説明

電極材料

【課題】冷陰極蛍光ランプの電極に適した電極材料、電極、電極部材、この電極材料を用いた冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法、及びより高輝度で長寿命な冷陰極蛍光ランプを提供する。
【解決手段】内壁面に蛍光体層101を有し、内部に希ガス及び水銀が封入されるガラス管102と、このガラス管102内の両端部に配置される一対の電極103とを具える冷陰極蛍光ランプ100において、Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Be,Si,Al,Y,Mg,In,希土類元素から選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなるNi合金で電極を構成する。ニッケル単体ではなく、上記組成のNi合金からなる電極とすることで、放電性、耐酸化性、耐スパッタリング性、水銀との耐反応性を向上させることができ、高輝度化、長寿命化を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極蛍光ランプの電極に適した電極材料、この電極材料により冷陰極蛍光ランプ用電極を製造する製造方法、及び冷陰極蛍光ランプに関するものである。特に、より高輝度で長寿命な冷陰極蛍光ランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、イメージスキャナの原稿照射用光源や、パソコンの液晶モニタ、液晶テレビなどの液晶表示装置(液晶ディスプレイ)のバックライト用光源といった種々の光源として、冷陰極蛍光ランプがよく利用されている(例えば、特許文献1,2参照)。冷陰極蛍光ランプとしては、例えば、図1に示す構成のものがある。図1は、冷陰極蛍光ランプの一例であり、その概略構成を示す断面図である。この冷陰極蛍光ランプ100は、内壁面に蛍光体層101を有し、希ガスと水銀とが封入されるガラス管102と、ガラス管102内に配置される一対の電極103とを具える。蛍光体層101は、ガラス管102の内壁面のほぼ全周及び全長に亘って設けられ、管102内において二つの電極103間が主として発光部となり、電極103近傍が非発光部となる。電極103は、一端が開口し、他端が有底のカップ状であり、開口部が対向するようにガラス管102内に配置される(特許文献1,2参照)。開口していない電極103の他端側(底側)には、リード線(アウターリード線104)が接続され、このリード線104を介して電極103に電圧が加えられる。電極103とアウターリード線104との間は、ガラス管102の熱膨張係数と同程度の熱膨張係数に調整されたコバール(KOV)などの材料からなるインナーリード線105が接続される。インナーリード線105の外周には、ビードガラス106が溶着される。このビードガラス106により電極103をガラス管102に固定すると共に管102を封止することで、管102内の気密状態が安定して保持される。なお、希ガスのみをガラス管102に封入した水銀フリーの蛍光ランプもある。
【0003】
このような蛍光ランプ100は、以下の原理で発光する。リード線104を介して二つの電極103間に高電圧を印加すると、ガラス管102内に僅かに存在する電子が電極103に高速で引きつけられて衝突し、このとき、電極103から二次電子が放出されて放電する。この放電により、陽極に引かれる電子とガラス管102内に存在する水銀分子などとが衝突して紫外線が放射され、この紫外線が蛍光体を励起して、蛍光体は、可視光線を発光する。
【0004】
上記電極の形成材料としては、ニッケル(Ni)が代表的である。その他の電極の形成材料として、特許文献1には、Ti,Zr,Hf,Nb又はTaを用いること、特許文献3には、Mo,Nb,Taを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−71276号公報
【特許文献2】特開平10−144255号公報
【特許文献3】特開2004−207056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、液晶ディスプレイなどに用いられるバックライトユニットにおいて、薄型、軽量、高輝度、長寿命が重要視されている。そのため、バックライト用光源として利用される冷陰極蛍光ランプについても、より一層の小型化、高輝度化、長寿命化が強く望まれている。また、イメージスキャナにおいても高速化、長寿命化などが重要視されており、光源である冷陰極蛍光ランプに対しても高輝度化、長寿命化が強く望まれている。
【0007】
ニッケルからなる電極を具える従来の冷陰極蛍光ランプでは、点灯中、放電により生じた水銀イオンが電極に衝突することで、電極物質がガラス管内に飛散して管内壁に堆積していくスパッタリングという現象が起こる。スパッタリングが起こると、電極が消耗される。特に、電極の一部分のみが集中的に消耗してその部分に孔があくことで、電極を放電に使えなくしてしまい、蛍光ランプが寿命となる。また、スパッタリング層(蒸発した電極物質からなる層)と水銀とがアマルガムを形成する。そのため、長時間点灯していると、水銀がスパッタリング層にほとんど取り込まれることで、紫外線の放射が十分に行われず、ランプの輝度が極端に低下し、蛍光ランプが寿命となる。即ち、ニッケルからなる電極を具える従来の冷陰極蛍光ランプでは、上記スパッタリングにより比較的寿命が短くなりやすい。
【0008】
電極の形状を有底筒状とすると、ホローカソード効果により、ある程度スパッタリングを抑制できるが、より一層の高輝度化、長寿命化の要求に対して十分な構成とは言えない。高輝度化の要求に対して、ランプ電流を大きくすることが考えられるが、電流の増大は、電極負荷を増大させるため、スパッタリングが起こり易くなる、即ち、スパッタリング速度が速くなる。その結果、電極の消耗やアマルガムの形成を速めて、蛍光ランプの寿命の低下を招く。電極を大型化すれば、スパッタリングによる不具合を低減できるが、この場合、1.薄型化、小型化の要求に逆行する、2.非発光部が大きくなるといった問題がある。
【0009】
一方、特許文献1や3に記載されるように電極材料にニッケル以外の材料を用いたり、ニッケルからなる本体にニッケル以外の材料からなる層を設けることで、スパッタリングを抑制することが考えられる。しかし、Mo,Nb,Taなどといった材料は、電極に加工しにくかったり、電極に加工できても、この材料からなる電極は、インナーリード線などと接合しにくいという問題がある。また、特許文献1,3に挙げられるMo,Nb,Taなどの材料は比較的高価であり、この材料からなる電極を用いる場合、かなりのコストアップになる。
【0010】
他方、電極に電子放出を促す物質、例えば、ランタン化合物、セシウム化合物、イットリウム化合物、バリウム化合物などを塗布することが提案されている。しかし、これら電子放出物質は、ランプ点灯中、放電により生じたイオンの衝突を受けて飛散してしまうため、より一層の長寿命化が難しい。
【0011】
そこで、本発明の主目的は、冷陰極蛍光ランプの長寿命化、高輝度化に寄与することができる電極材料、電極、電極部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、この電極材料から有底筒状の電極を得るのに適した冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、より長寿命で高輝度な冷陰極蛍光ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
より高輝度で長寿命な冷陰極蛍光ランプを得るべく、本発明者らは、ランプの構成部材において、特に電極に注目して鋭意検討を進めた。そして、高輝度で長寿命な冷陰極蛍光ランプを実現するために電極として必要な特性は、1.放電し易い、2.電極表面が酸化し難い、3.水銀とアマルガムを形成し難い、4.スパッタリング速度が遅いことであるとの知見を得た。
【0013】
電極が放電し難い場合、放出される電子が少なくなる結果、紫外線が十分に放出されず、輝度を高くすることが難しくなる。これに対して、放電し易い電極は、輝度を高くし易いことから、放電し難い電極と同じ輝度で使用する場合、より長寿命とすることができる。また、放電し易い電極は、より低電力で電子の放出を行うことができるため、消費電力を低減することもできる。従って、電極は、放電し易い材料からなるものが望まれる。
【0014】
また、電極表面に酸化被膜があると、放電性が阻害される。即ち、電極が放電しにくくなる。ここで、電極を製造する際や得られた電極を用いて蛍光ランプを製造する際(電極とインナーリード線との接合時など)に電極材料や電極が加熱されることがある。電極材料が酸素ガスを吸着し易い場合、この加熱により、電極表面に酸化被膜が形成され易くなる。これに対して、酸素ガスを吸着し難い電極材料からなる電極は、その表面に酸化被膜が形成されにくく、放電性の低下を低減することができる。従って、電極は、酸素ガスを吸着し難い材料からなるものが望まれる。
【0015】
更に、電極材料が水銀とアマルガムを形成し易いと、この電極材料からなる電極は、スパッタリングの際、水銀の消費を早め、結果として蛍光ランプの寿命を短くする。これに対して、アマルガムを形成し難い電極材料からなる電極は、水銀の消費を遅くして寿命をより長くすることができる。従って、電極は、アマルガムを形成し難い材料からなるものが好ましい。
【0016】
加えて、電極がスパッタリングを起こし易い、即ち、スパッタリング速度が速いと、電極の消費を早め、結果として蛍光ランプの寿命を短くする。これに対して、スパッタリングを起こし難い電極は、ガラス管内にスパッタリング層を形成しにくいことから輝度の低下が低減されるため、スパッタリングを生じ易い電極と比較して、長時間に亘って高輝度である。従って、電極は、スパッタリングを起こし難い、即ち、スパッタリング速度が遅い材料からなるものが望まれる。
【0017】
上記の特性に加えて、本発明者らは、より低コストとするためにMoやNbなどといった高価な材料を単体で用いない電極材料(成分)について検討した。その結果、電極材料の成分として、比較的安価なNiを用いたNi合金が好ましいとの知見を得た。そこで、本発明電極材料は、Ni合金により構成する。
【0018】
第一の本発明電極材料は、冷陰極蛍光ランプの電極に用いられる電極材料であり、Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Be,Si,Al,Y,Mg,In,希土類元素からなる基準グループから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなることを特徴とする。つまり、この電極材料は、特定の添加元素を特定の範囲で含むNi合金で構成されることを特徴とする。このような特定組成のNi合金からなる電極材料で作製された電極は、放電し易く、スパッタリング速度が遅い。また、この電極材料からなる電極は、酸化被膜が形成されにくく、アマルガムを形成し難い。従って、上記本発明電極材料からなる電極を用いることで、高輝度で長寿命な冷陰極蛍光ランプが得られる。
【0019】
第二の本発明電極材料は、冷陰極蛍光ランプの電極に用いられる電極材料であり、Ni合金からなり、仕事関数が4.7eV未満であることを特徴とする。仕事関数とは、固体表面から一つの電子を真空中に取り出すのに必要とする最小のエネルギーである。仕事関数が小さいほど、電子を取り出し易い、つまり、放電し易い材料と言える。本発明者らは、冷陰極蛍光ランプの電極に望まれる放電特性を仕事関数で評価した結果、4.7eV未満が好ましいとの知見を得た。この知見に基づき、この本発明電極材料は、Ni合金で構成すると共に、特定の仕事関数を満たすものとする。このような本発明電極材料からなる電極を用いることで、高輝度で長寿命な冷陰極蛍光ランプが得られる。
【0020】
第三の本発明電極材料は、冷陰極蛍光ランプの電極に用いられる電極材料であり、Ni合金からなり、エッチングレートが22nm/min未満であることを特徴とする。電極がスパッタリングを起こすと、電極において水銀イオンの衝突により原子が放出された部分は、窪みが生じて表面が荒れる。スパッタリングを起こし易い電極ほど、時間当たりの窪みの深さが大きくなる。この時間当たりの窪みの平均深さをエッチングレートとし、本発明者らは、冷陰極蛍光ランプの電極に望まれるスパッタリング状態をエッチングレートで評価した結果、22nm/min未満が好ましいとの知見を得た。この知見に基づき、この本発明電極材料は、Ni合金で構成すると共に、特定のエッチングレートを満たすものとする。このような本発明電極材料からなる電極を用いることで、高輝度で長寿命な冷陰極蛍光ランプが得られる。なお、エッチングレートは、スパッタリング速度と実質的に同義であり、本発明では、エッチングレートを用いる。
【0021】
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明電極材料は、Ni合金からなるものとする。特に、添加元素としては、Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Be,Si,Al,Y,Mg,In,希土類元素からなる基準グループから選ばれた少なくとも1種の元素が好ましい。添加元素は、上記基準グループから選択される1種の元素でもよいし、2種以上の複数の元素でもよい。添加元素の含有量は、0.001質量%以上5.0質量%以下が好ましい。複数種の添加元素を含有したNi合金とする場合、合計含有量が上記範囲を満たすように調整する。添加元素の含有量が0.001質量%未満では、添加元素の含有による高輝度化、長寿命化といった特性の改善効果が得られない。一方、この特性改善効果は、添加元素の含有量の増加に伴って向上する傾向にあるが、添加元素の含有量が5.0質量%で飽和すると考えられる。また、添加元素の含有量を5.0質量%超とすると、添加元素の増加によるコスト上昇を招く。更に、添加元素の増加は、電極材料を製造する際やこの電極材料から電極を製造する際の塑性加工性を低下させる。本発明電極材料は、後述するように溶解鋳造以降に圧延加工や伸線加工といった塑性加工を鋳造材に施して作製する。また、本発明電極材料を用いて電極を作製する場合、プレス加工や後述する鍛造加工といった塑性加工を電極材料に施して作製する。従って、電極材料を作製するための素材や電極材料の塑性加工性を低下させないようにするために添加元素の含有量の上限は、5.0質量%とする。
【0022】
上記基準グループは、Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Mg,In,からなる第一グループと、Be,Si,Al,Y,希土類元素からなる第二グループとに分け、いずれか一方のグループに含まれる元素を添加元素としてもよい。特に、上記第一グループから選ばれた少なくとも1種の元素(以下、元素Iと呼ぶ)を添加元素とする場合、その含有量としては、0.001質量%以上2.0質量%以下が挙げられる。即ち、本発明電極材料は、上記第一グループから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上2.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなるものとすることができる。元素Iをこの範囲で含有するNi合金により電極材料を構成することで、上述した1〜4の特性を有する電極をより低コストで得られる。また、このNi合金からなる鋳造材は、圧延加工や伸線加工といった塑性加工が行える程度の加工性を有しており、上記塑性加工を施して電極材料を作製することができる。更に、この電極材料は、プレス加工や鍛造加工といった塑性加工が行える程度の加工性を十分に有しているため、上記塑性加工を施して電極を作製することができる。元素Iは、1種の元素でもよいし、2種以上の複数の元素でもよい。元素Iを複数種の元素とする場合、合計含有量が0.001〜2.0質量%となるように調整してNiに添加する。元素Iの含有量が0.001質量%未満では、元素Iの含有による特性の改善効果が得られない。一方、この特性改善効果は、元素Iの含有量が2.0質量%で飽和する傾向にある。また、2.0質量%を超えて元素Iを添加すると、製造コストを上昇させたり、塑性加工性を低下させる恐れがある。そのため、製造コストや塑性加工性を考慮すると、元素Iの含有量は、2.0質量%以下が好ましい。元素Iとしてより好ましい元素は、Mg,Ti,Hf,TiとZr,HfとZrから選択される元素である。特に、Mgの添加は、上記鋳造材の塑性加工性を改善する効果を有する。元素Iのより好ましい含有量は、合計で0.01質量%以上1.0質量%以下である。添加元素をより低減することで、電極材料のコストを低減できる。
【0023】
上記第二グループから選ばれた少なくとも1種の元素(以下、元素IIと呼ぶ)のみを添加元素としてもよいが、上記特定範囲の元素Iと元素IIとを合わせて添加元素としてもよい。後者の場合、元素IIの含有量は、0.001質量%以上3.0質量%以下が挙げられる。即ち、電極材料は、上記第一グループから選択される1種以上の元素を合計で0.001〜2.0質量%含有し、かつ上記第二グループから選択される1種以上の元素を合計で0.001〜3.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなるものでもよい。元素Iに加えて、元素IIを0.001〜3.0質量%含有するNi合金により電極材料を構成し、この電極材料により製造された電極は、放電性、耐酸化性、耐スパッタリング性をより高めることができる。また、元素IIを0.001〜3.0質量%含有しても電極材料の塑性加工性にほとんど影響を与えることがない。この元素IIは、1種の元素でもよいし、2種以上の複数の元素でもよい。元素IIを複数種の元素とする場合、合計含有量が0.001〜3.0質量%となるように調整してNiに添加する。元素IIの含有量が0.001質量%未満では、元素IIの含有による効果が得られない。一方、この効果は、元素IIの含有量が3.0質量%で飽和する傾向にあり、3.0質量%を超えて添加すると、コスト上昇や電極材料の塑性加工性の低下を招く恐れがある。従って、製造コストや塑性加工性を考慮すると、元素IIの含有量は、3.0質量%以下が好ましい。元素IIとしてより好ましい元素は、Si,Al,Yである。特に、Yを添加元素とする場合、析出物が結晶粒界に存在することで、加熱時の結晶粒の成長や酸化を防止することができる。元素IIのより好ましい含有量は、合計で0.01質量%以上2.0質量%以下である。添加元素をより低減することで、電極材料のコストを低減できる。
【0024】
元素IIを添加したNi合金として、例えば、Ni−Y合金が挙げられる。酸化しやすいYをNiに添加する場合、適正な量のYをNi中に均一的に含有させることが困難であったり、Ni合金の塑性加工性を悪化させる傾向がある。そこで、Yを添加元素とする場合、脱酸、塑性加工性の劣化の抑制を目的として、Si,Mgを上記の範囲で添加することが好ましい。更に、Si,Mgの添加に加えて、後述するようにCの含有量を特定の範囲に調整することが好ましい。本発明電極材料は、このようなNi−Y合金やNi−Y系合金を利用することができる。
【0025】
本発明電極材料を構成する金属であるNi合金は、主成分であるNiとして、例えば、純Ni(99.0質量%以上のNi及び不純物)を用い、この純Niに上記基準グループや第一グループ、第二グループから選択される元素を添加させて得るとよい。市販の純Niを利用してもよい。市販の純Ni(99質量%以上がNi)には、不純物としてCやSを含有したものがある。本発明者らが調べたところ、C及びSを合計で0.10質量%超含んだ電極は、輝度及び寿命の低下を招くとの知見を得た。また、Cの含有量が多い電極材料は、強度が上がる反面、塑性加工性が低下し、Sの含有量が多い電極材料は、脆化して、やはり塑性加工性が低下するとの知見を得た。従って、本発明電極材料は、CとSの含有量が合計で0.10質量%以下であることが好ましい。一方、CやSの含有量が0.001質量%未満となると、電極材料の強度が不足したり、電極材料を構成するNi合金の結晶粒が粗大化してプレス加工性や鍛造加工性に悪影響を与える恐れがある。従って、Ni合金には、CやSが合計で0.001質量%以上含まれていることが好ましい。C,Sの含有量を合計で0.001質量%以上0.10質量%以下にするには、CやSの含有量が少ないNiを利用したり、精錬により低減することが挙げられる。
【0026】
Ni合金からなる本発明電極材料は、仕事関数が4.7eV未満であり、放電性に優れる。従って、本発明電極材料からなる電極は、放電し易く、高輝度化を実現する。また、本発明電極材料からなる電極を従来の電極と同じ輝度で利用する場合、寿命をより長くできることに加え、より小電流で高い輝度が得られるため、消費電力の低減をも図ることができる。仕事関数は、Ni合金に添加する添加元素の種類や含有量を適宜調整することで変化させることができる。上記添加元素の含有量が多くなると、仕事関数は、小さくなり易い。また、仕事関数が小さいほど電極の輝度は、高くなる傾向にある。より好ましい仕事関数は、4.3eV以下、更に好ましい仕事関数は、4.0eV以下である。仕事関数は、例えば、紫外線光電子分光分析法により測定することができる。
【0027】
また、Ni合金からなる本発明電極材料は、エッチングレートが22nm/min未満であり、耐スパッタリング性に優れる。従って、本発明電極材料からなる電極は、スパッタリングされにくいことから長時間の使用でも輝度の低下が少なく、長寿命化を実現する。更に、本発明電極材料からなる電極を従来の電極と同じ寿命となるように利用する場合、本発明電極材料からなる電極は、スパッタリングされにくいことから、長期に亘り輝度が高い状態を維持でき、高輝度化を実現する。加えて、スパッタリングされにくいことから、本発明電極材料からなる電極は、大電流により輝度を高めた場合にスパッタリング層が形成されにくく、輝度の低下や寿命の低下を低減することができる。エッチングレートは、Ni合金に添加する添加元素の種類や含有量を適宜調整することで変化させることができる。上記添加元素の含有量が多くなると、エッチングレートは、小さくなり易い。また、エッチングレートが小さいほど、寿命が長くなる傾向にある。より好ましいエッチングレートは、20nm/min以下、更に好ましいエッチングレートは、18nm/min以下、特に好ましいエッチングレートは、16nm/min以下である。エッチングレートは、以下のようにして測定する。電極材料を真空装置内に配置して、不活性元素のイオン照射を所定時間行い、照射後の電極材料の表面粗さを測定し、表面粗さを照射時間で割った値(表面粗さ/照射時間)をエッチングレートとする。
【0028】
本発明電極材料は、板状材としてもよいし、線状材(ワイヤ)としてもよい。板状材は、例えば、溶解→鋳造→熱間圧延→冷間圧延及び熱処理により得られる。線状材は、例えば、溶解→鋳造→熱間圧延→冷間伸線及び熱処理により得られる。より具体的には、主成分のNi及び添加元素、特に、基準グループ、第一グループ、第二グループのいずれかのグループから選択される元素を用意し、これらを真空溶解炉や大気溶解炉などで溶解して、Ni合金の溶湯を得る。この溶湯を適宜調整し(例えば、真空溶解炉による溶解の場合、温度調整を行ったり、大気溶解炉による溶解の場合、精錬などにより不純物や介在物を除去又は低減したり、温度調整を行ったりする)、真空鋳造といった鋳造により鋳塊を得る。本発明電極材料を板状材とする場合、この鋳塊に熱間圧延を施し、圧延板材を得る。この圧延板材に冷間圧延と熱処理とを繰り返し行い、板状の本発明電極材料を得る。一方、本発明電極材料を線状材とする場合、この鋳塊に熱間圧延を施し、圧延線材を得る。この圧延線材に冷間伸線と熱処理とを繰り返し行い、線状の本発明電極材料を得る。本発明電極材料が板状材、線状材のいずれであっても、最終熱処理(軟化処理)は、水素雰囲気下、又は窒素雰囲気下で700〜1000℃、特に、800〜900℃程度で行うことが好ましい。
【0029】
上述のようにして得られた本発明電極材料に含まれる水素の含有量は、質量割合で0.1ppm以上20ppm以下であることが好ましい。電極材料の水素含有量が質量割合で20ppm超であると、この電極材料により得られた電極は、インナーリード線との接合部分が脆化し易く、接合強度の低下を起こしたり、この電極が不純物ガスを生じる発生源となり、ランプ内で不純物ガスが発生されることで、ランプの寿命低下につながる。一方、水素含有量が質量割合で0.1ppm未満の場合、この電極材料からなる電極にコバールなどからなるインナーリード線を溶接する際、電極が酸化変色し易くなる。より好ましい水素含有量は、質量割合で1ppm以上10ppm以下である。電極材料の水素含有量を質量割合で0.1ppm以上20ppm以下とするには、例えば、上記電極材料の製造にあたり上記最終熱処理の雰囲気を調整することが挙げられる。例えば、最終熱処理の雰囲気を水素雰囲気とするとき、水素含有量を調整したり、窒素雰囲気などの水素以外の雰囲気とすることが挙げられる。窒素雰囲気にて最終熱処理を行った電極材料やこの電極材料からなる電極は、水素含有量が質量割合で10ppm以下となる。
【0030】
また、本発明者らが調べたところ、電極材料を構成する合金の結晶粒が微細である場合、この電極材料からなる電極の長寿命化、高輝度化に効果があるとの知見を得た。具体的には、平均結晶粒径が70μm以下であることが好ましい。より好ましい平均結晶粒径は、50μm以下、更に好ましくは20μm以下である。電極材料を構成する合金の平均結晶粒径は、添加元素の種類や含有量を調整したり、電極材料の製造時における最終熱処理条件により調整することができる。例えば、最終熱処理において、加熱温度(熱処理温度)を比較的高い温度とし、加熱時間を短くすれば、粒成長を促進しないようにすることができる。具体的には、熱処理温度を700〜1000℃、特に800℃程度とし、板状材の場合、移動速度を50℃/sec以上、線状材の場合、線速を50℃/sec以上とすることが挙げられる。移動速度や線速を大きくすると、平均結晶粒径は小さくなる傾向にある。平均結晶粒径70μm以下の電極材料を用いて電極を製造する際、プレス加工や鍛造加工、インナーリード線の接合などにより、電極を構成するNi合金の結晶粒径が若干変化する。しかし、電極の結晶粒径は、上記電極材料の結晶粒径に基本的に依存し、概ね平均結晶粒径が70μm以下となる。
【0031】
本発明電極材料を板状材とする場合、この板状材を所定形状にプレス加工することでカップ状の電極を簡単に製造することができる。プレス加工によりカップ状の電極を作製すると、板状材に廃棄部分が生じるため、歩留まりを低下させ、その分コスト高を招き易い。しかし、従来の電極製造装置(プレス装置)を使用することができるため、設備コストの低減により、コストの低減を図ることができる。
【0032】
一方、本発明電極材料を線状材(ワイヤ)とする場合、棒状体の電極や、カップ状の電極が簡単に得られる。前者の場合、所定長にワイヤを切断することで棒状の電極を製造できる。後者の場合、ワイヤを切断して所定長の短尺材とし、この短尺材に鍛造加工を施して有底筒状に成形することで、カップ状の電極を製造できる。本発明電極材料は、Ni合金にて構成することで、高輝度化、長寿命化を図ることに加えて、上述のように添加元素による塑性加工性の低下が抑制されており、鍛造加工といった比較的強加工の塑性加工を十分施すことができる。このように線状の本発明電極材料は、切断や鍛造加工により電極を製造することができるため、棒状の電極、カップ状の電極のいずれを製造する場合であっても廃棄部分がほとんど生じないことから歩留まりがよく、電極の製造コストの低減を図ることができる。また、上記線状の本発明電極材料に鍛造加工を施してカップ状の電極を作製する場合、底部の厚さを側面部分の厚さと比較してより厚くすることが簡単にできる。底部の厚さが厚い電極を用いると、電極底面とコバールなどからなるインナーリード線との接合強度をより高めることができ、高品質の蛍光ランプを提供することができる。電極底面とインナーリード線とを溶接などにて接合するにあたり、接合強度不足を防止するためには、電極底部の厚さを電極側面部分よりも厚くすることが有効である。一般的には、電極底部の厚さが側面部分の厚さの4倍程度であると、十分な接合強度を得るのに効果がある。板状材にプレス加工を施してカップ状の電極を作製する場合、底部のみを厚くすることに限界があり、せいぜい側面部分の厚さの2倍が限度である。これに対して、線状体(短尺材)に鍛造加工を施してカップ状の電極を作製する場合、電極底部のみを2倍以上に厚くすることが容易である。従って、線状の電極材料とする場合、電極の製造に際して歩留まりの向上及び低コスト化に加えて、ランプの品質をより向上することができる。
【0033】
上記特定組成を有するNi合金からなる電極を具えることで、より高輝度で長寿命な冷陰極蛍光ランプが得られる。即ち、内壁面に蛍光体層を有し、内部に希ガス及び水銀が封入されるガラス管、又は内壁面に蛍光体層を有し、内部に希ガスが封入されるガラス管と、この管内の端部に配置させる電極とを具える冷陰極蛍光ランプであって、電極がTi,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Be,Si,Al,Y,Mg,In,希土類元素からなる基準グループから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなる本発明蛍光ランプは、高輝度化、長寿命化を実現する。特に、電極は、一端が開口し、他端が有底であるカップ状とすると、ホローカソード効果による耐スパッタリング性の向上を図ることができる。このカップ状の電極は、上述のように本発明電極材料にプレス加工や鍛造加工を施すことで簡単に得られる。このカップ状の電極を一対用意し、両電極の開口部が対向するようにガラス管内に両電極を配置した蛍光ランプとしてもよいし、このカップ状の電極を一つ用意してガラス管内の片端にのみ配置させた蛍光ランプとしてもよい。
【0034】
上記電極は、1.Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Mg,Inからなる第一グループから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上2.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなるもの、2.上記第一グループから選択される1種以上の元素を合計で0.001〜2.0質量%含有し、かつBe,Si,Al,Y,希土類元素からなる第二グループから選択される1種以上の元素を合計で0.001〜3.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなるものとしてもよい。
【0035】
上記特定の組成を有するNi合金からなる電極や本発明電極材料は、耐酸化性に優れており、電極製造時や、インナーリード線との接合時などで、酸化被膜が形成されにくい。具体的には、電極の表面に形成される酸化被膜の厚さを1μm以下とすることができる。従って、この電極は、放電性の劣化が少なく、ランプの高輝度化、長寿命化を図ることができる。酸化被膜のより好ましい厚さは、0.3μm以下である。添加元素としてTi,Zr,Hfを含むNi合金からなる電極の場合、特に酸化被膜が形成され難く、その厚さを0.3μm以下とすることができる。酸化被膜の形成され易さは、電極を構成する合金の組成に影響し、上記特定組成のNi合金にて形成された電極の場合、酸化被膜の厚さは、1μm以下となる。また、電極材料の製造時において熱処理を酸素以外の雰囲気下で行うことで、電極材料に酸化被膜が形成されることを防止できる。
【発明の効果】
【0036】
Ni合金からなる本発明電極材料は、冷陰極蛍光ランプの電極に要求される放電性、耐スパッタリング性を満たす。特に、特定組成のNi合金からなる本発明電極材料は、冷陰極蛍光ランプの電極に要求される放電性、耐酸化性、水銀に対する耐反応性、耐スパッタリング性を十分に具える。そのため、本発明電極材料から製造された電極や上記特定組成のNi合金からなる電極を具える本発明冷陰極蛍光ランプは、電極を大型化することなく、より一層の高輝度化及び長寿命化を実現することができる。
【0037】
また、本発明電極材料は、上記電極に要求される特性に加えて、プレス加工や鍛造加工といった塑性加工性にも優れる。特に、線状の本発明電極材料に鍛造加工を施すことで、耐スパッタリング性に優れるカップ状の電極を簡単に低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、冷陰極蛍光ランプの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
表1,2に示す成分組成(金属No.1〜36)のNi合金を用いて、冷陰極蛍光ランプ用電極を作製した。電極は、二種類の形状の異なる電極材料から作製した。具体的には、線状の電極材料と、板状の電極材料とを用意した。線状の電極材料には、鍛造加工を施すことでカップ状の電極を作製し、板状の電極材料には、プレス加工を施すことでカップ状の電極を作製した。
【0040】
<線状の電極材料>
線状の電極材料は、以下のように作製した。通常の真空溶解炉を用いて表1,2に示す成分組成を有する金属の溶湯を作製し、溶湯温度を適宜調整して真空鋳造により、鋳塊を得た。得られた鋳塊を熱間圧延により線径5.5mmφまで加工し、圧延線材を得た。この圧延線材に冷間伸線及び熱処理を組み合わせて施し、得られた線材に最終熱処理(軟化処理)を施して、線径1.6mmφの軟材を得た。軟化処理は、温度を800℃、線速を10〜150℃/secの範囲で適宜選択し、窒素雰囲気又は水素雰囲気として行った(表3〜6に示す試料のうち、水素含有量が10ppm以下の試料が窒素雰囲気)。また、主成分としたNiは、市販の純Ni(99.0質量%以上Ni)を用い、精錬具合を変化することで、C及びSの合計含有量を変化させた(この点は、後述する板状の電極材料も同様である)。
【0041】
<板状の電極材料>
板状の電極材料は、以下のように作製した。上記線状の電極材料と同様の手法で、表1,2に示す成分組成の金属の溶湯から鋳塊を作製した。得られた鋳塊に熱間圧延を施し、厚さ4.2mmの圧延板材を得た。この圧延板材に熱処理を施した後、表面を切削し、厚さ4.0mmの処理板材を得た。この処理板材に冷間圧延及び熱処理を繰り返し行い、得られた板材に最終熱処理(軟化処理)を施して、厚さ0.2mmの板状の軟材を得た。軟化処理は、温度を800℃、移動速度を10〜150℃/secの範囲で適宜選択し、窒素雰囲気又は水素雰囲気として行った。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
得られた線状の軟材及び板状の軟材について、水素含有量(質量割合ppm)、軟材を構成する金属の平均結晶粒径(μm)、仕事関数(eV)、エッチングレート(nm/min)を測定した。その結果を表3〜6に示す(表3,4:線状の電極材料を用いた試料、表5,6:板状の電極材料を用いた試料)。水素含有量は、不活性ガス中融解−熱伝導度法により測定した(測定装置:堀場製作所製 EMGA−620)。金属の平均結晶粒径は、JIS G 0551に示す方法に準じて測定した。仕事関数は、紫外線光電子分光分析法により測定した。具体的には、前処理として、Arイオンエッチングを数分間実施した後、複合電子分光分析装置(PHI製 ESCA−5800 付属 UV−150HI)を用い、紫外線源:He I (21.22eV)/8W,測定時の真空度:3×10−9〜6×10−9torr(0.4×10−9〜0.8×10−9kPa),測定前のベース真空度:4×10−10torr(5.3×10−11kPa),印加バイアス:約−10V,エネルギー分解能:0.13eV,分析エリア:φ800μm 楕円形,分析深さ:約1nmとして測定した。エッチングレートは、鏡面研磨した軟材に真空装置内でアルゴンイオンを照射した後、表面粗さを測定し、照射時間と表面粗さとから求めた。前処理として、軟材に部分的にマスキングを行ってからイオン照射を行った。イオン照射は、X線光電子分光分析装置(PHI製 Quantum−2000)を用い、加速電圧:4kV,イオン種:Ar+,照射時間:120min,真空度:2×10−8〜4×10−8torr(2.7×10−9〜5.3×10−9kPa),アルゴン圧:約15mPa,入射角度:試料面に対して約45度として行った。表面粗さの測定は、触針式表面形状測定器(Vecco社製 Dektak−3030)を用い、触針:ダイヤモンド 半径=5μm,針圧:20mg,走査距離:2mm,走査速度:Mediumとして行った。軟材においてイオン照射により表面に窪みができた箇所(マスキングされていない箇所)について窪みの平均深さを表面粗さとし、表面粗さ/照射時間(120min)をエッチングレートとした。
【0045】
次に、得られた線状の軟材を所定長(1.0mm)に切断し、得られた短尺材に冷間鍛造加工を施して、カップ状の電極を作製した。その結果、いずれの組成を有する軟材もカップ状の電極(外径1.6mmφ、長さ3.0mm、開口部の直径1.4mmφ、開口部の深さ2.6mm、底部の厚さ0.4mm)を得ることができた。
【0046】
また、得られた板状の軟材を所定の大きさ(10mm角)に切断し、得られた板状片に冷間プレス加工を施して、カップ状の電極を作製した。その結果、いずれの組成を有する軟材もカップ状の電極(外径1.6mmφ、長さ3.0mm、開口部の直径1.4mmφ、開口部の深さ2.8mm、底部の厚さ0.2mm)を得ることができた。
【0047】
得られた電極において、電極を構成する金属の酸化被膜の厚さ(μm)を測定した。その結果を表3〜6に示す(表3,4:線状の電極材料を用いた試料、表5,6:板状の電極材料を用いた試料)。酸化被膜の厚さは、電極を切断し、電極表面をオージェ電子分光法により測定して求めた。なお、得られた電極について、上記と同様にして水素含有量、平均結晶粒径を測定したところ、軟材の場合とほぼ同様であった。
【0048】
次に、得られた電極を用いて図1に示すような冷陰極蛍光ランプを作製した。具体的には、以下の手順で作製した。コバールからなるインナーリード線と銅被覆Ni合金線からなるアウターリード線とを溶接し、上記電極の底面にインナーリード線を溶接して接続し、インナーリード線の外周にビードガラスを溶着させる。このような電極部材を二つ用意する。また、内壁面に蛍光体層(本試験ではハロリン酸塩蛍光体層)を有し、両端が開口したガラス管を用意し、開口した管の一端に一方の電極部材を挿入し、ビードガラスと管とを溶着して、管の一端を封止すると共に、電極部材を管内に固定する。次に、開口したガラス管の他端から真空引きして希ガス(本試験ではArガス)及び水銀を導入し、同様に他方の電極部材を固定すると共にガラス管を封止する。この手順により、一対の電極の開口部が対向するように配置された冷陰極蛍光ランプを得る。各組成の電極についてそれぞれ、上記一対の電極部材を作製し、これら電極部材を用いて冷陰極蛍光ランプを作製する。これら蛍光ランプについて、輝度と寿命を調べた。本試験では、ニッケルからなる電極を具える試料No.50A,50Bの冷陰極蛍光ランプの中央輝度(43000cd/m2)及び寿命を100とし、その他の試料No.1A〜38A,1B〜38Bの輝度及び寿命を相対的に表わした。その結果を表3〜6に示す。なお、寿命は、中央輝度が50%になったときとした。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
表3,4に示すように、Ni合金からなる電極を具える試料No.1A〜38Aの蛍光ランプは、ニッケルからなる電極を具える試料No.50Aの蛍光ランプと比較して、高輝度で長寿命である。また、表5,6に示すように、Ni合金からなる電極を具える試料No.1B〜38Bの蛍光ランプは、ニッケルからなる電極を具える試料No.50Bの蛍光ランプと比較して、高輝度で長寿命である。これは、金属No.1〜36がニッケル単体の金属No.50と比較して、仕事関数及びエッチングレートが小さい材料、つまり、放電され易く、スパッタリング速度が遅い材料であるためと考えられる。また、Ni合金からなる金属No.1〜36は、ニッケル単体の金属No.50と比較して、酸化被膜が形成され難いことから放電性を劣化させにくく、水銀とアマルガムを形成し難い材料であるためと考えられる。
【0054】
試料No.1A〜38A,1B〜38Bの蛍光ランプのうち、軟化処理を窒素雰囲気下で行うことで水素含有量が低減されたNi合金、具体的には水素含有量が質量割合で10ppm以下のNi合金からなる電極を具えた蛍光ランプは、より長寿命、高輝度であった。更に、線速又は移動速度を50℃/sec以上とした試料は、Ni合金の平均結晶粒径が70μm以下であった。そして、試料No.1A〜38A,1B〜38Bの蛍光ランプのうち、平均結晶粒径が70μm以下のNi合金からなる電極を具えた蛍光ランプは、より長寿命、高輝度であった。加えて、試料No.1A〜38A,1B〜38Bの蛍光ランプのうち、C及びSの合計含有量が0.001〜0.1質量%のNi合金からなる電極を具えた蛍光ランプは、より長寿命、高輝度であった。
【0055】
以上説明した本発明によれば、以下の構成を得ることができる。
(付記1)
Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Be,Si,Al,Y,Mg,In,希土類元素からなる基準グループから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなり、
冷陰極蛍光ランプの電極に用いられることを特徴とする電極材料。
【0056】
(付記2)
基準グループに含まれる元素のうち、Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Mg,Inからなる第一グループから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上2.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなることを特徴とする付記1に記載の電極材料。
【0057】
(付記3)
仕事関数が4.7eV未満であることを特徴とする付記1又は2に記載の電極材料。
【0058】
(付記4)
エッチングレートが22nm/min未満であることを特徴とする付記1〜3のいずれかに記載の電極材料。
【0059】
(付記5)
Ni合金からなり、仕事関数が4.7eV未満であり、冷陰極蛍光ランプの電極に用いられることを特徴とする電極材料。
【0060】
(付記6)
Ni合金からなり、エッチングレートが22nm/min未満であり、冷陰極蛍光ランプの電極に用いられることを特徴とする電極材料。
【0061】
(付記7)
C及びSの含有量が合計で0.001質量%以上0.10質量%以下であることを特徴とする付記1〜6のいずれかに記載の電極材料。
【0062】
(付記8)
水素含有量が0.1ppm以上20ppm以下であることを特徴とする付記1〜7のいずれかに記載の電極材料。
【0063】
(付記9)
前記電極材料を構成する金属の平均結晶粒径が70μm以下であることを特徴とする付記1〜8のいずれかに記載の電極材料。
【0064】
(付記10)
前記電極材料は、板状材であることを特徴とする付記1〜9のいずれかに記載の電極材料。
【0065】
(付記11)
前記電極材料は、線状材であることを特徴とする付記1〜9のいずれかに記載の電極材料。
【0066】
(付記12)
付記11に記載の前記線状材を切断し、所定長の短尺材を得る工程と、
前記短尺材に鍛造加工を施し、有底筒状に成形して電極を得る工程とを具えることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法。
【0067】
(付記13)
付記1〜11のいずれかに記載の電極材料により形成され、
冷陰極蛍光ランプに用いられることを特徴とする電極。
【0068】
(付記14)
付記13に記載の電極と、
前記電極の底面に接続されたインナーリード線、及びこのインナーリード線に接続されたアウターリード線と、
前記インナーリード線の外周に溶着されたビードガラスとを具えることを特徴とする電極部材。
【0069】
(付記15)
内壁面に蛍光体層を有し、内部に希ガス及び水銀、又は希ガスが封入されるガラス管と、
前記ガラス管の端部に固定された付記14に記載の電極部材とを具え、
前記ガラス管と前記電極部材のビードガラスとを溶着して、前記ガラス管を封止すると共に、前記電極をガラス管内の端部に固定していることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ。
【0070】
(付記16)
内壁面に蛍光体層を有し、内部に希ガス及び水銀、又は希ガスが封入されるガラス管と、
前記ガラス管内の端部に配置される電極とを具え、
前記電極は、
Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Be,Si,Al,Y,Mg,In,希土類元素からなる基準グループから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなり、
一端が開口し、他端が有底のカップ状であることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ。
【0071】
(付記17)
前記電極は、基準グループに含まれる元素のうち、Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Mg,Inからなる第一グループから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上2.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなることを特徴とする付記16に記載の冷陰極蛍光ランプ。
【0072】
(付記18)
前記電極は、C及びSの含有量が合計で0.001質量%以上0.10質量%以下であることを特徴とする付記16又は17に記載の冷陰極蛍光ランプ。
【0073】
(付記19)
前記電極は、水素含有量が0.1ppm以上20ppm以下であることを特徴とする付記16〜18のいずれかに記載の冷陰極蛍光ランプ。
【0074】
(付記20)
前記電極を構成する金属の平均結晶粒径が70μm以下であることを特徴とする付記16〜19のいずれかに記載の冷陰極蛍光ランプ。
【0075】
(付記21)
前記電極の表面に形成される酸化被膜の厚さが1μm以下であることを特徴とする付記16〜20のいずれかに記載の冷陰極蛍光ランプ。
【0076】
(付記22)
付記15〜21のいずれかに記載の冷陰極蛍光ランプを具えることを特徴とする液晶表示装置。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明電極材料は、冷陰極蛍光ランプの電極に好適に利用することができ、本発明電極、及び電極部材は、冷陰極蛍光ランプの構成部品に好適に利用することができる。また、本発明電極の製造方法は、線状の本発明電極材料からカップ状の冷陰極蛍光ランプ用電極の製造に好適に利用することができる。更に、本発明蛍光ランプは、例えば、液晶ディスプレイのバックライト用光源、小型ディスプレイのフロントライト用光源、複写機やスキャナなどの原稿照射用光源、複写機のイレイサー用光源といった種々の電力機器の光源として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
100 冷陰極蛍光ランプ 101 蛍光体層 102 ガラス管
103 電極 104 アウターリード線 105 インナーリード線
106 ビードガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti,Hf,Zr,V,Fe,Nb,Mo,Mn,W,Sr,Ba,B,Th,Be,Si,Al,Y,Mg,In,希土類元素からなる基準グループから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.001質量%以上5.0質量%以下含有し、残部がNi及び不純物からなり、
冷陰極蛍光ランプの電極に用いられることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
請求項1に記載の電極材料は、線状材であり、この線状材を切断し、所定長の短尺材を得る工程と、
前記短尺材に鍛造加工を施し、有底筒状に成形して電極を得る工程とを具えることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電極材料により形成され、
冷陰極蛍光ランプに用いられることを特徴とする電極。
【請求項4】
請求項3に記載の電極と、
前記電極の底面に接続されたインナーリード線、及びこのインナーリード線に接続されたアウターリード線と、
前記インナーリード線の外周に溶着されたビードガラスとを具えることを特徴とする電極部材。
【請求項5】
内壁面に蛍光体層を有し、内部に希ガス及び水銀、又は希ガスが封入されるガラス管と、
前記ガラス管の端部に固定された請求項4に記載の電極部材とを具え、
前記ガラス管と前記電極部材のビードガラスとを溶着して、前記ガラス管を封止すると共に、前記電極をガラス管内の端部に固定していることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ。
【請求項6】
請求項5に記載の冷陰極蛍光ランプを具えることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−277662(P2009−277662A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169844(P2009−169844)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【分割の表示】特願2006−55558(P2006−55558)の分割
【原出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(591200623)住電ファインコンダクタ株式会社 (21)
【Fターム(参考)】