説明

電極材料、電極、及び冷陰極蛍光ランプ

【課題】冷陰極蛍光ランプの輝度の向上に寄与することができる電極材料及び電極、高輝度な冷陰極蛍光ランプを提供する。
【解決手段】本発明電極材料は、冷陰極蛍光ランプの電極に用いられるものであり、塑性加工性に優れるニッケル又はニッケル合金からなり、平均結晶粒径が50μm以下、表面粗さSmが50μm以下である。表面が微細な凹凸形状であると共に微細組織からなる本発明電極材料は、仕事関数が4.7eV未満、エッチングレートが22nm/min未満である。このような電極材料により形成された本発明電極は、放電性及び耐スパッタリング性を高められ、冷陰極蛍光ランプの輝度を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極蛍光ランプの電極用素材に適した電極材料、この電極材料からなる電極、及びこの電極を具える冷陰極蛍光ランプに関するものである。特に、冷陰極蛍光ランプの輝度の向上に寄与することができる電極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のバックライト用光源といった種々の電気機器の光源として、冷陰極蛍光ランプが利用されている。このランプは、代表的には、内壁面に蛍光体層を有する円筒状のガラス管と、この管の両端に配置される一対のカップ状の電極とを具え、管内に希ガス及び水銀が封入されている。電極の材質は、ニッケルが代表的であり、特許文献1には、特定の元素を添加したニッケル合金、特許文献2には、モリブデンといった高融点金属が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2007-173197号公報
【特許文献2】特開2007-250343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、冷陰極蛍光ランプの更なる高輝度化が望まれている。輝度は、電極の放電のし易さやスパッタリング速度(エッチングレートに同義)に依存する。電極から電子が取り出し易い、即ち、仕事関数が小さいと、放電し易い。一方、ニッケル電極は、点灯中、電極構成物質が飛散してガラス管内に堆積するスパッタリング現象が生じる。この堆積層が水銀を取り込むと、発光に必要な紫外線が蛍光体層から十分に放射されなくなり、ランプの輝度が低下する。従って、スパッタリングされ難い(エッチングレートが小さい)と、輝度の低下を抑制でき、高輝度な状態を維持し易い。そのため、放電性及び耐スパッタリング性に優れる電極の開発が望まれる。
【0005】
特許文献2に記載されるモリブデンは、ニッケルよりも耐スパッタリング性に優れるものの、ニッケルよりも塑性加工性が悪く、カップ状の電極をプレス加工といった塑性加工で製造し難い上、非常に融点が高いことから、モリブデン電極は、給電用のリード線を溶接接合し難い。また、特許文献2に記載されるように電極を焼結体で構成すると、密度が低く、強度の低下を招く。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、冷陰極蛍光ランプの輝度の向上に寄与することができる電極材料及び電極を提供することにある。また、本発明の別の目的は、高輝度な冷陰極蛍光ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、電極材料として、塑性加工性に優れるニッケル又はニッケル合金について検討したところ、電極材料の表面粗さと結晶粒径との双方を制御することで、冷陰極蛍光ランプの輝度を向上できる、との知見を得た。本発明は、この知見に基づくものである。具体的には、本発明電極材料は、冷陰極蛍光ランプの電極に用いられるものであり、ニッケル又はニッケル合金からなり、平均結晶粒径が50μm以下、表面粗さSmが50μm以下であることを特徴とする。
【0008】
上記本発明電極材料に塑性加工を施すことで、本発明電極が得られる。具体的には、本発明電極は、冷陰極蛍光ランプに用いられるカップ状の電極であり、ニッケル又はニッケル合金からなり、平均結晶粒径が50μm以下であり、内側の底面の表面粗さSmが50μm以下であることを特徴とする。
【0009】
更に、本発明冷陰極蛍光ランプは、上記本発明電極を具えることを特徴とする。
【0010】
表面粗さSmが小さい本発明電極材料により電極を形成することで、この電極の表面粗さSmも小さくすることができる。表面粗さSmが小さい電極は、その表面に微細な凹凸が存在して表面積が大きくなるため、電極表面から電子が放出され易くなり、放電性を高められることから、冷陰極蛍光ランプの輝度を向上することができる。しかし、表面に上記微細な凹凸が存在していても、粗大組織からなる電極では、ランプの点灯初期に放電性に優れていても、放電に伴う電極の消耗により経時的に電極表面が均されることで、点灯初期の放電性を維持できなくなる。そこで、本発明電極材料は、微細組織とする。そして、この材料からなる電極も微細組織となるようにすることで、放電により電極が消費されても、電極表面は、微細な凹凸が存在する状態とすることができ、放電性に優れた状態を維持できる。このように本発明電極材料により、表面に微細な凹凸が存在すると共に微細組織からなる本発明電極を構成することで、この電極を具える本発明ランプは、点灯初期の輝度を向上できるだけでなく、長期に亘り、高輝度を維持することができる。また、本発明電極材料は、塑性加工性に優れるニッケル又はニッケル合金で構成されることから、カップ状の本発明電極を塑性加工により容易に製造でき、本発明電極の生産性の向上にも寄与することができる。更に、ニッケルやニッケル合金は、モリブデンといった金属と比較して融点が低いため、本発明電極は、リード線の接合も容易に行え、本発明冷陰極蛍光ランプの生産性の向上にも寄与することができる。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
[電極材料]
(組成)
本発明電極材料は、Ni及び不純物からなるニッケル(純ニッケル)、又は添加元素と残部がNi及び不純物からなるニッケル合金からなるものとする。これらニッケルやニッケル合金は、モリブデンといった金属よりも塑性加工性に優れ、融点も低く、本発明電極材料で電極を作製した際、コバールなどからなるリード線を溶接により容易に接合できる。また、ニッケル合金は、ニッケルよりも結晶粒が微細になり易い。
【0012】
ニッケル合金は、Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Be,Si,Al,Y,Mg,In,及び希土類元素(Yを除く)から選ばれる1種以上の元素を合計で0.001質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなるものが好ましい。このニッケル合金は、1.ニッケルよりも仕事関数が小さいため放電し易い、2.スパッタリングし難い(エッチングレートが小さい)、3.アマルガムを形成し難い、4.酸化膜を形成し難いため、放電が阻害され難い、といった様々な利点を有する。特に、Yを含有したニッケル合金は、耐スパッタリング性を高め易い。Yの好ましい含有量は、0.01〜2.0質量%である。Y,Si,及びMgを含有するニッケル合金は、耐スパッタリング性を更に向上でき、好ましい含有量は、質量%でY及びSiの合計で0.01〜2.0%、Mg:0.01〜1.0%である。これらの添加元素は、Niとの金属間化合物をつくり、電極材料又は電極中に存在する。
【0013】
(製造方法)
本発明電極材料の形態は、板状材や線状材が挙げられ、代表的には、溶解→鋳造→熱間圧延→冷間塑性加工(板状材:冷間圧延、線材:冷間伸線)及び熱処理により得られる。このような溶製法により製造することで、電極材料は、高密度(相対密度が98%超、概ね100%)であり、このような高密度の電極材料により製造した電極も高密度になり、強度が高い。
【0014】
(表面性状)
本発明電極材料は、その表面が微細な凹凸からなることを特徴の一つとする。具体的には、表面粗さSm(JIS B 0601(1994))が50μm以下である。表面粗さSmが小さいほど、電極の表面粗さSmも小さくなり易く、輝度を向上できるため、特に下限を設けない。より好ましくは、20μm以下である。
【0015】
電極材料の表面粗さSmを50μm以下にするには、冷間塑性加工後の加工材、或いは最終熱処理後の処理材にショットブラストやバレル研磨といった機械的な処理を行うことが挙げられる。機械的な処理に加えて、電極材料の製造条件を調整することで、表面粗さSmを50μm以下にし易い。具体的な条件としては、例えば、最終熱処理(軟化処理)時の加熱温度を700〜1000℃、移動速度(線速)を50℃/sec以上とすることが挙げられる。
【0016】
(組織)
本発明電極材料は、微細組織を有することを特徴の一つとする。具体的には、平均結晶粒径が50μm以下である。電極材料の平均結晶粒径が小さいほど、電極の平均結晶粒径も小さくなり易く、輝度を向上できるため、特に下限を設けない。より好ましくは、20μm以下である。
【0017】
電極材料の平均結晶粒径を50μm以下にするには、例えば、製造条件を制御することが挙げられる。具体的には、最終熱処理(軟化処理)において加熱温度を比較的高温とすると共に、加熱時間を短くして、粒成長を促進しないようにする。具体的な条件は、加熱温度を700〜1000℃、特に、800〜900℃程度とし、移動速度(線速)を50℃/sec以上、特に80℃/sec以上とすることが挙げられる。電極材料をニッケル合金で構成する場合、添加元素の種類や含有量を調整することでも、平均結晶粒径を調整することができる。
【0018】
(仕事関数)
表面が微細な凹凸形状であり、かつ微細組織からなる本発明電極材料は、放電性に優れ、仕事関数が小さい。具体的には、4.7eV未満である。このような電極材料からなる本発明電極も仕事関数が小さくなり、仕事関数が小さいほど、電極から電子が放出され易く、冷陰極蛍光ランプがこの電子を利用することで発光し易くなり、輝度を向上できるため、特に下限を設けない。より好ましくは、4.3eV以下である。
【0019】
(エッチングレート)
表面が微細な凹凸形状であり、かつ微細組織からなる本発明電極材料は、更に、耐スパッタリング性にも優れ、エッチングレートが小さい。具体的には、22nm/min未満である。特に下限を設けない。エッチングレートが小さいほど、スパッタリング層が生成され難くなってこの層に取り込まれる水銀量を低減して、水銀を発光に十分に利用できることからランプの輝度を向上できる。より好ましくは、20nm/min以下である。このような電極材料からなる本発明電極もエッチングレートが小さい。
【0020】
上記仕事関数やエッチングレートは、表面粗さSmや平均結晶粒径をより小さくすることで、小さくなる傾向にある。また、仕事関数やエッチングレートは、本発明電極材料をニッケル合金で構成する場合、添加元素の種類や含有量を調整することで変化させられ、添加元素の含有量を多くすると、小さくなる傾向にある。仕事関数及びエッチングレートの測定方法は、後述する。
【0021】
[電極]
上記本発明電極材料に、プレス加工(板状材の場合)や鍛造加工(線状材の場合)といった塑性加工を施すことで、中空の有底筒からなるカップ状の本発明電極が得られる。カップ状の電極は、ホローカソード効果により、スパッタリング現象をある程度抑制できる。本発明電極材料は、上述のように塑性加工性に優れるニッケルやニッケル合金から構成されるため、上記塑性加工を冷間で行える。また、冷間加工とすることで、電極材料の微細組織を維持し易い。カップ状に形成した加工材に、別途、上述した機械的な処理を行うと、確実に、表面粗さSmを50μm以下にすることができる。カップ状の電極では、通常、その内側、特に底面を中心に放電が起こる。そのため、カップ状の電極の少なくとも内側の底面の表面粗さSmが小さければ、放電性や耐スパッタリング性を高めて高輝度にし易い。そこで、本発明電極は、少なくとも内側の底面の表面粗さSmを50μm以下とする。内側の全面に亘って表面粗さSmが50μm以下でもよいし、外側の面は、表面粗さSmが50μm以下でも50μm超でもよい。
【0022】
なお、表面粗さSm及び平均結晶粒径が共に50μm以下の電極材料を用いて電極や冷陰極蛍光ランプを製造する際、プレス加工や鍛造加工、リード線の溶接などにより、電極の表面粗さや結晶粒径が、電極材料の表面粗さや結晶粒径から若干変化することがある。しかし、電極の表面粗さや結晶粒径は、上記電極材料の表面粗さや結晶粒径に基本的に依存し、電極材料の表面粗さSm及び平均結晶粒径が50μm以下であれば、概ね50μm以下にすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明電極材料及び本発明電極は、冷陰極蛍光ランプの輝度の向上に貢献することができる。本発明冷陰極蛍光ランプは、高輝度である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
表1に示す組成からなる電極材料(板状材、線状材)を作製して、その特性を調べた。また、この電極材料からカップ状の電極を作製し、更に、この電極を用いた冷陰極蛍光ランプを作製して、その性能を評価した。
【0025】
(試料No.1,2,101,102)
板状の電極材料を以下のように作製した。通常の真空溶解炉を用いて表1に示す成分組成を有する金属の溶湯を作製し、溶湯温度を適宜調整して、真空鋳造により鋳塊を得た。得られた鋳塊に熱間圧延を施し、厚さ4.2mmの圧延板材を得た。この圧延板材に熱処理を施した後、表面を切削し、厚さ4.0mmの処理板材を得た。この処理板材に冷間圧延及び熱処理を繰り返し行い、得られた板材に最終熱処理(軟化処理)を施して、厚さ0.2mmの板状の軟材を得た。軟化処理は、温度を800℃とし、移動速度を10〜150℃/secの範囲で適宜選択し、水素雰囲気で行った。移動速度を上記範囲で異ならせることで、同じ成分組成でも平均粒径の異なる板状材が得られた。
【0026】
(試料No.3〜5,103)
線状の電極材料を以下のように作製した。通常の真空溶解炉を用いて表1に示す成分組成を有する金属の溶湯を作製し、溶湯温度を適宜調整して、真空鋳造により鋳塊を得た。得られた鋳塊を熱間圧延により線径5.5mmφまで加工して圧延線材を得た。この圧延線材に冷間伸線及び熱処理を組み合わせて施し、得られた線材に最終熱処理(軟化処理)を施して、線径1.6mmφの線状の軟材を得た。軟化処理は、温度を800℃、移動速度(線速)を10〜150℃/secの範囲で適宜選択し、水素雰囲気で行った。移動速度を上記範囲で異ならせることで、平均粒径を変化させた。
【0027】
表1に示す「Ni」は、市販の純ニッケル(99.0質量%以上Ni)であり、精錬により、C及びSの合計含有量を低減させたものを用いた。溶解は、大気溶解炉で行ってもよく、この場合、精錬などにより不純物や介在物を除去又は低減したり、温度調整を行って溶湯を調整する。熱処理は、水素雰囲気下又は窒素雰囲気下で行う。圧延板材や軟材の厚さ、圧延線材や軟材の線径は、適宜選択することができる。軟材の厚さは、0.1〜0.3mmが好ましく、軟材の線径は、0.5〜5mmφが好ましい。軟化処理は、熱伝導率が高い水素の含有量が高い雰囲気(特に、水素雰囲気)で行うと、効率よく加熱できることから移動速度(線速)を速められるため、生産性を向上することができる。一方、軟化処理を水素の含有量が少ない、或いは窒素雰囲気などの水素を含まない雰囲気で行うと、電極の水素含有量を低減して、リード線の溶接時などで電極が酸化変色することを防止できる。
【0028】
得られた軟材について、平均結晶粒径を調べた。その結果を表1に示す。平均結晶粒径は、JIS G 0551(2005)に示す方法に準じ、軟材の断面を顕微鏡により組織観察することで行った。
【0029】
得られた軟材に表面処理を施して電極材料とし、この電極材料の表面粗さSmを測定した。その結果を表1に示す。表面処理は、バレル研磨(市販の研磨機を使用)で行い、所望の表面粗さSmが得られるように適宜バレル用研磨材を選択した。なお、試料No.101は、表面処理を行っていない。表面粗さSmは、JIS B 0601(1994)に準じ、光学式表面形状計測器で測定した。
【0030】
得られた電極材料について、仕事関数及びエッチングレートを調べた。その結果を表1に示す。仕事関数は、前処理としてArイオンエッチングを数分間実施した後、紫外線光電子分光分析法により測定した。上記前処理のエッチングは、イオン照射時間が短いため、表面粗さへの影響は無視できると考えられる。測定は、複合電子分光分析装置(PHI製ESCA-5800 付属 UV-150HI)を用い、紫外線源:He
I (21.22eV)/8W,測定時の真空度:3×10-9〜6×10-9torr(0.4×10-9〜0.8×10-9kPa),測定前のベース真空度:4×10-10torr(5.3×10-11kPa),印加バイアス:約-10V,エネルギー分解能:0.13eV,分析エリア:φ800μm 楕円形,分析深さ:約1nmとした。その他、仕事関数は、大気走査型ケルビンプローブ(英国KP Technology社製)を用いて測定することもできる(使用プローブのチップサイズ:直径2mm)。この場合、各試料に対し、測定位置をずらしながら複数点(例えば、N=5)測定し、その平均値を利用する。エッチングレートは、以下のようにして求めた。前処理として電極材料に部分的にマスキングを行い、マスキングされていない露出部分にイオン照射を所定時間行った後、イオン照射により露出部分により生じた窪みの平均深さを測定し、平均深さ/照射時間をエッチングレートとした。イオン照射は、X線光電子分光分析装置(PHI製 Quantum-2000)を用い、加速電圧:4kV,イオン種:Ar+,照射時間:120min,真空度:2×10-8〜4×10-8torr(2.7×10-9〜5.3×10-9kPa),アルゴン圧:約15mPa,入射角度:試料面に対して約45度として行い、窪みの深さは、触針式表面形状測定器(Vecco社製
Dektak-3030)を用い、触針:ダイヤモンド 半径=5μm,針圧:20mg,走査距離:2mm,走査速度:Mediumとして測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示すように、電極材料は、表面粗さSm及び平均結晶粒径が50μm以下であると、仕事関数及びエッチングレートが小さいことが分かる。また、表面粗さSmや平均結晶粒径が小さいほど仕事関数やエッチングレートが小さくなる傾向にあることが分かる。
【0033】
得られた板状の電極材料を所定の大きさ(10mm角)に切断し、得られた板状片に冷間プレス加工を施して、カップ状の電極(外径1.6mmφ、長さ3.0mm、開口部の直径1.4mmφ、開口部の深さ2.8mm、底部分の厚さ0.2m)を作製した。なお、電極の大きさは、適宜変更することができる。
【0034】
得られた線状の電極材料を所定長(1.0mm)に切断し、得られた短尺材に冷間鍛造加工を施して、カップ状の電極を作製した。その結果、いずれの組成を有する軟材もカップ状の電極(外径1.6mmφ、長さ3.0mm、開口部の直径1.4mmφ、開口部の深さ2.6mm、底部の厚さ0.4mm)を得ることができた。
【0035】
得られた電極のうち、試料No.1〜5,102,103の電極は、ブラスト処理を施して表面粗さを調整した。ブラスト処理は、市販のブラスト装置を用い、所望の表面粗さSmが得られるように適宜ブラスト用研磨材を選択した。この処理後に、電極の内側の底面の表面粗さSmを電極材料の場合と同様にして調べたところ、電極材料のときの表面粗さと同等であった。また、電極の平均結晶粒径を電極材料の場合と同様にして調べたところ、電極材料のときの平均結晶粒径と同等であった。
【0036】
得られた電極を用いて冷陰極蛍光ランプを作製し、初期輝度と500時間経過後の輝度を調べた。その結果を表2に示す。試料No.101の冷陰極蛍光ランプの初期の中央輝度(43000cd/m2)を100とし、その他の試料の初期輝度及び500時間経過後の輝度を相対的に表わした。
【0037】
冷陰極蛍光ランプは、以下のように作製した。コバールからなるインナーリード線と銅被覆Ni合金線からなるアウターリード線とを溶接し、更に、上記電極の外側の底面にインナーリード線を溶接する。ニッケルやニッケル合金とコバールとは融点が同程度或いは比較的近いため、電極とインナーリード線とを簡単に接合できた。上記インナーリード線の外周にガラスビーズを溶着させて、リード線、電極、及びガラスビーズが一体化した電極部材を一対作製する。次に、内壁面に蛍光体層(ここではハロリン酸塩蛍光体層)を有し、両端が開口した円筒状のガラス管の一端に一方の電極部材を挿入し、ガラスビーズと管の一端とを溶着して、管の一端を封止すると共に、電極を管内に固定する。次に、ガラス管の他端から真空引きして希ガス(ここではArガス)及び水銀を導入し、他方の電極部材を挿入して電極を固定すると共にガラス管を封止する。この手順により、一対のカップ状の電極の開口部が対向配置された冷陰極蛍光ランプが得られる。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示すように、平均結晶粒径及び表面粗さSmが50μm以下である電極材料により作製した電極を具える冷陰極蛍光ランプは、初期輝度が高いだけでなく、長時間経過後も高輝度を維持できることが分かる。特に、平均結晶粒径及び表面粗さが小さいほど、初期輝度を向上できると共に、高輝度を長期に亘り維持できる傾向にあることが分かる。このことから、電極材料の平均結晶粒径及び表面粗さSmを制御することで、高輝度な冷陰極蛍光ランプが得られると言える。
【0040】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、電極材料や電極の組成、平均結晶粒径、表面粗さSmを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明電極材料は、冷陰極蛍光ランプの電極用素材に好適に利用できる。本発明電極は、冷陰極蛍光ランプの電極に好適に利用できる。本発明冷陰極蛍光ランプは、例えば、パソコンの液晶モニタや液晶テレビなどの液晶表示装置のバックライト用光源、小型ディスプレイのフロントライト用光源、複写機やスキャナなどの原稿照射用光源、複写機のイレイサー用光源といった種々の電気機器の光源に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷陰極蛍光ランプの電極に用いられる電極材料であって、
ニッケル又はニッケル合金からなり、
平均結晶粒径が50μm以下、表面粗さSmが50μm以下であることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
前記ニッケル合金は、Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Be,Si,Al,Y,Mg,In,及び希土類元素(Yを除く)から選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記電極材料の仕事関数が4.7eV未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項4】
前記電極材料のエッチングレートが22nm/min未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項5】
冷陰極蛍光ランプに用いられるカップ状の電極であって、
ニッケル又はニッケル合金からなり、
平均結晶粒径が50μm以下であり、
この電極の内側の底面の表面粗さSmが50μm以下であることを特徴とする電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電極を具えることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ。

【公開番号】特開2009−252382(P2009−252382A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95428(P2008−95428)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(591200623)住電ファインコンダクタ株式会社 (21)
【Fターム(参考)】