説明

電子写真感光体の製造方法、並びに、この電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジ及び画像形成装置

【課題】電子写真感光体の表面の研磨に起因して、画像形成時にクリーニング用ブレードの同一部分が摩耗し、電子写真感光体の軸方向に沿って部分的な画質欠陥が発生するのを抑制することが可能な電子写真感光体の製造方法、並びに、この電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジ及び画像形成装置を提供。
【解決手段】円筒状に形成される電子写真感光体の表面に位置する少なくとも感光層を含む被覆層を形成する層形成工程と、前記層形成工程によって被覆層が形成された前記電子写真感光体を回転させるとともに、前記電子写真感光体の被覆層の表面に研磨部材を接触させた状態で、前記研磨部材を前記電子写真感光体の周方向と交差する方向に沿って移動させることにより、前記電子写真感光体の被覆層の表面を研磨する研磨工程とを備えるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真感光体の製造方法、並びに、この電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジ及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記電子写真感光体としては、当該電子写真感光体の表面が製造直後の鏡面に近い状態のままであると、電子写真感光体の表面とクリーニング用のブレードとの間の摩擦係数が過大となり、クリーニング工程などに不具合が生じる虞れがあるため、これを回避する目的で電子写真感光体の製造時に当該電子写真感光体の表面を意図的に粗面化したものが用いられている。
【0003】
このように、上記電子写真感光体の表面を粗面化する技術としては、例えば、特開2010−091934号公報等に開示されたものが既に提案されている。
【0004】
この特開2010−091934号公報に係る電子写真装置の製造方法は、円筒状の電子写真感光体の最表面に該当する層を形成する層形成工程と、
該層形成工程の後に、該電子写真感光体の最表面層を研磨する電子写真感光体の研磨工程と、
該研磨工程の後に、該電子写真感光体を、クリーニングブレードが画像形成プロセス中の該電子写真感光体の回転方向に対してカウンター方向に当接された電子写真装置に設置する電子写真感光体設置工程と
を有する電子写真装置の製造方法において、
該研磨工程が、研磨部材と該研磨前の電子写真感光体を接触させ、該研磨部材と該研磨前の電子写真感光体を、該研磨前の電子写真感光体の周方向のうち、いずれか一方向に相対的に移動させて、該研磨前の電子写真感光体の表面を研磨する工程であり、
該電子写真感光体設置工程が、該研磨後の電子写真感光体の研磨目の方向と、画像形成プロセス中の回転方向が同じ向きとなるように該電子写真感光体を該電子写真装置に設置するように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−091934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この発明が解決しようとする課題は、電子写真感光体の表面の研磨に起因して、画像形成時にクリーニング用ブレードの同一部分が摩耗し、電子写真感光体の軸方向に沿って部分的な画質欠陥が発生するのを抑制することが可能な電子写真感光体の製造方法、並びに、この電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジ及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1に記載された発明は、円筒状に形成される電子写真感光体の表面に位置する少なくとも感光層を含む被覆層を形成する層形成工程と、
前記層形成工程によって被覆層が形成された前記電子写真感光体を回転させるとともに、前記電子写真感光体の被覆層の表面に研磨部材を接触させた状態で、前記研磨部材を前記電子写真感光体の周方向と交差する方向に沿って移動させることにより、前記電子写真感光体の被覆層の表面を研磨する研磨工程とを備えたことを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【0008】
また、請求項2に記載された発明は、前記研磨工程は、前記研磨部材を前記電子写真感光体の同一端部から他方の端部に向けて複数回にわたって移動させることにより、前記電子写真感光体の被覆層の表面を複数回研磨することによって行なわれることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法である。
【0009】
さらに、請求項3に記載された発明は、前記研磨工程は、前記研磨部材を前記電子写真感光体の周方向と交差する方向に沿って少なくとも1回以上にわたって往復移動させることにより、前記導電性基体の被覆層の表面を複数回研磨することによって行なわれることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法である。
【0010】
又、請求項4に記載された発明は、前記電子写真感光体の移動速度と前記研磨部材の移動速度の比が、前記研磨部材の移動速度を1とした場合、前記電子写真感光体の移動速度が5〜50の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法である。
【0011】
更に、請求項5に記載された発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電子写真感光体を備え、画像形成装置に着脱自在なプロセスカートリッジである。
【0012】
また、請求項6に記載された発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体に形成された静電潜像を現像する現像手段と、前記電子写真感光体に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に転写されたトナー画像を定着する定着手段とを備えたことを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、電子写真感光体の表面の研磨に起因して、画像形成時にクリーニング用ブレードの同一部分が摩耗し、電子写真感光体の軸方向に沿って部分的な画質欠陥が発生するのを抑制することができる。
【0014】
また、請求項2に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、電子写真感光体の表面をより一層効果的に研磨することができる。
【0015】
さらに、請求項3に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、電子写真感光体の表面をより短時間に研磨することができる。
【0016】
又、請求項4に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、電子写真感光体の表面の研磨を効率良く実施することができる。
【0017】
更に、請求項5に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、クリーニング用ブレードの長寿命化及び画質の向上に寄与することができる。
【0018】
また、請求項6に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比較して、クリーニング用ブレードの長寿命化及び画質の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法を示す模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体を用いた画像形成装置を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体を示す断面構成図である。
【図4】クリーニングブレードの摩耗状態を示す説明図である。
【図5】研磨装置を示す構成図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体の研磨領域を示す斜視構成図である。
【図7】研磨目の方向を示す模式図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体を用いて製造される感光体ドラムを示す概略構成図である。
【図9】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体を用いて製造されるプロセスカートリッジを示す概略構成図である。
【図10】クリーニングブレードの摩耗状態を示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体の表面粗さを示すグラフである。
【図12】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体の表面粗さを示すグラフである。
【図13】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体の表面粗さを示すグラフである。
【図14】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体の表面粗さを示すグラフである。
【図15】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体の表面粗さを示すグラフである。
【図16】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体の表面粗さを示すグラフである。
【図17】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体表面の顕微鏡写真を示す図である。
【図18】この発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造される電子写真感光体を用いて製造される感光体ドラムの駆動トルクを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0021】
実施の形態1
図2はこの発明の実施の形態1に係る電子写真感光体の製造方法によって製造された電子写真感光体を用いた画像形成装置を示すものである。
【0022】
この画像形成装置1の内部には、図2に示すように、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)等の各色に対応した複数の画像形成部2Y、2M、2C、2Kが、水平方向に沿って一定の間隔をおいて並列的に配置されている。これらの各画像形成部2Y、2M、2C、2Kは、使用するトナーを除いて、基本的にすべて同様に構成されており、大別して、イエロー(Y)各の画像形成部2Yにのみ符合を付して説明すれば、矢印A方向に沿って予め定められた回転速度で駆動される電子写真感光体としての感光体ドラム3と、この感光体ドラム3の表面を一様に帯電する一次帯電手段としての帯電ロール4と、当該感光体ドラム3の表面に各色に対応した画像を露光して静電潜像を形成する潜像形成手段としての画像露光装置5と、感光体ドラム3上に形成された静電潜像を対応する色のトナーで現像する現像手段としての一成分又は二成分現像方式の現像装置6と、感光体ドラム3の表面を清掃するクリーニング装置7とから構成されている。
【0023】
上記クリーニング装置7としては、図2に示すように、例えば、ウレタンゴム等からなるクリーニングブレード8を備えたものが用いられる。このクリーニングブレード8としては、その基端部が感光体ドラム3の回転方向の下流側に配置され、その先端部が感光体ドラム3の回転方向と対向する方向から当該感光体ドラム3の表面に当接することにより、感光体ドラム3の表面に残留したトナーやトナーの外添剤などを除去する所謂ドクター方式のクリーニングブレードが用いられる。
【0024】
この実施の形態では、画像形成装置1のメンテナンス性等を考慮して、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各画像形成部2Y、2M、2C、2Kを構成する感光体ドラム3と、帯電ロール4と、クリーニング装置7とが、プロセスカートリッジ20として一体的にユニット化されており、これらのプロセスカートリッジ20Y、20M、20C、20Kは、画像形成装置1の本体に対して図示しないガイドレールや固定手段を介して着脱自在に構成されている。
【0025】
そして、上記画像形成装置1では、感光体ドラム3が寿命に達した場合など、ユーザー自身がプロセスカートリッジ20を新しいものと交換することによって、感光体ドラム3の交換などを容易に行なうことができ、画像形成装置1のメンテナンスが容易となっている。
【0026】
なお、上記プロセスカートリッジ20は、少なくとも感光体ドラム2を含んでいればよく、必要に応じて、現像装置6など他の部材を含むものであったり、帯電ロール4やクリーニング装置7などを含まないものであっても勿論良い。
【0027】
上記イエロー(Y)、マゼンタ、シアン(C)、黒(K)の各画像形成部2Y、2M 、2C、2Kにおいては、図2に示すように、各感光体ドラム3の表面が帯電ロール4によって帯電された後、画像露光装置5によって各色に対応した画像露光が施されて静電潜像が形成され、当該各感光体ドラム3の表面に形成された静電潜像が、対応する現像装置6により反転現像又は正規現像されて、各感光体ドラム3の表面には、対応するイエロー(Y)、マゼンタ、シアン(C)、黒(K)の各色のトナー像が形成される。
【0028】
上記イエロー(Y)、マゼンタ、シアン(C)、黒(K)の各画像形成部2Y、2M 、2C、2Kの感光体ドラム3の表面に形成されたトナー像は、一次転写ロール9Y、9M、9C、9Kによって中間転写ベルト10上に互いに重ね合わされた状態で一次転写されるとともに、中間転写ベルト10上から予め定められたタイミングで給紙される記録媒体としての記録用紙11上に二次転写ロール12によって一括して二次転写された後、定着装置13によって記録用紙11上に各色のトナー像が定着されて、画像形成装置の外部に設けられた排出トレイ14上に排出され、フルカラーやモノクロ等の画像が形成される。
【0029】
なお、図示の実施の形態では、中間転写ベルト10を各画像形成部2Y、2M 、2C、2Kの下方に配置した場合について説明したが、画像形成装置の配置上、中間転写ベルト10を各画像形成部2Y、2M 、2C、2Kの上部に配置したものであっても勿論良い。
【0030】
上記記録用紙11は、給紙カセット15から所望のサイズ及び材質のものが、給紙ロール16によって1枚ずつ分離された状態で給紙され、レジストロール17によって中間転写ベルト10上のトナー像と同期したタイミングで二次転写位置へと搬送される。
【0031】
また、上記の如くトナー像の一次転写工程が終了した後の各感光体ドラム3の表面は、クリーニング装置7のクリーニングブレード8によって残留トナーやトナーの外添剤等が除去されて、次の画像形成工程に備える。同様に、上記の如くトナー像の二次転写工程が終了した後の中間転写ベルト10の表面は、ベルト用のクリーニング装置18によって残留トナーやトナーの外添剤等が除去されて、次の画像形成工程に備える。
【0032】
電子写真感光体の製造工程
ところで、例えば、上記の如く構成される画像形成装置の感光体ドラムとして使用される電子写真感光体は、次のようにして製造される。
【0033】
上記電子写真感光体としては、その表面に形成される感光層を構成する光導電性材料として無機材料や有機材料などを用いた種々のものがあるが、環境特性や生産性などを考慮して近年では、感光層として有機材料からなる光導電性材料を用いたものが主流となっている。
【0034】
この実施の形態では、上記電子写真感光体100は、図3(a)に示すように、例えば、大別して、導電性基体101と、被覆層としての下引き層102と、被覆層としての感光層103とを備えるように構成される。また、上記感光層103は、光を受けて電荷を発生させる電荷発生層104と、電荷発生層104で発生した電荷を輸送する電荷輸送層105との複数の層からなる所謂機能分離型のものが用いられるが、これに限らず、電荷発生層103と電荷輸送層105の機能を一つの層で兼ね備えた単層型のものを用いても良い。
【0035】
また、上記電子写真感光体100は、図3(b)に示すように、感光層103の表面に被覆層の1つをなす表面層106を形成したものを用いても良い。なお、上記電子写真感光体100の層構成としては、上記のものに限定されるものではなく、上記の層構成よりも多いものであっても少ないものであっても良く、例えば、下引き層102や表面層106を有しないものであっても良い。
【0036】
導電性基体の加工工程
導電性基体101としては、従来から使用されているものであれば、如何なるものを使用してもよい。この導電性基体101としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ステンレス鋼等の金属類、あるいは絶縁性基体の表面に導電性材料を塗布又は蒸着等により形成させたものなどが用いられる。
【0037】
上記導電性基体101は、予め定められた外径を有する円筒形状に形成される。この導電性基体101としては、例えば、金属製のパイプ等からなる円筒体がそのまま用いられる。上記金属製の円筒体101の表面は、製造された素管のままであってもよいし、予め鏡面切削、エッチング、陽極酸化、粗切削、センタレス研削、サンドブラスト、ウエットホーニングなどの処理を施しても良い。
【0038】
層形成工程
上記の如く形成される導電性基体101の表面には、少なくとも感光層103を含む被覆層を形成する層形成工程が施される。
【0039】
上記導電性基体101の表面には、図3に示すように、感光層103を含む被覆層の形成に先立って、必要に応じて下引き層102が設けられる。この下引き層102は、導電性基体101の表面における光の反射や散乱などの防止、感光層103の表面を帯電した際に導電性基体101から感光層103への不要なキャリア(カウンター電荷)の流入の防止などを目的として設けられる。
【0040】
なお、上記下引き層102は、層形成工程の一環として設けられる場合に限らず、上述した導電性基体101の加工工程で設けるようにしても良い。
【0041】
上記下引き層102の材料としては、アルミニウム、銅、ニッケル、銀などの金属粉体や、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの導電性金属酸化物や、カーボンファイバ、カーボンブラック、グラファイト粉末などの導電性物質等を結着樹脂に分散し、導電性基体101上に塗布したものが挙げられる。
【0042】
なお、図示は省略するが、電気特性向上、画質向上、画質維持性向上、感光層接着性向上などを目的として、下引き層102の上に中間層をさらに設けてもよい。
【0043】
また、上記電荷発生層104は、電荷発生材料を適当な結着樹脂中に分散して形成される。電荷発生材料としては、例えば、無金属フタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、ジクロロスズフタロシアニン、チタニルフタロシアニン等のフタロシアニン顔料が使用される。また、これらの電荷発生材料は、単独または2種以上を混合して使用してもよい。
【0044】
電荷発生層104における結着樹脂としては、例えば、ビスフェノールAタイプあるいはビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリビニルアセテート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等を用いてもよい。これらの結着樹脂は、単独あるいは2種以上混合して用いてもよい。
【0045】
このようにして得られる電荷発生層104を形成する材料からなる塗布液を下引き層102上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、リング塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。電荷発生層104の膜厚は、例えば、0.01〜5μmの範囲に設定される。
【0046】
一方、上記電荷輸送層105は、図3(a)に示すように、この実施形態に係る電子写真感光体100の最も表面側に位置する最表面層を構成する。この電荷輸送層105は、電荷輸送材料を適当な結着樹脂中に分散して形成される。上記電荷輸送材料としては、例えば、2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニル−ピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3−(p−ジエチルアミノスチリル)−5−(p−ジエチルアミノスチリル)ピラゾリン等のピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、N,N′−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビフェニル−4−アミン、トリ(p−メチルフェニル)アミニル−4−アミン、ジベンジルアニリン等の芳香族第3級アミノ化合物、N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−N,N′−ジフェニルベンジジン等の芳香族第3級ジアミノ化合物、3−(4′−ジメチルアミノフェニル)−5,6−ジ−(4′−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジン等の1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン等のヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリル−キナゾリン等のキナゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ジ(p−メトキシフェニル)ベンゾフラン等のベンゾフラン誘導体、p−(2,2−ジフェニルビニル)−N,N−ジフェニルアニリン等のα−スチルベン誘導体、エナミン誘導体、N−エチルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体などの正孔輸送物質、クロラニル、ブロアントラキノン等のキノン系化合物、テトラアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物等の電子輸送物質、および上記した化合物を含む基を主鎖または側鎖に有する重合体などが挙げられる。これらの電荷輸送材料は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
また、上記電荷輸送層105における結着樹脂としては、例えば、ビスフェノールAタイプあるいはビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、塩素ゴム等の樹脂、およびポリビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン等の有機光導電性ポリマー等が挙げられる。これらの結着樹脂は、単独あるいは2種以上混合して用いてもよい。
【0048】
このようにして得られる電荷輸送層形成用の塗布液を電荷発生層104上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、リング塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法を用いてもよい。電荷輸送層106の膜厚は、例えば、5〜50μmの範囲に設定される。
【0049】
また、画像形成装置内で発生するオゾンや窒素酸化物、あるいは光、熱による感光体の劣化を防止する目的で、感光層103を構成する各層中には、さらに、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤などの添加剤を添加してもよい。
【0050】
ところで、上記の如く被覆層が被覆・硬化されることによって形成された電子写真感光体100をそのまま感光体ドラム3として、画像形成装置1に組み込んで使用した場合、製造直後の電子写真感光体100の表面は、被覆層の形成方法及び当該被覆層を形成する材料の特性など、あるいは均一な膜厚を確保する目的で添加される添加剤などによって、表面粗さが非常に小さく鏡面状態あるいは鏡面状態に近い状態となる。
【0051】
そのため、上記電子写真感光体100をそのまま感光体ドラム3として組み込んだ画像形成装置1の場合には、当該電子写真感光体100の表面にクリーニング性などを考慮して比較的硬度が低く設定されることが多いクリーニングブレード8の先端部が密着し易い。その結果、上記電子写真感光体100では、当該電子写真感光体100の表面とクリーニングブレード8との静摩擦係数及び動摩擦係数μが過大となり、クリーニングブレード8の先端が微細に振動して異音が発生する所謂“ブレード鳴き”や、クリーニングブレード8の先端部が感光体ドラム3の回転方向に沿った下流側に反転する“めくれ”、あるいはクリーニングブレード8の先端が欠損する“欠け”等が発生し易くなる。上記クリーニングブレード8の“ブレード鳴き”や“めくれ”、あるいは“欠け”等は、特に、クリーニング性等を考慮して、ゴム硬度(JIS−A硬度)が相対的に低く設定された比較的柔らかいクリーニングブレードを使用した場合に顕著に発生し易い。
【0052】
そこで、かかる不具合を解消乃至抑制するために、電子写真感光体の製造時に当該電子写真感光体の表面を意図的に粗面化する技術が採用されている。上記電子写真感光体の表面を粗面化するにあたっては、電子写真感光体の表面に研磨部材を接触させた状態で、電子写真感光体を回転駆動することによって行なわれる。その結果、上記電子写真感光体100の表面には、図4に示すように、電子写真感光体100の回転方向(周方向)に沿った研磨目110が形成される。
【0053】
しかしながら、上記のごとく電子写真感光体の回転方向と研磨方向とを同じ方向に設定した場合には、電子写真感光体の表面に研磨処理による凹凸が、電子写真感光体100の軸方向に沿った同じ位置に形成されることになる。そのため、本発明者等の研究によれば、上記のごとく研磨された電子写真感光体100を使用した場合には、画像形成時に、研磨処理によって電子写真感光体100の表面に形成された研磨目110の凸の部分111が、あたかもヤスリのような状態でクリーニングブレード8のエッジ部分を削ることになる。その結果、上記クリーニングブレード8のエッジ部分は、図4に示すように、電子写真感光体100の軸方向に沿った同じ箇所112が、電子写真感光体100の表面に形成された研磨目110の凸状部分111によって削られることになり、電子写真感光体の軸方向に沿ってクリーニングブレード8の摩耗状態が変化し、クリーニングブレード8の摩耗が大きい部分では、トナーの外添剤やトナー自身の擦り抜けが発生し、帯電ロール4の汚損による画質劣化や、擦り抜けが画像の背景部に付着する背景部汚れ、あるいはクリーニングブレード8の部分的な摩耗によって電子写真感光体の摩耗状態も変化してしまい、電子写真感光体の軸方向に沿って濃淡ムラが生じるなどの画質ムラなど、画像に影響が発生することが判った。
【0054】
そこで、本発明者等は、上記の技術的課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、上述した電子写真感光体の製造方法に加えて、以下に説明するような研磨工程を発明するに至った。
【0055】
この実施の形態に係る電子写真感光体の製造方法は、上述した円筒状の導電性基体の表面に少なくとも感光層を含む被覆層を形成する層形成工程に加えて、前記層形成工程によって被覆層が形成された前記導電性基体を回転させるとともに、前記導電性基体の被覆層の表面に研磨部材を接触させた状態で、前記研磨部材を前記導電性基体の周方向と交差する方向に沿って移動させることにより、前記導電性基体の被覆層の表面を研磨する研磨工程を備えるように構成したものである。
【0056】
研磨工程
上記の如く被覆層が形成された電子写真感光体100は、そのままプロセスカートリッジ20に装着され、当該プロセスカートリッジ20が画像形成装置1に装着して使用される訳ではなく、上述した電子写真感光体100の製造工程に連続した一連の製造工程の一つとしての研磨工程、あるいは上述した電子写真感光体の製造工程と時間的及び場所的に少なくとも一方が分離された製造工程の一つとしての研磨工程によって、電子写真感光体の表面に対して研磨処理が施される。
【0057】
上記の如く表面に被覆層が形成された電子写真感光体100は、図5に示すように、研磨装置200のうち、電子写真感光体100を回転駆動する駆動装置201に装着され、予め定められた回転速度で回転駆動される。上記電子写真感光体100の回転速度としては、例えば、画像形成装置1における感光体ドラム3の回転速度(プロセススピード)を中心として、当該感光体ドラム3の回転速度と等しい速度、あるいは感光体ドラム3の回転速度よりも遅い速度、又は感光体ドラム3の回転速度よりも速い速度など、任意の速度に設定され、特に限定されるものではない。ただし、上記電子写真感光体100の回転速度としては、単位時間当たりに研磨可能な電子写真感光体100の本数、つまり研磨工程の生産性など考慮すれば、感光体ドラム3の回転速度よりも相対的に速い速度に設定するのが望ましい。
【0058】
上記電子写真感光体100の回転速度(移動速度)としては、その下限値及び上限値が特に限定されるものではないが、研磨工程の精度や生産性などを考慮すれば、例えば、直径40mmの電子写真感光体100において100rpm以上、且つ1500rpm以下に設定される。上記電子写真感光体100の回転速度が100rpm未満の場合には、研磨工程の精度上の問題などは特に想定されないが、1本の電子写真感光体100の表面を研磨するのに要する時間が相対的に長くなり、生産性が低下するため望ましくない。また、上記電子写真感光体100の回転速度が1500rpmを越える場合には、1本の電子写真感光体100の表面を研磨するのに要する時間が相対的に短くなり、生産性の上からは望ましいが、電子写真感光体100の回転速度があまりに速くなると、電子写真感光体100の表面と研磨部材との接触による摩擦熱の影響など、電子写真感光体100の表面層に損傷を与える虞れがあるため望ましくない。ただし、電子写真感光体100の表面層を冷却しつつ研磨するなど、電子写真感光体100の表面層に損傷を与える虞れなどがない状態であれば、電子写真感光体100の回転速度として1500rpmを越える速度に設定しても良いことは勿論である。
【0059】
上記電子写真感光体100の表面には、図5に示すように、研磨部材210が接触するように配置されるとともに、図1に示すように、この研磨部材210を電子写真感光体100の周方向(回転方向)と交差する方向に沿って予め定められた移動速度で移動させることにより、電子写真感光体100の被覆層の最表面を研磨する研磨工程が実施される。
【0060】
上記研磨部材210としては、電子写真感光体100の表面を研磨して粗面化処理することが可能なものであれば、特に限定されるものではなく種々の研磨部材を使用することができる。研磨部材210としては、例えば、研磨シート、研磨ローラ、研磨ブラシ、研磨砥石などが用いられる。
【0061】
これらの研磨部材のうち、研磨シート210としては、例えば、ラッピングフィルムシートなどとして知られているものがある。このラッピングフィルムシートは、例えば、ポリエステルフィルム等からなる均一な厚さと平滑な表面を有する合成樹脂製フィルムの表面に、予め定められた粒子径で分布する酸化アルミニウム等からなる砥粒をコーティングして構成されるものである。このラッピングフィルムシートなどからなる研磨シートは、砥粒の粒子径を調製管理することにより、表面粗さとして中心線平均粗さ(Ra)が0.01μm程度までの均一な超精密研磨が可能であって、しかも簡単な研磨処理で所望の表面粗さが短時間で得られるため、経済的であって、電子写真感光体表面の研磨処理に適している。
【0062】
上記研磨シート210としては、例えば、酸化アルミニウムの微粒子の粒子径が、0.3μm、1μm、3μm、5μm、10μm、30μm、40μm、60μmなど種々の値に設定されたものがあり、要求される電子写真感光体表面の研磨状態に応じて予め定められた粒子径のものを適宜選択して使用される。
【0063】
また、上記研磨シート210の電子写真感光体100の軸方向に沿った長さ(幅)は、特に限定されるものではなく任意であるが、例えば、10〜100mm程度に設定される。ただし、上記研磨シート210の幅は、上記の値に限定されるものではなく、これよりも短くても長くても良いことは勿論である。
【0064】
さらに、上記研磨シート210は、シート状のものをそのまま使用しても良いが、図5に示すように、当該研磨シート210を予め定められた幅を有する長尺な帯状に形成し、当該長尺な帯状に形成された研磨シート210をロール状に巻き取った状態で研磨シート供給ロール211として使用することにより、研磨シート210を研磨しながら少しずつ供給しつつ巻き取ることで、研磨シート210の研磨面を適宜新しい面と交換して研磨することができ、研磨工程の自動化や高速化が可能となるので望ましい。
【0065】
上記帯状の研磨シート210を用いた研磨装置200としては、例えば、図5に示すように、帯状の研磨シート210をロール状に巻き取った研磨シート供給ロール211から直接又は必要に応じて1つ以上の案内ロールを介して電子写真感光体100の表面と接触する研磨位置へと供給するとともに、電子写真感光体100の表面に研磨シート210を介して圧接するゴム製のロールなどからなる押圧ロール212によって、当該研磨シート210を電子写真感光体100の表面に予め定められた押圧力で圧接させた後、直接又は必要に応じて1つ以上の案内ロールを介して巻き取りロール213によって研磨シートを巻き取るように構成したものが用いられる。
【0066】
その際、上記研磨シート210を電子写真感光体100の表面に圧接させる押圧力は、電子写真感光体100表面の研磨特性に直接影響するものであるが、研磨シート210の表面粗さ等と共に電子写真感光体100の表面に対して所望の研磨状態が得られるように設定される。
【0067】
また、上記研磨装置200では、図5に示すように、研磨シート供給ロール211及び巻き取りロール213が、これらの研磨シート供給ロール211及び巻き取りロール213にそれぞれ設けられた駆動モータ214、215によって独立して回転駆動され、研磨シート210に予め定められた張力を付与した状態で、当該研磨シート210を電子写真感光体100の表面に接触させるように供給及び巻き取りが行なわれる。
【0068】
なお、上記研磨シート210の送り方向は、電子写真感光体100の回転方向と同じ方向に設定しても良いし、電子写真感光体100の回転方向と反対方向となるように設定しても良い。この実施の形態では、図5に示すように、研磨シート210の送り方向が、電子写真感光体100との接触位置において、電子写真感光体100の回転方向と反対方向となるように設定されている。
【0069】
さらに、上記研磨装置200は、図5に示すように、筐体220に取り付けられており、この筐体220は、図1及び図5に示すように、図示しないガイドレールを介して、電子写真感光体100の周方向と交差する方向、具体的には電子写真感光体100の軸方向に沿って、電子写真感光体100の一端部から他端部にわたって移動自在に構成されている。上記研磨装置200の移動方向は、必ずしも、電子写真感光体100の軸方向と同じ方向でなくとも良く、電子写真感光体100の軸方向に対して角度を成して移動するように設定しても良い。
【0070】
また、上記筐体220は、図示しないボールネジや、タイミングベルト等の移動手段を介して、電子写真感光体100の軸方向に沿って予め定められた移動速度で移動可能となっている。
【0071】
さらに、上記研磨装置200は、上述したボールネジやタイミングベルト等からなる移動手段の移動方向を反転することによって、筐体220の移動方向が切替可能に構成されている。上記筐体220は、図1に示すように、電子写真感光体100の軸方向に沿って一端部100aから他端部100bへ移動した後、研磨部材210が電子写真感光体100の表面100cから離間した状態で、電子写真感光体100の軸方向に沿った一端部100aに戻り、再度、研磨部材210が電子写真感光体100の表面に接触した状態で、当該電子写真感光体100の軸方向に沿った同一端部100aから他端部100bへ複数回にわたって移動可能となっている。また、上記筐体220は、電子写真感光体100の軸方向に沿って一端部100aから他端部100bへ移動した後に、研磨部材210が電子写真感光体100の表面100cに接触したままの状態で折り返して他端部100bから一端部100aへ戻るように、複数回を含む任意の回数にわたって往復移動可能に構成されている。
【0072】
上記のごとく研磨部材210を電子写真感光体100の軸方向に沿って同一端部100aから他端部100bへ複数回にわたって移動させた場合には、図7(a)に示すように、電子写真感光体100の回転方向に対して傾斜した微少な凹凸からなる研磨筋が、同じ方向に傾斜した状態で形成される。また、上記研磨部材210を電子写真感光体100の軸方向に沿って往復移動させた場合には、図7(b)に示すように、電子写真感光体100の回転方向に対して傾斜した微少な凹凸からなる研磨筋が、互いに交差した状態で形成される。また、電子写真感光体100の回転方向に対して傾斜した研磨筋の交差した位置では、研磨による凹凸が他の部分に比較して相対的に大きくなるものと考えられる。
【0073】
また、上記筐体220が電子写真感光体100の軸方向に沿って移動する距離(研磨距離)は、図1に示すように、電子写真感光体100の軸方向に沿った長さに応じて決定されるが、必ずしも電子写真感光体100の軸方向に沿った全長にわたって移動する必要はなく、電子写真感光体100の軸方向に沿った必要な長さ、例えば、電子写真感光体100の画像領域の長さにわたって移動すれば良い。上記電子写真感光体100の画像領域110の長さL1は、図6に示すように、例えば、画像形成装置1によって画像形成可能な記録用紙11の長さ(幅)によって決定されるが、電子写真感光体100の研磨距離L2は、図6に示すように、帯電ロール4の軸方向に沿った長さ L3や、クリーニングブレード8のクリーニング幅L4などを考慮して、電子写真感光体の画像領域よりも長く、しかもクリーニングブレード8のクリーニング幅L4に余裕を持たせた幅L5だけ電子写真感光体100の軸方向に沿って長く設定されている。
【0074】
上記研磨装置200の筐体220の移動速度は、任意に設定可能であるが、電子写真感光体100の回転速度や生産性等を顧慮して設定される。上記研磨装置の筐体220の移動速度としては、例えば、25mm/sec〜100mm/sec程度に設定されるが、これよりも遅くても良いし、速くても良いことは勿論である。上記筐体220の移動速度は、電子写真感光体100の回転速度とともに、電子写真感光体100の表面の同一箇所を研磨する回数を決定する重要な要素である。
【0075】
すなわち、上記研磨装置200の移動速度に対する電子写真感光体100の回転速度の比が大きい場合には、電子写真感光体100の表面の同一箇所を研磨する回数が増加する傾向となる反面、研磨装置200の移動速度に対する電子写真感光体100の回転速度の比が小さい場合には、電子写真感光体100の表面の同一箇所を研磨する回数が減少する傾向となる。
【0076】
上記電子写真感光体100の直径(外径)を40mmとした場合(外周長=約125.7mm)には、電子写真感光体100の回転速度を320mm/secとし、研磨装置200の筐体220を電子写真感光体100の一端部100aから他端部100bまで30secの時間を掛けて移動させた場合(研磨装置200の移動速度=約11mm/sec)には、電子写真感光体100が1回転するのに約0.4secを要することとなり、その間に研磨装置220の研磨シート210が4〜5mmだけ移動することになる。
【0077】
その結果、電子写真感光体100の表面は、同一箇所が研磨シート210によって凡そ2回程度にわたって研磨されることになる。電子写真感光体100の表面の研磨回数は、研磨シート210の表面粗さとともに、電子写真感光体100の表面の研磨状態を決定する要因となる。
【0078】
なお、ここでいう電子写真感光体100表面の研磨回数とは、1回の研磨工程で、研磨シート210が電子写真感光体100の一端部100aから他端部100bまで移動する間に、電子写真感光体100の同一表面部分が研磨シート210と何回接触して研磨されるかの回数を意味するものであり、研磨シート210を電子写真感光体100の一端部100aから他端部100bまで何回移動させるか、つまり研磨工程を実行する回数を意味するものではない。
【0079】
そして、ここでいう電子写真感光体100表面の研磨回数は、上述したように、電子写真感光体100の回転速度と、研磨シート210の幅及び移動速度とによって決定されるものである。いま、電子写真感光体100を335mm/secの回転速度で回転させた場合に、電子写真感光体100の軸方向に沿った幅が10mmの研磨シート210を、電子写真感光体100の軸方向に沿って移動させることで、電子写真感光体100の表面に回転方向(周方向)に対して傾斜した研磨による溝状の凹凸を形成する研磨シート210の移動速度は、例えば、研磨シート210の移動速度を1とした場合、電子写真感光体100の移動速度の比が、5〜50の範囲の範囲となるように設定される。すなわち、電子写真感光体100の回転速度が335mm/secの場合、研磨シート210の移動速度は、例えば、25mm/sec〜100mm/sec程度に設定される。ただし、上記の値に限定されるものではなく、上述した速度よりも速くても遅くても良いことは勿論である。
【0080】
本発明者等の研究結果によれば、電子写真感光体100表面の研磨状態としては、後述する実験結果から明らかなように、クリーニングブレード8を電子写真感光体100の表面に圧接させた状態で電子写真感光体100を回転駆動する際の負荷トルクを測定した場合に、当該電子写真感光体100を回転駆動する際の負荷トルクが殆ど変化せず一定の値に収斂する状態である、新しい研磨処理を施していない電子写真感光体100の使用を開始してから3000枚程度のA4サイズ短手送りの記録用紙11に画像を形成した後の状態が望ましいと考えらえる。この3000枚画像形成後の電子写真感光体100表面の摩耗状態としては、本発明者らの研究の結果、中心線平均粗さ(Ra)が0.01μm程度で、最大高さ(Rmax)が0.1μm程度となるのが望ましいことが判った。
【0081】
組立工程
上記の如く製造された電子写真感光体100は、図8に示すように、当該電子写真感光体100の製造工程、あるいはプロセスカートリッジ20の組立工程などにおいて、電子写真感光体100の軸方向に沿った両端部に、当該電子写真感光体100をプロセスカートリッジ20に回転自在に取り付けるためのフランジ部材300や、駆動手段としてのギアを備えたフランジ部材301などが取り付けられる。
【0082】
そして、上記電子写真感光体100の軸方向に沿った両端部にフランジ部材300、301が取り付けられて構成される感光体ドラム3は、図9に示すように、当該フランジ部材300、301を介してプロセスカートリッジ20の図示しないフレームに回転自在に取り付けられる。
【0083】
さらに、上記感光体ドラム3の周囲には、図9に示すように、帯電ロール4及びクリーニング装置7が取り付けられて、プロセスカートリッジ20が組み立てられて製造される。
【0084】
上記の如く製造されたプロセスカートリッジ20は、図2に示すように、画像形成装置1の装置本体の各画像形成部2Y、2M、2C、2Kに図示しないガイドレール等を介して装着された後、帯電ロール4や現像装置6への電気系統の配線や、これら帯電ロール4、現像装置6、クリーニング装置7を駆動する駆動系を構成する駆動モータやギア等の取り付け作業などがなされて、画像形成装置1が製造される。
【0085】
以上の構成において、この実施の形態に係る電子写真感光体の製造方法によって製造された電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジ及び画像形成装置では、次のようにして、電子写真感光体の表面の研磨に起因して、画像形成時にクリーニング用ブレードの同一部分が摩耗し、電子写真感光体の軸方向に沿って部分的な画質欠陥が発生するのを抑制されるようになっている。
【0086】
すなわち、この実施の形態に係る電子写真感光体の製造方法では、図1に示すように、表面に被覆層が形成された導電性基体101からなる電子写真感光体100を図5に示すように回転させるとともに、電子写真感光体100の被覆層の表面に研磨シート210を接触させた状態で、研磨シート210を電子写真感光体100の軸方向に沿って移動させることにより、電子写真感光体100の被覆層の表面を研磨する研磨工程を実施するように構成されている。
【0087】
その結果、上記電子写真感光体100の表面100cには、図7に示すように、研磨シート210による研磨目110の凹凸が形成されるが、当該研磨目110の凹凸は、電子写真感光体100の周方向に対して傾斜した状態で形成される。そのため、上記電子写真感光体100を用いて感光体ドラム3を構成し、当該感光体ドラム3を画像形成装置1に装着して使用した場合であっても、電子写真感光体100の表面に形成される研磨目110の凹凸は、図10に示すように、電子写真感光体100の周方向(回転方向)に対して傾斜した状態となっているため、研磨目110の凸状部分によってクリーニングブレード8のエッジの同一部分が常に削られることはなく、クリーニングブレード8のエッジ部分は、電子写真感光体100の軸方向に沿って略均一に摩耗していくことになる。
【0088】
したがって、この実施の形態に係る電子写真感光体の製造方法によって製造された電子写真感光体を用いることによって、クリーニングブレード8のエッジ部分において、電子写真感光体100の軸方向に沿った同じ箇所112が摩耗するのを回避乃至抑制することができ、クリーニングブレード8にトナーの外添剤やトナー自身の擦り抜けが発生したり、帯電ロール4の汚損による画質劣化、擦り抜けが画像の背景部に付着する背景部汚れ、あるいは電子写真感光体の軸方向に沿った不均一な摩耗、電子写真感光体の軸方向に沿った画質ムラなど、画像に悪影響が発生するのを回避乃至抑制することができる。
【0089】
実験例
次に、本発明者らは、上述した電子写真感光体の製造方法において、電子写真感光体の表面の研磨条件を確認する目的で、上述したような電子写真感光体の製造方法によって製造された電子写真感光体を使用した画像形成装置のベンチモデルを製造し、感光体ドラムの表面粗さ、感光体ドラムの駆動トルク、電子写真感光体表面の顕微鏡による目視観察など、電子写真感光体の表面状態などを確認する実験を行なった。
【0090】
なお、研磨条件としては、図1に示すように、電子写真感光体100の軸方向に沿って研磨シート210を90秒掛けて一方向に2回移動させて研磨した場合(実験例1)と、電子写真感光体100の軸方向に沿って研磨シート210を60秒掛けて往復させて研磨した場合(実験例2)と、電子写真感光体100の軸方向に沿って研磨シート210を実験例2の2倍の速度で30秒掛けて往復移動させて研磨した場合(実験例3)と、比較例として、比較例として、未研磨状態のものと、3000番の研磨シートを用いて手作業で研磨した場合とで実験を行なった。
【0091】
表面粗さ
図11乃至図13は研磨直後の感光体ドラムの表面粗さをJIS規格のB0601等に基づいて感光体ドラムの軸方向及び周方向に沿って測定した結果を示すものである。また、図14乃至図16は3000枚画像形成後の感光体ドラムの表面粗さをJIS規格のB0601等に基づいて感光体ドラムの軸方向及び周方向に沿って測定した結果を示すものである。
【0092】
まず、図11乃至図13から明らかなように、未研磨状態の電子写真感光体の表面は、表面粗さが軸方向及び周方向ともに、中心線平均粗さ(Ra)が0.006μm未満であり、表面粗さが非常に小さく鏡面状態に近いことが判る。
【0093】
また、実験例1の場合には、感光体ドラムの周方向に沿った表面粗さは、未研磨状態の感光体ドラム3と等しい中心線平均粗さ(Ra)が0.006μm未満であるが、感光体ドラム3の軸方向に沿った表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)が0.0106μmと0.01μmを超えており、感光体ドラム3の表面が軸方向に沿って粗面化されていることが判る。
【0094】
さらに、実験例2の場合には、感光体ドラム3の周方向に沿った表面粗さは、未研磨状態の感光体ドラム3と等しい中心線平均粗さ(Ra)が0.006μm未満であるが、感光体ドラムの軸方向に沿った表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)が0.0124μmであって0.01μmを超えており、感光体ドラム3の表面が軸方向に沿って粗面化されていることが判る。
【0095】
又、実験例3の場合には、感光体ドラム3の周方向に沿った表面粗さは、未研磨状態の感光体ドラムと等しい中心線平均粗さ(Ra)が0.006μm未満であるが、感光体ドラム3の軸方向に沿った表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)が0.0077μmと0.01μm未満であるが、0.01μmに近い値となっており、やはり感光体ドラム3の表面が軸方向に沿って粗面化されていることが判る。
【0096】
更に、実験例4の場合には、感光体ドラム3の周方向に沿った表面粗さは、未研磨状態の感光体ドラムと等しい中心線平均粗さ(Ra)が0.006μm未満であるが、感光体ドラム3の軸方向に沿った表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)が0.0053μmと0.01μm未満であり、感光体ドラム3の表面が軸方向に沿って粗面化されているが、その程度が小さいことが判る。
【0097】
また、図14乃至図16は3000枚画像形成後の感光体ドラム3の表面粗さを測定した結果を示すものである。
【0098】
これらの図14乃至図16から明らかなように、未研磨状態であった感光体ドラム3の表面は、その軸方向に沿った表面粗さであるが中心線平均粗さ(Ra)が0.0082μm、その周方向に沿った中心線平均粗さ(Ra)が0.0052μmと、いずれも初期状態よりも大きくなっており、画像形成工程において、転写残トナーなどがクリーニングブレードのエッジ部によって掻き取られる際などに感光体ドラム3の表面を徐々に研磨して粗面化されていることがわかる。
【0099】
表面観察
図17は上述した研磨直後の感光体ドラム3の表面を光学顕微鏡を用いて100倍並びに300倍の倍率で目視によって観察したものを写真撮影したものである。
【0100】
この図17から明らかなように、実験例1の場合には、研磨目が感光体ドラムの回転方向に対して一方向に傾斜した細い筋状となって形成されていることが判る。また、実験例2の場合には、研磨目が感光体ドラムの回転方向に対して互いに交差する方向に傾斜した細い筋状となって形成されていることが判る。さらに、実験例3の場合には、研磨目が感光体ドラムの回転方向に対して互いに交差する方向に傾斜した細い筋状となって形成されており、細い筋状の研磨目の傾斜角度が実験例2よりも大きくなっていることが判る。
【0101】
感光体ドラムの駆動トルク
図18は感光体ドラムを回転駆動する駆動モータの電流値から感光体ドラムの駆動トルクの測定した結果を示すものである。なお、画像形成装置としては、感光体ドラムの表面にクリーニングブレード8を実際の画像形成装置の使用条件で当接させたベンチモデルを用いた。
【0102】
この図18から明らかなように、未研磨状態の感光体ドラムの場合には、初期の駆動トルクが約2.5kgf・cmであるが、その後駆動トルクが増加して4.0kgf・cmを越える値で推移しており、途中の値が図示されていないものの、3000枚画像形成後においては、駆動トルクが約2.6kgf・cm程度まで減少していることが判る。
【0103】
また、研磨処理を施した感光体ドラムの場合には、初期の駆動トルクが約1.5kgf・cm〜2.5kgf・cmと小さく、その後も駆動トルクが約1.5kgf・cm〜3.5kgf・cmの範囲で推移しており、3000枚画像形成後においては、駆動トルクが約2.5kgf・cm〜約2.8kgf・cm程度まで減少していることが判る。
【0104】
なお、図18から明らかなように、粒子径が30μmのラッピングフィルムを研磨シート210として用いた場合には、駆動トルクが約1.5kgf・cm〜1.8kgf・cm程度と大幅に小さい値を示し、駆動トルクの観点からは望ましいことが判る。
【0105】
ただし、粒子径が30μmと大きいラッピングフィルムを研磨シート210として用いた場合には、感光体ドラム表面の研磨による凹凸も大きいことが想定され、クリーニングブレード8のエッジ部が傷つき易いとも考えられる。
【0106】
本発明者等の一連の実験では、クリーニングブレード8の損傷などに起因したクリーニング不良はいずれの場合にも見られなかったが、クリーニングブレード8の損傷などをも考慮に入れた上で電子写真感光体の表面を研磨する研磨シート210を選択するのが望ましい。
【0107】
また、本発明では、上述したように、クリーニングブレード8のエッジ部が略均一に摩耗することが想定されるので、クリーニング不良に対しても効果が得られるものと期待される。
【0108】
帯電ロールの汚れ
また、本発明者等は、帯電ロールの表面の汚れの状態を目視によって確認する実験を行なった。
【0109】
その結果、未研磨の感光体ドラムの場合には、3000枚の画像形成後に帯電ロールの表面に略全長にわたって白くトナーの外添剤が付着しているのが判った。
【0110】
また、実験例1及び2においては、3000枚の画像形成後であっても、帯電ロール表面の汚れは、殆ど見られなかった。
【0111】
電気特性、画質
さらに、本発明者等は、感光体ドラムの電気特性や画質を観察する実験を行なったが、未研磨品、研磨品ともに感光体ドラムの電気特性及び画質は良好であった。
【0112】
なお、前記実施の形態では、電子写真感光体を用いた画像形成装置として、複数の画像形成部を備えた所謂タンデム型の画像形成装置について説明したが、これに限定されるものではなく、単一の電子写真感光体を用いて当該単一の電子写真感光体の表面に順次異なる色の画像を形成するとともに、中間転写体や記録媒体上に転写する所謂4サイクル型の画像形成装置、あるいは単一の電子写真感光体を用いたモノクロの画像形成装置であっても良いことは勿論である。
【0113】
また、本実施の形態において、電子写真感光体とは、表面が研磨処理されたものであっても、表面が研磨処理される以前のものであっても双方を示す表記であり、最終的に表面が研磨処理されたものが、本発明の電子写真感光体である。
【符号の説明】
【0114】
100:電子写真感光体、210:研磨部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成される電子写真感光体の表面に位置する少なくとも感光層を含む被覆層を形成する層形成工程と、
前記層形成工程によって被覆層が形成された前記電子写真感光体を回転させるとともに、前記電子写真感光体の被覆層の表面に研磨部材を接触させた状態で、前記研磨部材を前記電子写真感光体の周方向と交差する方向に沿って移動させることにより、前記電子写真感光体の被覆層の表面を研磨する研磨工程とを備えたことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記研磨工程は、前記研磨部材を前記電子写真感光体の同一端部から他方の端部に向けて複数回にわたって移動させることにより、前記電子写真感光体の被覆層の表面を複数回研磨することによって行なわれることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記研磨工程は、前記研磨部材を前記電子写真感光体の周方向と交差する方向に沿って少なくとも1回以上にわたって往復移動させることにより、前記導電性基体の被覆層の表面を複数回研磨することによって行なわれることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記電子写真感光体の移動速度と前記研磨部材の移動速度の比が、前記研磨部材の移動速度を1とした場合、前記電子写真感光体の移動速度が5〜50の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電子写真感光体を備え、画像形成装置に着脱自在なプロセスカートリッジ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体に形成された静電潜像を現像する現像手段と、前記電子写真感光体に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写手段と、前記記録媒体に転写されたトナー画像を定着する定着手段とを備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図17】
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