説明

電子写真感光体の製造方法

【課題】 長期保存した場合の液安定性が高く、塗膜を乾燥させる際の電荷輸送性顔料粒子の凝集が生じにくい分散液を用いた電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 電荷輸送層を有する電子写真感光体を製造する方法において、分散質としてのポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子ならびに分散媒を含有する分散液を塗布して塗膜を形成し、塗膜を加熱してポリオレフィン樹脂粒子を融解させることによって電荷輸送層を形成する工程を有し、分散液に含有されるポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子からなる粒子の個数平均粒径が50nm以上300nm以下であり、分散度(標準偏差/個数平均粒径)が1.0以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、支持体および支持体上に形成された感光層を有するものが一般的である。また、感光層には、電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とからなる積層型の感光層がある。
【0003】
通常、電荷輸送層は、電荷輸送物質としての低分子の電荷輸送性化合物と結着材料としての樹脂(結着樹脂)とを溶媒に溶解させて調製した塗布液を塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させる方法により、均一な層として形成される。
【0004】
一方で、特許文献1および2には、電子写真感光体の高γ化、残留電位の抑制、長期にわたる画質維持を目的として、不均一な電荷輸送層を設ける技術が開示されている。また、特許文献1および2には、不均一な電荷輸送層を形成する方法として、樹脂を溶媒に溶解させてなる溶液(樹脂溶液)中に電荷輸送性顔料粒子を分散させて調製した分散液を塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させて、電荷輸送層を形成する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、樹脂溶液中に電荷輸送性顔料粒子を分散させてなる分散液を用いた場合、電荷輸送性顔料粒子の分散処理が不十分であったり、調製された分散液の液安定性が低かったり、塗膜を乾燥させる際に電荷輸送性顔料粒子の凝集が生じたりすることがあった。そのため、電荷輸送層における電荷移動に偏りが生じ、電子写真感光体の感度が不十分になったり、残留電位の抑制が不十分になったりすることがあった。
【0006】
また、特許文献3には、ポリマーエマルション中に電荷輸送性顔料粒子(電子輸送性顔料粒子)が分散させてなる分散液を用いて電子写真感光体の中間層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−161326号公報
【特許文献2】特開平10−115945号公報
【特許文献3】特開2009−288621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に開示されている分散液は、初期の液安定性は良好であるものの、分散液を長期保存した場合の液安定性や、塗膜を乾燥させる際の電荷輸送性顔料粒子の凝集に関しては改善の余地があった。
【0009】
本発明の目的は、長期保存した場合の液安定性が高く、塗膜を乾燥させる際の電荷輸送性顔料粒子の凝集が生じにくい分散液を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電荷輸送層を有する電子写真感光体を製造する方法において、
分散質としてのポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子ならびに分散媒を含有する分散液を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を加熱して該ポリオレフィン樹脂粒子を融解させることによって該電荷輸送層を形成する工程を有し、
該分散液に含有される該ポリオレフィン樹脂粒子および該電荷輸送性顔料粒子からなる粒子の個数平均粒径が50nm以上300nm以下であり、分散度(標準偏差/個数平均粒径)が1.0以下である
ことを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期保存した場合の液安定性が高く、塗膜を乾燥させる際の電荷輸送性顔料粒子の凝集が生じにくい分散液を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。
【図2】電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る分散質としてのポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子ならびに分散媒を含有する分散液とは、ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子がそれぞれ該分散媒中に分散されている液をいう。
【0014】
本発明に用いられる電荷輸送性顔料粒子は、分散液の分散媒に不溶な電荷輸送性化合物である。例えば、分散液の分散媒が水である場合は、水に不溶の電荷輸送性化合物が本発明に用いられる電荷輸送性顔料粒子である。
【0015】
電荷輸送性化合物としては、例えば、ヒドラゾン化合物、トリアリールアミン化合物、スチルベン化合物、キノン化合物、イミド化合物、ベンズイミダゾール化合物、シクロペンタジエニリデン化合物、アゾ化合物などが挙げられる。
【0016】
以下に、電荷輸送性化合物の好適例を示す。本発明においては、下記式(1)〜(9)で示される電荷輸送性化合物、または、これらが高分子量化された電荷輸送性化合物が好ましい。下記式(1)〜(9)で示される電荷輸送性化合物は電子輸送性化合物である。
【0017】
イミド化合物の好適例としては、環状イミド構造を有している化合物が挙げられる。芳香環が縮合している構造を有するものであってもよい。具体的には、下記式(1)で示される化合物が好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、フェニル基もしくはピリジル基を示す。これらの置換基は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、フェニル基もしくはフェニルジアゼニル基である。nは、1または2である。
【0020】
ベンズイミダゾール化合物の好適例としては、ベンズイミダゾール環構造を有している化合物が挙げられる。芳香環が縮合している構造を有するものであってもよい。具体的には、例えば、下記式(2)〜(4)のいずれかで示される化合物が好ましい。
【0021】
【化2】

【0022】
式(2)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、アルキル基を示す。nは、1または2である。
【0023】
【化3】

【0024】
式(3)中、R〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、アルキル基を示す。nは、1または2である。
【0025】
【化4】

【0026】
式(4)中、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、または、アルキル基を示す。R13は、置換もしくは無置換のアルキル基、フェニル基もしくはナフチル基を示す。これらの置換基は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基もしくはシアノ基である。nは、1または2である。
【0027】
キノン化合物の好適例としては、パラキノイド構造またはオルトキノイド構造を有している化合物が挙げられる。芳香環が縮合している構造を有するものであってもよく、キノイド構造同士が連結している構造を有するものであってもよい。具体的には、下記式(5)〜(7)のいずれかで示される化合物が好ましい。
【0028】
【化5】

【0029】
式(5)中、R14〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、または、アルキル基を示す、あるいは、R14〜R21は、隣り合ったR同士が結合して形成される−CH=CH−CH=CH−で示される2価の基を示す。
【0030】
【化6】

【0031】
式(6)中、R31は、酸素原子、または、ジシアノメチレン基を示す。R32〜R39は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、または、置換もしくは無置換のアルキル基もしくはフェニル基を示す。これらの置換基は、アルキル基、ハロアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基もしくはシアノ基である。X21およびX22は、それぞれ独立に、炭素原子、または、窒素原子を示す。X21が窒素原子の場合、R36は存在せず、X22が窒素原子の場合、R35は存在しない。
【0032】
【化7】

【0033】
式(7)中、R40およびR49は、それぞれ独立に、酸素原子、または、ジシアノメチレン基を示す。R41〜R48は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシ基、または、カルボキシ基を示す。X31およびX32は、それぞれ独立に、炭素原子、または、窒素原子を示す。X31が窒素原子の場合、R47は存在せず、X32が窒素原子の場合、R43は存在しない。
【0034】
シクロペンタジエニリデン化合物の好適例としては、シクロペンタジエニリデン構造を有している化合物が挙げられる。芳香環が縮合している構造を有するものであってもよい。具体的には、下記式(8)で示される化合物が好ましい。
【0035】
【化8】

【0036】
式(8)中、R22は、酸素原子、ジシアノメチレン基、または、置換もしくは無置換のフェニルイミノ基を示す。この置換基は、アルキル基である。R23〜R30は、それぞれ独立に、水素原子、アルコキシカルボニル基、または、ニトロ基を示す。X11およびX12は、それぞれ独立に、炭素原子、または、窒素原子を示す。X11が窒素原子の場合、R27は存在せず、X12が窒素原子の場合、R26は存在しない。
【0037】
アゾ化合物の好適例としては、アゾ基を有する化合物が挙げられる。具体的には、下記式(9)で示される化合物が好ましい。
【0038】
【化9】

【0039】
式(9)中、R63は、フルオレノンジイル基、ジフェニルオキサジアゾールジイル基、または、アゾキシベンゼンジイル基を示す。R61およびR62は、それぞれ独立に、下記式(10)または(11)で示される構造の1価の基を示す。
【0040】
【化10】

【0041】
式(10)中、R51〜R55は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、アルキル基を示す。mは、1または2である。
【0042】
【化11】

【0043】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などが挙げられる。
【0044】
上記ハロアルキル基は、ハロゲン原子で置換されたアルキル基を意味し、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子もしくはヨウ素原子で置換された、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などが挙げられる。
【0045】
上記ヒドロキシアルキル基は、ヒドロキシ基で置換されたアルキル基を意味し、例えば、ヒドロキシ基で置換された、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などが挙げられる。
【0046】
上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0047】
上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキソキシ基、ヘプトキシ基、オクトキシ基、ノノキシ基、デコキシ基、ウンデコキシ基、ドデコキシ基などが挙げられる。
【0048】
以下に、上記式(1)で示される化合物(電荷輸送性顔料粒子)の例を示す。
【0049】
【化12】

【0050】
以下に、上記式(2)で示される化合物(電荷輸送性顔料粒子)の例を示す。
【0051】
【化13】

【0052】
以下に、上記式(3)で示される化合物(電荷輸送性顔料粒子)の例を示す。
【0053】
【化14】

【0054】
以下に、上記式(4)で示される化合物(電荷輸送性顔料粒子)の例を示す。
【0055】
【化15】

【0056】
以下に、上記式(5)で示される化合物(電荷輸送性顔料粒子)の例を示す。
【0057】
【化16】

【0058】
以下に、上記式(6)で示される化合物(電荷輸送性顔料粒子)の例を示す。
【0059】
【化17】

【0060】
以下に、上記式(7)で示される化合物(電荷輸送性顔料粒子)の例を示す。
【0061】
【化18】

【0062】
以下に、上記式(8)で示される化合物(電荷輸送性顔料粒子)の例を示す。
【0063】
【化19】

【0064】
以下に、上記式(9)で示される化合物(電荷輸送性顔料粒子)の例を示す。
【0065】
【化20】

【0066】
以下に、上記式(10)で示される構造の1価の基の例を示す。
【0067】
【化21】

【0068】
なお、上記有機電荷輸送性顔料粒子(電荷輸送性化合物)は、以下のように入手することが可能である。
【0069】
上記式(1)で示される化合物は、例えば、米国特許第4442193号公報、米国特許第4992349号公報、米国特許第5468583号公報に記載の合成方法を用いて合成することができる。例えば、東京化成工業(株)やシグマアルドリッチジャパン(株)やジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から試薬として購入可能なナフタレンテトラカルボン酸二無水物とモノアミン誘導体との反応や、ペリレンテトラカルボン酸二無水物とモノアミン誘導体との反応で合成することができる。
【0070】
上記式(2)で示される化合物および上記式(3)で示される化合物は、例えば、米国特許第4442193号公報、米国特許第4992349号公報、米国特許第5468583号公報に記載の合成方法を用い、モノアミン誘導体の代わりに1,2−ジアニリン誘導体を用いることで合成することができる。1,2−ジアニリン誘導体は、例えば、東京化成工業(株)やシグマアルドリッチジャパン(株)やジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から試薬として購入可能である。
【0071】
上記式(4)で示される化合物は、例えば、特開2004−093791号公報、特開平7−89962号公報に記載の合成方法を用いて合成することができる。例えば、東京化成工業(株)やシグマアルドリッチジャパン(株)やジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から試薬として購入可能なナフタレンテトラカルボン酸二無水物と1,2−ジアニリン誘導体とアミン誘導体との反応や、ペリレンテトラカルボン酸二無水物と1,2−ジアニリン誘導体とアミン誘導体との反応で合成することができる。
【0072】
上記式(5)で示される化合物は、例えば、特開平1−206349号公報、PPCI/Japan Hard Copy ‘98予稿集,p.207(1998)に記載の合成方法を用いて合成することができる。例えば、東京化成工業(株)やシグマアルドリッチジャパン(株)から試薬として購入可能なフェノール誘導体を原料として合成することができる。
【0073】
上記式(6)で示される化合物は、例えば、東京化成工業(株)やシグマアルドリッチジャパン(株)やジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から試薬として購入可能なものもある。また、購入可能なフェナントレン誘導体やフェナントロリン誘導体を基に、Bull.Chem.Soc.Jpn.,Vol.65,pp.116−1011(1992)、Chem.Educator No.6,pp.227−234(2001)に記載の合成方法で合成することもできる。また、これらの文献に記載のフェナントレン誘導体やフェナントロリン誘導体のハロゲン化物を基に、例えば、パラジウム触媒を使用したクロスカップリング反応によって置換基を導入することもできる。マロノニトリルとの反応によりジシアノメチレン基を導入することもできる。
【0074】
上記式(7)で示される化合物は、例えば、東京化成工業(株)やシグマアルドリッチジャパン(株)やジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から試薬として購入可能なものもある。また、購入可能な化合物を用い、Synthesis,Vol.5,pp.388−389(1988)に記載の合成方法を用いて合成することもできる。マロノニトリルとの反応によりジシアノメチレン基を導入することもできる。
【0075】
上記式(8)で示される化合物は、例えば、東京化成工業(株)やシグマアルドリッチジャパン(株)やジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から試薬として購入可能なものもある。また、購入可能なフルオレノン誘導体やアニリン誘導体やマロノニトリルやその他の化合物を用い、特開平5−279582号公報、米国特許第4562132号公報、特開平7−70038号公報に記載の合成方法を用いて合成することもできる。
【0076】
上記式(9)で示される化合物は、例えば、日本画像学会誌第37巻第3号,pp.280−288(1998)に記載の合成方法を用いて合成することができる。
【0077】
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂粒子のポリオレフィン樹脂とは、オレフィンを重合させて得られる重合体をいう。また、オレフィンとは、1つ以上のC=C(炭素間の二重結合)を持つ炭化水素化合物をいう。ポリオレフィン樹脂は、オレフィンのみを重合させて得られる重合体であっても、オレフィンとそれ以外のモノマーとを共重合させて得られる重合体(共重合体)であってもよい。
【0078】
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂は、電荷輸送性顔料粒子を含む分散液を長期保存した場合の液安定性(分散安定性)を向上させるため、下記(A1)、(A2)および(A3)を有し、(A1)、(A2)および(A3)の質量比が下記の式を満たすポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0079】
0.01≦(A2)/{(A1)+(A2)+(A3)}×100≦30
55/45≦(A1)/(A3)≦99/1
【0080】
【化22】

【0081】
(式(121)中、R121〜R124は、それぞれ独立に、水素原子、または、アルキル基を示す。)
【0082】
【化23】

【0083】
(式(131)および(132)中、R131〜R134は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、フェニル基、または、−Y131COOH(Y131は、単結合、アルキレン基、または、アリーレン基を示す。)で示される1価の基を示し、R135およびR136は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、または、フェニル基を示し、X131は、−Y132COOCOY133−(Y132およびY133は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基、または、アリーレン基を示す。)で示される2価の基を示す。ただし、R131〜R134のうち少なくとも1つは−Y131COOHで示される1価の基である。)
【0084】
【化24】

【0085】
(式(141)〜(144)中、R141〜R145は、それぞれ独立に、水素原子、または、メチル基を示し、R151〜R153は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基を示し、R161〜R163は、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
【0086】
上記アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基などが挙げられる。
【0087】
上記アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニリレン基、ナフチレン基などが挙げられる。
【0088】
上記式(121)中、R121〜R124は、水素原子であることが好ましい。上記式(121)で示される繰り返し構造単位は、炭素−炭素に2重結合を有するモノマーの存在下の重合反応でポリオレフィン樹脂に導入することができる。モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどが挙げられる。
【0089】
上記式(131)中、R131およびR133は水素原子であることが好ましく、R132は水素原子またはメチル基であることが好ましく、R134は−COOHで示される1価の基(カルボキシ基)であることが好ましい。
【0090】
上記式(132)中、R135は水素原子であることが好ましく、R136は水素原子またはメチル基であることが好ましい。上記式(131)で示される繰り返し構造単位、上記式(132)で示される繰り返し構造単位は、不飽和カルボン酸またはその無水物の一方もしくは両方は、分子内(モノマー単位内)に少なくとも1個のカルボキシ基または酸無水物基の一方もしくは両方を有するモノマーの存在下の重合反応でポリオレフィン樹脂に導入することができる。モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸などが挙げられる。その他、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミドなどが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0091】
上記式(141)中、R151は、メチル基またはエチル基であることが好ましい。上記式(141)で示される繰り返し構造単位は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの存在下の重合反応でポリオレフィン樹脂に導入することができる。モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどが挙げられる。
【0092】
上記式(142)中、R152およびR153は、メチル基、エチル基またはブチル基であることが好ましい。上記式(142)で示される繰り返し構造単位は、マレイン酸エステルモノマーの存在下の重合反応でポリオレフィン樹脂に導入することができる。モノマーとしては、例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどが挙げられる。
【0093】
上記式(143)中、R161およびR162は、水素原子であることが好ましい。上記式(143)で示される繰り返し構造単位は、アクリル酸アミドモノマーの存在下の重合反応でポリオレフィン樹脂に導入することができる。
【0094】
上記式(144)中、R163は、メチル基またはエチル基であることが好ましい。上記式(144)中で示される繰り返し構造単位は、アルキルビニルエーテルモノマーならびにビニルアルコールモノマーの存在下の重合反応でポリオレフィン樹脂に導入することができる。モノマーとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ならびに、ビニルエステルを塩基性化合物などでケン化して得られるビニルアルコールなどが挙げられる。
【0095】
これらの中でも、上記式(141)で示される繰り返し構造単位が特に好ましい。
【0096】
また、(A2)/{(A1)+(A2)+(A3)}を0.01以上にすることによって、ポリオレフィン樹脂粒子の粒径を小さくすることが容易になる。また、(A2)/{(A1)+(A2)+(A3)}を30以下にすることによって、分散液を長期保存した場合の液安定性がより向上する。
【0097】
また、(A1)/(A3)を55/45以上にすることによって、分散液を長期保存した場合の液安定性がより向上する。また、(A1)/(A3)を99/1以下にすることによって、ポリオレフィン樹脂粒子の粒径を小さくすることが容易になる。
【0098】
ポリオレフィン樹脂のより好ましい例としては、(A1)が上記式(121)で示され、R121〜R124が水素原子である繰り返し構造単位であり、(A2)が上記式(132)で示され、R135およびR136が水素原子であってX131が−Y132COOCOY133−(Y132およびY133が単結合)である繰り返し構造単位であり、(A3)が上記式(141)で示され、R141が水素原子であってR151がメチル基またはエチル基である繰り返し構造単位である場合である。
【0099】
なお、無水マレイン酸などに由来するカルボン酸無水物構造は、ポリオレフィン樹脂の乾燥状態では、隣接する2つのカルボキシ基が脱水環化した酸無水物構造を形成している。しかしながら、特に塩基性化合物を含有する分散液中では、その一部または全部が開環してカルボキシ基あるいはその塩の構造を取りやすくなる。
【0100】
また、本発明において、ポリオレフィン樹脂のカルボキシ基量を基準として量を規定する場合には、ポリオレフィン樹脂中の酸無水物基はすべて開環してカルボキシ基をなしていると仮定して算出する。
【0101】
また、本発明に用いられるポリオレフィン樹脂には、上記以外のモノマーに由来する繰り返し構造単位が含まれていてもよいが、その場合、上記以外のモノマーに由来する繰り返し構造単位は、ポリオレフィン樹脂全質量に対して20質量%以下であることが好ましい。例えば、上記以外のモノマーとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどの炭素数3〜30のアルキルビニルエーテル類、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビニリデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられる。
【0102】
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂としては、合成したものを用いてもよいし、市販されている樹脂を用いてもよい。
【0103】
ポリオレフィン樹脂は、例えば、ポリオレフィン樹脂を合成するためのモノマー(オレフィンモノマーなど)を、ラジカル発生剤の存在下、高圧ラジカル共重合することによって得られる。ポリオレフィン樹脂の合成方法は、例えば、新高分子実験学2高分子の合成・反応(1)の第1章〜第4章,共立出版(株)や、特開2003−105145号公報や、特開2003−147028号公報などに記載されている。
【0104】
市販されているポリオレフィン樹脂としては、住友化学工業(株)製の「ボンダイン(商品名)」や、ダウ・ケミカル社製の「プリマコール(商品名)」などが挙げられる。
【0105】
次に、本発明において電荷輸送層の形成に用いられる分散液(以下「電荷輸送層用分散液」ともいう。)の調製方法について述べる。
【0106】
電荷輸送層用分散液を調製する方法としては、分散性の観点から、分散媒として水を用いたポリオレフィン樹脂粒子の分散液を調製した後、これに電荷輸送性顔料粒子を加え、さらに分散処理して調製する方法が好ましい。以下、この方法について詳述する。
【0107】
ポリオレフィン樹脂粒子の分散液の調製方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂と、分散媒である水、さらに必要に応じて有機溶剤とを密閉可能な分散処理装置中で加熱し、攪拌する(分散処理する)方法が挙げられる。このとき、ポリオレフィン樹脂の形状は特に限定されないが、粒子化速度を速めるという点から、粒径1cm以下(より好ましくは0.8cm以下)の粒子状のものを用いることが好ましい。
【0108】
分散処理装置としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された分散質と分散媒の混合物を適度に撹拌できるものが好ましい。そのような分散処理装置としては、例えば、固/液撹拌装置や乳化機などが挙げられ、特に、0.1MPa以上の加圧が可能な分散処理装置が好ましい。
【0109】
分散処理装置の槽内に分散質であるポリオレフィン樹脂粒子および分散媒である水(必要に応じて有機溶剤も)を投入した後、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を好ましくは50〜200℃、より好ましくは60〜200℃の温度に保ちつつ、好ましくは5〜120分間攪拌(分散処理)を続けることにより、ポリオレフィン樹脂粒子の分散液を得ることができる。この際、ポリオレフィン樹脂が上記式(131)または(132)で示される繰り返し構造単位のようなカルボン酸単位を有するものである場合、ポリオレフィン樹脂粒子の分散性を高めるため、分散媒である水中でそのカルボン酸単位をアニオン化させることができる塩基性化合物を添加することが好ましい。塩基性化合物の添加量は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシ基(酸無水物基1モルはカルボキシ基2モルとみなす)に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量であることがより好ましく、1.0〜2.0倍当量であることが特に好ましい。0.5倍当量以上であれば、塩基性化合物の添加効果が高く、3.0倍当量以下であれば、塗膜を加熱する時間を短くすることができ、また、塩基性化合物による分散液の着色を抑えることができる。
【0110】
塩基性化合物としては、分散液の塗膜を加熱したときに揮発する化合物が好ましく、具体的には、アンモニアや、有機アミン化合物が好ましい。有機アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなどが挙げられる。
【0111】
このようにして得られたポリオレフィン樹脂粒子の分散液に電荷輸送性顔料粒子を加え、さらに分散処理することで、本発明に用いられる電荷輸送層用分散液を得ることができる。
【0112】
分散処理する方法としては、例えば、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、超音波分散機、高圧ホモジナイザー、スターラー、ミキサー、撹拌機などの分散処理装置を用いた方法が挙げられる。
【0113】
本発明に係る電荷輸送層用分散液に用いられる分散媒の少なくとも1種は水であることが好ましい。また、電荷輸送層用分散液の塗工性の向上(はじきの抑制)の観点から、分散媒として水および有機溶剤を併用することがより好ましい。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトンなどのケトンや、プロパノール、ブタノール、メタノール、エタノールなどのアルコールや、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、アルコールが好ましい。有機溶剤は、ポリオレフィン樹脂粒子の分散液を調製する際や、これに電荷輸送性顔料粒子を加えて分散処理する際や、その分散処理後に適宜添加することができる。分散媒として水およびアルコールを用いる場合、水は、水とアルコールの全質量に対して50質量%以上であることが好ましい。水の比率を50質量%以上にすることによって、ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子からなる粒子の個数平均粒径を50nm以上300nm以下にしやすくなり、また、それら粒子の分散度(標準偏差/個数平均粒径)を1.0以下にしやすくなる。
【0114】
本発明に係る電荷輸送層用分散液中に含有されるポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子の合計量(ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子からなる粒子の量)は、電荷輸送層用分散液の全質量に対して7質量%以上20質量%以下であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子の比率を7質量%以上20質量%にすることによって、ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子からなる粒子の個数平均粒径を300nm以下にしやすくなる。
【0115】
本発明においては、電荷輸送層用分散液に含有されるポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子からなる粒子の個数平均粒径は50nm以上300nm以下であり、かつ、分散度(標準偏差/個数平均粒径)は1.0以下である。すなわち、ポリオレフィン樹脂粒子と電荷輸送性顔料粒子の粒径差が小さくなっている。そのため、電荷輸送性顔料粒子の沈降が抑制される。そして、電荷輸送層用分散液を長期保存した場合の液安定性(分散安定性)が高く、ポリオレフィン樹脂粒子を融解させて電荷輸送層を形成する際に電荷輸送性顔料粒子の凝集が抑制される。この理由として、本発明者らは、以下のように推測している。
【0116】
電荷輸送性顔料粒子(電荷輸送性化合物)は、一般的に、分子中に凝集力の強い芳香環を含んでいるので、液中で凝集しやすい。そのため、結着樹脂が溶媒中に溶解されている塗布液中においては、電荷輸送性顔料粒子が凝集しやすく、液安定性(分散安定性)が不十分になりやすい。これに対して、本発明者らの検討によって、結着樹脂を溶媒中に溶解させず、電荷輸送性顔料粒子の周りにポリオレフィン樹脂粒子を存在させることで、電荷輸送性顔料粒子同士の凝集力を低下させることができることがわかってきた。しかしながら、ポリオレフィン樹脂粒子を存在させることだけでは、液安定性(分散安定性)はある程度向上するものの、
a.ポリオレフィン樹脂粒子を融解させる際の電荷輸送性顔料粒子同士の凝集や、
b.電荷輸送層用分散液を長期保存した際の電荷輸送性顔料粒子の重力による沈降
を十分に抑えることはできなかった。
【0117】
これに対して、本発明のように、ポリオレフィン樹脂粒子を介在させるだけでなく、電荷輸送性顔料粒子の粒径を小さくし、かつ、周りに存在するポリオレフィン樹脂粒子との粒径差を小さくすることによって、立体障害効果が得られると考えられる。そして、この立体障害効果により、電荷輸送層用分散液中における電荷輸送顔料粒子同士の凝集、および、ポリオレフィン樹脂粒子を融解させる際の電荷輸送顔料粒子同士の凝集力を十分に抑制できると考えられる。
【0118】
本発明において、ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子からなる粒子の粒径は、調製された分散液をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観察して測定する。具体的には、クライオトランスファーを備えたエネルギーフィルター装備のTEMを用いて分散液を凍結し、観察する。
【0119】
個数平均粒径および分散度(標準偏差/個数平均粒径)は、ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子を区別せず、任意の200個の粒子の粒径を測定し、個数平均粒径を求めることによって得ることができる。
【0120】
なお、ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子からなる粒子とは、ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子の2種類の粒子が混合されている粒子(粒子群)を意味する。そして、上述のように、この粒子(粒子群)の個数平均粒径および分散度の測定の際には、この粒子(粒子群)に含まれる2種類の粒子を区別して取り扱うことをしない。
【0121】
また、本発明における個数平均粒径とは、粒子が立方体または八面体のいわゆる正常晶である場合には、粒子の稜の長さをいう。また、粒子が正常晶ではない場合、例えば、球状、棒状または平板状である場合には、粒子の体積と同等の体積の真球を考えたときのその直径をいう。
【0122】
また、TEMの倍率は5000〜40000倍に設定し、明視野像を観察する。また、TEM加速電圧は80〜200kVに設定する。
【0123】
また、TEMによって得られた画像をフィルムに記録し、画像1枚を2048画素×2048画素に分解し、コンピュータによる画像処理を行う。画像処理を行う際は、フィルムに記録された画像がアナログ画像である場合は、スキャナーでデジタル画像に変換し、シェーディング補正やコントラスト・エッジ強調などを必要に応じて施す。その後、ヒストグラムを作成し、2値化処理によって、粒子の像を抽出し、粒子の粒径を求める。
【0124】
本発明において、電荷輸送層用分散液を塗布する方法としては、電子写真感光体の分野で用いられる各種の方法を用いることできるが、それらの中でも、浸漬塗布法が好ましい。
【0125】
本発明においては、電荷輸送層用分散液の塗布を浸漬塗布法にて行う場合、23℃での相対湿度が60%以下であり、かつ、風速が1m/s以下である環境下に設置された浸漬塗布装置で行うのが好ましい。
【0126】
電子写真感光体は、支持体および該支持体上に形成された感光層を有するものが一般的である。また、支持体と感光層との間に導電層や下引き層を形成したり、感光層を電荷発生層と電荷輸送層(正孔輸送層)とを積層してなる積層型の感光層としたりすることも広く行われている。また、支持体と感光層との間の下引き層に電荷輸送能(電子輸送能)を持たせて、電荷輸送層(電子輸送層)とする技術も知られている。なお、下引き層は、中間層またはバリア層とも呼ばれる。
【0127】
本発明に係る電荷輸送層を下引き層として用いる場合(例えば、図1)、その電荷輸送層の膜厚は、0.1〜20μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましい。図1中、101は支持体であり、102は下引き層たる本発明に係る電荷輸送層であり、103は電荷発生層であり、104は電荷輸送層であり、105は感光層(積層型の感光層)である。
【0128】
本発明に係る電荷輸送層を積層型の感光層の電荷輸送層(例えば、図2)として用いる場合、その電荷輸送層の膜厚は、1〜50μmであることが好ましく、3〜30μmであることがより好ましい。図2中、201は支持体であり、202は下引き層であり、203は電荷発生層であり、204は本発明に係る電荷輸送層であり、205は感光層(積層型の感光層)である。
【0129】
また、本発明に係る電荷輸送層用分散液の塗膜を加熱するときの温度は、80〜120℃であることが好ましい。80℃以上であれば、ポリオレフィン樹脂粒子を十分に融解させることができる。また、120℃以下であれば、加熱による塗膜(電荷輸送層)の収縮を抑えることができる。
【0130】
電子写真感光体に用いられる支持体としては、導電性のもの(導電性支持体)であればよく、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、銅、金、鉄、ステンレス鋼などの金属製または合金製のものが挙げられる。また、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ガラスなどの絶縁性支持体上にアルミニウム、銀、金などの金属や、酸化インジウム、酸化スズなどの導電性材料の薄膜を形成してなるものでもよい。
【0131】
支持体と感光層との間には、レーザー光などの散乱による干渉縞の抑制や、支持体の傷の隠蔽などを目的とした導電層を設けてもよい。
【0132】
導電層は、カーボンブラック、金属粒子、金属酸化物粒子などの導電性粒子を結着樹脂に分散させて形成することができる。金属酸化物粒子としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタンなどの金属酸化物の粒子が挙げられる。また、導電性粒子として、酸素欠損型の酸化スズが被覆されている硫酸バリウム粒子を用いることもできる。
【0133】
導電層に用いられる結着樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。これらは、支持体に対する接着性が良好であるとともに、導電性粒子の分散性が高く、層形成後の耐溶剤性が良好である。
【0134】
また、導電層には、導電層の表面性を高めるために、レベリング剤を添加してもよい。
【0135】
支持体または導電層と感光層との間には、接着性の向上などを目的とした下引き層を設けることができる。また、本発明に係る電荷輸送層を下引き層として採用することもできる。
【0136】
本発明に係る電荷輸送層でない下引き層を設ける場合、下引き層は、樹脂を溶剤に溶解させて得られる下引き層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。
【0137】
この下引き層に用いられる樹脂としては、例えば、カゼイン、ポリビニルアルコール、ニトロセルロース、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、共重合ナイロン、アルコキシメチル化ナイロンなど)、ポリウレタン、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0138】
本発明に係る電荷輸送層を下引き層として採用する場合、下引き層たる電荷輸送層の形成方法は上述のとおりである。本発明に係る電荷輸送層を下引き層として採用する場合、電荷輸送性顔料粒子は電子輸送性顔料粒子が好ましい。
【0139】
支持体、導電層または下引き層上には感光層が設けられる。
【0140】
感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質を単一の層に含有させてなる単層型の感光層であってもよいし、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とを積層してなる積層型の感光層であってもよい。電子写真特性の観点から、積層型の感光層が好ましい。また、積層型の感光層の中でも、電子写真特性の観点から、支持体側から電荷発生層、電荷輸送層の順に積層してなるもの(順層型の感光層)が好ましい。順層型の感光層の場合、電荷輸送層は、電荷輸送物質として正孔輸送物質(正孔輸送性化合物)を含有する正孔輸送層であることが好ましい。
【0141】
以下、積層型の感光層を例にとって説明する。
【0142】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂および溶剤とともに分散処理することによって得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。
【0143】
本発明に用いられる電荷発生物質としては、例えば、モノアゾ、ジスアゾ、トリスアゾなどのアゾ顔料や、金属フタロシアニンや非金属フタロシアニンなどのフタロシアニン顔料や、インジゴやチオインジゴなどのインジゴ顔料や、ペリレン酸無水物やペリレン酸イミドなどのペリレン顔料や、アンスラキノンやピレンキノンなどの多環キノン顔料や、スクワリリウム色素や、ピリリウム塩、チアピリリウム塩類や、トリフェニルメタン色素や、セレン、セレン−テルル、アモルファスシリコン、硫化カドミウム、酸化亜鉛などの無機物質や、キナクリドン顔料や、アズレニウム塩顔料や、シアニン染料や、キサンテン色素や、キノンイミン色素や、スチリル色素などが挙げられる。これらの中でも、特に、金属フタロシアニン顔料が好ましく、その中でも、オキシチタニウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ジクロロスズフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニンが好ましい。これらの中でも、ヒドロキシガリウムフタロシアニンが特に好ましい。
【0144】
電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、例えば、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルメタクリレート樹脂、ポリビニルアクリレート樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる、これらの中でも、ブチラール樹脂が好ましい。
【0145】
本発明に係る電荷輸送層は、積層型の感光層の電荷輸送層として採用することができ、その形成方法は上述のとおりである。本発明に係る電荷輸送層を積層型の感光層の電荷輸送層として採用する場合、電荷輸送性顔料粒子は正孔輸送性顔料粒子が好ましい。
【0146】
本発明に係る電荷輸送層でない電荷輸送層を積層型の感光層の電荷輸送層として形成する場合、電荷輸送層は、電荷輸送物質および結着樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。電荷輸送物質と結着樹脂の全質量を100質量部とした場合、電荷輸送物質は20〜100質量部であることが好ましく、30〜100質量部であることがより好ましい。
【0147】
この電荷輸送層に用いられる電荷輸送物質としては、例えば、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリスチリルアントラセンなどの複素環や縮合多環芳香族を有する高分子化合物や、ピラゾリン、イミダゾール、オキサゾール、トリアゾール、カルバゾールなどの複素環化合物や、トリフェニルメタンなどのトリアリールアルカン誘導体や、トリフェニルアミンなどのトリアリールアミン誘導体や、フェニレンジアミン誘導体や、N−フェニルカルバゾール誘導体や、スチルベン誘導体や、ヒドラゾン誘導体などの低分子化合物などが挙げられる。
【0148】
この電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、ポリカーボネート樹脂やポリアリレート樹脂やポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0149】
さらに、電荷輸送層上には表面保護層を設けることもできる。
【実施例】
【0150】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0151】
実施例中のポリオレフィン樹脂としては、市販されている樹脂((商品名:ボンダインHX−8290、ボンダインHX−8210、ボンダインAX−8390、住友化学工業(株)製)、(商品名:プリマコール5980I、ダウ・ケミカル社製))と、本発明者らが合成した樹脂B1〜B7を使用した。
【0152】
なお、樹脂B1〜B7は、新高分子実験学2高分子の合成・反応(1)の第1章〜第4章,共立出版(株)や、特開2003−105145号公報や、特開2003−147028号公報などに記載されている方法で合成することができる。
【0153】
(ポリオレフィン樹脂の組成の測定)
ポリオレフィン樹脂の組成は以下の方法によって測定した。結果を表1に示す。
【0154】
【表1】

【0155】
(1)ポリオレフィン樹脂中のカルボン酸単位(A2)の組成比
ポリオレフィン樹脂の酸価をJISK5407に準じて測定し、その値からカルボン酸単位(A2)の組成比(グラフト率)を次式から求めた。
【0156】
組成比[質量%]=(グラフトしたカルボン酸単位(A2)の質量)/(ポリオレフィン樹脂の質量)×100
(2)カルボン酸単位(A2)以外の樹脂の組成比
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて、H−NMRおよび13C−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行って求めた。13C−NMR分析では、定量性を考慮したゲート付きデカップリング法を用いて測定した。
【0157】
(ポリオレフィン樹脂粒子分散液の調製例1)
分散処理装置として、ヒーター付きの密閉可能な耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いた。このガラス容器内に、ボンダインHX−8290(ポリオレフィン樹脂)75.0g、イソプロパノール60.0g、トリエチルアミン5.1gおよび蒸留水159.9gを入れ、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れて加熱した。そして、系内温度を140〜145℃の間に保ち、さらに20分間撹拌した。その後、ガラス容器を水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ、室温(25℃)まで冷却した。その後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂粒子分散液(1)を得た。
【0158】
(ポリオレフィン樹脂粒子分散液の調製例2)
ポリオレフィン樹脂をボンダインHX−8290からボンダインHX−8210に変更した以外は、ポリオレフィン樹脂粒子分散液の調製例1と同様にして、ポリオレフィン樹脂粒子分散液(2)を得た。
【0159】
(ポリオレフィン樹脂粒子分散液の調製例3)
分散処理装置として、ヒーター付きの密閉可能な耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いた。このガラス容器内に、ボンダインAX−8390(ポリオレフィン樹脂)60.0g、n−プロパノール100.0g、トリエチルアミン2.5gおよび蒸留水137.5gを入れ、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れて加熱した。そして、系内温度を120℃に保ち、さらに20分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ、室温(25℃)まで冷却した。その後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、均一なポリオレフィン樹脂粒子分散液(3)を得た。
【0160】
(ポリオレフィン樹脂粒子分散液の調製例4)
分散処理装置として、ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いた。このガラス容器内に、プリマコール5980I(ポリオレフィン樹脂)60.0g、トリエチルアミン16.8gおよび蒸留水223.2gを入れ、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れて加熱した。そして、系内温度を130℃に保ち、さらに30分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ、室温(25℃)まで冷却した。その後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、ポリオレフィン樹脂粒子分散液(4)を得た。
【0161】
(ポリオレフィン樹脂粒子分散液の調製例5〜11)
ポリオレフィン樹脂をボンダインHX−8290から樹脂(B1)〜(B7)にそれぞれ変更した以外は、ポリオレフィン樹脂粒子分散液の調製例1と同様にして、ポリオレフィン樹脂粒子分散液(5)〜(11)を得た。
【0162】
(電荷輸送層の形成例1)
電荷輸送性顔料粒子(E116)40部およびポリオレフィン樹脂粒子分散液(1)100部に、水/イソプロパノール=8/2(質量比)からなる分散媒(混合分散媒)を、混合液中の固形分(ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子)が10質量%になるように添加し、混合液を得た。この混合液を直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れて12時間分散処理し、電荷輸送層用分散液(1)を得た。
【0163】
得られた電荷輸送層用分散液(1)に含有されるポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子からなる粒子の個数平均粒径は120nmであり、分散度(標準偏差/個数平均粒径)は0.6であった。
【0164】
この電荷輸送層用分散液(1)をアルミニウムシート上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が1.0μmの電荷輸送層を形成した。
【0165】
電荷輸送層中の電荷輸送性顔料粒子の分散状態の評価は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電荷輸送層の断面を観察し、以下の基準にしたがって行った。
A:電荷輸送性顔料粒子が均一に分散されている。
B:電荷輸送性顔料粒子はほぼ均一に分散されているが、電荷輸送性顔料粒子2〜5個程度の凝集が数箇所発生している。
C:電荷輸送性顔料粒子2〜5個程度の凝集が全体に発生している。
D:電荷輸送性顔料粒子5個以上の凝集が全体に発生している。
CおよびDは、本発明の効果が十分に得られていないと判断した。
【0166】
また、電荷輸送層用分散液中の電荷輸送性顔料粒子の分散状態の評価は、電荷輸送層用分散液を調製した後とその後に電荷輸送層用分散液を室温(25℃)で暗所に3ヶ月放置した後について、電荷輸送層用分散液の外観を観察し、以下の基準にしたがって観察した。
A:外観上、電荷輸送層用分散液中に沈殿や相分離が全く見られない。
B:外観上、電荷輸送層用分散液中に固形分(ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子)の濃度が低い部分がやや見られる。
C:外観上、電荷輸送層用分散液中に沈殿や相分離が明らかに見られる。
Cは、本発明の効果が十分に得られていないと判断した。
結果を表2に示す。
【0167】
(電荷輸送層の形成例2〜10および28〜50)
電荷輸送層の形成例1において、電荷輸送性顔料粒子(E116)を、表2〜3に示す電荷輸送性顔料粒子にそれぞれ変更した以外は、電荷輸送層の形成例1と同様にして電荷輸送層を形成し、評価した。結果を表2〜3に示す。
【0168】
(電荷輸送層の形成例11〜20)
電荷輸送層の形成例1において、ポリオレフィン樹脂粒子分散液(1)を、ポリオレフィン樹脂粒子分散液(2)〜(11)にそれぞれに変更した以外は、電荷輸送層の形成例1と同様にして電荷輸送層を形成し、評価した。結果を表2に示す。
【0169】
(電荷輸送層の形成例21〜24)
電荷輸送層の形成例1において、水/イソプロパノール=8/2(質量比)からなる分散媒を、水/イソプロパノール=10/0(質量比)からなる分散媒(つまり水のみ)、水/イソプロパノール=9/1(質量比)からなる分散媒(混合分散媒)、水/イソプロパノール=6/4(質量比)からなる分散媒(混合分散媒)および水/イソプロパノール=5/5(質量比)からなる分散媒(混合分散媒)にそれぞれ変更した以外は、電荷輸送層の形成例1と同様にして電荷輸送層を形成し、評価した。結果を表2に示す。
【0170】
(電荷輸送層の形成例25〜27)
電荷輸送層の形成例24において、水/イソプロパノール=5/5(質量比)からなる分散媒(混合分散媒)を添加するにあたり、混合液中の固形分(ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子)がそれぞれ7質量%、15質量%および20質量%になるようにした以外は、電荷輸送層の形成例24と同様にして電荷輸送層を形成し、評価した。結果を表2に示す。
【0171】
(電荷輸送層の形成例C1)
電荷輸送性顔料粒子(E116)40部およびポリオレフィン樹脂粒子分散液(1)を100部に、水/イソプロパノール=3/7(質量比)からなる分散媒(混合分散媒)を、混合液中の固形分(ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子)が2質量%になるように添加し、混合液を得た。この混合液を直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れて2時間分散処理し、電荷輸送層用分散液(C1)を得た。
【0172】
得られた電荷輸送層用分散液(C1)をアルミニウムシート上に塗布し、得られた塗膜を30分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が1.0μmの電荷輸送層を形成した。
形成された電荷輸送層を電荷輸送層の形成例1と同様にして評価した。結果を表3に示す。
【0173】
(電荷輸送層の形成例C2およびC3)
電荷輸送層の形成例C1において、水/イソプロパノール=3/7(質量比)からなる分散媒(混合分散媒)を添加するにあたり、混合液中の固形分(ポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子)がそれぞれ6質量%および30質量%になるようにした以外は、電荷輸送層の形成例C1と同様にして電荷輸送層を形成し、評価した。結果を表3に示す。
【0174】
(電荷輸送層の形成例C4)
N−メトキシメチル化6ナイロン10部をメタノール90部に溶解させて樹脂溶液を得た。この樹脂溶液に電荷輸送性顔料粒子(E116)10部およびメタノール90部を加え、これを直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れて2時間分散処理し、電荷輸送層用分散液(C4)を得た。
【0175】
得られた電荷輸送層用分散液(C4)をアルミニウムシート上に塗布し、得られた塗膜を30分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が1.0μmの電荷輸送層を形成した。
【0176】
形成された電荷輸送層を電荷輸送層の形成例1と同様にして評価した。結果を表3に示す。なお、電荷輸送層用分散液の外観の観察において、N−メトキシメチル化6ナイロンは完全に溶解しており、粒子形状では観測されなかった。
【0177】
(電荷輸送層の形成例C5)
ポリビニルブチラール樹脂10部をブタノール80部に溶解させて樹脂溶液を得た。この樹脂溶液に電荷輸送性顔料粒子(E116)10部およびメタノール90部を加え、これを直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れて2時間分散処理し、電荷輸送層用分散液(C5)を得た。
【0178】
得られた電荷輸送層用分散液(C5)をアルミニウムシート上に塗布し、得られた塗膜を30分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が1.0μmの電荷輸送層を形成した。
【0179】
形成された電荷輸送層を電荷輸送層の形成例1と同様にして評価した。結果を表3に示す。なお、電荷輸送層用分散液の外観の観察において、ポリビニルブチラール樹脂は完全に溶解しており、粒子形状では観測されなかった。
【0180】
【表2】

【0181】
【表3】

【0182】
表2〜3中、「水分比[質量%]」は、分散液中の水とアルコールの全質量に対する分散液中の水の量(比率)[質量%]を意味する。また、「固形分比[質量%]」は、分散液の全質量に対する分散液中のポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子の合計量(比率)を意味する。
【0183】
(実施例1)
直径30mm、長さ260.5mmのアルミニウムシリンダーを超音波水洗浄したものを支持体とした。
【0184】
次に、酸素欠損型の酸化スズが被覆されている硫酸バリウム粒子(粉体抵抗率:200Ω・cm、酸素欠損型の酸化スズの被覆率:60質量%)40部、酸化チタン粒子(商品名:TITANIXJR、テイカ(株)製)8部、結着樹脂としてのフェノール樹脂 (商品名:プライオーフェンJ−325、大日本インキ化学工業(株)製、樹脂固形分:60質量%)25部、メトキシプロパノール30部、および、メタノール30部を混合し、これを直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れて2時間分散処理した。これに、さらに表面粗し付与材としてのシリコーン樹脂粒子(商品名:トスパール120、GE東芝シリコーン(株)製、平均粒径:2μm)3.9部、および、レベリング剤としてのシリコーンオイル(商品名:SH28PA、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)0.002部を添加して攪拌することによって、導電層用塗布液を調製した。この導電層用塗布液を23℃/60%RH環境下で支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間140℃で乾燥および熱硬化させることによって、膜厚が20μmの導電層を形成した。
【0185】
次に、電荷輸送層用分散液(1)を導電層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間100℃で加熱してポリオレフィン樹脂粒子を融解させることによって、膜厚が1.0μmの下引き層たる電荷輸送層(電子輸送層)を形成した。
【0186】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θ±0.2°の7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)10部、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)5部、下記式(15)で示される化合物0.1部、
【0187】
【化25】

【0188】
および、シクロヘキサノン250部を混合し、これを直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れて4時間分散処理した。これに、酢酸エチル250部を加えて希釈することによって、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を下引き層たる電荷輸送層(電子輸送層)上に浸漬塗布し、得られた塗膜を10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が0.16μmの電荷発生層を形成した。
【0189】
次に、下記式(16)で示される化合物(電荷輸送物質(正孔輸送性化合物))10部、
【0190】
【化26】

【0191】
および、下記式(17)で示される繰り返し構造単位を有するポリアリレート樹脂(重量平均分子量Mw:115000)10部
【0192】
【化27】

【0193】
を、モノクロロベンゼン50部およびジクロロメタン30部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を1時間120℃で乾燥させることによって、膜厚が12μmの電荷輸送層(正孔輸送層)を形成した。
【0194】
以上のようにして製造した電子写真感光体を、常温常湿(23.5℃/50%RH)環境下に24時間放置した後、同環境下で電子写真特性の評価を行った。
【0195】
電子写真特性の評価は、次のようにして行った。まず、光量可変に改造したヒューレットパッカード社製のレーザービームプリンター(商品名:レーザージェット4600)の現像器を取り外し、同位置に電位測定用プローブを設置した。この状態で製造した電子写真感光体を設置し、感度(暗部電位−700V設定で明部電位−200Vに光減衰させるために必要な光量)および残留電位(前記感度に係る光量の5倍の光量を照射したときの電位)を測定した。結果を表4に示す。
【0196】
(実施例2〜6)
実施例1において、下引き層たる電荷輸送層(電子輸送層)を形成する際に用いた電荷輸送層用分散液(1)を、電荷輸送層用分散液(2)、(7)、(11)、(23)および(26)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、評価した。結果を表4に示す。
【0197】
(実施例7)
直径30mm、長さ260.5mmのアルミニウムシリンダーの表面を湿式ホーニング処理し、その後、超音波水洗浄したものを支持体とした。
【0198】
次に、電荷輸送層用分散液(1)を支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間100℃で加熱してポリオレフィン樹脂粒子を融解させることによって、膜厚が1.0μmの下引き層たる電荷輸送層(電子輸送層)を形成した。
【0199】
次に、実施例1と同様にして、下引き層たる電荷輸送層(電子輸送層)上に電荷発生層および電荷輸送層(正孔輸送層)を形成して、電子写真感光体を製造した。
【0200】
製造した電子写真感光体を実施例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
【0201】
(参考例1)
実施例1において、下引き層たる電荷輸送層(電子輸送層)を、以下のようにして形成した下引き層に変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、評価した。結果を表4に示す。
【0202】
・下引き層の形成
N−メトキシメチル化6ナイロン5部をメタノール95部に溶解させることによって、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が1.0μmの下引き層を形成した。
【0203】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送層を有する電子写真感光体を製造する方法において、
分散質としてのポリオレフィン樹脂粒子および電荷輸送性顔料粒子ならびに分散媒を含有する分散液を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を加熱して該ポリオレフィン樹脂粒子を融解させることによって該電荷輸送層を形成する工程を有し、
該分散液に含有される該ポリオレフィン樹脂粒子および該電荷輸送性顔料粒子からなる粒子の個数平均粒径が50nm以上300nm以下であり、分散度(標準偏差/個数平均粒径)が1.0以下である
ことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記分散液が前記分散媒として水およびアルコールを含有し、前記分散液に含有される水の量が、前記分散液に含有される水とアルコールの全質量に対して50質量%以上である請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記分散液に含有される前記ポリオレフィン樹脂粒子および前記電荷輸送性顔料粒子の合計量が、前記分散液の全質量に対して7質量%以上20質量%以下である請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記電荷輸送性顔料粒子が、アルキル基を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂粒子が、下記(A1)、(A2)および(A3)を有し、(A1)、(A2)および(A3)の質量比が下記の式を満たす請求項2〜4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
0.01≦(A2)/{(A1)+(A2)+(A3)}×100≦30
55/45≦(A1)/(A3)≦99/1
【化1】


(式(121)中、R121〜R124は、それぞれ独立に、水素原子、または、アルキル基を示す。)
【化2】


(式(131)および(132)中、R131〜R134は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、フェニル基、または、−Y131COOH(Y131は、単結合、アルキレン基、または、アリーレン基を示す。)で示される1価の基を示し、R135およびR136は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、または、フェニル基を示し、X131は、−Y132COOCOY133−(Y132およびY133は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基、または、アリーレン基を示す。)で示される2価の基を示す。ただし、R131〜R134のうち少なくとも1つは−Y131COOHで示される1価の基である。)
【化3】


(式(141)〜(144)中、R141〜R145は、それぞれ独立に、水素原子、または、メチル基を示し、R151〜R153は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基を示し、R161〜R163は、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜10のアルキル基を示す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−128397(P2012−128397A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206101(P2011−206101)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【特許番号】特許第4959017号(P4959017)
【特許公報発行日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】