説明

電気化学センサで使用するための電極

【課題】
マイクロ電極アレイ状挙動を示す金属化炭素−絶縁体複合体を含む改善された電極を提供する。
【解決手段】
この複合体は最も好ましくはルテニウム変性炭素−絶縁体複合体である。絶縁体は例えばエポキシ樹脂であることができる。電極の製造方法もまた提供されている。この電極を含む遊離塩素センサも提供されている。この電極はまた、燃料電池、バッテリーのための一次電池または二次電池、電解槽及び電気化学反応器の要素として使用されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学電池で使用するための電極に関する。特に、限定されないが、本発明は導電性複合体材料から作られる電極に関し、この電極は遊離塩素の検出及び測定のための電気化学センサで使用することを意図している。
【背景技術】
【0002】
電気化学センサに対する増大する需要により、電気化学センサで使用される電極の形式は多くの研究主題となっており、現在の検出システムで高性能を達成することが重要である。現在使用されている種々の形式の電極はそれらの組成、寸法、電気化学性質、費用、簡易性及び使用される被検体の範囲に関して互いに異なる。電気化学センサは一般に溶液中の化学種を検出するために使用され、結果として各センサは検出される化学種に対して特異的であるように設計されることができる。
【0003】
しかし、全ての電極の幾何的形状は必ずしも再現性のある電流を供給しない。というのも電極表面を直接取巻く領域は被検体が減損しており、一般に減損領域と呼ばれるものを形成するからである。温度及び濃度変化から生じる対流は例えば減損領域を減少する一方、被検体の濃度勾配、従って電流の乱れももたらす。電極を取巻く減損領域を安定化する種々の方式があり、それらは(i)強制再現性対流、(ii)浸透膜が電極に適用されるクラーク型酸素電極の使用、及び(iii)マイクロ電極の使用を含む。
【0004】
マイクロ電極の場合、それらの小さな寸法のため、電極周りの減損領域は自然対流のための境界層と比べて小さい。結果として、流束速度は流れ状態と無関係である。実際に、周囲温度での水溶液に対しては、これはマイクロ電極がこの基準を満たすために50μm未満の特徴的寸法を持つ必要があることを意味する。従って、電極を小さくすることにより、減損領域を安定化するために必要な強制再現性対流と通常組合される複雑な機械工学に対する必要性が排除される。
【0005】
上述のマイクロ電極の電気化学センサでの使用と組合された有意な利点、特に組合された迅速応答時間、があるけれども、有意な欠点も存在する。特に、それらの小さい寸法のため、マイクロ電極により低電流が発生され、それは研究実験室環境では容易に管理できるけれども手術室や工程ラインのような電磁的にノイズの大きい測定状況では器械的困難性を与える。そこでは常に物理的に小さな装置を持つ必要はないが、マイクロ電極の迅速な応答時間とそれらの対流に対する鈍感性が望ましい。
【0006】
上記の問題に対する一つの解決策は電気化学センサ中に並列のマイクロ電極アレイの使用である。マイクロ電極アレイは有利には対流での電流の低い依存性を示し、強化された拡散物質輸送速度を示し、かつ迅速な応答時間を持ち、一方で現実的な状況で容易に管理可能な電流を発生する。
【0007】
しかし、研究文献には定期的に記載されているけれどもマイクロ電極アレイは製造するのが実際には高価であり、それらの構成における専門的技術の高い水準または資本集約的なC−MOS製造技術(半導体加工技術)のいずれかに頼っている。後者の技術はマイクロ電極アレイ製造の有用な方法であるけれども、それは(i)マイクロ電極アレイの設計が微調整されるごとに新しいマスクが必要なことで劣った設計柔軟性を伴い、及び(ii)平坦な幾何学形状に限られ、しかも水和、イオン交換または劣った生体適合性のため電気化学センサでの使用のために不適当なことが多い材料に限られる。
【0008】
しかし、ある時には絶縁結合剤中に埋め込まれた導電性粒子から作られた複合体電極がマイクロ電極アレイと同様の方式で挙動することができることが注目された。かかる複合体電極の使用はマイクロ電極アレイの使用より著しく安価であり、かつ上で検討したマイクロ電極の製造上の不利を被らない。加えて、電極の導電性粒子及び絶縁マトリックスの両者の触媒、酵素、レドックス媒介体または他の要素による(i)選択率、(ii)改善された電極反応速度論、(iii)改善された生体適合性及び(iv)薬剤及び/または殺生物剤を含むがそれらに限定されない汚損試薬に対する抵抗性を与える変性がかなり容易である。
【0009】
電気化学センサの電極としての導電性複合体材料の使用は多くの研究の主題であったが、本発明者の知る限りでは今日まで重点は主としてかかる複合体電極のバルク導電度を最大化することであったし、電極の組成とそれらの導電度の間の関係の知識を増やすために多くの実験が実施された。電極のバルク導電度を最大化する際、従来の電気化学的手段はそれらの特性付与のために採用されることができ、かつ既製の電気化学的器械がかかる材料に基づくセンサと共に使用されることができる。更に、高導電性複合体電極は電極内のオームiR降下を最小とし、それはセンサのデータ解析及び実施の両者を簡素化する。更に、かかる電極のリアクタンス(例えばRC時定数により測定される)はもし導電度が最大化されるなら最小化される。
【0010】
上で詳述したような低い電気抵抗と関連した利点を持つだけでなく、高導電性複合体電極は許容されたモデルを用いて特徴を付与することが比較的容易であり、結果として今日まで複合体電極の研究は無視しうる抵抗に対する要求を強調している。
【0011】
しかし、今日まで、電極の組成とそれらのマイクロ電極アレイ状挙動のようなそれらの電気化学的特性の間の関係の考察はほとんどなかった。
【0012】
マイクロ電極アレイ状挙動はボルタ計の技術、主として定常状態法及び複合体の導電機能の観察により研究されることができる。導電する表面積の率及び導電機能の大きさは導電原子間力顕微鏡(C−AFM)の技術を用いて定量化され、これが電極の組成とそのマイクロ電極アレイ挙動の間の関係を示す助けをした。
【0013】
論文“黒鉛−エポキシ複合体電極のマイクロ電極挙動について”Electrochemistry Communications 4(2002)245−250において、本発明者は先に炭素−エポキシ複合体の挙動を研究したが、これらの複合体はC−AFMを用いて炭素のエポキシに対する質量比を40:60、50:50及び60:40で作られた。等価容積比はそれぞれ25:75、33:67及び63:37である。この配合物は下方パーコレーション限界のちょうど上からちょうど第二パーコレーション限界までの濃度範囲をカバーした。パーコレーション理論はここに説明され、それは材料の挙動をモデル化するために使用されるグラフ理論の特別の形式である。しかし、これらの材料を説明する代替非グラフ理論法があることは注目されるべきである。下方パーコレーション限界は導電度が急に上昇する複合体の導電率の値、すなわち絶縁体の導電体への移行が起こる点である。第二パーコレーション限界は絶縁相がもはや連続的でない導電率の値である。
【0014】
C−AFMを用いると、50:50及び40:60の試料の両者は多様な大きさ、形状及び間隔を持つ導電機能を持つが、マイクロ電極アレイ状挙動の要因となる適切な大きさと間隔の多くの機能を持つことが示された。拡散限界電流密度はマイクロ電極に対しては実質的により高いので、これはボルタ計的挙動がこれらのより小さな機能により左右されることを確実とする(下記回転ディスク実験参照)。
【0015】
炭素−エポキシ複合体電極のマイクロ電極挙動は更にボルタ計法を使用して確認されている。マイクロ電極を象徴する周期的ボルタ計記録は60:40(点線)及び50:50(実線)炭素−エポキシ複合体電極に対し、100molm−3水性KClを持つ1molm−3Fe(CN)中で100mVs−1で達成された。比較を可能とするために、電流は物質輸送限界陽極電流に正規化された。定性的には、50:50電極はボルタ計記録の上昇部にS字状電流電圧曲線を示すことは明らかであり、それは再度マイクロ電極挙動と一致する。
【0016】
上述の炭素−エポキシ電極は顕著なマイクロ電極アレイ状挙動を示すけれども、炭素−エポキシ複合体は溶解塩素に対してほとんどまたは全く応答を示さない。しかし、遊離塩素濃度の変化に対する応答がある場合、感度(すなわち濃度の単位変化当りの電流)は再現性がない。
【0017】
マイクロ電極アレイの有利な効果を示す一方、少なくともそれと関連した上述の欠点を回避する改善された電極を提供することに対する要求がある。更に、遊離塩素の改善された検出を提供する電極を提供することに対する要求がある。
【0018】
遊離塩素はHMSO,1980,ISBN0117514934のDepartment of the Environmentにより刊行されたシリーズ“廃水及び関連物質の試験のための方法”のNo.27“水及び排出物中の化学殺菌剤、及び塩素要求量”に規定されている。
【発明の開示】
【0019】
本発明は特別の組成を持つ電極が特に遊離塩素の検出において改善されたマイクロ電極アレイ状挙動を示すことを驚くべきことに見出したことに基づく。
【0020】
本発明の第一態様によれば、金属化炭素−絶縁体複合体を含む電極が提供される。
【0021】
本発明の第二態様によれば、金属化炭素−絶縁体複合体の調製を含むかかる電極の製造方法が提供される。本発明の複合体は以下の実験報告に記載された技術を用いて処方されることができる。
【0022】
本発明の第三態様によれば、金属化炭素−絶縁体複合体から作られた電極を含む遊離塩素センサが提供される。複合体電極の金属化粒子は遊離塩素の電気化学的還元を有利に接触作用する。
【0023】
本発明者は第二パーコレーションしきい値の近くでまたはその上でマイクロ電極挙動があまり明白でなくなることを見出した。上述の論文“黒鉛−エポキシ複合体電極のマイクロ電極挙動について”Electrochemistry Communications 4(2002)245−250で検討したように、今日までの全ての電気化学センサは第二パーコレーションしきい値に近いまたはその上にあるような高導電率を持つ導電性複合体材料に基づいている。しかし、本発明の金属化炭素−絶縁体複合体電極は下方パーコレーションしきい値の上であるがそれに近い組成を持つ。バルク導電度の下方パーコレーションしきい値の上であるがそれに近い電極組成はマイクロ電極アレイ状挙動に導く多数の大きく間隔を置かれた顕微鏡的導電機能により特徴付けられる。
【0024】
本発明者は電極処方は質量率に対向するところの容積率に基づいていることを見出した。容積率はランダムに分散された粒子のための面積率に実質的に等しい。本発明の金属化炭素−絶縁体複合体の金属化炭素(すなわち導電性粒子)の容積率は15から45%の範囲である。導電性材料濃度がバルク導電度のために必要な濃度のほんの少し過剰であるような、すなわちパーコレーション理論及び他のグラフ理論説明で“パーコレーションしきい値”と呼ばれるものの少し上の組成を複合体材料が持つことが好ましいが必須ではない。この率は導電粒子の形と寸法により著しく変わるかもしれない。典型的には不規則炭素粒子の18−25容量%のオーダーであるが、炭素ナノチューブのような高アスペクト比材料に対しては0.1%(w/w)未満であることもできる。
【0025】
金属化炭素−絶縁体複合体電極は流れに対して低い感度を示し、汚損に対して抵抗性がある。かかる有利な特徴はこの形式の電極を使用するセンサの有用性を、特にマトリックスが不十分に規定されたまたは時間変動する対流を特徴とする場合(血液及び一般的に非ニュートン液体、生理学的利用、プロセス制御、食品加工、及び環境監視)の有用性を著しく増大する。更に、この形式の電極を使用するセンサは媒体の導電性が不十分である場合、及びマトリックス中に表面活性成分がある場合(生理学的調製、細胞及び組織培養、及び生物化学的及び環境的試料)に特に有用である。
【0026】
金属化炭素−絶縁体複合体を使用する際、感度(濃度の単位変化当りの電流)及びリニアレンジは金属または触媒含有量及びアイデンティティーを変えることにより調整されることができる。更に、選択率は金属または触媒濃度及びアイデンティティーの両者により影響を受け、同様に変更されることができる。
【0027】
適当な絶縁結合剤は:ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、シリコーンゴム(例えばポリジメチルシロキサン)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン(登録商標))、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、Kel−F、ポリシアノアクリレート、ポリエステル、マイラー、ダクロン及びエポキシ樹脂を含む。鍵となる特性は絶縁体が高い電気抵抗を示し、水の妨害に抵抗し、かつ高い破壊電圧を持つことである。
【0028】
電極がルテニウム変性炭素−絶縁体複合体から作られることが好ましいが、決して必須ではない。エポキシ樹脂マトリクス中に低濃度で固定されたルテニウム変性炭素触媒はクロラミンの存在、高全有機炭素で及び広範囲のpH値に渡り良好な選択率を持ってスイミングプールの水中の溶解塩素、次亜塩素酸塩及び次亜塩素酸を測定するのに優れた能力を示した。装置は少なくとも数ヶ月に渡る浸漬及び間欠的使用にもかかわらず安定である。これに代えて、例えば電極は白金変性炭素触媒エポキシ複合体、またはロジウム変性炭素触媒エポキシ複合体から作られることができる。しかし、他の適当な金属化炭素−絶縁体複合体も使用されることができることは理解されるべきである。金属化炭素−絶縁体複合体の金属成分は白金族金属のいずれかを含むことができる。
【0029】
上に開示したそれらのような金属化炭素−絶縁体複合体材料はミリメートルより小さい、すなわち約10μmから数センチメートル寸法の範囲の適当な形に押し出され、成形され、プリントされまたは機械加工されることができる。
【0030】
かかる複合体から作られた電極は単独で使用されることができ、またはそれに代えて幾つかが並列に使用されることができる。幾つかの複合体電極が並列に使用される場合、同じ選択率を持つ素子が使用されることができ、またはこれに代えて異なる選択率を持つ電極が使用されることができ、それにより種々の異なる被検体に適用可能なセンサを作ることができる。
【0031】
本発明を添付実施例及び図面に関して例示して説明されるであろう。
【0032】
図1は種々の非金属化複合体電極に対するS字形電流電圧曲線を示す。
【0033】
図2は図1の電極より希釈された処方を持つ非金属化複合体電極に対する電流電圧曲線を示す。
【0034】
図3はガラス状の炭素電極と比べた60%(w/w)炭素エポキシ複合体電極の撹拌に対する応答を示す。
【0035】
図4は種々の非金属化複合体電極組成物の流れに対する感度を示す表である。
【0036】
図5は種々の非金属化複合体電極の導電機能の大きさの分布のヒストグラムを示す。
【0037】
図6は電位が増加するときの電極反応の同焦点蛍光画像を示す。
【0038】
図7は40:60炭素とルテニウム複合体電極を用いたシミュレートされた現場条件試験を示す。典型的な検量線はpH7.1で測定され、濃度は標準DPD試験に対して測定された。
【0039】
図8は40:60炭素とルテニウム複合体電極を用いたシミュレートされた現場条件試験を示す。検量線は種々のpHで測定され、濃度は標準DPD試験に対して測定された。
【0040】
図9は回転速度の平方根での拡散限界電流の依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
実施例
金属化炭素エポキシ複合体は次のようにして製造された:低粘度エポキシ樹脂(‘Araldite’CY1300+HY1301 Ciba−Geigy,Duxford,Cambs.U.K.)は製造者の予定表に従って調製され、減圧下に脱ガスされた。それは次いでルテニウム−または白金−変性炭素(金属含有量0.5から10重量%の範囲)と22から45容量%の比率で混合された。混合物は注入成形に先立ち減圧下に脱ガスされた。電極は複合体の絶縁電極体中への注入成形により作られたインレイディスク、または例えば注入成形されかつ硬化された複合体を切り分けてそれらを電極中に取付けることにより作られた導電性ディスクであることができる。後者に対しては、複合体はプラスチックチューブ(典型的には7mm直径)中に詰められる。製造者の予定表に従って固化及び硬化後、得られた複合体は精密ダイヤモンドのこ(Buehler lsomet)で1mm及び2mmスライスに切り分けられた。スライスは絶縁チューブ上に取付けられ、電気接点が銀添加エポキシ複合体またはばねを用いるかのいずれかで作られた。
【0042】
金属化炭素エポキシ複合体はディスクにまたはインレイ任意形状にさえ限定されないことは注目されるべきである。というのも装置は全く無計画な方式で注入成形されたときでも作動するからである。装置はそれらの性能の解析を助けるために平坦な形状に切断されるだけである。複合体材料は印刷または塗装により満足な電極を作ることができる。
【0043】
図1から6には、非金属化複合体電極のマイクロ電極状挙動がボルタ計法と導電性プローブ原子間力顕微鏡(C−AFM)の組合せにより強く組成に依存することが示されている。この後者の技術は表面導電度及び導電機能の大きさの画像を発生し、分布がマイクロメートルより小さい長さ尺度以下まで測定された。バルク導電体及び高度に濃縮された分散体に比べて、著しいマイクロ電極挙動、対流に対する明白な相対的鈍感性が観察される。
【0044】
回転ディスク実験(以下に記載)のためのチップがPVCから機械加工され、2500grit紙やすりにより軽く研磨され、そしてエタノール中ですすぎ洗いされた。粘着性銅テープが打ち抜かれ、複合体のためのバッキングとして適用された。凹所(典型的には2mm)が炭素エポキシ複合体で満たされ、硬化させられた。上部0.5mmが精密ダイヤモンドウエハリングのこで除去された。表面が連続的により微細なグレードの水性アルミナスラリーで0.05μmに至るまで磨かれた。実験に先立ち、電極は硫酸(100molm−3)中で10分間1Vs−1で酸素及び水素放出電位間で循環され、更に15分間水素放出電位で保持された。電極は次いで脱イオン水中ですすぎ洗いされ、必要なときまで湿潤状態に保たれた。
【0045】
ボルタ計的挙動
図1は50%(w/w)非金属化複合体電極に対するマイクロ電極挙動の特徴的S字形電流電圧曲線(実線)及び60%(w/w)処方により示されたよりピーク形状の応答(ついばまれた線)を示す。より希薄な処方に対しては、この現象は接近しうる時間目盛に渡って一般的であり(電極のRC時定数により規定される)、一方最大導電性複合体は50mVs−1未満の走査速度でこの挙動を示すのみである(図2参照)。
【0046】
対流に対する応答
図3は60%(w/w)炭素エポキシ複合体電極の撹拌に対する応答をガラス状炭素電極と比較する。この比較的高い導電性複合体でさえバルク導電体の再現性の少ない応答と比べて減少した応答を示す。電気化学的電池を撹拌することは低濃度複合体に対する定常状態電流の変化を引き出さなかった。
【0047】
回転ディスクの対流境界層は均一厚であり、Angew.Math Mech.1233(1921)のVon Karmenによる方程式から計算されることができる。境界層厚に匹敵する特徴的寸法を持つそれらの導電機能のみが境界層厚による電流の変動に寄与するであろう。回転速度が増えると、id対w1/2(Levichプロット)の傾斜が境界層厚が減少するとき増え、さらに小さな機能が流れ依存領域中に補充される。C−AFMデータから測定された導電面積に基づく異なる処方に対しこれらの曲線の予想傾斜を計算することは簡単なことである。C−AFM画像の画像解析は機能面積及び周囲のヒストグラムの構築を可能とする。下記参照。
【0048】
3mm半径ディスク電極がこの研究のために使用された。レドックスプローブはKCl(1000molm−3)における塩化ルテニウム(III)(1molm−3)であった。拡散係数(D=9.1×10−10−1)及び動粘度(ν=0.00916cm−1)の公開された値を用いると、バルク導電電極に対する予想傾斜は1.61×10−5A(rads−1−1/2である。種々の複合体に対して得られた値は図4にまとめられている。
【0049】
図4のデータから明らかであるように、全ての組成が既知の測定面積率から予想されるより低い流れに対する感度を示す。これはこれらの装置の挙動が顕微鏡的導電機能により支配されることの第一の直接的証拠である。これは更に、Levichプロットの著しいゼロでない切片により確認される。
【0050】
非ファラデー応答
より典型的な組成の非金属化複合体材料に対し、電解質溶液中の(すなわち電解可能物質の不存在での)分極した複合体電極のキャパシタンスはわずかな表面積に関係することが示された。これは支配的な寄与が電気二重層のためであることを示唆する。より希薄な処方に対しては、キャパシタンスは断面厚と比例し、支配的な寄与は重複する不完全な導電性経路のためであることを示す。希薄導電性複合体で観察された大きな時定数に対する説明を与えるのに加えて、これは本発明者により採用された下方パーコレーション限界に接近した処方間の質的差に対する直接的証拠をバルク導電度に対して最適化された装置に提供する。
【0051】
C−AFMデータ
エポキシ中炭素の処方のための平均導電率は図4に与えられている。60%(w/w)未満の全ての濃度に対し、実験的に見出された導電面積率とランダムに充填された材料に対し予想された導電面積率の間に著しい差はない。より高い濃度は異なる挙動を示し、凝集すなわち非ランダム相互作用の証拠を示す。複合体はもはやともに連続的でなく、多孔質であるが連続的な導電性マトリックス中にエポキシ樹脂の島を含む。
【0052】
導電機能の大きさの分布のヒストグラムが図5に示されている。希薄処方は<10μm機能面積により支配される。
【0053】
走査電気化学顕微鏡
フィードバックモード及びチップ発生モードの両者のSECM顕微鏡写真は電気化学反応が40%(w/w)及び50%(w/w)組成に対する顕微鏡的に分離された導電機能上で大きく行われることを示す。これらの結論は電極活性の同焦点蛍光顕微鏡試験(図6参照)、S.CannanらによるElectrochemical Communications 4886(2002)で検討された比較的新しい技術、を用いて確認された。後者のデータからマイクロ電極状素子の有限の無視できない抵抗がこれらの材料の性能を理解するのに重要であることも明らかである。定常状態電流電圧曲線の形状の従来の電気化学器具定量分析を用いることと関連した困難性を強調するこれらの結果は分布されたマイクロ電極寸法と異なるマイクロ電極素子の変動する抵抗との複合関数である。
【0054】
金属化炭素−エポキシ複合体電極−遊離塩素の検出
ルテニウム変性炭素複合体電極は溶解塩素(Cl,HOCl及びOCl、pHに依存する的確種)に対し接触拡散限界応答を示す。感度は固体白金族金属及びPtめっき炭素の電極に匹敵することが証明された。典型的な検量データが図7に示されている。
【0055】
固体白金電極とは明確な対照で、暗電流及び検量線の傾斜の両方の長期安定性は数ヶ月に渡り優れていた。
【0056】
電極は現場シミュレーション環境で試験された。検量曲線は種々のpHと温度での次亜塩素酸塩溶液に対し調製された。電極はクロラミン、全溶解固形物(TDS)、シアヌル酸、汚損及びバルク対流の変化に対する応答に対し試験された。
【0057】
図8に示されるように、勾配はスイミングプールで典型的に見出される範囲に渡りpHの変化によりほとんど変化しない。これはpHが変動しそうなシステムで有利である。
【0058】
全溶解固形物(TDS)は水の導度率を高め、偽応答を発生する。TDS濃度と無関係に応答するセンサが変化の多い環境で有利である。KClの形のTDSに対する応答はpH7.5で2mgl−1の次亜塩素酸溶液に添加することにより研究された。応答は添加によりほとんど変化せず、初期応答の10%以内である。
【0059】
クロラミンに対する電極の応答はなく、遊離塩素のみが測定されることを証明した。電極の水吸収は長期試験で最小であった。現場試験は現場で6ヶ月に渡る電極の安定性を示した。電極は現存する商業的に入手可能な白金センサより汚損に対するより大きな安定性と抵抗性を示した。
【0060】
低濃度処方(すなわち40%(w/w))の主要な利点は、バルク導電材料から作られた電極(a)及び(i)導電機能の主要部が対流境界層厚に匹敵するかまたはそれより大きい大きさのものであり、かつ/または(ii)導電機能の主要部が導電機能の特徴的線状寸法の大きさの一オーダー内であるかまたはその寸法より小さい複合体電極(b)と比べたときの対流領域における拡散限界電流の増加した依存性である。流れにおける拡散限界電流及び典型的に観察される強化電流密度の低依存性は分析及びバッテリー、燃料電池及び電気合成における用途の両方におけるかかる装置の融通性を大きく増大する。化学分析に対しては、主な利点は高度に設計されたフローセルが要求されず、従って現場分析のための器具がより安価であり、より丈夫であり、そしてより信頼性のあるデータを提供することである。対流の数学的解析は技術における最も処置しにくい問題の中に残る。
【0061】
図9に示された結果はエポキシ樹脂中のルテニウム変性炭素粒子(5%Ru)の希薄(40%(w/w))分散体の場合にこれらの利点が実際に明らかであることを示す。この希薄分散体は水溶液中の遊離塩素のためのセンサとして論証可能な用途を持つ。エポキシにおける黒鉛の同様な分散体に対しては、流れ依存性は導電性原子間力顕微鏡により測定される導電機能の大きさ、寸法の分布及び間隔に関係する。この関係は回転ディスク電極ボルタ計法により定量化されることができる。ルテニウム変性炭素エポキシ複合体の三つの異なる組成に対する実験データが図9に示されている。ヘキサアミンルテニウム(III)塩化物(Ru(NHCl)が導電性複合体電極を特徴付けるためのトレーサーとして使用された。なぜならそれは熱力学的に可逆な電子伝達速度論を示し、従って炭素電極の特別の問題である電極表面の化学状態から幾何学的因子が分離されることを可能とするからである。
【0062】
材料及び方法
ルテニウム変性炭素(5%)がAlfaから得られ、ソックスレーでアセトン(AnalAR級)で洗浄され、105℃で12時間乾燥された。ボルタ計実験は水性KCl(0.5moldm−3)中のRu(NH3+(1mmoldm−3、Aldrichが受領のまま使用)であった。参照電極は商業的な水性銀−塩化銀(100mmoldm−3KCl)であり、白金フラッグが対電極としての役目をした。
【0063】
電極本体はPVCから製造されるのが慣習であり、4mm幅の円筒状凹所を中心に持つ2.5cm円筒状マントルからなっていた。Ru−C粉末は脱ガスされたエポキシ樹脂(Araldite CY1301,HY1300、当初はCiba−Geigyにより作られたが、現在はライセンス下に英国のRobnor Resins(Swindon)により作られている)と三つの比:40%(w/w)Ru−C、50%(w/w)Ru−C、60%(w/w)Ru−Cで混合された。各処方は再度減圧下に脱ガスされ、PVC電極本体の円筒状凹所中に詰められ、PTFEマンドレルを用いて圧縮された。製造者の予定表に従って硬化後、電極は詰められた凹所1mm深さを残すように低速度ダイヤモンドのこぎり(Buehler)を用いて表面に平行に引き切られた。最終研磨は2500grit紙やすりにより、続いて0.03μmまでの微細アルミナスラリーにより、鏡面仕上げを得た。電極は回転ディスク電極装置(PAR)中に取り付けられ、電気接続はステンレススチールばねにより確立された。最終洗浄は硫酸(0.5moldm−3)中1Vs−1での酸素及び水素放出のための電位間の電位サイクルによって20分間、続いて水素放出電圧によって15分間行われた。
【0064】
準定常状態ボルタ計記録はルテニウムヘキサアミン溶液中で2mVs−1で記録された。拡散限界定常状態電流は暗電流修正ボルタ計記録から計算された。
【0065】
検討
図9から全ての三つの処方に対するLevich傾斜がバルク導電体(実線)に対するそれ未満であることは明らかである。50%及び60%処方に対する結果は40%(w/w)複合体とは質的に異なる。25s−1未満の速度での傾斜のより低い値は特に重要である。より高い濃度の複合体は同じ回転速度に渡ってLevich線に近づく傾斜を持ち、分離された導電機能がより密に詰め込まれていること及びマイクロ電極アレイ状挙動が40%濃度に対しより明らかであることを追認する。
【0066】
これらの結果はエポキシ樹脂中のRu−C粒子のより希薄な処方がより一般に使用される高導電率分散体より対流に対して不相応に低い感度を示すことを定量的に追認する。これはその小さな寸法とマイクロ電極アレイにより似た挙動をする多くの導電機能の広い間隔のためである。
【0067】
結論
ボルタ計法からの証拠の全体、非ファラデー応答及び走査プローブ顕微鏡研究は全て、希薄導電性金属化炭素−絶縁体複合体がそれらの構造及びボルタ計的挙動において最大導電度のために最適化された複合体とは質的に異なることを追認する。対流に対する減少した応答、強化された質量輸送、変性の容易性及び汚損に対する抵抗性はこれらの材料を電気化学塩素センサへの利用のためにきわめて適したものとする。
【0068】
本発明の金属化複合体電極は多くの利用分野を持ち、最も明白には水処理、食品加工、殺菌器具、外科殺菌、水処理及び廃水処理の携帯現場器械、廃棄流改善、工業流出物の監視と制御、及びスイミングプール監視の利用分野を持つ。
【0069】
電気化学センサより優れる本発明の複合体電極の更なる利用は燃料電池、バッテリーのための一次及び二次電池、電解槽及び電気化学反応器の要素として含む。
【0070】
本発明は上述の複合体電極の特別な機能に限定されない。複合体電極の要素は省略されまたは変更されることができ、本発明の範囲は添付特許請求の範囲から理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】種々の非金属化複合体電極に対するS字形電流電圧曲線を示す。
【図2】図1の電極より希釈された処方を持つ非金属化複合体電極に対する電流電圧曲線を示す。
【図3】ガラス状の炭素電極と比べた60%(w/w)炭素エポキシ複合体電極の撹拌に対する応答を示す。
【図4】種々の非金属化複合体電極組成物の流れに対する感度を示す表である。
【図5】種々の非金属化複合体電極の導電機能の大きさの分布のヒストグラムを示す。
【図6】電位が増加するときの電極反応の同焦点蛍光画像を示す。
【図7】40:60炭素とルテニウム複合体電極を用いたシミュレートされた現場条件試験を示す。
【図8】40:60炭素とルテニウム複合体電極を用いたシミュレートされた現場条件試験を示す。
【図9】回転速度の平方根での拡散限界電流の依存性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化炭素−絶縁体複合体を含むことを特徴とする電極。
【請求項2】
金属化炭素−絶縁体複合体がルテニウム変性炭素−絶縁体複合体であることを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項3】
金属化炭素−絶縁体複合体が白金またはロジウム変性炭素−絶縁体複合体であることを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項4】
金属化炭素−絶縁体複合体が金属化炭素−エポキシ複合体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の電極。
【請求項5】
金属化炭素−絶縁体複合体の金属化炭素の容積率が15から45%の範囲内にあることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の電極。
【請求項6】
電気分解による遊離塩素の検出及び/または測定に使用するための請求項1から5のいずれか一つに記載の電極。
【請求項7】
燃料電池、バッテリーのための一次または二次電池、電解槽及び電気化学的反応器の要素として使用するための請求項1から5のいずれか一つに記載の電極。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の電極の製造方法において、それが金属化炭素−絶縁体複合体の調製を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
金属化炭素−絶縁体複合体がルテニウム変性炭素−絶縁体複合体であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
金属化炭素−絶縁体複合体から作られた電極を組入れている遊離塩素センサ。
【請求項11】
金属化炭素−絶縁体複合体がルテニウム変性炭素−絶縁体複合体であることを特徴とする請求項10に記載の遊離塩素センサ。
【請求項12】
並列に配置された二つまたはそれ以上の電極があることを特徴とする請求項10または11に記載の遊離塩素センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−515652(P2007−515652A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546317(P2006−546317)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国際出願番号】PCT/GB2004/005406
【国際公開番号】WO2005/062405
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(506214954)ユニヴァーシティ オブ ブライトン (4)
【出願人】(599008621)インペリアル イノベーションズ リミテッド (25)
【出願人】(506215146)トップライン エレクトロニクス リミテッド (1)