説明

電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置

【課題】感光体実用上の負荷に対する耐摩耗性に優れ、高い機械的強度を持ち、さらに電気特性が極めて良好な電子写真感光体を提供する。
【解決手段】導電性支持体上に、感光層を有する電子写真感光体において、該感光層を、式[1]で表される繰り返し構造を有するポリアリレート樹脂と、特定のN,N’ージエナミン化合物とを少なくとも含有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等に用いられる電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置に関する。詳しくは、耐摩耗性に優れ、且つ、応答性、電気特性、または繰り返し特性の良好な電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術は、即時性に優れ且つ高品質の画像が得られること等から、複写機、各種プリンター、印刷機等の分野で広く使われている。電子写真技術の中核となる電子写真感光体として、無公害で成膜が容易、製造が容易である等の利点を有する有機系の光導電材料を使用した電子写真感光体(以下、単に「感光体」ともいう。)が使用されている。
【0003】
有機系の光導電材料を使用した電子写真感光体としては、光導電性微粉末をバインダー樹脂中に分散させたいわゆる分散型の単層型感光体や、電荷発生層及び電荷輸送層を積層した積層型感光体が知られている。積層型感光体は、それぞれ効率の高い電荷発生材料及び電荷輸送材料を組み合わせることにより高感度な感光体が得られること、材料選択範囲が広く安全性の高い感光体が得られること、また、感光層を塗布により容易に形成可能で生産性が高く、コスト面でも有利なこと、等の理由から感光体の主流であり、鋭意開発され実用化されている。
【0004】
一方、単層型感光体は、電気特性面では積層型感光体に比べてやや劣ると共に材料選択の自由度もやや少ないが、感光体表面近傍で電荷を発生させることができるので、高解像度化が可能であり、また、厚膜にしても画像ボケしないことから厚膜化による高耐刷化が可能であるという利点がある。また、単層型感光体は、塗布工程が少なくて済むこと、及び導電性基体(支持体)由来の干渉縞や素管欠陥に対して有利であり無切削管等の安価基体を使用できること等の理由から、低コスト化が可能であるという利点がある。
【0005】
有機光導電性物質を用いた電子写真感光体は、上述の利点を有するが、電子写真感光体として必要とされる特性のすべてを満足するわけではなく、特に、高感度、低残留電位や耐久性のさらなる向上が望まれる。
【0006】
また、高速印刷の要求の高まりから、より高速の電子写真プロセス対応の材料が求められている。この場合、感光体には高感度、高寿命であることの他に、露光されてから現像されるまでの時間が短くなるために応答性が良いことも必要となる。感光体の応答性は、電荷輸送層、なかでも電荷輸送材料により支配されるが、バインダー樹脂によっても大きく変わることが知られている。
【0007】
感光体の感度向上、残留電位の低減、さらに応答性向上への取り組みとして、さまざまな電荷輸送物質が多数提案されている。例えば、特許文献1では、特定の電荷輸送物質を感光層中に含有させることにより、感光体は高感度、低残留電位、さらに高移動度を有すると記載されている。
【0008】
感光体の耐久性向上に関しては、電子写真感光体の表面層用の結着樹脂として、従来、ポリカーボネート樹脂がよく使用されてきたが、近年、ポリカーボネート樹脂よりも機械的強度が高いポリアリレート樹脂を使用することで、電子写真感光体の耐久性を良く向上させる提案がなされている(特許文献2)。
【0009】
さらに、特定構造のジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸残基と特定の構造の二価フェノール残基とを共重合してなるポリアリレート樹脂を感光層中に含有させることにより、感光体の機械的強度、特に耐磨耗性が非常に優れていることが知られている(例えば、特許文献3参照)
【特許文献1】特開平10−312072号公報
【特許文献2】特開平10−039521号公報
【特許文献3】特開2006−53549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に開示のポリアリレート樹脂と特許文献1に開示の電荷輸送物質とを含有する感光層は、耐久性向上の点において優れているが、光感度、残留電位、さらに移動度において、まだ十分な結果が得られていない。また、それ以上に、そのポリアリレート樹脂を含む感光層は電荷輸送材料の選定が難しく、十分な電気特性を発現させることが極めて困難であった。
【0011】
本発明は、このような課題を解決すべくなされたものである。即ち、本発明の目的は、感光体実用上の負荷に対する耐摩耗性に優れ、高い機械的強度を持ち、さらに電気特性が極めて良好な電子写真感光体を提供することにある。また、更に他の目的は、そうした電子写真感光体を有する電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、感光層に特定の構造を有するポリアリレート樹脂を含有させることにより、十分な機械的特性を有し、さらに、当該ポリアリレート樹脂と電気特性上の相性が非常によいのは、エナミン構造を有する電荷輸送材料であることを見いだし、以下の本発明の完成に至った。
【0013】
第1の本発明は、導電性支持体上に、感光層を有する電子写真感光体において、該感光層が、下記式[1]で表される繰り返し構造を有するポリアリレート樹脂と、下記式[6]で表される化合物とを少なくとも含有する、電子写真感光体である。
【0014】
【化1】

(式[1]中、Ar〜Arはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Xは単結合、酸素原子、硫黄原子、下記式[2]で表される基、又は下記式[3]で表される基であって、式[2]中のR及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表し、RとRとが結合して環を形成していてもよく、式[3]中のRは、アルキレン基、アリーレン基、又は下記式[4]で表される基であって、式[4]中のR及びRは、それぞれ独立に、アルキレン基を表し、Arはアリーレン基を表す。kは0〜5の整数を表す。但し、k=0の場合、ArとArのうちいずれか一方は置換基を有するアリーレン基である。
式[1]中、Yは、単結合、酸素原子、硫黄原子、又は下記式[5]表される基であって、式[5]中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基を表し、RとRとが結合して環を形成していてもよい。)
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

(式[6]中、Ar〜Arは、同一または異なっていてもよく、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を表す。)
【0020】
第1の本発明において、前記式[1]中のXは、酸素原子、硫黄原子、前記式[2]で表される基、または前記式[3]で表される基であることが好ましい。
【0021】
第1の本発明において、前記式[6]で表される化合物は、下記式[7]で特定される化合物であることが好ましい。
【0022】
【化7】

(式[7]中、Ar10〜Ar15は、同一または異なっていてもよく、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を表し、nは2以上の整数を表し、Zは一価の有機残基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
【0023】
第2の本発明は、導電性支持体上に、感光層を有する電子写真感光体において、該感光層が、少なくともポリアリレート樹脂と電荷輸送物質を含有し、該電荷輸送物質の密度汎関数計算B3LYP/6−31G(d,p)による構造最適化計算の結果得られた、HOMOのエネルギーレベルE_homoが、次式
E_homo>−4.67(eV)
を満たし、かつ上記B3LYP/6−31G(d,p)による構造最適化計算後に得られた安定構造における制限Hartree−Fock法計算(基底関数は6−31G(d,p)、以下この計算をHF/6−31G(d,p)とする。)による分極率αの計算値αcalが、次式
αcal>70(Å
を満たす、電子写真感光体である。
【0024】
第2の本発明において、ポリアリレート樹脂は、前記式[1]で表される繰り返し構造を有するポリアリレート樹脂であることが好ましい。
【0025】
第1および第2の本発明において、感光層は、電荷発生層および電荷輸送層を備えて構成され、前記導電性支持体上に、該電荷発生層および該電荷輸送層がこの順で積層されてなることが好ましい。
【0026】
第3の本発明は、電子写真感光体を帯電させる帯電手段、帯電した電子写真感光体に対し像露光を行い静電潜像を形成する像露光手段、該静電潜像をトナーで現像する現像手段、該トナーを被転写体に転写する転写手段、該被転写体に転写された該トナーを定着させる定着手段、または、電子写真感光体に付着した該トナーを回収するクリーニング手段から選ばれる少なくとも一つと、第1および第2の本発明の電子写真感光体とを備えてなる電子写真カートリッジである。
【0027】
第4の本発明は、第1および第2の本発明の電子写真感光体、該電子写真感光体を帯電させる帯電手段、帯電した該電子写真感光体に対し露光を行い静電潜像を形成する露光手段、該静電潜像をトナーで現像する現像手段、および、該トナーを被転写体に転写する転写手段を備えてなる画像形成装置である。
【発明の効果】
【0028】
第1および第2の本発明によれば、耐摩耗性に優れ、さらに、応答性、電気特性、または繰り返し特性が極めて優れた電子写真感光体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0030】
[電子写真感光体]
第1の本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に少なくとも感光層を有し、その感光層は下記一般式[1]で表される繰り返し構造を含むポリアリレート樹脂を含有し、さらに一般式[6]で表されるエナミン化合物を含有している。感光層に含まれるポリアリレート樹脂はバインダー樹脂として用いられ、エナミン化合物は電荷輸送材料として用いられる。
【0031】
【化8】

式[1]中、Ar〜Arはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、kは0〜5の整数である。但し、k=0の場合、ArとArのうちいずれか一方は置換基を有するアリーレン基である。
【0032】
式[1]中、Xは、単結合、酸素原子、硫黄原子、又は、下記式[2]もしくは下記式[3]で表される構造を有する2価の有機残基を表す。
【0033】
【化9】

(式[2]中のR及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、若しくはアリール基、又はRとRとが結合して形成されるシクロアルキリデン基を表す。)
【0034】
【化10】

(式[3]中のRは、アルキレン基、アリーレン基、又は、下記式[4]で表される基を表す。)
【0035】
【化11】

(式[4]中のR及びRは、それぞれ独立に、アルキレン基を表し、Arはアリーレン基を表す。)
【0036】
式[1]中、Yは、単結合、酸素原子、硫黄原子、又は、下記式[5]で表される構造を有する2価の有機残基を表す。
【0037】
【化12】

(式[5]中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又は、RとRとが結合して形成されるシクロアルキリデン基を表す。)
【0038】
【化13】

式[6]中、Ar〜Arは、同一または異なっていてもよく、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を表す。
【0039】
さらに、前記エナミン化合物は、特に下記式[7]で表される化合物であることが好ましい。
【0040】
【化14】

(式[7]中、Ar10〜Ar15は、同一または異なっていてもよく、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を表し、nは2以上の整数を表す。Zは一価の有機残基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
【0041】
また、第2の本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に、感光層を有し、該感光層は、少なくともポリアリレート樹脂と電荷輸送物質を含有し、該電荷輸送物質の密度汎関数計算B3LYP/6−31G(d,p)による構造最適化計算の結果得られた、HOMOのエネルギーレベルE_homoが、次式
E_homo>−4.67(eV)
を満たし、かつ上記B3LYP/6−31G(d,p)による構造最適化計算後に得られた安定構造における制限Hartree−Fock法計算(基底関数は6−31G(d,p)、以下この計算をHF/6−31G(d,p)とする)による分極率αの計算値αcalが、次式
αcal>70(Å
を満たすことを特徴とする電子写真感光体である。
【0042】
第2の本発明において、ポリアリレート樹脂は前記式[1]で表される繰り返し構造を有するポリアリレート樹脂であることが好ましい。
【0043】
感光層の具体的な構成としては、導電性支持体上に電荷発生材料を主成分とする電荷発生層と、電荷輸送材料及びバインダー樹脂を主成分とする電荷輸送層とを積層した積層型の感光層、及び、導電性支持体上に電荷輸送材料及びバインダー樹脂を含有する層中に電荷発生材料を分散させた分散型(単層型)の感光層とが代表例として挙げられる。本発明において、上述の一般式[1]で表されるポリアリレート樹脂と一般式[6]または[7]で表されるエナミン化合物とは、通常、感光層を構成する同一の層に用いられ、好ましくは積層型の感光層を構成する電荷輸送層に含まれる。
【0044】
(ポリアリレート樹脂)
最初に、ポリアリレート樹脂について説明する。感光層に含まれるポリアリレート樹脂は、上記一般式[1]で表される繰り返し構造を含むものであり、公知の方法により、例えば二価ヒドロキシアリール成分とジカルボン酸成分とにより製造することができる。
【0045】
一般式[1]中、Ar〜Arはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。前記アリーレン基としては、特に限定はされないが、炭素数6〜20のアリーレン基が好ましく、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基、ピレニレン基が挙げられる。中でも、製造コストの面から、フェニレン基とナフチレン基が特に好ましい。また、フェニレン基とナフチレン基を比較した場合、製造コストの面に加えて合成のし易さの面で、フェニレン基がより好ましい。但し、式[1]中、k=0の場合、ArとArが同時に無置換のアリーレン基の場合、感光層の接着性が悪いことから、ArとArのうちいずれか一方は置換基を有するアリーレン基である。
【0046】
前記アリーレン基にそれぞれ独立に有していても良い置換基については特に限定されないが、例えば、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、縮合多環基、ハロゲン基を好ましく挙げることができる。感光層用バインダー樹脂としての機械的特性と感光層形成用塗布液に対する溶解性を勘案すれば、アリール基としてフェニル基、ナフチル基が好ましく、ハロゲン基としてフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、アルコキシ基としてメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基が好ましく、アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1〜2のアルキル基が特に好ましく、具体的にはメチル基が最も好ましい。Ar〜Arそれぞれの置換基の数に特に制限は無いが、3個以下であることが好ましく、2個以下であることがより好ましく、1個以下であることが特に好ましい。
【0047】
さらに、一般式[1]中、ArとArは同じ置換基を有する同じアリーレン基であることが好ましく、無置換のフェニレン基であることが特に好ましい。また、ArとArも同じアリーレン基であることが好ましく、メチル基を有するフェニレン基であることが特に好ましい。
【0048】
一般式[1]中、Xは、単結合、酸素原子、硫黄原子、式[2]で表される構造、又は式[3]で表される構造を有する2価の有機残基を示す。式[2]中のR及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、若しくはアリール基、又はRとRとが結合して形成されるシクロアルキリデン基を示す。式[2]中のR及びRのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。また、式[2]中のRとRとが結合して形成されるシクロアルキリデン基としては、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基などが挙げられる。さらに、式[3]中のRは、アルキレン基、アリーレン基、又は式[4]で表される基を示す。式[3]中のRのアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などが挙げられ、式[3]中のRのアリーレン基としては、フェニレン基、テルフェニレン基などが挙げられ、式[4]で表される基としては、下記式[8]で表される基などが挙げられる。これらのなかでも、耐磨耗性の観点から、Xは、酸素原子であることが好ましい。
【0049】
【化15】

【0050】
一般式[1]中、kは0〜5の整数であるが、好ましくは0〜1の整数であり、耐磨耗性の観点から1であることが最も好ましい。
【0051】
一般式[1]中、Yは、単結合、硫黄原子、酸素原子、又は式[5]で表される構造を有する2価の有機残基を示す。式[5]中のR及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はRとRとが結合して形成されるシクロアルキリデン基を表す。感光層用バインダー樹脂としての機械的特性と感光層形成用塗布液に対する溶解性を勘案すれば、アリール基として、フェニル基、ナフチル基が好ましく、アルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基が好ましい。また、アルキル基としては、炭素数が1〜10のアルキル基が好ましく、さらに好ましくは炭素数が1〜8であり、特に好ましくは炭素数が1〜2である。ポリアリレート樹脂を製造する際に用いる二価ヒドロキシアリール成分の製造の簡便性を勘案すれば、Yとして、単結合、−O−、−S−、−CH−、−CH(CH)−、−C(CH−、シクロヘキシリデンが好ましく、より好ましくは、−CH−、−CH(CH)−、−C(CH−、シクロヘキシリデンであり、特に好ましくは−CH−、−CH(CH)−である。
【0052】
本発明においては、前記ポリアリレート樹脂として、下記一般式[9]で表される繰り返し構造を含むポリアリレート樹脂であることが好ましい。下記一般式[9]中、Ar16〜Ar19はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Rは水素原子又はアルキル基を表す。
【0053】
【化16】

【0054】
上記一般式[9]中、Ar16〜Ar19は上記Ar〜Arにそれぞれ対応するものであり、特に好ましくは、それぞれ置換基を有していてもよいフェニレン基である。また、好ましい置換基としては、水素原子又はアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。さらに、一般式[9]中、Ar18とAr19はメチル基を有する同じフェニレン基であり、Ar16とAr17は置換基を有さないフェニレン基であることが特に好ましい。また、Rは、水素原子又はアルキル基を表すが、該アルキル基は、好ましくは炭素数が1〜10であり、さらに好ましくは炭素数が1〜8であり、特に好ましくはメチル基である。
【0055】
上記ポリアリレート樹脂の中の二価ヒドロキシアリール残基となる二価ヒドロキシアリール成分は、下記一般式[10]で表されるが、好ましくは下記一般式[11]で表される。
【0056】
【化17】

一般式[10]中のAr、Ar及びYは、既述のとおりである。
【0057】
【化18】

一般式[11]中のAr18及びAr19は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいフェニレン基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。
【0058】
具体的には、一般式[11]中のRが水素原子の場合、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(3−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3−ヒドロキシフェニル)メタン、(3−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)メタン、(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)メタン、(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、ビス(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)メタン、ビス(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)メタン、(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタンが挙げられる。また、Rがメチル基の場合は、1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(3−ヒドロキシフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−ヒドロキシフェニル)エタン、1−(3−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)−1−(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)−1−(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)エタン、1−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−1−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1−(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)−1−(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタンが挙げられる。
【0059】
この中でも、一般式[11]中のRが水素原子の場合には、二価ヒドロキシアリール成分の製造の簡便性を考慮すれば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタンが特に好ましく、これらの二価ヒドロキシアリール成分を複数組み合わせて用いることも可能である。
【0060】
また、一般式[11]中のRがメチル基の場合には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタンが特に好ましく、これらの二価ヒドロキシアリール成分を複数組み合わせて用いることも可能である。
【0061】
一般式[10]に一般式[11]は含まれるが、以下に、上記一般式[11]の例示以外の一般式[10]の化合物についても説明する。
【0062】
一般式[10]で表される二価ヒドロキシアリール成分の具体例としては、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,4,3’,5’−テトラメチル−3,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’,4,4’−テトラメチル−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エーテル、(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)エーテル、ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)メタン、ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、1−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−1−(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)エタン、1,1−ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−2−(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−1−(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)シクロヘキサンが挙げられ、好ましくは、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサンである。
【0063】
あるいは、ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシフェニル)(3−ヒドロキシフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3−ヒドロキシフェニル)エーテル、(3−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エーテル、ビス(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)エーテル、ビス(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)エーテル、(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エーテル、さらには、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メトキシメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−メトキシエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−メトキシプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメトキシメタン、等が挙げられる。
【0064】
この中でも、二価ヒドロキシアリール成分の製造の簡便性を考慮すれば、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、あるいは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エーテルが特に好ましく、これらの二価ヒドロキシアリール成分を複数組み合わせて用いることも可能である。
【0065】
上記ポリアリレート樹脂の中のジカルボン酸残基であるジカルボン酸成分は、下記一般式[12]で表される。
【0066】
【化19】

一般式[12]中のAr、Ar、X、及びkは既述の通りであり、式[12]に含まれるジカルボン酸残基として、下記一般式[I]〜[VI]で表される構造を例示することができ、好ましくは下記一般式[13]で表される。
【0067】
【化20】

【0068】
【化21】

【0069】
【化22】

【0070】
【化23】

【0071】
【化24】

【0072】
【化25】

【0073】
【化26】

【0074】
一般式[13]中のAr16及びAr17も既述の通りであるが、好ましくは置換基を有していてもよいフェニレン基である。
【0075】
好ましいジカルボン酸残基の具体的としては、ジフェニルエーテル−2,2’−ジカルボン酸残基、ジフェニルエーテル−2,3’−ジカルボン酸残基、ジフェニルエーテル−2,4’−ジカルボン酸残基、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸残基、ジフェニルエーテル−3,4’−ジカルボン酸残基、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸残基等が挙げられる。これらの中でも、ジカルボン酸成分の製造の簡便性を考慮すれば、ジフェニルエーテル−2,2’−ジカルボン酸残基、ジフェニルエーテル−2,4’−ジカルボン酸残基、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸残基がより好ましく、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸残基が特に好ましい。
【0076】
上記ポリアリレート樹脂は、他のジカルボン酸成分を含み、構造の一部に一般式[1]を内包する樹脂でもよい。その他のジカルボン酸残基の具体例としては、アジピン酸残基、スベリン酸残基、セバシン酸残基、フタル酸残基、イソフタル酸残基、テレフタル酸残基、トルエン−2,5−ジカルボン酸残基、p−キシレン−2,5−ジカルボン酸残基、ピリジン−2,3−ジカルボン酸残基、ピリジン−2,4−ジカルボン酸残基、ピリジン−2,5−ジカルボン酸残基、ピリジン−2,6−ジカルボン酸残基、ピリジン−3,4−ジカルボン酸残基、ピリジン−3,5−ジカルボン酸残基、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸残基、ナフタレン−2,3−ジカルボン酸残基、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸残基、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸残基、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸残基が挙げられ、好ましくは、アジピン酸残基、セバシン酸残基、フタル酸残基、イソフタル酸残基、テレフタル酸残基、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸残基、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸残基、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸残基、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸残基であり、特に好ましくは、イソフタル酸残基、テレフタル酸残基であり、これらのジカルボン酸残基を複数組み合わせて用いることも可能である。
【0077】
なお、一般式[12]のジカルボン酸残基と上述した他のジカルボン酸残基とを有する場合、一般式[12]のジカルボン酸残基が、繰り返しユニットの個数として70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。最も好ましくは、一般式[12]のジカルボン酸残基のみを有する場合、すなわち、一般式[12]のジカルボン酸残基が、繰り返しユニットの個数として100%である場合である。
【0078】
また、本発明を構成するポリアリレート樹脂は、他の樹脂と混合して、電子写真感光体に用いることも可能である。ここで併用される他の樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体、及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアリレートポリカーボネート、ポリスルホン、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂や種々の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これら樹脂のなかでもポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0079】
併用する樹脂の混合割合は、特に限定されないが、本発明の効果を十分に得るためには、本発明のポリアリレート樹脂の割合を超えない範囲で併用することが好ましく、特には他の樹脂を併用しないことが好ましい。
【0080】
一般式[1]又は[9]で表される繰り返し構造を含むポリアリレート樹脂において、それぞれの粘度平均分子量は、感光層を塗布形成するのに適するよう、通常10,000以上、好ましくは15,000以上、さらに好ましくは20,000以上であり、通常300,000以下、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下である。粘度平均分子量が10,000未満であると樹脂の機械的強度が低下し実用的でなく、300,000を超えると、感光層を適当な膜厚に塗布形成することが困難である。
上述したポリアリレート樹脂は電子写真感光体に用いられ、該感光体の導電性支持体上に設けられる感光層中のバインダー樹脂として用いられる。
【0081】
(エナミン化合物)
次に、エナミン化合物について説明する。本発明において、電子写真感光体の感光層に含まれるエナミン化合物は、下記式[6]
【0082】
【化27】

(式[6]中、Ar〜Arは、同一または異なっていてもよく、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を示す。)
で表される電荷輸送性材料である。
【0083】
一般式[6]中、Ar〜Arとしては、6〜20の炭素原子を有するアリール基が好ましく、それぞれ同一でも異なっていても良い。例えば、フェニル、ナフチル、フルオレニル、アントリル、フェナントリル、ピレニルが挙げられる。製造コストの面で、フェニル、ナフチルのような6〜10の炭素原子を有するアリール基が特に好ましい。さらに、置換基を有する場合、該置換基としては、Hammett則における置換基定数σが0.20以下である置換基が好ましい。
【0084】
ここで、Hammett則は、芳香族化合物における置換基が芳香環の電子状態に与える効果を説明するために用いられる経験則であって、置換ベンゼンの置換基定数σは、置換基の電子供与/吸引の程度を定量化した値といえる。σ値が正であれば置換安息香酸の方が無置換のものより酸性が強い、つまり電子吸引性置換基となる。逆にσ値が負であると電子供与性置換基となる。表1は、代表的な置換基のσ値である(日本化学会編、「化学便覧 基礎編II 改訂4版」、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、364頁〜365頁)。
【0085】
【表1】

【0086】
さらに、前記電荷輸送性材料は、下記式[7]
【0087】
【化28】

(式[7]中、Ar10〜Ar15は、同一または異なっていてもよく、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を示し、nは2以上の整数を表す。Zは一価の有機残基を示し、mは0〜4の整数を表す。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0088】
一般式[7]中、Ar10〜Ar15としては、6〜20の炭素原子を有するアリール基が好ましく、それぞれ同一でも異なっていても良い。例えば、フェニル、ナフチル、フルオレニル、アントリル、フェナントリル、ピレニルが挙げられる。製造コストの面で、フェニル、ナフチルのような6〜10の炭素原子を有するアリール基が特に好ましい。さらに、置換基を有する場合、該置換基としては、1〜10の炭素原子を有し、かつHammett則における置換基定数σpが0.20以下である置換基が好ましい。Zは一価の有機残基を示し、かつHammett則における置換基定数σpが0.20以下である置換基が好ましい。
【0089】
そうした置換基あるいは一価の有機残基Zとしては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜4のアルキルアミノ基、炭素数6〜10のアリール基などが挙げられ、具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、フェニル、4−トリル、4−エチルフェニル、4−プロピルフェニル、4−ブチルフェニル、ナフチルなどが挙げられる。中でも、電気特性の面から、炭素数1〜4の炭化水素基が特に好ましい。
【0090】
前記一般式[7]中、nとしては、2以上の整数が好ましい。相溶性や製造コストなどの観点から総合的に考えると、n=2の場合が特に好ましい。mとしては、0〜1の整数が好ましいが、製造コストの観点から考え、m=0の場合は特に好ましい。
【0091】
一般式[6]、[7]で表されるエナミン系化合物の代表例として、以下の例示化合物CT−1〜CT−22が挙げられる。ただし、本発明に関わるエナミン系化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0092】
【化29】

【0093】
【化30】

【0094】
【化31】

【0095】
【化32】

【0096】
【化33】

【0097】
【化34】

【0098】
【化35】

【0099】
【化36】

【0100】
【化37】

【0101】
【化38】

【0102】
【化39】

【0103】
【化40】

【0104】
【化41】

【0105】
【化42】

【0106】
【化43】

【0107】
【化44】

【0108】
【化45】

【0109】
【化46】

【0110】
【化47】

【0111】
【化48】

【0112】
これらのエナミン誘導体は、公知の方法により容易に合成することができる。例えば、本発明の例示化合物CT−9は、次の反応式に従って製造することができる。
【0113】
【化49】

【0114】
ジアリールアミン誘導体Aをp−トルエンスルホン酸などの酸触媒の存在下で、ジアリールアセトアルデヒドBと還流脱水することによって縮合させ、目的物である電荷輸送材CT−9を得ることができる。
【0115】
上述の通り、本発明においては、電荷輸送材料としてエナミン化合物が用いられるが、エナミン化合物は単独で用いても他の電荷輸送性材料と併用で使用しても良い。併用する電荷輸送性材料としては、公知の材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、2,4,7−トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子吸引性材料、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖、もしくは、側鎖に有する重合体等の電子供与性材料等が挙げられる。これらの中で、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ヒドラゾン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。
【0116】
(電荷輸送材料の好ましいパラメータ範囲)
電荷輸送物質のB3LYP/6−31G(d,p)を用いた構造最適化計算によるHOMOのエネルギーレベルE_homoは、E_homo>−4.67(eV)が好ましく、E_homo>−4.65(eV)がより好ましく、E_homo>−4.63(eV)が最も好ましい。HOMOのエネルギーレベルが高いほど、露光後電位が低く優れた電子写真感光体が得られるからである。一方、E_homoが高すぎると、耐ガス性の低下、ゴーストの発生等の不具合が出るため、E_homo<−4.30(eV)が好ましく、E_homo<−4.50(eV)がより好ましく、E_homo<−4.56(eV)が最も好ましい。
【0117】
さらにB3LYP/6−31G(d,p)を用いた構造最適化計算後に得られた安定構造におけるHF/6−31G(d,p)計算による分極率αの計算値αcalは、αcal>70(Å)であることが好ましく、αcal>80(Å)であることがより好ましく、αcal>90(Å)であることが最も好ましい。αcalの値が大きい電荷輸送物質を含む電荷輸送膜は高い電荷移動度を示し、該電荷輸送膜を用いることにより、帯電性、感度などに優れた電子写真感光体が得られるからである。一方、αcalが大きすぎると電荷輸送物質の溶解性が低下することから、通常αcal<200(Å)であり、αcal<150(Å)であることが好ましく、αcal<130(Å)であることがより好ましく、αcal<110(Å)であることが最も好ましい。
【0118】
本発明においてHOMOのエネルギーレベルE_homoは密度汎関数法の一種であるB3LYP(A.D. Becke, J.Chem.Phys. 98,5648(1993), C.Lee, W.Yang, and R.G. Parr, Phys.Rev.B37,785(1988)及びB. Miehlich, A.Savin, H.Stoll, and H.Preuss, Chem.Phys.Lett. 157,200(1989)参照)を用い構造最適化計算により安定構造を求めて得た。この時、基底関数系として6−31Gに分極関数を加えた6−31G(d,p)を用いた(R. Ditchfield, W. J. Hehre, and J. A. Pople, J. Chem. Phys. 54, 724 (1971), W. J. Hehre, R. Ditchfield, and J. A. Pople, J. Chem. Phys. 56, 2257 (1972), P. C. Hariharan and J. A. Pople, Mol. Phys. 27, 209 (1974), M. S. Gordon, Chem. Phys. Lett. 76, 163 (1980), P. C. Hariharan and J. A. Pople, Theo. Chim. Acta 28, 213 (1973), J.-P. Blaudeau, M. P. McGrath, L. A. Curtiss, and L. Radom, J. Chem. Phys. 107, 5016 (1997), M. M. Francl, W. J. Pietro, W. J. Hehre, J. S. Binkley, D. J. DeFrees, J. A. Pople, and M. S. Gordon, J. Chem. Phys. 77, 3654 (1982), R. C. Binning Jr. and L. A. Curtiss, J. Comp. Chem. 11, 1206 (1990), V. A. Rassolov, J. A. Pople, M. A. Ratner, and T. L. Windus, J. Chem. Phys. 109, 1223 (1998), 及びV. A. Rassolov, M. A. Ratner, J. A. Pople, P. C. Redfern, and L. A. Curtiss, J. Comp. Chem. 22, 976 (2001)を参照)。本発明において6−31G(d,p)を用いたB3LYP計算を B3LYP/6−31G(d,p)と記述する。
【0119】
さらに分極率αcalは上記B3LYP/6−31G(d,p)による構造最適化計算により得られた安定構造において、制限Hartree−Fock法計算(“Modern Quantum Chemistry”, A. Szabo and N.S. Ostlund, McGraw-Hill publishing company, New York, 1989を参照)により求めた。この時、基底関数は6−31G(d,p)を用いた。本発明において6−31G(d,p)を用いたHartree−Fock計算をHF/6−31G(d,p)と記述する。
【0120】
本発明では、B3LYP/6−31G(d,p)計算及びHF/6−31G(d,p)計算とも用いたプログラムはGaussian 03, Revision D.01( M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb, J. R. Cheeseman, J. A. Montgomery, Jr., T. Vreven, K. N. Kudin, J. C. Burant, J. M. Millam, S. S. Iyengar, J. Tomasi, V. Barone, B. Mennucci, M. Cossi, G. Scalmani, N. Rega, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota, R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai, M. Klene, X. Li, J. E. Knox, H. P. Hratchian, J. B. Cross, V. Bakken, C. Adamo, J. Jaramillo, R. Gomperts, R. E. Stratmann, O. Yazyev, A. J. Austin, R. Cammi, C. Pomelli, J. W. Ochterski, P. Y. Ayala, K. Morokuma, G. A. Voth, P. Salvador, J. J. Dannenberg, V. G. Zakrzewski, S. Dapprich, A. D. Daniels, M. C. Strain, O. Farkas, D. K. Malick, A. D. Rabuck, K. Raghavachari, J. B. Foresman, J. V. Ortiz, Q. Cui, A. G. Baboul, S. Clifford, J. Cioslowski, B. B. Stefanov, G. Liu, A. Liashenko, P. Piskorz, I. Komaromi, R. L. Martin, D. J. Fox, T. Keith, M. A. Al-Laham, C. Y. Peng, A. Nanayakkara, M. Challacombe, P. M. W. Gill, B. Johnson, W. Chen, M. W. Wong, C. Gonzalez, and J. A. Pople, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2004.)である。
【0121】
本発明のパラメータを満たす電荷輸送材料の構造に制限はなく、エナミン誘導体、カルバゾール誘導体、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖、もしくは側鎖に有する重合体等の電子供与性材料等が挙げられる。これらの中で、エナミン誘導体、スチルベン誘導体、ヒドラゾン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましく、中でもエナミン誘導体が好ましい。一方、ポリアリレート樹脂をバインダーに用いた場合、特開2007−213052に示されたように、電荷輸送材料としてブタジエン誘導体を用いると塗布液の劣化が進行しやすいため、本発明の電荷輸送材料としてはブタジエン骨格を有さないものが好ましい。
また、本発明のパラメータを有する電荷輸送材料は、本発明のパラメータの範囲外の電荷輸送材料と併用しても構わないが、前述の本発明の効果を十分に発揮するには、全電荷輸送材料中、本発明のパラメータを有する電荷輸送材料は通常30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、100質量%であることが最も好ましい。
【0122】
また、本発明のパラメータを有する電荷輸送材料は、前述の本発明の効果を十分に発揮するには、バインダー樹脂100質量部に対して、通常30質量部以上、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。また、本発明のパラメータを有する電荷輸送材料は、比較的少ない量でも効果を発揮できる利点を有しており、耐磨耗性についても鑑みると、好ましくは90質量部位以下、より好ましくは70質量部以下、最も好ましくは55質量部以下である。
【0123】
また、本発明のパラメータを有する電荷輸送材料は、式[1]で表される繰り返し構造を有するポリアリレート樹脂を用いる場合に、特に有効である。ポリアリレート樹脂を用いた場合、ポリカーボネート樹脂を用いた場合に比べて、電気特性が悪化するが、本発明のパラメータを有する電荷輸送材料を用いた場合、優れた耐磨耗性と電気特性を両立することができる。式[1]で表される繰り返し構造を有するポリアリレート樹脂の好ましい構造は、前述したポリアリレート樹脂の説明と同様である。
【0124】
以下に、本発明のパラメータを有する電荷輸送材料の例を挙げる。
【0125】
【化50】

【0126】
(導電性支持体)
導電性支持体としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫等の導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(インジウム−スズ酸化物)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等が主として使用される。形態としては、ドラム状、シート状、ベルト状等のものが用いられる。金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性等の制御のため及び欠陥被覆のため、適当な抵抗値を持つ導電性材料を塗布したものでも良い。
【0127】
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合には、陽極酸化処理、化成皮膜処理等を施してから用いても良い。陽極酸化処理を施した場合には、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
【0128】
導電性支持体の表面は、平滑であっても良いし、特別な切削方法や研磨処理方法を施して粗面化したものであっても良い。また、導電性支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化したものであっても良い。
【0129】
(下引き層)
導電性支持体と感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。
下引き層としては、樹脂、又は、樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したもの等が用いられる。下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子や、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。このように、金属酸化物粒子として、1種類の粒子のみを用いても良いし複数の種類の粒子を混合して用いても良い。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコン等の有機物による処理を施されていても良い。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。複数の結晶状態のものが含まれていても良い。
【0130】
また、金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できるが、中でも特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として10nm以上100nm以下が好ましく、特に好ましくは、10nm以上50nm以下である。
【0131】
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、フェノキシ、エポキシ、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド等が単独あるいは硬化剤とともに硬化した形で使用できるが、中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性、塗布性を示すので好ましい。
【0132】
バインダー樹脂に対する無機粒子の添加比は任意に選べるが、10質量%以上、500質量%以下の範囲で使用することが、分散液の安定性、塗布性の面で好ましい。
下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができるが、感光体特性及び塗布性から0.1μm以上25μm以下が好ましい。また、下引き層には、公知の酸化防止剤等を添加しても良い。
【0133】
(感光層)
次に、導電性支持体上に(前述の下引き層を設ける場合は下引き層上に)形成される感光層について説明する。感光層は、上述した一般式[1]又は[9]で表される繰り返し構造を含むポリアリレート樹脂と、上述したエナミン化合物とを含有する層であり、その型式としては、電荷発生材料と電荷輸送材料(エナミン化合物を含む)とがバインダー樹脂であるポリアリレート樹脂中に分散又は溶解した同一層からなる単層型と、電荷発生材料がバインダー樹脂中に分散又は溶解した電荷発生層及び電荷輸送材料(エナミン化合物を含む)がバインダー樹脂であるポリアリレート樹脂中に分散又は溶解した電荷輸送層の二層からなる積層型とが挙げられるが、そのいずれの形態であってもよい。一般に、電荷輸送材料は、単層型でも積層型でも、電荷移動機能としては同等の性能を示すことが知られている。
【0134】
また、積層型感光層としては、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した順積層型感光層と、逆に、電荷輸送層、電荷発生層の順に積層した逆積層型感光層とがあり、いずれを採用することも可能であるが、最もバランスの取れた光導電性を発揮できる順積層型感光層が好ましい。なお、以下においては、特に断りのない限り、積層型感光体の場合を例にして説明する。
【0135】
(電荷発生層)
感光層が積層型である場合、その電荷発生層に使用される電荷発生材料としては、例え
ばセレニウム及びその合金、硫化カドミウム、その他無機系光導電材料、又は、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等の有機顔料等、各種の光導電材料が使用できる。中でも有機顔料が好ましく、特にフタロシアニン顔料、アゾ顔料が好ましい。これらの電荷発生材料は、例えばポリアリレート樹脂、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル、セルロースエーテル等の各種バインダー樹脂で結着した形で使用される。この場合の電荷発生材料の使用比率は、バインダー樹脂100質量部に対して電荷発生材料30質量部以上500質量部以下の範囲で使用され、その膜厚は通常0.1μm以上1μm以下、好ましくは0.15μm以上0.6μm以下が好適である。
【0136】
電荷発生材料としてフタロシアニン化合物を用いる場合、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム等の金属、又はその酸化物、ハロゲン化物等の配位したフタロシアニン化合物が使用される。3価以上の金属原子への配位子の例としては、酸素原子、塩素原子の他、水酸基、アルコキシ基等が挙げられる。特に感度の高いX型、τ型無金属フタロシアニン、A型、B型、D型等のチタニルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン等が好適である。なお、ここで挙げたチタニルフタロシアニンの結晶型のうち、A型、B型についてはW.HellerらによってそれぞれI相、II相として示されており(Zeit.Kristallogr.159(1982)173)、A型は安定型として知られているものである。D型は、CuKα線を用いた粉末X線回折において、回折角2θ±0.2゜が27.3゜に明瞭なピークを示すことを特徴とする結晶型である。フタロシアニン化合物は単一の化合物のもののみを用いたものであっても良いし、いくつかのフタロシアニン化合物を混合状態で用いたものであっても良い。フタロシアニン化合物を混合状態で用いる場合、それぞれの構成要素を後から混合して用いても良いし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じせしめたものでも良い。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。
【0137】
(電荷輸送層)
感光層が積層型である場合、その電荷輸送層に使用される電荷輸送材料として、上記のエナミン化合物が用いられる。上述の通り、エナミン化合物は単独で用いても他の電荷輸送材料と併用で使用しても良く、こうした電荷輸送材料が、上記一般式[1]又は[9]で表される繰り返し構造のポリアリレート樹脂を含むバインダー樹脂に結着した形で電荷輸送層が形成される。電荷輸送層は、単一の層から成っていても良いし、構成成分あるいは組成比の異なる複数の層を重ねたものでも良い。
【0138】
バインダー樹脂と電荷輸送材料の割合は、通常、バインダー樹脂100質量部に対して電荷輸送材料30質量部〜200質量部、好ましくは40質量部〜150質量部の範囲で使用される。また、上記エナミン化合物を他の電荷輸送材料と併用する場合、エナミン化合物とその他の電荷輸送材料との割合は任意であるが、エナミン化合物が、通常50質量%以上、好ましくは90質量%以上である。特には、電荷輸送材料としてエナミン化合物のみを用いることが好ましい。また、膜厚は一般に5μm〜50μm、好ましくは10μm〜45μmである。
【0139】
なお、電荷輸送層には、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させるために、周知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、染料、顔料、レベリング剤等の添加物を含有させても良い。酸化防止剤の例としては、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物等が挙げられる。また染料、顔料の例としては、各種の色素化合物、アゾ化合物等が挙げられる。
【0140】
次に、分散型(単層型)感光層について説明する。感光層が分散型である場合には、上記のような配合比の電荷輸送媒体中に、前出の電荷発生材料が分散される。その場合の電荷発生材料の粒子径は、充分小さいことが必要であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下で使用される。感光層内に分散される電荷発生材料の量は少なすぎると充分な感度が得られず、多すぎると帯電性の低下、感度の低下等の弊害があり、例えば好ましくは0.5質量%〜50質量%の範囲で、より好ましくは1質量%〜20質量%の範囲で使用される。
【0141】
分散型感光層の膜厚は、通常5μm〜50μm、より好ましくは10μm〜45μmである。また、この場合にも成膜性、可撓性、機械的強度等を改良するための公知の可塑剤、残留電位を抑制するための添加剤、分散安定性向上のための分散補助剤、塗布性を改善するためのレベリング剤、界面活性剤、例えばシリコーンオイル、フッ素系オイルその他の添加剤が添加されていても良い。
【0142】
なお、上記分散型感光層又は積層型感光層の上には、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減したりする目的で保護層を設けても良い。また、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を軽減する目的で、表面の層にはフッ素系樹脂、シリコーン樹脂等を含んでいても良い。また、これらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を含んでいても良い。
【0143】
(各層の形成方法)
電子写真感光体を構成する上記各層は、含有させる材料を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、導電性支持体上に浸漬塗布、スプレー塗布、ノズル塗布、バーコート、ロールコート、ブレード塗布等の公知の方法により順次塗布して形成される。これらの中でも生産性の高さから浸漬塗布方法が好ましい。
【0144】
塗布液の作製に用いられる溶剤、すなわち、溶媒又は分散媒に特に制限はないが、具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び種類で併用してもよい。
【0145】
また、溶剤の使用量は特に制限されないが、各層の目的や選択した溶剤の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調整するのが好ましい。
本発明で用いるバインダー樹脂である上記ポリアリレート樹脂は、塗布工程に用いられる溶剤に対し、溶解性に優れると共に、溶解後の塗布溶液の安定性にも優れるので好ましい。
【0146】
[画像形成装置]
次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置(本発明の画像形成装置)の実施の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。ただし、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置(帯電部)2、露光装置(露光部)3及び現像装置(現像部)4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
【0147】
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の電子写真感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
【0148】
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。図1では帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示しているが、他にもコロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、帯電ブラシ、帯電フィルム等の接触型帯電装置等がよく用いられる。
【0149】
なお、電子写真感光体1及び帯電装置2は、多くの場合、この両方を備えたカートリッジ(本発明の電子写真感光体カートリッジ。以下適宜、「感光体カートリッジ」という)として、画像形成装置の本体から取り外し可能に設計されている。ただし、帯電装置2は、カートリッジとは別体に、例えば、画像形成装置の本体に設けられていてもよい。そして、例えば、電子写真感光体1や帯電装置2が劣化した場合に、この感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することができるようになっている。また、後述するトナーについても、多くの場合、トナーカートリッジ中に蓄えられて、画像形成装置本体から取り外し可能に設計され、使用しているトナーカートリッジ中のトナーが無くなった場合に、このトナーカートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しいトナーカートリッジを装着することができるようになっている。更に、電子写真感光体1、帯電装置2、トナーがすべて備えられたカートリッジを用いることもある。
【0150】
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行って電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LED等が挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行うようにしてもよい。露光を行う際の光は任意であるが、一般に単色光が好ましく、例えば、波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜500nmの短波長の単色光等で露光を行えばよい。
【0151】
現像装置4は、露光した電子写真感光体1上の静電潜像を目に見える像に現像することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、カスケード現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像等の乾式現像方式や、湿式現像方式等が挙げられる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジ等の容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
【0152】
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル等の金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等を被覆した樹脂ロール等からなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
【0153】
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。ただし、現像ローラ44と電子写真感光体1とは当接せず、近接していてもよい。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
【0154】
規制部材45は、シリコーン樹脂やウレタン樹脂等の樹脂ブレード、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、リン青銅等の金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、通常、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は、0.049〜4.9N/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
【0155】
アジテータ42は必要に応じて設けられ、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
【0156】
トナーTの種類は任意であり、粉砕トナーのほか、懸濁重合法や乳化重合法等を用いた重合トナー等を用いることができる。特に、重合トナーを用いる場合には径が4μm〜8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナーの粒子の形状も球形に近いものからポテト状の球形から外れたものまで様々に使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。
【0157】
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写等の静電転写法、圧力転写法、粘着転写法等、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー、転写ローラ、転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙,媒体)Pに転写するものである。
【0158】
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナー等、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、電子写真感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。なお、残留トナーが少ないか、又は、ほとんど無い場合には、クリーニング装置6は無くてもかまわない。
【0159】
定着装置7は、上部定着部材(加圧ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71、72は、ステンレス、アルミニウム等の金属素管にシリコーンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シート等が公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71、72は、離型性を向上させるためにシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
【0160】
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
【0161】
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着等、任意の方式による定着装置を設けることができる。
【0162】
以上のように構成された画像形成装置では、次のようにして画像の記録が行われる。すなわち、先ず、電子写真感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させてもよく、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
【0163】
続いて、帯電された電子写真感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その電子写真感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行う。
【0164】
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは電子写真感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
【0165】
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが電子写真感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が電子写真感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに電子写真感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
【0166】
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行うことができる構成としてもよい。除電工程は、電子写真感光体に露光を行うことで電子写真感光体の除電を行う工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
【0167】
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程等の工程を行うことができる構成としたり、オフセット印刷を行う構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
【0168】
また、本実施形態では本発明の電子写真感光体カートリッジを、電子写真感光体1及び帯電装置2を備えた感光体カートリッジを例示して説明したが、本発明の電子写真感光体カートリッジは電子写真感光体1と、帯電装置(帯電部)2、露光装置(露光部)3及び現像装置(現像部)4、転写装置(転写部)5、クリーニング装置(クリーニング部)6、定着装置(定着部)7のうちの少なくともいずれか一つとを備えていればよい。具体的には、例えば、本発明の電子写真感光体カートリッジは、電子写真感光体1、帯電装置(帯電部)2、露光装置(露光部)3、現像装置(現像部)4及びクリーニング装置(クリーニング部)6をすべて備えたカートリッジとして構成してもよい。
【実施例】
【0169】
以下、実施例に基づき本実施の形態をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り、以下に示した実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例、比較例及び参考例中の「部」の記載は、特に指定しない限り「質量部」を示す。
なお以下において、実施例1〜9について「実施例」は「参考例」と読み替えるものとする。
【0170】
[エナミン化合物の製造]
エナミン化合物の製造について、CT−9を代表として説明する。
【0171】
(製造例1:例示化合物CT−9の製造)
窒素雰囲気下、還流管、Dean−stark分水器を順次に反応器にセットし、N,N’−ジ(p−トリル)ベンジジン7.29g(20mmol)、ジフェニルアセトアルデヒド8.63g(44mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.20gをそれぞれ反応器に仕込み、撹拌をしながら、キシレン50mlに溶解した。その後、140℃を維持しながら、2時間還流脱水し、室温まで冷却した。反応液とトルエン/脱塩水(v/v=1:1)を混合撹拌し、分液した。得られた有機層を1NNaOHの水溶液で洗浄、分液し、さらに有機層を脱塩水2〜3回で洗浄、分液した。得られた有機層の溶媒を減圧留去し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル400g、展開溶媒:トルエン/ヘキサン=1/2)に通し、さらにメタノールによる再沈で精製した。真空乾燥した後、上記の例示化合物CT−9を黄色い粉末として得た(収量10.81g、収率75%、純度99.5%)。なお、純度は、高速液体クロマトグラフィーのチャートの単純面積比率値から算出した。この化合物のIRスペクトル(JASCO FT/IR−350 spectrophotometer)を図3に示す。
【0172】
(実施例1:電子写真感光体A1)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(厚み75μm)の表面にアルミニウム蒸着層(厚み70nm)を形成した導電性支持体を用い、その導電性支持体のアルミニウム蒸着層上に、以下の下引き層用分散液をバーコーターにより、乾燥後の膜厚が1.25μmとなるように塗布し、乾燥させ下引き層を形成した。
【0173】
下引き層用分散液の調製は以下の手法で行った。即ち、平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3質量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機(カワタ社製「SMG300」)に投入し、回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1−プロパノールのボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表される化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表される化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表される化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表される化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表される化合物]の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行うことにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの質量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを質量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の下引き層分散液とした。
【0174】
【化51】

【0175】
このようにして得られた下引き層形成用塗布液を、表面にアルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートシート上に、乾燥後の膜厚が1.25μmになるようにワイアバーで塗布、乾燥して下引き層を設けた。
【0176】
次に、CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)が27.3゜に強い回折ピークを示し、図2に示す粉末X線回折スペクトルを有するオキシチタニウムフタロシアニン10質量部を1,2−ジメトキシエタン150質量部に加え、サンドグラインドミルにて粉砕分散処理を行い顔料分散液を作製した。こうして得られた顔料分散液160質量部と、ポリビニルブチラール(電気化学工業製、商品名#6000C)の5%1,2−ジメトキシエタン溶液100質量部と、適量の1,2−ジメトキシエタンとを混合して、最終的に固形分濃度4.0%の分散液を作製した。
この分散液を、上述の下引き層上に乾燥後の膜厚が0.4μmとなるようにワイアバーで塗布した後、乾燥して電荷発生層を形成した。
【0177】
次に、エナミン化合物CT−3の電荷輸送材料50質量部、下記構造を有するポリアリレート樹脂X100質量部、レベリング剤としてシリコーンオイル0.05質量部をテトラヒドロフランとトルエンの混合溶媒(テトラヒドロフラン80質量%、トルエン20質量%)640質量部に混合し、電荷輸送層形成用塗布液を調製した。この液を上述の電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布し、125℃で20分間乾燥して電荷輸送層を形成して、感光体シートA1を作製した。なお、ポリアリレート樹脂Xの粘度平均分子量は51,400であった。
【0178】
用いられたポリアリレート樹脂の粘度平均分子量の測定法は以下の通りである。ポリエステル樹脂をジクロロメタンに溶解し、濃度Cが6.00g/Lとなる溶液を調製する。溶媒(ジクロロメタン)の流下時間t0が136.16秒のウベローデ型毛細管粘度計を用いて、20.0℃に設定した恒温水槽中で試料溶液の流下時間tを測定する。以下の式に従って粘度平均分子量Mvを算出する。
【0179】
a=0.438×ηsp+1 ηsp=t/t−1
b=100×ηsp/C C=6.00(g/L)
η=b/a
Mv=3207×η1.205
【0180】
【化52】

【0181】
(実施例2:電子写真感光体A2)
ポリアリレート樹脂Xに代え、下記構造を有するポリアリレート樹脂Yと電荷輸送物質CT−3を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例としての電子写真感光体A2を得た。なお、ポリアリレート樹脂Yの粘度平均分子量は51,700であった。
【0182】
【化53】

【0183】
(実施例3:電子写真感光体A3)
ポリアリレート樹脂Xに代え、下記構造を有するポリアリレート樹脂Zと電荷輸送物質CT−3を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例としての電子写真感光体A3を得た。なお、ポリアリレート樹脂Zの粘度平均分子量は47,100であった。
【0184】
【化54】

【0185】
(実施例4〜15:電子写真感光体A4〜A15)
使用したポリアリレート樹脂と電荷輸送物質を、表2に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして、実施例としての電子写真感光体A4〜A15を得た。
【0186】
(実施例16:電子写真感光体A16)
ポリアリレート樹脂Xに代え、下記構造を有するポリアリレート樹脂Wと電荷輸送物質CT−11を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例としての電子写真感光体A16を得た。なお、ポリアリレート樹脂Wの粘度平均分子量は50,300であった。
【0187】
【化55】

【0188】
(比較例1:電子写真感光体P1)
ポリアリレート樹脂Xを用い、電荷輸送物質CT−3に代え、下記構造を有する電荷輸送物質CT−23を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P1を得た。
【0189】
【化56】

【0190】
(比較例2〜3:電子写真感光体P2〜P3)
電荷輸送物質CT−23を用い、表2に示すポリアリレート樹脂を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P2〜P3を得た。
【0191】
(比較例4:電子写真感光体P4)
ポリアリレート樹脂Yを用い、電荷輸送物質CT−3に代え、下記構造を有する電荷輸送物質CT−24を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P4を得た。
【0192】
【化57】

【0193】
(比較例5:電子写真感光体P5)
ポリアリレート樹脂Yを用い、電荷輸送物質CT−3に代え、下記構造を有する電荷輸送物質CT−25を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P5を得た。
【0194】
【化58】

【0195】
(比較例6:電子写真感光体P6)
ポリアリレート樹脂Yを用い、電荷輸送物質CT−3に代え、下記構造を有する電荷輸送物質CT−26を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例としての電子写真感光体P6を得た。
【0196】
【化59】

【0197】
[特性評価]
製造した電子写真感光体A1〜A16、P1〜P6について以下の電気特性試験と摩耗試験を行った。これらの結果を表2にまとめた。
(電気特性試験)
電子写真学会測定標準に従って製造された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)を使用し、上記感光体シートを外径80mmのアルミニウム製ドラムに貼り付けて円筒状にし、アルミニウム製ドラムと感光体シートのアルミニウム基体との導通を取った上で、ドラムを一定回転数60rpmで回転させ、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性評価試験を行った。その際、感光体の初期表面電位が−(マイナス。以下同じ。)700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを1.0μJ/cmで露光したときの100ミリ秒後の露光後表面電位(以下、VLと呼ぶことがある。)を測定した。VL測定に際しては、露光から電位測定に要する時間を100msとし、高速応答の条件とした。また、感光体表面電位が、−700Vから−350Vになるまでに要した半減露光エネルギーE1/2(μJ/cm)を求めた。測定環境は、温度25℃、相対湿度50%(以下、NN環境と呼ぶことがある。)及び、温度5℃、相対湿度10%(以下、LL環境と呼ぶことがある。)で行った。得られた結果を表2に示す。
【0198】
(摩耗試験)
上記感光体シートを直径10cmの円状に切断しテーバー摩耗試験機(Taber社製)により、摩耗評価を行った。試験条件は、23℃、50%RHの雰囲気下、摩耗輪CS−10Fを用いて、荷重なし(摩耗輪の自重)で1000回回転後の摩耗量を試験前後の質量を比較することにより測定した。その結果を表2に示す。
【0199】
【表2】

【0200】
この結果から、実施例1〜16の感光体A1〜A16及び比較例1〜6の感光体P1〜P6のように、ジフェニルエーテル−ジカルボン酸残基またはジフェニルチオエーテル−ジカルボン酸残基を含むポリアリレート樹脂を含有する本発明の感光体は、テーバー試験の結果に示されるように、耐摩耗性に優れていることが分かる。中でも、一般式[9]で表されるジフェニルエーテル−ジカルボン酸残基を有するポリアリレート樹脂を含む感光体は、A10〜12、A16を比較して分かる通り、E1/2及びVLに優れ、電気特性にも優れている。
【0201】
ところが、ジフェニルエーテル−ジカルボン酸残基またはジフェニルチオエーテル−ジカルボン酸残基を含むポリアリレート樹脂を含有する本発明の感光体は、比較例1〜6に示す通り、一般的に電気特性に優れるものではない。ところが、一般式[6]及び一般式[7]で表される本発明の電荷輸送物質(エナミン化合物)を用いた感光体A1〜A16は、本発明範囲外の電荷輸送材料CT−23〜CT−26を用いた比較例のP1〜P6の感光体に比べ、好ましい電気特性を示す。即ち、一般式[6]及び一般式[7]で表される本発明の電荷輸送物質(エナミン化合物)は、耐摩耗性に優れるが電気特性に優れていないジフェニルエーテル−ジカルボン酸残基またはジフェニルチオエーテル−ジカルボン酸残基を含むポリアリレート樹脂を含有する感光体の、電気特性を予想を超えて改善するのである。中でも、一般式[7]で表されるエナミン化合物を含む感光体A10〜A16が特によい値を示す。
【0202】
<応答性の評価>
実施例8、10〜15、比較例1〜3、6で得られた感光体を、電荷輸送層の電界強度E=2.0+5E(V/cm)、温度21℃下におけるホールドリフト移動度をTOF法により測定した。各電子写真感光体A8、A10〜A15、P1〜P3、P6のホールドリフト移動度を表3に示す。
【0203】
【表3】

【0204】
表3に示すように、電子写真感光体A8、A10〜A15は電子写真感光体P1〜P3に比べ、ホールドリフト移動度が速い。また、従来ホールドリフト移動度が速いとされている電荷輸送物質CT−26を含有する電子写真感光体P6と、電子写真感光体P6と同じポリアリレート樹脂を含有した電子写真感光体A11、14のホールドリフト移動度を比べると、同等であることが分かる。したがって、一般式[6]および[7]で表される本発明の電荷輸送物質を用いた感光体A8、A10〜A15は、本発明範囲外の電荷輸送材料CT−23またはCT−26を用いた比較例のP1〜P3、P6の感光体に比べ、応答性の面においても、電子写真機器に好適である。
【0205】
実施例に用いた電荷輸送材料のHOMOのエネルギーレベル(E_homo)、分極率(αcal)を表4に示す。E_homoが高いほどVLが低く、また、αcalが大きいほど移動度が速くなり、本発明のCT−6、CT−11は、良好な電気特性を示した。一方、αcalが大きくても、E_homoが低いCT−23や、E_homoが高くても、αcalの小さいCT−24は良好な電気特性が得られない。E_homoとαcalが特定の範囲にある本発明の電荷輸送材料は、特に高速プリンターや高速複写機で優位性を持つ。
【0206】
【表4】

【0207】
(実施例17:電子写真感光体B1)
電荷輸送層を以下に示す通りに作製した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0208】
製造例1で合成した電荷輸送性材料(CT−9)50部、下記構造を有するポリアリレート樹脂M100部、レベリング剤としてシリコーンオイル0.05部をテトラヒドロフランとトルエンの混合溶媒(テトラヒドロフラン80質量%、トルエン20質量%)640部に混合し、電荷輸送層形成用塗布液を調製した。この液を上述の電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布し、125℃で20分間乾燥して電荷輸送層を形成して、感光体シートB1を作製した。なお、ポリアリレート樹脂Mの粘度平均分子量は32,400であった。
【0209】
【化60】

【0210】
(実施例18:電子写真感光体B2)
ポリアリレート樹脂Mに代え、下記構造を有するポリアリレート樹脂Nと電荷輸送性材料CT−9を使用した以外は、実施例17と同様にして、電子写真感光体B2を得た。ポリアリレート樹脂Nは、公知の方法で製造することができる。ポリアリレート樹脂Nの粘度平均分子量は34,700であった。
【0211】
【化61】

【0212】
(実施例19:電子写真感光体B3)
ポリアリレート樹脂Mに代え、下記構造を有するポリアリレート樹脂Pと電荷輸送性材料CT−9を使用した以外は、実施例17と同様にして、電子写真感光体B3を得た。なお、ポリアリレート樹脂Pの粘度平均分子量は31,000であった。
【0213】
【化62】

【0214】
(実施例20:電子写真感光体B4)
ポリアリレート樹脂Mに代え、下記構造を有するポリアリレート樹脂Qと電荷輸送性材料CT−9を使用した以外は、実施例17と同様にして、電子写真感光体B4を得た。なお、ポリアリレート樹脂Qの粘度平均分子量は33,500であった。
【0215】
【化63】

【0216】
(実施例21〜28:電子写真感光体B5〜B12)
表5に示すポリアリレート樹脂と電荷輸送性材料を使用した以外は、実施例17と同様にして、電子写真感光体B5〜B12を得た。
【0217】
(比較例7:電子写真感光体Q1)
ポリアリレート樹脂Mに代え、下記構造を有するポリアリレート樹脂Rと電荷輸送性材料CT−9を使用した以外は、実施例17と同様にして、電子写真感光体Q1を作製した。なお、ポリアリレート樹脂Rの粘度平均分子量は37,200であった。
【0218】
【化64】

【0219】
(比較例8:電子写真感光体Q2)
ポリアリレート樹脂Mに代え、下記構造を有するポリカーボネート樹脂Sと電荷輸送性材料CT−9を使用した以外は、実施例17と同様にして、電子写真感光体Q2を得た。なお、ポリカーボネート樹脂Sの粘度平均分子量は40,000であった。
【0220】
【化65】

【0221】
(比較例9:電子写真感光体Q3)
ポリアリレート樹脂Mに代え、ポリアリレート樹脂Nを用い、電荷輸送性材料CT−9に代え、下記構造を有する電荷輸送性材料CT−27(25部)とCT−28(25部)の混合物を使用した以外は、実施例17と同様にして、電子写真感光体Q3を得た。
【0222】
【化66】

【0223】
【化67】

【0224】
(比較例10:電子写真感光体Q4)
ポリアリレート樹脂Mに代え、ポリアリレート樹脂Nを用い、電荷輸送性材料CT−9に代え、下記構造を有する電荷輸送性材料CT−29を使用した以外は、実施例17と同様にして、電子写真感光体Q4を得た。
【0225】
【化68】

【0226】
(比較例11:電子写真感光体Q5)
ポリアリレート樹脂Mに代え、ポリアリレート樹脂Nを用い、電荷輸送性材料CT−9に代え、下記構造を有する電荷輸送性材料CT−30を使用した以外は、実施例17と同様にして、電子写真感光体Q5を得た。
【0227】
【化69】

【0228】
(比較例12:電子写真感光体Q6)
ポリアリレート樹脂Mに代え、ポリアリレート樹脂Pを用い、電荷輸送性材料CT−9に代え、CT−29を使用した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体Q6を得た。
【0229】
(比較例13:電子写真感光体Q7)
ポリアリレート樹脂Mに代え、ポリアリレート樹脂Pを用い、電荷輸送性材料CT−9に代え、CT−30を使用した以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体Q7を得た。
【0230】
[特性評価]
製造した電子写真感光体B1〜B12、Q1〜Q7について以下の電気特性試験と摩耗試験を行った。これらの結果を表5にまとめた。
【0231】
(電気特性試験)
電子写真学会測定標準に従って製造された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)を使用し、上記感光体シートを外径80mmのアルミニウム製ドラムに貼り付けて円筒状にし、アルミニウム製ドラムと感光体シートのアルミニウム基体との導通を取った上で、ドラムを一定回転数60rpmで回転させ、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性評価試験を行った。その際、感光体の初期表面電位が−(マイナス。以下同じ。)700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを1.0μJ/cmで露光したときの100ミリ秒後の露光後表面電位(以下、VLと呼ぶことがある。)を測定した。VL測定に際しては、露光から電位測定に要する時間を100msとし、高速応答の条件とした。また、感光体表面電位が、−700Vから−350Vになるまでに要した半減露光エネルギーE1/2(μJ/cm)を求めた。測定環境は、温度25℃、相対湿度50%(以下、NN環境と呼ぶことがある。)および、温度5℃、相対湿度10%(以下、LL環境と呼ぶことがある。)で行った。得られた結果を表5に示す。
【0232】
(摩耗試験)
上記感光体シートを直径10cmの円状に切断しテーバー摩耗試験機(Taber社製)により、摩耗評価を行った。試験条件は、23℃、50%RHの雰囲気下、摩耗輪CS−10Fを用いて、荷重なし(摩耗輪の自重)で1000回回転後の摩耗量を試験前後の質量を比較することにより測定した。その結果を表5に示す。
【0233】
【表5】

【0234】
この結果から、一般式[1]で表される本発明のポリアリレート樹脂と一般式[7]で表される本発明の電荷輸送性材料を用いた感光体は、公知のポリカーボネート樹脂Sやポリアリレート樹脂Rに比べ、電気特性と耐摩耗性のバランスを最も良く取れ、好ましい特性を示すことがわかった。
【0235】
同様に、一般式[7]で表される本発明の電荷輸送性材料を用いた感光体B1〜B12は、本発明範囲外の電荷輸送性材料CT−27〜CT−30を用いた比較例のQ3〜Q7の感光体に比べ好ましい電気特性を示すことが分かった。
【0236】
<実施例29>
CuKα特性X線に対する粉末X線回折スペクトルのブラッグ角(2θ±0.2°)が、9.3°、13.2°、26.2°および27.1°に主たる回折ピークを示すA型のオキシチタニウムフタロシアニン10部、ポリビニルブチラール(電気化学工業社製、商品名:デンカブチラール #6000C)2.5部、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイト社製、商品名:PKHH)2.5部、1,2−ジメトキシエタン450部、および4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン 50部を混合し、サンドグラインドミルで粉砕、分散処理を行った。このようにして得られた分散液を、直径30mm、長さ357mmの、表面をアルマイト処理したアルミニウム製チューブ面に、膜厚が0.4μmになるように塗布して電荷発生層を設けた。
【0237】
次に、この電荷発生層上に、エナミン化合物CT−9を電荷輸送物質として60部、ポリアリレートMをバインダー樹脂として100部をテトラヒドロフランとトルエンの混合溶媒(質量比8:2)500部に溶解させた溶液を塗布し、乾燥後の膜厚が33μmとなるように電荷輸送層を設けて感光体を作製した。このようにして得られた感光体を、キヤノン社製デジタル複写機GP405の電子写真カートリッジに搭載し、画像を形成し、形成された画像の1枚目(初期画像)と、30000枚目(耐刷後画像)の画質を評価した。同様に、複写機の現像機に代えて表面電位計を取り付け、1枚目の黒ベタ画像形成時の感光体の表面電位(初期電位)と、30000枚目の黒ベタ画像形成時の表面電位(耐刷後電位)を計測した。また、その際の感光体の感光層の膜減り量を、感光層厚みの変化から計測した結果を表6に示す。
【0238】
(実施例30〜40:電子写真感光体B14〜B24)
使用したポリアリレート樹脂と電荷輸送物質を表6に示す通りとした以外は、実施例29と同様にして、実施例としての電子写真感光体B14〜B24を得た。
【0239】
(比較例14〜20:電子写真感光体Q8〜Q14)
使用したバインダー樹脂と電荷輸送物質を表6に示す通りとした以外は、実施例29と同様にして、比較例としての電子写真感光体Q8〜Q14を得た。
【0240】
(接着性試験)
得られた電子写真感光体の感光層にカッターナイフで、10×10の碁盤目(1mm四方の正方形を100マス)を作製した時の、感光層の剥離の程度によって接着性を評価した。
○:剥離しない、
△:1〜30%剥離する、
×:30%以上剥離する
接着性試験で剥離しにくい感光体ほど、プリンターの接触部材による負荷に強く好ましい。例えば、この試験で×の感光体は、プリンターで画像を多数枚印刷したときに、帯電ローラの端部が感光体に接触する部位で、感光層が剥離するといった問題が起こるのに対し、○の感光体ではこのような問題が生じない。
【0241】
【表6】

【0242】
上記の結果より、本願発明の構成とした場合に限り、感光層を繰り返し使用した場合の摩耗による膜減り量が押さえられ、且つ、良好な初期画像を形成することが可能で、しかも繰り返し画像形成した耐刷後でも良好な画像が得られることが分かる。以下、さらに詳しく解析する。
上記の実施例及び比較例の結果を見ると、一般式[1]で表される本発明のポリアリレート樹脂を用いた実施例29〜40及び比較例16〜20の感光層は、本発明のバインダー樹脂を用いない比較例14〜15の感光層に比べ、耐磨耗性に優れることが分かる。
中でも、Ar、Arが置換基を有する場合に接着性が良好で、特に好ましい。
【0243】
さらに、本発明のポリアリレート樹脂を使用した場合(実施例29〜40及び比較例16〜20)の結果を見ると、本発明範囲外の電荷輸送材料CT−27〜CT−30を用いた場合には初期画像の濃度、さらに耐刷後の画像濃度がほとんど良好とならないことが分かる。したがって、一般式[1]で表される本発明のポリアリレート樹脂と一般式[7]で表される本発明の電荷輸送物質を同時に用いた感光体のみ、耐刷を通じて適正な濃度を得られることが分かる。
【0244】
また、比較例14の結果を見ると、従前からあるポリアリレート樹脂Rをバインダー樹脂として用いた場合は、感光体の膜減りを改良されるが、バインダー樹脂Rと本発明の電荷輸送物質との相性が原因で、そのままでは適正な濃度を得られず、しかも、かぶり欠陥が生じることが分かる。
さらに、比較例15の結果から、従前からあるポリカーボネート樹脂Sと本発明の電荷輸送物質とを組み合わせて用いた場合には、画像濃度の品質には大きく影響しないものの、膜減りから来るかぶり欠陥が生じやすいことが分かる。
【0245】
以上から、実施例17〜40のように、一般式[1]で表される本発明のポリアリレート樹脂と一般式[7]で表される本発明の電荷輸送物質とを組み合わせて含有させた場合に限って、特異的に良好な結果を得られることが確認された。
【0246】
(実施例41)
表面が鏡面仕上げされた外径30mm、長さ246mm、肉厚0.75mmのアルミニウム製シリンダーの表面に、陽極酸化処理を行い、その後、酢酸ニッケルを主成分とする封孔剤によって封孔処理を行うことにより、約6μmの陽極酸化被膜(アルマイト被膜)を形成した。このシリンダーを、以下に示す電荷発生層形成用塗布液と電荷輸送層形成用塗布液を浸漬塗布法により順次塗布し、乾燥後の膜厚がそれぞれ、0.4μm、18μmとなるように、電荷発生層と電荷輸送層を形成し感光体ドラムを得た。
【0247】
電荷発生層形成用塗布液は以下のように作製した。電荷発生物質として、図2のX線回折スペクトルで示されるオキシチタニウムフタロシアニン20部と1,2−ジメトキシエタン280部を混合し、サンドグラインドミルで2時間粉砕して微粒化分散処理を行った。続いてこの微細化処理液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業社製、商品名「デンカブチラール」#6000C)10部を、1,2−ジメトキシエタンの255部と4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノンの85部の混合液に溶解させて得られたバインダー液及び230部の1,2−ジメトキシエタンを混合して電荷発生層形成用塗布液を調製した。
【0248】
電荷輸送層形成用塗布液は以下のように作製した。ポリアリレート樹脂Y’を100部(粘度平均分子量40,000)、電荷輸送材料CT−11を50部、酸化防止剤として下記式で表される化合物(AOX1)8部、トリベンジルアミンを1部、及びレベリング剤としてシリコーンオイル0.05部をテトラヒドロフラン/トルエン(8/2)混合溶媒640質量部に溶解させて電荷輸送層形成用塗布液を作製した。
【0249】
【化70】

【0250】
【化71】

【0251】
<画像特性試験>
作製した感光体ドラムを、沖データ社製カラープリンターC5900dnのブラックドラムカートリッジに装着した。
C5900dnの仕様
4連タンデム
カラー26ppm、モノクロ32ppm
接触ローラ帯電(直流電圧印加)
非磁性1成分接触現像
LED露光
初期、及び20,000枚画像形成後に、ゴースト、カブリ、濃度低下等の画像劣化が発生するかを判定した。また、20,000枚画像形成による磨耗量を調べた。また、以下に説明する<電気特性試験>、<トルク試験>を行い、結果を表7に示した。
【0252】
<電気特性試験>
電子写真学会測定標準に準拠した電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、第404頁〜405頁記載)を使用し、感光体ドラムを一定回転数で回転させ、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性評価試験を行った。初期表面電位を−700V、露光光として780nm、除電光として660nmの単色光を用い、露光光を1.0μJ/cm照射した時点の表面電位(VL)を測定した。VL測定に際しては、露光から電位測定に要する時間を100msとした。測定環境は、温度25℃、相対湿度50%(NN環境)で行った。VL値の絶対値が小さいほど応答性が良い(単位:−V)。
【0253】
<トルク試験>
トルクモーターを50rpmで回転させ、感光体に負荷がかからない状態でのトルクを測定する。このトルク値をT0とする。次に、長さ230mm、幅14mm(うち自由長8mm) 、厚さ2mmのウレタンゴムよりなるブレードを、その先端が感光体の長手方向と平行になるよう、且つ感光体表面の接線とのなす角が20°となるように、線圧24.5g/cmで押しつける。この時、ブレードの先端には、筆を用いて若干トナーを付着させた。
【0254】
感光体をトルクモーターにより、50rpmで回転させ、トルクモーターから出力されるトルクを測定し、測定開始後120秒から130秒の間に得られたトルクを平均した値をTm とする。Tm から先に求めた無付加でのトルク(T0) を引いた値が、感光体にブレードを押し当てたときに発生するトルク値とした。このトルク値を感光体の滑り性を表す指標とした。トルク値の小さい方が感光体の滑り性は良好である。
【0255】
(実施例42、比較例21〜22)
実施例41において、表7に示す電荷輸送材料とバインダー樹脂を用いた以外は実施例41と同様にして、電子写真感光体を作製し、評価を行った。
【0256】
【表7】

【0257】
実施例41−42の感光体の画像特性試験はいずれも良好であった。また、CT−11、CT−20を用いた場合、CT−23を用いた場合よりも、磨耗量が少なかった。耐刷後トルク値を比較すると本発明の電荷輸送材料を用いた場合の方が低く、これにより感光層に対する負荷が小さくなり、磨耗量が少なくなったものと考えられる。
以上のことから、本発明のエナミン化合物とポリアリレート樹脂を組み合わせた場合、特に良好な特性が得られることが分かる。
【0258】
(実施例43)
外径30mm、長さ326mm、肉厚0.8mmのアルミニウム製シリンダーを、以下に示す下引き層形成用塗布液、電荷発生層形成用塗布液、電荷輸送層形成用塗布液を浸漬塗布法により順次塗布し、乾燥後の膜厚がそれぞれ1.25μm、0.4μm、20μmとなるように、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を形成し感光体ドラムを得た。
下引き層形成用塗布液は、実施例1で作製した下引き層形成用塗布液と同様のものを用いた。
【0259】
電荷発生層形成用塗布液は実施例29で作製した電荷発生層形成用塗布液と実施例41で作製した電荷発生層形成用塗布液を1:1の割合で混合したものを用いた。
電荷輸送層形成用塗布液は実施例41で作製した電荷輸送層形成用塗布液と同じものを用いた。
作製した感光体ドラムを、シャープ社製デジタル複写機AL−1600のドラムカートリッジに装着し、複写機に装着し、10,000枚の画像形成を行ったが、初期、及び10,000枚画像形成後ともに、ゴースト、カブリ、濃度低下等の画像劣化のない良好な画像が得られた。
【0260】
(実施例44)
実施例43において用いた電荷輸送層形成用塗布液の代わりに実施例42で作製した電荷輸送層形成用塗布液を用いた以外は、実施例43と同様に評価を行った。
初期、及び10,000枚画像形成後ともに、ゴースト、カブリ、濃度低下等の画像劣化のない良好な画像が得られた。
【0261】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電子写真感光体、電子写真カートリッジ、および、画像形成装置もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0262】
【図1】本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置の一実施例を示す概念図である。
【図2】実施例で用いたオキシチタニウムフタロシアニンのX線回折図である。
【図3】本発明の例示化合物CT−9のIRスペクトルである。
【符号の説明】
【0263】
1 感光体
2 帯電装置(帯電ローラ)
3 露光装置
4 現像装置
5 転写装置
6 クリーニング装置
7 定着装置
41 現像槽
42 アジテータ
43 供給ローラ
44 現像ローラ
45 規制部材
71 上部定着部材(加圧ローラ)
72 下部定着部材(定着ローラ)
73 加熱装置
T トナー
P 記録紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に、感光層を有する電子写真感光体において、該感光層が、下記式[1]で表される繰り返し構造を有するポリアリレート樹脂と、下記式[7]で表される化合物とを少なくとも含有する、電子写真感光体。
【化1】

(式[1]中、Ar〜Arはそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Xは単結合、酸素原子、硫黄原子、下記式[2]で表される基、又は下記式[3]で表される基であって、式[2]中のR及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表し、RとRとが結合して環を形成していてもよく、式[3]中のRは、アルキレン基、アリーレン基、又は下記式[4]で表される基であって、式[4]中のR及びRは、それぞれ独立に、アルキレン基を表し、Arはアリーレン基を表す。kは0〜5の整数を表す。但し、k=0の場合、ArとArのうちいずれか一方は置換基を有するアリーレン基である。
式[1]中、Yは、単結合、酸素原子、硫黄原子、又は下記式[5]で表される基であって、式[5]中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基を表し、RとRとが結合して環を形成していてもよい。)
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(式[7]中、Ar10〜Ar15は、同一または異なっていてもよく、それぞれ置換基を有していてもよいアリール基を表し、nは2以上の整数を表し、Zは一価の有機残基を表し、mは0〜4の整数を表す。)
【請求項2】
前記式[1]中のXが、酸素原子、硫黄原子、前記式[2]で表される基、又は前記式[3]で表される基である、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記式[7]で表される化合物の密度汎関数計算B3LYP/6−31G(d,p)による構造最適化計算の結果得られた、HOMOのエネルギーレベルE_homoが、次式
E_homo>−4.67(eV)
を満たし、かつ上記B3LYP/6−31G(d,p)による構造最適化計算後に得られた安定構造における制限Hartree−Fock法計算(基底関数は6−31G(d,p))による分極率αの計算値αcalが、次式
αcal>70(Å
を満たす、請求項1または請求項2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記感光層が、電荷発生層および電荷輸送層を備えて構成され、前記導電性支持体上に、該電荷発生層および該電荷輸送層がこの順で積層されてなる、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
電子写真感光体を帯電させる帯電手段、帯電した電子写真感光体に対し像露光を行い静電潜像を形成する像露光手段、該静電潜像をトナーで現像する現像手段、該トナーを被転写体に転写する転写手段、該被転写体に転写された該トナーを定着させる定着手段、または、電子写真感光体に付着した該トナーを回収するクリーニング手段から選ばれる少なくとも一つと、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電子写真感光体とを備えてなる電子写真カートリッジ。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電子写真感光体、該電子写真感光体を帯電させる帯電手段、帯電した該電子写真感光体に対し露光を行い静電潜像を形成する露光手段、該静電潜像をトナーで現像する現像手段、および、該トナーを被転写体に転写する転写手段を備えてなる画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−101379(P2013−101379A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−4892(P2013−4892)
【出願日】平成25年1月15日(2013.1.15)
【分割の表示】特願2008−153595(P2008−153595)の分割
【原出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】