説明

電気チェーンブロック

【課題】電気チェーンブロックのロードチェーンに確実に潤滑油を塗布するようにした電気チェーンブロックを提供する。
【解決手段】電気チェーンブロック10はスプロケット13が回転自在に装着されたフレーム11を有し、スプロケット13には一端部に下吊具15が設けられたロードチェーン14が掛け渡されており、ロードチェーン14の他端部はチェーンバケット16に収容される。フレーム11には、潤滑油Lを収容する潤滑剤容器51が設けられ、潤滑剤容器51とロードチェーン14との間にはガイドローラ55が回転自在に装着され、ロードチェーン14の上下動により回転駆動される。ガイドローラ55により潤滑油Lはロードチェーン14に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷を上下動するための電気チェーンブロックに関し、特にロードチェーンの摩耗を防止するようにした電気チェーンブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
重量物を吊荷としてこれを上下動するための電気チェーンブロックは、金属製のリンク片を多数連結して形成されるロードチェーンを有している。ロードチェーンはスプロケットに掛け渡されており、スプロケットを駆動することによりロードチェーンの一端部に設けられた吊荷吊り下げ用の下フックを上下動させて吊荷の巻上げと巻下げが行われる。ロードチェーンの他端部はチェーン収納器としてのチェーンバケットに収納されるようになっており、吊荷を巻き上げるときにはロードチェーンの他端部はチェーンバケットに入り込み、吊荷を巻下げるときにはロードチェーンはチェーンバケットから繰り出されることになる。
【0003】
ロードチェーンは、上述のように、多数のリンク片を連結して形成されており、隣り合うリンク片は吊荷の巻上げおよび巻下げ時に滑り接触することになるので、ロードチェーンのリンク片同士は摩擦接触することになる。摩擦接触によりリンク片の摩耗が進行するとロードチェーンが破断することになるので、リンク片の摩耗を抑制するために、ロードチェーンにはグリースや潤滑油等の潤滑剤を塗布するようにしている。潤滑剤をロードチェーンに塗布すると、リンク片の摩耗を抑制することができるだけでなく、ロードチェーンのキンクつまり捩れやもつれの発生を防止することができる。
【0004】
ロードチェーンに対する潤滑剤の塗布を手作業で行うようにすると、電気チェーンブロックが高所に設置されることから、作業性が悪いだけでなく、塗布むらが生じやすいので、特許文献1に記載されるように、電気チェーンブロックに潤滑油給油機構を設けることが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−149942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の潤滑油給油機構においては、油槽に取り付けられたブラシをロードチェーンに接触させるようにしている。しかしながら、このような給油方式ではリンク片の摩擦接触部位に充分に潤滑剤を塗布することができないことが判明した。その理由は、ロードチェーンがリンク片を多数連結することにより形成されているので、相互に隣り合うリンク片はその姿勢がほぼ直角方向にずれ、リンク片が相互に交差する対向面の部分が摩擦接触部位となっているからである。つまり、摩擦接触部位はリンク片の外面により覆われたリンク片の両端の内面に形成されるので、その部分に潤滑剤を自動的に塗布するために、従来のようにロードチェーンにその外側からブラシで潤滑剤を塗布したのみでは、摩擦接触部位に潤滑油を入り込ませることができなかった。
【0007】
本発明の目的は、電気チェーンブロックのロードチェーンに確実に潤滑油を塗布するようにした電気チェーンブロックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気チェーンブロックは、電動モータにより回転駆動されるスプロケットが回転自在に装着された電気チェーンブロック本体と、リンク片を多数連結して形成され一端部に下吊具が設けられ前記スプロケットに掛け渡されるロードチェーンと、前記ロードチェーンの他端部を収容するチェーン収容器とを備え、前記下吊具に取り付けられた吊荷の巻上げと巻下げを行う電気チェーンブロックであって、前記電気チェーンブロック本体に設けられ、潤滑剤を収容する潤滑剤容器と、前記潤滑剤容器と前記ロードチェーンとの間に回転自在に装着され、前記ロードチェーンを前記スプロケットに向けて押し付けて前記ロードチェーンにより回転駆動されるガイドローラとを有し、前記ガイドローラにより潤滑剤を前記ロードチェーンに供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気チェーンブロックにおいては、潤滑剤容器に収容された潤滑剤をロードチェーンにより回転駆動されるガイドローラによってロードチェーンに供給するようにしているので、ガイドローラにより確実にロードチェーンに潤滑剤を供給することができる。これにより、ロードチェーンを構成するリンク片の摩擦接触部位における摩耗を抑制することができ、電気チェーンブロックの耐久性を向上させることができる。リンク片の摩擦接触部位に潤滑剤を自動的に供給することができるので、ロードチェーンのキンクやもつれの発生を防止して、円滑に吊荷の巻上げと巻下げ操作を行うことができる。
【0010】
ガイドローラにブラシを設けると、ガイドローラの回転に伴ってブラシによりロードチェーンのリンク片の内側にまで潤滑剤を塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態である電気チェーンブロックを示す正面図である。
【図2】図1の右側面図である。
【図3】図1の上方から見た断面図である。
【図4】(A),(B)はそれぞれ図3におけるA−A断面図である。
【図5】図3におけるB−B断面図である。
【図6】図5におけるC−C断面図である。
【図7】摩擦接触部位に対する潤滑油の塗布時におけるロードチェーンの挙動を示す要部拡大断面図である。
【図8】ロードチェーンの巻上げ巻下げ時における潤滑油塗布状態を示す概略図である。
【図9】ガイドローラの変形例を示す斜視図である。
【図10】(A)ガイドローラに対するブラシの配置状態を示す正面図であり、(B)はブラシの配置状態の変形例を示す正面図であり、(C)はブラシの配置状態の他の変形例を示す正面図である。
【図11】本発明の他の実施の形態である電気チェーンブロックを示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1および図3に示されるように、電気チェーンブロック10は電気チェーンブロック本体としてのフレーム11を有している。フレーム11の一方側にはモータフレーム11aが取り付けられ、他方側にはギヤケース11bが取り付けられている。このフレーム11の上側部には上フックつまり上吊具12が装着されており、電気チェーンブロック10はこの上吊具12により吊り下げられた状態で使用される。フレーム11内には上吊具12の下側に位置させてスプロケット13が図2に破線で示されるように装着され、スプロケット13はフレーム11に回転自在に装着されている。このスプロケット13にはロードチェーン14が掛け渡されており、このロードチェーン14の一端部には、下フックつまり下吊具15が設けられ、この下吊具15には荷物つまり吊荷が引っ掛けられるようになっている。
【0013】
スプロケット13を回転駆動することにより下吊具15に引っ掛けられた吊荷は、巻上げ移動されたり、巻下げ移動されることになる。図1および図2に示されるように、フレーム11にはロードチェーン14の他端部側を収容するためのチェーン収納器つまりチェーンバケット16が取り付けられている。チェーンバケット16は、図2に示されるように、フレーム11の背面側にずれて取り付けられており、吊荷が巻き上げられるとロードチェーン14の他端部側はチェーンバケット16内に入り込み、吊荷が巻下げられるとチェーンバケット16内からロードチェーン14が繰り出されることになる。電気チェーンブロック10には、操作入力部17がケーブル18により接続されており、操作入力部17に設けられた巻上げ用スイッチと巻下げ用スイッチを作業者が操作することにより吊荷の巻上げ動作と巻下げ動作が行われる。
【0014】
図3に示されるように、巻上げ回転体としてのスプロケット13は中空のスプロケット軸21に固定されており、このスプロケット軸21はフレーム11内に回転自在に装着されている。モータフレーム11a内には電動モータ22が装着され、電動モータ22の出力軸23は電動モータ22の両端面から外方に突出している。出力軸23の一方の突出端部23aは、モータフレーム11aに固定された支持板24に軸受を介して取り付けられており、この支持板24には電磁ブレーキ25が装着されている。
【0015】
この電磁ブレーキ25はコイル26を有し、出力軸23の突出端部23aには支持板24に対向するようにして回転ディスク27が固定され、回転ディスク27とコイル26の間にはこれに対して接近離反移動自在に締結ディスク28が配置されている。締結ディスク28には回転ディスク27に向かう方向のばね力が加えられており、ばね力により締結ディスク28が回転ディスク27に向けて押し付けられると、締結ディスク28と回転ディスク27が支持板24に密着して電磁ブレーキ25は締結状態となって出力軸23はロックされる。一方、コイル26に通電すると、締結ディスク28が磁力によりばね力に抗して吸引され、締結ディスク28は回転ディスク27から離れることになり、電磁ブレーキ25は出力軸23の回転を許容する開放状態となる。
【0016】
図3に示されるように、電動モータ22の出力軸23の突出端部23bは、中空のスプロケット軸21の内部に回転自在に組み込まれた駆動軸31に連結されており、駆動軸31はギヤケース11b内に設けられている。駆動軸31はスリップクラッチ32を介して小歯車33に連結されており、この小歯車33は減速軸34に設けられた大歯車35と噛み合っている。この小歯車33と大歯車35により駆動軸31の回転を減速して減速軸34に伝達する減速機構36が形成されている。減速軸34は、スプロケット軸21の外側に装着されたメカニカルブレーキ37を介してスプロケット軸21に連結されており、電動モータ22の出力軸23の回転は減速機構36により減速されてスプロケット軸21に伝達される。
【0017】
このメカニカルブレーキ37は、円筒形状のねじ部38と、このねじ部38の一端部に一体に設けられたディスク部39とを備えたブレーキディスク40を有し、ブレーキディスク40はスプロケット軸21に固定されている。メカニカルブレーキ37は、電磁力により作動する電磁ブレーキ25に比して大きな制動トルクが得られる。したがって、電動モータ22を停止させた状態のもとで吊荷により大きな負荷がスプロケット13に加わっても、確実にスプロケット13の回転を規制することができる。
【0018】
スリップクラッチ32は駆動軸31に取り付けられるクラッチディスク41と小歯車33に取り付けられるクラッチディスク42とを有しており、過度の負荷がスプロケット13に加わった場合には、スリップクラッチ32のクラッチディスク41,42が滑ることにより、小歯車33から駆動軸31への回転伝達が遮断される。これにより、電気チェーンブロック10によって過度の荷重の吊荷が巻上げ操作されることが防止される。なお、両方のクラッチディスク41,42の間にはクラッチライニングが配置されている。
【0019】
メカニカルブレーキ37のねじ部38の外周面には雄ねじ38aが形成されており、この雄ねじ38aには、ブレーキ歯車43の雌ねじ43aがねじ結合されている。このブレーキ歯車43は、減速軸34に設けられた連結歯車44に噛み合っており、駆動軸31の出力は減速軸34を介してブレーキ歯車43に伝達される。ブレーキ歯車43とディスク部39との間には、ラチェットホイール45が回転自在に装着されている。ブレーキ歯車43がディスク部39に接近する方向に相対回転すると、ブレーキ歯車43がラチェットホイール45に密着し、ラチェットホイール45を介してブレーキディスク40とブレーキ歯車43は締結された状態となる。一方、ブレーキ歯車43がブレーキディスク40に対して締結を解除する方向に相対回転すると、ブレーキディスク40とブレーキ歯車43との締結が解除されて、メカニカルブレーキ37は開放状態となる。このように、ブレーキ歯車43がブレーキディスク40に対して相対回転すると、ブレーキ歯車43はブレーキディスク40に対して締結位置と開放位置との間を軸方向に移動することになる。ブレーキ歯車43がディスク部39から離れる位置は、ストッパ46により規制されるようになっている。
【0020】
図4に示されるように、ラチェットホイール45にはラチェット47が噛み合うようになっており、図示しないばね部材によりラチェット47にはその先端がラチェットホイール45の外周面に接触する方向にばね力が加えられている。ラチェット47は、ラチェットホイール45が矢印D2方向つまり巻下げ方向に回転すると、図4(B)に示されるように、ラチェットホイール45に噛み合ってラチェットホイール45が矢印D2で示す方向に回転するのを阻止する。
【0021】
吊荷を下吊具15により吊り下げた状態のもとで吊荷の上下動を停止させるときには、電動モータ22への電力供給を停止させるとともに電磁ブレーキ25への電力供給を停止させて電磁ブレーキ25を締結状態とする。このときには、図4(B)に示されるように、ラチェットホイール45にラチェット47が噛み合ってスプロケット軸21はロックされる。このときには、吊荷の荷重によりスプロケット軸21には巻下げ方向D2に回転力が加えられるが、出力軸23の回転が電磁ブレーキ25により停止されており、ブレーキ歯車43によりラチェットホイール45はディスク部39に締結された状態となるので、吊荷の荷重により巻下げ方向D2の回転力がスプロケット軸21に加わることになる。これにより、図4(B)に示されるように、ラチェット47がラチェットホイール45に噛み合ってスプロケット13はロックされて回転が規制される。このように、メカニカルブレーキ37によってスプロケット軸21がロックされるので、電磁ブレーキ25を開放したとしても吊荷が巻下がることが防止される。これにより、電動モータ22を停止させた状態のもとで吊荷により大きな負荷がスプロケット13に加わっても、確実にスプロケット13の回転を規制することができる。
【0022】
一方、電動モータ22を逆転させて吊荷の巻下げ運転を行うときには、電磁ブレーキ25を開放し、電動モータ22によって出力軸23を逆転方向に回転駆動する。このときには、吊荷によってスプロケット軸21には巻下げ方向の回転力が加わるので、出力軸23が巻下げ方向に駆動され、減速軸34は巻下げ方向D1に回転駆動される。これにより、ブレーキ歯車43はブレーキディスク40に対して締結を解く方向に相対回転してメカニカルブレーキ37は緩もうとする。しかし、荷重は随時かかっているため、締結、緩みを繰り返し、ラチェットホイール45に対するディスク部39とブレーキ歯車43を擦り回りながら巻下げ運転を行う。
【0023】
電動モータ22の巻下げ方向の回転速度よりも吊荷によりスプロケット軸21に加わる巻下げ方向の回転速度が高くなると、ブレーキ歯車43はラチェットホイール45をディスク部39に密着する方向に相対回転することになる。これにより、図4(B)に示されるように、ラチェット47が噛み合った状態のラチェットホイール45によりスプロケット軸21は回転が規制されてロックされる。このように、電動モータ22の巻下げ方向の回転によりメカニカルブレーキ37の緩む動作と、吊荷の荷重によるメカニカルブレーキ37の制動動作とが繰り返されて、吊荷は出力軸23の回転にほぼ同期した状態となって巻下げられることになり、ラチェットホイール45の両面にはディスク部39とブレーキ歯車43とが摺動接触することになる。この巻下げ運動時には、メカニカルブレーキ37は出力軸23による開放動作と、吊荷の荷重による制動動作とを繰り返すことになるので、出力軸23には吊荷による逆転方向の回転力つまり回転トルクが加わることはない。ラチェットホイール45とディスク部39との間と、ラチェットホイール45とブレーキ歯車43との間にはブレーキライニングが配置されている。
【0024】
このように、メカニカルブレーキ37は吊荷が吊り下げられた状態のもとで電動モータ22の作動を停止させても、スプロケット13に加わる負荷によってスプロケット軸21が回転するのを規制するとともに、電動モータ22により吊荷を巻下げる際には吊荷により電動モータに逆転方向の回転トルクが伝達することが防止される。
【0025】
ロードチェーン14は多数のリンク片を連結することにより形成されており、図5〜図7に示されるように、隣り合うリンク片は相互に直角方向に姿勢がずれている。ロードチェーン14がスプロケット13に掛け渡された状態のもとでは、ロードチェーン14を構成する多数のリンク片の半数はスプロケット13の回転中心軸に対して直角方向を向く縦向きの縦リンク片14aとなり、他の半数は回転中心軸に沿う方向を向く横向きの横リンク片14bとなる。図5に示されるように、スプロケット13の噛み合い爪50には、縦リンク片14aが入り込む溝が形成されており、噛み合い爪50は縦リンク片14aの両側を挟み込むようにして縦リンク片14aに連結された2つの横リンク片14bの端部の間に噛み合うことになる。それぞれのリンク片14a,14bは、金属製の丸棒を長円形に折り曲げ、折り曲げ端部を溶接することによりループ状となっており、各々のリンク片14a,14bは溶接部分14wを有している。ロードチェーン14は、縦リンク片14aの溶接部分14wが外側となるように、スプロケット13に掛け渡されることになる。
【0026】
ロードチェーン14のうちは、図5に示されるようにスプロケット13とこれの一端部の下吊具15との間の部分は、下吊具15に吊荷を吊り下げた状態のもとでは吊荷の負荷が加わるので負荷側の部分となり、スプロケット13から他端部までのロードチェーン14の部分は吊荷の負荷が加わらない無負荷側の部分となる。フレーム11の下面にはガイド板48が固定されており、このガイド板48にはロードチェーン14の負荷部分と無負荷部分のそれぞれが貫通するガイド孔が形成されている。
【0027】
図5に示されるように、電気チェーンブロック本体としてのフレーム11には、チェーンバケット16の上方に位置させて潤滑剤容器51が装着されており、この潤滑剤容器51内には潤滑油Lが収容されるようになっている。この潤滑剤容器51に設けられた潤滑剤吐出口52にはスポンジ、布等の繊維材料からなり潤滑油Lを吸収する潤滑剤含浸体53が装着されている。潤滑剤吐出口52が潤滑剤含浸体53により閉塞されているので、潤滑油Lは、潤滑剤吐出口52から自重では流出しないが、潤滑剤含浸体53内の隙間に毛細管現象により含浸されて潤滑剤含浸体53の外面にまで浸透することになる。
【0028】
潤滑剤容器51はねじ部材によりフレーム11に取り外し自在にフレーム11の外方に突出して装着されており、潤滑油Lの残量が少なくなったときには、潤滑剤容器51をフレーム11から取り外して潤滑剤容器51内に潤滑油Lを容易に補給することができる。
【0029】
フレーム11には、図3に示されるようにボルト54が取り付けられ、このボルト54はスプロケット13の回転中心軸と平行となっており、ボルト54には中空のガイドローラ55が回転自在に装着されている。ガイドローラ55は、金属や硬質性の樹脂等により形成されており、図5に示されるように、潤滑剤含浸体53とロードチェーン14の無負荷側との間に装着されている。ガイドローラ55は、図6に示されように、円筒部55aとこれに相互に間隔を隔てて設けられた2つの大径のフランジ55bとを有しており、2つのフランジ55bの間の中央部がロードチェーン14の縦リンク片14aが接触する接触面56となっている。ガイドローラ55は接触面56に縦リンク片14aが接触すると、図7に示されるように、ロードチェーン14をスプロケット13に押し付ける位置に設けられている。これにより、スプロケット13の回転によりロードチェーン14が上下動すると、ロードチェーン14の移動によりガイドローラ55が回転駆動されることになる。
【0030】
図6に示されるように、ガイドローラ55には接触面56の軸方向両側の部分にブラシ57が備えられている。ブラシ57は金属製や硬質性樹脂の細線により形成されており、ガイドローラ55の外周面から径方向外方に放射状に突出している。ブラシ57は、図6に示されるように、縦リンク片14aに沿うように配置され、フランジ55bの径方向外方に迫り出すとともに、図7に示されるようにロードチェーン14の横リンク片14bの内側に接触する長さとなっている。
【0031】
ガイドローラ55が回転されると、ブラシ57は潤滑剤含浸体53の外面に接触して潤滑油Lがブラシ57に付着して潤滑剤含浸体53からブラシ57に潤滑油Lが移動することになる。潤滑剤含浸体53の外面から潤滑油Lがブラシ57に移動すると、潤滑剤含浸体53の内部から外面に向けて潤滑油Lが浸透することになるが、下方に流出することは防止される。ガイドローラ55の回転に伴って、図7に示されるように、縦リンク片14aの両側部分と横リンク片14bの端部にブラシ57が接触し、潤滑油Lはこれらの部分に塗布されることになる。このときには、ガイドローラ55がロードチェーン14の無負荷側の部分に接触するので、図7に示されるように、縦リンク片14aはガイドローラ55により弾かれて傾斜し、浮き上がるように変位することになる。これにより、縦リンク片14aと横リンク片14bとが交差する対向面の部分つまり摩擦接触部位58に潤滑油Lがまわり込むようにして塗布される。このように、ブラシ57を摩擦接触部位58に直接接触させなくても、各々のリンク片に潤滑油Lが塗布されれば、リンク片がガイドローラ55により変位するので、その変位移動により摩擦接触部位58に潤滑油Lを確実に供給することができる。
【0032】
ガイドローラ55をロードチェーン14の負荷側に接触させる形態とすると、ロードチェーン14の上下動によりガイドローラ55を回転させることは可能となるが、吊荷を上下動させているときには、ロードチェーン14には吊荷の負荷が加わるので、上述のように縦リンク片14aを浮き上がらせるように変位させることができなくなり、吊荷が装着されていない状態のもとでロードチェーン14を上下動させるときにのみ縦リンク片14aを変位させることになる。したがって、ロードチェーン14の上下動時に常にガイドローラ55により縦リンク片14aを変位させるには、ガイドローラ55を無負荷側に接触させることが好ましい。
【0033】
図8は吊荷の巻上げ時と巻下げ時における潤滑油Lの塗布状態を示す概略図である。吊荷を下吊具15に吊り下げてこれを上昇移動させる巻上げ時には、ロードチェーン14の無負荷側はチェーンバケット16に向けて下方に移動するので、ロードチェーン14の縦リンク片14aがガイドローラ55に接触すると、ガイドローラ55は図8において矢印Aで示す方向に回転する。一方、吊荷を下降移動させる巻下げ時には、ガイドローラ55は図8において矢印Bで示す方向に回転する。
【0034】
ガイドローラ55が回転すると、潤滑剤含浸体53の外面にブラシ57が接触して、毛細管現象により潤滑油Lがブラシ57に移動する。ガイドローラ55の回転に伴って潤滑油Lが付着したブラシ57はロードチェーン14に接触し、潤滑油Lがロードチェーン14に塗布される。このときには、摩擦接触部位58がガイドローラ55により図7に示すようにずらされるので、潤滑油Lは摩擦接触部位58に流れ込んでこの部分に塗布されることになる。このように、ガイドローラ55にブラシ57を設けると、ブラシ57によりリンク片14a,14bの内側面に充分に潤滑油Lを塗布することができる。
【0035】
ブラシ57がガイドローラ55の回転に伴って潤滑剤含浸体53やリンク片に接触する際には、ブラシ57は弾性により折り曲げられるように変形することになるが、図6に示されるように、ガイドローラ55にはブラシ57に対して軸方向外側にフランジ55bが設けられているので、ブラシ57が軸方向外方に変形するのを抑制することになり、長期間に渡って確実にブラシ57をロードチェーン14に接触させることができる。
【0036】
図9はガイドローラ55の変形例を示す斜視図であり、このガイドローラ55にはブラシ57が設けられていない。ガイドローラ55にブラシを設けない場合には、ガイドローラ55自体の素材をスポンジ等のように潤滑剤を吸収して保持することができるとともに弾性変形自在な吸液性部材とすることになる。ガイドローラ55がロードチェーン14に接触するときにガイドローラ55を弾性変形させることにより、確実に潤滑油Lをロードチェーン14の摩擦接触部位58にまで供給することができる。ブラシ57を設けない形態においては、図9に示されるように、ガイドローラ55は円筒部55aとフランジ55bのみを有する形態となる。吸液性部材としては、スポンジ以外に多孔質の軟質性樹脂や多孔質性のゴムを用いることができる。
【0037】
図10(A)は上述したガイドローラ55に対するブラシの配置状態を示す正面図であり、図(B),(C)はそれぞれガイドローラ55に対するブラシの配置状態の変形例を示す正面図である。ガイドローラ55の形態としては、図10(A)に示すように、多数のブラシ57をガイドローラ55に設けるようにしたタイプのみならず、図10(B)に示すように、4本程度のブラシ57を設けるようにしてガイドローラ55としても良い。さらに、図10(C)に示すように、1本のブラシ57が設けられたガイドローラ55としても良い。ブラシ57の本数ないし密度は、ロードチェーン14に供給される潤滑油Lの塗布量により適宜選択される。また、ブラシ57の取付位置としては、円筒部55aの外周面に設けるのみでなく、これに代えるかあるいはこれに併せてフランジ55bの外周面にブラシ57を設けるようにしても良い。潤滑剤としては、上述のように潤滑油Lが使用されているが、これよりも粘度の低いグリースを潤滑剤として使用するようにしても良い。
【0038】
図11は、本発明の他の実施の形態である電気チェーンブロックを示す要部拡大断面図であり、図11においては上述した電気チェーンブロックにおける部材と共通する部材には同一の符号が付されている。
【0039】
図11に示されるように、この電気チェーンブロック10においては、上方が開放された潤滑剤容器51がガイドローラ55の下側に配置されている。この形態においては、ガイドローラ55のブラシ57が常時潤滑油Lに浸されており、ガイドローラ55が回転した際には、潤滑油Lを掻き取ったブラシ57が潤滑油Lをロードチェーン14に塗布することになる。図9に示すように、ブラシ57が設けられていないガイドローラ55を用いて潤滑油Lをロードチェーン14に供給するようにした形態においても、図11に示すように、潤滑油Lの液面が外部に開放された形態の潤滑剤容器51を使用することができる。
【0040】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。たとえば、図示する電気チェーンブロック10は上吊具12により吊荷作業個所に固定するようにした形態であるが、電気チェーンブロックをトロリにより水平のガイドレールに沿って移動するようにした電気チェーンブロックにも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10…電気チェーンブロック、11…フレーム(電気チェーンブロック本体)、11a…モータフレーム、11b…ギヤケース、12…上吊具、13…スプロケット、14…ロードチェーン、14a…縦リンク片、14b…横リンク片、15…下吊具、16…チェーンバケット(チェーン収容器)、17…操作入力部、21…スプロケット軸、22…電動モータ、23…出力軸、24…支持板、25…電磁ブレーキ、26…コイル、27…回転ディスク、28…締結ディスク、31…駆動軸、32…スリップクラッチ、33…小歯車、34…減速軸、35…大歯車、36…減速機構、37…メカニカルブレーキ、38…ねじ部、39…ディスク部、40…ブレーキディスク、43…ブレーキ歯車、44…連結歯車、45…ラチェットホイール、46…ストッパ、47…ラチェット、48…ガイド板、50…噛み合い爪、51…潤滑剤容器、52…潤滑剤吐出口、53…潤滑剤含浸体、54…ボルト、55…ガイドローラ、55a…円筒部、55b…フランジ、56…接触面、57…ブラシ、58…摩擦接触部位、L…潤滑油。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータにより回転駆動されるスプロケットが回転自在に装着された電気チェーンブロック本体と、リンク片を多数連結して形成され一端部に下吊具が設けられ前記スプロケットに掛け渡されるロードチェーンと、前記ロードチェーンの他端部を収容するチェーン収容器とを備え、前記下吊具に取り付けられた吊荷の巻上げと巻下げを行う電気チェーンブロックであって、
前記電気チェーンブロック本体に設けられ、潤滑剤を収容する潤滑剤容器と、
前記潤滑剤容器と前記ロードチェーンとの間に回転自在に装着され、前記ロードチェーンを前記スプロケットに向けて押し付けて前記ロードチェーンにより回転駆動されるガイドローラとを有し、
前記ガイドローラにより潤滑剤を前記ロードチェーンに供給することを特徴とする電気チェーンブロック。
【請求項2】
請求項1記載の電気チェーンブロックにおいて、前記潤滑剤容器の潤滑剤吐出口に通液性の潤滑剤含浸体を設け、前記ガイドローラにより潤滑剤を前記潤滑剤含浸体から前記ロードチェーンに供給することを特徴とする電気チェーンブロック。
【請求項3】
請求項1記載の電気チェーンブロックにおいて、前記潤滑剤容器は上面が開放され、潤滑剤の自由液面から前記ガイドローラにより潤滑剤を前記ロードチェーンに供給することを特徴とする電気チェーンブロック。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気チェーンブロックにおいて、前記ガイドローラにブラシを径方向外方に突出させて設け、前記ガイドローラの回転に伴って前記ブラシにより前記リンク片の内側に潤滑剤を塗布することを特徴とする電気チェーンブロック。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気チェーンブロックにおいて、前記潤滑剤容器を前記チェーン収容器の上方に設け、前記ガイドローラを前記ロードチェーンの無負荷側に接触させることを特徴とする電気チェーンブロック。
【請求項6】
請求項4記載の電気チェーンブロックにおいて、前記スプロケットの回転中心軸に対して直角方向を向く縦リンク片が接触する接触面を前記ガイドローラに形成し、前記接触面の両端部に前記ブラシを設けることを特徴とする電気チェーンブロック。
【請求項7】
請求項6記載の電気チェーンブロックにおいて、前記ブラシが前記ガイドローラの軸方向外方への変形を抑制するフランジを前記ガイドローラに設けることを特徴とする電気チェーンブロック。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気チェーンブロックにおいて、潤滑剤を吸収保持する弾性変形自在の吸液性部材により前記ガイドローラを形成することを特徴とする電気チェーンブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−126545(P2012−126545A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281413(P2010−281413)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)