混合溶媒中に溶解して、正孔輸送層用塗料を調製し、これを電荷発生層上に乾燥後の膜厚が20μmになるように浸漬コーティング法で塗布し、120℃で45分乾燥して正孔輸送層を形成し、電子写真感光体を作製した。
【0079】
この感光体を、キヤノン(株)製プリンターLBP1760に装着し、常温常湿(23℃/50%)と低温低湿(15℃/10%)条件下で、帯電のDC(直流)成分と光量とを変化させ、評価した。
【0080】
初期の感光体特性[暗部電位Vd、光減衰感度(暗部電位−600V設定で−150Vに光減衰させるために必要な光量)、残留電位Vsl(1.5μJ/cmの光量を照射したときの電位)]を測定し、さらに5000枚の通紙耐久試験を行い、耐久後の上記感光体特性を測定し、各々の変化値△Vd、△Vl(初期にVlが−150Vとなる光量と同量の光量を耐久後に照射したときのVlの変化量)、△Vslを求めた。また、目視による膜欠陥および画像欠陥の発生の有無を観察した。
【0081】
なお、感光体の表面電位の測定は、LBP用カートリッジを改造し、現像位置に電位プローブ(model6000B−8:トレック社製)を装着し、表面電位計(model344:トレック社製)を使用して行った。結果を表2に示す。
【0082】
(実施例2〜16)
実施例1において、例示化合物No.19を、例示化合物No.14、16、21、29、32、33、39、40、45、46、51、8、11、37、57に代えた以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0083】
(実施例17)
実施例1において、例示化合物No.19、30部を、例示化合物No.19、15部と例示化合物No.38、15部に代えた以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0084】
(実施例18)
実施例1において、中間層用溶液に上記AIBNを加えず、また、150℃で60分乾燥して膜を形成させる代わりに、加速電圧150kV、照射線量20Mradの条件で電子線を照射し、中間層の形成を行ったこと以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0085】
(実施例19)
実施例1において、例示化合物No.19を25部、AIBNを0.5部、下記式で示される構造を有するアクリル化合物3部、
【0086】
【化5】

【0087】
ブタノール50部、メトキシプロパノール50部からなる中間層用塗料を調整し、これを導電層上に乾燥後の膜厚が1μmになるように浸漬コーティング法で塗布し、150℃で60分乾燥して、中間層を形成したこと以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0088】
(実施例20)
実施例1において、例示化合物No.19を3部、AIBNを0.5部、上記アクリル化合物25部、ブタノール50部、メトキシプロパノール50部からなる中間層用塗料を調整し、これを導電層上に乾燥後の膜厚が1μmになるように浸漬コーティング法で塗布し、150℃で60分乾燥して、中間層を形成したこと以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0089】
(実施例21)
実施例1において、例示化合物No.34を25部、メラミン樹脂(ユーバン20HS:三井化学製)を12部、THFを50部、メトキシプロパノールを50部からなる中間層用塗料を調整し、これを導電層上に乾燥後の膜厚が1μmになるように浸漬コーティング法で塗布し、150℃で60分乾燥して、中間層を形成したこと以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0090】
(実施例22、23)
実施例21において、例示化合物No.34を、それぞれ、No.60、No.58に代えたこと以外は、実施例21と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0091】
(実施例24)
実施例21において、例示化合物No.34を12部、メラミン樹脂を25部にしたこと以外は、実施例21と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0092】
(実施例25)
実施例1において、例示化合物No.22を25部、フェノール樹脂(プライオーフエンJ325:大日本インキ化学製)を12部、メタノールを25部、ブタノールを25部、メトキシプロパノールを50部からなる中間層用塗料を調整し、これを導電層上に乾燥後の膜厚が1μmになるように浸漬コーティング法で塗布し、150℃で60分乾燥して、中間層を形成したこと以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0093】
(実施例26)
実施例25において、例示化合物No.22をNo.54に代えたこと以外は、実施例25と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0094】
(実施例27)
実施例26において、調製した中間層用塗工液を常温常湿環境下で7日間放置した後に、中間層を塗布したこと以外は、実施例26と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表2に示す。
【0095】
(比較例1)
実施例1において、中間層用電子輸送物質として下記式で示される構造を有する化合物
【0096】
【化6】

【0097】
を用いた以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表3に示す。
【0098】
(比較例2)
実施例19において、電子輸送物質を加えなかったこと以外は、実施例19と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表3に示す。
【0099】
(比較例3)
実施例21において、電子輸送物質を加えなかったこと以外は、実施例21と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表3に示す。
【0100】
(比較例4)
実施例26において、電子輸送物質を加えなかったこと以外は、実施例26と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表3に示す。
【0101】
(比較例5)
実施例1において、特開平11−119458に開示されている下記化合物0.4部と、
【0102】
【化7】

【0103】
ジルコニウムモノアセチルアセトネート化合物(オルガチックスZC540:松本製薬工業社製)0.5部およびイソプロパノール3部とを混合した中間層用塗料を調整した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表3に示す。
【0104】
(比較例6)
比較例5において、調製した中間層用塗工液を常温常湿環境下で7日間放置した後に、中間層を塗布したこと以外は比較例5と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表3に示す。
【0105】
【表4】

【0106】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の例を示す図である。
【符号の説明】
【0108】
1 本発明の電子写真感光体
2 軸
3 一次帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 転写材
8 像定着手段
9 クリーニング手段
10 前露光光
11 プロセスカートリッジ
12 レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に中間層および感光層をこの順に有する電子写真感光体において、
該中間層が非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質の重合物を含有し、
該非加水分解性重合性官能基が非加水分解性の縮重合性官能基であり、
該非加水分解性の縮重合性官能基がアミノ基またはアルデヒド基である
ことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記中間層が、非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質を含有する中間層用溶液を前記支持体上に塗布後、重合させて形成した層である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質の還元電位が、参照電極の電位に対して−0.3Vから−1.0Vの範囲にある請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記非加水分解性重合性官能基を有する電子輸送物質が、下記式(A−9)で示される構造を有する化合物または下記式(A−11)で示される構造を有する化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真感光体。
【化1】

(式(A−9)中、R91およびR92の少なくとも一方は、非加水分解性重合性官能基を有する基である。m9、n9は、0以上の整数である。m9が2以上のとき、R91は、互いに異なる基であってもよい。n9が2以上のとき、R92は、互いに異なる基であってもよい。なお、m9とn9が同時に0になることはない。Q91、Q92は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、C(CN)、CRQ1CN、CY(Yはハロゲン原子)、C(COORQ2、CRQ3COORQ4、NRQ5、および、NCNのいずれかである。RQ1、RQ2、RQ3、RQ4、RQ5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、および、置換基を有してもよいアリール基のいずれかを示す。
式(A−11)中、R111、R112およびR113の少なくとも1つは、非加水分解性重合性官能基を有する基である。m11は、0以上の整数である。m11が2以上のとき、R111は、互いに異なる基であってもよい。Q111、Q112、Q113、Q114は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、C(CN)、CRQ1CN、CY(Yはハロゲン原子)、C(COORQ2、CRQ3COORQ4、NRQ5、および、NCNのいずれかである。
Q1、RQ2、RQ3、RQ4、RQ5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、および、置換基を有してもよいアリール基のいずれかを示す。)
【請求項5】
前記電子輸送物質が、非加水分解性重合性官能基を同一分子内に2個以上有する電子輸送物質である請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記感光層が、前記中間層側から順に電荷発生層および正孔輸送層を積層して形成された層である請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段およびクリーニング手段からなる群より選ばれた少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−299344(P2008−299344A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192136(P2008−192136)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【分割の表示】特願2006−82973(P2006−82973)の分割
【原出願日】平成14年5月10日(2002.5.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】