説明

電気チェーンブロック及びその制御方法

【課題】中速度又は高速度の巻上げ又は巻下げ時でもフローティング制御を円滑にかつ操作に対して応答よく行うことができる電気チェーンブロック及びその制御方法を提供する。
【解決手段】巻上げ又は巻下げ速度検出部18は、巻上下電動機4の巻上げ又は巻下げ速度を検出する。移動平均時間算出部19は、移動平均処理を行うための移動平均時間を、巻上下電動機4の巻上げ又は巻下げ速度に応じて算出する。荷重検出部20は、電気チェーンブロック1にかかる荷重を検出し、検出した荷重を移動平均時間中にサンプリングする。荷重平均値算出部21は、サンプリングした荷重を移動平均時間で平均化する移動平均処理を行うことによって、電気チェーンブロック1にかかる荷重の平均値を算出する。巻上げ又は巻下げ動作制御部23は、操作力に応じて巻上下電動機4の巻上げ又は巻下げ動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上下電動機と、縦リンク及び横リンクが交互に連接するチェーンと、巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作に連動してチェーンを巻き上げ又は巻き下げる多角形ロードシーブと、を有する電気チェーンブロック及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを巻き上げ又は巻き下げるホイストとして、多角形ロードシーブによってチェーンを巻き上げ又は巻き下げる電気チェーンブロックや、胴巻によってロープを巻き上げ又は巻き下げるロープホイストが広く用いられている。
【0003】
電気チェーンブロックは、チェーンを多角形ロードシーブによって巻き上げる際にチェーンをバケットに収納する。したがって、電気チェーンブロックは、ロープを胴巻に巻き取るロープホイストよりも本体を小さくすることができ、巻上げ位置が一定になるという利点を有する。
【0004】
一般的なホイストは、押し釦にてモータの回転方向及び速度を操作し、ホイストに吊り下げられたワークを巻上げ又は巻下げる。一方、操作者がワークに手を添え、その操作力と方向によってワークを巻上げ又は巻下げるフローティング制御がある。
【0005】
フローティング制御を行う場合、ホイストは、本体にかかる荷重を検出し、検出した荷重と、予めホイストに記憶されたワークの荷重との差分から、ワークに対する操作力を算出し、算出された操作力に応じて巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作を制御する。
【0006】
従来、操作力を正確に算出するために、本体にかかる荷重を、巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度に関係ない一定の期間中に所定の間隔ごとに複数回検出し、検出された荷重の平均値を算出し、算出した荷重の平均値と、予めホイストに記憶されたワークの荷重との差分から、ワークに対する操作力を算出し、算出された操作力に応じて巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作を制御するホイストが提案されている(例えば、特許文献1)。このような荷重の平均値は、算出した荷重の変動周期が長い場合にはワークの荷重と操作力との和に相当するので、荷重の平均値とワークの荷重との差分を算出することによって、操作力を正確に算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−310396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気チェーンブロックは、多角形ロードシーブによってチェーンを巻き上げ又は巻き下げしているので、チェーンの巻上げ又は巻下げ速度が短い周期で変動する。このようにチェーンの巻上げ又は巻下げ速度が周期的に変動することによって、電気チェーンブロックの本体も振動し、検出される電気チェーンブロックの荷重もそれに応じて周期的に変動する。
【0009】
このような検出される電気チェーンブロックの荷重の変動周期は、チェーンブロックの巻上げ又は巻下げ速度が速くなるに従って短くなる。したがって、短い時間間隔で荷重変動するために算出された操作力も変動し、安定制御が難しくなる。よって、制御を安定させるために検出荷重を平滑化する処理が必要となる。この平滑化処理は、平滑化データ数(時間)を多く(長く)するに従って制御が安定するが、応答性が犠牲になる特性がある。これは、巻上げ又は巻下げ速度が大きくなるほど顕著な問題となる。
【0010】
例えば、検出される電気チェーンブロックの荷重の変動周期が比較的長い低速度(2〜3m/分)の巻上げ又は巻下げの場合には、制御が安定するが、検出される電気チェーンブロックの荷重の変動周期が比較的短い中速度(4〜5m/分)及び高速度(10m/分)の巻上げ又は巻下げの場合には、安定した操作力を検出するのが困難になる。したがって、電気チェーンブロックにおいて、中速度又は高速度の巻上げ又は巻下げ時に操作力を正確に算出すること、すなわち、フローティング制御を円滑に行うのが困難になる。
【0011】
本発明の目的は、中速度又は高速度の巻上げ又は巻下げ時でもフローティング制御を円滑にかつ操作に対して応答性よく行うことができる電気チェーンブロック及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するために、本発明は、巻上下電動機と、縦リンク及び横リンクが交互に連接するチェーンと、巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作に連動してチェーンを巻き上げ又は巻き下げる多角形ロードシーブと、を有する電気チェーンブロックであって、チェーンに取り付けられるワークの荷重を予め記憶する記憶部と、巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度を検出する巻上げ又は巻下げ速度検出部と、移動平均処理を行うための移動平均時間を、巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度に応じて算出する移動平均時間算出部と、電気チェーンブロックにかかる荷重を検出し、検出した荷重を、移動平均時間中に移動平均時間より短いサンプリング間隔でサンプリングする荷重検出部と、サンプリングした荷重を移動平均時間で平均化する移動平均処理を行うことによって、電気チェーンブロックにかかる荷重の平均値を算出する荷重平均値算出部と、ワークの荷重と荷重平均値との差分からワークに対する操作力を算出する操作力算出部と、操作力に応じて巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作を制御する巻上げ又は巻下げ動作制御部と、を有することを特徴とする電気チェーンブロックを提供する。
【0013】
かかる電気チェーンブロックにおいて、移動平均時間算出部は、移動平均時間を、多角形ロードシーブがチェーンの縦リンク及びそれに連接する横リンクの対に相当する長さだけチェーンを巻き上げ又は巻き下げるのに要する時間に設定するのが好ましい。
【0014】
かかる電気チェーンブロックにおいて、移動平均時間算出部は、巻上下電動機の停止時には、移動平均時間を、予め設定された時間に設定し、巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度が所定の速度に到達すると、移動平均時間を、多角形ロードシーブがチェーンの縦リンク及びそれに連接する横リンクの対に相当する長さだけチェーンを巻き上げ又は巻き下げるのに要する時間に設定するのが好ましい。
【0015】
また、本発明は、巻上下電動機と、縦リンク及び横リンクが交互に連接するチェーンと、巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作に連動してチェーンを巻き上げ又は巻き下げる多角形ロードシーブと、を有する電気チェーンブロックを制御装置によって制御する方法であって、制御装置が、巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度を検出する巻上げ又は巻下げ速度検出ステップと、制御装置が、移動平均処理を行うための移動平均時間を、巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度に応じて算出する移動平均時間算出ステップと、制御装置が、電気チェーンブロックにかかる荷重を検出し、検出した荷重を、移動平均時間中に移動平均時間より短いサンプリング間隔でサンプリングする荷重検出ステップと、制御装置が、サンプリングした荷重を移動平均時間で平均化する移動平均処理を行うことによって、電気チェーンブロックにかかる荷重の平均値を算出する荷重平均値算出ステップと、制御装置が、予め記憶されたワークの荷重と荷重の平均値との差分からワークに対する操作力を算出する操作力算出ステップと、制御装置が、操作力に応じて巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作を制御する巻上げ又は巻下げ動作制御ステップと、を有することを特徴とする方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、サンプリングした荷重を移動平均処理するための移動平均時間を、巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度に応じて算出しているので、移動平均時間を、巻上げ又は巻下げ速度に対応する荷重の変動周期に応じて算出することができる。このような変動周期に応じて設定された移動平均時間中に、サンプリングされた荷重の平均値を算出することによって、検出される荷重の変動周期が短い場合でも、ワークの荷重と操作力との和に相当する荷重の平均値を算出することができ、その結果、正確な操作力を短時間で検出することができる。したがって、中速度又は高速度の巻上げ又は巻下げ時でも、安定し、かつ、応答性のよいフローティング制御を円滑に行うことができる電気チェーンブロック及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による電気チェーンブロックを有するシステムの正面図である。
【図2】本発明による電気チェーンブロックを有するシステムのブロック図である。
【図3】本発明による電気チェーンブロックの動作のフローチャートである。
【図4】多角形ロードシーブによるチェーンの巻上げによる荷重芯の変動を説明するための模式図である。
【図5】電気チェーンブロックの低速度の巻上げ速度の変動を示すグラフである。
【図6】従来の電気チェーンブロックの制御により得られるロードセル出力の変動及びモータ電流の出力周波数の変動を示すグラフである。
【図7】本発明による電気チェーンブロックの制御により得られるロードセル出力の変動及びモータ電流の出力周波数の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による電気チェーンブロック及びその制御方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明による電気チェーンブロックを有するシステムの正面図である。図1に示すシステムにおいて、電気チェーンブロック1の吊り掛け部位2付近には、ロードセル3が取り付けられる。ロードセル3によって検出された電気チェーンブロック1にかかる荷重を表すロードセル出力信号は、配線(図示せず)を通じて電気チェーンブロック1の制御装置4に供給される。
【0019】
また、電気チェーンブロック1の側部には、高速度又は低速度での矢印a方向の巻上げ又は矢印b方向の巻下げを行う巻上下電動機5の回転を回転パルス信号として出力するエンコーダ6が巻上下電動機5の回転軸に取り付けられ、回転パルス信号は、配線(図示せず)を通じて電気チェーンブロック1の制御装置4に供給される。
【0020】
図2は、本発明による電気チェーンブロックを有するシステムのブロック図である。図2において、電気チェーンブロック1は、電源7から電力が供給される。また、電気チェーンブロック1には、操作部8の操作やエンコーダ6から入力される回転パルス信号に応じて電気チェーンブロック1の各種動作を制御する制御装置4と、制御装置4によって演算された演算値、ロードセル3によって検出された荷重の値、操作部8によって入力されたワーク9の荷重等を記憶する記憶部としてのRAM10とが設けられている。
【0021】
電気チェーンブロック1は、巻上下電動機4の他に、巻上下電動機4を制動するブレーキ11と、巻上下電動機4で発生したトルクを増幅する減速機12と、ワーク9を取り付け可能なフック13と、縦リンク14a及び横リンク14bが交互に連接し、一端にフック13が接続されたチェーン14と、トルク増幅した減速機12でチェーン14を巻上げ又は巻下げる多角形ロードシーブ15と、巻上下電動機4に三相交流モータ電流を供給するインバータ制御回路16と、を有する。
【0022】
操作部8は、巻上げ用と巻下げ用の二つの押し釦がある。これらの押し釦はそれぞれ、2段押し込み式のスイッチになっており、1段押し込みで低速操作を行い、2段押し込みで高速操作を行う。例えば、操作部8は、位置決め時には低速操作を行い、巻上げ又は巻下げ距離が長い場合には高速操作を行う。
【0023】
2段押し込み式のスイッチを用いる場合、巻上げ釦を1段押し込むと、低速巻上げ操作信号がインバータ制御回路16に出力され、巻上げ釦を2段まで押し込むと、高速巻上げ操作信号がインバータ制御回路16に出力され、巻下げ釦を1段押し込むと、低速巻下げ操作信号がインバータ制御回路16に出力され、巻下げ釦を2段まで押し込むと、高速巻下げ操作信号がインバータ制御回路16に出力される。
【0024】
さらに、操作部8は、通常制御とフローティング制御との間の制御の切替を行うボタンや、ワーク9の荷重を予めRAM10に記憶するためのテンキー等のキーも有する。
【0025】
制御装置4は、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)を内蔵した基板によって構成され、操作部8から出力される操作信号及びエンコーダ6から出力されるパルス出力信号に従って巻上下電動機5及びブレーキ11の動作を制御するために、不揮発性ROM(図示せず)に格納された各種プログラムを実行する。このために、制御装置4は、制御切替部17と、巻上げ又は巻下げ検出部18と、移動平均時間算出部19と、荷重検出部20と、荷重平均値算出部21と、操作力算出部22と、巻上げ又は巻下げ動作制御部23と、スイッチ24と、を有する。
【0026】
制御切替部17は、操作部8の操作に応じて通常操作とフローティング操作との間の切替を行うために、スイッチ24をオン又はオフにする。すなわち、制御切替部17は、通常操作の時にはスイッチ24をオフにし、フローティング操作の時にはスイッチ24をオンにする。
【0027】
巻上げ又は巻下げ速度検出部18は、エンコーダ6から回転パルス信号が入力され、回転パルス信号を計数することによって巻上下電動機5の巻上げ又は巻下げ速度を検出する。移動平均時間算出部19は、巻上下電動機5の巻上げ又は巻下げ速度を表す信号が巻上げ又は巻下げ速度検出部18から入力され、後述するロードセルサンプリングデータの平滑化処理を巻上げ又は巻下げ速度に基づいて行うために、ロードセルサンプリングデータの平均値をとる時間(移動平均時間)tを、算出する。
【0028】
荷重検出部20は、アンプ25によって増幅されたロードセル出力信号が入力され、電気チェーンブロック1にかかる荷重を所定のサンプリング間隔でサンプリングし、サンプリングした荷重に対応するロードセルサンプリングデータを、サンプリング順にRAM10に書き込む。このサンプリング間隔は、移動平均時間算出部19によって算出された時間tより十分短い時間とする。
【0029】
荷重平均値算出部21は、RAM10に記憶されたデータのうち、現時刻から移動平均時間算出部19によって算出された時間tだけさかのぼったロードセルサンプリングデータを平均化する移動平均処理を行うことによって、電気チェーンブロックにかかる荷重の平均値を算出する。操作力算出部22は、RAM10からワーク9の荷重を読み出すとともに、荷重の平均値を表す信号が荷重平均値算出部21から入力される。そして、操作力算出部22は、荷重の平均値からワーク9の荷重を減算することによって操作力を算出し、操作力に対してPID制御のような比例制御を行い、操作力に比例した力を算出する。
【0030】
巻上げ又は巻下げ動作制御部23は、フローティング制御時には、RAM10からワーク9の荷重を読み出すとともに、操作力に比例した力を表す信号が操作力算出部22から入力される。そして、巻上げ又は巻下げ動作制御部23は、ワーク9の荷重と操作力に比例した力とを加算したものをトルク指令としてインバータ制御回路16に出力する。その後、インバータ制御回路16は、トルク指令に基づいてモータ電流を生成し、モータ電流を巻上下電動機5に供給する。モータ電流が巻上下電動機5に供給されることによって、ワーク9を支えるトルク及び操作力に比例したトルクが巻上下電動機5に発生し、巻上下電動機5が無段速制御される。
【0031】
また、巻上げ又は巻下げ動作制御部23は、通常制御時には、RAM10からワーク9の荷重を読み出し、ワーク9の荷重をトルク指令としてインバータ制御装置16に出力する。その後、インバータ制御装置16は、トルク指令に基づいてモータ電流を生成し、モータ電流を巻上下電動機4に供給する。モータ電流が巻上下電動機5に供給されることによって、ワーク9を支えるトルクに比例したトルクが発生し、巻上下電動機5が指定の押し釦操作に従った速度で制御される。
【0032】
なお、本実施の形態では、電源7の電圧を整流する整流器26及びブレーキ11と整流器26との間の接続及び切り離しを行う接点27を介して電源7の電力がブレーキ11に供給される。接点27の接続及び切り離しは、操作部8による操作だけでなく制御装置4の制御によっても行われ、この場合、接点27に近接されたコイル27を励磁又は非励磁状態にする。
【0033】
図3は、本発明による電気チェーンブロックの動作のフローチャートである。このフローは、制御装置8で実行されるプログラムによって制御され、ワーク9をフック13に取り付けた後に実行される。
【0034】
先ず、ステップS1において、操作部7の操作に応じてワーク9の荷重をRAM10に記憶させる。操作部7から「荷重記憶」の指令がなく、かつ、RAM1012荷重が記憶されている場合はステップSに進む。次に、ステップS2において、制御切替部17は、通常制御とフローティング制御のいずれが操作部7によって選択されているか判断する。通常制御が選択されている場合、制御切替部17は、通常制御を行うためにスイッチ24をオフにし、ステップS3において、操作部7による押し釦信号を生成し、ステップS4において、巻上げ又は巻下げ動作制御部23は、操作部7による押し釦信号に従って、ワークの荷重をトルク指令としてインバータ制御回路16に出力し、本ルーチンを終了する。それに対し、フローティング制御が選択されている場合、制御切替部17は、フローティング制御を行うためにスイッチ24をオンにし、その後、ステップS5において、巻上げ又は巻下げ速度検出部18は、巻上下電動機4の巻上げ又は巻下げ速度を検出する。その後、ステップS6において、移動平均時間算出部19は、巻上げ又は巻下げ速度に基づいて、ロードセルサンプリングデータの平均値をとる時間tを算出する。算出される時間tは、巻上下電動機6の動作時には、電気チェーンブロック1にかかる荷重の変動周期と同一である。なお、電気チェーンブロック1にかかる荷重の変動周期は、巻上下電動機6の巻上げ又は巻下げ速度の変動周期Tに一致する。
【0035】
図4は、多角形ロードシーブによるチェーンの巻上げによる荷重芯の変動を説明するための模式図であり、図5は、電気チェーンブロックの低速度の巻上げ速度の変動を示すグラフである。図4において、チェーン14は多角形ローブ15により矢印R方向に巻き上げられるものとし、チェーン14の縦リンク14a及びそれに連接する横リンク14bの長さをそれぞれLcとし、これら縦リンク14a及び連接する横リンク14bの対の長さを2Lc=Lとする。図4の多角形ロードシーブは角数5と呼び、1周5対のチェーンが巻き付けられる形状となっている。
【0036】
図4Aは、チェーン14の中心位置である荷重芯X1が多角形ロードシーブ15の回転軸芯に最も近づいた状態を示し、この状態は、図5のグラフのポイントaの座標に対応する。図4Bは、多角形ロードシーブ15が図4Aの状態から矢印R方向に回転し、チェーン14の中心位置である荷重芯X2が多角形ロードシーブ15の回転軸芯から最も遠のいた状態を示し、この状態は、図5のグラフのポイントbの座標に対応する。図4Cは、多角形ロードシーブ14が図4Bの状態から矢印R方向に回転し、チェーン14の側面と多角形ロードシーブ15の側面が垂直になった状態を示し、この状態は、図5のグラフのポイントCの座標に対応する。図4Dは、多角形ロードシーブ14が図4Cの状態から矢印R方向に回転し、チェーン17の中心位置である荷重芯X2が多角形ロードシーブ14の回転軸芯から再び最も遠のいた状態を示し、この状態は、図5のグラフのポイントdの座標に対応する。図4Dの状態から矢印R方向に更に回転すると、図4Aの状態に戻り、この状態は図5のポイントeの座標に対応する。ポイントaからポイントeまで遷移する時間が巻上下電動機6の巻上げ又は巻下げ速度の変動の1周期(T)となり、この1周期の間に多角形ロードシーブ15は矢印R方向に360°/K(Kを多角形ロードシーブの角数とし、図4の場合、K=5で72°)回転する。
【0037】
図4Aの状態から図4Bの状態になり、その後に図4Cの状態になるまで、チェーン14はLcだけ巻き上げられる。さらに、図4Cの状態から図4Dの状態になり、その後に図4Aの状態になるまでの間にチェーン14はLc巻き上げられて合計2LcすなわちLだけ巻き上げられる。チェーン14がLだけ巻き上げられる間、電気チェーンブロック1にかかる荷重は、多角形ロードシーブ15の回転中に荷重芯が幅Δの間で変動することによって、図5に示すように周期的に変動し、その変動周期は、チェーン14がLだけ巻き上げられるのに要する時間となる。
【0038】
Sをシーブ回転数(rpm)とした場合、Sは巻上下電動機5の回転数に比例する。したがって、移動平均時間算出部19は、巻上げ又は巻下げ速度検出部18で算出した巻上げ又は巻上げ速度からシーブ回転数Sを求めることにより、変動周期Tを求めることができる。
【0039】
また、Fをモータ電流の出力周波数(Hz)とし、Pを巻上下電動機5を構成する三相誘導電動機の極数とし、Nを巻上下電動機4の回転数(rpm)とし、Mを電気チェーンブロック1の減速比とした場合、三相誘導電動機のすべりを無視すると、N=120*F/P及びT=60/S/Kの関係が成立し、T=P/(2*F*M*K)の関係も成立するので、インバータ制御装置16の出力周波数Fからも変動周期Tを求めることができる。
【0040】
期間Tは、巻上下電動機4の巻上げ又は巻下げ速度に対応する巻上下電動機4の回転数Nに応じて変更される。例えば、P=4,M=0.06,K=5とした場合、高速度の巻上げ(N=1800)に対応するF=60(Hz)のときには、T=0.115(秒)となり、低速度の巻上げ(N=240)に対応するF=8(Hz)のときには、T=0.867(秒)となる。
【0041】
荷重検出部20は、電気チェーンブロック1にかかる荷重を、時間tより短いサンプリング間隔でサンプリングし、サンプリングした荷重に対応するロードセルサンプリングデータを、RAM10に書き込む。例えば、10ミリ秒ごとにサンプリングする場合、高速度の巻上げに対応するF=60(Hz)のときには、電気チェーンブロック1にかかる荷重が(0.115/0.010=11.5)11〜12回サンプリングされ、低速度の巻上げに対応するF=8(Hz)のときには、電気チェーンブロック1にかかる荷重が(0.867/0.010=86.7)86〜87回サンプリングされる。後述のステップS7において、時間tの代わりにこれらの速度ごとのサンプリング数をRAM10から呼び出す数(高速時12回、低速時87回)に用いるようにすると、制御が簡略化できて好ましい。
【0042】
なお、巻上下電動機5の停止時には、移動平均時間算出部19は、時間tを、予め設定された時間(例えば、2秒)に設定し、巻上下電動機4の巻上げ又は巻下げ開始後に巻上げ又は巻下げ速度が所定の速度(例えば、2m/分)に到達すると、変動周期Tと同一にする。
【0043】
ステップS6で時間tを算出した後、ステップS7において、荷重平均値算出部21は、現時刻から時間tだけさかのぼった間に記録されたロードセルサンプリングデータをRAM10から読み出し、読み出したロードセルサンプリングデータの総和を算出し、算出した総和をサンプリング数で除算することによって、荷重の平均値を算出(移動平均処理)する。そして、荷重平均値算出部21は、荷重の平均値を表す信号を操作力算出部22に出力する。
【0044】
その後、ステップS8において、操作力算出部22は、RAM10からワーク9の荷重を読み出し、荷重の平均値からワーク9の荷重を減算することによって操作力を算出し、操作力に対して比例制御を行い、操作力に比例した力を算出する。そして、操作力算出部22は、操作力に比例した力を表す信号を巻上げ又は巻下げ動作制御部23に出力する。
【0045】
その後、ステップS9において、巻上げ又は巻下げ動作制御部23は、RAM10からワーク9の荷重を読み出し、ワーク9の荷重と操作力に比例した力とを加算したものをトルク指令としてインバータ制御回路16に出力し、本ルーチンを終了する。本ルーチンは、サンプリング間隔以上の間隔であり、かつ、変動周期T以下の間隔(例えば、20ミリ秒)で割込み処理するものとなっている。
【0046】
本実施の形態によれば、ロードセルサンプリングデータの平滑化を行うためにロードセルサンプリングデータの平均値をとる時間tを、巻上下電動機4の巻上げ又は巻下げ速度に応じて算出しているので、時間tを、巻上げ又は巻下げ速度によって変化するロードシーブの多角形による影響で生じるチェーンブロックに掛かる荷重の変動周期に応じて算出することができる。現時刻からこの算出した時間tだけさかのぼったサンプリングデータの平均値を算出することによって、応答性を損なうことなくロードセル信号が平滑化される。これによって、速度が速く検出される荷重の変動周波数が大きい場合でも、電気チェーンブロック1にかかる荷重に含まれる変動成分が除去され、ワーク12の荷重と操作力との和に相当する荷重を算出することができ、その結果、正確な操作力を算出することができる。したがって、軽い操作力であり、応答性がよく、かつ、安定したフローティング制御を行うことができる電気チェーンブロック及びその制御方法を提供することができる。
【0047】
図6は、従来の電気チェーンブロックの制御により得られるロードセル出力の変動及びモータ電流の出力周波数の変動を示すグラフである。図6は、高速度の巻上げに対応するF=60(Hz)のときのロードセル出力の変動及びモータ電流の出力周波数の変動を示している。図6A及び図6Bに示すように、多角形ロードシーブによるチェーンの巻き上げ速度の変動周期を考慮しない(平滑化処理による)フローティング制御では、検出荷重が変動し、それに伴って出力周波数も変動することによって、チェーンの巻上げ速度が更に変動し、このような悪循環により円滑な制御ができていない。
【0048】
図7は、本発明による電気チェーンブロックの制御により得られるロードセル出力の変動及びモータ電流の出力周波数の変動を示すグラフである。図7は、高速度の巻上げに対応するF=60(Hz)のときのロードセル出力の変動及びモータ電流の出力周波数の変動を示している。図7Aにおいて、ロードセル出力を折線dで示すとともに、荷重平均値算出部25により移動平均処理を行ったロードセル出力を折線eで示す。
【0049】
図7Aの折線eで示すように、ロードセル出力を移動平均処理することによってロードセルの出力を平滑化できていることが示され、図7Aの折線dで示すように、従来の電気チェーンブロックのフローティング制御で発生した電気チェーンブロックの本体の激しい振動がなくなることによってロードセル出力の変動も小さく安定している。したがって、本発明による電気チェーンブロックの制御により円滑な平滑化処理が行われていることがわかる。このように円滑な平滑化処理が行われているのは、図7Bに示すように、モータ電流の出力周波数も円滑になっていることからもわかる。
【0050】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。例えば、上記実施の形態において、多角形ロードシーブが五角形の場合について説明したが、多角形ロードシーブを五角形以外の多角形とすることもできる。また、上記実施の形態において、無段速制御を行う場合について説明したが、多段速制御又は単速制御を行うこともできる。また、上記実施の形態において、高速又は低速巻上げ又は巻下げを行う場合について説明したが、中速巻上げ又は巻下げを行うこともできる。
【0051】
また、上記実施の形態において、ロードセルを電気チェーンブロックの吊り掛け部位付近に配置した場合について説明したが、荷重を検知できればロードセルを任意の位置に配置することもできる。また、上記実施の形態において、電気チェーンブロックにかかる荷重を検出するためにロードセルを用いたが、モータ電流からベクトル演算によって算出されるトルク電流を用いて電気チェーンブロックにかかる荷重を検出することもできる。さらに、上記実施の形態において、移動平均時間tを変動周期Tと同一にする場合について説明したが、変動周期Tの2倍、3倍等の整数倍とすることもできる。特に高速が上記実施の形態において説明した速度より速い場合には、低速域では移動平均時間tを変動周期Tの1倍とし、高速域では2倍以上の整数倍とすることもできる。
【符号の説明】
【0052】
1 電気チェーンブロック
2 吊り掛け部位
3 ロードセル
4 制御装置
5 巻上下電動機
6 エンコーダ
7 電源
8 操作部
9 ワーク
10 RAM
11 ブレーキ
12 減速機
13 フック
14 チェーン
14a 縦リンク
14b 横リンク
15 多角形ロードシーブ
16 インバータ制御装置
17 制御切替部
18 巻上げ又は巻下げ速度検出部
19 移動平均時間算出部
20 荷重検出部
21 加重平均値算出部
22 操作力算出部
23 巻上げ又は巻下げ動作制御部
24 スイッチ
25 アンプ
26 整流器
27 接点
28 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上下電動機と、縦リンク及び横リンクが交互に連接するチェーンと、前記巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作に連動して前記チェーンを巻き上げ又は巻き下げる多角形ロードシーブと、を有する電気チェーンブロックであって、
前記チェーンに取り付けられるワークの荷重を予め記憶する記憶部と、
前記巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度を検出する巻上げ又は巻下げ速度検出部と、
移動平均処理を行うための移動平均時間を、前記巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度に応じて算出する移動平均時間算出部と、
前記電気チェーンブロックにかかる荷重を検出し、検出した荷重を、前記移動平均時間中に前記移動平均時間より短いサンプリング間隔でサンプリングする荷重検出部と、
サンプリングした荷重を前記移動平均時間で平均化する移動平均処理を行うことによって、前記電気チェーンブロックにかかる荷重の平均値を算出する荷重平均値算出部と、
前記ワークの荷重と前記荷重の平均値との差分から前記ワークに対する操作力を算出する操作力算出部と、
前記操作力に応じて前記巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作を制御する巻上げ又は巻下げ動作制御部と、を有することを特徴とする電気チェーンブロック。
【請求項2】
前記移動平均時間算出部は、前記移動平均時間を、前記多角形ロードシーブが前記チェーンの縦リンク及びそれに連接する横リンクの対に相当する長さだけ前記チェーンを巻き上げ又は巻き下げるのに要する時間に設定する請求項1に記載の電気チェーンブロック。
【請求項3】
前記記録期間設定部は、前記巻上下電動機の停止時には、前記移動平均時間を、予め設定された時間に設定し、前記巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度が所定の速度に到達すると、前記移動平均時間を、前記多角形ロードシーブが前記チェーンの縦リンク及びそれに連接する横リンクの対に相当する長さだけ前記チェーンを巻き上げ又は巻き下げるのに要する時間に設定する請求項1に記載の電気チェーンブロック。
【請求項4】
巻上下電動機と、縦リンク及び横リンクが交互に連接するチェーンと、前記巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作に連動して前記チェーンを巻き上げ又は巻き下げる多角形ロードシーブと、を有する電気チェーンブロックを制御装置によって制御する方法であって、
前記制御装置が、前記巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度を検出する巻上げ又は巻下げ速度検出ステップと、
前記制御装置が、移動平均処理を行うための移動平均時間を、前記巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ速度に応じて算出する移動平均時間算出ステップと、
前記制御装置が、前記電気チェーンブロックにかかる荷重を検出し、検出した荷重を、前記移動平均時間中に前記移動平均時間より短いサンプリング間隔でサンプリングする荷重検出ステップと、
前記制御装置が、サンプリングした荷重を前記移動平均時間で平均化する移動平均処理を行うことによって、前記電気チェーンブロックにかかる荷重の平均値を算出する荷重平均値算出ステップと、
前記制御装置が、予め記憶された前記ワークの荷重と前記荷重の平均値との差分から前記ワークに対する操作力を算出する操作力算出ステップと、
前記制御装置が、前記操作力に応じて前記巻上下電動機の巻上げ又は巻下げ動作を制御する巻上げ又は巻下げ動作制御ステップと、を有することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−1323(P2012−1323A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138267(P2010−138267)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)