電子音響チャンネルの適応制御とイコライゼーションの方法
電子音響チャンネル中の音場を変化させる。オーディオ信号を電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させる。該音響空間の空気圧の変化に応答して第2の電気音響変換器により他のオーディオ信号を取得する。第2のオーディオ信号と、第1のオーディオの少なくとも一部に応答して、電子音響チャンネルの推定伝達関数が定められる。この推定伝達関数は、電子音響チャンネル伝達関数における時間的変動に適応して導き出される。この推定伝達関数に基づく伝達関数を有するフィルターが得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2008年7月29日出願の米国暫定特許出願番号61/137,377に基づく優先権を主張する。この暫定特許出願はそのすべてを参照として本明細書に組み込むものとする。
【0002】
本発明の種々の特徴はオーディオ信号処理に関する。本発明の特徴には電子音響チャンネルにおける音場を修正するための方法、及び、時間的に変化する伝達チャンネルのインパルス応答を推定するようなフィルターの一次結合を構成する一組のフィルターが含まれる。また、本発明の特徴には、この方法を実行する装置、コンピュータにこの方法を実行させる、コンピュータ媒体に保存したコンピュータプログラムが含まれる。本発明の特徴は、特に、外部の周辺ノイズの影響を低減することにより及び/又はノイズの多い環境における会話の明瞭性を改善することにより、ポータブルマルチメディア装置及びポータブル通信装置の可聴性を改善するのに特に役立つ。本発明の特徴は、アクティブノイズ制御(ANC)及び種々のイコライゼーション(ライン強調(line enhancement)、及び音響エコーキャンセレーションを含む)のため、一般にどのような環境においても有効である。
【背景技術】
【0003】
アクティブノイズ制御(ANC)及び適応イコライゼーションは、外部の周辺ノイズの影響を低減し、ノイズの多い環境における会話の明瞭性を改善するために用いることができる。例えば、ANCシステムは、外乱となるノイズ信号を検出し、同じ振幅で位相が反対のサウンド波形を生成し、それにより知覚される外乱レベルを低減する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の特徴によれば、第1のオーディオ信号を第1の電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させ、該音響空間の空気圧の変化に応答して第2のオーディオ信号を第2の電気音響変換器が取得するような、電子音響チャンネル中の音場を変化させるための方法であり、(a)前記第2のオーディオ信号と、前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部に応答して、前記電子音響チャンネルの推定伝達関数を定めるステップであって、該推定伝達関数は、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出されたものであり、該推定伝達関数は、電子音響チャンネルの伝達関数の時間的変動に適応するものであることを特徴とする、推定伝達関数を定めるステップと、(b)該推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを取得し、該1つ以上のフィルターで前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部分をフィルターするステップであって、該第1のオーディオ信号の一部分は、前記第1のオーディオ信号の最初の部分であってもなくてもよいことを特徴とする、ステップとを具備する。
【0005】
本方法は、前記推定伝達関数を1以上の複数の時不変フィルターに組み込むステップをさらに具備することができる。前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、該推定伝達関数の逆バージョンの伝達関数を有することができる。前記推定伝達関数は、前記電子音響チャンネルの伝達関数において時間的変動の時間平均に応じて適応することができる。前記1以上の複数の時不変フィルターは、IIRフィルターとすることができる。あるいは、前記1以上の複数の時不変フィルターは、第1のフィルターをIIRフィルターとし第2のフィルターをFIRフィルターとする2つのフィルターの縦列接続とすることができる。加えて、前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、IIRフィルターとすることができる。あるいは、前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、第1のフィルターをIIRフィルターとし第2のフィルターをFIRフィルターとする2つのフィルターの縦列接続とすることができる。
【0006】
推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出すことができる。あるいは、推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせの1つから他の1つにクロスフェードさせることにより、定めることができる。さらなる代替案として、伝達関数のグループのうちの2以上を選択し、誤差最小化技法に基づき、選択した伝達関数を重み付けして線型結合することにより、該伝達関数を定めることができる。
【0007】
前記伝達関数のグループの1以上の特性には、時間と共に変動するインパルス応答の範囲全体にわたる電子音響チャンネルのインパルス応答が含まれていてもよい。該インパルス応答は、実際の伝達チャンネル及び/又はシミュレートした伝達チャンネルで測定したインパルス応答とすることができる。
【0008】
前記伝達関数のグループの特性を、固有ベクトル法により取得することができる。例えば、該伝達関数のグループの特性を、時不変フィルター特性の自己相関マトリックスの固有ベクトルを導き出すことにより、取得することができる。あるいは、マトリックスの行が時不変フィルター特性の大きいほうの特性となっている直交マトリックスの特異値分解を行い固有ベクトルを導き出すことによって、確定した時不変フィルターのグループの特性を取得することができる。
【0009】
第1の電気音響変換器は、ラウドスピーカー、イヤースピーカー、ヘッドフォンイヤーピース、及び、イヤーバッドのうちの1つとすることができる。
【0010】
第2の電気音響変換器はマイクロフォンである。
【0011】
前記音響空間は、耳を覆うカップ、又は耳の周りのカップにより、少なくともある程度の制約を受ける小音響空間とすることができ、この小音響空間が取り囲まれる程度は、この耳カップの耳への接近度及び耳へのセンタリングの程度による。電子音響チャンネルの伝達関数の変化は、耳に対する小音響空間の位置の変化の結果生じることがある。
【0012】
電子音響チャンネルの伝達関数の各推定値は、ある周波数範囲でのチャンネルの振幅応答の推定値とすることができる。
【0013】
前記音響空間は、また、オーディオ外乱信号を受け取ることがある。
【0014】
前記音響空間は、また、オーディオ外乱信号を受け取ることがあり、前記第1のオーディオ信号には、(1)前記第2のオーディオ信号と前記電子音響チャンネルの伝達関数の推定値に基づき前記第1のオーディオ信号を前記フィルターに適用して得られたオーディオ信号との差から導き出された誤差フィードバック信号であって、この差は、その伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンとなる1以上のフィルターによりフィルターされたものであることを特徴とする、誤差フィードバック信号と、(2)スピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号が含まれる。
【0015】
本発明の特徴によれば、電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答によりオーディオの外乱を減少又はキャンセルするアクティブノイズキャンセラーを提供することができる。
【0016】
前記第1のオーディオ信号は、ターゲット応答フィルターにより、そして1以上のフィルターによりフィルターされたオーディオ入力信号を含むことができる。
【0017】
本発明の特徴によれば、電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答が、ターゲット応答フィルターの応答を模擬するイコライザーを提供することができる。
【0018】
前記音響空間は、また、オーディオ外乱信号を受け取ることがあり、前記第1のオーディオ信号には、(1)前記第2のオーディオ信号と前記電子音響チャンネルの伝達関数の推定値に前記第1のオーディオ信号を適用して得られたオーディオ信号との差から導き出された誤差フィードバック信号であって、この差は、その伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンとなる1以上のフィルターによりフィルターされたものであることを特徴とする、誤差フィードバック信号と、(2)ターゲット応答フィルターによりフィルターされ、また、その伝達関数が、前記推定伝達関数の逆バージョンとなるような1以上のフィルターによりフィルターされたスピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号とが含まれる。
【0019】
本発明の特徴によれば、電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答によりオーディオの外乱を減少又はキャンセルするアクティブノイズキャンセラーを提供することができ、また、電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答が、ターゲット応答フィルターの応答を模擬するイコライザーを提供することができる。ターゲット応答フィルターは、平坦な応答を有するようにすることができ、この場合該フィルターを省略することができる。あるいは、該ターゲット応答フィルターは、拡散音場応答を有し、又は、該ターゲット応答フィルターの特性をユーザーが定めることができる。
【0020】
伝達関数が、前記推定伝達関数の逆バージョンとなるような1以上のフィルターは、下部周波IIRフィルター及び上部周波FIRフィルターを縦続接続して構成される。
【0021】
前記第1のオーディオ信号は、聞こえない人工的な選択した信号を具備する。
【0022】
このような構成は、前記第2のオーディオ信号と、周波数領域におけるディジタルオーディオ信号としての第2のオーディオ信号の少なくとも一部に対応することができる。
【0023】
本発明のもう1つのの特徴によれば、第1のオーディオ信号を第1の電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させ、該音響空間の空気圧の変化に応答して第2のオーディオ信号を第2の電気音響変換器が取得するような、電子音響チャンネル中の音場を変化させるための方法であり、(a)前記第2のオーディオ信号と前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部とに応答して、オーディオ周波数が高い一定の範囲より低いオーディオ周波数の範囲で前記電子音響チャンネルの推定伝達関数を定めるステップであって、該推定伝達関数は、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出されたものであり、該推定伝達関数は、電子音響チャンネルの伝達関数の時間的変動に適応するものであることを特徴とする、推定伝達関数を定めるステップと、(b)オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲の伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを前記推定伝達関数に基づき取得し、該1つ以上のフィルターで前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部分をフィルターするステップであって、該第1のオーディオ信号の一部分は、前記第1のオーディオ信号の最初の部分であってもなくてもよいことを特徴とする、ステップと、(c)前記低いオーディオ周波数の範囲より高い周波数の範囲の伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを取得するステップは、勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とする、ステップと、を具備する。
【0024】
本発明のこの特徴によれば、さらに、オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲での前記推定伝達関数を1以上の複数の時不変フィルターと共に組み込むことができる。
【0025】
オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲の伝達関数が、前記推定伝達関数に基づく前記1以上のフィルターは、該周波数の範囲での推定伝達関数の逆バージョンである伝達関数を持つ。
【0026】
前記勾配降下を最小にする処理は、前記第2のオーディオ信号と、前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差に応じるようにすることができる。
【0027】
オーディオ周波数が高い一定の範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定する前記フィルターは、1以上のIIRフィルターとすることができ、該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有する前記フィルターは、1以上のFIRフィルターとすることができる。
【0028】
前記音響空間はまた、オーディオの外乱と、(1)前記第2のオーディオ信号と前記前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差から導き出される誤差フィードバック信号であって、前記差は、(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンであることを特徴とするフィルターと(b)オーディオ周波数が低い前記範囲より高いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とするフィルターとを直列に構成したものによりフィルターされることを特徴とする、誤差フィードバック信号、及び(2)スピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号を含むことのできる前記第1のオーディオ信号と、を受け取ることができる。
【0029】
代替的に、前記音響空間はまた、オーディオの外乱と、(1)前記第2のオーディオ信号と前記前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差から導き出される誤差フィードバック信号であって、前記差は、(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンであることを特徴とするフィルターと(b)オーディオ周波数が低い前記範囲より高いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とするフィルターとを直列に構成したものによりフィルターされることを特徴とする、誤差フィードバック信号、及び(2)ターゲット応答フィルターによりフルターされ、フィルターの直列構成によりフィルターされたスピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号を含むことのできる前記第1のオーディオ信号と、を受け取る。
【0030】
本発明のさらなる特徴によれば、1組のフィルターの線型結合により時間的に変化する伝達チャンネルのインパルス応答を推定するような1組のフィルターを取得する方法であって、(a)M個のフィルターオブザベーション(observations)を取得するステップであって、該オブザベーションには、可能な時間変動範囲全体にわたる伝達チャンネルのインパルス応答が含まれることを特徴とする、ステップと、(b)M個のフィルターから、固有ベクトル方法によりN個を選択するステップと、(c)実時間で、前記伝達チャンネルの最適な推定値を形成するN個のフィルターの線型結合を決定するステップと、を具備する。
【0031】
選択した前記N個のフィルターは、前記M個のオブザベーションの自己相関マトリックスの固有ベクトルを導き出すことにより決定することができる。あるいは、選択した前記N個のフィルターは、マトリックスの行が前記M個のオブザベーションとなるような矩形行列を特異値分解することにより得られる固有ベクトルを導き出すことにより決定することができる。
【0032】
N個の固有ベクトルフィルターの各々の倍率は、勾配降下の最適化を用いて取得することができる。
【0033】
前記勾配降下の最適化では、LMSアルゴリズムを採用することができる。
【0034】
前記M個のオブザベーションは、実際の伝達チャンネル又は模擬した伝達チャンネルで測定したインパルス応答とすることができる。
【0035】
本発明の発明の特徴によれば、一般的な(理想的でない)電子音響チャンネルとその周囲環境条件でのリスニング体験を改善することができる。「電子音響チャンネル」は、耳に関連する音響空間として定義することができ、ラウドスピーカー又はイヤースピーカーのような電気音響変換器が、その音響空間の空気圧を変化させるのであり、従って、電子音響チャンネルには、電気音響変換器と、この変換器とリスナーの鼓膜との間にある音響空間とが含まれる。そのようないくつかの応用例では、電子音響チャンネルは、柔軟な又は堅固なイヤーカップにより少なくとも部分的に境界を定めることができる。本発明の種々の例示的な実施の形態において、さらに、マイクロフォンのような電気音響変換器は、音響空間に適切に配置されて、音響空間の空気圧を感知し、それにより、電子音響チャンネル応答の推定値を導き出す。
【0036】
本発明の発明の特徴によれば、ANC及び/又はイコライザーは、電子音響チャンネルの伝達関数における短時間変動に応答して、それに適応することができる。この適応の効果を、リスニング「スィートスポット」に拡張する。スィートスポットとは、効果的な結果が得られる状態にしたままで、再生装置を物理的に置いておくことのできる領域をいう。本発明の例示的な実施の形態では、ANCとイコライゼーションとを別々に又は統合して提供することができる。ここで、イコライゼーションをANCに統合することによるコスト上昇は無視できるかもしれない。
【0037】
本発明の特徴は、例えば、少なくとも、整合性の高い変換器と、残響を広くした比較的少数の変換器とにより特徴付けられる音響環境に適用可能である。変換器は、線型フィルターとしてモデル化されたとき、最小位相フィルターモデル又は最小位相フィルターに近似するモデルとなる。最小位相変換器に必要とされる条件は、ANCは一般に1.5kHz以下のノイズ信号に対して最も効果的なので、限られた周波数範囲に適用することができる。ANCは、音声通信及び音楽の再生が力強い周辺ノイズ環境の下で行われる、イヤーバッド、ブルートゥースヘッドセット、ポータブルヘッドフォン、携帯電話のような、携帯用マルチメディア装置で展開することに適している。さらに、関係する電子音響チャンネルは小さくなることがあり(例えば、耳介に押し付けた携帯電話、外耳道に直接挿入したイヤーバッド、及び、部分的または完全に密閉したヘッドフォン)、音響的共振周波数がさらに分離し、種々のチャンネル共鳴がシステム内に容易に生じることを暗示している。このような特性は、本発明の特徴により利用され、適応「イヤースピーカー」システム(リスナーの耳に近接配置するサウンド再生装置)の設計を簡単化する。
【0038】
本発明の特徴では、イヤースピーカーの低性能の主要な原因、すなわち、ラウドスピーカーから外耳道までの電子音響チャンネルの伝達関数の変動性、に取り組んでいる。携帯電話のユーザーは、遠いところからの話者の話を聞くときにこの現象を経験しており、しばしば、無意識に携帯電話と耳との相対的な位置や角度を瞬時に調整することにより、チャンネルを「最適化」している。密閉型ヘッドフォンを使うときであっても、イヤーカップと頭との間の音響的密閉性、イヤーカップの位置、耳介の大きさや形のようなリスナー特有の属性、及びリスナーが眼鏡をかけているかどうかにより、その伝達関数が変動する。航空機の乗客環境において、リスナーが、適応システムでない密閉型ヘッドフォンを用いている場合、1mmの隙間において、航空機のエンジンノイズを低周波で打ち消す程度は11dBまでである。
【0039】
いくつかのディジタルでの本発明の特徴の実施の形態では、複数の時不変IIR(無限インパルス応答)フィルターの1以上の線型結合を適応的に採用する。このような構成は、例えば、電子音響チャンネルの変化を速やかに追跡するのに好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の特徴による、フィードバックに基づくアクティブノイズ制御プロセッサ又はフィードバックに基づくアクティブノイズ制御処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図2】本発明の特徴による、イヤースピーカーイコライジングプロセッサ又はイヤースピーカーイコライジング処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図3】本発明の特徴による、フィードバックに基づくアクティブノイズ制御とスピーカーイコライジングとの結合プロセッサ又はフィードバックに基づくアクティブノイズ制御とスピーカーイコライジングとの結合処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図4】広帯域外乱信号の存在下で狭帯域パイロットノイズ信号を注入した場合の例を示す、仮想的な振幅と周波数応答である。
【図5】適応分析が時間領域ではなく周波数領域で動作する、フィードバックに基づくアクティブノイズ制御プロセッサ又はフィードバックに基づくアクティブノイズ制御処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図6】フィルタリングの制御及びフィルタリングの推定プラントの一方又は両方を、直列に構成した2つ以上のフィルター又はフィルタリングの要素に分解することを特徴とする、本発明の特徴によるプロセッサ又は処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図7】時間的変動に基づくプラントの適応を、外乱信号の特性に基づきフィルターの制御を最適化するよう設計した付加的な適応フィルターと結合することを特徴とする、本発明の特徴によるアクティブノイズ制御プロセッサ又はアクティブノイズ制御処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図8】時間的変動に基づくプラントの適応を、外乱信号の特性に基づきフィルターの制御を最適化するよう設計した付加的な適応フィルターと結合することを特徴とする、本発明の特徴によるアクティブノイズ制御及び量子化プロセッサ又はアクティブノイズ制御及び量子化処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図9】単一のフィルター又は単一のフィルタリング機能のためのパラメータを取得することを特徴とする本発明の特徴によるアクティブ分析装置又はアクティブ分析処理の実施例の機能ブロック図である。
【図10】複数のフィルター又は複数のフィルタリング機能のためのパラメータを取得することを特徴とする本発明の特徴によるアクティブ分析装置又はアクティブ分析処理の実施例の機能ブロック図である。
【図11】フィルタリング応答に応答して逆フィルタリング応答を導き出すためのフィードバック勾配降下構成の機能ブロック図である。
【図12】本発明の特徴による、アクティブノイズ制御プロセッサ(又はアクティブノイズ制御プロセッサ機能)及び/又はイコライゼーションプロセッサ(又はイコライゼーションプロセッサ機能)の一部の、実質的に類似する実施の形態の例の機能ブロック図である。
【図13】フィルター又はフィルタリング機能のセットの最適重み付けを決定するための、勾配降下を最小にする構成の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明及びその種々の特徴は、上記のように、アナログ信号又はディジタル信号を使用する。ディジタルの領域において、装置及び処理は、オーディオ信号がサンプル値として表されるディジタル信号のストリームに対して作用する。
【0042】
ヘッドフォンのようなイヤースピーカーの低周波数応答は、イヤースピーカーが耳から離れるにつれて減衰することがよく知られている。同様に、ヘッドフォンが最適な位置にない場合、空隙(音漏れ)がヘッドフォンの回りで生じることがあり、従って、低周波数応答が音漏れの程度に比例した量だけ低くなることがある。本願発明者は、音漏れの関数としてのこの周波数応答の変化が特定の周波数値以下の周波数に限定され、この周波数値はイヤースピーカー毎に異なることを見つけた。この周波数を越える値での振幅周波数応答の変動は、ヘッドフォンの音漏れの関数としての変動は少ないと考えられる。振幅周波数応答の変動は、非常に低い周波数(約100Hz)では、約15dBであろう。
【0043】
イヤースピーカーと外耳道との間の音響空間が少ないとき、部屋での一般的な反響は計測上の要因とはならない。部屋の音響効果はそのような電子音響チャンネルに影響を与えないと考えることができる。このように単純化することで、公称周波数範囲で、遅れがあることを除いて実質的に最小の位相であり、帯域制限された範囲で逆変換可能な振幅周波数応答を有する、チャンネルが得られる。先の帯域の単純化により、電子音響モデルの範囲が、リスナーに不快な、又は動作を不安定にする要因となる共鳴のピークを生じさせないようにするために、最小限の刻み目又は浅い刻み目を振幅応答にもたらすような周波数範囲になるよう制限される。
【0044】
電子音響チャンネルシステムの識別には、15kHZ以下の周波数が理想的であろう。現代的なアナロク又はディジタルの広帯域ノイズキャンセリングシステムにおいて(周期的な外乱を打ち消すシステムとは対照的に)、ANCによる利益が最も大きな周波数範囲は15kHZ以下の周波数であることがひとつの理由である。これは、一般的なイヤースピーカーの受動的分離は、1メートルの1/3の波長より長い分離周波数で、それより短い周波数の場合より効果が少ないからである。さらに、1メートルの1/3の波長より長い波長を持つ波形はハードウェアのシステムレイテンシによる影響は少ないので、ノイズキャンセレーションに適しノイズキャンセレーションを効果的にする最も重要な周波数範囲にシステム識別の焦点を絞ることが好ましい。これは振幅応答の範囲全体にわたって絶え間なくに変化するので、電子音響チャンネルは、線形的で絶え間なく時間的に変化するフィルターとしてモデル化することができる。
【0045】
図1は、本発明の特徴を採用し、オーディオ(スピーチ/ミュージック)入力を有する、フィードバックに基づくアクティブノイズ制御プロセッサ又はフィードバックに基づくアクティブノイズ制御処理方法の実施例を示す。図1及び他の図において、実線はオーディオ経路を表し、点線は、例えばパラメータのような、フィルターを定義付ける情報の1以上のフィルターへの伝達を表す。実施例を理解するために必要ではないいくつかの要素は図1に示されず、また、本発明の他の実施の形態においても示されていない。例えば、図1〜3及び5〜8の実施例におけるプロセッサ又は処理方法が主にディジタル領域で動作するとき、イヤースピーカー2を動作させるためにディジタル‐アナログ変換器及び適切な増幅が必要であり、マイクロフォン4の出力でアナログ‐ディジタル変換器と共に適切な増幅が必要である。多くの図において、類似のあるいは対応する装置又は機能には同じ参照番号が割り振られている。
【0046】
図1の例に示したような、ANCプロセッサ又はANC処理方法では、周囲の外乱サウンドを聞こえにくくするように、電子音響チャンネルGの知覚されるオーディオ出力を修正しようとする。このようなサウンドは、例えば、人の話し声、航空機のエンジン、部屋のノイズ、道路のノイズ、反響音を含む様々な音であろう。第1のオーディオ信号は、音響空間、例えば、耳に近い(耳は示されていない)小音響空間における空気圧を変化させる、イヤースピーカー2(記号で示されている)のような第1の電気音響変換器に適用される。この音響空間は、音響空間における空気圧の変化に応答しマイクロフォン信号eを生成するマイクロフォン4(記号で示されている)のような、第2の電気音響変換器を有する。この音響空間はまた、周囲のサウンド外乱dによる空気圧の変化の影響を受ける。イヤースピーカー2とマイクロフォン4との間の電子音響応答は、マイクロフォン出力とイヤースピーカー入力の比を数学的にモデル化した、電気機械的フィルターGとして表現することができよう。これは、当業者の間では、「プラント(plant)」として知られている。
【0047】
本発明の特徴によれば、プラントモデルGの推定は、1以上のフィルター又はフィルター機能として組み込まれ、プラント推定機能又はプラント推定装置(プラント推定フィルタリング、G’)として示される。フィードバック信号は、減算結合器又は減算結合機能6にて、プラントモデルGの出力から推定プラントモデルG’の出力gを減算することにより得られる。もしこのプラント推定フィルタリングG’が電子音響チャンネルのモデルの推定において理想的であるとするなら、すなわち、G’=Gであるなら、減算器6からのフィードバック経路の信号xは、外乱信号dに等しい。プラント推定フィルタリングG’を含む経路は、しばしば文献で、2次経路と称される。このフィードバック経路の信号xは、1以上のフィルター又は1以上のフィルタリング機能(制御フィルタリング、W)に適用され、そのフィルタリング特性は、本発明の例示的な実施の形態において、実質的にプラント推定フィルタリングG’とは逆の特性であり、イヤースピーカー2に適用するために、加算結合器又は加算結合機能10においてスピーチの及び/又はミュージックのオーディオ信号入力に加算される、外乱を打ち消す逆位相信号x’を生成する。
【0048】
符号について、G,G’,及びWは、ディジタルシステムについてのz領域の伝達関数又は、アナログシステムについてのS領域の伝達関数である。外乱信号d及びマイクロフォン信号eは、それぞれ、時間領域での表現D(下記参照)及びE(下記参照)を表す。
【0049】
適応分析器又は適応分析機能(適応分析)12は、スピーチの及び/又はミュージックのオーディオ信号を1つの入力として、マイクロフォン4の信号を他の信号として直接受け取る。理想的には、右手側(マイクロフォン)の適応分析12への入力が、左手側(信号)入力の音響空間処理されたものになり、適応分析12入力信号がプラントGの状態によってのみ異なるようになることが望ましい(これによりプラント推定フィルタリングG’を得るときの偏りを防止する)。例えば、これは、他のインスタンス、すなわち、プラント推定機能又はプラント推定装置のコピー(プラント推定フィルタリングG’のコピー)及び、その出力Vを、加算結合器14で、結合器6の出力に加算することを適応分析12と並行して行うことにより達成できる。このようにして、二次的経路G’の出力が経路G’の出力から減算され、事実上、適応分析の右手側の入力として音響空間のマイクロフォン出力が残る。
【0050】
本発明1つの例示的実施の形態において、適応分析12の左手側信号入力は既知の信号を表す一方、右手側マイクロフォン入力は、観念的に、プラントにより処理された既知の信号のみを含む。マイクロフォン信号eは、未知のプラントGによりフィルターされたミュージック信号を含有する。しかし、イヤースピーカーからのサウンドに加え周辺ノイズがマイクロフォンによって取り込まれる。プラントの識別システムを実行する観点からは、周辺ノイズは、測定ノイズと考えられる。適応分析12はプラントの現在の状態を最適にモデル化するフィルターを選択する。測定ノイズは一般に、適応分析12におけるスピーチ/ミュージック信号と相関関係がないので、最適フィルターの選定には影響を与えない。
【0051】
本発明の精神から離れることなく、適応分析12の左手側入力と右手側入力を生成する他の方法も可能である。例えば、左手側入力はプラント入力信号から導き出すことができ、右手側入力は音響空間処理されたミュージック信号(マイクロフォン信号e)の推定値から導き出すことができる。
【0052】
さらに以下に記載するように、適応分析12は、プラント推定フィルタリングG’とプラント推定フィルタリングのコピーG’とに適用したとき、それぞれ、電気音響チャンネルGの伝達関数を推定する1以上のフィルターとなる、フィルタリングパラメータを生成する。推定伝達関数G’は、1以上の複数の時不変フィルターに組み込むことができ、推定伝達関数G’は、電子音響チャンネルの伝達関数Gの変動に応じて適応的に変化する。以下に説明するように、適応分析12は、いくつかの運転モードの1つを持つことができる。適応分析12により定めたフィルター特性からフィルタリングG’及びWへの写像が存在する。
【0053】
図1のANCの実施例の構成は、可聴な外乱を最小限にしてスピーチ/ミュージックが聞こえるよう、電子音響チャンネルGの知覚オーディオ応答を提供しようとするものである。観念的には、スピーチ/ミュージック信号に影響を与えないで、逆位相信号x’が音響的に外乱信号dを打ち消すものである。これは、外乱Dからマイクロフォン4へのゲインHを最小にすることにより達成することができる。外乱Dからマイクロフォン4へのゲインHを最小にすることは、外乱Dから誤差信号出力Eへのエネルギーの移転を最小限にすることである。
【式1】
【0054】
上式から、もしG’≠Gなら(プラントGの推定が完全でないことを示す)、分母は1より小さく、Hは望ましいプラントの推定より大きい。Hがゼロとなる理想的な場合では、Wについて解くことができ(G’=G)、最適な制御フィルターWを得ることができる。
【式2】
【0055】
プラント推定G’は、時間遅れと一緒に縦列接続した最小位相フィルターとしてモデル化することができる。実際には、Gに関連付けた音響の及びスピーカーのエキサイテーションレイテンシのために、48kHzのサンプリング周波数において、3から4サンプルの時間遅れとなる。しかし、この時間遅れは、計測したGと解釈することができ、結果として生じたフィルターは、意図的に、最小位相の変換器を表す。上記は、プラントの変化に基づきシステムを適応させることが制御フィルターWを最適化することを実証している。この場合、Wはプラントの変動に最も適している。
【0056】
逆フィルタリング特性は、フィルター反転装置又はフィルター反転機能(反転)16による任意の方法で得られる。例えば、反転16は、(特にフィルタリングが単一フィルターである場合)、ルックアップテーブルを採用して計算するか、又は、例えば、勾配降下法によりオフライン又はサイドプロセス(side process)で反転を求めることができる。このような、回路外での方法については、図11の例に関して説明する。
【0057】
上述のとおり、ミュージック信号又はスピーチ信号は、制御フィルタリング,Wで逆位相信号が加算される。スピーチ/ミュージック信号は、フィードバック経路からG’経路分が除去され、逆位相信号内の成分として外乱だけが残される。このような信号除去の有効性は、GとG’とがどれだけ近似しているかによる。
【0058】
本発明の特徴は、電子音響チャンネルの実際の特性を補償すること、言い換えると、イコライゼーションを行うためにオーディオ信号の適応プレフィルタリングをもくろむものである。ANCについて説明したように、電子音響チャンネルの振幅応答への最初の寄与は、イヤースピーカーにより与えられる。電子音響チャンネルのドライバーは電子音響チャンネルの振幅応答に作用するので、プレフィルタリングにより所望のオーディオ信号を、妥当な歪みの範囲で電子音響チャンネルの特性を補償する。また、イコライザーの構成において、所望の振幅応答は、耳で、例えば、(1)ISO454(上記引例13参照)に記載されたような拡散フィールド応答、(2)ユーザーが設定したイコライゼーションの設定(3)平坦な振幅応答、に基づき結果として生じる音響表示により与えられる。拡散フィールド応答は、部屋でミュージックを聞いているような体験を大雑把にシミュレートする。
【0059】
平坦な応答は、空間表現が視聴でのコンテンツで適用されることが前提となる、バイノーラル録音のような特定の場合に好ましいであろう。電子音響チャンネルの好ましい応答は、モデルを用いることにより特定することができ、平坦な応答を持つ必要はない。好ましい応答は、スタティック(時不変)又はダイナミック(時変)とすることができる。
【0060】
図2は、本発明の特徴を採用したオーディオ(スピーチ/ミュージック)入力を有するイヤースピーカーイコライジングプロセッサ又はイヤースピーカーイコライジング処理方法の実施例を示す。オーディオ入力はターゲット応答フィルター又はターゲット応答フィルタリング処理(ターゲット応答フィルタリング,S)に入力される。ターゲット応答フィルタリング特性Sは、スタティックとしてもダイナミックとしてもよい。フィルタリング特性S及びWの直列構成によりフィルターされたオーディオ入力のバージョンをイヤースピーカー2に適用するために逆プラントフィルター又は逆プラントフィルタリング処理(逆プラントフィルタリング,W)がフィルタリングSと直列接続される。図1の典型的な実施形態に示すように、電子音響チャンネルGはイヤースピーカー2からの入力を受け取り、マイクロフォン4からの出力をおこなう。イヤースピーカー2入力及びマイクロフォン4出力は各々、プラント応答Gを推定する1以上のフィルター又はフィルタリング機能のパラメータを生成する適応分析12へのそれぞれの入力として、適用される。インバーター又は反転処理(反転)16は、図1の実施例に関連して代替的に説明したような、あらゆる適切な方法で、プラント推定フィルタリングG’特性を反転させる。反転させたフィルタリング特性は逆プラントフィルタリングWを制御する。
【0061】
電子音響チャンネルGの知覚されるオーディオ応答が、ターゲット応答フィルターSの応答にできるだけ近いことが望ましい。最適イコライザーは、この望ましい応答と電子音響チャンネル応答との比として特徴付けることができる。
【式3】
【0062】
従って、もしWがGの逆数であれば、S,W,及びGの伝達特性の直列構成を経由して聞こえる知覚される出力は、S特性である。Sは、イヤースピーカーが最適でない位置(バス応答において修正を必要とするかもしれない)にあるとき、歪みと非線型性を排除するために、オーディオ再生システムの能力により制限を受ける。図3は、本発明の特徴を採用した、フィードバックに基づくANCとイヤースピーカーイコライゼーションプロセッサ又はイヤースピーカーイコライゼーション処理方法を組み合わせた例を示す。図3の例では、図1のANCの例にイコライゼーションを付加する。図3の例において、ANCに加えてイコライゼーションを行うため、Sフィルターされたスピーチ/ミュージック信号を制御フィルタリングWに適用する。これには、左手側入力経路における制御フィルタリングWのコピーを適応分析12とV経路に挿入すること必要がある。制御フィルタリングWは観念的に電子音響チャンネル(妥当なワーキング周波数まで、及びオーディオ再生システム構成の制限範囲内で)の反対であり、制御フィルターG’の電子音響チャンネルの推定との畳み込みにより、一様時間遅れ(Nサンプル遅れ)18が生じるので、二次的経路にフィルターWもフィルターG’も必要ではない。
【0063】
この場合ターゲット応答フィルタリングが一様である平坦な応答となり、望ましいターゲット応答フィルタリングS(ターゲット応答フィルタリング,S)を経由してスピーチ/ミュージック信号を適用するために、図3のANC/EQ例を提供する。Sが一様であれば、プラントGと縦列構成のWは、平坦な応答となる。図3における反転16は、図1の例の記載に関して説明した代替例のような、任意の適切な方法で、プラント推定フィルタリングG’を反転させる。適応分析12は、以下に説明するように、スピーチ/ミュージック信号及びマイクロフォン信号からの入力を取り込むことにより実行する。図3の例において、加算結合器10は、Sフィルターされたスピーチ/ミュージック信号に作用させるために(図2に示した例にように)制御フィルタリングWの後より、制御フィルタリングWの前に置かれる。
【0064】
図1及び3の実施例によるプロセッサ又は処理方法に要求されることは、2次経路フィルターG’に適応させるために、スピーチ又はミュージック信号の存在が必要となることである。この問題を改善するために、スピーチ又はミュージックのレベルが閾値以下に下がったとき、適応処理をとめることができ、この閾値は、例えば、プラントの十分正確な識別を行うために信号対雑音比(SNR)が適応分析12を可能とするように選択する。代替的な解決策は、適応分析12入力信号に、リスナーには聞こえないがシステムには認識できる信号を注入することであり、この注入信号は周辺ノイズ(外乱)のレベルより低いときであっても、システムには認識できる。このようなパイロット狭帯域ノイズは、バンド幅、中央周波数、及び/又は、強度により変えることができる。このようなパラメータは時間と共に変化し、心理音響的原理により信号のマスキングを最適にするよう選択する。例えば、このようなパラメータは、可聴と非可聴の間の丁度可知差異(JND)での信号レベルを保持するために、オンラインで選択することができる。
【0065】
信号の注入例を、任意の周波数に対する周波数応答について図4に示している。適応分析12は、注入されたパイロットトーン音色(入力信号)を最初から有しているので、マイクロフォン信号を、パイロット狭帯域ノイズの周波数と同時に生じる周波数のみを考えるために、狭帯域でフィルターすることができる。また、システムが、パイロットノイズのパラメータの選択を非可聴にするための選択を最適化している場合、パイロットノイズは、スピーチ又はミュージックが存在するときでも注入することができる。これにより、例えば、ミュージックと外乱との間のlogSNRが負数のときでも、適応分析12の精度を改善することができる。
【0066】
図1,2,及び3の例におけるプロセッサ又は処理方法は、主にディジタル領域又はアナログ領域で実行することができる。図5の例におけるプロセッサ又は処理方法は、主としてディジタル領域で実行することができる。これは、図1のディジタル実施の形態において、適応分析12が時間領域ではなく周波数領域で動作する点で、図1の実施例と異なる。離散フーリエ変換(DFT)又は他の適切な変換のような、前方変換18及び20は、それぞれ、適応分析12入力に適用される。以下でさらに説明するように、最も関心の高い周波数(例えば、10Hzから500Hz)の範囲にわたる複素変数の大きさは、誤差エネルギーを計算するために適応分析12で用いられる。元のオーディオが周波数領域で表現されており、ANCシステムが上流の周波数領域プロセッサに組み込まれている場合、この前方変換を省略することができる。このような上流の周波数領域プロセッサは、オーディオコーディングシステムデコーダー(MPEG−4 AAC,ドルビーデジタル(Dolby Digital)、等が含まれるが、これらに限定されない)とすることができる。この場合、周波数領域変換の選択は、コード化されたオーディオ変換に適応するように行われる。他の周波数領域処理アルゴリズムを用いてもよく、ANCシステムがこのようなプロセスに合っている限りにおいて、マイクロフォン経路での前方変換は省略することができる。
【0067】
プロセッサ又は処理方法の図6の実施例は、制御フィルタリング及びプラント推定フィルタリングの一方又は両方が縦列に構成された2以上のフィルター又はフィルタリング機能に折り込まれている本発明の特徴を示す。用いる電子音響チャンネルに応じて、特定の周波数範囲内で、単一フィルターが十分正確にイヤースピーカー応答をモデル化するように振幅変動及び振幅応答の変動を小さくすることができる。例えば、15kHzを越える周波数で、最悪の場合は6dB以下の変動であり、通常の場合は3dB以下の変動である。適応分析12フィルターと低次フィルターとがそれぞれ単一のIIRディジタルフィルターである場合、フィート゛フォワード係数(零点)をフィードバック係数(極点)と入れ替えることにより、反転16に低次IIR制御フィルターを組み込むことができる。以下のように、上位周波数制御フィルターの式は、次に、ターゲット制御フィルタリングと低周波数IIRフィルターから導き出される。
【式4】
【0068】
同様に、二次的経路フィルターについては、
【式5】
【0069】
この例では、低周波数フィルターは、低次IIRフィルターとすることができる一方、高い周波数は、イヤースピーカーの高周波数特性をモデル化するために適切な長さのFIRフィルター又はIIRフィルターのどちらか一方として実施することができる。フィルタータイプ(FIR又はIIR)の組み合わせの変更、適応と固定の変更、フィルターのステージの数の変更、又は直列構成ではなく並列構成にする変更を行うことにより、他の実施の形態も可能である。W・Gの積が、Wのオフラインでの設計を通じて開ループで安定であるという制約を受けるので、WIIR・WUF・Gの積も安定となる。WUFは、Nより波長が長いキャンセリング周波数(canceling frequency)なので、WUFの適応フィルターNの長さを短くすることができる。短いNは、Nが収束時間に直接比例するので、システムの応答を改善する。
【0070】
上部周波数フィルターGUF及びWUFは、固定又は適応とすることができる。適応とする場合、適応分析12からのシステムの特定に基づき最適なフィルター係数を切換えることができる。あるいは、完全に適応分析と切り離し独立に適応させることができ、これにより、最適な上部周波数フィルター係数に収束させるためにLMSのような勾配降下アルゴリズムを採用することができる。制御と2次経路の上部周波数フィルターGUF及び/又はWUFとの、一方又は両方を適応させることができる。
【0071】
要素化したフィルター(Factored filter)も、図5の周波数領域の例に適用可能である。
【0072】
図7は、本発明の特徴によるプロセッサ又は処理方法の他の実施例を示す。この例では、プラントの時間的変動に基づく適応処理を、外乱信号の特性に基づき制御フィルターを最適化するよう設計した補助的な適応フィルタリングと合体させる。このような補助的な適応フィルタリングは、よく知られたFX−LMSアルゴリズムに基づくものとすることができる。制御装置には、特定の種類の機械からでてくるような狭帯域サウン外乱及びスピーチ調波のような音調の外乱を減衰させるために、LMSアルゴリズム又は変形したLMSアルゴリズムを組み込むことができる。この場合、第4.3章の上部周波数制御フィルターWUFは、古典的な更新方程式から導き出される係数を有する適応FIRフィルターに置き換えられる。
【式6】
【0073】
ここでWはFIRフィルター係数ベクトル、Nは制御フィルターWUFの長さ、xはプラントモデルG’でフィルターされ、フィードバック経路から見た、ベクトル化された入力アレーである。xベクトルは、最初にすべての保存された値を1インデックス値だけ時間を遅らせ、次いで、インデックス=0で新しいxサンプルを保存することにより、更新される。eは、現在の(スカラー)サンプルのマイクロフォンからの読みである。μは、収束速度とそれに反する安定性との最も良いバランスを選択するステップサイズである。
【0074】
図7の例を図6の例と比較して、静的フィルターである上部周波数制御フィルターは、フィルター係数がwである適応上部周波数制御フィルターWUFに置き換えられ、LMS更新装置又はLMS更新機能20はLMS更新方程式を組み込む。この例は、フィードバックに基づくシステムなので、LMS更新モジュールに入力したxは、FX−LMSアルゴリズムに従いフィードバック経路から導き出され、プラントモデルG’によりフィルターされる。LMS更新20もマイクロフォン信号にアクセスする必要がある。このマイクロフォン信号は、プラントによりフィルターされたスピーチ/ミュージック信号を含有し、wの準最適なフィルターへの収束に偏りを与えることがある。従って、スピーチ/ミュージック信号を誤差更新経路eから取り除くことが必要であり、これはLMS更新20に入る前のeにある付加的な結合器22として示されている。この場合、誤差信号中のスピーチ/ミュージック信号はプラントGにより既にフィルターされているので、スピーチ/ミュージック信号は、プラント推定G’によりフィルターされなければならない。
【0075】
従って、図7の例では、1)外乱特性に基づいて制御フィルターを最適化するためのよく知られたFX−LMSと、ラントの変化に基づきシステムを最適化する適応分析12との組み合わせと、2)適応分析12から導き出された係数を用いる下部周波数制御フィルターWLFと直列接続した上部周波数制御フィルターWUFとを採用する。下部周波数制御フィルターは、IIRフィルターに組み込まれたとき、IIRフィルターの応答時間が長いため、低周波数(1.5kHz以下)のプラントをモデル化するのに最も効果的である。これは、多くの周囲信号外乱で支配的な低周波数のノイズの度合いを改善する。一定の範囲で、上部周波数制御フィルターもプラントとプラントモデルとの間のずれを修正することができる。このような2重適応による形式は、FX−LMSのみに基づく単一適応方法と比べて好都合である。非常に低い周波数(100Hz)でのプラント応答の変化を補償するために、単一適応システムでは、2重適応システムに比べて非常に多数の適応フィルタータップを必要とする。これにより、(IIRフィルターのような)切り替え適応フィルターとFX−LMSフィルターとの組み合わせに基づくシステムに比べて、適応フィルターが複雑となりと適応フィルターの修飾時間が長くなる。
【0076】
図8は、図7に似た混成プロセッサ又は混成処理方法の構成を示すだけでなく、図3及び6のイコライザーの例とは異なるが、適応イコライゼーションを提供する。図8の例において、WUFフィルターは、外乱の特性によってのみ定められるので、スピーチ/ミュージック信号にWUFフィルターの応答を適用することはできない。外乱の特性は、スピーチ/ミュージック信号に関連することはないので、WUFは、逆位相相殺信号にのみ適用すべきである。そして、イコライジングフィルターWLFをスピーチ/ミュージック信号に適用する適切な方法は、ターゲット応答フィルターと縦列接続させたWLFの新たなコピーを提示することである。最初のスピーチ/ミュージック分岐又は第2のスピーチ/ミュージック分岐のどちらか一方の後の位置にフィルターを置き換えるような、システム中のWUFにおける変動が生じることがある。
【0077】
図9及び10は、図1〜3及び5〜8のプロセッサ又は処理方法の実施例で採用することができるような適応分析12の2つの実施例を示している。これらの実施例の各々において、適応分析12は、電子音響チャンネル(プラント)Gと事実上並列になっている。例えば、フィルター伝達関数と電子音響チャンネルの伝達関数との間の類似性の測度を、少なくとも低周波数(例えば、約15kHz以下)で計算することにより最適フィルターを選択する。しかし、正確なシステムの識別をもたらすことを条件として、どのような不自然な周波数範囲でも採用することができる。
【0078】
適応分析12は、プラントの異なる変動に対するG’を表す並列フィルターのバンクを参照するように動作することができる。これらのフィルターの各々は、例えば、特定の位置におけるGのインパルス応答を測定するために用いることのできる、ダミーヘッドに対するヘッドフォンのイヤーピースの固有の位置決めを表すことができる。並列フィルターは低周波数の信号を修正するので、また、電子音響チャンネルの応答は周波数を横断して比較的ゆっくりと変動するので、中程度の次数のフィルターに対して計算資源を低くすることで、非常に低い計算コストで実行することができる。ディジタルでの実施では、フィルターの各々の出力とマイクロフォン誤差信号との平均2乗誤差を、プラントGに最もぴったりするフィルターを特定するために用いる。アナログでの実施では、図12に関して以下に説明するように、コンパレータとロジック回路を最適なフィルターを選択するために用いる。
【0079】
上記実施例のようなANCシステムの実施を行うときに、設計者は、実時間動作において適応アルゴリズムが不可能になる限界を決めるために、異なるヘッドフォン位置で音響経路のインパルス応答を定量化することができる。この定量化は、既知のイヤースピーカー電子音響の経路に対して行われるので、その経路の電子音響の係数は計測する前にすべて確定することができる。
【0080】
図9は、1つのフィルターだけが選択された場合(K=I)の適応分析12の実施例を示す。一般に、オブサベーション(observations)と称される1セットとなったM個のフィルターから、適応分析12はN個のフィルターを選択する。これらのN個のフィルターから、1つのフィルターKが選ばれ、そのインデックスを分析出力として提供することができる。
【0081】
この実施例において、考えられるN個のうちの1つのフィルターは最小平均2乗誤差基準に基づき選択される。N個のフィルターは並列構成となるよう接続され、フィルターバンク又はフィルタリング機能バンク(N個の並列フィルター)24となり、各フィルターが同じ帯域を通過した入力信号を処理する。制御装置又は制御機能(制御)16は、k番目のフィルターを選択し、N個のフィルターのうちの選択されたものに基づき平均2乗誤差の時間平均を返す。適応分析12は、(図1〜3及び5〜8における、分析12への左手側入力に対応する)入力信号と、(図1〜3及び5〜8における、分析12への右手側入力に対応する)マイクロフォン信号とを受け取る。入力信号とマイクロフォン信号はそれぞれ、実質的に同じバンドバスフィルター24及び30を介して適用される。これらの通過帯域には、異なるオブサベーションM全体にわたる最大の変動が含まれる。入力信号とマイクロフォン信号は両方ともこの例ではディジタルオーディオサンプルである。これらの入力信号に応答して、制御26は1つの最適なフィルターを選択し、そのk番目のインデックスとして選択したフィルターを特定するための出力を作り出す。マッパー又はマッピング機能(マッピング)34は、このインデックスを対応するフィルター変数のセットにマップする。制御26への入力は、バンドバスフィルターされたマイクロフォン信号を、N個のフィルターでフィルターしたバンドバスフィルターされた入力信号から減算する、減算結合器32−0から32−(N−1)までの出力であり、それぞれが誤差信号を作り出し、誤差信号の振幅がフィルターNについて最小となるものが、プラントGの応答を最も親密に近似する(図1〜3及び5〜8参照)。平均化処理を受け、プラントGに最も親密に近似する制御26はフィルターのインデックスKを出力する
平均化処理は、単純な極零平滑化フィルターを用いて実行することができる。70msec(ミリセカンド)(fs=50kHz)の3dB時定数が有用であることを見つけた。1つのフィルターから他のフィルターに変更するためには、フィルター係数だけ変えればよくフィルターの状態まで変える必要はない。この変更は、1つの係数のセットから次のセットに瞬時に切換えることにより行うことができる。切り替え時に生じる可聴なアーティファクトを最小限にするために、極値及び零値についての変化は小さくすべきである。K=1の場合、図9の例に示すように、N個のフィルターの各々に応じて逆フィルターをあらかじめ計算し保存しておくことにより、反転16(図1〜3及び5〜8参照)を適用することができる。
【0082】
G’についてのフィルター係数の1つのセットから他の(極点と零点との相対距離に関して)近接するセットへクロスフェードすることは可能である。これは、古い係数を新しい係数に時間と共に置き換えることにより、あるいは、ある時間的区間でK=2を準備し、時間的に変化する重み付けした両方(古い係数のセットを持つフィルターと新しい係数のセットを持つフィルター)の和として全体的出力を計算することにより達成することができる。クロスフェード時間が適度に短い(例えば、100msec以下)ことを条件として、実際には、このようなクロスフェードを行っている間に、システムを適度に修正することが可能である。この場合、第1の係数のセットから近接する第2の係数のセットへのクロスフェードG’を行うとき、係数がオフラインで計算されるならば、あるいは、G’の逆操作として直接計算されるならば、対応するWの係数メモリーからも読み込むことができる。
【0083】
図10は、適応分析12中の装置又はプロセスが複数フィルター線型結合を選択する適応分析12の例を示す。通常、適応分析12はN個のフィルターを選択する。これらのN個のフィルターから、K個のフィルターの最小のセットとその相対的重みを特定することができ、K個のフィルター変数及びK個の重み変数を、分析出力として作り出すことができる。N個のフィルターのセットの各フィルターは、フィルターバンク又はフィルタリング機能バンク(N個のフィルター)24中に並列に構成され、各フィルターは、入力信号の同じサブ帯域バージョン上で動作する。図10の例の変種として、以下に記載するように、NとKに制限を加える。このような変種例において、誤差適応分析が分析を行う周波数の範囲を、例えば、すべてのオブザベーションを通じて最大の差異を持つ周波数に限定することができる。適応分析12は(図1〜3及び5〜8における適応分析12への左手側入力に対応する)入力信号と(図1〜3及び5〜8における適応分析12への右手側入力に対応する)マイクロフォン信号を受け取る。入力信号とマイクロフォン信号は、それぞれ実質的に同一のバンドバスフィルター24及び30を介して適用される。これらのパスバンドは異なるオブザベーションMに対して最大の変動を含むことができる。入力信号とマイクロフォン信号は両方ともディジタルオーディオサンプルである。これらのバンドバスフィルターされた入力信号に応答して、制御26は、M個のフィルター候補のうちのN個を選択し、出力として、K個のフィルター係数とK個の重み付け変数をK個のフィルター(K≦N≦M)の線型結合のための情報を提供するために、出力する。ここで、K=1のとき、図9に関連させて上述したように適応分析により処理される。従って、Mはすべての可能なフィルターのセットであり、NはK個のフィルターを決定するために並列的にテストするためのフィルターのサブセットであり、Kは、図1〜3及び5〜8の例に関して上述したように、フィルター係数のK個のセットとK個の重み付け変数をプラント推定フィルタリングに送り、逆変換させた後、制御フィルタリング(又は逆プラントフィルタリング)に送るための、並列フィルターのバンクである。制御26への入力は、バンドパスフィルターされた入力信号をフィルターしたN個の信号の各々からバンドパスフィルターされたマイクロフォン信号を減算し、各々誤差信号を生成する減算結合器32−0から32−(N−I)の出力であり、制御26では、プラントGの最も近い近似を有するフィルターの重み付けを選択しそのフィルターのフィルター変数を出力する。重み付けした複数のフィルターを選択する種々の方法を以下に説明する。
【0084】
K>1のとき、種々の実施の形態におけるプラント推定フィルタリングは、それぞれが重み付け変数を有するK個の並列フィルター又は並列フィルタリング機能のバンクとして実施することができる。本発明の特徴によれば、適応分析12により提供されるK個のフィルター変数及びK個の重み付け変数により制御されるフィルター又はフィルタリング機能は、IIRフィルター、又はFIRフィルター、又はIIRフィルターとFIRフィルターの結合によりもたらされる。
【0085】
複数フィルターKの可能なアプリケーションは(極と零点に関して)1つのフィルターから隣のフィルターへのクロスフェードを改善することである。上述したように、K個のフィルターの出力は、制御26で生成される重み付け変数を用いて混ぜ合わされる。クロスフェードの期間中ではK=2であり、それ以外ではK=1である。この方法は、(K=1のとき)先に説明した方法で2つの異なるフィルターを切換えるときに生じる可聴なアーティファクトを減少させることができる。
【0086】
複数フィルター方法の変種である、計算効率のよい方法は、フィルターMの全体の数のサブセットを検索を削減することである。これは、近似する伝達関数を持つフィルターがお互いに隣接するようなインデックスを持つようにフィルターインデックスを割り当て、検索を、平均2乗誤差が最小となる現在のフィルターに隣接するN個のフィルターに限定することにより実行する。隣りと比較して中間インデックスを持つフィルターの平均化した相対的な平均2乗誤差を監視することにより制御26にて追跡が可能である。時間が経過し、最小誤差が最終的に新たな最小値を検出するほどN個のフィルターのエンドポイントの1つに向かって動き始めた場合、N個のインデックスは、中間インデックスを持つフィルターがN個のフィルターに最小の平均2乗誤差を持ち続けるようすべてのN個のフィルターのインデックスを調整する。
【0087】
適応分析12もう1つの案は、図5の例のように、時間領域ではなく周波数領域でこれを動作させることである。この場合、平均2乗誤差による分析を両方の入力のパワースペクトル(PSD)係数に適用することができる。どのような時間・周波数変換又はフィルターバンクをこの変換を行うために用いることができる。これは、ノイズ(外乱)からの(変換器を介して再生するミュージック信号スピーチ信号の)信号分離を改善するために用いられる多くのスペクトル推定技術が可能である。1つの有用な技術は、PSD係数を時間的に平滑化することであり、ピリオドグラム(periodogram)分析により、時間と共にパワーの偏りを確実にゼロに近づける。代替的に、マルチテーパ(multitaper)方法のような他のスペクトル推定技術を使うこともできる。この手法は、適応分析12における時間領域FIRバンドバスフィルターがなくなるので、計算上の複雑さを大幅に増大させない結果となる。代わりに、最小2乗法をPSD係数に適用する範囲を限定することにより同様の結果が得られる。実際の順変換は、Mlog(M)(ここで、Mは、周波数領域係数の数である)演算のオーダーの複雑差を有するが、これでも時間領域帯域制限フィルターの複雑さのオーダー(N2)より少ない。周波数領域で一旦最適フィルターが選択されると、時間領域での等価なフィルターが時間領域フィルターに伝達される。このようにして、フィルター係数のオンラインでの逆変換も適応分析12から出力されたオーディオ信号の必要性もなくなる。フィルター係数は、あらかじめ計算したフィルター係数のテーブルから選択することができる。時間領域の数の選択は周波数領域係数の分析により導かれる。
【0088】
マルチフィルター線型結合法の他の方法は、K=NでN個のフィルターの線型結合が最適エネルギー最小フィルターを形成するよう固有ベクトル方法に従いM個のフィルターからN個を選択する。このような固有ベクトルフィルター方法に従い、N個の選択したフィルターをM個のオブザベーションについてオフラインで計算する。N個のフィルターがオフラインで既に計算されているので、M個からN個の選択をリアルタイムで実行することはない。このN個のフィルターはM個のオブザベーションを持つ自己相関マトリックスの固有ベクトルである。あるいは、M個のオブザベーションは、直交マトリックスの列を形成し、この直交マトリックスの特異値分解により、固有ベクトフィルターを生成する。制御26は続いて、例えば、LMSアルゴリズムのような勾配降下最小化処理を用いて、N個の固有ベクトルフィルターのそれぞれの係数の重み付けを計算する。すべてのN個のフィルターは、最適にフィルターされた出力K=Nを計算するために用いられる。このようにして、所定の電子音響チャンネルインパルス応答に対して、N個の固有ベクトルから構成される近似する主成分にこの応答をマップすることができる。このような固有ベクトルフィルター方法は、Mの大きな値に対して(すなわち、多数のオブザベーションに対して)、少ない数の静的フィルターNが線型結合され最適なエネルギー最小化フィルターを形成するような利点を持つ。この固有ベクトルフィルターを生成する方法を導出は、後述の、見出し「固有ベクトルフィルター設計手法」以下に示す。
【0089】
図1〜3及び5〜8の例における反転装置又は反転機能16は、制御フィルターに適用し、プラント応答と直列に分析すると、0dBより大きな特別な成分のない平坦な周波数応答となるようなスペクトル逆フィルターを導き出すためのものである。切り替え最小誤差法のために、適応分析12で選択されたフィルターが最小位相(時間遅れを除外)である場合、テーブルから読み取ることができ、又はG’の逆演算として直接計算することのできる対応するスペクトル逆フィルターの各々のフィルターに1対1マッピングが存在する。どのような適応分析方法でも、K>1では、逆フィルター係数はフィルター反転による以外の方法で計算される。例えば、図11の回路外ネットワークは反転16として採用することができる。この方法の不利な点は、スピーチ/ミュージック入力源で信号が存在するときだけ、最適化が生じることである。スピーチ/ミュージック源がないとき、最適化を凍結させるべきである。スピーチ又はミュージックのない期間の聞き取れないプローブ信号を注入するもう一つの方法は、図4の例に関連させて上述した。
【0090】
図11の例を参照して、プラント推定応答G’に基づき逆応答Wを導くためにフィードバックLMS構成を用いる。ノイズ信号d(n)は入力に適用される。第1の経路では、入力を減算結合器60でフィードバック構成の出力に加える。フィードバック構成では、結合器36からの全体出力をノイズ信号d(n)のフィルターされたもののG’コピーと比較し、G’コピーの反転のようなフィルタリングWを制御するために、LMSアルゴリズムのような適切な勾配降下型アルゴリズムを適用する。最適化したとき、G’コピーで畳み込んだWの時間遅れを持たせたものは単調であり、結果として減算結合器60の誤差信号e(n)をゼロにする。
【0091】
図12は、アナログ技術に基づく本発明の特徴の例を示すものである。ディジタルでの実施の形態に対するアナログの利点は、A/DコンバーターとD/Aコンバーターが不要なのでシステムレイテンシが短い点である。マイクロフォン4は、電子音響チャンネルGの低周波数応答の単一周波数推定を与え、望ましい応答に最も近い応答を与えるフィルターをフィルターバンク38から選択する。
【0092】
マイクロフォン4の出力はバンドバスフィルター30に適用され、続いて平均演算器又は平均機能(マイク平均)40に直列につながる。マイク平均24出力は、3つの比較器又は比較機能Cl,C2,及びC3のそれぞれの入力に適用される。スピーチ/ミュージック入力オーディオ信号は静的フィルター又は静的フィルタリング機能(静的フィルター)42に適用され、バンドバスフィルター24及び平均演算器又は平均機能(オーディオ平均)44がそれに続く。オーディオ平均44の出力は3つの比較器又は比較機能Cl,C2,及びC3のそれぞれの入力に適用される。バンドバスフィルター24及び30は、低周波数での再生平均レベルをオーディオプログラムにおける平均レベルと比較するための狭帯域周波数を分離する。比較器Cl,C2,及びC3は、どのフィルター(1,2,3,4)を選択すべきかを決めるために異なる閾値を与えるために異なるオフセットをもつ。これらの種々のフィルターの出力の間でのジッターを削減するために、比較器はヒステリシスを組み込むことができる。制御26は、最小の2乗誤差を有するフィルター20を選択する。
【0093】
アナログ実施の形態を採用する代わりに、レイテンシを下げるもうひとつの方法は、図3の例のフィードバック経路に1ビットデルタ−シグマ−サンプル化ディジタル信号処理構成を組み込むことである。このような、1ビットデルタ−シグマ−サンプル化システムでは、基本オーディオサンプリングレートの64倍のサンプリング周波数でオーディオをサンプリングすることができる。そのようにすることにより、標準のオーディオサンプリングレートでサンプルされた逆位相信号を非常に高いレートで更新し、従来のマルチビットサンプリング方法を用いて信号のサンプリングを行うことにより生じたシステムレイテンシを減少する。図3の結合器6での1ビットデルタ−シグマA/D変換器と、図3のラウドスピーカーでの1ビットデルタ−シグマD/A変換器とが必要となろう。さらに、制御フィルターW及び2次経路フィルターG’は、マルチビットフィルター係数を1ビット中間フィルター状態値に適用し、その結果フィルター出力でマルチビット出力となる。各フィルターからのマルチビット出力値は、デルタ−シグマ変換器を取り込むことにより、1ビット値に戻される。1ビットデルタ−シグマD/A変換器の直前に単一のマルチビットからデルタ−シグマモジュレータへの変換のような、フィルターとデルタ−シグマモジュレータの他の組み合わせも可能である。具体的実施の形態によっては、スピーチ/ミュージックオーディオ信号は、加算器10でマルチビットから1ビットデルタ−シグマ表現に変換する必要があるかもしれない。
【0094】
図12のアナログの例において、ディジタルの場合も含めて、単一の周波数で電子音響チャンネル応答の変化を計測することは、イヤースピーカーの感度の範囲及びマイクロフォンの感度の範囲の変動がそれぞれ音響負荷条件の変化に応じた変動とほぼ同じ大きさである点で問題がある。前提としてバンドバスフィルターにより定まる帯域の中ほどのゲインが実質的に「マイク平均」と「オーディオ平均」の信号経路の両方に実質的に等しいことである。従って、マイクロフォンとイヤースピーカーの、感度の変動を補正する方法が必要となる。
【0095】
本発明の特徴を実行する他の代替的実施の形態は、スピーチ/ミュージック信号及びマイクロフォン信号の両方のディジタルサンプルに対して適応分析12が動作し、次いで、制御フィルタリングW及びプラント推定フィルタリングG’のアナログ実施形態にアナログフィルター係数を適用するような、ディジタル/アナログ・ハイブリッド実施形態である。
【0096】
固有ベクトルフィルター導出設計プロセス
上述の固有ベクトル代替例に用いるために固有ベクトルフィルターのセットを導き出すためには、K(又はN、K=N)個の固有ベクトルフィルターをM個のオブザベーションのセットに基づいて計算する必要がある。固有ベクトルフィルターの計算Cは、オフラインで行うことができる。この固有ベクトルフィルター係数は、適切な不揮発コンピュータメモリに記憶させてもよい。
【0097】
N個のベースフィルターの選択
【式7】
【0098】
【式8】
【0099】
なぜなら
【式9】
【0100】
上記を(1)に代入すると、
【式10】
【0101】
より一般的な解は周波数重み付け関数W(ω)をコスト関数J(C)に加えることにより得られ、これは実際的な応用で非常に有用である。
【式11】
【0102】
【式12】
【0103】
実際には、さらに複雑さを削減するためにN個の基底フィルターのような固有ベクトルフィルターの周波数応答に近似する応答を有するIIRフィルターの使用が可能である。IIR基底フィルターは、例えば最小2乗フィットアルゴリズムのような適切な誤差最小化プロセスを用いて、C1(z),...,CN(z)から設計することができる。
【0104】
重み付け係数のLMS適応
実施形態
本発明は、ハードウェア又はソフトウェア又は両方を組み合わせたもの(例えば、プログラマブルロジックアレー)で実施することができる。特に記載がない限り、本発明の一部として含まれているアルゴリズム及び処理は本質的に、特定のコンピュータや他の装置と関連付けられるものではない。特に、種々の汎用機をこの記載に従って書かれたプログラムと共に用いてもよい、あるいは、要求の方法を実行するために、より特化した装置(例えば、集積回路)を構成することが便利かもしれない。このように、本発明は、それぞれ少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの記憶システム(揮発性及び非揮発性メモリー及び/又は記憶素子を含む)、少なくとも1つの入力装置又は入力ポート、及び少なくとも1つの出力装置又は出力ポートを具備する、1つ以上のプログラマブルコンピュータシステム上で実行される1つ以上のコンピュータプログラムにより実現することができる。ここに記載した機能を遂行し、出力情報を出力させるために入力データにプログラムコードを適用する。この出力情報は、公知の方法で、1以上の出力装置に適用される。
【0105】
このようなプログラムの各々は、コンピュータシステムとの通信のために、必要とされるどんなコンピュータ言語(機械語、アセンブリ、又は、高級な、手続言語、論理型言語、又は、オブジェクト指向言語を含む)ででも実現することができる。いずれにせよ、言語はコンパイル言語であってもインタープリタ言語であってもよい。
【0106】
このようなコンピュータプログラムの各々は、ここに記載の手順を実行するために、コンピュータにより記憶媒体又は記憶装置を読み込んだとき、コンピュータを設定し動作させるための、汎用プログラマブルコンピュータ又は専用プログラマブルコンピュータにより、読み込み可能な記憶媒体又は記憶装置(例えば、半導体メモリー又は半導体媒体、又は磁気媒体又は光学媒体)に保存又はダウンロードすることができる。本発明のシステムはまた、コンピュータプログラムにより構成されるコンピュータにより読み込み可能な記憶媒体として実行することを考えることもできる。ここで、この記憶媒体は、コンピュータシステムを、ここに記載した機能を実行するために、具体的にあらかじめ定めた方法で動作させる。
【0107】
本発明の実施形態は、以下に列挙した1以上の実施例に関する。
【0108】
1.第1のオーディオ信号を第1の電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させ、該音響空間の空気圧の変化に応答して第2のオーディオ信号を第2の電気音響変換器が取得するような、電子音響チャンネル中の音場を変化させるための方法であって、
前記第2のオーディオ信号と、前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部に応答して、前記電子音響チャンネルの推定伝達関数を定めるステップであって、該推定伝達関数は、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出されたものであり、該推定伝達関数は、電子音響チャンネルの伝達関数の時間的変動に適応するものであることを特徴とする、推定伝達関数を定めるステップと、
該推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを取得し、該1つ以上のフィルターで前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部分をフィルターするステップであって、該第1のオーディオ信号の一部分は、前記第1のオーディオ信号の最初の部分であってもなくてもよいことを特徴とする、ステップと、
を具備する方法。
【0109】
2.前記推定伝達関数を1以上の複数の時不変フィルターに組み込むステップをさらに具備することを特徴とする、列挙した実施例1による方法。
【0110】
3.前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、該推定伝達関数の逆バージョンの伝達関数を有することを特徴とする、列挙した実施例1による方法又は、列挙した実施例2による方法。
【0111】
4.前記推定伝達関数は、前記電子音響チャンネルの伝達関数において時間的変動の時間平均に応じて適応することを特徴とする、列挙した実施例1〜3の何れか1つに記載の方法。
【0112】
5.前記1以上の複数の時不変フィルターは、IIRフィルターであることを特徴とする、列挙した実施例3又は列挙した実施例2に従属する列挙した実施例4に記載の方法。
【0113】
6.前記1以上の複数の時不変フィルターは、第1のフィルターをIIRフィルターとし第2のフィルターをFIRフィルターとする2つのフィルターの縦列接続であることを特徴とする列挙した実施例3又は列挙した実施例2に従属する列挙した実施例4に記載の方法。
【0114】
7.前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、IIRフィルターであることを特徴とする、列挙した実施例1〜6の何れか1つに記載の方法。
【0115】
8.前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、第1のフィルターをIIRフィルターとし第2のフィルターをFIRフィルターとする2つのフィルターの縦列接続であることを特徴とする列挙した実施例1〜6の何れか1つに記載の方法。
【0116】
9.前記推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出すことを特徴とする列挙した実施例1〜8の何れか1つに記載の方法。
【0117】
10.前記推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせの1つから他の1つにクロスフェードさせることにより定めることを特徴とする列挙した実施例1〜8の何れか1つに記載の方法。
【0118】
11.前記推定伝達関数は、伝達関数のグループのうちの2以上を選択し、誤差最小化技法に基づき、選択した伝達関数を重み付けして線型結合することにより定めることを特徴とする列挙した実施例1〜8の何れか1つに記載の方法。
【0119】
12.前記伝達関数のグループの1以上の特性には、時間と共に変動するインパルス応答の範囲全体にわたる電子音響チャンネルのインパルス応答が含まれていることを特徴とする列挙した実施例1〜11の何れか1つに記載の方法。
【0120】
13.前記インパルス応答は、実際の伝達チャンネル及び/又はシミュレートした伝達チャンネルで測定したインパルス応答であることを特徴とする列挙した実施例12に記載の方法。
【0121】
14.前記伝達関数のグループの特性を固有ベクトル法により取得することを特徴とする列挙した実施例12に記載の方法。
【0122】
15.前記伝達関数のグループの特性を時不変フィルター特性の自己相関マトリックスの固有ベクトルを導き出すことにより取得することを特徴とする列挙した実施例14に記載の方法。
【0123】
16.マトリックスの行が時不変フィルター特性の大きいほうの特性となっている直交マトリックスの特異値分解を行い固有ベクトルを導き出すことによって、確定した時不変フィルターのグループの特性を取得することを特徴とする列挙した実施例14に記載の方法。
【0124】
17.前記第1の電気音響変換器は、ラウドスピーカー、イヤースピーカー、ヘッドフォンイヤーピース、及び、イヤーバッドのうちの1つであることを特徴とする列挙した実施例1〜16の何れか1つに記載の方法。
【0125】
18.前記第2の電気音響変換器はマイクロフォンであることを特徴とする列挙した実施例1〜17の何れか1つに記載の方法。
【0126】
19.前記音響空間は、耳を覆うカップ、又は耳の周りのカップにより、少なくともある程度の制約を受ける小音響空間であり、この小音響空間が取り囲まれる程度は、この耳カップの耳への接近度及び耳へのセンタリングの程度によることを特徴とする列挙した実施例1〜18の何れか1つに記載の方法。
【0127】
20.前記電子音響チャンネルの伝達関数の変化は、耳に対する小音響空間の位置の変化の結果生じることを特徴とする列挙した実施例19に記載の方法。
【0128】
21.前記電子音響チャンネルの伝達関数の各推定値は、ある周波数範囲でのチャンネルの振幅応答の推定値であることを特徴とする列挙した実施例1〜20の何れか1つに記載の方法。
【0129】
22.前記音響空間は、オーディオ外乱信号を受け取ることを特徴とする列挙した実施例1〜21の何れか1つに記載の方法。
【0130】
23.前記音響空間は、さらに、オーディオ外乱信号を受け取り、前記第1のオーディオ信号には、(1)前記第2のオーディオ信号と前記電子音響チャンネルの伝達関数の推定値に基づき前記第1のオーディオ信号を前記フィルターに適用して得られたオーディオ信号との差から導き出された誤差フィードバック信号であって、この差は、その伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンとなる1以上のフィルターによりフィルターされたものであることを特徴とする、誤差フィードバック信号と、(2)スピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号と、が含まれることを特徴とする列挙した実施例1〜21の何れか1つに記載の方法。
【0131】
24.電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答によりオーディオの外乱を減少又はキャンセルするアクティブノイズキャンセラーを備えることを特徴とする列挙した実施例23に記載の方法。
【0132】
25.前記第1のオーディオ信号は、ターゲット応答フィルターにより、そして1以上のフィルターによりフィルターされたオーディオ入力信号を含むことを特徴とする列挙した実施例1〜21の何れか1つに記載の方法。
【0133】
26.電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答が、ターゲット応答フィルターの応答を模擬するイコライザー備えることを特徴とする列挙した実施例25に記載の方法。
【0134】
27.前記音響空間は、さらに、オーディオ外乱信号を受け取り、前記第1のオーディオ信号には、(1)前記第2のオーディオ信号と前記電子音響チャンネルの伝達関数の推定値に前記第1のオーディオ信号を適用して得られたオーディオ信号との差から導き出された誤差フィードバック信号であって、この差は、その伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンとなる1以上のフィルターによりフィルターされたものであることを特徴とする、誤差フィードバック信号と、(2)ターゲット応答フィルターによりフィルターされ、また、その伝達関数が、前記推定伝達関数の逆バージョンとなるような1以上のフィルターによりフィルターされたスピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号とが含まれることを特徴とする列挙した実施例1〜21の何れか1つに記載の方法。
【0135】
28.電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答によりオーディオの外乱を減少又はキャンセルするアクティブノイズキャンセラーを備え、また、電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答が、ターゲット応答フィルターの応答を模擬するイコライザーを備えることを特徴とする列挙した実施例25に記載の方法。
【0136】
29.前記ターゲット応答フィルターは、平坦な応答を有するようにすることができ、この場合該フィルターを省略することができることを特徴とする列挙した実施例26又は列挙した実施例28に記載の方法。
【0137】
30.前記ターゲット応答フィルターは、拡散音場応答を有することを特徴とする列挙した実施例26又は列挙した実施例28に記載の方法。
【0138】
31.前記ターゲット応答フィルターの特性をユーザーが定めることを特徴とする列挙した実施例26又は列挙した実施例28に記載の方法。
【0139】
32.伝達関数が、前記推定伝達関数の逆バージョンとなるような上記1以上のフィルターは、下部周波IIRフィルター及び上部周波FIRフィルターを縦続接続して構成されていることを特徴とする列挙した実施例23又は列挙した実施例27に記載の方法。
【0140】
33.前記第1のオーディオ信号は、聞こえない人工的な選択した信号を具備することを特徴とする列挙した実施例1〜21の何れか1つに記載の方法。
【0141】
34.前記構成は、前記第2のオーディオ信号と、周波数領域におけるディジタルオーディオ信号としての第2のオーディオ信号の少なくとも一部に対応することを特徴とする列挙した実施例1〜32の何れか1つに記載の方法。
【0142】
35.第1のオーディオ信号を第1の電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させ、該音響空間の空気圧の変化に応答して第2のオーディオ信号を第2の電気音響変換器が取得するような、電子音響チャンネル中の音場を変化させるための方法であって、
前記第2のオーディオ信号と前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部とに応答して、オーディオ周波数が高い一定の範囲より低いオーディオ周波数の範囲で前記電子音響チャンネルの推定伝達関数を定めるステップであって、該推定伝達関数は、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出されたものであり、該推定伝達関数は、電子音響チャンネルの伝達関数の時間的変動に適応するものであることを特徴とする、推定伝達関数を定めるステップと、
オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲の伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを前記推定伝達関数に基づき取得し、該1つ以上のフィルターで前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部分をフィルターするステップであって、該第1のオーディオ信号の一部分は、前記第1のオーディオ信号の最初の部分であってもなくてもよいことを特徴とする、ステップと、
前記低いオーディオ周波数の範囲より高い周波数の範囲の伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを取得するステップは、勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とする、ステップと、
を具備する方法。
【0143】
36.さらに、オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲での前記推定伝達関数が1以上の複数の時不変フィルターと共に組み込まれることを特徴とする列挙した実施例35に記載の方法。
【0144】
37.オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲の伝達関数が、前記推定伝達関数に基づく1以上のフィルターは、該周波数の範囲での推定伝達関数の逆バージョンである伝達関数を持つことを特徴とする列挙した実施例35又は列挙した実施例36に記載の方法。
【0145】
38.前記勾配降下を最小にする処理は、前記第2のオーディオ信号と、前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差に応じるようにすることを特徴とする列挙した実施例35に記載の方法。
【0146】
39.オーディオ周波数が高い一定の範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルターは、1以上のIIRフィルターであり、該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターは、1以上のFIRフィルターであることを特徴とする列挙した実施例38に記載の方法。
【0147】
40.前記音響空間はまた、オーディオの外乱と、(1)前記第2のオーディオ信号と前記前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差から導き出される誤差フィードバック信号であって、前記差は、(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンであることを特徴とするフィルターと(b)オーディオ周波数が低い前記範囲より高いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とするフィルターとを直列に構成したものによりフィルターされることを特徴とする、誤差フィードバック信号、及び(2)スピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号を含むことのできる前記第1のオーディオ信号と、を受け取ることを特徴とする列挙した実施例1〜3の何れか1つに記載の方法。
【0148】
41.前記音響空間はまた、オーディオの外乱と、(1)前記第2のオーディオ信号と前記前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数が高い一定の範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差から導き出される誤差フィードバック信号であって、前記差は、(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンであることを特徴とするフィルターと(b)オーディオ周波数が低い前記範囲より高いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とするフィルターとを直列に構成したものによりフィルターされることを特徴とする、誤差フィードバック信号、及び(2)ターゲット応答フィルターによりフルターされ、フィルターの直列構成によりフィルターされたスピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号を含むことのできる前記第1のオーディオ信号と、を受け取ることを特徴とする列挙した実施例35〜39の何れか1つに記載の方法。
【0149】
42.1組のフィルターの線型結合により時間的に変化する伝達チャンネルのインパルス応答を推定するような1組のフィルターを取得する方法であって、M個のフィルターオブザベーションを取得するステップであって、該オブザベーションには、可能な時間変動範囲全体にわたる伝達チャンネルのインパルス応答が含まれることを特徴とする、ステップと、M個のフィルターから、固有ベクトル方法によりN個を選択するステップと、実時間で、前記伝達チャンネルの最適な推定値を形成するN個のフィルターの線型結合を決定するステップと、を具備する方法。
【0150】
43.選択した前記N個のフィルターは、前記M個のオブザベーションの自己相関マトリックスの固有ベクトルを導き出すことにより決定することを特徴とする列挙した実施例42に記載の方法。
【0151】
44.選択した前記N個のフィルターは、マトリックスの行が前記M個のオブザベーションとなるような矩形行列を特異値分解することにより得られる固有ベクトルを導き出すことにより決定することを特徴とする列挙した実施例42に記載の方法。
【0152】
45.N個の固有ベクトルフィルターの各々の倍率は、勾配降下の最適化を用いて取得することを特徴とする列挙した実施例42〜44の何れか1つに記載の方法。
【0153】
46.前記勾配降下の最適化では、LMSアルゴリズムを採用することを特徴とする列挙した実施例45に記載の方法。
【0154】
47.前記M個のオブザベーションは、実際の伝達チャンネル又は模擬した伝達チャンネルで測定したインパルス応答とすることを特徴とする列挙した実施例42〜46の何れか1つに記載の方法。
【0155】
48.列挙した実施例1〜47の何れか1つに記載の方法を実施するための装置。
【0156】
49.列挙した実施例1〜47の何れか1つに記載の方法の各ステップを実行するための手段を具備する装置。
【0157】
50.列挙した実施例1〜47の何れか1つに記載の方法をコンピュータに実行させるための、コンピュータ読み取り可能媒体に保存した、コンピュータプログラム。
【0158】
本発明の多くの実施の形態について本明細書に記載した。とはいうものの、当然のことながら本発明の精神と技術範囲を逸脱することなく種々の修正を加えることが可能である。例えば、ここに記載したステップは順序に依存せず、従って異なる順序で実行することが可能である。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2008年7月29日出願の米国暫定特許出願番号61/137,377に基づく優先権を主張する。この暫定特許出願はそのすべてを参照として本明細書に組み込むものとする。
【0002】
本発明の種々の特徴はオーディオ信号処理に関する。本発明の特徴には電子音響チャンネルにおける音場を修正するための方法、及び、時間的に変化する伝達チャンネルのインパルス応答を推定するようなフィルターの一次結合を構成する一組のフィルターが含まれる。また、本発明の特徴には、この方法を実行する装置、コンピュータにこの方法を実行させる、コンピュータ媒体に保存したコンピュータプログラムが含まれる。本発明の特徴は、特に、外部の周辺ノイズの影響を低減することにより及び/又はノイズの多い環境における会話の明瞭性を改善することにより、ポータブルマルチメディア装置及びポータブル通信装置の可聴性を改善するのに特に役立つ。本発明の特徴は、アクティブノイズ制御(ANC)及び種々のイコライゼーション(ライン強調(line enhancement)、及び音響エコーキャンセレーションを含む)のため、一般にどのような環境においても有効である。
【背景技術】
【0003】
アクティブノイズ制御(ANC)及び適応イコライゼーションは、外部の周辺ノイズの影響を低減し、ノイズの多い環境における会話の明瞭性を改善するために用いることができる。例えば、ANCシステムは、外乱となるノイズ信号を検出し、同じ振幅で位相が反対のサウンド波形を生成し、それにより知覚される外乱レベルを低減する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の特徴によれば、第1のオーディオ信号を第1の電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させ、該音響空間の空気圧の変化に応答して第2のオーディオ信号を第2の電気音響変換器が取得するような、電子音響チャンネル中の音場を変化させるための方法であり、(a)前記第2のオーディオ信号と、前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部に応答して、前記電子音響チャンネルの推定伝達関数を定めるステップであって、該推定伝達関数は、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出されたものであり、該推定伝達関数は、電子音響チャンネルの伝達関数の時間的変動に適応するものであることを特徴とする、推定伝達関数を定めるステップと、(b)該推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを取得し、該1つ以上のフィルターで前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部分をフィルターするステップであって、該第1のオーディオ信号の一部分は、前記第1のオーディオ信号の最初の部分であってもなくてもよいことを特徴とする、ステップとを具備する。
【0005】
本方法は、前記推定伝達関数を1以上の複数の時不変フィルターに組み込むステップをさらに具備することができる。前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、該推定伝達関数の逆バージョンの伝達関数を有することができる。前記推定伝達関数は、前記電子音響チャンネルの伝達関数において時間的変動の時間平均に応じて適応することができる。前記1以上の複数の時不変フィルターは、IIRフィルターとすることができる。あるいは、前記1以上の複数の時不変フィルターは、第1のフィルターをIIRフィルターとし第2のフィルターをFIRフィルターとする2つのフィルターの縦列接続とすることができる。加えて、前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、IIRフィルターとすることができる。あるいは、前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、第1のフィルターをIIRフィルターとし第2のフィルターをFIRフィルターとする2つのフィルターの縦列接続とすることができる。
【0006】
推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出すことができる。あるいは、推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせの1つから他の1つにクロスフェードさせることにより、定めることができる。さらなる代替案として、伝達関数のグループのうちの2以上を選択し、誤差最小化技法に基づき、選択した伝達関数を重み付けして線型結合することにより、該伝達関数を定めることができる。
【0007】
前記伝達関数のグループの1以上の特性には、時間と共に変動するインパルス応答の範囲全体にわたる電子音響チャンネルのインパルス応答が含まれていてもよい。該インパルス応答は、実際の伝達チャンネル及び/又はシミュレートした伝達チャンネルで測定したインパルス応答とすることができる。
【0008】
前記伝達関数のグループの特性を、固有ベクトル法により取得することができる。例えば、該伝達関数のグループの特性を、時不変フィルター特性の自己相関マトリックスの固有ベクトルを導き出すことにより、取得することができる。あるいは、マトリックスの行が時不変フィルター特性の大きいほうの特性となっている直交マトリックスの特異値分解を行い固有ベクトルを導き出すことによって、確定した時不変フィルターのグループの特性を取得することができる。
【0009】
第1の電気音響変換器は、ラウドスピーカー、イヤースピーカー、ヘッドフォンイヤーピース、及び、イヤーバッドのうちの1つとすることができる。
【0010】
第2の電気音響変換器はマイクロフォンである。
【0011】
前記音響空間は、耳を覆うカップ、又は耳の周りのカップにより、少なくともある程度の制約を受ける小音響空間とすることができ、この小音響空間が取り囲まれる程度は、この耳カップの耳への接近度及び耳へのセンタリングの程度による。電子音響チャンネルの伝達関数の変化は、耳に対する小音響空間の位置の変化の結果生じることがある。
【0012】
電子音響チャンネルの伝達関数の各推定値は、ある周波数範囲でのチャンネルの振幅応答の推定値とすることができる。
【0013】
前記音響空間は、また、オーディオ外乱信号を受け取ることがある。
【0014】
前記音響空間は、また、オーディオ外乱信号を受け取ることがあり、前記第1のオーディオ信号には、(1)前記第2のオーディオ信号と前記電子音響チャンネルの伝達関数の推定値に基づき前記第1のオーディオ信号を前記フィルターに適用して得られたオーディオ信号との差から導き出された誤差フィードバック信号であって、この差は、その伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンとなる1以上のフィルターによりフィルターされたものであることを特徴とする、誤差フィードバック信号と、(2)スピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号が含まれる。
【0015】
本発明の特徴によれば、電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答によりオーディオの外乱を減少又はキャンセルするアクティブノイズキャンセラーを提供することができる。
【0016】
前記第1のオーディオ信号は、ターゲット応答フィルターにより、そして1以上のフィルターによりフィルターされたオーディオ入力信号を含むことができる。
【0017】
本発明の特徴によれば、電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答が、ターゲット応答フィルターの応答を模擬するイコライザーを提供することができる。
【0018】
前記音響空間は、また、オーディオ外乱信号を受け取ることがあり、前記第1のオーディオ信号には、(1)前記第2のオーディオ信号と前記電子音響チャンネルの伝達関数の推定値に前記第1のオーディオ信号を適用して得られたオーディオ信号との差から導き出された誤差フィードバック信号であって、この差は、その伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンとなる1以上のフィルターによりフィルターされたものであることを特徴とする、誤差フィードバック信号と、(2)ターゲット応答フィルターによりフィルターされ、また、その伝達関数が、前記推定伝達関数の逆バージョンとなるような1以上のフィルターによりフィルターされたスピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号とが含まれる。
【0019】
本発明の特徴によれば、電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答によりオーディオの外乱を減少又はキャンセルするアクティブノイズキャンセラーを提供することができ、また、電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答が、ターゲット応答フィルターの応答を模擬するイコライザーを提供することができる。ターゲット応答フィルターは、平坦な応答を有するようにすることができ、この場合該フィルターを省略することができる。あるいは、該ターゲット応答フィルターは、拡散音場応答を有し、又は、該ターゲット応答フィルターの特性をユーザーが定めることができる。
【0020】
伝達関数が、前記推定伝達関数の逆バージョンとなるような1以上のフィルターは、下部周波IIRフィルター及び上部周波FIRフィルターを縦続接続して構成される。
【0021】
前記第1のオーディオ信号は、聞こえない人工的な選択した信号を具備する。
【0022】
このような構成は、前記第2のオーディオ信号と、周波数領域におけるディジタルオーディオ信号としての第2のオーディオ信号の少なくとも一部に対応することができる。
【0023】
本発明のもう1つのの特徴によれば、第1のオーディオ信号を第1の電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させ、該音響空間の空気圧の変化に応答して第2のオーディオ信号を第2の電気音響変換器が取得するような、電子音響チャンネル中の音場を変化させるための方法であり、(a)前記第2のオーディオ信号と前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部とに応答して、オーディオ周波数が高い一定の範囲より低いオーディオ周波数の範囲で前記電子音響チャンネルの推定伝達関数を定めるステップであって、該推定伝達関数は、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出されたものであり、該推定伝達関数は、電子音響チャンネルの伝達関数の時間的変動に適応するものであることを特徴とする、推定伝達関数を定めるステップと、(b)オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲の伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを前記推定伝達関数に基づき取得し、該1つ以上のフィルターで前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部分をフィルターするステップであって、該第1のオーディオ信号の一部分は、前記第1のオーディオ信号の最初の部分であってもなくてもよいことを特徴とする、ステップと、(c)前記低いオーディオ周波数の範囲より高い周波数の範囲の伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを取得するステップは、勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とする、ステップと、を具備する。
【0024】
本発明のこの特徴によれば、さらに、オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲での前記推定伝達関数を1以上の複数の時不変フィルターと共に組み込むことができる。
【0025】
オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲の伝達関数が、前記推定伝達関数に基づく前記1以上のフィルターは、該周波数の範囲での推定伝達関数の逆バージョンである伝達関数を持つ。
【0026】
前記勾配降下を最小にする処理は、前記第2のオーディオ信号と、前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差に応じるようにすることができる。
【0027】
オーディオ周波数が高い一定の範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定する前記フィルターは、1以上のIIRフィルターとすることができ、該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有する前記フィルターは、1以上のFIRフィルターとすることができる。
【0028】
前記音響空間はまた、オーディオの外乱と、(1)前記第2のオーディオ信号と前記前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差から導き出される誤差フィードバック信号であって、前記差は、(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンであることを特徴とするフィルターと(b)オーディオ周波数が低い前記範囲より高いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とするフィルターとを直列に構成したものによりフィルターされることを特徴とする、誤差フィードバック信号、及び(2)スピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号を含むことのできる前記第1のオーディオ信号と、を受け取ることができる。
【0029】
代替的に、前記音響空間はまた、オーディオの外乱と、(1)前記第2のオーディオ信号と前記前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差から導き出される誤差フィードバック信号であって、前記差は、(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンであることを特徴とするフィルターと(b)オーディオ周波数が低い前記範囲より高いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とするフィルターとを直列に構成したものによりフィルターされることを特徴とする、誤差フィードバック信号、及び(2)ターゲット応答フィルターによりフルターされ、フィルターの直列構成によりフィルターされたスピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号を含むことのできる前記第1のオーディオ信号と、を受け取る。
【0030】
本発明のさらなる特徴によれば、1組のフィルターの線型結合により時間的に変化する伝達チャンネルのインパルス応答を推定するような1組のフィルターを取得する方法であって、(a)M個のフィルターオブザベーション(observations)を取得するステップであって、該オブザベーションには、可能な時間変動範囲全体にわたる伝達チャンネルのインパルス応答が含まれることを特徴とする、ステップと、(b)M個のフィルターから、固有ベクトル方法によりN個を選択するステップと、(c)実時間で、前記伝達チャンネルの最適な推定値を形成するN個のフィルターの線型結合を決定するステップと、を具備する。
【0031】
選択した前記N個のフィルターは、前記M個のオブザベーションの自己相関マトリックスの固有ベクトルを導き出すことにより決定することができる。あるいは、選択した前記N個のフィルターは、マトリックスの行が前記M個のオブザベーションとなるような矩形行列を特異値分解することにより得られる固有ベクトルを導き出すことにより決定することができる。
【0032】
N個の固有ベクトルフィルターの各々の倍率は、勾配降下の最適化を用いて取得することができる。
【0033】
前記勾配降下の最適化では、LMSアルゴリズムを採用することができる。
【0034】
前記M個のオブザベーションは、実際の伝達チャンネル又は模擬した伝達チャンネルで測定したインパルス応答とすることができる。
【0035】
本発明の発明の特徴によれば、一般的な(理想的でない)電子音響チャンネルとその周囲環境条件でのリスニング体験を改善することができる。「電子音響チャンネル」は、耳に関連する音響空間として定義することができ、ラウドスピーカー又はイヤースピーカーのような電気音響変換器が、その音響空間の空気圧を変化させるのであり、従って、電子音響チャンネルには、電気音響変換器と、この変換器とリスナーの鼓膜との間にある音響空間とが含まれる。そのようないくつかの応用例では、電子音響チャンネルは、柔軟な又は堅固なイヤーカップにより少なくとも部分的に境界を定めることができる。本発明の種々の例示的な実施の形態において、さらに、マイクロフォンのような電気音響変換器は、音響空間に適切に配置されて、音響空間の空気圧を感知し、それにより、電子音響チャンネル応答の推定値を導き出す。
【0036】
本発明の発明の特徴によれば、ANC及び/又はイコライザーは、電子音響チャンネルの伝達関数における短時間変動に応答して、それに適応することができる。この適応の効果を、リスニング「スィートスポット」に拡張する。スィートスポットとは、効果的な結果が得られる状態にしたままで、再生装置を物理的に置いておくことのできる領域をいう。本発明の例示的な実施の形態では、ANCとイコライゼーションとを別々に又は統合して提供することができる。ここで、イコライゼーションをANCに統合することによるコスト上昇は無視できるかもしれない。
【0037】
本発明の特徴は、例えば、少なくとも、整合性の高い変換器と、残響を広くした比較的少数の変換器とにより特徴付けられる音響環境に適用可能である。変換器は、線型フィルターとしてモデル化されたとき、最小位相フィルターモデル又は最小位相フィルターに近似するモデルとなる。最小位相変換器に必要とされる条件は、ANCは一般に1.5kHz以下のノイズ信号に対して最も効果的なので、限られた周波数範囲に適用することができる。ANCは、音声通信及び音楽の再生が力強い周辺ノイズ環境の下で行われる、イヤーバッド、ブルートゥースヘッドセット、ポータブルヘッドフォン、携帯電話のような、携帯用マルチメディア装置で展開することに適している。さらに、関係する電子音響チャンネルは小さくなることがあり(例えば、耳介に押し付けた携帯電話、外耳道に直接挿入したイヤーバッド、及び、部分的または完全に密閉したヘッドフォン)、音響的共振周波数がさらに分離し、種々のチャンネル共鳴がシステム内に容易に生じることを暗示している。このような特性は、本発明の特徴により利用され、適応「イヤースピーカー」システム(リスナーの耳に近接配置するサウンド再生装置)の設計を簡単化する。
【0038】
本発明の特徴では、イヤースピーカーの低性能の主要な原因、すなわち、ラウドスピーカーから外耳道までの電子音響チャンネルの伝達関数の変動性、に取り組んでいる。携帯電話のユーザーは、遠いところからの話者の話を聞くときにこの現象を経験しており、しばしば、無意識に携帯電話と耳との相対的な位置や角度を瞬時に調整することにより、チャンネルを「最適化」している。密閉型ヘッドフォンを使うときであっても、イヤーカップと頭との間の音響的密閉性、イヤーカップの位置、耳介の大きさや形のようなリスナー特有の属性、及びリスナーが眼鏡をかけているかどうかにより、その伝達関数が変動する。航空機の乗客環境において、リスナーが、適応システムでない密閉型ヘッドフォンを用いている場合、1mmの隙間において、航空機のエンジンノイズを低周波で打ち消す程度は11dBまでである。
【0039】
いくつかのディジタルでの本発明の特徴の実施の形態では、複数の時不変IIR(無限インパルス応答)フィルターの1以上の線型結合を適応的に採用する。このような構成は、例えば、電子音響チャンネルの変化を速やかに追跡するのに好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の特徴による、フィードバックに基づくアクティブノイズ制御プロセッサ又はフィードバックに基づくアクティブノイズ制御処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図2】本発明の特徴による、イヤースピーカーイコライジングプロセッサ又はイヤースピーカーイコライジング処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図3】本発明の特徴による、フィードバックに基づくアクティブノイズ制御とスピーカーイコライジングとの結合プロセッサ又はフィードバックに基づくアクティブノイズ制御とスピーカーイコライジングとの結合処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図4】広帯域外乱信号の存在下で狭帯域パイロットノイズ信号を注入した場合の例を示す、仮想的な振幅と周波数応答である。
【図5】適応分析が時間領域ではなく周波数領域で動作する、フィードバックに基づくアクティブノイズ制御プロセッサ又はフィードバックに基づくアクティブノイズ制御処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図6】フィルタリングの制御及びフィルタリングの推定プラントの一方又は両方を、直列に構成した2つ以上のフィルター又はフィルタリングの要素に分解することを特徴とする、本発明の特徴によるプロセッサ又は処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図7】時間的変動に基づくプラントの適応を、外乱信号の特性に基づきフィルターの制御を最適化するよう設計した付加的な適応フィルターと結合することを特徴とする、本発明の特徴によるアクティブノイズ制御プロセッサ又はアクティブノイズ制御処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図8】時間的変動に基づくプラントの適応を、外乱信号の特性に基づきフィルターの制御を最適化するよう設計した付加的な適応フィルターと結合することを特徴とする、本発明の特徴によるアクティブノイズ制御及び量子化プロセッサ又はアクティブノイズ制御及び量子化処理方法の実施例の機能ブロック図である。
【図9】単一のフィルター又は単一のフィルタリング機能のためのパラメータを取得することを特徴とする本発明の特徴によるアクティブ分析装置又はアクティブ分析処理の実施例の機能ブロック図である。
【図10】複数のフィルター又は複数のフィルタリング機能のためのパラメータを取得することを特徴とする本発明の特徴によるアクティブ分析装置又はアクティブ分析処理の実施例の機能ブロック図である。
【図11】フィルタリング応答に応答して逆フィルタリング応答を導き出すためのフィードバック勾配降下構成の機能ブロック図である。
【図12】本発明の特徴による、アクティブノイズ制御プロセッサ(又はアクティブノイズ制御プロセッサ機能)及び/又はイコライゼーションプロセッサ(又はイコライゼーションプロセッサ機能)の一部の、実質的に類似する実施の形態の例の機能ブロック図である。
【図13】フィルター又はフィルタリング機能のセットの最適重み付けを決定するための、勾配降下を最小にする構成の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明及びその種々の特徴は、上記のように、アナログ信号又はディジタル信号を使用する。ディジタルの領域において、装置及び処理は、オーディオ信号がサンプル値として表されるディジタル信号のストリームに対して作用する。
【0042】
ヘッドフォンのようなイヤースピーカーの低周波数応答は、イヤースピーカーが耳から離れるにつれて減衰することがよく知られている。同様に、ヘッドフォンが最適な位置にない場合、空隙(音漏れ)がヘッドフォンの回りで生じることがあり、従って、低周波数応答が音漏れの程度に比例した量だけ低くなることがある。本願発明者は、音漏れの関数としてのこの周波数応答の変化が特定の周波数値以下の周波数に限定され、この周波数値はイヤースピーカー毎に異なることを見つけた。この周波数を越える値での振幅周波数応答の変動は、ヘッドフォンの音漏れの関数としての変動は少ないと考えられる。振幅周波数応答の変動は、非常に低い周波数(約100Hz)では、約15dBであろう。
【0043】
イヤースピーカーと外耳道との間の音響空間が少ないとき、部屋での一般的な反響は計測上の要因とはならない。部屋の音響効果はそのような電子音響チャンネルに影響を与えないと考えることができる。このように単純化することで、公称周波数範囲で、遅れがあることを除いて実質的に最小の位相であり、帯域制限された範囲で逆変換可能な振幅周波数応答を有する、チャンネルが得られる。先の帯域の単純化により、電子音響モデルの範囲が、リスナーに不快な、又は動作を不安定にする要因となる共鳴のピークを生じさせないようにするために、最小限の刻み目又は浅い刻み目を振幅応答にもたらすような周波数範囲になるよう制限される。
【0044】
電子音響チャンネルシステムの識別には、15kHZ以下の周波数が理想的であろう。現代的なアナロク又はディジタルの広帯域ノイズキャンセリングシステムにおいて(周期的な外乱を打ち消すシステムとは対照的に)、ANCによる利益が最も大きな周波数範囲は15kHZ以下の周波数であることがひとつの理由である。これは、一般的なイヤースピーカーの受動的分離は、1メートルの1/3の波長より長い分離周波数で、それより短い周波数の場合より効果が少ないからである。さらに、1メートルの1/3の波長より長い波長を持つ波形はハードウェアのシステムレイテンシによる影響は少ないので、ノイズキャンセレーションに適しノイズキャンセレーションを効果的にする最も重要な周波数範囲にシステム識別の焦点を絞ることが好ましい。これは振幅応答の範囲全体にわたって絶え間なくに変化するので、電子音響チャンネルは、線形的で絶え間なく時間的に変化するフィルターとしてモデル化することができる。
【0045】
図1は、本発明の特徴を採用し、オーディオ(スピーチ/ミュージック)入力を有する、フィードバックに基づくアクティブノイズ制御プロセッサ又はフィードバックに基づくアクティブノイズ制御処理方法の実施例を示す。図1及び他の図において、実線はオーディオ経路を表し、点線は、例えばパラメータのような、フィルターを定義付ける情報の1以上のフィルターへの伝達を表す。実施例を理解するために必要ではないいくつかの要素は図1に示されず、また、本発明の他の実施の形態においても示されていない。例えば、図1〜3及び5〜8の実施例におけるプロセッサ又は処理方法が主にディジタル領域で動作するとき、イヤースピーカー2を動作させるためにディジタル‐アナログ変換器及び適切な増幅が必要であり、マイクロフォン4の出力でアナログ‐ディジタル変換器と共に適切な増幅が必要である。多くの図において、類似のあるいは対応する装置又は機能には同じ参照番号が割り振られている。
【0046】
図1の例に示したような、ANCプロセッサ又はANC処理方法では、周囲の外乱サウンドを聞こえにくくするように、電子音響チャンネルGの知覚されるオーディオ出力を修正しようとする。このようなサウンドは、例えば、人の話し声、航空機のエンジン、部屋のノイズ、道路のノイズ、反響音を含む様々な音であろう。第1のオーディオ信号は、音響空間、例えば、耳に近い(耳は示されていない)小音響空間における空気圧を変化させる、イヤースピーカー2(記号で示されている)のような第1の電気音響変換器に適用される。この音響空間は、音響空間における空気圧の変化に応答しマイクロフォン信号eを生成するマイクロフォン4(記号で示されている)のような、第2の電気音響変換器を有する。この音響空間はまた、周囲のサウンド外乱dによる空気圧の変化の影響を受ける。イヤースピーカー2とマイクロフォン4との間の電子音響応答は、マイクロフォン出力とイヤースピーカー入力の比を数学的にモデル化した、電気機械的フィルターGとして表現することができよう。これは、当業者の間では、「プラント(plant)」として知られている。
【0047】
本発明の特徴によれば、プラントモデルGの推定は、1以上のフィルター又はフィルター機能として組み込まれ、プラント推定機能又はプラント推定装置(プラント推定フィルタリング、G’)として示される。フィードバック信号は、減算結合器又は減算結合機能6にて、プラントモデルGの出力から推定プラントモデルG’の出力gを減算することにより得られる。もしこのプラント推定フィルタリングG’が電子音響チャンネルのモデルの推定において理想的であるとするなら、すなわち、G’=Gであるなら、減算器6からのフィードバック経路の信号xは、外乱信号dに等しい。プラント推定フィルタリングG’を含む経路は、しばしば文献で、2次経路と称される。このフィードバック経路の信号xは、1以上のフィルター又は1以上のフィルタリング機能(制御フィルタリング、W)に適用され、そのフィルタリング特性は、本発明の例示的な実施の形態において、実質的にプラント推定フィルタリングG’とは逆の特性であり、イヤースピーカー2に適用するために、加算結合器又は加算結合機能10においてスピーチの及び/又はミュージックのオーディオ信号入力に加算される、外乱を打ち消す逆位相信号x’を生成する。
【0048】
符号について、G,G’,及びWは、ディジタルシステムについてのz領域の伝達関数又は、アナログシステムについてのS領域の伝達関数である。外乱信号d及びマイクロフォン信号eは、それぞれ、時間領域での表現D(下記参照)及びE(下記参照)を表す。
【0049】
適応分析器又は適応分析機能(適応分析)12は、スピーチの及び/又はミュージックのオーディオ信号を1つの入力として、マイクロフォン4の信号を他の信号として直接受け取る。理想的には、右手側(マイクロフォン)の適応分析12への入力が、左手側(信号)入力の音響空間処理されたものになり、適応分析12入力信号がプラントGの状態によってのみ異なるようになることが望ましい(これによりプラント推定フィルタリングG’を得るときの偏りを防止する)。例えば、これは、他のインスタンス、すなわち、プラント推定機能又はプラント推定装置のコピー(プラント推定フィルタリングG’のコピー)及び、その出力Vを、加算結合器14で、結合器6の出力に加算することを適応分析12と並行して行うことにより達成できる。このようにして、二次的経路G’の出力が経路G’の出力から減算され、事実上、適応分析の右手側の入力として音響空間のマイクロフォン出力が残る。
【0050】
本発明1つの例示的実施の形態において、適応分析12の左手側信号入力は既知の信号を表す一方、右手側マイクロフォン入力は、観念的に、プラントにより処理された既知の信号のみを含む。マイクロフォン信号eは、未知のプラントGによりフィルターされたミュージック信号を含有する。しかし、イヤースピーカーからのサウンドに加え周辺ノイズがマイクロフォンによって取り込まれる。プラントの識別システムを実行する観点からは、周辺ノイズは、測定ノイズと考えられる。適応分析12はプラントの現在の状態を最適にモデル化するフィルターを選択する。測定ノイズは一般に、適応分析12におけるスピーチ/ミュージック信号と相関関係がないので、最適フィルターの選定には影響を与えない。
【0051】
本発明の精神から離れることなく、適応分析12の左手側入力と右手側入力を生成する他の方法も可能である。例えば、左手側入力はプラント入力信号から導き出すことができ、右手側入力は音響空間処理されたミュージック信号(マイクロフォン信号e)の推定値から導き出すことができる。
【0052】
さらに以下に記載するように、適応分析12は、プラント推定フィルタリングG’とプラント推定フィルタリングのコピーG’とに適用したとき、それぞれ、電気音響チャンネルGの伝達関数を推定する1以上のフィルターとなる、フィルタリングパラメータを生成する。推定伝達関数G’は、1以上の複数の時不変フィルターに組み込むことができ、推定伝達関数G’は、電子音響チャンネルの伝達関数Gの変動に応じて適応的に変化する。以下に説明するように、適応分析12は、いくつかの運転モードの1つを持つことができる。適応分析12により定めたフィルター特性からフィルタリングG’及びWへの写像が存在する。
【0053】
図1のANCの実施例の構成は、可聴な外乱を最小限にしてスピーチ/ミュージックが聞こえるよう、電子音響チャンネルGの知覚オーディオ応答を提供しようとするものである。観念的には、スピーチ/ミュージック信号に影響を与えないで、逆位相信号x’が音響的に外乱信号dを打ち消すものである。これは、外乱Dからマイクロフォン4へのゲインHを最小にすることにより達成することができる。外乱Dからマイクロフォン4へのゲインHを最小にすることは、外乱Dから誤差信号出力Eへのエネルギーの移転を最小限にすることである。
【式1】
【0054】
上式から、もしG’≠Gなら(プラントGの推定が完全でないことを示す)、分母は1より小さく、Hは望ましいプラントの推定より大きい。Hがゼロとなる理想的な場合では、Wについて解くことができ(G’=G)、最適な制御フィルターWを得ることができる。
【式2】
【0055】
プラント推定G’は、時間遅れと一緒に縦列接続した最小位相フィルターとしてモデル化することができる。実際には、Gに関連付けた音響の及びスピーカーのエキサイテーションレイテンシのために、48kHzのサンプリング周波数において、3から4サンプルの時間遅れとなる。しかし、この時間遅れは、計測したGと解釈することができ、結果として生じたフィルターは、意図的に、最小位相の変換器を表す。上記は、プラントの変化に基づきシステムを適応させることが制御フィルターWを最適化することを実証している。この場合、Wはプラントの変動に最も適している。
【0056】
逆フィルタリング特性は、フィルター反転装置又はフィルター反転機能(反転)16による任意の方法で得られる。例えば、反転16は、(特にフィルタリングが単一フィルターである場合)、ルックアップテーブルを採用して計算するか、又は、例えば、勾配降下法によりオフライン又はサイドプロセス(side process)で反転を求めることができる。このような、回路外での方法については、図11の例に関して説明する。
【0057】
上述のとおり、ミュージック信号又はスピーチ信号は、制御フィルタリング,Wで逆位相信号が加算される。スピーチ/ミュージック信号は、フィードバック経路からG’経路分が除去され、逆位相信号内の成分として外乱だけが残される。このような信号除去の有効性は、GとG’とがどれだけ近似しているかによる。
【0058】
本発明の特徴は、電子音響チャンネルの実際の特性を補償すること、言い換えると、イコライゼーションを行うためにオーディオ信号の適応プレフィルタリングをもくろむものである。ANCについて説明したように、電子音響チャンネルの振幅応答への最初の寄与は、イヤースピーカーにより与えられる。電子音響チャンネルのドライバーは電子音響チャンネルの振幅応答に作用するので、プレフィルタリングにより所望のオーディオ信号を、妥当な歪みの範囲で電子音響チャンネルの特性を補償する。また、イコライザーの構成において、所望の振幅応答は、耳で、例えば、(1)ISO454(上記引例13参照)に記載されたような拡散フィールド応答、(2)ユーザーが設定したイコライゼーションの設定(3)平坦な振幅応答、に基づき結果として生じる音響表示により与えられる。拡散フィールド応答は、部屋でミュージックを聞いているような体験を大雑把にシミュレートする。
【0059】
平坦な応答は、空間表現が視聴でのコンテンツで適用されることが前提となる、バイノーラル録音のような特定の場合に好ましいであろう。電子音響チャンネルの好ましい応答は、モデルを用いることにより特定することができ、平坦な応答を持つ必要はない。好ましい応答は、スタティック(時不変)又はダイナミック(時変)とすることができる。
【0060】
図2は、本発明の特徴を採用したオーディオ(スピーチ/ミュージック)入力を有するイヤースピーカーイコライジングプロセッサ又はイヤースピーカーイコライジング処理方法の実施例を示す。オーディオ入力はターゲット応答フィルター又はターゲット応答フィルタリング処理(ターゲット応答フィルタリング,S)に入力される。ターゲット応答フィルタリング特性Sは、スタティックとしてもダイナミックとしてもよい。フィルタリング特性S及びWの直列構成によりフィルターされたオーディオ入力のバージョンをイヤースピーカー2に適用するために逆プラントフィルター又は逆プラントフィルタリング処理(逆プラントフィルタリング,W)がフィルタリングSと直列接続される。図1の典型的な実施形態に示すように、電子音響チャンネルGはイヤースピーカー2からの入力を受け取り、マイクロフォン4からの出力をおこなう。イヤースピーカー2入力及びマイクロフォン4出力は各々、プラント応答Gを推定する1以上のフィルター又はフィルタリング機能のパラメータを生成する適応分析12へのそれぞれの入力として、適用される。インバーター又は反転処理(反転)16は、図1の実施例に関連して代替的に説明したような、あらゆる適切な方法で、プラント推定フィルタリングG’特性を反転させる。反転させたフィルタリング特性は逆プラントフィルタリングWを制御する。
【0061】
電子音響チャンネルGの知覚されるオーディオ応答が、ターゲット応答フィルターSの応答にできるだけ近いことが望ましい。最適イコライザーは、この望ましい応答と電子音響チャンネル応答との比として特徴付けることができる。
【式3】
【0062】
従って、もしWがGの逆数であれば、S,W,及びGの伝達特性の直列構成を経由して聞こえる知覚される出力は、S特性である。Sは、イヤースピーカーが最適でない位置(バス応答において修正を必要とするかもしれない)にあるとき、歪みと非線型性を排除するために、オーディオ再生システムの能力により制限を受ける。図3は、本発明の特徴を採用した、フィードバックに基づくANCとイヤースピーカーイコライゼーションプロセッサ又はイヤースピーカーイコライゼーション処理方法を組み合わせた例を示す。図3の例では、図1のANCの例にイコライゼーションを付加する。図3の例において、ANCに加えてイコライゼーションを行うため、Sフィルターされたスピーチ/ミュージック信号を制御フィルタリングWに適用する。これには、左手側入力経路における制御フィルタリングWのコピーを適応分析12とV経路に挿入すること必要がある。制御フィルタリングWは観念的に電子音響チャンネル(妥当なワーキング周波数まで、及びオーディオ再生システム構成の制限範囲内で)の反対であり、制御フィルターG’の電子音響チャンネルの推定との畳み込みにより、一様時間遅れ(Nサンプル遅れ)18が生じるので、二次的経路にフィルターWもフィルターG’も必要ではない。
【0063】
この場合ターゲット応答フィルタリングが一様である平坦な応答となり、望ましいターゲット応答フィルタリングS(ターゲット応答フィルタリング,S)を経由してスピーチ/ミュージック信号を適用するために、図3のANC/EQ例を提供する。Sが一様であれば、プラントGと縦列構成のWは、平坦な応答となる。図3における反転16は、図1の例の記載に関して説明した代替例のような、任意の適切な方法で、プラント推定フィルタリングG’を反転させる。適応分析12は、以下に説明するように、スピーチ/ミュージック信号及びマイクロフォン信号からの入力を取り込むことにより実行する。図3の例において、加算結合器10は、Sフィルターされたスピーチ/ミュージック信号に作用させるために(図2に示した例にように)制御フィルタリングWの後より、制御フィルタリングWの前に置かれる。
【0064】
図1及び3の実施例によるプロセッサ又は処理方法に要求されることは、2次経路フィルターG’に適応させるために、スピーチ又はミュージック信号の存在が必要となることである。この問題を改善するために、スピーチ又はミュージックのレベルが閾値以下に下がったとき、適応処理をとめることができ、この閾値は、例えば、プラントの十分正確な識別を行うために信号対雑音比(SNR)が適応分析12を可能とするように選択する。代替的な解決策は、適応分析12入力信号に、リスナーには聞こえないがシステムには認識できる信号を注入することであり、この注入信号は周辺ノイズ(外乱)のレベルより低いときであっても、システムには認識できる。このようなパイロット狭帯域ノイズは、バンド幅、中央周波数、及び/又は、強度により変えることができる。このようなパラメータは時間と共に変化し、心理音響的原理により信号のマスキングを最適にするよう選択する。例えば、このようなパラメータは、可聴と非可聴の間の丁度可知差異(JND)での信号レベルを保持するために、オンラインで選択することができる。
【0065】
信号の注入例を、任意の周波数に対する周波数応答について図4に示している。適応分析12は、注入されたパイロットトーン音色(入力信号)を最初から有しているので、マイクロフォン信号を、パイロット狭帯域ノイズの周波数と同時に生じる周波数のみを考えるために、狭帯域でフィルターすることができる。また、システムが、パイロットノイズのパラメータの選択を非可聴にするための選択を最適化している場合、パイロットノイズは、スピーチ又はミュージックが存在するときでも注入することができる。これにより、例えば、ミュージックと外乱との間のlogSNRが負数のときでも、適応分析12の精度を改善することができる。
【0066】
図1,2,及び3の例におけるプロセッサ又は処理方法は、主にディジタル領域又はアナログ領域で実行することができる。図5の例におけるプロセッサ又は処理方法は、主としてディジタル領域で実行することができる。これは、図1のディジタル実施の形態において、適応分析12が時間領域ではなく周波数領域で動作する点で、図1の実施例と異なる。離散フーリエ変換(DFT)又は他の適切な変換のような、前方変換18及び20は、それぞれ、適応分析12入力に適用される。以下でさらに説明するように、最も関心の高い周波数(例えば、10Hzから500Hz)の範囲にわたる複素変数の大きさは、誤差エネルギーを計算するために適応分析12で用いられる。元のオーディオが周波数領域で表現されており、ANCシステムが上流の周波数領域プロセッサに組み込まれている場合、この前方変換を省略することができる。このような上流の周波数領域プロセッサは、オーディオコーディングシステムデコーダー(MPEG−4 AAC,ドルビーデジタル(Dolby Digital)、等が含まれるが、これらに限定されない)とすることができる。この場合、周波数領域変換の選択は、コード化されたオーディオ変換に適応するように行われる。他の周波数領域処理アルゴリズムを用いてもよく、ANCシステムがこのようなプロセスに合っている限りにおいて、マイクロフォン経路での前方変換は省略することができる。
【0067】
プロセッサ又は処理方法の図6の実施例は、制御フィルタリング及びプラント推定フィルタリングの一方又は両方が縦列に構成された2以上のフィルター又はフィルタリング機能に折り込まれている本発明の特徴を示す。用いる電子音響チャンネルに応じて、特定の周波数範囲内で、単一フィルターが十分正確にイヤースピーカー応答をモデル化するように振幅変動及び振幅応答の変動を小さくすることができる。例えば、15kHzを越える周波数で、最悪の場合は6dB以下の変動であり、通常の場合は3dB以下の変動である。適応分析12フィルターと低次フィルターとがそれぞれ単一のIIRディジタルフィルターである場合、フィート゛フォワード係数(零点)をフィードバック係数(極点)と入れ替えることにより、反転16に低次IIR制御フィルターを組み込むことができる。以下のように、上位周波数制御フィルターの式は、次に、ターゲット制御フィルタリングと低周波数IIRフィルターから導き出される。
【式4】
【0068】
同様に、二次的経路フィルターについては、
【式5】
【0069】
この例では、低周波数フィルターは、低次IIRフィルターとすることができる一方、高い周波数は、イヤースピーカーの高周波数特性をモデル化するために適切な長さのFIRフィルター又はIIRフィルターのどちらか一方として実施することができる。フィルタータイプ(FIR又はIIR)の組み合わせの変更、適応と固定の変更、フィルターのステージの数の変更、又は直列構成ではなく並列構成にする変更を行うことにより、他の実施の形態も可能である。W・Gの積が、Wのオフラインでの設計を通じて開ループで安定であるという制約を受けるので、WIIR・WUF・Gの積も安定となる。WUFは、Nより波長が長いキャンセリング周波数(canceling frequency)なので、WUFの適応フィルターNの長さを短くすることができる。短いNは、Nが収束時間に直接比例するので、システムの応答を改善する。
【0070】
上部周波数フィルターGUF及びWUFは、固定又は適応とすることができる。適応とする場合、適応分析12からのシステムの特定に基づき最適なフィルター係数を切換えることができる。あるいは、完全に適応分析と切り離し独立に適応させることができ、これにより、最適な上部周波数フィルター係数に収束させるためにLMSのような勾配降下アルゴリズムを採用することができる。制御と2次経路の上部周波数フィルターGUF及び/又はWUFとの、一方又は両方を適応させることができる。
【0071】
要素化したフィルター(Factored filter)も、図5の周波数領域の例に適用可能である。
【0072】
図7は、本発明の特徴によるプロセッサ又は処理方法の他の実施例を示す。この例では、プラントの時間的変動に基づく適応処理を、外乱信号の特性に基づき制御フィルターを最適化するよう設計した補助的な適応フィルタリングと合体させる。このような補助的な適応フィルタリングは、よく知られたFX−LMSアルゴリズムに基づくものとすることができる。制御装置には、特定の種類の機械からでてくるような狭帯域サウン外乱及びスピーチ調波のような音調の外乱を減衰させるために、LMSアルゴリズム又は変形したLMSアルゴリズムを組み込むことができる。この場合、第4.3章の上部周波数制御フィルターWUFは、古典的な更新方程式から導き出される係数を有する適応FIRフィルターに置き換えられる。
【式6】
【0073】
ここでWはFIRフィルター係数ベクトル、Nは制御フィルターWUFの長さ、xはプラントモデルG’でフィルターされ、フィードバック経路から見た、ベクトル化された入力アレーである。xベクトルは、最初にすべての保存された値を1インデックス値だけ時間を遅らせ、次いで、インデックス=0で新しいxサンプルを保存することにより、更新される。eは、現在の(スカラー)サンプルのマイクロフォンからの読みである。μは、収束速度とそれに反する安定性との最も良いバランスを選択するステップサイズである。
【0074】
図7の例を図6の例と比較して、静的フィルターである上部周波数制御フィルターは、フィルター係数がwである適応上部周波数制御フィルターWUFに置き換えられ、LMS更新装置又はLMS更新機能20はLMS更新方程式を組み込む。この例は、フィードバックに基づくシステムなので、LMS更新モジュールに入力したxは、FX−LMSアルゴリズムに従いフィードバック経路から導き出され、プラントモデルG’によりフィルターされる。LMS更新20もマイクロフォン信号にアクセスする必要がある。このマイクロフォン信号は、プラントによりフィルターされたスピーチ/ミュージック信号を含有し、wの準最適なフィルターへの収束に偏りを与えることがある。従って、スピーチ/ミュージック信号を誤差更新経路eから取り除くことが必要であり、これはLMS更新20に入る前のeにある付加的な結合器22として示されている。この場合、誤差信号中のスピーチ/ミュージック信号はプラントGにより既にフィルターされているので、スピーチ/ミュージック信号は、プラント推定G’によりフィルターされなければならない。
【0075】
従って、図7の例では、1)外乱特性に基づいて制御フィルターを最適化するためのよく知られたFX−LMSと、ラントの変化に基づきシステムを最適化する適応分析12との組み合わせと、2)適応分析12から導き出された係数を用いる下部周波数制御フィルターWLFと直列接続した上部周波数制御フィルターWUFとを採用する。下部周波数制御フィルターは、IIRフィルターに組み込まれたとき、IIRフィルターの応答時間が長いため、低周波数(1.5kHz以下)のプラントをモデル化するのに最も効果的である。これは、多くの周囲信号外乱で支配的な低周波数のノイズの度合いを改善する。一定の範囲で、上部周波数制御フィルターもプラントとプラントモデルとの間のずれを修正することができる。このような2重適応による形式は、FX−LMSのみに基づく単一適応方法と比べて好都合である。非常に低い周波数(100Hz)でのプラント応答の変化を補償するために、単一適応システムでは、2重適応システムに比べて非常に多数の適応フィルタータップを必要とする。これにより、(IIRフィルターのような)切り替え適応フィルターとFX−LMSフィルターとの組み合わせに基づくシステムに比べて、適応フィルターが複雑となりと適応フィルターの修飾時間が長くなる。
【0076】
図8は、図7に似た混成プロセッサ又は混成処理方法の構成を示すだけでなく、図3及び6のイコライザーの例とは異なるが、適応イコライゼーションを提供する。図8の例において、WUFフィルターは、外乱の特性によってのみ定められるので、スピーチ/ミュージック信号にWUFフィルターの応答を適用することはできない。外乱の特性は、スピーチ/ミュージック信号に関連することはないので、WUFは、逆位相相殺信号にのみ適用すべきである。そして、イコライジングフィルターWLFをスピーチ/ミュージック信号に適用する適切な方法は、ターゲット応答フィルターと縦列接続させたWLFの新たなコピーを提示することである。最初のスピーチ/ミュージック分岐又は第2のスピーチ/ミュージック分岐のどちらか一方の後の位置にフィルターを置き換えるような、システム中のWUFにおける変動が生じることがある。
【0077】
図9及び10は、図1〜3及び5〜8のプロセッサ又は処理方法の実施例で採用することができるような適応分析12の2つの実施例を示している。これらの実施例の各々において、適応分析12は、電子音響チャンネル(プラント)Gと事実上並列になっている。例えば、フィルター伝達関数と電子音響チャンネルの伝達関数との間の類似性の測度を、少なくとも低周波数(例えば、約15kHz以下)で計算することにより最適フィルターを選択する。しかし、正確なシステムの識別をもたらすことを条件として、どのような不自然な周波数範囲でも採用することができる。
【0078】
適応分析12は、プラントの異なる変動に対するG’を表す並列フィルターのバンクを参照するように動作することができる。これらのフィルターの各々は、例えば、特定の位置におけるGのインパルス応答を測定するために用いることのできる、ダミーヘッドに対するヘッドフォンのイヤーピースの固有の位置決めを表すことができる。並列フィルターは低周波数の信号を修正するので、また、電子音響チャンネルの応答は周波数を横断して比較的ゆっくりと変動するので、中程度の次数のフィルターに対して計算資源を低くすることで、非常に低い計算コストで実行することができる。ディジタルでの実施では、フィルターの各々の出力とマイクロフォン誤差信号との平均2乗誤差を、プラントGに最もぴったりするフィルターを特定するために用いる。アナログでの実施では、図12に関して以下に説明するように、コンパレータとロジック回路を最適なフィルターを選択するために用いる。
【0079】
上記実施例のようなANCシステムの実施を行うときに、設計者は、実時間動作において適応アルゴリズムが不可能になる限界を決めるために、異なるヘッドフォン位置で音響経路のインパルス応答を定量化することができる。この定量化は、既知のイヤースピーカー電子音響の経路に対して行われるので、その経路の電子音響の係数は計測する前にすべて確定することができる。
【0080】
図9は、1つのフィルターだけが選択された場合(K=I)の適応分析12の実施例を示す。一般に、オブサベーション(observations)と称される1セットとなったM個のフィルターから、適応分析12はN個のフィルターを選択する。これらのN個のフィルターから、1つのフィルターKが選ばれ、そのインデックスを分析出力として提供することができる。
【0081】
この実施例において、考えられるN個のうちの1つのフィルターは最小平均2乗誤差基準に基づき選択される。N個のフィルターは並列構成となるよう接続され、フィルターバンク又はフィルタリング機能バンク(N個の並列フィルター)24となり、各フィルターが同じ帯域を通過した入力信号を処理する。制御装置又は制御機能(制御)16は、k番目のフィルターを選択し、N個のフィルターのうちの選択されたものに基づき平均2乗誤差の時間平均を返す。適応分析12は、(図1〜3及び5〜8における、分析12への左手側入力に対応する)入力信号と、(図1〜3及び5〜8における、分析12への右手側入力に対応する)マイクロフォン信号とを受け取る。入力信号とマイクロフォン信号はそれぞれ、実質的に同じバンドバスフィルター24及び30を介して適用される。これらの通過帯域には、異なるオブサベーションM全体にわたる最大の変動が含まれる。入力信号とマイクロフォン信号は両方ともこの例ではディジタルオーディオサンプルである。これらの入力信号に応答して、制御26は1つの最適なフィルターを選択し、そのk番目のインデックスとして選択したフィルターを特定するための出力を作り出す。マッパー又はマッピング機能(マッピング)34は、このインデックスを対応するフィルター変数のセットにマップする。制御26への入力は、バンドバスフィルターされたマイクロフォン信号を、N個のフィルターでフィルターしたバンドバスフィルターされた入力信号から減算する、減算結合器32−0から32−(N−1)までの出力であり、それぞれが誤差信号を作り出し、誤差信号の振幅がフィルターNについて最小となるものが、プラントGの応答を最も親密に近似する(図1〜3及び5〜8参照)。平均化処理を受け、プラントGに最も親密に近似する制御26はフィルターのインデックスKを出力する
平均化処理は、単純な極零平滑化フィルターを用いて実行することができる。70msec(ミリセカンド)(fs=50kHz)の3dB時定数が有用であることを見つけた。1つのフィルターから他のフィルターに変更するためには、フィルター係数だけ変えればよくフィルターの状態まで変える必要はない。この変更は、1つの係数のセットから次のセットに瞬時に切換えることにより行うことができる。切り替え時に生じる可聴なアーティファクトを最小限にするために、極値及び零値についての変化は小さくすべきである。K=1の場合、図9の例に示すように、N個のフィルターの各々に応じて逆フィルターをあらかじめ計算し保存しておくことにより、反転16(図1〜3及び5〜8参照)を適用することができる。
【0082】
G’についてのフィルター係数の1つのセットから他の(極点と零点との相対距離に関して)近接するセットへクロスフェードすることは可能である。これは、古い係数を新しい係数に時間と共に置き換えることにより、あるいは、ある時間的区間でK=2を準備し、時間的に変化する重み付けした両方(古い係数のセットを持つフィルターと新しい係数のセットを持つフィルター)の和として全体的出力を計算することにより達成することができる。クロスフェード時間が適度に短い(例えば、100msec以下)ことを条件として、実際には、このようなクロスフェードを行っている間に、システムを適度に修正することが可能である。この場合、第1の係数のセットから近接する第2の係数のセットへのクロスフェードG’を行うとき、係数がオフラインで計算されるならば、あるいは、G’の逆操作として直接計算されるならば、対応するWの係数メモリーからも読み込むことができる。
【0083】
図10は、適応分析12中の装置又はプロセスが複数フィルター線型結合を選択する適応分析12の例を示す。通常、適応分析12はN個のフィルターを選択する。これらのN個のフィルターから、K個のフィルターの最小のセットとその相対的重みを特定することができ、K個のフィルター変数及びK個の重み変数を、分析出力として作り出すことができる。N個のフィルターのセットの各フィルターは、フィルターバンク又はフィルタリング機能バンク(N個のフィルター)24中に並列に構成され、各フィルターは、入力信号の同じサブ帯域バージョン上で動作する。図10の例の変種として、以下に記載するように、NとKに制限を加える。このような変種例において、誤差適応分析が分析を行う周波数の範囲を、例えば、すべてのオブザベーションを通じて最大の差異を持つ周波数に限定することができる。適応分析12は(図1〜3及び5〜8における適応分析12への左手側入力に対応する)入力信号と(図1〜3及び5〜8における適応分析12への右手側入力に対応する)マイクロフォン信号を受け取る。入力信号とマイクロフォン信号は、それぞれ実質的に同一のバンドバスフィルター24及び30を介して適用される。これらのパスバンドは異なるオブザベーションMに対して最大の変動を含むことができる。入力信号とマイクロフォン信号は両方ともディジタルオーディオサンプルである。これらのバンドバスフィルターされた入力信号に応答して、制御26は、M個のフィルター候補のうちのN個を選択し、出力として、K個のフィルター係数とK個の重み付け変数をK個のフィルター(K≦N≦M)の線型結合のための情報を提供するために、出力する。ここで、K=1のとき、図9に関連させて上述したように適応分析により処理される。従って、Mはすべての可能なフィルターのセットであり、NはK個のフィルターを決定するために並列的にテストするためのフィルターのサブセットであり、Kは、図1〜3及び5〜8の例に関して上述したように、フィルター係数のK個のセットとK個の重み付け変数をプラント推定フィルタリングに送り、逆変換させた後、制御フィルタリング(又は逆プラントフィルタリング)に送るための、並列フィルターのバンクである。制御26への入力は、バンドパスフィルターされた入力信号をフィルターしたN個の信号の各々からバンドパスフィルターされたマイクロフォン信号を減算し、各々誤差信号を生成する減算結合器32−0から32−(N−I)の出力であり、制御26では、プラントGの最も近い近似を有するフィルターの重み付けを選択しそのフィルターのフィルター変数を出力する。重み付けした複数のフィルターを選択する種々の方法を以下に説明する。
【0084】
K>1のとき、種々の実施の形態におけるプラント推定フィルタリングは、それぞれが重み付け変数を有するK個の並列フィルター又は並列フィルタリング機能のバンクとして実施することができる。本発明の特徴によれば、適応分析12により提供されるK個のフィルター変数及びK個の重み付け変数により制御されるフィルター又はフィルタリング機能は、IIRフィルター、又はFIRフィルター、又はIIRフィルターとFIRフィルターの結合によりもたらされる。
【0085】
複数フィルターKの可能なアプリケーションは(極と零点に関して)1つのフィルターから隣のフィルターへのクロスフェードを改善することである。上述したように、K個のフィルターの出力は、制御26で生成される重み付け変数を用いて混ぜ合わされる。クロスフェードの期間中ではK=2であり、それ以外ではK=1である。この方法は、(K=1のとき)先に説明した方法で2つの異なるフィルターを切換えるときに生じる可聴なアーティファクトを減少させることができる。
【0086】
複数フィルター方法の変種である、計算効率のよい方法は、フィルターMの全体の数のサブセットを検索を削減することである。これは、近似する伝達関数を持つフィルターがお互いに隣接するようなインデックスを持つようにフィルターインデックスを割り当て、検索を、平均2乗誤差が最小となる現在のフィルターに隣接するN個のフィルターに限定することにより実行する。隣りと比較して中間インデックスを持つフィルターの平均化した相対的な平均2乗誤差を監視することにより制御26にて追跡が可能である。時間が経過し、最小誤差が最終的に新たな最小値を検出するほどN個のフィルターのエンドポイントの1つに向かって動き始めた場合、N個のインデックスは、中間インデックスを持つフィルターがN個のフィルターに最小の平均2乗誤差を持ち続けるようすべてのN個のフィルターのインデックスを調整する。
【0087】
適応分析12もう1つの案は、図5の例のように、時間領域ではなく周波数領域でこれを動作させることである。この場合、平均2乗誤差による分析を両方の入力のパワースペクトル(PSD)係数に適用することができる。どのような時間・周波数変換又はフィルターバンクをこの変換を行うために用いることができる。これは、ノイズ(外乱)からの(変換器を介して再生するミュージック信号スピーチ信号の)信号分離を改善するために用いられる多くのスペクトル推定技術が可能である。1つの有用な技術は、PSD係数を時間的に平滑化することであり、ピリオドグラム(periodogram)分析により、時間と共にパワーの偏りを確実にゼロに近づける。代替的に、マルチテーパ(multitaper)方法のような他のスペクトル推定技術を使うこともできる。この手法は、適応分析12における時間領域FIRバンドバスフィルターがなくなるので、計算上の複雑さを大幅に増大させない結果となる。代わりに、最小2乗法をPSD係数に適用する範囲を限定することにより同様の結果が得られる。実際の順変換は、Mlog(M)(ここで、Mは、周波数領域係数の数である)演算のオーダーの複雑差を有するが、これでも時間領域帯域制限フィルターの複雑さのオーダー(N2)より少ない。周波数領域で一旦最適フィルターが選択されると、時間領域での等価なフィルターが時間領域フィルターに伝達される。このようにして、フィルター係数のオンラインでの逆変換も適応分析12から出力されたオーディオ信号の必要性もなくなる。フィルター係数は、あらかじめ計算したフィルター係数のテーブルから選択することができる。時間領域の数の選択は周波数領域係数の分析により導かれる。
【0088】
マルチフィルター線型結合法の他の方法は、K=NでN個のフィルターの線型結合が最適エネルギー最小フィルターを形成するよう固有ベクトル方法に従いM個のフィルターからN個を選択する。このような固有ベクトルフィルター方法に従い、N個の選択したフィルターをM個のオブザベーションについてオフラインで計算する。N個のフィルターがオフラインで既に計算されているので、M個からN個の選択をリアルタイムで実行することはない。このN個のフィルターはM個のオブザベーションを持つ自己相関マトリックスの固有ベクトルである。あるいは、M個のオブザベーションは、直交マトリックスの列を形成し、この直交マトリックスの特異値分解により、固有ベクトフィルターを生成する。制御26は続いて、例えば、LMSアルゴリズムのような勾配降下最小化処理を用いて、N個の固有ベクトルフィルターのそれぞれの係数の重み付けを計算する。すべてのN個のフィルターは、最適にフィルターされた出力K=Nを計算するために用いられる。このようにして、所定の電子音響チャンネルインパルス応答に対して、N個の固有ベクトルから構成される近似する主成分にこの応答をマップすることができる。このような固有ベクトルフィルター方法は、Mの大きな値に対して(すなわち、多数のオブザベーションに対して)、少ない数の静的フィルターNが線型結合され最適なエネルギー最小化フィルターを形成するような利点を持つ。この固有ベクトルフィルターを生成する方法を導出は、後述の、見出し「固有ベクトルフィルター設計手法」以下に示す。
【0089】
図1〜3及び5〜8の例における反転装置又は反転機能16は、制御フィルターに適用し、プラント応答と直列に分析すると、0dBより大きな特別な成分のない平坦な周波数応答となるようなスペクトル逆フィルターを導き出すためのものである。切り替え最小誤差法のために、適応分析12で選択されたフィルターが最小位相(時間遅れを除外)である場合、テーブルから読み取ることができ、又はG’の逆演算として直接計算することのできる対応するスペクトル逆フィルターの各々のフィルターに1対1マッピングが存在する。どのような適応分析方法でも、K>1では、逆フィルター係数はフィルター反転による以外の方法で計算される。例えば、図11の回路外ネットワークは反転16として採用することができる。この方法の不利な点は、スピーチ/ミュージック入力源で信号が存在するときだけ、最適化が生じることである。スピーチ/ミュージック源がないとき、最適化を凍結させるべきである。スピーチ又はミュージックのない期間の聞き取れないプローブ信号を注入するもう一つの方法は、図4の例に関連させて上述した。
【0090】
図11の例を参照して、プラント推定応答G’に基づき逆応答Wを導くためにフィードバックLMS構成を用いる。ノイズ信号d(n)は入力に適用される。第1の経路では、入力を減算結合器60でフィードバック構成の出力に加える。フィードバック構成では、結合器36からの全体出力をノイズ信号d(n)のフィルターされたもののG’コピーと比較し、G’コピーの反転のようなフィルタリングWを制御するために、LMSアルゴリズムのような適切な勾配降下型アルゴリズムを適用する。最適化したとき、G’コピーで畳み込んだWの時間遅れを持たせたものは単調であり、結果として減算結合器60の誤差信号e(n)をゼロにする。
【0091】
図12は、アナログ技術に基づく本発明の特徴の例を示すものである。ディジタルでの実施の形態に対するアナログの利点は、A/DコンバーターとD/Aコンバーターが不要なのでシステムレイテンシが短い点である。マイクロフォン4は、電子音響チャンネルGの低周波数応答の単一周波数推定を与え、望ましい応答に最も近い応答を与えるフィルターをフィルターバンク38から選択する。
【0092】
マイクロフォン4の出力はバンドバスフィルター30に適用され、続いて平均演算器又は平均機能(マイク平均)40に直列につながる。マイク平均24出力は、3つの比較器又は比較機能Cl,C2,及びC3のそれぞれの入力に適用される。スピーチ/ミュージック入力オーディオ信号は静的フィルター又は静的フィルタリング機能(静的フィルター)42に適用され、バンドバスフィルター24及び平均演算器又は平均機能(オーディオ平均)44がそれに続く。オーディオ平均44の出力は3つの比較器又は比較機能Cl,C2,及びC3のそれぞれの入力に適用される。バンドバスフィルター24及び30は、低周波数での再生平均レベルをオーディオプログラムにおける平均レベルと比較するための狭帯域周波数を分離する。比較器Cl,C2,及びC3は、どのフィルター(1,2,3,4)を選択すべきかを決めるために異なる閾値を与えるために異なるオフセットをもつ。これらの種々のフィルターの出力の間でのジッターを削減するために、比較器はヒステリシスを組み込むことができる。制御26は、最小の2乗誤差を有するフィルター20を選択する。
【0093】
アナログ実施の形態を採用する代わりに、レイテンシを下げるもうひとつの方法は、図3の例のフィードバック経路に1ビットデルタ−シグマ−サンプル化ディジタル信号処理構成を組み込むことである。このような、1ビットデルタ−シグマ−サンプル化システムでは、基本オーディオサンプリングレートの64倍のサンプリング周波数でオーディオをサンプリングすることができる。そのようにすることにより、標準のオーディオサンプリングレートでサンプルされた逆位相信号を非常に高いレートで更新し、従来のマルチビットサンプリング方法を用いて信号のサンプリングを行うことにより生じたシステムレイテンシを減少する。図3の結合器6での1ビットデルタ−シグマA/D変換器と、図3のラウドスピーカーでの1ビットデルタ−シグマD/A変換器とが必要となろう。さらに、制御フィルターW及び2次経路フィルターG’は、マルチビットフィルター係数を1ビット中間フィルター状態値に適用し、その結果フィルター出力でマルチビット出力となる。各フィルターからのマルチビット出力値は、デルタ−シグマ変換器を取り込むことにより、1ビット値に戻される。1ビットデルタ−シグマD/A変換器の直前に単一のマルチビットからデルタ−シグマモジュレータへの変換のような、フィルターとデルタ−シグマモジュレータの他の組み合わせも可能である。具体的実施の形態によっては、スピーチ/ミュージックオーディオ信号は、加算器10でマルチビットから1ビットデルタ−シグマ表現に変換する必要があるかもしれない。
【0094】
図12のアナログの例において、ディジタルの場合も含めて、単一の周波数で電子音響チャンネル応答の変化を計測することは、イヤースピーカーの感度の範囲及びマイクロフォンの感度の範囲の変動がそれぞれ音響負荷条件の変化に応じた変動とほぼ同じ大きさである点で問題がある。前提としてバンドバスフィルターにより定まる帯域の中ほどのゲインが実質的に「マイク平均」と「オーディオ平均」の信号経路の両方に実質的に等しいことである。従って、マイクロフォンとイヤースピーカーの、感度の変動を補正する方法が必要となる。
【0095】
本発明の特徴を実行する他の代替的実施の形態は、スピーチ/ミュージック信号及びマイクロフォン信号の両方のディジタルサンプルに対して適応分析12が動作し、次いで、制御フィルタリングW及びプラント推定フィルタリングG’のアナログ実施形態にアナログフィルター係数を適用するような、ディジタル/アナログ・ハイブリッド実施形態である。
【0096】
固有ベクトルフィルター導出設計プロセス
上述の固有ベクトル代替例に用いるために固有ベクトルフィルターのセットを導き出すためには、K(又はN、K=N)個の固有ベクトルフィルターをM個のオブザベーションのセットに基づいて計算する必要がある。固有ベクトルフィルターの計算Cは、オフラインで行うことができる。この固有ベクトルフィルター係数は、適切な不揮発コンピュータメモリに記憶させてもよい。
【0097】
N個のベースフィルターの選択
【式7】
【0098】
【式8】
【0099】
なぜなら
【式9】
【0100】
上記を(1)に代入すると、
【式10】
【0101】
より一般的な解は周波数重み付け関数W(ω)をコスト関数J(C)に加えることにより得られ、これは実際的な応用で非常に有用である。
【式11】
【0102】
【式12】
【0103】
実際には、さらに複雑さを削減するためにN個の基底フィルターのような固有ベクトルフィルターの周波数応答に近似する応答を有するIIRフィルターの使用が可能である。IIR基底フィルターは、例えば最小2乗フィットアルゴリズムのような適切な誤差最小化プロセスを用いて、C1(z),...,CN(z)から設計することができる。
【0104】
重み付け係数のLMS適応
実施形態
本発明は、ハードウェア又はソフトウェア又は両方を組み合わせたもの(例えば、プログラマブルロジックアレー)で実施することができる。特に記載がない限り、本発明の一部として含まれているアルゴリズム及び処理は本質的に、特定のコンピュータや他の装置と関連付けられるものではない。特に、種々の汎用機をこの記載に従って書かれたプログラムと共に用いてもよい、あるいは、要求の方法を実行するために、より特化した装置(例えば、集積回路)を構成することが便利かもしれない。このように、本発明は、それぞれ少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの記憶システム(揮発性及び非揮発性メモリー及び/又は記憶素子を含む)、少なくとも1つの入力装置又は入力ポート、及び少なくとも1つの出力装置又は出力ポートを具備する、1つ以上のプログラマブルコンピュータシステム上で実行される1つ以上のコンピュータプログラムにより実現することができる。ここに記載した機能を遂行し、出力情報を出力させるために入力データにプログラムコードを適用する。この出力情報は、公知の方法で、1以上の出力装置に適用される。
【0105】
このようなプログラムの各々は、コンピュータシステムとの通信のために、必要とされるどんなコンピュータ言語(機械語、アセンブリ、又は、高級な、手続言語、論理型言語、又は、オブジェクト指向言語を含む)ででも実現することができる。いずれにせよ、言語はコンパイル言語であってもインタープリタ言語であってもよい。
【0106】
このようなコンピュータプログラムの各々は、ここに記載の手順を実行するために、コンピュータにより記憶媒体又は記憶装置を読み込んだとき、コンピュータを設定し動作させるための、汎用プログラマブルコンピュータ又は専用プログラマブルコンピュータにより、読み込み可能な記憶媒体又は記憶装置(例えば、半導体メモリー又は半導体媒体、又は磁気媒体又は光学媒体)に保存又はダウンロードすることができる。本発明のシステムはまた、コンピュータプログラムにより構成されるコンピュータにより読み込み可能な記憶媒体として実行することを考えることもできる。ここで、この記憶媒体は、コンピュータシステムを、ここに記載した機能を実行するために、具体的にあらかじめ定めた方法で動作させる。
【0107】
本発明の実施形態は、以下に列挙した1以上の実施例に関する。
【0108】
1.第1のオーディオ信号を第1の電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させ、該音響空間の空気圧の変化に応答して第2のオーディオ信号を第2の電気音響変換器が取得するような、電子音響チャンネル中の音場を変化させるための方法であって、
前記第2のオーディオ信号と、前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部に応答して、前記電子音響チャンネルの推定伝達関数を定めるステップであって、該推定伝達関数は、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出されたものであり、該推定伝達関数は、電子音響チャンネルの伝達関数の時間的変動に適応するものであることを特徴とする、推定伝達関数を定めるステップと、
該推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを取得し、該1つ以上のフィルターで前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部分をフィルターするステップであって、該第1のオーディオ信号の一部分は、前記第1のオーディオ信号の最初の部分であってもなくてもよいことを特徴とする、ステップと、
を具備する方法。
【0109】
2.前記推定伝達関数を1以上の複数の時不変フィルターに組み込むステップをさらに具備することを特徴とする、列挙した実施例1による方法。
【0110】
3.前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、該推定伝達関数の逆バージョンの伝達関数を有することを特徴とする、列挙した実施例1による方法又は、列挙した実施例2による方法。
【0111】
4.前記推定伝達関数は、前記電子音響チャンネルの伝達関数において時間的変動の時間平均に応じて適応することを特徴とする、列挙した実施例1〜3の何れか1つに記載の方法。
【0112】
5.前記1以上の複数の時不変フィルターは、IIRフィルターであることを特徴とする、列挙した実施例3又は列挙した実施例2に従属する列挙した実施例4に記載の方法。
【0113】
6.前記1以上の複数の時不変フィルターは、第1のフィルターをIIRフィルターとし第2のフィルターをFIRフィルターとする2つのフィルターの縦列接続であることを特徴とする列挙した実施例3又は列挙した実施例2に従属する列挙した実施例4に記載の方法。
【0114】
7.前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、IIRフィルターであることを特徴とする、列挙した実施例1〜6の何れか1つに記載の方法。
【0115】
8.前記推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ前記1つ以上のフィルターは、第1のフィルターをIIRフィルターとし第2のフィルターをFIRフィルターとする2つのフィルターの縦列接続であることを特徴とする列挙した実施例1〜6の何れか1つに記載の方法。
【0116】
9.前記推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出すことを特徴とする列挙した実施例1〜8の何れか1つに記載の方法。
【0117】
10.前記推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせの1つから他の1つにクロスフェードさせることにより定めることを特徴とする列挙した実施例1〜8の何れか1つに記載の方法。
【0118】
11.前記推定伝達関数は、伝達関数のグループのうちの2以上を選択し、誤差最小化技法に基づき、選択した伝達関数を重み付けして線型結合することにより定めることを特徴とする列挙した実施例1〜8の何れか1つに記載の方法。
【0119】
12.前記伝達関数のグループの1以上の特性には、時間と共に変動するインパルス応答の範囲全体にわたる電子音響チャンネルのインパルス応答が含まれていることを特徴とする列挙した実施例1〜11の何れか1つに記載の方法。
【0120】
13.前記インパルス応答は、実際の伝達チャンネル及び/又はシミュレートした伝達チャンネルで測定したインパルス応答であることを特徴とする列挙した実施例12に記載の方法。
【0121】
14.前記伝達関数のグループの特性を固有ベクトル法により取得することを特徴とする列挙した実施例12に記載の方法。
【0122】
15.前記伝達関数のグループの特性を時不変フィルター特性の自己相関マトリックスの固有ベクトルを導き出すことにより取得することを特徴とする列挙した実施例14に記載の方法。
【0123】
16.マトリックスの行が時不変フィルター特性の大きいほうの特性となっている直交マトリックスの特異値分解を行い固有ベクトルを導き出すことによって、確定した時不変フィルターのグループの特性を取得することを特徴とする列挙した実施例14に記載の方法。
【0124】
17.前記第1の電気音響変換器は、ラウドスピーカー、イヤースピーカー、ヘッドフォンイヤーピース、及び、イヤーバッドのうちの1つであることを特徴とする列挙した実施例1〜16の何れか1つに記載の方法。
【0125】
18.前記第2の電気音響変換器はマイクロフォンであることを特徴とする列挙した実施例1〜17の何れか1つに記載の方法。
【0126】
19.前記音響空間は、耳を覆うカップ、又は耳の周りのカップにより、少なくともある程度の制約を受ける小音響空間であり、この小音響空間が取り囲まれる程度は、この耳カップの耳への接近度及び耳へのセンタリングの程度によることを特徴とする列挙した実施例1〜18の何れか1つに記載の方法。
【0127】
20.前記電子音響チャンネルの伝達関数の変化は、耳に対する小音響空間の位置の変化の結果生じることを特徴とする列挙した実施例19に記載の方法。
【0128】
21.前記電子音響チャンネルの伝達関数の各推定値は、ある周波数範囲でのチャンネルの振幅応答の推定値であることを特徴とする列挙した実施例1〜20の何れか1つに記載の方法。
【0129】
22.前記音響空間は、オーディオ外乱信号を受け取ることを特徴とする列挙した実施例1〜21の何れか1つに記載の方法。
【0130】
23.前記音響空間は、さらに、オーディオ外乱信号を受け取り、前記第1のオーディオ信号には、(1)前記第2のオーディオ信号と前記電子音響チャンネルの伝達関数の推定値に基づき前記第1のオーディオ信号を前記フィルターに適用して得られたオーディオ信号との差から導き出された誤差フィードバック信号であって、この差は、その伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンとなる1以上のフィルターによりフィルターされたものであることを特徴とする、誤差フィードバック信号と、(2)スピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号と、が含まれることを特徴とする列挙した実施例1〜21の何れか1つに記載の方法。
【0131】
24.電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答によりオーディオの外乱を減少又はキャンセルするアクティブノイズキャンセラーを備えることを特徴とする列挙した実施例23に記載の方法。
【0132】
25.前記第1のオーディオ信号は、ターゲット応答フィルターにより、そして1以上のフィルターによりフィルターされたオーディオ入力信号を含むことを特徴とする列挙した実施例1〜21の何れか1つに記載の方法。
【0133】
26.電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答が、ターゲット応答フィルターの応答を模擬するイコライザー備えることを特徴とする列挙した実施例25に記載の方法。
【0134】
27.前記音響空間は、さらに、オーディオ外乱信号を受け取り、前記第1のオーディオ信号には、(1)前記第2のオーディオ信号と前記電子音響チャンネルの伝達関数の推定値に前記第1のオーディオ信号を適用して得られたオーディオ信号との差から導き出された誤差フィードバック信号であって、この差は、その伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンとなる1以上のフィルターによりフィルターされたものであることを特徴とする、誤差フィードバック信号と、(2)ターゲット応答フィルターによりフィルターされ、また、その伝達関数が、前記推定伝達関数の逆バージョンとなるような1以上のフィルターによりフィルターされたスピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号とが含まれることを特徴とする列挙した実施例1〜21の何れか1つに記載の方法。
【0135】
28.電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答によりオーディオの外乱を減少又はキャンセルするアクティブノイズキャンセラーを備え、また、電子音響チャンネルでの知覚されるオーディオ応答が、ターゲット応答フィルターの応答を模擬するイコライザーを備えることを特徴とする列挙した実施例25に記載の方法。
【0136】
29.前記ターゲット応答フィルターは、平坦な応答を有するようにすることができ、この場合該フィルターを省略することができることを特徴とする列挙した実施例26又は列挙した実施例28に記載の方法。
【0137】
30.前記ターゲット応答フィルターは、拡散音場応答を有することを特徴とする列挙した実施例26又は列挙した実施例28に記載の方法。
【0138】
31.前記ターゲット応答フィルターの特性をユーザーが定めることを特徴とする列挙した実施例26又は列挙した実施例28に記載の方法。
【0139】
32.伝達関数が、前記推定伝達関数の逆バージョンとなるような上記1以上のフィルターは、下部周波IIRフィルター及び上部周波FIRフィルターを縦続接続して構成されていることを特徴とする列挙した実施例23又は列挙した実施例27に記載の方法。
【0140】
33.前記第1のオーディオ信号は、聞こえない人工的な選択した信号を具備することを特徴とする列挙した実施例1〜21の何れか1つに記載の方法。
【0141】
34.前記構成は、前記第2のオーディオ信号と、周波数領域におけるディジタルオーディオ信号としての第2のオーディオ信号の少なくとも一部に対応することを特徴とする列挙した実施例1〜32の何れか1つに記載の方法。
【0142】
35.第1のオーディオ信号を第1の電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させ、該音響空間の空気圧の変化に応答して第2のオーディオ信号を第2の電気音響変換器が取得するような、電子音響チャンネル中の音場を変化させるための方法であって、
前記第2のオーディオ信号と前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部とに応答して、オーディオ周波数が高い一定の範囲より低いオーディオ周波数の範囲で前記電子音響チャンネルの推定伝達関数を定めるステップであって、該推定伝達関数は、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出されたものであり、該推定伝達関数は、電子音響チャンネルの伝達関数の時間的変動に適応するものであることを特徴とする、推定伝達関数を定めるステップと、
オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲の伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを前記推定伝達関数に基づき取得し、該1つ以上のフィルターで前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部分をフィルターするステップであって、該第1のオーディオ信号の一部分は、前記第1のオーディオ信号の最初の部分であってもなくてもよいことを特徴とする、ステップと、
前記低いオーディオ周波数の範囲より高い周波数の範囲の伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを取得するステップは、勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とする、ステップと、
を具備する方法。
【0143】
36.さらに、オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲での前記推定伝達関数が1以上の複数の時不変フィルターと共に組み込まれることを特徴とする列挙した実施例35に記載の方法。
【0144】
37.オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲の伝達関数が、前記推定伝達関数に基づく1以上のフィルターは、該周波数の範囲での推定伝達関数の逆バージョンである伝達関数を持つことを特徴とする列挙した実施例35又は列挙した実施例36に記載の方法。
【0145】
38.前記勾配降下を最小にする処理は、前記第2のオーディオ信号と、前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数の高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差に応じるようにすることを特徴とする列挙した実施例35に記載の方法。
【0146】
39.オーディオ周波数が高い一定の範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルターは、1以上のIIRフィルターであり、該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターは、1以上のFIRフィルターであることを特徴とする列挙した実施例38に記載の方法。
【0147】
40.前記音響空間はまた、オーディオの外乱と、(1)前記第2のオーディオ信号と前記前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差から導き出される誤差フィードバック信号であって、前記差は、(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンであることを特徴とするフィルターと(b)オーディオ周波数が低い前記範囲より高いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とするフィルターとを直列に構成したものによりフィルターされることを特徴とする、誤差フィードバック信号、及び(2)スピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号を含むことのできる前記第1のオーディオ信号と、を受け取ることを特徴とする列挙した実施例1〜3の何れか1つに記載の方法。
【0148】
41.前記音響空間はまた、オーディオの外乱と、(1)前記第2のオーディオ信号と前記前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部を(a)オーディオ周波数が高い一定の範囲より低いオーディオ周波数の範囲で電子音響チャンネルの伝達関数を推定するフィルター、及び(b)該低い周波数の範囲より高い周波数の範囲で時不変伝達応答を有するフィルターを直列に構成したものに適用することにより得られたオーディオ信号との差から導き出される誤差フィードバック信号であって、前記差は、(a)オーディオ周波数が高い範囲より低いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンであることを特徴とするフィルターと(b)オーディオ周波数が低い前記範囲より高いオーディオ周波数の範囲で、フィルターの伝達関数が勾配降下を最小にする処理により可変的に制御されることを特徴とするフィルターとを直列に構成したものによりフィルターされることを特徴とする、誤差フィードバック信号、及び(2)ターゲット応答フィルターによりフルターされ、フィルターの直列構成によりフィルターされたスピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号を含むことのできる前記第1のオーディオ信号と、を受け取ることを特徴とする列挙した実施例35〜39の何れか1つに記載の方法。
【0149】
42.1組のフィルターの線型結合により時間的に変化する伝達チャンネルのインパルス応答を推定するような1組のフィルターを取得する方法であって、M個のフィルターオブザベーションを取得するステップであって、該オブザベーションには、可能な時間変動範囲全体にわたる伝達チャンネルのインパルス応答が含まれることを特徴とする、ステップと、M個のフィルターから、固有ベクトル方法によりN個を選択するステップと、実時間で、前記伝達チャンネルの最適な推定値を形成するN個のフィルターの線型結合を決定するステップと、を具備する方法。
【0150】
43.選択した前記N個のフィルターは、前記M個のオブザベーションの自己相関マトリックスの固有ベクトルを導き出すことにより決定することを特徴とする列挙した実施例42に記載の方法。
【0151】
44.選択した前記N個のフィルターは、マトリックスの行が前記M個のオブザベーションとなるような矩形行列を特異値分解することにより得られる固有ベクトルを導き出すことにより決定することを特徴とする列挙した実施例42に記載の方法。
【0152】
45.N個の固有ベクトルフィルターの各々の倍率は、勾配降下の最適化を用いて取得することを特徴とする列挙した実施例42〜44の何れか1つに記載の方法。
【0153】
46.前記勾配降下の最適化では、LMSアルゴリズムを採用することを特徴とする列挙した実施例45に記載の方法。
【0154】
47.前記M個のオブザベーションは、実際の伝達チャンネル又は模擬した伝達チャンネルで測定したインパルス応答とすることを特徴とする列挙した実施例42〜46の何れか1つに記載の方法。
【0155】
48.列挙した実施例1〜47の何れか1つに記載の方法を実施するための装置。
【0156】
49.列挙した実施例1〜47の何れか1つに記載の方法の各ステップを実行するための手段を具備する装置。
【0157】
50.列挙した実施例1〜47の何れか1つに記載の方法をコンピュータに実行させるための、コンピュータ読み取り可能媒体に保存した、コンピュータプログラム。
【0158】
本発明の多くの実施の形態について本明細書に記載した。とはいうものの、当然のことながら本発明の精神と技術範囲を逸脱することなく種々の修正を加えることが可能である。例えば、ここに記載したステップは順序に依存せず、従って異なる順序で実行することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のオーディオ信号を第1の電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させ、該音響空間の空気圧の変化に応答して第2のオーディオ信号を第2の電気音響変換器が取得するような、電子音響チャンネル中の音場を変化させるための方法であって、
前記第2のオーディオ信号と、前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部に応答して、前記電子音響チャンネルの推定伝達関数を定めるステップであって、該推定伝達関数は、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出されたものであり、該推定伝達関数は、電子音響チャンネルの伝達関数の時間的変動に適応するものであることを特徴とする、推定伝達関数を定めるステップと、
該推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを取得し、該1つ以上のフィルターで前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部分をフィルターするステップであって、該第1のオーディオ信号の一部分は、前記第1のオーディオ信号の最初の部分であってもなくてもよいことを特徴とする、ステップと、
を具備する方法。
【請求項2】
前記推定伝達関数を1以上の複数の時不変フィルターに組み込むステップをさらに具備することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記推定伝達関数は、前記電子音響チャンネルの伝達関数において時間的変動の時間平均に応じて適応することを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記1以上の複数の時不変フィルターは、
1以上のIIRフィルター、又は
第1のフィルターをIIRフィルターとし第2のフィルターをFIRフィルターとする2つのフィルターの縦列接続、
であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出すか、又は
前記推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせの1つから他の1つにクロスフェードさせることにより定めるか、又は
前記推定伝達関数は、伝達関数のグループのうちの2以上を選択し、誤差最小化技法に基づき、選択した伝達関数を重み付けして線型結合することにより定める、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記伝達関数のグループの1以上の特性には、時間と共に変動するインパルス応答の範囲全体にわたる電子音響チャンネルのインパルス応答が含まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記伝達関数のグループの特性を固有ベクトル法により取得することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の電気音響変換器は、ラウドスピーカー、イヤースピーカー、ヘッドフォンイヤーピース、及び、イヤーバッドのうちの1つであることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記音響空間は、耳を覆うカップ、又は耳の周りのカップにより、少なくともある程度の制約を受ける小音響空間であり、この小音響空間が取り囲まれる程度は、この耳カップの耳への接近度及び耳へのセンタリングの程度によることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記電子音響チャンネルの伝達関数の変化は、耳に対する小音響空間の位置の変化の結果生じることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記電子音響チャンネルの伝達関数の各推定値は、ある周波数範囲でのチャンネルの振幅応答の推定値であることを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記音響空間は、さらに、オーディオ外乱信号を受け取り、前記第1のオーディオ信号には、
前記第2のオーディオ信号と前記電子音響チャンネルの伝達関数の推定値に基づき前記第1のオーディオ信号を前記フィルターに適用して得られたオーディオ信号との差から導き出された誤差フィードバック信号であって、この差は、その伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンとなる1以上のフィルターによりフィルターされたものであることを特徴とする誤差フィードバック信号、又は、
スピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号、
が含まれることを特徴とする請求項1乃至請求項11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
アクティブにノイズをキャンセルするステップを具備し、前記電子音響チャンネルは前記オーディオ外乱を削減又はキャンセルすることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13の何れか1項に記載の方法のステップを実施するための装置。
【請求項15】
エンコードした命令を具備するコンピュータ読み取り可能媒体であって、1以上のプロセッサにより実行させたとき、請求項1乃至請求項13の何れか1項に記載の処理ステップを行うようプロセッサを制御することを特徴とする、コンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項16】
請求項1乃至請求項13の何れか1項に記載の方法のステップを具備する、プロセッサベースのシステムの使用。
【請求項1】
第1のオーディオ信号を第1の電気音響変換器により音響空間に適用し、音響空間の空気圧を変化させ、該音響空間の空気圧の変化に応答して第2のオーディオ信号を第2の電気音響変換器が取得するような、電子音響チャンネル中の音場を変化させるための方法であって、
前記第2のオーディオ信号と、前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部に応答して、前記電子音響チャンネルの推定伝達関数を定めるステップであって、該推定伝達関数は、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出されたものであり、該推定伝達関数は、電子音響チャンネルの伝達関数の時間的変動に適応するものであることを特徴とする、推定伝達関数を定めるステップと、
該推定伝達関数に基づく伝達関数をもつ1つ以上のフィルターを取得し、該1つ以上のフィルターで前記第1のオーディオ信号の少なくとも一部分をフィルターするステップであって、該第1のオーディオ信号の一部分は、前記第1のオーディオ信号の最初の部分であってもなくてもよいことを特徴とする、ステップと、
を具備する方法。
【請求項2】
前記推定伝達関数を1以上の複数の時不変フィルターに組み込むステップをさらに具備することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記推定伝達関数は、前記電子音響チャンネルの伝達関数において時間的変動の時間平均に応じて適応することを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記1以上の複数の時不変フィルターは、
1以上のIIRフィルター、又は
第1のフィルターをIIRフィルターとし第2のフィルターをFIRフィルターとする2つのフィルターの縦列接続、
であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせから、導き出すか、又は
前記推定伝達関数は、誤差最小化技法を用いて、伝達関数のグループから選択された1つの伝達関数又は伝達関数のグループから選択された伝達関数の組み合わせの1つから他の1つにクロスフェードさせることにより定めるか、又は
前記推定伝達関数は、伝達関数のグループのうちの2以上を選択し、誤差最小化技法に基づき、選択した伝達関数を重み付けして線型結合することにより定める、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記伝達関数のグループの1以上の特性には、時間と共に変動するインパルス応答の範囲全体にわたる電子音響チャンネルのインパルス応答が含まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記伝達関数のグループの特性を固有ベクトル法により取得することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の電気音響変換器は、ラウドスピーカー、イヤースピーカー、ヘッドフォンイヤーピース、及び、イヤーバッドのうちの1つであることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記音響空間は、耳を覆うカップ、又は耳の周りのカップにより、少なくともある程度の制約を受ける小音響空間であり、この小音響空間が取り囲まれる程度は、この耳カップの耳への接近度及び耳へのセンタリングの程度によることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記電子音響チャンネルの伝達関数の変化は、耳に対する小音響空間の位置の変化の結果生じることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記電子音響チャンネルの伝達関数の各推定値は、ある周波数範囲でのチャンネルの振幅応答の推定値であることを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記音響空間は、さらに、オーディオ外乱信号を受け取り、前記第1のオーディオ信号には、
前記第2のオーディオ信号と前記電子音響チャンネルの伝達関数の推定値に基づき前記第1のオーディオ信号を前記フィルターに適用して得られたオーディオ信号との差から導き出された誤差フィードバック信号であって、この差は、その伝達関数が前記推定伝達関数の逆バージョンとなる1以上のフィルターによりフィルターされたものであることを特徴とする誤差フィードバック信号、又は、
スピーチ及び/又はミュージックのオーディオ信号、
が含まれることを特徴とする請求項1乃至請求項11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
アクティブにノイズをキャンセルするステップを具備し、前記電子音響チャンネルは前記オーディオ外乱を削減又はキャンセルすることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13の何れか1項に記載の方法のステップを実施するための装置。
【請求項15】
エンコードした命令を具備するコンピュータ読み取り可能媒体であって、1以上のプロセッサにより実行させたとき、請求項1乃至請求項13の何れか1項に記載の処理ステップを行うようプロセッサを制御することを特徴とする、コンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項16】
請求項1乃至請求項13の何れか1項に記載の方法のステップを具備する、プロセッサベースのシステムの使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2011−530218(P2011−530218A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521265(P2011−521265)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/052042
【国際公開番号】WO2010/014663
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(591102637)ドルビー・ラボラトリーズ・ライセンシング・コーポレーション (111)
【氏名又は名称原語表記】DOLBY LABORATORIES LICENSING CORPORATION
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/052042
【国際公開番号】WO2010/014663
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(591102637)ドルビー・ラボラトリーズ・ライセンシング・コーポレーション (111)
【氏名又は名称原語表記】DOLBY LABORATORIES LICENSING CORPORATION
【Fターム(参考)】
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