説明

電気二重層キャパシタ用炭素材料及び該材料を用いた電気二重層キャパシタ

【課題】単位面積当たりの二重層容量を向上し得る電気二重層キャパシタ用炭素材料及び該材料を用いた電気二重層キャパシタを提供する。
【解決手段】本発明の電気二重層キャパシタ用炭素材料は、ホウ素を原子比で0.1〜5%含み、かつ比表面積が1000m2/g以上である炭素細孔体からなることを特徴とする。また、電解液中に分極性電極が浸されてなる電気二重層キャパシタにおいて、分極性電極が上記本発明の炭素材料を用いて形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単位面積当たりの二重層容量を向上し得る電気二重層キャパシタ用炭素材料及び該材料を用いた電気二重層キャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ(Electric Double Layer Capacitor)は、活性炭などの多孔質炭素電極内の細孔に形成されるイオンの吸着層、即ち電気二重層に電荷を蓄える蓄電器(コンデンサ)である。
図1に示すように、電気二重層キャパシタ10は、電解液11に浸漬した二枚の活性炭電極12,13間に電源14を繋いで電圧を印加することで充電される。充電時は電解質イオンが電極表面に吸着する。具体的には、正極12では正孔(h+)に電解液11中の陰イオン(−)が、負極13では電子(e-)に電解液11中の陽イオン(+)がそれぞれ引きつけられ、正孔(h+)と陰イオン(−)、電子(e-)と陽イオン(+)はおよそ数Åという極小の距離をおいて配向し電気二重層を形成する。この状態は電源が外されても維持され、化学反応を利用することなく電気を電気のまま蓄えている。放電時には吸着していたカチオン並びにアニオンがそれぞれの電極から脱着する。具体的には、電子(e-)が正極12に戻り、それにつれて正孔(h+)がなくなっていき、これに伴い、陽イオン、陰イオンが電解液中に再び拡散する。このように、充放電の全過程にわたって、キャパシタ材料には何の変化も伴わないため、化学反応による発熱や劣化がなく、長寿命を保つことができる。
【0003】
電気二重層キャパシタは、一般的に二次電池に比べて(1)高速での充放電が可能、(2)充放電の可逆性が高い、(3)長寿命といった特徴を有する。これらの特徴は、電気二重層キャパシタがイオンの物理的吸脱着によって作動し、化学種の電子移動反応を伴わないことに由来する。電気二重層キャパシタはこのような特徴を生かして既にメモリーバックアップ用電源として実用化されている。最近では、鉄道車両に搭載した電力貯蔵システムやハイブリッド車の補助電源などの新たな用途の開拓を目指した研究開発が進んでいる。
【0004】
しかしながら、電気二重層キャパシタは二次電池等に比べてエネルギー密度が低い問題点があり、上記新たな用途を開拓するためには、エネルギー密度の改善が必要であり、電極材の高容量化が求められている。重量比容量、体積比容量、面積比容量などの二重層容量は活性炭電極の細孔構造並びに結晶構造などのナノ構造に依存するため、キャパシタに適した電極材を設計する必要があった。
上記問題点を解決する方策として、炭素材料に賦活処理を施して製造される黒鉛類似の微結晶を有する電気二重層コンデンサ用炭素材料であって、その微結晶炭素の層間距離が0.365〜0.385nmであることを特徴とする炭素材料が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に示される炭素材料は、微結晶炭素の層間距離が特定の範囲にある場合、その比表面積が小さいにもかかわらず分極性電極として用いられたとき、大きな静電容量を示すとともに、電圧の印加の際に膨張するという特徴を有する。
【特許文献1】特開平11−317333号公報(請求項1、段落[0015]、段落[0016])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示される炭素材料では、ある程度の高容量化が図られているが、鉄道車両に搭載した電力貯蔵システムやハイブリッド車の補助電源などの新規用途に適用するためには、更なるエネルギー密度の改善が必要であった。
本発明の目的は、単位面積当たりの二重層容量を向上し得る電気二重層キャパシタ用炭素材料及び該材料を用いた電気二重層キャパシタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、ホウ素を原子比で0.1〜5%含み、かつ比表面積が1000m2/g以上である炭素細孔体からなることを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素材料である。
請求項1に係る発明では、上記炭素材料を用いることで、単位面積当たりの二重層容量を向上させた電気二重層キャパシタを製造することができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、電解液中に分極性電極が浸されてなる電気二重層キャパシタにおいて、分極性電極が請求項1記載の炭素材料を用いて形成されたことを特徴とする電気二重層キャパシタである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電気二重層キャパシタ用炭素材料は、ホウ素を原子比で0.1〜5%含み、かつ比表面積が1000m2/g以上である炭素細孔体からなることを特徴とする。上記炭素材料を用いることで、単位面積当たりの二重層容量を向上させた電気二重層キャパシタを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の電気二重層キャパシタ用炭素材料は、ホウ素を原子比で0.1〜5%、好ましくは0.1〜3%含み、かつ比表面積が1000m2/g以上、好ましくは1200〜3000m2/gである炭素細孔体からなることを特徴とする。その技術的理由は現段階では明らかではないが、ホウ素を原子比で0.1〜5%含み、かつ比表面積が1000m2/g以上である炭素細孔体からなる本発明の炭素材料を用いることで、単位面積当たりの二重層容量を向上させた電気二重層キャパシタを製造することができる。
【0010】
次に、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素材料の製造方法を説明する。
先ず、炭素細孔体にホウ素酸化物を所定の割合で混合する。炭素材料に用いる炭素細孔体としては、賦活処理により活性化された活性炭に限らず、賦活処理されていない細孔体も適用可能である。活性炭としては、石炭系、石油系、木材系、竹材系などが挙げられるが、その種類は問わない。炭素細孔体にホウ素を含有させることにより炭素材料を製造する際に、炭素細孔体の内部に形成されている細孔が何かしらの変化を生じ、比表面積が小さくなる傾向があるため、炭素細孔体は少なくとも1000m2/g以上、好ましくは1200〜3000m2/gの比表面積を有する材料を使用することが好適である。ホウ素酸化物としては酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム等が挙げられる。炭素細孔体とホウ素酸化物の混合割合は重量比(ホウ素酸化物/炭素細孔体)で1以上10以下の範囲内となるように混合する。上記範囲内であれば、製造される炭素材料のホウ素含有割合が原子比で0.1〜5%の範囲内となる。好ましい範囲は0.1〜3%である。次いで、混合物を不活性雰囲気下にて熱処理する。上記熱処理を施すことにより、炭素細孔体の炭素間結合中にホウ素原子が入り込むものと考えられる。不活性雰囲気にはアルゴンやヘリウム等の不活性ガスを用いる。電気炉などの熱処理炉に混合物を入れた後、炉内に不活性ガスを流し、炉内雰囲気を不活性雰囲気としながら熱処理を施す。熱処理温度は800〜1500℃、好ましくは1000〜1100℃、熱処理時間は1時間以上、好ましくは4〜5時間行えばよい。800℃未満、並びに1時間未満の熱処理では炭素細孔体に必要量のホウ素が含有されず、本発明の効果が発揮されず、温度が1500℃を越える熱処理では、製造される炭素材料の比表面積が、使用する炭素細孔体の比表面積に比べて非常に小さくなってしまい、電気二重層キャパシタの用途に適さなくなる。次に、熱処理後は未反応のホウ素酸化物を熱水により洗浄する。続いて、洗浄を終えた処理物を200℃程度で熱真空乾燥することにより、ホウ素を原子比で0.1〜5%含み、かつ比表面積が1000m2/g以上である炭素細孔体からなる電気二重層キャパシタ用炭素材料を簡便に製造することができる。
【0011】
本発明の電気二重層キャパシタは、電解液中に分極性電極が浸されてなる電気二重層キャパシタの改良であり、分極性電極が前述した本発明の炭素材料を用いて形成されたことを特徴とする。ホウ素を原子比で0.1〜5%含み、かつ比表面積が1000m2/g以上である炭素細孔体からなる本発明の炭素材料を用いて分極性電極を形成した電気二重層キャパシタは、従来の活性炭などの多孔質炭素電極を用いたキャパシタに比べて単位面積当たりの二重層容量を向上させることができる。
【0012】
本発明の電気二重層キャパシタは、集電極と分極性電極とセパレータを、集電極−分極性電極−セパレータ−分極性電極−集電極の順に重ね、電解液を含浸した構造を有する。この構造を基本単位とし、単位電気二重層キャパシタを多数積層し、電気的に接続して積層体を形成し、その電気容量が高められ、実用に供される。分極性電極を形成するには本発明の炭素材料に導電性補助剤、バインダを所定の割合で添加し、混練した後に、任意の形状に成形することが好適である。導電補助剤としてはカーボンブラックが挙げられる。バインダとしてはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が挙げられる。本発明の電気二重層キャパシタでは、集電極、セパレータ等は従来より知られている既存の材料を適用することが可能である。
【実施例】
【0013】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
炭素細孔体としてBET比表面積1380m2/gのヤシ殻活性炭を、ホウ素酸化物として酸化ホウ素粉末をそれぞれ用意した。先ず、ヤシ殻活性炭に酸化ホウ素粉末を混合割合が重量比(酸化ホウ素/活性炭)で1となるように混合した。次に、混合物を熱処理炉内に入れて、炉内にアルゴンガスを流して不活性雰囲気下とし、1000℃の熱処理温度で、4時間保持する熱処理を施した。熱処理後は未反応のホウ素酸化物を熱水により洗浄し、洗浄を終えた処理物を200℃で熱真空乾燥することにより、ホウ素を含有した炭素細孔体からなる電気二重層キャパシタ用炭素材料を得た。得られた炭素材料を77Kでの窒素吸着等温線によりBET比表面積を測定したところ1130m2/gであった。また炭素材料中のホウ素含有量はXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)或いはICP−AES(Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectroscopy)により分析したところ、ホウ素含有割合(B/C原子比)は1%であった。
【0014】
<実施例2>
ヤシ殻活性炭に対する酸化ホウ素の割合を重量混合比で3とした以外は実施例1と同様にして電気二重層キャパシタ用炭素材料を製造した。この炭素材料のBET比表面積は1020m2/gであった。また炭素材料中のホウ素含有量はホウ素含有割合(B/C原子比)で3%であった。
<実施例3>
熱処理温度を1100℃とした以外は実施例1と同様にして電気二重層キャパシタ用炭素材料を製造した。この炭素材料のBET比表面積は1130m2/gであった。また炭素材料中のホウ素含有量はホウ素含有割合(B/C原子比)で2%であった。
<実施例4>
ヤシ殻活性炭に対する酸化ホウ素の割合を重量混合比で3とし、熱処理温度を1100℃とした以外は実施例1と同様にして電気二重層キャパシタ用炭素材料を製造した。この炭素材料のBET比表面積は1070m2/gであった。また炭素材料中のホウ素含有量はホウ素含有割合(B/C原子比)で2%であった。
【0015】
<比較例1>
実施例1で使用したヤシ殻活性炭をそのまま電気二重層キャパシタ用炭素材料として用いた。即ち、この炭素材料にはホウ素添加の処理は施していない。この炭素材料のBET比表面積は1380m2/gであった。
【0016】
<実施例5>
炭素細孔体としてBET比表面積1630m2/gのフェノール樹脂系活性炭を、ホウ素酸化物として酸化ホウ素粉末をそれぞれ用意した。先ず、フェノール樹脂系活性炭に酸化ホウ素粉末を混合割合が重量比(酸化ホウ素/活性炭)で1となるように混合した。次に、混合物を熱処理炉内に入れて、炉内にアルゴンガスを流して不活性雰囲気下とし、1100℃の熱処理温度で、4時間保持する熱処理を施した。熱処理後は未反応のホウ素酸化物を熱水により洗浄し、洗浄を終えた処理物を200℃で熱真空乾燥することにより、ホウ素を含有した炭素細孔体からなる電気二重層キャパシタ用炭素材料を得た。この炭素材料のBET比表面積は1370m2/gであった。また炭素材料中のホウ素含有量はホウ素含有割合(B/C原子比)で0.1%であった。
【0017】
<実施例6>
フェノール樹脂系活性炭に対する酸化ホウ素の割合を重量混合比で5とし、熱処理温度を1100℃とした以外は実施例5と同様にして電気二重層キャパシタ用炭素材料を製造した。この炭素材料のBET比表面積は1350m2/gであった。また炭素材料中のホウ素含有量はホウ素含有割合(B/C原子比)で1%であった。
【0018】
<比較例2>
実施例2で使用したフェノール樹脂系活性炭をそのまま電気二重層キャパシタ用炭素材料として用いた。即ち、この炭素材料にはホウ素添加の処理は施していない。この炭素材料のBET比表面積は1630m2/gであった。
【0019】
<比較試験1>
実施例1〜6及び比較例1,2でそれぞれ得られた炭素材料を用い、以下のようにして、電気二重層キャパシタに使用する分極性電極を形成した。先ず、導電性補助剤としてカーボンブラックを、バインダとしてPTFEをそれぞれ用意し、炭素材料にカーボンブラック及びPTFEを添加し混練した。混合割合は炭素材料が86重量%、カーボンブラックが10重量%、PTFEが4重量%となるように配合を調整した。混練物を所定の型に詰め、約6MPaで加圧して直径13mm、厚さ0.5mmのディスク状に成形した。この成形体を分極性電極とした。次に、集電体としてメッシュ状のAl板を用意し、このメッシュ状Al板に分極性電極を重ねて約1MPaで加圧することにより、分極性電極と集電体とを一体化させた。
【0020】
続いて、三電極式定電流法にて二重層容量の評価を行った。分極性電極と集電体とを一体化させたものを二重層容量測定用の作用極として、充放電試験装置に取付けた。この装置は、上記作用極が2本の対極及び参照極とともに容器内に貯留された電解液に浸され、更に作用極、対極及び参照極がポテンショメータにそれぞれ電気的に接続された構成となっている。電解液には0.5mol/dm3濃度のテトラエチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸を電解質塩とするプロピレンカーボネート溶液を用いた。この装置を用いて充放電試験を行い、定電流法による時間−電位曲線(クロノポテンショグラム)を作成した。なお、電流密度は40mA/gにて測定を行い、測定電圧範囲を2〜4Vとした。この作成した時間−電位曲線から次の式(1)に示す算出法により重量比容量を求めた。
【0021】
【数1】

【0022】
式(1)中のIは電流を、ΔTは充電中又は放電中の所定の時間幅を、ΔVは時間ΔTあたりに変動した電位幅を示す。
【0023】
また、体積比容量は重量比容量と電極嵩密度との乗算することにより求めた。面積比容量は重量比容量をBET比表面積により除することにより算出した。実施例1〜4及び比較例1の結果を表1に、実施例5,6及び比較例2の結果を表2にそれぞれ示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1より明らかなように、比較例1のホウ素添加処理を施していないヤシ殻活性炭を用いた炭素材料に比べて、実施例1〜4のヤシ殻活性炭に所定の割合でホウ素を含有させて製造した炭素材料は、面積比容量を向上することができることを確認した。
【0026】
【表2】

【0027】
表2より明らかなように、比較例2のホウ素添加処理を施していないフェノール樹脂系活性炭を用いた炭素材料に比べて、実施例5のフェノール樹脂系活性炭に所定の割合でホウ素を含有させて製造した炭素材料は、面積比容量だけでなく体積比容量の数値も向上することを確認した。また、実施例6のフェノール樹脂系活性炭に所定の割合でホウ素を含有させて製造した炭素材料も、面積比容量を向上することができることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一般的な電気二重層キャパシタの充放電を示す原理図。
【符号の説明】
【0029】
10 電気二重層キャパシタ
11 電解液
12 正極
13 負極
14 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素を原子比で0.1〜5%含み、かつ比表面積が1000m2/g以上である炭素細孔体からなることを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素材料。
【請求項2】
電解液中に分極性電極が浸されてなる電気二重層キャパシタにおいて、
前記分極性電極が請求項1記載の炭素材料を用いて形成されたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−158068(P2007−158068A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351842(P2005−351842)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)