説明

電子管

【課題】 カソードの位置を電気的な駆動手段にて移動させて、カソードとグリッドとの間隔を調整することにより、入力空胴の共振周波数を調整する電子管を得る。
【解決手段】 支持体で固定され、電子ビームを放出するカソードと、電子ビームの放出量を調整するグリッドと、電力供給端子から入力された高周波信号周波数に共振させ、内部に前記カソードと前記グリッドとを密閉空間で囲んだ入力空胴と、前記支持体の他方側に設けられ、制御信号発生手段から供給される電圧で前記支持体を伸縮動作させ、前記カソードを電子ビームの放出方向側に可逆的に移動させることで、前記カソードと前記グリッドとの間隔を変化させ、前記入力空胴の共振周波数を調整する圧電素子とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ビームを放出するカソードとこの電子ビームを加速するアノードとの間に介在し、前記電子ビームを制御するグリッドを備えた電子銃を用いた電子管に関する。
【背景技術】
【0002】
カソードとアノードとの間に電子ビームを制御するグリッドを備えた電子銃を有する電子管として、例えばインダクティブ出力管(Inductive Output Tube、以下IOTと呼ぶ)がある。図1はIOTの動作原理を示す説明図である。図1において、1は電子銃、2は熱電子を放出するカソード、3はカソード表面の電界を形成するためのグリッド、4はカソードを加熱するためのヒータ、5は入力空胴、6はヒータに電力を供給するヒータ電源、7は高周波信号を供給する高周波信号源、8は高周波信号源7からの高周波信号を入力空胴5に伝送する高周波伝送線路、9は高周波信号を入力空胴5に供給するループアンテナである。
【0003】
10はカソード2から放出される熱電子の集合体である電子ビーム、11は電子ビームを加速するアノード、12は電子ビームを加速する数十〜数百kVの電圧を供給する高電圧電源、13は電子銃1とボディ部14との間に絶縁を施すための絶縁部品、15は電子ビームのエネルギーを出力高周波信号のエネルギーに変換する出力空胴、16は出力高周波信号を透過し、かつIOTの内部を真空に保つための出力窓、17は出力高周波信号にエネルギーを与え終えた電子ビーム10を捕捉するコレクタである。
【0004】
次に動作について説明する。カソード2はヒータ4により加熱され、熱電子を放出できる状態になっている。高周波信号源7から供給される高周波信号は入力空胴5に供給され、この高周波信号の周波数と入力空胴5の共振周波数が一致するように設計されているため、入力空胴5は高周波信号の周波数で共振し、カソード2とグリッド3との間の隙間に高周波電界を形成する。するとカソード2の表面に、熱電子を引き出す方向に電界が印加されたときだけ、カソード2から熱電子が放出され、電子ビーム10は図1に示すようにある塊りとなって放出される。電子ビーム10はアノード11に印加されている高電圧にて加速し速度変調され、出力空胴15に到達する。出力空胴15は電子ビーム10から出力高周波信号へエネルギーを引き出すために最適な共振周波数をもっているため、電子ビーム10はエネルギーを失い、コレクタ17に到達する。出力空胴15でエネルギーを得た出力高周波信号は出力窓16を透過して出力される。
【0005】
入力空胴5において、間隔Lほど離間して配置されたカソード2とグリッド3との間の静電容量は、入力空胴5の共振周波数を決定するパラメータである。IOTの運転中においてカソード2は1000度程度の高温になる。グリッド3は、カソード2に近接して設置されているため、熱変形を起こし間隔Lが数十〜数百μm変化し、カソード2とグリッド3との間の静電容量が変化するため、入力空胴5の共振周波数が変動する。
【0006】
入力空胴の共振周波数を調整する方法として、例えば特開平7−192642号公報図5(特許文献1参照)では、ソースの周波数に共鳴するカップラがDCに対して相互に絶縁された一対の同軸の、金属製管を含み、共振周波数の変化手段が金属製管の間で横方向に移動可能な金属製プレートを含む高周波数真空管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−192642号公報(第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、金属製プレートの位置を移動させるために、カップラの外部からカップラの外壁を貫通し金属製プレートと一体となった機械的な操作機構を設けているため、金属プレートの移動の繰り返しにより、カップラの気密性が劣化し、真空度が低下する課題がある。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、カソードの位置を電気的な駆動手段にて移動させて、カソードとグリッドとの間隔を調整することにより、入力空胴の共振周波数を調整する電子管を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る電子管は、支持体で固定され、電子ビームを放出するカソードと、このカソードを加熱するヒータと、前記カソードから放出された電子ビームをアノードで加速させてから捕捉するコレクタと、前記アノードと前記カソードとの間に介在し、電子ビームの放出量を調整するグリッドと、電力供給端子から入力された高周波信号周波数に共振させ、前記支持体の一方側を空胴壁とし、内部に前記カソードと前記グリッドとを密閉空間で囲んだ入力空胴と、前記支持体の他方側に設けられ、制御信号発生手段から供給される電圧で前記支持体を伸縮動作させ、前記カソードを電子ビームの放出方向側に可逆的に移動させることで、前記カソードと前記グリッドとの間隔を変化させ、前記入力空胴の共振周波数を調整する圧電素子とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
カソードの位置を圧電素子のピエゾ効果による伸縮動作を用いて可逆的に移動させることにより、電気的にカソードとグリッドとの間隔を調整するようにしたので、カソードの位置の操作機構に機械的な可動部がなく、精度良く共振周波数が調整される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】IOTの動作原理を示す説明図である。
【図2】この発明の実施の形態1における電子管の電子銃の構造及び圧電素子の制御方法を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態2における電子管の電子銃の構造及び圧電素子の制御方法を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態3における電子管の電子銃の冷却方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図2は、この発明の実施の形態1における電子管の電子銃の構造及び圧電素子の制御方法を示す説明図である。図2において、図1と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0014】
図2において、21は入力される電圧で発生するピエゾ効果により伸縮動作をする圧電セラミックス(圧電素子)であり、例えば電圧100Vあたり50μmの変位量を示す。22はカソード2を支持し圧電セラミックス21と接続する棒状のカソードロッド(支持体)、23はIOT内部の真空を維持しながらカソードロッド22の可逆的な移動と共にスムーズに伸縮するベローズ、24は入力空胴5とカソードロッド22を同軸に保ちながらカソードロッド22を可逆的に移動可能とするガイドである。
【0015】
30は高周波信号源7からの高周波信号の進行波電力の一部を結合端子30aから出力する高周波伝送線路8に設けられた第1のカップラ、31は入力空胴5から反射した高周波信号の反射波電力の一部を結合端子31aから出力する高周波伝送線路8に設けられた第2のカップラである。
【0016】
32は制御信号発生部(制御信号発生手段)であり、第1のカップラ30の結合端子30aから出力された進行波電力と第2のカップラ31の結合端子31aから出力された反射波電力が入力され、進行波電力に対する反射波電力の電力比をデジタル信号で出力する比較回路33と、比較回路33から出力される電力比に基づき圧電セラミックス21を伸縮動作させる電圧をデジタル信号で出力する演算回路34と、演算回路34から出力されるデジタル信号を直流電圧に変換するD/A変換回路35とを備えている。
【0017】
36は、D/A変換回路35から出力される直流電圧を光信号に変換するE/O変換回路、37は光ファイバ、38はE/O変換回路36から出力され光ファイバ37を伝送してきた光信号を直流電圧に変換するO/E変換回路、39はO/E変換回路38から出力される直流電圧を圧電セラミックス21へ伝送する信号線路である。
【0018】
次に動作について説明する。入力空胴5の共振周波数は、高周波信号源7から出力される高周波信号の周波数に一致するように構成されており、高周波信号源7から出力される高周波信号の進行波電力は、ループアンテナ9を介して入力空胴5に供給される。
【0019】
カソードが加熱され1000度程度の高温度になると、この熱の影響によりグリッド3が変形しカソード2とグリッド3との間隔Lが数十〜数百μm変化し、カソード2とグリッド3との間の静電容量が変化するので入力空胴5の共振周波数が変動する。その結果、高周波信号源7からの高周波信号の進行波電力の一部が反射波電力としてループアンテナ9から高周波信号源7の方向へ反射する。
【0020】
このような状態において、第1のカップラ30にて前記進行波電力の一部を結合端子30aから出力し、第2のカップラ31にて前記反射波電力の一部を結合端子31aから出力し比較回路33に入力する。比較回路33では、前記進行波電力に対する前記反射波電力の電力比をデジタル信号として演算回路34に出力する。演算回路34では、比較回路33から出力される電力比が所定の値以下、例えば−40dB以下になるように圧電セラミックス21を伸縮動作させる電圧をデジタル信号として出力する。演算回路34から出力されたデジタル信号はD/A変換回路35にて直流電圧に変換される。
【0021】
D/A変換回路35から出力された直流電圧は、E/O変換回路36にて光信号に変換され、光ファイバ37を通してO/E変換回路38に伝送され、O/E変換回路38にて直流電圧に復元される。O/E変換回路38にて復元された直流電圧は信号線路39を通して圧電セラミックス21に供給され、この直流電圧に従って圧電セラミックス21はピエゾ効果により伸縮動作をし、カソードロッド22を介して接続されたカソード2の位置を可逆的に移動させ、カソード2とグリッド3との間隔Lを調整し、入力空胴5の共振周波数が高周波信号源7からの高周波信号の周波数に一致するように調整される。
【0022】
このような構成によれば、カソード2の移動機構は電気的な方式としたため機械的な可動部はなく、移動するカソード2と入力空胴5との気密性は伸縮自在なベローズ23にて保たれているので、カソード2の可逆的な移動の繰り返しにより、気密性が劣化することはない。また、圧電セラミックス21への制御電圧供給経路は光ファイバ37にて絶縁しているので、入力空胴5に印加されている数十〜数百kVの高電圧がE/O変換回路36の光信号出力端子に印加されることはなく信頼性が向上する。さらに、圧電セラミックス21はnm(ナノメートル)単位で伸縮動作が制御されるので、高精度な周波数調整が実施される。
【0023】
実施の形態2.
この発明の実施の形態1では、光ファイバを介して圧電セラミックスに直流電圧を供給しカソードの位置を移動させたが、絶縁トランスを介して圧電セラミックスに直流電圧を供給しても良い。図3は、この発明の実施の形態2における電子管の電子銃の構造及び圧電素子の制御方法を示す説明図である。図3において、図2と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0024】
図3において、41はD/A変換回路35から出力される直流電圧を交流電圧に変換する直流・交流変換回路、42は伝送線路、43は伝送線路内に設けられた絶縁トランス、44は交流電圧を直流電圧に変換する交流・直流変換回路である。
【0025】
次に動作について説明する。この発明の実施の形態2において、D/A変換回路35から出力された直流電圧は、直流・交流変換回路41にて交流電圧に変換され、絶縁トランス43を介した伝送線路42を通して交流・直流変換回路44に伝送され、交流・直流変換回路44にて直流電圧に復元される。交流・直流変換回路44にて復元された直流電圧は信号線路39を通して圧電セラミックス21に供給され、この直流電圧に従って圧電セラミックス21はピエゾ効果により伸縮動作をし、カソードロッド22を介して接続されたカソード2の位置を可逆的に移動させ、カソード2とグリッド3との間隔Lを調整し、入力空胴5の共振周波数が高周波信号源7からの高周波信号の周波数に一致するように調整される。
【0026】
このような構成によれば、カソード2の移動機構は電気的な方式としたため機械的な可動部はなく、移動するカソード2と入力空胴5との気密性は伸縮自在なベローズ23にて保たれているので、カソード2の可逆的な移動の繰り返しにより、気密性が劣化することはない。また、圧電セラミックス21への制御電圧供給経路は絶縁トランス43にて絶縁しているので、入力空胴5に印加されている数十〜数百kVの高電圧が直流・交流変換回路41の交流電圧出力端子に印加されることはなく信頼性が向上する。さらに、圧電セラミックス21はnm(ナノメートル)単位で伸縮動作が制御されるので、高精度な周波数調整が実施される。
【0027】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3における電子管の電子銃の冷却方法を示す説明図である。図4において、図2と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。図4において、50はカソードロッド22の内部に設けられ空胴に冷媒が流れ、冷媒の流入部がカソードロッド22の圧電セラミックス21との接続部付近に設けられ、冷媒の流出部が前記接続部と反対の位置に設けられた冷却管である。51は冷却管50へ冷媒を流入させる流入管、52は冷却管50から冷媒を流出させる流出管である。なお、冷却管50と流入管51及び流出管52との接続はフレキシブルジョイント等の柔軟性のある継手を用い、カソードロッド22の可逆的な移動に支障がないようにしている。
【0028】
このように構成することにより、実施の形態1、2の作用効果に加えて、カソードロッド22は圧電セラミックス21との接続部において十分冷却され、圧電セラミックス21の温度上昇が抑制されるため、信頼性が向上する。なお、冷媒は液体、気体のいずれでも良い。
【符号の説明】
【0029】
1 電子銃
2 カソード
3 グリッド
4 ヒータ
5 入力空胴
6 ヒータ電源
7 高周波信号源
8 高周波伝送線路
9 ループアンテナ
10 電子ビーム
11 アノード
12 高電圧電源
13 絶縁部品
14 ボディ部
15 出力空胴
16 出力窓
17 コレクタ
21 圧電セラミックス(圧電素子)
22 カソードロッド(支持体)
23 ベローズ
24 ガイド
30 第1のカップラ
31 第2のカップラ
32 制御信号発生部(制御信号発生手段)
33 比較回路
34 演算回路
35 D/A変換回路
36 E/O変換回路
37 光ファイバ
38 O/E変換回路
39 信号線路
41 直流・交流変換回路
42 伝送線路
43 絶縁トランス
44 交流・直流変換回路
50 冷却管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体で固定され、電子ビームを放出するカソードと、このカソードを加熱するヒータと、前記カソードから放出された電子ビームをアノードで加速させてから捕捉するコレクタと、前記アノードと前記カソードとの間に介在し、電子ビームの放出量を調整するグリッドと、電力供給端子から入力された高周波信号周波数に共振させ、前記支持体の一方側を空胴壁とし、内部に前記カソードと前記グリッドとを密閉空間で囲んだ入力空胴と、前記支持体の他方側に設けられ、制御信号発生手段から供給される電圧で前記支持体を伸縮動作させ、前記カソードを電子ビームの放出方向側に可逆的に移動させることで、前記カソードと前記グリッドとの間隔を変化させ、前記入力空胴の共振周波数を調整する圧電素子とを備えた電子管。
【請求項2】
前記制御信号発生手段は、前記電力供給端子へ入力する高周波信号の進行波電力の一部と、前記電力供給端子から反射する高周波信号の反射波電力の一部とを入力し前記進行波電力に対する前記反射波電力の電力比をデジタル信号形式で出力する比較回路と、前記電力比が所定の値以下となるように前記圧電素子を制御する電圧をデジタル信号形式で出力する演算回路と、前記演算回路から出力されるデジタル信号を直流電圧に変換するD/A変換回路とを備えた請求項1に記載の電子管。
【請求項3】
前記支持体は、前記圧電素子との接続部付近に設けられた冷媒の流入口と、前記接続部の反対側に設けられた前記冷媒の流出口と、内部に設けられ、一方が前記流入口に接続し、他方が前記流出口に接続し、前記冷媒が空胴を流れる冷却管とを備えた請求項1または請求項2に記載の電子管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−192455(P2011−192455A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55991(P2010−55991)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】