電気化学測定用電極およびその製造方法
【課題】接近させた2つの電極を用いる電気化学的測定で、電極パターンをあまり微細化することなく、高感度化ができるようにする。
【解決手段】まず、ステップS101で、絶縁層の上に金属層を形成する。次に、ステップS102で、炭素材料の小片が分散した分散溶液を金属層の上に塗布して金属層の上に炭素材料からなる炭素層を形成する。次に、ステップS103で、金属層および炭素層をパターニングし、交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極の上に炭素材料の層が形成された状態とする。
【解決手段】まず、ステップS101で、絶縁層の上に金属層を形成する。次に、ステップS102で、炭素材料の小片が分散した分散溶液を金属層の上に塗布して金属層の上に炭素材料からなる炭素層を形成する。次に、ステップS103で、金属層および炭素層をパターニングし、交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極の上に炭素材料の層が形成された状態とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的な測定で用いられる電気化学測定用電極およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学法に基づく分析やバイオセンサーにおいては、より低濃度の目的物質を高感度に測定する技術が重要である。高感度な測定を行う技術として、作用電極をμmオーダで近設して構成した2つの電極(ジェネレータ電極とコレクター電極)から構成する技術がある(特許文献1,非特許文献1参照)。この技術では、電気化学的な酸化還元サイクルを電極上に発生させ、1つの検出目的分子から繰り返し酸化還元電流を取り出すことで、見かけ上の電流値を増大させ、高感度な測定を可能としている。このような電極構造を用いることで、高感度な電気化学検出が可能であり、また、これを利用した高感度バイオセンサーの実現が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−272958号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C.E. Chidsey et al. , "Micrometer-Spaced Platinum Interdigitated Array Electrode: Fabrication, Theory, and Initial Use", Anal. Chem. , vol.58, pp.601-607, 1986.
【非特許文献2】K.Hayashi et al. , "Development of Nanoscale Interdigitated Array Electrode as Electrochemical Sensor Platform for Highly Sensitive Detection of Biomolecules", Journal of The Electrochemical Society, vol.155, no.9, pp.J240-J243, 2008.
【非特許文献3】S.Yang et al. , "Controllable Adsorption of Reduced Graphene Oxide onto Self-Assembled Alkanethiol Monolayers on Gold Electrodes: Tunable Electrode Dimension and Potential Electrochemical Applications", J. Phys. Chem. C, vol.114, pp.4389-4393, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したように、μmオーダで接近させた2つの電極を用いてより高感度な検出を行うためには、目的物質を枯渇させることなく酸化還元サイクルを電極上に発生させることが重要である。例えば、ジェネレータ電極で反応した中間物質が拡散や輸送によってコレクター電極に到達する前に不活性化すると、十分な酸化還元サイクルが発生できず、高感度化がはかれない。
【0006】
この高感度化の度合いは、(還元電流値)/(酸化電流値)×100であらわされる捕捉率が指標とされている。この値が高ければ、ジェネレータ電極で反応した中間物質が電気化学活性を保ったままコレクター電極に到達し、酸化還元サイクルによって見かけ上の電流値が増大する。捕捉率を高めるには、電極幅をより微小にし、電極間隔をより近づけることで、目的物質や中間物質の拡散距離を短くすることが有効である(非特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、例えばμmオーダより小さいなど、より微細な電極パターンの形成は容易ではなく、最先端の高度な製造技術が必要となる。また、電極パターンの微細化により、再現性よく寸法の揃った電極を得ることが難しくなる。当然ながら、電極パターンの微細化には限界がある。このように、電極パターンの微細化による高感度化は、容易ではないという問題がある。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、接近させた2つの電極を用いる電気化学的測定で、電極パターンをあまり微細化することなく、高感度化ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電気化学測定用電極の製造方法は、絶縁層の上に金属層を形成する第1工程と、炭素材料の小片が分散した分散溶液を金属層の上に塗布して金属層の上に炭素材料からなる炭素層を形成する第2工程と、金属層および炭素層をパターニングし、2つの電極の上に炭素材料の層が形成された状態とする第3工程とを少なくとも備える。
【0010】
上記電気化学測定用電極の製造方法において、金属層および炭素層のパターニングは、リフトオフ法により行えばよい。
【0011】
本発明に係る電気化学測定用電極の製造方法は、絶縁層の上に2つの電極を形成する第1工程と、炭素材料の小片が分散した分散溶液を2つの電極が形成された絶縁層の上に塗布して炭素材料の層を形成する第2工程とを少なくとも備え、分散溶液は、2つの電極の間隔より小さい寸法の炭素材料の小片が分散したものである。
【0012】
上記電気化学測定用電極の製造方法において、電極を金から構成し、炭素材料の層を形成する前に、電極の表面にチオール基を有する有機化合物から構成されたバインダー層を形成する工程を備えるようにしてもよい。
【0013】
上記電気化学測定用電極の製造方法において、炭素材料を酸化してから分散溶液を作製し、酸化された炭素材料の小片を還元することで電極の上に炭素材料の層が形成された状態としてもよい。なお、炭素材料は、グラフェンおよびグラファイトの少なくとも1つから構成されたものであればよい。
【0014】
上記電気化学測定用電極の製造方法において、2つの電極は、例えば、交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極である。
【0015】
本発明に係る電気化学測定用電極は、絶縁層の上に形成された2つの電極と、2つの電極の上に形成された炭素材料の層とを少なくとも備え、炭素材料は、グラフェンおよびグラファイトの少なくとも1つから構成されたものである。
【0016】
上記電気化学測定用電極において、炭素材料の層は、炭素材料の小片から構成されたものである。また、2つの電極は、例えば、交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、炭素材料の小片が分散した分散溶液を用いて2つの電極の上に炭素材料の層を形成するので、接近させた2つの電極を用いる電気化学的測定で、電極パターンをあまり微細化することなく、高感度化ができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するフローチャートである。
【図2A】図2Aは、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図2C】図2Cは、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図2D】図2Dは、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図2E】図2Eは本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の一部構成を示す平面図である。
【図3】図3は、電気化学測定用電極のチップの構成を示す構成図である。
【図4】図4は、電気化学測定用電極のチップの構成を示す斜視図である。
【図5】図5は、実施例1の櫛形電極におけるpAPの酸化反応および還元反応を示す限界電流の観察結果を示す特性図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するフローチャートである。
【図7A】図7Aは、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図7B】図7Bは、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図7C】図7Cは、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図7D】図7Dは、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図8】図8は、実施例2の櫛形電極におけるpAPの酸化反応および還元反応を示す限界電流の観察結果を示す特性図である。
【図9】図9は、実施例3の櫛形電極におけるRu(NH3)62+の酸化反応および還元反応を示す応答の観測結果を示す特性図である。
【図10】図10は、本発明に係る電気化学測定用電極の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0020】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するフローチャートである。以下では、2つの電極が交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極で構成されている場合について説明する。
【0021】
この製造方法は、まず、ステップS101で、絶縁層の上に金属層を形成する。次に、ステップS102で、炭素材料の小片が分散した分散溶液を金属層の上に塗布して金属層の上に炭素材料からなる炭素層を形成する。次に、ステップS103で、金属層および炭素層をパターニングし、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極の上に炭素材料の層が形成された状態とする。
【0022】
この製造方法によれば、電気化学測定で用いる櫛形電極が、この上に炭素材料の層を備えて形成されるようになる。炭素材料の層は、炭素材料の小片から構成されている。このように、櫛形電極の上に炭素材料の層を形成することで、櫛形電極の寸法などを変更(より微細化)することなく高感度化ができるようになる。
【0023】
単一の作用電極の上に、単層または2〜10層の多層グラフェン、グラファイト、これらの還元誘導体のいずれかの層を形成(固定化)することで、高感度化ができることについては報告されている(非特許文献3参照)。この技術では、上述した炭素材料を塗布することで形成している。しかしながら、μmオーダで接近させた構造を有する櫛形電極においては、上述したように炭素材料を塗布すると、電極部分の上に炭素材料の層が形成できるが、電極間にまたがるように炭素材料の層が形成され、電気化学的に短絡した状態となる。このように、2つの櫛形電極間が短絡しては、電気化学的な酸化還元サイクルを電極上に発生させることができず、高感度化は実現できない。
【0024】
これに対し、本実施の形態によれば、櫛形電極の部分に選択的に炭素材料の層が形成されるので、2つの櫛形電極間が短絡することがなく、電気化学的な酸化還元サイクルを電極上に発生させることができる。また、電極の上に炭素材料の層が形成されるので、櫛形電極を用いた電気化学的測定で、櫛形電極の電極パターンをあまり微細化することなく、高感度化ができるようになる。
【0025】
以下、本実施の形態における製造方法について、図2A〜図2Eを用いてより詳細に説明する。図2A〜図2Dは、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための各工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。また、図2Eは、電気化学測定用電極の一部構成を示す平面図である。
【0026】
まず、図2Aに示すように、絶縁層201の上にレジストパターン層202を形成する。レジストパターン層202は、後述する櫛形電極を形成する箇所に開口部を備えている。次に、レジストパターン層202の上より、例えばスパッタ法などの堆積法により金属を堆積することで、図2Bに示すように、絶縁層201およびレジストパターン202の上に金属層203を形成する。
【0027】
次に、炭素材料の小片が分散した分散溶液を塗布することで、図2Cに示すように、レジストパターン層202を覆って絶縁層201の上に形成されている金属層203の上に、炭素層204を形成する。この後、レジストパターン層202を除去することで、この上に形成されている金属層203および炭素層204を選択的に除去する。このリフトオフにより、図2Dおよび図2Eに示すように、交互に入り込んで対向配置されて対となる櫛形電極205,206の上に、炭素材料の層207が形成された状態が得られる。
【0028】
次に、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0029】
[実施例1]
まず、板厚0.5mmの石英基板を用意する。石英基板は絶縁材料からなる基板である。この石英基板の上に、電子線レジストを塗布し、層厚0.5mmのレジスト層を形成する。次に、レジスト層を形成した石英基板を、80℃・60分の加熱条件によりプリベークする。この加熱は、例えば、オーブンを用いて行えばよい。
【0030】
次に、プリベークしたレジスト層を、電子線リソグラフィー技術でパターニングする。まず、上記石英基板を電子線露光装置の露光室に搬入し、櫛形電極を形成する箇所に開口が形成される形状のパターンに露光する。また、露光の後に現像を行い、レジストパターン層を形成する。形成したレジストパターン層のパターンの寸法は、例えば、櫛形電極の櫛歯の部分の長さを2mm、幅を10μmとした。また、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極パターンの対向する櫛歯の間隔(電極間隔)は、0.5μmとした。
【0031】
次に、石英基板および形成したパターンの上に金属層を形成する。例えば、真空蒸着装置により、まず、層厚10nmのチタン層を形成し、この上に層厚100nmの金層を形成する。チタン層を介して金層を形成することで、金層の剥がれを抑止する。
【0032】
次に、上述した金属層(金層)の上に炭素材料の小片が分散した分散溶液を塗布する。例えば、炭素材料としては、グラファイトを化学的に酸化することで形成した酸化グラフェンを用いる。より詳細に説明すると、まず、ボールミルで粉砕した天然グラファイト(1g)と濃硫酸(34.5ミリリットル)とを混合し、撹拌子ながらこの混合物中に硝酸ナトリウム(0.75g)を加える。これらの混合物を氷冷下におき、さらに、過マンガン酸カリウム(4.5g)を徐々に加え、撹拌を2時間継続する。この後、混合物を室温に戻し、さらに、5日間撹拌を続ける。この結果、濃灰色の生成物が得られる。
【0033】
次に、得られた生成物に、5%希硫酸(100ミリリットル)、過酸化水素水(3ミリリットル)を加え撹拌して液状とした後、これをさらに過剰量の硫酸(3%)/過酸化水素水(0.5%)混合溶液中に分散し、遠心分離により沈殿物を分取する。引き続き、沈殿物に純水を加えて分散し、遠心分離により沈殿物を分取する。これらのことにより、最終生成物として、濃褐色の油状物質として酸化グラフェンが得られる。
【0034】
以上のようにして得られた酸化グラフェンを、純水に加えて撹拌することで、炭素材料(酸化グラフェン)が分散した分散溶液(均一分散水溶液)が得られる。ここで、濃度は、0.01〜0.1wt%程度とすればよい。得られた分散水溶液は、茶褐色となる。この分散溶液中の物質は、原子間力顕微鏡観察およびラマン分光分析から、単層〜3層の酸化グラフェンの小片(膜片)が主要成分であることが確認されている。
【0035】
次に、分散溶液(約0.1wt%水溶液)を、レジストパターン層およびこの上に金属層を形成してある石英基板に、塗布する。例えば、スピンコート法により塗布すればよい。この塗布により、分散されていた炭素材料が金属層の上に付着して固定され、炭素層が形成できる。上述したように、炭素材料を酸化体としてあるので、分散溶液においては均一に炭素材料の小片が分散した状態が得られ、この分散溶液を塗布しているので、金属層の上には、炭素材料の小片からなる炭素層が均一に形成できる。
【0036】
次に、レジストパターン層,金属層,および炭素層を形成した石英基板を、35%ヒドラジン水溶液および28%アンモニア水溶液が体積比7:10で混合された溶液とともに密閉容器に封入する。これにより、炭素層がヒドラジン/アンモニア蒸気に晒される状態となる。この状態を95℃で1時間静置することで、金属層の表面に形成した炭素層の炭素材料を還元することができる。この還元により、炭素層は、単層〜3層の酸化グラフェンを還元したグラフェン(酸化グラフェン還元体)から構成されたものとなる。
【0037】
以上のように炭素層を還元した後、石英基板をメチルエチルケトン中に浸漬し、また、超音波処理を行い、レジストパターン層を剥離する。この剥離によりレジストパターン層の上の金属層および炭素層が選択的に除去され(リフトオフ)、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極の上に、炭素材料の層が形成された状態が得られる。
【0038】
次いで、石英基板の上に、スピンコート法によりスピンオングラスを塗布し、450℃で熱硬化し、絶縁保護膜を形成する。次に、再度、電子線レジストを塗布し、層厚0.5mmのレジスト層を形成する。次に、レジスト層を形成した石英基板を、80℃・60分の加熱条件によりプリベークする。次に、プリベークしたレジスト層を、電子線リソグラフィー技術でパターニングする。
【0039】
まず、上記石英基板を電子線露光装置の露光室に搬入し、露光する。また、露光の後に現像を行い、レジストパターン層を形成する。このレジストパターン層により、上述した櫛形電極および石英基板上の他の領域に形成した参照電極の一部、対向電極の一部が、被覆された状態とする。
【0040】
次に、上述したレジストパターン層をマスクとし、CF4ガスによる反応性イオンエッチング処理により、絶縁保護膜を選択的にエッチング除去し、櫛形電極、参照電極の一部、対向電極の一部が露出され、これらを除く他の領域が、絶縁保護膜で被覆保護された状態とする。
【0041】
上述したことにより、図3に示す電気化学測定用電極のチップ(電極チップ304)を形成した。電極チップ304は、櫛歯部で対向する2つの櫛形電極からなる作用電極301,対向電極302,および参照電極303を備える。各電極は、ポテンシオスタット305およびクーロメータ306に接続されている。また、ポテンシオスタット305およびクーロメータ306は、レコーダ307に接続されている。ポテンシオスタット305により、作用電極301と参照電極303との間の電圧が設定した値となるように、作用電極301と対向電極302に流れる電流を制御し、クーロメータ306で、作用電極301に流れる電流を測定する。
【0042】
電極チップ304は、例えば、図4の斜視図に示すように、板厚0.5mmで12×20(mm)の基板300の上に、作用電極301,対向電極302,および参照電極303が配置されている。例えば、図4の斜視図に示すように、ビュレット401より、作用電極301の櫛歯部で対向する2つの櫛形電極の部分に試料を滴下する。また、作用電極301には、電極端子301aおよび電極端子302bが接続し、対向電極302には、電極端子302aが接続し、参照電極303には電極端子303が接続している。上述した櫛歯部で対向する2つの櫛形電極より構成された作用電極301を用いることで、よく知られたレドックスサイクルによる増幅効果を利用できる。
【0043】
上述した電極チップを用い、酵素反応により得られる電気化学活性種の電気化学検出を行った。酵素にはアルカリフォスファターゼ(ALP)を用い、基質としてp−アミノフェニルホスフェート(pAPP)を反応させ、反応生成物であるp−アミノフェノール(pAP)の酸化還元反応を電極上で検出した。リード線を介して各電極端子をバイポテンシオスタット(ポテンシオスタット305)に接続し、対となる一方の櫛形電極を−0.3Vから0.3Vまで50mV/secの電位走査し、他方の櫛形電極は電位−0.3Vに固定し、各々の電極の応答電流を測定した。
【0044】
一方の櫛形電極においては、pAPの酸化反応を示し、他方の櫛形電極では還元反応を示す限界電流が観測された。図5に示すように、一方の櫛形電極および他方の櫛形電極のピーク電流値の大きさ(実線)は、炭素材料の層のない金から構成された同形の櫛形電極を用いた場合(点線)と比較して、約2倍以上に増加した。さらに、両者の電流値の大きさから、一方の櫛形電極で酸化されたpAP分子のうち、他方の櫛形電極で還元反応を起こした分子の割合(捕捉率)は97%であることが分かり、炭素材料の層が形成されていない同形の櫛形電極を用いた場合と比較して、13%ほど高い捕捉率が得られた。
【0045】
捕捉率の向上の度合いは、かみ合った櫛形電極の形状を、長さ2mm、電極幅2μm、電極間隔2μmとした場合にほぼ匹敵する。このように、本実施の形態1(実施例1)によれば、櫛形電極を用い、この電極表面に炭素材料の層を形成することで、反応速度や拡散速度を高めることができ、電極幅や電極間隔を微小化することなく捕捉率が向上し、高感度な測定が可能になる。
【0046】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図6は、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するフローチャートである。この製造方法は、まず、ステップS601で、絶縁層の上に交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極を形成する。次に、ステップS602で、炭素材料の小片が分散した分散溶液を2つの櫛形電極が形成された絶縁層の上に塗布して炭素材料の層を形成する。ここで、分散溶液は、2つの櫛形電極の間隔より小さい寸法の炭素材料の小片が分散したものとする。なお、小片の寸法とは、小片の最も長い箇所の寸法のことを意味する。
【0047】
この製造方法によれば、前述した実施の形態1と同様に、電気化学測定で用いる櫛形電極が、この上に炭素材料の層を備えて形成されるようになる。このように、櫛形電極の上に炭素材料の層を形成することで、櫛形電極の寸法などを変更することなく高感度化ができるようになる。
【0048】
本実施の形態2によれば、櫛形電極の部分とともに櫛形電極以外の領域、例えば、2つの櫛形電極の間にも炭素材料が存在する状態となる。しかしながら、炭素材料の小片の寸法は、櫛形電極の間隔より小さいものとしているので、電極間に存在する炭素材料の小片により、電極間が接続(短絡)することがない。このように、本実施の形態2においても、前述した実施の形態1と同様に、2つの櫛形電極間を短絡させることがなく、電気化学的な酸化還元サイクルを電極上に発生させることができる。また、電極の上に炭素材料の層が形成されるので、櫛形電極を用いた電気化学的測定で、櫛形電極の電極パターンをあまり微細化することなく、高感度化ができるようになる。
【0049】
以下、本実施の形態2における製造方法について、図7A〜図7Dを用いてより詳細に説明する。図7A〜図7Dは、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための各工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【0050】
まず、図7Aに示すように、絶縁層701の上にレジストパターン層702を形成する。レジストパターン層702は、後述する櫛形電極を形成する箇所に開口部を備えている。次に、レジストパターン層702の上より、例えばスパッタ法などの堆積法により金属を堆積することで、図7Bに示すように、絶縁層701およびレジストパターン層702の上に金属層703を形成する。
【0051】
次に、レジストパターン層702を除去することで、この上に形成されている金属層703を選択的に除去する。このリフトオフにより、図7Cに示すように、交互に入り込んで対向配置された対となる2つの櫛形電極705,706が形成される。
【0052】
次に、櫛形電極704,706が形成された絶縁層703の上に、炭素材料が分散した分散溶液を塗布する。分散溶液は、2つの櫛形電極の間隔より小さい寸法の炭素材料の小片が分散したものとする。この塗布により、図7Dに示すように、複数の炭素材料の小片(膜片)707からなる炭素材料の層708が形成される。複数の小片707が、絶縁層703および櫛形電極704,706の上の全域に形成される。しかしながら、小片707の寸法が、電極の間隔より小さいので、電極間に存在する小片707により、電極が短絡することがない。
【0053】
次に、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0054】
[実施例2]
以下、実施例2について説明する。まず、板厚0.5mmの石英基板を用意する。石英基板は絶縁材料からなる基板である。この石英基板の上に、電子線レジストを塗布し、層厚0.5mmのレジスト層を形成する。次に、レジスト層を形成した石英基板を、80℃・60分の加熱条件によりプリベークする。この加熱は、例えば、オーブンを用いて行えばよい。
【0055】
次に、プリベークしたレジスト層を、電子線リソグラフィー技術でパターニングする。まず、上記石英基板を電子線露光装置の露光室に搬入し、櫛形電極を形成する箇所に開口が形成される形状のパターンに露光する。また、露光の後に現像を行い、レジストパターン層を形成する。形成したレジストパターン層のパターンの寸法は、櫛形電極の櫛歯の部分の長さを2mm、幅を2μmとした。また、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極パターンの対向する櫛歯の間隔(電極間隔)は、2μmとした。
【0056】
次に、石英基板および形成したパターンの上に金属層を形成する。例えば、真空蒸着装置により、まず、層厚10nmのチタン層を形成し、この上に層厚100nmの金層を形成する。チタン層を介して金層を形成することで、金層の剥がれを抑止する。次に、石英基板をメチルエチルケトン中に浸漬し、また、超音波処理を行い、レジストパターン層を剥離する。この剥離によりレジストパターン層の上の金属層が選択的に除去され(リフトオフ)、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極が形成される。このように、実施例2では、櫛形電極を金から構成する。
【0057】
次に、塗布する分散溶液を作製する。まず、ボールミルで粉砕した天然グラファイト(1g)と濃硫酸(34.5ミリリットル)とを混合し、撹拌子ながらこの混合物中に硝酸ナトリウム(0.75g)を加える。これらの混合物を氷冷下におき、さらに、過マンガン酸カリウム(4.5g)を徐々に加え、撹拌を2時間継続する。この後、混合物を室温に戻し、さらに、5日間撹拌を続ける。この結果、濃灰色の生成物が得られる。
【0058】
次に、得られた生成物に、5%希硫酸(100ミリリットル)、過酸化水素水(3ミリリットル)を加え撹拌して液状としたのち、これをさらに過剰量の硫酸(3%)/過酸化水素水(0.5%)混合溶液中に分散し、遠心分離により沈殿物を分取する。引き続き、沈殿物に純水を加えて分散し、遠心分離により沈殿物を分取する。これらのことにより、最終生成物として、濃褐色の油状物質として酸化グラフェンが得られる。
【0059】
以上のようにして得られた酸化グラフェンを、純水に加えて撹拌することで、炭素材料(酸化グラフェン)が分散した分散溶液(均一分散水溶液)が得られる。ここで、濃度は、0.01〜0.1wt%程度とすればよい。得られた分散水溶液は、茶褐色となる。この分散溶液中の物質は、原子間力顕微鏡観察およびラマン分光分析から、単層〜3層の酸化グラフェンの小片(膜片)が主要成分であることが確認されている。
【0060】
次に、上述した単層〜3層の酸化グラフェンを主要成分とする炭素材料の小片(膜片)を含む分散溶液(約0.025wt%水溶液)10mlに、35%ヒドラジン水溶液を5μl、28%アンモニア水溶液35μlを添加し、95℃で1時間静置する。これらのことにより、酸化グラフェンが還元された還元体の分散溶液が得られる。
【0061】
この分散溶液を5000rpmで遠心分離して沈殿物を除去した後、上澄み溶液をさらに10000rpmで遠心分離して得られた沈殿物を取り出した。この沈殿物が2μmを越えない寸法(膜片の最も長い箇所の寸法)であることは、原子間力顕微鏡観察により確認した。この沈殿物を用い、2μmを越えない寸法の酸化グラフェン還元体の小片を含む分散溶液(約0.1wt%水溶液)を調製する。
【0062】
次に、石英基板の上に形成した櫛形電極を1Nの希硫酸に浸漬し、この状態で電位を掃引して表面の酸化物を除去した後、10mMに調整した2−ナフタレンチオールのエタノール溶液に一晩浸漬し、櫛形電極の表面に2−ナフタレンチオールの層(バインダー層)を形成する。バインダー層を構成する2−ナフタレンチオールは、自身のSH基と櫛形電極表面の金とが共有結合するため、バインダー層は櫛形電極の表面に固定された(吸着した)状態となる。一方、上述したような共有結合を形成しない石英基板の表面(露出面)には、バインダー層は形成されない。
【0063】
次に、バインダー層が形成された櫛形電極を備える石英基板の上に、前述した還元体による分散溶液を塗布する。例えば、スピンコート法により塗布すればよい。この塗布により、分散溶液中のグラフェン(還元体)の小片は、バインダー層を構成している2−ナフタレンチオールのナフタレン環との相互作用(疎水的相互作用)により吸着する。この結果、グラフェン小片からなる炭素材料の層が、選択的に櫛形電極の表面に形成されるようになる。また、グラフェン小片は、電極の間隔より小さい寸法としているので、電極間の石英基板に付着しても、電極間を短絡させることがない。
【0064】
以上のようにすることで、図3に示す電気化学測定用電極のチップ(電極チップ304)を形成した。電極チップ304は、櫛歯部で対向する2つの櫛形電極からなる作用電極301,対向電極302,および参照電極303を備える。各電極は、ポテンシオスタット305およびクーロメータ306に接続されている。また、ポテンシオスタット305およびクーロメータ306は、レコーダ307に接続されている。ポテンシオスタット305により、作用電極301と参照電極303との間の電圧が設定した値となるように、作用電極301と対向電極302に流れる電流を制御し、クーロメータ306で、作用電極301に流れる電流を測定する。
【0065】
電極チップ304は、例えば、図4の斜視図に示すように、板厚0.5mmで12×20(mm)の基板300の上に、作用電極301,対向電極302,および参照電極303が配置されている。例えば、図4の斜視図に示すように、ビュレット401より、作用電極301の櫛歯部で対向する2つの櫛形電極の部分に試料を滴下する。また、作用電極301には、電極端子301aおよび電極端子302bが接続し、対向電極302には、電極端子302aが接続し、参照電極303には電極端子303が接続している。上述した櫛歯部で対向する2つの櫛形電極より構成された作用電極301を用いることで、よく知られたレドックスサイクルによる増幅効果を利用できる。
【0066】
上述した電極チップを用い、酵素反応により得られる電気化学活性種の電気化学検出を行った。酵素にはアルカリフォスファターゼ(ALP)を用い、基質としてp−アミノフェニルホスフェート(pAPP)を反応させ、反応生成物であるp−アミノフェノール(pAP)の酸化還元反応を電極上で検出した。リード線を介して各電極端子をバイポテンシオスタット(ポテンシオスタット305)に接続し、対となる一方の櫛形電極を−0.3Vから0.3Vまで50mV/secの電位走査し、他方の櫛形電極は電位−0.3Vに固定し、各々の電極の応答電流を測定した。
【0067】
対となる一方の櫛形電極においては、pAPの酸化反応が、他方の櫛形電極では還元反応を示す限界電流が観測された。図8に示すように、一方の櫛形電極と他方の櫛形電極によるピーク電流値の大きさ(実線)は、炭素原料の層のない金からなる同形の櫛形電極を用いた場合(点線)と比較して、約2倍以上に増加した。
【0068】
さらに、一方の櫛形電極と他方の櫛形電極の電流値の大きさから、一方の櫛形電極で酸化されたpAP分子のうち、他方の櫛形電極で還元反応を起こした分子の割合(捕捉率)は99%であることが分かり、炭素材料の層が形成されていない同形の櫛形電極を用いた場合と比較して、さらに2%ほど高い捕捉率が得られた。
【0069】
以上に説明したように、実施例2によれば、櫛形電極を用い、この電極表面に炭素材料の層を形成することで、反応速度や拡散速度を高めることができ、電極幅や電極間隔を微小化することなく捕捉率が向上し、高感度な測定が可能になる。
【0070】
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。まず、板厚0.5mmの石英基板を用意する。石英基板は絶縁材料からなる基板である。この石英基板の上に、電子線レジストを塗布し、層厚0.5mmのレジスト層を形成する。次に、レジスト層を形成した石英基板を、80℃・60分の加熱条件によりプリベークする。この加熱は、例えば、オーブンを用いて行えばよい。
【0071】
次に、プリベークしたレジスト層を、電子線リソグラフィー技術でパターニングする。まず、上記石英基板を電子線露光装置の露光室に搬入し、櫛形電極を形成する箇所に開口が形成される形状のパターンに露光する。また、露光の後に現像を行い、レジストパターン層を形成する。形成したレジストパターン層のパターンの寸法は、櫛形電極の櫛歯の部分の長さを2mm、幅を10μmとした。また、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極パターンの対向する櫛歯の間隔(電極間隔)は、5μmとした。
【0072】
次に、石英基板および形成したパターンの上に金属層を形成する。例えば、真空蒸着装置により、まず、層厚10nmのチタン層を形成し、この上に層厚100nmの金層を形成する。次に、石英基板をメチルエチルケトン中に浸漬し、また、超音波処理を行い、レジストパターン層を剥離する。この剥離によりレジストパターン層の上の金属層が選択的に除去され(リフトオフ)、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極が形成される。
【0073】
次に、前述した実施例2と同様に、上述した単層〜3層の酸化グラフェンを主要成分とする炭素材料の小片(膜片)を含む分散溶液を作製する。また、上述した実施例2と同様にヒドラジン水溶液およびアンモニア水溶液を用いて還元することで、酸化グラフェンが還元された還元体の分散溶液を作製する。次に、作製した分散溶液(約0.025wt%水溶液)10mlを、5000rpmで遠心分離し沈殿物を除去した後、上澄み溶液を2μm孔径のフィルタを用いてろ過し、このろ液を用いて2μmを越えない寸法のグラフェン(酸化グラフェンの還元体)の小片(膜片)を含む分散溶液(約0.1wt%水溶液)を調製する。上記沈殿物は、寸法(膜片の最も長い箇所の寸法)が2μmを越えないことは、原子間力顕微鏡観察により確認した。
【0074】
次に、石英基板の上に形成した櫛形電極を1Nの希硫酸に浸漬し、この状態で電位を掃引して表面の酸化物を除去した後、10mMに調整した2−ナフタレンチオールのエタノール溶液に一晩浸漬し、櫛形電極の表面に2−ナフタレンチオールの層(バインダー層)を形成する。
【0075】
次に、バインダー層が形成された櫛形電極を備える石英基板の上に、前述した分散溶液を塗布する。例えば、スピンコート法により塗布すればよい。この塗布により、分散溶液中のグラフェンの小片は、バインダー層を構成している2−ナフタレンチオールのナフタレン環との相互作用(疎水的相互作用)により吸着する。この結果、グラフェン小片からなる炭素材料の層が、選択的に櫛形電極の表面に形成されるようになる。また、グラフェン小片は、電極の間隔より小さい寸法としているので、電極間の石英基板に付着しても、電極間を短絡させることがない。
【0076】
以上のようにすることで、図3に示す電気化学測定用電極のチップ(電極チップ304)を形成した。この電極チップを用い、1mMのヘキサアンミンルテニウムイオン(Ru(NH3)63+/2+)KCl溶液の酸化還元反応を検出した。リード線を介して、電極チップの電気化学測定用電極の端子部分をバイポテンシオスタットに接続し、一方の櫛形電極を用いて、−0.4Vから0.2Vの範囲を周期的に50mV/secで電位走査し、電極の応答電流を測定した。
【0077】
図9の実線に示すように、−0.15Vにおいて、Ru(NH3)62+の酸化反応が観測され、−0.22VにおいてRu(NH3)63+の還元反応を示す応答が観測された。酸化側のピーク電流値の大きさは、炭素原料の層のない金からなる同形の櫛形電極を用いた場合(図9中点線)と比較して約2倍に増加した。また、還元側のピーク電流値の大きさは、炭素原料の層のない金からなる同形の櫛形電極を用いた場合と比較して、2.5倍以上に増加した。
【0078】
これらのことは、櫛形電極上の負に帯電している炭素原料の層(グラフェン)の表面に、検出対象の陽イオンが引き寄せられ、酸化還元種が表面に輸送されやすいという効果により、検出信号が増加したことを示す。特に、正電荷がより大きなRu(NH3)63+の還元反応において、上述した効果が顕著である。
【0079】
以上に説明したように、実施例3によれば、櫛形電極を用い、この電極表面に炭素材料の層を形成することで、反応速度や拡散速度を高めることができ、電極幅や電極間隔を微小化することなく捕捉率が向上し、高感度な測定が可能になる。
【0080】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述では、櫛形電極を例に説明したが、これに限るものではない。例えば、接近させて用いる2つのリングディスク電極であっても、上述同様であり、本発明は、例えば、数μm程度に接近させて用いる少なくとも2つの電極に適用可能である。
【0081】
また、例えば、上述では、2−ナフタレンチオールからなるバインダー層を介して炭素材料の層を形成するようにしたが、これに限るものではなく、チオール基を有する有機化合物であれば、バインダー層として機能する。このような有機化合物であれば、チオール基が電極を構成する金と共有結合し、有機基に、これとの相互作用(疎水的相互作用)により炭素原料が吸着する。また、電極の上に、直接、炭素材料の層を形成してもよい。
【0082】
また、図10の(a)に示すように、絶縁層1001に凹部1001aを形成し、凹部1001aに埋め込むように電極1002を形成し、電極1002の上に炭素材料の層1003を形成してもよい。また、図10の(b)に示すように、凹部1001aに埋め込むように形成した電極1002の上に、バインダー層1004を介して炭素材料の層1003を形成してもよい。このようにすることで、電極を形成した状態で絶縁層の表面がより平坦となるので、リフトオフ法による電極などの形成がより容易になる。
【0083】
また、電極材料は、金に限るものではなく、銅,ニッケル,プラチナ、カーボンなどを用いるようにしてもよい。
【0084】
また、上述では、炭素材料の層が、グラフェン(還元体)より構成された場合について説明したが、これに限るものではなく、例えば、グラファイトから構成されていてもよい。この場合、グラファイトは、グラフェンが2〜10層程度積層したものであればよい。
【符号の説明】
【0085】
201…絶縁層、202…レジストパターン層、203…金属層、204…炭素層、205,206…櫛形電極、207…炭素材料の層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的な測定で用いられる電気化学測定用電極およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学法に基づく分析やバイオセンサーにおいては、より低濃度の目的物質を高感度に測定する技術が重要である。高感度な測定を行う技術として、作用電極をμmオーダで近設して構成した2つの電極(ジェネレータ電極とコレクター電極)から構成する技術がある(特許文献1,非特許文献1参照)。この技術では、電気化学的な酸化還元サイクルを電極上に発生させ、1つの検出目的分子から繰り返し酸化還元電流を取り出すことで、見かけ上の電流値を増大させ、高感度な測定を可能としている。このような電極構造を用いることで、高感度な電気化学検出が可能であり、また、これを利用した高感度バイオセンサーの実現が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−272958号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C.E. Chidsey et al. , "Micrometer-Spaced Platinum Interdigitated Array Electrode: Fabrication, Theory, and Initial Use", Anal. Chem. , vol.58, pp.601-607, 1986.
【非特許文献2】K.Hayashi et al. , "Development of Nanoscale Interdigitated Array Electrode as Electrochemical Sensor Platform for Highly Sensitive Detection of Biomolecules", Journal of The Electrochemical Society, vol.155, no.9, pp.J240-J243, 2008.
【非特許文献3】S.Yang et al. , "Controllable Adsorption of Reduced Graphene Oxide onto Self-Assembled Alkanethiol Monolayers on Gold Electrodes: Tunable Electrode Dimension and Potential Electrochemical Applications", J. Phys. Chem. C, vol.114, pp.4389-4393, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したように、μmオーダで接近させた2つの電極を用いてより高感度な検出を行うためには、目的物質を枯渇させることなく酸化還元サイクルを電極上に発生させることが重要である。例えば、ジェネレータ電極で反応した中間物質が拡散や輸送によってコレクター電極に到達する前に不活性化すると、十分な酸化還元サイクルが発生できず、高感度化がはかれない。
【0006】
この高感度化の度合いは、(還元電流値)/(酸化電流値)×100であらわされる捕捉率が指標とされている。この値が高ければ、ジェネレータ電極で反応した中間物質が電気化学活性を保ったままコレクター電極に到達し、酸化還元サイクルによって見かけ上の電流値が増大する。捕捉率を高めるには、電極幅をより微小にし、電極間隔をより近づけることで、目的物質や中間物質の拡散距離を短くすることが有効である(非特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、例えばμmオーダより小さいなど、より微細な電極パターンの形成は容易ではなく、最先端の高度な製造技術が必要となる。また、電極パターンの微細化により、再現性よく寸法の揃った電極を得ることが難しくなる。当然ながら、電極パターンの微細化には限界がある。このように、電極パターンの微細化による高感度化は、容易ではないという問題がある。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、接近させた2つの電極を用いる電気化学的測定で、電極パターンをあまり微細化することなく、高感度化ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電気化学測定用電極の製造方法は、絶縁層の上に金属層を形成する第1工程と、炭素材料の小片が分散した分散溶液を金属層の上に塗布して金属層の上に炭素材料からなる炭素層を形成する第2工程と、金属層および炭素層をパターニングし、2つの電極の上に炭素材料の層が形成された状態とする第3工程とを少なくとも備える。
【0010】
上記電気化学測定用電極の製造方法において、金属層および炭素層のパターニングは、リフトオフ法により行えばよい。
【0011】
本発明に係る電気化学測定用電極の製造方法は、絶縁層の上に2つの電極を形成する第1工程と、炭素材料の小片が分散した分散溶液を2つの電極が形成された絶縁層の上に塗布して炭素材料の層を形成する第2工程とを少なくとも備え、分散溶液は、2つの電極の間隔より小さい寸法の炭素材料の小片が分散したものである。
【0012】
上記電気化学測定用電極の製造方法において、電極を金から構成し、炭素材料の層を形成する前に、電極の表面にチオール基を有する有機化合物から構成されたバインダー層を形成する工程を備えるようにしてもよい。
【0013】
上記電気化学測定用電極の製造方法において、炭素材料を酸化してから分散溶液を作製し、酸化された炭素材料の小片を還元することで電極の上に炭素材料の層が形成された状態としてもよい。なお、炭素材料は、グラフェンおよびグラファイトの少なくとも1つから構成されたものであればよい。
【0014】
上記電気化学測定用電極の製造方法において、2つの電極は、例えば、交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極である。
【0015】
本発明に係る電気化学測定用電極は、絶縁層の上に形成された2つの電極と、2つの電極の上に形成された炭素材料の層とを少なくとも備え、炭素材料は、グラフェンおよびグラファイトの少なくとも1つから構成されたものである。
【0016】
上記電気化学測定用電極において、炭素材料の層は、炭素材料の小片から構成されたものである。また、2つの電極は、例えば、交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、炭素材料の小片が分散した分散溶液を用いて2つの電極の上に炭素材料の層を形成するので、接近させた2つの電極を用いる電気化学的測定で、電極パターンをあまり微細化することなく、高感度化ができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するフローチャートである。
【図2A】図2Aは、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図2C】図2Cは、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図2D】図2Dは、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図2E】図2Eは本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の一部構成を示す平面図である。
【図3】図3は、電気化学測定用電極のチップの構成を示す構成図である。
【図4】図4は、電気化学測定用電極のチップの構成を示す斜視図である。
【図5】図5は、実施例1の櫛形電極におけるpAPの酸化反応および還元反応を示す限界電流の観察結果を示す特性図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するフローチャートである。
【図7A】図7Aは、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図7B】図7Bは、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図7C】図7Cは、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図7D】図7Dは、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【図8】図8は、実施例2の櫛形電極におけるpAPの酸化反応および還元反応を示す限界電流の観察結果を示す特性図である。
【図9】図9は、実施例3の櫛形電極におけるRu(NH3)62+の酸化反応および還元反応を示す応答の観測結果を示す特性図である。
【図10】図10は、本発明に係る電気化学測定用電極の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0020】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するフローチャートである。以下では、2つの電極が交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極で構成されている場合について説明する。
【0021】
この製造方法は、まず、ステップS101で、絶縁層の上に金属層を形成する。次に、ステップS102で、炭素材料の小片が分散した分散溶液を金属層の上に塗布して金属層の上に炭素材料からなる炭素層を形成する。次に、ステップS103で、金属層および炭素層をパターニングし、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極の上に炭素材料の層が形成された状態とする。
【0022】
この製造方法によれば、電気化学測定で用いる櫛形電極が、この上に炭素材料の層を備えて形成されるようになる。炭素材料の層は、炭素材料の小片から構成されている。このように、櫛形電極の上に炭素材料の層を形成することで、櫛形電極の寸法などを変更(より微細化)することなく高感度化ができるようになる。
【0023】
単一の作用電極の上に、単層または2〜10層の多層グラフェン、グラファイト、これらの還元誘導体のいずれかの層を形成(固定化)することで、高感度化ができることについては報告されている(非特許文献3参照)。この技術では、上述した炭素材料を塗布することで形成している。しかしながら、μmオーダで接近させた構造を有する櫛形電極においては、上述したように炭素材料を塗布すると、電極部分の上に炭素材料の層が形成できるが、電極間にまたがるように炭素材料の層が形成され、電気化学的に短絡した状態となる。このように、2つの櫛形電極間が短絡しては、電気化学的な酸化還元サイクルを電極上に発生させることができず、高感度化は実現できない。
【0024】
これに対し、本実施の形態によれば、櫛形電極の部分に選択的に炭素材料の層が形成されるので、2つの櫛形電極間が短絡することがなく、電気化学的な酸化還元サイクルを電極上に発生させることができる。また、電極の上に炭素材料の層が形成されるので、櫛形電極を用いた電気化学的測定で、櫛形電極の電極パターンをあまり微細化することなく、高感度化ができるようになる。
【0025】
以下、本実施の形態における製造方法について、図2A〜図2Eを用いてより詳細に説明する。図2A〜図2Dは、本発明の実施の形態1における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための各工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。また、図2Eは、電気化学測定用電極の一部構成を示す平面図である。
【0026】
まず、図2Aに示すように、絶縁層201の上にレジストパターン層202を形成する。レジストパターン層202は、後述する櫛形電極を形成する箇所に開口部を備えている。次に、レジストパターン層202の上より、例えばスパッタ法などの堆積法により金属を堆積することで、図2Bに示すように、絶縁層201およびレジストパターン202の上に金属層203を形成する。
【0027】
次に、炭素材料の小片が分散した分散溶液を塗布することで、図2Cに示すように、レジストパターン層202を覆って絶縁層201の上に形成されている金属層203の上に、炭素層204を形成する。この後、レジストパターン層202を除去することで、この上に形成されている金属層203および炭素層204を選択的に除去する。このリフトオフにより、図2Dおよび図2Eに示すように、交互に入り込んで対向配置されて対となる櫛形電極205,206の上に、炭素材料の層207が形成された状態が得られる。
【0028】
次に、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0029】
[実施例1]
まず、板厚0.5mmの石英基板を用意する。石英基板は絶縁材料からなる基板である。この石英基板の上に、電子線レジストを塗布し、層厚0.5mmのレジスト層を形成する。次に、レジスト層を形成した石英基板を、80℃・60分の加熱条件によりプリベークする。この加熱は、例えば、オーブンを用いて行えばよい。
【0030】
次に、プリベークしたレジスト層を、電子線リソグラフィー技術でパターニングする。まず、上記石英基板を電子線露光装置の露光室に搬入し、櫛形電極を形成する箇所に開口が形成される形状のパターンに露光する。また、露光の後に現像を行い、レジストパターン層を形成する。形成したレジストパターン層のパターンの寸法は、例えば、櫛形電極の櫛歯の部分の長さを2mm、幅を10μmとした。また、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極パターンの対向する櫛歯の間隔(電極間隔)は、0.5μmとした。
【0031】
次に、石英基板および形成したパターンの上に金属層を形成する。例えば、真空蒸着装置により、まず、層厚10nmのチタン層を形成し、この上に層厚100nmの金層を形成する。チタン層を介して金層を形成することで、金層の剥がれを抑止する。
【0032】
次に、上述した金属層(金層)の上に炭素材料の小片が分散した分散溶液を塗布する。例えば、炭素材料としては、グラファイトを化学的に酸化することで形成した酸化グラフェンを用いる。より詳細に説明すると、まず、ボールミルで粉砕した天然グラファイト(1g)と濃硫酸(34.5ミリリットル)とを混合し、撹拌子ながらこの混合物中に硝酸ナトリウム(0.75g)を加える。これらの混合物を氷冷下におき、さらに、過マンガン酸カリウム(4.5g)を徐々に加え、撹拌を2時間継続する。この後、混合物を室温に戻し、さらに、5日間撹拌を続ける。この結果、濃灰色の生成物が得られる。
【0033】
次に、得られた生成物に、5%希硫酸(100ミリリットル)、過酸化水素水(3ミリリットル)を加え撹拌して液状とした後、これをさらに過剰量の硫酸(3%)/過酸化水素水(0.5%)混合溶液中に分散し、遠心分離により沈殿物を分取する。引き続き、沈殿物に純水を加えて分散し、遠心分離により沈殿物を分取する。これらのことにより、最終生成物として、濃褐色の油状物質として酸化グラフェンが得られる。
【0034】
以上のようにして得られた酸化グラフェンを、純水に加えて撹拌することで、炭素材料(酸化グラフェン)が分散した分散溶液(均一分散水溶液)が得られる。ここで、濃度は、0.01〜0.1wt%程度とすればよい。得られた分散水溶液は、茶褐色となる。この分散溶液中の物質は、原子間力顕微鏡観察およびラマン分光分析から、単層〜3層の酸化グラフェンの小片(膜片)が主要成分であることが確認されている。
【0035】
次に、分散溶液(約0.1wt%水溶液)を、レジストパターン層およびこの上に金属層を形成してある石英基板に、塗布する。例えば、スピンコート法により塗布すればよい。この塗布により、分散されていた炭素材料が金属層の上に付着して固定され、炭素層が形成できる。上述したように、炭素材料を酸化体としてあるので、分散溶液においては均一に炭素材料の小片が分散した状態が得られ、この分散溶液を塗布しているので、金属層の上には、炭素材料の小片からなる炭素層が均一に形成できる。
【0036】
次に、レジストパターン層,金属層,および炭素層を形成した石英基板を、35%ヒドラジン水溶液および28%アンモニア水溶液が体積比7:10で混合された溶液とともに密閉容器に封入する。これにより、炭素層がヒドラジン/アンモニア蒸気に晒される状態となる。この状態を95℃で1時間静置することで、金属層の表面に形成した炭素層の炭素材料を還元することができる。この還元により、炭素層は、単層〜3層の酸化グラフェンを還元したグラフェン(酸化グラフェン還元体)から構成されたものとなる。
【0037】
以上のように炭素層を還元した後、石英基板をメチルエチルケトン中に浸漬し、また、超音波処理を行い、レジストパターン層を剥離する。この剥離によりレジストパターン層の上の金属層および炭素層が選択的に除去され(リフトオフ)、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極の上に、炭素材料の層が形成された状態が得られる。
【0038】
次いで、石英基板の上に、スピンコート法によりスピンオングラスを塗布し、450℃で熱硬化し、絶縁保護膜を形成する。次に、再度、電子線レジストを塗布し、層厚0.5mmのレジスト層を形成する。次に、レジスト層を形成した石英基板を、80℃・60分の加熱条件によりプリベークする。次に、プリベークしたレジスト層を、電子線リソグラフィー技術でパターニングする。
【0039】
まず、上記石英基板を電子線露光装置の露光室に搬入し、露光する。また、露光の後に現像を行い、レジストパターン層を形成する。このレジストパターン層により、上述した櫛形電極および石英基板上の他の領域に形成した参照電極の一部、対向電極の一部が、被覆された状態とする。
【0040】
次に、上述したレジストパターン層をマスクとし、CF4ガスによる反応性イオンエッチング処理により、絶縁保護膜を選択的にエッチング除去し、櫛形電極、参照電極の一部、対向電極の一部が露出され、これらを除く他の領域が、絶縁保護膜で被覆保護された状態とする。
【0041】
上述したことにより、図3に示す電気化学測定用電極のチップ(電極チップ304)を形成した。電極チップ304は、櫛歯部で対向する2つの櫛形電極からなる作用電極301,対向電極302,および参照電極303を備える。各電極は、ポテンシオスタット305およびクーロメータ306に接続されている。また、ポテンシオスタット305およびクーロメータ306は、レコーダ307に接続されている。ポテンシオスタット305により、作用電極301と参照電極303との間の電圧が設定した値となるように、作用電極301と対向電極302に流れる電流を制御し、クーロメータ306で、作用電極301に流れる電流を測定する。
【0042】
電極チップ304は、例えば、図4の斜視図に示すように、板厚0.5mmで12×20(mm)の基板300の上に、作用電極301,対向電極302,および参照電極303が配置されている。例えば、図4の斜視図に示すように、ビュレット401より、作用電極301の櫛歯部で対向する2つの櫛形電極の部分に試料を滴下する。また、作用電極301には、電極端子301aおよび電極端子302bが接続し、対向電極302には、電極端子302aが接続し、参照電極303には電極端子303が接続している。上述した櫛歯部で対向する2つの櫛形電極より構成された作用電極301を用いることで、よく知られたレドックスサイクルによる増幅効果を利用できる。
【0043】
上述した電極チップを用い、酵素反応により得られる電気化学活性種の電気化学検出を行った。酵素にはアルカリフォスファターゼ(ALP)を用い、基質としてp−アミノフェニルホスフェート(pAPP)を反応させ、反応生成物であるp−アミノフェノール(pAP)の酸化還元反応を電極上で検出した。リード線を介して各電極端子をバイポテンシオスタット(ポテンシオスタット305)に接続し、対となる一方の櫛形電極を−0.3Vから0.3Vまで50mV/secの電位走査し、他方の櫛形電極は電位−0.3Vに固定し、各々の電極の応答電流を測定した。
【0044】
一方の櫛形電極においては、pAPの酸化反応を示し、他方の櫛形電極では還元反応を示す限界電流が観測された。図5に示すように、一方の櫛形電極および他方の櫛形電極のピーク電流値の大きさ(実線)は、炭素材料の層のない金から構成された同形の櫛形電極を用いた場合(点線)と比較して、約2倍以上に増加した。さらに、両者の電流値の大きさから、一方の櫛形電極で酸化されたpAP分子のうち、他方の櫛形電極で還元反応を起こした分子の割合(捕捉率)は97%であることが分かり、炭素材料の層が形成されていない同形の櫛形電極を用いた場合と比較して、13%ほど高い捕捉率が得られた。
【0045】
捕捉率の向上の度合いは、かみ合った櫛形電極の形状を、長さ2mm、電極幅2μm、電極間隔2μmとした場合にほぼ匹敵する。このように、本実施の形態1(実施例1)によれば、櫛形電極を用い、この電極表面に炭素材料の層を形成することで、反応速度や拡散速度を高めることができ、電極幅や電極間隔を微小化することなく捕捉率が向上し、高感度な測定が可能になる。
【0046】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図6は、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するフローチャートである。この製造方法は、まず、ステップS601で、絶縁層の上に交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極を形成する。次に、ステップS602で、炭素材料の小片が分散した分散溶液を2つの櫛形電極が形成された絶縁層の上に塗布して炭素材料の層を形成する。ここで、分散溶液は、2つの櫛形電極の間隔より小さい寸法の炭素材料の小片が分散したものとする。なお、小片の寸法とは、小片の最も長い箇所の寸法のことを意味する。
【0047】
この製造方法によれば、前述した実施の形態1と同様に、電気化学測定で用いる櫛形電極が、この上に炭素材料の層を備えて形成されるようになる。このように、櫛形電極の上に炭素材料の層を形成することで、櫛形電極の寸法などを変更することなく高感度化ができるようになる。
【0048】
本実施の形態2によれば、櫛形電極の部分とともに櫛形電極以外の領域、例えば、2つの櫛形電極の間にも炭素材料が存在する状態となる。しかしながら、炭素材料の小片の寸法は、櫛形電極の間隔より小さいものとしているので、電極間に存在する炭素材料の小片により、電極間が接続(短絡)することがない。このように、本実施の形態2においても、前述した実施の形態1と同様に、2つの櫛形電極間を短絡させることがなく、電気化学的な酸化還元サイクルを電極上に発生させることができる。また、電極の上に炭素材料の層が形成されるので、櫛形電極を用いた電気化学的測定で、櫛形電極の電極パターンをあまり微細化することなく、高感度化ができるようになる。
【0049】
以下、本実施の形態2における製造方法について、図7A〜図7Dを用いてより詳細に説明する。図7A〜図7Dは、本発明の実施の形態2における電気化学測定用電極の製造方法を説明するための各工程における電気化学測定用電極の構成を模式的に示す断面図である。
【0050】
まず、図7Aに示すように、絶縁層701の上にレジストパターン層702を形成する。レジストパターン層702は、後述する櫛形電極を形成する箇所に開口部を備えている。次に、レジストパターン層702の上より、例えばスパッタ法などの堆積法により金属を堆積することで、図7Bに示すように、絶縁層701およびレジストパターン層702の上に金属層703を形成する。
【0051】
次に、レジストパターン層702を除去することで、この上に形成されている金属層703を選択的に除去する。このリフトオフにより、図7Cに示すように、交互に入り込んで対向配置された対となる2つの櫛形電極705,706が形成される。
【0052】
次に、櫛形電極704,706が形成された絶縁層703の上に、炭素材料が分散した分散溶液を塗布する。分散溶液は、2つの櫛形電極の間隔より小さい寸法の炭素材料の小片が分散したものとする。この塗布により、図7Dに示すように、複数の炭素材料の小片(膜片)707からなる炭素材料の層708が形成される。複数の小片707が、絶縁層703および櫛形電極704,706の上の全域に形成される。しかしながら、小片707の寸法が、電極の間隔より小さいので、電極間に存在する小片707により、電極が短絡することがない。
【0053】
次に、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0054】
[実施例2]
以下、実施例2について説明する。まず、板厚0.5mmの石英基板を用意する。石英基板は絶縁材料からなる基板である。この石英基板の上に、電子線レジストを塗布し、層厚0.5mmのレジスト層を形成する。次に、レジスト層を形成した石英基板を、80℃・60分の加熱条件によりプリベークする。この加熱は、例えば、オーブンを用いて行えばよい。
【0055】
次に、プリベークしたレジスト層を、電子線リソグラフィー技術でパターニングする。まず、上記石英基板を電子線露光装置の露光室に搬入し、櫛形電極を形成する箇所に開口が形成される形状のパターンに露光する。また、露光の後に現像を行い、レジストパターン層を形成する。形成したレジストパターン層のパターンの寸法は、櫛形電極の櫛歯の部分の長さを2mm、幅を2μmとした。また、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極パターンの対向する櫛歯の間隔(電極間隔)は、2μmとした。
【0056】
次に、石英基板および形成したパターンの上に金属層を形成する。例えば、真空蒸着装置により、まず、層厚10nmのチタン層を形成し、この上に層厚100nmの金層を形成する。チタン層を介して金層を形成することで、金層の剥がれを抑止する。次に、石英基板をメチルエチルケトン中に浸漬し、また、超音波処理を行い、レジストパターン層を剥離する。この剥離によりレジストパターン層の上の金属層が選択的に除去され(リフトオフ)、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極が形成される。このように、実施例2では、櫛形電極を金から構成する。
【0057】
次に、塗布する分散溶液を作製する。まず、ボールミルで粉砕した天然グラファイト(1g)と濃硫酸(34.5ミリリットル)とを混合し、撹拌子ながらこの混合物中に硝酸ナトリウム(0.75g)を加える。これらの混合物を氷冷下におき、さらに、過マンガン酸カリウム(4.5g)を徐々に加え、撹拌を2時間継続する。この後、混合物を室温に戻し、さらに、5日間撹拌を続ける。この結果、濃灰色の生成物が得られる。
【0058】
次に、得られた生成物に、5%希硫酸(100ミリリットル)、過酸化水素水(3ミリリットル)を加え撹拌して液状としたのち、これをさらに過剰量の硫酸(3%)/過酸化水素水(0.5%)混合溶液中に分散し、遠心分離により沈殿物を分取する。引き続き、沈殿物に純水を加えて分散し、遠心分離により沈殿物を分取する。これらのことにより、最終生成物として、濃褐色の油状物質として酸化グラフェンが得られる。
【0059】
以上のようにして得られた酸化グラフェンを、純水に加えて撹拌することで、炭素材料(酸化グラフェン)が分散した分散溶液(均一分散水溶液)が得られる。ここで、濃度は、0.01〜0.1wt%程度とすればよい。得られた分散水溶液は、茶褐色となる。この分散溶液中の物質は、原子間力顕微鏡観察およびラマン分光分析から、単層〜3層の酸化グラフェンの小片(膜片)が主要成分であることが確認されている。
【0060】
次に、上述した単層〜3層の酸化グラフェンを主要成分とする炭素材料の小片(膜片)を含む分散溶液(約0.025wt%水溶液)10mlに、35%ヒドラジン水溶液を5μl、28%アンモニア水溶液35μlを添加し、95℃で1時間静置する。これらのことにより、酸化グラフェンが還元された還元体の分散溶液が得られる。
【0061】
この分散溶液を5000rpmで遠心分離して沈殿物を除去した後、上澄み溶液をさらに10000rpmで遠心分離して得られた沈殿物を取り出した。この沈殿物が2μmを越えない寸法(膜片の最も長い箇所の寸法)であることは、原子間力顕微鏡観察により確認した。この沈殿物を用い、2μmを越えない寸法の酸化グラフェン還元体の小片を含む分散溶液(約0.1wt%水溶液)を調製する。
【0062】
次に、石英基板の上に形成した櫛形電極を1Nの希硫酸に浸漬し、この状態で電位を掃引して表面の酸化物を除去した後、10mMに調整した2−ナフタレンチオールのエタノール溶液に一晩浸漬し、櫛形電極の表面に2−ナフタレンチオールの層(バインダー層)を形成する。バインダー層を構成する2−ナフタレンチオールは、自身のSH基と櫛形電極表面の金とが共有結合するため、バインダー層は櫛形電極の表面に固定された(吸着した)状態となる。一方、上述したような共有結合を形成しない石英基板の表面(露出面)には、バインダー層は形成されない。
【0063】
次に、バインダー層が形成された櫛形電極を備える石英基板の上に、前述した還元体による分散溶液を塗布する。例えば、スピンコート法により塗布すればよい。この塗布により、分散溶液中のグラフェン(還元体)の小片は、バインダー層を構成している2−ナフタレンチオールのナフタレン環との相互作用(疎水的相互作用)により吸着する。この結果、グラフェン小片からなる炭素材料の層が、選択的に櫛形電極の表面に形成されるようになる。また、グラフェン小片は、電極の間隔より小さい寸法としているので、電極間の石英基板に付着しても、電極間を短絡させることがない。
【0064】
以上のようにすることで、図3に示す電気化学測定用電極のチップ(電極チップ304)を形成した。電極チップ304は、櫛歯部で対向する2つの櫛形電極からなる作用電極301,対向電極302,および参照電極303を備える。各電極は、ポテンシオスタット305およびクーロメータ306に接続されている。また、ポテンシオスタット305およびクーロメータ306は、レコーダ307に接続されている。ポテンシオスタット305により、作用電極301と参照電極303との間の電圧が設定した値となるように、作用電極301と対向電極302に流れる電流を制御し、クーロメータ306で、作用電極301に流れる電流を測定する。
【0065】
電極チップ304は、例えば、図4の斜視図に示すように、板厚0.5mmで12×20(mm)の基板300の上に、作用電極301,対向電極302,および参照電極303が配置されている。例えば、図4の斜視図に示すように、ビュレット401より、作用電極301の櫛歯部で対向する2つの櫛形電極の部分に試料を滴下する。また、作用電極301には、電極端子301aおよび電極端子302bが接続し、対向電極302には、電極端子302aが接続し、参照電極303には電極端子303が接続している。上述した櫛歯部で対向する2つの櫛形電極より構成された作用電極301を用いることで、よく知られたレドックスサイクルによる増幅効果を利用できる。
【0066】
上述した電極チップを用い、酵素反応により得られる電気化学活性種の電気化学検出を行った。酵素にはアルカリフォスファターゼ(ALP)を用い、基質としてp−アミノフェニルホスフェート(pAPP)を反応させ、反応生成物であるp−アミノフェノール(pAP)の酸化還元反応を電極上で検出した。リード線を介して各電極端子をバイポテンシオスタット(ポテンシオスタット305)に接続し、対となる一方の櫛形電極を−0.3Vから0.3Vまで50mV/secの電位走査し、他方の櫛形電極は電位−0.3Vに固定し、各々の電極の応答電流を測定した。
【0067】
対となる一方の櫛形電極においては、pAPの酸化反応が、他方の櫛形電極では還元反応を示す限界電流が観測された。図8に示すように、一方の櫛形電極と他方の櫛形電極によるピーク電流値の大きさ(実線)は、炭素原料の層のない金からなる同形の櫛形電極を用いた場合(点線)と比較して、約2倍以上に増加した。
【0068】
さらに、一方の櫛形電極と他方の櫛形電極の電流値の大きさから、一方の櫛形電極で酸化されたpAP分子のうち、他方の櫛形電極で還元反応を起こした分子の割合(捕捉率)は99%であることが分かり、炭素材料の層が形成されていない同形の櫛形電極を用いた場合と比較して、さらに2%ほど高い捕捉率が得られた。
【0069】
以上に説明したように、実施例2によれば、櫛形電極を用い、この電極表面に炭素材料の層を形成することで、反応速度や拡散速度を高めることができ、電極幅や電極間隔を微小化することなく捕捉率が向上し、高感度な測定が可能になる。
【0070】
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。まず、板厚0.5mmの石英基板を用意する。石英基板は絶縁材料からなる基板である。この石英基板の上に、電子線レジストを塗布し、層厚0.5mmのレジスト層を形成する。次に、レジスト層を形成した石英基板を、80℃・60分の加熱条件によりプリベークする。この加熱は、例えば、オーブンを用いて行えばよい。
【0071】
次に、プリベークしたレジスト層を、電子線リソグラフィー技術でパターニングする。まず、上記石英基板を電子線露光装置の露光室に搬入し、櫛形電極を形成する箇所に開口が形成される形状のパターンに露光する。また、露光の後に現像を行い、レジストパターン層を形成する。形成したレジストパターン層のパターンの寸法は、櫛形電極の櫛歯の部分の長さを2mm、幅を10μmとした。また、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極パターンの対向する櫛歯の間隔(電極間隔)は、5μmとした。
【0072】
次に、石英基板および形成したパターンの上に金属層を形成する。例えば、真空蒸着装置により、まず、層厚10nmのチタン層を形成し、この上に層厚100nmの金層を形成する。次に、石英基板をメチルエチルケトン中に浸漬し、また、超音波処理を行い、レジストパターン層を剥離する。この剥離によりレジストパターン層の上の金属層が選択的に除去され(リフトオフ)、交互に入り込んで対向配置されて対となる2つの櫛形電極が形成される。
【0073】
次に、前述した実施例2と同様に、上述した単層〜3層の酸化グラフェンを主要成分とする炭素材料の小片(膜片)を含む分散溶液を作製する。また、上述した実施例2と同様にヒドラジン水溶液およびアンモニア水溶液を用いて還元することで、酸化グラフェンが還元された還元体の分散溶液を作製する。次に、作製した分散溶液(約0.025wt%水溶液)10mlを、5000rpmで遠心分離し沈殿物を除去した後、上澄み溶液を2μm孔径のフィルタを用いてろ過し、このろ液を用いて2μmを越えない寸法のグラフェン(酸化グラフェンの還元体)の小片(膜片)を含む分散溶液(約0.1wt%水溶液)を調製する。上記沈殿物は、寸法(膜片の最も長い箇所の寸法)が2μmを越えないことは、原子間力顕微鏡観察により確認した。
【0074】
次に、石英基板の上に形成した櫛形電極を1Nの希硫酸に浸漬し、この状態で電位を掃引して表面の酸化物を除去した後、10mMに調整した2−ナフタレンチオールのエタノール溶液に一晩浸漬し、櫛形電極の表面に2−ナフタレンチオールの層(バインダー層)を形成する。
【0075】
次に、バインダー層が形成された櫛形電極を備える石英基板の上に、前述した分散溶液を塗布する。例えば、スピンコート法により塗布すればよい。この塗布により、分散溶液中のグラフェンの小片は、バインダー層を構成している2−ナフタレンチオールのナフタレン環との相互作用(疎水的相互作用)により吸着する。この結果、グラフェン小片からなる炭素材料の層が、選択的に櫛形電極の表面に形成されるようになる。また、グラフェン小片は、電極の間隔より小さい寸法としているので、電極間の石英基板に付着しても、電極間を短絡させることがない。
【0076】
以上のようにすることで、図3に示す電気化学測定用電極のチップ(電極チップ304)を形成した。この電極チップを用い、1mMのヘキサアンミンルテニウムイオン(Ru(NH3)63+/2+)KCl溶液の酸化還元反応を検出した。リード線を介して、電極チップの電気化学測定用電極の端子部分をバイポテンシオスタットに接続し、一方の櫛形電極を用いて、−0.4Vから0.2Vの範囲を周期的に50mV/secで電位走査し、電極の応答電流を測定した。
【0077】
図9の実線に示すように、−0.15Vにおいて、Ru(NH3)62+の酸化反応が観測され、−0.22VにおいてRu(NH3)63+の還元反応を示す応答が観測された。酸化側のピーク電流値の大きさは、炭素原料の層のない金からなる同形の櫛形電極を用いた場合(図9中点線)と比較して約2倍に増加した。また、還元側のピーク電流値の大きさは、炭素原料の層のない金からなる同形の櫛形電極を用いた場合と比較して、2.5倍以上に増加した。
【0078】
これらのことは、櫛形電極上の負に帯電している炭素原料の層(グラフェン)の表面に、検出対象の陽イオンが引き寄せられ、酸化還元種が表面に輸送されやすいという効果により、検出信号が増加したことを示す。特に、正電荷がより大きなRu(NH3)63+の還元反応において、上述した効果が顕著である。
【0079】
以上に説明したように、実施例3によれば、櫛形電極を用い、この電極表面に炭素材料の層を形成することで、反応速度や拡散速度を高めることができ、電極幅や電極間隔を微小化することなく捕捉率が向上し、高感度な測定が可能になる。
【0080】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述では、櫛形電極を例に説明したが、これに限るものではない。例えば、接近させて用いる2つのリングディスク電極であっても、上述同様であり、本発明は、例えば、数μm程度に接近させて用いる少なくとも2つの電極に適用可能である。
【0081】
また、例えば、上述では、2−ナフタレンチオールからなるバインダー層を介して炭素材料の層を形成するようにしたが、これに限るものではなく、チオール基を有する有機化合物であれば、バインダー層として機能する。このような有機化合物であれば、チオール基が電極を構成する金と共有結合し、有機基に、これとの相互作用(疎水的相互作用)により炭素原料が吸着する。また、電極の上に、直接、炭素材料の層を形成してもよい。
【0082】
また、図10の(a)に示すように、絶縁層1001に凹部1001aを形成し、凹部1001aに埋め込むように電極1002を形成し、電極1002の上に炭素材料の層1003を形成してもよい。また、図10の(b)に示すように、凹部1001aに埋め込むように形成した電極1002の上に、バインダー層1004を介して炭素材料の層1003を形成してもよい。このようにすることで、電極を形成した状態で絶縁層の表面がより平坦となるので、リフトオフ法による電極などの形成がより容易になる。
【0083】
また、電極材料は、金に限るものではなく、銅,ニッケル,プラチナ、カーボンなどを用いるようにしてもよい。
【0084】
また、上述では、炭素材料の層が、グラフェン(還元体)より構成された場合について説明したが、これに限るものではなく、例えば、グラファイトから構成されていてもよい。この場合、グラファイトは、グラフェンが2〜10層程度積層したものであればよい。
【符号の説明】
【0085】
201…絶縁層、202…レジストパターン層、203…金属層、204…炭素層、205,206…櫛形電極、207…炭素材料の層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層の上に金属層を形成する第1工程と、
炭素材料の小片が分散した分散溶液を前記金属層の上に塗布して前記金属層の上に前記炭素材料からなる炭素層を形成する第2工程と、
前記金属層および前記炭素層をパターニングし、2つの電極の上に前記炭素材料の層が形成された状態とする第3工程と
を少なくとも備えることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の電気化学測定用電極の製造方法において、
前記金属層および前記炭素層のパターニングは、リフトオフ法により行うことを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項3】
絶縁層の上に2つの電極を形成する第1工程と、
炭素材料の小片が分散した分散溶液を2つの前記電極が形成された前記絶縁層の上に塗布して前記炭素材料の層を形成する第2工程と
を少なくとも備え、
前記分散溶液は、2つの前記電極の間隔より小さい寸法の前記炭素材料の小片が分散したものであることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の電気化学測定用電極の製造方法において、
前記電極を金から構成し、
前記炭素材料の層を形成する前に、前記電極の表面にチオール基を有する有機化合物から構成されたバインダー層を形成する工程を備える
ことを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気化学測定用電極の製造方法において、
前記炭素材料を酸化してから前記分散溶液を作製し、
酸化された前記炭素材料の小片を還元することで前記電極の上に前記炭素材料の層が形成された状態とすることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学測定用電極の製造方法において、
前記炭素材料は、グラフェンおよびグラファイトの少なくとも1つから構成されたものであることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学測定用電極の製造方法において、
2つの前記電極は、交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極であることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項8】
絶縁層の上に形成された2つの電極と、
2つの前記電極の上に形成された炭素材料の層と
を少なくとも備え、
前記炭素材料は、グラフェンおよびグラファイトの少なくとも1つから構成されたものであることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項9】
請求項8記載の電気化学測定用電極において、
前記炭素材料の層は、前記炭素材料の小片から構成されたものであることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項10】
請求項8または9記載の電気化学測定用電極において、
2つの前記電極は、交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極であることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項1】
絶縁層の上に金属層を形成する第1工程と、
炭素材料の小片が分散した分散溶液を前記金属層の上に塗布して前記金属層の上に前記炭素材料からなる炭素層を形成する第2工程と、
前記金属層および前記炭素層をパターニングし、2つの電極の上に前記炭素材料の層が形成された状態とする第3工程と
を少なくとも備えることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の電気化学測定用電極の製造方法において、
前記金属層および前記炭素層のパターニングは、リフトオフ法により行うことを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項3】
絶縁層の上に2つの電極を形成する第1工程と、
炭素材料の小片が分散した分散溶液を2つの前記電極が形成された前記絶縁層の上に塗布して前記炭素材料の層を形成する第2工程と
を少なくとも備え、
前記分散溶液は、2つの前記電極の間隔より小さい寸法の前記炭素材料の小片が分散したものであることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の電気化学測定用電極の製造方法において、
前記電極を金から構成し、
前記炭素材料の層を形成する前に、前記電極の表面にチオール基を有する有機化合物から構成されたバインダー層を形成する工程を備える
ことを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気化学測定用電極の製造方法において、
前記炭素材料を酸化してから前記分散溶液を作製し、
酸化された前記炭素材料の小片を還元することで前記電極の上に前記炭素材料の層が形成された状態とすることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学測定用電極の製造方法において、
前記炭素材料は、グラフェンおよびグラファイトの少なくとも1つから構成されたものであることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学測定用電極の製造方法において、
2つの前記電極は、交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極であることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項8】
絶縁層の上に形成された2つの電極と、
2つの前記電極の上に形成された炭素材料の層と
を少なくとも備え、
前記炭素材料は、グラフェンおよびグラファイトの少なくとも1つから構成されたものであることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項9】
請求項8記載の電気化学測定用電極において、
前記炭素材料の層は、前記炭素材料の小片から構成されたものであることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項10】
請求項8または9記載の電気化学測定用電極において、
2つの前記電極は、交互に入り込んで対向配置された2つの櫛形電極であることを特徴とする電気化学測定用電極。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図9】
【図10】
【図4】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図9】
【図10】
【図4】
【公開番号】特開2012−181085(P2012−181085A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43714(P2011−43714)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
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