説明

電極切断用刃物

【課題】切断能力の低下を抑制し得ると共に、電極の切断面に金属ろう材が付着することのない電極切断用刃物を提供する。
【解決手段】上刃部材40および下刃部材42は、夫々、ステンレス鋼からなる台金部26と、非金属物質であるセラミックスからなる刃部28とから構成される。刃部28は、樹脂系接着剤によって台金部26の設置凹部30に接合される。この樹脂系接着剤は、アクリル系またはエポキシ系接着剤から構成される。上刃部材40および下刃部材42によりシート状電極を切断した際に、シート状電極の集電体の金属が刃部28に凝着し難くなって、切断能力の低下が抑制される。この結果、シート状電極の切断面に切断バリ等が付着し難くなる。また、刃部28および台金部26の接合に金属ろう材を用いていないので、該金属ろう材がシート状電極の切断面に付着することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電極切断用刃物に関し、更に詳細には、集電体上に活物質層を形成した電極を切断する電極切断用刃物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオン2次電池は、所定長さのシート状の正極電極および負極電極をセパレータを介して捲回機にて多重に巻き回して電池素子を形成し、該電池素子を各種電池パックに収納して製造される。前記正極電極は、アルミニウム箔からなる集電体の両面に、コバルト酸リチウム等の正極活物質(作用物質)を塗布し、乾燥後に所定圧で圧延してシート状に形成される。前記負極電極は、銅箔からなる集電体の両面に、炭素材料から形成した負極活物質を塗布し、正極電極と同様、乾燥後に所定圧で圧延してシート状に形成される。
【0003】
シート状に形成された正極電極および負極電極(以下、シート状電極という)は、夫々、巻物状に巻き取られてシート状電極の原反となる。この原反は、次の切断工程において前記電気素子を形成するに必要な幅および長さに切断される。図4は、シート状電極10の切断工程を概略的に示す説明図であって、この切断工程は、スリット工程(図4の上流側)および裁断工程(図4の下流側)から構成される。スリット工程では、上下一組のスリッターナイフ12,12が一定間隔で複数配設され、これらスリッターナイフ12,12により前記原反のシート状電極10を一方向へ引き出しながら所定幅に切断するようになっている(特許文献1参照)。次の裁断工程では、所定幅にスリットされたシート状電極10を切断装置14により所定長さ毎に切断して、長尺な帯状のシート状電極10を形成する(特許文献2参照)。
【0004】
ところで、切断工程で用いられるスリッターナイフ12や切断装置14(以下、電極切断用刃物という)は、刃物全体がダイス鋼や高速度工具鋼等の金属から構成されている。一方、前記シート状電極10は、前述のように、アルミニウムや銅の金属箔を集電体とする基本構成としている。従って、金属からなる電極切断用刃物12,14でシート状電極10を切断すると、切断時にシート状電極10の集電体の金属成分が電極切断用刃物12,14の刃部刃先に凝着し易くなる。集電体の金属が刃部刃先に凝着すると、電極切断用刃物12,14の切断能力(切れ味)が低下するので、集電体の切断バリや金属粉が切断時により多く発生し、これらがシート状電極10の切断面に付着し易くなる。
【0005】
そして、シート状電極10の切断面に切断バリや金属粉が付着したまま電池が製造されると、切断バリや金属粉によって正極電極と負極電極とを分離する前記セパレータが傷付けられ、両電極が短絡することがあった。このような短絡が発生すると、電池寿命を短くするばかりか、電池内の温度が急上昇し、最悪の場合、発火事故が発生することもある。そこで、刃部刃先への金属凝着を回避するため、刃部材料として超硬合金を用いることが考えられる。この超硬合金は、炭化タングステン粉に少量のコバルトを混合し焼結して形成されるものであり、刃部刃先への金属凝着を殆ど生じなくすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−68288号公報
【特許文献2】特開2003−25136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、高速度工具鋼や超硬合金等の硬質材料は高価であるため、刃物全体をこれらの高価な硬質材料で製造すると、コストが嵩んでしまう。そこで、実際に切断を行なう刃部にのみ硬質材料を使用し、刃部以外の台金部については比較的廉価な金属を用いることで、刃物全体のコストを抑制することが考えられる。この場合、刃部は、ろう材を用いてろう付けにより台金部に接合されるが、このろう材は、銅ろうや銀ろうである軟質金属で形成されている。従って、切断時に擦れて摩滅したろう材がシート状電極10の切断面に付着して、前述した電池寿命の低下や発火事故が生ずる原因となる虞があった。
【0008】
そこで本発明は、従来の電極切断用刃物に内在する前記問題に鑑み、これを好適に解決するべく提案されたものであって、集電体を構成する金属が刃部に凝着することによる切断能力の低下を抑制して、シート状電極の切断面に切断バリや金属粉が付着し難くし得ると共に、金属ろう材がシート状電極の切断面に付着することのない電極切断用刃物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、請求項1に係る電極切断用刃物は、
集電体上に活物質層を形成した電極を切断する刃物であって、
台金部と、
硬質材料である超硬合金またはセラミックスで構成された刃部とを備え、
前記台金部および刃部が非導電性の樹脂系接着剤により接合されていることを特徴とする。
請求項1の発明によれば、刃部と台金との接合に樹脂系接着剤を採用し、軟質金属ろう材を用いないようにしたので、該金属ろう材が電極の切断面に付着することはない。従って、金属ろう材が電極の切断面に付着することで短絡が発生し、電池の寿命低下や発火事故が発生するのを防止することができる。また、刃部を超硬合金またはセラミックスから構成したので、切断時に電極から生ずる集電体の金属成分が刃部に凝着し難くなって、切断能力の低下を抑制し得る。従って、電極から生ずる切断バリや金属粉の発生を極力抑えることができ、該切断バリや金属粉が電極の切断面に付着するのを抑制して、短絡による電池の寿命低下や発火事故の発生を回避することができる。
【0010】
請求項2に係る電極切断用刃物によれば、前記台金部は、ステンレス鋼で構成される。
請求項2の発明によれば、台金部をステンレス鋼から構成したので、台金部に錆が発生するのを抑制し得る。従って、切断時に台金部から脱落した錆が電極に付着して、該錆によって電極が不具合を起こすのを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電極切断用刃物によれば、集電体の金属が刃部に凝着し難くなって切断能力の低下が抑制されて、電極の切断面に切断バリや金属粉が付着し難くし得る。また、台金部および刃部の接合に樹脂系接着剤を採用したので、金属ろう材が電極の切断面に付着することはない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例に係る電極切断用刃物を示す全体図である。
【図2】実施例に係る電極切断用刃物の開放端面を示す拡大図であって、(a)は上刃部材であり、(b)は下刃部材である。
【図3】変更例に係るスリッターナイフを示す全体図である。
【図4】シート状電極の切断工程を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係る電極切断用刃物につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、実施例に係る電極切断用刃物20,22を備えた切断装置18を示す全体図、図2は、電極切断用刃物20,22の開放端面を示す拡大図である。この切断装置18は、従来技術で説明した裁断工程において用いられ、リチウムイオン2次電池を構成するシート状電極10を所定長さに切断するものである。切断装置18は、所定長さで延在する電極切断用刃物としての上刃部材20および下刃部材22で構成され、両部材20,22は、一方の端部に設けた軸部24を介して相互に回動自在に軸支されている。
【0015】
前記上刃部材20は、台金部26および刃部28から構成される。前記台金部26は、ステンレス鋼から構成されて、錆の発生を抑制するよう図られている。また、図2に示すように、台金部26の下面に設置凹部30が凹設されており、該設置凹部30に前記刃部28が取付けられる。刃部28は、非金属物質であるセラミックス例えばジルコニア系セラミックスで構成され、前記台金部26に比べて小さな寸法の線状に形成されている。すなわち、刃部28は、台金部26において切断対象であるシート状電極10に接触する箇所に必要最低限の寸法で設けられている。なお、セラミックスとしては、ジルコニア系に限定される訳でなく、例えば、アルミナ系(酸化物系)等、各種のセラミックスを採用することができる。また、刃部28を構成する硬質材料としては、セラミックスに限定される訳でなく、シート状電極10を切断可能な超硬合金を用いてもよい。
【0016】
前記刃部28は、前記台金部26の設置凹部30に非導電性の樹脂系接着剤によって強固に接合されている。この樹脂系接着剤としては、例えば、アクリル系あるいはエポキシ系接着剤が好適に採用される。但し、樹脂系接着剤としては、このアクリル系あるいはエポキシ系接着剤に限定される訳でなく、例えば、ウレタン系接着剤等、他の非導電性の接着剤を採用してもよい。
【0017】
前記下刃部材22は、上刃部材20と同様に、ステンレス鋼からなる台金部26と、非金属物質であるジルコニア系セラミックスからなる刃部28とから構成されている。前記台金部26の上面には、前記刃部28を取付けるための設置凹部30が凹設されている。そして、前記刃部28は、この設置凹部30に非導電性の樹脂系接着剤によって強固に接合されている。
【0018】
次に、実施例に係る電極切断用刃物20,22の作用について、前記シート状電極10を切断する場合を例に説明する。スリット工程において所定幅に切断されたシート状電極10は、裁断工程において前記切断装置18により所定長さに切断される。すなわち、裁断工程では、上刃部材20および下刃部材22の間にシート状電極10を臨ませ、両部材20,22を閉成するよう回動させることで、シート状電極10を剪断力により切断する。これにより、所定長さの帯状のシート状電極10が形成される。切断後、上刃部材20および下刃部材22を再び開放し、次のシート状電極10を両部材20,22の間に臨ませる。こうして、切断装置18は、シート状電極10を一定の長さで順次切断し、帯状のシート状電極10を複数形成する。
【0019】
ここで、実施例の上刃部材20および下刃部材22の各刃部28は、非金属物質であるセラミックスで構成されているので、シート状電極10の集電体の金属が刃部28に殆ど凝着することはない。従って、従来例のように、金属の凝着により切断能力が低下するのを抑制することができる。すなわち、実施例に係る電極切断用刃物(上刃部材,下刃部材)20,22によれば、切断能力の低下が抑制されるので、切断時に生ずるシート状電極10の切断バリや金属粉の発生を極力抑えることが可能となる。このため、シート状電極10の切断面に切断バリや金属粉が付着するのを抑制して、短絡による電池の発熱や発火事故の発生を回避し得る。
【0020】
また、実施例に係る電極切断用刃物20,22は、台金部26および刃部28を非導電性の樹脂系接着剤により接合したので、軟質金属ろう材がシート状電極10の切断面に付着することがない。従って、シート状電極10の切断面に付着したろう材により短絡が発生して、前記同様、電池寿命の低下や発火事故が生ずるのを防止し得る。仮に、切断時に樹脂系接着剤が脱落し、シート状電極10の切断面に付着しても、該樹脂系接着剤は非導電性であるので短絡を起こす虞はない。更に、電極切断用刃物20,22の台金部26をステンレス鋼から構成したので、台金部26に錆が発生するのを抑制することができる。従って、台金部26に生じた錆がシート状電極10の切断面に付着するのを防止して、錆による不具合の発生を抑制し得る。しかも、実施例に係る電極切断用刃物20,22は、高価なセラミックスを刃部28にのみ用いたので、刃物全体をセラミックスで形成した場合に比べて製造コストを低廉にすることができる。なお、刃部28の材料として、セラミックスに代えて超硬合金を採用した場合でも、シート状電極10の集電体の金属が刃部28に凝着し難くなって、切断能力の低下を抑制し得る。従って、この場合においても、電池寿命の低下や発火事故の発生等を好適に防止することが可能となる。
【0021】
なお、実施例では、電極切断用刃物として上刃部材20および下刃部材22を採用し、両部材を回動させて、シート状電極10を剪断力により切断する場合について説明した。しかしながら、例えば、一方または双方を平行移動(スライド)させてシート状電極を切断するタイプの上刃部材および下刃部材に本発明を適用してもよい。また、図3に示すように、従来技術で説明したスリット工程で用いられるスリッターナイフ60に、本発明の電極切断用刃物を採用してもよい。このスリッターナイフ60は、シート状電極10を挟んで上下に配置され、上側のスリッターナイフ60の外周下部と下側のスリッターナイフ60の外周上部とが重なるように接触した状態で回転される。この上下のスリッターナイフ60の間にシート状電極10を通過させることで、該シート状電極10を所定幅に剪断するものである。
【0022】
各スリッターナイフ60は、ドーナツ状に形成されてステンレス鋼からなる台金部62と、該台金部62の外周縁に設けられたジルコニア系セラミックスからなる刃部64とから構成されている。台金部62および刃部64は、実施例と同様に、非導電性の樹脂系接着剤を介して接合されている。このように、図3に係る円形刃型の電極切断用刃物においても、非金属物質のセラミックスからなる刃部64を用いることで、シート状電極10に対する切断能力の低下を抑制することができる。従って、シート状電極10の切断面に切断バリや金属粉が付着し難くなって、電池の寿命低下や発火事故等を好適に防止し得る。また、台金部62および刃部64を樹脂系接着剤により接合したので、金属ろう材がシート状電極10の切断面に不着して、電池寿命の低下や発火事故の発生が生ずることはない。なお、このスリッターナイフ60の刃部64を、超硬合金で形成することも可能である。
【0023】
前述した実施例では、リチウムイオン2次電池を構成するシート状電極10を切断する場合について説明したが、本発明に係る電極切断用刃物としては、このシート状電極10を切断する場合に限定される訳ではない。例えば、リチウムイオン2次電池以外の1次電池または2次電池を構成する電極を切断する際に、本発明に係る電極切断用刃物を用いることも可能である。すなわち、集電体上に活物質層を形成した各種の電極に対し、本発明に係る電極切断用刃物を用いることができる。
【符号の説明】
【0024】
10 シート状電極,26,62 台金部,28,64 刃部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体上に活物質層を形成した電極(10)を切断する刃物であって、
台金部(26,62)と、
硬質材料である超硬合金またはセラミックスで構成された刃部(28,64)とを備え、
前記台金部(26,62)および刃部(28,64)が非導電性の樹脂系接着剤により接合されている
ことを特徴とする電極切断用刃物。
【請求項2】
前記台金部(26,62)は、ステンレス鋼である請求項1記載の電極切断用刃物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−161565(P2011−161565A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26951(P2010−26951)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000165398)兼房株式会社 (28)
【Fターム(参考)】