説明

電気ケーブル絶縁層用の有機ゲル

【課題】誘電安定性及び非ブリーディング特性を有する誘電性流体が含浸された電気絶縁層を有する電気ケーブルの提供。
【解決手段】少なくとも1個のコンダクター(10)と、オイル及び有機ゲル化剤を含む有機ゲルを有する誘電性流体が含浸された、該コンダクターを取り囲む電気絶縁層(12)とを備える電気ケーブルであって、該オイルが200℃以下の引火点を有する非極性オイルであることを特徴とする電気ケーブルを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ゲルを含む誘電性流体を含浸した電気絶縁層を有する電気ケーブルに関する。
【0002】
特に、該電気ケーブルは、直流伝送ケーブル(DC伝送ケーブル)、より好ましくは特に1200MWを超える伝送容量を有する高電圧直流ケーブル(HVDC伝送ケーブル)である。
【背景技術】
【0003】
典型的なDC伝送ケーブルは、コンダクターと、内部半導体シールド、絶縁体本体及び外部半導体シールドなどの複数の層を有する絶縁システムとを備える。また、ケーブルは、製造、設置及び使用中に透水及びいかなる機械的摩耗や機械力にも耐えるように、ケーシング、補強剤などで仕上げられる。これまでのところ供給されているDCケーブル装置の殆ど全ては、海底ケーブルやそれと関連した陸上ケーブル用のものである。
【0004】
絶縁体本体は、典型的には、本質的に全ての紙テープ、すなわち紙又はセルロース繊維を基材とするテープを有する巻線体であるが、積層テープ材、すなわち、少なくとも2つの層が互いに接着したものから作られたテープも同様に使用できる。この巻線体は、典型的には、電気絶縁油又はマスが含浸されている。
【0005】
WO99/33068には、少なくとも1個のコンダクターと、誘電性流体を含浸した電気絶縁層とを有するDCケーブルが記載されている。該誘電性流体は、オイルとゲル化剤と含むが、ここで、このゲル化剤は、誘電性流体の粘度と弾性とを決める。
【0006】
そのため、ケーブルは、その含浸絶縁層中に、誘電性流体(すなわちオイル+ゲル化剤)の安定な流動性及び流動挙動を確保するために(高い)含浸温度で十分に低い粘度、絶縁層中におけるオイルの保持を確保するためにケーブルの(低い)操作温度で十分に高い粘度及び弾性、並びに高い操作温度の使用を可能にするために含浸から操作温度までについて十分にシャープな粘度増加を有する誘電性流体を含む。
【0007】
WO99/33068によれば、ゲル化剤分子は、水素結合を形成することのできる極性部分によって特徴付けられる多数の化合物から選択でき、ここで、該ゲル化剤は、オイルと共に、該ゲル化剤が重合体の場合にはポリマーゲルを形成し、又は該ゲル化剤が重合体ではない化合物の場合には有機ゲルを形成する。該文献の3つの実施例では、3種のゲル化剤をそれぞれ特定のナフテン系鉱油と共に使用する。
【0008】
しかしながら、WO99/33068に定義されるように任意のゲル化剤化合物と任意の不特定のナフテン系鉱油とを関連させても、電気絶縁層内で十分に安定な誘電特性を有する誘電性流体は得られない。典型的には、記載されたゲル化剤及びオイルは、相分離した混合物を形成するであろう。というのは、該ゲル化剤は該オイルには溶解できず該ゲル化剤の該オイルへの懸濁液となるから、又は該ゲル化剤及び該オイルは、ゲル相とオイル相との相分離混合物(これは「ブリーディング」とも呼ばれる)を形成するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第99/33068号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題を解決し、かつ、電気ケーブルの電気絶縁層を含浸するのに使用される誘電性流体の誘電安定性並びに非ブリーディング特性(すなわち安定性)を最適にすることを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、少なくとも1個のコンダクターと、オイルと有機ゲル化剤とを含む有機ゲルを有する誘電性流体が含浸された、該コンダクターを取り囲む電気絶縁層とを有する電気ケーブルであって、該オイルが200℃以下の引火点を有する非極性オイルであることを特徴とする電気ケーブルを提供することである。
【0012】
オイルの非極性は、申し分のない含浸電気絶縁層の誘電特性を得るために不可欠である。
【0013】
オイルの非極性に従う第1の変形例では、非極性オイルは、ASTM D2140基準法によれば芳香族(CA)が低濃度であり、しかして、CAの重量パーセントは、好ましくは12%未満、より好ましくは10%未満、さらに好ましくはCAは6%未満である。
【0014】
オイルの非極性及びIP346試験に従う第2の変形例によれば、非極性オイルは、該オイルをシクロヘキサンで希釈した後に、DMSO(極性溶媒)で抽出され得る低重量パーセントを有する。好ましくは、DMSOで抽出可能な重量パーセントは3%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1.5%以下である。
【0015】
オイルの非極性に従う第3の変形例では、非極性オイルは、ASTM D2140基準法に従う低含有量の芳香族(CA)(第1変形例)及びIP346試験に従う低パーセンテージのDMSO抽出物(第2変形例)を有する。
【0016】
有利には、本発明の有機ゲル化剤と特定のオイルとの組合せは、安定な誘電特性が最適化した(例えば非常に高い絶縁破壊電圧)、ブリーディング現象を示さずいかなる沈殿物もない透明で均質な有機ゲルを与える。
【0017】
本発明によれば、該オイルの引火点は、該オイルがどの程度揮発性かを示す。該引火点は、典型的にはペンスキー・マルテンス(PM)密閉式カップ法ASTM D93A又はASTM D92若しくはASTM D93試験など同様の試験によって決定される。この引火点には、該オイルが、直火の存在下で引火しやすいオイルよりもむしろガス混合物を構成するのに十分なガスを放出するときに到達する。該オイルの引火点は、好ましくは180℃以下、さらに好ましくは160℃以下である。該オイルの引火点は、好ましくは95℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。
【0018】
非極性オイルは、好ましくは炭化水素オイル、シリコンオイル、フルオロオイル及び天然オイル(例えば植物オイル、テルペン系オイル)又はそれらの混合物から選択でき、より好ましくは炭化水素オイルである。炭化水素オイルのなかでは、ナフテンオイル、パラフィン系オイル若しくはイソパラフィン系オイル又はそれらの混合物を選択することができ、ここで、これらは、鉱油、半合成鉱油(例えば水素化鉱油)又は合成オイル(例えば水素化ポリα−オレフィン)であることができる。さらに好ましいのは、半合成水素化鉱油(ナフテン系、パラフィン系又はイソパラフィン系のいずれか)である。
【0019】
本発明の非極性オイルは、Nynas、Shell、Renkert Oil、Neste Oilなど任意の供給業者や卸業者などによって提供され得る。
【0020】
特定の実施形態では、該オイルの粘度は、40℃で40cSt(センチストークス)未満、好ましくは40℃で20cSt未満、より好ましくは40℃で10cSt未満である。該オイル粘度は、ASTM D445基準法に従ってウッベローデ毛管により動粘性率(cStで表す)を測定することで決定される。
【0021】
本発明で使用する非極性オイルは、好ましくは、分岐状及び/又は環状の分子を含有する。例えば、ヘプタメチルノナンはn−ヘキサデカンよりも好ましく、デカリンはn−ドデカンよりも好ましい。他の例は、(分岐)アルキルシクロヘキサン又は(分岐)アルキルデカリン(すなわち、これらは、水素化アルキルベンゼン及び水素化アルキルナフタリン)である。分岐は、通常、該オイル中に様々な異性体が存在することを示唆するものであり、そして、オイルが好ましくは分子の混合物から構成される場合にはこれが好ましい。結果として、主として直鎖構造の混合物から構成されるオイルも可能である(すなわちパラフィン系オイル)。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、送電用のケーブルとして使用するのに好都合な、本発明に従うDCケーブルの実施形態の概略図である。
【図2】貯蔵弾性率G’曲線及び損失弾性率G”曲線並びに複素粘度η*曲線を、それぞれ本発明に従う有機ゲルについての温度の関数として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
有機ゲル化剤
有機ゲル化剤とは、超分子相互作用、通常は水素結合相互作用及び/又はπ−π相互作用によって、溶液の状態で自己組織化する分子のことである。溶液の状態で、有機ゲル化剤分子の組織化は、主として一方向で起こるため、長い超分子構造が形成される。有機ゲル化剤が十分に高濃度である時点において重要になる、有機ゲル化剤分子のこれらの構造間の相互作用は、溶液のゲル化を生じさせる。しかしながら、超分子構造は重合体ではない。すなわち、言い換えれば、有機ゲル化剤は重合体ではなく、典型的には共有化学結合によって結合した反復構造単位(単量体)から構成される高分子である。事実、溶液を加熱することで、該超分子構造は可逆的に分解して個々の分子又は数分子の非常に小さな凝集体の溶液となり、シャープな粘度降下が生じるため高温では容易な処理加工が可能になる。
【0024】
例えば、有機ゲル化剤の分子量は5000ダルトン未満、より好ましくは2000ダルトン未満、さらに好ましくは1000ダルトン未満;特に、有機ゲル化剤の分子量は200〜800ダルトンである。
【0025】
好ましい実施形態では、有機ゲル化剤は、有機ゲル化剤化合物の混合物、より好ましくは同様な有機ゲル化剤化合物の混合物を含む。つまり、この場合には、有機ゲル化剤は、単一の有機ゲル化剤化合物からは構成され得ない。
【0026】
用語「混合物」とは、少なくとも2種の異なる分子、好ましくは2から1000種までの異なる分子、好ましくは2から250まで、より好ましくは4から100、最も好ましくは6から60種までの分子を含む有機ゲル化剤組成物であると理解することができる。該組成物において、分子が存在する比率は、常に変化し得る。最も豊富な種は、好ましくは、1モル%〜99モル%、より好ましくは3モル%〜60モル%最も好ましくは5モル%〜40モル%存在することができる。最も少ない種は、好ましくは0.01モル%〜49モル%、好ましくは0.05モル%〜25モル%、最も好ましくは0.1モル%〜15モル%存在する。
【0027】
有機ゲル化剤化合物の混合物の例は、鏡像異性体の混合物(すなわちラセミ化合物)、ステレオマーの混合物(例えば鏡像異性体とジアステレオマーとの混合物)、又は異性体の混合物であることができる。
【0028】
用語「同様の化合物の混合物」とは、同一の化学分類又は化学型の化合物との混合物であると解すことができる。特に、該混合物の分子中における水素結合モチーフは同一であり、ここで、該水素結合モチーフとは、水素結合官能基(例えば尿素又はアミド)及びこれらの官能基間のスペーサーであると定義される。これについては以下でさらに強調、説明及び例示する。
【0029】
本発明に従う特定の実施形態では、有機ゲル化剤は、尿素系化合物、尿素系化合物の混合物、アミド系化合物、及びアミド系化合物の混合物、又はそれらの混合物から選択される。
【0030】
該有機ゲル化剤は、電気ケーブルの絶縁用途に関心を持たせる安定な有機ゲルを製造するのに特に適している。該有機ゲル化剤は、本発明に従うオイルと共に、透明で均質で安定な有機ゲルを製造することができる。
【0031】
実際に、間違いなく多くの分子は有機ゲル化剤ではなく、また、非極性部分と、水素結合を形成することのできる極性部分とを有する分子でもない。さらに、分子構造がオイルをゲル化させることができるかどうかは予測するのが困難である。さらに、いくつかの有機ゲル化剤は有機ゲルを生成することができるかもしれないが、これらの有機ゲルは、やがては不安定になる可能性がある(沈殿やブリーディングが生じる可能性がある)。
【0032】
好ましい実施形態では、有機ゲル化剤は、尿素系化合物又は尿素系化合物の混合物及びアミド系化合物又はアミド系化合物の混合物から選択される。
【0033】
本発明に従う混合物は、好ましくは同様のタイプの有機ゲル化剤分子から構成されるが、これは混合物の全ての分子中の水素結合モチーフが同一であることを意味し、ここで、該水素結合モチーフは水素結合官能基(好ましくは尿素又はアミド)及びこれらの官能基間のスペーサーであると定義される。
【0034】
特に、モノ尿素と他のモノ尿素とを混合させ、芳香族トリアミドと他の芳香族トリアミドとを混合させるなどすることができる。特に、多官能性アミド構造を含有する混合物について(又は多官能性尿素構造を含有する混合物について)、アミド又は尿素水素結合官能基間のスペーサーは、好ましくは混合有機ゲル化剤分子の全てについて同一である。
【0035】
例えば:
・トリアルキルベンゼン−1,3,5−トリカルボキシアミドと他のトリアルキルベンゼン−1,3,5−トリカルボキシアミドとを混合し;又は
・2,4−ビス(尿素トルエン)と他の2,4−ビス(尿素トルエン)とを混合し;又は
・m−ビス(尿素ベンゼン)と他のm−ビス(尿素ベンゼン)とを混合し;又は
・2個の−NHCORアミド間のn炭素原子スペーサーを有するジアミドと他の2個の−NHCORアミド間のn炭素原子スペーサーを有するジアミドとを混合し;又は
・1,2−ビス尿素(S,S)−シクロヘキサンと他の1,2−ビス尿素(S,S)−シクロヘキサンとを混合する。
【0036】
さらに、アミドを考慮すると、アミド官能基のスペーサーへの配向は、好ましくは混合物中の分子(すなわち有機ゲル化剤分子)について同一である。例えば、混合物中の全てのジアミドは、R1−CONH−(スペーサー)−NHCO−R2であり、又は混合物中の全てのジアミドはR1−NHCO−(スペーサー)−NHCO−R2であり、又は混合物中の全てのジアミドはR1−NHCO−(スペーサー)−CONH−R2であり、ここで、R1及びR2は、アミド官能基の配向の解釈について先ほど言及しており、これは、アルキル基又は他の種類の基であることができる。
【0037】
有機ゲル化剤の混合物は、個々に合成された一連の有機ゲル化剤を物理的に混合させることによって作ることができる。例えば、特定の又は数種の特定の2,4−ビス(ジアルキルウレイド)トルエンと別のもの又は数種の他の2,4−ビス(ジアルキルウレイド)トルエンとを選択された比率で物理的に混合させる。
【0038】
或いは、該混合物は、1種の特定の多官能性反応体を取り入れ、この構成要素と一官能性反応体の混合物とを反応させることによっても合成できる。例えば、2,4−トルエンジイソシアネート(特定の多官能性反応体)と第一アミン反応体(一官能性反応体)の混合物とを反応させて2,4−ビス(ジアルキルウレイド)トルエンの混合物を生成させる;又は、別の例では、(S,S)−1,2−ジアミノシクロヘキサンとモノイソシアネートの混合物とを反応させて(S,S)−1,2−ビス尿素シクロヘキサンの混合物を生成させる。該一官能性反応体(例えば直鎖アルキル、分岐、環状、アルキルアリールなど)の性質と、これらの反応体が反応体混合物中に存在する比率とは自由に選択される。一官能性反応体の特定かつ適切な混合物は、例えば、第一アミンのラセミ化合物、カルボン酸若しくはその誘導体のラセミ化合物又はイソシアネートのラセミ化合物といったラセミ化合物である。
【0039】
本発明に従う混合物により、驚くべきことにオイルを個々にはゲル化又は濃厚化することができない分子を混合させることによって有機ゲル化剤を製造することが可能である。さらに、該混合物は、該混合物の特定の組成を変更することによって有機ゲルの特性を最適化することができる(例えば粘度、ゲル点、安定性などに関して)。
【0040】
尿素系化合物
尿素系化合物について言及するときに、これらの尿素官能基は、通常の尿素(−NH−CO−NH−)又はチオ尿素(−NH−CS−NH−)であることができる。通常の尿素が好ましい。
【0041】
尿素系化合物について言及するときに、1個の尿素部分における両方の窒素原子は水素で置換されていてよく、又はこれらの窒素原子のうち1個はアルキル化又はアリール化されていてよい。好ましくは、該窒素部分における両方の窒素原子は水素で置換され、水素結合相互作用に関与することができる−NH−CO−NH−尿素部分(又は−NH−CS−NH−チオ尿素部分)となる。
【0042】
尿素系化合物について、これらは、モノ尿素又はモノ尿素の混合物、ビス尿素又はビス尿素の混合物、及びトリス尿素又はトリス尿素の混合物から選択でき、より好ましくはモノ尿素又はモノ尿素の混合物、及びビス尿素又はビス尿素の混合物から選択できる。最も好ましいのは、ビス尿素又はビス尿素の混合物である。
【0043】
尿素系化合物が少なくとも2個の異なるR基で置換されている場合には、該化合物は、「不斉」尿素系化合物と呼ばれる。尿素官能基の全てが同じR基で置換されている場合には、該化合物は「対称」尿素系化合物と呼ばれる。R基は、異なる尿素官能基を結合するスペーサー基ではない。
【0044】
尿素系化合物の混合物を考慮する場合には、該混合物は、
(i)異なる対称尿素系化合物、又は
(ii)異なる不斉尿素系化合物、又は
(iii)少なくとも1種の対称尿素系化合物及び少なくとも1種の不斉尿素系化合物
を含むことができる。
【0045】
以下に記載する尿素の式は通常の尿素に関するものである。しかし、チオ尿素(示していない)も通常の尿素の代わりに考慮することができる。
【0046】
モノ尿素(若しくはモノ尿素の混合物)又はビス尿素(若しくはビス尿素の混合物)は、それぞれ次式Ia及びIbを満たすことができる:
【化1】

式中、
・R1及びR2は同一でも異なっていてもよく、水素、直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和C1〜C24アルキル、アルキルアリール又アリールアルキル炭素系基、特に飽和アルキル系基から独立に選択でき、ここで、これらの基は、O、S、F及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含有していてよく、そのため、例えばエーテル、チオエーテル、アルコール、アミド、カルボン酸、エステル、ウレタン、第三アミン及びCFx(x=1、2又は3)基を有していてよく、
・Aは非芳香族又は芳香族スペーサーであり、好ましくは直鎖アルキレン、分岐アルキレン、シクロへキシレン(好ましくはR,R−又はS,S−1,2−シクロへキシレン)、4,4’−メチレンビスシクロへキシレン、4,4’−メチレンビスフェニレン、4,4’−オキシビスフェニレン、ベンジレン、ナフタリン、フェニレン、トリス(2−エチレン)アミン、イソホロニレン、p−メンチレン及びリシン誘導スペーサーから選択される。また、スペーサーAは、2個の窒素原子間の直接共有結合を表すこともできる。
【0047】
より好ましくは、R1及び/又はR2は、2−エチルヘキシル;1,5−ジメチルヘキシル;3,7−ジメチルオクチル;1−メチルヘキシル;他の分岐C3〜C8アルキル、直鎖C4〜C18アルキル、ベンジル、シクロヘキシル、アルコキシアルキル及びヒドロキシアルキルから独立に選択される。より好ましい方法では、R1及び/又はR2は、2−エチルヘキシル;1,5−ジメチルヘキシル;1−メチルヘキシル;分岐C3〜C6アルキル;及び直鎖C4〜C10、C16及びC18アルキルから独立に選択できる。最も好ましいのは2−エチルヘキシル基である。
【0048】
特定の実施形態では、R1及び/又はR2が立体中心を含む場合には、これらの基は、好ましくはラセミ基である(すなわち、より正確に言えば、この場合、これらのR1及び/又はR2基はラセミ第一アミン、又はラセミイソシアネートなどのラセミ反応体に由来する)。
【0049】
R1がR2とは異なる場合には、不斉尿素化合物が得られる。
【0050】
構造Iaについて、不斉モノ尿素化合物を得るためにR1がR2とは異なる場合には、R1(又はR2)は、好ましくはO、S、F及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含有していてよいアリール又はベンジル誘導C6〜C15炭素系基並びにそれらの組合せから選択でき、R2(又はR1)は、水素、O、S、F及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含有していてよい直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和C1〜C24アルキル基から選択できる。
【0051】
構造Ibについて、不斉ビス尿素系化合物を得るためにR1がR2とは異なる場合には、R1(又はR2)は、好ましくはO、S、F及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含有していてよい飽和又は不飽和の非環状分岐C3〜C15炭素系基及びそれらの組合せから選択でき、R2(又はR1)は、水素、O、S、F及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含有していてよい直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和C1〜C24アルキル基から選択できる。
【0052】
式Iaに従うモノ尿素の混合物を考慮する場合には、該混合物中における分子の全ては、好ましくは特定の1個の同じR1基、好ましくは特定のアリール誘導基、又は特定のベンジル誘導基を有する。例えば、1−ベンジルモノ尿素のみからなる混合物を考慮することができる。
【0053】
式Ibに従うビス尿素の混合物を考慮する場合には、該混合物中における分子の全ては、好ましくは同様のものであり、同じスペーサーAを有する。例えば、構造Ibの混合物の全ての分子中におけるスペーサーAは、R,R−1,2−シクロへキシレン スペーサーであることができ、又はヘキシレンスペーサーであることができる。
【0054】
式IbのスペーサーAが芳香族スペーサーである好ましい実施形態では、尿素系化合物は、次式IIを満たす芳香族ビス尿素(又は芳香族ビス尿素の混合物)であることができる:
【化2】

式中、R1及びR2は上記とおりに定義され、R3は水素原子又は直鎖若しくは分岐C1〜C4アルキル基である。
【0055】
式IIに従うビス尿素の混合物を考慮する場合、該混合物において、全ての分子中における尿素基は、好ましくは同一の芳香族スペーサーと結合する。例えば、m−ビス尿素と他のm−ビス尿素とを混合させ、p−ビス尿素を他のp−ビス尿素と混合させ、o−ビス尿素と他のo−ビス尿素とを混合させる。
【0056】
好ましくは、芳香族ビス尿素は、次式IIIを満たすビス尿素置換トルエン(又はビス尿素置換トルエンの混合物)であることができる:
【化3】

式中、R1及びR2は上記とおりに定義される。
【0057】
構造IIとIIIとの混合物を考慮する場合には、構造II中の尿素基は、環上のメタ置換でもあることが好ましい。
【0058】
アミド系化合物
アミド系化合物について言及すると、これらのアミド官能基は、通常のアミド(−NH−CO−)、又はチオアミド(−NH−CS−)であることができる。通常アミドが好ましい。
【0059】
アミド系化合物について言及すると、アミド部分における窒素原子は水素で置換されていてよく、水素結合相互作用に関与することができる−NH−CO−アミド部分(又は−NH−CS−チオアミド部分)となることができる。
【0060】
アミド系化合物によると、これらは、ジアミド又はジアミドの混合物、トリアミド又はトリアミドの混合物、及びテトラアミド又はテトラアミドの混合物から選択できる。
【0061】
アミド系化合物が少なくとも2個の異なるR基で置換されているときに、該化合物は、「不斉」アミド系化合物と呼ばれる。アミド官能基の全てが同じR基によって置換されているときに、該化合物は、「対称」アミド系化合物と呼ばれる。R基は、異なるアミド官能基を結合するスペーサー基ではない。
【0062】
アミド系化合物の混合物を考慮する場合には、該混合物は、
(i)異なる対称アミド系化合物、又は
(ii)異なる不斉アミド系化合物、又は
(iii)少なくとも1種の対称アミド系化合物及び少なくとも1種の不斉アミド系化合物
を含むことができる。
【0063】
以下で説明するアミドの式は、通常のアミドに関連する。しかし、通常のアミドの代わりにチオアミド(示していない)を考慮することもできる。
【0064】
ジアミド
第1の例では、ジアミド(又はジアミドの混合物)は、次式IV又はVを満たすことができる:
【化4】

式中、R4及び/又はR5、並びにR7及び/又はR8は同一でも異なっていてもよく、水素、直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和C1〜C36アルキル、アルキルアリール又はアリールアルキル炭素系基、特にO、S、F及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含有していてよい飽和アルキル系基(つまり、例えばエーテル、チオエーテル、アルコール、カルボン酸、エステル、ウレタン、第三アミン及びCFx(x=1、2又は3)基を有していてよい)から独立に選択できる。
【0065】
基R4及び/又はR5について、これらは、好ましくは、水素、2−エチルヘキシル;1,5−ジメチルヘキシル;3,7−ジメチルオクチル;1−メチルヘキシル;他の分岐C3〜C8アルキル、直鎖C4〜C18アルキル、ベンジル、シクロヘキシル、アルコキシアルキル(例えば3−メトキシプロピル)及びヒドロキシアルキルから独立に選択される。
【0066】
基R7及び/又はR8について、これらは、好ましくは、1−エチルペンチル;1−メチルエチル;1−メチルプロピル;t−ブチル;1−エチルプロピル;2,6−ジメチルヘプチル;他の分岐C3〜C8アルキル;C9〜C36の1−アルキルアルキル、直鎖C4〜C18アルキル、ベンジル、シクロヘキシル、及びアルコキシアルキルから独立に選択される。
【0067】
特定の実施形態では、R4及び/又はR5基或いはR7及び/又はR8基が立体中心を含む場合には、これらの基は、好ましくはラセミ基である。つまり、より正確に言えば、これらは、例えばラセミ第一アミン反応体(IVについて)又はラセミカルボン酸誘導反応体(Vについて)などのラセミ反応体に由来する。
【0068】
R4がR5とは異なり又はR7がR8とは異なる場合には、不斉ジアミド化合物が得られる。
【0069】
部分Bは非芳香族又は芳香族スペーサーであり、好ましくは直鎖アルキレン、分岐アルキレン、シクロへキシレン、カンホリレン(camphorylene)、フェニレン、ビスフェニレン、ナフタリン及びグルタミン酸又はアスパラギン酸誘導スペーサーから選択される。スペーサーBは、2個の炭素間の直接共有結合を表すこともできる。
【0070】
部分Cは非芳香族又は芳香族スペーサーであり、好ましくは直鎖アルキレン、分岐アルキレン、シクロへキシレン(好ましくはR,R−又はS,S−1,2−シクロへキシレン)、4,4’−メチレンビスシクロへキシレン、4,4’−メチレンビスフェニレン、4,4’−オキシビスフェニレン、ベンジレン、ナフタリン、トリス(2−エチレン)アミン、イソホロニレン、p−メンチレン及びリシン誘導スペーサーから選択される。また、スペーサーCは、2個の窒素原子間の直接共有結合を表すこともできる。
【0071】
構造IVのジアミドの混合物又は構造Vのジアミドの混合物を考慮する場合には、該混合物中における全ての分子は、好ましくは同様のものであり、かつ、同じスペーサーB(構造IVの混合物について)又は同じスペーサーC(構造Vの混合物について)を有する。例えば、構造Vの混合物の全ての分子中におけるスペーサーCは(R,R)−1,2−シクロヘキシレンスペーサーであることができ、又はヘキシレンスペーサーであることができる。
【0072】
第2の例では、ジアミド(又はジアミドの混合物)は環状ジアミドであり、しかも次式VIを満たすことができる:
【化5】

式中、R10及びR11は同一でも異なっていてもよく、水素、直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和C1〜C24アルキル、アルキルアリール又はアリールアルキル炭素系基、特にO、S、F及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含有していてよい(そのため、例えばエーテル、チオエーテル、アルコール、アミド、カルボン酸、エステル、ウレタン、第三アミン及びCFx(x=1、2又は3)基を有していてよい)飽和アルキル系基から独立に選択できる。
【0073】
より好ましくは、R10及びR11は、アミノ酸残基、例えば、水素、ベンジル、アルキル、分岐アルキル又はアルキル残基であってアルキルエステル又はアルコール基を含有するものから誘導される。
【0074】
特定の実施形態では、R10及び/又はR11基が立体中心を含む場合には、これらの基は、好ましくはラセミ基である。
【0075】
R10がR11とは異なる場合には、不斉ジアミド化合物が得られる。
【0076】
式VIの分子の混合物を考慮するときに、この混合物中における全ての分子は、好ましくは6員環について同じ立体配置を有する。すなわち全ての分子は、同じR,R−若しくは同じS,S−配置、又は同じR,S配置を有する。
【0077】
トリアミド
トリアミドによっては、アミド系化合物は芳香族トリアミドであることができる。
【0078】
第1の例では、芳香族トリアミド(又は芳香族トリアミドの混合物)は、次式VIIを満たすベンゼン−1,3,5−トリカルボキシアミド(BTA)(又はBTAの混合物)である:
【化6】

第2の例では、芳香族トリアミド(又は芳香族トリアミドの混合物)は、次式VIIIを満たすことができる:
【化7】

式VII又はVIIIにおいて、R4、R5及び/又はR6、並びにR7、R8及び/又はR9は同一でも異なっていてもよく、水素、直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和C1〜C36アルキル、アルキルアリール又はアリールアルキル炭素系基、特にO、S、F及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含有していてよく、そのため例えばエーテル、チオエーテル、アルコール、カルボン酸、エステル、ウレタン、第三アミン及びCFx(x=1、2又は3)基を有していてよい飽和アルキル系基から独立に選択できる。
【0079】
式VIIの基R4、R5及び/又はR6について、これは、好ましくは、2−エチルヘキシル;1,5−ジメチルヘキシル;3,7−ジメチルオクチル;1−メチルヘキシル;他の分岐C3〜C8アルキル、直鎖C4〜C18アルキル、ベンジル、シクロヘキシル、アルコキシアルキル(例えば3−メトキシプロピル)及びヒドロキシアルキルから独立に選択される。
【0080】
式VIIIの基R7、R8及び/又はR9について、これらは、好ましくは、1−エチルペンチル;1−メチルエチル;1−メチルプロピル;t−ブチル;1−エチルプロピル ;2,6−ジメチルヘプチル;他の分岐C3〜C8アルキル;C9〜C36 1−アルキルアルキル、直鎖C4〜C18アルキル、ベンジル、シクロヘキシル及びアルコキシアルキルから独立に選択される。
【0081】
特定の実施形態では、式VIIのR4、R5及び/又はR6 基或いは式VIIIのR7、R8及び/又はR9が立体中心を含む場合に、これらの基は、好ましくはラセミ基である。すなわち、より正確に言えば、ラセミ反応体に由来する。
【0082】
R4、R5及びR6から選択されるR基の少なくとも一つが他の2つのうちの一つとは異なる場合に、不斉トリアミド化合物が得られる。
【0083】
R7、R8及びR9から選択されるR基の少なくとも一つが他の2つ以上のうちの一つと異なる場合に、不斉トリアミド化合物が得られる。
【0084】
第3の例では、トリアミド(又はトリアミドの混合物)は、次式IXを満たすことができる:
【化8】

式中、R4、R5及びR6は、式VIIについて上記したとおりに定義される。
【0085】
特定の実施形態では、式IXのR4、R5及び/又はR6基が立体中心を含む場合に、これらの基は、好ましくはラセミ基である。より正確に言えば、ラセミ反応体に由来する。
【0086】
R4、R5及びR6から選択されるR基の少なくとも一つが他の2つのうちの一つとは異なる場合に、不斉トリアミド化合物が得られる。
【0087】
式IXの分子の混合物を考慮する場合に、この混合物中における全ての分子は、好ましくは同様であり、しかも1,3,5−シクロヘキシレン環について同一の立体配置を有する。すなわち、全ての分子がこの1,3,5−シクロヘキシレン環上に同一軸及び/又は赤道置換パターンを有する。
【0088】
テトラアミド
テトラアミドは、例えばベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボキシアミドなどのピロメリトアミド化合物又はそれらの混合物であることができる。
【0089】
上記式Ia、Ib、II、III、IV、V、VI、VII、VIII及びIXのうち、式Ia、Ib、III、V及びVIIが好ましい。最も好ましいのはIII及びVIIである。本明細書においては、式I〜IXにおいて水素結合モチーフは結合したR基と共に描かれていることに留意されたい。すなわち、R基は、水素結合モチーフの部分ではない。
【0090】
さらに、単一化合物から構成される有機ゲルではなく、同様の化合物の混合物である有機ゲル化剤が好ましい。式Ia、又は式Ib、又は式III、又は式II及びIII、又は式V、又は式VIIに従う同様の構造の混合物が好ましい。最も好ましいのは、式III、式II及びIII、又は式VIIに従う同様の構造の混合物である。
【0091】
これは、本発明が電気ケーブルの絶縁体に適用されるオイルを効果的かつ安定に濃厚化又はゲル化させるために使用できる有機ゲルの部類を導入することに起因する。
【0092】
他のタイプの有機ゲル化剤
同様の分子の混合物から有機ゲル化剤を作製するという技術思想を、さらに、金属塩(例えばモノ−又はジ−核金属ジケトネート又はテトラカルボン酸、脂肪酸の2価又は3価金属塩)、糖又はポリオール系化合物(例えばソルビット誘導体、コール酸誘導体)、ステロイド誘導体(例えばコレステロール誘導体)、アミノ酸誘導体又はオリゴペプチド、メリト酸誘導体(例えばメリトアミド)、π−π相互作用のため凝集する系(例えばポルフィリン、フタロシアニン、フェニレンビニリデン、フルオレン、アゾフェニレン、他の染料、アントラキノン)、2成分系(例えば酸塩基系、ピリミジン−バルビツル酸系又はメラミン又はトリアジンを主成分とする類似の系、シクロデキストリンを主成分とする系、供与体−受容体を主成分とする系)、多価ウレタン(例えばN−ベンジル−3,4−ジヒドロキシピロリジンを主成分とする)、ボラ両親媒性構造、メソゲン基を有する分子(例えば、トリアルキル没食子酸誘導体、4−アルコキシ安息香酸誘導体)などの(複数の)アルキル側基を有する他のタイプの分子構造を有する他のタイプの分子構造に適用することができる。
【0093】
有機ゲル
本発明の誘電性流体は、有機ゲル化剤及びオイル(これらは両方とも上で詳細に説明している)を含む。
【0094】
粘稠な溶液とは異なり、小瓶中の流体は、該小瓶を逆さにしても数秒又は数分の時間スケールでは該流体が流動しないときにゲルと見なされるのに対し、非常に粘稠な溶液は、数秒で緩やかに流れ、そしてさほど粘稠でない溶液は、直ちに速く流れるであろう。
【0095】
本発明の誘電性流体又は特に有機ゲルは、好ましくは透明であり、混濁又は白色ではない。さらに、これは、沈殿物を有する混合物(懸濁液)や他のタイプの相分離を示す混合物、例えばゲルと相分離液体との混合物ではなくて、巨視的には均質である。
【0096】
有機ゲルは粘弾性溶液であるが、これは、該ゲルが弾性(すなわち固体様)の特性と、粘稠(すなわち液体様)な特性との両方を有することを示す。有機ゲルのゲル点(Tゲル)とは、その有機ゲルがより弾性、すなわち固体様の性質を有する温度よりも低く、かつ、より液体様の挙動を有する温度よりも高い温度のことである。
【0097】
有機ゲルのゲル点は、レオロジー的測定、又は特に複素粘度の測定又は若しくは粘弾性測定によって決定できる。レオロジー的測定は、典型的には、ブルックフィールドレオメーターなどのダイナミックレオメーターを振動モードで使用して実施される。本発明のゲル点は、0.095Hzの動的振動下で測定される。
【0098】
例えば、有機ゲルを円錐形の内部を有する同心円筒カップ内に置き、そして0.095Hzの動的振動及び1%の歪み下において0.5℃/分で4℃から110℃まで加熱する。温度に応じて、貯蔵弾性率(Paで表すG’、ゲルの固体様の性質を反映する)、損失弾性率(Paで表すG”、ゲルの液体様の性質を反映する)及び複素粘度η*(Pa.s)などのレオロジーパラメーターを記録することができる。このときに、ゲル点は、貯蔵弾性率G’が損失弾性率G”に等しい温度であると定義される。
【0099】
ケーブルの含浸温度は、好ましくは絶縁層内において適用された有機ゲルのゲル点よりも高いのに対し、該ケーブルの操作温度は、好ましくはこのゲル点よりも高い又はさほど高くない。
【0100】
特に、有機ゲルのゲル点は、45℃から90℃で選択できる。この特定のゲル点の範囲は、本発明の含浸電気絶縁層に有利な特性の全てを付与する有機ゲルを可能にする。
【0101】
好ましくは、90℃よりも高いゲル点は望ましくない。というのは、これは、高すぎる含浸温度を使用しなければならないことを意味するからである。
【0102】
45℃未満のゲル点は、操作温度でのケーブルの極性反転のため、電気絶縁層内に空洞が創り出される危険性をもたらす。極性反転は、ケーブルにおける温度変化を誘発し、そして、該温度変化は、誘電性流体構造を変化させ、空洞の形成(すなわち、小さな気泡の形成)に至る可能性がある。このような空洞は、ケーブルの破壊(故障)の機会を大幅に増やす可能性がある。
【0103】
典型的には、本発明の誘電性流体のレオロジー挙動は、0℃〜およそ60℃までの「固体」(弾性)挙動及び60℃〜100℃までのより粘性の挙動によって特徴付けることができる。0℃での複素粘度は、約100〜5000Pa.sであることができる。ゲル点では、該粘度は、約50〜2000Pa.sであることができ、110℃では、該粘度は、約0.01〜10Pa.sであることができる。
【0104】
有機ゲル複素粘度(Pa.s)を特徴付けるための周知の方法は、上で言及しかつ説明したように、例えばブルックフィールドレオメーターを使用することにより振動モードでダイナミックレオメーターを使用することである。
【0105】
それに応じて、本発明の誘電性流体は、45℃〜110℃の温度窓のどこかでシャープな複素粘度の降下を示す。この複素粘度降下は、好ましくは40℃以内で2進を超え(例えば200Pa.s〜2Pa.s)、より好ましくは35℃以内で3進を超え、さらに好ましくは30℃以内で3進を超える。該複素粘度降下は、好ましくは100Pa.sよりも大きく、より好ましくは250Pa.sよりも大きく、最も好ましくは500Pa.sよりも大きい。
【0106】
特に、有機ゲルは、最大20重量%の有機ゲル化剤、より好ましくは 最大10重量%の有機ゲル化剤を含むことができる。誘電性流体は、少なくとも2重量%の有機ゲル化剤を含むことができる。好ましくは、有機ゲルは、有機ゲル化剤を3重量%〜7重量%含むことができる。有機ゲルは、好ましくは、本発明に従うオイル及び有機ゲル化剤しか含まない。
【0107】
しかしながら、該有機ゲルを含む誘電性流体は、レオロジー改質剤、酸化防止剤、金属不活性化剤又は脱水素剤などのような追加成分をさらに含むことができる。誘電性流体は、好ましくは、97重量%を超える有機ゲルを含む。
【0108】
レオロジー改質剤の例は、ゲルをさらに弾性にするためのエラストマーであり、該エラストマーは、該誘電性流体中において2重量%を超えない。該エラストマーを2重量%よりも多く添加すると、該エラストマーと有機ゲル化剤との相溶性並びにブリーディングの危険性のため、流動学的な問題を引き起こされる可能性がある。例えば、エラストマーは、ポリイソブテン(PIB)、より好ましくは低分子量ポリイソブテン(LMWPIB)例えば、10000g/モル未満の分子量、より好ましくは2000g/モル未満の分子量のものであることができる。
【0109】
酸化防止剤の例は、フェノールから誘導される酸化防止剤、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、又はチバ社が販売するIrganox型の酸化防止剤(これらは、往々にしてフェノール誘導体でもある)である。
【0110】
電気絶縁層及び電気ケーブル
本発明によれば、電気絶縁層は、典型的には、多孔質、繊維質及び/又は積層構造、例えば好ましくはセルロースや紙繊維を基材とするテープであることができる。
【0111】
「積層構造」とは、少なくとも3つの層を含む構造であって、その中間層がセルロース又は紙繊維を基材とし、かつ、他の2層がアタクチックポリプロピレン層(すなわち、ランダムな方向に延伸されたポリプロピレン層)のような異なる層であるものと解される。
【0112】
本発明の電気絶縁層は、該電気絶縁層の事実上全ての空隙が誘電含浸用流体で満たされるように、誘電性流体で含浸される。
【0113】
特定の実施形態では、多孔質及び/又は繊維質構造(例えばクラフト紙)、言い換えれば非積層構造を使用する場合には、本発明の有機ゲルのゲル点は、45〜80℃、より好ましくは50〜75℃、最も好ましくは55〜65℃であることができる。
【0114】
積層構造を使用する場合には、本発明の有機ゲルのゲル点は80〜90℃であることができる。
【0115】
特定の実施形態では、本発明に従う電気ケーブルは、該コンダクターを取り囲む第1半導電層と、該第1層を取り囲む絶縁層と、該絶縁層を取り囲む第2半導電層と、該第2層を取り囲む保護鞘とを備える直流伝送電気ケーブルであることができる。随意に、該第2半伝導層と該保護層との間に電気ケーブルに沿って金属スクリーンを設置することができる。
【0116】
本発明は、以下に与える詳細な説明及び単なる例示(すなわち本発明の限定ではない)として与える添付図面から完全に理解できるようになるであろう。
【0117】
図1は、送電用のケーブルとして使用するのに好都合な、本発明に従うDCケーブルの実施形態の概略図を示す。明確にするために、本発明を理解するのに必須の要素のみを図表形式で示しており、また、スケールは準拠していない。
【0118】
図2は、貯蔵弾性率G’曲線及び損失弾性率G”曲線並びに複素粘度η* 曲線を、それぞれ本発明に従う有機ゲルについての温度の関数として示している。
【0119】
図1は、中心から外に向けて
・マルチ撚線コンダクター10;
・コンダクター10の周囲に配置される第1半導体シールド11;
・本発明に従う誘電性流体を含む、巻き付けられた含浸電気絶縁層12;
・電気絶縁層12の外側に配置された第2半導体シールド13;
・第2半導体シールド13の周囲にある金属スクリーン14;及び
・金属スクリーン14の外側に配置された保護鞘15
を備えるDCケーブルを示す。
【0120】
DCケーブルは、図1に示すようにマルチワイヤーコアを有する単一コンダクターDCケーブル又は2個以上のコンダクターを有するDCケーブルであることができる。2個以上のコンダクターを有するDCケーブルは、複数のコンダクターがフラットケーブル配置で並んで位置した任意の既知のタイプのもの又は、一方の中心コンダクターが同軸に配置された第2の外側コンダクターを有する2個のコンダクターの配置で並んで位置したもの、すなわち同軸の2コンダクターケーブルであることができる。
【実施例】
【0121】

本発明の電気ケーブルの利点を示すために、従来技術及び本発明に従う異なる有機ゲルの視覚的側面を検討する。
有機ゲルを調製するために使用したオイルの様々な特性を次の表1に記載する。
【表1】

【0122】
表1に示されているオイルは、Aldrich社などの供給業者から購入できる非芳香族オイルであるヘプタメチルノナン(CAS4390−04−9)を除き、Nynas社が販売するものである。
【0123】
異なる有機ゲル化剤及び有機ゲルの製造方法を以下に説明する。単離した材料をNMR及びMALDI−TOF−MS分光分析によって分子的に特徴付け、そしてその分析データは、指定された構造と一致していた。
【0124】
ビス尿素置換トルエンの製造
ビス尿素置換トルエンは、次のスキームに従って製造できる:
【化9】

【0125】
2,4−トルエンジイソシアネート、又は以下で詳細に説明する実験で使用するトリレン−2,4−ジイソシアネート(TDI)は、95%の純度のものである。供給業者の仕様書(Aldrich T39853;CAS 584−84−9)によれば、これは、2,6−トルエンジイソシアネート異性体を約4%含有する。結果として、TDIから誘導される説明したビス尿素(又はジ尿素)生成物は、少量、典型的には約4%の2,6−ジウレイド異性体も含有する。
【0126】
或いは、出発材料として工業等級のトリレン−2,4−ジイソシアネート(TDI)(Aldrich216836、供給業者の仕様書によれば80%純度;残り20%はトリレン−2,6−ジイソシアネート異性体である)を使用することや、この80%等級のTDIと95%等級のTDIとを所定の比率で混合して最適な反応体を得ることが可能である。このようにして、ビス尿素生成物中における2,6−異性体のパーセンテージを制御することができる。
【0127】
有機ゲル化剤1(OG1)
2,4−ビス(2−エチルヘキシルウレイド)トルエン(EHUT)(ここで、R=R1=R2=(R/S)−2−エチルヘキシル)の合成は、文献Langmuir,2002,18,7218−7222に従って2,4−トルエンジイソシアネート及びラセミ2−エチルヘキシルアミンから行うことができる。
適宜、R基が異なっていてよい場合には、この有機ゲル化剤OG1は、4種の異なる2,4−ビス(2−エチルヘキシルウレイド)トルエン異性体化合物(R,R−、S,S−、R,S−及びS,R−異性体)、だけでなく少量の3種の異なる2,6−ビス(2−エチルヘキシルウレイド)トルエン異性体化合物(R,R−、S,S−及びR,S−異性体)を含有する。したがって、OG1は合計7種の化合物から構成され、この場合、2,4−異性体が構造(III)の例であると同時に、2,6−異性体が構造(II)の例である。2,4−異性体及び2,6−異性体の両方は、ベンゼン環上のメタ位に2個の尿素基が結合したジ尿素である。
【0128】
有機ゲル化剤2(OG2)
2,4−ビス(1,5−ジメチルヘキシルウレイド)トルエン(DMHUT)(ここで、R=R1=R2=(R/S)−1,5−ジメチルヘキシル)の合成は、文献JACS,2003,125,13148−13154に従って2,4−トルエンジイソシアネート及びラセミ1,5−ジメチルヘキシルアミンから行うことができる。OG1と同様に、OG2は、有機ゲル化剤化合物の混合物から構成される。
【0129】
有機ゲル化剤3(OG3)
2,4−ビス(3,7−ジメチルオクチルウレイド)トルエン(DMOUT)(ここで、R=R1=R2=(R/S)−3,7−ジメチルオクチル)の合成は、2,4−トルエン-ジイソシアネート及びラセミ3,7−ジメチルオクチルアミンから、OG1及びOG2について上述したような同様の方法で行うことができる。この生成物は白色の固体である。ラセミ3,7−ジメチルオクチルアミンは、日常的に市販されているものではないので、文献の手順(Tetrahedron,61,2005,687−691)に従ってラセミシトロネロールから2段階で製造した。OG1と同様に、OG3は、有機ゲル化剤化合物の混合物から構成される。
【0130】
有機ゲル化剤4(OG4)
有機ゲル化剤EHUT(OG1)及びDMHUT(OG2)を4対1の重量比で混合した。この混合物をクロロホルムとメタノールとの混合物に溶解させることによって均質化させ、その後これらの溶媒を真空蒸発によって再度除去した。この生成物は白色の固体である。
【0131】
有機ゲル化剤5(OG5):
OG4の製造について説明したのと同様の方法において(均質化工程参照)、EHUT(OG1)及びDMOUT(OG3)を1対1の重量比で混合した。
【0132】
有機ゲル化剤6、7及び8(OG6、OG7及びOG8):
メタビス尿素ベンゼンEHUM、すなわち以下に示す2,4−ビス(2−エチルヘキシルウレイド)メシチレンをラセミ2−エチルヘキシルアミンをカルボニルジイミダゾール(CDI)で活性化させ、そして得られた生成物の過剰量と1,3,5−トリメチル−2,4−ジアミノベンゼンとを反応させることによって製造した。別法として、ビス尿素EHUMは、文献J.Phys.Chem.B,2009,113,3360−3364に従って製造できる。
【化10】

【0133】
出発材料である2−エチルヘキシルアミンのラセミ性質のため、EHUMは立体異性体の混合物から構成される。
OG4の製造について説明したのと同様の方法において(均質化工程参照)、有機ゲル化剤OG6、OG7及びOG8を、EHUT(OG1)とEHUMとを、それぞれ60対40(OG6)、70対30(OG7)及び80対20(OG8)の重量比で混合させることによって製造した。
【0134】
OG1〜OG8からの有機ゲルの製造
表1で詳細に説明されているオイル中におけるOG1〜OG8からの有機ゲル形成を、該オイルと有機ゲル化剤とを高温で(約80〜120℃、典型的には100℃)一晩又は数時間撹拌し、そして室温にまで冷却した後にこの溶液を検査することによって試験した。
【0135】
結果
成功した有機ゲルの製造
OG1を使用して、透明で、巨視的に均質でかつ安定な5w/w%及び10w/w%有機ゲルをヘプタメチルノナン、Nynas S8,5及びNyflex800中で製造した。さらに、2.5w/w%及び15w/w%有機ゲルをヘプタメチルノナン中で製造した。
OG1−有機ゲルを含有する小瓶は逆さまの状態を維持することができ、またゲル溶液のいかなる流動も観察されない。数時間のタイムスケールでは流動を記録することができるので、有機ゲルは粘弾性である。5w/w%有機ゲルは弾性の特性を有するのに対し、10w/w%有機ゲルも弾性ではあるが、ただし実際はそれよりも硬い。
ヘプタメチルノナン及びNynas S8,5中でのOG1からの5w/w%有機ゲルを少なくとも2年半監視したところ、小瓶をひっくり返しても流動しないため安定なままであり、有機ゲルは透明なままであり、沈殿やブリーディングは全く観察されず、この有機ゲルをピペットで撹拌してもブリーディングや沈殿を誘発しなかった。
さらに、OG2、OG3、OG4及びOG5を使用して、透明で、安定でかつ均質な5w/w%有機ゲルをヘプタメチルノナン、Nynas S8,5及びNyflex800中で製造したと同時に、OG3を使用して5w/w%有機ゲルをNynas T9オイル中で製造した。最後に、OG6、OG7及びOG8を使用して5w/w%有機ゲルをNynas S8,5中で製造した。
典型的には、有機ゲル化剤及び使用したオイルの撹拌混合物は、既に室温で膨潤した状態になっているが、均質なゲルを迅速かつ都合よく得るには高温で撹拌することが必要である。
【0136】
成功しなかった有機ゲルの製造
有機ゲル化剤OG1およびOG3は、Nynas S100B又はNynas T110オイルに高温で適切に溶解できず、さらに約120℃にまで加熱しても適切に溶解できず、さらに冷却すると沈殿が生じ、室温では不均質な混合物が残った。
【0137】
ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシアミド(BTA)の製造
ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシアミドは、次のスキームに従って製造できる:
【化11】

【0138】
有機ゲル化剤9(OG9)
N,N’,N”−トリ(3,7−ジメチルオクチル)ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシアミド(DMO−BTA)(ここで、R=R4=R5=R6=(R/S)−3,7−ジメチルオクチル)の合成は、塩化ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸、ラセミ3,7−ジメチルオクチルアミン及びトリエチルアミンから行うことができる。同様の合成については、Chem.Lett.,2000,292−293を参照されたい。
したがって、この有機ゲル化剤は、4種の異なるBTA化合物:S,S,S−、S,S,R−、S,R,R−及びR,R,R−異性体から構成される。これらのBTAは構造VIIの例である。
【0139】
有機ゲル化剤10(OG10)
N,N’,N”−トリ(3,7−ジメチルオクチル)ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシアミド(SSS−DMO−BTA)(ここで、R=R4=R5=R6=(S)−3,7−ジメチルオクチル)の合成は、塩化ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸、(S)−3,7−ジメチルオクチルアミン及びトリエチルアミンから行うことができる。Chem.Lett.,2000、292−293を参照されたい。
したがって、この有機ゲル化剤は、1 BTA化合物:S,S,S−異性体のみから構成される。
【0140】
有機ゲル化剤11(OG11)
別々に、6種の異なるベンゼン−1,3,5−トリカルボキシアミド(BTA)を、R4=R5=R6=n−ブチル(C4−BTA)、n−ヘキシル(C6−BTA)、n−オクチル(C8−BTA)、n−デシル(C10−BTA)、n−ドデシル(C12−BTA)又はn−テトラデシル(C14−BTA)のいずれかで製造した。例えば、Bull.Chem.Soc.Jpn.,61,207−210,1988を参照されたい。
次いで、有機ゲル化剤OG11を、C4−BTAと、C6−BTAと、C8−BTAと、C10−BTAと、C12−BTAと、C14−BTAとを同じモル比で混合させることによって製造した。
【0141】
有機ゲル化剤12(OG12)
有機ゲル化剤OG12を、トリエチルアミン塩基の存在下で塩化ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸と第一アミンR−NH2の混合物とを反応させることによって製造した。
この方法を使用して、互いに異なっていても異なっていなくてもよいR4、R5及びR6基を有するベンゼン−1,3,5−トリカルボキシアミド(BTA)の多少統計的な混合物を得ることができる。様々な第一アミンR−NH2反応体のモル比を変化させることで、BTA−生成物の混合物において様々なBTA分子構造の母集団を制御することができる。
OG12について、5種の第一アミン反応体であるn−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、n−デシルアミン、n−ドデシルアミン及びシクロヘキシルアミンを1:1:1:1:4のモル比で加えた。クロロホルムに水抽出し、そしてシリカカラムクロマトグラフィーで精製した後に、単離した有機ゲル化剤材料は白色の固体であった。
【0142】
有機ゲル化剤13(OG13)
有機ゲル化剤をOG12と同様の方法で製造した。ここで、5種の第一アミン反応体であるn−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、n−デシルアミン、n−ドデシルアミン及びラセミ2−エチルヘキシルアミンを1:1:1:1:4のモル比で加えた。単離した有機ゲル化剤は白色の固形物であった。
【0143】
OG9〜OG13からの有機ゲルの製造
OG1〜OG8と同様の方法で、表1に詳述したオイル中におけるOG9〜OG13の有機ゲル形成を、該オイルと有機ゲル化剤高温で(約80〜100℃)一晩又は数時間撹拌し、そして室温にまで冷却した後にこの溶液を検査することによって試験した。
【0144】
結果
成功した有機ゲルの製造
安定で、透明でかつ均質な5w/w%有機ゲルを、有機ゲル化剤OG9からヘプタメチルノナン、Nynas S8,5、Nyflex800及びNynas T9オイル中で製造した。
5w/w%OG11のNynas S8,5溶液及びNyflex800溶液は透明でかつ非常に粘稠であったのに対し、5w/w%のOG12及びOG13のNynas S8.5及びNyflex800溶液は透明なゲルをもたらした。
【0145】
成功しなかった有機ゲルの製造
有機ゲル化剤OG9及びOG10は、高温でNynas S100B又はNynas T110オイルには適切に溶解せず、さらに冷却すると沈殿が生じ、室温で不均質な混合物が残った。
【0146】
他の有機ゲル化剤
有機ゲル化剤14(OG14): 1−ベンジル−3−オクチル尿素
n−オクチルイソシアネート(1.38g)をベンジルアミン(1g)のトルエン(50mL)溶液に添加した。この反応混合物を不活性窒素雰囲気下において室温で一晩撹拌し、次いでヘキサンで希釈して白色生成物の沈殿を生じさせた。この固形物をろ過で集め、次いで数部のヘキサンで洗浄し、そして乾燥させた。
【0147】
有機ゲル化剤15(OG15)
3,4−ジメチルジベンジリデンソルビット(DMDBS、CAS135861−56−2)は、AllichemやAPAC Pharmaceuticalなどの商業的供給源から購入できる。
【0148】
有機ゲル化剤16(OG16)
ジベンジリデンソルビット(DBS、CAS19046−64−1)は、AllichemやAPAC Pharmaceuticalなどの商業的供給源から購入できる。
【0149】
OG14、OG15及びOG16からの有機ゲルの製造
有機ゲル化剤OG14、OG15及びOG16は、Nynas T110又はNynas S100Bオイルには溶解できなかった。室温での撹拌は、この混合物の膨潤や増粘を示さず、その後約100℃まで加熱し、その後100℃を超えて加熱(OG14について120℃ 及びOG15およびOG16について180℃ )しても溶解には至らず、室温にまで冷却した後に有機ゲル化剤とオイルとの懸濁液が残った。OG14については5w/w%レベルで試験したのに対し、OG15及びOG16については2w/w%レベルで試験した。
【0150】
有機ゲル及び追加成分を含む誘電性流体の製造
BHT(ブチルヒドロキシトルエン;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、CAS128−37−0)、既知の酸化防止剤及び安定剤Nynas S8,5オイル中において室温で撹拌して0.2w/w%BHT溶液を得た。この溶液及び適当量のEHUT(OG1)を室温で撹拌し(膨潤が観察された)、次いで約100 ℃で数時間撹拌した。室温にまで冷却すると、BHT酸化防止剤を含有する透明な5w/w%誘電性流体が生じた。同じ方法で、0.2w/w%BHTを有するNyflex800中5w/w%の有機ゲルを製造した。同様に透明な誘電性流体が得られた。
【0151】
PIB(ポリイソブチレン/ブテン共重合体;BP社製Indopol H−100、CAS9003−29−6、99℃で196−233cStの粘度、Mn=約920)をNyflex800中において室温で撹拌して0.25w/w%PIB溶液を製造した。この溶液及び適当量のEHUT(OG1)を約80℃で一晩撹拌し、次いで室温にまで冷却してPIB及びOG1−有機ゲルを含有する透明な5w/w%誘電性流体を生じさせた。
【0152】
EHUT(OG1)をNyflex800中に5w/w%含んでなる有機ゲルのゲル点の測定
ゲル点をブルックフィールドレオメーターにより決定する。粘度測定を0,095Hzの振動及び1%歪み下において0.5℃/分で4℃〜110℃で行う。
図2は、貯蔵弾性率G’曲線及び損失弾性率G”曲線並びに複素粘度をそれぞれEHUT(OG1)をNyflex800中に5w/w%含んでなる有機ゲルの温度の関数として示している。
有機ゲルのゲル点は、55−60℃である、G’曲線及び G”曲線の交点である。
したがって、複素粘度(η*)曲線に対し、45℃〜90℃の複素粘度降下は約800Pa.sから0.2Pa.s未満であり、3進を超えかつ500Pa.sを超える複素粘度降下が30℃以内で観察される。
【0153】
OG6、OG7及びOG8をNynas S8,5オイル中に5w/w%含んでなる有機ゲルのゲル点の測定
OG1をNyflex800中に5w/w%含んでなるゲルと同様の方法で、OG6、OG7及びOG8をNynas S8,5オイル中に5w/w%含んでなる有機ゲルのゲル点を決定したところ、次の結果となった。
OG6(重量でEHUT対EHUM=60対40)ゲルは86℃でゲル点を示したのに対し、OG7(重量でEHUT対EHUM=70対30)は78℃でゲル点を与え、OG8(重量でEHUT対EHUM=80対20)は、71℃のゲル点を有する。
これらの結果は、ゲルのゲル点が様々な同様の有機ゲル化剤を混合することによって調節できることを示している。
複素粘度(η*)のプラトー、すなわちゲル点よりも低い温度での複素粘度は、3種のゲル(OG6、OG7及びOG8)については約1000〜2000Pa.sで観察されたのに対し、該3種のゲルについて0.1Pa.sの複素粘度が約110℃で記録された。さらに、製造した3種のゲルにおいて複素粘度降下は30℃以内で3進を超え、かつ、500Pa.sを超えることが観察された。
【0154】
EHUT(OG1)をNyflex800中に5w/w%含む有機ゲルからの含浸電気絶縁層の製造
当該技術分野において周知の含浸工程は、絶縁紙テープをコンダクター周辺に適用した後に該紙テープに含浸することからなる。
特に、絶縁紙テープをコンダクターの周囲に巻き付けて電気ケーブルを形成させ、そして該ケーブルを有機ゲルの存在下で所定の容器に導入する。該容器への含浸工程を、有機ゲルのゲル点を超える温度(60℃を超える)で行う。該温度範囲は、有機ゲルから絶縁紙への含浸を最適化するのを可能にする。次いで、該容器中における有機ゲルの過剰量を熱交換器を介して吸い上げ、そして該容器を冷却させた後に、含浸された絶縁紙テープが得られる。
有機ゲル化剤EHUT(OG1)は、含浸絶縁紙テープが6ヶ月間放置した後でもブリーディングを示さなかったため(すなわちブリーディングはオイル相とゲル相との相分離である)、非極性Nynasオイルを安定的にゲル化させることができる。
【0155】
EHUT(OG1)をNyflex800中に5w/w%含んでなる有機ゲルからの含浸電気絶縁層の絶縁破壊電圧の測定
有機ゲルの絶縁破壊電圧をIEC156基準法に従って測定する。有機ゲルが含浸された絶縁紙の高い絶縁破壊特性は、それぞれ中間に70ミクロンの含浸DC紙の3層を揺する2個の電極を使用する際に得られる。HaefelyのDC発電機を使用して、含浸絶縁紙テープにDC破壊が出現するまで、5kVの電圧ステップを適用する(1分間)。DC破壊を60℃で測定し、そしてDC破壊は200kV/mmを超える値で生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のコンダクター(10)と、オイル及び有機ゲル化剤を含む有機ゲルを有する誘電性流体が含浸された、該コンダクター(10)を取り囲む電気絶縁層(12)と、を備える電気ケーブルであって、該オイルが200℃以下の引火点を有する非極性オイルであることを特徴とする電気ケーブル。
【請求項2】
前記オイルの引火点が95℃以上であることを特徴とする、請求項1に記載の電気ケーブル。
【請求項3】
前記オイルがASTM D2140基準法に従い12%未満の芳香族含有量(CA)を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の電気ケーブル。
【請求項4】
前記オイルがナフテンオイル、パラフィン系オイル及びイソパラフィン系オイル又はそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の電気ケーブル。
【請求項5】
前記有機ゲル化剤が少なくとも2種の有機ゲル化剤化合物の混合物、より好ましくは少なくとも2種の同様の有機ゲル化剤化合物の混合物を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の電気ケーブル。
【請求項6】
前記有機ゲル化剤が尿素系化合物、尿素系化合物の混合物、アミド系化合物及びアミド系化合物の混合物又はそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の電気ケーブル。
【請求項7】
前記尿素系化合物がモノ尿素又はモノ尿素の混合物、ビス尿素又はビス尿素の混合物及びトリス尿素又はトリス尿素の混合物から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の電気ケーブル。
【請求項8】
前記尿素系化合物がビス尿素置換トルエンであることを特徴とする、請求項6に記載の電気ケーブル。
【請求項9】
前記アミド系化合物がジアミド又はジアミドの混合物、トリアミド又はトリアミドの混合物及びテトラアミド又はテトラアミドの混合物から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の電気ケーブル。
【請求項10】
前記アミド系化合物が芳香族トリカルボキシアミドであることを特徴とする、請求項6に記載の電気ケーブル。
【請求項11】
前記芳香族トリカルボキシアミドがベンゼン−1,3,5−トリカルボキシアミドであることを特徴とする、請求項10に記載の電気ケーブル。
【請求項12】
前記尿素系化合物は、該化合物が少なくとも2個の異なるR基で置換されている場合には不斉尿素系化合物であることを特徴とする、請求項6〜11のいずれかに記載の電気ケーブル。
【請求項13】
前記アミド系化合物は、該化合物が少なくとも2個の異なるR基で置換されている場合には不斉アミド系化合物であることを特徴とする、請求項6〜12のいずれかに記載の電気ケーブル。
【請求項14】
前記有機ゲルが45〜90℃のゲル点を有することを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の電気ケーブル。
【請求項15】
前記有機ゲルが最大20重量%の有機ゲル化剤を含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の電気ケーブル。
【請求項16】
前記コンダクター(10)を取り囲む第1半導電層(11)と、前記第1半導電層(11)を取り囲む絶縁層(12)と、該絶縁層(12)を取り囲む第2半導電層(13)と、該第2半導電層(13)を取り囲む保護鞘(15)とを備える直流伝送電気ケーブルであることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の電気ケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−272524(P2010−272524A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−116402(P2010−116402)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(500547371)ネクサンス (5)
【住所又は居所原語表記】8,Rue du General Foy 75008 PARIS FRANCE
【Fターム(参考)】