説明

電気刺戟処置装置及び方法

【課題】より高い処置均一性を実現する電気刺激処置を施すための装置及び方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも1つの電源、被験者に電気的に接続された1つまたはそれより多くの接続プローブに電源の出力を断続的に接続するための第1のスイッチングデバイス、電源によって供給される電流に対して電流帰還経路を形成するために被験者に電気的に接続された1つまたはそれより多くの接続プローブを断続的に接続するための第2のスイッチングデバイス、並びに第1及び第2のスイッチングデバイスに接続されたスイッチング制御デバイスを備え、電源の出力の断続的接続あるいは電流帰還経路の断続的な形成が処置中に変わり、第1及び第2のスイッチングデバイスのスイッチングが互いに独立に行われる、被験者に信号を供給するための電気刺戟システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的には、処置の被験者に電気的に接続されている複数のプローブに電力が印加される、身体、細胞または組織培養の電気刺戟処置のための方法及び装置に関する。本発明は特に、現在のところ熟練した術者による比較的高水準の手作業による介入及び作業を必要とする、美容術及び/または医療目的のための電流による身体のいずれかの1つまたは複数の領域の処置に適する。
【背景技術】
【0002】
微弱電流処置を提供する電気刺戟装置は1980年代半ばに普及した。電気刺戟処置装置の出現は医療及び美容術上の恩恵をもたらしたが、これには長時間の‘手作業’処置を施す術者による比較的高水準の介入が必要であった。同様に、(本明細書では以降被験者と称される)依頼人/患者は処置を受けるために診療所で比較的長い時間を過ごす必要があった。
【0003】
電気刺戟処置装置の出現以来、熟練した術者による装置の手作業操作の必要性を下げる必要があることが一般に認識されてきた。診療所は、十分に熟練した術者を配置する必要に加えて、術者の労務費がこれらのタイプの処置の施行費用のかなりの部分を占めることに気づいた。さらに、時間がたつにつれて、処置を受けるために診療所に出向くのに要する時間を依頼人が使いたがらなくなっていることがわかった。
【0004】
上に指摘した問題に加えて、被験者に提供されるいずれの処置の効験を保証するという別の問題がある。
【0005】
現行の処置プログラムによれば、いずれの処置の効験も術者の技量及び経験に強く依存する。処置は現在、被験者の皮膚表面上へプローブを配置することによって施され、プローブに信号が印加されている間、プローブは皮膚表面上を移動させられる。高度に熟練した経験豊富な術者であっても、処置中の領域が電気刺戟を均一に受けていることを保証することは現在不可能である。
【0006】
処置を必要とする領域が電気刺戟を不均一に受けると、通常は処置の効験が減じることになるであろう。そのような場合、被験者には被験者が必要とする結果を得るのに必要であるより多くの処置が必要となることがあり、したがって、必然的に、そうでない場合に必要であったであろう時間よりも長い時間を被験者は処置を受けるために費やさなければならなくなるであろう。
【0007】
したがって、熟練した術者による手作業操作の必要性を減じる電気刺戟処置装置が必要とされている。さらに、均一な処置、あるいは少なくとも規定された処置をあらゆる特定処置施療に対して適用することによって、有効な処置を確実に施すのに必要な時間量を削減することを、より高い信頼水準で実現できるような装置が必要とされている。
【0008】
これまで、電気信号を発生し、被験者の皮膚組織に接触している複数のプローブにこれらの電気信号を分配する処置装置を提供するための試みがなされてきた。一般に、電源に電気的に接続された複数の‘作用’プローブが提供され、電流の帰還経路をとなる別の一組の複数のプローブも提供される。‘作用’プローブと‘帰還’プローブを被験者の身体上に間隔をあけて配置することにより、作用プローブに電気信号を印加して、作用プローブと帰還プローブの間にある身体領域を通って流れる電流を生じさせることが可能となる。
【0009】
この手法は処置されるべき領域をより広くするが、過去のシステムでは、実質的に同じ電気信号が同時に全ての作用プローブに印加される。この結果、処置中の領域への電流の印加の均一性は保証されない。その領域内のある区域が電流に対してインピーダンスがより低い経路を与え、よって、その区域にわたる処置の集中を生じさせて、処置中の領域内の他の区域を排除または制限し得るからである。
【0010】
不均一な処置の問題を克服するための別の試みには、被験者の皮膚組織上への一組の作用プローブの配置が異なる電源に接続されたプローブを含むように、一組のプローブの内の一部のプローブに接続された数多くの電源を有するシステムがあった。個々の電源のオンとオフを断続的に切り換えることにより、処置中の領域への電気刺戟処置の施行の何らかの制御が可能になる。しかし、これらのシステムは、脚及び腕などの本質的に異なる身体部位に、これらの離れた領域を同時に処置できるように電気刺戟を印加するために用いられることが目的とされている。全てのプローブが一領域に配置されると、電源間にかなりの干渉が生じる。
【0011】
本明細書における、文献、装置、行為または知識に関する議論は、いずれも本発明の内容を説明するために含まれている。上記の事柄のいずれについても、従来技術ベースの一部または本出願の出願日以前の該当技術における共通の一般知識を形成していると認められるべきではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、従来技術のシステムに比較してより高い処置均一性を実現する、処置被験者に電気刺戟処置を施すための装置及び方法を提供することである。本発明の別の課題は、従来技術のシステムに比較して改善された処置の均一性及び効率を提供するとともに、処置装置に単一電源または限られた数の電源を備え、よってそのような装置の費用を最小限に維持することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様において、本発明は被験者に信号を与えるための電気刺激システムであって、
少なくとも1つの電源、
被験者に電気的に接続された1つまたはそれより多くの接続プローブに電源の出力を断続的に接続するための第1のスイッチングデバイス、
電源によって供給される電流のための電流帰還経路を形成するために被験者に電気的に接続された1つまたはそれより多くの接続プローブを断続的に接続するための第2のスイッチングデバイス、及び
第1及び第2のスイッチングデバイスに接続されたスイッチング制御デバイス、
を備え、
電源の出力の断続的接続または電流帰還経路の断続的形成が処置中に変わり、第1及び第2のデバイスのスイッチングが互いに独立に行われる、
電気刺戟システムを提供する。
【0014】
電源の出力は、被験者に供給される電流が調整または制御されるように、電流制御回路に接続されることが好ましい。スイッチングデバイスはマルチプレックス動作制御デバイスに接続されたマルチプレックス動作デバイスであることが好ましい。
【0015】
当業者には認められるであるように、第1及び第2のスイッチングデバイスは個別のユニットとして実現することもできるし、単一ユニットまたは集積回路のような装置内に両方を収めることができる。さらに、第1及び第2のスイッチングデバイスは1つまたはそれより多くの電源とは別の場所におくことができ、あるいは1つまたはそれより多くの電源とともに単一の筐体内に収めることができる。
【0016】
皮膚組織の電気刺戟のために好ましい実施形態にしたがう装置を用いる場合、‘作用’接続プローブを通して電力が供給され、被験者の皮膚組織に接続された‘帰還’接続プローブによって電流帰還経路が確立されるので、マルチプレックス動作デバイスを通して被験者の皮膚へ電気信号が供給されると、1つまたはそれより多くの‘作用’プローブと1つまたはそれより多くの‘帰還’プローブの間に電流が流れる。
【0017】
一実施形態において、‘作用’プローブ及び‘帰還’プローブの配置が処置されるべき領域を通る電流の経路を第一義的に決定する。装置の特に好ましい実施形態において、プローブが‘作用’型プローブであるかまたは‘帰還’型プローブであるかの判断はマルチプレックス動作制御デバイスによってなされる。この実施形態において、それぞれのプローブはデバイスの出力として構成されたプローブへの接続を有する第1のマルチプレックス動作デバイスに接続される。同時に、それぞれのプローブはデバイスへの入力として構成されたプローブへの接続を有する第2のマルチプレックス動作デバイスにも接続される。第1のマルチプレックス動作デバイスは1つまたはそれより多くのプローブを電流制御回路の出力に接続し、第2のマルチプレックス動作デバイスは1つまたはそれより多くのプローブを電流帰還経路に接続する。当然のことながら、あるプローブは、処置中どの時点においても作用型プローブまたは帰還型プローブの一方でなくてはならない。マルチプレックス動作デバイスの出力の接続によりいかなる特定のプローブも処置中に2つの型(すなわち作用型または帰還型)の間で多数回切り換えることが可能になるが、いかなる個別のプローブも、帰還プローブとして選択される(すなわち第2のマルチプレクサによって帰還経路に接続される)と同時に作用プローブとして選択される(すなわち第1のマルチプレクサによって電流制御回路の出力に接続される)べきではない。
【0018】
プローブの接続構成及び処置中のどの特定の時点においてもプローブの型を制御できる機能によって、ある領域に処置のために接続された一組のプローブの間で複雑に電流分配することが可能となる。
【0019】
別の態様において、本発明は被験者に電流を供給するための制御された電気信号供給を提供し、電流は被験者のある領域の少なくとも1つの作用プローブと少なくとも1つの帰還プローブとの接続によって被験者のその領域を通って流れ、
電源が少なくとも1つの作用プローブに接続され、
第1の電気抵抗が作用プローブ及び帰還プローブに並列に接続され、
プローブと第1の電気抵抗の接続点が制御可能な可変コンダクタンス回路網を介して接地基準に接続される。
【0020】
第1の電気抵抗の値は被験者の前記領域において作用プローブと帰還プローブの間に存在する推定抵抗値よりもかなり大きくなるように選ばれることが好ましい。被験者に処置を施す場合に、作用プローブ及び帰還プローブと並列に第1の電気抵抗を接続することにより、作用プローブが初めに処置領域に装着されるときに生じる、刺すような感じがかなり軽減される。処置領域のプローブ間抵抗に比較してかなり大きな抵抗を選択することにより、電源からの電流の大部分が処置中の領域を通過することも保証される。
【0021】
帰還プローブと第1の抵抗の間の接続点は制御可能な可変コンダクタンス回路網を介して接地基準に接続される。この点において、回路網のコンダクタンスを制御することにより、処置下にある領域を通って流れる電流量が実質的に制御される。
【0022】
特に好ましい実施形態において、可変コンダクタンス回路網は、第2の電気抵抗と直列接続されているトランジスタを通るコレクタ−エミッタ経路により形成されるコンダクタンス路を有する。この特別な構成により、エミッタと第2の抵抗の接続点における電圧が、処置下にある領域を通って流れる電流に比例して変化する。この接続点は次いで、トランジスタのベース入力のための制御信号を発生できるようにする制御信号回路網に接続できる。
【0023】
制御信号回路網は、エミッタと第2の抵抗の接続点に接続されたコンダクタンス回路網からの第1の入力と、デジタル−アナログ変換器(DAC)からの第2の入力とを受け取る演算増幅器を有することが好ましい。演算増幅器は、DACからの入力が非反転入力に接続され、且つ、処置下にある領域を通って流れる電流に比例する電圧を与える、コンダクタンス回路網からの出力が反転入力に接続される差動増幅器として構成されることが好ましい。
【0024】
好ましい構成において、DACからの電圧信号出力は、処置下にある領域を通って流れるであろう電流を意味する。この特別な電流は、処置下にある領域によって作用プローブと帰還プローブ間にもたらされるコンダクタンスに対するあらゆる変更に対応することによって作用プローブと帰還プローブの間に流れる電流がDACの出力電圧で表される値に確実に維持されるように、制御された可変コンダクタンス回路網により維持されるであろう。さらに、DACの電圧出力が変化すると、それにしたがって流れる電流が変化するであろう。特に好ましい実施形態において、DACの出力電圧は、変化するDAC出力電圧を与えるようにプログラムされ、したがって、処置下にある領域を通って流れる同様に変化する電流を生じさせることができるマイクロプロセッサのデジタル出力によって制御される。処置被験者を通って流れる電流をマイクロプロセッサで制御することにより、作用プローブと帰還プローブの間を流れるであろう複雑な電流波形を含む処置の確立が可能になる。
【0025】
制御される可変コンダクタンス回路網の制御ループの速度は、トランジスタのベースへの入力であり、したがって可変コンダクタンス回路網のコンダクタンスを制御する、信号にエラーすなわち差を生じさせる回路網を形成しているデバイスの速度によって制限されるだけである。
【0026】
別の態様において、本発明は、
(a)複数の電気刺戟プローブを被験者に電気的に接続させて装着する工程、
(b)少なくとも1つの電源への接続のためにプローブの内の1つまたはそれより多くを選択することによって、これらの1つまたはそれより多くのプローブを作用プローブとする工程、
(c)電流帰還経路への接続のためにプローブの内の1つまたはそれより多くを選択することによって、これらの1つまたはそれより多くのプローブを帰還プローブとする工程、
(d)1つまたはそれより多くの作用プローブを少なくとも1つの電源に接続し、1つまたはそれより多くの帰還プローブを電流帰還回路に接続して、作用プローブと帰還プローブの間を流れる電流を生じさせる工程、
(e)作用プローブ及び帰還プローブの選択を変更する工程、及び
(f)完了するまで工程(d)及び(e)を反復する工程、
を有してなる、被験者に電気刺激を与える方法を提供する。
【0027】
被験者に電気刺戟処置を施す場合に、作用プローブ及び帰還プローブの選択は処置全体にわたって変えられることが好ましく、好ましい実施形態の1つにおいて、どの時点においても1つのプローブだけが作用プローブであり、1つのプローブだけが帰還プローブとして選択される。
【0028】
特に好ましい実施形態において、方法工程(d)及び(e)における作用プローブと帰還プローブの選択及び接続は、一方の処置領域に流れる電流が実質的にゼロであるいずれかの期間中に、他方の処置領域に電流が確立されるように選ばれる。これらの好ましい方法工程は、2つの別々の領域を実効的に同時に、あるいは1つの領域をより集中的に、処置することにより処置効率を大幅に増進する。
【0029】
また別の態様において、本発明は、少なくとも1つの作用プローブ及び帰還プローブのそれぞれによって被験者のある領域と電気的に接続されている電源ユニットに接続された被験者への電流供給を制御する方法であって、少なくとも1つの作用プローブ及び帰還プローブに並列に接続された第1の電気抵抗を有し、帰還プローブと第1の抵抗との接続点と接地基準の間に制御可能な可変コンダクタンス回路網が接続されている方法を提供し、本方法は、
初めに、制限された電流が被験者の前記領域を通って流れることができるような低コンダクタンスを与えるように可変コンダクタンス回路網を制御する工程、及び、
引き続いて、被験者の前記領域を通って流れる所望の電流を生じさせるように回路網の可変コンダクタンスを制御する工程、
を有してなる。
【0030】
電気信号を供給するであろうプローブ及び帰還経路を形成するであろう特定のプローブを一組のプローブの中から選択するというフレキシビリティにより、領域が比較的均一な電流カバレッジを受けることの信頼性を高めるという点に関して大きな利点が得られる。
【0031】
さらに、被験者に処置を施す場合に、交互に電流を生じさせるために処置下にある異なる領域におけるプローブの組を選択することにより、一方の領域における処置の施行が可能になり、他方の領域は‘オフサイクル’におかれる。この場合、作用プローブの組を切り換えることにより、実効的に2つまたはそれより多くの領域を同時に処置することが可能になり、処置の時間効率に関してかなりの改善が得られ、よって処置を必要とする被験者の所要時間がさらに短縮される。これは、1つより多くの処置を実施するのに必要な時間が短縮されると同時に、装置の資産費用をかなり増大させる効果を有するであろう追加の電源の組込みが不要であるため、本発明の特に有利な態様である。
【0032】
プローブを切り換えることができる機能により、従来のシステム及び方法に比較して、処置を必要とする領域上のプローブの配置に必要な確度が低下するから、プローブ配置に関する妥当なレベルの確度を得ることが必要である。したがって、特に好ましい実施形態において、身体の特定の部位用の所定のプローブ配置が、処置被験者の必要とされる位置にほぼ一致する位置に接続してプローブが配置されるように、処置を必要とする領域を覆って配置することができる材料片に組み込まれる。この材料は弾性体とすることができ、被験者上への配置を容易にするために、処置を要する領域の形状につくることができる。例えば、足のためのあらかじめ定められたプローブ配置を靴下の形状の弾性材料片に組み込むことができ、よって、被験者はその靴下を足の上に容易にはくことができ、したがって被験者の足の処置のために全てのプローブを妥当な確度で配置できる。
【0033】
被験者が一人の被験者である場合には当然、その一人の被験者の身体の全ての部位に対してあらかじめ定められたプローブ配置を確立することができ、顔の処置の場合には、プローブ配置を組み込んでいるマスクを被験者の顔の上に置き、よって電気刺戟処置の開始に先立って全てのプローブを迅速かつ容易に配置できる。被験者の身体の広い領域に複数の処置を同時に施す場合には、あらかじめ定められたプローブ配置を組み込んでいる適切な材料のボディスーツによって、多数のプローブの迅速で比較的正確な配置が可能になる。
【0034】
電気刺戟信号を与えている間、一プローブは作用プローブまたは帰還プローブの一方だけであるべきである。しかし、装置の較正のため、プローブは同時に作用プローブ及び帰還プローブとして選択することができる。
【0035】
本明細書の目的のため、プローブという術語は処置の被験者への電気的接続を提供することができる装置であれば、どのような装置も含むとされる。例えば、接続は、処置被験者との、あるいは被験者を穿通する、直接接触、あるいは電解質溶液を用いる間接接触の結果とすることができよう。さらに、電気的接触は、誘導性接触のように、全く無接触で実施することができよう。本発明の好ましい実施形態を説明する目的のため、電気刺戟信号の印加は被験者の処置に関して説明される。したがって、皮膚組織との間の電気的接触を形成するために皮膚組織に装着されるプローブを指す‘パッド’という術語が用いられる。パッドは一般に、この形態の処置のために、何らかの接着性または弾性のあるバンドの形態によって被験者に確実に固定される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】被験者の皮膚組織への電流供給の調整のための2つの独立な電源及びそれぞれの電流制御回路の回路図である
【図2】4つの独立なマルチプレックス動作デバイスの回路図である
【図3】マイクロプロセッサ及びデジタル−アナログ変換器の回路図である
【図4】図3のマイクロプロセッサに接続されるディスプレイの回路図である
【図5】図1〜4のデバイスに電力を供給するための従来の電源構成の回路図である
【図6】8パッド構成の様々なパッドの間の電流信号パターンの第1の例を詳細に示す
【図7】患者の皮膚組織に印加される複数の電力信号を含む本発明の一実施形態における様々なパッドの間の電流信号パターンの例を詳細に示す
【図8】図8Aは標準波形を詳細に示し、図8Bは分割サイクル波形を詳細に示す
【図9】処置下にある2つの別々の領域に対する、実効的に両領域を同時に処置するために分割サイクル手法を用いる、電流信号パターンの例を詳細に示す
【発明を実施するための形態】
【0037】
上節の提示のいずれをも限定すると見なされるべきではない本発明の好ましい実施形態をここで説明する。図面を参照して好ましい実施形態を説明する。
【0038】
図1を参照すれば、それぞれの電流制御回路をもつ2つの電源が詳細に示されている。本方式において電源の出力は組織に印加されるが、逆極性信号が接地またはPCB(プリント回路板)電圧基準信号から直接に送られることはない。代りに、電流経路は、電源の正端子から皮膚組織を通って進み、制御トランジスタを通り、検知抵抗を通って接地に戻る。検知抵抗とトランジスタのエミッタの接続点には、皮膚組織を通る電流に正比例する小さな電圧がある。この電圧は演算増幅器の非反転入力に印加され、演算増幅器の別の入力は所望の実電流を表す電圧である。増幅器の出力は電流を自動的に直接調整するトランジスタのベースにおける電圧を制御する。この回路は電流調整器である。
【0039】
本方式により優れた信号制御が得られ、よって、より効率的な被験者の処置が得られ、複数の電源と電流印加先の間で信号を有効に切り換えるための機能も大幅に強化される。本方式においては、組織に高い絶対電圧が維持され、これは改善された電流の流れを助長する。
【0040】
本構成においては、単一電源によって供給される全ての回路とともに動作する複数の電流調整器(CR)回路を有することが可能である。単一CRに対しては電源電極(PSE)からCR電極(CRE)までの可能な電流経路は1つだけであり、この電流は増幅器の反転入力上の電圧によって設定されるであろう。この電圧は波形制御電圧(WCV)と呼ばれる。しかし、それぞれがCREをもつ多くのCRがあれば、PSEとそれぞれのCREの間に、それぞれのCRに対してWCVによって精確に設定される電流があるであろう。
【0041】
これは、信号分配を改善するための簡単な解決策(すなわち、多くの電流調整回路をもつ単一電源ユニット)を表す一実施形態である。WCVにより皮膚組織に複雑な電流波形を発生させることができる。WCV信号を指定された好ましいパターンで変化させることにより、CREとPSEの間の電流がこの波形に一致するであろう。
【0042】
単一の電流調整器及び多くの電源ユニット(PSU)からなる逆のシナリオも試される。このシナリオではWCVがシステムの総合電流を設定する。電流は最小抵抗経路を流れるであろうから、実信号カバレッジを予測することは困難である。これは一実施形態であるが本発明の好ましい実施形態ではない。
【0043】
これを論理的に次のステップに進めるため、PSEの場所が固定されれば総信号カバレッジは用いられる数のCREの間の一連の線を含むであろうことがわかる。これは既存の技術を改善するが、信号カバレッジの均一性を大きくは改善しない。回路がPSEの位置を自動的に変えることができれば、カバレッジが改善され得るであろうことがわかる。この簡単なシナリオでは、高電圧マルチプレクサ集積回路(HVMUX)を用いることができる。
【0044】
デバイスの制御を実施するための低電圧信号を受け取ることができるマルチプレックス動作デバイスを含めることによりマイクロプロセッサのような低電圧制御システムからの信号で高電圧信号の分配を制御することが可能になる。好ましい実施形態の1つにおいて、HVMUXは8:1構成である。これは、8つの入力信号の内のいずれか1つが1つの出力信号に選択的に切り換えられ得るか、または1つの入力信号が8つの出力信号の内の1つに選択的に切り換えられ得る(例えば、皮膚組織への電気信号の供給のために8つのパッドの内の1つが活性パッドとして選択され得る)ことを意味する。帰還パッドも同じ方法で選択される。この構成には2×4:1,16:1等を含む変形があることは当然である。
【0045】

8つの可能なPSEパッドの内の1つに電源信号を切り換えるためにHVMUXが用いられるならば、より均一な信号カバレッジを得ることができる。この構成(1つのPSU,多くのCR及び多くのCRE)は単一電源の場合の好ましい実施形態の1つを表す。本発明の好ましい実施形態ではないにもかかわらず、逆のシナリオ(多くのPSU,1つのCR及び多くのCRE)も可能である。
【0046】
この構成をさらに改善するため、単一CR及び単一PSUを1つまたはそれより多くのHVMUXに適用することにより、大きく改善された信号カバレッジが得られることがわかる。しかし、この場合、随時ただ1つの信号経路しか存在しない。
【0047】
別の可能なシナリオには、
− CRだけ、PSUだけまたは両者のスイッチングを可能にする1つのCR HVNUXをそれぞれが有する多くのPSU,
− 1つのPSU,CR,PSUまたは両者のスイッチングを可能にする多くのCR HVMUX,あるいは
− 全てのCR,PSUまたは両者のスイッチングを可能にする1つまたは多くのCR HVMUXをそれぞれが有する多くのPSU,
がある。
【0048】
1つより多くのCRを有する本発明の好ましい実施形態はいずれも、異なるWCV信号をCRに印加することによって異なる電流波形を発生することができる。この効果は、WCVによって定められる単純な波形より複雑な波形が組織内に発生することである。
【0049】
さらに、それぞれのPSUの実電圧は個々に設定することができるから、PSU電圧間の差は組織内にさらに複雑な信号をつくる。
【0050】
それぞれのWCVはマイクロプロセッサ回路(図3のU1)によって互いに完全に独立につくられる。本発明の好ましい実施形態におけるこのマイクロプロセッサは装置へのユーザインターフェースも制御する。
【0051】
様々なソースから、波形を発生させることができ、あるいは発生のために選択することができる。好ましい波形セットをマイクロプロセッサにあらかじめ格納しておくこともできるし、あるいは波形属性のリストをメニューまたは同様の、収集された、あらかじめ定められた値からユーザが選択することもできる。同様に、ユーザが必要とする精確な波形特性をユーザが定めることが許されることもできるが、この場合には、マイクロプロセッサが波形の該当パラメータを実時間で計算することができる。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、マイクロプロセッサは1つまたはそれより多くの独立電源及びマルチプレックス動作/スイッチングデバイスのアレイを制御する。電源は電気信号を供給し、電流帰還経路を提供する。スイッチングデバイスはマルチプレックス動作デバイスの8つのピンの内の1つに信号または電流帰還経路を切り換えることができる。すなわち、好ましい実施形態においては、信号を切り換えるために1つのマルチプレックス動作デバイスが用いられ、電流帰還経路を5つ(またはそれより多くの)ピンに切り換えるために別のマルチプレックス動作デバイスが用いられる。
【0053】
初めに信号または電流帰還経路の一方を8つのピンの内の1つに切り換えることができ、次いで他方を残りの7ピンの内のいずれかに切り換えることができる。すなわち、処置されるべき領域の周りに5つ(またはそれより多くの)パッドを配置すれば、5つのパッドに対して20経路(5×4の可能性)、6つのパッドに対して30経路(6×5の可能性)、7つのパッドに対して42経路(7×6の可能性)あるいは8つのパッドに対して56経路(8×7の可能性)までを活性化することにより、領域内のいかなる組織も有効に刺戟するための精巧なスイッチングパターンを確立することができる。
【0054】
さらに、複数の独立電源を複数組のマルチプレックス動作デバイスによって切り換えることができ、より多くの領域を刺戟するか、あるいはより多くの複雑で精巧な刺戟パターンをつくることができる。
【0055】
第1のマルチプレックス動作デバイス(図2のU4)の1つのピンに電流制御信号を与え、第2のマルチプレックス動作デバイス(図2のU5)の1つのピンに帰還経路を与えることにより、2つのパッド付領域の組合せに1つの及びそれより多くもの精巧な刺戟パターンを与えることが可能になる。同様に、より多くの電源を切り換えてかなり多数の電流経路をつくることもできる。
【0056】
回路動作の詳細な説明
図1から5を参照する、以下の回路図の動作の詳細な説明により、当業者であれば本発明の回路構成により被験者の組織に印加するための精確な電流調整された波形の発生が1つの電源で可能になることを認めるであろう。
【0057】
特に、既知のシステムに比較して、制御ループにおける‘遅れ’を実質的に小さくする制御ループが確立される。さらに詳しくは、制御ループにおける‘遅れ’の克服及び電流調整を用いる制御の実施により、電圧制御と対照して、数多くの利点を実現することができる。
【0058】
図1を参照すれば、2つの独立な電流調整回路が詳細に示されている。1つの電流調整回路しか説明しないが、2つの回路の動作は同じである。
【0059】
電気信号が端子PS1及びWave 1を介して皮膚組織に印加され、これらの端子上の信号はマルチプレクサU4及びU5(図2参照)により被験者の皮膚組織と直接または間接に接触しているプローブに切り換えられる。この結果、被験者の皮膚組織は実効的に抵抗器R40と並列である。トランジスタQ1が作動モードにあるときに、電流がR40を通って流れる。
【0060】
電流がR40及びトランジスタQ1を通って流れると、電流値に比例する電圧がQ1のエミッタに現れる。実効的に、R40,Q1及びR37は高電圧と接地の間に分圧器を形成する。
【0061】
R37とエミッタの接続点に現れる電圧は演算増幅器U10Aの反転入力に印加される。電流調整器回路の演算増幅器は差動増幅器として構成される。したがって、説明されている電流調整回路において、反転入力上の信号は抵抗器R32及びR33で形成される分圧器によって比例縮小されるISET1と呼ばれる信号である、非反転入力上に存在する信号と比較される。演算増幅器U10Aの非反転入力における電圧が演算増幅器U10Aの反転入力における電圧より低ければ、トランジスタQ1のコンダクタンスが低下し、同様に、非反転入力における電圧が反転入力における電圧より高ければ、トランジスタQ1のコンダクタンスが高められる。実効的に、Q1は可変抵抗器として作用する。
【0062】
当業者には認められるであろうように、図1に詳細に示される電流調整器回路は非常に高速な制御ループを有し、ISET1として確立される電圧がR40を通って流れる、その電圧に比例する電流を生じさせる。本発明の好ましい実施形態において、R40の値はプローブが初めに被験者の皮膚に装着されるときの電流スパイクを防止するために比較的大きい。電流は抵抗器R40を通る電流と並列に皮膚組織を通って流れ、皮膚組織によって与えられる(一般に30kΩより低い)インピーダンスに実質的な差があれば、抵抗器R40を通って流れている電流は実効的に無視される。回路動作を考察する目的のためには、電流調整器回路は皮膚組織を通る電流を測定すると考えることが妥当である。電流調整器回路に与えられるインピーダンスが、例えば皮膚組織のインピーダンスの変化によって、変化すると、電流調整器回路は(直ちに)皮膚組織インピーダンスの変化に適応して、組織を流れる所望の電流を維持する。
【0063】
したがって、ISET1に印加される電圧信号はいずれも皮膚組織を通って流れる比例電流を生じさせる。例えば、ISET1が電圧波形を定めれば、比例電流波形が被験者の皮膚組織を通って流れる。
【0064】
好ましい実施形態において、被験者の皮膚組織を通る比例電流を生じさせる電圧信号ISET1及びISET2はマイクロプロセッサU1(図3参照)により、またマイクロプロセッサU1からの信号値を表すデジタル値をデジタル−アナログ変換器(TLC7226)によって変換することにより、発生される。
【0065】
さらに図3を参照すれば、デバイスDS1994は装置の使用時間を記録する高信頼性メモリの形態の高信頼性会計デバイスである。この実施形態において、本装置は基本科料なしで療法士に提供され、療法士は装置が用いられた時間に対してだけ支払う。好ましい実施形態において、療法士はある時間量に対して前払いし、高信頼性会計デバイスは装置が用いられた累積時間を記録し、装置に対して支払いがなされた動作時間が尽きると装置を不作動化する。
【0066】
図4を参照すれば、デバイスLCD1は装置のオペレータに情報を提供するために用いられるLCDディスプレイである。装置が起動されると、ディスプレイは、装置が自動的に不作動化されるまでの、装置を動作させるために利用可能な残り時間量をオペレータに示す。さらに、ディスプレイは選択された処置及びその特定の処置プログラム内で選択されたプログラムをオペレータに示す。ディスプレイは現在の電池状態及び装置の動作特性に該当するいかなるその他の情報も示すことができる。処置の選択に際して、ディスプレイは特定の処置に必要な時間量をオペレータに示すこともでき、特定の処置の停止までの残り時間を‘カウントダウン’できる。
【0067】
本発明の特に好ましい実施形態において、ディスプレイは被験者の皮膚組織に接続されたプローブの導電度状態をオペレータに示すこともできる。この点において、この情報は皮膚組織プローブに関しておこり得る接続性問題をオペレータに知らせる助けになり得る。例えば、処置中に皮膚組織プローブが被験者の皮膚組織から外れた場合に、プローブ間の接続性に関して表示される情報で、そのような状態が生じたことをオペレータに知らせることができ、処置プロセス中に補修作業を行うことができる。
【0068】
さらに図4を参照すれば、デバイスU2及び付帯する回路が、LCDディスプレイのためのLCDバックライト電源を提供する目的のために、低DC電圧を130ボルトのAC電圧に変換する電力インバータを形成する。さらに、Q3,R23及びR24並びにスピーカーSPKR1が、エラー状態が生じた場合に、またはユーザインターフェースの動作を示すためにビープ音を鳴らすような音響機能をもつ装置を提供する。
【0069】
好ましい実施形態におけるユーザ入力には6つの押しボタンがある。これらのボタンの機能は電源の動作モードに応じて変る。マイクロプロセッサU1は内部にいくつかのデータテーブルを格納する。これらのテーブルには、処置テーブル、プログラムテーブル及びマルチプレクサテーブルがある。
【0070】
処置テーブルは現在、エディタによってカスタマイズすることができる、128までの異なる処置を含む。処置テーブルは現在、必ずしも全てが作用し得る必要はない16のプログラムのリストを含む。処置は押しボタンの内の1つを用いて選択される(詳述せず)。この行為は作用し得る処置のリストをスクロールし、LCDディスプレイ上に処置名を表示する。処置テーブルは、最後の作用し得る処置の後で最初の作用し得る処置に戻る。処置テーブルは、通常は順次に起動される個々のプログラムのリストを含む。しかし、処置の中途部分で処置の開始を可能にするため、ボタンの内の1つによって処置内のプログラムを選択し、開始することができる。現在、処置は16の個別のプログラムを有することができる。
【0071】
プログラムテーブルはプログラムパラメータのリストを含む。現在、128までのプログラムをメモリに定めることができ、内蔵エディタによって編集できる。
【0072】
信号ISET1及びISET2の発生に加えて、マイクロプロセッサU1はマルチプレックス動作デバイスU4,U5,U7及びU8(図2参照)に対する制御信号も発生する。デバイスU9はラッチであり、マイクロプロセッサからの8つの個別の信号(DD0〜DD7)をラッチデバイスU9へのイネーブル信号の印加時にラッチする。
【0073】
ラッチデバイスU9の様々な出力信号はマルチプレクサデバイスU4,U5,U7及びU8の選択入力に印加される。被験者の皮膚組織に与えられるべき電流信号は信号線PS1とWave 1の間及び信号線PS2とWave 2の間に現れる。これらの信号線の間のそれぞれに現れる調整された電流信号は図1に詳細に示したそれぞれの電流調整回路によって制御される。好ましい実施形態の回路動作を説明する目的のため、マルチプレックス動作デバイスU7及びU8の動作は同じであるから、マルチプレックス動作デバイスU4及びU5の動作だけを説明する。
【0074】
供給信号PS1はデバイスU3及び付帯する回路を有する電源(図1参照)から供給される。信号は被験者の皮膚組織に与えられる電流を制限する抵抗器R29を通して供給され、R29の選択により皮膚組織に印加される電圧がマルチプレックス動作デバイスに損傷を生じさせ得るであろう電圧レベルを決してこえないことも保証され得る。
【0075】
デバイスU4(図2参照)を参照すれば、入力信号ENHI1がマルチプレックス動作デバイスの出力信号の全てを有効に制御し、信号ENHI1が低論理レベルにある場合、デバイスU4を通って信号線PS1から供給される電力はない。実効的に、電源PS1は被験者の皮膚組織から完全に切り離され得る。3つの入力信号HISEL0,HISEL1及びHISEL2により、マルチプレックス動作デバイスの出力の内の1つを選択して被験者の皮膚組織に電源信号PS1を送ることが可能になる。したがって、マルチプレックス動作デバイスU4の出力信号線、すなわちP1_1〜P1_2、の内のいずれか1つに電源信号PS1を与えることができる。同様に、マルチプレックス動作デバイスU5は、マルチプレックス動作デバイスU5を通る電流に対する電流帰還経路を形成し、電流調整器回路(図1参照)に信号Wave 1としての帰還経路を提供するために、被験者の皮膚組織に接続された別のプローブから信号を受け取るように構成できる。
【0076】
好ましい実施形態において、マルチプレックス動作デバイスU4及びU5には信号線IN1〜IN8が接続され、よって、それぞれの個々の信号線を被験者の皮膚組織への印加のために個々のパッドに接続する際に、マルチプレックス動作デバイスU4及びU5の構成により、電源信号PS1を被験者の皮膚組織に接続されたパッドの内のいずれか1つに向け、残りのパッドの内のいずれか1つを介する電流帰還経路を確立することができる。この結果、被験者の皮膚組織に8つのパッドを接続し、それぞれのパッドの間に複雑な電流調整された波形を発生することが可能である。本発明により、装置をあらかじめプログラムして、処置されるべき身体の領域に応じて1つまたはそれより多くのプローブのそれぞれの間に特定の信号パターンを与えることが可能になる。
【0077】
例えば、図6Aから6Dを参照すると、被験者の皮膚組織に接続された1つのパッドに電源信号を印加し、1つだけの、電流に対する帰還経路として作用する別のパッドにより、2つの特定のパッド、すなわち電源パッド及び帰還経路パッド、の間に電流信号を向けることができる。異なるパッドを選択して電源パッド及び電流帰還経路パッドとして作用させることにより、被験者の皮膚組織を通過する電流調整された信号をこれらの異なるパッドを通る方向に変えることができる。処置されるべき領域の周りで被験者の皮膚組織に8つの個々のパッドを当てることにより、8つのパッドの間にある皮膚組織に包括的な処置プログラムを施すために、本発明の装置でパッド間にある範囲の信号パターンを与えることが可能になる。
【0078】
図7A及び7Bを参照すれば、処置下にある被験者の皮膚組織に複雑で包括的な信号カバレッジを与えることができる本発明の装置の機能が、一度に1つより多くの電源信号が被験者の皮膚組織に与えられるときに、さらに強化される。例えば、図7Aを参照すると、3つの電源信号PS1,PS2及びPS3のそれぞれを与える3つのパッドが3つの電流帰還経路パッドC1,C2及びC3のそれぞれとともに示される。図7Aの特定の例において、3つの個々の電源信号PS1,PS2及びPS3が信号電流帰還経路パッドC1だけをはたらかせることによって皮膚組織に与えられる。したがって、パッドPS1,PS2及びPS3とC1の間の皮膚組織が、パッドが接続されている皮膚組織の間の電流調整された信号PS1,PS2及びPS3によって処置を受ける。電源信号PS1,PS2及びPS3を順次にまたは同時に与えることができ、それぞれ電源信号について異なる電流波形を有することさえできることは当然である。
【0079】
図7Bを参照すれば、パッドPS1,PS2及びPS3と帰還経路パッドC1,C2及びC3の間にある皮膚組織を通る信号分配の複雑性が、パッドC1とPS1の間、C2とPS1の間、C1とPS2の間、C2とPS2の間、C2とPS3の間、C3とPS3の間、及びC3とPS2の間を電流が通る場合にかなり高められる。
【0080】
好ましい実施形態において、プログラムテーブル内のエントリプログラムのそれぞれは波形を発生するのに必要な以下の情報、
1. 波形周波数、
2. プログラム持続時間、
3. 波形の第1の半分割部分の上昇勾配、
4. 波形の第1の半分割部分の下降勾配、
5. 分割サイクル波形についての波形の第2の半分割部分の上昇勾配、
6. 分割サイクル波形についての波形の第2の半分割部分の下降勾配、
7. 波形タイプ(単一サイクル、分割サイクルまたは圧縮サイクルを含む)
8. 極性切換え頻度
9. 最大電流
10. 電圧、
11. 電流調整器の数、及び
12. それぞれの電流調整器に用いられるマルチプレクサテーブル、
を定める。
【0081】
この実施形態では、現在、128までのマルチプレクサテーブルのためのスペースがある。それぞれのテーブルは、単一の電流調整器回路にともなうマルチプレクサIC対の選択状態を定める64の1バイトエントリを含む。異なる処置領域に対して異なるマルチプレクサセットを作動及び停止させるプログラムを作成することにより、多くのマルチプレクサセットの単一の作動状態セットへの確立が可能になり、さらに重要なことには、いくつかのマルチプレクサセットを分配して必要ないかなる数の作動状態セットにもすることが可能になる。分割サイクル波形を用いれば、処置下にあるいかなる特定の領域においても、サイクルの‘オフ’部分の間に、作動状態にあるプローブの組を一方の領域から他方の領域に切り換えることによって、処置を必要とする2つの別々の領域において電源電流調整器をフルに利用することができる。
【0082】
図8Aを参照すれば、波形の第1の半分割部分の上昇勾配18、指定された最大電流の期間20、波形の第1の半分割部分の下降勾配22及び、実質的に電流がゼロであり、したがって波形サイクルを完了させる期間24を有する、代表的な波形が詳細に示される。この波形は、26,28,30及び32において実質的に反復され、よって、20,24,28,32等に対応する時間長の選択により所望の周波数をもつ波形がつくられる。処置を必要とする2つの別々の領域に2つの電流波形I1及びI2が与えられる分割サイクル構成が図8Bに詳細に示されている。期間34の間、領域1は波形の第1の半分割部分35を受け、領域2を流れる電流は実質的にゼロである。しかし、領域1を流れる電流が実質的にゼロの期間36の間、領域2のプローブ対の間にある領域が波形37を受けるように、電源が領域2のプローブ対に切り換えられる。このプロセスは期間38に対して反転され、期間40に対して再度反転される。2つの別々の領域を処置しているプローブ対の間で電源を引き続いて交互に切り換えることにより、それぞれの領域が図8Aに示されるような波形を実質的に同時に受けることが可能になる。
【0083】
図9Aを参照すれば、プローブ46,48,50及び52が被験者の1つの処置領域に装着され、プローブ54,56,58及び60が別の離れた処置領域に装着されている,プローブレイアウトの一例が詳細に示される。サイクルの作動半分割部分の間は、処置領域1においてプローブ46と50の間に流れる電流が生じ、処置領域2は処置されない。しかし、処置領域1に対する波形の‘オフ’サイクル、すなわち第2の半分割部分の間は、処置領域2においてプローブ54と60の間にサイクルの第1の作動半分割部分を与えるように電源が切り換えられる。このプロセスは、処置領域1及び2における個々のプローブ対の間で電流が切り換えられながら、処置の残りの間継続する。最終的に、処置プログラムの完了時には、いずれの領域も同時に処置されているか、あるいは、2つの区域に分けられた単一の領域がさらに一層集中的に処置されているであろう。
【0084】
1つのマルチプレクサの出力に信号を与え、別のマルチプレクサを介する電流帰還経路を提供することができる機能、及びマルチプレクサ信号線の制御により、電流調整器回路から供給される電源信号が被験者の皮膚組織をバイパスし、よって電気信号が電流調整器回路に直接に戻されるように、装置を構成できる。この場合、電流は装置自体を通り、この構成は電流調整器回路によって制御される電流を較正するための試験に用いることができる。
【0085】
図5を参照すれば、図1から4に詳細に示されるデバイスに電力を供給するために用いられる通常の電源構成を詳細に示す回路図が示される。
【0086】
結論
本発明の改善された装置及び方法により、処置下にある領域を通る複雑な電流経路の確立が可能になる。さらに、本発明の装置によるこのタイプの処置の適用により、処置下にある領域がパッドの配置に関して第一義的に術者の技量に依存する従来のシステムと比較してはるかに均一な処置を受けることが保証される。
【0087】
パッド間の処置の改善された均一性の結果として、パッドの配置をそれほど厳密に定める必要がなくなり、したがって、被験者自身など、熟練していないユーザが処置を施すことが可能になる。この点において、皮膚組織上のパッドの配置及び適切な処置プログラムの選択に関して被験者を手引きする比較的簡単な使用説明書のセットを提供することができる。この点に関する大きな利点は、処置を受けるために被験者が診療所に出向くことがもはや必要ではなく、被験者に都合のよい時間に被験者の家庭で安楽に被験者自身の処置を施し得ることである。被験者の身体のある部位への適用に適合されたあらかじめ定められたパッド配置が材料片に組み込んであれば、さらに被験者自身の処置を施す助けになる。
【0088】
処置を受けるために被験者に必要とされる時間長のさらなる改善において、1つの領域における波形の‘オフ’期間を用いて別の領域に電流を与えることにより単一電源で同時に別々の領域を処置できる本発明の装置の機能によって、処置の施行の効率がかなり改善される。
【0089】
本発明にしたがう装置により得られる改善は、装置内に含まれる電源の数をそれほど増やさずに達成される。したがって、本発明にしたがう電気刺戟システムは、消費者が装置を購入して家庭で使用できると考えられるような許容され得る費用で製造することができる。
【0090】
本発明にしたがう改善された装置及び方法は、血行及び組織活動を活発化することによる創傷、褥瘡、骨折等の治癒を含むこのタイプの処置の医療面をさらに強化する。皮膚移植片またはその他の組織移植治療のためあるいはその他の目的のための組織及び/または細胞の発生または成長のプロセスを補助するために、本発明にしたがう装置を用いることも可能である。この態様は特に、皮膚組織の喪失の影響に苦しむ、罹火傷者またはその他のいかなる患者の処置に関しても有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に信号を供給するための電気刺戟システムにおいて、
少なくとも1つの電流制御回路であって、前記被験者へ供給される電流が制御されるように少なくとも1つの電源に接続されるもの、
前記被験者に電気的に接続されるように適応した少なくとも3つの接続プローブ、
前記少なくとも1つの電流制御回路の出力を前記接続プローブの1つ又はそれ以上に断続的に接続して、それにより、前記1つ又はそれ以上の前記接続プローブを作用プローブにするための少なくとも1つの第1のスイッチングデバイス、
前記接続プローブのうち前記第1のスイッチングデバイスにより接続されなかった前記接続プローブを少なくとも1つの電流帰還パスに断続的に接続して、それにより、当該接続プローブを帰還プローブにする少なくとも1つの第2のスイッチングデバイス、
及び
前記第1及び第2のスイッチングデバイスに接続された少なくとも1つのスイッチング制御デバイス、
を備え、
前記少なくとも1つのスイッチング制御デバイスが、処置中に活性化されて、処置中の前記被験者を流れる電流が異なる経路を通るように、作用プローブおよび帰還プローブとしての前記接続プローブの構成が反復的に変化することを特徴とする電気刺激システム。
【請求項2】
前記電流制御回路が、マルチプレックス動作制御デバイスであり、かつ、前記第1及び第2のスイッチングデバイスが、前記電流制御回路に各々接続されるマルチプレックスデバイスであることを特徴とする請求項1に記載の電気刺戟システム。
【請求項3】
前記システムが、さらに、単一のユニット含み、前記第1のスイッチングデバイス及び前記第2のスイッチングデバイスが、当該単一のユニットの中に含まれることを特徴とする請求項1に記載の電気刺戟システム。
【請求項4】
複数の電気刺激プローブと少なくとも1つの電源を備えた電気刺戟システムの作動方法であって、
(a)前記プローブの内の1つまたはそれより多くを少なくとも1つの電源への接続のために選択することによって、前記1つまたはそれより多くのプローブを作用プローブにする工程、
(b)前記プローブの内の1つまたはそれより多くを電流帰還経路への接続のために選択することによって、前記1つまたはそれより多くのプローブを帰還プローブとする工程、
(c)前記1つまたはそれより多くの作用プローブを前記少なくとも1つの電源に接続し、前記1つまたはそれより多くの帰還プローブに前記電流帰還経路に接続し、よって、前記作用プローブと前記帰還プローブの間を流れる電流を生じさせる工程、
(d) 作用プローブ及び帰還プローブの前記選択を変更する工程、及び
(e) 完了するまで前記工程(c)及び(d)を反復する工程、
を有してなることを特徴とする方法。
【請求項5】
作用プローブ及び帰還プローブの前記選択が一回の電気刺戟の印加中に変えられることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
いかなる時点においても1つのプローブだけが作用プローブとして選択され、他の全てのプローブが帰還プローブとして選択されることを特徴とする請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
1つのプローブだけが帰還プローブとして選択され、他の全てのプローブが作用プローブとして選択されることを特徴とする請求項4または5に記載の方法。
【請求項8】
1つまたはそれより多くのプローブが作用プローブとして選択され、1つまたはそれより多くのプローブが帰還プローブとして選択されることを特徴とする請求項4または5に記載の方法。
【請求項9】
前記方法工程(c)及び(d)における作用プローブ及び帰還プローブの前記選択及び接続が、1つの前記作用プローブにおける電流が実質的にゼロのいずれかの期間中に、他の前記作用プローブにおいて電流が確立されるように、選ばれることを特徴とする請求項4から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、電気刺戟信号を与える目的のために用いられる電源を1つだけ備える装置によって実施されることを特徴とする請求項4から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの作用プローブ及び帰還プローブに接続される電源ユニットを備えた、電流の供給を制御する装置の作動方法であって、前記電源ユニットが前記少なくとも1つの作用プローブ及び帰還プローブと並列に接続された第1の電気抵抗を有し、前記帰還プローブと前記第1の抵抗の接続点と接地基準の間に制御可能な可変コンダクタンスネット回路網が接続され、前記方法が、
初めに、制限された電流が前記作用プローブ及び帰還プローブを通って流れることができるようなかなり低いコンダクタンスを与えるように前記可変コンダクタンス回路網を制御する工程、及び
引き続いて、所望の電流を流すように前記回路網の前記可変コンダクタンスを制御する工程、
を有してなることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−183230(P2011−183230A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147303(P2011−147303)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【分割の表示】特願2004−558301(P2004−558301)の分割
【原出願日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【出願人】(505222347)スコップ ゲーエムベーハー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】SKOP GmbH Ltd.
【Fターム(参考)】