説明

電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジおよび電子写真装置

【課題】 画像形成初期の画像形成において、画像流れが抑制されている電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 形成した表面層の表面を加工する工程を有する電子写真感光体の製造方法において、表面層の表面を加工する工程が、該表面層に、0.5〜40μmの幅を有する複数の溝を形成する第一の工程、該複数の溝を形成した該表面層の表面に無機微粒子を塗布する第二の工程と、該無機微粒子が塗布した表面層の表面にシート状の摺擦部材を圧接させ、表面層の表面と該摺擦部材とを相対的に移動させることにより表面層の表面を摺擦する第三の工程とを有し、該表面層の表面を加工する工程を有し、無機微粒子の一次粒子の数平均粒径が30〜300nmであり、一次粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状であり、該第一から第三の工程によって加工された表面層のRzjisが、0.3μm以上2.0μm未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジおよび電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機光導電性物質を用いた電子写真感光体(有機電子写真感光体)において、感光体の機械的強度を向上させて、電子写真感光体の耐久性を向上させる方法がある。このような電子写真感光体は、耐摩耗性が高く、高い耐久性が求められる高速複写機などで実用化されている。また、このような電子写真感光体では、電子写真感光体の耐摩耗性を向上させることに伴い、画像流れを改善することが求められている。画像流れとは、帯電によって生成される帯電生成物が感光体表面に付着することによって感光体表面の抵抗が低下し、電荷が横方向に拡散して静電潜像がぼやけることによって生じると考えられている。特に、機械的強度を向上させた電子写真感光体では、接触部材(クリーニングブレード等)の摺擦による電子写真感光体の摩耗量が少ないため、帯電生成物の除去が不十分となり、画像流れが発生しやすい。
【0003】
画像流れを解決する手段としては、特許文献1、特許文献2では、電子写真感光体の表面に酸化防止剤の粉末(微粒子)を付着させ、画像形成初期の画像流れを抑制する方法が提案されている。また、特許文献3には、表面層に無機微粒子を含有する電子写真感光体の表面に凹凸形状を形成して、電子写真感光体表面に帯電生成物が付着しても、画像流れを低減する方法が提案されている。
【0004】
一方、無機微粒子を電子写真感光体の表面層に付着または含有させることが提案されている。特許文献4には、無機微粒子を電子写真感光体表面に付着後に加熱、加圧して、無機微粒子を感光層に埋め込み、耐摩耗性を向上させる方法が提案されている。また、特許文献5、特許文献6には、電子写真感光体の表面層中に無機微粒子を含有させ、耐摩耗性を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−181298号公報
【特許文献2】特開2001−183851号公報
【特許文献3】特開2004−279967号公報
【特許文献4】特開2001−235887号公報
【特許文献5】特開2005−043623号公報
【特許文献6】特開2008−046198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの結果、特許文献1、2に記載の電子写真感光体は、酸化防止剤が直ぐに電子写真感光体の表面から取り去られて、画像形成初期においても、画像流れの抑制効果の持続性が不十分であると分かった。特許文献3に記載の電子写真感光体は、クリーニングブレードによる摺擦が十分ではない画像形成初期では、帯電生成物の除去が十分ではなく、画像流れが発生しやすかった。特許文献4に記載の電子写真感光体は、無機微粒子が感光層中に埋め込まれているため、画像形成初期の画像流れの抑制が十分ではなかった。特許文献5、6に記載の電子写真感光体では、画像流れの抑制効果が十分ではなく、電子写真特性も十分とはいえないものであると分かった。
【0007】
本発明の目的は、表面層を有する電子写真感光体において、感光体の使用初期の画像形成において画像流れが抑制されている電子写真感光体の製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記電子写真感光体の製造方法で製造された電子写真感光体を有する電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。
ポリカーボネート、ポリアリレート又は、重合性官能基を有する化合物を重合させて得られる硬化性樹脂を含有する表面層を形成する工程と、形成した該表面層の表面を加工する工程と、有する電子写真感光体の製造方法において、
該表面層の表面を加工する工程が、該表面層の表面に、0.5μm以上40μm以下の幅を有する複数の溝を形成する第一の工程と、該複数の溝を形成した該表面層の表面に無機微粒子を塗布する第二の工程と、該無機微粒子を塗布した該表面層の表面にシート状の摺擦部材を圧接させ、該表面層の表面と該摺擦部材とを相対的に移動させることにより該表面層の表面を摺擦する第三の工程と、を有し、
該無機微粒子の一次粒子の数平均粒径が30nm以上300nm以下であり、該無機微粒子の一次粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状であり、
JIS B 0601−2001で定義される粗さ曲線の十点平均粗さをRzjisとしたとき、該第一の工程から該第三の工程によって加工された表面層の表面のRzjisが、0.3μm以上2.0μm未満である
ことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【0009】
また、本発明は、前記電子写真感光体の製造方法で製造された電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジに関する。
【0010】
また、本発明は、前記電子写真感光体の製造方法で製造された電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有する電子写真装置に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、感光体の使用初期の画像形成における画像流れが抑制されている電子写真感光体を製造する電子写真感光体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、前記電子写真感光体の製造方法で製造された電子写真感光体を有する電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電子写真感光体の製造方法において、電子写真感光体の表面層の表面を加工する第一の工程で用いた、シート状の摺擦部材(摺擦シート)による表面層表面の摺擦方法の一例を示す図である。
【図2】第一の工程において、摺擦シート101の張力のみで電子写真感光体の表面層の表面を加工する場合の一例を示す図である。
【図3】本発明のシート状の摺擦部材の一例を示す図である。
【図4】本発明の電子写真感光体の製造方法で製造された電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の電子写真感光体の製造方法は、ポリカーボネート、ポリアリレート又は、重合性官能基を有する化合物を重合させて得られる硬化性樹脂を含有する表面層を形成する工程と、形成した該表面層の表面を加工する工程とを、有する。
【0014】
そして、該表面層の表面を加工する工程が、該表面層の表面に、0.5μm以上40μm以下の幅を有する複数の溝を形成する第一の工程と、該複数の溝を形成した該表面層の表面に無機微粒子を塗布する第二の工程と、該無機微粒子を塗布した該表面層の表面にシート状の摺擦部材を圧接させ、該表面層の表面と該摺擦部材とを相対的に移動させることにより該表面層の表面を摺擦する第三の工程と、を有する。
【0015】
該無機微粒子は、該無機微粒子の一次粒子の数平均粒径が30nm以上300nm以下であり、該無機微粒子の一次粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状である。
【0016】
JIS B 0601−2001で定義される粗さ曲線の十点平均粗さをRzjisとしたとき、該第一の工程から該第三の工程によって加工された表面層の表面のRzjisが、0.3μm以上2.0μm未満であることを特徴とする。
【0017】
本発明者らは、本発明の電子写真感光体の製造方法により製造された電子写真感光体が、感光体の使用初期の画像形成において画像流れを抑制させる理由を以下のように推測している。
【0018】
画像流れを抑制するためには、電子写真感光体の表面(表面層の表面)に付着する帯電生成物をクリーニング(クリーニングブレードなど)によって除去することが必要である。そして、感光体の使用初期の画像形成においても、クリーニングによる帯電生成物の除去が安定して行われることが、本発明の画像流れの抑制効果に求められる。
【0019】
本発明の電子写真感光体において、電子写真感光体使用前の表面層の表面に形成された溝に押し込まれている無機微粒子の一次粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状であるため、一次粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状でない場合(例えば球状である場合)に比べて、無機微粒子と表面層の表面との接触面積を大きくすることができる。そして、無機微粒子の立方体状及び/又は直方体状の稜線が表面層の表面に当接することで、帯電生成物を効率よく感光体表面から除去することができ、電子写真感光体の使用初期の画像形成に発生する画像流れを抑制することができると考えられる。このような無機微粒子が表面層の表面の溝に押し込まれていることによって、表面層の表面に溝を形成していない電子写真感光体に比べて、表面層の表面に無機微粒子を多く存在させることができ、また、無機微粒子が表面層の表面からすぐに失われてしまうことを抑えることができる。
【0020】
さらに、第一から第三の工程によって加工された表面層の表面のRzjisを0.3μm以上2.0μm未満にすることで、表面層の表面の溝に押し込まれた無機微粒子による画像流れの改善と、クリーニングの安定性の両立をすることができる。表面層の表面の溝に粒径と形状が規定された特定の無機微粒子を押し込むことで、クリーニングブレードで表面層の表面を摺擦した時に、無機微粒子が介在して研磨剤の役割として機能し、電子写真感光体(表面層)の表面の帯電生成物を除去すると考えられる。これにより、感光体の使用初期の画像形成における画像流れを抑制することが可能になると推測している。
【0021】
さらに、現像剤に画像流れを抑制する無機微粒子を用いても、非画像形成部に付着した帯電生成物は除去するのが不十分であったが、本発明の電子写真感光体の製造方法によって製造された電子写真感光体においては、非画像形成部の帯電生成物の除去を効率よく行うことができると考えられる。さらに、画像形成初期では、現像剤による画像流れ抑制効果が十分に発揮されないが、本発明の製造方法により製造された電子写真感光体では、画像流れを抑制させる無機微粒子を初めから存在させ、感光体の使用初期の画像形成おける画像流れを抑制することができると考えられる。
【0022】
表面層の表面を加工する工程における第一の工程について説明する。本発明の第一の工程は、表面層の表面に、0.5μm以上40μm以下の幅を有する複数の溝が形成する工程である。表面層の表面に形成される溝の幅が0.5μm未満の場合、溝の幅が小さく、塗布した無機微粒子を十分に溝の中へ押し込むことができない。また、表面層の表面に形成される溝の幅が40μmよりも大きい場合、溝の幅が大きいため、クリーニングブレードによって繰り返し摺擦されても、無機微粒子が押し込まれた溝からすぐに失われやすい。これにより、画像流れを抑制することが十分ではない。
【0023】
本発明の電子写真感光体において、表面層の表面に形成される溝は、0.5μm以上40μm以下の溝が、単位面積(1mm、1mm四方)あたり20本以上1000本以下の割合で形成されていることがより好ましい。溝が単位面積あたり20本未満であると、通紙枚数の増加によりクリーニングブレードめくれが発生し、クリーニング不良となり、出力画像上に黒いスジ状の画像が生じる場合がある。また、トナーなどの融着が生じ、出力画像上に白い点状の画像が生じる場合がある。溝が単位面積あたり1000本を超えると、文字再現性が低下して、文字かすれてしまう場合がある。また、トナーがクリーニングブレードをすり抜けて、クリーニングが十分に行われない場合もある。
【0024】
また、第一の工程において形成された溝は、溝の深さが0.3μm以上2.0μm以下であることが好ましい。
【0025】
表面層の表面に形成される溝は、電子写真感光体の周方向、母線方向など、どのような方向でも形成してよい。本発明においては、溝を形成する加工の安定性という観点から、溝を周方向に形成することが好ましい。また、溝を形成する手段としては、表面層の表面にサンドペーパーや回転ブラシ等を接触させて擦り、溝を形成する方法、表面層の表面に凹凸形状を有する金型を押し当てて溝を形成する方法などが挙げられる。また、後述する第三の工程で用いられるシート状の摺擦部材を用いて、表面層の表面に溝を形成することもできる。シート状の摺擦部材であれば、常に新しいシートでの摺擦が可能であり、摺擦により発生する微粉が目詰まりすることで発生する深傷や欠陥を防止できる。
【0026】
また、本発明の表面層の表面において、形成された溝同士の間の幅は、0.5μm以上40μm以下であることが好ましい。溝同士の間の幅が40μmを超えると、電子写真感光体とクリーニングブレードとの間の当接圧力が上昇しやすく、クリーニング不良が発生する場合がある。
【0027】
本発明において、表面層の表面に形成された溝の幅、単位面積(1mm、1mm四方あたりの溝の数、および形成された溝同士の間の幅は、非接触3次元表面測定機(商品名:マイクロマップ557N、菱化システム(株)製)を用いて以下のようにして測定した。
【0028】
非接触3次元表面測定機の光学顕微鏡部に5倍の二光束干渉対物レンズを装着し、電子写真感光体を二光束干渉対物レンズ下に固定し、表面層の表面の形状画像をWaveモードでCCDカメラを用いて干渉像を垂直走査させて3次元画像を得る。得られる画像の範囲は1.6mm×1.2mmである。
【0029】
次に、得られた3次元画像を解析し、データとして単位面積(1mm、1mm四方)あたりの溝の数、溝の幅が得られる。このデータを基に、表面層の表面に形成された、溝の幅、溝の数、および溝同士の間の幅の解析を行う。本発明においては、単位面積あたりの溝の数は、溝の幅が0.5μm以上40μm以下のものをカウントした。電子写真感光体の母線方向の3箇所で、さらにそれぞれの箇所において周方向について各4箇所、計12箇所を測定箇所とした。
【0030】
本発明においては、上記非接触3次元表面測定機以外にも、超深度形状測定顕微鏡(商品名:VK−8550、VK−9000、(株)キーエンス製)、走査型共焦点レーザー顕微鏡(商品名:OLS3000、オリンパス(株)製)、リアルカラーコンフォーカル顕微鏡(商品名:オプリテクスC130、レーザーテック(株)製)、デジタルマイクロスコープ(商品名:VHX−100、VH−8000、(株)キーエンス製)などのレーザー顕微鏡を用いることができる。これらのレーザー顕微鏡により、電子写真感光体の表面の画像を取得し、それを基に画像処理ソフト(商品名:WinROOF、三谷商事(株)製)などを用いて、溝の幅、単位面積あたりの溝の数を求めることができる。
【0031】
表面層の表面を加工する工程における第二の工程について説明する。本発明の第二の工程は、複数の溝が形成された表面層の表面に無機微粒子を塗布する工程である。
【0032】
本発明において、無機微粒子は、一次粒子の数平均粒径が30nm以上300nm以下であり、一次粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状である。この無機微粒子がペロブスカイト型結晶のチタン酸ストロンチウムであることが好ましい。
【0033】
本発明における無機微粒子は、一次粒子の数平均粒径が30nm以上300nm以下であり、好ましくは40nm以上300nm以下であり、40nm以上250nm以下であることがより好ましい。数平均粒径が30nm未満では、無機微粒子の研磨剤としての役割を十分に果たすことができず、帯電生成物の除去が不十分であり、画像流れの抑制が十分ではない。一方、300nmを超えると、無機微粒子の研磨剤としての役割が強すぎるため、電子写真感光体の表面にキズが発生してしまう。
【0034】
また、無機微粒子は、必ずしも一次粒子として存在するとは限らず、凝集体として存在する場合もある。その場合、600nm以上の粒径を有する無機微粒子の凝集体の含有率が、1個数%以下であれば、本発明の効果を安定して得られる。
【0035】
本発明における無機微粒子の数平均粒径については、電子顕微鏡にて5万倍の倍率で撮影した写真から100個の無機微粒子の粒径を測定して、その平均を求めた。粒径は、一次粒子の最長辺をa、最短辺をbとし、(a+b)/2の値として粒径を求めた。
【0036】
本発明において、無機微粒子の形状は、一次粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状である。無機微粒子の一次粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状であることで、無機微粒子と表面層表面との接触面積を大きくすることができることで、帯電生成物の良好な掻き取り性を得ることができる。また、無機微粒子の立方体状及び/又は直方体状の稜線が感光体表面に当接することで、帯電生成物の良好な掻き取り性を得ることができる。
【0037】
無機微粒子の一次粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状のなかでも、ペロブスカイト型結晶の無機微粒子であると、表面層の表面に付着した帯電生成物の除去を効率的に行うことできるため、好ましい。さらに、ペロブスカイト型結晶の無機微粒子の中でも、例えば、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウムの無機微粒子が好ましく、チタン酸ストロンチウムの無機微粒子がより好ましい。
【0038】
チタン酸ストロンチウムの微粒子において、焼結工程を経て製造されたものは、微粒子の形状が球状、または球状に近い多面体状であるために、表面層の表面との接触面積が小さく、稜線が少ないために、帯電生成物の除去が十分でなくなる場合がある。そして、焼結工程を経由しないと、粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状である一次粒子を50個数%以上含有することができる。本発明において好ましくは、焼結工程を経由しないチタン酸ストロンチウムであり、立方体状及び/又は直方体状の粒子形状を50個数%以上含有することができる。
【0039】
本発明の第二の工程において、表面層の表面に無機微粒子を塗布する方法としては、以下の方法が挙げられる。無機微粒子を表面層の表面に振り掛ける方法、無機微粒子をシルボン紙に含ませて表面層の表面に付着させる方法、無機微粒子をブラシローラやスポンジに振り掛けておき表面層の表面にそれを押し付けて無機微粒子を付着させる方法である。また、後述する第三の工程において、シート状の摺擦部材で表面層の表面を摺擦する前に、摺擦シートと表面層の間に無機微粒子を塗布し、塗布と摺擦を同時に行う方法でもよい。
【0040】
表面層の表面を加工する工程における第三の工程について説明する。本発明の第三の工程は、第二の工程により、無機微粒子が塗布された表面層上からシート状の摺擦部材を圧接させ、表面層の表面と摺擦部材とを相対的に移動させることにより表面層の表面を摺擦する工程である。
【0041】
本発明では、JIS B 0601−2001で定義される粗さ曲線の十点平均粗さをRzjisとしたとき、第一の工程から第三の工程によって表面が加工された表面層の表面のRzjisが0.3μm以上2.0μm未満である。より好ましくは、0.3μm以上1.5μm以下である。Rzjisが0.3μm未満であると、溝に押し込んだ無機微粒子がクリーニングブレードとの摺擦により脱離しやすく、画像流れ改善の効果が十分に得られない。また、2.0μm以上であると、クリーニングブレードと無機微粒子が介在しなくなってクリーニング不良が発生しやすい。そして、電子写真感光体の表面にキズが発生してしまい、画像欠陥が発生しやすい。本発明の電子写真感光体において、表面層の表面のRzjisは、JIS B 0601−2001の規格を基準とし、(株)小坂研究所製の表面粗さ測定器(商品名:サーフコーダSE3500型)を用い、以下の条件で測定した。本発明においては、電子写真感光体の母線方向の3箇所で、それぞれの箇所において周方向について各4箇所、計12箇所を測定箇所とした。なお、JIS B 0601−2001とは、日本工業標準調査会によって標準化された「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ」なる規格である。
検出器:R2μm
0.7mNのダイヤモンド針
フィルタ:2CR
カットオフ値:0.8mm
測定長さ:2.5mm
送り速さ:0.1mm
【0042】
本発明の第三の工程に用いた、シート状の摺擦部材による表面層の表面を摺擦する方法の一例を図1に示す。シート状の摺擦部材は、研磨砥粒が結着樹脂に分散されたものが基材に塗布されたシートである(以下「摺擦シート」と称する)。
【0043】
図1中、摺擦シート101は円筒状の軸106に巻かれており、円筒状の軸106に摺擦シート101が送られる方向(図1の上部中央部の左矢印)とは逆方向に、摺擦シート101に張力が与えられるようモーター(不図示)が配置されている。摺擦シート101は矢印方向(図1の上部中央部の左矢印)に送られ、ガイドローラ102a、102bを介してバックアップローラ103を通る。摺擦後の摺擦シート101はガイドローラ102c、102dを介してモーター(不図示)により、図1の下部中央部の右矢印の方向へ巻き取り手段105により巻き取られる。表面層の摺擦は、未処理の摺擦シート101が電子写真感光体(無機微粒子を塗布した表面層)104の表面に常時圧接され、電子写真感光体104の表面を摺擦することで行われる。摺擦シート101は絶縁性であることが多いので、摺擦シート101の接する部位には、アースに接地されたものまたは導電性を有するものを用いることが好ましい。
【0044】
摺擦シートの送りスピードは10〜500mm/secの範囲が好ましい。送りスピードが遅ければ、電子写真感光体の表面を摺擦した摺擦シートが再び、電子写真感光体の表面に接触してしまい、電子写真感光体表面への深い溝の発生、表面の溝のムラ、電子写真感光体表面への摺擦シートの結着樹脂の付着等を生じる場合がある。
【0045】
電子写真感光体104は、摺擦シート101を介してバックアップローラ103と対向した位置に設置される。この際、摺擦シート101の基材側からバックアップローラが所望の設定値でバックアップローラ103に所定時間圧接され、電子写真感光体表面が摺擦される。電子写真感光体の回転方向は、摺擦シート101の送られる方向と同一方向(図1中、中央部左側の矢印、時計回り)である。又は摺擦途中で回転方向を変更してもよい。
【0046】
バックアップローラの電子写真感光体表面に対する押し当て圧は、摺擦シ−トの研磨砥粒の種類及び粒径(番手)、摺擦シートの基材、砥粒と結着樹脂を有する部分の膜厚、バックアップローラの硬度、電子写真感光体の表面層の硬度により、最適値は変化する。しかしながら、0.005N/mから15N/mの範囲であれば、本発明における第一の工程から第三の工程により製造された電子写真感光体の表面が加工され、画像流れを抑制することができる。なお、本発明における電子写真感光体の表面加工は、摺擦シートの送りスピード、パックアップローラの押し当て圧、研磨砥粒の粒径、形状、摺擦シート番手、摺擦シートの結着樹脂厚、基材厚等を適宜選択することにより調整できる。
【0047】
摺擦シートに用いられる研磨砥粒としては、酸化アルミニウム、酸化クロム、炭化珪素、ダイヤモンド、酸化鉄、酸化セリウム、コランダム、珪石、窒化珪素、窒化ホウ素、炭化モリブデン、炭化珪素、炭化タングステン、チタンカーバイト、酸化珪素などが挙げられる。好ましい研磨砥粒の平均粒径(遠心沈降法で中央粒径(メジアン径D50)の値を平均粒径とする)は、0.01〜50μmであり、より好ましくは1〜15μmである。
【0048】
摺擦シートは、研磨砥粒が結着樹脂中に分散された分散液を基材に塗布して形成される。結着樹脂中の研磨砥粒は粒径分布を有して分散されることも好ましく、その粒度分布を制御しても良い。
【0049】
摺擦シート番手は研磨砥粒の粒径と相関があり、番手数が小さい方が研磨砥粒の平均粒径が大きい。本発明において摺擦シート番手の範囲は、500(研磨砥粒の粒径が約40μm)〜10000(研磨砥粒の粒径が約0.5μm)が好ましく、より好ましくは1000〜4000が好ましい。また、番手数が同じでも研磨砥粒が異なる摺擦シートで摺擦しても良い。
【0050】
摺擦シートに用いられる結着樹脂としては、塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、アミノ樹脂、スチレンブタジエン共重合体、ウレタンエラストマー、ナイロン−シリコーン樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン樹脂、メラミン、アルキッドなどの熱可塑性樹脂、および熱硬化性樹脂が挙げられる。摺擦シートの結着樹脂の脂厚は、1〜100μmが好ましい。
【0051】
摺擦シートに用いる基材としてはポリエステル、ポリオレフィン、セルロース樹脂、ビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン等が挙げられる。摺擦シートの基材の膜厚は10〜150μmが好ましく、より好ましくは15〜100μmである。
【0052】
本発明において、摺擦シートとしては、レフライト(株)製のMAXIMA、MAXIMA Tタイプ、(株)KOVAX製のラピカ、住友3M(株)製のマイクロフィニッシングフィルム、ラッピングフィルム、三共理化学(株)製のミラーフィルム、ラップングフィルム、日本ミクロコーティング(株)製のミポックスなどの市販の摺擦シートを用いることができる。
【0053】
バックアップローラ103は、本発明の電子写真感光体の表面を加工する手段として有効な手段である。摺擦シート101の張力のみで研磨することも可能であるが、バックアップローラ103を介さずに摺擦シート101の張力のみで電子写真感光体の表面を加工する方法は、摺擦シート番手が小さいもの、つまり研磨砥粒の大きな物(500〜800)等に有効である。
【0054】
図2に摺擦シート101を張力のみで電子写真感光体の表面を加工する方法の一例を示す。図1と異なる点としては、バックアップローラ103が無い。
【0055】
本発明の電子写真感光体の表面加工を行うためには、バックアップローラを用いるのが好ましい。バックアップローラ103の材質としては、導電性を有する金属、樹脂などが挙げられ、好ましくは導電性を有する樹脂である。さらに好ましくは、発泡性樹脂である。
【0056】
摺擦シートと電子写真感光体との摺擦による帯電を抑制するため、電子写真感光体表面、摺擦シート、及びそのニップ部に除電エアー、静電エアーなどを吹付けてもよい。
【0057】
図3に示すように、摺擦シートは、基材201と、基材201の上に研磨砥粒203を基材201に固着させるため、結着樹脂202を塗布した構成である。
【0058】
本発明の電子写真装置は、電子写真感光体の製造方法で製造された電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有する。本発明において、電子写真装置におけるクリーニングブレード当接圧は、一般的な電子写真装置のクリーニングブレードの当接圧であればよく、クリーニングブレード当接圧が10〜100N/mである。
【0059】
本発明の電子写真感光体は、支持体、支持体上に形成された感光層、感光層上に表面層を有する。
【0060】
また、感光層は、主に、電荷輸送物質と電荷発生物質を同一の層に含有する単層型感光層と、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とに分離した積層型(機能分離型)感光層とが挙げられる。本発明においては、積層型感光層が好ましい。また、電荷発生層を積層構造としてもよく、電荷輸送層を積層構成としてもよい。また、電子写真感光体の耐久性を向上させることを目的として、感光層上に保護層を形成してもよい。
【0061】
〔支持体〕
本発明の電子写真感光体に用いられる支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましく、アルミニウム、ステンレスなどの金属や合金が挙げられる。ED管、EI管や、これらを切削、電解複合研磨、湿式または乾式ホーニング処理した支持体を用いることもできる。また、金属支持体、樹脂支持体上にアルミニウム、アルミニウム合金、または酸化インジウム−酸化スズ合金等の導電材料の薄膜を形成したものも挙げられる。支持体の表面は、レーザー光などの散乱による干渉縞の抑制を目的として、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
【0062】
また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子のような導電性粒子を樹脂に含浸した支持体や、導電性結着樹脂を有するプラスチックを用いることもできる。
【0063】
本発明の電子写真感光体において、支持体上に導電性粒子と結着樹脂を有する導電層を形成してもよい。導電層を支持体上に形成する方法では、導電層中に導電性粒子を含む粉体が含有される。導電性粒子としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、鉄、亜鉛、銀などの金属粉や、導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体が挙げられる。
【0064】
導電層の膜厚は、0.2μm以上40μm以下であることが好ましく、さらには1μm以上35μm以下であることがより好ましく、さらには5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0065】
導電層に用いられる結着樹脂としては、ビニル化合物の重合体/共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ケイ素樹脂およびエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0066】
本発明の電子写真感光体において、支持体または導電層と、感光層(電荷発生層)との間には中間層を形成してもよい。中間層は、樹脂を含有する中間層用塗布液を支持体上、または導電層上に塗布し、これを乾燥または硬化させることによって形成することができる。
【0067】
中間層に用いられる樹脂としては、ポリアクリル酸類、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、エチルセルロース、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド酸、メラニン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタンなどが挙げられる。中間層に用いられる樹脂は熱可塑性樹脂が好ましく、具体的には、熱可塑性のポリアミドが好ましい。
【0068】
中間層の膜厚は0.05μm以上7μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。また、中間層には、半導電性粒子、電子輸送物質、あるいは電子受容性物質を含有させてもよい。
【0069】
〔感光層〕
本発明の電子写真感光体では、支持体、導電層または中間層上には、感光層(電荷発生層、電荷輸送層)が形成される。
【0070】
本発明の電子写真感光体に用いられる電荷発生物質としては、ピリリウム、チアピリリウム系染料、フタロシアニン顔料、アンスアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、アゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、キノシアニン顔料が挙げられる。これら電荷発生物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、フタロシアニン顔料が好ましい。
【0071】
積層型感光層において、本発明の電子写真感光体に用いられる結着樹脂としては、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂および尿素樹脂が挙げられる。より好ましくは、ブチラール樹脂である。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0072】
電荷発生物質と結着樹脂との割合は、電荷発生物質1質量部に対して、結着樹脂が0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0073】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂及び溶剤と共に分散して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜としてもよい。
【0074】
分散方法としては、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルを用いた方法が挙げられる。
【0075】
電荷発生層の膜厚は、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。また、電荷発生層において電荷の流れが滞らないようにするために、電子輸送物質、または電子受容性物質を含有させてもよい。
【0076】
本発明の電子写真感光体で用いられる電荷輸送物質は、ピレン化合物、トリアリールアミン系化合物、ピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、スチリル系化合物、スチルベン系化合物、オキサゾール系化合物、トリアリルメタン系化合物などが挙げられる。これらの正孔輸送材料は1種のみ用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0077】
積層型感光層において、電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリサルホンなどが挙げられる。これらの結着樹脂は単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
電荷輸送層は、電荷輸送物質と結着樹脂および溶剤とともに分散して得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
【0079】
分散方法としては、たとえば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルを用いた方法が挙げられる。
【0080】
電荷輸送物質と結着樹脂との割合は、電荷輸送物質1質量部に対して、結着樹脂が0.5質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0081】
電荷輸送層の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、さらには10μm以上35μm以下であることがより好ましい。また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。また、フッ素原子含有樹脂やシリコーン含有樹脂などを含有させても良い。また前記樹脂により構成される微粒子、金属酸化物微粒子や無機微粒子を含有してもよい。
【0082】
〔表面層〕
本発明においては、上述の電荷輸送層を表面層として形成してもよい。この場合、電荷輸送層には、本発明のポリアリレート、ポリエステル、又は重合性官能基を有する化合物を重合させて得られる硬化性樹脂を含有する。また、上述の電荷輸送層に第二電荷輸送層または保護層として表面層を形成することもできる。
【0083】
本発明の表面層が有するポリアリレート、ポリエステル、又は重合性官能基を有する化合物を重合させて得られる硬化性樹脂とは、ユニバーサル硬さ値(HU)が170以上の樹脂である。このような樹脂を用いた表面層を有する電子写真感光体では、機械的強度が高く耐摩耗性は高いが、画像流れが発生しやすい。ユニバーサル硬さ値(HU)が150未満の樹脂であれば、機械的強度が低く、表面層が摩耗しやすい。そのため、表面層の摩耗と共に帯電生成物が除去され、画像流れが発生しにくいが、耐摩耗性の効果が得られない。
【0084】
本発明の電子写真感光体において、表面層にポリアリレート又はポリカーボネートを含有するときは、上述の電荷輸送物質を含有させてもよい。
【0085】
本発明の表面層に用いられる重合性官能基を有する化合物とは、重合させることで硬化性樹脂を形成できる化合物である。具体的には、例えば、オレフィン化合物(二重結合C=Cを1個のみ有する化合物。)や、ハロゲン化オレフィン化合物(二重結合C=Cを1個のみ有し、ハロゲンX(XはF、Cl、BrまたはI)を有する化合物。)や、ジエン化合物(二重結合C=Cを2個以上有する化合物。)や、アセチレン化合物(三重結合C≡Cを1個以上有する化合物。)や、スチレン化合物(C=CAr(Arは芳香環または芳香族複素環)の構造を有する化合物。)や、ビニル化合物(ビニル基C=C−を有する化合物。)、アクリル酸化合物(C=C−CO−Z(ZはO、SまたはN)あるいはC=C−CN構造を有する化合物。)や、環状エーテル化合物(環に−O−結合を有する環状化合物。)や、ラクトン化合物(環に−CO−O−結合を有する環状化合物。)や、ラクタム化合物(環に−NH−CO−結合を有する環状化合物。)や、環状アミン化合物(環に−NH−結合を有する環状化合物。)や、環状スルフィド化合物(環にS原子を有する環状化合物。)や、環状カーボナート化合物(環に−O−CO−O−結合を有する環状化合物。)や、環状酸無水物(環に−CO−O−CO−結合を有する環状化合物。)や、環状イミノエーテル化合物(環に−N=C−O−結合を有する環状化合物。)や、アミノ酸−N−カルボン酸無水物(環に−O−CO−N=C−CO−結合を有する環状化合物。)や、環状イミド化合物(環に−CO−NH−CO−結合、−NH−CO−O−結合または−NH−CO−NH−結合を有する環状化合物。)や、環状含リン化合物(環にP原子を有する環状化合物。)や、環状含シリコーン化合物(環にSi原子を有する環状化合物。)や、環状オレフィン化合物(環が炭素または炭素多重結合からなる環状化合物。)や、フェノール化合物(芳香族ヒドロキシル構造を有する化合物。)や、メラミン・尿素化合物(メラミン類または尿素誘導体。)や、ジアミン化合物(ジアミン誘導体、ポリアミンも含む。)や、ジカルボン酸類化合物(ジカルボン酸(エステル)誘導体。)や、オキシカルボン酸化合物(オキシカルボン酸(エステル)誘導体。)や、アミノカルボン酸化合物(アミノカルボン酸(エステル)誘導体。)や、ジオール化合物(OH基を2基以上有するポリオール。)などが挙げられる。
【0086】
また、上記重合性官能基を有する化合物は、電気特性の観点から、分子中に電荷輸送性構造を有している電荷輸送物質であることが好ましい。電荷輸送性構造としては、例えば、トリアリールアミン、ヒドラゾン、ピラゾリン、カルバゾールなどの構造が挙げられる。
【0087】
また、上記重合性官能基は、重合効率の観点から、アクリロイルオキシ基(CH=CHCOO−)またはメタクリロイルオキシ基(CH=C(CH)COO−)であることが好ましい。
【0088】
本発明において、上記重合性官能基を有する化合物は、同一分子内に連鎖重合性官能基(アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基)を2つ以上有している電荷輸送性化合物を用いることが好ましい。 本発明の電子写真感光体の表面層において、重合性官能基を有する化合物を重合させる際には、必要に応じて重合開始剤を用いてもよい。また、重合性官能基を有する化合物の重合は、熱、光(紫外線など)または放射線(電子線など)を用いて行うことができる、これらの中でも、必ずしも重合開始剤を用いる必要のない、放射線を用いた重合が好ましく、電子線を用いた重合がより好ましい。電子線を用いて重合性官能基を有する化合物を重合させる場合、酸素による重合阻害作用を取り除く目的で、不活性ガス中で電子線を照射した後、不活性ガス中で加熱することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどが挙げられる。
【0089】
電子線を使用する場合、加速器として、スキャニング型、エレクトロカーテン型、ブロードビーム型、パルス型及びラミナー型などを使用することができる。電子線を使用する場合に、本発明の感光体においては電気特性及び耐久性能を発現させる上で使用条件が非常に重要である。本発明において、加速電圧は100kV以下が好ましく、最適には80kV以下である。また電子線の照射線量は1×10〜1×10Gyが好ましく、更に好ましくは1×10〜5×10Gyの範囲である。
【0090】
表面層の膜厚は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0091】
〔電子写真装置〕
図4に、本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0092】
図4において、1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度をもって回転駆動される。回転駆動される電子写真感光体1の表面は、回転過程において、帯電手段(一次帯電手段:帯電ローラーなど)3により、負の所定電位に均一に帯電される。次いで、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)から出力される目的の画像情報の時系列電気デジタル画像信号に対応して強度変調された露光光(画像露光光)4を受ける。こうして電子写真感光体1の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。
【0093】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5の現像剤に含まれるトナーで反転現像により現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)6からの転写バイアスによって、転写材(紙など)Pに順次転写されていく。なお、転写材Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に給送される。また、転写手段6には、バイアス電源(不図示)からトナーの保有電荷とは逆極性のバイアス電圧が印加される。
【0094】
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の表面から分離されて定着手段8へ搬送されてトナー像の定着処理を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へ搬送される。
【0095】
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)7によって転写残りの現像剤(転写残トナー)の除去を受けて清浄面化される。次いで、前露光手段(不図示)からの前露光光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図1に示すように、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0096】
本発明においては、上記の電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6およびクリーニング手段7などの構成要素の中から複数のものを選択し、これらを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に支持して構成してもよい。そして、このプロセスカートリッジを、複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図1では、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5およびクリーニング手段7とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段10を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
【0097】
〔実施例〕
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
まず、表面層の表面に溝を形成した電子写真感光体を作製した。
【0098】
〈表面層の表面に溝を形成した電子写真感光体(1)〉
直径30mm、長さ357.5mmのアルミニウムシリンダーを支持体(円筒状支持体)とした。次に、SnOコート処理硫酸バリウム(導電性顔料)10部、酸化チタン(抵抗調節用顔料)2部、フェノール樹脂(結着樹脂)6部、シリコーンオイル(レベリング剤)0.001部、メタノール3部およびメトキシプロパノール12部の混合溶剤を用いて導電層用塗布液を調製した。この導電層用塗布液を上記支持体上に浸漬塗布し、これを140℃で30分間硬化(熱硬化)させて、膜厚が18μmの導電層を形成した。
【0099】
次に、N−メトキシメチル化ナイロン3部および共重合ナイロン3部を、メタノール65部およびn−ブタノール30部の混合溶剤に溶解させて、中間層用塗布液を調製した。この中間層用塗布液を上記導電層上に浸漬塗布し、これを100℃で10分間乾燥させて、膜厚が0.7μmの中間層を形成した。
【0100】
次に、CuKα特性X線回折のブラック角(2θ±0.2°)の7.4°および28.2°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶4部を用意した。それに、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)2部、およびシクロヘキサノン80部を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で4時間分散処理した。分散処理後、酢酸エチル80部を加えて、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を上記中間層上に浸漬塗布し、これを100℃で10分間乾燥させて、膜厚が0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0101】
次に、下記式(1)で示される構造を有するアミン化合物7部、およびポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ800、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)10部を、モノクロロベンゼン105部およびジクロロメタン35部の混合溶剤中に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を上記電荷発生層上に浸漬塗布し、これを120℃で60分間乾燥させることによって、膜厚が10μmの電荷輸送層を形成した。
【0102】
【化1】

【0103】
次に、下記式(2)で示される構造を有する化合物45部、およびn−プロパノール55部を混合することによって、表面層用塗布液を調製した。
【0104】
【化2】

【0105】
この表面層用塗布液を上記電荷輸送層上に浸漬塗布し、これを50℃で5分間乾燥させた。乾燥後、窒素雰囲気(酸素濃度10ppm)中において、加速電圧80kV、吸収線量1.5Mrad(1.5×10Gy)の条件で電子線を照射した後、引き続いて表面層の温度が120℃になる条件で90秒間加熱処理を行った。これにより、膜厚が5μmの表面層を形成した。
【0106】
次に図1に示されるような摺擦方法により、以下に示す条件で、上記で形成された表面層の表面へ、感光体の周方向に溝の形成を行った。形成された溝の幅は0.5μmであった。さらに、摺擦の条件、および形成された溝の幅および本数は表1に示す。
摺擦シ−ト:商品名:GC#4000(レフライト(株)製、研磨砥粒の粒径3μm)
研磨砥粒:SiC(平均粒径:7μm)
摺擦シート送りスピード:400mm/sec
押し当て圧:10N/m
処理時間:120秒。
【0107】
〈表面層の表面に溝を形成した電子写真感光体(2)〜(6)〉
表面層の摺擦条件を表1に示すようにした以外は、電子写真感光体(1)と同様に、表面層に溝を形成した電子写真感光体を製造した。なお、摺擦シートのGC#4000、GC#3000(研磨砥粒の粒径5μm)、GC#2000(研磨砥粒の粒径9μm)、GC#6000(研磨砥粒の粒径2μm)、GC#1000(研磨砥粒の粒径15μm)は、レフライト(株)製である。
【0108】
〈表面層の表面に溝を形成した電子写真感光体(7)〜(12)〉
電荷輸送層の樹脂を下記式(3)で示される構造を有するポリアリレート樹脂(平均分子量Mw=100,000)に変更して電荷輸送層を表面層とし、さらに、表面層の摺擦条件を表1に示すようにした以外は、電子写真感光体(1)と同様に、表面層に溝を形成した電子写真感光体を製造した。なお、摺擦シートのGC#4000、GC#3000、GC#2000、GC#6000、GC#1000は、レフライト(株)製である。なお、下記式(3)で示される構造を有するポリアリレート樹脂のテレフタル酸/イソフタル酸の比率は、1/1である。
【0109】
【化3】

【0110】
【表1】

【0111】
〔実施例1〕
図1に示した方法を用い,上記製造した電子写真感光体(3)の表面(表面層の表面)に、シート状の摺擦部材(摺擦シート)を圧接させた。この電子写真感光体の表面と摺擦シートの間に、一次粒子の数平均粒径が100nmであるペロブスカイト型のチタン酸ストロンチウム1gを塗布した。このチタン酸ストロンチウムは、立方体状及びは直方体状の粒子形状を有していた。その後、電子写真感光体の表面と摺擦シートとを相対的に移動させることにより、表面層の摺擦を行い、電子写真感光体を製造した。摺擦の条件は下記および表2に示す。製造された電子写真感光体の表面層表面の十点平均粗さRzjisを測定したところ、0.5μmであった。
摺擦シ−ト:商品名:GC#2000(レフライト(株)製)
研磨砥粒:SiC(平均粒径:7μm)
摺擦シート送りスピード:300mm/sec
押し当て圧:7.5N/m
処理時間:120秒。
【0112】
〔実施例2〜20〕
電子写真感光体の種類、ペロブスカイト型のチタン酸ストロンチウムの数平均粒径および塗布量、さらに摺擦シートによる摺擦の条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造した。製造された表面層の表面の十点平均粗さRzjisの測定値を併せて表2に示す。
【0113】
〔比較例1〜12〕
電子写真感光体の種類、ペロブスカイト型のチタン酸ストロンチウムの数平均粒径および塗布量、さらに摺擦シートによる摺擦の条件を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造した。製造された表面層の表面の十点平均粗さRzjisの測定値を併せて表3に示す。
【0114】
〔比較例13〕
表面層の表面を加工する第一の工程から第三の工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造した。
【0115】
〔比較例14〕
表面層の表面を加工する第一の工程から第三の工程を行わなかったこと以外は、実施例8と同様に電子写真感光体を製造した。
【0116】
〔比較例15〕
比較例13で製造した電子写真感光体の表面に、一次粒子の数平均粒径が100nmであるペロブスカイト型のチタン酸ストロンチウム1gをシルボン紙に含ませて付着させ、電子写真感光体を製造した。
【0117】
〔比較例16〕
比較例14で製造した電子写真感光体の表面に、一次粒子の数平均粒径が100nmであるペロブスカイト型のチタン酸ストロンチウム1gをシルボン紙に含ませて付着させ、電子写真感光体を製造した。
【0118】
〔比較例17〕
表面層の表面を加工する第二の工程、および第三の工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造した。
【0119】
〔比較例18〕
表面層の表面を加工する第二の工程、および第三の工程を行わなかったこと以外は、実施例8と同様に電子写真感光体を製造した。
【0120】
〔比較例19〕
上記製造した電子写真感光体(3)の表面に、一次粒子の数平均粒径が100nmであるペロブスカイト型のチタン酸ストロンチウム1gをシルボン紙に含ませて付着させた、電子写真感光体を製造した。
【0121】
〔比較例20〕
上記製造した電子写真感光体(9)の表面に、一次粒子の平均粒径が100nmであるペロブスカイト型のチタン酸ストロンチウム1gをシルボン紙に含ませて付着させ電子写真感光体を製造した。
【0122】
【表2】

【0123】
【表3】

【0124】
(評価)
実施例1〜20、および比較例1〜20の電子写真感光体の評価方法については、以下の通りである。
【0125】
評価装置としては、キヤノン(株)製のカラーレーザープリンター LBP5900(クリーニングブレードの当接圧は50N/m)を用いた。電子写真感光体を温度32.5℃、湿度90%RHの環境下に24時間放置する。温度32.5℃、湿度90%RHの環境下にて、ブラック色用のプロセスカートリッジに製造した電子写真感光体を装着して、ブラックのプロセスカートリッジのステーションに装着し、初期連続1000枚通紙耐久を行った。連続50枚通紙時、連続1000枚通紙時の画像を確認し、画像流れの発生の評価を行った。通紙時は各色の印字率1%の文字画像において、連続1000枚通紙耐久を行った。以下の基準で評価を行い、結果を表4に示す。Cは画像全面に画像流れが発生した場合、Bは画像の一部に画像流れが発生した場合、Aは画像流れが発生しなかった場合である。本発明において、A、Bが本発明の効果が得られているレベルであり、その中でもAは優れているレベルであると判断した。一方、Cは本発明の効果が得られていないレベルと判断した。また、連続1000枚通紙中の画像について、感光体のキズによる画像欠陥の有無を評価した。
【0126】
【表4】

【符号の説明】
【0127】
101 摺擦シート(シート状の摺擦部材)
102a、102b、102c、102d ガイドローラ
103 バックアップローラ
104 電子写真感光体
105 巻き取り手段
106 円筒状の軸
201 基材
202 結着樹脂
203 研磨砥粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート、ポリアリレート又は、重合性官能基を有する化合物を重合させて得られる硬化性樹脂を含有する表面層を形成する工程と、
形成した該表面層の表面を加工する工程と、
有する電子写真感光体の製造方法において、
該表面層の表面を加工する工程が、
該表面層の表面に、0.5μm以上40μm以下の幅を有する複数の溝を形成する第一の工程と、
該複数の溝を形成した該表面層の表面に無機微粒子を塗布する第二の工程と、
該無機微粒子を塗布した該表面層の表面にシート状の摺擦部材を圧接させ、該表面層の表面と該摺擦部材とを相対的に移動させることにより該表面層の表面を摺擦する第三の工程と、
を有し、
該無機微粒子の一次粒子の数平均粒径が30nm以上300nm以下であり、
該無機微粒子の一次粒子の形状が立方体状及び/又は直方体状であり、
JIS B 0601−2001で定義される粗さ曲線の十点平均粗さをRzjisとしたとき、該第一の工程から該第三の工程によって加工された表面層の表面のRzjisが、0.3μm以上2.0μm未満である
ことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記無機微粒子が、ペロブスカイト型結晶のチタン酸ストロンチウムであることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記溝が、前記表面層の表面の単位面積(1mm四方)あたり20本以上1000本以下で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法で製造された電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法で製造された電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−11753(P2013−11753A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144643(P2011−144643)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】