説明

電子写真装置用ローラおよびその製造方法

【課題】長手方向において膜厚および表面粗さが均一で、所定範囲の膜厚及び表面粗さを有すると共に、良好な特性を有する電子写真装置用ローラを提供する。
【解決手段】風乾工程において、ローラの長手方向が鉛直方向と同じ方向となるようにしながら塗工液の浴中からローラを引き上げ、このローラの引き上げ時に弾性層の外周面上の塗工液に対して、塗工液の浴の液面よりも鉛直方向の上方の位置から気体を吹き付けて、弾性層の外周面上の塗工液の蒸気圧を温度Aにおける塗工液の飽和蒸気圧の1/10以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ、ファクシミリおよび複写機等の電子写真装置における現像、帯電、転写、クリーニング、除電等に用いる電子写真装置用ローラ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真装置の画出し工程は、以下の工程を有する。
・光導電性を有する感光体表面を帯電させる帯電工程、
・感光体の表面に画像光を露光してその表面に静電潜像を形成する露光工程、
・上記静電潜像に着色樹脂粉を静電吸着させてトナー像として顕在化する現像工程、
・上記トナー像を用紙に転写する転写工程、
・上記用紙に転写した転写像に圧力や熱を加えて用紙に定着する定着工程。
上記の転写工程後の感光体表面は残留トナーを除去することでクリーニングされ、再度、帯電、露光、現像などの各工程が繰り返される。
【0003】
上記の各工程においては種々のローラが使用されており、例えば、帯電工程では帯電ローラ、現像工程では現像ローラ、転写工程では転写ローラなどが使用されている。
【0004】
近年、電子写真の高画質化のニーズが高まり、上記ローラの外径寸法(厚さ)の均一性、表面粗さの均一性が厳しく要求されている。例えば、現像ローラや帯電ローラの場合、その外径寸法や表面粗さが不均一であると、感光体とこれらのローラ間のニップ幅や接触圧力に変動が生じて、画像ムラなどの画質欠陥が生じ易くなる。
【0005】
そこで、導電性軸芯体の外周面上に表面粘着性を有する弾性層を設け、弾性層の外周面上に粒子を付着させた後、スプレー塗工法又は浸漬塗工法によって表面層を形成する方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1では、この方法により表面粗さを均一にできるとしている。
【0006】
また、従来から、表面層の膜厚の均一性を得るための方法が提案されている。例えば、現像ローラの場合、(1)感光体との均一な圧接幅を確保すること、(2)さらに電圧を印加してトナー像を感光体上に形成するために、均一な導電性や耐リーク性のあることが求められている。そして、上記(1)及び(2)のような特性を得るためには、表面層の膜厚を均一にすることが重要となってくる。そこで、通電性軸芯体上に電子導電剤やイオン導電剤等の導電剤を添加して所望の抵抗値に調整した弾性層を形成し、弾性層の外周面上に表面層を設けた現像ローラが用いられている。そして、この表面層はナイロン、ウレタン等の樹脂から形成されると共に、所望の耐磨耗性や表面粗さを確保するための樹脂粒子や導電性を確保するための導電剤が適宜、添加されている。また、現像ローラは、抵抗安定化や弾性層からのブリード成分の染み出しによる感光体汚染の防止のために、弾性層と表面層の間に抵抗調整層(中間層)を設ける場合がある。
【0007】
上記現像ローラの表面層を形成する場合、まず、結合樹脂および導電剤、表面粗さを確保するための樹脂粒子等の各種材料に溶剤を加え所望の粘度に調整した塗工液を作製する。なお、この際、必要な場合はビーズミル等の装置を用いて塗工液の分散を行なっても良い。そして、軸芯体の外周面上に設けた弾性層上にこの塗工液を塗工、乾燥することにより表面層を形成する。この塗工液を用いて表面層を形成する場合、均一な塗工膜を得ることに優れた浸漬塗工方法を用いることが多い。この浸漬塗工方法では、適切な粘度および比重に調整した表面層用の塗工液中に弾性層を設けた軸芯体を浸漬させる。この後、一定速度又は逐次変化する速度で該軸芯体を引き上げることにより弾性層の外周面上に、表面層用の塗工液を塗工することができる。
【特許文献1】特開2000−145758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、本来のローラの機能からは不要な表面粘着性を、弾性層の特性として付与する必要があった。また、弾性層の外周面上に均一に粒子を付着させる工程を追加する必要があり、生産設備の複雑化や不良品発生リスクの増加という問題が発生していた。更に、表面粗さの均一性にも問題があり、表面粗さを所望の範囲内に維持することが困難であった。
【0009】
また、上記現像ローラの製造方法は、以下の点で不十分であった。すなわち、現像ローラにおいては、表面層の膜厚が厚いとローラ硬度が高くなり、トナーフィルミング(長期使用によりトナーがローラ表面に固着する現象)発生の原因となる場合があった。このため、表面層の膜厚を10μm以下とすることで、ローラ硬度を適切な水準に調整して、長時間使用時のトナーフィルミング発生を抑制する必要があった。
【0010】
一方、現像ローラの表面層用の塗工液は、前述したように樹脂材料溶液中に導電剤や絶縁粒子といったフィラーを含んだものを用いることが多い。このため、表面層用の塗工液は、粘度を比較的高く調整してスラリー状とした方が安定であり、上記の浸漬塗工方法を用いた場合には塗工液中からローラを引き上げる速度を遅めにすることで塗工液の膜厚を10μm以下に調整していた。しかし、引き上げ速度の調整のみで、表面層用の塗工液の膜厚を均一にすることは難しかった。
【0011】
そこで、10μm以下の薄膜の表面層を得るためには、塗工液の粘度を低くすることが必要となる。このように塗工液の粘度を低くするためには、塗工液中の溶媒含量を増加させて非常に低い固形分濃度とする必要があった。しかしながら、このように低粘度の塗工液を用いた浸漬塗工方法を行うと、塗工液中から弾性層を設けた軸芯体を引き上げる際に、弾性層の外周面上に樹脂粒子を保持することができず、弾性層の外周面上から樹脂粒子が流れ落ちてしまっていた。この結果、弾性層の外周面の長手方向で樹脂粒子の分布が均一にならず、また表面層の膜厚も不均一になってしまうという問題があった。
【0012】
なお、上記では、現像ローラを用いた場合を例にとって説明した。しかし、その他の電子写真装置用ローラを用いた場合であっても、良好な特性を得るためには表面層を10μm以下の厚さとする必要があり、上記と同様の問題が生じていた。また、上記のように、電子写真装置用ローラにおいて所望の特性を有するためには、表面層の膜厚及び表面粗さの均一性が要望されていた。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、長手方向において膜厚および表面粗さが均一で、表面層が所定範囲の膜厚及び表面粗さを有する電子写真装置用ローラを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、
(1)3μm以上30μm以下の樹脂粒子を含有し、揮発性の溶媒中に15wt%以上25wt%以下の固形分を含有する表面層用の塗工液を準備する工程と、
(2)軸芯体の外周面上に弾性層を設けたローラを準備する工程と、
(3)一定の温度Aで粘度が3mPa・s以上10mPa・s以下となるように保った前記塗工液の浴中に、前記ローラを浸漬させる工程と、
(4)前記ローラの長手方向が鉛直方向と同じ方向となるようにしながら前記塗工液の浴中からローラを引き上げ、このローラの引き上げ時に前記弾性層の外周面上の塗工液に対して、前記塗工液の浴の液面よりも鉛直方向の上方の位置から気体を吹き付けて、前記弾性層の外周面上の塗工液中の前記溶媒の蒸気圧を温度Aにおける前記溶媒の飽和蒸気圧の1/10以下とする風乾工程と、
(5)前記ローラの弾性層の外周面上の塗工液に対して加熱硬化処理を行なうことにより表面層とする工程と、
を有することを特徴とする電子写真装置用ローラの製造方法に関する。
【0015】
また、本発明は、軸芯体と、前記軸芯体の外周面上に順に設けられた弾性層及び表面層と、を有する電子写真装置用ローラであって、
前記表面層は、下記条件(A)および(B)を満たすことを特徴とする電子写真装置用ローラに関する。
(A)膜厚が2μm以上10μm以下であり、膜厚の長手方向における最大値と最小値の差が1μm以下である、
(B)粗さ曲線の平均長さRSm(JIS B 0601−2001に準拠)が10μm以上300μm以下であり、RSmの長手方向における最大値と最小値の差が50μm以下である。
【発明の効果】
【0016】
長手方向において膜厚および表面粗さが均一で、所定範囲の膜厚及び表面粗さを有すると共に、良好な特性を有する電子写真装置用ローラを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(電子写真装置用ローラ)
本発明の電子写真装置用ローラは、軸芯体と、軸芯体の外周面上に設けられた弾性層、弾性層の外周面上に設けられた表面層と、を有する。この表面層は、下記条件(A)および(B)を満たす。
(A)膜厚が2μm以上10μm以下であり、膜厚の長手方向における最大値と最小値の差が1μm以下である。
(B)粗さ曲線の平均長さRSm(JIS B 0601−2001に準拠)が10μm以上300μm以下であり、RSmの長手方向における最大値と最小値の差が50μm以下である。
【0018】
本発明の電子写真装置用ローラは、上記(A)及び(B)のように、膜厚および表面粗さが所定範囲内に入っており、長手方向において均一であることにより、良好な特性を有することができる。
【0019】
より具体的には、電子写真装置用ローラを帯電ローラとして使用した場合には、感光体への接触性が良好となり、感光体の長手方向に均一に帯電させることができる。また、感光体との接触時に帯電ローラの一部に過度に荷重がかかることがなく、良好な耐久性を有することができる。
【0020】
電子写真装置用ローラを転写ローラとして使用した場合には、感光体等のローラ状のものと転写ローラとで、長手方向に対して良好なニップ状態を形成することができる。この結果、トナー像の記録紙上への転写性を良好なものとすることができる。
【0021】
電子写真装置用ローラをクリーニングローラとして使用した場合には、感光体への接触性が良好となるため、感光体の長手方向に対して均一にトナーを除去することができる。この結果、トナーの除去残しなどが発生しない。
【0022】
電子写真装置用ローラを除電ローラとして使用した場合には、感光体への接触性が良好となるため、感光体から均一な除電を行なうことができる。この結果、後の帯電工程において、所望の静電潜像を感光体に帯電させることができる。
【0023】
電子写真装置用ローラを現像ローラとして使用した場合には、長時間使用時のトナーフィルミングの発生を抑制できると共に、耐久性を向上させることができる。
【0024】
以下に、本発明の実施形態を、図を用いてより詳細に説明する。なお、材料の配合量や使用量等を記載するために使用する「部」とは質量部を示す。本発明の電子写真装置用ローラは例えば、現像ローラ、帯電ローラ、転写ローラ、クリーニングローラ、除電ローラ等、被接触物を電気的にコントロールするローラに対して使用することができる。
【0025】
図1は本発明の電子写真装置用ローラの一例を表す斜視図、図2は図1のローラを長手方向に垂直な断面で見た断面図である。図1及び2に示されるように、電子写真装置用ローラは軸芯体2と、軸芯体の外周面上に弾性層3、弾性層3の外周面上に表面層4が設けられている。
【0026】
表面層の膜厚は2μm以上10μm以下とする必要があるが、場合によっては1μm以上15μm以下とすることができる。また、表面層の膜厚の長手方向における最大値と最小値の差は1μm以下とする必要があるが、場合によっては2μm以下とすることができる。表面層の膜厚及び膜厚の最大値と最小値の差がこれらの範囲内にあることによって、本発明の電子写真装置用ローラは優れた特性を有することができる。
【0027】
表面層の粗さ曲線の平均長さRSmは10μm以上300μm以下とする必要がある。また、RSmは20μm以上200μm以下が好ましい。また、表面層のRSmの長手方向における最大値と最小値の差は、50μm以下とする必要があるが、場合によっては80μm以下とすることができる。表面層のRSm及びRSmの最大値と最小値の差がこれらの範囲内にあることによって、本発明の電子写真装置用ローラは優れた特性を有することができる。
【0028】
この軸芯体2としては、鉄、銅、ステンレス、アルミニウムおよびニッケル等の金属材料の丸棒を用いることができる。軸芯体2の表面には、防錆や耐傷性付与を目的としてメッキ処理を施しても構わないが、導電性を損なわないようにすることが好ましい。
【0029】
弾性層3は、天然ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、ネオプレンゴム、イソプレンゴム、ニトリルブタジエンゴム(NBR)等のゴム材料に、必要に応じて導電性微粒子を添加したものを用いることができる。また、必要に応じて、導電性ゴム等を用いることができる。この場合、硬さ、圧縮永久歪みを考慮すると、ゴム材料としては、付加反応型導電性シリコーンゴムを用いることが好ましい。また、弾性層の厚みは通常、1mm以上6mm以下とすることが好ましい。
【0030】
また、表面層4は、弾性層(複数の弾性層を有する場合には最も外側の弾性層)の外周面上に、これに接するように形成される。この表面層4は、弾性層3中に含有される軟化油や可塑剤等の成分が現像剤担持部材の表面へブリードアウトすることを防止したり、現像剤担持部材全体の電気抵抗を調製する目的で設けられる。
【0031】
表面層4用の樹脂材料としては、ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。また、表面層4中には静摩擦係数を小さくする目的でグラファイト、雲母、二硫化モリブデン及びフッ素樹脂粉末等の固体潤滑材、或いはフッ素系界面活性剤、ワックスまたはシリコーンオイル等を添加しても良い。
【0032】
更に、表面層4は、所望の場合には現像剤担持部材全体の電気抵抗を調整する目的のため、導電性微粒子を含むことが好ましい。この導電性微粒子としては、各種電子伝導機構を有する導電剤として、カーボンブラック、グラファイト、導電性金属酸化物、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉等を用いることができる。また、イオン導電剤として、アルカリ金属塩およびアンモニウム塩を用いることができる。なお、これらの導電剤は2種以上を併用しても良い。導電剤の添加量は、樹脂材料100部に対して5部以上200部以下、添加することが好ましい。導電剤の添加量を5部以上とすることにより表面層に所望の導電性を付与することができる。また、導電剤の添加量を200部以下とすることにより、表面層の導電性を容易にコントロールすることが可能となる。導電剤の添加量は、樹脂材料100部に対して15部以上30部以下がより好ましい。
【0033】
また、好適には、表面層4中には、耐磨耗性やトナー搬送性を得るために表面粗さを付与する樹脂粒子を添加する。この樹脂粒子は平均粒径が3μm以上30μm以下となっている。このような平均粒径の樹脂粒子を用いることによって表面層のRSmを10μm以上300μm以下に制御することができる。この樹脂粒子としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン等の材質によって構成された球状樹脂粒子を用いることが好ましい。この球状樹脂粒子は使用する溶剤により膨潤や溶解が起こらないことが要求される。また、この粒子としては、表面層用の塗工液中に使用する溶剤により膨潤や溶解が起こらないものが好ましい。
【0034】
なお、上記構成(A)及び(B)を有する表面層を形成するためには、下記の工程により電子写真装置用ローラを製造することが好ましい。
(1)3μm以上30μm以下の樹脂粒子を含有し、揮発性の溶媒中に15wt%以上25wt%以下の固形分を含有する表面層用の塗工液を準備する工程、
(2)軸芯体の外周面上に弾性層を設けたローラを準備する工程、
(3)一定の温度Aで粘度が3mPa・s以上10mPa・s以下となるように保った塗工液の浴中に、ローラを浸漬させる工程、
(4)ローラの長手方向が鉛直方向と同じ方向となるようにしながら塗工液の浴中からローラを引き上げ、このローラの引き上げ時に弾性層の外周面上の塗工液に対して、塗工液の浴の液面よりも鉛直方向の上方の位置から気体を吹き付けて、弾性層の外周面上の塗工液中の揮発性の溶媒の蒸気圧を温度Aにおける揮発性の溶媒の飽和蒸気圧の1/10以下とする風乾工程と、
(5)ローラの弾性層の外周面上の塗工液に対して加熱硬化処理を行なうことにより表面層とする工程。
【0035】
工程(4)では、弾性層の外周面上の塗工液に対して気体を吹き付け、弾性層の外周面上の塗工液中の揮発性の溶媒の蒸気圧を、温度Aにおける揮発性の溶媒の飽和蒸気圧の1/10以下とする。これにより、効果的に弾性層の外周面上の塗工液を乾燥できる。この結果、ローラの引き上げ時の弾性層の外周面上の塗工液の液だれや液膜の不均一化を防止することができる。また、上記(A)及び(B)のような膜厚及び表面粗さが長手方向に対して均一で所望の範囲内に入る表面層を形成することができる。なお、上記工程(1)〜(5)で使用する材料、方法としては、下記(電子写真装置用ローラの製造方法)欄に記載の工程(1)〜(5)で使用する材料、方法と同様のものを用いることができる。
【0036】
(電子写真装置用ローラの製造方法)
本発明の電子写真装置用ローラの製造方法は、以下の工程を有する。
(1)3μm以上30μm以下の樹脂粒子を含有し、揮発性の溶媒中に15wt%以上25wt%以下の固形分を含有する表面層用の塗工液を準備する工程、
(2)軸芯体の外周面上に弾性層を設けたローラを準備する工程、
(3)一定の温度Aで粘度が3mPa・s以上10mPa・s以下となるように保った塗工液の浴中に、ローラを浸漬させる工程、
(4)ローラの長手方向が鉛直方向と同じ方向となるようにしながら塗工液の浴中からローラを引き上げ、このローラの引き上げ時に弾性層の外周面上の塗工液に対して、塗工液の浴の液面よりも鉛直方向の上方の位置から気体を吹き付けて、弾性層の外周面上の塗工液中の前記溶媒の蒸気圧を温度Aにおける前記溶媒の飽和蒸気圧の1/10以下とする風乾工程と、
(5)ローラの弾性層の外周面上の塗工液に対して加熱硬化処理を行なうことにより表面層とする工程。
【0037】
まず、上記工程(1)では、3μm以上30μm以下の樹脂粒子を含有し、揮発性の溶媒中に15wt%以上25wt%以下の固形分を含有する表面層用の塗工液を準備する。この工程(1)では、3μm以上30μm以下の樹脂粒子を含有することによって、容易に表面層の膜厚を2μm以上10μm以下とすると共に、膜厚のバラツキを少なくすることができる。また、製造後の電子写真装置用ローラを電子写真装置内で使用した場合に、所望の安定した特性を発現させることができる。例えば、電子写真装置用ローラを現像ローラとして使用した場合には、ローラ硬度を適切な水準に調整して、長時間使用時のトナーフィルミング発生を抑制することができる。更に、揮発性の溶媒中の固形分を15wt%以上25wt%以下とすることによって、工程(3)で塗工液の粘度を3mPa・s以上10mPa・s以下に調整しやすくなる。
【0038】
この樹脂粒子は、耐磨耗性やトナー搬送性を得るための所望の表面粗さを付与する目的で塗工液中に添加する。この樹脂粒子としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン等の材質によって構成された球状樹脂粒子を用いることが好ましい。この樹脂粒子は典型的には絶縁性を示す。この球状樹脂粒子は、使用する溶剤により膨潤や溶解が起こらないことが要求される。また、この粒子としては、表面層用の塗工液中に使用する溶剤により膨潤や溶解が起こらないものが好ましい。
【0039】
樹脂粒子の平均粒径は3μm以上30μm以下とする必要があるが、4μm以上20μm以下とすることが好ましい。また、塗工液中の固形分含量は15wt%以上25wt%以下とする必要があるが、場合によっては10wt%以上30wt%以下とすることができる。樹脂粒子の平均粒径及び塗工液中の固形分含量がこれらの範囲内にあることによって、製造後の表面層の表面粗さ及び塗工液の粘度を所望の範囲に制御しやすくなる。
【0040】
この表面層用の塗工液は、表面層用の材料を、揮発性の溶媒中に添加した後、適宣、希釈することによって調製することができる。塗工液の具体的な調製方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、表面層用の材料を有機溶剤や水等の溶剤中に添加、攪拌して、各成分を均一に混合した後、これを適宣、希釈して塗工液を調製することができる。また、この調製過程において表面層用の材料の粉砕を行う場合には、ボールミル、サンドミルまたは振動ミル等を用いることができる。
【0041】
表面層4用の樹脂材料としては、ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。また、表面層4中には静摩擦係数を小さくする目的でグラファイト、雲母、二硫化モリブデン及びフッ素樹脂粉末等の固体潤滑材、或いはフッ素系界面活性剤、ワックスまたはシリコーンオイル等を添加しても良い。
【0042】
更に、表面層4は、所望の場合には現像剤担持部材全体の電気抵抗を調整する目的のため、導電剤を含むことが好ましい。この導電剤としては、各種電子伝導機構を有する導電剤として、カーボンブラック、グラファイト、導電性金属酸化物、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉等を用いることができる。また、イオン導電剤として、アルカリ金属塩およびアンモニウム塩を用いることができる。なお、これらの導電剤は2種以上を併用しても良い。導電剤の添加量は、樹脂材料100部に対して5部以上200部以下、添加することが好ましい。導電剤の添加量を5部以上とすることにより表面層に所望の導電性を付与することができる。また、導電剤の添加量を200部以下とすることにより、表面層の導電性を容易にコントロールすることが可能となる。導電剤の添加量は、樹脂材料100部に対して15部以上30部以下がより好ましい。
【0043】
塗工液用の揮発性の溶媒としては、例えば、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、トルエン等の芳香族類を用いることができる。また、これ以外にも揮発性の溶媒としては、酢酸エチル等のエステル類、テトラヒドロフラン等のエーテル類等を用いることができるが、特に、これらの溶媒に限定されるわけではない。揮発性の溶媒の20℃における飽和蒸気圧は、10Torr以上であることが好ましい。溶媒がこのように高い揮発性を有することにより、工程(4)で塗工液の浴からのローラの引き上げ時に、より短時間で塗工膜近傍の溶媒の蒸気圧を低下させることができる。
【0044】
このように塗工液用の溶媒として揮発性のものを用いることにより、工程(4)で塗工液の浴から引き上げ時に弾性層の外周面上の塗工液に対して気体を吹き付けることにより、塗工膜近傍の溶媒の蒸気圧を十分に低下させることができるようになる。この結果、引き上げ後に、弾性層の外周面上の塗工液を容易に風乾状態にすることができ、本発明の効果を十分に奏することができる。
【0045】
次に、工程(2)では、軸芯体の外周面上に弾性層を設けたローラを準備する。この弾性層は、公知の方法、例えば、液状ゴム材料(例えば、付加反応架橋型液状シリコーンゴム等の液状ゴム材)を成形型に注入して加硫硬化する方法により形成することができる。また、この方法以外にもゴム材料を押し出し成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成することができる。なお、加硫硬化は、公知の方法にしたがって行えばよく、加硫硬化条件は、用いるゴム材料等に応じて適宜、定めれば良い。
【0046】
次に、工程(3)では、一定の温度Aで粘度が3mPa・s以上10mPa・s以下となるように保った塗工液の浴中に、ローラを浸漬させる浸漬塗工方法を用いることにより、弾性層の外周面上に表面層用の塗工液を塗工する。この浸漬塗工方法を用いることにより、均一な塗工膜を得ることができる。また、この際、塗工液の浴を一定温度Aに保つと共に、塗工液の粘度を3mPa・s以上10mPa・s以下とすることにより、後の工程で表面層の膜厚を2μm以上10μm以下に制御することが可能となる。
【0047】
塗工液の粘度は3mPa・s以上10mPa・s以下とする必要があるが、場合によっては2mPa・s以上15mPa・s以下とすることができる。塗工液の粘度をこれらの範囲内に調節することによって、工程(4)で塗工液の浴からローラを引き上げた際に、弾性層の外周面上から塗工液が流れ落ちにくくなる。
【0048】
次に、工程(4)では、ローラの長手方向が鉛直方向と同じ方向となるようにしながら塗工液の浴中からローラを引き上げる。そして、このローラの引き上げ時に弾性層の外周面上の塗工液に対して、塗工液の浴の液面よりも鉛直方向の上方の位置から気体を吹き付ける。これにより、弾性層の外周面上の塗工液中の揮発性の溶媒の蒸気圧を、温度Aにおける揮発性の溶媒の飽和蒸気圧の1/10以下とする(風乾工程)。このようにローラの引き上げ方向を、ローラの長手方向が鉛直方向と同じ方向となるようにすることにより、弾性層の外周面上から表面層用の塗工液が流れ落ちるのを効果的に防止することができる。また、ローラの引き上げと同時に、気体の吹き付けにより、弾性層の外周面上の塗工液中の揮発性の溶媒の蒸気圧を、温度Aにおける揮発性の溶媒の飽和蒸気圧の1/10以下とする。これによって、弾性層の外周面上の塗工液を風乾状態とすると共に、塗工液中の樹脂粒子等の固形分含量を大きくして塗工液の粘度を短時間で大幅に高くすることができる。この結果、弾性層の外周面上から、塗工液中の固形分が流れ落ちるのを防止することができる。また、ローラの引き上げ時には、ローラ外周面上のどの位置においても常に同じ条件で気体が吹きつけられるため、塗工液が流れ落ちることによる表面層の膜厚のバラツキが小さくなる。この結果、最終的に製造した表面層の膜厚の長手方向における最大値と最小値の差を1μm以下とすることができる。また、最終的に製造した表面層の粗さ曲線の平均長さRSmを10μm以上300μm以下とし、RSmの長手方向における最大値と最小値の差が50μm以下とすることができる。
【0049】
この工程(4)で、ローラに対して吹きつける気体の種類は、特に限定されるわけではないが、ゴミ・ケバ防止の観点より、クリーンエアーを用いることが好ましい。この気体の吹きつけには、塗工液の浴の上方の位置に設けられた送風ノズルを用いることが好ましい。この送風ノズルの先端の位置は、鉛直方向に関して、塗工液の浴の液面よりも1mm以上10mm以下、上方の位置であることが好ましい。送風ノズルの先端の位置を塗工液の浴の液面よりも1mm以上、上方の位置とすることによって、ローラに当たった気体が塗工液の浴の液面を乱して色ムラなどの表面層の塗工欠陥となることを防止することができる。また、送風ノズルの先端を塗工液の浴の液面よりも上方の10mm以下に位置させることによって、気体の吹きつけによる弾性層の外周面上の塗工液の蒸気圧を効果的に低下させることができる。この結果、弾性層の外周面上から塗工液が流れ落ちるのを効果的に防止することができる。
【0050】
送風ノズルの形状は、リング状であって、送風ノズルの内直径が弾性層の外直径よりも大きいことが好ましい。これにより、送風ノズルの内側にローラを挿入した状態で、気体をローラに吹きつけることができる。このような送風ノズルとしては、送風ノズルの内側に向けて周方向に1つ以上設けた気体吹き付け口を有するものを挙げることができる。また、乾燥手段の内側に向けて周方向に全周にわたって開口する環状スリット状の気体吹き付け口を有する送風ノズルを挙げることができる。なお、塗工ムラとなりにくい塗工液を使用する場合には、ローラの周方向に円筒状の気体吹き付けノズルを有する送風ノズルであっても良い。ただし、塗工液が塗工された部分に円周方向に極力、均一に気体を吹きつけることが好ましいため、環状スリット状の気体吹き付けノズルを有する送風ノズルを使用することが好ましい。
【0051】
リング状の送風ノズルを用いた気体の吹き付け方法の一例を図3に示す。図3(a)に示すように、リング状の送風ノズル5を固定し、塗工液の浴6から鉛直方向(矢印方向)に引き上げたローラ1を、この送風ノズル5の内側を通す。図3(b)は、この送風ノズル5の鉛直方向と平行な断面の断面図を表す。図3(b)に示すように、このローラ1が送風ノズル5の内側を通る際に、送風ノズル5の内側の周方向に配置されたノズルから気体を吹き付ける。また、このローラ1は、鉛直方向(矢印方向)へ引き上げられるため、弾性層の外周面上の塗工液その長手方向に対して順次、気体が吹き付けられることとなる。
【0052】
さらに、送風ノズルから吹き付ける気体は、ローラ表面近傍の塗工液の蒸気圧を低下させるのに十分な風量を送ることが好ましい。具体的には、吹き付ける気体の風速を0.01m/s以上0.1m/s以下とすることが好ましい。0.01m/s以上の風速で気体を吹き付けることによって、弾性層の外周面上の塗工液中の揮発性の溶媒の蒸気圧を、温度Aにおける揮発性の溶媒の飽和蒸気圧の1/10まで下げることが容易となる。一方、気体の風速が0.01m/s未満であると、風量が少ないため、塗工液の蒸気圧を十分に低下させることができず、本発明の効果を十分に奏することができない可能性がある。また、気体の風速を0.1m/s以下とすることにより、ローラ表面にあたる気体が、引き上げ直後のローラの弾性層の外周面上の塗工液の膜を乱して、表面層の膜厚が不均一となることを防止することができる。
【0053】
この工程(4)では、ローラの弾性層の外周面上の塗工液と気体との温度差である(塗工液の温度)−(気体の温度)が、−3℃以上3℃以下であることが好ましい。このように温度差が−3℃以上3℃以下であることにより、気体の吹き付けによって弾性層の外周面上の塗工液の温度が急激に変化し、粘度の急激な変化が発生することを防止することができる。また、弾性層の外周面上の塗工液に不均一な温度分布が生じることを防止することができる。この結果、表面層の膜厚ムラを防止することができる。
【0054】
次に、工程(5)では、ローラの弾性層の外周面上の塗工液に対して加熱硬化処理を行なうことにより表面層を形成する。この加熱硬化処理の方法としては、公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下に、具体的な実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるわけではない。
【0056】
(実施例1)
下記の要領で現像ローラを作製した。
【0057】
「導電性弾性層の作製」
外径φ6mmの鉄製軸芯体(通電性軸芯体)を、内径φ12mmの円筒状金型内に同心となるように設置し、該円筒状金型内に液状導電性シリコーンゴム(東レダウコーニング社製;体積固有抵抗107Ωcm)を注型した。この後、この円筒状金型を140℃のオーブンに入れて5分間、加熱成型した。この円筒状金型からローラを脱型した後、200℃のオーブンで4時間、二次硬化をおこない、軸芯体の外周面上に厚み3mm、長さ240mmの導電性弾性層を有するローラを得た。
【0058】
「表面層用塗工液の調製」
下記原料にメチルエチルケトンを加え、ビーズミルで十分、分散させて分散液を得た。
ポリウレタンポリオール 100質量部
(商品名:ニッポランN5033、日本ポリウレタン社製)
イソシアネート 40質量部
(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製)
カーボンブラック 23質量部
(商品名:MA77、三菱化学社製)
樹脂粒子 45質量部
(粒径6μm;商品名:アートパールC800、根上工業社製)。
【0059】
上記分散液に対してさらにメチルエチルケトンを加えて十分、混合し、固形分含量21wt%の表面層用塗工液を調製した。回転式粘度計(VISMETRON VDA;芝浦システム製)を用いて、No.1ロータ、回転速度60rpm、測定温度20±1℃の条件で、この表面層用塗工液の粘度を測定したところ、6mPa・sであった。
【0060】
「表面層の形成」
上記のようにして調製した塗工液を温度20±1℃に保った塗工槽内に満たして塗工液の浴とした。次に、この塗工液の浴の液面に対して、弾性層を有するローラを、該ローラの長手方向が鉛直方向(液面に対して垂直方向)となるように保持しながら、鉛直方向に10mm/sの速度で降下させ、塗工液の浴中に浸漬させた。そして、この塗工液の浴の最下点までローラが降下してから、10秒間停止させた後に、ローラの長手方向が鉛直方向と同じ方向となるようにしながらローラを引き上げた。このローラの引き上げ速度は、弾性層の最下端が塗工液の浴内にあるときは300mm/min、弾性層の最下端が塗工液の浴外にあるときは200mm/minとなるように調整した。また、ローラの引き上げ開始と同時に、塗工液の浴の液面に対して鉛直方向の上方、5mmの位置に設けた送風ノズルより、クリーンエアーを風速0.05m/sで吹きつけ、ローラの弾性層の外周面上の塗工液中の揮発性の溶媒の蒸気圧を低下させた。この際、ローラの弾性層の外周面上の塗工液中の揮発性の溶媒の蒸気圧を、温度20℃における揮発性の溶媒の飽和蒸気圧の1/10以下とした。
【0061】
すなわち、ローラの弾性層の外周面上の塗工液中の揮発性の溶媒の蒸気圧は、ローラの引き上げ中に送風ノズル近傍のメチルエチルケトン濃度を測定することにより測定した。具体的には、メチルエチルケトンの蒸気を、ガス濃度検知管(メチルエチルケトン用 光明理化学工業社製)により測定した。このときのメチルエチルケトンの蒸気濃度は、約0.5%で、メチルエチルケトンの20℃における飽和蒸気濃度(約11%)の1/10以下であった。気体においては濃度と分圧は比例するため、ローラの弾性層の外周面上の塗工液中の揮発性の溶媒の蒸気圧は、温度20℃における揮発性の溶媒の飽和蒸気圧の1/10以下となっていることを確認できた。この後、このローラを140℃のオーブンに入れて、4時間加熱硬化させて表面層を形成することにより、最終的に現像ローラを得た。
【0062】
(実施例2)
塗工液の浴の液面に対して鉛直方向の上方、10mmの位置に設けた送風ノズルよりクリーンエアーを吹きつけた。これ以外は、実施例1と同様にして、塗工液の調整、塗工液の浴中へのローラの浸漬・引き上げ、クリーンエアーの吹き付け、塗工液の加熱硬化を行い、現像ローラを得た。引き上げ時のメチルエチルケトンの蒸気濃度は約0.5%で、メチルエチルケトンの20℃における飽和蒸気濃度(約11%)の1/10以下であった。
【0063】
(実施例3)
粘度が10mPa・s、固形分濃度が25wt%となるようにメチルエチルケトンの添加量を調整した。また、送風ノズルより、クリーンエアーを風速0.01m/sで吹きつけた。これ以外は、実施例1と同様にして、塗工液の浴中へのローラの浸漬・引き上げ、クリーンエアーの吹き付け、塗工液の加熱硬化を行い、現像ローラを得た。引き上げ時のメチルエチルケトンの蒸気濃度は、約1.0%で、メチルエチルケトンの20℃における飽和蒸気濃度(約11%)の1/10以下であった。
【0064】
(実施例4)
塗工液の浴の液面に対して鉛直方向の上方、1mmの位置に設けた送風ノズルよりクリーンエアーを風速0.1m/sで吹きつけた。これ以外は、実施例1と同様にして、塗工液の調整、塗工液の浴中へのローラの浸漬・引き上げ、クリーンエアーの吹き付け、塗工液の加熱硬化を行い、現像ローラを得た。引き上げ時のメチルエチルケトンの蒸気濃度は、約0.2%で、メチルエチルケトンの20℃における飽和蒸気濃度(約11%)の1/10以下であった。
【0065】
(実施例5)
粘度が3mPa・s、固形分濃度が16wt%となるようにメチルエチルケトンの添加量を調整した。これ以外は、実施例1と同様にして、塗工液の浴中へのローラの浸漬・引き上げ、クリーンエアーの吹き付け、塗工液の加熱硬化を行い、現像ローラを得た。引き上げ時のメチルエチルケトンの蒸気濃度は、約0.5%で、メチルエチルケトンの20℃における飽和蒸気濃度(約11%)の1/10以下であった。
【0066】
(比較例1)
塗工液の浴からローラを引き上げる際に、送風ノズル5よりクリーンエアーの吹きつけを行わなかった。これ以外は、実施例1と同様にして、塗工液の調整、塗工液の浴中へのローラの浸漬・引き上げ、塗工液の加熱硬化を行い、現像ローラを得た。引き上げ時のメチルエチルケトンの蒸気濃度は、検知管の測定限界(約5%)を振り切ってしまい、測定できなかった。
【0067】
(比較例2)
粘度が10mPa・s、固形分濃度が25wt%となるようにメチルエチルケトンの添加量を調整した。また、塗工液の浴からローラを引き上げる際に、送風ノズル5よりクリーンエアーの吹きつけを行わなかった。これ以外は、実施例1と同様にして、塗工液の浴中へのローラの浸漬・引き上げ、塗工液の加熱硬化を行い、現像ローラを得た。引き上げ時のメチルエチルケトンの蒸気濃度は、検知管の測定限界(約5%)を振り切ってしまい、測定できなかった。
【0068】
(比較例4)
粘度が3mPa・s、固形分濃度が16wt%となるようにメチルエチルケトンの添加量を調整した。また、塗工液の浴からローラを引き上げる際に、送風ノズル5よりクリーンエアーの吹きつけを行わなかった。これ以外は、実施例1と同様にして、塗工液の浴中へのローラの浸漬・引き上げ、塗工液の加熱硬化を行い、現像ローラを得た。引き上げ時のメチルエチルケトンの蒸気濃度は、検知管の測定限界(約5%)を振り切ってしまい、測定できなかった。
上記実施例1〜5、比較例1〜3のローラの製造条件を下記表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
上記実施例1〜5、比較例1〜3の方法によって得られた現像ローラについて、以下の測定を行った。
【0071】
(ローラ外観)
以上のような方法で現像ローラを30本ずつ作成し、表面を目視にて観察し、色ムラや塗工スジの欠陥の発生数を調査し、欠陥が認められなかったものを「○」、欠陥がみとめられるものを「×」とした。
【0072】
(表面層のRSm)
ローラの上部、下部(表面層の長手方向の端部から20mmだけ中央側の位置)、および長手方向の中央部分の3点について、キーエンス社製超深度形状測定顕微鏡VK−8510を用いて、RSmの測定を行った。なお、RSmの測定は、JIS B 0601―2001(粗さ曲線の平均長さ)に準拠した。また、RSmのデータは、ローラ3本の平均値を用いた。そして、このように測定した3点についてRSmの最大値と最小値の差、及び3点の平均値を計算した。
【0073】
(表面層の膜厚)
ローラの上部、下部(表面層の長手方向の端部から20mmだけ中央側の位置)、および長手方向の中央部分の3点について、表面層の表面に対して垂直方向にカッターを入れて切り出した。そして、切り出した表面層の断面を倍率2000倍の顕微鏡で拡大して、表面層の膜厚を実測した。なお、膜厚のデータは、ローラ3本の平均値を用いた。また、このように測定した3点について膜厚の最大値と最小値の差、及び3点の平均値を計算した。
上記ローラ外観、表面層のRSm・膜厚の測定結果を下記表2及び3に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
実施例1〜5はすべて本発明の電子写真装置用ローラであり、表2に示すように、目視で確認できる欠陥がなくローラ外観が「○」であった。また、表2及び3に示すように、膜厚及びRSmの長手方向における最大値と最小値の差がそれぞれ、1μm以下、50μm以下となっており、長手方向において膜厚および表面粗さが均一な現像ローラが得られたことが分かる。
【0077】
これに対して、比較例1では、塗工液の浴からローラを引き上げる際に、送風ノズルよりクリーンエアーの吹きつけを行わなかった。このため、風乾状態になるまでに弾性層の外周面上の塗工液中に粒子等の固形分を保持できず、RSmの最大値と最小値の差が44μmと比較的、大きな値となった。また、塗工液の浴から引き上げ後、弾性層の外周面上の塗工液が長時間、低粘度であったため、塗工液のずれ落ちによる液ダレが発生して、膜厚の最大値と最小値の差が1.9μmとなり、膜厚もある程度のバラツキが発生した。このように表面粗さのムラが生じた現像ローラは、セット性(他部材との接触においての当接跡に差が出ること)、トナー搬送性が不均一となり、実用上、問題がある。
【0078】
比較例2では、実施例1の製造工程において、塗工液の粘度を10mPa・s、固形分濃度が25wt%にすると共に、塗工液の浴からローラを引き上げる際に、送風ノズルよりクリーンエアーの吹きつけを行わなかった。この結果、比較例2では「ローラ外観」が「○」となったものの、膜厚が10μmを超えたため、実用上、電子写真装置用ローラとして使用することが困難であった。
【0079】
比較例3では、実施例1の製造工程において、塗工液の粘度を3mPa・s、固形分濃度が16wt%にすると共に、塗工液の浴からローラを引き上げる際に、送風ノズルよりクリーンエアーの吹きつけを行わなかった。このため、塗工液の浴から引き上げたローラの外周面上の塗工液内に粒子を保持できず、RSmのバラツキが71μmと大きくなった。また、塗工膜のずれ落ちによる液ダレが発生したことにより、膜厚のバラツキが大きくなった。また、比較例1と比べて塗工液が更に低粘度となったため、膜厚、RSmのバラツキがともに大きくなった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】電子写真装置用ローラの一例の概略斜視図である。
【図2】電子写真装置用ローラの一例の断面図である。
【図3】本発明の電子写真装置用ローラの製造方法の一例における風乾工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0081】
1 電子写真装置用ローラ
2 軸芯体
3 弾性層
4 表面層
5 送風ノズル
6 塗工液の浴
7 昇降機
8 送風方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)3μm以上30μm以下の樹脂粒子を含有し、揮発性の溶媒中に15wt%以上25wt%以下の固形分を含有する表面層用の塗工液を準備する工程と、
(2)軸芯体の外周面上に弾性層を設けたローラを準備する工程と、
(3)一定の温度Aで粘度が3mPa・s以上10mPa・s以下となるように保った前記塗工液の浴中に、前記ローラを浸漬させる工程と、
(4)前記ローラの長手方向が鉛直方向と同じ方向となるようにしながら前記塗工液の浴中からローラを引き上げ、このローラの引き上げ時に前記弾性層の外周面上の塗工液に対して、前記塗工液の浴の液面よりも鉛直方向の上方の位置から気体を吹き付けて、前記弾性層の外周面上の塗工液中の前記溶媒の蒸気圧を温度Aにおける前記溶媒の飽和蒸気圧の1/10以下とする風乾工程と、
(5)前記ローラの弾性層の外周面上の塗工液に対して加熱硬化処理を行なうことにより表面層とする工程と、
を有することを特徴とする電子写真装置用ローラの製造方法。
【請求項2】
前記工程(4)において、
前記弾性層の外周面上の塗工液と前記気体との温度差である(塗工液の温度)−(気体の温度)が、−3℃以上3℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真装置用ローラの製造方法。
【請求項3】
前記工程(4)において、
前記塗工液の浴の液面よりも鉛直方向の上方の1mm以上10mm以下の位置から、前記弾性層の外周面上の塗工液に対して気体を吹きつけることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真装置用ローラの製造方法。
【請求項4】
前記揮発性の溶媒の20℃における飽和蒸気圧が、10Torr以上であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の電子写真装置用ローラの製造方法。
【請求項5】
軸芯体と、前記軸芯体の外周面上に順に設けられた弾性層及び表面層と、を有する電子写真装置用ローラであって、
前記表面層は、下記条件(A)および(B)を満たすことを特徴とする電子写真装置用ローラ。
(A)膜厚が2μm以上10μm以下であり、膜厚の長手方向における最大値と最小値の差が1μm以下である、
(B)粗さ曲線の平均長さRSm(JIS B 0601−2001に準拠)が10μm以上300μm以下であり、RSmの長手方向における最大値と最小値の差が50μm以下である。
【請求項6】
(1)3μm以上30μm以下の樹脂粒子を含有し、揮発性の溶媒中に15wt%以上25wt%以下の固形分を含有する表面層用の塗工液を準備する工程と、
(2)軸芯体の外周面上に弾性層を設けたローラを準備する工程と、
(3)一定の温度Aで粘度が3mPa・s以上10mPa・s以下となるように保った前記塗工液の浴中に、前記ローラを浸漬させる工程と、
(4)前記ローラの長手方向が鉛直方向と同じ方向となるようにしながら前記塗工液の浴中からローラを引き上げ、このローラの引き上げ時に前記弾性層の外周面上の塗工液に対して、前記塗工液の浴の液面よりも鉛直方向の上方の位置から気体を吹き付けて、前記弾性層の外周面上の塗工液中の前記溶媒の蒸気圧を温度Aにおける前記溶媒の飽和蒸気圧の1/10以下とする風乾工程と、
(5)前記ローラの弾性層の外周面上の塗工液に対して加熱硬化処理を行なうことにより表面層とする工程と、
により製造されたことを特徴とする請求項5に記載の電子写真装置用ローラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−294354(P2009−294354A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146695(P2008−146695)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】