説明

電気ケーブル

【課題】屈曲を多く受ける場所に配策するための、可とう性を良くした電気ケーブルを提供すること。
【解決手段】電気ケーブル10は、複数の電線11と、複数の電線の外周のシース13とを備え、複数の電線11は、導体線16と前記導体線16の外周の被覆層17からなる被覆導体線14と、中空部を有し内周に前記被覆導体線14を固着した絶縁層15とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源線や信号線などの複数の電線を備えた電気ケーブルに関し、特に可とう性に優れた電気ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の電動化に伴い、電源線と信号線を備えた電気ケーブルが、自動車の振動や屈曲を多く受ける場所に配策されるようになっている。
【0003】
図3に従来技術の電気ケーブルの一例を示す。電気ケーブル20は、電源線や信号線などの3本の電線21と、電線21に添えられた介在23と、その外周のシース22とからなる。3本の電線21は撚り合わされて、束ねられている。シース22は、EPDMなどのゴム材、ポリウレタンなどの樹脂からなり、断面略円形に形成される。
【0004】
各電線21は、複数の導体線(本例では7本)を撚り合わせた導体部24の周囲に絶縁層25を設けたものである。各導体線は、細い銅線からなる素線を多数本束ねて構成されている。絶縁層25は、ポリエチレン、塩化ビニル、ETFEなどの樹脂からなり、断面略円形に形成される。電源線や信号線の用途、必要とされる特性に応じて、素線の径、束ねられて導体線を形成する素線の数、撚り線を形成する導体線の数が設定される。
【0005】
電気ケーブルの可とう性を良くするために、撚り合わされて束ねられた電線の撚りピッチを小さくするなど、種々の構造が検討されている(例えば、特許文献1、2)。
【特許文献1】特開2005−166610号公報
【特許文献2】特開2005−203117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車の頻繁に屈曲運動が起こる場所に配策される電気ケーブルには、さらなる可とう性の良さが要求されている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、可とう性を良くした電気ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の電気ケーブルは、複数の電線と、複数の電線の外周のシースとを備え、複数の電線の全部または一部は、導体線と前記導体線の外周の被覆層からなる被覆導体線と、中空部を有し内周に前記被覆導体線を固着した絶縁層とからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
電気ケーブルの可とう性を良くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(構成)図1は、本発明の電気ケーブルの一実施形態の断面図である。図2は、本発明の電気ケーブルの一実施形態に用いる電線の断面図である。
【0012】
電気ケーブル10は、3本の電源線や信号線となる電線11と、電線11に添えられた介在12と、その外周のシース13とからなる。3本の電線11は撚り合わされて束ねられている。介在12は、ポリプロピレンなどの樹脂からなる紐状部材や繊維が用いられる。シース13は、EPDM、クロロプレンなどのゴム材またはポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどの樹脂からなり、断面略円形に形成される。
【0013】
電線11は、複数の被覆導体線14(本実施形態では4本)と、複数の被覆導体線14を内周に固着した中空部を有する絶縁層15からなる。電線11の断面において、複数の被覆導体線14は互いに非接触で、絶縁層15の内周に等間隔に配置されている。複数の被覆導体線14は電線11の長手方向に沿って絶縁層15の内周にらせん状に設けられている。
【0014】
被覆導体線14は導体線16とその外周に形成した被覆層17からなる。導体線16は銅線や銅合金線の撚り線からなる。被覆層17はEPDM、クロロプレンゴムなどの弾性に優れたゴム材からなり、導体線16の外周に押し出し被覆して形成される。被覆層17はゴム材にカーボンの粉末を添加して導電性としても良い。被覆導体線14の被覆層17が絶縁層15と部分的に一体化されていることにより、被覆導体線14は絶縁層15に固着されている。
【0015】
絶縁層15はEPDM、クロロプレンゴムなどの弾性に優れたゴム材からなり、好適には被覆導体線14の被覆層17と部分的に一体化するために被覆層17と同じ材料を用いる。
【0016】
各電線11は、電源線や信号線などの用途、電気ケーブルの使用目的に応じて、電線11の径、被覆導体線14の数、被覆導体線14の径、絶縁層15内の被覆導体線14の配置などは適宜設計変更できる。
【0017】
複数の被覆導体線14は全体で従来技術の電線の導体部の機能を果たす。被覆導体線14の導体線16の断面積は電線全体の導体部断面積の設計値を被覆導体線14の数で除した値とする。本実施形態では被覆導体線14は4本であるので、各被覆導体線14の導体線16の断面積は電線全体の導体部断面積の設計値の1/4とする。例えば、従来技術の電線において導体部の断面積が15mmであるものを本実施形態の電線11で実施する場合、各被覆導体線14の導体線16の断面積は3.75mmである。
【0018】
電線11の両端末において、複数の被覆導体線14の導体線16は電気的に接続されている。電線11にある電気信号をその一端から入力したとき、電気信号は複数の被覆導体線14に分かれて電線11内を伝送する。電線11の他端において電気信号は合流して出力され、電線11の接続された電気機器へ送られる。
【0019】
次に電線11の製造方法について説明する。図2において、点線で描かれた18は介在線、19は中心介在線である。第1の工程として、中心介在線19の外周に被覆導体線14と介在線18とをらせん状に巻きつけて撚り線を形成する。被覆導体線14と介在線18は交互に並ぶように配置する。第2の工程として、第1の工程で形成した撚り線の外周に、EPDM、クロロプレンゴムなどのゴム材を押し出し被覆して絶縁層15を形成する。この工程において、絶縁層15と被覆導体線14の被覆層17は熱により部分的に一体化される。第3の工程として、絶縁層15内の中心介在線19を引き抜く。これにより電線11の中心に中空部が形成される。中心介在線19はその外周に潤滑層が形成され、引き抜き易くなっている。第4の工程として、絶縁層15内の介在線18を引き抜く。これにより被覆導体線14間に中空部が形成される。介在線18はその外周に潤滑層が形成され、引き抜き易くなっている。介在線18の潤滑層は第2の工程で被覆層15と熱により一体化されない材料を使用する。
【0020】
(作用)以上のように、本実施形態の電気ケーブルでは、使用する電線の内部に中空部が設けられており、電気ケーブルに屈曲が加わったとき屈曲に応じて電線が変形することができる。これにより電気ケーブルが屈曲した際の応力が低減され、電気ケーブルの可とう性を良くすることができる。
【0021】
また、本実施形態では、電線の被覆導体線と絶縁層は、被覆導体線の被覆層と絶縁層が部分的に一体化されて、固着されている。電気ケーブルに屈曲が加わって電線が変形したときに、絶縁層内で被覆導体線が移動して他の被覆導体線の間にはまり込むといった被覆導体線の配置の変化が生じない。これにより、電気ケーブルの可とう性を良くすることができる。
【0022】
また、本実施形態では、電線の絶縁層を弾性にすぐれたゴム材で形成している。電線は電気ケーブルが屈曲して変形した後に、絶縁層の弾性によって元の断面略円形の形状に戻る。これにより、電気ケーブルの可とう性を良くすることができる。
【0023】
また、本実施形態では、電線の被覆導体線の被覆層を弾性にすぐれたゴム材で形成している。電線は電気ケーブルが屈曲して変形した後に、被覆導体線の被覆層の弾性によって元の断面略円形の形状に戻る。これにより、電気ケーブルの可とう性を良くすることができる。
【0024】
また、本実施形態では、電線の絶縁層の内周に被覆導体線が電線の長手方向に沿ってらせん状に設けられている。これにより、電気ケーブルに屈曲が加わったとき、電線はその屈曲方向に関係なく同様に屈曲に応じて変形できるので、電気ケーブルの可とう性を良くすることが出来る。
【0025】
(変形例)本発明は上記実施形態に限られず、電気ケーブルのシース内の電源線や信号線となる電線の数、大きさ、シース内における電線の配置などは、電線の設置箇所や使用目的に応じて、適宜設計変更できる。
【0026】
また、本発明は上記実施形態に限られず、電気ケーブルのシース内の複数の電線のうち一部の電線に上記実施形態で説明した内部に中空部を設けた電線を使用しても良い。
【0027】
(応用例)本発明の電気ケーブルは、ロボットや自動車の可動機器に接続する電気ケーブルとして使用できる。自動車においては、電動ブレーキハーネスやインホイールモータ用ハーネスのような振動や屈曲が頻繁に加わる電気ケーブルに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の電気ケーブルの一実施形態の断面図である。
【図2】本発明の電気ケーブルの一実施形態に用いる電線の断面図である。
【図3】従来の電気ケーブルの一例の断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 電気ケーブル
11 電線
12 介在
13 シース
14 被覆導体線
15 絶縁層
16 導体線
17 被覆層
18 介在線
19 中心介在線
20 電気ケーブル
21 電線
22 シース
23 介在
24 導体部
25 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線と、
前記複数の電線の全部または一部は、導体線と前記導体線の外周の被覆層からなる被覆導体線と、中空部を有し内周に前記被覆導体線を固着した絶縁層とからなり、
前記複数の電線の外周のシースと、
を備えたことを特徴とする電気ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁層は弾性を有するゴム材からなることを特徴とする請求項1記載の電気ケーブル。
【請求項3】
前記絶縁層はEPDMまたはクロロプレンゴムからなることを特徴とする請求項1記載の電気ケーブル。
【請求項4】
前記被覆層は弾性を有するゴム材からなることを特徴とする請求項1記載の電気ケーブル。
【請求項5】
前記被覆層はEPDMまたはクロロプレンゴムからなることを特徴とする請求項1記載の電気ケーブル。
【請求項6】
前記絶縁層と前記被覆層は同じ材料からなることを特徴とする請求項1記載の電気ケーブル。
【請求項7】
前記被覆導体線は前記絶縁層の内周に前記電線の長手方向に沿ってらせん状に固着したことを特徴とする請求項1記載の電気ケーブル。
【請求項8】
電気ケーブルは、電動ブレーキハーネスまたはインホイールモータ用ハーネスであることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の電気ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−311106(P2007−311106A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137641(P2006−137641)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】