電極構造および熱電子放出型光源
【課題】 長寿命化を図ることの可能な電極構造および熱電子放出型光源を提供する。
【解決手段】 本発明の電極構造5は、フィラメント1と、該フィラメント1上に形成された第1層目の電子放出材料2と、該第1層目の電子放出材料2上に第1層目の電子放出材料2とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料3とを有し、前記フィラメント1と前記第1層目の電子放出材料2と前記第2層目の電子放出材料3は、第1層目の電子放出材料2の仕事関数の値がフィラメント1の仕事関数の値よりも小さく、第2層目の電子放出材料3の仕事関数の値が第1層目の電子放出材料2の仕事関数の値よりも小さいものとなっており、かつ、前記第1層目の電子放出材料2は、前記第2層目の電子放出材料3よりも耐スパッタ性のある材料で形成されている。
【解決手段】 本発明の電極構造5は、フィラメント1と、該フィラメント1上に形成された第1層目の電子放出材料2と、該第1層目の電子放出材料2上に第1層目の電子放出材料2とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料3とを有し、前記フィラメント1と前記第1層目の電子放出材料2と前記第2層目の電子放出材料3は、第1層目の電子放出材料2の仕事関数の値がフィラメント1の仕事関数の値よりも小さく、第2層目の電子放出材料3の仕事関数の値が第1層目の電子放出材料2の仕事関数の値よりも小さいものとなっており、かつ、前記第1層目の電子放出材料2は、前記第2層目の電子放出材料3よりも耐スパッタ性のある材料で形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極構造および熱電子放出型光源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されているような熱電子放出型蛍光ランプが知られている。図1はこの種の熱電子放出型蛍光ランプの構造を示す図(一部切欠図)である。図1を参照すると、熱電子放出型蛍光ランプの構造は、内面に蛍光体層20を有する透光性の封止体21(具体的には、内壁に蛍光物質が塗布されたガラス管)と、電極22とを有している。なお、図1の例では、電極22は、封止体21の両端にそれぞれ22a,22bとして設けられている。そして、封止体21(ガラス管)内の空気を抜いて真空にした後、封止体21内には放電媒体ガス23(例えば、少量の水銀とアルゴンなどの希ガス)が封入されている。また、電極22(各電極22a,22b)は、フィラメント(タングステンフィラメント(特許文献1の例では、タングステン副線を巻き回したタングステン主線をさらに2回巻き回したフィラメント))に電子放出材料(電子放射性物質)が塗布(充填)されたものとなっている。
【0003】
ここで、この種の熱電子放出型蛍光ランプの電極22のフィラメントに塗布(充填)される電子放出材料(電子放射性物質)としては、具体的には例えば(Ba/Sr/Ca)O三元酸化物が用いられている。
【0004】
あるいは、電子放出材料としては、特許文献2に示されているように、アルミニウム、シリコン、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタリウム、モリブデンタングステン及びこれらの合金より形成されるグループから選択した還元金属粉末を含み、貴金属を含む粉末のコーティング層を形成させたものが知られている。
【特許文献1】特開平5−258728号公報
【特許文献2】特開2001−155679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、タングステンフィラメントに電子放出材料(電子放射性物質)として例えば(Ba/Sr/Ca)O三元酸化物が塗布(充填)されている電極は、図2に示すように、電子放出材料(エミッター)が消耗されるとタングステンフィラメントが剥き出しになりArイオンやHgイオンでスパッタされて次第に細くなり、ついには断線してしまい、ランプ寿命が短い原因になっていた。
【0006】
また、特許文献2のように、電子放出材料として、アルミニウム、シリコン、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタリウム、モリブデンタングステン及びこれらの合金より形成されるグループから選択した還元金属粉末を含み、貴金属を含む粉末のコーティング層を形成させたものを用いる場合、蛍光ランプを始動させると、エミッタが消耗してフィラメントが剥き出しになった部分で、放電電流が供給される側(陰極時に電位的にマイナスになる側)で、かつ、主放電(陽光柱)に距離が近い部分が選択的にスパッタを受ける。その際、金属スパッタ粒子は、放電媒体ガスに含まれる水銀蒸気と反応して、ランプ内壁やエミッタ上に黒化を生じさせる。このような黒化は電子放出特性を劣化させる原因となり、ランプ寿命が短くなる原因ともなっていた。
【0007】
本発明は、長寿命化を図ることの可能な電極構造および熱電子放出型光源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、フィラメントと、該フィラメント上に形成された第1層目の電子放出材料と、該第1層目の電子放出材料上に第1層目の電子放出材料とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料とを有し、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料と前記第2層目の電子放出材料は、第1層目の電子放出材料の仕事関数の値がフィラメントの仕事関数の値よりも小さく、第2層目の電子放出材料の仕事関数の値が第1層目の電子放出材料の仕事関数の値よりも小さいものとなっており、かつ、前記第1層目の電子放出材料は、前記第2層目の電子放出材料よりも耐スパッタ性のある材料で形成されていることを特徴とする電極構造である。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の電極構造において、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料との間に、所定の金属層がさらに形成されていることを特徴としている。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の電極構造において、前記第1層目の電子放出材料は、窒化物材料で形成されていることを特徴としている。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、内面に蛍光体層を有する透光性の封止体と、電極とを有し、前記封止体内には放電媒体ガスが封入されており、前記電極には、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電極構造が用いられることを特徴とする熱電子放出型光源である。
【0012】
また、請求項5記載の発明は、請求項4記載の熱電子放出型光源において、該熱電子放出型光源は、熱電子放出型蛍光ランプであることを特徴としている。
【0013】
また、請求項6記載の発明は、請求項4または請求項5記載の熱電子放出型光源において、前記放電媒体ガスには水銀が含まれていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1乃至請求項3記載の発明によれば、フィラメントと、該フィラメント上に形成された第1層目の電子放出材料と、該第1層目の電子放出材料上に第1層目の電子放出材料とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料とを有し、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料と前記第2層目の電子放出材料は、第1層目の電子放出材料の仕事関数の値がフィラメントの仕事関数の値よりも小さく、第2層目の電子放出材料の仕事関数の値が第1層目の電子放出材料の仕事関数の値よりも小さいものとなっており、かつ、前記第1層目の電子放出材料は、前記第2層目の電子放出材料よりも耐スパッタ性のある材料で形成されているので、フィラメントの長寿命化を図ることができる。
【0015】
特に、請求項2記載の発明では、請求項1記載の電極構造において、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料との間に、所定の金属層がさらに形成されているので、フィラメントに第1層目の電子放出材料を直接設ける場合に比べて付着力を強くすることができる。
【0016】
また、請求項3記載の発明によれば、前記第1層目の電子放出材料が窒化物材料で形成されていることにより、第2層目の電子放出材料が消耗した部分に第1層目の電子放出材料である窒化物材料が現れるが、窒化物材料は電子放出特性がフィラメントよりも良く、Arイオンによるアタック(スパッタ)にも耐スパッタ性が有ることから、フィラメントのスパッタによるフィラメント原子の飛散量を低減することができる。
【0017】
また、請求項4,請求項5記載の発明では、内面に蛍光体層を有する透光性の封止体と、電極とを有し、前記封止体内には放電媒体ガスが封入されており、前記電極には、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電極構造が用いられることを特徴とする熱電子放出型光源であるので、熱電子放出型光源の長寿命化を図ることができる。
【0018】
また、請求項6記載の発明によれば、前記第1層目の電子放出材料である窒化物材料は水銀と反応しないため、Arイオンによりスパッタされた窒化物材料の粒子も水銀と反応せず、従って、ランプ内壁やエミッタ上に黒化を生じさせない。つまり、ランプ黒化を防ぎ、エミッタ表面の黒化を抑制できるので、電子放出特性の劣化を防止でき、ランプの長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図3は本発明に係る電極構造の一実施形態を説明するための図である。図3を参照すると、この実施形態の電極構造5は、フィラメント1と、該フィラメント1上に形成された第1層目の電子放出材料(電子放射性物質)2と、該第1層目の電子放出材料2上に第1層目の電子放出材料2とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料(電子放射性物質)3とを有し、前記フィラメント1と前記第1層目の電子放出材料2と前記第2層目の電子放出材料3は、第1層目の電子放出材料2の仕事関数の値がフィラメント1の仕事関数の値よりも小さく、第2層目の電子放出材料3の仕事関数の値が第1層目の電子放出材料2の仕事関数の値よりも小さいものとなっており、かつ、前記第1層目の電子放出材料2は、前記第2層目の電子放出材料3よりも耐スパッタ性のある材料で形成されている。
【0021】
ここで、フィラメント1は、例えばタングステン(W)フィラメントである。また、第1層目の電子放出材料2は、具体的には例えば窒化物材料(より具体的には、例えば、窒化ハフニウム(HfN))で形成されている。また、第2層目の電子放出材料2は、具体的には例えば酸化バリウム系の材料で形成されている。
【0022】
図3の電極構造は、以下のように作製することができる。すなわち、先ず、フィラメント1(例えばタングステンフィラメント)上に第1層目の電子放出材料2(エミッター)をコート(被覆)する。ここで、第1層目の電子放出材料2は、上述したように、仕事関数がフィラメント(タングステンフィラメントの場合、仕事関数は約4.5)と第2層目の電子放出材料3(酸化バリウム系の場合、仕事関数は約1)との間の値を持つ材料で、構造が緻密で(緻密な構造をもち)耐スパッタ性のある材料が好ましい。例えば窒化ハフニウムは、仕事関数が約3.8で窒化物であるため硬く耐スパッタ性があり、第1層目の電子放出材料2(エミッター)として好ましい。
【0023】
具体的には、例えば第1層目の電子放出材料2に窒化ハフニウムも用いた場合、600eVのエネルギーを持ったArイオンの入射エネルギーに対するスパッタ率は1以下で約0.95であるのに対し、第2層目の電子放出材料3に酸化バリウム系材料としてBaOを用いた場合のスパッタ率は約1.9と2倍大きくスパッタされやすいことが分る。つまり第1層目の電子放出材料2の窒化ハフニウムは、第2層目の電子放出材料3の酸化バリウム系材料に対して2倍耐スパッタ性があることが分る。
【0024】
この第1層目の電子放出材料2(エミッター)の形成方法としては、バインダー中に分散させたエミッター材をスプレー法,ディップ法等の湿式法でフィラメント1上に塗布した後に窒素雰囲気中の炉で焼き固める方法とか、真空チャンバー内にてプラズマ法や蒸着法等の気相法にてフィラメント1上に被覆させる方法などがある。
【0025】
図4には、一例としてアークプラズマ蒸着法を用いてタングステンフィラメント1上に窒化ハフニウム膜(第1層目の電子放出材料2)を被覆する工程が示されている。図4の工程例では、真空チャンバー10内の上部にフィラメント1を設置する。この設置機構には回転機構13が付随しており、蒸発物をフィラメント1全面に形成できるようにしてある。排気用ポンプ12によって真空チャンバー10内を10−6torr以下の真空にした後、10−2〜10−3torr台の窒素ガス雰囲気下にてアークプラズマガン14からの高密度プラズマを坩堝11内の蒸発材料となる窒化ハフニウム(図示せず)に照射するか、または、高密度プラズマ発生中に電子銃で電子を窒化ハフニウムに照射し、蒸発物をフィラメント1上に堆積させる。この方法で形成された窒化ハフニウム膜(第1層目の電子放出材料2)は、フィラメント1に付着力が強く、フィラメント1からはがれにくく緻密な膜となり、フィラメント1の耐スパッタ性が向上する。
【0026】
次に、第1層目の電子放出材料2の上に第2層目の電子放出材料3を形成する。第2層目の電子放出材料3は、例えば酸化バリウム系の材料で(Ba,Sr,Ca)Oが用いられる。この材料は、仕事関数が約1で、在来の熱電子放出型蛍光ランプの電子放出材料(電子放射性物質)として用いられているものである。この第2層目の電子放出材料2の塗布方法は、スプレー法,ディップ法等の湿式法で形成される。
【0027】
このように、図3の実施形態では、フィラメント1上に電子放出材料を異種材料で二重に形成することを特徴としている。
【0028】
従来の電極構造では、図2に示したように、エミッター(電子放出材料)が消耗されるとタングステンフィラメントが剥き出しになりArイオンやHgイオンでスパッタされて次第に細くなり、ついには断線してしまい、ランプ寿命が短い原因になっていた。これに対し、図3の電極構造では、フィラメント1を第1層目の電子放出材料2(例えば窒化物材料)で被覆した上に第2層目の電子放出材料3(例えば酸化バリウム系の材料)を形成することで、図5に示すように、第2層目の電子放出材料3が消耗した部分には第1層目の電子放出材料2が現れ、第1層目の電子放出材料2は第2層目の電子放出材料3よりも仕事関数が高いので、電子は主に第2層目の電子放出材料3より出されるが、第1層目の電子放出材料2からも出るし、第1層目の電子放出材料2には耐スパッタ性があるので(すなわち、第1層目の電極放出材料2は、フィラメント1をArイオンやHgイオンからのスパッタによる衝撃から保護するので)、完全に第2層目の電子放出材料3が消耗しきるまでフィラメント1は断線することなく、電極(フィラメント)の長寿命化を図ることができる。
【0029】
さらに、第1層目の電子放出材料が窒化物材料で形成されることにより、第2層目の電子放出材料が消耗した部分に第1層目の電子放出材料である窒化物材料が露出し、かつ、Arイオンによるアタック(スパッタ)にも耐スパッタ性があることから、フィラメントであるタングステンのスパッタによるタングステン原子の飛散量を低減することができる。
【0030】
そして、このような電極構造の熱電子放出型光源とした場合、金属と放電媒体ガスに含まれる水銀は反応して黒化の原因である物質を形成してしまうが、第1層目の電子放出材料である窒化物材料は水銀と反応しないため、Arイオンによりスパッタされた窒化物材料の粒子も水銀と反応せず、従って、ランプ内壁やエミッタ上に黒化を生じさせない。
【0031】
これらのことは、X線マイクロアナライザ(EPMA)を用いた組成分析結果(図8,図9,図10,図11)によっても明らかである。なお、図8はHfNコートWフィラメント上のエミッタ部のEPMA組成分析の結果を示す図、図9はHfN未コートWフィラメント上のエミッタ部のEPMA組成分析の結果を示す図、図10はHfNコートWフィラメント使用のガラス部のEPMA組成分析の結果を示す図、図11はHfN未コートWフィラメント使用の黒化したガラス部のEPMA組成分析の結果を示す図である。
【0032】
図12(a)には、窒化物材料であるHfNがコートされたタングステン(W)フィラメント(すなわち、HfNコート付Wフィラメント)と、窒化物材料であるHfNがコートされていないタングステン(W)フィラメント(すなわち、HfN未コートWフィラメント)とを、それぞれ30分点灯した場合の状態(試験前(点灯前)の状態、試験後(30分点灯後)の状態)が示され、また、図12(b)には、HfNコート付Wフィラメント品とHfN未コートWフィラメント品とを、それぞれ120分点灯した後のランプ管壁の状態が示されている。
【0033】
図12(a)から、HfN未コートWフィラメントでは、30分以上点灯すると、エミッタ表面が黒化するのに対し、HfNコートWフィラメントでは、30分点灯しても、エミッタ表面は黒化しないことがわかる。
【0034】
また、図12(b)から、HfN未コートWフィラメント品では、120分点灯すると、ランプ管壁が黒化するのに対し、HfNコートWフィラメントでは、120分点灯しても、ランプ管壁は黒化しないことがわかる。
【0035】
このように、第1層目の電子放出材料が窒化物材料で形成される場合には、ランプ管壁の黒化を防ぎ、エミッタ表面の黒化を抑制できるので、電子放出特性の劣化を防止し、ランプの長寿命化を図ることができる。
【0036】
次に、本発明の電極構造の他の実施形態について説明する。先の実施形態(図3の実施形態)における電極構造では、フィラメント1と、該フィラメント1上に形成された第1層目の電子放出材料2と、該第1層目の電子放出材料上に第1層目の電子放出材料2とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料3とを有しているが、本実施形態では、図6に示すように、さらに、フィラメント1と第1層目の電子放出材料2との間に所定の金属層7が形成されている。
【0037】
ここで、金属層7は、その仕事関数がフィラメント材の仕事関数(タングステンフィラメントの場合、仕事関数は約4.5eV)と第2層目の電子放出材料3の仕事関数(酸化バリウム系の場合、仕事関数は約1eV)の間の値の材料とする。具体的に、金属層7は、例えばハフニウム金属である。この場合、第1層目の電子放出材料2を金属層7の窒化物とすることが好適である。
【0038】
本実施形態(図6の実施形態)の電極構造は、以下のように作製することができる。すなわち、先ずタングステンフィラメント1上に金属層7として、アークプラズマ蒸着法を用いてハフニウム金属もしくはハフニウム金属を主とするハフニウム合金からなる金属層7を形成する。次いで、同じくアークプラズマ蒸着法を用いた反応性蒸着により窒素ガスを高密度プラズマにより活性化し、同時にハフニウム金属を蒸着させることで窒化して窒化ハフニウム膜2を金属ハフニウム7上に形成する。若しくは金属層7を形成した後に、窒素ガスを活性化して金属層7の表面を窒化して窒化ハフニウム膜2と変性させて第1層目の電子放出材料とする。その後に、先の実施形態(図3の実施形態)と同一の工程で第2層目の電子放出材料3を第1層目の電子放出材料2上に形成する。
【0039】
先の実施形態(図3の実施形態)では、金属フィラメント1上に、第1層目の電子放出材料2を設けていたが、本実施形態(図6の実施形態)では、中間の仕事関数を有する金属層7を介している。このように、本実施形態(図6の実施形態)では、金属層を介しているので、フィラメント1に第1層目の電子放出材料2を直接設ける場合に比べて付着力を強くすることができる。特に、第1層目の電子放出材料2を金属層7と同一の金属の窒化物とすると、金属層7と第1層目の電子放出材料2との付着力をより強固にすることができ、さらに耐スパッタ性を高めることができ好適である。
【0040】
本発明では、図3あるいは図6に示したような本発明の電極構造を熱電子放出型光源の電極に適用することができる。図7は、本発明の熱電子放出型光源の一例を示す図(一部切欠図)である。なお、図7において、図1と同様の箇所には同じ符号を付している。
【0041】
図7の例では、熱電子放出型光源(例えば、熱電子放出型蛍光ランプ)は、内面に蛍光体層20を有する透光性の封止体21(具体的には、内壁に蛍光物質が塗布されたガラス管)と、電極5とを有している。なお、図7の例では、電極5は、封止体21の両端にそれぞれ5a,5bとして設けられている。そして、封止体21(ガラス管)内の空気を抜いて真空にした後、封止体21内には放電媒体ガス23(例えば、少量の水銀とアルゴンなどの希ガス)が封入されている。
【0042】
ところで、図7の例の熱電子放出型光源において、電極5(5a,5b)には、図3あるいは図6に示したような本発明の電極構造が用いられる。
【0043】
このように、図7の例の熱電子放出型光源において、電極5(5a,5b)には、図3あるいは図6に示したような本発明の電極構造が用いられることにより、熱電子放出型光源(例えば、図7に示したような熱電子放出型蛍光ランプ)の長寿命化を図ることができる。
【0044】
なお、図7の例では、電極5(一対の電極5a,5b)は、封止体21の両端に取付けられているが、一対の電極5a,5bは必ずしも封止体21の両端に取付けられていなくも良く、この意味で、図7の例に限らず、任意の形状,構造の熱電子放出型光源の電極に本発明の電極構造を適用することができる。
【0045】
また、本発明の電極構造は、図3あるいは図6に示した例の形状,構造のものに限らず、フィラメント1と、該フィラメント1上に形成された第1層目の電子放出材料(電子放射性物質)2と、該第1層目の電子放出材料2上に第1層目の電子放出材料2とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料(電子放射性物質)3とを有するものであれば(図6の例では、さらに、フィラメント1と第1層目の電子放出材料(電子放射性物質)2との間に金属層7を有するものであれば)、任意の形状,構造のものにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、CRTディスプレイなどの陰極等にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】熱電子放出型蛍光ランプの構造を示す図である。
【図2】従来の電極構造の問題を説明するための図である。
【図3】本発明の電極構造を説明するための図である。
【図4】アークプラズマ蒸着法を用いてタングステンフィラメント上に窒化ハフニウム膜(第1層目の電子放出材料)を被覆する工程を説明するための図である。
【図5】本発明の電極構造を説明するための図である。
【図6】本発明の他の電極構造を説明するための図である。
【図7】本発明の熱電子放出型光源の一例を示す図(一部切欠図)である。
【図8】HfNコートWフィラメント上のエミッタ部のEPMA組成分析の結果を示す図である。
【図9】HfN未コートWフィラメント上のエミッタ部のEPMA組成分析の結果を示す図である。
【図10】HfNコートWフィラメント使用のガラス部のEPMA組成分析の結果を示す図である。
【図11】HfN未コートWフィラメント使用の黒化したガラス部のEPMA組成分析の結果を示す図である。
【図12】HfNコートWフィラメントを用いる場合とHfN未コートWフィラメントを用いる場合との比較結果を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 フィラメント
2 第1層目の電子放出材料
3 第2層目の電子放出材料
5,5a,5b 電極構造
7 金属層
10 真空チャンバー
11 坩堝
20 蛍光体層
21 封止体
23 放電媒体ガス
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極構造および熱電子放出型光源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されているような熱電子放出型蛍光ランプが知られている。図1はこの種の熱電子放出型蛍光ランプの構造を示す図(一部切欠図)である。図1を参照すると、熱電子放出型蛍光ランプの構造は、内面に蛍光体層20を有する透光性の封止体21(具体的には、内壁に蛍光物質が塗布されたガラス管)と、電極22とを有している。なお、図1の例では、電極22は、封止体21の両端にそれぞれ22a,22bとして設けられている。そして、封止体21(ガラス管)内の空気を抜いて真空にした後、封止体21内には放電媒体ガス23(例えば、少量の水銀とアルゴンなどの希ガス)が封入されている。また、電極22(各電極22a,22b)は、フィラメント(タングステンフィラメント(特許文献1の例では、タングステン副線を巻き回したタングステン主線をさらに2回巻き回したフィラメント))に電子放出材料(電子放射性物質)が塗布(充填)されたものとなっている。
【0003】
ここで、この種の熱電子放出型蛍光ランプの電極22のフィラメントに塗布(充填)される電子放出材料(電子放射性物質)としては、具体的には例えば(Ba/Sr/Ca)O三元酸化物が用いられている。
【0004】
あるいは、電子放出材料としては、特許文献2に示されているように、アルミニウム、シリコン、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタリウム、モリブデンタングステン及びこれらの合金より形成されるグループから選択した還元金属粉末を含み、貴金属を含む粉末のコーティング層を形成させたものが知られている。
【特許文献1】特開平5−258728号公報
【特許文献2】特開2001−155679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、タングステンフィラメントに電子放出材料(電子放射性物質)として例えば(Ba/Sr/Ca)O三元酸化物が塗布(充填)されている電極は、図2に示すように、電子放出材料(エミッター)が消耗されるとタングステンフィラメントが剥き出しになりArイオンやHgイオンでスパッタされて次第に細くなり、ついには断線してしまい、ランプ寿命が短い原因になっていた。
【0006】
また、特許文献2のように、電子放出材料として、アルミニウム、シリコン、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタリウム、モリブデンタングステン及びこれらの合金より形成されるグループから選択した還元金属粉末を含み、貴金属を含む粉末のコーティング層を形成させたものを用いる場合、蛍光ランプを始動させると、エミッタが消耗してフィラメントが剥き出しになった部分で、放電電流が供給される側(陰極時に電位的にマイナスになる側)で、かつ、主放電(陽光柱)に距離が近い部分が選択的にスパッタを受ける。その際、金属スパッタ粒子は、放電媒体ガスに含まれる水銀蒸気と反応して、ランプ内壁やエミッタ上に黒化を生じさせる。このような黒化は電子放出特性を劣化させる原因となり、ランプ寿命が短くなる原因ともなっていた。
【0007】
本発明は、長寿命化を図ることの可能な電極構造および熱電子放出型光源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、フィラメントと、該フィラメント上に形成された第1層目の電子放出材料と、該第1層目の電子放出材料上に第1層目の電子放出材料とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料とを有し、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料と前記第2層目の電子放出材料は、第1層目の電子放出材料の仕事関数の値がフィラメントの仕事関数の値よりも小さく、第2層目の電子放出材料の仕事関数の値が第1層目の電子放出材料の仕事関数の値よりも小さいものとなっており、かつ、前記第1層目の電子放出材料は、前記第2層目の電子放出材料よりも耐スパッタ性のある材料で形成されていることを特徴とする電極構造である。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の電極構造において、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料との間に、所定の金属層がさらに形成されていることを特徴としている。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の電極構造において、前記第1層目の電子放出材料は、窒化物材料で形成されていることを特徴としている。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、内面に蛍光体層を有する透光性の封止体と、電極とを有し、前記封止体内には放電媒体ガスが封入されており、前記電極には、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電極構造が用いられることを特徴とする熱電子放出型光源である。
【0012】
また、請求項5記載の発明は、請求項4記載の熱電子放出型光源において、該熱電子放出型光源は、熱電子放出型蛍光ランプであることを特徴としている。
【0013】
また、請求項6記載の発明は、請求項4または請求項5記載の熱電子放出型光源において、前記放電媒体ガスには水銀が含まれていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1乃至請求項3記載の発明によれば、フィラメントと、該フィラメント上に形成された第1層目の電子放出材料と、該第1層目の電子放出材料上に第1層目の電子放出材料とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料とを有し、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料と前記第2層目の電子放出材料は、第1層目の電子放出材料の仕事関数の値がフィラメントの仕事関数の値よりも小さく、第2層目の電子放出材料の仕事関数の値が第1層目の電子放出材料の仕事関数の値よりも小さいものとなっており、かつ、前記第1層目の電子放出材料は、前記第2層目の電子放出材料よりも耐スパッタ性のある材料で形成されているので、フィラメントの長寿命化を図ることができる。
【0015】
特に、請求項2記載の発明では、請求項1記載の電極構造において、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料との間に、所定の金属層がさらに形成されているので、フィラメントに第1層目の電子放出材料を直接設ける場合に比べて付着力を強くすることができる。
【0016】
また、請求項3記載の発明によれば、前記第1層目の電子放出材料が窒化物材料で形成されていることにより、第2層目の電子放出材料が消耗した部分に第1層目の電子放出材料である窒化物材料が現れるが、窒化物材料は電子放出特性がフィラメントよりも良く、Arイオンによるアタック(スパッタ)にも耐スパッタ性が有ることから、フィラメントのスパッタによるフィラメント原子の飛散量を低減することができる。
【0017】
また、請求項4,請求項5記載の発明では、内面に蛍光体層を有する透光性の封止体と、電極とを有し、前記封止体内には放電媒体ガスが封入されており、前記電極には、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電極構造が用いられることを特徴とする熱電子放出型光源であるので、熱電子放出型光源の長寿命化を図ることができる。
【0018】
また、請求項6記載の発明によれば、前記第1層目の電子放出材料である窒化物材料は水銀と反応しないため、Arイオンによりスパッタされた窒化物材料の粒子も水銀と反応せず、従って、ランプ内壁やエミッタ上に黒化を生じさせない。つまり、ランプ黒化を防ぎ、エミッタ表面の黒化を抑制できるので、電子放出特性の劣化を防止でき、ランプの長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図3は本発明に係る電極構造の一実施形態を説明するための図である。図3を参照すると、この実施形態の電極構造5は、フィラメント1と、該フィラメント1上に形成された第1層目の電子放出材料(電子放射性物質)2と、該第1層目の電子放出材料2上に第1層目の電子放出材料2とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料(電子放射性物質)3とを有し、前記フィラメント1と前記第1層目の電子放出材料2と前記第2層目の電子放出材料3は、第1層目の電子放出材料2の仕事関数の値がフィラメント1の仕事関数の値よりも小さく、第2層目の電子放出材料3の仕事関数の値が第1層目の電子放出材料2の仕事関数の値よりも小さいものとなっており、かつ、前記第1層目の電子放出材料2は、前記第2層目の電子放出材料3よりも耐スパッタ性のある材料で形成されている。
【0021】
ここで、フィラメント1は、例えばタングステン(W)フィラメントである。また、第1層目の電子放出材料2は、具体的には例えば窒化物材料(より具体的には、例えば、窒化ハフニウム(HfN))で形成されている。また、第2層目の電子放出材料2は、具体的には例えば酸化バリウム系の材料で形成されている。
【0022】
図3の電極構造は、以下のように作製することができる。すなわち、先ず、フィラメント1(例えばタングステンフィラメント)上に第1層目の電子放出材料2(エミッター)をコート(被覆)する。ここで、第1層目の電子放出材料2は、上述したように、仕事関数がフィラメント(タングステンフィラメントの場合、仕事関数は約4.5)と第2層目の電子放出材料3(酸化バリウム系の場合、仕事関数は約1)との間の値を持つ材料で、構造が緻密で(緻密な構造をもち)耐スパッタ性のある材料が好ましい。例えば窒化ハフニウムは、仕事関数が約3.8で窒化物であるため硬く耐スパッタ性があり、第1層目の電子放出材料2(エミッター)として好ましい。
【0023】
具体的には、例えば第1層目の電子放出材料2に窒化ハフニウムも用いた場合、600eVのエネルギーを持ったArイオンの入射エネルギーに対するスパッタ率は1以下で約0.95であるのに対し、第2層目の電子放出材料3に酸化バリウム系材料としてBaOを用いた場合のスパッタ率は約1.9と2倍大きくスパッタされやすいことが分る。つまり第1層目の電子放出材料2の窒化ハフニウムは、第2層目の電子放出材料3の酸化バリウム系材料に対して2倍耐スパッタ性があることが分る。
【0024】
この第1層目の電子放出材料2(エミッター)の形成方法としては、バインダー中に分散させたエミッター材をスプレー法,ディップ法等の湿式法でフィラメント1上に塗布した後に窒素雰囲気中の炉で焼き固める方法とか、真空チャンバー内にてプラズマ法や蒸着法等の気相法にてフィラメント1上に被覆させる方法などがある。
【0025】
図4には、一例としてアークプラズマ蒸着法を用いてタングステンフィラメント1上に窒化ハフニウム膜(第1層目の電子放出材料2)を被覆する工程が示されている。図4の工程例では、真空チャンバー10内の上部にフィラメント1を設置する。この設置機構には回転機構13が付随しており、蒸発物をフィラメント1全面に形成できるようにしてある。排気用ポンプ12によって真空チャンバー10内を10−6torr以下の真空にした後、10−2〜10−3torr台の窒素ガス雰囲気下にてアークプラズマガン14からの高密度プラズマを坩堝11内の蒸発材料となる窒化ハフニウム(図示せず)に照射するか、または、高密度プラズマ発生中に電子銃で電子を窒化ハフニウムに照射し、蒸発物をフィラメント1上に堆積させる。この方法で形成された窒化ハフニウム膜(第1層目の電子放出材料2)は、フィラメント1に付着力が強く、フィラメント1からはがれにくく緻密な膜となり、フィラメント1の耐スパッタ性が向上する。
【0026】
次に、第1層目の電子放出材料2の上に第2層目の電子放出材料3を形成する。第2層目の電子放出材料3は、例えば酸化バリウム系の材料で(Ba,Sr,Ca)Oが用いられる。この材料は、仕事関数が約1で、在来の熱電子放出型蛍光ランプの電子放出材料(電子放射性物質)として用いられているものである。この第2層目の電子放出材料2の塗布方法は、スプレー法,ディップ法等の湿式法で形成される。
【0027】
このように、図3の実施形態では、フィラメント1上に電子放出材料を異種材料で二重に形成することを特徴としている。
【0028】
従来の電極構造では、図2に示したように、エミッター(電子放出材料)が消耗されるとタングステンフィラメントが剥き出しになりArイオンやHgイオンでスパッタされて次第に細くなり、ついには断線してしまい、ランプ寿命が短い原因になっていた。これに対し、図3の電極構造では、フィラメント1を第1層目の電子放出材料2(例えば窒化物材料)で被覆した上に第2層目の電子放出材料3(例えば酸化バリウム系の材料)を形成することで、図5に示すように、第2層目の電子放出材料3が消耗した部分には第1層目の電子放出材料2が現れ、第1層目の電子放出材料2は第2層目の電子放出材料3よりも仕事関数が高いので、電子は主に第2層目の電子放出材料3より出されるが、第1層目の電子放出材料2からも出るし、第1層目の電子放出材料2には耐スパッタ性があるので(すなわち、第1層目の電極放出材料2は、フィラメント1をArイオンやHgイオンからのスパッタによる衝撃から保護するので)、完全に第2層目の電子放出材料3が消耗しきるまでフィラメント1は断線することなく、電極(フィラメント)の長寿命化を図ることができる。
【0029】
さらに、第1層目の電子放出材料が窒化物材料で形成されることにより、第2層目の電子放出材料が消耗した部分に第1層目の電子放出材料である窒化物材料が露出し、かつ、Arイオンによるアタック(スパッタ)にも耐スパッタ性があることから、フィラメントであるタングステンのスパッタによるタングステン原子の飛散量を低減することができる。
【0030】
そして、このような電極構造の熱電子放出型光源とした場合、金属と放電媒体ガスに含まれる水銀は反応して黒化の原因である物質を形成してしまうが、第1層目の電子放出材料である窒化物材料は水銀と反応しないため、Arイオンによりスパッタされた窒化物材料の粒子も水銀と反応せず、従って、ランプ内壁やエミッタ上に黒化を生じさせない。
【0031】
これらのことは、X線マイクロアナライザ(EPMA)を用いた組成分析結果(図8,図9,図10,図11)によっても明らかである。なお、図8はHfNコートWフィラメント上のエミッタ部のEPMA組成分析の結果を示す図、図9はHfN未コートWフィラメント上のエミッタ部のEPMA組成分析の結果を示す図、図10はHfNコートWフィラメント使用のガラス部のEPMA組成分析の結果を示す図、図11はHfN未コートWフィラメント使用の黒化したガラス部のEPMA組成分析の結果を示す図である。
【0032】
図12(a)には、窒化物材料であるHfNがコートされたタングステン(W)フィラメント(すなわち、HfNコート付Wフィラメント)と、窒化物材料であるHfNがコートされていないタングステン(W)フィラメント(すなわち、HfN未コートWフィラメント)とを、それぞれ30分点灯した場合の状態(試験前(点灯前)の状態、試験後(30分点灯後)の状態)が示され、また、図12(b)には、HfNコート付Wフィラメント品とHfN未コートWフィラメント品とを、それぞれ120分点灯した後のランプ管壁の状態が示されている。
【0033】
図12(a)から、HfN未コートWフィラメントでは、30分以上点灯すると、エミッタ表面が黒化するのに対し、HfNコートWフィラメントでは、30分点灯しても、エミッタ表面は黒化しないことがわかる。
【0034】
また、図12(b)から、HfN未コートWフィラメント品では、120分点灯すると、ランプ管壁が黒化するのに対し、HfNコートWフィラメントでは、120分点灯しても、ランプ管壁は黒化しないことがわかる。
【0035】
このように、第1層目の電子放出材料が窒化物材料で形成される場合には、ランプ管壁の黒化を防ぎ、エミッタ表面の黒化を抑制できるので、電子放出特性の劣化を防止し、ランプの長寿命化を図ることができる。
【0036】
次に、本発明の電極構造の他の実施形態について説明する。先の実施形態(図3の実施形態)における電極構造では、フィラメント1と、該フィラメント1上に形成された第1層目の電子放出材料2と、該第1層目の電子放出材料上に第1層目の電子放出材料2とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料3とを有しているが、本実施形態では、図6に示すように、さらに、フィラメント1と第1層目の電子放出材料2との間に所定の金属層7が形成されている。
【0037】
ここで、金属層7は、その仕事関数がフィラメント材の仕事関数(タングステンフィラメントの場合、仕事関数は約4.5eV)と第2層目の電子放出材料3の仕事関数(酸化バリウム系の場合、仕事関数は約1eV)の間の値の材料とする。具体的に、金属層7は、例えばハフニウム金属である。この場合、第1層目の電子放出材料2を金属層7の窒化物とすることが好適である。
【0038】
本実施形態(図6の実施形態)の電極構造は、以下のように作製することができる。すなわち、先ずタングステンフィラメント1上に金属層7として、アークプラズマ蒸着法を用いてハフニウム金属もしくはハフニウム金属を主とするハフニウム合金からなる金属層7を形成する。次いで、同じくアークプラズマ蒸着法を用いた反応性蒸着により窒素ガスを高密度プラズマにより活性化し、同時にハフニウム金属を蒸着させることで窒化して窒化ハフニウム膜2を金属ハフニウム7上に形成する。若しくは金属層7を形成した後に、窒素ガスを活性化して金属層7の表面を窒化して窒化ハフニウム膜2と変性させて第1層目の電子放出材料とする。その後に、先の実施形態(図3の実施形態)と同一の工程で第2層目の電子放出材料3を第1層目の電子放出材料2上に形成する。
【0039】
先の実施形態(図3の実施形態)では、金属フィラメント1上に、第1層目の電子放出材料2を設けていたが、本実施形態(図6の実施形態)では、中間の仕事関数を有する金属層7を介している。このように、本実施形態(図6の実施形態)では、金属層を介しているので、フィラメント1に第1層目の電子放出材料2を直接設ける場合に比べて付着力を強くすることができる。特に、第1層目の電子放出材料2を金属層7と同一の金属の窒化物とすると、金属層7と第1層目の電子放出材料2との付着力をより強固にすることができ、さらに耐スパッタ性を高めることができ好適である。
【0040】
本発明では、図3あるいは図6に示したような本発明の電極構造を熱電子放出型光源の電極に適用することができる。図7は、本発明の熱電子放出型光源の一例を示す図(一部切欠図)である。なお、図7において、図1と同様の箇所には同じ符号を付している。
【0041】
図7の例では、熱電子放出型光源(例えば、熱電子放出型蛍光ランプ)は、内面に蛍光体層20を有する透光性の封止体21(具体的には、内壁に蛍光物質が塗布されたガラス管)と、電極5とを有している。なお、図7の例では、電極5は、封止体21の両端にそれぞれ5a,5bとして設けられている。そして、封止体21(ガラス管)内の空気を抜いて真空にした後、封止体21内には放電媒体ガス23(例えば、少量の水銀とアルゴンなどの希ガス)が封入されている。
【0042】
ところで、図7の例の熱電子放出型光源において、電極5(5a,5b)には、図3あるいは図6に示したような本発明の電極構造が用いられる。
【0043】
このように、図7の例の熱電子放出型光源において、電極5(5a,5b)には、図3あるいは図6に示したような本発明の電極構造が用いられることにより、熱電子放出型光源(例えば、図7に示したような熱電子放出型蛍光ランプ)の長寿命化を図ることができる。
【0044】
なお、図7の例では、電極5(一対の電極5a,5b)は、封止体21の両端に取付けられているが、一対の電極5a,5bは必ずしも封止体21の両端に取付けられていなくも良く、この意味で、図7の例に限らず、任意の形状,構造の熱電子放出型光源の電極に本発明の電極構造を適用することができる。
【0045】
また、本発明の電極構造は、図3あるいは図6に示した例の形状,構造のものに限らず、フィラメント1と、該フィラメント1上に形成された第1層目の電子放出材料(電子放射性物質)2と、該第1層目の電子放出材料2上に第1層目の電子放出材料2とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料(電子放射性物質)3とを有するものであれば(図6の例では、さらに、フィラメント1と第1層目の電子放出材料(電子放射性物質)2との間に金属層7を有するものであれば)、任意の形状,構造のものにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、CRTディスプレイなどの陰極等にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】熱電子放出型蛍光ランプの構造を示す図である。
【図2】従来の電極構造の問題を説明するための図である。
【図3】本発明の電極構造を説明するための図である。
【図4】アークプラズマ蒸着法を用いてタングステンフィラメント上に窒化ハフニウム膜(第1層目の電子放出材料)を被覆する工程を説明するための図である。
【図5】本発明の電極構造を説明するための図である。
【図6】本発明の他の電極構造を説明するための図である。
【図7】本発明の熱電子放出型光源の一例を示す図(一部切欠図)である。
【図8】HfNコートWフィラメント上のエミッタ部のEPMA組成分析の結果を示す図である。
【図9】HfN未コートWフィラメント上のエミッタ部のEPMA組成分析の結果を示す図である。
【図10】HfNコートWフィラメント使用のガラス部のEPMA組成分析の結果を示す図である。
【図11】HfN未コートWフィラメント使用の黒化したガラス部のEPMA組成分析の結果を示す図である。
【図12】HfNコートWフィラメントを用いる場合とHfN未コートWフィラメントを用いる場合との比較結果を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 フィラメント
2 第1層目の電子放出材料
3 第2層目の電子放出材料
5,5a,5b 電極構造
7 金属層
10 真空チャンバー
11 坩堝
20 蛍光体層
21 封止体
23 放電媒体ガス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントと、該フィラメント上に形成された第1層目の電子放出材料と、該第1層目の電子放出材料上に第1層目の電子放出材料とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料とを有し、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料と前記第2層目の電子放出材料は、第1層目の電子放出材料の仕事関数の値がフィラメントの仕事関数の値よりも小さく、第2層目の電子放出材料の仕事関数の値が第1層目の電子放出材料の仕事関数の値よりも小さいものとなっており、かつ、前記第1層目の電子放出材料は、前記第2層目の電子放出材料よりも耐スパッタ性のある材料で形成されていることを特徴とする電極構造。
【請求項2】
請求項1記載の電極構造において、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料との間に、所定の金属層がさらに形成されていることを特徴とする電極構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の電極構造において、前記第1層目の電子放出材料は、窒化物材料で形成されていることを特徴とする電極構造。
【請求項4】
内面に蛍光体層を有する透光性の封止体と、電極とを有し、前記封止体内には放電媒体ガスが封入されており、前記電極には、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電極構造が用いられることを特徴とする熱電子放出型光源。
【請求項5】
請求項4記載の熱電子放出型光源において、該熱電子放出型光源は、熱電子放出型蛍光ランプであることを特徴とする熱電子放出型光源。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載の熱電子放出型光源において、前記放電媒体ガスには水銀が含まれていることを特徴とする熱電子放出型光源。
【請求項1】
フィラメントと、該フィラメント上に形成された第1層目の電子放出材料と、該第1層目の電子放出材料上に第1層目の電子放出材料とは異種の材料で形成された第2層目の電子放出材料とを有し、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料と前記第2層目の電子放出材料は、第1層目の電子放出材料の仕事関数の値がフィラメントの仕事関数の値よりも小さく、第2層目の電子放出材料の仕事関数の値が第1層目の電子放出材料の仕事関数の値よりも小さいものとなっており、かつ、前記第1層目の電子放出材料は、前記第2層目の電子放出材料よりも耐スパッタ性のある材料で形成されていることを特徴とする電極構造。
【請求項2】
請求項1記載の電極構造において、前記フィラメントと前記第1層目の電子放出材料との間に、所定の金属層がさらに形成されていることを特徴とする電極構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の電極構造において、前記第1層目の電子放出材料は、窒化物材料で形成されていることを特徴とする電極構造。
【請求項4】
内面に蛍光体層を有する透光性の封止体と、電極とを有し、前記封止体内には放電媒体ガスが封入されており、前記電極には、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電極構造が用いられることを特徴とする熱電子放出型光源。
【請求項5】
請求項4記載の熱電子放出型光源において、該熱電子放出型光源は、熱電子放出型蛍光ランプであることを特徴とする熱電子放出型光源。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載の熱電子放出型光源において、前記放電媒体ガスには水銀が含まれていることを特徴とする熱電子放出型光源。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−171795(P2008−171795A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154947(P2007−154947)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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