説明

電子写真感光体、電子写真感光体の製造方法、及び画像形成装置

【課題】好適な画像を形成することができる電子写真感光体を提供することを目的とする。
【解決手段】導電性基体と感光層とを備えた電子写真感光体であって、前記導電性基体が、X線光電子分光法により最表面を測定して得られたスペクトルにおいて、結合エネルギーが289.5eV以上291eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最大値H1と、結合エネルギーが288eV以上289eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最小値H2とを用いた下記式(1)を満足することを特徴とする電子写真感光体を用いる。
0.7 ≦ H1/H2 ≦ 1 (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、前記電子写真感光体の製造方法、及び前記電子写真感光体を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ、及びこれらの複合機等の電子写真方式を利用した画像形成装置は、像担持体、像担持体の表面を均一に帯電するための帯電装置、像担持体上に静電潜像を形成するための露光装置、像担持体上の静電潜像をトナー像に現像するための現像装置、及び像担持体上のトナー像を用紙上に転写するための転写装置等を備える。前記画像形成装置は、上記各装置によって、上述のようにトナー像を用紙上に転写することによって、画像を用紙上に形成する。
【0003】
このような画像形成装置は、一般的に、像担持体として、表面に感光層を備えた電子写真感光体を備える。そして、電子写真感光体は、画像形成装置に一旦装備されると、頻繁に交換するものではなく、そのまま繰り返し使用されることが多い。このため、画像形成装置に備えられた電子写真感光体は、断続的な画像形成に用いられた場合だけではなく、長期間にわたる連続的な画像形成に用いられた場合であっても、画像形成装置によって形成される画像の画質が低下する等の不具合が発生しないことが求められる。
【0004】
また、このような画像形成装置としては、モノクロ印刷だけではなく、カラー画像を形成するカラー印刷機能を備えたものが求められてきている。さらに、画像形成装置は、小型化、高速化、及び高画質化が求められている。このような、カラー化、小型化、高速化、及び高画質化等の要求を満たすためには、電子写真感光体の露光メモリ対策が必要不可欠である。
【0005】
電子写真方式の画像形成装置に備えられる電子写真感光体としては、セレン等の無機材料からなる感光層を備える無機感光体以外に、結着樹脂、電荷発生剤、及び電荷輸送剤等の有機材料を主成分として含む感光層を備える有機感光体が好ましく用いられる。このような有機感光体は、無機感光体と比較して、製造が容易であるとともに、感光層を構成する有機材料の選択肢が多様で構造設計の自由度が高いことが知られている。
【0006】
また、前記有機感光体としては、例えば、電荷発生剤と電荷輸送剤とが同一層に含有された感光層を備える単層型有機感光体や電荷発生剤を含有する電荷発生層と電荷輸送剤を含有する電荷輸送層とを積層した感光層を備える積層型有機感光体が挙げられる。
【0007】
また、電子写真感光体の製造方法としては、一般的に、導電性基体と呼ばれる、導電性の円筒状素管の周面を洗浄し、その後、その周面上に、感光層を構成する材料を含む塗布液を塗布する。そうすることによって、導電性基体上に感光層が形成された感光体が得られる。
【0008】
導電性基体の洗浄方法としては、例えば、特許文献1に記載の方法が挙げられる。特許文献1には、電子写真感光体用導電性基体表面を界面活性剤含有水中で浸漬洗浄後、最終の純水洗浄工程で浸漬洗浄処理をして該導電性基体表面に付着している界面活性剤を洗い流す電子写真感光体用導電性基体の洗浄方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−27686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1によれば、洗浄後の基体の表面張力が30〜40dyn/cmに保つように該基体を浸漬洗浄することによって、洗浄不良によるハジキ、シミ及び乾燥ムラ、シミ等の発生が抑制され、かつ効率の良いタクトタイムで生産でき、良品率においても、従来の1,1,1−トリクロルエタン洗浄液を使用する場合とほぼ同等の良品率を維持することができ、良品率の低下が防止されて、実用可能な高収率で電子写真感光体が得られることが開示されている。
【0011】
しかしながら、このような洗浄方法により得られた導電性基体を備えた電子写真感光体を用いて、長期間にわたって連続的な画像形成を行うと、露光メモリが発生する等の不具合が発生し、好適な画像が形成されない場合があった。特に、高速プリンタ、や低コスト化のために除電手段を取り除いたプリンタ等の画像形成装置に搭載して、画像を形成させると、露光メモリの発生が顕著であった。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、好適な画像を形成することができる電子写真感光体を提供することを目的とする。また、前記電子写真感光体の製造方法、及び前記電子写真感光体を備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、電子写真感光体の製造条件を検討した結果、電子写真感光体を製造する際に用いられる導電性基体の洗浄が充分でないと、切削油のミスト、空気中のダスト、切粉等により、形成された感光層に、塗布液の塗布の際に発生した、塗布液のはじき、しみ、異物の混入等の塗布欠陥が発生する原因となることに着目した。さらに、塗布欠陥を有する感光層を備えた電子写真感光体を用いて画像形成を行うと、印刷画像に黒ポチ、白ポチ、及びグレー画像印刷時のムラ等が発生し、画像品質に悪影響を及ぼしてしまうこと着目した。
【0014】
これらのことから、本発明者等は、電子写真感光体を作製する上で、導電性基体の洗浄は非常に重要であると認識し、従来の電子写真感光体を備えた画像形成装置で発生する不具合の原因としては、電子写真感光体を構成する導電性基体の表面状態に起因するのではないかと推察した。そして、本発明者等は、導電性基体の表面に、導電性基体の作製時に用いた切削油等の油の残存に着目し、種々検討した。その結果、本発明者等は、単に洗浄して、導電性基体の表面に残存した油を減少させるだけでは不充分な場合があり、前記導電性基体の最表面を、X線光電子分光法により測定して得られたスペクトルの所定のエネルギーにおける強度比が所定の関係となる導電性基体を用いた、以下のような本発明に想到するに到った。
【0015】
本発明の一態様に係る電子写真感光体は、導電性基体と感光層とを備えた電子写真感光体であって、前記導電性基体が、X線光電子分光法により最表面を測定して得られたスペクトルにおいて、結合エネルギーが289.5eV以上291eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最大値H1と、結合エネルギーが288eV以上289eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最小値H2とを用いた下記式(1)を満足することを特徴とする。
【0016】
0.7 ≦ H1/H2 ≦ 1 (1)
このような構成によれば、好適な画像を形成することができる電子写真感光体を提供することができる。さらに、得られた電子写真感光体を、長期間にわたる連続的な画像形成に用いた場合であっても、好適な画像を形成することができる。具体的には、前記電子写真感光体を用いて画像形成を、長期間にわたって行っても、露光メモリの影響の少ない好適な画像を形成することができる。
【0017】
このことは、以下のことによると推察される。
【0018】
前記導電性基体の、X線光電子分光法により最表面を測定して得られたスペクトルにおいて、結合エネルギーが289.5eV以上291eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最大値H1は、エステル基やカルボニル基に由来するものであると推察される。すなわち、結合エネルギーが289.5eV以上291eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最大値H1は、前記導電性基体の表面上における、分子内にエステル基やカルボニル基を有する化合物の存在量の大小を示唆するものであると考えられる。
【0019】
そして、この結合エネルギーが289.5eV以上291eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最大値H1が、近傍の、結合エネルギーが288eV以上289eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最小値H2以下であるということは、前記導電性基体の表面上に存在する、分子内にエステル基やカルボニル基を有する化合物が少ないことを示していると考えられる。
【0020】
一方、前記導電性基体の表面に存在するエステル基やカルボニル基を有する化合物は、感光層から導電性基体への電荷の移動を阻害する働きをすると考えられる。
【0021】
よって、X線光電子分光法により最表面を測定して得られたスペクトルが上記の関係を満たすような導電性基体は、その表面上に、感光層から導電性基体への電荷の移動が阻害されにくく、露光メモリが発生しにくくなっているためと考えられる。
【0022】
以上のことから、前記電子写真感光体を用いて画像形成を、長期間にわたって行っても、露光メモリの影響の少ない好適な画像を形成することができ、好適な画像を形成することができると考えられる。
【0023】
また、前記電子写真感光体において、前記導電性基体が、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることが好ましい。
【0024】
このような構成によれば、より好適な画像を形成することができる電子写真感光体を提供することができる。このことは、感光層から導電性基体への電荷の移動がより良好になることためであると考えられる。
【0025】
また、前記電子写真感光体において、前記感光層が、電荷発生剤、電荷輸送剤、及び結着樹脂を含むことが好ましい。このような構成によれば、より好適な画像を形成することができる電子写真感光体を提供することができる。このことは、このような感光層から発生した電荷が導電性基体へと好適に移動できることによると考えられる。
【0026】
また、前記電子写真感光体において、前記感光層が、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層である感光体である、いわゆる単層型感光体であっても、より好適な画像を形成することができる電子写真感光体を提供することができる。
【0027】
また、前記電子写真感光体において、前記感光層が、前記電荷発生剤及び前記結着樹脂を含有する電荷発生層と、前記電荷輸送剤及び前記結着樹脂を含有する電荷輸送層との少なくとも2つの層を積層したものである感光体である、いわゆる積層型感光体であっても、より好適な画像を形成することができる電子写真感光体を提供することができる。
【0028】
また、本発明の他の一態様に係る電子写真感光体の製造方法は、導電性基体と感光層とを備えた電子写真感光体の製造方法であって、前記導電性基体が、X線光電子分光法により最表面を測定して得られたスペクトルにおいて、結合エネルギーが289.5eV以上291eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最大値H1と、結合エネルギーが288eV以上289eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最小値H2とを用いた下記式(1)を満足するように、前記導電性基体に表面処理を施す表面処理工程と、前記表面処理後の導電性基体上に、前記感光層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0029】
0.7 ≦ H1/H2 ≦ 1 (1)
このような構成によれば、好適な画像を形成することができる電子写真感光体を容易に製造することができる。具体的には、露光メモリの影響の少ない好適な画像を形成することができる電子写真感光体を容易に製造することができる。
【0030】
また、前記電子写真感光体の製造方法において、前記表面処理工程が、超音波振動を印加する工程、及び陽極酸化処理を施す工程の少なくとも一方を含むことが好ましい。このような構成によれば、好適な画像を形成することができる電子写真感光体をより容易に製造することができる。
【0031】
また、本発明の他の一態様に係る画像形成装置は、像担持体と、前記像担持体の表面を帯電するための帯電装置と、前記像担持体の表面を露光して静電潜像を形成するための露光装置と、前記静電潜像をトナー像として現像するための現像装置と、前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写装置とを備え、前記像担持体が、前記電子写真感光体である画像形成装置である。
【0032】
このような構成によれば、長期間にわたる連続的な画像形成に用いられた場合であっても、好適な画像を形成することができる。具体的には、露光メモリの影響の少ない好適な画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、好適な画像を形成することができる電子写真感光体を提供することができる。また、前記電子写真感光体の製造方法、及び前記電子写真感光体を備える画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る電子写真感光体の一例である単層型感光体の構造を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電子写真感光体の一例である積層型感光体の構造を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電子写真感光体を備えた画像形成装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0036】
本実施形態に係る電子写真感光体は、導電性基体と感光層とを備えた電子写真感光体であって、前記導電性基体が、X線光電子分光法により最表面を測定して得られたスペクトルにおいて、結合エネルギーが289.5eV以上291eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最大値H1と、結合エネルギーが288eV以上289eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最小値H2とを用いた下記式(1)を満足するものである。
【0037】
0.7 ≦ H1/H2 ≦ 1 (1)
また、前記電子写真感光体は、上記式(1)を満たしていればよいが、下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0038】
0.8 ≦ H1/H2 ≦ 0.98 (2)
H1/H2が小さすぎる場合、前記導電性基体を洗浄等の表面処理をしすぎて、前記導電性基体表面に傷や変形等が発生し、その傷や変形等によって、前記感光層からの前記導電性基体への電荷の移動が阻害される傾向がある。また、H1/H2が大きすぎる場合、前記感光層からの前記導電性基体への電荷の移動が阻害され、露光メモリの発生を充分に抑制できない傾向がある。このことは、前記導電性基体表面上に存在する、分子内にエステル基やカルボニル基を有する化合物の量が多すぎることによると考えられる。
【0039】
よって、上記のような電子写真感光体、すなわち、上記式(1)を満たす導電性基体を備えた電子写真感光体は、好適な画像を形成することができる。さらに、断続的な画像形成に用いた場合長期間にわたる連続的な画像形成に用いた場合であっても、好適な画像を形成することができる。さらに、長期間にわたる連続的な画像形成に用いられた場合であっても、好適な画像を形成することができる。具体的には、前記電子写真感光体を用いて画像形成を、長期間にわたって行っても、露光メモリの影響の少ない好適な画像を形成することができる。
【0040】
また、ここでのX線光電子分光法は、公知の方法を用いることができ、具体的には、例えば、一般的なX線光電子分光分析装置を用いた測定方法等が挙げられる。その際の測定条件としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、X線源として、MgKαを用い、そのX線源の電圧電流値としては、10kV、20mAの条件等が挙げられる。また、X線光電子分光分析装置としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、株式会社島津製作所製のESCA3300s等が挙げられる。
【0041】
そして、前記電子写真感光体は、上記構成を満たしていれば、すなわち、上記式(1)を満たす導電性基体を備えていれば、その他は特に限定されない。具体的には、前記感光層として、電荷発生剤、電荷輸送剤、及び結着樹脂を含む層を用いた感光体等が挙げられる。また、前記電子写真感光体としては、図1に示すような、電荷発生剤、電荷輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層である感光体である、いわゆる単層型感光体であっても、図2に示すような、前記感光層が、電荷発生剤及び結着樹脂を含有する電荷発生層と、電荷輸送剤及び結着樹脂を含有する電荷輸送層との少なくとも2つの層を積層したものである感光体である、いわゆる積層型感光体であってもよい。前記電子写真感光体は、上記構成を満たしていれば、すなわち、上記式(1)を満たす導電性基体を備えていれば、単層型感光体であっても、積層型感光体であっても、好適な画像を形成することができる。なお、図1は、本発明の実施形態に係る電子写真感光体の一例である単層型感光体の構造を示す概略断面図であり、図2は、本発明の実施形態に係る電子写真感光体の一例である積層型感光体の構造を示す概略断面図である。
【0042】
前記電子写真感光体は、上述したように、単層型感光体であっても、積層型感光体であってもよい。
【0043】
まず、前記単層型感光体10は、図1に示すように、導電性基体12と、前記導電性基体12上に、感光層14として、電荷発生剤、電荷輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層とが備えられたものである。そして、前記単層型感光体10は、前記導電性基体12と、前記感光層14とを備えていれば、特に限定されない。具体的には、例えば、図1(a)に示すように、前記導電性基体12上に前記感光層14を直接備えていてもよいし、図1(b)に示すように、前記導電性基体12と前記感光層14との間に中間層16を備えていてもよい。また、図1(a)や図1(b)に示すように、前記感光層14が最外層となって露出していてもよいし、図1(c)に示すように、前記感光層14上に保護層18を備えていてもよい。
【0044】
次に、前記積層型感光体20は、図2に示すように、導電性基体22と、前記導電性基体22上に、感光層として、電荷発生剤及び結着樹脂を含有する電荷発生層24と、電荷輸送剤及び結着樹脂を含有する電荷輸送層22との少なくとも2つの層を積層した層とが備えられたものである。そして、前記積層型感光体20は、前記導電性基体22と、前記電荷輸送層22及び前記電荷発生層24を積層した感光層とを備えていれば、特に限定されない。具体的には、前記積層型感光体20は、図2(a)に示すように、前記導電性基体22上に、前記電荷発生層24及び前記電荷輸送層22の順で積層したものであってもよいし、図2(b)に示すように、前記導電性基体22上に、前記電荷輸送層22及び前記電荷発生層24の順で積層したものであってもよい。また、図2(a)や図2(b)に示すように、前記導電性基体22上に前記感光層を直接備えていてもよいし、図2(c)や図2(e)に示すように、前記導電性基体22と前記感光層との間に中間層16を備えていてもよい。また、図2(d)や図2(f)に示すように、前記電荷輸送層22と前記電荷発生層24との間に中間層16を備えていてもよい。また、図2に示すように、前記感光層が最外層となって露出していてもよいし、前記感光層上に保護層を備えていてもよい。
【0045】
[導電性基体]
前記導電性基体は、電子写真感光体の導電性基体として用いることができ、前記式(1)を満たすものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、前記導電性基体の製造時において、前記式(1)を満たすように表面処理したものや、一般的な導電性基体に、前記式(1)を満たすように表面処理したもの等が挙げられる。
【0046】
前記導電性基体としては、具体的には、例えば、導電性を有する材料で少なくとも表面部が構成されるもの等が挙げられる。すなわち、具体的には、例えば、導電性を有する材料からなるものであってもよいし、プラスチック材料等の表面を、導電性を有する材料で被覆されたものであってもよい。また、導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドニウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等が挙げられる。また、導電性を有する材料としては、前記導電性を有する材料を1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて、例えば、合金等として用いてもよい。また、前記導電性基体としては、上記の中でも、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることが好ましい。そうすることによって、より好適な画像を形成することができる電子写真感光体を提供することができる。このことは、感光層から導電性基体への電荷の移動がより良好になることためであると考えられる。
【0047】
また、前記表面処理としては、前記式(1)を満たす導電性基体が得られれば、特に限定されない。具体的には、例えば、浸漬処理、噴射処理、摩擦処理、及び陽極酸化処理等が挙げられる。
【0048】
前記浸漬処理としては、特に限定されない。具体的には、例えば、導電性基体を処理液に浸漬させた後、流水により洗浄する方法等が挙げられる。導電性基体を処理液に浸漬させている際に、前記処理液に音波振動や超音波振動を印加したり、導電性基体を振動させたり、前記処理液をバブリングさせてもよい。そうすることによって、洗浄効率を高めることができる。
【0049】
また、前記処理液としては、前記式(1)を満たす導電性基体が得られれば、特に限定されない。例えば、水、中性洗剤を含有する中性洗剤水溶液(界面活性剤を含有する水)、有機溶剤、有機溶剤混合水、及びKOH水溶液など塩の水溶液等が挙げられる。また、前記処理液として、分解効果のある溶剤を用い、エッチング処理を行うようにしてもよい。また、必要に応じて、処理液を加温したり、ミスト状にして使用してもよい。
【0050】
前記浸漬処理の好適な例としては、例えば、導電性基体を界面活性剤含有水溶液に浸漬させて、界面活性剤含有水溶液に超音波振動を印加した後、流水により洗浄する方法等が挙げられる。その際、処理時間としては、前記式(1)を満たす導電性基体が得られれば、特に限定されないが、具体的には、例えば、0.5〜10分間程度であることが好ましい。また、処理温度としては、前記式(1)を満たす導電性基体が得られれば、特に限定されないが、具体的には、例えば、10℃〜98℃の範囲内であることが好ましい。
【0051】
前記噴射処理としては、特に限定されない。具体的には、例えば、前記浸漬処理で用いる処理液を、導電性基体に向かって高圧噴射する方法等が挙げられる。
【0052】
前記摩擦処理としては、特に限定されない。具体的には、例えば、導電性基体をブラシ等で摩擦する方法等が挙げられる。
【0053】
前記陽極酸化処理としては、特に限定されない。具体的には、例えば、硫酸水溶液等を電解液として用いた陽極酸化処理等が挙げられる。その際、処理時間としては、前記式(1)を満たす導電性基体が得られれば、特に限定されないが、具体的には、例えば、0.5〜300分間程度であることが好ましい。また、電解液として硫酸水溶液を用いる場合、その濃度としては、前記式(1)を満たす導電性基体が得られれば、特に限定されないが、具体的には、例えば、0.1〜80質量%程度であることが好ましい。また、陽極酸化処理時の化成電圧としては、前記式(1)を満たす導電性基体が得られれば、特に限定されないが、具体的には、例えば、10〜200V程度であることが好ましい。
【0054】
また、前記表面処理は、前記各表面処理を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記表面処理を施す表面処理工程としては、前記各表面処理の中でも、超音波振動を印加する工程、及び陽極酸化処理を施す工程の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0055】
また、前記導電性基体の形状は、特に限定されない。具体的には、例えば、シート状であっても、ドラム状であってもよい。すなわち、適用する画像形成装置の構造に合わせて、シート状であっても、ドラム状であってもよく、特に限定されない。
【0056】
[感光層]
前記感光層としては、電子写真感光体の感光層であれば、特に限定なく適用できる。具体的には、上述したような、図1及び図2に示す感光層等を適用することができる。
【0057】
また、前記感光層に含有される、電荷発生剤、電荷輸送剤、及び結着樹脂等は、特に限定されない。具体的には、例えば、以下に示すものを用いることができる。
【0058】
(電荷発生剤)
前記電荷発生剤としては、電子写真感光体の電荷発生剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、下記式(3)で表されるX型無金属フタロシアニン、Y型オキソチタニルフタロシアニン、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等の無機光導電材料の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料等が挙げられる。
【0059】
【化1】

【0060】
また、前記電荷発生剤は、所望の領域に吸収波長を有するように、前記各電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、前記各電荷発生剤のうち、特に半導体レーザー等の光源を使用したレーザービームプリンタやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、無金属フタロシアニンやオキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料が好適に用いられる。なお、上記フタロシアニン系顔料の結晶形については特に限定されず、種々のものが使用される。また、ハロゲンランプ等の白色の光源を使用した静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置には、可視領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば、ペリレン顔料やビスアゾ顔料等が好適に用いられる。
【0061】
(電荷輸送剤)
前記電荷輸送剤としては、電子写真感光体の感光層に含まれる電荷輸送剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。また、電荷輸送剤としては、一般的に、正孔輸送剤と電子輸送剤とが挙げられる。
【0062】
前記正孔輸送剤としては、電子写真感光体の感光層に含まれる正孔輸送剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ベンジジン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物、縮合多環式化合物等が挙げられる。この中でも、トリフェニルアミン系化合物やベンジジン誘導体が好ましい。好ましい電荷輸送剤としては、例えば、下記式(4)で表されるベンジジン誘導体が挙げられる。
【0063】
【化2】

【0064】
また、前記正孔輸送剤としては、前記例示した各正孔輸送剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
また、前記電子輸送剤としては、電子写真感光体の感光層に含まれる電子輸送剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、キノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。この中でも、キノン誘導体やナフトキノン誘導体が好ましい。好ましい正孔輸送剤としては、例えば、下記式(5)で表される化合物が挙げられる。
【0066】
【化3】

【0067】
また、前記電子輸送剤としては、前記例示した各電子輸送剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
(結着樹脂)
前記結着樹脂としては、電子写真感光体の感光層に含まれる結着樹脂として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂や、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂、さらにエポキシアクリレート樹脂、ウレタン−アクリレート共重合樹脂等の光硬化性樹脂等が挙げられる。この中でも、ポリカーボネート樹脂が好ましい。また、前記結着樹脂としては、前記例示した各結着樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
(添加剤)
前記感光体には、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤、及び結着樹脂以外の各種添加剤を含有してもよい。前記添加剤としては、具体的には、例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、及びレベリング剤等が挙げられる。また、感光層の感度を向上させるために、例えばテルフェニル、ハロナフトキノン類、アセナフチレン等の公知の増感剤を電荷発生剤と併用してもよい。
【0070】
[電子写真感光体の製造方法]
次に、電子写真感光体の製造方法について説明する。
【0071】
まず、前記単層型感光体の製造方法について説明する。
【0072】
前記単層型感光体は、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤、前記結着樹脂、及び必要に応じて各種添加剤等を溶剤に溶解又は分散させた塗布液を、塗布等によって、前記導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、製造することができる。前記塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ディップコート法等が挙げられる。
【0073】
前記単層型感光体において、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤、及び前記結着樹脂の各含有量は、適宜選定され、特に限定されない。具体的には、例えば、前記電荷発生剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜30質量部であることがより好ましい。また、前記電子輸送剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、5〜100質量部であることが好ましく、10〜80質量部であることがより好ましい。また、前記正孔輸送剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、5〜500質量部であることが好ましく、25〜200質量部であることがより好ましい。さらに、正孔輸送剤と電子輸送剤との総量、すなわち、前記電荷輸送剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、20〜500質量部であることが好ましく、30〜200質量部であることがより好ましい。また、前記感光層に電子受容性化合物を含有させる場合は、前記電子受容性化合物の含有量が結着樹脂100質量部に対して0.1〜40質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましい。
【0074】
また、前記単層型感光体の感光層の厚さは、感光層として充分に作用することができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、5〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることが好ましい。
【0075】
次に、前記積層型感光体の製造方法について説明する。
【0076】
前記積層型感光体は、以下のような方法等によって、製造することができる。
【0077】
具体的には、例えば、まず、前記電荷発生剤、結着樹脂、及び必要に応じて各種添加剤等を溶剤に溶解又は分散させた電荷発生層形成用塗布液と、前記電荷輸送剤、結着樹脂、及び必要に応じて各種添加剤等を溶剤に溶解又は分散させた電荷輸送層形成用塗布液とを調製する。そして、前記電荷発生層形成用塗布液及び前記電荷輸送層形成用塗布液のいずれか一方の塗布液を、塗布等によって、前記導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、前記電荷発生層及び前記電荷輸送層のいずれか一方を形成させる。その後、他方の塗布液を、前記電荷発生層又は前記電荷輸送層が形成された導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、他方の層を形成させる。そうすることによって、前記積層型感光体を製造することができる。前記塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ディップコート法等が挙げられる。
【0078】
前記積層型感光体において、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤、及び前記結着樹脂の各含有量は、適宜選定され、特に限定されない。具体的には、例えば、前記電荷発生剤の含有量は、前記電荷発生層を構成する結着樹脂100質量部に対して、5〜1000質量部であることが好ましく、30〜500質量部であることがより好ましい。前記電荷発生層に電子受容性化合物又は電子供与性化合物を含有させる場合は、前記電子受容性化合物の含有量と前記電子供与性化合物の含有量との合計が前記電荷発生層を構成する結着樹脂100質量部に対して0.1〜40質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましい。
【0079】
また、前記電荷輸送剤の含有量は、前記電荷輸送層を構成する結着樹脂100質量部に対して、10〜500質量部であることが好ましく、25〜100質量部であることがより好ましい。前記電荷輸送層に、電荷輸送剤として電子受容性化合物を含有させる場合は、前記電子受容性化合物の含有量が前記電荷輸送層を構成する結着樹脂100質量部に対して40質量部以下であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましい。
【0080】
また、前記電荷発生層及び前記電荷輸送層の各層の厚さは、それぞれの層として充分に作用することができれば、特に限定されない。前記電荷発生層の厚さは、具体的には、例えば、0.01〜5μmであることが好ましく、0.1〜3μmであることがより好ましい。また、前記電荷輸送層の厚さは、具体的には、例えば、2〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。
【0081】
また、前記塗布液に含有される溶剤としては、前記各成分を溶解又は分散させることができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶剤は、前記例示した溶剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
前記電子写真感光体は、例えば、後述の画像形成装置の像担持体として用いることができる。そうすることによって、前記電子写真感光体を備えた画像形成装置を構成することができる。
【0083】
[画像形成装置]
前記電子写真感光体を備えるための画像形成装置としては、電子写真方式の画像形成装置であれば、特に限定されない。また、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が好ましい。より具体的には、例えば、後述するような、複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が挙げられる。ここでは、タンデム方式のカラー画像形成装置について説明する。なお、本実施形態に係る電子写真感光体を備えた画像形成装置は、各表面上にそれぞれ異なった各色のトナーによるトナー像を形成させるために、所定方向に並設された、複数の像担持体と、各像担持体に対向して配置され、表面にトナーを担持して搬送し、搬送されたトナーを、前記各像担持体の表面にそれぞれ供給する、現像ローラを備えた複数の現像装置とを備え、前記像担持体として、前記電子写真感光体を用いることを特徴とする。
【0084】
図3は、本発明の実施形態に係る電子写真感光体を備えた画像形成装置の構成を示す概略図である。ここでは、前記画像形成装置1としては、カラープリンタ1を例に挙げて説明する。
【0085】
このカラープリンタ1は、図3に示すように、箱型の機器本体1aを有している。この機器本体1a内には、用紙Pを給紙する給紙部2と、この給紙部2から給紙された用紙Pを搬送しながら当該用紙Pに画像データ等に基づくトナー像を転写する画像形成部3と、この画像形成部3で用紙P上に転写された未定着トナー像を用紙Pに定着する定着処理を施す定着部4とが設けられている。さらに、前記機器本体1aの上面には、前記定着部4で定着処理の施された用紙Pが排紙される排紙部5が設けられている。
【0086】
前記給紙部2は、給紙カセット121、ピックアップローラ122、給紙ローラ123,124,125、及びレジストローラ126を備えている。給紙カセット121は、機器本体1aから挿脱可能に設けられ、各サイズの用紙Pを貯留する。ピックアップローラ122は、給紙カセット121の図3に示す左上方位置に設けられ、給紙カセット121に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。給紙ローラ123,124,125は、ピックアップローラ122によって取り出された用紙Pを用紙搬送路に送り出す。レジストローラ126は、給紙ローラ123,124,125によって用紙搬送路に送り出された用紙Pを一時待機させた後、所定のタイミングで画像形成部3に供給する。
【0087】
また、給紙部2は、機器本体1aの図3に示す左側面に取り付けられる不図示の手差しトレイとピックアップローラ127とをさらに備えている。このピックアップローラ127は、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。ピックアップローラ127によって取り出された用紙Pは、給紙ローラ123,125によって用紙搬送路に送り出され、レジストローラ126によって、所定のタイミングで画像形成部3に供給される。
【0088】
前記画像形成部3は、画像形成ユニット7と、この画像形成ユニット7によってその表面(接触面)にコンピュータ等から電送された画像データに基づくトナー像が1次転写される中間転写ベルト31と、この中間転写ベルト31上のトナー像を給紙カセット121から送り込まれた用紙Pに2次転写させるための2次転写ローラ32とを備えている。
【0089】
前記画像形成ユニット7は、上流側(図3では右側)から下流側に向けて順次配設されたブラック用ユニット7Kと、イエロー用ユニット7Yと、シアン用ユニット7Cと、マゼンタ用ユニット7Mとを備えている。各ユニット7K,7Y,7C及び7Mは、それぞれの中央位置に像担持体としての感光体ドラム37が矢符(時計回り)方向に回転可能に配置されている。そして、各感光体ドラム37の周囲には、帯電器39、露光装置38、現像装置71、不図示のクリーニング装置及び除電手段としての除電器等が、回転方向上流側から順に各々配置されている。なお、前記感光体ドラム37としては、前記電子写真感光体を用いる。また、本実施形態に係る電子写真感光体は、除電手段としての除電器を取り除いた画像形成装置(プリンタ)にも適用可能である。
【0090】
帯電器39は、矢符方向に回転されている感光体ドラム37の周面を均一に帯電させる。帯電器39としては、例えば、非接触型放電方式のコロトロン型およびスコロトロン型の帯電器、接触方式の帯電ローラおよび帯電ブラシ等が挙げられる。露光装置38は、いわゆるレーザ走査ユニットであり、帯電器39によって均一に帯電された感光体ドラム37の周面に、上位装置であるパーソナルコンピュータ(PC)から入力された画像データに基づくレーザ光を照射し、感光体ドラム37上に画像データに基づく静電潜像を形成する。現像装置71は、静電潜像が形成された感光体ドラム37の周面にトナーを供給することで、画像データに基づくトナー像を形成させる。そして、このトナー像が中間転写ベルト31に1次転写される。クリーニング装置は、中間転写ベルト31へのトナー像の1次転写が終了した後、感光体ドラム37の周面に残留しているトナーを清掃する。除電器は、1次転写が終了した後、感光体ドラム37の周面を除電する。クリーニング装置及び除電器によって清浄化処理された感光体ドラム37の周面は、新たな帯電処理のために帯電器へ向かい、新たな帯電処理が行われる。
【0091】
中間転写ベルト31は、無端状のベルト状回転体であって、表面(接触面)側が各感光体ドラム37の周面にそれぞれ当接するように駆動ローラ33、従動ローラ34、バックアップローラ35、及び1次転写ローラ36等の複数のローラに架け渡されている。また、中間転写ベルト31は、各感光体ドラム37と対向配置された1次転写ローラ36によって感光体ドラム37に押圧された状態で、前記複数のローラによって無端回転するように構成されている。駆動ローラ33は、ステッピングモータ等の駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト31を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラ34、バックアップローラ35、及び1次転写ローラ36は、回転自在に設けられ、駆動ローラ33による中間転写ベルト31の無端回転に伴って従動回転する。これらのローラ34,35,36は、駆動ローラ33の主動回転に応じて中間転写ベルト31を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト31を支持する。
【0092】
1次転写ローラ36は、1次転写バイアス(トナーの帯電極性とは逆極性)を中間転写ベルト31に印加する。そうすることによって、各感光体ドラム37上に形成されたトナー像は、各感光体ドラム37と1次転写ローラ36との間で、駆動ローラ33の駆動により矢符(反時計回り)方向に周回する中間転写ベルト31に重ね塗り状態で順次転写(1次転写)される。
【0093】
2次転写ローラ32は、トナー像と逆極性の2次転写バイアスを用紙Pに印加する。そうすることによって、中間転写ベルト31上に1次転写されたトナー像は、2次転写ローラ32とバックアップローラ35との間で用紙Pに転写され、これによって、用紙Pにカラーの転写画像(未定着トナー像)が転写される。
【0094】
前記定着部4は、画像形成部3で用紙Pに転写された転写画像に定着処理を施すものであり、通電発熱体により加熱される加熱ローラ41と、この加熱ローラ41に対向配置され、周面が加熱ローラ41の周面に押圧当接される加圧ローラ42とを備えている。
【0095】
そして、前記画像形成部3で2次転写ローラ32により用紙Pに転写された転写画像は、当該用紙Pが加熱ローラ41と加圧ローラ42との間を通過する際の加熱による定着処理で用紙Pに定着される。そして、定着処理の施された用紙Pは、排紙部5へ排紙されるようになっている。また、本実施形態のカラープリンタ1では、定着部4と排紙部5との間の適所に搬送ローラ6が配設されている。
【0096】
排紙部5は、カラープリンタ1の機器本体1aの頂部が凹没されることによって形成され、この凹没した凹部の底部に排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ51が形成されている。
【0097】
前記画像形成装置1は、以上のような画像形成動作によって、用紙P上に画像形成を行う。そして、上記のようなタンデム方式の画像形成装置では、前記像担持体として、前記電子写真感光体が備えられているので、高画質な画像を形成することができる。
【実施例】
【0098】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0099】
[実施例1]
(導電性基体の表面処理)
まず、中性洗剤(カンエイ産業株式会社製のクリンスーパーEC)を2質量%となるように含有させた中性洗剤水溶液に、長さ254mm、直径30mmのアルミニウム素管を浸漬させた。その後、25kHzの超音波振動を前記中性洗剤水溶液に5分間印加(超音波洗浄処理)した。その後、アルミニウム素管を中性洗剤水溶液から取り出した。そして、その超音波洗浄処理を施したアルミニウム素管を、80℃の加温したイオン交換水に5分間浸漬した。そうすることによって、表面処理された導電性基体が得られた。
【0100】
そして、上記のように表面処理された導電性基体を、下記の条件で、X線光電子分光法により測定した。その結果、X線光電子分光法により最表面を測定して得られたスペクトルにおいて、結合エネルギーが288eV以上289eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最小値H2に対する、結合エネルギーが289.5eV以上291eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最大値H1の割合(H1/H2:C1s強度比)が、0.94であった。
【0101】
なお、前記スペクトルは、X線光電子分光分析装置(株式会社島津製作所製のESCA3300s)を用い、X線光電子分光法により、得られた導電性基体の最表面を測定することにより得られる。その際の条件としては、X線源として、MgKαを用い、そのX線源の電圧電流値としては、10kV、20mAの条件とした。
【0102】
(感光体の製造)
電荷発生剤として、上記式(3)で表されるX型無金属フタロシアニンを5質量部と、正孔輸送剤として、上記式(4)で表されるベンジジン誘導体を50質量部と、電子輸送剤として、上記式(5)で表される化合物を30質量部と、結着樹脂として、ポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製のTS2020、粘度平均分子量30000)を100質量部とを、テトラヒドロフラン800質量部の中に投入した。そして、ボールミルを用いて、50時間、混合・分散させた。そうすることによって、感光層用の塗布液が得られた。
【0103】
得られた塗布液を、前記導電性基体の上に、ディップコート法で塗布し、130℃40分間熱風乾燥させた。そうすることによって、層厚30μmの感光層が前記導電性基体上に形成された単層型感光体が得られた。
【0104】
[実施例2]
導電性基体の表面処理を、以下のように変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0105】
導電性基体の表面処理としては、実施例1と同様の超音波洗浄処理を施した後に、超音波洗浄処理を施したアルミニウム素管を浸漬させるイオン交換水の温度を、80℃から90℃に変更したこと以外、実施例1と同様である。実施例2においては、このような表面処理を施した導電性基体を用いた。なお、導電性基体のC1s強度比は、0.90であった。
【0106】
[実施例3]
導電性基体の表面処理を、以下のように変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0107】
導電性基体の表面処理としては、まず、実施例1と同様の超音波洗浄処理を施したアルミニウム素管に対して、エッチング液として、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、その水溶液に5分間浸漬させるエッチング処理を施した。その後、流水により5分間洗浄した。実施例3においては、このような表面処理を施した導電性基体を用いた。なお、導電性基体のC1s強度比は、0.89であった。
【0108】
[実施例4]
導電性基体の表面処理を、以下のように変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0109】
導電性基体の表面処理としては、まず、実施例1と同様の超音波洗浄処理を施したアルミニウム素管に対して、電解液として、5質量%の硫酸水溶液を用い、化成電圧として200Vとした陽極酸化処理を60分間施した。その後、流水により5分間洗浄した。実施例4においては、このような表面処理を施した導電性基体を用いた。なお、導電性基体のC1s強度比は、0.87であった。
【0110】
[実施例5]
導電性基体の表面処理を、以下のように変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0111】
導電性基体の表面処理としては、まず、前記エッチング処理を5分間施した後、流水により5分間洗浄した。その後、前記陽極酸化処理を5分間施した後、流水により5分間洗浄した。実施例5においては、このような表面処理を施した導電性基体を用いた。なお、導電性基体のC1s強度比は、0.88であった。
【0112】
[実施例6]
導電性基体の表面処理を、以下のように変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0113】
導電性基体の表面処理としては、まず、前記エッチング処理を5分間施した後、流水により5分間洗浄した。その後、80℃の熱水に5分間浸漬(熱水浸漬処理)した。実施例6においては、このような表面処理を施した導電性基体を用いた。なお、導電性基体のC1s強度比は、0.90であった。
【0114】
[実施例7]
導電性基体の表面処理を、以下のように変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0115】
導電性基体の表面処理としては、まず、実施例1における超音波振動を印加する時間(処理時間)を、5分間から10分間に変更した処理を行った。その後、前記エッチング処理を5分間施した後、流水により5分間洗浄した。その後、前記熱水浸漬処理を5分間施した。実施例7においては、このような表面処理を施した導電性基体を用いた。なお、導電性基体のC1s強度比は、0.88であった。
【0116】
[比較例1]
導電性基体の表面処理として、上記表面処理を何ら施さなかったこと以外、実施例1と同様である。なお、導電性基体のC1s強度比は、1.12であった。
【0117】
[比較例2]
導電性基体の表面処理を、以下のように変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0118】
まず、前記中性洗剤水溶液に、前記アルミニウム素管を浸漬させた。その後、前記中性洗剤水溶液に浸漬させたアルミニウム素管を5分間上下方向に振動させた後、流水により5分間洗浄した。比較例2においては、このような表面処理を施した導電性基体を用いた。なお、導電性基体のC1s強度比は、1.08であった。
【0119】
[比較例3]
導電性基体の表面処理を、以下のように変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0120】
導電性基体の表面処理としては、80℃の熱水に1分間浸漬させた。比較例3においては、このような表面処理を施した導電性基体を用いた。なお、導電性基体のC1s強度比は、1.02であった。
【0121】
[評価]
得られた電子写真感光体については、以下のような方法で評価した。
【0122】
まず、得られた単層型電子写真感光体を、除電手段を取り除いたプリンタ(京セラミタ株式会社製のFS1300D)に搭載し、画像形成装置を得た。
【0123】
そして、得られた画像形成装置を用いて形成された画像について、メモリ画像の評価を行った。
【0124】
具体的には、電子写真感光体(感光体ドラム)1周目分を用いて、黒ベタ部を印字し、感光体ドラム2周目分以降を用いて、グレー画像を印字するような画像形成を、A4サイズの用紙に行った。そして、このような画像形成をA4サイズ用紙に1万枚分印字した後に印字して得られた画像を用いて評価した。この画像に、感光体ドラム2周目分以降を用いて印字されたグレー画像中に、感光体ドラム1周目分を用いて印字された黒ベタ部に相当する画像、いわゆる露光メモリ画像が形成されているか否かを目視で判断した。
【0125】
その際、露光メモリ画像の形成が確認できなければ、「◎」と評価し、露光メモリ画像の形成がわずかに確認できるが実用上問題ないものと判断されれば、「○」と評価し、それ以外であれば、「×」と評価した。
【0126】
その評価結果を、表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
表1からわかるように、H1/H2が1以下の導電性基体を用いて得られた電子写真感光体を用いた場合は、H1/H2が1を超える場合より、露光メモリ画像の発生が少なく、1万枚という長期間にわたる連続的な画像形成に用いた場合であっても、好適な画像を形成することができることがわかった。
【0129】
以上、詳述したように、本発明によれば、好適な画像を形成することができる電子写真感光体を提供することができる。
【符号の説明】
【0130】
10 単層型電子写真感光体
12 導電性基体
14 感光層
16 中間層
18 保護層
20 積層型電子写真感光体
22 電荷輸送層
24 電荷発生層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と感光層とを備えた電子写真感光体であって、
前記導電性基体が、X線光電子分光法により最表面を測定して得られたスペクトルにおいて、結合エネルギーが289.5eV以上291eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最大値H1と、結合エネルギーが288eV以上289eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最小値H2とを用いた下記式(1)を満足することを特徴とする電子写真感光体。
0.7 ≦ H1/H2 ≦ 1 (1)
【請求項2】
前記導電性基体が、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記感光層が、電荷発生剤、電荷輸送剤、及び結着樹脂を含む請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記感光層が、前記電荷発生剤、前記電荷輸送剤、及び前記結着樹脂が同一層に含有される層である請求項3に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記感光層が、前記電荷発生剤及び前記結着樹脂を含有する電荷発生層と、前記電荷輸送剤及び前記結着樹脂を含有する電荷輸送層との少なくとも2つの層を積層したものである請求項3に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
導電性基体と感光層とを備えた電子写真感光体の製造方法であって、
前記導電性基体が、X線光電子分光法により最表面を測定して得られたスペクトルにおいて、結合エネルギーが289.5eV以上291eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最大値H1と、結合エネルギーが288eV以上289eV以下における炭素原子1s軌道に基づく強度の最小値H2とを用いた下記式(1)を満足するように、前記導電性基体に表面処理を施す表面処理工程と、
前記表面処理後の導電性基体上に、前記感光層を形成する工程とを備えることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
0.7 ≦ H1/H2 ≦ 1 (1)
【請求項7】
前記表面処理工程が、超音波振動を印加する工程、及び陽極酸化処理を施す工程の少なくとも一方を含む請求項6に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
像担持体と、
前記像担持体の表面を帯電するための帯電装置と、
前記像担持体の表面を露光して静電潜像を形成するための露光装置と、
前記静電潜像をトナー像として現像するための現像装置と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写するための転写装置とを備え、
前記像担持体が、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体である画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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