説明

電極活物質及びこれを用いたニッケル鉄電池並びに電極活物質の製造方法

【課題】製造コストを低減することが可能な電極活物質及びこれを用いたニッケル鉄電池並びに電極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】ゲーサイト型構造を有するAl固溶FeOOHを含む電極活物質とし、正極及び負極、並びに、正極と負極との間に配置された電解質を有し、上記電極活物質が負極に含有されているニッケル鉄電池とし、鉄及びアルミニウムの混合水溶液を準備する工程と、塩基性に保ち、混合水溶液及び水酸化物の水溶液を合成する工程と、を有する電極活物質の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極活物質及びこれを用いたニッケル鉄電池並びに電極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ性の水溶液を電解質に使用するアルカリ蓄電池には、ニッケルカドミウム蓄電池、ニッケル水素電池、ニッケル亜鉛電池、及び、ニッケル鉄電池(エジソン電池)等の種類がある。アルカリ蓄電池の中では、ニッケルカドミウム蓄電池やニッケル水素電池が主に用いられており、これらの電池では、活物質として、水酸化ニッケル、水酸化カドミウム、水素吸蔵合金が採用されている。
【0003】
一方、ニッケル鉄電池では、鉄を活物質として用いている。鉄電極の活物質としては、これまでに、カルボニル鉄粉、アトマイズド鉄粉、還元鉄粉、及び、電解鉄粉等が検討されてきている。
【0004】
鉄を含有する活物質を用いた技術として、例えば、特許文献1には、活物質として還元鉄粉を主材とし、これに黒鉛粉末と酸化カドミウムと硫化カドミウムとを混合して成ると共に、その混合物中の黒鉛の配合量が7.5〜12.5重量%であるポケット式鉄電極が開示されている。また、特許文献2には、LiOH、MnOOH(マンガナイト)、FeOOH(ゲーサイト)を含む混合物にCr源の化合物、Co源の化合物、Al源の化合物の一種以上を加えた原料粉末を加圧してペレットにし、空気中で250〜600℃で1〜12時間加熱して予備仮焼し、この予備仮焼した材料を粉砕し、再度ペレットに成形し、空気中で700〜850℃で2〜24時間加熱して本焼成することを特徴とする、スピネル型構造マンガン鉄リチウム系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法が開示されている。なお、特許文献2では、スピネル型構造マンガン鉄リチウム系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料を製造するための一原料としてFeOOH(ゲーサイト)を用いている。また、特許文献3には、粒子のアスペクト比が5以下のβ−FeOOHであって、さらにCuKα線を用いたX線回折法で、半値幅Yが0.3°<Y(2θ)の(110)面回折ピークを示すことを特徴とする二次電池用正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62−26150号公報
【特許文献2】特開2000−90923号公報
【特許文献3】特開2002−208399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているような、還元鉄粉を用いる電池は、酸化鉄を水素ガス等で還元する工程が製造工程に含まれるため、製造コストが増大しやすいという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、従来のFe電極の活物質よりも製造コストを低減することが可能な電極活物質及びこれを用いたニッケル鉄電池並びに電極活物質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明の第1の態様は、ゲーサイト型構造を有するAl固溶FeOOHを含むことを特徴とする、電極活物質である。
【0009】
また、上記本発明の第1の態様において、電極活物質の組成が、Fe0.75Al0.25OOHで表されることが好ましい。
【0010】
本発明の第2の態様は、正極及び負極、並びに、正極と負極との間に配置された電解質を有し、上記本発明の第1の態様にかかる電極活物質が負極に含有されている、ニッケル鉄電池である。
【0011】
本発明の第3の態様は、鉄及びアルミニウムの混合水溶液を準備する工程と、塩基性に保ち、上記混合水溶液と水酸化物の水溶液とを合成する工程と、を有することを特徴とする、電極活物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の態様にかかる電極活物質は、ゲーサイト型構造を有するAl固溶FeOOHを含んでいる。ゲーサイト型構造を有するAl固溶FeOOHは、還元工程を経ることなく、湿式で作製することができるので、従来のFe電極の活物質よりも、製造コストを低減することができる。したがって、本発明の第1の態様によれば、従来のFe電極の活物質よりも製造コストを低減することが可能な、電極活物質を提供することができる。
【0013】
また、本発明の第1の態様において、組成がFe0.75Al0.25OOHで表される電極活物質は、従来のFe電極の活物質よりも製造コストを低減することが可能である。
【0014】
本発明の第2の態様にかかるニッケル鉄電池は、本発明の第1の態様にかかる電極活物質を含有する負極を備えている。したがって、本発明の第2の態様によれば、製造コストを低減することが可能な、ニッケル鉄電池を提供することができる。
【0015】
本発明の第3の態様にかかる電極活物質の製造方法によれば、還元工程を経ずに湿式で本発明の第1の態様にかかる電極活物質を製造することができる。したがって、本発明の第3の態様によれば、Fe電極の活物質を製造する従来の方法よりも製造コストを低減することが可能な、電極活物質の製造方法を提供することができる。加えて、本発明の第3の態様にかかる電極活物質の製造方法では、pHをコントロールし、従来の方法よりも速い生成速度で電極活物質を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】X線回折測定結果を示す図である。
【図2】参照極に対する電位と放電時間との関係を示す図である。
【図3】セル電圧と放電時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0018】
1.電極活物質
本発明の電極活物質は、ゲーサイト型構造を有するAl固溶FeOOH(Fe1−xAlOOH。xは0<x<1。)を含んでいる。本発明の電極活物質は、例えば以下の過程(本発明の電極活物質の製造方法)を経て作製することができる。
【0019】
<混合水溶液作製工程>
硫酸鉄及び硫酸アルミニウムを純水に溶解して、鉄及びアルミニウムの混合水溶液(以下において、単に「混合水溶液」という。)を作製する。
【0020】
<水酸化工程>
反応容器に純水を加え、攪拌しながら、反応容器に水酸化ナトリウム溶液及び混合水溶液を滴下することにより、Al固溶FeOOHを合成する。
【0021】
<分離洗浄乾燥工程>
水酸化工程後に、反応容器内の物質を冷却し濾別した後、純水で洗浄する。その後、純水で洗浄された物質を乾燥する。
【0022】
以上の過程を経ることにより、ゲーサイト型構造を有するAl固溶FeOOHの粉末(本発明の電極活物質)を得ることができる。上述のように、本発明の電極活物質は、還元工程を経ずに湿式で作製することができる。したがって、本発明によれば、従来のFe電極の活物質よりも製造コストを低減することが可能な、電極活物質を提供することができる。加えて、特許文献3に開示されているような二次電池用正極活物質は、ゆっくり時間をかけて生成するため、製造時間が増大しやすかったが、本発明の電極活物質の製造方法では、pHをコントロールし、従来の方法よりも速い生成速度で電極活物質を合成することができる。
【0023】
2.ニッケル鉄電池
本発明のニッケル鉄電池は、正極及び負極と、これらの間に配置された電解質と、正極及び負極の短絡を防止するセパレータとを有し、本発明の電極活物質が負極活物質として用いられている。本発明の電極活物質は、従来のFe電極の活物質よりも製造コストを低減することが可能なので、本発明によれば、製造コストを低減することが可能なニッケル鉄電池を提供することができる。
【0024】
本発明において、ニッケル鉄電池の負極は、例えば、上記過程を経て作製した本発明の電極活物質と、Ni粉末と、バインダーとを純水に分散して混合することにより、スラリー状の負極組成物を作製した後、このスラリー状の負極組成物を、基材に塗布し乾燥する過程を経て、作製することができる。
【0025】
また、本発明において、ニッケル鉄電池の正極は、例えば、水酸化ニッケルと、酸化コバルト粉末と、バインダーとを純水に分散して混合することにより、スラリー状の正極組成物を作製した後、このスラリー状の正極組成物を、基材に塗布し乾燥する過程を経て、作製することができる。
【0026】
このようにして正極及び負極を作製したら、正極と負極との間に公知の電池用セパレータを配置することにより、積層された正極、セパレータ、及び、負極を有する積層体を作製し、公知の電解液を入れた容器に積層体を含浸させる過程を経て、本発明のニッケル鉄電池を作製することができる。なお、本発明において、電解質は上記電解液に限定されず、イオンが移動できるものであれば既存の各種電解質を用いることができる。そのような電解質としては、例えば、ポリマー電解質、固体電解質、及び、イオン液体を含む電解質等を挙げることができる。
【実施例】
【0027】
本発明の電極活物質を作製し、その構造を観察した。また、本発明の電極活物質を含有する電極を備えたニッケル鉄電池を作製し、その性能を評価した。
【0028】
1.試料作製
<活物質の合成>
硫酸鉄と硫酸アルミニウムとを純水に溶解し、混合水溶液を作製した。次いで、10L反応容器に2Lの純水を加え、攪拌しながら、40℃、pH10を保ちながら、2780mlの混合水溶液と1500mlの水酸化ナトリウム溶液とを滴下した。続いて、室温に冷却した後、濾別し、5Lの純水で洗浄した。その後、80℃で48時間に亘って乾燥することにより、組成がFe0.75Al0.25OOHである粉末(以下において、「電極活物質」という。)を得た。
【0029】
<電極の作製>
・作用極
固形分重量比で、上記工程により作製した電極活物質:Ni粉末:カルボキシメチルセルロース(以下において、「CMC」という。)=50:45:5となる量の、電極活物質とNi粉末とCMCとを、純水中に入れ、混合することにより、スラリー状の組成物(以下において、「第1組成物」という。)を作製した。こうして作製した第1組成物を、Niリボン端子がついた発泡ニッケルに充填し、乾燥後に圧延することにより、電極(作用極、負極)を作製した。
【0030】
・対極
固形分重量比で、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH):CoO粉末:CMC=90:5:5となる量の、オキシ水酸化ニッケルとCoO粉末とCMCとを、純水中に入れ、混合することにより、スラリー状の組成物(以下において、「第2組成物」という。)を作製した。こうして作製した第2組成物を、Niリボン端子がついた発泡ニッケルに充填し、乾燥後に圧延することにより、電極(対極、正極)を作製した。
【0031】
<電池の作製>
上記工程により作製した作用極1枚を中心に、上記工程により作製した対極2枚を作用極の両側に配置し(対極2枚の間に作用極1枚を配置し)、さらに、セパレータ(スルホン化処理不織布)を作用極と対極との間に巻いたものを、2枚のアクリル板で挟み、ネジで圧着することにより、積層体を作製した。
こうして作製した積層体を、電解液(6mol/LのKOHを含む電解液)が入ったアクリル製容器に含浸し、積層体の近傍に参照極としてHg/HgO電極を配置することにより、電池セルを作製した。
【0032】
2.測定
<X線回折測定>
上記工程により作製した電極活物質を、CuKα線を用いてX線回折測定した。結果を図1に示す。図1の縦軸は回折強度[a.u.]、同横軸は回折角2θ[°]である。図1は、X線回折ピークが21.22°、33.24°、39.98°、41.19°、36.65°、及び、53.24°付近にあるため、作製した電極活物質はゲーサイト構造を有することが分かった。なお、ゲーサイト構造を具体的に特定するためには、X線データカードNo.00−029−0713(ICDD(PDF2008))を用いることができる。
【0033】
<電池性能測定>
上記工程により作製した電池セルに対して、温度25℃にて負荷電流150mAで6時間に亘って充電を行った後、電圧−0.1VvsHg/HgO電極(参照極)となるまで、負荷電流150mAで放電を行った。参照極に対する電位と放電時間との関係を示す放電曲線を図2に、セル電圧と放電時間との関係を示す放電曲線を図3に、それぞれ示す。図2の縦軸は参照極に対する電位[V]、同横軸は放電時間[min]であり、図3の縦軸はセル電圧[V]、同横軸は放電時間[min]である。
【0034】
図2及び図3より、本発明の電極活物質を用いた電池セル(ニッケル鉄電池)は、アルカリ蓄電池として作動できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲーサイト型構造を有するAl固溶FeOOHを含む、電極活物質。
【請求項2】
前記電極活物質の組成が、Fe0.75Al0.25OOHで表されることを特徴とする、請求項1に記載の電極活物質。
【請求項3】
正極及び負極、並びに、前記正極と前記負極との間に配置された電解質を有し、請求項1又は2に記載の電極活物質が前記負極に含有されている、ニッケル鉄電池。
【請求項4】
鉄及びアルミニウムの混合水溶液を準備する工程と、
塩基性に保ち、前記混合水溶液と水酸化物の水溶液とを合成する工程と、
を有することを特徴とする、電極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−65423(P2013−65423A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202726(P2011−202726)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】