説明

電気二重層キャパシタ

【課題】 電解液として主に有機溶液を用いた電気二重層キャパシタの静電容量を向上し、内部抵抗を減少すること。
【解決手段】 分極性電極に、比表面積が1000m2/g以上のケッチェンブラックを、6重量%以上含む炭素質導電性材料を用いる。ケッチェンブラックは、殻状の構造を有し、従来用いられてきた活性炭よりも細孔径が大きく、溶媒和した電解質が吸着される確率が大きいため、静電容量を増加し得る。また、ケッチェンブラックは、活性炭よりも導電率が大きく、これを用いることで、内部抵抗も小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気二重層キャパシタの分極性電極に用いられる炭素質導電性材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】電気二重層キャパシタは、一対の分極性電極と電解液から構成され、分極性電極と電解液との界面電気二重層を、電気二重層容量として利用した大容量コンデンサーである。そのため、分極性電極は、従来、フェノール樹脂を出発原料とした、大表面積を有する活性炭繊維や粒状活性炭が主に使用されている。
【0003】そして、電解液は2種類使用されている。一方は、たとえば硫酸水溶液のような水溶液系電解液であり、他方は、たとえばプロピレンカーボネートのような有機溶媒に、テトラエチルアンモニウムパークロレートのような電解質を溶解した有機溶液系電解液である。
【0004】図3は、水溶液系電解液を用いた、一般的なコイン型の電気二重層キャパシタの断面を示した図である。この電気二重層キャパシタの構造は、セパレータ31を介して、活性炭からなる正極側の分極性電極32と負極側の分極性電極34が対向して配置され、その外側に配置された電気抵抗の小さな正極側の集電体33、負極側の集電体35、二つの集電体の間に配置された絶縁ゴム36よりなる。分極性電極32、34は、活性炭粉末を濃硫酸水溶液でペレット状に成形したものを用いる。この際、硫酸水溶液はバインダとして用いられる。
【0005】一方、有機溶液系電気二重層キャパシタの分極性電極の構造は、主にシート状である。図4は、一般的な巻回型の電気二重層キャパシタにおける、分極性電極、集電体、セパレータの積層体を巻き回した巻回素子40の構成を示す斜視図である。
【0006】図4において、41はセパレータ、42は正極側の分極性電極、43は正極側の集電体、44は負極側の分極性電極、45は負極側の集電体を示す。また、46は正極側、負極側のそれぞれに接続された電極リードで、アルミニウムで構成されることが多い。
【0007】そして、分極性電極は、活性炭粉末、アセチレンブラックやファーネスブラックなどの導電材及びバインダをメタノールや水などに分散させスラリーとし、アルミニウムエッチング箔からなる集電体に塗布し、その後乾燥させることにより得られる。
【0008】図5は、巻回型の電気二重層キャパシタの内部構成を示す図である。図5において、51は巻回素子、52は電極リード、53はケース、54はキャップを示す。巻回素子51には、前記の電解液が含浸されている。
【0009】これら2種類の電解液を用いた電気二重層キャパシタには、それぞれ次のような長所・短所がある。水溶液系電解液の長所は、高い静電容量を有することである。また、電解液の電気抵抗が低いため、キャパシタとしての内部抵抗が低く、大電流負荷放電に適している。短所は電解液の分解電位(耐電圧)が1.2Vと低いことである。そのため、エネルギー密度が小さくなり、高エネルギー使用時には多くのキャパシタの直列接続が余儀なくされ、長期使用信頼性の点で問題がある。
【0010】一方、有機溶液系電解液の長所は、電解液の耐電圧が水溶液系電解液の3倍と高いため、高エネルギー領域での使用に適している。短所は、キャパシタの内部抵抗が、水溶液系電解液の5〜10倍と高いので大電流負荷には適さないことである。また、同一の分極性電極を用いても、静電容量が水溶液系電解液の3分の1と小さくなる。電気二重層に蓄積される静電容量は、一般的に数1で表される。
【0011】
【数1】


【0012】数1から、比表面積が大きな電極を用いると大容量の電気二重層キャパシタを得ることができ、静電容量は比表面積に依存することが分かる。1500m/g程度の比表面積の活性炭を使用すれば、300F/gもの容量を持つ分極性電極ができるという計算が成り立つ。しかしながら、水溶液系電気二重層キャパシタと有機溶液系電気二重層キャパシタでは静電容量が異なり、有機系電解液キャパシタの方が小さい。
【0013】この原因は細孔径の分布にある。電気二重層キャパシタにおいては、電解液と分極性電極との界面に溶媒和されたイオンが吸着することで容量が発現する。しかし、吸着のしやすさは溶媒和されたイオンサイズと細孔径に依存し、溶媒和されたイオンに対し細孔径が大きすぎても小さすぎても好ましくない。
【0014】溶媒和されたイオンに対して細孔径が大きすぎると吸着力が弱くなり、大電流では容量が低下してしまう。また、細孔径が溶媒和されたイオンの大きさに対して同等あるいは小さければ細孔内での吸着ができず、また電解質の輸率が小さくなるため、容量は発現しない。
【0015】そして、経験的には、細孔径の最適値が吸着分子の短軸径の2倍程度であることがわかっている。有機系電解液の溶媒和されたイオンの短軸径は1nm程度であるため、最適な細孔径は2nmである。図1は、電気二重層キャパシタに従来使用されている、一般的な活性炭の細孔径分布を示す。図1から明らかなように、活性炭の細孔径分布は、1nm付近にピークをもち、これを境に急速な減少を見せる。
【0016】従って、最適な細孔径の設計が困難な活性炭を有機電解液系電気二重層キャパシタに用いた場合、多くの細孔が機能しない。また、活性炭は一般に電気伝導性がかなり小さく、活性炭のみでは電極の内部抵抗が大きくなって大電流を取り出せないという問題がある。
【0017】このため、活性炭粉末を使用して電極を形成する場合には、通常、分極性電極中にアセチレンブラックやファーネスブラック等の導電材を混合する。しかし、内部抵抗を低下させる目的で導電材の混合割合を大きくすると、活性炭の混合割合が小さくなり、電極としての比表面積が低下するため容量が低下する。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】つまり、活性炭は分極性電極に用いる材料としては、なお検討の余地があると言える。従って、本発明の技術的な課題は、分極性電極として最適な細孔径分布を有する炭素質の材料を見出し、大容量で内部抵抗の小さい有機溶液系電解液を用いた電気二重層キャパシタを得ることにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明は、導電性に優れ、かつ多孔体であるケッチェンブラックが、分極性電極として好適な細孔径分布を有することから、分極性電極に適用することを検討した結果なされたものである。
【0020】即ち、本発明は、電解液を含浸させた一対の分極性電極を、セパレータを介して配置した電気二重層キャパシタにおいて、前記分極性電極はケッチェンブラックを含む炭素質導電性材料であることを特徴とする電気二重層キャパシタである。
【0021】また、本発明は、前記の電気二重層キャパシタにおいて、前記炭素質導電性材料におけるケッチェンブラックの含有量が60重量%であることを特徴とする電気二重層キャパシタである。
【0022】また、本発明は、前記の電気二重層キャパシタにおいて、前記ケッチェンブラックは、比表面積が1000m/g以上であることを特徴とする電気二重層キャパシタである。
【0023】
【作用】ケッチェンブラックは、殻状の構造で内部に比較的大きな空孔を有する特異な構造の炭素材料である。図2は、代表的なケッチェンブラックの細孔径分布を示したものである。図2から明らかなように、細孔径分布は、2nm付近に急峻なピークを有する。このため、有機電解液系電気二重層キャパシタに対して細孔を有効に利用できる。
【0024】従って、本発明によれば、集電体に担持された分極性電極として、電気抵抗が低く、多孔質で、かつ有機溶液系電解液に最適な細孔構造を持つケッチェンブラックを用いるため、得られるキャパシタ特性が向上する。
【0025】
【実施例】次に、実施例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
【0026】(実施例1)ここでは、巻回型電気二重層キャパシタに本発明を適用した例について説明する。比表面積が1300m/gのケッチェンブラックを90重量%、カルボキシルメチルセルロース10重量%を秤量し、まずケッチェンブラックを、水とエタノールの混合溶液に均一に分散した。別途にカルボキシルメチルセルロースを水に溶解し、両方の液をさらに混合攪拌してケッチェンブラックを含むスラリーを作製した。
【0027】次に、化学エッチング法によって粗面化した、厚さが25μmのアルミニウム箔を集電体として用い、前記スラリーを塗布した。スラリー塗布の後、空気中で10分間乾燥後、110℃で6時間乾燥させ、集電体箔が変形しない程度に、圧延を行い分極性電極層が70μm厚の、分極性電極層と集電体が積層されたシートを得た。
【0028】得られたシートの集電体に、リード端子をプレス法による針カシメにて接続し、次いで一対のシートの間に、25μm厚のセパレータを配置し、渦巻き状に所定の径になるまで巻き取ることで巻回素子を作製した。この巻回素子は120℃での乾燥後、有底円筒型のアルミニウムケースに収納し、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートを0.7mol/lの濃度でプロピレンカーボネートに溶解させることによって調製した電解液を滴下し、ゴムキャップを介して封口して巻回型電気二重層キャパシタを製作した。この電気二重層キャパシタについて、静電容量密度と内部抵抗を求め、表1に示した。
【0029】
【表1】


【0030】(実施例2)ケッチェンブラックの比表面積が1000m2/gである以外は、実施例1と同様にして巻回型電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタについても、実施例1と同様に、静電容量と内部抵抗を測定し、表1に示した。
【0031】(実施例3)比表面積が1300m2/gのケッチェンブラックを70重量%、比表面積が1500m2/gのフェノール系活性炭を20重量%、カルボキシルメチルセルロース10重量%を秤量し、まずケッチェンブラックと活性炭を、水とエタノールの混合溶液に均一に分散した。別途にカルボキシルメチルセルロースを水に溶解し、両方の液をさらに混合攪拌してケッチェンブラックを含むスラリーを作製した。その後は、実施例1と同様にして巻回型電気二重層キャパシタを作製し、静電容量と内部抵抗を測定して表1に示した。
【0032】(比較例1)次に、使用するケッチェンブラックの比表面積の好適な値を検証するため、比較例1として、比表面積が800m2/gのケッチェンブラックを用いた例を示す。ここでは、ケッチェンブラックの比表面積が800m/gのである以外は、実施例1と同様にして巻回型電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタについても、実施例1と同様に、静電容量と内部抵抗を測定し、表1に示した。
【0033】(比較例2)また、比較のために、フェノール性活性炭だけを用いた例について説明する。比表面積が1500m2/gがフェノール系活性炭を80重量%、カーボンブラックを10重量%、カルボキシルメチルセルロースを10重量%秤量し、その後は実施例1と同様にして、巻回型電気二重層キャパシタを製作した。この電気二重層キャパシタについても、実施例1と同様に、静電容量と内部抵抗を測定し、表1に示した。
【0034】表1から明らかなように、実施例1、実施例2、実施例3の本発明のケッチェンブラックを主とした分極性電極を用いた電気二重層キャパシタは、比較例2の活性炭のみを分極性電極材料として用いた電気二重層キャパシタと比較して、高容量で内部抵抗の小さい有機電解液系電気二重層キャパシタである。
【0035】また、比較例1には、比表面積が800m2/gのケッチェンブラックを用いた例を示したが、この場合は、明らかな静電容量密度の低下が認められ、ケッチェンブラックの比表面積が、1000m/g必要であることがわかる。さらに、実施例4においては、実施例1、実施例2に比較すると、明らかな内部抵抗の増加が認められ、用いる炭素質導電性材料には、ケッチェンブラックが少なくとも60重量%含まれることが必要であること分かる。
【0036】
【発明の効果】以上に説明したように、比表面積が1000m2/g以上のケッチェンブラックを60重量%以上含む炭素質導電材料を分極性電極を用いることにより、高容量で内部抵抗の低い電気二重層キャパシタを得ることができる。なお、本発明は、前記のように有機電解液系の電気二重層キャパシタに用いると、特に有用である。
【0037】なお、このような結果が得られたのは、前記のように、プロピレンカーボネートなどのような有機溶媒に、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートなどのような電解質を溶解した溶液の場合では、電解質に起因するイオンが溶媒和したクラスターの大きさと、比表面積が1000m/gのケッチェンブラックの細孔径が適合したためと解される。
【図面の簡単な説明】
【図1】活性炭の細孔径分布を示す図。
【図2】ケッチェンブラックの細孔径分布を示す図。
【図3】一般的なコイン型の電気二重層キャパシタの断面図。
【図4】巻回型の電気二重層キャパシタにおける巻回素子の構成を示す斜視図。
【図5】巻回型の電気二重層キャパシタの内部構成を示す図。
【符号の説明】
31,41 セパレータ
32,42 (正極側の)分極性電極
33,43 正極側の集電体
34,44 (負極側の)分極性電極
35,45 負極側の集電体
36 絶縁ゴム
40,51 巻回素子
46,52 電極リード
53 ケース
54 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 電解液を含浸させた一対の分極性電極を、セパレータを介して配置した電気二重層キャパシタにおいて、前記分極性電極はケッチェンブラックを含む炭素質導電性材料であることを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項2】 請求項1に記載の電気二重層キャパシタにおいて、前記炭素質導電性材料におけるケッチェンブラックの含有量は60重量%であることを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項3】 請求項1もしくは請求項2のいずれかに記載の電気二重層キャパシタにおいて、前記ケッチェンブラックは、比表面積が1000m/g以上であることを特徴とする電気二重層キャパシタ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【公開番号】特開2003−297695(P2003−297695A)
【公開日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−95712(P2002−95712)
【出願日】平成14年3月29日(2002.3.29)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)