説明

電子線励起型光源装置

【課題】 真空容器における容器本体と光透過窓材とが線熱膨張係数差のある異種材料によって構成される場合であっても、これらの接合時にクラックが発生せず、従って、真空容器の真空密閉性が確保される電子線励起型光源装置の提供。
【解決手段】 電子線励起型光源装置は、開口を有する容器本体およびこの開口を封止部によって気密に接合して塞ぐ光透過窓材よりなる真空容器内に、電子線源および半導体発光素子が備えられ、封止部は、互いに主成分が同一である異種のガラスフリットから形成された、光透過窓材に接触される第1のガラス層と、容器本体に接触される第2のガラス層とが積層されてなり、光透過窓材、容器本体、第1のガラス層、第2のガラス層の線熱膨張係数αをα(A0)、α(B0)、α(A)、α(B)としたときに、α(A0)>α(B0)、α(A0)>α(A)、α(B0)>α(B)の関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器内に、電子線源と、この電子線源から放出された電子線によって励起される半導体発光素子とが配置されてなる電子線励起型光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空容器内に、電子線源とこの電子線源から放出された電子線によって励起される半導体発光素子とが配置されてなる電子線励起型光源装置が知られている(特許文献1参照)。
また、短波長の紫外線を透過するために光取り出し窓にサファイアを用いることができるという技術が知られており、例えば特許文献2には、放電ランプにおいて、セラミックからなる放電容器の光取り出し窓にサファイアをフリットガラスで封着することが開示されている。
【0003】
ところで、最近、電子線によって励起されて短波長の紫外光を放射する半導体発光素子の開発が進んでおり、このような半導体発光素子を用いた電子線励起型光源装置が、小型で高出力の紫外光光源として期待されている。
このような電子線励起型光源装置においては、真空容器として、例えば、光透過窓材の材料として紫外線を透過することからサファイアを用い、容器本体の材料として、導電線として用いるコバールメタルとのシール性が良好であることからコバールガラスを用いる要請がある。
然るに、このように容器本体および光透過窓材の材料に線熱膨張係数の異なる材料を使用した場合、ガラスフリットとしてサファイアとコバールガラスの線熱膨張係数の間の線熱膨張係数を有するものを使用しても、焼成に伴う膨張・収縮時に光透過窓材と容器本体のそれぞれの材料の線熱膨張係数差による歪を緩和できずに、コバールガラス側の接合部を起点にクラックが発生する、という問題があった。特に、容器本体の周壁が矩形筒状のものである場合、応力負荷の大きい四隅においてクラックが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3667188号公報
【特許文献2】特表2010−519721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、真空容器における容器本体と光透過窓材とが線熱膨張係数差のある異種材料によって構成される場合であっても、これらの接合時にクラックが発生せず、従って、真空容器の真空密閉性が確保される電子線励起型光源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電子線励起型光源装置は、開口を有する容器本体および当該容器本体の開口を塞ぐ光透過窓材よりなる真空容器内に、電子線源およびこの電子線源からの電子線によって光を放射する半導体発光素子が備えられてなる電子線励起型光源装置において、
前記光透過窓材と前記容器本体とが、封止部によって気密に接合されており、
前記封止部は、当該光透過窓材に接触される第1のガラス層と、当該容器本体に接触される第2のガラス層とが積層されてなり、
前記第1のガラス層および前記第2のガラス層は、主成分が同一である異種のガラスフリットから形成されたものであり、
光透過窓材の線熱膨張係数をα(A0)、容器本体の線熱膨張係数をα(B0)、第1のガラス層の線熱膨張係数をα(A)、第2のガラス層の線熱膨張係数をα(B)としたときに、
α(A0)>α(B0)、
α(A0)>α(A)、および、
α(B0)>α(B)の関係を満足することを特徴とする。
【0007】
本発明の電子線励起型光源装置においては、前記容器本体の周壁が矩形筒状であって、当該周壁の光透過窓材側の上端部における四隅の内面の各々に充填された状態で補強用ガラス部が形成されていることが好ましい。
【0008】
また、本発明の電子線励起型光源装置においては、前記補強用ガラス部および前記第2のガラス層は、同一のガラスフリットによって、互いに連続して形成されている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電子線励起型光源装置によれば、光透過窓材または容器本体よりも低い線熱膨張係数を有し、かつ、互いに主成分が同一である異種のガラスフリットから形成された第1のガラス層および第2のガラス層が積層されてなる封止部によって光透過窓材と容器本体とが接合されている。このために、容器本体と光透過窓材とが線熱膨張係数差のある異種材料によって構成される場合であっても、封止部によって当該容器本体および当該光透過窓材の線熱膨張係数差による歪を十分に緩和することができるので、これらの接合時にクラックが発生せず、従って、真空容器の真空密閉性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の電子線励起型光源装置における一例の構成の概略を示す説明図であり、(a)は側面断面図、(b)は、光透過窓材を取り外した状態を示す平面図である。
【図2】図1に示す電子線励起型光源装置の容器本体および光透過窓材の構成の一例を詳細に示す説明用平面図である。
【図3】図2のX−X線断面に係る真空容器の作製時の模式図である。
【図4】図2のY−Y線断面の一部に係る真空容器の作製時の模式図である。
【図5】図1に示す電子線励起型光源装置における半導体発光素子の構成を示す説明用断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0012】
図1は、本発明の電子線励起型光源装置における一例の構成の概略を示す説明図であり、(a)は側面断面図、(b)は、光透過窓材を取り外した状態を示す平面図、図2は、図1に示す電子線励起型光源装置の容器本体および光透過窓材の構成の一例を詳細に示す説明用平面図、図3は、図2のX−X線断面に係る真空容器の作製時の模式図、図4は、図2のY−Y線断面の一部に係る真空容器の作製時の模式図である。
この電子線励起型光源装置は、開口を有する容器本体11および当該容器本体11の開口を塞ぐ光透過窓材15よりなる真空容器10内に、電子線源30およびこの電子線源30からの電子線によって光を放射する半導体発光素子20が備えられてなるものである。
【0013】
〔真空容器〕
この電子線励起型光源装置の真空容器10は、内部が負圧の状態で密閉された外形が直方体状のものであり、矩形板状の底壁11bおよび矩形筒状の周壁11aが底壁用封止部11cを介して接合された箱状の容器本体11と、この容器本体11の周壁11aの上端によって形成される開口を塞ぐ板状の光透過窓材15とが封止部12によって気密に接合された構成を有する。
容器本体11と光透過窓材15とを気密に接合する封止部12は、光透過窓材15に接触される第1のガラス層12aと、容器本体11に接触される第2のガラス層12bとが積層されてなるものである。
【0014】
そして、本発明においては、容器本体11、光透過窓材15、第1のガラス層12aおよび第2のガラス層12bが、それぞれ、以下の(1)〜(4)の条件を満たす材料からなるものとされる。
(1)容器本体11および光透過窓材15を構成する材料が、それぞれ、光透過窓材15を構成する材料の線熱膨張係数をα(A0)、容器本体11を構成する材料の線熱膨張係数をα(B0)としたときに、それぞれ、α(A0)>α(B0)の関係を満たすものである。
(2)第1のガラス層12aを形成するガラスフリット(以下、「ガラスフリットA」ともいう。)および第2のガラス層12bを形成するガラスフリット(以下、「ガラスフリットB」ともいう。)が、主成分が同一である異種のガラスフリットである。
(3)ガラスフリットAが、接触する光透過窓材15に係るα(A0)よりも線熱膨張係数が小さい、すなわちガラスフリットAの線熱膨張係数をα(A)としたときに、α(A0)>α(A)の関係を満足するものである。
(4)ガラスフリットBが、接触する容器本体11に係るα(B0)よりも線熱膨張係数が小さい、すなわちガラスフリットBの線熱膨張係数をα(B)としたときに、α(B0)>α(B)の関係を満足するものである。
【0015】
光透過窓材15を構成する材料としては、半導体発光素子20からの光を透過し得るものが用いられ、例えばサファイア(線熱膨張係数α(A0)=70×10-7〜77×10-7(1/K))などが用いられる。
【0016】
また、容器本体11を構成する材料としては、コバールガラス(線熱膨張係数α(B0)=45×10-7〜52×10-7(1/K))などの絶縁物を用いることができる。特に、導電線として用いるコバールメタルとのシール性が良好である線熱膨張係数のコバールガラスを用いることが好ましい。
【0017】
光透過窓材15を構成する材料と容器本体11を構成する材料の組み合わせとしては、サファイア/コバールガラス、サファイア/アルミナなどの組み合わせを挙げることができ、特に、サファイア/コバールガラスの組み合わせが好ましい。
【0018】
本発明において、主成分が同一である異種のガラスフリットとは、ガラスを構成する主成分(ガラス成分)が同組成であり、かつ、フィラーが互いに異なる成分を有するものをいう。
ガラスフリットA,Bとしては、それぞれ、例えば、ガラス成分がPbO、B2 3 である低融点ガラスフリットを用いることができる。
ガラスフリットAおよびガラスフリットBの主成分が同一であることにより、これらの間に大きな線熱膨張係数差がある場合であっても、第1のガラス層12aおよび第2のガラス層12bの間においてガラス成分が拡散し合って融合する領域が生成されるために、クラックが発生することが抑制される。
【0019】
α(A)およびα(B)が、それぞれα(A0)およびα(B0)よりも小さくされていることにより、容器本体11と光透過窓材15との接合時の焼成に伴う膨張・収縮による圧縮応力が第1のガラス層12aまたは第2のガラス層12bにかかるために、クラックが発生することが抑制される。
【0020】
α(A0)とα(A)との差は、具体的には、1×10-7〜10×10-7(1/K)の範囲にあることが好ましく、また、α(B0)とα(B)との差は、具体的には、1×10-7〜10×10-7(1/K)の範囲にあることが好ましい。
【0021】
また、α(A)およびα(B)は、α(A)>α(B)の関係を満たすことが好ましいが、α(A)=α(B)であってもよい。
【0022】
封止部12における第1のガラス層12aおよび第2のガラス層12bのそれぞれの塗布量は、第1のガラス層12aの塗布量が、第2のガラス層12bの塗布量よりも小さくされている。
このように塗布量の比率が制御されることによって、第1のガラス層12aに係るα(A)が容器本体11の周壁11aに係るα(B0)よりも大きい場合であっても、当該第1のガラス層12aが周壁11aに接触することが防止されるために、クラックの発生が抑制される。
なお、第2のガラス層12bが光透過窓材15に接触したとしても、光透過窓材15のクラックの発生への影響は小さいと考えられる。
第1のガラス層12aの塗布量および第2のガラス層12bの塗布量の比率は、真空容器10の作製時に用いるガラスフリットAおよびガラスフリットBの質量比によって制御され、具体的には、ディスペンサ圧、塗布スピード、ペースト粘度などによって制御される。
例えば、ガラスフリットAとガラスフリットBの質量比は、1:1.5〜1:3に制御されることが好ましい。
【0023】
容器本体11の周壁11aおよび底壁11bを接合している底壁用封止部11cの材料としては、例えば、容器本体11に係るα(B0)よりも小さい線熱膨張係数を有するものであることが好ましく、具体的には、第2のガラス層12bを構成する材料と同じもの、すなわちガラスフリットBを使用することができる。
【0024】
この真空容器10において、矩形筒状の容器本体11の周壁11aの光透過窓材15側の上端部における四隅の内面の各々に補強用ガラス部13が充填された状態で形成されている。
この補強用ガラス部13は、容器本体11に係るα(B0)よりも線熱膨張係数の小さい材料、例えば第2のガラス層12bを形成するガラスフリットBと同じ材料によって形成されることが好ましく、特に、同一のガラスフリットBによって、当該第2のガラス層12bに連続して形成されていることが好ましい。
このような補強用ガラス部13が形成されていることにより、四隅には接合時に焼成に伴う膨張・収縮による圧縮応力が集中するが、当該圧縮応力による歪を十分に緩和することができる。また、真空容器10の作製時にガラスフリットAを含む塗布液が垂れて容器本体11の周壁11aに接触することが防止される。
【0025】
真空容器10の寸法の一例を挙げると、容器本体11の外形の寸法が縦40mm×横40mm×高さ24mm、容器本体11の周壁11aの肉厚が2.2mm、底壁11bの肉厚が3.5mm、容器本体11の開口が縦35.6mm×横35.6mm、底壁用封止部11cの幅が2.2mm、高さが0.8mm、光透過窓材15の寸法が縦40mm×横40mm×厚み2.5mm、第1のガラス層12aの幅が1.5mm、高さが0.3mm、第2のガラス層12bの幅が2.2mm、高さが0.8mmである。
また、真空容器10の内部の圧力は、例えば10-4〜10-6Paとされる。
【0026】
〔真空容器の作製方法〕
以上のような真空容器10は、以下のように作製することができる。
すなわち、まず、第1のガラス層12aおよび第2のガラス層12bを形成するガラスフリットA,Bを、それぞれ、ガラスフリット:ビヒクルが質量比で例えば10:1となるようビヒクルと混合して塗布剤A,Bを調製する。
ビヒクルとしては、例えば、n−ブチルカルビトールアセテートおよびエチルセルロース粉末を、質量比でn−ブチルカルビトールアセテート:エチルセルロース粉末=500:23の割合で混ぜたものを用いることができる。
【0027】
次に、底壁11bの周壁11aと接合すべき部分に第2のガラス層12bを形成するガラスフリットBに係る塗布剤Bを塗布して仮焼成を行うことにより、底壁11bの表面に枠状のガラスフリット部11cxが形成された封止剤付き底壁101を作製する。
さらに、周壁11aの上端面に第2のガラス層12bを形成するガラスフリットBに係る塗布剤Bを塗布すると共に、図4に示されるように、当該周壁11aの上端部における四隅の内面に上端面に塗布したものと連続して当該塗布剤Bを塗布して仮焼成を行うことにより、周壁11aの上端面に枠状のガラスフリット部12bxが形成されると共に上端部における四隅の内面に補強用ガラス部13となるガラスフリット部13xが形成された封止剤付き周壁102を作製する。
また、光透過窓材15の容器本体11と接合すべき部分に第1のガラス層12aを形成するガラスフリットAに係る塗布剤Aを塗布して仮焼成を行うことにより、裏面15Aに枠状のガラスフリット部12axが形成された封止剤付き光透過窓材103を作製する。
これらの封止剤付き光透過窓材103のガラスフリット部12axと、封止剤付き周壁102のガラスフリット部12bxが接触するよう合わせ、同時に、封止剤付き底壁101のガラスフリット部11cxと周壁11aの下端面を合わせて本焼成を行うことにより、真空容器10を作製することができる。
【0028】
容器本体11に係る仮焼成の温度は、例えば430〜450℃、仮焼成の時間は、例えば15〜30分間とされる。
また、光透過窓材15に係る仮焼成の温度は、例えば430〜450℃、仮焼成の時間は、例えば15〜30分間とされる。
さらに、本焼成の温度は、例えば450〜500℃、本焼成の時間は、例えば15〜30分間とされる。
【0029】
本発明の電子線励起型光源装置は、上記のような真空容器10内に、電子線源30およびこの電子線源30からの電子線によって光を放射する半導体発光素子20が備えられてなる。
具体的には、真空容器10内に、半導体発光素子20が、その表面(図1(a)において上面)20aが光透過窓材15に離間して対向するよう配置され、この半導体発光素子20の周辺領域、具体的には、半導体発光素子20の表面上の領域および裏面上の領域以外の当該半導体発光素子20に近接した領域には、支持基板31上に面状の電子線放出部32が形成されてなる電子線源30が、当該半導体発光素子20を取り囲むよう配置されている。具体的には、電子線源30は円環状の帯状体よりなり、当該電子線放出部32における電子線が放出される表面が半導体発光素子20の表面20aと同方向を向いた姿勢すなわち真空容器10の光透過窓材15側を向いた姿勢で、半導体発光素子20を取り囲むよう配置され、この状態で、支持部材37を介して真空容器10における容器本体11の底壁11bに固定されている。半導体発光素子20および電子線源30は、真空容器10の内部から外部に引き出された例えばコバールメタルからなる導電線を介して、真空容器10の外部に設けられた、加速電圧を印加するための電子加速用電源50に電気的に接続されている。また、半導体発光素子20は、その裏面20b側に設けられた高熱伝導部材16上に固定されている。
【0030】
真空容器10内において、半導体発光素子20に対して電子線源30より外方の位置には、電子線源30から放出された電子線の軌道を半導体発光素子20における光が放射される表面20aに向かって指向させる電界制御用電極40が配置されている。具体的には、電界制御用電極40は、電子線源30の外径より大きい内径を有する胴部41と、この胴部41に連続して形成された、先端(図1(a)において上端)に向かって小径となるテーパ部42とよりなる円筒体よりなり、電子線源30の外周を取り囲むよう配置されており、当該電界制御用電極40の基端が、真空容器10における容器本体11の底壁に固定されている。電子線源30および電界制御用電極40は、真空容器10の内部から外部に引き出された例えばNi−Fe合金からなる導電線を介して、真空容器10の外部に設けられた電界制御用電源52に、電子線源30が正極、電界制御用電極40が負極となるよう電気的に接続されている。
【0031】
高熱伝導部材16を構成する材料としては、銅などの熱伝導性の高い金属やダイヤモンドなどを用いることができる。
【0032】
半導体発光素子20は、図5に示すように、例えばサファイアよりなる基板21と、この基板21の一面上に形成された例えばAlNよりなるバッファ層22と、このバッファ層22の一面上に形成された、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造を有する活性層25とにより構成されている。
この例における半導体発光素子20は、活性層25が真空容器10における光透過窓材15に対向した状態で、基板21が高熱伝導部材16にロウ付け等で接合されている。
基板21の厚みは、例えば10〜1000μmであり、バッファ層22の厚みは、例えば100〜1000nmである。
また、半導体発光素子20における活性層25と電子線源30との離間距離は、例えば5〜15mmである。
また、半導体発光素子20における光が出射される表面20aと光透過窓材15の内面との距離は、例えば3〜25mmである。
【0033】
活性層25は、それぞれInx Aly Ga1-x-y N(0≦x<1,0<y≦1,x+y≦1)からなる単一量子井戸構造または多重量子井戸構造であり、単一または複数の量子井戸層26と単一または複数の障壁層27とが、バッファ層22上にこの順で交互に積層されて構成されている。
量子井戸層26の各々の厚みは、例えば0.5〜50nmである。また、障壁層27はその禁制帯幅が量子井戸層26のそれよりも大きくなるように組成を選択され、一例としては、AlNを用いればよく、各々の厚みは量子井戸層26の井戸幅より大きく設定され、具体的には、例えば1〜100nmである。
活性層25を構成する量子井戸層26の周期は、量子井戸層26、障壁層27および活性層25全体の厚みや、用いられる電子線の加速電圧などを考慮して適宜設定されるが、通常、1〜100である。
【0034】
上記の半導体発光素子20は、例えばMOCVD法(有機金属気相成長法)によって形成することができる。具体的には、水素および窒素からなるキャリアガスと、トリメチルアルミニウムおよびアンモニアからなる原料ガスとを用い、サファイアよりなる基板21の(0001)面上に気相成長させることにより、所要の厚みを有するAlNからなるバッファ層22を形成した後、水素ガスおよび窒素ガスからなるキャリアガスと、トリメチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリメチルインジウムおよびアンモニアからなる原料ガスとを用い、バッファ層22上に気相成長させることにより、所要の厚みを有するInx Aly Ga1-x-y N(0≦x<1,0<y≦1,x+y≦1)からなる単一量子井戸構造または多重量子井戸構造を有する活性層25を形成し、以て、半導体発光素子20を形成することができる。
【0035】
上記のバッファ層22、量子井戸層26および障壁層27の各形成工程において、処理温度、処理圧力および各層の成長速度などの条件は、形成すべきバッファ層22、量子井戸層26および障壁層27の組成や厚み等に応じて適宜に設定することができる。
また、InAlGaNよりなる量子井戸層26を形成する場合には、原料ガスとして、上記のものに加えてトリメチルインジウムを用い、処理温度をAlGaNよりなる量子井戸層26を形成する場合よりも低く設定すればよい。
また、半導体多層膜の形成方法は、MOCVD法に限定されるものではなく、例えばMBE法(分子線エピタキシー法)なども用いることができる。
【0036】
図1に示すように、電子線源30における電子線放出部32は、多数のカーボンナノチューブが支持基板31上に支持されることによって形成されており、電子線源30における支持基板31は、板状のベース上に固定されている。また、電子線源30における電子線放出部32の上方には、当該電子線放出部32から電子を放出するための網状の引き出し電極35が当該電子線放出部32に離間して対向するよう配置され、この引き出し電極35はベースに固定されている。支持基板31および引き出し電極35は、真空容器10の内部から外部に引き出された例えばNi−Fe合金からなる導電線を介して、真空容器10の外部に設けられた電子線放出用電源51に電気的に接続されている。
電子線源30の寸法の一例を挙げると、支持基板31の外径が25mm、内径が19mm、厚みが0.1mm、電子線放出部32の外径が24mm、内径が20mm、厚みが0.02mm、電子線放出部32における電子線が放出される面の面積が138mm2 である。
【0037】
支持基板31を構成する材料としては、鉄、ニッケル、コバルト、クロムのいずれかを含む金属材料などを用いることができる。
支持基板31上にカーボンナノチューブよりなる電子線放出部32を形成する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば表面に金属触媒層が形成された支持基板31を加熱し、COやアセチレン等のカーボンソースガスを供給することにより、支持基板31の表面に形成された金属触媒層上にカーボンを堆積してカーボンナノチューブを形成する熱CVD法、アーク放電法等によって形成されたカーボンナノチューブの粉体および有機バインダーが液状媒体中に含有されてなるペーストを調製し、このペーストをスクリーン印刷によって支持基板31の表面に塗布して乾燥するスクリーン印刷法などを好適に用いることができる。
また、引き出し電極35を構成する材料としては、鉄、ニッケル、コバルト、クロムのいずれかを含む金属材料などを用いることができる。
【0038】
電界制御用電極40を構成する材料としては、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウム、銀、銅、チタン、ジルコニウムのいずれかを含む金属材料などを用いることができる。
電界制御用電極40の寸法の一例を示すと、胴部41の内径が34mm、軸方向の長さが12mm、テーパ部42の先端における内径が28mm、軸方向の長さが3mm、胴部41に対するテーパ部42の傾きは例えば45°、電界制御用電極40を構成する円筒体の肉厚が0.3mmである。
【0039】
上記の電子線励起型光源装置においては、電子線源30と引き出し電極35との間に電圧が印加されると、当該電子線源30における電子線放出部32から引き出し電極35に向かって電子が放出され、この電子は、半導体発光素子20と電子線源30との間に印加された加速電圧によって、半導体発光素子20に向かって加速されて電子線が形成されると共に、加速電圧および電界制御用電源52によって電子線源30と電界制御用電極40との間に印加される電圧により、電子線源30からの電子線は、半導体発光素子20における光が放射される表面20aに向かって指向されてその軌道が放物線状となり、その結果、当該電子線は、半導体発光素子20の表面20aすなわち活性層25の表面に入射される。
そして、半導体発光素子20においては、電子線が入射されることによって活性層25の電子が励起され、これにより、当該半導体発光素子20における電子線が入射された表面20aから紫外線などの光が放射され、真空容器10における光透過窓材15を介して当該真空容器10の外部に出射される。
以上において、電子線放出用電源51によって電子線源30と引き出し電極35との間に印加される電圧は、例えば1〜5kVである。
また、電子加速用電源50によって印加される電子線の加速電圧は、6〜12kVであることが好ましい。加速電圧が過小である場合には、高い光の出力を得ることが困難となる。一方、加速電圧が過大である場合には、半導体発光素子20からX線が発生しやすくなり、また、電子線のエネルギーにより、半導体発光素子20がダメージを受けやすくなるため、好ましくない。
また、電界制御用電源52によって電子線源30と電界制御用電極40との間に印加される電圧は、例えば−2〜2kVである。
【0040】
以上のような電子線励起型光源装置によれば、光透過窓材15または容器本体11よりも低い線熱膨張係数を有し、かつ、互いに主成分が同一であり異種のガラスフリットA,Bから形成された第1のガラス層12aおよび第2のガラス層12bが積層されてなる封止部12によって光透過窓材15と容器本体11とが接合されている。このために、容器本体11と光透過窓材15とが線熱膨張係数差のある異種材料によって構成される場合であっても、封止部12によって当該容器本体11および当該光透過窓材15の線熱膨張係数差による歪を十分に緩和することができるので、これらの接合時にクラックが発生せず、従って、真空容器10の真空密閉性が確保される。
【0041】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0042】
〔実験例1〕
下記の仕様の真空容器〔1〕を10個作製した。
具体的には、まず、n−ブチルカルビトールアセテートおよびエチルセルロース粉末を、質量比でn−ブチルカルビトールアセテート:エチルセルロース粉末=500:23の割合で混ぜることによりビヒクルを調製し、このビヒクルに、低融点ガラスフリットAまたは低融点ガラスフリットBを、低融点ガラスフリットAまたは低融点ガラスフリットB:ビヒクルが質量比で10:1となるよう混合して塗布剤〔A〕、〔B〕を調製した。
次に、周壁(11a)の上端面に塗布剤〔B〕を塗布すると共に、当該周壁(11a)の上端部における四隅の内面に上端面に塗布したものと連続して当該塗布剤〔B〕を塗布し、450℃で15分間仮焼成を行うことにより、周壁(11a)の上端面に枠状のガラスフリット部(12bx)が形成されると共に上端部における四隅の内面に補強用ガラス部(13)となるガラスフリット部(13x)が形成された封止剤付き周壁(102)を作製した。
また、底壁11bの周壁11aと接合すべき部分に塗布剤〔B〕を塗布し、450℃で15分間仮焼成を行うことにより、底壁11bの表面に枠状のガラスフリット部(11cx)が形成された封止剤付き底壁(101)を作製した。
また、光透過窓材(15)の容器本体(11)と接合すべき部分に塗布剤〔A〕を塗布し、450℃で15分間仮焼成を行うことにより、裏面(15A)に枠状のガラスフリット部(12ax)が形成された封止剤付き光透過窓材(103)を作製した。
これらの封止剤付き光透過窓材(103)のガラスフリット部(12ax)と、封止剤付き周壁(102)のガラスフリット部(12bx)が接触するよう合わせ、同時に、封止剤付き底壁(101)のガラスフリット部(11cx)と周壁(11a)の下端面を合わせて450℃で15分間本焼成を行うことにより、本発明に係る真空容器〔1〕を作製した。
【0043】
○真空容器(10):
・外形:縦40mm×横40mm×高さ30mm
○容器本体(11):
・材質:コバールガラス(線熱膨張係数α=51.5(1/K))
・外形:縦40mm×横40mm×高さ24mm
・周壁(11a)の肉厚:2.2mm
・底壁(11b)の肉厚:3.5mm
○底壁用封止部(11c):
・材質:低融点ガラスフリットB「LS−1301」(日本電気硝子製、主成分=PbO、B2 3 、線熱膨張係数α=41(1/K))
・幅:2.2mm
・高さ:1.0mm
○光透過窓材(15):
・材質:サファイア(線熱膨張係数α=70(1/K))
・外形:縦40mm×横40mm×厚み2.5mm
○第1のガラス層(12a):
・材質:低融点ガラスフリットA「LS−0151」(日本電気硝子製、主成分=PbO、B2 3 、線熱膨張係数α=67(1/K))
・幅:1.5mm
・高さ:0.3mm
○第2のガラス層(12b):
・材質:低融点ガラスフリットB「LS−1301」(日本電気硝子製、主成分=PbO、B2 3 、線熱膨張係数α=41(1/K))
・幅:2.2mm
・高さ:1.0mm
○補強用ガラス部(13):
・材質:低融点ガラスフリットB「LS−1301」(日本電気硝子製、主成分=PbO、B2 3 、線熱膨張係数α=41(1/K))
○低融点ガラスフリットAと低融点ガラスフリットBの質量比:
・質量比=0.8:2
【0044】
〔実験例2〕
実験例1において、第1のガラス層(12a)および補強用ガラス部(13)を設けなかったことの他は同様にして比較用の真空容器〔2〕を10個作製した。
【0045】
本発明に係る10個の真空容器〔1〕においては、すべてにクラックの発生が見られなかった。一方、比較用の10個の真空容器〔2〕においては、10個中10個の容器本体にクラックが生じていることが確認された。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【0047】
また、例えば、電子線励起型半導体光源装置は、電子線源とこの電子線源からの電子線によって光を放射する半導体発光素子が真空容器内に備えられていれば、その形状や配置などは限定されない。
具体的には、例えば電子線源の具体的な形状は、円環状に限定されず、または部分円環状、矩形の板状、その他の形状であってもよい。
また例えば、電子線源30における電子線放出部32は、カーボンナノチューブよりなるものに限定されず、種々の構成のものを用いることができる。
また例えば、電界制御用電極40においては、テーパ部42を形成することは必須のことではなく、例えば軸方向において外径および内径の各々が一様な円筒状のものであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 真空容器
101 封止剤付き底壁
102 封止剤付き周壁
103 封止剤付き光透過窓材
11 容器本体
11a 周壁
11b 底壁
11c 底壁用封止部
11cx ガラスフリット部
12 封止部
12a 第1のガラス層
12b 第2のガラス層
12bx,12ax ガラスフリット部
13 補強用ガラス部
13x ガラスフリット部
15 光透過窓材
15A 裏面
16 高熱伝導部材
20 半導体発光素子
20a 表面
20b 裏面
21 基板
22 バッファ層
25 活性層
26 量子井戸層
27 障壁層
30 電子線源
31 支持基板
32 電子線放出部
35 引き出し電極
37 支持部材
40 電界制御用電極
41 胴部
42 テーパ部
50 電子加速用電源
51 電子線放出用電源
52 電界制御用電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する容器本体および当該容器本体の開口を塞ぐ光透過窓材よりなる真空容器内に、電子線源およびこの電子線源からの電子線によって光を放射する半導体発光素子が備えられてなる電子線励起型光源装置において、
前記光透過窓材と前記容器本体とが、封止部によって気密に接合されており、
前記封止部は、当該光透過窓材に接触される第1のガラス層と、当該容器本体に接触される第2のガラス層とが積層されてなり、
前記第1のガラス層および前記第2のガラス層は、主成分が同一である異種のガラスフリットから形成されたものであり、
光透過窓材の線熱膨張係数をα(A0)、容器本体の線熱膨張係数をα(B0)、第1のガラス層の線熱膨張係数をα(A)、第2のガラス層の線熱膨張係数をα(B)としたときに、
α(A0)>α(B0)、
α(A0)>α(A)、および、
α(B0)>α(B)の関係を満足することを特徴とする電子線励起型光源装置。
【請求項2】
前記容器本体の周壁が矩形筒状であって、当該周壁の光透過窓材側の上端部における四隅の内面の各々に充填された状態で補強用ガラス部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子線励起型光源装置。
【請求項3】
前記補強用ガラス部および前記第2のガラス層は、同一のガラスフリットによって、互いに連続して形成されていることを特徴とする請求項2に記載の電子線励起型光源装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−26055(P2013−26055A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160523(P2011−160523)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)