説明

電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体

【課題】 印刷時において電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体に湿し水が浸透することが少なく、印刷版の伸びやシワの発生の少ない電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体を提供することを課題とする。
【解決手段】 主として紙からなる原紙の表裏両面に塗工層を有する電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体を、有機溶剤可溶型の染料を有機溶剤に0.1〜2質量%溶解させた試験液に30秒間接触させ、溶剤の浸透した面積を測定するとき、前記支持体に感光剤を塗工する面をアンダー層、アンダー層の反対側の面をバック層とすると、アンダー層、バック層ともに30%以下であることを特徴とする電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体に関するものである。詳しくは、印刷時において電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体に湿し水が浸透することが少なく、印刷版の伸びやシワの発生の少ない電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙を支持体とする電子写真方式平版印刷版用刷版において、印刷時に印刷版に供給される湿し水がこの支持体中に浸透し、これが原因して印刷版が伸びる現象、いわゆる印伸びが発生したり、ひどい場合には印刷版にシワが発生して印刷自体ができなくなるといった問題を有していた。また、印伸びは印刷位置がずれることから印刷時の寸法安定性が問題となっていた。これらの現象は印刷枚数が増えるに従って増大する傾向があるので、湿し水が支持体中に浸透することは印刷枚数に制約を生じることにもなり、耐刷性が劣るといった問題にもなっていた。
【0003】
特に近年において印刷業の効率化、省力化が急速に推進され、印刷機の自動化が進んできた。印刷機の自動化が進むことによって印刷の工程、即ち給版→印刷状態のチェック→設定枚数の印刷→排版→ブランケットの洗浄と乾燥といった一連の作業がコンピュータによってシステム管理されボタン一つで行えるようになった。このため、従来のように印刷機の一台毎に専任の作業者が存在し、印刷物の状況に合わせて印刷機の調整を行うといった高度の熟練性も不要となり、一人で複数の印刷機を管理できるようになってきた。
【0004】
上記したような高度に自動化された印刷機、いわゆる自動印刷機においては、印刷インキによる印刷版面の汚れを防止するために、従来の印刷機と比較して湿し水の使用量が多めに設定される傾向がある。これは、従来の印刷機においては、ベテランの作業員が印刷画質をシャープなものにするためにできるだけ湿し水の供給量を少なく調整し、このため印刷版面に印刷インキが付着しやすくなり印刷汚れが発生しやすくなるので、常時印刷品質に注意を払っていたのに対し、自動印刷機では機械的に一定の印刷品質を得られるように設計してあるので、印刷汚れの原因となる版面へのインキの付着を防止するために湿し水の供給量を多めにして、印刷版面を常時洗浄しているためである。
【0005】
さらには印刷版の自動給排版を実現するために、印刷版のブランケットへの咬え方法が、従来の印刷機のように印刷版の上下の2方向を固定するのではなく、片側のみを咬える、いわゆる吹き流し方式の咬え方になった。このように従来の印刷機では印刷版の上下を固定していたものが自動印刷機では片側のみの固定方法となったために、印刷版の寸法変化に対する制約はより厳しいものになってきた。
【0006】
このように最近の自動印刷機においては、従来の印刷機と比較して印刷版に供給される湿し水が増加したことによる印刷版自体の湿し水の吸水量が増加したこと、および印刷版のブランケットへの固定方法が変化したことから以下のような問題点が生じてきた。
(1) 印刷時に印刷版の伸び、いわゆる印伸びが生じやすい。
(2) 印刷位置がずれやすい。
(3) 印刷版にシワが発生しやすい。
(4) 印刷版の基紙に湿し水が吸収されることによって印刷版の腰が弱くなり、印刷版
の自動排版がし難くなる。
【0007】
このような問題に対応するために、紙を支持体とする電子写真方式平版印刷版用刷版においては、その支持体に耐水性を付与するための提案がなされている。例えば特許文献1では、JIS P−8140(1998年)に基づくコッブの吸水度試験を行う際に、試料の調湿条件および測定条件として新たに30℃、80%RHという条件を設定し、この条件下での支持体のコッブ吸水度測定値を所定の範囲内とすることにより、印刷時の印刷版のシワや版の伸びの発生を抑制している。また特許文献2および3では、アンダー層あるいはバック層を複層にし、下側に耐水層を設け、その上に導電層を設けることで、感光層の機能維持と耐水層による湿し水の支持体への浸透を抑制している。また特許文献4では、水に浸漬後の印刷版のヤング率を維持することで印刷時の寸法安定性を規定している。
【0008】
しかし、上記のような提案によって電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体自体の耐水性が強化されても、支持体の製造途中や保管中において、支持体の塗工層がブロッキングを生じて塗工層に亀裂やピンホールを生じたり、あるいは塗工層自体が剥がれてしまったような状態、若しくは支持体の製造工程における塗工層表面の管理状態のバラツキにより塗工層に発生したピンホール等からの湿し水の浸透に対してはそのレベル把握ができなく、商品として使用されてから問題化してくるといった問題を生じていた。例えば、塗工層表面における微細なピンホールが多数発生したような場合には、上記したようなコブサイズ度の測定結果では所定の範囲以内であっても、実際に印刷を行っている最中に湿し水がこれらのピンホールから電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体における紙層間に浸透してしまい、シワや印伸びの発生といった問題を生じさせていた。
【0009】
【特許文献1】特開2004−66779号公報
【特許文献2】特開平5−6036号公報
【特許文献3】特開平5−232748号公報
【特許文献4】特開平9−062039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記したような問題点を解決し、印刷時において電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体に湿し水が浸透することが少なく、印刷版の伸びやシワの発生の少ない電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、主として紙からなる原紙の表裏両面に塗工層を有する電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体であって、これを有機溶剤に有機溶剤可溶型の染料を0.1〜2質量%溶解させた試験液に30秒間接触させ、その後直ち表面に付着している試験液をウエス等で拭い取り、前記支持体の表面に浸透した試験液の面積を測定するとき、前記支持体に感光剤を塗工する面をアンダー層、アンダー層の反対側の面をバック層とすると、アンダー層、バック層ともに30%以下であることを特徴とする電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体である。
【0012】
本発明の請求項2に係る発明は、主として紙からなる原紙の表裏両面に塗工層を有する電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体であって、これを有機溶剤に有機溶剤可溶型の染料を0.1〜2質量%溶解させた試験液に30秒間接触させ、その後直ちに表面に付着している試験液をウエス等で拭い取り、前記支持体の表面に浸透した試験液の面積を測定するとき、前記支持体に感光剤を塗工する面をアンダー層、アンダー層の反対側の面をバック層とすると、アンダー層が20%以下であり、かつバック層が30%以下であることを特徴とする電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体において、印刷時に印刷版に供給される湿し水の浸透による問題を未然に防止できる電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体を構成するシート状物としては、主としてパルプからなる製紙用繊維を使用することが好ましい。ここで使用されるパルプとしては、従来から一般的に製紙用原料として使用されているパルプを適宜使用することができ、特に限定されるものではない。例えば針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の木材パルプの単独若しくは混合物を主体とし、必要に応じて非木材パルプ、変性パルプ、合成繊維、半合成繊維、無機繊維等を混合してもよい。
【0015】
上記したような製紙用繊維を300〜500ml C.S.F.に叩解し、これに従来から製紙用として一般的に使用される各種の填料や製紙用薬品、例えば各種クレー、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、サイズ剤、歩留まり向上剤、スライムコントロール剤、着色剤、定着剤等を必要に応じて適宜添加してスラリーを得、公知、既存の長網抄紙機、短網抄紙機、円網抄紙機、あるいはこれらのコンビネーション抄紙機等で抄造して電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体用原紙を得る。
【0016】
次に、ここで得られた電子写真方式平版印刷版用刷版支持体の原紙の表裏に、填料とバインダーを主体とした塗料を塗工する。填料としては、従来から製紙用として一般的に使用されている填料、例えばカオリン、タルク、焼成クレー等の珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化チタン等が使用できる。また、バインダーとしてはSBRラテックスやNBR等の共重合ラテックス、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体、PVA、変性PVA、カゼイン、アクリル酸アンモニウムのような水溶性樹脂、澱粉、澱粉誘導体等を単独で、若しくは1種類以上を適宜組み合わせて使用する。
【0017】
上記したような填料とバインダーを主体として分散し、これに必要に応じて従来から製紙用塗料の副資材として用いられている保水剤、耐水化剤、導電剤、流動性改良剤、防腐剤、防黴剤、着色料等を混合することもできる。塗料処方は表裏同じ処方でもかまわないが、有機溶剤を使用した感光剤が塗工されるアンダー層においては、有機溶剤、特にトルエンに耐性のある塗料を塗工することが必要である。
【0018】
本発明においては、塗料中の填料に対するバインダーの配合比率は15〜40質量%、好ましくは22〜35質量%である。塗料中の填料に対するバインダーの配合比率が15質量%未満であると、耐水強度や耐刷強度が不足して印刷時に問題を生じやすくなり、また40質量%を超えると上記したような問題はなくなるが製造コストがアップしたり、バインダー過多のためにブロッキング現象が激しくなる傾向があるので好ましくない。
【0019】
この様にして処方した塗料を、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ワイヤーバーコーター等の一般的に紙加工用として使用されている塗工機を使用して、電子写真方式平版印刷版用刷版支持体の原紙の表裏に塗工する。
【0020】
塗工量は耐水性と関係の深いコッブ吸水度と相関があるので、アンダー層では5〜30g/m、好ましくは10〜20g/m、バック層では5〜30g/m、好ましくは7〜18g/mである。塗工量が5g/m以下になるとコッブの吸水度が著しく増加して電子写真方式平版印刷版用刷版支持体の原紙の内部に湿し水が浸透しやすくなり、印刷時に印伸びやシワ発生の原因となるので好ましくない。また30g/m以上になるとコッブ吸水度に変化が無くなり、耐水性が頭打ちになってこれ以上の効果が期待できなくなり、さらには塗工層が必要以上に厚くなることで塗工層自体の柔軟性が失われ、折れ割れが発生しやすくなるので好ましくない。
【0021】
塗料を電子写真方式平版印刷版用刷版支持体の原紙の表裏に塗工した後、必要に応じてスーパーカレンダー、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、熱カレンダー処理等の平滑化装置を使用することは、電子写真方式平版印刷版用刷版支持体表面の平滑性を高めることができ、印刷適性を向上させるので好ましい。
【0022】
この様にして製造した電子写真方式平版印刷版用刷版支持体をサンプリングし、有機溶剤に有機溶剤可溶型の染料を0.1〜2質量%溶解させた試験液に30秒間接触させ、その後直ちに表面に付着している試験液をウエス等で拭い取り、前記支持体の表面に浸透した試験液の面積を測定する。この際には、有機溶剤可溶型の染料を溶解させた試験液に接触している面を測定面とする。試験液が支持体中に浸透した面積は、測定面を画像としてコンピュータに取り込み、試験液が浸透して着色した面積を2値化して画像処理し、積分して求めるのが簡便で好ましい。
【0023】
試験液に使用する有機溶剤は、基本的には電子写真方式平版印刷版用刷版支持体の塗工層表面が濡れるものであれば特に制約を受けるものではないが、速やかに支持体塗工層表面のピンホールに染みこむ必要があり、低粘度である有機溶剤が好ましい。低粘度の有機溶剤としてはメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールのようなアルコール類、メチルエチルケトン、アセトンのようなケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素、その他エーテル類や四塩化炭素のような有機塩素系溶剤等があるが、毒性が低く、低粘度で支持体塗工層表面のピンホールに染みこみやすく、取扱の容易な有機溶剤としてアルコール、特に人体に悪影響の少ないエチルアルコールを使用することが好ましい。また、試験液として使用する有機溶剤に、この有機溶剤に可溶な染料を溶解することで、塗工層のピンホールから染みこんだ有機溶剤のレベルを容易に確認することができるのである。有機溶剤可溶型の染料としては各種の有機溶剤に対応した染料を使用することができるが、取扱が容易で毒性が低く、容易に入手可能なものが好ましい。例えばエチルアルコールを有機溶剤とした場合、食品用の染料として食用赤色5号として知られているローズベンガルを使用することが好ましい。
【0024】
有機溶剤に溶解する染料の添加量は、電子写真方式平版印刷版用刷版支持体表面の塗工層に存在するピンホールの有無が確認できる濃度であれば特に制約を受けるではないが、0.1〜2質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると電子写真方式平版印刷版用刷版支持体表面の塗工層に存在するピンホールに、染料を溶解した有機溶剤が浸透した際に着色レベルが低くて確認しにくく、コンピュータで画像処理する際にも2値化するのに困難であるので好ましくない。また、2質量%を超える濃度であると、コンピュータで画像処理する際に必要以上の濃度となって効果が頭打ちになるので好ましくない。
【0025】
本発明では電子写真方式平版印刷版用刷版支持体をサンプリングし、有機溶剤に有機溶剤可溶型の染料を0.1〜2質量%溶解させた試験液に30秒間接触させ、その後直ちに表面に付着している試験液をウエス等で拭い取る必要がある。試験液に接触させる時間を30秒間としたのは、試験液と接触している時間が数秒間といったように極めて短時間であると試験時間に誤差が生じやすく、またピンホールから浸透した染料が電子写真方式平版印刷版用刷版支持体の紙層間に浸透しきれず、ピンホールの位置やレベルの把握がし難いので好ましくない。また30秒を越える時間接触させていると、紙層間に染みこんだ染料が広がりすぎて互いに隣のピンホールと重なり合ってしまい、ピンホールの位置やレベルの把握がし難くなってしまうので好ましくない。このように電子写真方式平版印刷版用刷版支持体表面におけるピンホールに試験液が接触し、支持体内部に試験液が浸透するには、時間の経過とともに試験液の浸透が進むので、試験時間が異なると、試験後に試験液を拭い取って、試験液の浸透部分の面積を積分する際に誤差の原因となる。本発明者等が検討した結果、30秒間の試験時間が、試験液の電子写真方式平版印刷版用刷版支持体への浸透レベルの把握においても、また試験を行う際の作業時間においても適切な時間と判断された。
【0026】
本発明による電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体にあっては、主として紙からなる原紙の表裏両面に塗工層を有する電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体であって、これを有機溶剤に有機溶剤可溶型の染料を0.1〜2質量%溶解させた試験液に30秒間接触させ、その後直ちに表面に付着している試験液をウエス等で拭い取り、前記支持体の表面に浸透した試験液の面積を測定するとき、前記支持体に感光剤を塗工する面をアンダー層、アンダー層の反対側の面をバック層とすると、アンダー層、バック層ともに30%以下であることが必要であり、好ましくはアンダー層が20%以下である。30%以上であると印刷時にこれらのピンホールから湿し水の浸透が激しくなり、長時間印刷すると印伸びが大きくなったり印刷版にシワが発生しやすくなるので好ましくない。またこれらのピンホールから浸透した湿し水が電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体における紙層間に蓄積される結果、電子写真方式平版印刷版用刷版の腰が柔らかくなって、自動印刷機の設定印刷枚数が印刷された後の排版時に、印刷版がスムースに排版されず、ジャム等のトラブルを引き起こす可能性が高くなるという問題がある。
【0027】
本発明の主眼とするところは、拡大鏡等で観察しても確認できないような微細なピンホールの有無とそのレベルを把握することで、印刷中における電子写真方式平版印刷版の支持体への湿し水の浸透レベルを事前に調査し、印刷版としての性能を評価することにある。紙を支持体とした電子写真方式平版印刷版において、耐水性のレベルを評価するには上記したようなコブサイズ度による方法が一般的ではあるが、実際に印刷を行うとコブサイズ度には問題が無くてもシワや印伸びといった問題が生じる場合がある。本発明者等は鋭意検討の結果、その原因が塗工層表面に発生する微細なピンホールに由来し、そのレベルを把握することでこれらの問題を未然に防止できることを見出し、本発明を完成させたのである。
【0028】
電子写真方式平版印刷版用基紙の塗工層表面に微細なピンホールが発生してもコブサイズ度には影響しない場合があるが、その理由について本発明者等は以下のように推測している。紙を支持体とした電子写真方式平版印刷版のコブサイズ度を測定する場合、水はその表面張力の影響で、非常に微細なピンホールが存在してもそこからの水の吸収は殆どないと考える。このため、微細なピンホールが多数存在するようなサンプルでもコブサイズ度には影響してこないのである。しかし、このような微細なピンホールが多数存在する紙を支持体とした電子写真方式平版印刷版を使用して印刷を行うと、印刷版の表面に湿し水が常時供給され存在する条件下で版胴との圧着が繰り返されることにより、微細なピンホールから湿し水が紙層間にポンピングされるような状態で導き込まれると考えられる。このために表面張力では染込まない湿し水が紙層間に入り込むことによって次第に紙層間に湿し水が蓄積されてくると考える。このような微細なピンホールは、拡大鏡等を使用しても目視観察することは不可能である。そこで、本発明で提案しているような、有機溶剤に有機溶剤可溶型の染料を0.1〜2質量%溶解させた試験液と電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体を接触させることで、ピンホールから試験液が浸透して紙層間で試験液が拡散し、微細なピンホールが目視確認出来るようになる。すなわち、微細なピンホールから紙層間に浸透した試験液は時間の経過と共に拡がるので、極微細なピンホールも試験液に30秒間接触させることで確認可能な大きさになるのである。ある程度大きなピンホールや、塗工層表面の大きなひび割れ、あるいは塗工層の剥離による大きな塗工層表面の傷は、コブサイズ度の測定によっても、これらの場所から水の浸透が始まるので印刷時の影響度が確認できる。しかし、上記したように微細なピンホールからは湿し水が浸透しないので、本発明で示したような方法を採ることで、実際の印刷時に発生するような、湿し水が基紙の紙層間に浸透する事によって発生する問題点を事前に察知することができるのである。
【0029】
また、実際の電子写真方式平版印刷版用基紙の塗工層表面には、微細なピンホールの他にも亀裂や塗工層の剥離等のコブサイズ度に直接影響を及ぼすような傷も存在している場合が多いが、このような大きな傷からは本発明で使用する試験液の浸透も大きく、前記支持体の表面に浸透した試験液の面積を測定するとき、アンダー層、バック層ともに30%以下、好ましくはアンダー層が20%以下であり、かつバック層が30%以下とすることで、実際の印刷時に発生する湿し水に起因した各種の問題点を、コブサイズ度、およびコブサイズ度に影響されない微細なピンホールまでを含んだ状態で事前に察知することが可能となるのである。
【0030】
前記支持体の表面に浸透した試験液の面積を測定するとき、試験片をスキャナーで読み取り、これを2値化してから積分して求める。スキャナーの読み取り精度は、塗工層表面に染み込んだ試験液の細かい部分における読み取り精度と直接関係してくるが、極度に低解像度でなければトータルの積分値には大きな影響を及ぼさないと考えられ、また高解像度にすると作業時間が大幅に増加するので100〜600dpi程度の解像度で行うのが好ましい。また、2値化する際の閾値の決め方は、直接的に面積に影響してくるので重要なファクターである。閾値とは、画像の濃さ、例えば黒から白までを256階調のレベルで区分し、あるレベルより白いときに1、黒いときに0とする(2値化)ときの基準値である。2値化の方法は種々あるが、主として以下の4方法がある。(1)として濃度ヒストグラムに基づく方法があり、この方法にはPタイル法(画像内で対象物の占める面積:P%があらかじめわかっている場合に有効で、まず濃度ヒストグラムを作成して、濃度値の累積分布が全体のP%になる濃度値を閾値とする)、モード法(濃度ヒストグラムが画像の対象物と背景のそれぞれに対応した2つの山ができる場合、2つの山の間の、谷の位置を閾値として設定する)、判別分析法(濃度ヒストグラムをある閾値tで2つのグループに分けた場合、グループ間の分散が最大となるtmaxを閾値とする)、最小誤差法がある。(2)として画像の局所的性質を生かし、この性質を利用する方法があり、この代表的な方法としては微分ヒストグラム法がある。(3)として領域分割法があり、(4)として適応的処理法がある。本発明においてはいずれの方法をとってもかまわないが、一定の閾値を設定することで前記支持体の表面に浸透した試験液の面積を測定する際に管理し易くなるので、濃度ヒストグラムに基づく方法や局所的性質を利用する方法をとることが好ましい。
【0031】
かくして得られた本発明の電子写真方式平版印刷版用刷版支持体のアンダー層上に、感光剤をワイヤーバーコーター等を使用して塗工し、電子写真方式平版印刷版用刷版を製造する。感光剤用の塗料は、電子写真用酸化亜鉛を主体とし、これにアクリル樹脂を主体とするバインダー、1〜数種類の増感剤として使用する染料や各種の助剤を必要に応じて添加し分散させたものを使用する。感光剤の塗工量は固形分換算で一般的には20〜30g/mである。
【0032】
以下に実施例と比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の部および%は、それぞれ質量部、質量%を示す。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)50質量部と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)50質量部を480ml C.S.F.に叩解してパルプスラリーを得、これに湿潤紙力増強剤(商品名「スミレーズレジン650」、住友化学工業(株)製造)1質量部、内添サイズ剤(商品名「ペローザーE−3600」、近代化学工業(株)製造)3質量部、定着剤として硫酸アルミニウムを2質量部添加して紙料を調製し、長網抄紙機を使用して常法にて坪量が105g/mの電子写真方式平版印刷版用刷版支持体の原紙を抄紙した。
【0034】
アンダー層用の塗料として、カオリンクレー(商品名「UW−90」、エンゲルハード(株)製造)100質量部を分散し、これに酸化デンプン(商品名「王子エース」、王子コーンスターチ(株)製造)7質量部を添加し、さらにSBRラテックス(商品名「スマーテックスSN370」、日本エイアンドエル(株)製造)50質量部を添加して調製した。また、バック層用の塗料として、カオリンクレー(商品名「UW−90」、エンゲルハード(株)製造)100質量部を分散し、これに酸化デンプン(商品名「王子エース」、王子コーンスターチ(株)製造)10質量部を添加し、さらにSBRラテックス(商品名「スマーテックスSN370」、日本エイアンドエル(株)製造)50質量部を添加して調製した。
【0035】
上記処方の塗料を、エアナイフコーターを使用して電子写真方式平版印刷版用刷版支持体の原紙にそれぞれ塗工した。塗工量は、アンダー層で25g/m、バック層で15g/mとし、塗工後の含有水分を7.2質量%となるように乾燥させた。これをスーパーカレンダーで平滑化処理して電子写真方式平版印刷版用刷版支持体を得た。
【0036】
得られた電子写真方式平版印刷版用刷版支持体のアンダー層に感光剤を固形分換算で30g/m塗工し、電子写真方式平版印刷版用刷版を得た。感光剤の処方は、電子写真用酸化亜鉛(商品名「サゼックス2000」、堺化学(株)製造)100質量部、バインダーとしてアクリルバインダー(商品名「LR−188」、三菱レーヨン(株)製造)15質量部、トルエンを100質量部混合して分散させ、これに増感剤としてローズベンガル0.5質量部を混合した。感光剤の塗工にはワイヤーバーコーターを使用した。
【0037】
[実施例2]
実施例1のアンダー層用塗料の塗工量を18g/m、バック層用塗料の塗工量を10g/mとした他は実施例1と同様にして電子写真方式平版印刷版用刷版支持体および電子写真方式平版印刷版用刷版を得た。
【0038】
[比較例1]
実施例1のアンダー層用の塗料処方として、SBRラテックス(商品名「スマーテックスSN370」、日本エイアンドエル(株)製造)15質量部、また、バック層用の塗料処方として、SBRラテックス(商品名「スマーテックスSN370」、日本エイアンドエル(株)製造)15質量部とした他は実施例2と同様にして電子写真方式平版印刷版用刷版支持体および電子写真方式平版印刷版用刷版を得た。
【0039】
[比較例2]
実施例1のアンダー層用の塗料処方として、SBRラテックス(商品名「スマーテックスSN370」、日本エイアンドエル(株)製造)80質量部、また、バック層用の塗料処方として、SBRラテックス(商品名「スマーテックスSN370」、日本エイアンドエル(株)製造)80質量部とした他は実施例1と同様にして電子写真方式平版印刷版用刷版支持体および電子写真方式平版印刷版用刷版を得た。
【0040】
実施例1〜2および比較例1〜2について、電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体における試験液の染色面積、電子写真方式平版印刷版用刷版の耐ブロッキング性、耐水性、耐刷性の各項目について評価し、その結果を表1に示した。
【0041】
(染色面積):
電子写真方式平版印刷版用刷版支持体をサンプリングし、エチルアルコールにローズベンガルを0.5質量%溶解させた試験液に30秒間接触させ、その後直ちに表面に付着している試験液をウエス等で拭い取り、前記支持体の表面に浸透した試験液の面積を測定した。ローズベンガル試験液に接触している面を測定面とした。試験液が支持体中に浸透した面積は、測定面を画像としてコンピュータに取り込み、試験液が浸透して着色した面積を2値化して画像処理し、積分して求めた。
評価は以下の四水準とし、○以上を合格とした。
◎:10%未満
○:10〜30%
△:31%〜50%
×:51%超
【0042】
(耐ブロッキング性):
電子写真方式平版印刷版用刷版支持体を塗工直後にサンプリングし、スーパーカレンダー処理を施し、これを10cm×10cmにカットしてサンプルとした。このサンプルを2枚重ね合わせて同寸法の鉄製スペーサーで挟み、50℃に保温してある油圧プレスに挟んで100MPaの加圧条件下で20分間放置後取り出し、直ぐにサンプルを剥がした際における表面のブロッキング状態を目視観察した。評価は以下の四水準とし、○以上を合格とした。
◎:全く面が取られず、剥離力も小さい。
○:面は取られないが、剥離力は大きい。
△:一部の面にブロッキングによる剥離が見られ、その面積は10%未満である。
×:一部の面にブロッキングによる剥離が見られ、その面積は10%以上である。
【0043】
(耐水性):
電子写真方式平版印刷版用刷版をサンプルとし、30℃、80%RHの条件下で24時間調湿した後、同条件下でJIS P−8140(1998年)に規定されるコッブ吸水度を測定した。測定時間は1時間とした。評価は以下の四水準とし、○以上を合格とした。
◎:10g/m未満
○:10g/m以上〜20g/m未満
△:20g/m以上〜30g/m未満
×:30g/m以上
【0044】
(耐刷性):
電子写真方式平版印刷版用刷版をサンプルとしテストパターンを製版した。これを30℃、80%RHの条件下の暗所で24時間調湿した後、この刷版を自動印刷機(商品名「RYOBI3200PCX」、リョービ(株)製造)にセットし、坪量92g/mの上質紙5000枚の印刷を行った後の、刷版表面のシワ発生の有無とそのレベルを目視観察した。評価は以下の三水準とし、○以上を合格とした。
○:シワの発生が全く観察されない。
△:シワ(5mm未満)が観察される。
×:シワ(5mm以上)が観察される。
【0045】
〈表1〉







【0046】
表1からわかるように、実施例1〜実施例2で示した、本発明による電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体、およびこれを使用した電子写真方式平版印刷版用刷版においては、電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体における試験液の染色面積が基準値に入っており、製造中や保管中におけるブロッキングの発生も無く、印刷時の湿し水の浸透によるシワの発生も無く、これを裏付けるコッブの吸水度も低い値を示していた。これに対し、比較例1では共重合ラテックスの添加質量部数が低いために、電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体の塗膜が十分に成膜されず、その結果、電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体における試験液の染色面積が基準値以上となり、耐水性、耐刷性に悪影響を及ぼしていることがわかる。比較例2では共重合ラテックスの添加質量部数が高いために、電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体製造中や保管時にブロッキングが発生し、その結果、電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体における試験液の染色面積が基準値以上となり、耐水性、耐刷性に悪影響を及ぼしていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明による電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体は、紙ベースの平版印刷版用刷版として、軽印刷の分野で好ましく使用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として紙からなる原紙の表裏両面に塗工層を有する電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体であって、これを有機溶剤に有機溶剤可溶型の染料を0.1〜2質量%溶解させた試験液に30秒間接触させ、その後直ちに表面に付着している試験液をウエス等で拭い取り、前記支持体の表面に浸透した試験液の面積を測定するとき、前記支持体に感光剤を塗工する面をアンダー層、アンダー層の反対側の面をバック層とすると、アンダー層、バック層ともに30%以下であることを特徴とする電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体。
【請求項2】
主として紙からなる原紙の表裏両面に塗工層を有する電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体であって、これを有機溶剤に有機溶剤可溶型の染料を0.1〜2質量%溶解させた試験液に30秒間接触させ、その後直ちに表面に付着している試験液をウエス等で拭い取り、前記支持体の表面に浸透した試験液の面積を測定するとき、前記支持体に感光剤を塗工する面をアンダー層、アンダー層の反対側の面をバック層とすると、アンダー層が20%以下であり、かつバック層が30%以下であることを特徴とする電子写真方式平版印刷版用刷版の支持体。