電子写真感光体、及びこの電子写真感光体を備えた画像形成装置
【課題】感光体ドラムの表面におけるフィルミングの発生を防止する。
【解決手段】感光体ドラム30の表面には、静電潜像を形成する感光層72が設けられている。感光層72は、導電性支持体70上に電荷発生物質を主成分とする電荷発生層72aと、電荷輸送物質及びバインダ樹脂を主成分とする電荷輸送層72bを有している。感光層72は、その表面の滑り性が、0.30〜0.90[N]であり、且つその表面のビッカース硬度は、26.7〜34.2[gf・μm−2]であるように形成されているので、フィルミングの発生しない感光体ドラム30が実現できる。
【解決手段】感光体ドラム30の表面には、静電潜像を形成する感光層72が設けられている。感光層72は、導電性支持体70上に電荷発生物質を主成分とする電荷発生層72aと、電荷輸送物質及びバインダ樹脂を主成分とする電荷輸送層72bを有している。感光層72は、その表面の滑り性が、0.30〜0.90[N]であり、且つその表面のビッカース硬度は、26.7〜34.2[gf・μm−2]であるように形成されているので、フィルミングの発生しない感光体ドラム30が実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電潜像を形成する電子写真感光体、及びこの電子写真感光体を備えた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真技術は、高品質の画像が即時に得られることから、複写機の分野に留まらず、各種プリンタの分野でも広く使われている。この電子写真技術の中核となる感光体の光導電材料は、有機系が広く使用されている。
【0003】
このような有機系の光導電材料を用いた有機系感光体においては、電荷発生層及び電荷輸送層が積層された機能分離型の感光体が広く普及している。機能分離型の感光体は、それぞれ効率の高い電荷発生物質及び電荷輸送物質を組み合せることにより高感度な感光体が得られること、材料の選択範囲が広く安全性の高い感光体が得られること、更に塗布の生産性が高く、比較的コスト面でも有利なことから、感光体の主流となっている。
【0004】
機能分離型の感光体における静電潜像形成のメカニズムは、次の通りである。即ち、感光体を帯電した後に、光が感光体に照射される。この光は、電荷輸送層を通過し、電荷発生層中の電荷発生物質により吸収されて電荷を生成する。この電荷が電荷発生層及び電荷輸送層界面で電荷輸送層に注入される。この注入された電荷は、更に電界によって電荷輸送層中を最表面に向かって移動し、感光体の表面電荷を中和して静電潜像を形成する。
【0005】
近年、電子写真プロセスにおいては、形成する画像の高画質化、及び電子写真形成装置の高速化の要求がより一層強まっている。この高画質化及び高速化を実現するため、トナーの材料面での改良が行われており、帯電性制御、流動性付与、及び転写効率向上を達成する必要性から、トナーにシリカ等の外添剤が含まれるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−183403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の電子写真感光体では、トナーに、シリカ等の外添剤が含まれるようになったため、電子写真プロセスで用いられる感光体ドラムの表面に、シリカが付着するというフィルミングの問題が表面化してきた。これまで、トナーのBET比表面積(単位重量当たりの表面積)を制御する等の対策が講じられてきたが、フィルミング発生の原因となるトナー外添剤のシリカがトナーに含まれている以上、トナーの改良のみでフィルミング発生を防ぐことは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子写真感光体は、電荷を発生させて輸送する感光層72が導電性支持体70上に形成されている。前記感光層72は、複数の層が積層されて形成され、前記感光層72における最表層の表面の滑り性は、0.30〜0.90[N]であり、且つ前記感光層72の表面のビッカース硬度は、26.7〜34.2[gf・μm−2]である。
【0009】
本発明の画像形成装置は、前記電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電する帯電装置と、帯電した前記電子写真感光体の表面を露光して静電潜像を形成する露光装置と、前記静電潜像を現像して可視画像を形成する現像装置と、前記可視画像を被転写媒体に転写する転写装置とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電子写真感光体、及び画像形成装置によれば、電子写真感光体の滑り性と、ビッカース硬度との両方の値を規定するので、フィルミングの発生しない高品質な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の実施例1における感光体ドラムの表面近傍の層構造を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の実施例1における画像形成装置の概略の構成図である。
【図3】図3は図2中の感光体ドラムの構成を示す断面図である。
【図4】図4は図3中のギア及び駆動ギアを示す斜視図である。
【図5】図5は図2中の感光体ドラムの滑り性を測定する装置の概略の構成図である。
【図6】図6はビッカース圧子及び図1中の感光層に形成された圧痕を示す図である。
【図7】図7は本発明の実施例1における各サンプルの滑り性、膜削れ量、硬度、及びフィルミングの測定結果とその評価を示す図である。
【図8】図8は図7に示す滑り性と膜削れ量との関係を示す図である。
【図9】図9は図7に示す滑り性とビッカース硬度との関係を示す図である。
【図10】図10は本発明の実施例2における各サンプルの滑り性、膜削れ量、硬度、及びフィルミングの測定結果とその評価を示す図である。
【図11】図11は図10に示す滑り性と膜削れ量との関係を示す図である。
【図12】図12は図10に示す滑り性とビッカース硬度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0013】
(実施例1の構成)
図2は、本発明の実施例1における画像形成装置の概略の構成図である。
【0014】
画像形成装置は、例えば、電子写真方式のプリンタであって、被転写媒体(例えば、用紙)Pの搬送方向の最上流には、用紙カセット1が設けられている。用紙カセット1は、用紙Pを積載するホッパステージ2と、このホッパステージ2の下側に設けられたばね3を有している。ばね3は、最上部の用紙Pを給送ローラ4に対して押圧するように配置されている。給送ローラ4は、用紙Pを1枚ずつ用紙搬送路5に繰り出す機能を有している。
【0015】
用紙搬送路5には、繰り出された用紙Pを、画像を形成する画像形成カートリッジ20付近に搬送する搬送ローラ6a,6bが設けられている。用紙搬送路5の下流側には、定着器7が設けられている。定着器7は、現像剤(例えば、トナー)Tが転写された用紙Pを加熱する加熱ローラ7aと、用紙Pを加圧する加圧ローラ7bとにより構成され、トナー画像を用紙Pに定着する機能を有している。定着器7の下流側には、定着後の用紙Pを装置外に搬出する排出ローラ8a,8bが設けられている。
【0016】
画像形成装置1の上部には、カバー9が、支点10を中心に回転可能に設けられている。カバー9の下部には、支持部材11が設けられている。支持部材11には、ばね12を介して、露光装置としての発光ダイオード(以下「LED」という。)ヘッド13が取り付けられている。LEDヘッド13は、複数のLEDから成るLEDアレイと、LEDアレイを駆動するドライバ集積回路(以下「ドライバIC」という。)が搭載された基板と、LEDの光を集光するロッドレンズアレイ等とを有している。
【0017】
LEDヘッド13は、図示しない制御部の制御により、外部から送信されてくる画像データ信号に対応してLEDを選択的に発光させ、感光体ドラム30上に静電潜像を形成する機能を有している。カバー9を閉じた状態では、LEDヘッド13は、ばね12により、画像形成カートリッジ20側に付勢されている。
【0018】
画像形成カートリッジ20の下部には、転写装置(例えば、転写ローラ)14が設けられている。転写ローラ14は、感光体ドラム30上のトナーTを用紙Pに転写する機能を有している。
【0019】
画像形成カートリッジ20は、カートリッジケース21により一体に構成されている。カートリッジケース21内には、静電潜像を形成する電子写真感光体(例えば、感光体ドラム)30と、この感光ドラム30を帯電する帯電装置(例えば、帯電ローラ)22と、感光体ドラム30上の静電潜像を現像する現像装置(例えば、現像部)50と、感光体ドラム30の表面のトナーTを掻き落とすクリーニング部23とがそれぞれ設けられている。
【0020】
帯電ローラ22は、感光体ドラム30の表面を帯電させる機能を有しており、感光体ドラム30に接して回転可能に取り付けられている。クリーニング部23は、クリーニングブレード23aと、スパイラルスクリュー23bとを有している。クリーニングブレード23aは、感光体ドラム30の表面に残ったトナーTを掻き落とす機能を有している。スパイラルスクリュー23bは、掻き落とされたトナーTを、図示しないトナーボックスに搬送する機能を有している。
【0021】
現像部50は、感光体ドラム30の表面に、トナーTを供給することにより、感光体ドラム30の表面に形成される静電潜像を現像する機能を有している。現像部50は、感光体ドラム30にトナーTを供給する現像ローラ51と、この現像ローラ51の表面のトナーTを薄層化して帯電させる現像ブレード52と、現像ローラ51にトナーTを供給するトナー供給ローラ53と、トナーTを撹拌してトナー供給ローラ53にトナーTを搬送する撹拌部材54とを有している。現像部50の上部には、着脱可能なトナーカートリッジ55が装着されている。
【0022】
現像ローラ51は、導電性シャフトに半導電性弾性体を形成して構成されている。トナー供給ローラ53は、導電性シャフトに半導電性弾性体を形成して構成されている。
【0023】
現像ローラ51と感光体ドラム30とは、回転可能に配置されており、現像ローラ51を感光体ドラム30に当接させてトナー像を得るように構成されている。トナーTは、非磁性一成分トナーであり、ポリエステル樹脂に顔料3〜4%を含む粉砕トナーであって、外添剤にはシリカを使用している。本実施例1における画像形成装置は、非磁性一成分接触現像方式を採用している。
【0024】
図3は、図2中の感光体ドラム30の構成を示す断面図である。
感光体ドラム30の内部には、導電体からなる金属製のシャフト31が配設されている。感光体ドラム30の内部の一端部には、フランジ32が圧入されて非導電性の接着剤で固定されている。フランジ32の材料としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリアセタール等の合成樹脂が用いられる。これらの合成樹脂は、金属粉、カーボンブラック、グラファイト等の導電性粉末を配合することにより導電化して用いられる。フランジ32は、シャフト31に対して回転可能に取り付けられている。
【0025】
感光体ドラム30の内側のフランジ32の反対側には、支持部材33が設けられている。支持部材33はシャフト31に対して回転可能に取り付けられ、感光体ドラム30の内側に固定されている。支持部材33の外側には、接着剤によりギア34が固定されている。ギア34は、感光体ドラム30を回転させるものであって、駆動ギア35と噛み合っている。駆動ギア35は、装置フレーム15bにおいて固定支持された固定軸36に、回転可能に支持されている。駆動ギア35が、図示しない駆動源により駆動されると、ギア34を介して感光体ドラム30が回転するように構成されている。
【0026】
シャフト31及び感光体ドラム30は、画像形成カートリッジ20のカートリッジケース21に取り付けられている。カートリッジケース21には、軸受け穴21a,21bが形成され、これらの軸受け穴21a,21bに、シャフト31の両端部が貫通している。左側のカートリッジケース21と、フランジ32との間には、カラー37が設けられている。カラー37は、導電金属から成り、シャフト31に対して回転可能であるとともに、シャフト31の軸方向に移動可能に構成されている。カラー37は、フランジ32、及びカートリッジケース21に接触するように配置されている。
【0027】
シャフト31及び感光体ドラム30を備えたカートリッジケース21は、装置フレーム15a,15bに装着されている。装置フレーム15a,15bには、それぞれ長穴38,39が形成され、これらの長穴38,39にシャフト31の両端部が係止されている。これにより、カートリッジケース21が装置フレーム15a,15bに装着されるように構成されている。このとき、シャフト31の一端部21aは、装置フレーム15aから突出するようになっている。
【0028】
装置フレーム15aの外側には、導電性のばね部材40がピン41により取り付けられている。ばね部材40は、アースに接続されており、内側方向に付勢力を有するように配置されている。画像形成カートリッジ20が装着されていないときには、ばね部材40は、図3に示す位置よりやや内側に位置しているが、ばね部材40の上端部は外側に傾斜しているため、上方からの画像形成カートリッジ20の装着が可能なように構成されている。装着状態では、シャフト31とばね部材40とが圧接するように構成されている。
【0029】
図4は、図3中のギア34及び駆動ギア35を示す斜視図である。
図4において、ギア34及び駆動ギア35は、はすば歯車によって形成され、歯のねじり角が互いに逆方向に設定されている。このはすば歯車構造により、ギア34は、図3における左方向に付勢され、シャフト31の一端部31aとばね部材40との接触が良好になるようになっている。
【0030】
図1は、本発明の実施例1における感光体ドラム30の表面近傍の層構造を示す断面図である。
【0031】
感光体ドラム30の表面近傍は、導電性支持体70と、その上に形成された感光層72とを有している。導電性支持体70は、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、及びニッケル等の金属材料や、表面にアルミニウム、銅、パラジウム、酸化錫、及び酸化インジウム等の導電性層を形成したポリエステルフィルム又は紙等の絶縁性支持体により構成されている。
【0032】
導電性支持体70と、感光層72との間には、公知の下引き層71が形成されていてもよい。下引き層71は、例えば、アルミニウム陽極酸化被膜、酸化アルミニウム、及び水酸化アルミニウム等の無機層や、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミド、及びポリアミド等の有機層により構成されている。
【0033】
本実施例1の感光層72の具体的な構成としては、積層型感光層、逆二層型感光層、及び分散型感光層がある。積層型感光層は、導電性支持体70上に、電荷発生物質を主成分とする電荷発生層72aと、電荷輸送物質及びバインダ樹脂を主成分とした電荷輸送層72bとが、順に積層された構成になっている。
【0034】
逆二層型感光体は、導電性支持体70上に,電荷輸送物質及びバインダ樹脂を主成分とした電荷輸送層72bと、電荷発生物質を主成分とする電荷発生層72aとが、順に積層された構成になっている。分散型感光層は、導電性支持体70上に積層された電荷輸送物質及びバインダ樹脂を含有する層中に、電荷発生物質が分散された構成になっている。
【0035】
感光層72が積層型感光層或いは逆二層型感光層の場合,電荷発生層72aに用いられる電荷発生物質としては、セレン、セレン合金、セレン化ヒ素化合物、硫化カドミニウム、酸化亜鉛、及びその他の無機光導電物質や、フタロシアニン、アゾ色素、キナクリドン、多環キノン、ピリリウム塩、チアピリリウム塩、インジゴ、チオインジゴ、アントアントロン、ピラントロン、及びシアニン等の各種有機顔料や染料が使用できる。
【0036】
中でも、無金属フタロシアニン、銅塩化インジウム、塩化ガリウム、錫、オキシチタニウム、亜鉛、及びバナジウム等の金属又はその酸化物や、塩化物を配位したフタロシアニン類、モノアゾ、ビスアゾ、トリスアゾ、及びポリアゾ類等のアゾ顔料が好ましい。
【0037】
電荷発生層72aは、前述した電荷発生物質の微粒子をバインダ樹脂で結着して形成する。バインダ樹脂には、例えば、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル、及びセルロースエーテル等がある。
【0038】
この場合の使用比率は、バインダ樹脂100重量部に対して、電荷発生物質30〜500重量部の範囲より使用され、その膜厚は通常0.1〜2μmが適している。電荷発生層72aは、必要に応じて塗布性を改善するためのレベリング剤や酸化防止剤、及び増感剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。又、電荷発生層72aは、上記電荷発生物質の蒸着膜であってもよい。
【0039】
電荷輸送層72bに使用される電荷輸送物質には、例えばカルバゾール、インドール、イミダゾール、オキサゾール、ピラゾール、オキサジアゾール、ピラゾリン、及びチアジアゾール等の複素環化合物がある。更に、電荷輸送物質は、アニリン誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体、及びスチルベン誘導体或いはこれらの化合物からなる基を主鎖、若しくは側鎖として有する重合体等の電子供与性物質であってもよい。
【0040】
電荷輸送層72bに使用されるバインダ樹脂には、一般にはポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、及びポリ塩化ビニル等のビニル重合体がある。更に、バインダ樹脂は、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂、及びこれらの共重合体であってもよい。又は、部分的架橋硬化物等の単独、或いは混合物であってもよい。本実施例1では、ポリエステルを使用している。
【0041】
電荷輸送層72bは、必要に応じて酸化防止剤、増感剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。電荷輸送層72bの膜厚は、通常10〜30μmの厚みで使用される。感光層72が分散型感光層の場合には,上記のバインダ樹脂と電荷輸送物質との組合せで、上記の配合比の電荷輸送媒体中に、前述した電荷発生物質が分散される。その場合の電荷発生物質の粒子径は充分小さいことが必要であり、1μm以下で使用される。感光層72内に分散される電荷発生物質の量が少なすぎると、充分な感度が得られず、多すぎると、帯電性の低下や感度の低下等の弊害があり、0.5〜50重量%の範囲で使用される。
【0042】
電荷発生層72a及び電荷輸送層72bの形成方法としては、層に含有させる物質を溶剤に溶解、又は分散させて得られた塗布液を順次塗布する等の公知の方法が適用できる。
【0043】
電荷輸送層72bに含まれる電荷輸送物質は、温度10℃、湿度20%の環境下において、露光−現像間50msecの表面電位60[−V]以下を実現する電荷移動度を有している。感光体ドラム30は、346mm/sec相当と、非常に速い回転速度で動作可能である。これは、感光体ドラム30の外径が30mmの場合、A4サイズの用紙を縦搬送で、59PPMに相当する。
【0044】
感光体ドラム30の電荷輸送層72bに含まれるバインダ樹脂は、3枚印刷後10秒停止する動作を繰り返す間欠印刷において、A4サイズの用紙Pを縦搬送で40000枚印刷可能な耐刷性を有している。
【0045】
(実施例1の画像形成装置の動作)
図示しない上位装置から図2の画像形成装置に対して、印刷開始の指示が出され、画像データが画像形成装置に送られてくる。画像形成装置の図示しない制御部は、給送ローラ4を駆動し、用紙Pを繰り出す。繰り出された用紙Pは、搬送ローラ6a,6bにより、感光体ドラム30と転写ローラ14の間に搬送される。
【0046】
図示しない制御部は、送られてきた画像データに基づき、LEDヘッド13を駆動してLEDを選択的に発光させ、帯電ローラ22により、すでに帯電されている感光体ドラム30の表面を露光する。これにより、画像データに対応した静電潜像が形成される。感光体ドラム30は、矢印方向に回転しており、静電潜像が現像部50に対向する位置に来ると、現像ローラ51上のトナーTが静電気力により静電潜像に付着する。これにより、感光体ドラム30上にトナー像が形成され、このトナー像が転写ローラ14との接触位置に移動する。
【0047】
用紙Pが感光体ドラム30と、転写ローラ14の間に到達するタイミングに合わせてトナー像が転写ローラ14の位置に到達し、転写ローラ14によりトナー像が用紙P上に転写される。トナー像が転写された用紙Pは、更に搬送され、定着器7へ搬送される。定着器7では、加熱ローラ7a及び加圧ローラ7bによって、用紙P上のトナー像が加熱、加圧されて定着される。定着後の用紙Pは、排出ローラ8a,8bによって、装置外に搬出される。
【0048】
(感光体ドラム30の評価)
感光体ドラム30の評価について、(A)評価の前提条件、(B)感光体ドラム30の表面の滑り性の測定、(C)感光体ドラム30の表面の硬度の測定、(D)感光体ドラム30の表面の膜削れ量の測定、(E)フィルミングの評価、(F)滑り性と膜削れ量との関係、及び(G)硬度とフィルミングとの関係に分けて説明する。
【0049】
(A) 評価の前提条件
図1の感光体ドラム30における、膜削れ量及びフィルミングと、感光体ドラム30の表面の滑り性及び硬度との関係について、感光体ドラム30の複数のサンプルを作成して評価した。
【0050】
本実施例1では、サンプルとして積層型感光体を用いる。電荷発生層72aは、電荷発生物質としてビスアゾ化合物を使用し、バインダ樹脂のポリビニルブチラールで結着して形成されている。バインダ樹脂に対し、電荷発生物質は、50重量%で、電荷発生層72aの膜厚は0.5μmである。電荷輸送層72bの電荷輸送物質にはビドラゾン化合物を使用し、バインダ樹脂には、ポリエステルを使用している。このポリエステルの構造式を化学式(1)に示す。
【0051】
【化1】
【0052】
化学式(1)において、Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、スルホニル基、又はシクロアルキル基を表す。Wは、置換されていてもよい二価の芳香族基又は置換されていてもよい二価の炭化水素基を表す。Rl〜R8は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ハロゲン墓、又はアルコキシル基を表す。
【0053】
本実施例1では、一般式として示される化学式(1)の構造のうち、化学式(2)で示されるものを用いた。
【0054】
【化2】
【0055】
このバインダ樹脂の平均分子量は、いずれも約30000である。電荷輸送層72bの初期膜厚は、14μmとした。バインダ樹脂に占める電荷輸送物質の割合を34〜55重量%の範囲で変え、更に電荷輸送物質の製造条件、塗布条件を変え、サンプルA〜Lの計12種類のサンプルを作製した。これら12種類のサンプルについて、滑り性及び硬度の測定を行い、膜削れ量及びフィルミングの評価を行った。
【0056】
(B) 感光体ドラム30の表面の滑り性の測定
図5は、図2中の感光体ドラム30の滑り性を測定する装置の概略の構成図である。
【0057】
以下の(1)〜(5)において滑り性の測定方法について説明する。
(1) 感光体ドラム30を滑り測定装置にセットし、フォースゲージ61を負荷のない状態で0を示すように調整する。
【0058】
(2) 幅10mm、厚さ0.lmmのPETフィルム62の下端側に50gの加重63を負荷し、PETフィルム62の上端側には、フォースゲージ61をセットする。このとき、図5に示すフォースゲージ61と感光体ドラム30とを結ぶPETフィルム62を延長した線と、加重63と感光体ドラム30を結ぶPETフィルム62を延長した線とのなす角度をθとしたとき、この角度θが90°になるようにPETフィルム62をセットする。使用するPETフィルム62は、東レ社製の一般工業用フィルム「ルミラー」の標準グレードであるタイプS10の#100を用いた。
【0059】
(3) フォースゲージ61の値が安定した後、感光体ドラム30を、図5に示す矢印方向Rに回転させる、このとき、感光体ドラム30とPETフィルム62との接線速度は、78.5mm/secである。
【0060】
(4) 感光体ドラム30を回転させた状態で、感光体ドラム30とPETフィルム62との摺擦力とを、フォースゲージ61で測定する。
【0061】
(5) 感光体ドラム30の回転が安定し、フォースゲージ61の値の変動が±0.1Nとなったときの値を滑り性の値とする。
【0062】
(C) 感光体ドラム30の表面の硬度の測定
図6(a)、(b)は、ビッカース圧子及び図1中の感光層72に形成された圧痕を示す図である。
【0063】
感光体ドラム30の表面の硬度の測定方法について説明する。
硬度の測定方法は、ビッカース硬度を用いる。ビッカース硬度(以下単に「硬度」という。)は、材料の塑性の指標であり、日本工業規格JISZ2244に準じて求められる。図6(a)は、ビッカース圧子81の底面を示している。図6(b)は、ビッカース圧子81を感光体ドラム30の表面の感光層72に押し付けたときの圧痕を示す図である。
【0064】
ビッカース圧子81の形状は対面角度γが136°の正四角錘で、これを荷重F[N]で感光層72の表面に押し込み、荷重を取り去った後、F[N]を塑性変形窪みの対角線長さd[mm]から求めた表面積S[mm2]で割ったF/Sを硬度Hvとする。即ち、硬度は、次式で表される。
Hv=F/S=2Fsin(γ/2)/d2
【0065】
本実施例1では、ビッカース硬度計に明石製作所製MVK−Eを使用し、荷重Fを10gfで測定を行った。
【0066】
(D) 感光体ドラム30の表面の膜削れ量の測定
感光体ドラム30の感光層72の膜削れ量の測定方法を示す。
【0067】
評価は図2に示した画像形成装置にサンプルとしての感光体ドラム30を組み込んで行った。
【0068】
連続試験は、温度10℃、湿度20%の環境下で行い、用紙PはA4サイズで富士ゼロックス社製P紙厚口を用い、印字領域0.3%の印字パターンを用いて、40000枚の連続印刷を行った。
【0069】
なお、評価サンプルである感光体ドラム30の外径を連続印字前後に、アポロ精工社製ローラ自動測定装置RM−202を用いて測定し、印字前後の外径差から膜削れ量を算出した。
【0070】
膜削れ量の判断基準は、画像評価で膜削れが原因と判断できるかぶり、或いは感光体ドラム30の周期の汚れが発生しない場合をバックグラウンド汚れのない画質と判断した。本実施例1では、平均膜削れ量が閾値4.0μmを越える場合に、かぶり、或いは汚れが発生したため、平均膜削れ量が閾値4.0μm以下となる場合をバックグラウンド汚れのない画質とした。
【0071】
(E) フィルミングの評価
フィルミングの評価方法について説明する。
【0072】
用紙PはA4サイズで富士ゼロックス製P紙厚口を用い、印字領域50%の印字パターンを用いて、20000枚の連続印刷を行った。その後、ベタパターンを印刷し、フィルミングが原因となる白ぬけの発生の有無を目視で観察した。目視で白ぬけが確認できる場合、フィルミングが発生したと判断し、目視で白ぬけが確認できない場合、フィルミングが発生しないと判断した。
【0073】
評価は、図2に示す画像形成装置を用いた。低温・低湿の環境下では、ウレタンゴムで形成されているクリーニングブレード23aが、常温下よりもわずかに収縮するため、クリーニングブレード23aと感光体ドラム30との押し圧が弱くなる。このため、感光層72の表面に付着したフィルミングがクリーニングブレード23aをすり抜けるためフィルミングが発生し易くなる。従って、連続試験は、温度10℃、湿度20%の環境下で行った。
【0074】
(F) 滑り性と膜削れ量との関係
図7は、本発明の実施例1における各サンプルの滑り性、膜削れ量、硬度、及びフィルミングの測定結果とその評価を示す図である。図7のフィルミング欄において、フィルミングが発生していないと判断されたサンプルを○で示し、フィルミングが発生していると判断されたサンプルを×で示している。図7の画像評価欄では、残像があるサンプル、又はバックグラウンド汚れのあるサンプルを×で示した。図8は、図7に示す滑り性と膜削れ量との関係を示す図である。図8において、白丸はバックグラウンド汚れ又は残像のないサンプルを示し、黒丸は、バックグラウンド汚れ又は残像のあるサンプルを示している。
【0075】
図8によれば、膜削れ量は、滑り性の増加に伴ってほぼ直線状に増加している。図7において、膜削り量が閾値4.0μmを越えているサンプルは、膜削り量が4.15μmのサンプルKと、膜削り量が4.15μmのサンプルLである。サンプルKの滑り性は、0.95[N]であり、サンプルLの滑り性は、1.00[N]である。残りのサンプルA〜Jのうちで、膜削れ量が大きいサンプルは、サンプルIとサンプルJであり、その膜削れ量は、それぞれ3.85[μm]と3.80[μm]である。
【0076】
このサンプルI,Jの膜削れ量は、閾値4.0[μm]より十分小さい。又、残りのサンプルA〜Jのうちで、滑り性が最大のサンプルは、サンプルJであり、その滑り性は、0.90[N]である。膜削れ量は、滑り性の増加に伴ってほぼ直線状に増加しているので、滑り性が0.90[N]以下であれば、膜削れ量はバックグラウンド汚れの閾値4.0[μm]を下回ると判断される。
【0077】
一方、滑り性を著しく小さくした場合、クリーニングブレード23aと、感光体ドラム30の表面との摺擦力がほとんどなくなる。このため、転写残りのトナーTを、クリーニングブレード23aで掻き取る取ることができなくなる。その結果、転写残りのトナーパターンに起因する残像が発生し易くなる。図7に示すように2番目に滑り性が小さいサンプルBは、滑り性が0.30[N]であって、転写残りのトナーパターンに起因する残像が発生していない。滑り性が0.26[N]であって、最も滑り性の値が小さいサンプルAにおいては、残像が発生する。滑り性と膜削れ量とは、ほぼ線型性を有しているので、残像が発生しない滑り性の下限は、0.30[N]と判断される。以上から、滑り性を0.30〜0.90[N]とすることにより、画像形成装置において、バックグラウンド汚れが発生せず且つ残像が発生しない画質が得られることが分かる。
【0078】
(G) 硬度とフィルミングとの関係
図9は、図7に示す滑り性と硬度との関係を示す図である。
【0079】
図9において、白丸は良質の画質のサンプルを示し、黒丸は、画質が不良のサンプルを示している。前述したように、滑り性を0.30〜0.90[N]とすることにより、画像形成装置において、バックグラウンド汚れが発生せず且つ残像が発生しない画質が得られる。実際、図9によれば、滑り性が0.9[N]より大きい領域には、バックグラウンド汚れが発生しているサンプルK,Lがプロットされている。滑り性が0.3[N]より小さい領域には、残像が発生しているサンプルAがプロットされている。
【0080】
次に硬度についてみると、滑り性と硬度との間には、ばらつきはあるが、概ね線型性がみられる。良質の画質であるサンプルDの硬度26.7[gf・μm−2]より硬度が低い領域には、フィルミングが発生しているサンプルC,Fがプロットされている。サンプルDの硬度26.7[gf・μm−2]以上のサンプルではフィルミングが発生していない。従って、フィルミング発生を防ぐには、硬度を26.7[gf・μm−2]以上にする必要がある。
【0081】
良質の画質であるサンプルIの硬度34.2[gf・μm−2]より硬度が高い領域には、バックグラウンド汚れが発生しているサンプルLがプロットされている。図9に示すように硬度を高くすると、滑り性も高くなる傾向がある。例えば、硬度がサンプルLの硬度である35.0[gf・μm−2]とすると、滑り性は、1.0[N]となって、図8の説明で述べたようにバックグラウンド汚れが発生している領域になる。従って、滑り性が0.30[N]〜0.90[N]の範囲で、且つフィルミングが発生していないサンプルの上限は、サンプルIの34.2[gf・μm−2]となる。以上をまとめると、硬度は26.7〜34.2[gf・μm−2] とすることが好ましい。
【0082】
(実施例1の効果)
本実施例1の感光体ドラム30及び画像形成装置によれば、感光体ドラム30の滑り性と、硬度との両方の値を規定するので、フィルミングの発生しない高品質な画像が得ることができる。
【0083】
本実施例1の感光体ドラム30の表面の滑り性の測定方法によれば、次の(1)〜(4)のような効果がある。
【0084】
(1) 感光層72の開発を行う際、感光層72の表面の滑り性と硬度とを測定することにより高品質な感光体ドラム30を得ることができるので、開発コストの削減が期待できる。
【0085】
(2) 感光体ドラム30の表面と、PETフィルム62とが面で接しているため、クリーニングブレード23aを使用して摩擦係数を測定する場合に比べ、測定の再現性が非常によい。
【0086】
(3) 感光体ドラム30と、クリーニングブレード23aとを使用して摩擦係数を測定する場合、測定に使用した感光体ドラム30やクリーニングブレード23aは、1回限りしか使用できない。しかし、本実施例1による滑り性の測定方法では、10mm幅のPETフィルム62を使用するため、感光体ドラム30は、測定場所を変えて複数回使用可能である。このため、開発コストの削減が期待できる。
【0087】
(4) クリーニングブレード23aに比べてPETフィルム62の方が安価であるため、開発コストの削減が期待できる。
【実施例2】
【0088】
(実施例2の構成)
本発明の実施例2における画像形成装置及感光体ドラム30の構成は、実施例1と同様である。本実施例2の感光層72の構成は、実施例1とほぼ同様であり、導電性支持体70、下引き層71、及び電荷発生層72aを構成する材料は、実施例1と同様である。本実施例2の電荷輸送層72bを構成する材料が、実施例1と異なっている。
【0089】
本実施例2では、電荷輸送層72bのバインダ樹脂は、ポリカーボネートとポリエステルで構成されている。そのうち、ポリエステルは5〜20%含まれており、残りがポリカーボネートとなっている。ポリカーボネー卜の一般式は、化学式(3)で示され、本実施例2では、化学式(4)で示されるものを使用している。
【0090】
【化3】
【0091】
【化4】
【0092】
ポリエステルは、実施例1と同様に、化学式(2)で示されるものを使用している。数あるバインダ樹脂の中で、ポリカーボネートは、総合的にすぐれた特性を有するため、これまで種々のポリカーボネート樹脂が開発されてきたが、機械的強度が十分でないため耐刷性にやや劣っていた。そこで、耐刷性が良好であるポリエステルを一定量加えることで、機械的特性と電気的特性の双方に優れた電子写真感光体を実現できるようになった。
【0093】
本実施例2においても、バインダ樹脂に占める電荷輸送物質の割合を34〜55重量%の範囲で変え、更に電荷輸送物質の製造条件、塗布条件を変えて、サンプルM〜Xの計12種類のサンプルを作製した。これらの12種類のサンプルについて、滑り性及び硬度の測定を行い、膜削れ量、及びフィルミングの評価を行った。
【0094】
図10は、本発明の実施例2における各サンプルの滑り性、膜削れ量、硬度、及びフィルミングの測定結果とその評価を示す図である。図11は、図10に示す滑り性と膜削れ量との関係を示す図である。図11において、白丸はバックグラウンド汚れ又は残像のないサンプルを示し、黒丸は、バックグラウンド汚れ又は残像のあるサンプルを示している。
【0095】
図11によれば、膜削れ量は、滑り性の増加に伴ってほぼ直線状に増加している。図10において、膜削り量が閾値4.0μmを越えているサンプルは、膜削り量が4.25μmのサンプルUと、膜削り量が4.45μmのサンプルVと、膜削り量が4.90μmのサンプルWと、膜削り量が5.00μmのサンプルXである。サンプルUの滑り性は、0.96[N]、サンプルVの滑り性は、1.01[N]、サンプルWの滑り性は、1.07[N]、及びサンプルXの滑り性は、1.11[N]である。
【0096】
残りのサンプルM〜Tのうちで、膜削れ量が大きいサンプルは、サンプルTであり、その膜削れ量は、それぞれ3.95[μm]である。又、残りのサンプルM〜Tのうちで、滑り性が最大のサンプルは、サンプルTであり、その滑り性は、0.91[N]である。膜削れ量は、滑り性の増加に伴ってほぼ直線状に増加しているので、滑り性が0.91[N]以下であれば、膜削れ量はバックグラウンド汚れの閾値4.0[μm]を下回ると判断される。
【0097】
一方、滑り性を著しく小さくした場合、クリーニングブレード23aと、感光体ドラム30の表面との摺擦力がほとんどなくなる。このため、転写残りのトナーTを、クリーニングブレード23aで掻き取る取ることができなくなる。その結果、転写残りのトナーパターンに起因する残像が発生し易くなる。図10に示すように2番目に滑り性が小さいサンプルNは、滑り性が0.56[N]であって、転写残りのトナーパターンに起因する残像が発生していない。最も滑り性の値が小さいサンプルAにおいては、滑り性が0.51[N]であって、残像が発生する。滑り性と膜削れ量とは、ほぼ線型性を有しているので、残像の発生しない滑り性の下限は、0.56[N]と判断される。以上から、滑り性を0.56〜0.91[N]とすることにより、画像形成装置において、バックグラウンド汚れが発生せず且つ残像が発生しない画質が得られることが分かる。
【0098】
図12は、図10に示す滑り性とビッカース硬度との関係を示す図である。
図12において、白丸は良質の画質のサンプルを示し、黒丸は、画質が不良のサンプルを示している。ここで、硬度とフィルミングの関係をみると、滑り性と硬度との間には、ばらつきはあるが、概ね線型性がみられる。良質の画質であるサンプルPの硬度27.7[gf・μm−2]より硬度が低い領域には、フィルミングが発生しているサンプルN,O,Q,Rがプロットされている。滑り性が0.64〜0.91[N]の範囲において、サンプルPの硬度27.7[gf・μm−2]以上のサンプルでは、フィルミングが発生していない。従って、フィルミング発生を防ぐには、硬度を27.7[gf・μm−2]以上にする必要がある。
【0099】
良質の画質であるサンプルSの硬度29.2[gf・μm−2]より硬度が高い領域では、滑り性が0.91[N]を越えてしまうため、バックグラウンド汚れが発生する。このため、良好な画像が得られない。つまり、硬度29.2[gf・μm−2]より硬度が高い領域には、膜削れ量の閾値4.0を越えているサンプルU,V,W,Xがプロットされている。従って、滑り性が0.64[N]〜0.91[N]の範囲で、且つフィルミングが発生押していない上限のサンプルの硬度は、サンプルSの29.2[gf・μm−2]となる。以上をまとめると、硬度は27.7〜29.2[gf・μm−2]とすることが好ましい。
【0100】
(実施例2の効果)
本実施例2の感光体ドラム30及び画像形成装置によれば、電荷輸送層72bをポリカーボネートにポリエステルを加えた構成にすることにより、実施例1と同等のフィルミングの発生しない感光体ドラム30が実現できるとともに、更に、機械的特性と電気的特性の双方に優れた電子写真感光体を実現できる。
【0101】
本実施例2の感光体ドラム30の表面の滑り性の測定方法による効果は、実施例1と同様である。
【0102】
(変形例)
本発明は、上記実施例に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。例えば、実施例1、2では、感光体ドラム30を使用する画像形成装置として電子写真プリンタを例に説明したが、複写機、ファクシミリ装置等、電子写真感光体を用いる画像形成装置すべてに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0103】
13 LEDヘッド
14 転写ローラ
22 帯電ローラ
30 感光体ドラム
50 現像部
61 フォースゲージ
62 PETフィルム
63 加重
70 導電性支持体
72 感光層
72a 電荷発生層
72b 電荷輸送層
81 ビッカース圧子
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電潜像を形成する電子写真感光体、及びこの電子写真感光体を備えた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真技術は、高品質の画像が即時に得られることから、複写機の分野に留まらず、各種プリンタの分野でも広く使われている。この電子写真技術の中核となる感光体の光導電材料は、有機系が広く使用されている。
【0003】
このような有機系の光導電材料を用いた有機系感光体においては、電荷発生層及び電荷輸送層が積層された機能分離型の感光体が広く普及している。機能分離型の感光体は、それぞれ効率の高い電荷発生物質及び電荷輸送物質を組み合せることにより高感度な感光体が得られること、材料の選択範囲が広く安全性の高い感光体が得られること、更に塗布の生産性が高く、比較的コスト面でも有利なことから、感光体の主流となっている。
【0004】
機能分離型の感光体における静電潜像形成のメカニズムは、次の通りである。即ち、感光体を帯電した後に、光が感光体に照射される。この光は、電荷輸送層を通過し、電荷発生層中の電荷発生物質により吸収されて電荷を生成する。この電荷が電荷発生層及び電荷輸送層界面で電荷輸送層に注入される。この注入された電荷は、更に電界によって電荷輸送層中を最表面に向かって移動し、感光体の表面電荷を中和して静電潜像を形成する。
【0005】
近年、電子写真プロセスにおいては、形成する画像の高画質化、及び電子写真形成装置の高速化の要求がより一層強まっている。この高画質化及び高速化を実現するため、トナーの材料面での改良が行われており、帯電性制御、流動性付与、及び転写効率向上を達成する必要性から、トナーにシリカ等の外添剤が含まれるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−183403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の電子写真感光体では、トナーに、シリカ等の外添剤が含まれるようになったため、電子写真プロセスで用いられる感光体ドラムの表面に、シリカが付着するというフィルミングの問題が表面化してきた。これまで、トナーのBET比表面積(単位重量当たりの表面積)を制御する等の対策が講じられてきたが、フィルミング発生の原因となるトナー外添剤のシリカがトナーに含まれている以上、トナーの改良のみでフィルミング発生を防ぐことは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子写真感光体は、電荷を発生させて輸送する感光層72が導電性支持体70上に形成されている。前記感光層72は、複数の層が積層されて形成され、前記感光層72における最表層の表面の滑り性は、0.30〜0.90[N]であり、且つ前記感光層72の表面のビッカース硬度は、26.7〜34.2[gf・μm−2]である。
【0009】
本発明の画像形成装置は、前記電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電する帯電装置と、帯電した前記電子写真感光体の表面を露光して静電潜像を形成する露光装置と、前記静電潜像を現像して可視画像を形成する現像装置と、前記可視画像を被転写媒体に転写する転写装置とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電子写真感光体、及び画像形成装置によれば、電子写真感光体の滑り性と、ビッカース硬度との両方の値を規定するので、フィルミングの発生しない高品質な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の実施例1における感光体ドラムの表面近傍の層構造を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の実施例1における画像形成装置の概略の構成図である。
【図3】図3は図2中の感光体ドラムの構成を示す断面図である。
【図4】図4は図3中のギア及び駆動ギアを示す斜視図である。
【図5】図5は図2中の感光体ドラムの滑り性を測定する装置の概略の構成図である。
【図6】図6はビッカース圧子及び図1中の感光層に形成された圧痕を示す図である。
【図7】図7は本発明の実施例1における各サンプルの滑り性、膜削れ量、硬度、及びフィルミングの測定結果とその評価を示す図である。
【図8】図8は図7に示す滑り性と膜削れ量との関係を示す図である。
【図9】図9は図7に示す滑り性とビッカース硬度との関係を示す図である。
【図10】図10は本発明の実施例2における各サンプルの滑り性、膜削れ量、硬度、及びフィルミングの測定結果とその評価を示す図である。
【図11】図11は図10に示す滑り性と膜削れ量との関係を示す図である。
【図12】図12は図10に示す滑り性とビッカース硬度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0013】
(実施例1の構成)
図2は、本発明の実施例1における画像形成装置の概略の構成図である。
【0014】
画像形成装置は、例えば、電子写真方式のプリンタであって、被転写媒体(例えば、用紙)Pの搬送方向の最上流には、用紙カセット1が設けられている。用紙カセット1は、用紙Pを積載するホッパステージ2と、このホッパステージ2の下側に設けられたばね3を有している。ばね3は、最上部の用紙Pを給送ローラ4に対して押圧するように配置されている。給送ローラ4は、用紙Pを1枚ずつ用紙搬送路5に繰り出す機能を有している。
【0015】
用紙搬送路5には、繰り出された用紙Pを、画像を形成する画像形成カートリッジ20付近に搬送する搬送ローラ6a,6bが設けられている。用紙搬送路5の下流側には、定着器7が設けられている。定着器7は、現像剤(例えば、トナー)Tが転写された用紙Pを加熱する加熱ローラ7aと、用紙Pを加圧する加圧ローラ7bとにより構成され、トナー画像を用紙Pに定着する機能を有している。定着器7の下流側には、定着後の用紙Pを装置外に搬出する排出ローラ8a,8bが設けられている。
【0016】
画像形成装置1の上部には、カバー9が、支点10を中心に回転可能に設けられている。カバー9の下部には、支持部材11が設けられている。支持部材11には、ばね12を介して、露光装置としての発光ダイオード(以下「LED」という。)ヘッド13が取り付けられている。LEDヘッド13は、複数のLEDから成るLEDアレイと、LEDアレイを駆動するドライバ集積回路(以下「ドライバIC」という。)が搭載された基板と、LEDの光を集光するロッドレンズアレイ等とを有している。
【0017】
LEDヘッド13は、図示しない制御部の制御により、外部から送信されてくる画像データ信号に対応してLEDを選択的に発光させ、感光体ドラム30上に静電潜像を形成する機能を有している。カバー9を閉じた状態では、LEDヘッド13は、ばね12により、画像形成カートリッジ20側に付勢されている。
【0018】
画像形成カートリッジ20の下部には、転写装置(例えば、転写ローラ)14が設けられている。転写ローラ14は、感光体ドラム30上のトナーTを用紙Pに転写する機能を有している。
【0019】
画像形成カートリッジ20は、カートリッジケース21により一体に構成されている。カートリッジケース21内には、静電潜像を形成する電子写真感光体(例えば、感光体ドラム)30と、この感光ドラム30を帯電する帯電装置(例えば、帯電ローラ)22と、感光体ドラム30上の静電潜像を現像する現像装置(例えば、現像部)50と、感光体ドラム30の表面のトナーTを掻き落とすクリーニング部23とがそれぞれ設けられている。
【0020】
帯電ローラ22は、感光体ドラム30の表面を帯電させる機能を有しており、感光体ドラム30に接して回転可能に取り付けられている。クリーニング部23は、クリーニングブレード23aと、スパイラルスクリュー23bとを有している。クリーニングブレード23aは、感光体ドラム30の表面に残ったトナーTを掻き落とす機能を有している。スパイラルスクリュー23bは、掻き落とされたトナーTを、図示しないトナーボックスに搬送する機能を有している。
【0021】
現像部50は、感光体ドラム30の表面に、トナーTを供給することにより、感光体ドラム30の表面に形成される静電潜像を現像する機能を有している。現像部50は、感光体ドラム30にトナーTを供給する現像ローラ51と、この現像ローラ51の表面のトナーTを薄層化して帯電させる現像ブレード52と、現像ローラ51にトナーTを供給するトナー供給ローラ53と、トナーTを撹拌してトナー供給ローラ53にトナーTを搬送する撹拌部材54とを有している。現像部50の上部には、着脱可能なトナーカートリッジ55が装着されている。
【0022】
現像ローラ51は、導電性シャフトに半導電性弾性体を形成して構成されている。トナー供給ローラ53は、導電性シャフトに半導電性弾性体を形成して構成されている。
【0023】
現像ローラ51と感光体ドラム30とは、回転可能に配置されており、現像ローラ51を感光体ドラム30に当接させてトナー像を得るように構成されている。トナーTは、非磁性一成分トナーであり、ポリエステル樹脂に顔料3〜4%を含む粉砕トナーであって、外添剤にはシリカを使用している。本実施例1における画像形成装置は、非磁性一成分接触現像方式を採用している。
【0024】
図3は、図2中の感光体ドラム30の構成を示す断面図である。
感光体ドラム30の内部には、導電体からなる金属製のシャフト31が配設されている。感光体ドラム30の内部の一端部には、フランジ32が圧入されて非導電性の接着剤で固定されている。フランジ32の材料としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリアセタール等の合成樹脂が用いられる。これらの合成樹脂は、金属粉、カーボンブラック、グラファイト等の導電性粉末を配合することにより導電化して用いられる。フランジ32は、シャフト31に対して回転可能に取り付けられている。
【0025】
感光体ドラム30の内側のフランジ32の反対側には、支持部材33が設けられている。支持部材33はシャフト31に対して回転可能に取り付けられ、感光体ドラム30の内側に固定されている。支持部材33の外側には、接着剤によりギア34が固定されている。ギア34は、感光体ドラム30を回転させるものであって、駆動ギア35と噛み合っている。駆動ギア35は、装置フレーム15bにおいて固定支持された固定軸36に、回転可能に支持されている。駆動ギア35が、図示しない駆動源により駆動されると、ギア34を介して感光体ドラム30が回転するように構成されている。
【0026】
シャフト31及び感光体ドラム30は、画像形成カートリッジ20のカートリッジケース21に取り付けられている。カートリッジケース21には、軸受け穴21a,21bが形成され、これらの軸受け穴21a,21bに、シャフト31の両端部が貫通している。左側のカートリッジケース21と、フランジ32との間には、カラー37が設けられている。カラー37は、導電金属から成り、シャフト31に対して回転可能であるとともに、シャフト31の軸方向に移動可能に構成されている。カラー37は、フランジ32、及びカートリッジケース21に接触するように配置されている。
【0027】
シャフト31及び感光体ドラム30を備えたカートリッジケース21は、装置フレーム15a,15bに装着されている。装置フレーム15a,15bには、それぞれ長穴38,39が形成され、これらの長穴38,39にシャフト31の両端部が係止されている。これにより、カートリッジケース21が装置フレーム15a,15bに装着されるように構成されている。このとき、シャフト31の一端部21aは、装置フレーム15aから突出するようになっている。
【0028】
装置フレーム15aの外側には、導電性のばね部材40がピン41により取り付けられている。ばね部材40は、アースに接続されており、内側方向に付勢力を有するように配置されている。画像形成カートリッジ20が装着されていないときには、ばね部材40は、図3に示す位置よりやや内側に位置しているが、ばね部材40の上端部は外側に傾斜しているため、上方からの画像形成カートリッジ20の装着が可能なように構成されている。装着状態では、シャフト31とばね部材40とが圧接するように構成されている。
【0029】
図4は、図3中のギア34及び駆動ギア35を示す斜視図である。
図4において、ギア34及び駆動ギア35は、はすば歯車によって形成され、歯のねじり角が互いに逆方向に設定されている。このはすば歯車構造により、ギア34は、図3における左方向に付勢され、シャフト31の一端部31aとばね部材40との接触が良好になるようになっている。
【0030】
図1は、本発明の実施例1における感光体ドラム30の表面近傍の層構造を示す断面図である。
【0031】
感光体ドラム30の表面近傍は、導電性支持体70と、その上に形成された感光層72とを有している。導電性支持体70は、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、及びニッケル等の金属材料や、表面にアルミニウム、銅、パラジウム、酸化錫、及び酸化インジウム等の導電性層を形成したポリエステルフィルム又は紙等の絶縁性支持体により構成されている。
【0032】
導電性支持体70と、感光層72との間には、公知の下引き層71が形成されていてもよい。下引き層71は、例えば、アルミニウム陽極酸化被膜、酸化アルミニウム、及び水酸化アルミニウム等の無機層や、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミド、及びポリアミド等の有機層により構成されている。
【0033】
本実施例1の感光層72の具体的な構成としては、積層型感光層、逆二層型感光層、及び分散型感光層がある。積層型感光層は、導電性支持体70上に、電荷発生物質を主成分とする電荷発生層72aと、電荷輸送物質及びバインダ樹脂を主成分とした電荷輸送層72bとが、順に積層された構成になっている。
【0034】
逆二層型感光体は、導電性支持体70上に,電荷輸送物質及びバインダ樹脂を主成分とした電荷輸送層72bと、電荷発生物質を主成分とする電荷発生層72aとが、順に積層された構成になっている。分散型感光層は、導電性支持体70上に積層された電荷輸送物質及びバインダ樹脂を含有する層中に、電荷発生物質が分散された構成になっている。
【0035】
感光層72が積層型感光層或いは逆二層型感光層の場合,電荷発生層72aに用いられる電荷発生物質としては、セレン、セレン合金、セレン化ヒ素化合物、硫化カドミニウム、酸化亜鉛、及びその他の無機光導電物質や、フタロシアニン、アゾ色素、キナクリドン、多環キノン、ピリリウム塩、チアピリリウム塩、インジゴ、チオインジゴ、アントアントロン、ピラントロン、及びシアニン等の各種有機顔料や染料が使用できる。
【0036】
中でも、無金属フタロシアニン、銅塩化インジウム、塩化ガリウム、錫、オキシチタニウム、亜鉛、及びバナジウム等の金属又はその酸化物や、塩化物を配位したフタロシアニン類、モノアゾ、ビスアゾ、トリスアゾ、及びポリアゾ類等のアゾ顔料が好ましい。
【0037】
電荷発生層72aは、前述した電荷発生物質の微粒子をバインダ樹脂で結着して形成する。バインダ樹脂には、例えば、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル、及びセルロースエーテル等がある。
【0038】
この場合の使用比率は、バインダ樹脂100重量部に対して、電荷発生物質30〜500重量部の範囲より使用され、その膜厚は通常0.1〜2μmが適している。電荷発生層72aは、必要に応じて塗布性を改善するためのレベリング剤や酸化防止剤、及び増感剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。又、電荷発生層72aは、上記電荷発生物質の蒸着膜であってもよい。
【0039】
電荷輸送層72bに使用される電荷輸送物質には、例えばカルバゾール、インドール、イミダゾール、オキサゾール、ピラゾール、オキサジアゾール、ピラゾリン、及びチアジアゾール等の複素環化合物がある。更に、電荷輸送物質は、アニリン誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体、及びスチルベン誘導体或いはこれらの化合物からなる基を主鎖、若しくは側鎖として有する重合体等の電子供与性物質であってもよい。
【0040】
電荷輸送層72bに使用されるバインダ樹脂には、一般にはポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、及びポリ塩化ビニル等のビニル重合体がある。更に、バインダ樹脂は、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂、及びこれらの共重合体であってもよい。又は、部分的架橋硬化物等の単独、或いは混合物であってもよい。本実施例1では、ポリエステルを使用している。
【0041】
電荷輸送層72bは、必要に応じて酸化防止剤、増感剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。電荷輸送層72bの膜厚は、通常10〜30μmの厚みで使用される。感光層72が分散型感光層の場合には,上記のバインダ樹脂と電荷輸送物質との組合せで、上記の配合比の電荷輸送媒体中に、前述した電荷発生物質が分散される。その場合の電荷発生物質の粒子径は充分小さいことが必要であり、1μm以下で使用される。感光層72内に分散される電荷発生物質の量が少なすぎると、充分な感度が得られず、多すぎると、帯電性の低下や感度の低下等の弊害があり、0.5〜50重量%の範囲で使用される。
【0042】
電荷発生層72a及び電荷輸送層72bの形成方法としては、層に含有させる物質を溶剤に溶解、又は分散させて得られた塗布液を順次塗布する等の公知の方法が適用できる。
【0043】
電荷輸送層72bに含まれる電荷輸送物質は、温度10℃、湿度20%の環境下において、露光−現像間50msecの表面電位60[−V]以下を実現する電荷移動度を有している。感光体ドラム30は、346mm/sec相当と、非常に速い回転速度で動作可能である。これは、感光体ドラム30の外径が30mmの場合、A4サイズの用紙を縦搬送で、59PPMに相当する。
【0044】
感光体ドラム30の電荷輸送層72bに含まれるバインダ樹脂は、3枚印刷後10秒停止する動作を繰り返す間欠印刷において、A4サイズの用紙Pを縦搬送で40000枚印刷可能な耐刷性を有している。
【0045】
(実施例1の画像形成装置の動作)
図示しない上位装置から図2の画像形成装置に対して、印刷開始の指示が出され、画像データが画像形成装置に送られてくる。画像形成装置の図示しない制御部は、給送ローラ4を駆動し、用紙Pを繰り出す。繰り出された用紙Pは、搬送ローラ6a,6bにより、感光体ドラム30と転写ローラ14の間に搬送される。
【0046】
図示しない制御部は、送られてきた画像データに基づき、LEDヘッド13を駆動してLEDを選択的に発光させ、帯電ローラ22により、すでに帯電されている感光体ドラム30の表面を露光する。これにより、画像データに対応した静電潜像が形成される。感光体ドラム30は、矢印方向に回転しており、静電潜像が現像部50に対向する位置に来ると、現像ローラ51上のトナーTが静電気力により静電潜像に付着する。これにより、感光体ドラム30上にトナー像が形成され、このトナー像が転写ローラ14との接触位置に移動する。
【0047】
用紙Pが感光体ドラム30と、転写ローラ14の間に到達するタイミングに合わせてトナー像が転写ローラ14の位置に到達し、転写ローラ14によりトナー像が用紙P上に転写される。トナー像が転写された用紙Pは、更に搬送され、定着器7へ搬送される。定着器7では、加熱ローラ7a及び加圧ローラ7bによって、用紙P上のトナー像が加熱、加圧されて定着される。定着後の用紙Pは、排出ローラ8a,8bによって、装置外に搬出される。
【0048】
(感光体ドラム30の評価)
感光体ドラム30の評価について、(A)評価の前提条件、(B)感光体ドラム30の表面の滑り性の測定、(C)感光体ドラム30の表面の硬度の測定、(D)感光体ドラム30の表面の膜削れ量の測定、(E)フィルミングの評価、(F)滑り性と膜削れ量との関係、及び(G)硬度とフィルミングとの関係に分けて説明する。
【0049】
(A) 評価の前提条件
図1の感光体ドラム30における、膜削れ量及びフィルミングと、感光体ドラム30の表面の滑り性及び硬度との関係について、感光体ドラム30の複数のサンプルを作成して評価した。
【0050】
本実施例1では、サンプルとして積層型感光体を用いる。電荷発生層72aは、電荷発生物質としてビスアゾ化合物を使用し、バインダ樹脂のポリビニルブチラールで結着して形成されている。バインダ樹脂に対し、電荷発生物質は、50重量%で、電荷発生層72aの膜厚は0.5μmである。電荷輸送層72bの電荷輸送物質にはビドラゾン化合物を使用し、バインダ樹脂には、ポリエステルを使用している。このポリエステルの構造式を化学式(1)に示す。
【0051】
【化1】
【0052】
化学式(1)において、Xは、単結合、硫黄原子、酸素原子、スルホニル基、又はシクロアルキル基を表す。Wは、置換されていてもよい二価の芳香族基又は置換されていてもよい二価の炭化水素基を表す。Rl〜R8は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ハロゲン墓、又はアルコキシル基を表す。
【0053】
本実施例1では、一般式として示される化学式(1)の構造のうち、化学式(2)で示されるものを用いた。
【0054】
【化2】
【0055】
このバインダ樹脂の平均分子量は、いずれも約30000である。電荷輸送層72bの初期膜厚は、14μmとした。バインダ樹脂に占める電荷輸送物質の割合を34〜55重量%の範囲で変え、更に電荷輸送物質の製造条件、塗布条件を変え、サンプルA〜Lの計12種類のサンプルを作製した。これら12種類のサンプルについて、滑り性及び硬度の測定を行い、膜削れ量及びフィルミングの評価を行った。
【0056】
(B) 感光体ドラム30の表面の滑り性の測定
図5は、図2中の感光体ドラム30の滑り性を測定する装置の概略の構成図である。
【0057】
以下の(1)〜(5)において滑り性の測定方法について説明する。
(1) 感光体ドラム30を滑り測定装置にセットし、フォースゲージ61を負荷のない状態で0を示すように調整する。
【0058】
(2) 幅10mm、厚さ0.lmmのPETフィルム62の下端側に50gの加重63を負荷し、PETフィルム62の上端側には、フォースゲージ61をセットする。このとき、図5に示すフォースゲージ61と感光体ドラム30とを結ぶPETフィルム62を延長した線と、加重63と感光体ドラム30を結ぶPETフィルム62を延長した線とのなす角度をθとしたとき、この角度θが90°になるようにPETフィルム62をセットする。使用するPETフィルム62は、東レ社製の一般工業用フィルム「ルミラー」の標準グレードであるタイプS10の#100を用いた。
【0059】
(3) フォースゲージ61の値が安定した後、感光体ドラム30を、図5に示す矢印方向Rに回転させる、このとき、感光体ドラム30とPETフィルム62との接線速度は、78.5mm/secである。
【0060】
(4) 感光体ドラム30を回転させた状態で、感光体ドラム30とPETフィルム62との摺擦力とを、フォースゲージ61で測定する。
【0061】
(5) 感光体ドラム30の回転が安定し、フォースゲージ61の値の変動が±0.1Nとなったときの値を滑り性の値とする。
【0062】
(C) 感光体ドラム30の表面の硬度の測定
図6(a)、(b)は、ビッカース圧子及び図1中の感光層72に形成された圧痕を示す図である。
【0063】
感光体ドラム30の表面の硬度の測定方法について説明する。
硬度の測定方法は、ビッカース硬度を用いる。ビッカース硬度(以下単に「硬度」という。)は、材料の塑性の指標であり、日本工業規格JISZ2244に準じて求められる。図6(a)は、ビッカース圧子81の底面を示している。図6(b)は、ビッカース圧子81を感光体ドラム30の表面の感光層72に押し付けたときの圧痕を示す図である。
【0064】
ビッカース圧子81の形状は対面角度γが136°の正四角錘で、これを荷重F[N]で感光層72の表面に押し込み、荷重を取り去った後、F[N]を塑性変形窪みの対角線長さd[mm]から求めた表面積S[mm2]で割ったF/Sを硬度Hvとする。即ち、硬度は、次式で表される。
Hv=F/S=2Fsin(γ/2)/d2
【0065】
本実施例1では、ビッカース硬度計に明石製作所製MVK−Eを使用し、荷重Fを10gfで測定を行った。
【0066】
(D) 感光体ドラム30の表面の膜削れ量の測定
感光体ドラム30の感光層72の膜削れ量の測定方法を示す。
【0067】
評価は図2に示した画像形成装置にサンプルとしての感光体ドラム30を組み込んで行った。
【0068】
連続試験は、温度10℃、湿度20%の環境下で行い、用紙PはA4サイズで富士ゼロックス社製P紙厚口を用い、印字領域0.3%の印字パターンを用いて、40000枚の連続印刷を行った。
【0069】
なお、評価サンプルである感光体ドラム30の外径を連続印字前後に、アポロ精工社製ローラ自動測定装置RM−202を用いて測定し、印字前後の外径差から膜削れ量を算出した。
【0070】
膜削れ量の判断基準は、画像評価で膜削れが原因と判断できるかぶり、或いは感光体ドラム30の周期の汚れが発生しない場合をバックグラウンド汚れのない画質と判断した。本実施例1では、平均膜削れ量が閾値4.0μmを越える場合に、かぶり、或いは汚れが発生したため、平均膜削れ量が閾値4.0μm以下となる場合をバックグラウンド汚れのない画質とした。
【0071】
(E) フィルミングの評価
フィルミングの評価方法について説明する。
【0072】
用紙PはA4サイズで富士ゼロックス製P紙厚口を用い、印字領域50%の印字パターンを用いて、20000枚の連続印刷を行った。その後、ベタパターンを印刷し、フィルミングが原因となる白ぬけの発生の有無を目視で観察した。目視で白ぬけが確認できる場合、フィルミングが発生したと判断し、目視で白ぬけが確認できない場合、フィルミングが発生しないと判断した。
【0073】
評価は、図2に示す画像形成装置を用いた。低温・低湿の環境下では、ウレタンゴムで形成されているクリーニングブレード23aが、常温下よりもわずかに収縮するため、クリーニングブレード23aと感光体ドラム30との押し圧が弱くなる。このため、感光層72の表面に付着したフィルミングがクリーニングブレード23aをすり抜けるためフィルミングが発生し易くなる。従って、連続試験は、温度10℃、湿度20%の環境下で行った。
【0074】
(F) 滑り性と膜削れ量との関係
図7は、本発明の実施例1における各サンプルの滑り性、膜削れ量、硬度、及びフィルミングの測定結果とその評価を示す図である。図7のフィルミング欄において、フィルミングが発生していないと判断されたサンプルを○で示し、フィルミングが発生していると判断されたサンプルを×で示している。図7の画像評価欄では、残像があるサンプル、又はバックグラウンド汚れのあるサンプルを×で示した。図8は、図7に示す滑り性と膜削れ量との関係を示す図である。図8において、白丸はバックグラウンド汚れ又は残像のないサンプルを示し、黒丸は、バックグラウンド汚れ又は残像のあるサンプルを示している。
【0075】
図8によれば、膜削れ量は、滑り性の増加に伴ってほぼ直線状に増加している。図7において、膜削り量が閾値4.0μmを越えているサンプルは、膜削り量が4.15μmのサンプルKと、膜削り量が4.15μmのサンプルLである。サンプルKの滑り性は、0.95[N]であり、サンプルLの滑り性は、1.00[N]である。残りのサンプルA〜Jのうちで、膜削れ量が大きいサンプルは、サンプルIとサンプルJであり、その膜削れ量は、それぞれ3.85[μm]と3.80[μm]である。
【0076】
このサンプルI,Jの膜削れ量は、閾値4.0[μm]より十分小さい。又、残りのサンプルA〜Jのうちで、滑り性が最大のサンプルは、サンプルJであり、その滑り性は、0.90[N]である。膜削れ量は、滑り性の増加に伴ってほぼ直線状に増加しているので、滑り性が0.90[N]以下であれば、膜削れ量はバックグラウンド汚れの閾値4.0[μm]を下回ると判断される。
【0077】
一方、滑り性を著しく小さくした場合、クリーニングブレード23aと、感光体ドラム30の表面との摺擦力がほとんどなくなる。このため、転写残りのトナーTを、クリーニングブレード23aで掻き取る取ることができなくなる。その結果、転写残りのトナーパターンに起因する残像が発生し易くなる。図7に示すように2番目に滑り性が小さいサンプルBは、滑り性が0.30[N]であって、転写残りのトナーパターンに起因する残像が発生していない。滑り性が0.26[N]であって、最も滑り性の値が小さいサンプルAにおいては、残像が発生する。滑り性と膜削れ量とは、ほぼ線型性を有しているので、残像が発生しない滑り性の下限は、0.30[N]と判断される。以上から、滑り性を0.30〜0.90[N]とすることにより、画像形成装置において、バックグラウンド汚れが発生せず且つ残像が発生しない画質が得られることが分かる。
【0078】
(G) 硬度とフィルミングとの関係
図9は、図7に示す滑り性と硬度との関係を示す図である。
【0079】
図9において、白丸は良質の画質のサンプルを示し、黒丸は、画質が不良のサンプルを示している。前述したように、滑り性を0.30〜0.90[N]とすることにより、画像形成装置において、バックグラウンド汚れが発生せず且つ残像が発生しない画質が得られる。実際、図9によれば、滑り性が0.9[N]より大きい領域には、バックグラウンド汚れが発生しているサンプルK,Lがプロットされている。滑り性が0.3[N]より小さい領域には、残像が発生しているサンプルAがプロットされている。
【0080】
次に硬度についてみると、滑り性と硬度との間には、ばらつきはあるが、概ね線型性がみられる。良質の画質であるサンプルDの硬度26.7[gf・μm−2]より硬度が低い領域には、フィルミングが発生しているサンプルC,Fがプロットされている。サンプルDの硬度26.7[gf・μm−2]以上のサンプルではフィルミングが発生していない。従って、フィルミング発生を防ぐには、硬度を26.7[gf・μm−2]以上にする必要がある。
【0081】
良質の画質であるサンプルIの硬度34.2[gf・μm−2]より硬度が高い領域には、バックグラウンド汚れが発生しているサンプルLがプロットされている。図9に示すように硬度を高くすると、滑り性も高くなる傾向がある。例えば、硬度がサンプルLの硬度である35.0[gf・μm−2]とすると、滑り性は、1.0[N]となって、図8の説明で述べたようにバックグラウンド汚れが発生している領域になる。従って、滑り性が0.30[N]〜0.90[N]の範囲で、且つフィルミングが発生していないサンプルの上限は、サンプルIの34.2[gf・μm−2]となる。以上をまとめると、硬度は26.7〜34.2[gf・μm−2] とすることが好ましい。
【0082】
(実施例1の効果)
本実施例1の感光体ドラム30及び画像形成装置によれば、感光体ドラム30の滑り性と、硬度との両方の値を規定するので、フィルミングの発生しない高品質な画像が得ることができる。
【0083】
本実施例1の感光体ドラム30の表面の滑り性の測定方法によれば、次の(1)〜(4)のような効果がある。
【0084】
(1) 感光層72の開発を行う際、感光層72の表面の滑り性と硬度とを測定することにより高品質な感光体ドラム30を得ることができるので、開発コストの削減が期待できる。
【0085】
(2) 感光体ドラム30の表面と、PETフィルム62とが面で接しているため、クリーニングブレード23aを使用して摩擦係数を測定する場合に比べ、測定の再現性が非常によい。
【0086】
(3) 感光体ドラム30と、クリーニングブレード23aとを使用して摩擦係数を測定する場合、測定に使用した感光体ドラム30やクリーニングブレード23aは、1回限りしか使用できない。しかし、本実施例1による滑り性の測定方法では、10mm幅のPETフィルム62を使用するため、感光体ドラム30は、測定場所を変えて複数回使用可能である。このため、開発コストの削減が期待できる。
【0087】
(4) クリーニングブレード23aに比べてPETフィルム62の方が安価であるため、開発コストの削減が期待できる。
【実施例2】
【0088】
(実施例2の構成)
本発明の実施例2における画像形成装置及感光体ドラム30の構成は、実施例1と同様である。本実施例2の感光層72の構成は、実施例1とほぼ同様であり、導電性支持体70、下引き層71、及び電荷発生層72aを構成する材料は、実施例1と同様である。本実施例2の電荷輸送層72bを構成する材料が、実施例1と異なっている。
【0089】
本実施例2では、電荷輸送層72bのバインダ樹脂は、ポリカーボネートとポリエステルで構成されている。そのうち、ポリエステルは5〜20%含まれており、残りがポリカーボネートとなっている。ポリカーボネー卜の一般式は、化学式(3)で示され、本実施例2では、化学式(4)で示されるものを使用している。
【0090】
【化3】
【0091】
【化4】
【0092】
ポリエステルは、実施例1と同様に、化学式(2)で示されるものを使用している。数あるバインダ樹脂の中で、ポリカーボネートは、総合的にすぐれた特性を有するため、これまで種々のポリカーボネート樹脂が開発されてきたが、機械的強度が十分でないため耐刷性にやや劣っていた。そこで、耐刷性が良好であるポリエステルを一定量加えることで、機械的特性と電気的特性の双方に優れた電子写真感光体を実現できるようになった。
【0093】
本実施例2においても、バインダ樹脂に占める電荷輸送物質の割合を34〜55重量%の範囲で変え、更に電荷輸送物質の製造条件、塗布条件を変えて、サンプルM〜Xの計12種類のサンプルを作製した。これらの12種類のサンプルについて、滑り性及び硬度の測定を行い、膜削れ量、及びフィルミングの評価を行った。
【0094】
図10は、本発明の実施例2における各サンプルの滑り性、膜削れ量、硬度、及びフィルミングの測定結果とその評価を示す図である。図11は、図10に示す滑り性と膜削れ量との関係を示す図である。図11において、白丸はバックグラウンド汚れ又は残像のないサンプルを示し、黒丸は、バックグラウンド汚れ又は残像のあるサンプルを示している。
【0095】
図11によれば、膜削れ量は、滑り性の増加に伴ってほぼ直線状に増加している。図10において、膜削り量が閾値4.0μmを越えているサンプルは、膜削り量が4.25μmのサンプルUと、膜削り量が4.45μmのサンプルVと、膜削り量が4.90μmのサンプルWと、膜削り量が5.00μmのサンプルXである。サンプルUの滑り性は、0.96[N]、サンプルVの滑り性は、1.01[N]、サンプルWの滑り性は、1.07[N]、及びサンプルXの滑り性は、1.11[N]である。
【0096】
残りのサンプルM〜Tのうちで、膜削れ量が大きいサンプルは、サンプルTであり、その膜削れ量は、それぞれ3.95[μm]である。又、残りのサンプルM〜Tのうちで、滑り性が最大のサンプルは、サンプルTであり、その滑り性は、0.91[N]である。膜削れ量は、滑り性の増加に伴ってほぼ直線状に増加しているので、滑り性が0.91[N]以下であれば、膜削れ量はバックグラウンド汚れの閾値4.0[μm]を下回ると判断される。
【0097】
一方、滑り性を著しく小さくした場合、クリーニングブレード23aと、感光体ドラム30の表面との摺擦力がほとんどなくなる。このため、転写残りのトナーTを、クリーニングブレード23aで掻き取る取ることができなくなる。その結果、転写残りのトナーパターンに起因する残像が発生し易くなる。図10に示すように2番目に滑り性が小さいサンプルNは、滑り性が0.56[N]であって、転写残りのトナーパターンに起因する残像が発生していない。最も滑り性の値が小さいサンプルAにおいては、滑り性が0.51[N]であって、残像が発生する。滑り性と膜削れ量とは、ほぼ線型性を有しているので、残像の発生しない滑り性の下限は、0.56[N]と判断される。以上から、滑り性を0.56〜0.91[N]とすることにより、画像形成装置において、バックグラウンド汚れが発生せず且つ残像が発生しない画質が得られることが分かる。
【0098】
図12は、図10に示す滑り性とビッカース硬度との関係を示す図である。
図12において、白丸は良質の画質のサンプルを示し、黒丸は、画質が不良のサンプルを示している。ここで、硬度とフィルミングの関係をみると、滑り性と硬度との間には、ばらつきはあるが、概ね線型性がみられる。良質の画質であるサンプルPの硬度27.7[gf・μm−2]より硬度が低い領域には、フィルミングが発生しているサンプルN,O,Q,Rがプロットされている。滑り性が0.64〜0.91[N]の範囲において、サンプルPの硬度27.7[gf・μm−2]以上のサンプルでは、フィルミングが発生していない。従って、フィルミング発生を防ぐには、硬度を27.7[gf・μm−2]以上にする必要がある。
【0099】
良質の画質であるサンプルSの硬度29.2[gf・μm−2]より硬度が高い領域では、滑り性が0.91[N]を越えてしまうため、バックグラウンド汚れが発生する。このため、良好な画像が得られない。つまり、硬度29.2[gf・μm−2]より硬度が高い領域には、膜削れ量の閾値4.0を越えているサンプルU,V,W,Xがプロットされている。従って、滑り性が0.64[N]〜0.91[N]の範囲で、且つフィルミングが発生押していない上限のサンプルの硬度は、サンプルSの29.2[gf・μm−2]となる。以上をまとめると、硬度は27.7〜29.2[gf・μm−2]とすることが好ましい。
【0100】
(実施例2の効果)
本実施例2の感光体ドラム30及び画像形成装置によれば、電荷輸送層72bをポリカーボネートにポリエステルを加えた構成にすることにより、実施例1と同等のフィルミングの発生しない感光体ドラム30が実現できるとともに、更に、機械的特性と電気的特性の双方に優れた電子写真感光体を実現できる。
【0101】
本実施例2の感光体ドラム30の表面の滑り性の測定方法による効果は、実施例1と同様である。
【0102】
(変形例)
本発明は、上記実施例に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。例えば、実施例1、2では、感光体ドラム30を使用する画像形成装置として電子写真プリンタを例に説明したが、複写機、ファクシミリ装置等、電子写真感光体を用いる画像形成装置すべてに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0103】
13 LEDヘッド
14 転写ローラ
22 帯電ローラ
30 感光体ドラム
50 現像部
61 フォースゲージ
62 PETフィルム
63 加重
70 導電性支持体
72 感光層
72a 電荷発生層
72b 電荷輸送層
81 ビッカース圧子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷を発生させて輸送する感光層が導電性支持体上に形成された電子写真感光体であって、
前記感光層は、複数の層が積層されて形成され、
前記感光層における最表層の表面の滑り性は、0.30〜0.90[N]であり、
且つ前記感光層の表面のビッカース硬度は、26.7〜34.2[gf・μm−2]であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記感光層の前記最表層は、ポリエステルを有するバインダ樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項3】
請求項1記載の電子写真感光体は、
前記感光層における最表層の表面の滑り性の値が、0.64〜0.91[N]であり、
且つ感光層の表面のビッカース硬度が、27.7〜29.2[gf・μm−2]であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項4】
前記感光層の前記最表層は、ポリカーボネート及びポリエステルからなるバインダ樹脂により形成され、
前記ポリエステルは、前記バインダ樹脂において、5〜20[重量%]であることを特徴とする請求項3記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記感光層72の前記表面の滑り性は、
前記感光層72の前記表面に対して、幅10[mm]及び厚さ0.1[mm]のポリエチレンテレフタラートフィルムを接するように配し、前記ポリエチレンテレフタラートフィルムの両端には、フォースゲージと50[g]の加重とを配し、前記感光層の前記表面と前記ポリエチレンテレフタラートフィルムとの接線速度が78.5[mm/sec]で移動させたときの前記フォースゲージの値により定義されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記ビッカース硬度は、
前記感光層の表面に対して、ビッカース圧子を加重10[gf]で押し込んだときの厚痕の大きさから求めることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体30を帯電する帯電装置と、
帯電した前記電子写真感光体30の表面を露光して静電潜像を形成する露光装置13と、
前記静電潜像を現像して可視画像を形成する現像装置と、
前記可視画像を被転写媒体に転写する転写装置と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
電荷を発生させて輸送する感光層が導電性支持体上に形成された電子写真感光体であって、
前記感光層は、複数の層が積層されて形成され、
前記感光層における最表層の表面の滑り性は、0.30〜0.90[N]であり、
且つ前記感光層の表面のビッカース硬度は、26.7〜34.2[gf・μm−2]であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記感光層の前記最表層は、ポリエステルを有するバインダ樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項3】
請求項1記載の電子写真感光体は、
前記感光層における最表層の表面の滑り性の値が、0.64〜0.91[N]であり、
且つ感光層の表面のビッカース硬度が、27.7〜29.2[gf・μm−2]であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項4】
前記感光層の前記最表層は、ポリカーボネート及びポリエステルからなるバインダ樹脂により形成され、
前記ポリエステルは、前記バインダ樹脂において、5〜20[重量%]であることを特徴とする請求項3記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記感光層72の前記表面の滑り性は、
前記感光層72の前記表面に対して、幅10[mm]及び厚さ0.1[mm]のポリエチレンテレフタラートフィルムを接するように配し、前記ポリエチレンテレフタラートフィルムの両端には、フォースゲージと50[g]の加重とを配し、前記感光層の前記表面と前記ポリエチレンテレフタラートフィルムとの接線速度が78.5[mm/sec]で移動させたときの前記フォースゲージの値により定義されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記ビッカース硬度は、
前記感光層の表面に対して、ビッカース圧子を加重10[gf]で押し込んだときの厚痕の大きさから求めることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体30を帯電する帯電装置と、
帯電した前記電子写真感光体30の表面を露光して静電潜像を形成する露光装置13と、
前記静電潜像を現像して可視画像を形成する現像装置と、
前記可視画像を被転写媒体に転写する転写装置と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−237886(P2012−237886A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107162(P2011−107162)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(591044164)株式会社沖データ (2,444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(591044164)株式会社沖データ (2,444)
【Fターム(参考)】
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