説明

電子顕微鏡における焦点合わせ方法および電子顕微鏡

【課題】 焦点合わせを良好に行える電子顕微鏡における焦点合わせ方法および電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】 対物レンズ電流値がx+Δxに設定された状態において、焦点合わせ部13は、電子線傾斜前後の像移動量Dを求める。次に対物レンズ電流値がxに設定された状態において、焦点合わせ部13は、電子線傾斜前後の像移動量Dを求める。次に対物レンズ電流値がx−Δxに設定された状態において、焦点合わせ部13は、電子線傾斜前後の像移動量Dを求める。そして、焦点合わせ部13は、その求めた像移動量D〜Dに基づき、対物レンズをジャストフォーカス状態にするための対物レンズ電流値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡における焦点合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡(TEM)は、試料に電子線を照射し、試料を透過した電子線を対物レンズで結像させて像を得、その像を中間レンズと投影レンズで拡大して、試料拡大像を蛍光板などを用いて観察する装置である。
【0003】
現在のTEMは自動焦点合わせの機能を有しており、その焦点合わせ方法として、たとえば、電子線傾斜による焦点合わせ方法(特許文献1参照)が知られている。この方法は、試料に入射する電子線の角度を変化させて焦点合わせを行う方法である。すなわち、この方法は、電子線傾斜前の試料像が電子線傾斜後にどの方向にどれだけ移動したかを検出し(このときの対物レンズ電流値をIとする)、その検出結果に基づいて対物レンズ電流値をIから最適電流値I0に補正するものである。
【0004】
なお、この電子線傾斜による焦点合わせ方法においては、ジャストフォーカス時には電子線を傾斜させても試料像は移動しないが、アンダーフォーカス時とオーバーフォーカス時には電子線を傾斜させると試料像が移動する。そして、その試料像の移動方向は、アンダーフォーカス時とオーバーフォーカス時では逆となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−55143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の焦点合わせにおいては、対物レンズ電流値をIから最適電流値I0に変更する場合、対物レンズのヒステリシスについては全く考慮されていない。すなわち、Iより大きな値からそのIに対物レンズ電流値が設定された場合と、Iより小さな値からそのIに対物レンズ電流値が設定された場合とでは、IをI0に変更した後の対物レンズの磁束密度B(すなわち対物レンズのフォーカス状態)は異なるが、このような対物レンズのヒステリシスについては特許文献1では全く考慮されていない。このため、特許文献1の焦点合わせでは、目的とする磁場を対物レンズに発生させることができない場合があり、焦点合わせがうまく行われないことがあった。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みて成されたものであり、その目的は、焦点合わせを良好に行える電子顕微鏡における焦点合わせ方法および電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の焦点合わせ方法は、次の(1)〜(4)の手順で焦点合わせを行うようにしたことを特徴とする。
(1)対物レンズ電流値を現在の対物レンズ電流値から増加させてx+Δxに設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する。
(2)対物レンズ電流値を減少させてxに設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する。
(3)対物レンズ電流値を減少させてx−Δx’設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する。
(4)次の(a)の条件を満足するx、または次の(b)の条件を満足するx、または次の(c)の条件を満足するxに、対物レンズ電流値を設定する。
(a)前記x,Δx’,D,Dと、式x=x−Δx’+Δx’D/(D−D)または式x=x+Δx’D/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx−Δx’以下であるx
(b)前記x,Δx’,D,D,Dと、式x=x−Δx’+ΔxD/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx−Δx’以上x−Δx’+Δx以下であるx
(c)前記x,Δx’,D,D,Dと、式x=x−Δx’+Δx+Δx’(D−D+D)/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx−Δx’+Δx以上であるx
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子顕微鏡における焦点合わせを良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】対物レンズのヒステリシスを説明するために示した図である。
【図2】第1の本発明を説明するために示した図である。
【図3】第1の本発明を説明するために示した図である。
【図4】第1の本発明を説明するために示した図である。
【図5】第2の本発明を説明するために示した図である。
【図6】第2の本発明を説明するために示した図である。
【図7】第2の本発明を説明するために示した図である。
【図8】第1の本発明の実施例を示した図である。
【図9】第2の本発明の実施例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、第1の本発明の原理を説明する。
[第1の本発明の原理]
最初に、対物レンズのヒステリシスについて説明する。図1は、対物レンズのヒステリシスループを示したものである。図1に示すように、x+Δxまで増加させてきた対物レンズ電流値を逆に減少させていくと、対物レンズ電流値がx+Δxからxまでは(ab間では)対物レンズの磁束密度Bはゆるやかに減少し、対物レンズ電流値がxからx−Δx’までは(bc間では)対物レンズの磁束密度Bはab間よりも激しく減少する。このように、増加させてきた対物レンズ電流をx+Δxにおいて減少する方向に反転させると、その反転時から対物レンズ電流値がΔx減少する間は、対物レンズの磁束密度BはΔAの変化率(図1参照)で減少する。そして、その後においては、対物レンズの磁束密度BはΔBの変化率(図1参照)で減少する。
【0012】
一方、x−Δx’から逆に対物レンズ電流値を増加させていくと、対物レンズ電流値がx−Δx’からx−Δx’+Δxまでは(cd間では)対物レンズの磁束密度Bはゆるやかに増加し、対物レンズ電流値がx−Δx’+Δxからx+Δxまでは(da間では)対物レンズの磁束密度Bはcd間よりも激しく増加する。このように、減少させてきた対物レンズ電流をx−Δx’において増加する方向に反転させると、その反転時から対物レンズ電流値がΔx増加する間は、対物レンズの磁束密度Bは前記ΔAの変化率(図1参照)で増加する。そして、その後においては、対物レンズの磁束密度Bは前記ΔBの変化率(図1参照)で増加する。
【0013】
以上、対物レンズのヒステリシスについて説明した。本発明ではこのようなヒステリシス特性を事前に取得して前記Δxを求め、そのΔxを用いて次の(1)〜(4)の手順で焦点合わせを行う。
(1)現在の対物レンズ電流値がxとすると、対物レンズ電流値をxから連続的に増加させてx+Δxに設定する。そして、その設定状態において、上述したように試料に入射する電子線の角度を変化させ、電子線傾斜前の試料像が電子線傾斜後にどの方向にどれだけ移動したかを検出する(特許文献1参照)。たとえば、CCDカメラで撮像された試料像が右から左にD移動した場合、このように試料像が右から左に移動するのはオーバーフォーカス時であるとすると、Dは正の値(+D)として取得される。図2は、横軸に対物レンズ電流値I、縦軸に試料像の移動量Dをとって、IとDの関係を示した図である。図2の点eが、x+Δxにおける像移動量Dを示している。なお、この移動量Dは、対物レンズの焦点ずれ量に対応している。
(2)次に、対物レンズ電流値をx+Δxから連続的に減少させてxに設定する。そして、(1)同様に試料に入射する電子線の角度を変化させ、電子線傾斜前の試料像が電子線傾斜後にどの方向にどれだけ移動したかを検出する。たとえば、CCDカメラで撮像された試料像が右から左にD移動した場合、この場合も(1)同様にオーバーフォーカス状態なので、Dは正の値(+D)として取得される。図2の点fが、xにおける像移動量Dを示している。
(3)次に、対物レンズ電流値をxから連続的に減少させてx−Δx’に設定する。そして、(1)同様に試料に入射する電子線の角度を変化させ、電子線傾斜前の試料像が電子線傾斜後にどの方向にどれだけ移動したかを検出する。たとえば、CCDカメラで撮像された試料像が今度は左から右にD移動した場合、このように試料像が左から右に移動するのはアンダーフォーカス時であるとすると、Dは負の値(−D)として取得される。図2の点gが、x−Δx’における像移動量Dを示している。
(4)上記(1)〜(3)の検出結果を示した図2からわかるように、xから増加させてきた対物レンズ電流をx+Δxにおいて減少する方向に反転させると、その反転時から対物レンズ電流値がΔx減少する間は、像移動量DはΔFの変化率で減少する。そして、その後においては、像移動量DはΔFの変化率で減少する。
【0014】
この図2に示す対物レンズ電流値Iと像移動量Dの関係は、図1に示した対物レンズ電流値Iと磁束密度Bの関係と対応している。すなわち、上記(3)の後に対物レンズ電流値をx−Δx’+Δxに設定して像移動量Dを仮に取得したとすると、図2の直線ghに示すように、x−Δx’から対物レンズ電流値がΔx増加する間は、像移動量Dは前記ΔFの変化率で増加する。そして、その後に対物レンズ電流値をx+Δxに設定して像移動量Dを仮に取得したとすると、図2の直線heに示すように、像移動量Dは前記ΔFの変化率で増加する。このことから、現在の対物レンズ電流値が上記(3)のD検出直後のx−Δx’だとすると、この状態から対物レンズをジャストフォーカスの状態にするには(すなわち像移動量Dを零にするには)、対物レンズ電流値Iをx(図2参照)に設定すればよいことがわかる。このxは次式[1]により求められ、そのxはx−Δx’+Δx以上の値となる。
=x−Δx’+Δx+Δx’(D−D+D)/(D−D) …[1]
一方、上記(1)〜(3)の検出結果が図3に示す場合には、上記(3)のD検出直後に対物レンズ電流値Iをx(図3参照)に設定すれば、対物レンズをジャストフォーカスの状態にすることができる。このxは次式[2]により求められ、そのxはx−Δx’以上x−Δx’+Δx以下の値となる。
=x−Δx’+ΔxD/(D−D) …[2]
また、上記(1)〜(3)の検出結果が図4に示す場合には、上記(3)のD検出直後に対物レンズ電流値Iをさらに減少させてx(図4参照。点xは直線fgの延長線上に位置する。)に設定すれば、対物レンズをジャストフォーカスの状態にすることができる。このxは次式[3]または[4]により求められ、そのxはx−Δx’以下の値となる。
=x−Δx’+Δx’D/(D−D) …[3]
=x+Δx’D/(D−D) …[4]
以上、第1の本発明の原理を説明した。次に、第2の本発明の原理を説明する。
[第2の本発明の原理]
第2の本発明においても図1に示したヒステリシス特性を事前に取得して前記Δxを求め、そのΔxを用いて次の(1)〜(4)の手順で焦点合わせを行う。
(1)現在の対物レンズ電流値がxとすると、対物レンズ電流値をxから連続的に減少させてx−Δxに設定する。そして、その設定状態において、上述したように試料に入射する電子線の角度を変化させ、電子線傾斜前の試料像が電子線傾斜後にどの方向にどれだけ移動したかを検出する(特許文献1参照)。たとえば、CCDカメラで撮像された試料像が左から右にD移動した場合、このように試料像が左から右に移動するのはアンダーフォーカス時であるとすると、Dは負の値(−D)として取得される。図5は、横軸に対物レンズ電流値I、縦軸に試料像の移動量Dをとって、IとDの関係を示した図である。図5の点iが、x−Δxにおける像移動量Dを示している。なお、この移動量Dは、対物レンズの焦点ずれ量に対応している。
(2)次に、対物レンズ電流値をx−Δxから連続的に増加させてxに設定する。そして、(1)同様に試料に入射する電子線の角度を変化させ、電子線傾斜前の試料像が電子線傾斜後にどの方向にどれだけ移動したかを検出する。たとえば、CCDカメラで撮像された試料像が左から右にD移動した場合、この場合も(1)同様にアンダーフォーカス状態なので、Dは負の値(−D)として取得される。図5の点jが、xにおける像移動量Dを示している。
(3)次に、対物レンズ電流値をxから連続的に増加させてx+Δx’に設定する。そして、(1)同様に試料に入射する電子線の角度を変化させ、電子線傾斜前の試料像が電子線傾斜後にどの方向にどれだけ移動したかを検出する。たとえば、CCDカメラで撮像された試料像が今度は右から左にD移動した場合、このように試料像が右から左に移動するのはオーバーフォーカス時であるとすると、Dは正の値(+D)として取得される。図5の点kが、x+Δx’における像移動量Dを示している。
(4)上記(1)〜(3)の検出結果を示した図5からわかるように、xから減少させてきた対物レンズ電流をx−Δxにおいて増加する方向に反転させると、その反転時から対物レンズ電流値がΔx増加する間は、像移動量DはΔFの変化率で増加する。そして、その後においては、像移動量DはΔFの変化率で増加する。
【0015】
この図5に示す対物レンズ電流値Iと像移動量Dの関係は、図1に示した対物レンズ電流値Iと磁束密度Bの関係と対応している。すなわち、上記(3)の後に対物レンズ電流値をx+Δx’−Δxに設定して像移動量Dを仮に取得したとすると、図5の直線kmに示すように、x+Δx’から対物レンズ電流値がΔx減少する間は、像移動量Dは前記ΔFの変化率で減少する。そして、その後に対物レンズ電流値をx−Δxに設定して像移動量Dを仮に取得したとすると、図5の直線miに示すように、像移動量Dは前記ΔFの変化率で減少する。このことから、現在の対物レンズ電流値が上記(3)のD検出直後のx+Δx’だとすると、この状態から対物レンズをジャストフォーカスの状態にするには(すなわち像移動量Dを零にするには)、対物レンズ電流値Iをx(図5参照)に設定すればよいことがわかる。このxは次式[5]により求められ、そのxはx+Δx’−Δx以下の値となる。
=x+Δx’−Δx+Δx’(D−D+D)/(D−D) …[5]
一方、上記(1)〜(3)の検出結果が図6に示す場合には、上記(3)のD検出直後に対物レンズ電流値Iをx(図6参照)に設定すれば、対物レンズをジャストフォーカスの状態にすることができる。このxは次式[6]により求められ、そのxはx−Δx’−Δx以上x+Δx’以下の値となる。
=x+Δx’+ΔxD/(D−D) …[6]
また、上記(1)〜(3)の検出結果が図7に示す場合には、上記(3)のD検出直後に対物レンズ電流値Iをさらに上昇させてx(図7参照。点xは直線jkの延長線上に位置する。)に設定すれば、対物レンズをジャストフォーカスの状態にすることができる。このxは次式[7]または[8]により求められ、そのxはx+Δx’以上の値となる。
=x+Δx’+Δx’D/(D−D) …[7]
=x+Δx’D/(D−D) …[8]
以上、第2の本発明の原理を説明した。
【0016】
次に、本発明の実施例を説明する。最初に、上述した第1の本発明の実施例を説明する。
(第1の本発明の実施例)
図8は本発明の電子顕微鏡の一例を示した図である。
【0017】
図8において、1は鏡筒であり、鏡筒1の内部は排気装置(図示せず)によって排気されている。この鏡筒1の内部には、上から順に、電子銃2、集束レンズ3、電子線傾斜用アライメントコイル(CLアライメントコイル)4、試料5、対物レンズ6、中間レンズ7、投影レンズ8、TVカメラ9が配置されている。
【0018】
電子銃2から放出された電子は集束レンズ3に入射し、集束レンズ3によって集束された電子線は試料5を照射する。そして、試料5を透過した電子線は対物レンズ6により結像作用を受け、試料5の初段像が対物レンズ6と中間レンズ7間に形成される。
【0019】
その後、中間レンズ7と投影レンズ8により試料拡大像が形成されて行き、最終的な観察/記録面hに、数百倍〜数百万倍の範囲で観察目的に沿った倍率で試料像が結像される。この観察/記録面hには、TVカメラ9の撮像素子9aが配置されており、観察/記録面hに結像された試料像は撮像素子9aで撮像される。
【0020】
撮像素子9aからのTV像信号iは、TV画像取り込みインターフェース10を装備した制御装置(パーソナルコンピュータ)11に入力される。制御装置11は、本発明の目的に合わせて開発されたソフトウェア12を搭載しており、PC上で動作するソフトウェア12は、焦点合わせ部13を備えている。
【0021】
この焦点合わせ部13には、前記インターフェース10からのTV像信号iが供給されるように構成されている。また、インターフェース10からのTV像信号iはディスプレイ14にも供給されており、ディスプレイ14上には、前記TVカメラ9で撮像された透過電子像が表示されている。
【0022】
前記焦点合わせ部13は、電子線傾斜信号tをCLアライメントコイル電源装置15に、また、対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給するように構成されている。CLアライメントコイル電源装置15は、電子線傾斜信号tに基づき、CLアライメントコイル4に供給する励磁電流を調節する。一方、対物レンズ電源装置16は、対物レンズ制御信号sに基づき、対物レンズ6に供給する励磁電流(対物レンズ電流)を調節する。なお、焦点合わせ部13は、対物レンズ電源装置16の状態を常に監視しており、現在の対物レンズ電流の値xを把握している。
【0023】
以上、図8の電子顕微鏡(TEM)の装置構成を説明した。以下、動作説明を行う。
【0024】
オペレータは、図8のTEMに自動焦点合わせを行わせる場合、制御装置11のソフトウェア12に対して「自動焦点合わせ」の開始を指示する。この「自動焦点合わせ」の開始の指示は、ディスプレイ14上の「自動焦点合わせ」と表示された部分をマウスでクリックすることで行われる。
【0025】
こうして「自動焦点合わせ」の開始が指示されると、焦点合わせ部13は、対物レンズ電流値Iを現在のxからx+Δxに増加させるための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。対物レンズ電源装置16は、焦点合わせ部13からの信号に基づき、対物レンズ6に流れる電流をx+Δxに設定する。
【0026】
そして、TVカメラ9からのTV像信号iが供給されている焦点合わせ部13は、現在TVカメラ9で撮像されている試料像を電子線傾斜前画像(画像A)としてその内部メモリMに取り込む。なお、このときの試料5への電子線の入射角度はθである。
【0027】
次に焦点合わせ部13は、試料5に対する入射電子線の角度をθからθだけ変化させるための電子線傾斜信号tをCLアライメントコイル電源装置15に供給する。CLアライメントコイル電源装置15は、焦点合わせ部13からの電子線傾斜信号tに基づき、CLアライメントコイル4に供給する励磁電流を調節する。これによって、試料5への電子線の入射角度はθからθだけ変化してθ(=θ+θ)となり、試料5は、それまでよりθだけ傾斜した電子線の照射を受ける。
【0028】
その電子線照射による試料像はTVカメラ9で撮像され、焦点合わせ部13は、現在TVカメラ9で撮像されている試料像を電子線傾斜後画像(画像B)としてその内部メモリMに取り込む。そして、焦点合わせ部13は、電子線傾斜前画像(画像A)と電子線傾斜後画像(画像B)の相互相関関数を計算して前記像移動量D(図2〜4参照)を求める。
【0029】
次に焦点合わせ部13は、対物レンズ電流値Iをx+Δxからxに減少させるための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。そして、前記同様にして、試料5への電子線入射角度がθとθのときの画像A,Bが取得され、それらの画像A,Bに基づいてI=xにおける前記像移動量D(図2〜4参照)が求められる。
【0030】
次に焦点合わせ部13は、対物レンズ電流値Iをxからx−Δx’に減少させるための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。そして、前記同様にして、試料5への電子線入射角度がθとθのときの画像A,Bが取得され、それらの画像A,Bに基づいてI=x−Δx’における前記像移動量D(図2〜4参照)が求められる。
【0031】
次に焦点合わせ部13は、まず、前記式[3]または式[4]を用いて前記xを求める。そして、焦点合わせ部13は、求めたxの値がx−Δx’以下のときには(すなわち図4に示す状態のときには)、その電流xを対物レンズ6に流すための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。この信号を受けた対物レンズ電源装置16は電流xを対物レンズ6に流すので、対物レンズ6はジャストフォーカスの状態となる。
【0032】
一方、焦点合わせ部13は、上記求めたxの値がx−Δx’以下でないときは、次に、前記式[2]を用いて前記xを求める。そして、焦点合わせ部13は、求めたxの値がx−Δx’以上x−Δx’+Δxのときには(すなわち図3に示す状態のときには)、その電流xを対物レンズ6に流すための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。この信号を受けた対物レンズ電源装置16は電流xを対物レンズ6に流すので、対物レンズ6はジャストフォーカスの状態となる。
【0033】
また、焦点合わせ部13は、上記求めたxの値がx−Δx’以上x−Δx’+Δx以下でないときは、最後に、前記式[3]を用いて前記xを求める。このxの値はx−Δx’+Δx以上であり(すなわち図2に示す状態であり)、焦点合わせ部13は、その電流xを対物レンズ6に流すための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。この信号を受けた対物レンズ電源装置16は電流xを対物レンズ6に流すので、対物レンズ6はジャストフォーカスの状態となる。
【0034】
以上、図8を用いて第1の本発明の実施例を説明した。
【0035】
次に、上述した第2の本発明の実施例を図9を用いて説明する。図9において、13’は焦点合わせ部であり、それ以外の構成は図8の構成と同じである。なお、焦点合わせ部13’は、対物レンズ電源装置16の状態を常に監視しており、現在の対物レンズ電流の値xを把握している。
【0036】
さて、この図9のTEMにおいて「自動焦点合わせ」の開始が指示されると、焦点合わせ部13’は、対物レンズ電流値Iを現在のxからx−Δxに減少させるための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。対物レンズ電源装置16は、焦点合わせ部13’からの信号に基づき、対物レンズ6に流れる電流をx−Δxに設定する。
【0037】
そして、TVカメラ9からのTV像信号iが供給されている焦点合わせ部13’は、現在TVカメラ9で撮像されている試料像を電子線傾斜前画像(画像A)としてその内部メモリMに取り込む。なお、このときの試料5への電子線の入射角度はθである。
【0038】
次に焦点合わせ部13’は、試料5に対する入射電子線の角度をθからθだけ変化させるための電子線傾斜信号tをCLアライメントコイル電源装置15に供給する。CLアライメントコイル電源装置15は、焦点合わせ部13’からの電子線傾斜信号tに基づき、CLアライメントコイル4に供給する励磁電流を調節する。これによって、試料5への電子線の入射角度はθからθだけ変化してθ(=θ+θ)となり、試料5は、それまでよりθだけ傾斜した電子線の照射を受ける。
【0039】
その電子線照射による試料像はTVカメラ9で撮像され、焦点合わせ部13’は、現在TVカメラ9で撮像されている試料像を電子線傾斜後画像(画像B)としてその内部メモリMに取り込む。そして、焦点合わせ部13’は、電子線傾斜前画像(画像A)と電子線傾斜後画像(画像B)の相互相関関数を計算して前記像移動量D(図5〜7参照)を求める。
【0040】
次に焦点合わせ部13’は、対物レンズ電流値Iをx−Δxからxに増加させるための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。そして、前記同様にして、試料5への電子線入射角度がθとθのときの画像A,Bが取得され、それらの画像A,Bに基づいてI=xにおける前記像移動量D(図5〜7参照)が求められる。
【0041】
次に焦点合わせ部13’は、対物レンズ電流値Iをxからx+Δx’に増加させるための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。そして、前記同様にして、試料5への電子線入射角度がθとθのときの画像A,Bが取得され、それらの画像A,Bに基づいてI=x+Δx’における前記像移動量D(図5〜7参照)が求められる。
【0042】
次に焦点合わせ部13’は、まず、前記式[7]または式[8]を用いて前記xを求める。そして、焦点合わせ部13’は、求めたxの値がx−Δx+Δx’以上のときには(すなわち図7に示す状態のときには)、その電流xを対物レンズ6に流すための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。この信号を受けた対物レンズ電源装置16は電流xを対物レンズ6に流すので、対物レンズ6はジャストフォーカスの状態となる。
【0043】
一方、焦点合わせ部13’は、上記求めたxの値がx−Δx+Δx’以上でないときは、次に、前記式[6]を用いて前記xを求める。そして、焦点合わせ部13’は、求めたxの値がx+Δx’−Δx以上x+Δx’以下のときには(すなわち図6に示す状態のときには)、その電流xを対物レンズ6に流すための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。この信号を受けた対物レンズ電源装置16は電流xを対物レンズ6に流すので、対物レンズ6はジャストフォーカスの状態となる。
【0044】
また、焦点合わせ部13’は、上記求めたxの値がx+Δx’−Δx以上x+Δx’以下でないときは、最後に、前記式[5]を用いて前記xを求める。このxの値はx+Δx’−Δx以下であり(すなわち図5に示す状態であり)、焦点合わせ部13’は、その電流xを対物レンズ6に流すための対物レンズ制御信号sを対物レンズ電源装置16に供給する。この信号を受けた対物レンズ電源装置16は電流xを対物レンズ6に流すので、対物レンズ6はジャストフォーカスの状態となる。
【0045】
以上、第2の本発明の実施例を説明した。
【0046】
上述したように、本発明においては、対物レンズのヒステリシスを考慮した焦点合わせが行われるので、焦点合わせを正確かつ短時間に行うことができる。
【0047】
なお、上記例では、本発明をTEMに適用した場合について説明したが、本発明を走査電子顕微鏡(SEM)や、SEM機能を備えたTEMにも適用することができる。その場合、対物レンズの焦点ずれ量に関する前記Dは、対物レンズ電流値をx+Δxに設定して取得された1枚のSEM像に基づいて求められる。すなわち、SEM像の特定ラインにおける輝度信号プロファイルに対して微分処理が行われ、それで得られた微分プロファイルのピーク高さに基づいて前記Dが求められる。そのピーク高さと焦点ずれ量は対応関係にあり、焦点ずれ量が大きくなるとピーク高さは低くなる。また、この場合、他の値D,DはDと同様にして求められる。
【0048】
また、上記例において、Δx’をΔxと同じ値に設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…鏡筒、2…電子銃、3…集束レンズ、4…CLアライメントコイル、5…試料、6…対物レンズ、7…中間レンズ、8…投影レンズ、9…TVカメラ、10…TV画像取り込みインターフェース、11…制御装置、12…ソフトウェア、13,13’…焦点合わせ部、14…ディスプレイ、15…CLアライメントコイル電源装置、16…対物レンズ電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズに流れる対物レンズ電流を変化させて焦点合わせを行うようにした電子顕微鏡における焦点合わせ方法において、次の(1)〜(4)の手順で焦点合わせを行うようにしたことを特徴とする電子顕微鏡における焦点合わせ方法
(1)対物レンズ電流値を現在の対物レンズ電流値から増加させてx+Δxに設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する
(2)対物レンズ電流値を減少させてxに設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する
(3)対物レンズ電流値を減少させてx−Δx’設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する
(4)次の(a)の条件を満足するx、または次の(b)の条件を満足するx、または次の(c)の条件を満足するxに、対物レンズ電流値を設定する
(a)前記x,Δx’,D,Dと、式x=x−Δx’+Δx’D/(D−D)または式x=x+Δx’D/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx−Δx’以下であるx
(b)前記x,Δx’,D,D,Dと、式x=x−Δx’+ΔxD/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx−Δx’以上x−Δx’+Δx以下であるx
(c)前記x,Δx’,D,D,Dと、式x=x−Δx’+Δx+Δx’(D−D+D)/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx−Δx’+Δx以上であるx
【請求項2】
対物レンズに流れる対物レンズ電流を変化させて焦点合わせを行うようにした電子顕微鏡における焦点合わせ方法において、次の(1)〜(4)の手順で焦点合わせを行うようにしたことを特徴とする電子顕微鏡における焦点合わせ方法
(1)対物レンズ電流値を現在の対物レンズ電流値から減少させてx−Δxに設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する
(2)対物レンズ電流値を増加させてxに設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する
(3)対物レンズ電流値を増加させてx+Δx’設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する
(4)次の(a)の条件を満足するx、または次の(b)の条件を満足するx、または次の(c)の条件を満足するxに、対物レンズ電流値を設定する
(a)前記x,Δx’,D,Dと、式x=x+Δx’+Δx’D/(D−D)または式x=x+Δx’D/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx+Δx’以上であるx
(b)前記x,Δx’,D,D,Dと、式x=x+Δx’+ΔxD/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx+Δx’−Δx以上x+Δx’以下であるx
(c)前記x,Δx’,D,D,Dと、式x=x+Δx’−Δx+Δx’(D−D+D)/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx+Δx’−Δx以上であるx
【請求項3】
対物レンズに流れる対物レンズ電流を変化させて焦点合わせを行うようにした電子顕微鏡において、次の(1)〜(4)の手段を備えたことを特徴とする電子顕微鏡
(1)対物レンズ電流値を現在の対物レンズ電流値から増加させてx+Δxに設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する手段
(2)対物レンズ電流値を減少させてxに設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する手段
(3)対物レンズ電流値を減少させてx−Δx’設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する手段
(4)次の(a)の条件を満足するx、または次の(b)の条件を満足するx、または次の(c)の条件を満足するxに、対物レンズ電流値を設定する手段
(a)前記x,Δx’,D,Dと、式x=x−Δx’+Δx’D/(D−D)または式x=x+Δx’D/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx−Δx’以下であるx
(b)前記x,Δx’,D,D,Dと、式x=x−Δx’+ΔxD/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx−Δx’以上x−Δx’+Δx以下であるx
(c)前記x,Δx’,D,D,Dと、式x=x−Δx’+Δx+Δx’(D−D+D)/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx−Δx’+Δx以上であるx
【請求項4】
対物レンズに流れる対物レンズ電流を変化させて焦点合わせを行うようにした電子顕微鏡において、次の(1)〜(4)の手段を備えたことを特徴とする電子顕微鏡
(1)対物レンズ電流値を現在の対物レンズ電流値から減少させてx−Δxに設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する手段
(2)対物レンズ電流値を増加させてxに設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する手段
(3)対物レンズ電流値を増加させてx+Δx’設定し、その設定状態において対物レンズの焦点ずれ量に関する値Dを取得する手段
(4)次の(a)の条件を満足するx、または次の(b)の条件を満足するx、または次の(c)の条件を満足するxに、対物レンズ電流値を設定する手段
(a)前記x,Δx’,D,Dと、式x=x+Δx’+Δx’D/(D−D)または式x=x+Δx’D/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx+Δx’以上であるx
(b)前記x,Δx’,D,D,Dと、式x=x+Δx’+ΔxD/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx+Δx’−Δx以上x+Δx’以下であるx
(c)前記x,Δx’,D,D,Dと、式x=x+Δx’−Δx+Δx’(D−D+D)/(D−D)に基づいて求められたxであって、その値がx+Δx’−Δx以上であるx

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−18769(P2012−18769A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154054(P2010−154054)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】