説明

電気化学測定用電極及び電気化学的分析装置

【課題】電極表面状態の変動の少ない作用電極を有する電気化学的分析装置実現する。
【解決手段】電解セル1の中に、作用極2、対極3、参照極4を配置する。作用極は弁金属と白金とが積層され白金部の板厚方向の断面結晶組織が電極表面に対して層状に形成され白金部の各層の厚みは5マイクロメートル以下である。各電極2、3、4はリード線7により電位印加手段5、測定手段6に接続されている。溶液分注機構11は、それぞれ測定溶液容器8から被測定対象化学的成分を含む測定溶液を溶液導入管13内に導入し、緩衝液容器9から緩衝液を溶液導入管13内に導入する。導入された測定溶液と緩衝液は溶液注入機構12により電解セル1中に注入されて被測定対象物の電気化学的測定が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液・尿など液体試料中に含まれる微量の化学的成分を電気化学的に分析する電気化学測定用電極および電気化学的分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学測定は、比較的簡単な装置構成で高感度測定が可能であり、分析化学の分野で多用されている。電気化学測定手法として、ポテンシオメトリ、アンペロメトリ、ボルタンメトリ、インピーダンス測定等、さらにこれらと他の検出手段、例えば光学素子等との組み合わせにより光子を検出する方法がある。
【0003】
一般的に、電気化学測定に用いられる電極は、その化学的な安定性に優れた特性から白金族金属、とりわけ白金が多用されている。近年、血液・尿など液体試料に含まれる化学的成分の分析においてもフローセル内に組み込む電極として白金が用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のように、血液や尿中の化学的成分を連続計測する場合、洗浄、本測定を始めとして、一分析毎に作用極、対極間に複数の電位印加するプロセスを経ることで繰り返し計測を可能としている。
【0005】
白金を含む電極材としては、特許文献2に、対電極、作用電極に白金族金属を用いることが記載されている。また、特許文献3には、チタン、タンタル、ジルコニウムなどの弁金属と白金とを熱プレスにより複合化した電気化学反応用の電極およびその製造方法が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4において、食塩水を電気分解して殺菌作用を持つ強酸性水を生成するための電極、有機物含有排水の電解清浄化処理等の用途に使用される不溶性電極として、チタン、ニオブ、タンタル基材上に白金合金被覆層、酸化イリジウム及び/又は酸化白金被覆層を順に形成した電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−222037号公報
【特許文献2】特開平10−288592号公報
【特許文献3】特開平2−66188号公報
【特許文献4】特開2001−262388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
白金族金属、特に白金が電極として使用された場合、実験的に行うような数十〜数百回の分析においては大変優れた特性を示す。
【0009】
しかしながら、特許文献1に示したような分析系、例えば、血液・尿など液体試料に含まれる化学的成分の分析において、成分中に蛋白質やハロゲン元素を多く含む試料を長期間にわたり繰り返し測定する場合、あるいは電極表面を洗浄するための洗浄剤として水酸化カリウムなどの強アルカリ成分を含む試料を電極表面に接触させ、電圧を長期間反復印加した場合、電極表面が徐々に侵食される。その結果、電極の表面状態が変動し、測定結果に悪影響を与えるという問題があった。
【0010】
また、周知の通り、白金は高価な金属であり、特許文献2および3に示すように、白金族金属、白金とチタン金属等との複合電極が公知である。
【0011】
しかしながら、前記の複合電極において、白金層の結晶組織および配向性が制御された例は無い。
【0012】
本願の発明者らが鋭意検討した結果、血液・尿など液体試料に含まれる極微量濃度の化学的成分を同一の電極を用いて複数回測定する分析においては、電極の表面状態、特に結晶配向性が分析データに影響を及ぼすことがわかってきた。
【0013】
本発明の目的は、白金量を低減し、十分な機械的強度を有し、かつ電極表面状態の変動の少ない電気化学測定用電極、及びその電極を用いた、長期間にわたりデータが安定で適正な分析測定を行うことができる電気化学的分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成される。
【0015】
本発明の電気化学測定用電極は、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、V、Mo、Wのうちのいずれかの弁金属と白金とが積層され、上記白金部の板厚方向の断面結晶組織が電極表面に対して層状に形成されている。
【0016】
また、本発明の電気化学的分析装置は、作用極、対極、参照極が内部に配置される電解セルと、電解セル内の測定溶液及び緩衝溶液を注入する溶液注入機構と、作用極、対極、参照極に電位を印加する電位印加手段と、作用極、対極、参照極に接続され上記測定溶液の電気化学的特性を測定する測定手段とを備え、作用極は、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、V、Mo、Wのうちのいずれかの弁金属と白金とが積層され、上記白金部の板厚方向の断面結晶組織が電極表面に対して平行に層状に形成されている。
【0017】
また、本発明の電気化学的分析装置に用いる電気化学測定用電極の製造方法は、 Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、V、Mo、Wのうちのいずれかの弁金属と白金とを冷間圧延加工により板状に積層して、上記白金の板厚方向の断面結晶組織が電極表面に対して層状に形成され、上記白金の各層の厚みが5マイクロメートル以下である積層電極を形成し、形成した積層電極を鏡面研磨し、積層電極の表面変質層を電気化学的に除去する。
【0018】
さらに、本発明の電気化学的分析装置に用いる電気化学測定用電極の製造装置は、白金を窒素雰囲気中で加圧し、加熱して熱間圧延加工し、所定の板厚の白金板を作製する白金板圧延加工部と、白金板を冷間圧延加工する白金板冷間圧延部と、白金板冷間圧延部で処理された白金板とチタン板とを真空中に配置し、チタン板表面をドライエッチングして、表面酸化層を除去する表面酸化膜除去部と、 白金板とチタン板とを積層し、真空雰囲気中で白金板の膜厚が所定厚さとなるように冷間圧延加工し、上記白金の板厚方向の断面結晶組織が電極表面に対して層状に形成され、上記白金の各層の厚みが5マイクロメートル以下である白金とチタンとの積層電極を形成する積層電極形成部と、作成された積層電極を所定の大きさに切断する切断部と、切断された積層電極の白金表面と導線とを電気的に接続する電極化部と、導線と接続された積層電極の白金表面だけが所定の面積で露出するように接着剤を用いて絶縁性樹脂へ埋め込む樹脂包埋部と、埋め込まれた積層電極の白金表面を機械研磨加工する機械研磨部と、機械研磨された積層電極を電解液中で所定の電位及び所定の電位走査速度で電位走査を繰り返す電解研磨部とを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、白金量を低減し、十分な機械的強度を有し、かつ電極表面状態の変動の少ない電気化学測定用電極、及びその電極を用いた長期間にわたりデータが安定で適正な分析測定を行うことができる電気化学的分析装置、電気化学測定用電極の製造方法、及び電気化学測定用電極の製造装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1による電気化学的分析装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施例1による電気化学測定用電極製造装置の概略構成図である。
【図3】本発明の実施例1および比較例の電極のX線回折解析結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例1による電極の板厚方向断面の結晶組織解析結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例1に基づく白金電極の効果を説明する図である。
【図6】本発明の実施例2および比較例の電極のサイクリックボルタモグラムである。
【図7】本発明の実施例3による電気化学的分析装置の全体構成図である。
【図8】本発明の実施例3による電気化学的分析装置に用いるフローセルの分解構成図である。
【図9】本発明とは異なる比較例の電極の板厚方向断面の結晶組織解析結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例1〜11と比較例1〜9との白金部の優先配向率、分析対象及び変動幅を示す表である。
【図11】本発明の実施例の電気化学的分析装置に用いるフローセルの他の例における分解構成図である。
【図12】本発明の実施例の電気化学的分析装置に用いるフローセルのさらに他の例における分解構成図である。
【図13】本発明の実施例の電気化学的分析装置に用いるフローセルのさらに他の例における分解構成図である。
【図14】本発明の実施例の電気化学的分析装置に用いるフローセルのさらに他の例における分解構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0022】
本発明の実施例の説明に先立って、本発明の原理について説明する。
【0023】
血液・尿などの液体試料に含まれる化学的成分の分析において、長期間にわたり繰り返し測定する場合、測定結果が変動する原因について、本発明者らが種々解析を行った。その結果、分析の繰り返しに伴う電極表面状態の変化に主に起因することが判明した。
【0024】
すなわち、蛋白質などを含む液体試料中での電位印加過程、電極表面を洗浄するための洗浄剤として水酸化カリウムなどの強アルカリ成分を含む液体中での電位印加過程、前記両者を長期間反復した場合、電極表面が徐々にエッチングされ、繰り返し分析後の表面状態が分析初期のそれに対して変動する。結果的に測定結果に悪影響を与える。
【0025】
白金表面のエッチング挙動を調べたところ、表面の結晶方位によりエッチング速度が変化するため、結晶方位の異なる組織単位で段差が生じることがわかった。白金の板厚方向の断面観察で見られる結晶層が5μmを越えると、分析繰り返し、すなわちエッチングの進行に伴い、電極表面の凹凸が顕在化し、電極表面積が変動することになる。
【0026】
特に、フローセル内に作用極を設置する場合、電極表面の凹凸が大きいと、安定した液流を確保できなくなり、分析液、洗浄液の液置換を十分に行えず、適正な分析ができなくなってしまう。
【0027】
結晶層を小さくすると、電極表面積の大きな変動を抑制できる。従って、長期間にわたり分析データを安定化するためには、板厚方向に均一にエッチングすることが有効であり、白金の結晶層の厚みを5μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下とすることが有効である。
【0028】
つまり、液体試料中に含まれる化学的成分の電気化学的応答を測定する電気化学的分析装置に用いる電気化学測定用電極において、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、V、Mo、Wのうちいずれかの弁金属と白金とを積層し、白金部の板厚方向の断面結晶組織を電極表面に対して層状に形成し、白金部の各層の厚みを5μm以下とする。
【0029】
ただし、結晶粒を小さくしすぎると、材料が硬くなり加工性が損なわれるため、各層の厚みは、0.01μm以上が好ましい。本明細書にて「層状の結晶組織」とは、個々の結晶組織が電極平面方向に対して延伸した状態、すなわち圧延方向に引き延ばされた状態であり、かつ電極板厚方向に対して押し縮められた状態を指す。また、個々の層は単一の結晶構造で構成されることを意味するものではなく、実質的には複数の異なる延伸した結晶組織で構成されている。「結晶の層の厚み」とは、白金と弁金属との積層電極の板厚方向断面を観察したときに見られる白金部の個々の結晶の板厚方向における長さを指す。
【0030】
なお、個々の結晶は、粒界角度が2度未満の小傾角粒界で囲まれた組織を指す。結晶組織像は電子線後方散乱パターン法等により観察することが可能である。
【0031】
上記理由から、分析データ安定性の向上には、白金の結晶の層の厚みだけでなく、電極表面の結晶配向性の制御が有効である。好ましい面方位は特に限定されないが、白金表面のX線回折において(111)面、(200)面、(220)面、あるいは(311)面のいずれかの面を優先配向させた電極が好ましい。所定の面方位がピーク積分値で80%以上を占める白金が好ましい。尚、電極表面の結晶配向率は、次式(1)で定義されるものである。
【0032】
(結晶方位の配向率)=I(hkl)/Si[I(hkl)]×100 ・・・(1)
但し、I(hkl)は電極表面のX線回析測定より得られる各面の回析強度積分値であり、Si[I(hkl)]は(hkl)の回析強度積分値の総和である。本明細書では、X線回析測定より得られる(111)面、(200)面、(220)面、あるいは(311)面のそれぞれの回析強度積分値から上式(1)に従って優先配向性を算出する。より好ましくは、熱間圧延、焼鈍処理、冷間圧延を組み合わせて作製して得られる(220)方位が優先配向した白金を用いることができる。白金の層の厚みを5μm以下にするには、白金の再結晶温度以下での冷間圧延加工において圧下率70%以上、好ましくは90%以上の条件で実施する。圧下率は次式(2)で定義する。
【0033】
(圧下率)=(t−t)/t×100 ・・・(2)
ただし、上記(2)式において、tは圧延前の厚みであり、tは圧延後の厚みである。
【0034】
チタン等の弁金属との接合に関しては、チタン等の表面が酸素、炭素、窒素などと反応し、不活性皮膜を形成することから、チタンの金属表面を露出させて、速やかに白金と接合する必要がある。そのためには、例えば、チタン表面に形成された不活性皮膜を真空雰囲気下でドライエッチングなどにより除去した後、白金板と付き合わせ、白金の再結晶温度以下で鍛接することにより接合が可能である。
【0035】
また、公知の爆発圧接法によりチタンと白金を接合した後、冷間圧延加工することも可能である。また、冷間圧延加工した白金箔とチタン板を爆発圧接法により接合してもよい。
【0036】
さらに、冷間圧延加工した白金箔とチタン表面に白金メッキを施したものとを、白金表面同士を付き合わせ、再結晶温度以下で鍛接することにより作製することも可能である。チタン表面に白金メッキを施す場合、密着性を向上させるための前処理として、チタン表面をサンドブラスト法または化学エッチング法により処理してもよい。化学エッチング法においては、弗酸、弗化物含有弗酸、濃硫酸、塩酸、蓚酸など、またそれらの混合溶液を用いることができる。
【0037】
また、弁金属に白金メッキを施した電極を用いることもできる。結晶粒径、配向性の制御には添加剤として有機物質を含むメッキ液中で電流密度を制御することにより白金メッキが可能となる。さらに、メッキ後、再結晶温度以下で圧延加工することにより白金の結晶の層の厚みおよび結晶配向性を調整することもできる。
【0038】
積層電極の下地電極である弁金属の板厚は特に限定されないが、曲げや切削等の加工性の観点から10〜5000μmが好ましい。積層電極の白金部の厚みとしては、10〜150μmであることが好ましい。より好ましくは、積層電極の白金部の厚みは、20〜100μmである。
【0039】
圧延工程において表層にランダムな結晶配向性を有する層が形成される場合や熱集中により粗大な結晶組織が形成される場合があり、その深さは場合によっては表層から10μm程度に及ぶ。そのため、白金部の厚みは10μmを上回ることが好ましい。150μm以上の厚みでは電極単独で取り扱い上問題のない、十分な機械的強度を確保できるが、白金量が多くなり、高コストになる。白金部の厚みを100μmとすることで白金量を低減して低コスト化でき、かつ積層電極構造であるが故、取り扱い上問題のない十分な機械的強度を有する。
【0040】
白金と弁金属とを一体化して積層電極を作製した後、白金電極表面を機械的に研磨することが好ましい。さらに、機械的に研磨した電極を電解研磨することがより好ましい。電解研磨は、酸あるいは水酸化カリウムなどの強アルカリ成分を含む電解液中で水素発生領域と酸素発生領域間で繰り返し電位印加する方法が好ましい。印加電位波形は三角波、矩形波などを用いることができるが、本発明においては、特に限定する必要はない。
【0041】
上記の機械研磨および電解研磨は、圧延加工や爆発圧接法により作製した白金と弁金属との積層電極において特に有効な処理である。すなわち、特に熱間圧延加工を経た電極の表面近傍の結晶配向性は、比較的にランダムであったり、局所的に表面に熱が加わることにより板内部と表層部とでは結晶粒径および配向性が異なることがわかった。機械研磨後の電極では圧延加工により形成された表面変質層はある程度除去されるが、機械研磨時の加圧の影響や研磨砥粒によるキズなどが依然として存在している。
【0042】
本発明の製造方法においても、冷間圧延加工により白金の内部は結晶配向性を持った状態となるが、表面近傍には結晶配向性の乱れた表面変質層が形成されることが考えられる。電解研磨は前記表面変質層の除去に有効であり、電極内部の高い結晶配向性を有する白金部を露出させる工程と言える。
【0043】
電極の製造工程において、白金表面の変質層の除去の程度を判断するため、電解研磨処理中に所定の電解液中に上述した電極を浸漬し、サイクリックボルタンメトリにより表面状態を診断することが好ましい。すなわち、サイクリックボルタンメトリ結果より複数の水素吸脱着の電流ピークが得られる。これらの電流ピークは電極表面の面方位に依存した電流量となるため、圧延加工、鏡面加工により生じた表面変質層の除去の度合いを判断する基準となり得る。
【0044】
得られたピークの内、少なくとも2つのピークの面積、ならびに面積比を計算する。その計算結果に基づき、所定の面積比になるまで電解研磨することにより、表面変質層を除去した電極を得ることができる。
【0045】
なお、サイクリックボルタンメトリにおいて用いる電解液としては、例えば硫酸、燐酸、塩酸、過塩素酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などが挙げられる。
【0046】
上記した電極を作用極として用いた分析装置は、その電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果を示すことがわかった。フローセル内に作用極を設置する場合においても、長期間にわたり電極の表面積の変動が小さく、また、表面凹凸の変動が小さく、分析液、洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、結果的にデータ安定性を向上できる。
【0047】
また、フローセルを含む電気化学的分析装置において、圧延加工を含む製造工程で作製した電極を作用極として用いる場合、電極の圧延方向を液体試料の流通方向に対する角度が45〜135度となるように配置することが好ましい。分析対象物質として、例えば磁性ビーズ等に吸着させた化学的成分の電気化学応答を分析する場合、圧延方向が流通方向と同方向であると、分析中ビーズが作用極上から流れやすくなり、データが変動しやすくなる。圧延方向が流通方向に対して角度45度未満および135度を超える場合、少なからず前記した影響が発現してしまう。圧延方向を流通方向に対して角度45〜135度となるように電極を配置すると、僅かな段差ではあるが、その結晶組織間に生じる段差が、例えば、直径がサブμm〜数μmサイズの磁性ビーズなどは作用極表面上に滞留しやすくなり、結果的にデータの安定性を向上できることがわかった。
【0048】
本発明の電極および電気化学測定装置を用いて、血液・尿など液体試料に含まれる化学的成分として、例えば以下に示す成分を分析することが可能である。
【0049】
つまり、例えば、グルコース、糖化ヘモグロビン、糖化アルブミン、乳酸、尿酸、尿素、クレアチニン、胆汁酸、コレステロール、中性脂肪、アンモニア、尿素窒素、ビリルビン、ヒスタミンなどが挙げられる。ただし、酵素やメディエータ等の作用により生じる酸化還元種の電気化学応答を示す成分であれば特に限定されない。
【0050】
グルコースを検出する場合にあっては、例えばグルコースオキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、グルコース濃度を定量することができる。
【0051】
糖化ヘモグロビンや糖化アルブミンなどの糖化タンパク質を検出する場合にあっては、例えばプロテアーゼにより糖化タンパク質より糖化ペプチドを遊離させた後、さらに糖化ペプチドオキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、糖化タンパク質濃度を定量することができる。
【0052】
乳酸を検出する場合にあっては、例えば乳酸オキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、乳酸濃度を定量することができる。
【0053】
尿酸を検出する場合にあっては、例えばウリカーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、尿酸濃度を定量することができる。
【0054】
尿素を検出する場合にあっては、例えばウレアーゼを作用させることにより生じたアンモニアに、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)およびフェリシアン化カリウム存在下でさらにグルタミン酸脱水素酵素を作用させることにより生成したフェロシアン化カリウムを電極上で酸化することにより、尿素濃度を定量することができる。
【0055】
クレアチニンを検出する場合にあっては、例えばクレアチニナーゼ、クレアチナーゼおよびザルコシンオキシダーゼを順次作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、クレアチニン濃度を定量することができる。
【0056】
胆汁酸を検出する場合にあっては、例えば胆汁酸硫酸スルファターゼ、β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼを還元型NADHおよびフェリシアン化カリウム存在下で順次作用させることにより生成したフェロシアン化カリウムを電極上で酸化することにより、胆汁酸濃度を定量することができる。
【0057】
コレステロールを検出する場合にあっては、例えばコレステロールオキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、コレステロール濃度を定量することができる。
【0058】
中性脂肪を検出する場合にあっては、例えばグリセロフォスフェートオキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、中性脂肪濃度を定量することができる。
【0059】
脂肪酸を検出する場合にあっては、例えばアシルCoAオキシダーゼを作用させることにより生成した過酸化水素を電極上で還元あるいは酸化することにより、脂肪酸濃度を定量することができる。
【0060】
アンモニアを検出する場合にあっては、NADHおよびフェリシアン化カリウム存在下でグルタミン酸脱水素酵素を作用させることにより生成したフェロシアン化カリウムを電極上で酸化することにより、アンモニア濃度を定量することができる。
【0061】
ビリルビンを検出する場合にあっては、例えばフェリシアン化カリウム存在下でビリルビンオキシダーゼを作用させることにより生成したフェロシアン化カリウムを電極上で酸化することにより、尿素窒素濃度を定量することができる。
【0062】
上記した酵素類は電極表面上に固定化される。酵素類の電極表面への固定化方法は特に限定されないが、例えば酵素類を溶解させた水溶液や緩衝液中に電極を浸漬する方法、あるいは電極上に酵素類を溶解させた水溶液や緩衝液を滴下することにより物理的あるいは化学的に酵素類を固定化する方法がある。また、末端基にカルボキシル基やアミノ基などの官能基を導入したチオールを含む溶液中に電極を浸漬して電極表面に前記チオールを吸着させた後に酵素などを反応させて固定化する方法がある。さらには、グルタルアルデヒドのような架橋試薬あるいはさらに牛血清アルブミンを用いて酵素などを電極上に固定化する方法、親水性高分子などのゲル膜を電極上に形成させた後に膜中に酵素などを固定化する方法またはポリチオフェンなどの導電性高分子膜を電極上に形成させた後に膜中に酵素などを固定化する方法などが挙げられる。
【0063】
分析対象を検出する際、必要に応じて、検出濃度範囲の拡張を目的としてメディエーター分子を利用することが有効である。メディエーター分子を利用する場合においては、電極上に形成させた酵素類の生理活性物質の固定化膜中あるいはこれとは分けて、メディエーター分子を電極上に配置することが好ましい。メディエーター分子の種類は特に限定されないが、例えばフェリシアン化カリウム、フェロシアン化カリウム、フェロセンおよびその誘導体、ビオローゲン類およびメチレンブルーなどの少くとも一種を用いることができる。
【0064】
次に、以上の原理に基づく本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0065】
以下、本発明の実施例による電気化学的分析装置の全体構成について説明する。
【0066】
図1は、本発明の実施例1による電気化学的分析装置の全体構成を示す図である。本発明の実施例1は、バッチ処理方式の形態を有する電気化学的分析装置である。
【0067】
図1において、電解セル1の中に、作用極2、対極3および参照極4を配置する。各電極2、3、4は、リード線7により電位印加手段5および測定手段6に接続されている。対極3は白金を板状に圧延加工し、表面を鏡面研磨したものを用いた。参照極4は、Ag|AgCl電極とした。尚、本明細書中において、銀|塩化銀(飽和塩化カリウム水溶液)電極をAg|AgClと記す。
【0068】
溶液分注機構11は、それぞれ測定溶液容器8から被測定対象化学的成分を含む測定溶液、緩衝液容器9から緩衝液を、溶液導入管13内に導入する。導入された測定溶液と緩衝液は、溶液導入管13内にて混合されて、混合液が溶液注入機構12により、電解セル1中に注入されて被測定対象物の電気化学的測定が行われる。
【0069】
電位印加手段5は、ポテンシオスタット、ガルバノスタット、直流電源、交流電源あるいはそれらをファンクションジェネレータなどと接続したシステムを用いることができる。測定手段6は、被測定対象物の電気化学的特性を測定する。なお、電気化学的特性とは、ポテンシオメトリ、アンペロメトリ、ボルタンメトリ、インピーダンス測定等、公知の測定手法のいずれであってもよく、特に限定されることはない。電気化学反応に応じて生じる光子を光学素子により検出する方法等もある。
【0070】
測定の終了した測定溶液は、溶液排出機構15によって吸引されて、溶液排出管14を通って廃液容器16に廃棄される。試料の測定終了後、溶液分注機構11によって、洗浄液容器10から洗浄液が吸入され、溶液注入機構12によって電解セル1中に供給される。電解セル1内を洗浄した洗浄液は、廃液容器16に廃棄される。
【0071】
ここで、典型例として、電圧印加手段5は、測定溶液の測定中に作用極に対して正の電位と負の電位を所定周期で繰り返すパルス状波形の電位を出力する。このパルス状波形の電位は、血液のような蛋白質、ハロゲン元素を多く含む測定溶液を電解セル内に長期間連続的に流す場合や、水酸化カリウムのような強アルカリ性の洗浄剤が測定容器内に流入する場合に、印加されるように構成されている。本実施例1では上記電位印加波形としたが、本発明は特にこれに限定されることはない。
【0072】
ここで、作用極2は、図2に示す作用電極製造装置50により、以下の手順に従って作製した。
【0073】
図2において、白金板加工部50aにより、白金が窒素雰囲気中で30MPaでプレスされる。そして、白金板加工部50aにおいて、白金板は1時間800度に加熱されるとともに、100MPaで熱間圧延加工され、板厚5mmの白金板が作製される。続いて、白金板冷間圧延部50bにおいて、圧延加工部50aにて加工された白金板が100MPaで冷間圧延加工され、板厚1mmの白金板が作製される。その後、表面酸化膜除去部50cにおいて、白金板冷間圧延部50bで処理された白金板と板厚0.5mmのチタン板とが真空チャンバ内に導入され、チタン板表面がドライエッチングされることにより表面酸化層が除去される。その後、積層電極形成部50dにより、速やかに白金板とチタン板とが積層され、真空雰囲気中450度で白金板の膜厚が100μmとなるように冷間圧延加工され、白金部において層厚みが5μm以下である層状の結晶組織を有する白金とチタンの積層電極が得られる。
【0074】
次に、積層電極形成部50dにより作製された積層電極は、切断部50eにおいて、5mm×15mmの大きさに切断される。その後、切断された積層電極は、電極化部50fにおいて、端部が90度折り曲げられ、白金表面と導線とがハンダにより接続される。
【0075】
次に、樹脂包埋部50gにおいて、積層電極の白金表面だけが5mm×10mmの面積で露出するように、接着剤を用いてフッ素系樹脂に埋め込まれる。
【0076】
続いて、機械研磨部50hにおいて、白金表面を耐水研磨紙、ダイヤモンドペーストおよびアルミナ粒子を用いて順次機械研磨加工され、鏡面に仕上げられる。
【0077】
最後に、電解研磨部50iにおいて、0.2mol/L水酸化カリウム水溶液中で−1.2V〜1.0V vs Ag|AgClの電位間で電位走査速度0.1V/sで10000回電位走査が繰り返され、作用極2が得られる。
【0078】
本実施例1で用いた作用極2の電極表面のX線回折測定を実施した。X線源としてCu Kαを用い、出力40kV、20mAとし、白金表面上の異なる3点を測定した。白金表面における(111)面、(200)面、(220)面、(311)面の回折ピークの積分値(I)を算出して、各方位の配向率((%)=I(h kl)/ΣI(hkl)×100)を求めた。尚、各ピーク積分値の算出の際には、(111)面は37°≦2θ≦42°、(200)面は44°≦2θ≦4°、(220)面は65°≦2θ≦70°、(311)面は78°≦2θ≦83°(θは回折角度)の範囲で行った。測定の結果、図3に示す実施例1の結果のように、面指数(220)が優先的に配向しており、配向率97%であることがわかった。
【0079】
同様にして作製した積層電極の板厚方向の断面を露出させ、白金部を電子線後方散乱パターンにより解析した。解析結果を図4に示す。
【0080】
図4の(a)に示すように、得られた作用極は電極表面に対して層状の結晶組織を有することがわかった。白金の結晶の層の厚みを算出するため、25μm×25μmの面積を0.075μmの間隔で3視野測定し、測定した表面の中で最大の層厚みを有する層の厚みを測定した。
【0081】
典型的な本電極の表面近傍の結晶組織像を図4(b)に示す。層厚みは最大でも5μm以下であることがわかった。
【0082】
図5は、本発明の実施例1で採用している白金電極の効果を説明する図である。なお、図5に示すデータは、同一濃度のTSH(甲状腺刺激ホルモン)を分析対象として繰り返し測定を行った結果のデータである。図5の横軸は試験回数を示し、縦軸は各実測値を基準値で除した値を示す。また、基準値は既定濃度のTSH含有溶液を測定したときの出力値、実測値は実施例、比較例で用いた溶液それぞれを測定したときの測定値である。変動幅は分析60000回目と1回目の値の差と定義する。
【0083】
図5において、丸印を結ぶ線は本発明の実施例1の場合であり、三角印を結ぶ線は、本発明とは異なる比較例の場合である。
【0084】
図1の電気化学的分析装置に用いて、測定溶液として、血清や尿など液体試料に含まれる化学的成分、例えば、血清中のTSHを免疫学的に分析し、洗浄液として、例えば水酸化カリウム水溶液を各測定の終了毎に電解セルに導入する方法で測定を行った。
【0085】
図5に示すように、比較例の電極を用いた場合の変動幅は10.3%であった。比較例の電極は、熱間圧延加工、再結晶化処理を施した白金とチタンの積層電極であり、白金表面を実施例1と同様に、鏡面研磨処理、電解処理を行った電極である。詳細は後述する比較例にて説明する。それに対して、本発明の実施例1の白金電極を用いた場合、変動幅が4.4%まで低減した。
【0086】
本発明の実施例1の電極は、白金部の板厚方向の断面結晶組織が電極表面に対して層状に形成され、層の厚みが5μm以下である積層電極である。かつ、本発明の実施例1による電極は、圧延加工および機械研磨において生じた、結晶配向性の乱れた表面変質層が除去され、面方位(220)に配向率90%以上で優先配向している。本発明の実施例1による電極を作用極として用いた電気化学的測定装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、また表面積の変動を抑制することが可能になり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【実施例2】
【0087】
次に、本発明の実施例2について説明する。この実施例2の電極およびそれを用いた電気化学的分析装置は、電極の製造の際、電解研磨処理中に所定の電解液中に前記電極を浸漬し、サイクリックボルタンメトリにより表面状態を診断しながら、白金表面の変質層を除去した点を除き、実施例1と同様である。
【0088】
サイクリックボルタンメトリは、電解液として窒素置換したpH6.86の燐酸緩衝液を用い、作用極をPtワイヤ、参照極をAg|AgClとし、電位走査範囲−0.6〜1.1V、走査速度0.1V/sの条件で実施した。測定結果を図6に示す。
【0089】
サイクリックボルタンメトリ結果より得られた複数の水素吸脱着の電流ピークのうち、−0.37〜−0.31Vに見られるピークをaとし、−0.31〜−0.2Vに見られるピークをbとし、それらのピーク面積、面積比b/aを計算する。面積比が80%以下となるまで電解処理を行い、作用極2とした。
【0090】
本発明の実施例2による作用極を用いた電気化学的分析装置により実施例1と同様に繰り返し分析した結果、変動幅は4.2%と良好な結果が得られた。同様にして作製した本発明とは異なる電極をX線回折解析した結果、配向率98%で(220)方位に優先配向していることがわかった。電子線後方散乱パターン解析においても白金板厚断面の結晶組織層の厚みは5μm以下であった。本発明の実施例2による電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、また表面積の変動を抑制することが可能になり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【0091】
本発明の実施例2では、ピークa、bを表面変質層除去度合いの判断基準として用いたが、−0.48〜−0.37Vに見られるピークcとピークbからb/cを計算し、判断基準としてb/cが35%以下とした場合においても同様の効果が得られることが確認できた。
【実施例3】
【0092】
次に、図7、図8を用いて、本発明の実施例3による電気化学的分析装置について説明する。図7は、本発明の実施例3における電気化学的分析装置の概略構成図である。また、図8は、図7に示した電気化学的分析装置に用いるフローセルの分解構成図である。
【0093】
図7において、図1に示した電解セル1がフローセル20に置き換わっている点以外は、図1に示した例と図7に示した例とは同等となっている。
【0094】
図8において、電解セルとしてのフローセル20は、図8の(a)に示す2枚の電気絶縁性基板30、32と、シール部材31が、図8の(b)に示すように積層されて形成される。絶縁性基板30は、ポリエーテルエーテルケトンによって形成されている。この絶縁性基板30は、耐薬品性に優れた絶縁樹脂であれば材質は特に限定されず、ふっ素系樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポニフェニレンサルファイド、アクリル樹脂等を用いることができる。
【0095】
絶縁性基板30の一方の面(電気絶縁性基板32に対向する側の面)には、作用極34が固定されている。作用極34の製造方法を以下に示す。
【0096】
すなわち、本発明の実施例1の機械研磨以前の工程までを実施し、白金とチタンの積層電極を得た。この積層電極を絶縁性基板30の表面に設けられた凹部に埋め込み、接着剤により固着した後、絶縁性基板30と積層電極との表面段差が無くなるまで耐水研磨紙、ダイヤモンドペースト、アルミナにより順次機械研磨し、鏡面にした。尚、接着剤としては、エポキシ系、アクリル系等の熱可塑性、熱硬化性あるいは光硬化性の樹脂を用いることができるが、絶縁性樹脂と同様、耐薬品性に優れたものであれば、特に限定されず適宜選択することができる。 その後、0.2mol/L水酸化カリウム水溶液中で−1.2V/0.5秒、3.0V/1.5秒の矩形パルス状の電位印加を10000回繰り返した。本発明の実施例3では、圧延方向と、分析時に液が流通する方向に対して垂直となるように作用極4を配置した。
【0097】
絶縁性基板32は、透明なアクリル材によって形成されている。絶縁性基板32の一方の面(電気絶縁性基板30に対向する側の面)には、対極35が固定されている。対極35は、白金を電極の形状に加工した後、1000℃にて、一時間焼鈍処理を施したものを用いた。
【0098】
電気絶縁性基板32の表面には、凹部が形成されており、この凹部に焼鈍処理を施した対極35を埋め込み、接着剤により固着した後、対極35の表面を鏡面研磨した。なお、対極35の形状は、板状に限られるものではなく、櫛歯状、メッシュ状、棒状でもよい。また、電極材料は、白金に限るものでなく、他の白金族金属でもよい。対極35は、作用極34と同様に、鏡面研磨処理後、電解研磨処理を施した白金を用いてもよい。
【0099】
作用極34、対極35は、それぞれ絶縁性基板30、32に埋め込まれる前にリード線39、40とハンダ付けにより接続されており、リード線39、40は、絶縁性基板30、32に開けられた穴に通してある。
【0100】
シール部材31は、ふっ素系樹脂製であり、中央に開口部36を有している。絶縁性基板30には配管37、38と連結するための孔21、22が作用極34を間にして、形成されており、これら2つの孔21、22は開口部36の内周に位置するよう配置され、開口部36部分に溶液の出し入れが可能となる。作用極34と対極35は、シール部材31の開口部36を介して対向している。
【0101】
絶縁性基板30、32およびシール部材31の4隅には、ネジ穴33が形成され、それぞれに、ネジを通し、絶縁性基板30とシール部材31と絶縁性基板32とを固定圧着して、フローセル20を形成する。
【0102】
絶縁性基板30において、作用極34が配設される面と反対側の面には、ふっ素樹脂製の配管37、38が固定接続されている。配管37、38の一方は、後述するように、フローセル20に測定溶液などを導入する機構に接続され、他方は、測定済みの溶液を排出するための流路として用いる。また、参照極(図8には示さず)は、配管38、すなわち溶液の排出側配管部に配置され、作用極に電位印加する際の基準電極として利用する。
【0103】
なお、本発明のフローセルは、図8に示した実施例に特に限定されず、他の構成が可能である。以下、その他の構成のフローセルの例について説明する。
【0104】
図11は、フローセルの他の一例を示す図である。図11において、フローセル60は、図11の(a)に示す各部材、すなわち2枚の電気絶縁性基板70、72と、シール部材71が図11の(b)のように積層されて形成される。絶縁性基板70の一方の面(電気絶縁性基板72に対向する側の面)には、作用極74が固定されている。絶縁性基板72の一方の面(電気絶縁性基板70に対向する側の面)には、対極75が固定されている。
【0105】
作用極74、対極75は、それぞれ絶縁性基板70、72に埋め込まれる前にリード線79、80とハンダ付けにより接続されており、リード線79、80は、絶縁性基板70、72に開けられた穴に通してある。
【0106】
シール部材71の中央には開口部76が形成されている。絶縁性基板72には配管77、78と連結するための孔21、22が対極75を間にして形成されており、これら2つの孔21、22は開口部76の内部に位置するよう配置され、開口部76部分に溶液の出し入れが可能となる。作用極74と対極75は、シール部材71の開口部76を介して対向している。
【0107】
絶縁性基板70、72およびシール部材71の4隅にはネジ穴73が形成され、それぞれに、ネジを通し、絶縁性基板70とシール部材71と絶縁性基板72とを固定圧着して、フローセル60を形成する。
【0108】
絶縁性基板72において、対極75が配設される面と反対側の面には、ふっ素樹脂製の配管77、78が固定接続されている。配管77、78の一方は、後述するように、フローセル60に測定溶液などを導入する機構に接続され、他方は、測定済みの溶液を排出するための流路として用いる。
【0109】
また、参照極(図11には示さず)は、配管78、すなわち溶液の排出側配管部に配置され、作用極に電位印加する際の基準電極として利用する。
【0110】
図12は、フローセルのその他の例を示す図である。図12において、フローセル90は、図12の(a)に示す各部材、すなわち2枚の電気絶縁性基板100、102と、シール部材101が図12の(b)のように積層されて形成される。絶縁性基板100の一方の面(電気絶縁性基板102に対向する側の面)には、作用極104が固定されている。絶縁性基板102の一方の面(電気絶縁性基板100に対向する側の面)には、対極105が固定されている。
【0111】
作用極104、対極105は、それぞれ絶縁性基板100、102に埋め込まれる前にリード線109、110とハンダ付けにより接続されており、リード線109、110は、絶縁性基板100、102に開けられた穴に通してある。
【0112】
シール部材101の中央には開口部106が形成されている。開口部106の形状は図12に示す例は6角形であるが、フローセル内に供給される各種溶液が滞留することなく、円滑に液置換が行われる形状であれば、特に限定されない。
【0113】
絶縁性基板100には配管107、108と連結するための孔21、22が作用極104を間にして形成されており、これら2つの孔21、22は、開口部106の内部に位置するよう配置され、開口部106部分に溶液の出し入れが可能となる。作用極104と対極105は、シール部材101の開口部106を介して対向している。
【0114】
絶縁性基板100、102およびシール部材101の4隅にはネジ穴103が形成され、それぞれに、ネジを通し、絶縁性基板100とシール部材101と絶縁性基板102とを固定圧着して、フローセル90を形成する。
【0115】
絶縁性基板102において、側面には、ふっ素樹脂製の配管107、108が固定接続されている。配管107、108の一方は、後述するように、フローセル90に測定溶液などを導入する機構に接続され、他方は、測定済みの溶液を排出するための流路として用いる。
【0116】
また、参照極(図12には示さず)は、配管108、すなわち溶液の排出側配管部に配置され、作用極に電位印加する際の基準電極として利用する。
【0117】
図13は、フローセルのその他の例を示す図である。図13において、フローセル120は、図13の(a)に示す各部材、すなわち2枚の電気絶縁性基板130、132と、シール部材131が図13の(b)のように積層されて形成される。絶縁性基板132の一方の面(電気絶縁性基板130に対向する側の面)には、対極135が固定されている。絶縁性基板130の中央部には図13の(c)に示すように作用極134を配置する凹部および作用極134との接続を可能にする通電用ボルト141のネジ溝143が形成されている。
【0118】
作用極134を絶縁性基板130に接着剤を用いて固着した後、鏡面研磨を行う。その後、通電用プレート142を介して通電用ボルト141をネジ溝143に締め込む。通電用プレート142は例えば金、錫やアルミニウムなど、軟らかく抵抗率の小さい金属であれば特に限定されない。通電用ボルト141はリート線139と接続されており、作用極134との電気的接続を可能にしている。
【0119】
対極135は絶縁性基板132に埋め込まれる前にリード線140とハンダ付けにより接続されており、リード線140は、絶縁性基板132に開けられた穴に通してある。
【0120】
シール部材131の中央には開口部136が形成されている。絶縁性基板132には配管137、138と連結するための孔21、22が対極135を間にして形成されており、これら2つの孔21、22は開口部136の内部に位置するよう配置され、開口部136部分に溶液の出し入れが可能となる。作用極134と対極135は、シール部材131の開口部136を介して対向している。
【0121】
絶縁性基板130、132およびシール部材131の4隅にはネジ133が形成され、それぞれに、ネジを通し、絶縁性基板130とシール部材131と絶縁性基板132とを固定圧着して、フローセル120を形成する。
【0122】
絶縁性基板132において、対極135が配設される面の側面の面には、ふっ素樹脂製の配管137、138が固定接続されている。配管137、138の一方は、後述するように、フローセル120に測定溶液などを導入する機構に接続され、他方は、測定済みの溶液を排出するための流路として用いる。また、参照極(図13には示さず)は、配管138、すなわち溶液の排出側配管部に配置され、作用極134に電位印加する際の基準電極として利用する。
【0123】
図14は、フローセルのその他の例を示す図である。図14において、フローセル180は、絶縁性基板190、192で作用極194をO−リング191を介して積層することにより形成する。絶縁性基板190、192の外周には複数のネジ穴193が形成され、それぞれのネジ穴193にネジを通して締め込むことにより、絶縁性基板190、192を互いに固定してフローセル180を形成する。
【0124】
絶縁性基板192の中央部には対極195が埋め込まれており、フローセル180の内部に対極195が突出した構造となっている。また、絶縁性基板192には、ふっ素樹脂製の配管197、198が固定接続されている。配管197、198の一方は、後述するように、フローセル180に測定溶液などを導入する機構に接続され、他方は、測定済みの溶液を排出するための流路として用いる。また、参照極(図14には示さず)は、配管198、すなわち溶液の排出側配管部に配置され、作用極に電位印加する際の基準電極として利用する。
【0125】
作用極194、対極195は、リード線199、200とハンダ付けにより接続されている。
【0126】
次に、図7を参照して、本発明の実施例3の電気化学的分析装置の全体構成について説明する。図1と同様な構成の部分は、重複するので詳細な説明は省略する。
【0127】
図7において、測定溶液容器8内の測定溶液と緩衝液容器9内の緩衝液は、溶液分注機構11により吸引され、溶液導入管13内にて混合されて、フローセル20中に注入される。混合液がフローセル20に貯液している間に、電圧印加手段5によりフローセル20内の作用極(34、74、104、134、194)に所定の電位が印加され、被測定対象物の電気化学的測定が行われる。フローセル20内の作用極(34、74、104、134、194)における電気化学的反応により得られた信号は、リード線7を介して信号処理のための測定手段6に伝達される。
【0128】
なお、透明な絶縁性樹脂製の基板32上部に検出器を配置することにより電気化学反応により生じる変化を光学的に測定することも可能である。
【0129】
フローセル20にて測定の終了した測定溶液は、溶液排出機構15によって吸引されて、溶液排出管14を通って廃液容器16に廃棄される。
【0130】
本実施例3で用いた作用極(34、74、104、134、194)の電極表面のX線回折測定を実施した結果、面指数(220)が優先的に配向しており、配向率92%であることがわかった。また、電子線後方散乱パターン解析より、作用極(34、74、104、134、194)は、電極表面に対して層状の結晶組織を有しており、白金の層厚みは最大でも5μm以下であることがわかった。
【0131】
図7に示した電気化学的分析装置を用いて、測定溶液として、血清や尿など液体試料に含まれる化学的成分、例えば、血清中のTSHを直径3μmの磁性ビーズ表面に吸着させた複合体を分析し、洗浄液として、例えば水酸化カリウム水溶液を各測定の終了毎に電解セルに導入する方法で測定を行った。
【0132】
実施例1と同様に、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、5.1%であった。本発明の実施例3による電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、また表面積の変動を抑制することが可能になる。また、分析液、洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【0133】
加えて、作用極の圧延方向を分析液の流通方向に対して垂直に作用極を配置することにより、ビーズが作用極から下流へ流出することを抑制し、長期間にわたり変動が少なく、安定し測定結果が得られるという効果が認められた。
【0134】
なお、本実施例3では、圧延方向を分析時液が流通する方向に対して垂直となるように作用極(34、74、104、134、194)を配置したが、圧延方向を流通方向に対して同一方向とした場合においても検討した結果、変動幅は7%となり、本実施例3より変動幅が僅かに増大した。また、短期間でのデータ安定性を評価した結果、本実施例に比べて、データのばらつきが大きくなった。これは、分析中磁性ビーズが作用極表面から下流にわずかに流出してしまった影響であると考えられる。
【0135】
従って、本実施例3に示すように、圧延方向を分析時液が流通する方向に対して垂直となるように作用極34を配置することが、データ安定性の向上により好ましい形態であることがわかった。
【実施例4】
【0136】
次に、本発明の実施例4について説明する。実施例4では、実施例1の電極表面上に酵素を固定化し、下地金属をNbとしている。その他の構成は実施例1と同様となっている。実施例4において、既知濃度のグルコースを分析対象とし、実施例1と同様に繰り返し測定を行った。
【0137】
測定した結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、4.1%であり、グルコースを分析対象とした比較例2に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本発明の実施例4による電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、表面積の変動を抑制することが可能になり、結果的に電極表面に修飾する酵素量を安定に制御することができるからである。また、本発明の実施例4によれば、分析液、洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【0138】
なお、図10に示した比較例については後述する。
【実施例5】
【0139】
次に、本発明の実施例5について説明する。実施例5では既知濃度の尿素を分析対象としたことを除き、実施例1の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。すなわち、測定溶液容器8において、検体試料とウレアーゼ、次にβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、フェリシアン化カリウム存在下でさらにグルタミン酸脱水素酵素を作用させることによりフェロシアン化カリウムを生成させた。
【0140】
測定溶液容器8からのフェロシアン化カリウムを含む測定溶液と、緩衝液溶液容器9からの緩衝液とを溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電解セル1中に注入し、電気化学測定を行った。繰り返し測定を行った結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、2.8%であり、分析対象が同一である比較例3に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。
【0141】
これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、表面積の変動を抑制することが可能だからである。
【0142】
また、本発明の実施例5によれば、分析液、洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【実施例6】
【0143】
次に、本発明の実施例6について説明する。実施例6は、下地金属をZrとしている。その他の構成は実施例1と同様となっている。実施例6において、既知濃度のコレステロールを分析対象とし、実施例1の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。
【0144】
すなわち、図1の測定溶液容器8において、検体試料とコレステロールオキシダーゼを作用させることにより過酸化水素を生成した。そして、測定溶液容器8からの過酸化水素を含む測定溶液と、緩衝液容器9からの緩衝液とを溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電解セル1中に注入し、電気化学測定を行った。
【0145】
繰り返し測定を行った結果、図10に示すように、分析1回目と60000回との変動幅を求めると、5.8%であり、分析対象が同一である比較例4に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、表面積の変動を抑制することが可能となるからである。
【0146】
また、本発明の実施例6によれば、分析液、洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【実施例7】
【0147】
次に、本発明の実施例7について説明する。実施例7では既知濃度の尿酸を分析対象としたことを除き、実施例1の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。
【0148】
すなわち、測定溶液容器8において、検体試料とウリカーゼを作用させることにより過酸化水素を生成した。測定溶液容器8からの過酸化水素を含む測定溶液と、緩衝液溶液容器9からの緩衝液とを溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電解セル1中に注入し、電気化学測定を行った。
【0149】
繰り返し測定を行った結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、6.5%であり、分析対象が同一である比較例5に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、表面積の変動を抑制することが可能となるからである。
【0150】
また、本発明の実施例7によれば、分析液、洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【実施例8】
【0151】
次に、本発明の実施例8について説明する。実施例8では既知濃度のクレアチニンを分析対象としたことを除き、実施例1の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。
【0152】
すなわち、測定溶液容器8において、検体試料とクレアチニナーゼ、ザルコシンオキシターゼを、順次作用させることにより過酸化水素を生成した。測定溶液容器8からの過酸化水素を含む測定溶液と、緩衝液溶液容器9からの緩衝液を溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電解セル1中に注入し、電気化学測定を行った。
【0153】
繰り返し測定を行った結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、7.9%であり、分析対象が同一である比較例6に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、表面積の変動を抑制することが可能となるからである。
【0154】
また、本発明の実施例8によれば、分析液、洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【実施例9】
【0155】
次に、本発明の実施例9について説明する。実施例9では既知濃度のクレアチニンを分析対象としたことを除き、実施例1の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。
【0156】
すなわち、測定溶液容器8において、検体試料と胆汁酸硫酸スルファターゼ、β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼを還元型NADHおよびフェリシアン化カリウム存在下で順次作用させることによりフェロシアン化カリウムを生成した。
【0157】
測定溶液容器8からのフェロシアン化カリウムを含む測定溶液と、緩衝液溶液容器9からの緩衝液とを溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電解セル1中に注入し、電気化学測定を行った。
【0158】
繰り返し測定を行った結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、9.8%であり、分析対象が同一である比較例7に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、表面積の変動を抑制することが可能になるからである。
【0159】
また、実施例9によれば、分析液、洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【実施例10】
【0160】
次に、本発明の実施例10について説明する。実施例10では既知濃度の脂肪酸を分析対象としたことを除き、実施例1の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。
【0161】
すなわち、測定溶液容器8において、検体試料とアシルCoAオキシダーゼを作用させることにより過酸化水素を生成した。測定溶液容器8からの過酸化水素を含む測定溶液と、緩衝液溶液容器9から緩衝液とを溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電解セル1中に注入し、電気化学測定を行った。
【0162】
繰り返し測定を行った結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、5.9%であり、分析対象が同一である比較例8に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。
【0163】
これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、表面積の変動を抑制することが可能となるからである。
【0164】
また、実施例10によれば、分析液、洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【実施例11】
【0165】
次に、本発明の実施例11について説明する。実施例11では既知濃度のビリルビンを分析対象としたことを除き、実施例1の測定方法に準拠して繰り返し分析測定を行った。
【0166】
すなわち、測定溶液容器8において、検体試料とフェリシアン化カリウム存在下でビリルビンオキシダーゼを作用させることによりフェロシアン化カリウムを生成した。測定溶液容器8からのフェロシアン化カリウムを含む測定溶液と、緩衝液溶液容器9からの緩衝液とを溶液導入管13内に導入して混合し、溶液注入機構12により電解セル1中に注入し、電気化学測定を行った。
【0167】
繰り返し測定を行った結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、4.3%であり、分析対象が同一である比較例9に比べて変動幅が小さくなっていることがわかった。
【0168】
これは、本電極を作用極として用いた分析装置においては、電極表面内におけるエッチング速度差が小さいため、エッチングにより生じる凹凸が小さく、表面積の変動を抑制することが可能となるからである。
【0169】
また、実施例11によれば、分析液、洗浄液の液置換を安定して実施することが可能となり、電気化学応答が長期間にわたり変動が少なく、安定した測定結果が得られるという効果が認められた。
【0170】
次に、図10に記載した比較例1〜9について説明する。
(比較例1)
比較例1の電極は、白金とチタンの積層電極である。この電極は板厚1mmの白金板と板厚0.5mmのチタン板とを真空雰囲気中において30MPaでプレスした。1時間800度に加熱するとともに、白金部の厚みが100μmとなるように、100MPaで熱間圧延加工した。冷却後、本発明の実施例1と同様に、ふっ素系樹脂に埋め込み、白金表面を耐水研磨紙、ダイヤモンドペースト、アルミナを用いて順次機械研磨し、引き続き電解研磨を施し、作用極とした。
【0171】
この作用極を用いて、実施例1と同様に図1の電気化学的分析装置に用いて、測定溶液として、血清中のTSHを免疫学的に分析し、洗浄液として、例えば水酸化カリウム水溶液を各測定の終了毎に電解セルに導入する方法で測定を行った。
【0172】
その結果、図5に示すように、比較例1の電極を用いた場合の変動幅は約10.3%であった。比較例1の電極をX線回折で解析したところ、図3に示すように、(220)および(200)に優先配向していることがわかったが、最大強度を示した(220)方位の配向率は54%であった。
【0173】
また、電子線後方散乱パターン解析により白金部の板厚方向断面の結晶組織を観察したところ、白金は層状をなしておらず、図9に示すように、粒径も非常に粗大であることがわかった。
【0174】
このような電極を用いた場合、分析繰り返し、すなわち表面エッチングの進行に伴い、電極表面内におけるエッチング速度差が大きく、エッチングにより生じる凹凸、また表面積の変動が大きくなり、結果的に電気化学応答の変動が大きくなったと考えられる。
(比較例2)
比較例2は、比較例1の白金部の結晶組織が粗大化した積層電極を作用極として用い、実施例4と同様にグルコースを分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると4.2%であり、実施例4と比較して変動幅が大となっている。
(比較例3)
比較例3は、比較例1の白金部の結晶組織が粗大化した積層電極を作用極として用い、実施例5と同様に尿素を分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、3.7%であり、実施例5と比較して変動幅が大となっている。
(比較例4)
比較例4は、比較例1の白金部の結晶組織が粗大化した積層電極を作用極として用い、実施例6と同様にコレステロールを分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、7.3%であり、実施例6と比較して変動幅が大となっている。
(比較例5)
比較例5は、比較例1の白金部の結晶組織が粗大化した積層電極を作用極として用い、実施例7と同様に尿酸を分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、8.8%であり、実施例7と比較して変動幅が大となっている。
(比較例6)
比較例6は、比較例1の白金部の結晶組織が粗大化した積層電極を作用極として用い、実施例8と同様にクレアチニンを分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、11.2%であり、実施例8と比較して変動幅が大となっている。
(比較例7)
比較例7は、比較例1の白金部の結晶組織が粗大化した積層電極を作用極として用い、実施例9と同様にクレアチニンを分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、12.6%であり、実施例9と比較して変動幅が大となっている。
(比較例8)
比較例8は、比較例1の白金部の結晶組織が粗大化した積層電極を作用極として用い、実施例10と同様に脂肪酸を分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、7.2%であり、実施例10と比較して変動幅が大となっている。
(比較例9)
比較例9は、比較例1の白金部の結晶組織が粗大化した積層電極を作用極として用い、実施例11と同様にビリルビンを分析対象として繰り返し測定を行った。測定した結果、図10に示すように、分析1回目と60000回目との変動幅を求めると、6.6%であり、実施例11と比較して変動幅が大となっている。
た。
【0175】
比較例2から9の積層電極を用いた場合、分析繰り返し、すなわち表面エッチングの進行に伴い、電極表面内におけるエッチング速度差が大きく、エッチングにより生じる凹凸、また表面積の変動が大きくなり、結果的に電気化学応答の変動が大きくなったと考えられる。
【0176】
なお、上述した本発明の実施例は、本発明を電気化学的分析装置の作用極に適用した場合の例であるが、作用極のみならず、対極にも本発明を適用することができる。対極にも本発明を適用すれば、さらに分析データの高精度化を図ることができる。
【符号の説明】
【0177】
1・・・電解セル、2・・・作用極、3・・・対極、4・・・参照極、5・・・電位印加手段、6・・・測定手段、7・・・リード線、8・・・測定溶液容器、9・・・緩衝液容器、10・・・洗浄液容器、11・・・溶液分注機構、12・・・溶液注入機構、13・・・溶液導入管、14・・・溶液排出管、15・・・溶液排出機構、16・・・廃液容器、20、60、90、120、180・・・フローセル、21、22・・・孔、30、32、70、72、100、102、130、132、190、192・・・絶縁性基板、31、71、101、131・・・シール部材、33、73、103、133、193・・・ネジ穴、34、74、104、134、194・・・作用極、35、75、105、135、195・・・対極、36、76、106、136・・・開口部、37、38、77、78、107、108、137、138、197、198・・・配管、39、40、79、80、109、110、139、140、199、200・・・リード線、50・・・作用電極製造装置、50a・・・白金板加工部、50b・・・白金板冷間圧延部、50c・・・表面酸化膜除去部、50d・・・積層電極作成部、50e・・・切断部、50f・・・電極化部、50g・・・樹脂包埋部、50h・・・機械研磨部、50i・・・電位走査部141・・・通電用ボルト、142・・・通電用プレート、143・・・ネジ溝、191・・・Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中に含まれる化学的成分の電気化学的応答を測定する電気化学的分析装置に用いる電気化学測定用電極において、
Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、V、Mo、Wのうちのいずれかの弁金属と白金とが積層され、上記白金部の板厚方向の断面結晶組織が電極表面に対して層状に形成されていることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項2】
請求項1記載の電気化学測定用電極において、上記白金部の各層の厚みが5マイクロメートル以下であることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項3】
請求項1記載の電気化学測定用電極において、上記電極の白金表面のX線回折測定結果は、(111)面、(200)面、(220)面および(311)面の回折強度の積分値が、上記いずれかに優先配向されていることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項4】
請求項3記載の電気化学測定用電極において、電極表面のX線回折で検出される白金の回折ピークのうち面方位(220)が優先配向していることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項5】
請求項3記載の電気化学測定用電極において、各方位の配向率(%)を、I(hkl)/Si[I(hkl)]×100(但し、I(hkl)は各面の回折強度積分値であり、Si[I(hkl)]はI(hkl)の総和)とすると、上記
面のうちのいずれかの面の配効率が80%以上であることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項6】
請求項1記載の電気化学測定用電極において、白金部の厚みが10マイクロメートル〜100マイクロメートルであることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項7】
請求項1記載の電気化学測定用電極において、上記電極は作用極であることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項8】
液体試料を分析する電気化学的分析装置において、
作用極、対極、参照極が内部に配置される電解セルと、
上記電解セル内の測定溶液及び緩衝溶液を注入する溶液注入機構と、
上記作用極、対極、参照極に電位を印加する電位印加手段と、
上記作用極、対極、参照極に接続され上記測定溶液の電気化学的特性を測定する測定手段と、
を備え、上記作用極は、Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、V、Mo、Wのうちのいずれかの弁金属と白金とが積層され、上記白金部の板厚方向の断面結晶組織が電極表面に対して層状に形成されていることを特徴とする電気化学的分析装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電気化学的分析装置において、上記白金部の各層の厚みが5マイクロメートル以下であることを特徴とする電気化学的分析装置。
【請求項10】
請求項8記載の電気化学的分析装置において、上記電極の白金表面のX線回折測定結果は、(111)面、(200)面、(220)面および(311)面の回折強度の積分値が、上記いずれかに優先配向されていることを特徴とする電気化学的分析装置。
【請求項11】
請求項10記載の電気化学的分析装置において、電極表面のX線回折で検出される白金の回折ピークのうち面方位(220)が優先配向していることを特徴とする電気化学的分析装置。
【請求項12】
請求項8記載の電気化学測定用電極において、上記電極の白金部の厚みが10マイクロメートル〜100マイクロメートルであることを特徴とする電気化学測定用電極。
【請求項13】
請求項8記載の電気化学的分析装置において、上記セルはフローセルであることを特徴とする電気化学的分析装置。
【請求項14】
請求項13記載の電気化学的分析装置において、上記作用極の圧延方向が上記フローセル内の測定溶液の流通方向に対して45〜135度の角度をなすように配置されていることを特徴とする電気化学的分析装置。
【請求項15】
測定溶液中に含まれる化学的成分の電気化学的応答を測定する電気化学的分析装置に用いる電気化学測定用電極の製造方法において、
Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、V、Mo、Wのうちのいずれかの弁金属と白金とを冷間圧延加工により板状に積層して、上記白金の板厚方向の断面結晶組織が電極表面に対して層状に形成され、上記白金の各層の厚みが5マイクロメートル以下である積層電極を形成し、
形成した積層電極を機械研磨し、
上記積層電極の表面変質層を電気化学的に除去することを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項16】
測定溶液中に含まれる化学的成分の電気化学的応答を測定する電気化学的分析装置に用いる電気化学測定用電極の製造方法において、
Ti、Ta、Nb、Zr、Hf、V、Mo、Wのうちのいずれかの弁金属の表面に白金メッキを被覆し、上記弁金属の白金メッキ被覆面と白金と対面させた状態で冷間圧延加工により板状に積層して、上記白金の板厚方向の断面結晶組織を電極表面に対して層状に形成し、上記白金の各層の厚みが5μm以下である積層電極を形成し、
上記積層電極を機械研磨した後に電解研磨し、
上記積層電極の表面変質層を除去することを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の電気化学測定用電極の製造方法において、上記表電解研磨は、電解液中で電位を水素発生領域から酸素発生領域の電位間で複数回繰り返し印加する工程であることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の電気化学測定用電極の製造方法において、上記電解液中で印加する電位の波形は矩形波であることを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項19】
請求項16記載の電気化学測定用電極の製造方法において、表面変質層を除去した後、サイクリックボルタンメトリにより得られる複数の水素吸脱着ピークのうち少なくとも2つのピークの面積比から電極表面状態を診断し、所定ピーク比となるまで電解研磨を繰り返すことを特徴とする電気化学測定用電極の製造方法。
【請求項20】
測定溶液中に含まれる化学的成分の電気化学的応答を測定する電気化学的分析装置に用いる電気化学測定用電極の製造装置において、
白金を窒素雰囲気中で加圧し、加熱して熱間圧延加工し、所定の板厚の白金板を作製する白金板加工部と、
上記白金板を冷間圧延加工する白金板冷間圧延部と、
上記白金板冷間圧延部で処理された白金板とチタン板とを真空中に配置し、チタン板表面をドライエッチングして、表面酸化層を除去する表面酸化膜除去部と、
白金板とチタン板とを積層し、真空雰囲気中で白金板の膜厚が所定厚さとなるように冷間圧延加工し、上記白金の板厚方向の断面結晶組織が電極表面に対して層状に形成され、上記白金の各層の厚みが5マイクロメートル以下である白金とチタンとの積層電極を形成する積層電極形成部と、
上記積層電極形成部で作成された積層電極を所定の大きさに切断する切断部と、
上記切断部にて切断された積層電極の白金表面と導線とを電気的に接続する電極化部と、
上記電極化部にて導線と接続された積層電極の白金表面だけが所定の面積で露出するように接着剤を用いて絶縁性樹脂へ埋め込む樹脂包埋部と、
上記絶縁性樹脂に埋め込まれた積層電極の白金表面を機械研磨加工する機械研磨部と、
上記機械研磨された積層電極を電解液中で、所定の電位及び所定の電位走査速度で電位走査を繰り返す電解研磨部と、
を備えることを特徴とする電気化学測定用電極の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−154886(P2012−154886A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16434(P2011−16434)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)