説明

電子天びん

【課題】測定中でのデータの平滑化時間の変更が可能な電子天びんを提供する。
【解決手段】荷重検出部1からの電気信号をA/D変換器2により荷重測定データに変換し、この荷重測定データを処理装置5により平滑化、重量変換および表示装置7への表示処理を行うとともに、外部記憶媒体3に平滑化時間およびその変更条件からなる平滑化処理構築データを記録しておき、これを読取装置4に接続して読み取り、平滑化処理プログラムを構築し記憶装置6に記憶し、この平滑化処理プログラムにより平滑化処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子天びんに関し、特に使用環境に適した平滑化処理機能を有する電子天びんに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子天びんにおいては荷重−電気変換部のアナログ出力をA/D変換器により所定時間Tごとにサンプリングして数値化しているが、この時系列データ{Xn}が外部環境によって発生するノイズの影響を受けて変動するため、一般に平滑化処理が適用されている。この平滑化処理には、一般に(1)式に示す移動平均フィルタが用いられ、時系列
データ{Xn}は時系列データ{Yn}に変換されている。
【数1】

上式において平滑化処理に必要なデータ数kを多くすることにより応答時間(平滑化時間)も長くなるが、平滑化処理後のデータのばらつきが小さくなり測定精度が向上する。
また、ノイズの影響を低減して測定精度を向上させるものとして、特開平6−109526号公報等に開示されている高次平滑化処理を行うディジタルフィルタも多く用いられている。これらの平滑化処理を行う場合のデータ数は、使用用途や使用環境下に応じて数種類選択可能にしたものもあるが、多くは固定して用いられている。
【特許文献1】特開6−109526号公報
【特許文献2】特公平7−15405号公報
【特許文献3】特公平6−76908号公報
【特許文献4】特公平7−15404号公報
【特許文献5】特公平6−95040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の電子天びんにおいては、上記のような平滑化処理が適用されているが、平滑化処理手段や平滑化処理データ数が固定されていたり、数種類の選択に制限されているため、この限られた平滑化処理では使用者の様々な要求や使用環境に適さない場合もあり、適切な精度、応答性での測定を行うことができず、測定結果の信頼性を低下させたり作業効率を低下させる原因にもなっている。このため、移動平均フィルタのデータ数を入力キーなどで任意に入力する方法も考えられるが、小形電子天びんでは、入力キーを増設するスペースがとれないという問題がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、必要とする測定精度や応答時間に適した平滑化処理を選択することができる電子天びんを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するため、本発明の電子天びんは、皿上荷重を電気信号に変換し、その電気信号を所定時間ごとにA/D変換した時系列データを平滑化し、得られた時系列データを演算処理して荷重値を表示する電子天びんにおいて、外部記憶媒体を接続する記憶媒体接続手段と、前記記憶媒体に記録された平滑化処理構築データを読み取るデータ読取装置と、前記外部記憶媒体から読み取った前記平滑化処理構築データを基に平滑化処理を自動構築する平滑化処理構築手段とを備えるようにしたものである。
また、前記平滑化処理構築データとして精度、応答時間、ノイズの大きさの少なくとも一つ以上を数値指定したものである
本発明の電子天びんは、上記のように構成されており、必要とする測定精度や応答時間に見合った平滑化処理を採り入れた計量表示のための演算処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0005】
本発明の電子天びんは、使用者が必要とする測定精度や応答時間をパソコンで入力・設定した外部記憶媒体を接続することによって最適な平滑化処理プログラムが自動構築され、適切な測定精度、応答時間での測定が行えることにより測定結果の信頼性向上および作業効率の向上が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明が提供する電子天びんは次のような特徴を有している。第1の特徴は皿上荷重を電気信号に変換し、その電気信号を所定時間ごとにA/D変換した時系列データを平滑化し、得られた時系列データを演算処理して荷重値を表示する電子天びんにおいて、外部記憶媒体を接続する記憶媒体接続手段と、前記記憶媒体に記録された平滑化処理構築データを読み取るデータ読取装置と、前記外部記憶媒体から読み取った前記平滑化処理構築データを基に平滑化処理を自動構築する平滑化処理構築手段とを備えている点にあり、第2の特徴は前記平滑化処理構築データとして精度、応答時間、ノイズの大きさの少なくとも一つ以上を数値指定したものである点である。
したがって最良の形態の基本的な構成はこれら第1の特徴を備えた構成と第2の特徴を備えた構成を備えた電子天びんである。
【実施例1】
【0007】
以下実施例により本発明の電子天びんを詳細に説明する。図1は、本発明の電子天びんの構成を示すブロック図である。
本電子天びんは、被計量物の荷重を検出して電気信号に変換する荷重検出部1と、この電気信号をサンプリングしてA/D変換し、荷重測定データに変換するA/D変換器2と、前記荷重測定データを平滑化処理する平滑化処理プログラムを構築するに必要な諸条件、すなわち、測定精度または応答時間およびこれらを保持する保持時間等の平滑化処理構築データを記憶しておく例えばUSBメモリ等の外部記憶媒体3と、前記外部記憶媒体3の接続を検知して記録された平滑化処理構築データを読み取る読取装置4と、汎用のマイクロプロセッサ及びインターフェース等からなり荷重測定データを平滑化し計量表示するまでの必要な処理プログラムを実行する処理装置5と、前記処理プログラムを記憶しておく記憶装置6および被計量物の重量表示を行う表示装置7から構成されている。
【0008】
図2は、前記処理装置5が前記記憶装置6に記憶されている処理プログラムを実行することにより機能する各処理機能をブロック別に示したブロック図である。すなわち前記処理装置5は前記荷重測定データを前記外部記憶媒体3に記憶されている平滑化処理構築データに基づき平滑化処理を行う平滑化処理機能ブロック51と、平滑化処理後の荷重測定データに重量変換係数を乗じて重量値に変換する重量換算機能ブロック52と、前記読取装置4を介して入力された平滑化処理構築データに基づき平滑化処理を行うための平滑化処理プログラムを構築する平滑化処理構築機能ブロック53を備えている。
【0009】
前記外部記憶媒体3への平滑化処理構築データの書込みは、パーソナルコンピュータ8に前記外部記憶媒体3を接続し、キーボード9からの入力によって行う。そして前記読取装置4は前記外部記憶媒体3の接続を検知して前記外部記憶媒体3に書き込まれた平滑化処理構築データを読み取り、この平滑化処理構築データを前記処理装置5に入力する。
【0010】
前記処理装置5の平滑化処理構築機能ブロック53は(1)式のデータ数(2k+1)が可変である可変長移動平均フィルタまたは複数の可変長移動平均フィルタを構築するプログラムを備えている。前記読取装置4から入力された平滑化処理構築データを受け取ると、図3に示すフローチャートの手順によりこの平滑化処理構築データが応答時間のみか、測定精度のみか、あるいは応答時間と測定精度の両方なのかをチェックして(S1〜S4)、平滑化処理に単独の可変長移動平均フィルタを用いるか(S5)、複数個の可変長移動平均フィルタを用いるかを選択し(S6)、平滑化処理プログラムを構築する。
【0011】
図4は平滑化処理構築データとして測定精度0.3mgのみが入力されている場合の測定精度と応答時間の関係を示したもので、測定データのサンプリング周期を0.1secとした場合の測定精度と応答時間は図に示すような関係にある。図において測定精度を0.1mgにした場合は、応答時間が16secになり、応答時間1secにした場合は測定精度が0.5mgとなる。この特性を記憶している前記平滑化処理構築機能ブロック53により測定精度0.3mgは平滑化時間4secに変換され、平滑化処理プログラムの平滑化時間が更新され記憶装置6に記憶される。
【0012】
また、図5は例えば平滑化処理構築データが、応答時間を1secと測定精度を0.1mgで平滑化処理を行う場合の測定精度と応答時間の関係を示したもので、応答時間と必要精度が直線的に関係付けられない場合の平滑化処理構築例に該当し、2個の可変長移動平均フィルタを使用する。この場合、図5(A)に示すように荷重が加えられてから2秒間は平滑化時間1secで平滑化処理を行い、それ以後は平滑化時間16secで平滑化処理を行う。これにより、図5(B)に示すように荷重が加えられてから2秒程度で荷重のほぼ満量値近くに計量値が到達し、それ以後は必要な測定精度0.1mgを実現することができる。
【0013】
次に図5に示した平滑化処理構築データが入力された場合の平滑化処理手順を図6に示したフローチャートに基づいて説明する。前記A/D変換器2で荷重検出部1の電気信号は荷重測定データに変換され(S11)、計量スタート時からの時間tが2秒以内と判断されると(S12)と、前記測定データは第1平滑化時間(1sec)で平滑化処理が行われ(S13)、さらに重量変換係数が乗じられて重量値に変換される(S14)。この重量値は表示装置7に表示され(S15)、この手順が2秒になるまで繰り返される。そして、2秒を越えると前記測定データは第2平滑化時間(16sec)で平滑化処理され(S16)、さらに重量変換係数が乗じられて重量値に変換され(S17)、この重量値は表示装置7に表示される(S18)。そして、初期測定を開始するかを判断し(S19)、初期測定を開始しない場合はS11からの手順を繰り返し実行する。また、初期測定からやり直す場合は、時間t=0にリセットした後(S20)、S11からの手順を繰り返し実行する。この初期測定開始の判断は、前記処理装置5に初期測定開始用入力ボタンを設けて入力して知らせるか、荷重測定データが一定値以上の変化を行った場合を検知しその信号を平滑化処理プログラムに取り込むことにより行う。
【0014】
また、予め入力信号に含まれるノイズの大きさが判明している場合は、ノイズの大きさを指定することにより、サンプリング周期を0.1sとした場合、下記の例に示すような平滑化処理が行われる。
例1:応答時間1s、ノイズの大きさ±0.001g(ふらつき幅0.002g)を指定した場合、データ数10の可変長移動平均フィルタが平滑化に使用される。これにより入力信号のノイズは、0.002g(1/√10)のように分散化処理され0.0006gに減衰する。サンプリング周波数以外の成分H(X)は次式(2)に示されるゲインH(X)のように減衰する。
H(X)=(1/10)ΣXi ・・・(2)
【0015】
例2:精度0.0001g、ノイズの大きさ±0.001gを指定した場合、可変長移動平均フィルタのみで精度0.0001gを得るためのデータ数Nが次式(3)式より導かれる。
0.002/√N≦0.00014 ・・・(3)
これを演算処理してN≧204.08が導かれる。サンプリング周波数以外の成分H(X)は次式(4)に示されるように減衰する。
【0016】
H(X)=(1/204)ΣXi ・・・(4)
例3:精度0.0002g、応答時間3sを指定した場合、データ数Nは次式(5)から導かれる。
N≧(0.002/0.00024)2 ・・・(5)
これより、N≧69.44となり、70データが必要となる。応答時間が3sであるので10データの可変長移動平均フィルタ3個と40データの可変長移動平均フィルタ1個を直列に接続して構成する。
【0017】
上記実施例において、可変長移動平均フィルタを用いて平滑化処理を行う方法を示しているが、例えば図7のZ変換記号で示した遅延器10、加算器11、係数器12a、12bを用いて構成される積分型フィルタなどの他のディジタルフィルタを前記平滑化処理構築機能ブロック53に予め記憶登録しておくことにより、応答時間と測定精度に対応して各種フィルタを選択して使用し、より高度な平滑処理を実行させることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は電子天びん、電子はかりに利用される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の電子天びんの概略構成を示すブロック図である。
【図2】実施例に係わる処理装置5の機能構成を示すブロック図である。
【図3】実施例に係わる平滑化フィルタ数判別方法を示すフローチャート図である。
【図4】平滑化処理構築例を示す図である。
【図5】実施例に係わる平滑化時間(A)及び測定精度(B)の平滑化処理構築例を示す図である。
【図6】本電子天びんの測定手順を示すフローチャート図である。
【図7】積分型平滑フィルタの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0020】
1 荷重検出部
2 A/D変換器
3 外部記憶媒体
4 読取装置
5 処理装置
51 平滑化処理機能ブロック
52 重量換算機能ブロック
53 平滑化処理構築機能ブロック
6 記憶装置
7 表示装置
8 パーソナルコンピュータ
9 キーボード
10 遅延器
11 加算器
12a 係数器
12b 係数器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皿上荷重を電気信号に変換し、その電気信号を所定時間ごとにA/D変換した時系列データを平滑化し、得られた時系列データを演算処理して荷重値を表示する電子天びんにおいて、外部記憶媒体を接続する記憶媒体接続手段と、前記記憶媒体に記録された平滑化処理構築データを読み取るデータ読取装置と、前記外部記憶媒体から読み取った前記平滑化処理構築データを基に平滑化処理を自動構築する平滑化処理構築手段とを備えていることを特徴とする電子天びん。
【請求項2】
前記平滑化処理構築データとして精度、応答時間、ノイズの大きさの少なくとも一つ以上を数値指定したものであることを特徴とする請求項1に記載の電子天びん。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−155680(P2007−155680A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355346(P2005−355346)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)