説明

電気化学セル用使い捨て作用電極

【課題】使い捨て作用電極構造体を有するフロースルー型電気化学セル組立体を提供する。
【解決手段】(a)入口及び出口を含む試料流路を形成する外壁と、(b)試料流路の入口と流体連通する試料入口ラインと、(c)試料流路の出口と離隔した参照電極との間の流体連通を提供する試料出口ラインと、(d)電気絶縁性基材表面に、層として直接的又は間接的に結合された導電性で電気化学活性の作用電極領域を有する使い捨て作用電極構造体とを備える、組立体。基材表面は、試料流路と流密関係にあり、作用電極領域は、試料流路と流体連通状態にある。作用電極は、有機ポリマー基材上に直接的又は間接的にマスクを介して気相成長され、作用電極領域と外壁との間には流体シールが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルのための作用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
フロースルー型電気化学セルは、クロマトグラフシステム及びイオンクロマトグラフシステムを含む種々の分離システムの検出器として使用される。Dionex社は、商標名ED40及びED50セルのもとでこのような電気化学セルを販売している。このセルは、プラスチックブロックに埋め込まれた円筒形ワイヤの形態のアンペロメトリー作用電極を含み、ワイヤの先端は、試料フロースルー型チャンネルに露出し、一般的に圧縮を受けて所定位置に保持されるプラスチックガスケットによって取り囲まれている。これらの作用電極は、多少複雑であり製造コストがかかる。電極は、使用期限を過ぎると交換するか又は面倒な研磨や他の方法で修復する必要があり、このことは、検出器出力の再現性の欠如につながる可能性がある。
【0003】
薄膜使い捨て電極は、種々の用途において、生体外試験電極として、及び生体内埋め込み型モニタ電極として使用されている。例えば、Michel他の米国特許第5,694,932号、Dahl他の米国特許第5,554,178号、Saban他の米国特許第6,110,354号、Krause他の米国特許第4,710,403号、Grill,Jr他の米国特許第5,324,322号、Kurnik他の米国特許第5,989,409号、Diebold他の米国特許第5,437,999号、Kuennecke他のWO99/36786、Bozen他のElectroanalysis 13:911−916(2001)、Soper他のAnalytical Chemistry 72:624A−651A(2000)、Bagel他のAnalytical Chemistry 72:624A−651A(2000)、Lindner他のAnalytical Chemistry 72:336A−345A(2000)、Bagel他のAnalytical Chemistry 69:4688−4694(1997)、Madaras他のAnalytical Chemistry 68:3832−3839(1996)、及び、Marsouk他のAnalytical Chemistry 69:2646−2652(1997)を参照されたい。しかしながら、これらの参考文献に説明されているどの使い捨て電極もフロースルー型電気化学セルで使用することが示唆されていない。このようなセルは、ピーク拡大に対する最小限の関与及び試料組成に無関係な参照電位の要件等の独自の要件を有する。
【0004】
ピーク拡大に対する最小限の関与は、主として値の小さな「クロマトグラフ・デッドボリューム」によって解決される。
【0005】
参照電位の試料組成からの独立は、「塩橋」として知られる特別な形態の電解質結合によってもたらされる、例えば、カロメル又はAg/AgClである「真」の参照電極によってのみ実現される。典型的な塩橋は、3M KCl溶液で満たされた円筒形容器である。一端での参照半電池への導電接続、及び他端での試料への導電接続は、イオン透過性ダイアフラムを用いて実現される。
【0006】
既存の全ての微細加工セルは、「疑似」の参照電極(例えば、パラジウム)又は塩橋をもたない参照半電池のいずれかを使用する。後者の形式の参照電極は、測定試料中の塩化物イオンの一定濃度に依存する。クロマトグラフ条件のもとで、塩化物イオンの一定濃度を実現することは現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,694,932号公報
【特許文献2】米国特許第5,554,178号公報
【特許文献3】米国特許第6,110,354号公報
【特許文献4】米国特許第4,710,403号公報
【特許文献5】米国特許第5,324,322号公報
【特許文献6】米国特許第5,989,409号公報
【特許文献7】米国特許第5,437,999号公報
【特許文献8】WO99/36786公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bozen他のElectroanalysis 13:911−916(2001)
【非特許文献2】Soper他のAnalytical Chemistry 72:624A−651A(2000)
【非特許文献3】Bagel他のAnalytical Chemistry 72:624A−651A(2000)
【非特許文献4】Lindner他のAnalytical Chemistry 72:336A−345A(2000)
【非特許文献5】Bagel他のAnalytical Chemistry 69:4688−4694(1997)
【非特許文献6】Madaras他のAnalytical Chemistry 68:3832−3839(1996)
【非特許文献7】Marsouk他のAnalytical Chemistry 69:2646−2652(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フロースルー型電気化学セル用の使い捨て可能で取り外しが簡単なアンペロメトリー作用電極であって、安価に作ることができ、交換可能であり、結果的に、固定式作用電極の修復に課せられる再現性の潜在的な欠如を避けることができる、前記電極を提供することに対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の開示)
本発明の1つの態様においては、フロースルー型電気化学セル組立体は、使い捨て作用電極構造体を備える。組立体は、(a)入口と出口とを含む試料流路を形成する外壁、(b)試料流路と流体連通する試料入口ライン、(c)試料流路と離隔した参照電極との流体連通を提供する試料出口ライン、及び(d)電気絶縁性の基材表面に層として直接的又は間接的に結合された導電性で電気化学活性の作用電極領域を有する使い捨て作用電極構造体を備える。基材表面は、試料流路と流体シール関係にあり、作用電極領域は、前記試料流路と流体連通状態にある。作用電極構造体は、電気化学セル組立体から容易に取り外しできる。
【0011】
本発明の別の態様において、前記組立体のための使い捨て電極構造体及び試料流路を作るための方法が提供される。本方法は、(a)有機ポリマー基材上に、導電性材料を、作用電極領域のパターンを形成するためのマスクを通して直接的又は間接的に気相成長させる段階と、(b)作用電極領域と外壁との間に流体シールを形成して、流体試料流路を形成する段階とを備え、作用電極領域は、流体試料流路に直接流体接触する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による、使い捨て電極を含む電気化学セル組立体の分解概略図である。
【図2】基材上への電極気相成長のためのマスキングの平面図である。
【図3】図3a〜3cは、本発明の使い捨て電極のマスキング方法を概略説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照すると、本発明による使い捨て作用電極の1つの実施形態を含む、フロースルー型電気化学セル検出器が示されている。使い捨て作用電極構造体が、研磨処理によって定期的に修復される概して固定式の電極構造体に取って代わる点を除いて、このセルの構成要素の大部分は、Dionex社のED40セル等の従来型電気化学セルと類似のものとすることができる。
【0014】
概して、フロースルー型電気化学セルは、作用電極に接触する試料流路を含む。液体溶離溶液の試料検体は、試料流路を通って流れ、そこから参照電極チャンバを通って流れる。電極表面反応は作用電極上で行われ、作用電極は、一般に導電性で電気化学活性の材料を含み、試料流路を通って流れる試料溶液と直接接触する。
【0015】
図1を詳細に参照すると、電気化学セル組立体10の1つの実施形態において、従来型参照電極ブロック12は、そこに収容される円筒形参照電極チャンバ14を有し、試料溶液は、参照電極チャンバ14を通って流れ、試料流路を通って流れる。他の好適な従来型電極は、対向又は補助電極16の形態である。
【0016】
補助電極の基本的な機能は、電流が参照電極を通って流れるのを防止することである。これは、所謂、3電極式ポテンシオスタットによって達成される。William R.LaCourse,Pulsed Electrochemical Detection in High−Performance Liquid Chromatography,John Wiley,New York 1997,47−48頁及び239−241頁を参照のこと。
【0017】
参照電極の電流路が最小化されていない場合、参照材料の酸化又は還元が発生するか(例えばAgClがAgに還元されるか又はAgが酸化銀へ酸化される)、又は接触溶液の塩化物濃度が変化する場合があり、結果的に参照電位の安定度が悪化する。3電極式ポテンシオスタットは1950年代に導入されている。それ以前には、2−電極セルのみが一般にボルタンメトリー(即ち、電位を制御して電流を測定する方法)に使用されていた。
【0018】
図1に示すように、作用電極に接触する試料流路は、対向電極16の下壁と、以下に説明する使い捨て電極構造体20の上方に面する壁との間に密封状態で保持されるガスケット18によって形成される。ガスケット18は、試料流路18aの周りで外壁を形成する内部カットアウトを有する。試料流路18aの形状は、ガスケット18の厚み、及び、好ましくは細長い貫通スロット形状のカットアウトの長さ及び幅によって決まる。図示のように、作用電極構造体20は、好ましくは有機ポリマーで形成された支持基材20aを含み、好ましくは薄層の形態で図示の円形の、導電性で電気化学活性の作用電極領域20bを含む。以下に説明するように、作用電極20bは、導電性で電気化学活性の材料を基材20a上へ直接的又は間接的に気相成長させて形成することが好ましい。本明細書で使用する場合、「電気化学活性」は、電気化学セルでの検出に必要な電気化学反応を促進するのに適する材料を意味する。
【0019】
また、図1の実施形態において、作用電極構造体20は、好適には同様に円形ディスク形状の導電性接触領域20c、及び作用電極領域20bと接触領域20cとを相互接続する導電性リード部20dを含む。好適な実施形態において、作用電極領域20b、接触領域20c、及びリード部20dは、マスクを介して同一導電性材料を基材20a上へ直接的又は間接的に気相成長によって形成される。以下に説明するように、電極材料の結合を促進するために、有機基材上には最初に付着層を堆積することが好ましい。付着材料は、領域20b及び20c、及びリード部20dと同じ形状であり、実質的に同じ形状のマスクを介して気相成長によって形成されることが好ましい。
【0020】
従来型電気化学セルと同様に、この組立体は、好適にはバネ式であり、一端で電圧源又は電流源を含むポテンシオスタットと電気通信すると共に他端で領域20cに電気的に接触して、リード部20dを介して作用電極領域20bとの電気接続を確立する作用電極接続部22を含む。
【0021】
図示のように、作用電極領域20bは、試料流路18a内に配置され、試料流路を流れる試料と直接接触する。図示の実施形態において、接触ピン22及び接触領域20cは、試料流路18aの外部に配置され、流路を流れる液体と流体接触しない。このことは簡素化の利点をもたらす。作用電極、コネクタ、及び接触パッドは、ポリマー基材の同一面上に平面配列で配置される。これにより、本質的に二段堆積(例えば、Ti及びAuを用いて)において、完全な作用電極を製造することが可能になる。
【0022】
対照的に、固定式電極の製造は、より多く段階、即ち、ケルFブロックの機械加工、鋼製支持板の機械加工、適切な絶縁材料による金ワイヤの被覆、金ワイヤとケルF材料との間の流体シールのためのテフロン・フェルールの機械加工、金製接触パッドシリンダの機械加工、ケルF材料の開口部への金ワイヤの挿入及び接触パッドの挿入、電極ワイヤと接触パッドシリンダとの間の導電性ポリマーの硬化、ケルF材料の高さまでの金ワイヤ研磨、金ワイヤの機械ラッピング、金ワイヤの手動研磨を必要とする。これらの多くの段階のうち、手動研磨はまさに人に依存するので、再現性に乏しいことはよく知られている。
【0023】
各構成部品は、ガスケット18及び電極構造体20を流体シール状態で支持するホルダーブロック24を用いて、圧縮した状態で組立体に適切に適合的に保持される。図示のように、圧縮は、従来の蝶ナット26又は他の締め付け手段を用いて行う。図示しない別の1つの形態において、ガスケット18は、基材20に一体的に形成すること又は付着することができ、付着結合で一体的ユニットを形成すると、一体的ユニットは、セルから簡単に取り外すことができ、別の一体的ユニットに置き換えることが可能になる。もしくは、ガスケット18は、対向電極16又は他の支持構造体に取り付けることができる。前述の構造又は他の可能性のある構造において、使い捨て電極構造体は、組立体から取り外すことができ、単独で、又は、ガスケットと支持板又はホルダーブロックと一緒に交換できる。
【0024】
典型的に、ガスケット18は可撓性であり、約0.01から0.0005インチの範囲の厚みを有し、テフロン(登録商標)のようなフルオロポリマー、又はポリエーテルイミドやナイロンのような高分子材料から成る。
【0025】
ED40電気化学セルに使用されているものと類似の形式のガスケットを使用できる。そのようなガスケットの長さは、好ましくは0.5から10mm、より好ましくは0.8から5mmである、流路18a用の細長いスロットを適切に含む。流路の幅は、好ましくは0.1から3mm、より好ましくは0.5から1.5mmである。ガスケットの厚みは、好ましくは0.005から0.5mm、より好ましくは0.013から0.1mmである。
【0026】
図示のように、ガスケットは、該ガスケットの両側で、ガスケット材の開口を貫通するボルトによって所定位置に保持できる。
【0027】
使い捨て電極に使用するためには、ED40セルの外形を図1に示すように変更することが好都合である。電極と接触パッドとの間のリード部を覆う細長い部分的な突出部又はタブは、流体シールを改善する。また、使い捨て電極のガスケッチングとして、厚い(>0.05mm)及び/又は柔軟な材料(PTFE)を使用することも好都合である。
【0028】
1つの実施形態において、ガスケットは、使い捨て電極の一体的部分であってもよい。ポリマーガスケットは、使い捨て電極に固定的に取り付けることができる。このことは、両面を酸素プラズマ処理すること、これに続く室温でのガスケットの電極への押し付けることのいずれかによって行うことができる。もしくは、ガスケットと電極との固定的な結合は、ガスケットとして適切な厚みのポリエチレン被覆ポリエステル材料を使用することによって行うことができる。材料を適切なガスケッチング形状に切断後、ガスケットは、通常、約140℃の適切な高温で使い捨て電極の表面に押し付ける。
【0029】
典型的に、溶離溶液内に分離した検体を含有する試料は、図示しない従来型の接続手段を通って、固定層クロマトグラフカラム等の、電気化学セルの上流のクロマトグラフ分離器から流路18aに流れる。試料溶液は、図示しない試料流路入口に接続された入口配管を通って、矢印28で示す経路を流れる。ED40セルと同様に、入口は、流路18aの上流端部の対向電極16を通るピンホール開口によって形成することができる。溶液は、流路18aを横切って流れ、矢印30で概略示す経路内を、試料流路出口を通って流出し、対向電極16の図示しないピンホールサイズ開口を通ってチャンバ14に流出し、チャンバ出口32を通って図示しない接続手段を通り抜けてチャンバ14から流出する。
【0030】
別のシステムにおいて、従来型の化学的又は電気化学サプレッサは、イオンクロマトグラフシステムの電気化学セル検出器とクロマトグラフ分離器との間に配置される。
【0031】
作用電極領域は、流路18内に配置され、溶離溶液の流動試料に接触するようになっている。これを実現して接続ピン22との電気的接触を提供する好適な方法は、接触領域20cと作用電極領域20bとを間隔をあけて配置して、リード部20dによって相互接続する方法である。この方法は、マスクを使用することで実現できる、マスクは、該マスクを通って気相成長されるこれら3つの構成部品を含む。この構成において、これらの3つの構成部品は、基材20aに直接的又は間接的に結合される薄膜の形態であることが好ましい。
【0032】
図2を参照すると、気相成長により複数の電極領域を得るために設計されたマスク40の平面図が示されている。マスクは、スクリーンを所定位置に保持するための位置合わせ穴41、及び固定バー44と一緒になった固定ネジ42を含む。1つの実施形態において、マスク40は、アルミニウムシール又はステンレススチールシートのウェットエッチングによって作られる。電気パターンは、マスク内の開口によって形成される。電極領域を気相成長させるための1つの方法は、マスク40と、図示しないステンレススチールプレートとの間にポリマー基材シートを配置することによる。マスクは、作用電極領域20bを形成する作用電極開口40b、接触領域20bを形成する大きな接触領域開口40c、及びリード部20dを形成するスロット開口40dを含む。好適なマスク材料としては、金属(例えば、ステンレススチール、モリブデン)、ガラス、水晶、及びケイ素を挙げることができる。
【0033】
金属パターンは、例えば、M.Madou、Fundamentals of Microfabrication、CRC Press,New York、1997に説明されているような、半導体製造に使用される従来の微細加工方法によって作ることができる。これらの方法には、物理気相成長(PVD)及び化学気相成長(CVD)を含むが、これに限定されるものではない。
【0034】
電極領域を堆積する前に、マスク40を用いて付着層を堆積することが好ましい。この方法は、図3aから図3cに概略的に示す。図3aを参照すると、図3bの濃い領域で示す付着層の薄膜は、Arプラズマの高真空を用いて、マスク40の開口40b、40c、40dを通してスパッタリングされる。このような方法は、M.Madou著、Fundamental of Microfabrication(CRC,1997)の第2章60頁の図28に示されている。その後、図3cに示すように、マスクは、所定位置に保持される。流路18b内の試料に直接接触するのに適切な電極材料は、第2の薄膜52として付着層50の表面に気相成長される。付着層の利点は、電極層と、好ましくは有機ポリマー材料である任意の下層基材との結合を改善する点にある。
【0035】
好適には、付着層は、チタン、タングステン、クロム、及びこれらの材料の合金等の材料で形成される。チタン又はタングステン・チタン合金の付着層は、金属作用電極層のポリマー基材への付着を改善するので特に有効である。典型的な付着層50の厚みは、約50Åから5,000Åである。
【0036】
領域20aの好適な電極材料は金属であり、金、プラチナ、銅、又は銀、並びにこれらの合金が好ましいが、金が最も頻繁に使用される。更に、炭素質材料(例えば、非晶質炭素、グラファイト、又はカーボンペースト)等の非金属電極は、チタン等の付着層と組み合わせて領域20bに使用できる。同様なスパッタリング法が使用できる。典型的な電極材料層52の厚みは、約100Åから10,000Åである。
【0037】
作用電極領域20bの適切な平面構成は、直径が約0.1から3mm、好ましくは約0.5から2.0mm、より好ましくは約1mmの円形である。別の種類の有用な接触構成に適合し、確実にピン22に上手く接触することが必要なので、適切な接触領域20cはより大きい。
【0038】
基材28は、約0.002から0.020インチの範囲の厚みのポリマー材料であることが好ましい。ガスケット18との良好なシールを形成するために、基材28は可撓性であることが好ましい。適切には、ポリマー材料は、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレート等)、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミド、又はポリエーテルイミドとすることができる。より好ましくは、ポリマー材料は、ポリエステル(PEN又はPET類)又はポリカーボネートである。
【0039】
使い捨て作用電極の別の構造としては、三角形、正方形、又は矩形等の異なる幾何的形状の作用電極領域を挙げることができる。流路に関する幾つかの可能性のある構造は、作用電極の非円形幾何学的形状の各々に対して可能である。3また、円形電極と同じリード部ではあるが、平行方式又は放射方式のいずれかで流路内に突出しているリード部に接続されている、2つ又はそれ以上の「フィンガー」形状の電極の櫛状パターンも可能である。また、反対側から流路内に突出する、挿入電極又は2つの櫛状電極パターンも実現可能である。
【0040】
システムに接続される電子機器は、従来からDionex ED40又はED50電気化学セルに用いているものとすることができる。真の参照電極を使用することができ、これは、例えば、適切なダイアフラム又はガラス膜によって取り囲まれている参照溶液に浸漬されたAg/AgClワイヤである。
【0041】
本発明の1つの実施形態において、微細加工電極は、塩橋を有する真の参照電極と一緒に使用できる。複合pH/Ag/AgCl電極は、「真」参照電極に優る改善を示す。検出機構の不可欠な部分は、作用電極表面上の触媒酸化金の周期的な生成部である。IPADモードは、1Hz又はそれ以上の周期でアミノ酸を検出可能な酸化金層を新たに生成して除去する。酸化金の生成はpHに依存しているので、異なるレベルの酸化電流は、異なるpHで検出バックグラウンドとして生成される。Ag/AgCl参照電極を単独で用いると、例えばクロマトグラフ移動層勾配中の何らかの溶出pHの変化は、大きな勾配のクロマトグラフベースラインをもたらす。pH/Ag/ACl等のガラス膜を有する真の参照電極を用いると、参照電位は、酸化金形成の速度と同じようにpHに伴って変化する。従って、pHに関連した参照電位の変化は、酸化電流の変化の自動補正をもたらす。pH勾配中の結果として得られたベースラインは完全に平坦である。
【0042】
本発明の1つの実施形態において、微細加工電極は、pH補正参照電位(即ち、真の参照電極、塩橋、ガラス膜)と一緒に使用される。
【0043】
本発明の電気化学セルは、ED40又はED50が使用される何れの用途にも使用できる。従って、このセルは、分離されたアミノ酸、糖類、アミノ糖、アミン、アミノチオール等を検出するのに使用できる。本発明の作用電極及び参照電極の利点の1つは、それらがpH変化を相殺でき。結果的に過度のベースラインの変動をなくす点にある。これは、酸化電流の固有pH関連補正機能によるものである。
【0044】
使い捨て電極の重要な利点は、セルの性能が悪化する前に、1日又は複数日の使用後に、電極を安価に容易に交換できることである。
【0045】
本発明の使い捨て電極は、市販の低デッドボリューム電気化学セルと互換性がある。これにより、真の参照電位又はpH基準参照電位の利用が可能になる。
【0046】
本発明による使い捨て電極を有する電気化学セルを用いて、種々の試料を異なる手順で分析した。この実験から得られたクロマトグラムは、ED40セルを用いた実験で得られたクロマトグラムに匹敵するものであった。
【0047】
本発明をより明確に説明するために、以下の実施例を示す。
【実施例1】
【0048】
実施例1は、本発明によるポリマー基材上にチタン及び金のスパッタ薄膜を形成するための方法を示す。
【0049】
1.ポリマー基材、ステンレススチール・ベースプレート、及びコーティング用ステンレススチールマスクの組立体
Du Pont又はGEから入手したポリマー膜基材は、空気を用いて吹き飛ばすことによって表面上の全ての粒子を除去し、水、アルコールで続けて洗浄し、次に空気中で乾燥させた。この膜の表面に、マスクを取り付けるのに必要な穴を打ち抜き加工した後、ポリマー基材をステンレススチール・ベースプレートの表面に置いた。次に、まずポリマー膜の露出側に薄いステンレススチールマスクを配置し、次に厚いステンレススチールマスクを配置した。薄いマスクパターンは図2に示す。この薄いマスクは、電極、接続リード部、及び接触パッドの形状を規定する。図示しない厚いマスクは、薄いマスクを、平坦で、完全に同一平面にあり、ポリマー膜に密接に接触する状態に保つために使用する。同時に、厚いマスクは広いカットアウト領域をもつので、チタン及び金のスパッタリングの間に、プラズマと干渉することなく構造的完全性を保証する。ポリマー膜は、2つのマスクと支持用ベースプレートとの間にしっかりと挟み込む。全体の組立体は、バーとネジによって一緒に保持される。バーは、2つのマスクの表面に位置合わせされる。
【0050】
2.チタン及び金の物理気相成長
マスクと一緒に組立てられたポリマー基材は、スパッタリングチャンバに置く。スパッタリングに必要な真空度(少なくとも40mTorr)に達するように、適切な真空を12時間(一晩)加える。ポリマー内部に吸着された水は、その時間の間にゆっくりとチャンバから除去される。堆積を開始するために、基材は、低圧ガス雰囲気(約10mTorrのアルゴン)内に密閉したままとする。RFプラズマ堆積に関して、基材はアノードとして接続し、堆積用金属源(ターゲット)はカソードとして接続する。適切なRF周波数は、12から14mHzの範囲である。RF出力の適切な範囲は、1から2kWの範囲である。堆積速度は、金属によって異なる。同じ周波数及び同じ出力のRFフィールドに関して、チタンの堆積は金の堆積よりも約4.7倍遅い(例えば、M.Madou、Fundamentals of Micromachiningの100頁、表3.8を参照)。基材とターゲットとの間に形成されるRFフィールドは、金属堆積の間の単独の熱源である。ポリマー基材の温度は、50から70℃の範囲を超えることはない。
【0051】
金膜のポリマー基材への付着を助長するために、チタン層が最初にスパッタリングされる。第1の金属層の典型的な厚みは、50から1000Åである。チタン層は、本プロセスで使用する唯一の付着促進物質である。ポリマー基材への金層の付着を助長するのに他の付着剤は使用しない。第2の層(Au)は、通常100から5000Åの厚みをもつ。コーティング速度は、高周波(プラズマ源)の出力、ポリマー膜とターゲット(堆積される金属の供給源)との間の距離等に左右されるので、スパッタリング時間はシステム毎に異なる。
【実施例2】
【0052】
好適なセルの組立て
(1)ファラディ箱/電極取り付け用コンテナとして用いられているステンレススチールボックスからチタン製のEDセル本体を取り外し、参照電極用スチールシリンダホルダーを回して外す。
(2)黒いOリング(Viton)が、参照電極チャンバ下部の所定位置にあることを確認する。pH/Ag/AgCl参照電極(ガラスシリンダ)をセル本体の参照電極チャンバに挿入する。
(3)参照電極チャンバ内部の所定位置に参照電極を保持するスチールシリンダを取り付ける。
(4)参照電極のリードワイヤをプリアンプ基板の「pH」ピン及び「Ag」ピンに接続する。
(5)作用電極接続の白いケーブルを2つの「WE」ピンに接続したままとする。
(6)2本の蝶ネジを抜き、セル本体から固定式作用電極を取り外す。
(7)標準セルガスケットを取り外し、使い捨て電極に使用するセルガスケットに交換する。
(8)使い捨て電極ユニット(外側寸法2.5×3cm)の2つの穴を、セル本体から突出する2本の支柱に一致させる。使い捨て電極の2つの開口は、2本の支柱の間の距離に一致する(2cm)。使い捨て電極を、2つの位置決め支柱の底部までスライドさせる。これにより、作用電極は、ガスケットのカットアウトによって形成された流路の内側に正確に位置決めされる。使い捨て電極ユニットの金属化側が、電極セル本体及びガスケットと向かい合っていることを確認する。作用電極の正しい位置は、使い捨て電極の透明ポリエステル基材を通して確認できる。使い捨て作用電極の正しい方向は、ユニットがセル本体に近接した位置にある場合、ポリエステルを通して見ることができるチタンの色(金色ではない)によって示される。
(9)固定式電極(もしくは安価なホルダーブロック)を、セル本体方向に使い捨て電極を押圧して、2本の支柱上でスライドさせる。セルガスケットの存在及び接点ピンと接触パッドとの正しいな接触を視覚的にチェックする。
(10)2本の蝶ナットを取り付ける。
(11)電極セルへの流体接続及び電極セルからの流体接続を形成する。
(12)スチール製の取り付けボックス/ファラディ箱を、セル組立体上にスライドさせる。
(13)セル組立体を、ED40検出器の電子ユニットに接続する。
(14)ポンプをスタートさせ、出口キャピラリからの最初の液滴の流出が目視できるまで待つ。
(15)ED40電子ユニットの画面でpH値をチェックする。
(16)適切な検出電位又は検出波形を印加する。
【符号の説明】
【0053】
10 電気化学セル組立体
12 参照電極ブロック
14 円筒形参照電極チャンバ
16 対向電極
18 ガスケット
18a 試料流路
20 作用電極構造体
20a 支持基材
20b 作用電極領域
20c 接触領域
20d リード部
22 作用電極接続部
24 ホルダーブロック
26 蝶ナット
32 チャンバ出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロースルー型電気化学セル組立体であって、
(a)入口と出口とを含む試料流路を規定する外壁と、
(b)前記試料流路入口と流体連通する試料入口ラインと、
(c)前記試料流路出口と離隔した参照電極との間の流体連通を提供する試料出口ラインと、
(d)電気絶縁性基材表面に層として直接的又は間接的に結合された導電性で電気化学活性の作用電極領域を有する使い捨て作用電極構造体と、
を備え、
前記基材表面が、前記試料流路と流体シール関係にあり、前記作用電極領域が、前記試料流路と流体連通状態にあり、前記作用電極構造体が、前記電気化学セル組立体から容易に取り外しできることを特徴とする前記フロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項2】
前記作用電極構造体が、前記基材表面に層として直接的又は間接的に結合された導電性の接触領域と、前記作用電極領域と前記接触領域との間の電気経路を提供する導電性リード部とを更に備え、前記接触領域が、前記試料流路と流体接触状態にない前記基材に結合されていることを特徴とする請求項1に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項3】
前記接触領域に取り外し可能に接触する第1の端部と、電源への電気接続に適合する第2の端部とを有する導電性接続ピンを更に備えることを特徴とする請求項1に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項4】
前記外壁が、前記試料流路の周囲に流体密封シールを形成するガスケットを備えることを特徴とする請求項1に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項5】
前記作用電極領域が、中間層なしに直接、前記試料流路に露出されていることを特徴とする請求項1に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項6】
前記作用電極領域が、約100Åから10,000Åの厚さであることを特徴とする請求項1または2に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項7】
前記作用電極領域が、導電性で電気化学活性の材料の前記基材上への直接的又は間接的な気相成長によって形成されることを特徴とする請求項1に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項8】
前記基材が、有機ポリマーを含むことを特徴とする請求項1に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項9】
前記有機ポリマーが、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミド、及びポリエーテルイミドからなる群から選択されることを特徴とする請求項8に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項10】
前記作用電極領域が、金属又は炭素質材料を含むことを特徴とする請求項1に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項11】
前記作用電極領域が、中間付着層を介して前記基材に結合されることを特徴とする請求項1に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項12】
前記付着層が、前記基材上への気相成長によって形成されることを特徴とする請求項11に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項13】
前記付着層が、50Åから5000Åの厚さであることを特徴とする請求項11に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項14】
前記付着層が、チタン、タングステン、クロム、及びこれらの合金からなる群から選択される材料で形成されることを特徴とする請求項11に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項15】
前記試料流路入口が、液体クロマトグラフ分離器又はフローインジェクション分析装置と流体連通することを特徴とする請求項1に記載のフロースルー型電気化学セル組立体。
【請求項16】
電気化学セル組立体用の、使い捨て作用電極構造体及び試料流路の製造方法であって、
(a)マスクを介して有機ポリマー基材上に直接的又は間接的に、導電性で電気化学活性の材料を気相成長させて、作用電極領域のパターンを形成する段階と、
(b)前記作用電極領域と外壁との間に流体シールを形成して、前記流体試料流路と直接流体接触する前記作用電極領域を伴う流体試料流路を規定する段階と、
を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項17】
前記気相成長段階が前記マスクを介して行われ、前記マスクが、前記使い捨て作用電極構造体を形成する導電性接触領域と前記作用電極とを相互接続する導電性リード部のパターンを形成することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
段階(a)の前に、マスクを介して前記有機ポリマー基材上に付着層を気相成長させる段階を更に備え、段階(a)が、前記導電性で電気化学活性の材料の前記付着層上への気相成長によって行われることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記付着層が、チタン、タングステン、クロム、及びこれらの合金からなる群から選択される材料で形成されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記有機ポリマーが、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミド、及びポリエーテルイミドからなる群から選択されることを特徴とする請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−71994(P2010−71994A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266592(P2009−266592)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【分割の表示】特願2003−555603(P2003−555603)の分割
【原出願日】平成14年12月16日(2002.12.16)
【出願人】(591025358)ダイオネックス コーポレイション (38)