説明

電気伝導線

【課題】カーボン系の電気伝導細線を形成する。
【解決手段】電気伝導線1は、複数本の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)3を、隙間5を設けた状態でバンドルした構造を有している。この電気伝導線1は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)3の延在方向に高い電気伝導度を有している。複数本の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)3をバンドルした構造を有する電気伝導線1の、それぞれの単層カーボンナノチューブ(SWCNT)3の隙間5に、挿入種7がインターカレートされている。このインターカレートする挿入種又はそのインターカレート量、インターカレート条件を適正化することにより、電気伝導線1の電気伝導度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気伝導線に関し、特に、細線状のカーボン電気伝導細線に関し、より詳細には、カーボン結晶に対するインターカレーションを利用したカーボン電気伝導細線に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体集積回路などの微細化に伴って、微細な金属伝導線(金属細線)や、半導体を用いた量子細線などの開発が盛んに行われている。一方、層状のグラファイト結晶面の間に分子や化合物などの挿入物をインターカレートし、面間隔を広げた構造が提案されている。例えば、黒鉛(グラファイト)の層間に塩化バリウムを挿入した黒鉛層間化合物が開示され、新たな物性が得られる可能性が指摘されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開昭63−295411号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、グラファイトは、面方向に劈開性が高く、均一サイズの材料を得ることが難しい。また、面方向と交差する方向に関する加工性が悪いため、ナノサイズの細線構造を精度良く形成することが難しいという問題点があった。
本発明は、カーボン電気伝導細線を形成することを目的とする。
【0005】
【発明を解決するための手段】
本発明の一観点によれば、単層又は多層カーボンナノチューブ及びグラファイトナノファイバーのうち少なくとも1つを含むカーボンナノ細線構造と、該カーボンナノ細線構造の層間又はチューブ間に、インターカレートされた挿入種と
を有する電気伝導線が提供される。この電気伝導線は、挿入種をインターカレートすることにより、電気伝導度を調整可能である。
【0006】
また、複数本の単層カーボンナノチューブが、該単層カーボンナノチューブの延在方向と交差する方向に近接して配置されたバンドル構造を有する電気伝導線が提供される。バンドル構造により電気伝導度を調整することも可能である。
【0007】
単層に代えて、多層カーボンナノチューブが、該多層カーボンナノチューブの延在方向と交差する方向に近接して配置されたバンドル構造を有する電気伝導線を用いても良い。或いは、多層カーボンナノチューブの層間に、インターカレートされた挿入種を有するようにしても良い。
【0008】
本発明の他の観点によれば、グラフェンシートの積層構造を有するグラファイトナノファイバーが、該グラファイトナノファイバーの延在方向と交差する方向に、近接して複数本配置されたバンドル構造を有する電気伝導線が提供される。近接配置された前記グラファイトナノファイバー間に、さらに、インターカレートされた挿入種を有するのが好ましい。
これにより、グラファイトナノファイバーの電気伝導度を調整することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本明細書において、カーボンナノチューブ(CNT)とは、炭素原子が網目の形で結びついて形成されたナノメートルサイズの非常に小さな筒(チューブ)状の物質である。CNT単独では、例えば、1nmから10nm程度の直径を有しており、バンドル状になると、例えば、数nmから数100nm程度になる場合がある。一方、グラファイトナノファイバー(GNF)とは、例えば、10nm程度以上数10nm程度の直径を有しているものを言う。本明細書においては、これらを総称してカーボンナノ細線構造と称することにする。
【0010】
本発明の実施の形態について説明する前に、発明者の行った考察についてまず説明する。層状(面状)構造を有するグラファイト(黒鉛)は、面方向と交差する方向の加工性が良くないため、電気伝導細線を精度良く形成することが難しい。そこで、発明者は、電気伝導細線をバルクのグラファイトを加工により形成するのではなく、所望のサイズを有する細線が形成できる条件を予め求めておき、その条件に基づいて細線を形成することを思いついた。グラファイトへの挿入種のインターカレートを利用すれば、細線の電気伝導度を調整することができる。
【0011】
上記考察に基づき、本発明の第1の実施の形態による電気伝導線について図面を参照して説明する。図1は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)による電気伝導細線の構成例を示す図である。図1に示すように、本実施の形態による電気伝導線1は、複数本の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)3を、隙間5を設けた状態でバンドルした構造を有している。この電気伝導線1は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)3の延在方向に高い電気伝導度を有している。図2(A)は、電気伝導線1の電気伝導度を調整した構造例を示す図である。図2(B)は、図2(A)の構造を分子レベルで示した図である。
【0012】
図2(A)に示すように、複数本の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)3をバンドルした構造を有する電気伝導線1の、それぞれの単層カーボンナノチューブ(SWCNT)3の隙間5に、挿入種7、例えばアクセプタ型の化合物であれば、HNO又はAsFを、ドナー型であれば、K又はLiをインターカレートする。このインターカレートする挿入種又はそのインターカレート量、インターカレート条件を適正化することにより、電気伝導線1の電気伝導度を図1に示す構造の場合よりも高めることができ、また、調整することもできる。尚、1本の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)3のみにより電気伝導細線1を形成しても良い。
【0013】
次に、図3を参照して、上記電気伝導線1の製造工程について簡単に説明する。まず、図3R>3(A)に示すように、例えば、直径10nm程度のNi又はCoなどの基材20を形成し、その上に所定の成長条件下で単層カーボンナノチューブ21を所望の長さ、例えば10μm程度成長する。図3(B)に示すように、単層カーボンナノチューブ21の上端部を開口(cap open)する。図3(C)に示すように、複数本の単層カーボンナノチューブ21をバンドル処理しバンドルされた電気伝導細線23を形成する。次いで、図3R>3(D)に示すように、必要に応じて、複数本の単層カーボンナノチューブ21間に上述のようなドナー型又はアクセプタ型の挿入種25をインターカレートする。これにより、バンドル形態を有する電気伝導細線を形成することができる。
【0014】
次に、本発明の第2の実施の形態による電気伝導細線について図面を参照して説明する。図4は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の概略構造を示す図である。図4に示すように、多層カーボンナノチューブ31は、その延在方向と垂直な方向に切った断面が同心円状の単層カーボンナノチューブであって、第1カーボンナノチューブ42と、第2カーボンナノチューブ44と、第3カーボンナノチューブ46と、を含むカーボンナノチューブ群を有している。径方向に隣接する単層カーボンナノチューブ21間に、隙間41及び43が形成されている。これらの隙間41、43に上記挿入種をインターカレートすることが可能である。図5は、隙間に挿入種51、53をインターカレートした構造を示している。尚、この例では、全ての隙間41、43に挿入種をインターカレートしているが、条件により1層毎、2層毎(ステージと称する)に挿入種をインターカレートすることも可能である。インターカレートする挿入種やステージにより、電気伝導度を任意に調整することが可能である。
【0015】
尚、MWCNTの層数を変化させて形成することにより、電気伝導度を調整することも可能である。もちろん、複数本のMWCNTをバンドルすることもでき、バンドルされたMWCNT間に挿入種をインターカレートすることも可能であり、両方をパラメータとして電気伝導度を調整することも可能である。
【0016】
次に、本発明の第3の実施の形態による電気伝導細線について図面を参照して説明する。図6(A)及び(B)は、グラファイトナノファイバー(GNF)を利用した電気伝導細線の構成例を示す図である。図6(B)に示すように、本実施の形態による電気伝導細線63は、例えば、面状のグラファイト層63aの積層構造を有している。図6(B)に示す電気伝導線は、図6(A)に示す電気伝導細線63を、複数本バンドルさせた構造を有している。隣接する電気伝導細線63間に、挿入種65をインターカレートしても良い。挿入種65をインターカレートすることにより、電気伝導度を調整することができる。また、挿入種65をインターカレートすることにより、電気伝導の特異値を観測することも可能である。
【0017】
上記各実施の形態によるカーボンナノチューブを上方から見た構成図を図7(A)及び図7R>7(B)に示す。図7(A)に示す構造は、バンドルされた複数本の電気伝導線21間に、挿入種25がインターカレートされている構造である。図7(B)に示す構造24は、MWCNTの各層間に挿入種27a、27b、27cがインターカレートされている状態を示す図である。
【0018】
図7(A)又は図7(B)に示す構造の1つの特徴は、単位断面積当たりの界面を多くすればするほど、電気伝導度を大きくすることが出来る点である。すなわち、各細線を微細化すればするほど、電気伝導度が高くなる。例えば図7(A)に示す構造において、それぞれのカーボンナノ細線21の断面積を小さくすればするほど、単位断面積当たりの電気伝導度が高くなる。この点は、金属細線のように、細線自体による電気伝導のみが寄与する場合と比べた場合の1つの大きな特徴点である。
【0019】
次に、本発明の第4の実施の形態による電気伝導細線構造について図面を参照して説明する。図8は、本実施の形態による電気伝導細線構造例を示す図である。図8に示すように、本実施の形態による電気伝導細線28は、面状のグラファイトの積層構造29内において、挿入種30を層間にインターカレートしている点に特徴がある。図8に示す構造においても、矢印に示す方向(積層方向)に関する電気伝導度をインターカレートにより大きくすることが出来、かつ、調整することが可能である。図8に示す構造と図6(B)に示す構造とを組み合わせることも可能である。このような組み合わせ構造を用いると、さらに矢印の方向に関する電気伝導度を高くすることが可能になる。ドナー型の挿入種をインターカレートすれば、矢印と交差する方向(電気伝導細線の延在方向と交差する方向)の電気伝導度を調整することもできる。
【0020】
次に、本実施の形態による電気伝導細線の応用例について説明する。第1の応用例としては、半導体チップを半導体キャリア上に搭載し、外部装置と半導体チップとの間の電気的配線をとる場合に、一般的には金又はアルミニウムなどのワイヤーが用いられる。この場合の、ワイヤーの直径は例えば20から40ミクロン程度である。ところが、半導体チップの高集積化や微細化に伴って、金属ワイヤーでは実用上の問題が生じる可能性が出てきている。本実施の形態による電気伝導細線では、直径を非常に小さくできるため、集積回路のより一層の微細化に対応できる上に、カーボン自体が非常に安定であるため、金属線の問題点である腐食に対して耐腐食性があり、耐久性が高くなる利点がある。
【0021】
尚、上記半導体チップとチップキャリアとの間の接続は、金属線と金属製のパッドとを対象とする場合には、熱圧着又は超音波などを併用した溶着により行われるが、ナノカーボンの場合には、例えば、半田などにより溶着する方法の他に、半導体基板上に形成したNi又はCoなどの金属パッド上に直接成長させる方法を用いることもできる。
【0022】
以上、各実施の形態の形態について説明したが、本実施の形態による電気伝導細線は、広範囲に適用が可能であり、例えば、半導体集積回路内における配線層又は抵抗体として用いることも可能であり、その他、種々の電気機器や機械用の細かい電気配線などに用いることが可能である。
以上、発明の実施の形態に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。その他、種々の変更、改良、組み合わせが可能なことは当業者に自明であろう。
【0023】
【発明の効果】
本発明の電気伝導細線によれば、微細な配線が可能になるという利点がある。加えて、配線抵抗を任意に調整することも可能であり、配線に関する自由度が増す。さらに、バンドル構造をとることにより、配線の微細化に伴う抵抗値の増大を有る程度抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態による電気伝導線の概略構成を示す図であり、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)による電気伝導細線の構成例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態による電気伝導線の概略構成を示す図であり、図2(A)は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)による電気伝導細線に挿入種をインターカレートした構成例を示す図である。図2(B)は、図2(A)の構造を分子レベルで示した図である。
【図3】図3(A)から図3(D)までは、本発明の第1の実施の形態による電気伝導線の製造工程の例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態による電気伝導線の概略構成を示す図であり、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)による電気伝導細線の構成例を示す図である。
【図5】図4の構造に対して挿入種をインターカレートした構造を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態によるグラファイトナノファイバー(GNF)を利用した電気伝導細線の構成例を示す図であり、図6(A)は、面状のグラファイト層の積層構造を示す図であり、図6(B)は、図6(A)に示す電気伝導細線を、複数本バンドルさせた構造を有している。
【図7】カーボンナノチューブを上方から見た図であり、図7(A)に示す構造は、バンドルされた複数本の電気伝導線間に、挿入種をインターカレートした構造を示す図であり、図7(B)に示す構造は、MWCNTの各層間に挿入種をインターカレートした構造を示す図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態による電気伝導細線構造例を示す図であり、層状グラファイト結晶の面間に挿入種をインターカレートした構造例を示す図である。
【符号の説明】
1…電気伝導線(電気伝導細線)、3…SWCNT、5…隙間、7…挿入種、28…電気伝導細線、29…面状のグラファイトの積層構造、30…挿入種、31…多層カーボンナノチューブ、42、44、46…隙間、51、53、55…挿入種。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層又は多層カーボンナノチューブ及びグラファイトナノファイバーのうち少なくとも1つを含むカーボンナノ細線構造と、
該カーボンナノ細線構造の層間又はチューブ間に、インターカレートされた挿入種と
を有する電気伝導線。
【請求項2】
複数本の単層カーボンナノチューブが、該単層カーボンナノチューブの延在方向と交差する方向に近接して配置されたバンドル構造を有する電気伝導線。
【請求項3】
近接配置された前記単層カーボンナノチューブ間に、さらに、インターカレートされた挿入種を有することを特徴とする請求項2に記載の電気伝導線。
【請求項4】
多層カーボンナノチューブが、該多層カーボンナノチューブの延在方向と交差する方向に近接して配置されたバンドル構造を有する電気伝導線。
【請求項5】
多層カーボンナノチューブの層間に、インターカレートされた挿入種を有することを特徴とする電気伝導線。
【請求項6】
グラフェンシートの積層構造を有するグラファイトナノファイバーが、該グラファイトナノファイバーの延在方向と交差する方向に、近接して複数本配置されたバンドル構造を有する電気伝導線。
【請求項7】
近接配置された前記グラファイトナノファイバー間に、さらに、インターカレートされた挿入種を有することを特徴とする請求項6に記載の電気伝導線。
【請求項8】
さらに、前記グラフェンシート間に、インターカレートされた挿入種を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の電気伝導線。
【請求項9】
基板と、
該基板上に形成された第1及び第2の電極と、
該基板に形成された単層又は多層カーボンナノチューブ及びグラファイトナノファイバーのうち少なくとも1つを含むカーボンナノ細線構造とを有し、
前記第1の電極と前記第2の電極と前記カーボンナノ細線構造のそれぞれの端部とが電気的に接続されている構造を有することを特徴とする集積回路。

【図1】
image rotate



【図2】
image rotate



【図3】
image rotate



【図4】
image rotate



【図5】
image rotate



【図6】
image rotate



【図7】
image rotate



【図8】
image rotate


【公開番号】特開2004−185985(P2004−185985A)
【公開日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−351425(P2002−351425)
【出願日】平成14年12月3日(2002.12.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】