説明

電極接合体膜製造装置

【課題】メッキ時の引張りによる電極接合体膜の破損を防止し、そのための適度な弛みを正確に電極接合体膜に付与する。
【解決手段】電極接合体膜製造装置は、電極接合体膜Mの外周縁部をクランプするための一対のメッキ枠12と、両メッキ枠12によってクランプされた電極接合体膜Mの外周縁部よりも内側の部分を吸引して、同部分に、メッキ時の電極接合体膜Mの収縮を吸収する弛みを形成するための吸引体13と備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を電気分解することにより水素ガス及び酸素ガスを発生させる固体高分子型水素発生装置の電解槽に使用する電極接合体膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電極接合体膜は、水中で膨張し、空気中では乾燥により収縮する性質がある。このため、貴金属無電解メッキの前処理工程の前にイオン交換膜(電極接合体膜)を十分に膨潤させた後、水中で治具(メッキ枠)に固定し、次いで白金無電解メッキ液中で白金メッキすることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
無電解メッキを行う際、電極接合体膜に適度な弛みを付与しないと、白金吸着による収縮が起こり、電極接合体膜が引張りにより破損する。
【0004】
この弛みを付与するすることは、作業者の手作葉による、熟練及び経験に頼っており、適度な弛みを正確に得られないという問題があった。そのため、製品歩留りが90%程度となっていた。
【特許文献1】特開平3一158475号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、メッキ時の引張りによる電極接合体膜の破損を防止し、そのための適度な弛みを正確に電極接合体膜に付与することのできる電極接合体膜製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による電極接合体膜製造装置は、電極接合体膜の外周縁部をクランプするための一対のメッキ枠と、両メッキ枠によってクランプされた電極接合体膜の外周縁部よりも内側の部分を吸引して、同部分に、メッキ時の電極接合体膜の収縮を吸収する弛みを形成するための吸引体と備えているものである。
【0007】
この発明による電極接合体膜製造装置では、電極接合体膜に適度な弛みを付与するために、吸引体を使用しており、手作業の必要がなくなり、作業者の熟練及び経験に頼らず、安定して適度な弛みを付与することできる。そのため、製品歩留りが100%となった。
【0008】
さらに、吸引体の外面に、両メッキ枠を載置させるための平坦状載置部が設けられるとともに、載置部の内側に、凸状または凹状吸引部とが形成されていると、電極接合体膜を吸引する際に、安定姿勢で作業を行うことができる。
【0009】
また、吸引部が、球面をなしており、吸引部の外周のなす円の直径と、吸引部のなす球の半径との比が、0.5〜1.5であることが好ましい。
【0010】
その比が1.5を超えると、弛みが過度となって、電極接合体膜は柔軟性が乏しいため、メッキ枠に固定する事が困難である。また、その比が0.5未満であると、弛みが不足して白金メッキ時に吸着収縮を起こし電極接合体膜が破損する恐れがある。
【0011】
また、吸引部に、複数の吸引孔が散在するように開口させられていると、吸引部による吸引動作を、簡単かつ確実に行うことができる。
【0012】
また、電極接合体膜製造装置に、両メッキ枠を吸引体とともに締付ける第1クランプと、両メッキ枠だけを締付ける第2クランプとが備わっていると、吸引体およびメッキ枠に対する電極接合体膜の脱着を容易に行うことができる。
【0013】
また、電極接合体膜製造装置には、メッキ枠および吸引体を水没させるための水槽が備わっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、メッキ時の引張りによる電極接合体膜の破損を防止し、そのための適度な弛みを正確に電極接合体膜に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の実施の形態を図面を参照しながらつぎに説明する。
【0016】
図1および図2を参照すると、電極接合体膜製造装置は、円板状電極接合体膜Mを浸漬させるための水槽11と、電極接合体膜Mの外周縁部をクランプするための一対の円環状メッキ枠12と、両メッキ枠12によってクランプされた電極接合体膜Mの外周縁部よりも内側の部分を吸引するための吸引体13と、両メッキ枠12を吸引体13とともに締付ける第1クランプ14と、両メッキ枠12だけを締付ける第2クランプ15とを備えている。
【0017】
両メッキ枠12は、電極接合体膜Mの、高価な貴金属を付与するための所定面積以外の外周縁部にはメッキさせないように使用するものである。各メッキ枠12の材質は、チタン、またはアクリル、テフロンなどの樹脂であり、純水を汚染させないものが好ましい。
【0018】
吸引体13は、各メッキ枠12の材質と同じ材質によって中空構造に形成されたものであって、略ドーム状頂壁21、垂直筒状周壁22および水平平坦状底壁23よりなる。
【0019】
吸引体13の頂壁21頂面の外周縁部に、両クランプ14を載置させるための水平平坦状載置部24が設けられるとともに、載置部24の内側に、メッキ時の電極接合体膜Mの収縮を吸収する弛みを形成するための吸引部25とが形成されている。
【0020】
載置部24は、平面から見て、各メッキ枠12とほぼ同形状である。載置部24の上面には4つの外方開放嵌入溝26が等間隔で形成されている。
【0021】
吸引部25の頂面は、上向き凸状の球面の一部をなしている。吸引部25の外周のなす円の直径Aと、吸引部25のなす球の半径rとの比は、0.5〜1.5である(図3および図4参照。)。吸引部25には多数の吸引孔27が散在するように形成されている。
【0022】
底壁23には吸引パイプ32の吸込口が接続されている。吸引パイプの吐出口は、水槽11内に上方から臨ませられている。吸引パイプ32にはポンプ33が備えられている。
【0023】
第1クランプ14は、載置部24の高さに両メッキ枠12の厚みを加えた間隔より若干大きい間隔をおいて相対させられた頂板41および底板42を有する第1クランプ部材43と、第1クランプ部材43の頂板41に貫通させられている第1締付ボルト44とよりなる。
【0024】
第2クランプ15は、両メッキ枠12の厚みだけの間隔より若干大きい間隔をおいて相対させられた頂板51および底板52を有する第2クランプ部材53と、第2クランプ部材53の頂板51に貫通させられている第2締付ボルト54とよりなる。第2クランプ部材53の底板52は、嵌入溝26に挿入しうる大きさとなされている。
【0025】
つぎに、上記製造装置の使用方法を説明する。
【0026】
1) 水槽11内で吸引体13を水没させ、その載置部24にメッキ枠12の一方を重ねて載置する。
【0027】
2) 電極接合体膜Mは、同水槽11または別の水槽11であらかじめ膨張させておく。
【0028】
3) 載置部24に載置されたメッキ枠12の上に、膨張させられた電極接合体膜Mを載せ、その上に、もう一方のメッキ枠12を重ねる。
【0029】
4) 次いで、第1クランプ14を用いて、吸引体13とともに両メッキ枠12をクランプする。
【0030】
その時の注意として、メッキ枠12に固定される外周縁部にしわが折り重ならないようにする。折り重なると、メッキ枠12に圧縮され破損することがある。
【0031】
5) 上記準備が完了すると、吸引パイプ32の吸込口を吸引体13に接続し、ポンプ33を作動させる。これにより、電極接合体膜Mの外周縁部よりも内側の部分が吸引部25の輪郭にそわされるように吸引されて、メッキ時の電極接合体膜Mの収縮を吸収する弛みが形成される。
【0032】
6) ついで、今度は、第2クランプ15を用いて、両メッキ枠12をクランプする。このときに、第2クランプ部材53の底板52を、嵌入溝26に差し込むようにする。
【0033】
7) 次いで、第1クランプ14によるクランプを解除し、電極接合体膜Mを両メッキ枠12とともに吸引体13から分離する。
【0034】
8) 電極接合体膜Mを両メッキ枠12ととも水槽11から取出し、これと同時に、メッキ液中に入れて、電極接合体膜Mに無電解メッキを施す。
【0035】
9) その後、メッキ済みの電極接合体膜Mを、水洗して、乾燥した後、第2クランプ15のクランプを解除し、両メッキ枠12から電極接合体膜Mを取り出す。
【0036】
上記において、吸引部25は、上向き凸状に形成されているが、上向き凹状としてもよい。さらに、吸引部25は、吸引体13の頂壁21に限らず、例えば、底壁22にあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明による電極接合体膜製造装置の全体構成図である。
【図2】同装置の要部の分解斜視図である。
【図3】同要部の平面図である。
【図4】同要部の垂直断面図である。
【符号の説明】
【0038】
12 メッキ枠
13 吸引体
M 電極接合体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極接合体膜の外周縁部をクランプするための一対のメッキ枠と、両メッキ枠によってクランプされた電極接合体膜の外周縁部よりも内側の部分を吸引して、同部分に、メッキ時の電極接合体膜の収縮を吸収する弛みを形成するための吸引体と備えている電極接合体膜製造装置。
【請求項2】
吸引体の外面に、両メッキ枠を載置させるための平坦状載置部が設けられるとともに、載置部の内側に、凸状または凹状吸引部とが形成されている請求項1または2に記載の電極接合体膜製造装置。
【請求項3】
吸引部が、球面をなしており、吸引部の外周のなす円の直径と、吸引部のなす球の半径との比が、0.5〜1.5である請求項2に記載の電極接合体膜製造装置。
【請求項4】
吸引部に、複数の吸引孔が散在するように開口させられている請求項2または3に記載の電極接合体膜製造装置。
【請求項5】
両メッキ枠を吸引体とともに締付ける第1クランプと、両メッキ枠だけを締付ける第2クランプとを備えている請求項1〜4のいずれか1つに記載の電極接合体膜製造装置。
【請求項6】
メッキ枠および吸引体を水没させるための水槽を備えている請求項1〜5のいずれか1つに記載の電極接合体膜製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−47778(P2010−47778A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210263(P2008−210263)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】