説明

電歪アクチュエータ

【課題】従来の圧電アクチュエータに比べて、より大きな駆動力が得られ、製造が容易で、かつ、信頼性の高いアクチュエータを提供する。
【解決手段】電歪アクチュエータ20において、複数の電歪素子10の各々を、電歪材料層1を基材5より凸側にして湾曲した少なくとも2つの活性領域Aと、隣接する2つの活性領域A間に位置する不活性領域Bとに区画し、第1の電極3aを、第1の面1a内で活性領域Aおよび不活性領域Bを被覆するように設け、第2の電極3bを、第2の面1b内で活性領域Aを被覆し、かつ、不活性領域Bを部分的に通って電気的導通を確保するように設け、複数の電歪素子10の全てを、不活性領域Bのうち第2の電極3bが設けられていない部分において接合9する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電歪アクチュエータに関し、より詳細には、ユニモルフ構造を有する電歪素子を用いた電歪アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電圧を印加することにより変位を生ずるアクチュエータの1つとして、圧電アクチュエータが知られている。圧電アクチュエータには、2枚の圧電シートを貼り合わせたバイモルフ構造を有する圧電素子のほか、1枚の圧電シートを基材に貼り合わせたユニモルフ構造を有する圧電素子も用いられている。
【0003】
近年、圧電素子の高速応答性を利用して、圧電アクチュエータを利用した各種のリニアアクチュエータが開発されている。しかしながら、圧電素子は一般的に変位が小さいので、圧電アクチュエータを使用しつつも、より大きな変位を得るために、圧電素子を蛇行形状とすることが提案されている(特許文献1を参照のこと)。これは、より詳細には、蛇行するように形成した長尺板状の圧電材料層の両面に、その圧電材料層の蛇行の一方の湾曲部に対応する第1の電極と、蛇行の他方の湾曲部に対応する第2の電極とを、各面内において、隙間を介して噛合するように組み合せて配置し、そして、第1の電極と第2の電極とに互いに異なる極性をもって同時に通電させるものである。よって、一方の湾曲部に配置された第1の電極間に印加される電圧の極性と、他方の湾曲部に配置された第2の電極間に印加される電圧の極性とが異なるため、一方の湾曲部および他方の湾曲部の双方を同時に伸ばすことができ、また、一方の湾曲部および他方の湾曲部の双方を同時に縮ませることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−84013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リニアアクチュエータは、例えば負荷を直線的に移動させるなどの用途において、できるだけ大きな駆動力を生じることが求められる。しかしながら、従来の圧電アクチュエータで得られる駆動力は、必ずしも十分満足できる大きさではない。また、従来の圧電アクチュエータでは、電歪材料層の両面の各々に、第1の電極と第2の電極を隙間を介して噛合するように形成し、かつ、片面側の第1の電極および第2の電極と、もう片面側の第1の電極および第2の電極とを、それぞれ位置合わせして形成する必要があるので、高精度のアライメントを要し、製造が煩雑になるという難点がある。更に、同一面上で隙間を介して噛合する第1の電極および第2の電極に対して、異なる極性で同時に通電が行われるので、電極間放電を起こしやすく、信頼性が低いという難点もある。
【0006】
本発明は、従来の圧電アクチュエータに比べて、より大きな駆動力が得られ、製造が容易で、かつ、信頼性の高いアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ユニモルフ構造を有する電歪アクチュエータを用い、その構成について更なる鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の1つの要旨によれば、第1および第2の面を有する電歪材料層と、電歪材料層の第1の面に配置された第1の電極と、電歪材料層の第2の面に配置された第2の電極と、第1の電極を介して電歪材料層の第1の面に接合された基材とにより各々構成された複数の電歪素子を含む電歪アクチュエータであって、複数の電歪素子の各々が、電歪材料層の側を凸側にして湾曲した少なくとも2つの活性領域と、隣接する2つの活性領域間に位置する不活性領域とを有し、第1の電極は、第1の面内で活性領域および不活性領域を被覆するように設けられ、第2の電極は、第2の面内で活性領域を被覆し、かつ、不活性領域を部分的に通って電気的導通を確保するように設けられ、複数の電歪素子の全てが、不活性領域のうち第2の電極が設けられていない部分において接合されている、電歪アクチュエータが提供される。
【0009】
本発明の上記電歪アクチュエータは、第1および第2の面を有する電歪材料層と、電歪材料層の第1の面に配置された第1の電極と、電歪材料層の第2の面に配置された第2の電極と、第1の電極を介して電歪材料層の第1の面に接合された基材とにより構成された電歪素子を複数個用いたものである。かかる電歪素子は、ユニモルフ構造を有する電歪素子である。
【0010】
そして、本発明の上記電歪アクチュエータでは、複数の電歪素子の各々を、電歪材料層の側を凸側にして湾曲した少なくとも2つの活性領域と、隣接する2つの活性領域間に位置する不活性領域とに区画し、第1の電極および第2の電極を、それぞれ電歪材料層の第1の面および第2の面内で活性領域を被覆するように設け、複数の電歪素子の全てを、不活性領域の第2の電極が設けられていない部分において接合している。かかる構成によれば、第1および第2の電極間に電圧を印加すると、各電歪素子は、独立して、全ての活性領域においてより一層屈曲して縮み、これにより発生した縮む力が、不活性領域の接合部で合成され、その結果、大きな駆動力を得ることができる。
【0011】
上述した従来の圧電アクチュエータを利用し、特許文献1に記載される蛇行した圧電素子を複数個用い、これらを接合しようとしても、かかる圧電素子では、第1の電極と第2の電極との隙間を除く全ての領域が変形に関与する活性領域となるため、隣り合う圧電素子間の動きに時間的なズレがある場合に、各圧電素子の動き(伸びる動きまたは縮む動き)が相互に妨げられる。仮に、複数の圧電素子の全てを重ね合わせて、全領域で接合したとすると、各圧電素子の動きが拘束され、効率的に変形することができず、変位の点でも、駆動力の点でも問題がある。また、仮に、複数の圧電素子の全てを局所的に接合したとしても、変形を生じる活性領域で接合せざるを得ないので、この接合部に応力が集中すると、接合部が変形に繰り返し曝されることより、クラックを生じ易くなるという問題がある。
【0012】
これに対して、本発明の上記電歪アクチュエータでは、各電歪素子において、隣接する2つの活性領域間に不活性領域を設け、複数の電歪素子の全てを、不活性領域の第2の電極が設けられていない部分、すなわち、変形に関与しない部分において接合している。これにより、各電歪素子は、その動き(活性領域にて縮む動き)が拘束されることなく、効率的に変形(活性領域にて一層屈曲)することができ、大きな変位および力を発生させることができる。このようにして発生した力は、接合部に伝達されて合成され、大きな駆動力を生じることができるが、かかる接合部は変形に関与しない部分にあるので、接合部に応力が集中しても、接合部は変形に曝されないので、クラックの発生を回避することができる。
【0013】
更に、本発明の上記電歪アクチュエータによれば、第1の電極を、電歪材料層の第1の面内で活性領域および不活性領域の両方を被覆するように設けているので、第1の電極は複雑なパターンで形成する必要がなく、例えば第1の面のほぼ全面に亘って形成してよい。よって、第2の電極を、電歪材料層の第2の面に形成するのに、第1の電極に対して位置合わせする必要がない。従って、高精度のアライメントを要せず、本発明の電歪アクチュエータは、容易に製造することができる。
【0014】
加えて、本発明の上記電歪アクチュエータによれば、第1および第2の電極は、それぞれ電歪材料層の第1および第2の面上に配置され、同一面上に存在しないうえ、第1の電極は電歪材料層と基材との間に挟まれているため、これら2つの電極が電気的に接触することがない。よって、電極間放電が起こらず、信頼性の高いアクチュエータを提供することができる。
【0015】
本発明の1つの態様においては、不活性領域は、基材の側を凸側にして湾曲している。これにより、活性領域の湾曲方向と、不活性領域の湾曲方向とを、反対向きにできるので、電歪アクチュエータの一端を固定して垂下した(または吊り下げた)場合に、各電歪素子の重心をバランスよく位置させることができ、変位時に傾くことがなく、垂直方向の変位を効率的に得ることができる。
【0016】
本発明の1つの態様においては、複数の電歪素子が並行に配置され、1つの電歪素子の基材が、該1つの電歪素子に隣接する別の電歪素子の第2の電極に面している。これにより、複数の電歪素子を活性領域の湾曲方向を揃えて重ねて配置することができ、電歪アクチュエータ全体が占める体積を小さくすることができ、体積当りの駆動力を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の圧電アクチュエータに比べて、より大きな駆動力が得られ、製造が容易で、かつ、信頼性の高いアクチュエータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の1つの実施形態における電歪アクチュエータを示す概略断面図であって、図1(a)は電圧を印加していない状態(非駆動状態)、図1(b)は電圧を印加した状態(駆動状態)を示す。
【図2】図1の実施形態における電歪アクチュエータを製造するために使用されるユニモルフ(ユニモルフ構造を有するシート)を示す図であって、図2(a)はユニモルフの概略断面図を示し、図2(b)は図2(a)のX方向から見た第1の電極の概略平面図を示し、図2(c)は図2(a)のX方向から見た第2の電極の概略平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の1つの実施形態における電歪アクチュエータについて、以下、図面を参照しながら詳述する。
【0020】
図1を参照して、本実施形態の電歪アクチュエータ20は、複数の電歪素子10を含む(図示する態様では、例示的に3つの電歪素子を示すが、本発明はこれに限定されない)。各電歪素子10は、第1の面1aおよび第2の面1bを有する電歪材料層1と、電歪材料層1の第1の面1aに配置された第1の電極3aと、電歪材料層1の第2の面1bに配置された第2の電極3bと、第1の電極3aを介して電歪材料層1の第1の面1aに接合された基材5とにより構成される。各電歪素子10は、電歪材料層1の側を凸側にして湾曲した少なくとも2つの活性領域Aと、隣接する2つの活性領域A間に位置する不活性領域Bとを有し、第1の電極3aは、第1の面1a内で活性領域Aおよび不活性領域Bを被覆するように設けられ、第2の電極3bは、第2の面1b内で活性領域Aを被覆し、かつ、不活性領域Bを部分的に通って(図示せず)電気的導通を確保するように設けられる。そして、複数の電歪素子10の全てが、不活性領域Bのうち第2の電極3bが設けられていない部分において接合されている。
【0021】
各電歪素子10において、電歪材料層1は、高分子電歪材料から形成される。高分子電歪材料は、永久双極子を有する高分子材料であれば、特に限定されない。高分子電歪材料の例としては、PVDF(ポリビニリデンフルオロイド)、PVDF系の共重合体、例えば、P(VDF−TrFE)などのコポリマーや、P(VDF−TrFE−CFE)、P(VDF−TrFE−CTFE)、P(VDF−TrFE−CDFE)、P(VDF−TrFE−HFA)、P(VDF−TrFE−HFP)、P(VDF−TrFE−VC)などのターポリマーが挙げられる(Pはポリを、VDFはビニリデンフルオライドを、TrFEはトリフルオロエチレンを、CFEはクロロフルオロエチレンを、CTFEはクロロトリフルオロエチレンを、CDFEはクロロジフルオロエチレンを、HFAはヘキサフルオロアセトンを、HFPはヘキサフルオロプロピレンを、VCはビニルクロライドを意味する)。なかでも、P(VDF−TrFE−CFE)が、大きな歪みが得られる点で特に好ましい。電歪材料層1の厚さは適宜設定してよいが、例えば数μm〜100μm程度とし得る。複数の電歪素子10間で、電歪材料層1は、使用する高分子電歪材料および厚さが異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0022】
また、各電歪素子10において、2つの電極3a、3bは、電極として機能し得る限り、任意の適切な導電性材料から形成してよい。かかる導電性材料の例としては、Ni(ニッケル)、Pt(白金)、Pt−Pd(白金−パラジウム合金)、Al(アルミニウム)、Au(金)、Au−Pd(金パラジウム合金)などの金属材料、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、PPy(ポリピロール)、PANI(ポリアニリン)などの有機導電性材料などが挙げられる。このうち、有機導電性材料は、クラックが導入され難いので好ましい。電極3a、3bの厚さは、使用する導電性材料などに応じて適宜設定してよいが、例えば20nm〜10μm程度とし得る。複数の電歪素子10間で、電極3a、3bは、使用する導電性材料および厚さが異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0023】
また、各電歪素子10において、基材5は、後述する湾曲成形を実施し得る限り、任意の適切な可撓性材料から形成してよい。かかる可撓性材料の例としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、セロファン、塩化ビニル、ポリイミド、ポリエステルなどが挙げられる。また、基材5は、上述したような電歪材料から形成してもよい。基材5の厚さは適宜設定してよいが、例えば数μm〜100μm程度とし得る。複数の電歪素子10間で、基材5は、使用する可撓性材料(または電歪材料)および厚さが異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0024】
各電歪素子10は、少なくとも2つの活性領域A(図示する態様では2つの活性領域Aを示すが、本発明はこれに限定されない)において電歪材料層1の側(図1中、右側)を凸側にして湾曲している。隣接する2つの活性領域A間にある不活性領域Bは、任意の適切な形状を有し得るが、図示するように、基材5の側(図1中、左側)を凸側にして湾曲していることが好ましい。電歪素子10の湾曲部分は、いずれも円弧状の断面形状を有することが好ましく、活性領域を成す湾曲部分の曲率半径と、不活性領域を成す湾曲部分の曲率半径とは同等であることがより好ましい。しかしながら、本発明はこれに限定されず、不活性領域Bは、他の断面形状(例えばストレート状など)であってもよい。
【0025】
第1の電極3aは、電歪材料層1の第1の面1a内で活性領域Aおよび不活性領域Bを被覆するように設けられる限り、任意の適切なパターンを有し得る。かかる第1の電極3aは、第1の面1aのほぼ全面に亘って形成すること(図2(b)を参照のこと)が、製造上簡便であるので好ましい。他方、第2の電極3bは、電歪材料層1の第2の面1b内で活性領域Aを被覆し、かつ、不活性領域Bを部分的に通って電気的導通を確保するように設けられる限り、任意の適切なパターンを有し得る。かかる第2の電極3bは、例えば、不活性領域Bをその端部にて直線的に通過するものであってよく、両端部(図示する態様では上端部および下端部)においては必要に応じて適宜設けられていてよい(図2(c)を参照のこと)。複数の電歪素子10間で、第1の電極3aおよび第2の電極3bは、パターンが異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0026】
本実施形態の電歪アクチュエータ20において、以上のような電歪素子10が複数個並行に配置される。このとき、1つの電歪素子10の基材5が、これに隣接する別の電歪素子10の第2の電極3bに面するように配置することが好ましい。電歪素子10の湾曲方向を揃えることにより、電歪素子10を近接して配置することができ、電歪アクチュエータ20全体(複数の電歪素子10のアセンブリ)が占める体積を小さくすることができ、体積当りの駆動力を大きくすることができる。また、隣接する電歪素子10間で、第2の電極3b同士を対向させて配置した場合には、電極同士のこすれによる摩耗や、部分的な電位差による微小放電が起こり得るが、上記のように配置することで、これを回避することもできる。
【0027】
そして、本実施形態の電歪アクチュエータ20において、これら複数の電歪素子10の全てが、不活性領域Bのうち第2の電極3bが設けられていない部分において接合されている。第2の電極3bが設けられていない部分では、例えば接合部材9により、電歪素子10を容易に接合することができる。不活性領域Bが複数存在する場合、複数の電歪素子10は、少なくとも1つの不活性領域Bで接合されていればよいが、2つまたはそれ以上の不活性領域Bで接合されていることが好ましい。
【0028】
次に、かかる電歪アクチュエータ20の製造方法について説明する。
【0029】
まず、ユニモルフ構造を有する可撓性のシート(以下、本明細書において単に「ユニモルフ」と呼ぶ)を準備する。図2(a)を参照して、ユニモルフ7は、第1の面1aおよび第2の面1bを有する電歪材料層1と、第1の面1aおよび第2の面1bにそれぞれ配置された第1の電極3aおよび第2の電極3bと、第1の電極3aを介して電歪材料層1の第1の面1aに接合された基材5とにより構成され、全体として可撓性を有するものとされる。
【0030】
このようなユニモルフ7は、例えば以下のようにして作製可能である。電歪材料層1の第1の面1aに第1の電極3aを、また、第2の面1bに第2の電極3bを、例えば図2(b)および(c)にそれぞれ示すような所定のパターンで形成する。電極材料に金属材料を用いる場合には、蒸着またはスパッタリングなどによって電極を形成できる。電極材料に有機導電性材料を用いる場合には、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷、刷毛塗布などによって電極を形成できる。これにより得られた電極3a、3b付き電歪材料層1の第1の面1aに、第1の電極3aを介して基材5を接合させる。この接合は、例えば、熱硬化型または紫外線硬化型などの接着剤を用いて実施できる。これにより、ユニモルフ7が作製される。しかしながら、ユニモルフ7の作製方法はかかる例に限定されず、例えば、基材5の上に電極3aを予め形成しておき、その電極3aの上に電歪材料を塗布またはキャスティングすることにより電歪材料層1を形成し、更に、その電歪材料層1の上に電極3bを形成してもよい。
【0031】
次に、このユニモルフ7を湾曲成形して、電歪素子10を得る。具体的には、シート状のユニモルフ7を、例えば波形のプレス型を用いて、活性領域Aでは電歪材料層1が基材5よりも凸側になるように湾曲させ、好ましくは不活性領域Bでは基材5が電歪材料層1よりも凸側になるように湾曲させ、そのまま熱処理に付して基材5を熱成形し、その後、型から外すことによって、湾曲成形を実施できる。熱処理の温度および時間は、使用する基材5の材料に応じて適宜設定し得る。例えば、基材5がPETから成る場合、80〜100℃で5〜10分間の熱処理により熱成形できる。
【0032】
これにより電歪素子10を複数個作製し、これら電歪素子10を並行に重ね合わせて配置し、複数の電歪素子10の全てを、不活性領域Bのうち第2の電極3bが設けられていない部分において一体的に接合する。この接合は、例えばバンド、クリップなどの接合部材9を用いたり、熱硬化型または紫外線硬化型などの接着剤を用いたりして適宜実施できる。
【0033】
なお、使用する電歪素子10の個数、これら電歪素子10の接合箇所数、各電歪素子10の長さ、各電歪素子10における活性領域Aおよび不活性領域Bの長さおよび数、活性領域および好ましくは不活性領域の湾曲形状(曲率半径)などは、電歪アクチュエータ20の用途などに応じて適宜設定し得る。
【0034】
以上のようにして、電歪アクチュエータ20が製造される。電歪アクチュエータ20は、電極3a、3bを電源(図示せず)に接続して使用される。
【0035】
本実施形態の電歪アクチュエータ20は、可撓性の(柔らかい)電歪素子10を用いているため、耐衝撃性が高く、壊れにくいという利点がある。その一方で、電歪アクチュエータ20は、少なくとも2つの活性領域を有する電歪素子10を複数個用い、これらを相互に接合して成っているので、大きい変位および駆動力を発生させることができる。また、かかる電歪素子10を用いた電歪アクチュエータ20は、小型で軽量であるという利点もある。
【0036】
次に、電歪アクチュエータ20の使用方法(動作)の例について説明するが、本発明の電歪アクチュエータは、かかる使用方法に限定されるものではない。
【0037】
電歪アクチュエータ20は、非駆動状態(電圧を印加していない状態)では、図1(a)に示す形態を取っている。この例において、電歪アクチュエータ20を、その一端20aにて、例えば壁面30などに固定して垂下し(または吊り下げ)、その他端20bに負荷31を加えている。なお、電歪アクチュエータ20の一端20aは、複数の電歪素子10を同時に固定して垂下できる限り、また、その他端20bは、複数の電歪素子10が共同して負荷31に力を及ぼすことができる限り、いずれも任意の適切な形態を有してよい(図示する態様では、電歪アクチュエータ20の一端20aおよび他端20bにて、全ての電歪素子10が共通の部材に接続されているが、これに限定されない)。
【0038】
そして、電歪アクチュエータ20の各電歪素子10における電極3a、3b間に電圧を印加することにより、電歪アクチュエータ20を駆動する。すると、各電歪素子10の活性領域Aでは、電歪材料層1が厚さ方向(電界方向)に縮み、面内方向で伸びるため、電歪材料層1と基材5との間で寸法差が生じて、湾曲した活性領域が一層屈曲して、長手方向(この場合、垂直方向)に縮む。この縮む動きは、隣り合う電歪素子10同士で妨げられることなく、活性領域A毎に個別に起こる。これにより発生した力は、接合部に伝達されて合成され、最終的に、電歪アクチュエータ20の他端20bにて駆動力として発現し、負荷31に作用してこれを引っ張る(この場合、垂直方向に引上げる)ことができる。この場合において、不活性領域Bが活性領域Aと反対側に湾曲していると、各電歪素子10の重心をバランスよく位置させることができ、変位時に傾くことがなく、垂直方向の変位を効率的に得ることができる。
【0039】
なお、電歪素子10が複数箇所で接合されている場合には、より大きな駆動力を得るためには、接合部間(図示する態様では接合部材9間)で並列接続された複数の活性領域Aでほぼ等しいこと(いわゆる「遊んでる部分」がないこと)が好ましい。
【0040】
その後、電極3a、3b間に印加していた電圧を除去することにより、電歪アクチュエータ20の駆動を停止する。すると、各電歪素子10の活性領域Aは元の状態に戻り、これによって、電歪アクチュエータ20は、図1(a)に示す形態に回復する。
【0041】
電歪アクチュエータ20の駆動力は、負荷31がない状態では、他端20bの変位の大きさとして端的に表わされる。
【0042】
以上より、電歪アクチュエータ20を用いて、2つの電極3a、3b間に電圧を印加および除去すれば、リニア動作を行うことができる。変位の大きさおよび駆動力は、各電歪素子10の長さ、電歪材料層1の厚み、基材5の厚み、電歪材料の電歪定数、電歪材料や基材の弾性率、印加する電圧の大きさなどにより様々であり得る。一般に、圧電素子では分極戻りを回避するために、あまり大きな電圧を印加することはできない。例えば、従来の圧電アクチュエータでは、圧電材料層厚さ1μm当り60Vまでの電圧しか印加されていない(特許文献1の図12を参照のこと)。これに対して、電歪素子では、耐電界の範囲内で、より大きな電圧を印可することが可能である。本発明者は、電歪材料層厚さ1μm当り180V程度まで印加できることを確認している。各素子に印加する電圧を大きくすることにより、得られる変位量も大きくできる。更に、電歪アクチュエータ20によれば、このように大きな電圧を印加できる電歪素子を複数接合して使用しているので、各電歪素子でより大きい変位を得ることができるうえ、全体として、より大きな駆動力を得ることができる。
【0043】
以上、本発明の電歪アクチュエータおよびその使用方法について詳述したが、本発明は種々の改変が可能であろう。
【0044】
例えば、イオン導電性高分子膜(ICPF: Ionic Conductive Polymer Film)や、バッキーゲルなどを利用してよい。
【0045】
イオン導電性高分子膜を利用する場合、概略的には、上記電歪材料層に代えて、イオン交換樹脂層を用いることにより、アクチュエータを作製することができる。より詳細には、イオン交換樹脂層(例えば、デュポン株式会社製の「ナフィオン」(登録商標)など)の両面にAu、Ptなどの金属材料を所定のパターンで化学めっきして電極を形成して、イオン性ポリマー−金属複合体(IPMC: Ionic Polymer Metal Composite)を得る。ここで、イオン交換樹脂層が電歪材料層に代わるものである。得られた複合体の片面を(よって、いずれか一方の電極を介して)PETなどから成る基材に接合する。これにより得られる構造体を複数個用いて、これら構造体を上述した湾曲成形方法と同様にしてそれぞれ成形する(例えば波形のプレス型を用いて、所定の形状に湾曲させ、そのまま熱処理に付して基材を熱成形する)ことによって、複数の素子を得ることができる。そして、これら素子を、上述した接合方法と同様にして接合することができる。この場合、各素子の電極間に印加する電圧の極性を正または負とすることにより、伸びる動作または縮む動作を提供することができる。
【0046】
バッキーゲルは、イオン性液体とカーボンナノチューブとのゲル状複合体である。バッキーゲルを利用する場合、概略的には、上記電極に代えて、バッキーゲルを利用したシートを用いることにより、アクチュエータを作製することができる。より詳細には、まず、3つのシートを次のようにして準備する。イミダゾリウム系イオン液体(例えば1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(BMITFSI))に単層カーボンナノチューブおよびフッ素系材料(例えばP(VDF−HFP))を加えた懸濁液を乳鉢で、乳棒を使ってすり潰し、これをキャスティングすることにより、カーボンナノチューブを含んだ第1のシートを2つ作製する。これら2つの第1のシートのうち、1つはそのままとし、もう1つは所定のパターンで打ち抜きまたはカットする。また、イオン液体およびフッ素系材料を混合し、これをキャスティングすることにより、イオン液体およびフッ素系材料からなる第2のシートを1つ作製する。そして、これら3つのシートを、2つの第1のシートの間に第2のシートを配置した状態で重ね合わせ、これを熱プレスすることにより、三層構造を有する複合シートを作製する。ここで、第2のシートが電歪材料層に代わるものであり、その両面に各々配置された2つの第1のシートのうち、パターン形成せずにそのまま用いたものが第1の電極に代わるものであり、パターン形成したものが第2の電極に代わるものである。そして、この複合シートのパターン形成していない第1のシート側の面を(よって、第1の電極を介して)PETなどから成る基材に接合する。これにより得られる構造体を複数個用いて、これら構造体を上述した湾曲成形方法と同様にしてそれぞれ成形する(例えば波形のプレス型を用いて、所定の形状に湾曲させ、そのまま熱処理に付して基材を熱成形する)ことによって、複数の素子を得ることができる。そして、これら素子を、上述した接合方法と同様にして接合することができる。
【実施例】
【0047】
電歪材料層として、幅10mm、長さ50mm、厚さ5μmのP(VDF−TrFE−CFE)から成る層を用い、その両面にAlを蒸着して、厚さ20nmのAl電極を形成した。このとき、電歪材料層の片面(第1の面)は全面を(マスクを施さずに)露出させるものとし、第1の電極(Al電極)を全面に形成したが、もう片面(第2の面)には、活性領域に相当する長さ10mmの2つの領域を(マスクを施さずに)露出させ、これら活性領域の間に位置する不活性領域に相当する長さ10mmの1つの領域(但し、電気的導通を確保するための幅2mmの領域を除く)および両端に位置する長さ10mmの2つの領域にマスクを施して、第2の電極(Al電極)をパターン形成した。電歪材料層の第1の電極を形成した面側に、幅10mm、長さ30mm、厚さ6μmのPETから成る基材を、熱硬化型の接着剤を用いて接合した。これにより、ユニモルフを得た。
このユニモルフを、約3mmの曲率半径を有する波形のプレス型を用いて、活性領域において電歪材料層が基材よりも凸側になり、不活性領域において基材が電歪材料層よりも凸側になるように湾曲させた。そのまま80℃の空気雰囲気中に5分間維持し、その後、自然冷却して、型から外して、湾曲した電歪素子を得た。この電歪素子は、2つの活性領域(第2の電極により全面が被覆されている領域)と、活性領域間に位置する1つの不活性領域および両端部に位置する領域(第2の電極により実質的に被覆されていない領域)を有する。
以上と同じ操作を行って、合計2つの電歪素子を作製した。
【0048】
なお、各電歪素子は、単独の状態で略垂直に吊り下げ、電極間に900V(電歪材料層厚さ1μmあたり180V)の直流電圧を印加すると、長さ方向に約5mm(約10%)の変位(縮み)を示した。
【0049】
上記のようにして得られた2つの電歪素子を、凸方向を揃えて重ね合わせて、各不活性領域において導通部を避けて熱硬化型の接着剤により相互に接合すると共に、それらの一端および他端を熱硬化型の接着剤を用いて相互に接合した。これにより、本実施例の電歪アクチュエータを作製した。
【0050】
本実施例の電歪アクチュエータを略垂直に吊り下げ、(無負荷の状態で)各電歪素子の電極間にそれぞれ900V(電歪材料層厚さ1μmあたり180V)の直流電圧を印加したところ、長さ方向に約5mm(約10%)の変位(縮み)を示し、電歪素子を単独の状態で用いた変位と同じであった。
【0051】
更に、本実施例の電歪アクチュエータを使用して、重りを引っ張ってみた。具体的には、電歪アクチュエータの一端を壁面に固定して略垂直に吊り下げ、他端に5gの重りを付けて、各電歪素子の電極間にそれぞれ900V(電歪材料層厚さ1μmあたり180V)の直流電圧を印加したところ、重りを2mm引上げることができた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の電歪アクチュエータは、リニアアクチュエータとして、特に制限されることなく様々な分野において幅広く利用され得る。
【符号の説明】
【0053】
1 電歪材料層
1a 第1の面
1b 第2の面
3a 第1の電極
3b 第2の電極
5 基材
7 ユニモルフ
9 接合部材
10 電歪素子
20 電歪アクチュエータ
20a 一端
20b 他端
30 壁面
31 負荷
A 活性領域
B 不活性領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の面を有する電歪材料層と、電歪材料層の第1の面に配置された第1の電極と、電歪材料層の第2の面に配置された第2の電極と、第1の電極を介して電歪材料層の第1の面に接合された基材とにより各々構成された複数の電歪素子を含む電歪アクチュエータであって、複数の電歪素子の各々が、電歪材料層の側を凸側にして湾曲した少なくとも2つの活性領域と、隣接する2つの活性領域間に位置する不活性領域とを有し、第1の電極は、第1の面内で活性領域および不活性領域を被覆するように設けられ、第2の電極は、第2の面内で活性領域を被覆し、かつ、不活性領域を部分的に通って電気的導通を確保するように設けられ、複数の電歪素子の全てが、不活性領域のうち第2の電極が設けられていない部分において接合されている、電歪アクチュエータ。
【請求項2】
不活性領域は、基材の側を凸側にして湾曲している、請求項1に記載の電歪アクチュエータ。
【請求項3】
複数の電歪素子が並行に配置され、1つの電歪素子の基材が、該1つの電歪素子に隣接する別の電歪素子の第2の電極に面している、請求項1または2に記載の電歪アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−8733(P2013−8733A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138650(P2011−138650)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)