説明

電気化学的特性のアッセイのための方法および装置

サンプル中の選択分析物の存在を、電気化学的システム内において、電導電池タイプの装置を使用して評価する。電池の二つの電極間に十分な電位または電流を発生させて分析物または分析物検出酸化還元系内の媒体を酸化または還元させ、二つの電極間に分析物または媒体の化学的電位勾配を形成させる。勾配の設定後、電位または電流の印加を中止し、化学的電位勾配の緩和から分析物非依存性の信号を取得する。分析物非依存性の信号は、電位または電流印加中に取得した分析物依存性の信号の補正に使用する。この補正により、分析物濃度の測定が改善される。それは別の較正値を必要とせずに、分析物および/または媒体の輸送(移動性)、有効電極面積および電極間隔(および結果として、サンプル量)等の装置特有、テスト特有の係数を補正するからである。本分析は手持ちメーター中の使い捨てテストストリップを使用して、例えばグルコーステストで実行可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(記載)
本出願は、米国仮出願60/496,787(2003年8月21日出願)および米国仮出願60/529,648(2003年12月15日出願)の利益を主張する。米国仮出願60/496,787および米国仮出願60/529,648の両方は、そのような援用を許可する全ての管轄において、本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(発明の背景)
本出願は電気化学的特性の分析のための方法と装置に関し、特に少量のサンプルから例えばグルコース等の分析物を決定する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0003】
分析物を定量または検出する電気化学的方法は、その装置製造の簡易性と使用の容易性のため、広く採用されてきた。電気化学的センサーは電位差計量装置、または電流計測装置の形式をとってきた。電位差計量装置は原子上のチャージの効果とその位置を測定するものであり、例えばケミカルフィールドエフェクトトランジスター(chemFET)、およびイオン選択性電極(pH電極を含む)などである。電流計測装置は、電位を加え、その結果生じる電流を測定する原理で作動し、発生した電流の規模は通常存在する分析物の量に関係する。あるいは全時間における合計チャージを、サンプルのある領域中の分析物の量を代表するものとして使用することもできる。電気化学的電流の発生可能な化合物の範囲は、チャージをもたらすものよりも小さいため、電流計測装置はより多くの選択の機会を提供する。したがって電流計測センサーには、環境監視や医薬品まで広範な分野において多くの努力が集中されてきた。
【0004】
ますます微細化するサンプルに対して低コストで測定する機会がますます増加することが求められているということは、電流計測センサーが自然の限界に達することを意味する。電流計測分析の古い形式では電導電池が使用され、サンプル内の一極から他極への種の移動は、その濃度に関連していた。この手法では、電極領域や分離の変動を補正するための慎重な電池対電池の較正が必要であり、これは電池読取補正用の単一の電池定数として表現されていた。電流計測分析のより最近の形では、急速な読取は調査対象の電極の近くの種にのみに効果のある結果となった。しかしサンプルが微細化する現在の傾向では、一つの電極での反応の影響は、他の電極にあっては望ましくない外部干渉として直ちに感じられ、仮にその影響を除去できるとしても(たとえば銀・塩化銀の陰極を使用して)、通過電流の低い小さなサンプルサイズでは、正確な測定がさらに困難となろう。さらに極小の使い捨て装置からの読取は、製造上の公差の限界からも不確かなものとなる。このように、製造、環境、およびサンプルの変動に対する独自の補正係数を生み出すことができる極小の電導電池における電気化学的定量分析を実行するための方法と装置が、有用且つ有益であろう。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本発明はサンプル中の選択分析物の存在を、電導電池式装置を使用する電気化学システム中で評価する方法に関するものである。本方法は、
(a)電導電池の二つの電極間のスペースに当該サンプルを導入する工程と、
(b)電位または電流を前記二つの電極間に印加し、分析物または分析物検出酸化還元系中の媒体を酸化または還元させ、これにより前記二つの電極間に前記分析物または媒体の化学的電位勾配を形成する工程と、
(c)勾配が形成された後、電位または電流の印加を中止し、前記化学的電位勾配の緩和を現す分析物非依存性の信号を取得する工程と、
(d)任意で、前記分析物非依存性の信号を取得後、電極間に電位または電流を印加付加する工程と、
(e)(b)または(d)、または両段階における電位または電流の印加中、分析物依存性の信号を取得する工程と、
(f)段階(c)で取得した前記分析物非依存性の信号を使用して、段階(e)で取得した前記分析物依存性の信号を補正し、サンプル中の選択分析物の存在を示す補正された分析物依存性の信号を取得する工程と、を含む。
【0006】
分析物依存と非依存の二つの信号を使用することにより、分析物依存性の信号のみを使用しているより、改善された分析物濃度の測定が得られる。これは分析物非依存性の信号は、別途の較正値を必要とせずに、分析物および/または媒体の移送(移動性)、有効電極領域、および電極スペース(結果としてサンプルの容積)等の装置およびテスト特有の係数の情報を提供するからである。これは、本発明の自動較正に係わる方法と装置の使用によって、コストの増加なしに本測定の正確性を改善することができることを意味する。
【0007】
本発明はさらに本発明の方法を実行するために使用する装置を提供する。本装置はハウジングを包含し、その中に発生可能で第一および第二の信号を監視する電子技術を内蔵する。好適な実施例において、ハウジングは手に持つことができるサイズであり、血液グルコースのテストにおいて既知のタイプの使い捨て式1回使用のテストストリップを受け取るための開口部を有する。
【0008】
(発明の詳細な説明)
(定義)
ここで使用される場合、「分析物」という用語は、実験または装置が検出および/または測定しようとする化学的或いは生物学的な種を指す。
【0009】
ここで使用される場合、「干渉物」という用語は、化学的或いは生物学的な種で分析物の分析における干渉物質であり、サンプル中に存在し、且つ検出や測定の誤差の原因となるものを指す。
【0010】
ここで使用される場合、「自動補正」という用語は、装置使用中に取得した当該装置の情報が、他の装置使用中にその装置から他の情報形式に適用され、全部または一部の情報の精度を改善するための行程を指す。
【0011】
ここで使用される場合、「電導電池(conduction cell)」という用語は、溶液と接触する二つの電極より構成される装置で、溶液のコンダクタンスを二つの電極間を通過する電流により算出できるものである。
【0012】
ここで使用される場合、「電導性電池(conductivity cell)」という用語は電導電池を指す。
【0013】
ここで使用される場合、「サンプル係数」という用語は、当該サンプル溶液の特性を測定するため、そこから電気化学的信号が記録されたサンプル溶液に係わる特性、および/または係数を指す。例としては、分析物固有濃度、干渉物質濃度、溶液の粘度、サンプルの誘電率、サンプルの微粒子負荷等であるが、これに限るものではない。
【0014】
ここで使用される場合、「装置係数」という用語は、サンプル溶液の電気化学信号測定に使用される装置に係わる特性および/または係数を指す。例としては、電極幾何特性、電極寸法、装置の保護層でポリマーメッシュや塗装を含むものもあるが、これに限るものではない。
【0015】
ここで使用される場合、「電位差緩和」という用語は、時間とともに変わる電位の変化を指す。電位差緩和の例としては、付加された電位が除去され、且つ実質的にゼロの電流が電極間を流れた場合、二極間の電位の変化を含む。この電位変化は、サンプル中で、二極と電解接触下の還元した化学種と、酸化した化学種の濃度プロフィール中の変化の結果でありうる。
【0016】
ここで使用される場合、「環境係数」という用語は、「サンプル係数」や「装置係数」以外の特性および/または係数を指す。例としては、温度、湿度、機械的振動、および周辺無線電波を含むが、これに限るものではない。
【0017】
ここで使用される場合、「有効電極範囲」という用語は、サンプルと電解的接触のある電極の範囲を指す。有効電極範囲は電極の幾何学的改定や、電極とサンプルとの部分接触により変化することもある。
【0018】
ここで使用される場合、「電解的接触」という用語は、少なくとも一本の電極が、電気化学的情報を収集するように配置された電気化学システムを保有することを指す。例としては、サンプルと物理的な接触を有する電極;膜、フィルム、その他の物質によってサンプルと分離された電極;および水性媒体によってサンプルと分離された電極があるが、これに限るものではない。電気化学的情報の例には、ファラデー電流、非ファラデー電流、および化学的電位が含まれる。
【0019】
ここで使用される場合、「静的状態」という用語は、条件中のある特定の性状、たとえば数値、比率、周期性や振幅等で、強制的長時間にわたって無視できる変化しか示さない状態を指す。又この語句には、最初の過渡現象、または浮動的条件のすべて、またはそのほとんどが消滅し、全電流、電圧や電界が実質的に一定となり、均一または実質的に均一となった後に存在する状態も含む。さらにこの語句は、ほとんど静的状態に近い状態も包含する。「静的な状態」は「静的状態」をさす。
【0020】
ここで使用される場合、「RAC」という用語は、酸化還元活性化合物を指す。これらは酸化―還元反応に参加できる物質である。RACの例には、酸塩、ヘキサシアノ鉄(II)酸塩、フェロセン、酸素、過酸化水素を含む。酸化還元活性化合物の種としての確認は、電気化学的電池、およびその電池の電位差によると評価される。たとえばある化合物は、一目的の使用ではRACであり、且つ他の環境下では非酸化還元活性化であろう。
【0021】
ここで使用される場合、「NRAC」という用語は、RACではない物質を指す。
【0022】
「分析物検出酸化還元系内の媒体」という用語は、それ自体が分析物ではないがRACである電気化学的信号源を指す。この「分析物検出酸化還元系」とは、NRAC分析物の電気化学的検出を許容するシステムである。グルコース検出用の分析物検出酸化還元系は、グルコースを酸化できるグルコースオキシダーゼ等のエンチームと、エンチームを再酸化し活性化することができるRAC媒体から構成される。図1には、グルコース検出用の分析物検出システムの反応を示す。
【0023】
ここで使用される場合、「刺激性波形」という用語は、時間的変化、時間的不変化、ACおよび/またはDC使用可能な、電気化学的センサーシステムに付加される電圧または電流を指す。
【0024】
ここで使用される場合、「選択分析物の存在確認のためサンプルを評価する」という語句は、分析物の存在の定量的検出、即ちサンプル中に検出可能な量の分析物が存在するか否か、半定量検出、即ちサンプル中に分析物が予定しきい値より多く存在するか否か、および定量評価、即ち現存する分析物の数値量の決定を包含する。
【0025】
「分析物依存性の信号」という用語は、観察された電気化学的信号を指すが、形式
は電流または変化する電位で、その規模は分析物の存在や量に依存する。分析物依存性の信号は、分析物の存在や量にのみ依存する必要はなく、本応用で論じた非補正信号は、分析物の存在および/または量以外の係数に、事実依存している。
【0026】
「分析物非依存信号」という用語は、信号でその時間領域特性が分析物の量以外の係数に依存するものを指す。分析物非依存信号の存在は、分析物の存在に依存するが、しかし信号の減衰率、即ち時間領域性格は、少なくとも通常の測定中遭遇する領域では依存しないと評価される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(本発明の方法)
本発明の第一段階では、選択分析物の存在確認のためサンプルを評価する方法が提供される。本方法には、分析物または分析物検出酸化還元系中の媒体に、酸化または還元をもたらす十分な電位または電流を、本電気化学的システムに付加する工程を含んでいる。この電位や電流の付加によって、二つの電極間のスペースに、分析物または媒体の化学的電位勾配が形成される結果となる。
【0028】
勾配が樹立された後、電位や電流の付加は中止され、装置は放置され、その中で還元または酸化された形式での分析物または媒体は、両電極間の濃度勾配中に配分される。
この勾配は電極間に電位差を形成し、電位または電流の付加休止の場合に、本勾配および関連する電位差は均一配分の平衡状態へと緩和する。本緩和の時間経過は、電位差の監視によりモニタリングできる。この緩和の時間経過は、有効電極範囲、温度、電極スペース、へマトクリット値等の係数に依存するが、分析物の濃度には実質的に依存しない。
【0029】
電位の低下の監視後、外部電位をできれば再度システムに付加する。電位の初回の付加時、二回目の付加時、または両方の付加時に、システムをモニタリングすることで、非補正の分析物依存性の信号を得る。電位のオンオフのサイクル追加も可能で、測定はこのサイクルのいずれでも、またいずれの組み合わせでも行うことができる。非補正の分析物依存性の信号は、それ自身、分析物の存在の目安を供与できるものである。本発明の望ましい実施例では、電位は付加され、この分析物依存性の信号は、分析物の電流計測定評価から抽出した電流信号である。またこの分析物依存性の信号は、両極間の好ましい電流を維持する結果としての電位差でもあろう。このようにして、分析物依存性の信号は、選択分析物の存在・濃度に依存する信号成分から構成されており、且つ他の係数からも構成されている。これには選択分析物の存在や濃度に依存しないサンプル係数、環境係数、および装置係数が含まれている。
【0030】
さらに厳密な分析物の調査のためには、分析物非依存の係数に対する原始分析物依存性の信号を補正することが望ましく、またそれが本発明の目的である。このように本発明の最終段階は、補正済み分析物依存性の信号の形成のため、観察された分析物非依存性の信号に基づいて、非補正の分析物依存性の信号を補正することである。ついで本信号を使用者に便利な出力に変換することが望ましく、例えばサンプル中の分析物の存在や濃度が目視できるような形式にする。
【0031】
勾配の発生のため、および勾配緩和後選択的にシステムに付加した電位は、時間的不変化または時間的変化の電位であろう。参照としてここで収録したPCT公報WO03/060154およびWO03/069304は、分析物依存性の信号を発生させる時間的変化の電位の使用について、それぞれ記載している。
【0032】
図2は本発明の実施例を図示しているが、そこでは分析物濃度以外のソースから、電導電池の電気化学的センサーで発生する測定変動に対して補正を行う。すべての矢印は、ラベル標示つき以外、通信チャンネルのセットを示し、物理的導線による電気通信、無線通信、および伝達の多チャンネルを含むが、これに限るものではない。
【0033】
図2に示すように、変換制御装置(TCA)5は、刺激性波形信号10を電気化学的電池50に付加する。電気化学的電池50は電導電地であり、電極A55と電極B60で示される二つの電極で構成される。サンプル70は、少なくとも電極A55と電極B60と電解的に接続し、且つ酸化還元活性化合物65と非酸化還元活性化合物80から構成される。TCA5は定電位と定電流運転の手段を保有し、必要に応じて両者のモードに転換できる。定電位運転にあっては、電位が付加され、電流が発生する。電位は電極で酸化・還元される分析物または媒体の酸化還元特性に基づいて決定される。定電流運転では、電流が付加され、電位が発生する。
【0034】
刺激性波形信号10により、サンプル70内の少なくとも1つのRAC65および/またはRAC 80において、電極A55と電極B60で示される各電極で、電気化学的信号75を発生させる。信号10は多分電流信号か電位信号であろう。信号10は実質的にはゼロアンプ、非ゼロアンプ、ゼロボルト、および/または非ゼロボルトであろう。この応定答信号75は、変換制御装置5によって検出され測定される。信号75は電流信号か電位信号であろう。
【0035】
刺激性波形信号10および応答信号75のデジタル処理を容易とするため、アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ・デジタル変換器(ADC)15が使用できる。ADCとともに濾過用にアンチ−エイリアシングフィルターが使用可能で、信号はデジタル化以前に濾過される。技術上のひとつの手段として、このようなフィルターをADC自体の構成部品とすることが考えられる。
【0036】
電算装置25は、ADC 15よりデジタル化した信号を処理のため受け取る。この電算装置は補正処理30を実行するようプログラムされており、且つデータ保存35を包含する。例えば、プログラムコマンド、参照データおよび結果を保存可能なデータ保存ディスク、光ディスクや書込み可能なメモリーである。
【0037】
補正処理30では、データ記憶35に保存の関数および/または方程式を使用し、分析物濃度以外のソース起因の変化を補正する信号を修正し、且つ有用な抽出量を計算する。有用な抽出量の一例としては、サンプル中の希望する分析物の濃度がある。また補正処理30は、データ記憶35中に含まれる較正データの使用を可能とする。
【0038】
抽出された量は有用な方式で出力45に送られる。出力の有用な方式の例としては、ユーザーに視覚で展示する分析物の濃度があり、また電子的手段で転送され保存された分析物の濃度がある。純粋に質的決定の場合の有用な出力とは、二元的表示の形式をとり得る。例えば、イエス・ノー、照明表示の赤色・青色オンオフ状態、または可聴信号等による。
【0039】
本発明の1つの実施例では、電位が電池の電極間に付加され、この付加電位のとして発生の電流を、分析物依存性の信号として測定する。電位は安定状態に達するまで付加することが可能で、その後電流を測定する。これとは逆に電流は、安定状態に到達以前に、電流過渡中に測定できる。
【0040】
本発明の方法による測定中は、サンプルは二つの電極間に置かれ、酸化と還元の両形態の電気化学的活性種で構成される。これらの形態のひとつは、問題の分析物の量に関係する濃度である。他の形態は超過状態である。電位差を両電極間に付加すると、一方の電極には還元した形式の酸化を生じさせ、他の電極には酸化した形式の還元が生じる。これにより、
(i)両電極近くの溶液環境内の化学的電位の差、および
(ii)両電極に接続する回路中の電流
を発生する。
化学的電位中の差は電気化学的活性種の両形式の濃度勾配を創造し、これが拡散を促進する。化学的電位中の安定した差を維持することにより、拡散は安定状態に到達可能であり、且つ電流も安定したレベルに到達する。
【0041】
両電極間の電気的交信の除去は、濃度勾配の維持を防ぎ、拡散により弱まり始める。濃度勾配の弱体化は、各電極近くの化学的電位の変化を招く結果となる。この変化は両電極間の電位差の測定によりモニタリングできる。安定的電位の付加時に、両電極間に流れた測定電流の大きさは、分析物濃度に実質的に依存し、且つ電気化学的活性種の移動性に実質的に依存することが判明した。両電極間の電気的な分離時の電位の変化は、その移動性に実質的に依存することが分かったが、分析物濃度には実質的に依存していない。移動性に実質的に依存していない分析物濃度の手段は、これら二つの適切な組み合わせによって抽出できる。
【0042】
安定的電位、または化学的電位を実質的に不安定化することなしに変化する電位の付加によって、安定的電流を維持するか(即ち、クロノポテンシオメトリー)、またはシステムの他の面を刺激すること(即ち、インピーダンス分光)によって、適切な化学的電位差を発生できる。
【0043】
両電極の付加によって化学的電位の適切な摂動が生じ、化学的電位中の変化が、電流が安定状態に到達することなく、両電極の従属的電気分離によりモニタリングされる。この場合、過渡電流を測定するが、これは実質的に分析物濃度と電気化学的活性種に依存している。電気的に分離した場合の両電極間の電位の変化は、その移動性に実質的に依存することが再び判明したが、分析物濃度には実質的に依存していない。このため、移動性に実質的に依存しない分析物濃度の測定が、これら二つの適切な組み合わせにより再び抽出できる。相互依存の形式は安定状態の場合と変わるであろうが、移動性の依存を除去する能力は維持される。
【0044】
本発明の他の実施例にあっては、電流を電池の両電極間に付加し、この付加電位の結果として発生した電位差を、分析物依存性の信号として測定する。電流は安定的電位が得られるまで付加可能で、そこで電位差を測定する。一方、電位差は安定状態となる以前、電位過渡時に測定できる。
【0045】
これらのサンプルの実施例にあって、電気化学的電池デザイン、刺激的波形、および信号分析処理は、対象の分析物濃度以外の変化による誤差を削減するため、電導電池センサーが達成する測定を改善するべく設計される。
【0046】
化学的物質の濃度と輸送特性測定のための電導電池の使用については、すでに記述されている(MacInnes,1939)。イオン等のチャージされた種の特殊なケースでは、その種の輸送特性に寄与する四つの係数、つまり濃度勾配、電位勾配、温度勾配、対流(たとえば機械的騒乱による)が典型的に存在する(Crow,1988)。電気化学的センサーシステムの場合、濃度勾配および電位勾配は、輸送特性に大きく寄与する係数であると、一般的に想定されている。さらにSchmidt−Weinmar(1967)は、電極を200ミクロン以下の距離、できれば150ミクロン以下の距離を置くことにより、対流効果は電導電池システムより効果的に除去できることを示した。
【0047】
図3は従来の電導電池の一般的原理を図示する。この図はヘキサシアノ鉄(II)酸塩・ヘキサシアノ鉄(III)酸塩酸化還元カップルを使用する特定システムを指す。本カップルは無制限サンプルとして参照されるが、本カップルが唯一採用可能なサンプルであることを意味するものではない。二つの電極100および105が、実質的に平行の位置におかれ、問題の種を包含するサンプルと電解的に接触している。導電電池の幾何学的要素が本発明を制限することはない。作業の原理は他の多くの幾何学的要素でも有効であり、それには非平行対面配置、各電極に対する異なる区域、および共面配置等である。本例では、酸化還元活性化合物(RAC)はヘキサシアノ鉄(II)酸塩120とヘキサシアノ鉄(III)酸塩125であり、酸化還元カップルを形成している。電位源110が両電極間に電位差を課している。本サンプルでは、陰極電極100が陰極として作動し、還元反応が起こりヘキサシアノ鉄(II)酸塩125をヘキサシアノ鉄(III)酸塩120に変換する。陽極電極105は陽極として作動し、酸化反応が起こりヘキサシアノ鉄(II)酸塩120をヘキサシアノ鉄(III)酸塩125に変換する。この過程で、与電極で反応する各分子に対して、エレクトロン115が陽極105から陰極100に移転する。矢印135および130は、例えば拡散等の輸送過程を示し、サンプル中の種の移転に貢献する。
【0048】
本発明のある種の実施例にあっては、測定した分析物の種が、他の化学反応によって生産、消費、および/または変更されることがある。図1に酵素リンクのバイオセンサー中における本例を図示するが、そこではグルコース500等の基質が酸化グルコース等の酵素と反応し、その酵素を酸化状態、GODox510から還元状態、GODred515へと変換する。例えばヘキサシアノ鉄(III)酸塩525は、還元した酵素GODred515と反応可能で、ヘキサシアノ鉄(II)酸塩520へ還元している過程で、それを酸化形態GODox510に変換する。このように本例において、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩とヘキサシアノ鉄(II)酸塩の量は、測定前、測定中や測定後にサンプル中に発生するような他の過程によって、変化することもある。本サンプル中のヘキサシアノ鉄(II)酸塩濃度の決定は、グルコースの濃度と関連することになろう。
【0049】
図3に示したような1つの電導電池は、分析物やRAC種の濃度および輸送特性を、そのサンプル媒体を通じて決定するのに使用できる(MacInnes,1939)。このような電池は、両電極間にDCまたはAC電位を付加することによって使用できる。AC電位は、各電極における電気化学的反応産物を削減するため、使用されてきた。しかし用途による必要性によって、いずれの方法も分析物の輸送特性の決定に使用できる。
【0050】
電導電池の輸送特性決定のため、電圧に応じて電池中を流れる電流を測定する。電池の抵抗は、結果的な電流に付加した電圧の比率をとって計算した。サンプルの導電率kは、以下の式によって計算できる。
【0051】
【数1】

ここでhは電極間の距離、Rは抵抗、Aは各電極の面積であり、同一とみなす。電導電池の電池定数、Kcellは以下の数量とする。
【0052】
【数2】

このように電導電池の電池定数がわかれば、未知のサンプルの伝導率は、以下のように電池の抵抗の測定で決定できる。
【0053】
【数3】

サンプルの導電率は濃度の関数であり、且つ分析物の輸送特性なので、以前の研究では、拡散係数等の輸送特性、および濃度勾配と電位勾配による分析物移動性を決定する方法を、このように設定した。これらは導電電池電気化学的センサー中に存在し得るものである。導電性が輸送特性および濃度等の係数にいかに関係するかは、実験上の特定性格に依存する。
【0054】
本方法を成功させるためには、電池定数を知らなければならない。これを実行する従来の方法は、既知の導電率のサンプルを使用して、電池定数を決定するため電池を較正し、ついで同じ電池を使用して未知のサンプルの導電率を測定することである(MacInnes,1939)。
【0055】
本方法のバリエーションも知られている。導電測定はサンプル中の濃度と輸送特性を決定するため、日常的に使用されてきた。たとえば、浄水作業にあって、イオン種の濃度は導電率測定で決定されてきた。他の例では、分析物の拡散特性は、サンプル中の分子物質のレベル決定に使用されてきた。特殊な場合、血液中のヘマトクリットのレベル決定に導電測定を使用することもできる。このことが特に重要になる一例は、血液グルコースセンサーのためである;そのセンサーの読取りは、血液サンプルのヘマトクリットや粘度のレベルによって深刻な影響をうける。これは拡散および/または移動等の輸送特性が影響されるからである。
【0056】
例えば、ヘマトクリット等の分子物質、およびプロテイン、キロミクロン、および血小板等の他の係数は、血液グルコース測定中に関係する多くの化学種の輸送特性に影響する可能性がある。このように輸送特性は、グルコース等の分析装置の計算による分析物濃度の決定に関し、その効果の定量化に多くの関心が払われてきた。多くの係数が輸送に影響しうるが、これには、電場による移動、濃度勾配による拡散、サンプルや温度の移動による対流があるが、これに限るものではない;またアナログの取り組みも、これらの係数の結果である輸送変化を補正するため使用可能であろう。対流効果は以下により縮小−効果的に除去可能である;即ち導電電池内で電極のスペースを200ミクロン以下の距離、できれば150ミクロン以下の距離とする(Schmidt−Weinmar,1967)。
【0057】
図3に測定に使用可能な電池の具形化の一例を図示する。この場合、目標分析物はヘキサシアノ鉄(II)酸塩120で、この例では少数種としている。本サンプル中のヘキサシアノ鉄(III)酸塩130は、多くとられ多数種となっている。サンプルと接触のある電極100および105の間に、十分に大きな電位を付加すると、近傍の溶液の化学的電位を変える。これは少数種の1極の濃度がゼロに極めて近くに落ち、一方他の電極の濃度が約倍増するからである。一例では、電極A105の電位が電極Cより十分高いと、電極A105に酸化過程が生じ、電極Cには還元過程が生じる。通常の技術レベルでも、付加電位はイオン種の配分に影響を与え、またこれは電気化学的電位によってさらに十分表現できることを認識している。化学的電位としてここで論じた作用の根本的なパターンは、したがって説明的なもので、取り決めのためのものではない。ここで特別に公開する以外の、種に関する平衡力についての他の数式も、本発明の範囲内のものである。これらの力の例には、Atkins(1999)記述の濃度勾配に起因するもの等、熱力学的力、また対流中の媒体の運動による力も含む。
【0058】
同一の回路モデルを使用し電圧を電池に付加して、電気交信を除去することによって、電池定数、Kcellを抽出する方法例では、電導電池に濃度勾配を創造することにより、貯蔵チャージ量を以下により表示できる:
貯蔵チャージ=nF*[ヘキサシアノ鉄(II)酸塩]*(電池の体積)。
したがって静電容量は付加電圧:Vappへチャージすることで創造される。
【0059】
静電容量=(貯蔵チャージ)/Vapp
静電容量=nF*[ヘキサシアノ鉄(II)酸塩]*(電池の体積)/Vapp
電極間の電気交信を除去すると、貯蔵したチャージを電池の抵抗Rのみを通じて、それ自体が放電される。この同一の回路モデルの放電の時定数は、両極間の時間経過に伴う電位の変化による標準方法で決定できる:
ここで
時定数=R*静電容量
である。
導電率は
κ=Kcell/R=γ*[ヘキサシアノ鉄(II)酸塩]
ここでγは比例の定数で、以下を意味する。
【0060】
R=Kcell/(γ*[ヘキサシアノ鉄(II)酸塩])
故に、
時定数=nF*(電池の体積)*Kcell/(γ*Vapp)
これはKcellの濃度非依存の測定である。
【0061】
イオン移動性の推定からの具体例では、電池に電圧を付加して作る両電極間の距離に伴う電位勾配を考慮する。この勾配に伴う種の移動については、すでに電導電池中の電流について述べている(MacInnes,1939)。このシステムのヘキサシアノ鉄(II)酸塩は,電場
【0062】
【数4−1】

への応答として、その移動性Uについて記述されている。本方程式は以下となる:
【0063】
【数4−2】

ここでIsは安定状態の電流、βは比例定数、sはドリフト速度、
【0064】
【数4−3】

は電場である。Aに対するhの比率は、電池定数Kcellを得る既知の基準を使用し、較正段階で計算するのが一般的であった(Atkins,1999)。本例ではイオンが負数で運ばれるので、ドリフト速度は負数で与えられる。したがって負数でチャージされたイオンのドリフト速度は、付加電場に対して反対の方向となる。装置の性格については、Isに対して他の方程式も可能である。このサンプルでは、電気化学的電流から抽出した濃度情報を、ゆがめる恐れのある変数が多く存在する。現実の測定では、電池定数は電池ごとに異なることがあり得る。これは製造上の変動が、電池定数に影響する幾何学的係数を変えることがあるからである。さらに実際のサンプルの分析中、たとえばグルコース決定のための全血など、ドリフト速度等の分析物輸送特性はサンプル間での変化がよくある。例えばヘマトクリットのレベルが、血液中の化学種の移動に影響することが知られている。したがって濃度以外の係数による信号変化、例えば電池定数およびドリフト速度の変化が、電気化学的センサーシステムによる評価グルコース濃度を大きく変える可能性がある。
【0065】
したがって困難なのは、分析物濃度以外の変化に起因する誤差を、例えば電池幾何学および輸送特性中の変化など、分析物濃度の評価を補正するため、定量化を可能とすることである。このように自動補正を達成する方法と装置は有用であろう。本発明の実施例には、測定の変化における濃度以外の環境源を、電極面積、電極分離、ドリフト速度や移動性に関する予備知識なしで、設定および補正する新しい装置と方法に付いて記載する。
【0066】
濃度勾配によっては、種の移動のためアナログ的方法および装置も使用可能である。本実施例では両電極間の距離に伴う濃度勾配は、電気化学的反応によって創造され、またこの勾配に伴う種の移動は、拡散についてのFick法によって記述できる。
【0067】
【数5】

ここでDは拡散係数、dc/dxは特定軸に沿う濃度勾配、またFluxは単位時間内に本軸に平行の単位区域を移動する物質の量である。フラックスが安定状態に到達し、且つ電極が平行である例では、サンプルと構造間にぬれ域Aが各電極にあり、そこで電極が距離hをもって分離されている場合、初回の少数担体の濃度Cは以下となる。
【0068】
【数6】

一方の電極では、電気化学的に消費され、他方では電気化学的に発生させた少数担体種の分子ごとに、nエレクトロンが交換されるとすれば、少数担体の運動によって発生する安定状態の電流Isは、以下ように与えられる:
【0069】
【数7】

ここでFはファラデー定数である。このように電場
【0070】
【数8】

の勢力下の移動性Uについてのイオンの運動は、その拡散係数(単位を適切に調整した)に関しての運動に等しく、そこで条件nFDは、
【0071】
【数9】

として示すことができる(Atkins,1999)。このように本発明は拡散に関しても適用できよう。
【0072】
本発明の実施例によれば、分析物濃度は、電池幾何学的等の装置係数、サンプル較正等のサンプル係数中の未知の変化による誤差の決定、補正によって改善できよう。化学的センサーの最大のチャレンジは、目標分析物の濃度を正確に決定することである。これは電極分離や粘度などの測定環境の変化が、分析物濃度の評価に影響するからである。かかる変化の効果に敏感であるが、分析物質濃度とは実質的に独立している装置と方法を、この変化源の評価、補正に使用できる。
【0073】
具体化の一例によれば、異なる有効電極から生じる分析物濃度測定の誤差は、これらの特性に対して敏感だが、分析物濃度に非依存かまたは依存度が少ない装置と方法の使用により削減できる。これは電極面積の決定に使用可能で、変化を計算に入れた濃度評価の適用を許すものである。
【0074】
具体化の一例によれば、異なる有効電極から生じる分析物濃度測定の誤差は、これらの特性に対して敏感だが、分析物濃度に非依存かまたは依存度が少ない装置と方法の使用により削減できる。これはサンプル中の分析物の移動性の決定に使用可能であり、これらを補正する分析物濃度の評価に使用できる。
【0075】
本発明の実施例は、測定信号に影響し、且つ評価濃度に影響する測定システムのある種の測定変数の決定に関連する。一例では、幾何学的電池変数とサンプルの輸送特性を、代表的なサンプル係数と装置係数として、分析物濃度自身以外に採用するが、これが測定した信号に影響を及ぼす。電池定数hおよびドリフト速度sの一成分の効果は、有効輸送変数(P)中に組み入れられ、電極面積条件から分離して考慮できる。特にPは次式で与えられる:
【0076】
【数10】

一般的な技術水準でも、アナログ的数式が濃度勾配の影響下のシステムに与えられ、これは拡散係数に関してよく記載している。この場合Pは次式で与えられる:
【0077】
【数11】

有効電極面積Aは、我々の申請中の特許番号WO03/069304に記載の方法で見出すことができる。このようにPを決定する方法は、測定条件の完全な識別を許容し、濃度の更なる正確な評価を可能とする。望ましい実施例でPは、電極面積とも分析物濃度とも実質的に独立する。しかしこれは要件ではなく、また本発明の範囲を制限するものでもない。本発明のひとつの実施例では、同時に発見すべき電池の幾何学的特性等の装置係数と、サンプルの輸送特性等のサンプル係数をともに記述し、環境係数、サンプル係数および装置係数から発生する測定信号中の変化に対して、さらに完全な自動補正を許容する。導電電池使用についての以前の技術では、各電導電池は個別の工程で較正し、環境係数、サンプル係数および装置係数より発生する測定信号中の変化に対する自動補正の手段を供与しないことを要求した。
【0078】
図4に評価分析物濃度の正確性を向上させるべく、これら変化の自動補正の一方法を図示する。本図式は説明的な実施例で、本発明を制限するものではない。通常の技術水準でも、これらの工程は、規定順番通りにかならずしも実行する必要の無いことを認識するであろう。1個のサンプルを電池に適用する(工程200)、ついで電位信号を電池に付加する(工程205)。この電位信号は、電池中の少なくとも1本の電極で、還元および/または酸化過程を発生させるものでなくてはならない。通常の技術水準でも、この電位信号は必ずしもサンプルを電池に接続後に付加する必要はなく、サンプルは信号が付加された後に接続してよいことを理解する。安定状態の電流は電池より決定する(工程210)。この電流は必ずしも時間的不変化電流の必要はない。これは時間的変化電流も、信号を表す特徴が安定状態に近づけば、安定状態と分類されるからである。
【0079】
この安定状態の電流が一旦決定されると、電池の回路はオープンとなり(工程215)、両電極間の過渡電位が決定される(工程220)。一般的な技術者であれば、両電極間の電流を実質的にゼロに保つ方法は、電池をオープンサーキットにする以外の方法の可能性を認識するであろう。ひとつの他の方法として、トランジスター等の高インピーダンススイッチの使用がある。電池の回路開放の実施例(工程215)は、一例であり本発明を限定するものではない。例えばドリフト速度、移動性、拡散係数および/または電池定数に起因するもの等、環境変化のための補正係数は、電池回路開放前の安定状態電流、および電池回路開放後の過渡電位からの情報によって決定できる(工程225)。そこでこの補正係数は、環境源(工程230)による変化に対する測定安定状態信号の補正に使用可能で、その補正濃度評価は計算でき、且つ有用な形式(工程235)で出力可能となる。一般的な技術者であれば、変化の環境源の補正は、分離された厳密な工程でなく、その濃度の計算に統合可能なものと認識するであろう。また一般的な技術者は、分析物濃度以外のサンプル変数の情報も、分離された価値のある情報として、補正係数から抽出可能な事を認識する。これらの変数には、ヘマトクリット、温度および粘度がある。
【0080】
ひとつの実施例では、Is決定後、回路を開放し、電極間の過渡電位を決定する。これを実行する1つの実施例は、低電位運転モード(ここで電位を付加し電流を決定する、定電流運転モード(ここで設定電流を維持する−この場合、ほとんどゼロアンプ)の測定および制御スイッチを有し、電位を決定する。一般的な技術者であれば、電池回路の開放以外の実施例で、実質的にゼロアンプの達成が可能であることを認識するであろう。一例としては、トランジスターのような高インピーダンススイッチを使用して、回路を流れる電流を制限し実質的にゼロアンプとする。電池回路開放の例は、1つの実施例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0081】
一旦安定状態の電流が樹立されると、二つの電極間に濃度勾配が存在する。Pに関連する係数は、両電極間に付加した電圧の除去にあたって、電極電位の緩和比率を測定することにより決定できる。付加電圧の無い場合、例えば濃度勾配など、種の安定状態的配分は不安定な場合、電気的活性種は、サンプル全体の分子をさらに安定的な濃度とするべく移動する。各電極におけるヘキサシアノ鉄(II)酸塩イオンとヘキサシアノ鉄(III)酸塩イオンの異なる相関濃度は、異なる化学的電位を与え、これらの化学的電位は、これらの濃度が平衡するにつれて時間とともに変化する。本情報は電位計量方法によってモニタリングすることができ、又測定した電位時間変化がPと関連づけられた。Pの測定を決定する方法の例には以下がある。
1.電位へ付加した電圧の除去点より特定値に達する時間。
2.付加電圧の除去後の特定点における電位。
3.以下のような付加電圧除去後の電位減衰率の測定:
−特定時間内における電位対時間のプロット点のスロープ。
−特定時間内における電位対時間の対数のプロット点のスロープ。
−特定時間内におけるIV2対時間のプロット点のスロープ。ここでVは電位をさす。
時間に伴う電位の変化のモニタリングで、Pサイズの決定に他の単位量が使用できる。
【0082】
電導電池センサーの例で、付加電位差の除去に際しての濃度プロフィールの緩和は、下記の関係で記載できる(Atkins,1999):
【0083】
【数12】

もし電導電池センサーが、電位の付加されている電流計測運転から、付加電位が除去された定電位運転に切替られ、且つ本サンプルでは実質的にゼロ電流が維持されており、電位はt=0と測定されれば、その最初の緩和段階(t=0+)では、勾配は以下で与えられ、Pは計算できる:
【0084】
【数13】

モニター使用電流とは逆に、(例えば米国特許:US5942102,US6179979,US6284125を参照)電極での化学的電位のモニタリングは、したがって電極の面積とは独立した測定が許される。安定状態の濃度勾配が、電位差条件下で緩和した場合(例えば1極から他の極へ電子電流経由によるチャージの電気化学的移転のない場合)、その濃度プロフィールは変化するが、この電算シミュレーションモデルを図5に示す。
【0085】
図5に示すシミュレーションの結果の電池では、陽極105の位置は図5のx=0で、陰極100の位置は図5のx=1である。両電極間の距離は1単位に標準化してある。ヘキサシアノ鉄(II)酸塩の濃度プロフィールは、時間とともに展開すると見られる。安定状態電流が実現し、回路開放前に、安定状態の濃度プロフィールが存在する。これを300とする。回路はt=0秒で開放し、その濃度プロフィールは以下の時間に示す:t=0.2秒305、t=0.4秒310、t=0.6秒315、t=0.8秒320、およびt=1.0秒325。陽極105および陰極100にての種の間の化学的電位差は、次式によって記述できる。
【0086】
【数14】

ここでμはヘキサシアノ鉄(II)酸塩とヘキサシアノ鉄(III)酸塩のカップル、a(種)はその種の活動度、および下付き文字は電池中の位置を示す。種の活動度は濃度に関連するが、濃度からの純粋の予測により、熱力学的数量の変動を計算した形式がさらに理想的である;しかし濃度を使用して、電極における電位差を次式で近似できる:
【0087】
【数15】

ここで[ヘキサシアノ鉄(II)酸塩]electrodeは占有する電極におけるヘキサシアノ鉄(II)酸塩の濃度であり、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩はサンプル全体にわたり且つ関心のある各時間において、大きく超過しているものと推測される。この時間を通じた電圧の進展はモデル化されており、P各値について図6に提示する。本図において電位はt=0時間に回路解放後緩和するにつれて、以下のP各値について決定する:P=28.7秒420、P=19.2秒415、P=11.6秒410、P=5.9秒405、P=3.8秒400。この緩和の時定数上のPには明確な効果がある。当業者には一般に、装置係数、サンプル係数、および/または環境係数によっては、電池仕様と測定方法等について、他の関係の存在が明らかであろう。
【0088】
したがって電位差測定が、電位と時間間の変化からPを決定するため使用できる。電位緩和の進展は、分析物濃度と電極面積とは実質的に独立しているものだが、しかしPの関数であり、P中の変化の補正係数を決定するに必要な方法を提供する。通常の技術者にとって、P効果の定量化のため、この電位変化を使用する各種の方法が明らかであろう。かかる方法の例として、時間間隔中の電位緩和のスロープの決定、特定電位値に達するための時間の決定、および/または電位緩和の減衰率時定数の決定がある。
【0089】
図6はPのサイズの決定の一つの実施例を示す。本例では、電位差運転に切替後、電位差0.06Vに達するに要した時間を、異なるP値について測定した。導電の電位差緩和にあたって与えられた電位差に達する時間が、Pのサイズであり、したがって本発明の実施例はPのサイズの決定手段を提供する。有効電極面積の値が決定された場合、有効電極面積および/またはP中の変化に影響を与えることのあるサンプル係数および環境係数(電池幾何や分析物輸送の効果などの係数を含む)を補正することが可能で、分析物濃度のさらに正確な評価を決定できる。たとえば、有効電極面積かって意の一方法は、PCT03/069304に発表されており、且つ上記にも記述した。本方法は、小振幅正弦波の電極への付加を含み、適切に較正された組合せにより、電極面積への結果としての正弦電流に関連している。サンプルがこのような導電電池電気化学的センサーで測定された場合、Isは直接測定および決定可能で、Pは本発明の実施例である方法と装置により決定可能、Aは前に記載した方法で決定可能、且つ他の定数は優先的に計算可能であり、濃度のより正確な評価を提供する。
【0090】
図7A−Cは導電電池電気化学的センサーの実施例を図示する。図7Aはこれらの装置用の合成立体的図解を示す;図7Bは側面の図解式図面を示す;図7Cは幾らかの構成部品の図解式図面であるが、これらの構成部品は合成構造から分離しているものである。本実施例は実質的に平行な電極(1320と1325)の導電電池から構成され、電極は量1340で分離されサンプルの保持が可能で、実質的にサンプル室範囲を限定する。この量1340はここで「サンプル室」として参照する。各電極(1320と1325)は、実質的に非導電物質(1300と1305)によって支持される。各電極(1320と1325)は、実質的に導電性の通路(1335と1330)により供与される電気的接続を有するが、これはまた実質的に非導電物質(1300と1305)によって支持されている。二つの電極(1320と1325)の厚さは、リード線(1330と1335)の厚さと同等か、実質的に小さいか、または実質的に大きい。二つの電極は実質的に非導電性の物質(1325と1310)によって分離されている。サンプルが置かれる量(1340)は部分的に電極(1320と1325)によって限定され、および/または実質的に非導電性の物質(1320と1315)によって限定される。
【0091】
模範的な実施例にあって、二面で実質的に平行なサンプル室1340の側面は、二つの電極(1320と1325)がまたがる面積によって、図7A−C図解のように実質的に限定される。図7A−Cの装置は、図2に示した電気化学的電池50の具体化の一例を示す。一般の知識を有する技術者は、他の具体化も可能であることを認識する。たとえば電極は互いに実質的に平行である必要はないことである。他の例では、電極は同一の平面におけるが、これを図8に示す。この実施例では、電極2005と2020は実質的に非導電性の基質2000上の同一平面にある。電子式コネクター2010と2015は、電極(2005と2020)とTCA間の電子式結合を供与する。このように電導電池に使用できる多くの異なる幾何学的仕様がある。本書で論じた例は、一つの実施例であり、本発明を限定するものではない。
【0092】
図7A−C装置では、二つの電極(1320と1325)が、電極A55または電極B60として作動する。サンプル70は実質的にサンプル室1340に位置する。変換器制御装置5との電気的接続は、実質的に導電性の通路(1335と1330)経由で達成可能で、これは変換器制御装置5と電気的な結合を可能とし、実質的に導電性の通路を、変換器制御装置5から電極(1320と1325)に至るまで提供する。図13の電気化学的電池と変換器制御装置5を電気的に結合させる1つの実施例は、実質的に導電性リード(1330と1335)の各領域を、TCA5の一部に接触させることである。このような方法のひとつの模範例としては、電極(1320と1325)と接触する領域から最も遠くにある実質的に導電性のリードの各領域と実質的に接続する方法を供与することである。図7A−Cの図解では、実質的に非導電性物質1310にまで伸びる導電性のリード(1330と1335)の一部で示されている。通常の技術者であれば、図7A−Cが示す化学的電池50を変換器5と、電気的に結合させるほかの方法の可能性を認識するであろう。
【0093】
ひとつの模範的な実施例では、図7A−Cの装置が図3に示すプロセスにしたがって使用できる。一例では、電池中の電極1320の一つが陰極100で、他の電極1325は陽極105である。他の例では、電池中の電極1325の一つは陰極100で、他の電極1320は陽極105である。ヘキサシアノ鉄(III)酸塩125とヘキサシアノ鉄(II)酸塩120は、実質的にサンプル室1340中に位置している。電圧源110は変換器制御装置5によって供与され、電流115は、実質的な導電性リード(1330と1335)の部分である実質的な導電性通路にそって移行する。この移行過程(130と135)はサンプル室1340内で実質的に発生する。
【0094】
(本発明の装置)
本発明の追加的面として、本発明を実行するに使用する装置について記載する。本発明は、電気化学的電池に配置されたサンプルの分析物の存在を決定するため、装置を提供する。この電気化学的電池は二極からなり、その間に分析用のサンプルが置かれる。この装置は以下により構成されている。
(a)電気化学的電池受入のスペースを有するハウジング、
(b)電気化学的電池がハウジングに入れられた場合、その二極間に電位または電流を付加する手段(例えば定電位装置や定電流装置)、
(c)電気化学的電池に電位や電流が付加されている場合(例えば両電極間の電流または電位差を測定・監視する回路)、発生する分析物検出システム中の分析物、または媒体の酸化や還元の測定手段、
(d)両電極間に化学的電位勾配が樹立されて以後、電位または電流をオフに切り替える手段(たとえば電池を開路するスイッチ、または高インピーダンススイッチ)、
(e)電位または電流がオフに切替られた後、化学的電位勾配の減衰をモニタリングする手段(例えば電極間の電位差を監視する回路)、
(f)サンプル中の分析物の存在の指示をするため、測定した酸化や還元をモニタリングした減衰と結びつけるための、プログラム化データ処理手段(例えば本願書中に記載の工程を達成するプログラムを伴ったデータプロセッサー)、および
(g)サンプル中の分析物の存在をユーザーに伝える出力手段。
【0095】
装置は別々に供給されることもあるが、通常は電気化学的電池とともに、1回使用のテストストリップの形で使用する。装置にはテストストリップを受けるスロットがあり、また適切な信号発生および処理エレメントがあり、電位と電流を付加し、結果的電流や電位、および化学的電位勾配の減衰をモニタリングし、且つ結果の情報を評価の結果の表示に変換する。テストストリップは、特定の選択された分析物の検出に適切であれば、いかなるものでも好い。望ましい実施例では、ストリップには向き合う電極があり、両電極間のスペースは十分に短くて、酸化および還元種の勾配が、両電極間の距離の少なくとも10%、できれば80%から100%まで伸びることが望まれる。一般的にこの距離は、20から400ミクロンである。表示はメーターの一部とすることができて、例えば、LCD表示、LED表示、或いは可動コイルメーターの形式がある。この表示はメーターからは分離して、有線や無線通信によりメーターに接続も可能である。
【0096】
図22に本発明による装置実施例の外観を示す。ハウジング3000は適切であれば如何なる材料でも製作可能だが、最も一般的には耐衝撃性のプラスチックで作られる。ハウジング3000には開口部3005があり、テストストリップと装置間の電気的接続のための電極とコネクターから構成される。表示3010はユーザーが読取り可能な形式で出力する。オプションとして、装置にスタートボタン3015を包含させられる。ただ分析物テスト処理用の装置のスタートには、挿入テストストリップの検出も使用できる。
【0097】
(有効的な電極分離の決定)
分析物濃度の決定とは別に、もしくは共に、本発明の方法は電池内の二つの電極間の有効電極分離の決定に使用できる。したがって本適用は、電気化学的電池内の第一電極と第二電極間の有効分離距離を決定する方法を更に提供する。この方法には以下の工程が含まれる。
外的力を付加電位または付加電流の形で適用し、第一電極と第二電極間に化学的電位勾配を発生させる工程、
外的力の適用を中止する工程、
時間の関数としての化学的電位勾配の減衰を観察する工程、および
化学的電位勾配の観察された減衰から、有効電極分離距離を計算する工程。
【0098】
(有効輸送特性の決定)
分析物濃度の決定とは別に、もしくは共に、本発明の方法は、電気化学的システムの有効輸送特性の決定に使用できる。有効輸送特性には、種の移動性、種の拡散特性、および有効電極分離を伴うこれら特性の組み合わせが含まれる。
【0099】
下記の実施例は本方法と本発明の装置の具体化を示す。
【実施例】
【0100】
(実施例1:Pの変化の補正)
電気化学的センサー測定の正確性を増加するため、Pを使用する一実施例を論議する。図9はPと異なる分析物濃度の測定電流間に存在する関係の一実施例を示す。図9のデータは、実施例図3と7A−C示す電導電池電気化学的センサーによって模擬したものである。図9は、1cm2の有効表面積の各電極から構成されるセンサーに対し、Pの異なる値に対する電流(アンプ表示)の変化を示す。データ点を図9に安定状態の電流について示すが、これは2mMヘキサシアノ鉄(II)酸塩1400と1mMヘキサシアノ鉄(II)酸塩1405からなるサンプルの、二つの電極間の電圧差0.4V付加により発生した安定状態電流についてである。測定した電流は分析物の濃度とPの値に依存している事は明らかである。このようにPの値の変化は信号の変化を惹起し、分析物濃度の測定に誤差をもたらすことになる。
【0101】
図10は異なるPの値の代表的な較正曲線を示して、本問題をさらに図示する。本図では、濃度はX軸にmMで表し、測定した安定状態の電流は、y軸にアンプで表した。データ点1500は44.3sのP値と対応し、データ点1505は20.6sのP値と対応し、データ点1510は6.58sのP値と対応する。再びP値の変化により生ずる分析物評価の誤差を図示する。もし1つの特殊な較正を参照較正曲線として採用すれば、これは無条件にPの特定値が測定に関連すると想定する。しかしP値が未知のサンプルを測定した場合に変化すれば、分析物濃度の結果的評価は誤りとなろう。
【0102】
図11はP値が変化する場合発生する誤差のタイプの一実施例を示す。本実施例では、較正曲線は図10のデータ点1505から構成される。この構成曲線は、P値が20.6sに等しいシステムについて決定された。本較正曲線を記載する方程式は以下の通りである。
【0103】
【数16】

ここでIは測定した電流で、[ヘキサシアノ鉄(II)酸塩]とはサンプル中のヘキサシアノ鉄(II)酸塩の濃度である。このように電流の測定は、分析物の濃度の評価に使用可能で、この実施例ではヘキサシアノ鉄(II)酸塩であり、サンプル中のものを上記の方程式を使用して行う。
【0104】
図11は、もし較正曲線決定時に使用したP値と、PT for the measurementの値が異なる場合、分析物濃度の評価に現れる誤差を図示する。電流測定は、異なるP値について、2mMヘキサシアノ鉄(II)酸塩のシステムから決定する。P値を変化させれば測定電流も変化する。評価方程式は特定P値を有するシステムから決定された較正曲線で決定されるので、もし異なるP値を有するシステムで測定が行われると、結果としての評価方程式は不正確な評価を生み出す。図11は異なるP値に対して発生する分析物評価の誤差を図示する。図11のチャートのy軸は、次式によって決定されたヘキサシアノ鉄(II)酸塩評価のパーセント誤差である:
【0105】
【数17−1】

measuredは測定電流、[ヘキサシアノ鉄(II)酸塩]actualはサンプル中(上記の2mM)の現実のヘキサシアノ鉄(II)酸塩濃度、[ヘキサシアノ鉄(II)酸塩]estimateは較正データ1505を記述する方程式で決定の評価ヘキサシアノ鉄(II)酸塩濃度である。図16はP値が較正データ決定時の値と異なった場合、分析物濃度の評価誤差について示す。データ点は異なるP値に対する分析物濃度評価のパーセント誤差を示す。参考のため、較正データ1505決定時にはP=20.6sの値が使用されたことを注目すべきである。かくしてP値が20.6sに等しいときは、図11中は実質的にゼロパーセント誤差となる。
【0106】
またPが増加すれば誤差の変化率は減少することも注目すべきである。同じように、Pが減少すれば誤差の変化率は増加する。低い値のPを上昇させる状態の一実施例は、導電電池の二つの電極間の距離が減少する場合である。例えば、図7A−Cの電極1320と1325間の距離は、実質的に非導電性物質1310と1315の厚さを減らすことにより減少させ得る。この距離の削減によって、サンプル室1340の量もまた減少する。かくして分析物評価におけるPの影響は、サンプル室1340の量が減少すれば増大し、少量のサンプル量のPの変化に対し、正確に補正できることの有用性と重要性を際立たせている。
【0107】
を使用して、Pの変化に起因する誤差に対する分析物評価を補正する一実施例には、電位差緩和が特定電位差に到達必要なPと時間t間の関係の決定が含まれている。本実施例では、400mVのDC電位差を、図3の模擬システム用の電極に付加した。安定状態電流が一旦樹立されると、電位差はシステムの回路開放によって除去され、これにより回路には実質的に電子流は無いことを保証し、そして両電極間の電位を時間に関連してモニタリングした。
【0108】
シミュレーションを異なる値のPについて行い、時間による電位差の緩和を、これらの異なる値のPについて決定した。この時間による電位の進展をモデル化し、P各値について図5に記載した。本図では、電位を回路がt=0時に開放された後、以降の値の緩和について決定した。P=28.7秒420、P=19.2秒415、P=11.6秒410、P=5.9秒405、P=3.8秒400。
【0109】
両電極間の電位の緩和率は、分析物濃度に実質的には依存していない。したがって本技術の有用性は、P値を上昇させ、一方、分析物の濃度には実質的に影響されないシステムの特性を、モニタリングするのに使用できることである。緩和電流のモニタリングに依存し、分析物濃度に実質的に影響される以前の方法とは対象的である(米国特許:US594102,US6179979,US6284125)。
【0110】
さらに電極間の電位差をモニタリングすることは、電極の面積には実質的に依存していない手段である。このことが、測定の変化を発生させる他の電位源を取去るという有用な利益となる。測定電流は有効電極面積とは無関係なので、これはモニタリングする緩和電流に依存する方法とはまったく異なる。
【0111】
のサイズを抽出する実施例のひとつは、電位差緩和の開始から電位の特定値への到達の時間を決定することである。これは、電気化学的システムの回路開放時における電位の緩和率、または減衰率の時定数の大きさを定量化するための一単位である。
通常の技術者であれば、他の単位の使用も可能であることを認識する。それは、時間内の特定点の電位、特定時間内の電位対時間プロットのスロープ、特定時間内の電位の対数と時間のプロットのスロープ、および特定時間内の1/V対時間のプロットのスロープである。ここでVは電位を示す。図12はPと電位差0.06に達する時間tの関係を示す。ここでt=0は、システムの回路が開放された時間である。この実施例では、図6のデータ緩和電位が、0.06Vと実質的に等しい値に達した時間の決定により解析した。このようにPの各値は異なる減衰電位となり、且つ電位が0.06Vと実質的に等しい値に達したときの異なる時間と対応する。図12はしたがってPとP値のサイズ間に存在する関係を示す。本実施例では、Pの0.06に達する時間をとり、測定可能な電位差緩和データから、Pを決定するに必要な数学的関係を供与する。本実施例中、Pと規定電位に達する時間の間を観察する。
【0112】
【数17−2】

他の関係も存在するであろうし、このような関係は準備された測定によるが、これに
は電気化学的電池の幾何学が含まれる。
【0113】
本電位差緩和測定は、分析物濃度と実質的には独立しているので、分析物濃度により実質的に影響されないPサイズの評価に使用可能である。このPサイズはP値の変化によって生じる分析物評価の誤差の調整に使われる。本実施例中、較正曲線はP=20.6sのシステムについて決定した。先に論じたように、一つの分析物の濃度を評価する方程式は以下の通り:
【0114】
【数18】

その分析物種の移動性の条件である。通常の技術者は、システムの性格によるが、他の形式も可能であることを認識するであろう。以前論議した一実施例では、分析物の濃度は下式による拡散特性に関して与えられる:
【0115】
【数19】

実際には較正曲線は経験的に決定される。これは関連するすべての成分を個別に決定するより、実験による比例定数の決定のほうが便利な事が多いからである。たとえば、上記のように分析物移動性に関して記載のシステムでは、図10記載の較正データを記述する方程式は以下となる。
【0116】
【数20】

比例定数λは、濃度評価での関連変数の効果を含む。本データ1505は、P値が20.6sに等しいシステムにて取得したものなので、上記のとおり定数λはP値を明白に包含するよう表示できる。そこでこれを、分析物評価に誤差をもたらすPの変化に対し、有用な調節に使用できる。
【0117】
の変化に起因する分析物濃度の誤差補正の一実施例では、Pの変化を計算して較正曲線の記述を調整している。もっと一般的にいえば、較正曲線の比例定数λは、PTcalibrationで示される較正データ関連の、P値について与えられる。本実施例ではλの値は、その量(PTcalibration/PTmeasured)によって以下のように調整される。
【0118】
【数21】

ここでPTmeasuredは測定電流信号Imeasuredと関連するPの値である。このことはサンプル測定時Pの変化に応答して、変数λの調整を許容するが、これは部分的には較正曲線を定義するものである。実質的にImeasuredから独立のPのサイズと分析物濃度の取得によって、分析物濃度の評価に使われる較正曲線は、分析物濃度の評価における誤差を減少するよう調整できる。本発明の実施は、P値の決定の方法を供与するが、これは分析物濃度および測定電流から実質的に独立しているものである。Pの変化を調整する方法の一実施例は、Pのサイズを決定し、また一部較正曲線の定義変数を調整する本発明を使用することである。本方法の実施の一例として、較正係数λを補正係数(PTcalibration/PTmeasured)で乗じ、この調整したλ値を分析物濃度の評価に使用する。以下の方程式がこの実施例を示す。図10中の較正データ1505より、本データを実質的にモデル化するため方程式を決定する。
このような方程式を決定する一実施例は、広く知られている直線回帰技術を使い、本データ1505を最もよく記述する直線方程式を見出すことである。このような方程式を以下に記載する。
【0119】
【数22】

他の関係も可能であり、その電気化学的センサーシステム、環境係数、装置係数、および/またはサンプル係数の性質によるであろう。
【0120】
の変化に起因する分析物濃度評価中の誤差を補正する他の例は、Pの変化を計算するよう測定値を調整することである。較正曲線方程式の類似の分析によれば、測定電流Ismeasuredは、以下のように(PTcalibration/PTmeasured)の係数によって調整される。
【0121】
【数23】

の変化に起因する分析物濃度評価中の誤差を補正する他の例では、Pの変化を計算するよう測定値を調整することである。較正曲線方程式の類似の分析によれば、推定濃度Cestimatedは、以下のように(PTcalibration/PTmeasured)の係数によって調整される。
【0122】
【数24】

の変化を補正する他の調整も可能で、調整の形式は装置係数、環境係数、および/または測定システムに関連するサンプル係数による。
【0123】
図10は異なるP値に起因する較正曲線の差異を示す。データ点1510はPT=6.58のシステムから、データ点1505はPT=20.6のシステムから、データ点1500はPT=44.3のシステムからのものである。異なる較正曲線に現れるとおり、P値の変化に伴ってセンサーの応答も変化する。もしセンサーシステムがP特定値で開発され較正された場合、センサーが使用されたときのP値は、同一センサー読取りを持続的に維持するため、実質的に同一でなければならない。しかしセンサー使用時のP値が異なれば、測定は不正確となろう。センサー使用時のP値の異なる例としては、導電電池の両電極間の距離についての製造上の変動、およびサンプル中の種の有効移動性の変動などがある。
【0124】
図11はPの変動によって発生可能な誤差のタイプの実施例を示す。本実施例では図3の処理中に提供された図2のシステムをP=20.6sでシミュレートする。分析物濃度の評価の誤差は、P=20.6sで取得した値のパーセントで表示する。Pが20.6s以下に減少すると、評価分析物濃度は急速な率で増加し、不適切に高い評価をもたらす。Pが20.6s以上に増加すると、評価分析物濃度は減少し、不適切に低い評価をもたらす。小さいP値の場合、分析物濃度の評価は、大きなP値の場合よりはるかに敏感なことに注目すべきである。少量の場合は電極間のスペースは小さく、Pの変動を補正する能力は、更に大きく且つ有用となる。同様に高い移動性および/または高い拡散性の種からなるシステムでは、ここでもPが小さいので、Pの変動を補正する本発明の有用性と価値が示されている。
【0125】
図13A−Cは、Pの変動による評価を補正するシナリオを示す。これらの実施例では、3mMの分析物濃度を、P=20.6sで較正されたシステムで使用する。図13A,13Bおよび13Cでデータ点1700は、異なるP値のセンサーで行った測定時に、分析物濃度がいかに変化するかを示している。予想通りセンサー値が実質的に20.6sであれば、評価濃度は3mMの補正値に実質的に接近する。図13はPの変動を計算することによって、最終評価分析物濃度を補正した効果を示す。データ点1705は、補正処理後の評価分析物濃度で、センサー測定用のP値に基づいて、データ点1700中の評価濃度値を調整するものである。図13Bは較正曲線をPの変動を計算するよう調整することによって、最終分析物濃度を補正する効果を示す。データ点1710は補正処理後の評価分析物濃度で、センサー測定用のP値に基づいて、データ点1700中の評価濃度値を調整するものである。図13Cは測定電流信号をPの変動を計算するよう調整することによって、最終評価分析物濃度を補正する効果を示す。データ点1715は補正処理後の評価分析物濃度で、センサー測定用のP値に基づいて、データ点1700中の評価濃度値に使用する測定電流信号を調整するものである。このように本発明の実施例は、Pの変動により発生する分析物濃度評価の誤差の減少にとって、有用である事は明白である。
【0126】
図14A−Cはフローチャート形式で本発明の実施例を示す。本書で論じた様に本発明に使用可能な異なる実施例がある。図14A−Cでは図4の工程225,230および235の実施例の図示によって、図4の工程を更に詳細に示す。
【0127】
図14Aは一実施例を示し、そこでは図13の例で示したように、最終分析物評価に調整を加える。この実施例では、過渡電位を決定する(工程220)。ついでPのサイズを定量化する(工程1805)。Pのサイズを較正データと比較し、Pの有効値を決定する(工程1810)。Pの有効値は、Pの変動を決定するための分析物評価の調整に使用する(工程1815)。調整済みの分析物濃度を有用な形式で出力する(工程1820)。
【0128】
図14Bは一実施例で、そこでは図13Bにて示したように、ファラデー信号成分の測定に調整を加える。本実施例では、過渡電位を決定する(工程220)。ついでPのサイズを定量化する(工程1805)。Pのサイズを較正データと比較し、Pの有効値を決定する(工程1810)。P値の有効値を使用して、ファラデー信号成分の測定を調整し、Pの変動を計算する(工程1825)。調整したサイズのファラデー信号成分をファラデー較正データとともに使用し、分析物濃度を評価する(工程1830)。分析物濃度の評価を有用な形式で出力する(工程1820)。
【0129】
図14Cは較正データに調整を加えた一実施例を示すが、これは図13の例で示している。この実施例では、過渡電位を決定する(工程220)。ついでPのサイズを定量化する(工程1805)。Pのサイズを較正データと比較し、Pの有効値を決定する(工程1810)。Pの有効値を使用して、ファラデー較正データを調整し、Pの変動を計算する(工程1835)。調整したサイズのファラデー較正データをファラデー信号成分とともに使用し、分析物濃度を評価する(工程1840)。分析物濃度の評価を有用な形式で出力する(工程1820)。
【0130】
(実施例2:酵素バイオセンサー実施例)
他の実施例にあっては、電導電池の電気化学的センサーはバイオセンサーによって作動する。この場合、化学的反応の組合せが、電導電池の電気化学的センサーに検出されるべき分析物を生産する。この一実施例を図1に示すが、そこで酵素グルコースオキシダーゼがグルコースと触媒反応する。この実施例では、グルコース500はグルコースオキシダーゼの酸化形式、GODox510に反応し、酵素を還元された形式GODred515に変換し、且つグルコノラクトン505を生産する。GODred515はヘキサシアノ鉄(III)酸塩に反応しFe(CN)63−525をその酸化状態のGODox510に戻そうとして、ヘキサシアノ鉄(II)酸塩、Fe(CN)64−520を産生する。このようにグルコースの濃度は、本発明の実施例である方法と装置により、ヘキサシアノ鉄(II)酸塩の決定によって評価できよう。
【0131】
測定電流は較正曲線方程式によって、グルコース能度と関係づけられる。この方程式の一例は以下のとおりである。
【0132】
【数25】

ここで
【0133】
【数26】

は評価グルコース濃度、
【0134】
【数27】

は比例定数、そしてISmeasuredは測定電流である。Pの変動を補正する係数の一例は、電導電池の電気化学的センサーに対する上記の処理に従い、アナログ補正方程式を展開し、それにより測定Pを較正曲線、測定電流、または濃度評価の調整に以下のように使用する:
【0135】
【数28】

ここで
【0136】
【数29】

は、グルコース濃度評価に使用する導電電池バイオセンサーの、較正曲線決定時に取得したP値であり、
【0137】
【数30】

は導電電池バイオセンサーのグルコース測定時に取得したP値であり、また
【0138】
【数31】

は補正したグルコース濃度である。
【0139】
(実施例3:変換器制御装置の実施例)
図5の変換器制御装置5の一実施例を論議する。図15は変換器制御装置5の一実施例の図式を示す。二つの電極2100と2105は、実質的に導電性の通路2110と2115によってTCS5に組み付けられている。刺激印加ユニット2150が、電位差を導電性通路の2110と2130の間に与える。刺激印加ユニット2150は正しく電位差を変化させる。電流定量化ユニット2120は、リード2110に流れる電流をモニタリングする。通常の技術者であれば、リード2110に流れる電流は、リード2115と2130に流れる電流と、実質的に同一なことを認識するであろう。電流定量化ユニット2120は、リード2115または2110の代わりのリード2130に接続可能である。この実施例は、本発明を限定するものではない。スイッチユニット2135は、リード2130と2115を接続または切断できる。このスイッチユニットはTCA5の電流を実質的にゼロアンプに強制可能である。通常の技術者であれば、電流を実質的にゼロアンプに強制する方法は、他にもあることを認識するであろう。例えば高インピーダンス回路エレメントに切り替えることである。スイッチユニット2135の例には、MOSFETスイッチ(例えばアナログ装置からのAD147チップ);電子機械的スイッチ;および機械式スイッチ等である。
【0140】
スイッチユニット2135は、リード2110と短路および/または閉路するよう接続できる。通常の技術者であれば、電流が実質的に阻害されない作動モードと、電流が阻害される作動モードを変えるため、異なる配置と作動オプションがあることを認識するであろう。電位定量化ユニット2125は、リード2115と2110間の電位差をモニタリングする。この電位差は電極2105と2100間の電位差と関係する。望ましい実施例では、リード2115の電位は、電極2105の電位と実質的に等しく、又リード2110の電位は、電極2100の電位と実質的に等しい。
【0141】
TCA5が電流モードで作動時、スイッチ2135閉路作動モードで、電位差が刺激印加ユニット2150によって印加され、結果としての電流は、電流定量化ユニットでモニタリングされ、又電位は電位定量化ユニット2135によってモニタリングされる。システムが電位差作動モードに切替られると、スイッチ2135は、開路または高インピーダンス作動モードとなり、電流定量化ユニット2120は、ゼロアンプが期待されている電流をモニタリングし、又電位定量化ユニットは、緩和減衰に従うことが期待されている電位差をモニタリングする。
【0142】
TCA5の更に詳細な実施例を図16に示す。回路エレメント2220は、例えば接地等の参照電位との実質的な導電性通路(リード)である。太線は実質的に導電性の通路(リード)を示す。刺激性電位をリード2215と接地リード2220間に印加する。スイッチユニット2230が閉路モードの場合、リード2225と2250は実質的に同一の電位であり、増幅器2200は、リード2215の場合と同じく、リード2250の電位を実質的に維持する。このような増幅器2200の一例は、作動増幅器(opアンプ)である。リード2250は電極2240に接続する。第二増幅器2205は、一方の接続を接地2220と維持し、他の接続をリード2265経由で電極2245と維持する。フィードバック抵抗器2255が、リード2265をリード2260に接続する。リード2260と接地リード2220間に存在する電位差は、電気化学的電池を流れる電流と関係する。他の増幅器はリード2250と2265間の差異をモニタリングし、それにより電極2240と2245間に存在する実質的に同一の電位をモニタリングする。この増幅器2210の一例は、差動増幅器である。他の例は計測増幅器である。リード2270と接地リード2220間の電位差は、リード2250と2265間の電位差と関連する。スイッチユニット2230が回路開放作動中、増幅器2200は実質的にゼロ電流のリード2250と電極2240間の流れを保証する。このようにリード2260の電位は、接地リード2220の電位と実質的に同一である。電極2240と2245間の電位は、増幅器2210によってモニタリングされ、リード2270と接地リード2220間の電位差により明白となる。
【0143】
(実施例4:P定量化の他の単位)
上述したように、Pのサイズを抽出する他の実施例は、電位差信号の緩和率を決定することであり、これは図17に示すように、特定時間中の1/V対時間のスロープの決定による。図17は異なるP値に対する時間の関数としての、電位差緩和信号の図式である。本例では電位差緩和はt=0時に開始した。これは例えば電気化学的電池回路の実質的開放による。y軸は1/Vの関数をプロットするが、Vはt1からt2にいたる時間中の測定電位である。データトレース2400、2405、2410、および2415は、異なるP値での測定による緩和信号である。本例では、データ2400と関連のP値が、データ2405と関連するP値より小さく、これはデータ2410と関連のP値より小さく、またデータ2415と関連のP値より小さいことになる。本例で1/Vと時間の間に実質的な線形関係のあることが明白である。このように緩和率のサイズは、時間内の本データのスロープの決定により取得可能となる。例えば時間t1とt2の間である。スロープは線形代数の周知の手段によって計算可能で、これには最小自乗法を含むが、これに限るものではない。
【0144】
図18はPを定量化する図式例を示す。Pのサイズと関係する較正曲線が較正できる。図18で図式化された例は、1/V対時間の関数を示し、y軸上ではf(スロープ)として表示され、Pのサイズとして使用できる。かかる関数の一実施例は、
【0145】
【数32】

ここでスロープは、部分時間における1/V対時間のプロットのスロープである。図18で、点2500は図17のデータトレース2400に対応し、点2505は図17のデータトレース2405に対応し、点2510は図17のデータトレース2410に対応すし、点2515は図17のデータトレース2415に対応する。このようにPのサイズは、測定電位差データから計算できる。一旦Pのサイズが決定すれば、この値は上述の通り、更に正確な分析物濃度の評価を得るため、各量を調整するのに使用できる。
【0146】
(実施例5:過渡システムでの補正の実行)
本発明はシステムが安定状態に達していない場合でも、使用可能である;この状態は一般的に過渡状態として知られている。過渡状態のシステム例には、時間とともに変化するサンプルの濃度プロフィール、および平衡状態に達していない化学反応を含むが、これに限るものではない。
【0147】
安定状態システムと過渡状態システムのひとつの違いは、安定状態システムで発生する信号は、電極間の分離距離条件の重要な情報、および/またはサンプルの輸送特性に関する輸送条件についての情報(例えば有効拡散係数または移動性条件)を含むと期待されることである。上述のように例えば、Pは部分的に有効電極分離条件h、またはサンプルの輸送特性に関連する他の条件、例えば拡散条件D、ドリフト速度条件s、および/または移動特性条件U等で記述可能である。過渡システムで発生した信号は、電極間の分離に関連する距離についての、重要な情報を含むとは期待されないが、サンプルの輸送特性に関連する情報を含んでいると期待できよう。しかし過渡システムにあっても、有効距離条件に係わる十分な情報があり得る。しかしその距離条件は、電極間の幾何学的距離と直接の関係はないのである。
【0148】
安定状態システムでは、化学的情報が1つの電極から他の電極へ、サンプルを通して大きく伝達される。これは他の電極で起こったプロセスにより混乱した一方の電極の周辺での、化学種の濃度勾配による。この一例は一方の電極の反応産物が、他の電極に到達する時である。過渡システムでは、サンプルを通じて片方の電極から、他の電極に移転する化学的情報は多くない。たとえば一方の電極の反応産物は、他の電極に実質的に到達していないので、両電極間の距離サイズの情報は、ほとんど無いと思われる。しかしサンプルの分析物輸送に関する情報は期待できる。たとえば、拡散条件に係わる輸送条件、移動性条件や有効通路長度条件がある。この有効通路長度条件の一例としては、物質を構成するサンプル中の分析物輸送に係わる有効距離条件であり、たとえば赤血球細胞や他の物体である。サンプル中の物体は、サンプル中の分析物の輸送に影響し、そのために過渡システム中の輸送関連の変化を補正する能力は、センサーシステムの正確性、および/または精密性の向上に有用且つ有利となろう。
【0149】
図19は過渡システムの電流信号について図式例で示す。本例では、異なるグルコース濃度に対応する三つの電流トレースを示す。トレース2900は少なくとも濃度、トレース2905は中間濃度、トレース2910は最高濃度である。信号は時間別に六つの領域に分割される。本例では、サンプルはt=0でサンプル室に導入されるが、この時点で電位は拡散発生限度レベルに工程アップした。t=0からt=t1の電流の増加は、電気容量の二重層充電に大きく寄与する。電流のt1からt2への減少は、二重層安定のため大きく寄与する。電流のt2とt3間の増加は、還元媒体、この場合ヘキサシアノ鉄(II)酸塩だが、サンプル中の分析物と化学反応の増進に大きく寄与する(本例の化学反応は、グルコースとの酵素反応)。電流はt3時で部分的最高に達し、この点で酵素反応の進行は、電気活性化種(本サンプル中の媒体)の拡散処理による電極への輸送で平衡する。結果として、t3時以降の下降につながる。ある場合には、減少を続ける下降電流は、測定進行中の明瞭な準無限拡散プロフィールである。
【0150】
電流信号の下降は継続するので、本システムは過渡状態にあるといえる。過渡信号は、分析物濃度のサイズを決定するため、分析・定量化され、安定状態電流は本発明での使用は必要ではない。過渡電流で達成される分析の一例は、Cottrell方程式に関係する。もちろんCottrell方程式は特定の測定条件に適用するが、他の方程式も、その測定条件に依存するシステムの記述に使用可能である。使用可能な方程式の一例は、部分時間内に1/I2のスロープの平方根を、グルコース濃度のサイズとして計算することである。図19の図式例では、電流が酵素反応から実質的に独立後の部分時間(例えば大凡の時間t3での電流ピーク後)、例えばt4とt5間の時間はかかる定量化に使用できる。本例では、Cottrell方程式に基づく方程式を、以下の通り過渡システムの電流の記述に使用可能である:
【0151】
【数33】

ここでtは基準時間であり、他の記号はその通常の意味をもつ。αによるスロープ、およびDは濃度サイズCの決定に使用できる。Dが既知数のシステムでは、したがってスロープα(たとえば以下の評価方程式による)の決定で濃度を定量化することが可能である:
【0152】
【数34】

サンプル、装置、および/または環境係数が変化し、且つDの明らかな値に未知の変化をもたらせば、問題が発生する。このような場合、濃度の評価Cは未知の状態で変化し、正確性および/または精密性を低下させる結果となる。
【0153】
このような過渡システムでは、電位差緩和をモニタリングする電位差モードに装置を切替え、システムに関連する輸送および/または通路長度の変化のサイズを決定することができる。本例では、電位差緩和をDの有効サイズの決定に使用可能であろうし、それを濃度の評価に使用できよう。このように本発明の方法と装置は安定状態、または安定に近い状態のシステムを必要としない。本発明の方法と装置は過渡システムにて使用可能である。
【0154】
システムの過渡や安定状態性質に影響するひとつの係数は、電気化学的電池の幾何学である。この幾何学係数の一例は、電極間の有効長度である。有効長度が短いと、システムが安定状態に達するに必要な時間は一般的に短い。本例の安定状態とは、電流信号が安定状態近くの値に達した時と定義する。電極間の有効長度が長いと、安定状態に到達する時間は一般的に長くなる。したがって、作動が電流計測から電位計測に切り替えられた場合、システムが安定状態モードなのか、過渡モードなのかは、電極間の有効長度と作動モードが変化した時間による。例えば、有効分離が十分に大きくて、安定状態に与えられた時間内で到達しない場合、作動モードを過渡状態にあっても電位計測モードに切り替えられる。本発明のこの方法と装置を、過渡システムで使用するひとつのメリットは、測定が短時間で行えることである。例4の安定状態測定では、過渡測定について、1/Vと時間の間に実施的に線形関係がある。こうして緩和率のサイズは、時間内、例えばt1とt2間の本データのスロープの決定で取得できる。スロープは線形代数の周知の方法で計算できる。これには最小自乗法を含むが、これに限定するものではない。異なる電極幾何学については、他の関係が存在するであろう。
【0155】
図20A−Cは、電導電池ベースのバイオセンサーシステムによって発生する電流計測信号について、数例の図式を示す。図20A−は、電極間の有効分離距離が十分に大きく、応答信号の少なくとも一部分を過渡形式に従わせることを許すもので、これはCottrell方程式に関連する緩和によって記述できる。本図は図19記載例に類似しているが、ただ以下を除く。即ち信号が、Cottrell型緩和(t4とt5間)と実質的に関連する準無限緩和から、過渡領域(t5とt6間)を抜けて、最後に実質的に安定状態の値に(t6以降)到達することである。各種の方程式および/または数式が、これらの異なる領域の信号応答を記述するのに使用できる。図20Bは、電極間の有効分離距離が十分に大きく、拡散勾配緩和(t3とt4間)を許容するが、しかし実質的に準無限(Cottrellのような)緩和を経験しないで、実質的に安定状態電流値(t4以降)に達するには小さすぎる。図20Cは、電極間の有効分離距離が、重要な拡散緩和を経験しないで実質的に安定状態電流に達する(t4以降)には小さすぎる。これらの図は酵素ベースバイオセンサーによって発生する信号の実施例であり、本発明を制限するものではない。通常の技術者であれば、他の信号応答も可能であり、且つ信号の形式は多くの係数に依存することを認識するであろう。この多くの係数とは、装置係数、サンプル係数、および環境係数を含むが、これに限るものではない。
【0156】
システムの過渡または安定状態の性質に影響を及ぼす他の幾何学係数は、電極の方位である。伝統的な電導電池の方向付けは、互いに面している実質的に平行の二つの電極から構成される電池に対してであった。これらは図7A−Cの例で示すように、ほぼ同一の面積を有する。このような幾何学の主たる理由は、この方向が電池定数Kcellの決定に便利であるからである。しかし本発明の方法と装置は、電導電池作動に他の幾何学を許容するものである。例としては、実質的に共面電極および/または実質的に同心の電極から構成されている電池がある(例は図21A−Dに示す)
図21A−Dは、実質的に共面電極配置の数例を図形で示す。これらの図形では、配置は実質的に非電導基板2000、少なくとも二つの電極2005と2020、および少なくとも二つの実施的に導電性のリード2010と2015で構成される。実質的に導電性のリード(2010と2015)は、電極(2005と2020)と分離した材料である必要はない。これらの図は実施例として提出したもので、本発明を制限するものではない。一般の技術者であれば、他の実施例も可能で、これには異なる形状、異なる方位、および/または異なる整列の電極があるが、これに限るものではない。
【0157】
システムの過渡や安定状態の性質に影響を与える他の係数はサンプル特性で、例えば拡散、移動性、通路長度、および/またはヘマトクリットレベルである。サンプル自体の特性は、種の輸送率を変更することができて、それにより実質的に安定状態システムに達する時間を変更する。
【0158】
したがって本発明は、Pサイズの決定のための方法と装置を提供するが、システムが安定状態下であることを必要とせず、過渡システムにも実施できる。このことは実質的に測定時間の削減に有用である。これによりユーザーは、安定状態が達成されるまで待つ必要が無いからである。他の有用な利点は、異なる電池幾何学の使用も可能で、例えば電極の平行―対面、共面、および/または同心配置を含む。このような幾何学は、実質的な安定状態に早く且つ容易に達することはできない。更に本発明は過渡システムでも使用可能なので、実質的に安定状態の作動のため、電極を互いに接近させるべき要件はない。このように大規模で生産した電気化学的電池は、製造が容易、且つ低価格であることが知られている。
【0159】
熟練技術者であれば、追加的修正や変化を、本発明の範囲と精神から逸脱することなく達成することは明白である。
【0160】
ここで発表した本発明の仕様と実践を考慮すれば、熟練技術者にとって本発明の他の実施も明瞭であろう。
【0161】
(引用文献)
【0162】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】図1は、グルコース分析用の模範的な分析物検出システムの反応を示す。
【図2】図2は、本発明の実施例を示す。
【図3】図3は、電導電池の一般的運転を示す。
【図4】図4は、本発明による自動補正実行の一方法を示す。
【図5】図5は、電池開放後の異なる時間での、フェリシアン濃度と電気化学電池における標準化距離間の関係のコンピューターシミュレーションの結果を示す。
【図6】図6は、Pの各値に対する時間の関数である電位の低下を示す。
【図7】図7A−Cは、電導電池電気化学センサーの電気化学式電池の実施例を示す。
【図8】図8は、両側に電極のある電池を示す。
【0164】

【図9】図9は、Pと異なる分析物濃度に対する測定電流間に存在しうる関係の一例を示す。
【図10】図10は、異なる値のPに対する代表的な較正曲線を示す。
【図11】図11は、Pの値が変化した場合起こり得る誤差タイプの一例を図示する。
【図12】図12は、Pと0.06V電位差に達するに必要な時間tの間の関係を図示する。
【図13】図13A−Cは、Pの変化により推算を補正するシナリオを図示する。
【図14】図14A−Cは、本発明の実施例をフローチャートにて図示する。
【図15】図15は、変換器制御装置の一実施例の線図を図示する。
【図16】図16は、変換器制御装置の一実施例を示す。
【図17】図17は、Pの異なる値に対する時間の関数としての、電位緩和信号の系統的表現を図示する。
【図18】図18は、Pの測定を測定値より定量化した一例を図式的に示す。
【図19】図19は、過渡的システム用の電流計量信号を図示的に示す。
【図20】図20A−Cは、電導電池ベースのバイオセンサーシステムに起こり得る数個の電流計量信号の例を図示する。
【図21】図21A−Dは、実質的に同面上の電極の配置を数例図示する。
【図22】図22は、本発明による装置の実施例の外観を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択分析物の存在についてサンプルを評価する方法であって、該方法は、
(a)該サンプルを電導電池の二つの電極間の空間に導入する工程と、
(b)分析物検出酸化還元系における分析物または媒体の酸化または還元をもたらすのに十分な電位または電流を、該二つの電極間に印加して、それによって、該二つの電極間に該分析物または媒体の化学的電位勾配を形成する工程と、
(c)該勾配が確立した後、該電位または電流の印加を中止し、そして該化学的電位勾配の緩和を反映する分析物非依存性の信号を取得する工程と、
(d)該分析物非依存性の信号取得後、該電極間に電位または電流を必要に応じて印加する工程と、
(e)該工程(b)または(d)、あるいはその両工程で、該電位または電流を印加中に、分析物依存性の信号を取得する工程と、
(f)該工程(c)で取得した該分析物非依存性の信号を使用して、該工程(e)で取得した該分析物依存性の信号を補正し、該サンプル中の該選択分析物の存在を示す補正された分析物依存性の信号を取得する工程と、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記工程(b)で前記電極間に電位を印加し、この印加された電位の結果として発生した電流を、前記分析物依存性の信号として測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電位を安定状態条件に達するまで印加し、その後該電流を測定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電流を安定状態条件に達する前に測定する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(b)の前記電極間に電流を維持し、この電流の結果として発生した電位を、前記分析物依存性の信号として測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電流を安定状態条件に達するまで維持し、その後前記電位を測定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電位を安定状態条件に達する前に測定する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記化学的電位勾配が、緩和に先立って、前記電極間の距離の少なくとも10%に広がる、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記化学的電位勾配が、緩和に先立って、前記電極間の距離の少なくとも80%に広がる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
電気化学的電池の第一電極と第二電極との間の有効分離距離を決定するための方法であって、該方法は、
外部の力を印加電位または印加電流の形で印加し、化学的電位勾配を該第一電極と該第二電極との間に発生させる工程と、
該外部の力の印加を停止する工程と、
該化学的電位勾配の減衰を時間の関数として観察する工程と、
該化学的電位勾配の減衰の観察から、該有効電極分離距離を計算する工程と、
を包含する、方法。
【請求項11】
電気化学的電池の第一電極と第二電極との間の有効輸送特性を決定するための方法であって、該方法は、
外部の力を印加電位または印加電流の形で印加し、化学的電位勾配を該第一電極と該第二電極との間に発生させる工程と、
該外部の力の印加を停止する工程と、
該化学的電位勾配の減衰を時間の関数として観察する工程と、
該化学的電位勾配の減衰の観察から、電機化学的システムの有効輸送特性を計算する工程と、
を包含する、方法。
【請求項12】
電気化学的電池に配置されているサンプル中の分析物の存在を決定するための装置であって、該電気化学的電池は、2つの電極を備え、該電極間に該サンプルが分析のために置かれ、該装置は、
(a)該電気化学的電池を受容するための空間を有するハウジングと、
(b)該電気化学的電池が該ハウジング内に受容された場合、該電気化学的電池の該二つの電極間に電位または電流を印加するための手段と、
(c)該電位または電流が印加されているとき、該電気化学的電池内に発生する、分析物検出システム中の、分析物または媒体の酸化または還元を測定するための手段と、
(d)該二つの電極間に化学的電位勾配が確立される間の時間の後、該電位または電流を切断するための手段と、
(e)該電位または電流を切断した後、該化学的電位勾配の減衰をモニタリングするための手段と、
(f)該測定した酸化または還元を、モニタリングした減衰と組合せて、該サンプル中の該分析物の存在の指標を生成するための、プログラム化データ処理手段と、
(g)該サンプル中の該分析物の存在の該指標を、ユーザーに伝えるための出力手段と、
を備える、装置。
【請求項13】
前記ハウジング内に配置された電気化学的電池をさらに備える、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記電気化学的電池が、1回使用の使い捨て式テストストリップである、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記ハウジングが、ヒトの手に保持され得るサイズである、請求項12から14のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21a】
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【図21b】
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【図21c】
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【図21d】
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【図22】
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【公表番号】特表2007−503577(P2007−503577A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524118(P2006−524118)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/027441
【国際公開番号】WO2005/022143
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(504272165)アガマトリックス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】