説明

電子機器用筐体

【課題】機器の寿命の短縮やコスト増の問題がなく、ベースとカバーの組み立て工程を煩雑にすることなく、電磁波の漏洩を防止できる電気機器用筺体を提供する。
【解決手段】電子機器を搭載するベース2と、該ベース2を覆うカバー3を有する電子機器筐体1において、ベース2に凹部6、カバー3に凸部7を設け、該凸部7を該凹部6に押入して接合させた接合部8によりベース2とカバー3が接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用筐体の接合部の構造、より詳しくは電磁波の漏洩を防止できる電子機器用筐体の接合部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス化が急速に進展し、電磁波ノイズが他の電子機器の誤作動を起こすことによる事故の誘発や、一般家庭内においてもパーソナルコンピューターなどの普及により、テレビ受像などに電磁波障害を及ぼすことが増加している。さらに、電磁波が人体に悪影響を及ぼすことも示唆されており、電磁波漏洩に対する規制もますます厳しくなってきている。そのため、電子機器から発生する電磁波の該電子機器外部への漏洩量を低減する必要がある。
【0003】
一般に、パーソナルコンピューターなどの電子機器用筺体は、電子機器を搭載するベースと、このベースを覆うカバーを備える。ベースとカバーには、鋼板、アルミ板などの導電性金属材料が用いられる。ベースとカバーが全く隙間ができないように接続されていれば電磁波が筺体の外部に漏洩することはない。しかし、通常、カバーはベースにネジ止め等によって接合されるため、ベースとカバーの間に隙間ができてベースとカバーの電気的な導通が不十分になって電磁波が漏洩する。特に、デジタル家電は、電磁波の発生量が多く、またサイズが大型化しているため、カバーのゆがみなどにより、ベースとカバーの導通が不十分になって電磁波がより漏洩し易い。
【0004】
電磁波の漏洩を低減する手法として、筺体の内部に電磁波吸収体を用いる手法(特許文献1)、筺体内部に電磁波発生部を覆う金属製シールボックスを設ける手法がある。また、カバーを取り付けるネジ部でベースとカバーを導通させることで電磁波の漏洩を低減することができるので電磁波の漏洩量を低減させるためネジ止め箇所を増やす手法、ベースとカバーの間の隙間を埋めるために導通性を有するガスケットを用いる手法等がある。
【特許文献1】特開2005−310255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電磁波吸収体は高価なものであり、コスト増につながる。シールドボックスは、コストの点でも不利であるが、特に内部で発生する熱が放出されにくく、機器の寿命が短くなるといった欠点がある。また、ベースとカバーの導通を確保するためネジ止め箇所を増やすことは、組み立て工程が煩雑になりコスト増を招く。ガスケットの使用もコスト増を招く。
【0006】
本発明は、前記従来技術の問題点を考慮し、機器の寿命の短縮やコスト増の問題がなく、ベースとカバーの組み立て工程を煩雑にすることなく、電磁波の漏洩を防止できる電気機器用筺体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の手段は以下の通りである。
(1)電子機器を搭載するベースと、該ベースを覆うカバーを有する電子機器筐体において、ベースに凹部、カバーに凸部を設け、該凸部を該凹部に押入して接合させた接合部を有することを特徴とする電子機器用筐体。
【0008】
(2)接合部の長さが、全外周長さの50%以上であり、かつ接合部間の間隔が20cm以下であることを特徴とする(1)に記載の電子機器用筐体。
【0009】
(3)凹部の平均溝深さが3mm以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の電子機器用筐体。
【0010】
(4)カバーおよび/またはベースが、少なくともZn含有めっき層を表面に有するZn含有めっき鋼板または少なくともAl含有めっき層を表面に有するAl含有めっき鋼板であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の電子機器用筐体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機器の寿命の短縮やコスト増の問題を防止して、電気機器用筺体からの電磁波の漏洩を防止できる。また、本発明によれば、カバーをベースに取り付けるビス本数を低減できるので、ベースとカバーの組み立て工程をより簡素にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
電磁波が曲がった導波管(電磁波の通り道)を進むと電磁波の減衰量が大きくなる。本発明者は、ベースとカバーの接合部に電磁波が曲がって通る構造部分を設けると、該部分で電磁波が減衰され、外部への電磁波の漏洩量を低減できると考えた。また、電磁波が曲がって通る構造部分となる接合部をベースとカバーが電気的に導通し易い構造とすることで、電磁波の漏洩量をさらに低減できると考えた。これらの点について鋭意検討し、本発明に至った。
【0013】
以下、本発明について詳しく説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る電気機器用筺体の一構造例を示し、(a)は平面図,(b)は断面図である。図1において、1は筐体、2はベース、3はカバーである。ベース2、カバー3は、いずれも導電性材料が使用される。
【0014】
ベース2は、上方に開口部を有する箱型形状で、側壁4上端に内側に伸びるフランジ5を有する。フランジ5のフランジ面に、側壁4面と平行方向に凹部(溝)6が形成されている。カバー3は平板状で、ベース2のフランジ5の凹部6に対応する位置に下方に突起した凸部(凸条)7が形成されている。
【0015】
図2は、図1のA部拡大図で、(A)はベース2のフランジ5の凹部6の断面形状、(B)はカバー3凸部7の断面形状、(C)はベース2のフランジ5の凹部6とカバー3の凸部7の接合状態を説明する。
【0016】
筐体1は次のようにして組み立てられる。
【0017】
ベース2の上方にカバー3を配置し、ベース2のフランジ5の凹部6に対応する位置に、カバー3の凸部7を合わせ、カバー3を下方に押し込み、カバー3の凸部7をベース2のフランジ5の凹部6に押入して接合させる。本発明の筐体1はこのような接合部8を有する。
【0018】
ベース2とカバー3の当接している部分に電磁波が直進する隙間があると、筺体の内部で発生した電磁波は外部に漏洩するが、本実施形態に係る筺体1では、ベース2の凹部6とカバー3の凸部7の接合部8に曲がった導波管が形成され、該部分で電磁波が大きく減衰し、外部に漏洩する電磁波量を低減できる。また、凹部6と凸部7の少なくとも一部が接合することで、ベース2とカバー3が導通し、電磁波の漏洩防止効果が大きくなる。凹部6と凸部7は、凹部内壁と凸部外壁の少なくとも一部が接合していればよく、全面で接合していなくてもよい。凸部7を凹部6に装入して凹部内壁と凸部外壁の少なくとも一部が接合する形状であれば、凸部形状、凹部形状は特に限定されない。
【0019】
図1の筐体1は、フランジ5は筺体1の内部に隠れるため、意匠性、美観の点からも好ましい。
【0020】
本発明においては、凹部6へ凸部7を押入して接合させた接合部8は、ベース2とカバー3が当接する全長(筺体の全周)に設けてもよいが、筺体の全周に設けずに、筺体の周方向に分割して設けてもよい。この場合、電磁波を減衰させるには、全外周長さに対する接合部の合計長さの比(以下、接合部長さ比率と記載する。)と、接合部間の間隔(以下、接合部間間隔と記載する。)を適切に制御する必要である。
【0021】
図1に示す筐体において、筐体の幅をW、奥行きをB、凸部と対応する凹部がn個あり、i番目の凸部の長さをLiとすると、筐体の全外周長さLは、L=2×(W+B)、接合部の合計長さLは、L=ΣLi(i=1〜n)である。従って、接合部長さ比率=L/L×100(%)である。接合部間間隔は、隣り合う接合部の間隔である。
【0022】
筺体の接合部長さ比率が大きい方が電磁波の減衰が良好となり、また接合部間の間隔が狭い方が電磁波の減衰が良好となる。本発明が意図する電磁波減衰性能を発現するには、接合部長さ比率が50%以上で、かつ、接合部間間隔(複数の接合部がある場合は、そのうちの最大接合部間間隔)が20cm以下であることが好ましい。接合部長さ比率は70%以上であることがより好ましく、また接合部間間隔は15cm以下がより好ましく、10cm以下がさらに好ましい。
【0023】
本発明では、ベース2の凹部6にカバー3の凸部7を押入することによる作用は、ベース2とカバー3を接触させること及び導波管を曲げることで電磁波を減衰させることに加えて、カバー3をベース2に接合させる作用がある。そのためには、凹部の平均溝深さaは3mm以上が好ましい。
【0024】
本発明の接合部構造を用いることでネジ接合に比べて筺体の組み立て工程を簡易化できる。必要があればネジ止めによる接合(ネジ接合)を併用してもよい。この場合もネジ接合のみの場合に比べて筺体の組み立て工程を簡易化できる。
【0025】
ベースの製造方法も特に限定されない。全体を一体成形してフランジに凹部を形成して製造したものであってもよいし、底部と壁部を一体成形して得た箱状体に予め凹部を形成したフランジを溶接等で接合したものでもよい。
【0026】
カバー又はカバーに使用する材料も特に限定されず、鋼板、アルミ板、各種表面処理鋼板を使用できるが、防錆性の点から鋼板表面にZn含有めっき層、またはAl含有めっき層を少なくとも有するめっき鋼板が好ましい。また前記めっき鋼板の少なくとも一方の面に、化成皮膜、塗膜などの皮膜を形成したものでもよい。この場合、筺体組み立て時にベース又はカバーと接触する側の面は、ベース又はカバーとの導通性をよくするために、皮膜厚さは2μm以下とするか、またはNiやAlなどの導電性金属粉を含有する皮膜とすることが好ましい。筺体組み立て時にベース又はカバーと接触しない側の面は、意匠性、防錆性等の観点から適宜の皮膜、塗膜を有していてもよい。
【実施例1】
【0027】
筐体ベース用鋼板として、板厚1.0mの電気亜鉛めっき鋼板(両面めっき、めっき付着量は片面あたり20g/m、厚さ1.0μmのリン酸亜鉛皮膜を有する)を使用し、幅300mm、奥行き300mm、高さ100mmの箱型ベース(図3参照)を作成した。カバー内面と接触するフランジ部は、幅20mmとし、フランジ面に断面形状がハット状の凹溝を形成し、その寸法・形状を種々変更した。
【0028】
筐体カバー用鋼板として下記鋼板A〜Eを使用し、筐体組み立て時に組み合わせるベースのフランジ面に形成した凹溝に対応する位置に凸条を形成し、その寸法を種々変更した。カバーは、図3(平板状)または図4(カバー中央部分はカバーの周縁部に対して上方に突起して形成された平坦な頂部を有する形状)の何れかの形状とし、寸法は、幅300mm、奥行き300mmとした。
鋼板A:板厚0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板(両面めっき、めっき付着量は片面あたり20g/m
鋼板B:板厚0.6mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板(両面めっき、めっき付着量は片面あたり40g/m
鋼板C:板厚0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板(両面めっき、めっき付着量は片面あたり20g/m)の片面(カバー内面となる側の面)に厚さ1μmのリン酸亜鉛皮膜を有するもの
鋼板D:板厚0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板(両面めっき、めっき付着量は片面あたり20g/m)の片面(カバー内面となる側の面)に厚さ2μmのリン酸亜鉛皮膜を有するもの
鋼板E:板厚0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板(両面めっき、めっき付着量は片面あたり20g/m)の片面(カバー内面となる側の面)に厚さ2μmのNi粉含有塗膜を有するもの
鋼板A〜Eのカバー外面となる側の面は、リン酸亜鉛皮膜、下塗り塗装(膜厚5μm)、上塗り塗装(膜厚15μm)を施した塗装鋼板を用いた。
【0029】
比較のために、凹部を設けないベース(ベース形状「平」)、凸部を設けないカバー(カバー形状「平」)も作製した。
【0030】
前記で作製したベースとカバーを用いて図3又は図4に示す筐体を組み立てた。凹部を設けないベースと凸部を設けないカバーではネジ接合による接合、またはさらに接合部にガスケットを用いた接合も行った。ネジ孔は、ベースのフランジおよびカバーの各々に等間隔で12箇所設けた(図3の符号9はネジ孔を設けた場合のネジ孔の位置を示す)。ネジ止めは、M3.0、長さ10mmのネジ及びナットを使用し、トルク0.63N・mで締めた。ネジ止め箇所が4箇所の場合は、4隅をネジ止めした。ガスケットはウレタンスポンジに導電布(銅とニッケルをめっきした繊維)を巻き付けた幅5mm厚さ1mmのものを使用し、ネジ孔の内側に貼り付けた。
【0031】
作製した筐体の電磁波漏洩量を次のようにして測定した。図5は、電磁波漏洩量の測定概要を説明する図である。筐体ベース内部に、20MHz〜1GHzで20MHz間隔で電磁波の発生するクロック;デジタル発信器14を設置し、外部に漏洩する20MHz〜1GHzの電磁波ノイズをプリメインアンプ16で増幅したのち、スペクトラムアナライザー17を用いて電磁波の強度測定を行った。受信用アンテナ15は筐体フランジ部から300mmとした。筐体の電磁波漏洩量の評価には、最も強く漏洩したノイズ強度を用いた。
【0032】
評価結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
本発明例の筐体は、4箇所ネジ止めの筐体(No.3)よりも電磁波の漏洩量が低減されている。本発明例の内、請求項2〜4に係る発明範囲内のものは電磁波の漏洩量がより低減されている。
【0035】
凹部と凸部が同じ寸法・形状である発明例(No.28、No.29)は、電磁波の漏洩量が顕著に低減されている。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、内蔵電子機器から発生した電磁波が外部に漏洩するのを防止するための電子機器用筐体として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る電気機器用筺体の一構造例を示す図である。
【図2】図1(b)のA部断面拡大図で、(A)はベースのフランジの凹部の断面形状、(B)はカバーの凸部の断面形状、(C)はベースのフランジの凹部とカバーの凸部の接合部の状態を説明する。
【図3】実施例で作製した筐体の構造を説明する図で、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図4】実施例で作製した別の筐体の構造を説明する断面図である。
【図5】電磁波漏洩量の測定概要を説明する図である。
【図6】実施例で作製した筐体の接合部(ベースの凹部およびカバーの凸部)の外周方向配置を説明する図である。
【図7】実施例で作製した筐体の接合部(ベースの凹部およびカバーの凸部)の外周方向配置を説明する図である。
【図8】実施例で作製した筐体の接合部(ベースの凹部およびカバーの凸部)の外周方向配置を説明する図である。
【図9】実施例で作製した筐体の接合部(ベースの凹部およびカバーの凸部)の凸部の外周方向配置を説明する図である。
【図10】実施例で作製した筐体の接合部(ベースの凹部およびカバーの凸部)の凸部の外周方向配置を説明する図である。
【図11】実施例で作製した筐体の接合部(ベースの凹部およびカバーの凸部)の外周方向配置を説明する図である。
【図12】実施例で作製した筐体の接合部(ベースの凹部およびカバーの凸部)の外周方向配置を説明する図である。
【図13】実施例で作製した筐体の接合部(ベースの凹部およびカバーの凸部)の外周方向配置を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
1、1a、1b、11 筐体
2、2a、2b、12 ベース
3、3a、3b、13 カバー
4 側壁
5 フランジ
6 凹部(溝)
7 凸部(凸条)
8 接合部
9 ネジ孔
14 デジタル発信器
15 アンテナ
16 プリメインアンプ
17 スペクトラムアナライザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器を搭載するベースと、該ベースを覆うカバーを有する電子機器筐体において、ベースに凹部、カバーに凸部を設け、該凸部を該凹部に押入して接合させた接合部を有することを特徴とする電子機器用筐体。
【請求項2】
接合部の長さが、全外周長さの50%以上であり、かつ接合部間の間隔が20cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子機器用筐体。
【請求項3】
凹部の平均溝深さが3mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子機器用筐体。
【請求項4】
カバーおよび/またはベースが、少なくともZn含有めっき層を表面に有するZn含有めっき鋼板または少なくともAl含有めっき層を表面に有するAl含有めっき鋼板であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子機器用筐体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−227589(P2007−227589A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46256(P2006−46256)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】