説明

電気二重層キャパシタ用電極

【課題】二重層容量Cを高めることが出来る電気二重層キャパシタ用電極を提供する。
【解決手段】平均一次粒子径が10〜300nmであり、比表面積が200〜1000m/gであり、直径300Å以下の細孔容積に対する直径20Å以下の細孔容積の比率が30%以上であり、且つ、CuKα線(波長=1.54Å)を使用したX線回折測定結果における回折角3〜30°の範囲内で最も強いピークが10〜18°の範囲に存在する炭素材料から成る電気二重層キャパシタ用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気二重層キャパシタ用電極に関するものである。電気二重層キャパシタは、携帯機器などの二次電池の長寿命化、瞬時電圧低下対策、太陽光発電の蓄電などに使われており、更にハイブリッド自動車への採用が始まっている。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ用電極には炭素材料が従来より多く活用されてきた。炭素物質としては、ヤシ殻や石炭由来の活性炭、活性炭素繊維の他、合成高分子、フェノール樹脂などを賦活処理して生成される活性炭などについて検討されてきた。活性炭の比表面積を大きくすると、単位重量当たりの電気容量は大きくなるが、密度が低くなるため、結果として、単位重量当たりの電気容量が小さくなってしまう問題点がある。そこで、この問題を解決すべく様々な検討が続けられてきている。
【0003】
ところで、電気二重層キャパシタのエネルギー密度Eは、以下の式に示す通り、印加電圧(V)の二乗と二重層容量(C)に比例する。
【0004】
【数1】

【0005】
従って、電気二重層キャパシタのエネルギー密度Eを上げるためには、印加電圧Vを上げることと二重層容量Cを上げることが必要である。印加電圧Vを上げる手段の一つとして高電圧でも分解し難い電解液の開発が挙げられる。一方、二重層容量Cを上げるには新規な多孔質炭素材料の開発が必要である。
【0006】
ところで、二重層容量Cは、以下の式に示す通り、面積比容量Csと比表面積Sの積で表される。
【0007】
【数2】

【0008】
従って、二重層容量Cを上げる材料としては、面積比容量Csと比表面積Sの積が大きくなる様な材料であることが望ましい。
【0009】
面積比容量Csの大きな材料の研究例として、下記の江頭らの例が挙げられる。ここでは、電気二重層キャパシタとして、黒鉛電極のアーク放電により製造したフラーレン含有スートからトルエンによりフラーレン類を抽出し、更に黒鉛電極の破片を比重分離により除去した炭素質スートを使用することにより、フェノール樹脂系活性炭素繊維より高い面積比容量を得ている。
【非特許文献1】第40回電池討論会要旨集 221頁(1999年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、電気二重層キャパシタは更なる小型化と共に更なる高容量化およびエネルギー密度の向上が求められており、そのために二重層容量Cが更に向上する材料が求められている。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、二重層容量Cを高めることが出来る電気二重層キャパシタ用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、電極材料に後述する特定の炭素材料を使用するならば、二重層容量Cが高い電気二重層キャパシタが得られることを見出し、本発明の完成に到った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の要旨は、平均一次粒子径が10〜300nmであり、比表面積が200〜1000m/gであり、直径300Å以下の細孔容積に対する直径20Å以下の細孔容積の比率が30%以上であり、且つ、CuKα線(波長=1.54Å)を使用したX線回折測定結果における回折角3〜30°の範囲内で最も強いピークが10〜18°の範囲に存在する炭素材料から成ることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極に存する。
【0014】
そして、本発明の第2の要旨は、有機溶媒に不溶であり、且つ、CuKα線(波長=1.54Å)を使用したX線回折測定結果における回折角3〜30°の範囲内で最も強いピークが10〜18°の範囲に存在する炭素材料原料を不活性な雰囲気下で加熱処理して得られる炭素材料から成ることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極に存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、単位体積当たりの電気容量が大きく、そのために高エネルギー密度を有する電気二重層キャパシタ用電極が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内であれば種々に変更して実施することが出来る。
【0017】
本発明の電気二重層キャパシタ用電極は、後述の炭素材料から成るが、その好ましい態様においては、後述の炭素材料にバインダー(結合剤)および導電剤が配合された炭素材料組成物から成る。以下、各成分について説明する。
【0018】
(炭素材料)
先ず、説明の便宜上、第2の要旨に係る発明で使用する炭素材料について説明する。この炭素材料は、特定の炭素材料原料を不活性な雰囲気下で加熱処理して得られる。
【0019】
特定の炭素材料原料としては、有機溶媒に不溶であり、且つ、CuKα線(波長=1.54Å)を使用したX線回折測定結果における回折角3〜30°の範囲内で最も強いピークが10〜18°の範囲に存在する炭素材料を使用する。ここで、不溶な性質としては、室温(例えば20℃)にて、炭素材料に100体積量倍の1,2,4−トリメチルベンゼンを加えて、攪拌、濾過した後、不溶分を150℃で真空乾燥した後の炭素材料の重量差が1%以下である特性を備えていることを意味する。
【0020】
上記の炭素材料原料それ自体は特開2004−091312号公報に記載されて公知である。従って、炭素材料原料の製造は上記の公報の記載を参照することが出来る。因に、上記の炭素材料原料は、5〜10Åの周期構造を有することから、グラファイト構造とは異なるミクロな曲面構造を有していると考えられるが、ミクロ孔が非常に少ない。しかしながら、不活性な雰囲気下で加熱処理することにより、特徴的な周期構造を有し、且つ、比表面積、特にミクロ孔容積比率が高い炭素材料に変換される。
【0021】
不活性な雰囲気とは、窒素やアルゴン等の不活性気体などの様に、原料炭素材料と化学反応しない雰囲気のことをいう。加熱処理は、通常、常圧で行うが、加圧または減圧で行うことも可能である。雰囲気は、フロー系でも密閉系でもよいが、フロー系の方が好ましい。加熱温度は、圧力にも依存して異なるが、常圧で行う場合、下限は、通常400℃、好ましくは600℃、上限は、通常1500℃、好ましくは1200℃である。温度が高いほど、細孔が増える傾向にあるが、高すぎると細孔が収縮してしまう可能性がある。加熱時間は、必要な細孔分布が得られれば、特に制限されないが、好ましくは10分から8時間である。加熱は、継続的に所定温度まで上げていっても、段階的に上げていっても構わない。加熱初期は、時間と共に細孔が増えるが、徐々に細孔の増加は飽和する。加熱前の炭素材料原料に対する加熱後の炭素材料の収率は、通常80重量%以上、好ましくは90重量%以上である。
【0022】
加熱方法としては、電気炉、ロータリーキルン、縦型炉、多段炉、流動炉などの加熱炉で原料炭素材料を加熱する方法が挙げられるが、均一に処理が可能であればこれに制限されるものではない。また、加熱は、原料炭素材料をそのまま加熱してもよいが、加熱前に成型を行って粒状にしてもよい。成型方法としては、造粒して球状にする、耐圧型枠を使用して1〜10t/cm程度の圧力で加圧成型後に粉砕する等の方法がある。
【0023】
次に、第1の要旨に係る発明で使用する炭素材料について説明する。この炭素材料は、特定の物性を有することにより特徴付けられ、例えば、前述の炭素材料原料を不活性な雰囲気下で加熱処理することにより得ることが出来る。
【0024】
本発明で使用する炭素材料は、元素分析による炭素含有量が通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、更に好ましくは98重量%以上であり、カーボンブラックと同様に、例えば、水酸基、カルボキシル等の官能基を少量含むことがある。
【0025】
本発明で使用する炭素材料の平均一次粒子径は、10〜300nm、好ましくは20〜200nmである。この値は、倍率50000倍の透過型電子顕微鏡により観察される一次粒子のうち任意の20点以上の直径の平均値を意味する。
【0026】
本発明で使用する炭素材料の比表面積は、200〜1000m/g、好ましくは200〜500m/gである。この値は、窒素吸着法(BET法)により相対圧力0.05〜0.15の窒素吸着等温線によりBET法モデルで求めた値を意味する。
【0027】
本発明で使用する炭素材料の直径300Å以下の細孔容積に対する直径20Å以下の細孔容積の比率は、30%以上である。すなわち、本発明で使用する炭素材料は、直径20Å以下のミクロ孔が多いという特徴をもつ。なお、細孔容積の計算は、窒素吸着等温線の値を元に、Cranston−Inkley法(例えば、新版活性炭−基礎と応用 1992年 講談社 P132〜34に記載)により計算することが出来る。
【0028】
本発明で使用する炭素材料は、CuKα線(波長=1.54Å)を使用したX線回折測定結果における回折角3〜30°の範囲内で最も強い(ピーク強度が大きい)ピークが10〜18°、ましくは12〜15°の範囲に存在する。因に、次の式により計算される格子面間隔dでいえば、回折角10〜18°は4.9〜8.9Åに相当し、12〜15°は5.9〜7.4Åに相当する。
【0029】
【数3】

【0030】
一般のカーボンブラック等に代表される無定形炭素材料の場合、ミクロなグラファイト構造の発達に伴い、回折角23〜27°に002反射(格子面間隔3.3〜3.9Å)による回折ピークが観察される。本発明で使用する炭素材料は、これに相当するピークは存在しないか、または、存在しても極わずかである。すなわち、本発明で使用する素材料は、グラファイト構造が存在しないか、または、存在してもごく僅かである。この点において、本発明で使用する素材料は、カーボンブラック等の従来公知の通常の炭素材料とは全く異なる構造である。
【0031】
(導電剤)
電極に使用される導電剤としては、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン、金属ファイバー(アルミニウム、ニッケル等)から成る群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。少量で効果的に導電性が向上する点で、アセチレンブラック及びケッチェンブラックが好ましい。前述の炭素材料に対する配合比率は、炭素材料の嵩密度により異なるが、通常5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%である。導電剤の配合量が多すぎると炭素材料の割合が減り電極の二重層容量Cが減少する。
【0032】
(バインダー)
バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリイミド、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂から成る群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。前述の炭素材料に対する配合比率は、前記と同様の趣旨により、通常5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%である。
【0033】
本発明の電気二重層キャパシタ用電極は、通常知られている方法によって得られる。すなわち、前述の炭素材料と、必要に応じて使用する上記バインダー及び/又は導電剤を所定の割合でよく混合した後、金型に入れて加圧成形する方法を採用することが出来る。また、必要に応じて加圧成形時に熱を加えることも可能である。本発明の電極は、薄い塗布膜、シート状または板状の成形体、更には、複合物から成る板状成形体の何れの形態であってもよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、得られた炭素材料の評価および物性の測定は以下の通り行った。
【0035】
(1)X線回折測定:
Philips社製「PW1700」を使用し、線源:CuKα、出力:40kV30mA、走査軸:θ/2θ、測定モード:Conttinuous、測定範囲:2θ=3〜90°、取り込み幅:0.05、走査速度:3.0°/minの条件で測定した。
【0036】
(2)窒素吸着等温線:
サーモフィニガン社製「ソープトマチック1990」を使用した。
【0037】
(3)透過型電子顕微鏡観察:
日立製作所「H−9000UHR」を使用した。
【0038】
実施例1:
<炭素材料の製造>
予備混合型水冷バーナーが減圧チャンバーに設置された装置を使用した。系内を真空ポンプで排気しつつ、原料(トルエン)と酸素とを予備混合してバーナーへ供給し、安定な層流火炎を生成させた。そして、C/O比:1.01、燃焼室圧力:40torr、ガス流速:76cm/sec、アルゴン希釈なしの条件で燃焼を行った。生成煤が真空ポンプへ導かれる配管で400〜500℃に冷却した。生成煤の採取は、真空ポンプの前に設置されたバグフィルターによって行った。
【0039】
1Lメス型フラスコに上記の煤10.30gを秤量し、これにテトラリン286.2g添加し、常温で30分間超音波を掛けながら攪拌した後、孔径0.45μmのフィルターで減圧濾過を行い、可溶分を除去した。テトラリンによる可溶分除去を更に3回繰り返した後、150℃で1昼夜減圧乾燥を行い、冷却して100℃以下になった後、大気に曝し、黒色粉末9.27gを得た(炭素材料A)。
【0040】
炭素材料Aをシリコニット炉に入れ、窒素気流中、800℃に昇温後、1時間加熱処理した。加熱処理によって得られた炭素材料Bの収率は92重量%であった。また、透過型電子顕微鏡(50000倍)で観察したところ、一次粒子径は20〜70nm、粒子20個当りの平均一次粒子径は42nmであった。X線回折測定結果は、図1中の(a)に示す様に、回折角3〜30°の範囲内で最も強いピークが13〜14°付近に存在し、23〜27°の範囲にピークは存在しなかった。
【0041】
<電極の作成>
前述の製造方法で得られた炭素材料B(8重量部)に、導電剤としてアセチレンブラック1重量部、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン1重量部を添加し、よく混練した後、錠剤成型器により、直径13mm、電極重量50mgのシート状円板電極を作成した。
【0042】
<二重層容量Cの測定>
上記の電極を使用し、アルゴン雰囲気下、三極式セルの組み立てた。この際、参照電極にはLiを使用し、集電体にはアルミニウムを使用し、電解液には0.5mol/lの濃度のテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートを含むプロピレンカーボネート溶液を使用した。そして、電流密度40mA/gの定電流で2〜4Vの範囲について二重層容量Cの測定を行った。単位体積当たりの二重層容量Cが82F/cmという大きな値が得られた。
【0043】
比較例1:
<炭素材料の製造>
フラーレンスート(Aldrichより購入、アーク法にて作成されたスート)10gにトルエン500mlを加えて6時間の超音波分散を3回繰り返すことにより、トルエン相にフラーレンを抽出し、その残渣を空気中、60℃で12時間乾燥し、更に、真空下、200℃で2時間乾燥することによって炭素材料Cを得た。X線回折測定結果は、回折角3〜30°の範囲内で23〜27°の範囲に最も強いピークが存在した。
【0044】
次に、上記炭素材料Cをシリコニット炉に入れ、窒素気流中、1000℃に昇温後、1時間加熱処理し、炭素材料Dを得た。X線回折測定結果は、図1に示す様に、回折角3〜30°の範囲内で23〜27°の範囲に最も強いピークが存在した。
【0045】
<電極の作成>
実施例1において、炭素材料Bを炭素材料Dに変更した以外は、実施例1と同様の手順によってシート状円板電極を作成した。
【0046】
<二重層容量Cの測定>
実施例1と同様の手順により測定を行った。単位体積当たりの二重層容量Cが42F/cmという実施例と比べて小さな値であった。
【0047】
比較例2:
<電極の作成>
実施例1において、炭素材料Bを炭素材料Cに変更した以外は、実施例1と同様の手順によってシート状円板電極を作成した。
【0048】
<二重層容量Cの測定>
実施例1と同様の手順により測定を行った。単位体積当たりの二重層容量Cが34F/cmという実施例と比べて小さな値であった。
【0049】
比較例3:
<電極の作成>
実施例1において、炭素材料Bを炭素材料Aに変更した以外は、実施例1と同様の手順によってシート状円板電極を作成した。
【0050】
<二重層容量Cの測定>
実施例1と同様の手順により測定を行った。単位体積当たりの二重層容量Cが53F/cmという実施例と比べて小さな値であった。
【0051】
表1に、実施例および比較例に記載された電気二重層キャパシタの二重層容量(C)の測定結果を使用した炭素材料A〜Dの各種物性(粒子の比表面積、直径300Å以下の細孔容積に対する直径20Å以下の細孔容積の比率)と共にまとめた。
【0052】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1および比較例1に使用した炭素材料のX線回折チャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が10〜300nmであり、比表面積が200〜1000m/gであり、直径300Å以下の細孔容積に対する直径20Å以下の細孔容積の比率が30%以上であり、且つ、CuKα線(波長=1.54Å)を使用したX線回折測定結果における回折角3〜30°の範囲内で最も強いピークが10〜18°の範囲に存在する炭素材料から成ることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。
【請求項2】
有機溶媒に不溶であり、且つ、CuKα線(波長=1.54Å)を使用したX線回折測定結果における回折角3〜30°の範囲内で最も強いピークが10〜18°の範囲に存在する炭素材料原料を不活性な雰囲気下で加熱処理して得られる炭素材料から成ることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。

【図1】
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【公開番号】特開2006−324604(P2006−324604A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148602(P2005−148602)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(502236286)フロンティアカーボン株式会社 (33)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)