説明

電極触媒の製造方法

【課題】 簡便な方法により、触媒金属粒子の有効利用率が向上され得る燃料電池用電極触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】触媒金属粒子が保護剤で被覆されてなるコロイド粒子を含む溶液と、細孔を有する導電性担体1とを混合し、前記コロイド粒子を前記導電性担体に担持させる工程を含む電極触媒の製造方法において、前記保護剤により前記コロイド粒子の粒子径を調整することで、導電性担体の細孔内部5へ前記コロイド粒子が担持されないように制御する電極触媒の製造方法により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒の製造方法に関し、より詳細には触媒金属粒子の利用率が向上された電極触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素−酸素燃料電池は、電解質の種類や電極の種類等により種々のタイプに分類され、代表的なものとしてはアルカリ型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型がある。この中でも低温(通常100℃以下)で作動可能な固体高分子型燃料電池が注目を集め、近年自動車用低公害動力源としての開発・実用化が進んでいる。
【0003】
このような燃料電池に使用できる電極触媒としては、カーボン粒子などの導電性担体に触媒金属粒子を担持したものがある。一方、このような触媒担持カーボン粒子が燃料電池の電極触媒として更に広く用いられるためには、電極触媒活性を低下させることなく触媒の利用率を高め触媒使用量を極小化すること、および製造法を簡便にして製造コストを低減させる必要がある。
【0004】
従来から、多くの燃料電池に使用される電極触媒の製造方法が存在する。一般的には、塩化白金酸水溶液にカーボン担体を加え、これに水素化ホウ素ナトリウム、ギ酸、クエン酸ナトリウム、ヒドラジン、ホルムアルデヒド等の還元剤を加えて白金微粒子を還元させ、カーボン担体上に吸着させるというものである(特許文献1)。該文献1では、特定以下の細孔の占める割合を一定以下とし、さらに硫黄、塩素の含有量が2ppm以下の炭素微粉末を用いることによって、高い放電特性を示し、しかも寿命特性の優れた固体高分子型燃料電池を提供できるとしている。
【0005】
一方、燃料電池に使用される酸素還元電極では酸素還元過電圧が大きく、これが燃料電池の効率を低下させる主な原因となっている。電極触媒には、プロトンと酸素の反応触媒として白金(Pt)やルテニウム(Ru)などの貴金属が用いられるが、これら貴金属単独の電極触媒では酸素還元活性が不十分な場合があり、高活性の酸素還元電極触媒が求められている。貴金属、なかでもPtと卑金属の合金あるいは金属間化合物が、Pt単独の電極触媒よりも高い酸素還元活性を示すことが知られており、このようなPt系合金触媒を燃料電池用の電極触媒として用いることも提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平09−167622号公報
【特許文献2】特開昭62−163746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の製造方法により作製された燃料電池用電極では、電極触媒における触媒金属粒子の利用率は10%程度という報告例もあり、多くの触媒金属粒子は反応に寄与していないことが推測される。
【0007】
そこで、本発明が目的とするところは、簡便な方法により、触媒金属粒子の有効利用率が向上され得る燃料電池用電極触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討した結果、導電性担体に触媒金属粒子を担持させる際に、触媒金属粒子を保護剤で被覆したコロイド粒子とし、前記保護剤によりコロイド粒子径を調整することで、導電性担体の細孔内への触媒金属粒子の担持を抑制でき、これにより上記課題が解決されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、触媒金属粒子が保護剤で被覆されてなるコロイド粒子を含む溶液と、細孔を有する導電性担体とを混合し、前記コロイド粒子を前記導電性担体に担持させる工程を含む電極触媒の製造方法において、前記保護剤により前記コロイド粒子の粒子径を調整することで、前記細孔内へ前記コロイド粒子が担持されないように制御する電極触媒の製造方法により上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、導電性担体が有する細孔のうち、固体高分子電解質が侵入できない細孔内に触媒金属粒子が担持されるのを抑制することができる。これにより、導電性担体上に担持された触媒金属粒子と固体高分子電解質との接触率を高めることができ、触媒金属粒子の利用率を高めることができる。従って、電極触媒の作製における触媒金属粒子の使用量を低減させても、高い触媒活性を有する電極触媒が得られ、製造コストの低減などが図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の第一は、上述の通り、触媒金属粒子が保護剤で被覆されてなるコロイド粒子を含む溶液と、細孔を有する導電性担体とを混合し、前記コロイド粒子を前記導電性担体に担持させる工程を含む電極触媒の製造方法において、前記保護剤により前記コロイド粒子の粒子径を調整することで、前記細孔内へ前記コロイド粒子が担持されないように制御する電極触媒の製造方法である。
【0012】
従来法で作製された燃料電池用電極では、電極触媒中の触媒金属粒子の利用率が低かった。この理由については、以下のことが考えられる。
【0013】
一般的に電極触媒において用いられるカーボン粒子などの導電性担体には、細孔径がマクロ細孔(IUPAC分類による、細孔直径>50nm)からウルトラミクロ細孔(IUPAC分類による、0.7nm>細孔直径)まで広範囲にわたって分布しているものが用いられている。これらの細孔が存在することにより、導電性担体の比表面積を大きく保つことができる。しかし、従来の電極触媒の製造方法では、直径2〜4nm程度の触媒金属粒子が導電性担体の微細孔内にも多く担持される。
【0014】
燃料電池の電極触媒層は、導電性担体に触媒金属粒子を担持した電極触媒を固体高分子電解質で包括したペーストにより製造される。図4に、従来法によって作製された電極触媒と固体高分子電解質とを含む前記ペーストにおける電極触媒と固体高分子電解質の接触状態を示す。図4において、導電性担体1上に担持され固体高分子電解質2と接触している触媒金属粒子3は電気化学反応に寄与できるが、細孔内部5に担持された触媒金属粒子4は電気化学反応に寄与できない。電極触媒層で触媒金属粒子を電気化学反応に利用するためには、以下の条件を満たすことが必要である。その条件とは、酸素や水素などの気体が触媒金属粒子に十分に供給される経路が存在すること、プロトンが移動できるパスが存在すること、導電性担体内を電子が容易に移動できるパスが存在することである。上記の条件を満たす反応サイトは触媒金属粒子、固体高分子電解質、導電性担体の3種が共存する領域であり、三相界面と呼ばれる。図4において、固体高分子電解質2が細孔内部5まで侵入できないため、触媒金属粒子4は電気化学反応に有効な界面である三相界面を形成できないのである。つまり、触媒金属粒子4のように三相界面を形成できず、電気化学反応に寄与しない触媒金属粒子が存在することにより、触媒の利用率は低くなり、多量の電極触媒を必要とする。
【0015】
電極触媒層に用いられる固体高分子電解質は、一般的には電解質ポリマーが用いられ、その分子量は数万〜数10万であり、クラスター径は3〜4nm、ポリマー長が数10〜数100nmである。燃料電池における電極触媒層を作製するときに用いられる固体高分子電解質溶液では、固体高分子電解質中のプロトン伝導性電解質は溶媒中に完全に溶解しているのではなく、プロトン伝導性電解質がコロイド状に溶液中に分散している。この際、プロトン伝導性電解質の大きさや存在形態は、溶媒の種類、プロトン伝導性電解質濃度により異なっている。溶液中のプロトン伝導性電解質の大きさが導電性担体の細孔径よりも大きい場合には、図4に示すように、導電性担体1が有する細孔内の深さ数nm程度の領域までにしか固体高分子電解質は侵入できず、細孔内部5までに固体高分子電解質を侵入させるのは困難である。
【0016】
触媒金属粒子の利用率を高め効率を向上させるためには、固体高分子電解質が侵入できない小さな微細孔を持たないカーボン担体を利用する方法があるが(上記特許文献1)、そのようなカーボン担体は比表面積が小さいため、触媒金属粒子の担持量を多くしたときに触媒金属粒子同士の重なりが生じて分散性が低下し、高い活性が得られない。また、電極にプロトン伝導性の固体高分子電解質を混ぜる代わりに、プロトン伝導性と電子導電性の両方を有した混合導電性高分子を用いても、混合導電性高分子が触媒担体の微細孔に入り込まない限り、触媒金属粒子の利用率を高めることはできない。加えて、ナノメーター(nm)オーダーの微細孔に侵入できるようにプロトン伝導性電解質の大きさを小さくする方法も考えられるが、使用する固体高分子電解質の重合度、溶媒やプロトン伝導性電解質濃度に制限があり、そのような方法によってもnmオーダーのカーボン微細孔中に自由に侵入できる程イオノマーの大きさを十分に小さくすることはできない。
【0017】
そこで、本発明では、導電性担体の固体高分子電解質が侵入できない細孔内への触媒金属粒子の担持を抑制するために保護剤を用いる。すなわち、前記保護剤により触媒金属粒子が保護剤で被覆されてなるコロイド粒子の粒子径を調整することで、前記細孔内へ前記コロイド粒子が担持されないように制御する。
【0018】
前記保護剤とは、触媒金属粒子が分散、懸濁された溶液中で、触媒金属粒子の表面に化学的または物理的に結合、吸着する化合物であって、触媒金属粒子同士の凝集を抑制して安定化させるものである。本発明では、前記保護剤を利用して溶液中の触媒金属粒子を被覆させ、この保護剤が触媒金属粒子を被覆する厚さを調整する。これにより、溶液中で触媒金属粒子を安定に分散させつつ、固体高分子電解質が侵入できない導電性担体の細孔内部への触媒金属粒子の担持を抑制することが可能となる。
【0019】
図1に、本発明の方法により得られる電極触媒と固体高分子電解質とを含む前記ペーストにおける電極触媒の固体高分子電解質との接触状態を示す。本発明の方法によれば、導電性担体上に担持された触媒金属粒子3は固体高分子電解質2と接触することができ三相界面を形成できるとともに、導電性担体1の固体高分子電解質が侵入できない所定直径を有する細孔内部5への触媒金属粒子の担持を抑制できる。これにより、触媒金属粒子の利用率を高くすることができる。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
まず、触媒金属粒子が保護剤で被覆されてなるコロイド粒子を含む溶液の調製方法としては、公知技術を適宜用いればよいが、例えば、触媒金属粒子の元素を含有する化合物(以下、単に「触媒金属化合物」ともいう)を含む溶液に、保護剤を添加した後に還元剤を添加する方法などが挙げられる。これにより、触媒金属化合物を還元して微粒子状の触媒金属粒子にするとともに、前記触媒金属粒子の表面を保護剤が被覆してコロイド粒子を形成させることができる。
【0021】
前記触媒金属粒子としては、水素の酸化反応または酸素の還元反応に触媒作用を有することが求められ、少なくとも白金を含むのが好ましい。また、耐熱性、一酸化炭素などに対する耐被毒性などを向上させるために、白金の他に、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、およびアルミニウムなどから選択される少なくとも1種以上の金属を用いてもよい。
【0022】
前記触媒金属化合物としては、触媒金属粒子の元素を含み、還元されて触媒金属粒子を形成できるものであればよく、触媒金属粒子の元素の硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩、重炭酸塩、ハロゲン化物、亜硝酸塩、蓚酸などの無機塩類、ギ酸塩などのカルボン酸塩および水酸化物、アルコキサイド、酸化物などが例示でき、これらを溶解する溶媒の種類やpHなどによって適宜選択することができる。これらの中でも、工業的に使用するには硝酸塩、炭酸塩、酸化物、水酸化物などが好ましい。触媒金属化合物として、一例を挙げると、触媒金属粒子として白金を用いる場合には、塩化白金酸、塩化アンミン白金、ジニトロジアンミン白金;イリジウムを用いる場合には、塩化イリジウムなど;パラジウムを用いる場合には、塩化パラジウムなどが挙げられる。
【0023】
また、二種以上の前記触媒金属粒子を用いる場合には、所望の前記触媒金属化合物を2種以上用いて、コロイド粒子を調製すればよい。このとき、1つのコロイド粒子内に2種以上の触媒金属粒子が含まれていてもよく、また、異なる触媒金属粒子を含む二種以上のコロイド粒子を複数調製してもよい。触媒金属粒子に二種以上の金属種を含む合金を用いる場合は、コロイド状態では合金化していてもよいが、コロイド状態では個々の金属状態を維持しており、後工程で焼成することにより、二種の金属を合金化するものであっても良い。
【0024】
前記触媒金属化合物を含む溶液における溶媒としては、通常は水であるが、水と水に可溶なアセトン、エタノール、メタノール、プロパノール、エチレングリコールなどの有機溶媒とを混合したものであってもよい。
【0025】
前記溶液における触媒金属化合物の濃度としては特に限定されず、所望の電極触媒が得られるように適宜決定すればよいが、溶媒に対して0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%程度とすればよい。前記濃度が0.1質量%未満であると触媒金属粒子の含有率が低いため所望の触媒金属粒子の担持量を得る際に効率が悪くなる恐れがあり、10質量%を超えると触媒金属粒子が均一に分散し難く、高分散坦持が困難となる恐れがある。
【0026】
前記触媒金属化合物を含む溶液に添加する保護剤としては、従来一般的に用いられているものであればよいが、クエン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリエーテルイミド(PEI)、トリエチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、3級アミンおよび4級アミン塩などのアミン化合物などが用いられる。
【0027】
3級アミンとして具体的には、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノプロパノールなどが挙げられる。
【0028】
また、4級アミン塩としては、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラ−n−プロピルアンモニウム塩、テトライソプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩などが挙げられる。前記4級アミン塩における陰イオン成分は、水酸化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオンである酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、および亜硝酸塩から選択される少なくとも1種を用いるのが好ましい。具体的には、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、などが挙げられる。また、前記保護剤は、触媒活性の低下や導電性担体の腐食を防止するため、硫黄または塩素を含有しないものを用いるのが好ましい。
【0029】
前記触媒金属化合物の還元剤としては、特に制限されないが、水素、ホウ素化水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、酢酸などの有機酸またはその塩、水素化ホウ素ナトリウム、蟻酸、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、エチレン、一酸化炭素、ヒドラジン等が挙げられる。ヒドラジン、アルコール類等の水溶液として調製し得るものは、濃度0.1〜40質量%の水溶液として用いてもよい。ホウ素化水素ナトリウムなどの粉末状の物質は、そのまま供給することができる。水素などの常温でガス状の物質は、バブリングで供給することもできる。
【0030】
前記触媒金属化合物を含む溶液に前記還元剤を添加した後は、還流反応装置などを用いて20〜100℃に加熱することにより、前記触媒金属化合物が還元されて微粒子状の触媒金属粒子が得られるとともに、これを保護剤が被覆してコロイド粒子を得ることができる。
【0031】
また、触媒金属化合物を含む溶液に保護剤および還元剤を添加する順序は特に限定されず、上述した通り保護剤を添加した後に還元剤を添加する順序の他、還元剤を添加した後に保護剤を添加する順序、または、保護剤および還元剤を同時に添加する順序、などのいずれであってもよい。
【0032】
本発明の方法では、触媒金属粒子が保護剤により被覆されてなるコロイド粒子の粒子径を、被覆する保護剤の厚さを調整することにより制御する。
【0033】
コロイド粒子の粒子径は、固体高分子電解質と導電性担体が有する細孔の大きさとを考慮して適宜決定するとよい。例えば、分子量が小さく細孔に比較的侵入し易い固体高分子電解質を用いる場合には、コロイド粒子の粒子径も小さくして細孔内の固体高分子電解質が侵入できる部分まで触媒金属粒子が担持されるようにするのがよい。これに対して、分子量が大きく導電性担体の細孔内に侵入しにくい固体高分子電解質を用いる場合には、コロイド粒子の粒子径も大きくしてできるだけ細孔内に触媒金属粒子が担持されないようにするのが望ましい。
【0034】
また、導電性担体の細孔直径の分布は、ガス吸着(BET法)やHgポロシメータを用いた細孔分布測定装置により測定することができる。
【0035】
前記コロイド粒子の粒子径は、保護剤の種類および/または重合度、添加量などにより調整するのが好ましい。これにより、コロイド粒子径の制御が極めて簡便かつ確実に行える。例えば、分子量や重合度の大きい保護剤を用いたり、添加量が多い場合には触媒金属粒子を被覆する保護剤の厚さが厚くなる傾向にあり、分子量や重合度の小さい保護剤を用いたり、添加量が少ない場合には触媒金属粒子を被覆する保護剤の厚さが薄くなる傾向にある。従って、所望する粒子径を有するコロイド粒子が得られるように、用いる保護剤の種類および/または重合度、添加量などを適宜選択するのがよい。
【0036】
前記コロイド粒子に含まれる触媒金属粒子の平均粒子径は、触媒金属化合物および還元剤の種類、添加量などを適宜調整することにより任意の値にすることができる。本発明では、触媒活性に十分な表面積が確保でき、触媒金属粒子の単位質量当たりの触媒活性量が増大された電極触媒とするため、好ましくは2〜10nm、より好ましくは2〜5nmとするのがよい。従来の方法では前記粒子径を有する触媒金属粒子は、導電性担体上に無作為に担持されるため、固体高分子電解質が侵入できない細孔内部にも前記触媒金属粒子が担持される恐れがあった。しかしながら、本発明の方法によれば、かような平均粒子径を有する触媒金属粒子であっても、導電性担体の固体高分子電解質が侵入できない細孔内部への前記触媒金属粒子の担持を抑制することができ、触媒金属粒子の利用率を向上させることができるのである。
【0037】
触媒金属粒子の平均粒子径を上記範囲内とするには、触媒金属化合物および還元剤の種類、添加量などを適宜調整するのがよい。なお、前記溶液における触媒金属粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による画像よりから求められる触媒粒子径の平均値から算出できる。また、本発明による手法で作製した電極触媒においては、導電性担体上に担持された触媒金属粒子の平均粒子径は、コロイド粒子内に含まれる触媒金属粒子の平均粒子径と同程度の値が得られるため、電極触媒における触媒金属粒子の平均粒子径をコロイド粒子内に含まれる触媒金属粒子の平均粒子径とすることもできる。作製した電極触媒における触媒金属粒子の平均粒子径は、X線回析における触媒金属粒子の回析ピークの半値幅より求められる結晶子径や透過型電子顕微鏡より調べられる触媒金属粒子の粒子径の平均値からも算出することができる。
【0038】
本発明の方法において、コロイド粒子を導電性担体に担持させるには、上述の通りに調製したコロイド粒子を含む溶液と、導電性担体とを混合すればよい。
【0039】
コロイド粒子を含む溶液は、上述した通りに調製したものを直接用いてもよい。この他にも、上述の通りに調製したコロイド溶液を一度、蒸発乾固させて、得られたコロイド粒子を、再度、水および/またはアセトン、エタノール、メタノール、プロパノール、エチレングリコールなどの有機溶媒に分散させて、コロイド粒子を含む溶液を調製してもよい。これによりコロイド調製時の過剰な還元剤や溶剤の除去が可能になる。
【0040】
前記導電性担体としては、上述したように、触媒金属粒子を高分散担持させるために高い比表面積を有するものが好ましく、一般的には、多孔質性の担体が用いられる。また導電性の観点から、前記導電性担体としてはカーボン粉末を用いるのが一般的であるが、カーボン粉末はマクロ細孔からウルトラミクロ細孔まで、広い細孔分布を示す。また、より好ましくは、導電性カーボン粒子が好ましく、特にBET比表面積が100〜2000m2/g、より好ましくは250〜1,600m2/gのカーボンブラック粒子を挙げることができる。前記導電性担体として、導電性カーボン粒子を用いることにより、集電体として十分な電子伝導性を有し、高い比表面積を有する導電性担体とすることができる。
【0041】
BET比表面積が上記範囲の導電性カーボン粒子であれば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、活性炭等であっても、またはカーボンナノホーンやカーボンナノチューブ、カーボンファイバー等と称されるものも使用することができる。特に、BET比表面積が700〜1,400m/gのケッチェンブラックや高温で一部をグラファイト化したBET比表面積が200〜600m/gの黒鉛化(グラファイト化)ケッチェンブラックと称される導電性カーボン粒子担体も好ましく使用できる。
【0042】
また、前記導電性担体は、市販品を用いることができ、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ライオン社製ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックEC600JD、三菱化学社製#3150、#3250などのオイルファーネスブラック;電気化学工業社製デンカブラックなどのアセチレンブラック等が挙げられる。
【0043】
なお、前記導電性担体は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム溶液などのアルカリ溶液で、該担体表面の付着物を洗浄したものであることがより好ましい。
【0044】
前記導電性担体の粒子の大きさとしては、特に限定されないが、電極触媒を用いて作製する電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するという観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜50nm程度のものを用いるのがよい。
【0045】
コロイド粒子を含む溶液に添加する導電性担体の添加量は、導電性担体の質量に対して、コロイド粒子に含まれる触媒金属粒子の質量で0.1〜1.2倍、好ましくは0.2〜0.5倍とするのがよい。これにより、得られる電極触媒における触媒金属粒子の担持量を適切な値にすることができる。
【0046】
前記導電性担体にコロイド粒子を担持させるには、特に制限されないが、(i)コロイド粒子を含む溶液と導電性担体とを混合および分散させた後、得られた混合液の温度およびpHを調整する方法、(ii)コロイド粒子を含む溶液と導電性担体とを混合した後、蒸発乾固させることにより溶媒を除去する方法、などが挙げられる。
【0047】
前記(i)の方法においては、ホモジナイザー、超音波分散装置等の適当な分散手段により所定時間、十分に分散させればよく、また、これらの分散手段は適宜組み合わせてもよい。pHおよび温度などの条件は使用する触媒金属粒子種、導電性担体種、溶液種によって変わるが、温度は20〜90℃、水酸化ナトリウム、アンモニア水などのpH調整剤を用いてpHを1〜10の範囲で適宜調整するのが好ましい。温度は、高すぎると導電性担体へ吸着するコロイド粒子が凝集する恐れがあり、低すぎると吸着等が促進されない恐れがある。また、pHは、高すぎても低すぎても触媒粒子の導電性担体への吸着が起こらないか又は溶液中の触媒粒子の分散性低下・凝集などが起こる恐れがある。また、前記(ii)の方法において、蒸発乾固条件としては特に制限されるものではなく、触媒溶液に用いられている溶媒の種類などに応じて適宜決定される。例えば、溶媒が水の場合には、混合液をロータリーエバポレータ等で適当に攪拌等しながら90℃程度以下で、溶媒である水分が完全に蒸発するまで加熱を続ければよい。90℃を超える場合には、溶媒が急激に蒸発するため、一部の導電性担体に触媒金属粒子が偏析する恐れがある。また、溶媒の蒸発は、減圧乾燥器などを用いて減圧環境下で行っても良い。蒸発乾固により得られた触媒担持炭素材がバルク形態の場合には、適当に粉砕していてもよい。
【0048】
しかしながら、本発明の方法では、前記導電性担体にコロイド粒子を担持させる方法として、コロイド粒子を還元処理することにより導電性担体上に担持させる方法が好ましく用いられる。すなわち、(iii)コロイド粒子を含む溶液と導電性担体とを混合した後、還元剤を添加することによりコロイド粒子を還元させて導電性担体上に担持させる方法、が好ましく用いられる。これにより、コロイド粒子を還元して導電性担体上に均一に高分散担持させた後、コロイド粒子に含まれる保護剤を除去させることができ、導電性担体上の触媒金属粒子を露出させることができる。
【0049】
前記還元剤としては、前記触媒金属化合物の還元剤として上記したものと同様のものを用いることができる。
【0050】
導電性担体上に担持される触媒金属粒子の担持量は、電極触媒の全量に対して10〜80質量%、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは20〜50質量%とするのがよい。前記担持量が、10質量%未満である場合、所望する触媒活性を得るために電極触媒量を増大させる必要が生じる。これにより電極触媒層が厚くなり、内部抵抗や反応物の拡散抵抗などが増大して電池性能の低下を招く恐れがある。また、80質量%を超えた場合には、導電性材料上に担持する触媒粒子の重なりが多くなり、使用する触媒粒子量に対して得られる触媒活性が小さくなるため、高コストになる恐れなどがある。このような担持量は、プラズマ発光分光分析法(ICP)による元素の濃度測定により測定することができる。また、触媒金属粒子の担持量が所望する値となるように、コロイド粒子を担持させる工程を繰り返し行ってもよい。
【0051】
本発明において、上述の通りに、導電性担体表面にコロイド粒子または触媒金属粒子のみを付着させた後、該担体が溶液中に含まれる場合には、該担体を溶液から単離して乾燥する。乾燥方法は、例えば自然乾燥、蒸発乾固法、ロータリーエバポレータ、噴霧乾燥機、ドラムドライヤーによる乾燥などを用いることができる。乾燥する際の時間および温度は、使用する方法に応じて適宜選択すればよい。これにより、導電性担体上に触媒粒子が担持された電極触媒が得られる。
【0052】
本発明の方法において、好ましくは、得られた電極触媒をさらに焼成する。場合によっては、乾燥工程を行わずに、焼成工程において乾燥させることとしてもよい。焼成を行うことにより、導電性担体上に残留している保護剤を除去することができる。なお、コロイド粒子を担持する際に、前記(iii)の方法を用いた場合、保護剤は還元剤により十分に除去されるため、さらに焼成を行わなくてもよく、製造工程の簡略化が図れる。
【0053】
焼成は、不活性ガス雰囲気下において、温度900〜1100℃で、30〜180分で十分である。一方、導電性担体が、カーボン粒子である場合には、焼成工程として、不活性ガス雰囲気下で900〜1100℃、より好ましくは920〜1000℃で焼成した後、さらに500〜700℃、より好ましくは550〜650℃に保持する工程を行うことが好ましい。これにより、触媒金属粒子の結晶化を進行させることができる。
【0054】
不活性ガスとしては、アルゴンや窒素、ヘリウムなどを使用することができる。これにより、カーボンの酸化が進行しないように制御することができる。
【0055】
また、上記焼成を行うことにより、触媒粒子の結晶成長を促進させ、二種以上の触媒粒子であった場合には合金化することができ、電極触媒の耐久性の向上が図れるとともに、触媒粒子を導電性担体上により強固に担持させることができる。
【0056】
本発明の方法によれば、電極触媒を製造する際に用いた触媒金属粒子の使用量に対して、70質量%以上、好ましくは80質量%以上の触媒金属粒子が固体高分子電解質と接触できる導電性担体表面に担持でき、担持された大部分の触媒金属粒子が三相界面を形成できる。これにより、白金粒子などの高価な触媒金属粒子の有効利用率を高めることができ、触媒金属粒子の使用量を低減させることができる。
【0057】
なお、三相界面を構成しない導電性担体上に触媒金属粒子が担持されないのが望ましいが、微量の触媒金属粒子が前記細孔内に担持されていても本発明の概念に含まれるものとする。また、上記した説明では、燃料電池における電極触媒層に用いられる電極触媒の製造方法を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明の方法は、多孔質担体上へ担持される触媒において、微細細孔内へ触媒粒子が担持されることが弊害とされるため、触媒担体表面の所定の直径を有する細孔内部に触媒金属粒子の担持が望まれない、液体燃料改質などの触媒の調製方法としても有用である。
【0058】
本発明の方法により得られる電極触媒は、高価な貴金属などの使用量を低減でき、製造コストの低減が図れることから、燃料電池に用いられるのが好ましい。前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、固体高分子型燃料電池、アルカリ型燃料電池、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物型燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能である固体高分子型燃料電池が好ましく挙げられる。
【0059】
固体高分子型燃料電池において、本発明の方法により得られた電極触媒は、アノード側電極触媒層および/またはカソード側電極触媒層における電極触媒として用いられるのが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。本発明は、下記実施例のみに限定されることはない。
【0061】
<実施例1>
図2に示す工程図に従って、電極触媒を作製した。詳細を下記に示す。
【0062】
(1)コロイド溶液の調製
2Lの純水に、ジニトロジアンミン白金3.12gと、テトラヒドロフラン600mL、エタノール800mLを加え、更に保護剤として15wt%の水酸化テトラメチルアンモニウム((CHNOH;TMA)水溶液88.36gを添加し、これを12時間加熱還流した。還流後の溶液は茶褐色であった。この溶液を蒸発乾固した後、アセトン2500mL/水500mLの混合溶媒に再溶解させ、溶液を蒸留してアセトンを除去し、さらに白金濃度1.0wt%となるまで濃縮し、白金粒子がTMAで被覆されてなるコロイド溶液(白金粒子の平均粒子径2.5nm)を得た。
【0063】
(2)電極触媒の作製
上記で調製したコロイド溶液を純水で希釈することにより白金濃度0.4wt%としたコロイド溶液250gに、カーボンブラック1(ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名Ketjenblack EC)1.0gを混合した後、超音波ホモジナイザーを用いて十分に分散させた。この混合液に還元剤としてエタノール50mlを加え、85℃で6時間、加熱攪拌をした後に室温まで放冷し、ろ過して得られた沈殿物を80℃で乾燥させ、電極触媒1(白金粒子;担持量50wt%、平均粒子径2.5nm)を得た。
【0064】
<実施例2>
図3に示す工程図に従って、電極触媒を作製した。詳細を下記に示す。
【0065】
(1)コロイド溶液の調製
純水400gに、塩化第二白金(PtCl(5HO))0.591gと、保護剤として数平均分子量25,000のポリビニルピロリドン(PVP)0.89gとを混合した後、攪拌して均一な水溶液を調製した。この水溶液に、還元剤としてエタノール100gを加え、90℃で2時間、加熱還流することにより、白金粒子がPVPで被覆されてなるコロイド溶液を得た。ロータリーエバポレータを用いてこのコロイド溶液を濃縮し、白金濃度0.4wt%のコロイド溶液(白金粒子の平均粒子径2.5nm)とした。
【0066】
(2)電極触媒の作製
上記で調製したコロイド溶液250gに、カーボンブラック2(キャボット社製、商品名Vulcan XC−72)1.0gを混合した後、超音波ホモジナイザーを用いて十分に分散させた。この混合液に還元剤としてエタノール50mlを加え、85℃で6時間、加熱攪拌した後に室温まで放冷し、ろ過して得られた沈殿物を80℃で乾燥させ、電極触媒2(白金粒子;担持量50wt%、平均粒子径2.5nm)を得た。
【0067】
<比較例1>
図5に示す工程図に従って、電極触媒を作製した。詳細を下記に示す。
【0068】
0.4質量%のPtを含んだジニトロジアンミン白金硝酸塩水溶液250gに、実施例1で用いたのと同様のカーボンブラック1(ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名Ketjenblack EC)1.0gを加え、超音波ホモジナイザーを用いて十分に分散させた後、これに還元剤としてエタノール50mlを加え、還流反応装置を用いて80℃に加熱し、Ptの還元担持を行った。そして、室温まで放冷した後、ろ過して得られた沈殿物を80℃で乾燥させ、比較電極触媒1(担持量50wt%、平均粒子径2.5nm)を得た。
【0069】
<比較例2>
カーボンブラック1の代わりに、実施例2で用いたのと同様のカーボンブラック2(キャボット社製、商品名Vulcan XC−72)を用いた以外は、比較例1と同様にして、比較電極触媒2(担持量50wt%、平均粒子径2.5nm)を得た。
【0070】
<評価>
上記で得られた電極触媒1〜2および比較電極触媒1〜2を3次元透過型電子顕微鏡(3−D TEM)にて観察した。電極触媒1および2は導電性担体の細孔内部には白金粒子が担持されていないことが観察できた。これに対して、比較電極触媒1〜2では導電性担体の細孔内部まで微小金属粒子が担持されていることが確認できる。細孔内部にまで担持された白金粒子は固体高分子電解質と接触することができないため、従来の方法では白金の使用量に対して利用率が低い。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の方法によれば触媒金属粒子の使用量が少量であっても、所望する触媒活性を有する電極触媒を作製することができ、電極触媒の製造コストの削減などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の方法により得られた電極触媒の表面と固体高分子電解質の接触状態を示す模式図である。
【図2】実施例1に対応する、本発明の電極触媒の製造方法の工程図である。
【図3】実施例2に対応する、本発明の電極触媒の製造方法の工程図である。
【図4】従来の電極触媒の表面と固体高分子電解質の接触状態を示す模式図である。
【図5】比較例1に対応する、本発明の電極触媒の製造方法の工程図である。
【符号の説明】
【0073】
1…導電性担体、2…固体高分子電解質、3…固体高分子電解質と接触している触媒粒子、4…固体高分子電解質と接触しない触媒粒子、5…導電性担体の細孔内部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属粒子が保護剤で被覆されてなるコロイド粒子を含む溶液と、細孔を有する導電性担体とを混合し、前記コロイド粒子を前記導電性担体に担持させる工程を含む電極触媒の製造方法において、
前記保護剤により前記コロイド粒子の粒子径を調整することで、前記細孔内へ前記コロイド粒子が担持されないように制御する電極触媒の製造方法。
【請求項2】
前記コロイド粒子の粒子径は、前記保護剤の種類および/または重合度により調整する請求項1記載の電極触媒の製造方法。
【請求項3】
前記触媒金属粒子の平均粒子径が2〜10nmである請求項1または2記載の電極触媒の製造方法。
【請求項4】
前記コロイド粒子が担持されてなる前記導電性担体を焼成する工程を含む請求項1〜3のいずれかに記載の電極触媒の製造方法。
【請求項5】
前記請求項1〜4に記載の方法により得られた電極触媒。
【請求項6】
前記電極触媒が、燃料電池用電極触媒である請求項5記載の電極触媒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−181541(P2006−181541A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380763(P2004−380763)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】