説明

電気化学セルの熱管理

概して、再充電可能な電気化学セルのためのパッシブ二相熱管理に関するシステム及び方法を提供する。提供されるシステム及び方法は、フッ素化炭素流体等の非水性伝熱媒体を含むことができる。ハイドロフルオロエーテル等のフッ素化炭素流体が、提供されるシステムにおいて有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2008年1月4日出願の米国特許出願第11/969,491号に対して優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
概して、フッ素化炭素流体を含む再充電可能な電気化学セルのためのパッシブ二相熱管理に関する、システム及び方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
従来の再充電可能な電気化学セルは、通常の動作条件下で制御された量の熱を生成する。しかしながら、これらのセルは、種々の要因によって、偶発的な熱の急速な増加及び放出を受ける。熱の増加及び放出は、セル端子に適用される短絡回路、セルの物理的損傷、又はセルの内側の内部欠陥等の外因によって生じ得る。電気化学セルがそのような熱放出の急速な増加を受けると、セルは、突然セル故障を引き起こす状態になり得る。そのような熱の急速な増加及び放出は、比較的まれではあり得るが、熱の放出が電気化学セルのバンク又はバッテリー内で生じる場合、1つのセルからの熱の放出は、他の周囲のセルがそれらの熱暴走点に達し、連鎖反応をもたらすのに十分であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
リチウムイオン電気化学セルは、ラップトップ・コンピュータ、携帯電話、及びコードレス電動工具等の電子デバイスでの使用が増加しており、自動車のための電源として考えられている。リチウムイオンセルは、それらの高エネルギー密度可能性、優れた寿命、及び再充電可能性のため重要である。電気化学セル、特にリチウムイオン電気化学セルのための熱管理システムが必要である。ポンプ又はバルブ等の複合機械設備、及び複雑な密閉を必要としない熱管理システムを有することが必要である。加えて、熱暴走条件においてセルを冷却するように、及び/又は暴走中に生じ得る任意の火を消すように作用することができる、電気化学セルのための熱管理システムが必要である。更に、大量の熱を素早く消散することができる、低コストの携帯型熱管理システムが必要である。
【0005】
一態様では、非水性伝熱媒体と、内側及び外側を有し、内側は伝熱媒体を保持する、容器と、媒体に少なくとも部分的に浸漬される、少なくとも1つ以上の電気化学セルとを含む、電気化学セルのためのパッシブ熱管理システムが提供される。
【0006】
別の態様では、伝熱流体と、1つ以上の電気化学セルと、伝熱流体で少なくとも部分的に充填される、熱交換器とを含み、1つ以上のセルは、熱交換器と熱的に接触している、熱管理システムが提供される。
【0007】
最後に、伝熱媒体で充填される容器を提供する工程と、少なくとも1つの電気化学セルを媒体に部分的に浸漬する工程と、セルを充電又は放電して、加熱されたセルを生成する工程と、加熱されたセルから媒体に熱を伝達する工程と、媒体の蒸発によって、加熱されたセルから熱を除去する工程とを含む、電気化学セルのパッシブ熱管理のための方法が提供される。
【0008】
本明細書では、
「a」、「an」「the」は、「少なくとも1つの」と交換可能に使用されて、記載されている要素の1つ以上を意味する。
【0009】
「合金」は、少なくともその1つは金属である2種以上の要素のハイブリッドで、得られた材料が金属特性を備えるものをいう。
【0010】
「充電する」及び「充電」は、電気化学エネルギーを電池に供給するためのプロセスを指す。
【0011】
「脱リチオ化する」及び「脱リチオ化」は、リチウムを電極材料から除去するためのプロセスを指す。
【0012】
「放電する」及び「放電」は、例えば所望の作業を行うためにセルを使用する場合に、セルから電気化学エネルギーを除去するためのプロセスを指し、「金属」は、元素状態又はイオン状態にかかわらず、金属、並びにシリコン及び炭素等の半金属の両方を指す。
【0013】
提供される電気化学セルのための熱管理システムは、パッシブであってもよく、すなわち、ポンプを含まないが、対流によって冷却液を循環させることができる。提供されるシステムにおいて、高熱伝導率を有するハイドロフルオロエーテル等の伝熱媒体を使用することができる。それらの伝熱媒体は、セルから媒体を保持する容器に熱を伝導することによって、電気化学セルによって生成される熱を運び去ることができる。加えて、それらの伝熱媒体は、熱を除去するために、セルの表面で蒸発し、次いで容器の表面上で凝縮することによって、セルによって生成される熱を吸収することができる。また、燃焼を支持しない伝熱媒体を採用することによって、提供される熱管理システムは、そうでなければ熱暴走事象に起因し得る火を防止又は消火することができる。
【0014】
上記の要約は、本発明の全ての実施が開示された各実施形態を記載することを意図しない。図面の簡単な説明及び後に続く発明を実施するための形態は、説明に役立つ実施形態をより詳しく例示する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】伝熱媒体に浸漬される電気化学セルの配列を含む、熱管理システムの一実施形態の概略図。
【図2】熱交換器と接触している電気化学セルの配列を含む、熱管理システムの一実施形態の概略図。
【図3A】伝熱媒体に少なくとも部分的に浸漬される、容器内の電気化学セルの配列を含む、熱管理システムの一実施形態の断面図。
【図3B】熱交換器を含む熱管理システムを示す図3Aの実施形態の分解図。
【図4A】対照の性能特性(図4A)及び提供される熱管理システムの一実施形態の性能特性(図4B)のグラフ。
【図4B】対照の性能特性(図4A)及び提供される熱管理システムの一実施形態の性能特性(図4B)のグラフ。
【図5A】別の対照の性能特性(図5A)及び提供される熱管理システムの別の実施形態の性能特性(図5B)のグラフ。
【図5B】別の対照の性能特性(図5A)及び提供される熱管理システムの別の実施形態の性能特性(図5B)のグラフ。
【図6A】提供される熱管理システムの更に別の実施形態の性能特性のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
提供されるリチウムイオン電気化学セルのための熱管理システムは、パッシブシステムである。パッシブとは、該システムにおいて、機械的又は電気的エネルギーを使用する、又は必要とするポンプがないことを意味する。提供されるシステム等のパッシブシステムにおいて、伝熱媒体(別様に、冷却液とも称される)の移動は、対流によって生じることができる。パッシブ熱管理システムの使用は、システムにおけるポンプ及びバルブ等の複合機械設備の回避を可能にする。提供されるシステムは、リチウムイオンセルによって(リチオ化又は放電中に)生成される過剰熱を、セルから伝熱媒体への熱の熱対流、及び伝熱媒体から容器の表面への熱の伝達を通して、除去することができる。提供されるシステムはまた、伝熱媒体がセルと接触する位置において、伝熱媒体を少なくとも部分的に蒸発させることによって、過剰熱を除去することもできる。次いで、伝熱媒体の加熱蒸気は、熱交換器の表面(容器の表面でもあり得る)に移動し、熱を熱交換器に伝達し、凝縮し、次いで伝熱媒体リザーバに再流入することができる。このように、余分な熱は、対流によって、かつ媒体の蒸発熱を使用することによって除去することができる。
【0017】
提供されるシステムは、非水性伝熱媒体を含むことができる。伝熱媒体は、液体であってもよい。使用され得る例示的な非水性伝熱液体としては、ペルフルオロカーボン(PFC)、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)、ペルフルオロアミン(PFA)、ペルフルオロエーテル(PFE)、シリコーンオイル、及び炭化水素油が挙げられる。PFC、PFPE、PFA、及びPFEは、500年を超える、最大で5000年の大気寿命値を示し得る。加えて、これらの材料は、高い地球温暖化係数(「GWP」)を示し得る。GWPは、指定の積分時間範囲にわたる、1キログラムのCOに起因する温暖化に対する、1キログラムの試料化合物の放出に起因する潜在的温暖化の積分である。加えて、シリコーンオイル及び炭化水素油は、可燃性であり得る。
【0018】
提供される電気化学セルのための熱管理システムは、不燃性、不活性、非水性伝熱媒体を含むことができる。不燃性とは、特に熱暴走事象の条件下で、媒体が燃焼を容易に支持しないことを意味する。不活性とは、セルの通常の動作条件下で、媒体がセルの構成成分と実質的に反応しないことを意味する。不活性流体を必要とする伝熱処理のために、フッ素化炭素流体が使用され得る。フッ素化炭素流体は、典型的には低毒性であり、本質的に肌への刺激がなく、化学反応性がなく、不燃性であり、高絶縁耐力を有する。ペルフルオロカーボン、ペルフルオロケトン、ペルフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロエーテル等のフッ素化炭素流体は、成層圏のオゾン層を激減させないという更なる利点をもたらすことができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、提供される熱管理システムは、不活性であるハイドロフルオロエーテル伝熱流体(又はハイドロフルオロエーテル伝熱流体の混合物)を含み、高絶縁耐力、低電気伝導度、化学的不活性、熱安定性、及び効果的な伝熱を有する。加えて、提供されるシステムは、液体である伝熱流体を備え、広範な温度範囲にわたって、良好な伝熱特性を有する。提供されるシステムの実施形態において有用であり得る例示的なハイドロフルオロエーテルは、以下の構造によって表される化合物を含む。
【0020】
−O−R−O−R
式中、Oは酸素であり、R及びR’は、独立して、フルオロ脂肪族基であり、各R及びR’は、少なくとも1つの水素原子を含有し、Rは、2〜約8つの炭素原子及び少なくとも4つの水素原子を有する直鎖、分枝鎖、又は環状アルキレン基であり、Rは、1つ以上の連鎖ヘテロ原子を含有することができ、ハイドロフルオロエーテル化合物は、−O−CH−O−を有しない。本構造のハイドロフルオロエーテル化合物は、例えば、米国特許第6,953,082号、第7,055,579号、及び第7,128,133(全てコステロ(Costello)ら)、並びに米国特許公開第2007/0018134号(コステロ(Costello)ら)に開示される。
【0021】
提供されるシステムのいくつかの実施形態において有用な他のハイドロフルオロエーテル化合物としては、米国特許公開第2007/0267464号(ヴィキャット(Vitcat)ら)に開示されるような、環状ハイドロフルオロエーテル化合物が挙げられる。これらの化合物は、一般式(I)及び(II)によって表すことができる。
【0022】
【化1】

【0023】
式中、各Rは、独立して、二価エーテル酸素原子及び三価窒素原子から選択される、少なくとも1つの連鎖ヘテロ原子を任意に含有し、かつ−CFH、−CFHCF、及び−CFOCHから選択される末端部分を任意に含む、直鎖又は分枝鎖ペルフルオロアルキル基であり(好ましくは、1〜約6つの炭素原子を有し、かつ二価エーテル酸素原子及び三価窒素原子から選択される、少なくとも1つの連鎖ヘテロ原子を任意に含有する、直鎖又は分枝鎖ペルフルオロアルキル基であり、より好ましくは、1〜約3つの炭素原子を有し、かつ少なくとも1つの連鎖二価エーテル酸素原子を任意に含有する、直鎖又は分枝鎖ペルフルオロアルキル基であり、もっとも好ましくは、ペルフルオロメチル基である)、各R’は、独立して、直鎖又は分枝鎖であり、かつ少なくとも1つの連鎖ヘテロ原子を任意に含有する(好ましくは、1〜約4つの炭素原子を有する、及び/又は連鎖ヘテロ原子を有しない)、フッ素原子又はペルフルオロアルキル基であり、Yは、共有結合、−O−、−CF(R)−、又は−N(R”)−であり、R”は、直鎖又は分枝鎖であり、かつ少なくとも1つの連鎖ヘテロ原子を任意に含有する(好ましくは、1〜約4つの炭素原子を有する、及び/又は連鎖ヘテロ原子を有しない)、ペルフルオロアルキル基であり、R’は、直鎖、分枝鎖、環状、又はそれらの組み合わせであり、少なくとも2つの炭素原子を有し、かつ少なくとも1つの連鎖ヘテロ原子を任意に含有する(好ましくは、直鎖又は分枝鎖であり、及び/又は2〜約8つの炭素原子を有し、及び/又は少なくとも4つの水素原子を有し、及び/又は連鎖ヘテロ原子を有しない)、アルキレン又はフルオロアルキレン基である。
【0024】
他の実施形態では、熱管理システムは、米国特許公開第2007/01633710号(コステロ(Costello)ら)に開示されるような、フルオロケミカルケトン化合物を含むことができる。これらのフルオロケミカルケトン化合物は、以下の一般式(III)によって表すことができる。
【0025】
’−C(=O)−[CF−O−(CFCFO)−(CFO)−CF]−C(=O)−R
(III)
式中、R’及びR”は、それぞれ独立して、少なくとも1つの連鎖ヘテロ原子を任意に含有し、かつ−CFH、−CFHCF、及び−CFOCHから選択される末端部分を任意に含む、分枝鎖ペルフルオロアルキル基であり、mは、1〜約100の整数であり、nは、0〜約100の整数であり、テトラフルオロエチレンオキシ(−CFCFO−)及びジフルオロメチレンオキシ(−CFO−)部分は、ランダムに、又は非ランダムに分布している。好ましくは、R’及びR”は、それぞれ独立して、少なくとも1つの連鎖ヘテロ原子を任意に含有する、分枝鎖ペルフルオロアルキル基(より好ましくは、約3〜約6つの炭素原子を有する、分枝鎖ペルフルオロアルキル基)であり、mは、1〜約25の整数(より好ましくは、1〜約15)であり、nは、0〜約25の整数(より好ましくは、0〜約15)である。
【0026】
提供されるシステムの実施形態において有用な他のハイドロフルオロエーテル化合物としては、式:R−O−R’のフッ素化エーテルが挙げられ、式中、R及びR’は、同一であるか、又は異なり、かつ置換及び非置換のアルキル、アリール、及びアルキルアリール基、並びにそれらの誘導体からなる群から選択される。R及びR’のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つのフッ素原子を含有し、R及びR’のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの水素原子を含有する。任意に、R及びR’のうちの1つ又は両方は、窒素、酸素、若しくはイオウ等の1つ以上の連鎖又は非連鎖ヘテロ原子、及び/又は塩素、臭素、若しくはヨウ素を含む、1つ以上のハロゲン原子を含有してもよい。R及びR’はまた、カルボニル、カルボキシル、チオ、アミノ、アミド、エステル、エーテル、ヒドロキシ、及びメルカプタン基を含む、1つ以上の官能基を任意に含有してもよい。R及びR’はまた、直鎖、分枝鎖、又は環状アルキル基であってもよく、1つ以上の不飽和炭素−炭素結合を含有してもよい。これらの材料は、米国特許第5,713,211号(シャーウッド(Sherwood))及び第7,208,100号(マイナー(Minor)ら)に開示される。少なくとも1つの水素化−OCFX’CH末端基(ここで、X’は、F又はCFである)を有するハイドロフルオロエーテルもまた、本システムの実施形態において有用である。これらの材料は、例えば、米国特許公開第2007/0106092号(ピコッツィ(Picozzi)ら)に開示される。上記の全ては、参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0027】
提供される熱管理システムのいくつかの実施形態の伝熱媒体は、低沸点を有することができる。例えば、媒体は、80℃未満、70℃未満、60℃未満、又は50℃未満の沸点さえ有することができる。
【0028】
提供される熱管理システムの他の実施形態の伝熱媒体は、容器内(容器の内側)に保持することができる。容器は、任意の寸法又は形状であってもよく、良好な伝熱特性を有する材料から製造することができる。容器は、電気化学セルがその内側に完全に配置されることを可能にするために十分大きくあり得る。容器は、金属、金属合金、複合物、ポリマー若しくはコポリマー、又は流体を含有することができ、良好な伝熱特性を有し、内部に配置される電気化学セルの性能を妨害しない、任意の材料から製造することができる。有用な材料の実施例としては、ニッケル、ステンレス鋼、及び銅等の金属、熱伝導ガラスを含むガラスが挙げられる。有用なポリマー又はコポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスチレン、エポキシ、上記のコポリマー、及びそれらの組み合わせを挙げることができる。ポリエチレン若しくはポリプロピレン、又はそれらのコポリマー等のポリオレフィンは、特に有用である。金属ナノ粒子、カーボンナノチューブ、ナノワイヤ、及び複合物に熱伝導率を付与する他の添加物等の熱伝導材料を含む、ポリマー及び/又はセラミックの複合物もまた、提供される熱管理システムにおける容器としての使用が考えられる。
【0029】
容器の内側は、伝熱媒体を保持することができる。容器は、伝熱媒体で少なくとも部分的に充填することができる。いくつかの実施形態では、容器は、頂部が開いていてもよく、又は本質的に閉じていてもよい。本質的に閉じているとは、少なくとも1つの小さい通気孔を含む頂部(流体レベルよりも上に位置する)で、容器を包囲することができることを意味する。容器が本質的に閉じており、伝熱媒体が液体、特に低沸点液体である実施形態では、容器は、液体の上方に蒸気相のための空間を有することができる。通気孔は、小さい開口部、又は容器の内側(及び液体の上方)の蒸気圧が、実質的に大気圧の状態にとどまることを可能にするバルブ等の別のデバイスを含むことができる、圧力除去システムであってもよい。
【0030】
提供される熱管理システムは、伝熱媒体に少なくとも部分的に浸漬される、少なくとも1つの電気化学セルを有することができる。いくつかの実施形態では、セルは、媒体に完全に浸漬することができる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのセルは、複数のセルを有するバッテリーパックの一部である。この場合、バッテリーパックに含まれる少なくとも1つのセルが、媒体に少なくとも部分的に浸漬される。電気化学セルの温度を効果的に制御するために、セル又はセルのバッテリーパックが適切な動作温度を保持することを可能にするために十分な量で、熱がセルから媒体に伝達されるように、セルを媒体に浸漬することができる。いくつかの実施形態では、セルが媒体に完全に浸漬されることが好ましい。他の実施形態では、セルが媒体に約半分浸漬されることが好ましい。他の実施形態では、適切な温度制御は、より少ない浸漬で達成することができる。
【0031】
熱は、提供される熱管理システム内の電気化学セルから伝熱媒体に伝達することができる。いくつかの実施形態では、熱は、電気化学セルの表面から媒体に、対流を通して直接伝達することができる。他の実施形態では、伝熱媒体の少なくとも一部を液体から蒸気に相変化させることによって、熱を媒体に伝達することができる。このように、熱は、セルから、伝熱媒体を蒸発させるために必要なエネルギーへと伝達される。多くの実施形態では、対流及び蒸発の両方が、セルからの熱を伝達することができる。
【0032】
いくつかの実施形態では、容器は、凝縮表面としての機能を果たす表面、又は表面の一部を有することができる。この表面は、高伝熱係数を有することができ、蒸気からの熱を除去することができ、蒸気が熱を表面に伝達し、伝熱媒体のリザーバに凝縮し戻すことを可能にする。他の実施形態では、別個の凝縮器を容器の一部とすることができると考えられる。別個の凝縮器は、蒸気からの熱を除去するように特別に設計される表面であってもよい。いくつかの実施形態では、伝熱マニホールドが容器の外部にあってもよく、加熱蒸気を凝縮し、熱管理システムから熱を除去する働きをすることができる。
【0033】
図1は、伝熱媒体105に少なくとも部分的に浸漬される、電気化学セルの配列106(例えば、バッテリーパック)を含む、熱管理システム101の一実施形態の概略図である。本実施形態の熱管理システムは、伝熱媒体105を保持する容器103を含む。いくつかの電気化学セル102から構成される電気化学セルの配列106は、伝熱媒体105に浸漬される。熱源をシミュレートするために、オーム抵抗器104がバッテリーパックに接続される。回路を制御するために、1つのスイッチ111が容器の外側に接続される。導線107及び109が、電気化学セルの配列106のアノード及びカソードのそれぞれに電気的に接続する。本実施形態では、導線107及び109は、携帯電話、コンピュータ、電気自動車、又は携帯型電力を必要とする他のデバイス等のデバイスに電力供給するために、容器の内側で使用するために、導線が容器を通過することを可能にするように設計される、通気口110を通過する。通気口110はまた、容器103の内側の伝熱媒体105の上方の蒸気108が実質的に大気圧であることを可能にする。
【0034】
別の態様では、1つ以上のハイドロフルオロエーテルを備える伝熱媒体と、伝熱媒体を保持する容器と、媒体に少なくとも部分的に浸漬される、1つ以上の電気化学セルとを含む、電気化学セルのための熱管理システムが提供される。電気化学セルは、二次電気化学セルであってもよい。二次電気化学セルは、それらの容量が有意に低下することなく、複数回、可逆的に充電及び放電することが可能であり得る。二次電気化学セルとしては、例えば、リチウムイオンセル、ニッケル水素セル、ニッケルカドミウムセル、アルカリマンガンセル、及び密閉型鉛酸セルを挙げることができる。
【0035】
本態様では、提供される熱管理システムは、1つ以上のハイドロフルオロエーテル(HFE)を含む伝熱媒体を含むことができる。HFEは、例えば、NOVEC Engineered Fluid(3M Company,St.Paul,MNから市販)、又はVERTREL Specialty Fluid(DuPont,Wilmington,DEから市販)の商品名で市販されている。提供されるシステムの実施形態に特に有用なHFEとしては、NOVEC 7100、NOVEC 7200、NOVEC 71IPA、NOVEC 71DE、NOVEC 71DA、NOVEC 72DE、及びNOVEC 72DA(全て3Mから市販されている)が挙げられる。HFEは、純粋化合物として、又は共沸混合物として入手可能であり得る。いくつかの実施形態では、HFEは、最終使用者にカスタム特性を提供するように、混合することができる。提供される熱管理システムは、上記の実施形態の機能のいずれも、及び上記の実施形態のいずれも含むことができる。例えば、ハイドロフルオロエーテルは、80℃未満、70℃未満、60℃未満、又は50℃未満の沸点さえ有することができる。容器は、頂部が開いていてもよく、又は本質的に閉じていてもよく、頂部で包囲される場合、少なくとも1つの小さい通気孔を含むことができる。電気化学セルは、伝熱媒体に部分的に、又は完全に浸漬されてもよく、該システムは、凝縮器を更に含むことができる。
【0036】
更に別の態様では、伝熱流体と、1つ以上の電気化学セルと、伝熱流体で少なくとも部分的に充填される熱交換器とが提供され、1つ以上のセルは、熱交換器と熱的に接触している。本態様の熱管理システムの実施形態は、伝熱流体で少なくとも部分的に充填される熱交換器を含むことができる。流体は、良好な熱容量及び熱伝導率を有する、任意のガス又は液体であってもよい。流体は、電気化学セルから物理的及び/又は化学的に分離される、閉鎖システム内にあってもよい。考えられる流体としては、例えば、水、グリコール、ペルフルオロカーボン(PFC)、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)、ペルフルオロアミン(PFA)、ペルフルオロエーテル(PFE)、シリコーンオイル、及び炭化水素油等の高熱容量を有する液体を挙げることができる。本実施形態のシステムはまた、熱交換器と熱的に接触している、1つ以上の電気化学セルも含むことができる。熱的接触とは、セルから熱交換器に熱を伝導する手段があることを意味する。この意味には、電気化学セルと熱交換器との直接的な接触、又は伝熱媒体の使用が含まれ得る。
【0037】
本態様の代替実施形態では、電気化学セルは、セルによって生成される熱が、熱交換器に輸送されることを可能にする、非水性伝熱媒体を含有する、容器の内側にあってもよい。伝熱媒体は、非水性であってもよく、かつその中に少なくとも部分的に浸漬される電気化学セルに対して不活性であってもよい。伝熱媒体は、提供される熱管理システムの他の態様に対して、上記に考察される材料のいずれであってもよい。媒体は、ヒドロフルオロカーボンを含むことができる。
【0038】
提供される熱管理システムの本態様は、図2、3A、及び3Bを参照することによって、更に説明され得る。図2は、熱交換器と接触している電気化学セルの配列を含む、熱管理システム202の一実施形態の概略図である。図2を参照すると、熱交換器205と直接熱的に接触している、3つのリチウムイオンセル203が提供される。熱交換器205は、リチウムイオンセル203から離れた区画内に伝熱流体206を含有する。セル203によって生成される熱は、直接接触によって熱交換器205に伝達される。熱は、熱交換器の内側の伝熱流体206に伝達される。熱交換器205は、セルの外部の、又はセルから離れた伝熱マニホールド207と接触している。加熱された伝熱流体は、その熱を伝熱マニホールドに伝達し、該システムを完了することができる。伝熱マニホールドは、例えば、外部凝縮器、対流プレート、又は伝達された熱を周囲大気に伝導することができる多くのフィンを有する放熱器であってもよい。
【0039】
図3Aは、容器302の内側に詰め込まれるリチウムイオン電気化学セル303を含む、提供される熱管理システム301の一実施形態の上面切欠図である。セルは、伝熱媒体306によって包囲される。熱交換器(図3Aに図示せず)は、各セルの間の伝熱媒体を通して下向きに延在する突起を有する。熱交換器は、伝熱マニホールド307と熱的に接触している。図3Bは、伝熱媒体306に少なくとも部分的に浸漬される、容器302内のリチウムイオンセル303を含む、同一の熱管理システム301の別の図を示す。伝熱マニホールド307と熱的に接触している、熱交換器の多数の中空突起305を含む、熱交換器307の分解図も示す。突起305は、セルを冷却するために、伝熱媒体306中に延在する。熱交換器は、容器内の伝熱媒体とは別個に、閉鎖システム内に伝熱流体を含有することができる。
【0040】
更に別の態様では、伝熱媒体で充填される容器を提供する工程と、少なくとも1つの電気化学セルを媒体に部分的に浸漬する工程と、セルを充電又は放電し、加熱されたセルを生成する工程と、加熱されたセルから媒体に熱を伝達する工程と、媒体の蒸発によって、加熱されたセルから熱を除去する工程とを含む、電気化学セルのパッシブ熱管理のための方法が提供される。熱管理システムの実施形態と同様に、伝熱媒体は、不燃性、不活性、非水性伝熱媒体を含むことができる。フッ素化炭素流体を使用することができる。いくつかの実施形態では、ペルフルオロカーボン、ペルフルオロポリエーテル、及びハイドロフルオロエーテル等のフッ素化炭素流体が好ましい。他の好ましい実施形態は、80℃未満、70℃未満、60℃未満、又は50℃未満の沸点さえ有する伝熱媒体を含むことができる。
【0041】
提供される方法は、媒体を凝縮し、凝縮媒体を形成する工程を更に含むことができる。いくつかの実施形態では、凝縮する工程は、容器の側面上で生じることができ、蒸発媒体からの熱は、それが凝縮する容器の壁に伝達される。あるいは、凝縮する工程は、例えば、外部凝縮器、対流プレート、又は伝達された熱を周囲大気に伝導することができる多くのフィンを有する放熱器の表面上で生じることができる。いくつかの実施形態では、凝縮表面は、熱管理システムの外部に位置することができるが、熱的に接触している。これらの実施形態では、外部凝縮器に伝熱媒体を伝導するために、導管を含むことができる。多くの実施形態では、該方法は、凝縮媒体を容器内の伝熱媒体に戻す工程を更に含む。このように、伝熱媒体は、電気化学セルから大気に熱を伝達するための導管としての機能を果たす。
【0042】
本発明の多数の実施形態を記載してきた。それでもなお、様々な修正が、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなくなされ得ることは理解されよう。したがって、その他の実施形態も、以下の特許請求の範囲の範疇にある。
【実施例】
【0043】
実施例1液体媒体中の伝熱(2オーム抵抗器を有する3.3Vのリチウムイオンセル)
実施例1における実験は、伝熱媒体が容器内に配置されることを除いて、比較例1と同様であった。3M Company,St.Paul,MNから市販され、約54℃の沸点を有するNOVEC 71IPA Engineered Fluid(約95重量%のCOCH、及び5重量%のイソプロパノール)を本実施例のために使用した。スイッチをオンにした後、セルは、放電を開始し、セル電圧は徐々に低下した。セル温度を約30℃で維持した。抵抗器温度は約27℃から始まり、20秒以内で急速に33℃超に上昇した。最終の抵抗器温度は、約42℃にとどまり、抵抗器周囲の媒体は、容器表面上で沸騰及び凝縮した。
【0044】
比較例1空気中の伝熱(2オーム抵抗器を有する3.3Vのリチウムイオンセル)
Five 26650サイズセル(A123 Systems Inc.,Boston,MAから市販されている、直径26mmの底部及び65mmの高さを有する円筒形セル)を0.4Aの電流で、3.6Vまで充電した。セル内のカソード材料は、LiFePOであり、アノード材料は、炭素であった。セルを2オーム抵抗器(Ohmite Mfg.Co.,Rolling Meadows,ILから市販)及びスイッチに接続した。実験設計は、伝熱媒体がないことを除いて、図1と同様であった。Omega Engineering Inc.,Stamford,CTから市販されているPortable Handheld Dataloggerによって、セル電圧、セル温度、及び抵抗器温度を記録した。
【0045】
図4Aは、「三角」記号のセル電圧、「菱形」記号のセル温度、及び「ドット」記号の抵抗器温度のグラスを示す。実験を空気中で行った。スイッチをオンにした後、セルは約1.65Aの速度で放電し、抵抗器から生成される熱力は、約5.4Wとして計算した。抵抗器温度は、約90℃まで上昇し、セル温度は、27℃に安定した。セルと抵抗器との間の温度差は、約63℃であった。
【0046】
実施例2.液体媒体中の伝熱(0.5オーム抵抗器を有する3.3Vリチウムイオンセル)
実施例2における実験は、伝熱媒体NOVEC 71IPAを使用したことを除いて、比較例2と同様であった。スイッチをオンにすると、抵抗器温度は、30秒以内で急速に40℃まで上昇し、次いで、50℃まで徐々に上昇した。伝熱媒体がなく、抵抗器温度が160℃超まで急速に上昇した、比較例2の場合と比較して、伝熱媒体は、温度上昇を有意に制御した。
【0047】
これは、18650サイズセルに対するソフト短絡のモデルである。典型的な商用の18650サイズセルは、3.7Vの平均セル電圧、及び約2.4Ahの容量を有する。セル内に含有される電気エネルギーは、約9Whである。ソフト短絡が2C速度で生じる場合(30分の完全放電)、電力は、約18Wになる。これは、0.5オーム抵抗器からの熱力が約22Wであった、実施例2の場合に近い。両方の場合において、伝熱媒体は、セル温度を媒体の沸点前後に効果的に制御した。
【0048】
比較例2空気中の伝熱(0.5オーム抵抗器を有する3.3Vのリチウムイオンセル)
比較例3における実験は、伝熱媒体が存在しない比較例1と同様であった。本実施例に使用した熱抵抗器は、2オームの代わりに0.5オームであり、抵抗器の熱力を、実施例1の加熱力の約4倍である約22Wとして計算した。図5Aは、実験を停止した150秒以内に、「ドット」記号のセル温度が、160℃超まで急速に上昇したことを示す。
【0049】
実施例3.空気中で並列接続される二重セル、及び液体媒体中の0.5オーム抵抗器による伝熱
2つの完全充電された26650サイズセル(A123 Systems Inc.)を並列接続し、約6.6Vの平均電圧を供給し、バッテリーパックをシミュレートした。バッテリーパックを空気に露出した。0.5オーム抵抗器を2つのセルに接続し、抵抗器をNOVEC 71IPA伝熱媒体に浸漬した。抵抗器からの熱力を約87Wとして計算した。図6は、スイッチをオンにした後のセル及び抵抗器の温度上昇を表示する。セル温度は、27℃から37℃までわずかに上昇した。しかしながら、抵抗器温度は、20秒以内で、室温から50℃まで急速に上昇した。次いで、抵抗器温度は、400秒で58℃まで徐々に上昇した。NOVEC 71IPAは、約54℃の沸点を有し、抵抗器から生成される熱は、伝熱媒体を蒸発させることによって、素早く伝達した。
【0050】
本発明の多数の実施形態を記載してきた。しかし、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、様々な変更が行われてもよいと理解されるであろう。したがって、その他の実施形態も、以下の特許請求の範囲の範疇にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルのためのパッシブ熱管理システムであって、
非水性伝熱媒体と、
内側及び外側を有し、内側は伝熱媒体を保持する容器と、
前記媒体に少なくとも部分的に浸漬される、少なくとも1つ以上の電気化学セルと、を備える、システム。
【請求項2】
前記伝熱媒体は、80℃未満の沸点を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記伝熱媒体は、フッ素化炭素流体を含み、任意に前記流体は不燃性である、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記フッ素化炭素流体は、ハイドロフルオロエーテルを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記容器は、通気孔を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記容器の前記内側は、実質的に大気圧である、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記容器は、凝縮表面を備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
凝縮器を更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記伝熱媒体は、1つ以上のハイドロフルオロエーテルを含む、請求項1に記載の電気化学セルのためのパッシブ熱管理システム。
【請求項10】
前記ハイドロフルオロエーテルは、80℃未満の沸点を有する、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記容器は、通気孔を備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記セルは、前記媒体に実質的に浸漬される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
凝縮器を更に備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
前記1つ以上の電気化学セルは、リチウムイオンセルを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
電気化学セルのためのパッシブ熱管理システムであって、
伝熱流体と、
1つ以上の電気化学セルと、
前記伝熱流体で少なくとも部分的に充填される、熱交換器と、を備え、
少なくとも1つのセルは、熱交換器と熱的に接触している、システム。
【請求項16】
前記流体は、非水性である、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記流体は、ハイドロフルオロエーテルを含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
容器と、
非水性伝熱媒体と、を更に備え、
前記容器は、前記媒体で少なくとも部分的に充填され、前記セルのうちの少なくとも1つは、前記媒体に少なくとも部分的に浸漬され、前記媒体は、前記熱交換器と熱的に接触している、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記媒体は、ハイドロフルオロエーテルを含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
電気化学セルのパッシブ熱管理のための方法であって、
伝熱媒体で少なくとも部分的に充填される容器を提供する工程と、
少なくとも1つの電気化学セルを前記媒体に部分的に浸漬する工程と、
前記セルを充電又は放電して、加熱されたセルを生成する工程と、
前記加熱されたセルから前記媒体に熱を伝達する工程と、
前記加熱されたセルからの前記熱を使用して、前記媒体を蒸発させる工程と、を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【公表番号】特表2011−509507(P2011−509507A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541471(P2010−541471)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/086135
【国際公開番号】WO2009/088619
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】