説明

電気化学式ガス検知装置

【課題】 演算増幅器を有する駆動検知回路を備え、ガスセンサに高い濃度の被検ガスが作用されたときにも、ガスセンサに印加される動作電圧が安定に維持されて正常な動作状態が維持される電気化学式ガス検知装置を提供すること。
【解決手段】 この電気化学式ガス検知装置は、ガスセンサと、ガスセンサに定電位の動作電圧を印加し、ガスセンサよりの出力電流信号を受けて出力電圧信号を出力する、負帰還回路を有する演算増幅器と、中央処理装置とを備えてなり、演算増幅器の負帰還回路に並列に接続された、分流抵抗と開閉スイッチ素子との直列回路よりなる分流回路を有し、開閉スイッチ素子は、演算増幅器よりの出力電圧信号の電位が、演算増幅器の駆動電源電圧の電位より低い閉成電位値以上の状態で閉成され、当該出力電圧信号の電位が、当該閉成電位値またはそれより低い開成電位値以下の状態で開成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定電位型の電気化学式ガスセンサを具えてなる電気化学式ガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、2極式の電気化学式の定電位ガスセンサを具えてなる電気化学式ガス検知装置においては、演算増幅器を利用する電流−電圧変換回路により、当該ガスセンサの2つの電極に一定の電位差をもつ電圧を印加して動作状態に維持しながら、ガスセンサからの出力電流信号を電圧信号に変換し、この電圧信号により、当該ガスセンサに供給されたガスにおける被検ガスの濃度が検知される。
【0003】
図2は、従来の電気化学式ガス検知装置における駆動検知回路の構成を示す説明用回路図である。この図2において、10は2極式の電気化学式の定電位ガスセンサ(以下、単に「ガスセンサ」ともいう。)、20は中央処理装置であって、ガスセンサ10の2つの電極は演算増幅器12のプラス側入力端子aおよびマイナス側入力端子bに接続されており、演算増幅器12には、その出力端子cとマイナス側入力端子bとの間に、温度補償用サーミスタ14と負帰還抵抗16とが直列に接続された負帰還回路が接続されている。そして、演算増幅器12の出力端子cは中央処理装置20に接続されている。30は直流電源である。
【0004】
このような構成の駆動検知回路を有する電気化学式ガス検知装置においては、演算増幅器12がその駆動電源(図示せず)により例えば3.3Vの直流電圧で駆動され、ガスセンサ10の2つの電極間に、設定された電位(具体的には例えば0V)の動作電圧が印加され、これにより、当該ガスセンサ10が動作状態とされる。
そして、この動作状態にあるガスセンサ10に被検ガスが作用されると、その濃度に応じた大きさの電流信号がガスセンサ10から出力されて演算増幅器12のプラス側入力端子aに入力され、その出力端子cに得られる増幅された出力電圧信号が中央処理装置20に入力され、これにより、この中央処理装置20において、当該被検ガス濃度を示すガス検知結果が得られ、これが例えば表示装置(図示せず)に表示される。
【0005】
しかしながら、このような電気化学式ガス検知装置においては、ガスセンサ10に作用されるガスが、予定の検知濃度範囲を超える過度に高い濃度の被検ガスを含むものであって、演算増幅器12からの出力電圧信号の電位が、当該演算増幅器12それ自体の駆動電圧(例えば3.3V)を超える場合には、当該負帰還回路を含む演算増幅器12の動作特性から、ガスセンサ10の電極間に印加される動作電圧が大きく変動して目的とする大きさの設定電位(具体的には0V)に維持されず、いわゆる「ゼロドリフトが生じた状態」となり、しかも、このゼロドリフトが生じた状態は、被検ガス濃度が予定の検知濃度範囲に戻ったときにも直ちに元の状態に復帰されずに相当に長い復帰時間を要し、この復帰期間中は、当該電気化学式ガス検知装置によるガス検知を行うことができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、演算増幅器を有する駆動検知回路を備え、電気化学式ガスセンサに高い濃度の被検ガスが作用されたときにも、いわゆるゼロドリフトが生じた状態となることが回避され、当該電気化学式ガスセンサに印加される動作電圧が安定に維持されて正常な動作状態が維持される電気化学式ガス検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気化学式ガス検知装置は、電気化学式のガスセンサと、このガスセンサに定電位の動作電圧を印加すると共に、当該ガスセンサよりの出力電流信号を受けて出力電圧信号を出力する演算増幅器と、この演算増幅器に接続された負帰還抵抗を有する負帰還回路と、前記演算増幅器からの出力電圧信号を受け、前記ガスセンサに作用された被検ガスの濃度に対応したガス検知結果を出力する中央処理装置とを備えてなり、
前記演算増幅器の負帰還回路に並列に接続された、分流抵抗と開閉スイッチ素子との直列回路よりなる分流回路を有し、
前記開閉スイッチ素子は、前記演算増幅器よりの出力電圧信号の電位が、当該演算増幅器の駆動電圧の電位より低い、設定された閉成電位値以上の状態でオン状態とされ、当該出力電圧信号の電位が、当該閉成電位値またはそれより低い、設定された開成電位値以下の状態でオフ状態とされることを特徴とする。
【0008】
本発明の電気化学式ガス検知装置において、演算増幅器の負帰還回路が温度補償用サーミスタを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気化学式ガス検知装置によれば、ガスセンサに過度に高い濃度の被検ガスが作用されて演算増幅器よりの出力電圧信号の電位が閉成電位値以上となったときには、分流回路の開閉スイッチ素子が閉成されることにより、分流抵抗を有する分流回路が演算増幅器の負帰還回路と並列に接続された状態となるため、当該演算増幅器の正常な動作状態が維持されてガスセンサの電極に印加される動作電圧が変動することが抑止され、その結果、ガスセンサに過度に高い濃度の被検ガスが作用されたときにも、当該電気化学式ガス検知装置が異常な動作状態となることが回避され、その正常な動作状態が維持される。
【0010】
また、被検ガスの濃度が通常の濃度範囲となったときには、開閉スイッチ素子が開成されることにより、当該電気化学式ガス検知装置は、直ちに平常の状態に復帰するので、ガス検知装置が測定不能となることが回避される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面によって本発明の具体的な一例について説明する。
図1は、本発明の電気化学式ガス検知装置における駆動検知回路の構成を示す説明用回路図である。
図1において、10は2極式電気化学式の定電位ガスセンサ、12は演算増幅器、20は中央処理装置であって、演算増幅器12は図示されていない直流駆動電源によって駆動される構成とされている。
ガスセンサ10の2つの電極は、演算増幅器12のプラス側入力端子aおよびマイナス側入力端子bに接続されており、演算増幅器12には、その出力端子cとマイナス側入力端子bとの間に、温度補償用サーミスタ14と負帰還抵抗16とが直列に接続されてなる負帰還回路が接続されており、演算増幅器12の出力端子cは中央処理装置20に接続されている。30は直流電源である。
【0012】
そして、温度補償用サーミスタ14と負帰還抵抗16とよりなる演算増幅器12の負帰還回路の両端には、当該負帰還回路と並列に、分流抵抗22と双方向開閉スイッチ素子24との直列回路により構成された分流回路26が接続されている。開閉スイッチ素子24は、中央処理装置20からの指令信号により、開閉制御される。
【0013】
中央処理装置20は、演算増幅器12からの出力電圧信号を受けて、当該出力電圧信号の電位(図1の接続点Xにおける電位)の大きさが、演算増幅器12の駆動電圧より若干低い、設定された閉成電位値またはそれ以上となったときに、開閉スイッチ素子24を閉成してオン状態とする閉成信号を発すると共に、演算増幅器12からの出力電圧信号の大きさが、前記閉成電位値またはそれより低い、設定された開成電位値またはそれ以下となったときに、開閉スイッチ素子24を開成してオフ状態とする開成信号を発する機能を有する構成とされている。
【0014】
以上において、負帰還回路を構成する温度補償用サーミスタ14は、演算増幅器12の出力電圧信号を、そのときの環境温度に応じて補償する機能を有する。ガスセンサ10よりの出力電流信号は、被検ガス濃度が同じであっても、環境の温度条件によって変動するが、この温度補償用サーミスタ14が設けられていることにより、演算増幅器12から温度補償された出力電圧信号が得られる。
【0015】
また、分流回路26における開閉スイッチ素子24としては、双方向アナログスイッチ素子を用いることが好ましい。
【0016】
以上のような構成の電気化学式ガス検知装置において、具体的な回路条件の一例を示すと、演算増幅器12の駆動電圧は3.3V、ガスセンサ10の電極に印加される定電位電圧は0Vであり、閉成電位値は3.0Vに設定されており、開成電位値は、平常動作モードにおいて3.0Vに相当する高濃度動作モードにおける1.0Vに設定されている。
分流回路26を構成する分流抵抗22の抵抗値の大きさは、開閉スイッチ素子24が仮にオフ状態のままであれば演算増幅器12からの出力電圧信号が3.3Vとなる条件において、開閉スイッチ素子24がオン状態とされることにより、演算増幅器12からの出力電圧信号が例えば1.0Vとなる抵抗値とされている。
【0017】
また、中央処理装置20は、オン状態にある開閉スイッチ素子24に対して、演算増幅器12からの出力電圧信号の電位が、設定された開成電位値またはそれより低い値となったときに開成指令信号を発する機能を有する構成とされており、この開成電位値は例えば3.0Vとされており、閉成電位値と同一である。
【0018】
本発明の電気化学式ガス検知装置は以上のような構成であって、その動作は次のとおりである。
ガスセンサ10の2つの電極には、駆動検知回路により、例えば0Vの定電位電圧が印加されることにより、当該ガスセンサ10が動作状態とされている。
この動作状態において、ガスセンサ10に供給されるガスに被検ガス、例えば一酸化炭素ガスが含まれている場合には、当該被検ガスの濃度に応じた出力電流信号がガスセンサ10から出力され、この出力電流信号が演算増幅器12のプラス側入力端子aに入力されることにより、演算増幅器12の出力端子cからは、当該出力電流信号が増幅された出力電圧信号が出力され、これが中央処理装置20に入力される。
【0019】
当該中央処理装置20においては、作用されたガス中の被検ガスの濃度に応じたガス検知結果が、例えば予め当該回路条件において求めておいた平常動作モード用の検量線と対照することにより、被検ガス濃度信号として出力され、この検知結果が、例えば表示装置(図示せず)により表示される。
【0020】
そして、平常状態においては当該電気化学式ガス検知装置は平常動作モードであり、この状態では、ガスセンサ10に作用されるガス中の被検ガスの濃度が高くなると、ガスセンサ10の出力電流信号のレベルが高くなってこれに応じて演算増幅器12からの出力電圧信号の電位が高くなるが、その大きさは閉成電位値、例えば3.0Vまたはそれ未満である。この平常動作モードでは、分流回路26の開閉スイッチ素子24はオフ状態に維持されている。
【0021】
然るに、被検ガスの濃度が過度に高くなると、それに応じて演算増幅器12からの出力電圧信号の電位も高いものとなり、当該出力電圧信号の電位が設定された閉成電位値である3.0Vに達すると、中央処理装置20は、これを検知することにより、分流回路26の開閉スイッチ素子24に閉成指令信号を発し、これにより、分流回路26の開閉スイッチ素子24が閉成されてオン状態となり、当該ガス検知装置が高濃度動作モードに切り替えられる。
【0022】
この高濃度動作モードにおいては、開閉スイッチ素子24がオン状態であって演算増幅器12の負帰還回路と並列に接続された分流回路26にも電流が流れる状態となる結果、演算増幅器12のゲインが小さくなるために、当該演算増幅器12の出力端子cにおける出力電圧信号の電位値が1.0Vと低くなり、正常な動作状態における出力電圧信号の範囲内の大きさとなる。
【0023】
このように、演算増幅器12の出力端子cにおける出力電圧信号の電位値が、その駆動電圧以上の大きさとなることが防止される結果、演算増幅器12は異常な動作状態となることが回避され、正常な動作状態が継続して維持される。
従って、この高濃度動作モードにおいて、その状態の回路条件において予め求めておいた高濃度動作モード用の検量線と対照することにより、目的とする被検ガスの濃度を求めることができる。
【0024】
高濃度動作モードの状態において、ガスセンサ10に作用される被検ガスの濃度が平常状態の大きさとなって、演算増幅器12の出力電圧信号が開成電位値である1.0V(平常動作モードの3.0Vに相当する)より低い値となると、中央処理装置20からの開成指令信号により開閉スイッチ素子24が開成されてオフ状態となり、これにより、分流回路26が非接続の状態とされ、その結果、当該電気化学式ガス検知装置は、高濃度動作モードから直ちに平常の動作状態である平常動作モードに復帰し、継続して被検ガスの検知が行われる。
【0025】
以上のように、本発明の電気化学式ガス検知装置によれば、作用されるガス中の被検ガスの濃度が過度に高い場合には、演算増幅器12よりの出力電圧信号が演算増幅器12の駆動電圧より低い閉成電位値となったときには、演算増幅器12の負帰還回路に並列に分流回路26が接続されて高濃度動作モードとされ、その結果、当該演算増幅器12の正常な動作状態が維持され、ガスセンサ10の電極に所期の大きさの定電位電圧が印加されるので、正常なガス検知を継続することができる。
【0026】
そして、演算増幅器12の出力電圧信号が低くなってその大きさが開成電位値またはそれより低くなったときには、開閉スイッチ素子24が閉成されることにより、直ちに当該電気化学式ガス検知装置は平常動作モードに復帰するので、そのまま所期のガス検知を行うことができる。
【0027】
本発明において、開閉スイッチ素子24の閉成電位値は、演算増幅器12の駆動電圧の大きさより若干低い値とされることが必要であり、これにより、演算増幅器12の出力電圧信号の電位がその駆動電圧の大きさ以上となることが確実に防止される。両者の差が小さすぎると、所期の動作結果を得ることができないおそれがある。上記のように、演算増幅器12の駆動電圧が3.3Vである場合に、閉成電位値は例えば2.8〜3.1Vの範囲内の値とされることが好ましい。
【0028】
一方、開閉スイッチ素子24の開成電位値は、上記の閉成電位値と同一の電位値であってもよいが、それより若干低い電位値であってもよい。
【0029】
以上、本発明の一例について説明したが、本発明においては、種々変更を加えることが可能である。
例えば、分流回路は一つのみでなく、複数段の分流回路を設けることができる。この場合には、当然のことながら、複数の分流回路の開閉スイッチ素子の各々について、その開成電位値および閉成電位値はそれぞれ異なるものとされる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の電気化学式ガス検知装置における駆動検知回路の一例の構成を示す説明用回路図である。
【図2】従来の電気化学式ガス検知装置における駆動検知回路の構成を示す説明用回路図である。
【符号の説明】
【0031】
10 定電位ガスセンサ
12 演算増幅器
a プラス側入力端子
b マイナス側入力端子
c 出力端子
14 温度補償用サーミスタ
16 負帰還抵抗
20 中央処理装置
22 分流抵抗
24 双方向開閉スイッチ素子
26 分流回路
30 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学式のガスセンサと、このガスセンサに定電位の動作電圧を印加すると共に、当該ガスセンサよりの出力電流信号を受けて出力電圧信号を出力する演算増幅器と、この演算増幅器に接続された負帰還抵抗を有する負帰還回路と、前記演算増幅器からの出力電圧信号を受け、前記ガスセンサに作用された被検ガスの濃度に対応したガス検知結果を出力する中央処理装置とを備えてなり、
前記演算増幅器の負帰還回路に並列に接続された、分流抵抗と開閉スイッチ素子との直列回路よりなる分流回路を有し、
前記開閉スイッチ素子は、前記演算増幅器よりの出力電圧信号の電位が、当該演算増幅器の駆動電圧の電位より低い、設定された閉成電位値以上の状態でオン状態とされ、当該出力電圧信号の電位が、当該閉成電位値またはそれより低い、設定された開成電位値以下の状態でオフ状態とされることを特徴とする電気化学式ガス検知装置。
【請求項2】
演算増幅器の負帰還回路が温度補償用サーミスタを含むことを特徴とする請求項1に記載の電気化学式ガス検知装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−229254(P2009−229254A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75263(P2008−75263)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)