説明

電極体の製造方法、および高圧放電ランプの製造方法

【課題】本発明は、寿命中、色温度が著しく変化するのを防止することができ、良好な色特性を得ることができる高圧放電ランプの製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明は、電極ピン23と、この電極ピン23の端部に取り付けられた電極コイル24と、電極ピン23に嵌め込まれたコイル25とを有する電極体19の製造方法であって、電極ピン23をコイル25に圧入するとき、その圧入力を測定しながら圧入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体の製造方法、および高圧放電ランプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧放電ランプ、例えばメタルハライドランプは、商業施設等の屋内照明や、競技場等の屋外照明など幅広く普及している。
【0003】
この種のメタルハライドランプには、本管部とこの本管部の両端部に形成された細管部とを有する透光性のセラミック製の外囲器と、この外囲器内に封着された電極構造体とを備えているものがある(以下、「セラミックメタルハライドランプ」という)。
【0004】
ところで、この種のセラミックメタルハライドランプにおいて、その電極構造体を封着する方法としては、一般的に、外囲器の細管部の開口部から電極コイルを先頭にして電極構造体を所定の位置まで挿入した後、例えばフリットガラス等のシール材を溶融し、これを細管部の開口部から流し込んで細管部の端部のうち、本管部とは反対側の端部で封着する方法が採られている。そのため、細管部内のうち、その封着部分以外の部分では、細管部と電極構造体、特に電極ピンとの間には隙間が形成されてしまう(例えば、特許文献1等参照)。このように細管部と電極ピンとの間に隙間が形成されてしまうと、点灯時間の経過とともにその隙間に発光物質が沈み込みで滞留し、発光に寄与する発光物質が減少してその蒸気圧が変化し、色温度等の色特性が変化してしまうという問題が起こる。
【0005】
そこで、その電極構造体としてタングステン製の電極ピンと、この電極ピンの一端部に取り付けられた同じくタングステン製の電極コイルと、電極ピンの他端部に接続された例えば導電性サーメット等の給電体と、電極ピンの一部に嵌め込まれた例えばモリブデン製のコイルとから構成されたものを用いることが提案されている(例えば、特許文献2等参照)。このような電極構造体を用いたセラミックメタルハライドランプでは、細管部と電極ピンとの間にコイルが介在しているために、細管部と電極ピンとの間の隙間を空間的に小さくすることができるので、その隙間に沈み込む発光物質の量を低減させることができ、上記したような問題が起こるのを防止することができる。
【0006】
従来、この種の電極構造体の製造方法としては、図12に示すように、電極ピン23とコイル25とを水平にし、かつ電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させた状態で、電極ピン23の一端を押圧してその他端から回転させたコイル25に電極ピン23を圧入する方法(以下、単に「従来の製造方法A」という)や、図13に示すように、電極ピン23とコイル25とを水平にし、かつ電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させた状態で、電極ピン23の他端部の近傍を例えばチャック32によって把持して電極ピン23の他端から回転させたコイル25に圧入し、その後、図14に示すようにチャック32を電極ピン23のうちの電極コイル24寄りの部分に持ち替えてさらに電極ピン23を回転させたコイル25に順次圧入していく方法(以下、単に「従来の製造方法B」という)等が知られている。
【0007】
なお、電極ピンにコイル状の部材(例えば電極コイル等)を嵌め込む方法としては、次のようなものも知られている。
【0008】
まず一つ目の方法(以下、単に「従来の製造方法C」という)は、タングステン製の第3の材料部材(電極ピン)をコレットによって保持し、かつタングステン製のコイル(電極コイル)を別のコレットによって保持し、コイルを第3の材料部材に向けて移動させ、第3の材料部材の末端にコイルを嵌合させる方法である(例えば、特許文献3等参照)。この方法の場合、コイルを回転させながら第3の材料部材に嵌め込むことが好ましいとされている。
【0009】
また、二つ目の方法(以下、単に「従来の製造方法D」という)は、コイルケース内に保持されたタングステン製のコイルに、支え芯棒挿入具を用いて支え芯棒(電極ピン)を圧入する方法である(例えば、特許文献4等参照)。
【特許文献1】特開昭57−78763号公報
【特許文献2】特開2003−317661号公報
【特許文献3】特開2002−134007号公報
【特許文献4】特開平8−69750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した電極構造体を用いた従来のセラミックメタルハライドランプには、同じ生産ロットの中でもその一部のものにおいて、点灯経過時間とともに色温度が著しく変化し、寿命中、所望の色特性を維持することができないという問題があった。
【0011】
そこで、本発明者は、上記した問題の原因を解明するべく寿命中に色温度が著しく変化したランプを分析したところ、次のようなことがわかった。第一に、本来、電極ピンとコイルの各ターン(最大径の部分)とはそれぞれ密着していなければならないが、一部のターンにおいて電極ピンと接することなく、双方の間で隙間(例えば2[μm]〜5[μm])があいており、そこに発光物質が溜まっていることがわかった。この隙間の発生原因は、電極ピンの寸法ばらつきが小さいことから、コイルの寸法ばらつき、つまり一部のターンの内径が規定値よりも大きくなっているためであると考えられる。
【0012】
したがって、このような電極ピンとコイルとの間に不要な隙間が発生した不良品の電極体を用いたためにランプの寿命中、発光物質が電極ピンとコイルとのその隙間に入り込んで滞留し、発光に寄与する発光物質が減少してその蒸気圧が変化し、色温度が変化してしまったと考えられる。
【0013】
そこで、例えば電極体の組立後、前記不要な隙間が発生していないか否かという品質を保証するための検査を行う必要がある。しかし、特に電極ピンとコイルとの間の不要な隙間を直接目視で確認することは難しい。そこで、その品質を保証するべくコイルに対して電極ピンを引張って引張り強度を測定し、その強度の大きさに基づいてコイルが電極ピンに嵌め込まれている状態の良否を判定する方法が考えられる。ところが、このような検査方法では実質的に破壊試験になるために全数検査を行うことはできず、ロット毎の抜き取り検査となり、不良品の電極体が検査を逃れる可能性があった。
【0014】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、コイルが電極ピンに嵌め込まれている状態を簡単に、かつ確実に調べることができる電極体の製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、寿命中、色温度が著しく変化するのを防止することができ、良好な色特性を得ることができる高圧放電ランプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の電極体の製造方法は、電極ピンと、この電極ピンの端部に取り付けられた電極コイルと、前記電極ピンに嵌め込まれたコイルとを有する電極体の製造方法であって、前記電極ピンを前記コイルに圧入するとき、その圧入力を測定しながら圧入するものである。
【0017】
また、本発明の高圧放電ランプの製造方法は、本管部とこの本管部の両端部に形成された細管部とを有するセラミック製の外囲器と、先端部が前記本管部内に位置するように前記細管部内に配置された電極体とを有する発光管を備えた高圧放電ランプの製造方法であって、前記電極体を上記した電極体の製造方法によって製造するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、コイルが電極ピンに嵌め込まれている状態を簡単に、かつ確実に調べることができる電極体の製造方法を提供することができるものである。
【0019】
本発明は、寿命中、色温度が著しく変化するのを防止することができ、良好な色特性を得ることができる高圧放電ランプの製造方法を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の最良な実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0021】
図1に示すように、本発明の実施の形態である製造方法によって製造された定格電力150[W]のセラミックメタルハライドランプ1は、一端部が略半球状に閉塞され、かつ他端部にステムガラス2が封着された直管状の外管3と、一部がこのステムガラス2に封止され、かつ一端部がこのステムガラス2から外管3内に引き込まれた2本の電力供給線4,5と、外管3内でこれらの電力供給線4,5によって支持された発光管6と、外管3と発光管6との間に配置された円筒状のスリーブ7と、外管3の他端部に取り付けられたねじ込み式(E形)の口金8とを備えている。
【0022】
外管3の長手方向の中心軸Xと発光管6の長手方向の中心軸Yとは、略同一軸上にある。
【0023】
外管3は、例えば硬質ガラス等からなり、その内部に例えば窒素ガスが常温で20[kPa]となるように封入されている。
【0024】
なお、外管3の形状としては、図1に示す直管タイプに限らず、例えばドロップタイプ等の公知の種々の形状のものを用いることができる。また、外管3内は、必ずしも窒素ガス等が封入されている必要はなく、真空状態であってもよい。
【0025】
電力供給線4,5は、例えばニッケルまたは軟鋼からなり、外管3内に引き込まれた一端部が後述する発光管6の外部リード体21の他端部に電気的に、かつ機械的に接続されている。また、一方の電力供給線4の他端部は外管3の外部に導出して口金8のアイレット部9に、他方の電力供給線5の他端部は同じく外管3の外部に導出して口金8のシェル部10にそれぞれ電気的に接続されている。
【0026】
なお、電力供給線4,5は、通常、複数の金属線を接続して一体化したものからなる。
【0027】
発光管6は、図2に示すように、透光性のセラミック、例えば多結晶アルミナからなる外囲器11と、この外囲器11内に配置されている電極構造体12とを有している。
【0028】
また、発光管6内には、発光物質としての金属ハロゲン化物、緩衝ガスとしての水銀、および始動補助ガスとしての希ガスがそれぞれ所定量封入されている。金属ハロゲン化物としては、高演色タイプのセラミックメタルハライドランプで一般的に用いられているヨウ化ディスプロシウム(DyI3)、ヨウ化ツリウム(TmI3)、ヨウ化ホルミウム(HoI3)等の希土類金属のヨウ化物とヨウ化タリウム(TlI)およびヨウ化ナトリウム(NaI)とを組み合わせたもの、または高効率タイプのセラミックメタルハライドランプ用に注目されている例えばヨウ化プラセオジム(PrI3)やヨウ化セリウム(CeI3)とヨウ化ナトリウムとを組み合わせたもの等、所望の色特性等に応じて公知の種々の金属ハロゲン化物を用いることができる。もっとも、上記した例ではヨウ化物のみを列挙しているが、これらのヨウ化物の全部または一部を臭化物に代えて用いることもできる。希ガスとしては、アルゴンガスやキセノンガス等の単体ガス、またはこれらの混合ガスを用いることができる。
【0029】
外囲器11は、内部に放電空間13を形成する本管部14と、この本管部14の両端部に形成された略円筒状の細管部15とを有している。本管部14は、外径R1が例えば12[mm]の略円筒状の第一の筒部16と、この第一の筒部16の両端部にテーパ部17を介して形成され、かつ第一の筒部16よりも小径(外径R2が例えば6.4[mm])の略円筒状の第二の筒部18とを有している。細管部15は、その外径R3が例えば3.2[mm]、内径r1が例えば1.0[mm]である。また、この外囲器11は、第一の筒部16、テーパ部17および第二の筒部18の各部分が同時に成形される一体成形によるものであって、それぞれが別個に成形され、後に焼きばめによって一体化されたものではない。一方、細管部15は、その一端部が第二の筒部18内に挿入され焼きばめによって一体化されている。
【0030】
なお、外囲器11を構成する材料としては、多結晶体アルミナ以外に、イットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)、窒化アルミニウム、イットリア、またはジルコニア等の透光性のセラミックも用いることができる。
【0031】
また、本管部14の構造としては、略円筒状の第一の筒部16、テーパ部17および略円筒状の第二の筒部18とからなるもの以外に、例えばテーパ部17に代えて略半球状の半球部を有しているもの、すなわち略円筒状の第一の筒部16と、この第一の筒部16に略半球状の半球部を介して形成された略円筒状の第二の筒部18とからなるもの等、公知の種々のものを用いることができる。また、外囲器自体の構造としても、略円筒状の筒部と、この筒部の両端部に円板状の閉塞部材を介して形成された略円筒状の細管部とが焼きばめによって一体化されたものや、略紡錘形状をした本管部と略円筒状の細管部とが一体成形されたもの等、公知の種々のものを用いることができる。
【0032】
電極構造体12は、図3にも示すように、一端部が本管部14内に位置し、かつ残部が細管部15内に位置する電極体19と、一端部がこの電極体19の他端部に接続され、かつ他端部が細管部15の外部に導出している給電体20と、一端部がこの給電体20の他端部に接続されている外部リード体21とを有している。この一対の電極構造体12は、図2に示すように、それらの長手方向の中心軸が略同一軸上に位置しており、各々の電極体19の先端同士が互いに対向している。また、この電極構造体12は、電極体19を先頭にして細管部15内に挿入された後、溶融したガラスフリット等のシール材22が細管部15の開口部から細管部15と給電体20との間に流し込まれ、外囲器11内に封着されている。封着後、このシール材22は、細管部15の内部において細管部15と給電体20全体との間に介在し、その封着部分の長さLS(図3参照)が例えば4[mm]であり、また細管部15の外部において細管部15の開口端に略凸状に存在している。その際、給電体20と外部リード体21との接合部分はシール材22によって覆われている。したがって、細管部15内において、細管部15と電極体19との間には隙間λが存在する。もっとも、電極構造体12は、その長手方向の中心軸が細管部15の長手方向の中心軸と一致するように細管部15内に位置していることが好ましいが、製造上、細管部15内において偏心して配置される場合が多い。
【0033】
なお、シール材22は、製造上のばらつき等によって電極体19の他端部にまで流れ込み、細管部15と電極体19の他端部との間にも介在する場合がある。
【0034】
電極体19は、図3に示すように、先端部が本管部14内に位置し、かつ残部が細管部15内に位置するタングステン製の電極ピン23と、この電極ピン23の一端部に取り付けられ、かつ一重の密巻きコイルからなるタングステン製の電極コイル24と、電極ピン23のうち、少なくとも細管部15内に位置している部分に嵌め込まれた一重の密巻きコイルからなるモリブデン製のコイル25とを有している。給電体20の一端部は、この電極ピン23の他端部に溶接等によって接続されている。そうした場合において、給電体20と電極ピン23とを溶接しやすくするために、電極ピン23の他端部にはコイル25を嵌め込まないように、つまり電極ピン23の他端部がコイル25の他端から突出するようにしている場合がある。
【0035】
電極ピン23は、図3に示すように、その長さLPが例えば16.5[mm]、直径RPが例えば0.5[mm]である。電極コイル24は、線径が例えば0.2[mm]の一重の密巻きコイルからなり、最大外径RECが例えば0.92[mm]、コイル長LECが1.0[mm]である。コイル25は、最大外径RCが例えば0.93[mm]、コイル長LCが例えば13.0[mm]である。ここで、前記隙間λの大きさは細管部15の内径r1とコイル25の最大外径RCとの差になる。
【0036】
給電体20は、例えば長さLAが6.0[mm]、直径RAが1.9[mm]の棒状であって、例えばモリブデンと多結晶アルミナとを体積比50:50で混合された焼結体である導電性サーメットからなる。もっとも、給電体20には、導電性サーメット以外にモリブデン(Mo)等を用いることができる。
【0037】
外部リード体21は、例えば長さが12.3[mm]、直径REが0.47[mm]のニオブ棒からなる。また、外部リード体21の他端部は、発光管6の長手方向に真っ直ぐ延びており、上記したとおり電力供給線4,5にそれぞれ接続されている。
【0038】
なお、図3では、発光管6の一端部のみを図示したが、その他端部も同じ構造を有している。
【0039】
次に、このようなセラミックメタルハライドランプ1の製造方法について説明する。ただし、電極体19の製造工程以外の工程では公知の方法を用いているためにその説明を省略し、電極体19の製造工程(製造方法)のみについて説明する。
【0040】
ここでは、一例として、電極ピン23とコイル25との長手方向の中心軸Z1,Z2(図4参照)をそれぞれ水平にした状態で電極ピン23をコイル25に嵌め込む方法について説明する。したがって、後述する各装置の位置関係や動作方向等については前記水平状態で電極ピン23をコイル25に嵌め込む方法の場合であって、例えば電極ピン23とコイル25とをそれぞれ鉛直方向に立てた状態で電極ピン23をコイル25に嵌め込む場合、それに応じて各装置の位置関係や動作方向等が適宜変更される。
【0041】
この電極体19の製造工程では、電極ピン23を保持するために、図4に示すような一対をなす2つの直方体状のブロック体26a,26b,27a,27b,28a,28bからなる電極ピン用規制治具26,27,28を複数、例えば3つ用いている。一対のブロック体26a,26b,27a,27b,28a,28bは、金属製であって、それぞれ上下に位置しており、上側のブロック体26a,27a,28aの下面と下側のブロック体26b,27b,28bの上面とが互いに対向し、かつ平行になるように配置されている。また、これら一対のブロック体26a,26b,27a,27b,28a,28bは、図5〜図8に示すように、互いに接離するように移動が可能である。例えば、上側のブロック体26a,27a,28aの下面と下側のブロック体26b,27b,28bの上面とがそれぞれ鉛直方向(これを「x軸方向」とする)に対して垂直な位置関係にある場合、図5に示すように上側のブロック体26a,27a,28aと下側のブロック体26b,27b,28bとが接触した状態から、図6〜図8に示すように上側のブロック体26a,27a,28aは鉛直方向の上向きに、下側のブロック体26b,27b,28bは鉛直方向の下向きにそれぞれ移動することが可能である。これら上側のブロック体26a,27a,28aと下側のブロック体26b,27b,28bとは、それぞれ独立して移動させることができるし、また同期して移動させることもできる。さらに、上側のブロック体26a,27a,28aの下面は実質的に凹凸のない平面状であるが、下側のブロック体26b,27b,28bの上面には後述するように電極ピン23を移動させる方向(これを「y軸方向」とする)にこの上面を横切る例えば長さ3[mm]、幅0.6[mm]、深さ0.3[mm]の一つの直線状の電極ピン用溝部26c,27c,28c(図5〜図8参照)が形成されている。この電極ピン用溝部26c,27c,28cには、後述するように一本の電極ピン23が配置される。下側のブロック体26b,27b,28bの上面は、電極ピン用溝部26c,27c,28cを除いて実質的に凹凸のない平面状である。もっとも、これら電極ピン用規制治具26,27,28は、電極ピン23をコイル25に嵌め込むに当たり、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させるように電極ピン23を保持するものである。したがって、この保持機能を確保できる範囲内であれば、電極ピン23を保持するに当たり、上側のブロック体26a,27a,28aと下側のブロック体26b,27b,28bとが接触している必要はなく、近接している程度であってもよい。また、上側のブロック体26a,27a,28aの下面や下側のブロック体26b,27b,28bの上面(電極ピン用溝部26c,27c,28cを除く)は必ずしも凹凸のない平面状である必要はなく、例えば曲面状であってもよく、その寸法等も特に限定されるものではない。また、電極ピン用溝部26c,27c,28cの形状や寸法等も前記保持機能を確保できる範囲内であれば上記したものに特に限定されるものではない。例えば、下側のブロック体26b,27b,28bの上面に形成される電極ピン用溝部は、その長手方向の中心軸に対して垂直に切った断面においてその内面が半円状のものであってもよい。ところで、上側のブロック体26a,27a,28aの下面にも電極ピン用溝部を形成してもよい。そして、上側のブロック体26a,27a,28aと下側のブロック体26b,27b,28bとが最接近した状態において、電極ピン23を、上側のブロック体26a,27a,28aの電極ピン用溝部と下側のブロック体26b,27b,28bの電極ピン用溝部とにそれぞれ嵌め込んで保持してもよい。
【0042】
また、3つの電極ピン用規制治具26,27,28は、図4等に示すようにy軸方向に隣接して並べられており、図5および図8に示すように上側のブロック体26a,27a,28aと下側のブロック体26b,27b,28bとが接触(または最も接近)した状態または最も離間した状態において、上側のブロック体26a,27a(27a,28a)同士が隣接するように、また下側のブロック体26b,27b(27b,28b)同士が隣接するように並置されている。このとき、各々の下側のブロック体26b,27b,28bの電極ピン用溝部26c,27c,28cの位置関係は、各電極ピン用溝部26c,27c,28cの長手方向の中心軸がy軸方向において一致するようになっている。
【0043】
ここで、隣接する電極ピン用規制治具26,27,28同士、すなわち隣接するブロック体26a,27a、(27a,28a)、(26b,27b)、(27b,28b)同士の間隔La,Lb(図4参照)は、後述する理由により、いずれも5[mm]以下に規定されていることが好ましい。ただし、電極ピン用規制治具が3つ以上からなる場合、形成される複数の間隔は全てが同じであってもよく、また所定の範囲内においてそれぞれが異なっていてもよい。図4に示す例では、全ての間隔La,Lbが0.1[mm]である。
【0044】
また、後述するように電極ピン用規制治具26,27,28がコイル用保持具29に隣接して配置された状態において、コイル用保持具29に最も遠い電極ピン用規制治具を電極ピン用規制治具26とし、コイル用保持具29に近づくにつれて順に電極ピン用規制治具27、電極ピン用規制治具28とした場合、電極ピン用規制治具26におけるy軸方向の幅W1(図4参照)が2[mm]〜8[mm]の範囲内が好ましく、例えば4[mm]に、電極ピン用規制治具27におけるy軸方向の幅W2(図4参照)が2[mm]〜8[mm]の範囲内が好ましく、例えば3[mm]に、電極ピン用規制治具28におけるy軸方向の幅W3(図4参照)が1[mm]〜4[mm]の範囲内が好ましく、例えば3[mm]にそれぞれ設定されている。つまり、電極ピン用規制治具26,27,28が3つからなる場合において、コイル用保持具29に最も近い電極ピン用規制治具28におけるy軸方向の幅W3がコイル用保持具29に最も遠い電極ピン用規制治具26におけるy軸方向の幅W1よりも小さく(W1>W3)、かつ残る電極ピン用規制治具27におけるy軸方向の幅W2がコイル用保持具29に最も遠い電極ピン用規制治具26におけるy軸方向の幅W1以下(W2≦W1)になるように設定されている。その理由については後述する。このことは電極ピン用規制治具が3つ以上からなる場合において適用されるものであり、例えば電極ピン用規制治具が4つからなる場合においては、コイル用保持具29に最も近い電極ピン用規制治具におけるy軸方向の幅がコイル用保持具29に最も遠い電極ピン用規制治具におけるy軸方向の幅よりも小さく、かつ残る2つの電極ピン用規制治具におけるy軸方向の幅がコイル用保持具29に最も遠い電極ピン用規制治具におけるy軸方向の幅以下になるように設定される。また、電極ピン用規制治具が例えば2つからなる場合においては、コイル用保持具29に最も近い電極ピン用規制治具におけるy軸方向の幅が残る電極ピン用規制治具におけるy軸方向の幅よりも小さくなるように設定される。
【0045】
また、この製造工程において、コイル25を保持するために、図4および図9に示すようなコイル用保持具29を用いている。このコイル用保持具29は、電極ピン23をコイル25に嵌め込む際、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とが一致するようにコイル25を保持する保持部29aと、電極ピン23をコイル25に嵌め込む際、コイル25を上方から押さえ込み、コイル25を補助的に保持する押え部29bと、電極ピン23をコイル25に嵌め込むに当たり、その突出長(0[mm]を含む)を規制するためのストッパー部29cとを有している。
【0046】
なお、図9は、図5のA−A線の断面図であって、保持部29aおよび押え部29bのみを図示している。
【0047】
保持部29aは固定されていて動かない。また、保持部29aには、コイル25を保持するための具体的な手段の一例として、その上面にコイル25が設置されるコイル用溝部29dが形成されている。このコイル用溝部29dは、例えばy軸方向にこの上面を横切る長さ14[mm]、幅0.95[mm]、深さ0.95[mm]の直線状の溝からなる。保持部29aは、上述したとおり電極ピン23をコイル25に嵌め込む際、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とが一致するようにコイル25を保持するためのものであり、その保持手段としてコイル用溝部29dに限られるものではなく、その機能が確保される範囲内であればその形状や寸法等において特に限定されるものではない。
【0048】
押え部29bは、保持部29aの上方に位置しており、鉛直方向に移動可能である。コイル25が保持部29aに保持されているとき、つまり電極ピン23がコイル25に嵌め込まれるときは下方に位置して、押え部29bの下面が保持部29aの上面(コイル用溝部29dを除く)に接触し、コイル25を上方から押さえ込んでコイル用溝部29d内に位置するコイル25を補助的に保持する。ただし、電極ピン23がコイル25に嵌め込まれる際、押え部29bの下面は必ずしも保持部29aの上面(コイル用溝部29dを除く)に接触している必要はなく、コイル25を適当に押さえ込むことができるならば、保持部29aの上面に近接しているだけであってもよい。もっとも、この押え部29bは、あくまでもコイル25を補助的に保持するものであり、必ずしも必要なものではないが、電極ピン23をコイル25に嵌め込む際、電極ピン23の圧入力によってコイル25が変形したりするのを確実に防止することができる。
【0049】
ストッパー部29cは、保持部29aに固定されており、電極ピン23の他端部の突出長に応じた深さを有する突出長規制溝部29eが形成されている。もちろん、その突出長を0[mm]とする場合、つまり電極ピン23の他端とコイル25との他端とを面一にする場合、突出長規制溝部29eを形成する必要はない。
【0050】
電極ピン用規制治具26,27,28とコイル用保持具29とは、後述するように電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させることができるように、電極ピン用溝部26c,27c,28cとコイル用溝部29dとの位置関係が適宜調整されて配置されている。また、コイル用保持具29は、電極ピン用規制治具26,27,28と隣接するように配置されている。具体的に、電極ピン用規制治具28とコイル用保持具29との間の間隔Lc(図4参照)は、後述する理由により、5[mm]以下に規定されている。
【0051】
なお、コイル用保持具としては、図4〜図9に示したコイル用保持具29に代えて図10に示すようなコイル用保持具30を用いることができる。このコイル用保持具30は、電極ピン23をコイル25に嵌め込む際、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とが一致するようにコイル25を保持するための保持部30aが次のような構成を有している。すなわち、保持部30aは、その上面に保持部30aの長手方向に対して垂直に切った断面が略V字状になるように切り込まれた凹部30bが形成されている。この凹部30bの底部には、コイル用溝部29dに相当するコイル用溝部30cが形成されている。このように保持部30aにその長手方向に切った断面が略V字状になるように切り込まれた凹部30bを形成することにより、コイル25をコイル用溝部30cに配置する際、コイル25を投入するための間口を広げつつ、コイル用溝部30c内に確実に落とし込むことができるので、コイル25をコイル用溝部30c内に設置する作業を容易化することができる。
【0052】
ここで、電極ピン23を移動させ、コイル25に嵌め込むために次のようなプッシャー31を用いている。プッシャー31は、その先端部に電極ピン23または電極コイル24に当接する円柱状の円柱部31aを有している。この円柱部31aのうち、電極ピン23または電極コイル24に当接する部分は平面状になっている。また、このプッシャー31には、例えばトルクモーター等のモータ(図示せず)が組み込まれており、このモータによって例えばy軸方向に移動可能である。プッシャー31の移動速度は、そのモータを制御することによって一定とすることもできるし、可変させることもできる。さらに、このプッシャー31には、電極ピン23をコイル25に圧入するときの圧入力を測定するための圧入力測定手段、例えばロードセル等(図示せず)が組み込まれている。このロードセルは、電極ピン23をコイル25に圧入している間、その圧入力の変化を連続的に測定することができる。
【0053】
次に、上記した各装置を用いた具体的な製造方法について説明する。
【0054】
まず、第一の工程(準備工程)について説明する。図4に示すように、電極ピン用規制治具26,27,28において上側のブロック体26a,27a,28aと下側のブロック体26b,27b,28bとは、所定の間隔をあけて位置している。また、上側の各ブロック体26a,27a,28aと下側の各ブロック体26b,27b,28bとは、それぞれy軸方向に隣接して並置されている。このとき、隣合うブロック体26a,26b,27a,27b,28a,28b同士の間隔La,Lbは、それぞれ0.1[mm]に設定されている。
【0055】
一方、コイル用保持具29は、第三の電極ピン用規制治具28に隣接して配置されている。このときの間隔Lcは、0.5[mm]に設定されている。また、下側のブロック体26b,27b,28bと、コイル用保持具29の保持部29aとの位置関係は、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させるために電極ピン用溝部26c,27c,28cの長手方向の中心軸とコイル用溝部29dの長手方向の中心軸とが一致するように調整されてる。押え部29bは、保持部29aの上方に所定の間隔をあけて位置している。
【0056】
このような状態で図4に示すように、予め熱処理を施し、かつ一端部に電極コイル24を嵌め込んで取り付けた電極ピン23を、並置した下側の各ブロック体26b,27b,28bの電極ピン用溝部26c,27c,28cに落とし込んで設置する。
【0057】
その後、図5に示すように、上側の各ブロック体26a,27a,28aを下方に移動させて、上側のブロック体26a,27a,28aの下面を下側のブロック体26b,27b,28bの上面(電極ピン用溝部26c,27c,28cを除く)にそれぞれ接触させ、電極ピン23を上方から押さえ込み、電極ピン23を電極ピン用規制治具26,27,28、すなわち一対の各ブロック体26a,26b,27a,27b,28a,28bによって挟むようにして保持する。このとき、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させつつ、かつ電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分を除く)の大部分を電極ピン用規制治具26,27,28によって挟むように保持している。具体的に、電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分を除く)のうち、電極ピン用規制治具26,27,28によって保持されていない部分のそれぞれの長さが8[mm]以下(0[mm]を含む)、好ましくは5[mm]以下(0[mm]を含む)となるように電極ピン23を電極ピン用規制治具26,27,28によって挟むように保持している。「電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分を除く)のうち、電極ピン用規制治具26,27,28によって保持されていない部分」とは、本実施の形態の場合、電極ピン23のうち、電極コイル24と電極ピン用規制治具26との間に位置する部分、電極ピン用規制治具26と電極ピン用規制治具27との間に位置する部分、および電極ピン用規制治具27と電極ピン用規制治具28との間に位置する部分それぞれに相当し、一例として、それらの部分の長さが順に5[mm]、0.1[mm](間隔Laと同じ)、0.1[mm](間隔Lbと同じ)である。そして、「電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分を除く)のうち、電極ピン用規制治具26,27,28によって保持されていない部分の長さ」とは、当該保持されていない部分のそれぞれの長さを意味し、当該保持されていない部分の合計の長さを意味するのではない。
【0058】
なお、本実施の形態では、一例として電極ピン23の他端と電極ピン用規制治具28のコイル用保持具29側の面とを面一にしているが、電極ピン23の他端部が電極ピン用規制治具28からコイル用保持具29側へ突出させた場合、電極ピン23のうち、電極ピン用規制治具28とコイル用保持具29との間に位置する部分も8[mm]以下(0[mm]を含まず)、好ましくは5[mm]以下(0[mm]を含まず)となるように規定する。
【0059】
一方、図4に示すように、コイル25をコイル用保持具29の保持部29aのコイル用溝部29d内に設置して保持する。
【0060】
その後、図5に示すように、押え部29bを下方に移動させて、押え部29bの下面を保持部29aの上面(コイル用溝部29dを除く)に接触させ、コイル25を上方から押さえ込んでコイル用溝部29d内においてコイル25を補助的に保持する。
【0061】
このように電極ピン23を3つの電極ピン用規制治具26,27,28によって、コイル25をコイル用保持具29によってそれぞれ保持することにより、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させる。
【0062】
次に、第二の工程(組立工程)では、電極ピン23を、電極ピン23の端面のうちの電極コイル24側の端面をプッシャー31によってコイル25側(図5中、矢印a方向)へ押して移動させ、電極ピン23の他端からコイル25の一端に圧入し始める。このとき、電極ピン23およびコイル25ともに回転させていない。また、電極ピン23をコイル25に圧入するときの速度は一定に維持されている。さらに、電極ピン23をコイル25に圧入するとき、つまり電極ピン23をコイル25に圧入し始めてから圧入が完了するまでの間、その圧入力をプッシャー31に組み込まれた圧入力測定手段によって連続的に測定しながら圧入する。
【0063】
なお、電極ピン23の一端部が電極コイル24から突出している場合は、電極コイル24の端面をプッシャー31によってコイル25側へ押すことになる。
【0064】
その後、電極コイル24が電極ピン用規制治具26に接触する前に電極ピン用規制治具26、つまり上下のブロック体26a,26bをそれぞれ鉛直方向に電極ピン23から離間させ、図6に示すようにそのまま残る電極ピン用規制治具27,28によって電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分およびコイル25に嵌め込まれた部分を除く)の大部分を挟むように保持して、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させた状態に保ち、電極ピン23をコイル25に圧入し続ける。
【0065】
次いで、図6に示すように電極コイル24が電極ピン用規制治具27に接触する前に電極ピン用規制治具27、つまり上下のブロック体27a,27bをそれぞれ鉛直方向(図6中、矢印b,c方向)に電極ピン23から離間させ、さらに電極ピン用規制治具28によって電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分およびコイル25に嵌め込まれた部分を除く)の大部分を挟むように保持して、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させた状態に保ち、電極ピン23をコイル25に圧入し続ける。
【0066】
そして、図7に示すように電極コイル24が電極ピン用規制治具28に接触する前に電極ピン用規制治具28、つまり上下のブロック体28a,28bをそれぞれ鉛直方向(図7中、矢印d,e方向)に電極ピン23から離間させ、図8に示すように電極ピン23の他端がコイル25の外部に導出し、ストッパー部29cの突出長規制溝部29eの底面に接触するまで電極ピン23をコイル25に圧入する。
【0067】
このように電極ピン23をコイル25に圧入し終えるまでの間、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させている。また、電極ピン23をコイル25に圧入し始め、電極ピン用規制治具28が電極ピン23から離間するまでの間、上記したように電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分および既にコイル25に嵌め込まれた部分を除く)の大部分を電極ピン用規制治具26,27,28の少なくとも一つによって保持しているが、具体的には、電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分および既にコイル25に嵌め込まれた部分を除く)のうち、電極ピン用規制治具26,27,28によって保持されていない部分の長さが8[mm]以下(0[mm]を含む)、好ましくは5[mm]以下(0[mm]を含む)となるように維持されている。つまり、図6に示す過程において、電極ピン用規制治具26のブロック体26a,26bをそれぞれ鉛直方向に電極ピン23から離間させた後、常時、電極ピン23のうち、電極コイル24と電極ピン用規制治具27との間に位置する部分、電極ピン用規制治具27と電極ピン用規制治具28との間に位置する部分、および電極ピン用規制治具28とコイル用保持具29との間に位置する部分のそれぞれの長さが8[mm]以下(0[mm]を含む)、好ましくは5[mm]以下(0[mm]を含む)になっている。また、図7に示す過程において、電極ピン用規制治具28のブロック体28a,28bをそれぞれ鉛直方向に電極ピン23から離間させた後、常時、電極ピン23のうち、電極コイル24と電極ピン用規制治具28との間に位置する部分、および電極ピン用規制治具28とコイル用保持具29との間に位置する部分のそれぞれの長さが8[mm]以下(0[mm]を含む)、好ましくは5[mm]以下(0[mm]を含む)になっている。さらに、図8に示す過程において、電極ピン用規制治具27のブロック体27a,27bをそれぞれ鉛直方向に電極ピン23から離間させた後、常時、電極ピン23のうち、電極コイル24とコイル用保持具29との間に位置する部分のそれぞれの長さが8[mm]以下(0[mm]を含む)、好ましくは5[mm]以下(0[mm]を含む)になっている。
【0068】
なお、「電極コイル24が電極ピン用規制治具26,27,28に接触する前」とは、電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分および既にコイル25に嵌め込まれた部分を除く)のうち、電極ピン用規制治具26,27,28によって保持されていない部分の長さが8[mm]以下(0[mm]を含む)、好ましくは5[mm]以下(0[mm]を含む)となるように維持することができる範囲内であればよく、好ましくは接触する直前である。例えば、本実施の形態では電極ピン用規制治具26が電極ピン23から離間すると同時に、電極ピン用規制治具27も電極ピン23から離間してしまうと、前記範囲を満たすことができなくなるため、電極ピン用規制治具26,27を電極ピン23から同時に離間することは不適切である。その範囲とは、電極ピン23の長さや電極ピン用規制治具26,27,28のy軸方向の幅W1,W2,W3等によって適宜決定される。
【0069】
こうして電極ピン23をコイル25に嵌め込む作業が終了し、電極体19の組立が完了する。最後に、押え部29bを上方に移動させ、電極体19を取り出す。
【0070】
そして、上記したように電極ピン23をコイル25に圧入したときの圧入力の測定結果に基づき、コイル25が電極ピン23に嵌め込まれている状態の良否を判定する(良否判定工程)。その判定結果、「良」と判断された良品の電極体19を選別し、それをセラミックメタルハライドランプ1に使用する。一方、「否」と判断された不良品の電極体19はランプの製造工程から除去され、そのまま破棄されたり部分的にリサイクルされたりする。具体的に、図11に「否」と判断されたものの圧入開始時(0.0[秒])から圧入完了時(5.3[秒])までの間の圧入力[N]の測定結果を示す。図11中のPで示した部分は、急峻に圧入力が小さくなっている。これは、コイル25のうちの一部のターンの内径が大きくなっており、電極ピン23の他端がその部分にさしかかったときに電極ピン23がコイル25に入りやすくなったからである。したがって、圧入力の測定結果にこのようなPの部分が存在しなければ「良」の判定がなされる。図11中、圧入力が時間とともに上昇しているのは、電極ピン23をコイル25に嵌め込んでいくに従い、電極ピン23とコイル25との接触面積が増えて摩擦力が増していくためである。
【0071】
ここで、上記した例では、電極ピン23をコイル25に圧入する際、電極ピン23およびコイル25ともに回転させていないが、コイル25を回転させることなく、電極ピン23を時計回りまたは反時計回りに回転させながらコイル25に圧入することが好ましい。これにより、電極ピン23をコイル25に滑らかに圧入させることができる。
【0072】
また、電極ピン23をコイル25に圧入する際、コイル25を回転させることなく固定しておくことが好ましい。その際、電極ピン23は回転させても、回転させなくてもよい。もし、電極ピン23を回転させたコイル25に圧入すると、その圧入力によってコイル25の隣接するターン同士の間隔が開くおそれがある。そうした場合、コイル25の本来の機能である細管部15と電極ピン23との間の隙間λを可能な限り埋め、発光物質がその隙間λに沈み込むのを防止するという機能が損なわれるおそれがある。したがって、圧入時、コイル25の隣接するターン同士の間隔が開くのを防止するために、コイル25を回転させることなく固定しておくことが好ましい。
【0073】
以上のような本発明の実施の形態であるセラミックメタルハライドランプ1の製造方法、特にその構成の一部である電極体19の製造方法によれば、例えばコイル25の一部のターンの内径が規定値よりも大きくなっていても、破壊検査をすることなくコイル25が電極ピン23に嵌め込まれている状態、つまり電極ピン23とコイル25の各ターンの密着度合いを容易に、かつ確実に調べることができる。その結果、組立後の電極体19全数について良品であるか否かの検査をし、良品の選別を行うことができるので、良品の電極体19のみをセラミックメタルハライドランプ1に使用することができる。よって、そのような電極体19を用いたランプにおいて、寿命中、色温度が著しく変化するのを防止することができ、良好な色特性を得ることができる。
【0074】
ところで、上述したとおり電極ピン23をコイル25に嵌め込むに当たり、電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分を除く)の大部分を電極ピン用規制治具26,27,28によって保持した状態で、電極ピン23をコイル25に圧入し始め、さらに電極ピン23をコイル25に圧入し終えるまでの間、電極ピン23の長手方向の中心軸とコイル25の長手方向の中心軸とを一致させており、また電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分およびコイル25に嵌め込まれた部分を除く)の大部分を電極ピン用規制治具26,27,28によって保持しているので、電極ピン23をコイル25に嵌め込む過程において、電極ピン23が座屈して折損するのを防止することができる。しかも、電極ピン23を保持している電極ピン用規制治具26,27,28が複数、例えば3つからなり、電極ピン23をコイル25に嵌め込む過程において、予め電極ピン23に取り付けられた電極コイル24が電極ピン用規制治具26,27,28に接触する前に電極ピン23から離間するので、従来の電極体の製造方法(従来の製造方法B)のように電極コイル24が邪魔をして電極ピン用規制治具を持ち替える必要がなくなる。そのため、電極ピン23をコイル25に嵌め込む過程において、電極ピン23の長手方向の中心軸Z1とコイル25の長手方向の中心軸Z2とを一致させることができ、これら中心軸Z1,Z2の軸ずれによって電極ピン23が座屈してしまうのを防止することができる。
【0075】
また、電極ピン用規制治具26,27,28が一方向(y軸方向)に並置されている場合において、隣合う電極ピン用規制治具26,27(27,28)同士は隣接している必要がある。その間隔La,Lbは、電極ピン23のうち、電極ピン用規制治具26,27,28によって保持されていない部分の長さが8[mm]以下、好ましく5[mm]以下となるように規定され、特に電極ピン23が隣合う電極ピン用規制治具26,27(27,28)の間に位置する部分において座屈して折損するのを確実に防止するために、0.1[mm]以下であることが好ましい。
【0076】
また、電極ピン用規制治具28とコイル用保持具29とも上記と同様の理由により、隣接している必要がある。
【0077】
さらに、電極ピン用規制治具26,27,28が電極ピン23から離間した後、電極ピン23のうち、その電極ピン用規制治具26,27,28によって保持されていた部分の長さが長すぎると、つまり、電極ピン用規制治具26,27,28のy軸方向(電極ピン23を移動させる方向)の幅W1,W2,W3が大きすぎると、その部分が座屈して折損するおそれがある。したがって、その幅W1,W2,W3は、電極ピン23をコイル25に圧入し終えるまでの間、電極ピン23(電極コイル24が取り付けられている部分およびコイル25に嵌め込まれた部分を除く)の大部分を電極ピン用規制治具26,27,28によって保持することができる範囲に適宜決定されている。特に、電極ピン23がコイル25に嵌め込まれていくに従って、座屈して折損しやすくなるので、コイル用保持具29に近い電極ピン用規制治具28ほどその幅W3が小さい方が好ましく、コイル用保持具29との位置関係に応じて各電極ピン用規制治具26,27,28の幅W1,W2,W3を調整することが好ましい。そこで、電極ピン用規制治具が3つ以上からなる場合においては、コイル用保持具29に最も近い電極ピン用規制治具(例えば電極ピン用規制治具28)におけるy軸方向(電極ピン23を移動させる方向)の幅がコイル用保持具29に最も遠い電極ピン用規制治具(例えば電極ピン用規制治具26)におけるy軸方向の幅よりも小さく、かつ残る電極ピン用規制治具(例えば電極ピン用規制治具27)におけるy軸方向の幅がコイル用保持具29に最も遠い電極ピン用規制治具(例えば電極ピン用規制治具26)におけるy軸方向の幅以下であることが好ましい。電極ピン用規制治具が2つからなる場合においては、コイル用保持具29に最も近い電極ピン用規制治具におけるy軸方向の幅が残る電極ピン用規制治具におけるy軸方向の幅よりも小さいことが好ましい。
【0078】
なお、上記実施の形態では、定格電力150[W]のセラミックメタルハライドランプ1に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず例えば定格電力20[W]〜400[W]のセラミックメタルハライドランプはもちろんのこと、これ以外に電極ピンとこの電極ピンの端部に取り付けられた電極コイルと電極ピンに嵌め込まれたコイルとを有する電極体が用いられている高圧放電ランプにも適用することができる。また、本発明は、高圧放電ランプに限らず例えばハロゲン電球等の管球に用いられる電極体(フィラメント体を含む)にも適用することができる。つまり、金属製のピン、例えばタングステンやモリブデン製のピンが同じくタングステンやモリブデン製のコイルに嵌め込まれた構造を有するものにも広く適用することができる。
【0079】
また、本発明は、電極ピンと、この電極ピンの端部に取り付けられた電極コイルと、電極ピンに嵌め込まれたコイルとを有する電極体の製造方法であって、その製造方法において電極ピンをコイルに圧入する過程が含まれる製造方法、例えば上記した従来の製造方法Aや従来の製造方法B等にも適用することができる。
【0080】
また、上記実施の形態では、定格電力150[W]のセラミックメタルハライドランプ1に用いられる電極ピン23およびコイル25として、電極ピン23の長さLPが16.5[mm]、直径RPが0.5[mm]、コイル25のコイル長LCが13.0[mm]のものを用いた場合について説明したが、使用されるランプに応じて公知の種々の寸法を有する電極ピンおよびコイルを用いた場合であっても、上記と同様の作用効果を得ることができる。もちろん、通常使用され得る電極ピンおよびコイルのいずれに対しても上記と同様の作用効果を得ることができるものである。特に、上記した実施の形態では、直径RPが0.5[mm]の電極ピン23を用いた場合について説明したが、その直径RPが例えば0.30[mm]〜1.20[mm]の範囲内にある場合であっても、上記と同様の作用効果を得ることができる。もっとも、電極ピンやコイルの寸法に合わせて上記した各装置の寸法(例えば電極ピン用規制治具26,27,28のy軸方向の幅W1,W2,W3等)も適宜調整される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、コイルがピンに嵌め込まれている状態を簡単に、かつ確実に調べることが必要な用途にも適用することができる。
【0082】
また、本発明は、寿命中、色温度が著しく変化するのを防止することができ、良好な色特性を得ることが必要な用途にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態である製造方法によって製造されたメタルハライドランプの一部切欠正面図
【図2】同じくメタルハライドランプに用いられている発光管の一部切欠正面図
【図3】同じくメタルハライドランプに用いられている発光管の要部拡大断面図
【図4】本発明の実施の形態である電極体の製造方法を説明するための図
【図5】同じく電極体の製造方法を説明するための図
【図6】同じく電極体の製造方法を説明するための図
【図7】同じく電極体の製造方法を説明するための図
【図8】同じく電極体の製造方法を説明するための図
【図9】同じく電極体の製造方法で用いられるコイル用保持具の断面図
【図10】同じく電極体の製造方法で用いることができる別のコイル用保持具の断面図
【図11】電極ピンをコイルに圧入する際の圧入力の変化を示す図
【図12】従来の電極体の製造方法を説明するための図
【図13】別の従来の電極体の製造方法を説明するための図
【図14】別の従来の電極体の製造方法を説明するための図
【符号の説明】
【0084】
1 セラミックメタルハライドランプ
2 ステムガラス
3 外管
4,5 電力供給線
6 発光管
7 スリーブ
8 口金
9 アイレット部
10 シェル部
11 外囲器
12 電極構造体
13 放電空間
14 本管部
15 細管部
16 第一の筒部
17 テーパ部
18 第二の筒部
19 電極体
20 給電体
21 外部リード体
22 シール材
23 電極ピン
24 電極コイル
25 コイル
26,27,28 電極ピン用規制治具
26a,26b,27a,27b,28a,28b ブロック体
26c,27c,28c 電極ピン用溝部
29,30 コイル用保持具
29a,30a 保持部
29b 押え部
29c ストッパー部
29d,30c コイル用溝部
29e 突出長規制溝部
30b 凹部
31 プッシャー
31a 円柱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極ピンと、この電極ピンの端部に取り付けられた電極コイルと、前記電極ピンに嵌め込まれたコイルとを有する電極体の製造方法であって、
前記電極ピンを前記コイルに圧入するとき、その圧入力を測定しながら圧入することを特徴とする電極体の製造方法。
【請求項2】
前記圧入力の測定結果に基づき、前記コイルが前記電極ピンに嵌め込まれている状態の良否を判定する良否判定工程を含むことを特徴とする請求項1記載の電極体の製造方法。
【請求項3】
前記良否判定工程での判定結果に基づき、良品の前記電極体を選別する選別工程を含むことを特徴とする請求項2記載の電極体の製造方法。
【請求項4】
本管部とこの本管部の両端部に形成された細管部とを有するセラミック製の外囲器と、先端部が前記本管部内に位置するように前記細管部内に配置された電極体とを有する発光管を備えた高圧放電ランプの製造方法であって、前記電極体を請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載された製造方法によって製造することを特徴とする高圧放電ランプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−157422(P2007−157422A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349042(P2005−349042)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)