説明

電気化学的電池における望ましくない酸化を阻害するためのコーティング

多数のコーティング層を含む弁金属電極基板を利用する、金属を電気めっきする方法を開示する。弁金属酸化物のトップコーティング層を、電気化学的に活性なコーティングの第1のコーティング層上に施用する。本電極を、有機置換物質の消費がかなり減少し、有機置換物質を含む電気めっき系において、または、電気化学的電池における種の酸化を抑制するのが望ましい系において使用してよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
本出願は、1999年6月28日に出願された米国仮出願第60/141,299号の恩典を請求する2000年6月22日に出願された関連出願第09/599,339号の一部継続である。
【0002】
本発明は、多数のコーティング層を含む電極を利用する、金属を電気めっきする方法に関する。本電極を、有機置換物質の消費がかなり減少し、有機置換物質を含む電気めっき系において、または、電気化学的電池における種の酸化を抑制するのが望ましい系において使用してよい。
【背景技術】
【0003】
従来のめっき系においては、めっきされるのと同じ金属から製造された陽極を利用する。産業界において“可溶性”陽極として周知の陽極は、電流を供給し、めっきされる金属イオンを有する電解液を補充する。
【0004】
現在のめっき技術を改良するために、電流密度を増大させ、槽設計を修正することによって、不溶性陽極の使用が従来の可溶性陽極に置き換えられてきた。しかしながら、こうした不溶性陽極(また寸法安定性陽極として周知であり、例えばコーティング済みチタン陽極である)は、電解液に加えた有機成分の消費をかなり増大させる。このような不利益は、めっきプロセスのめっき特性及び費用効果性に影響する。
【0005】
米国特許第6,251,254号においては、三価クロム浴からのクロムめっきに適合した電極が教示されている。電極は、伝導性ベース、その表面の酸化イリジウムの電極材料層、及び電極材料層の表面に形成されたケイ素、モリブデン、チタン、タンタル、ジルコニウムまたはタングステンの多孔質酸化物層を含む。
【0006】
Okinaka, et alに付与された米国特許第4,310,391号は、金めっきにおいて対電極として有用な電極構造を教示しており、これは、金めっきプロセスにおいて、長い寿命並びに緩衝材料の消費の低減及び三価金の形成を含む低減された望ましくない副反応を示す。電極表面は、特定の8族元素の酸化物と特定の弁金属の酸化物とのコーティング混合物からなる。
【0007】
しかしながら、系において酸化によって失われる有機成分の量を大幅に減少しない、有機成分を含む電気めっき系のための陽極を提供するのが望ましいと思われる。また、溶液中の酸化可能な種の酸化を最小にする必要が存在する電気化学的プロセスのために、陽極を提供するのが望ましいと思われる。例えば、低レベルの塩化物を有する系における塩化物の酸化を阻害して、望ましくない副産物となることがある塩素及び/または次亜塩素酸塩の生成を最小にする。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、電極及びその使用方法に関し、特に、表面コーティング層としての電気触媒コーティング及びその表面のトップコーティング層を有する陽極(アノード、以下同じ)に関する。トップコーティング層は、セラミック材料の例えば弁金属酸化物、酸化スズ、またはペロブスカイト、ガーネット若しくはスピネル型の酸化物から形成され、酸素発生を伴う用途において電気触媒コーティング層に対する保護を拡大するために利用できる。トップコーティング層はまた、電気化学的電池における酸化からの電解液中の有機置換物質または他の酸化可能な種に対する保護を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
多数のコーティング層を有する電極の場合、弁金属のベースは、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、アルミニウム、及びタングステンを含むような金属とすることができる。その丈夫さ、耐食性及び利用可能性の点で特に興味深いのはチタンである。電極ベースとして適切な金属としては、通常入手可能な元素状金属自体の他に、合金及び金属間混合物、並びに1種以上の弁金属を含むようなセラミックス及びサーメットを含むことができる。例えば、チタンは、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、または銅と共に合金生成してよい。具体的に、第5等級チタンは、最高6.75重量%までのアルミニウム及び最高4.5重量%までのバナジウムを含んでよく、第6等級チタンは、最高6重量%までのアルミニウム及び最高3重量%までのスズを含んでよく、第7等級チタンは、最高0.25重量%までのパラジウムを含んでよく、第10等級チタンは、10〜13重量%及び4.5〜7.5重量%のジルコニウムを含んでよい等である。
【0010】
元素状金属とは、最も狭義において、通常利用可能な状態にある金属、すなわち、少量の不純物を有する状態の金属を意味する。従って、特に興味深い金属、すなわちチタンの場合、他の成分が合金または合金プラス不純物であるような金属を含めて、様々な等級の金属が利用可能である。チタンの等級は、ASTM B 265−79において詳述されるチタンの標準規格において具体的に説明されている。
【0011】
電極ベースは、メッシュ、シート、ブレード、管、及びワイヤ形態を含めて様々な形態、すなわち、金属の析出のために使用してよい任意の形態を取ってよい。
選択された金属及び陽極ベース部材の形態にかかわらず、このような基板部材の表面は清浄化された表面であるのが好ましい。これは、清浄な金属表面を実現するために使用される任意の周知の処理によって得てよい。
【0012】
清浄化された表面、または調整され清浄化された表面が得られたら、特に、弁金属ベース表面に必要なコーティング層を施用する場合には、ベース表面をさらに処理して、弁金属に対する例えば電気触媒コーティング層の接着性を向上させてよい。これは、基板金属の粒間エッチング、金属表面の尖鋭グリットブラスティング(sharp grit blasting)、続いて埋込まれたグリットを除去するための表面処理、またはプラズマ溶射を含む手段によって実現されよう。
【0013】
チタン等の金属をエッチング用に調整するためには、金属を例えばアニーリングによって状態調整して、不純物を粒界に拡散させるのが最も有用となり得る。従って、一例として、第1等級のチタンを適切にアニーリングすると、粒界における鉄不純物の濃度が高くなろう。さらに、エッチングの態様に関しては、適切な粒界冶金学を有する金属表面と好ましい粒径とを組み合わせるのが望ましいことがある。再度、模範例としてチタンについて言及すると、約3〜約7の範囲内の粒度番号を有する少なくとも実質的な量の結晶粒が好ましい。本明細書において言及する粒度番号は、ASTM E 112−84において提供されている名称に従う。この条件を満たす使用可能な金属基板は、米国特許第5,167,788号において開示されている。
【0014】
エッチングは、十分に活性なエッチング溶液を使用して行う。典型的なエッチング溶液は酸溶液である。こうしたものは、塩酸、硫酸、過塩素酸、硝酸、シュウ酸、酒石酸、及びリン酸並びにこれらの混合物、例えば、王水によって提供することができる。利用してよい他のエッチング液は、水酸化カリウム/過酸化水素の溶液、または水酸化カリウムと硝酸カリウムとの融解物等のカセイエッチング液を含む。エッチングに続いて、エッチングされた金属表面を濯ぎ及び乾燥工程にさらすことができる。
【0015】
さらに、尖鋭グリットを用いる特殊グリットブラスティングによって、続いて表面に埋込まれたグリットを除去することによって、適切に粗面化された金属表面を得ることができるということも見い出された。グリットは通常角状粒子を含み、金属表面をピーニングせずに金属表面をカットしよう。このような目的で使用可能なグリットは、砂、酸化アルミニウム、鋼及び炭化ケイ素を含むことができる。グリットを除去すると、適切に粗面化された三次元表面が得られる。グリットブラスティングに続いてエッチング、または他の処理の例えばウォーターブラスティングは、埋込まれたグリットを除去し、望ましく粗面化された表面を提供することができる。
【0016】
適切に粗面化された金属表面の場合のプラズマ溶射においては、材料は、粒子状形態の例えば溶融金属の小滴で施用されようが、供給材料、例えば、施用するべき金属は異なる形態の例えばワイヤ形態としてよい。ここでは便宜上、材料が一般には粒状形態で施用されるものとして説明していることは理解できるはずである。このプラズマ溶射(金属を噴霧する)においては、金属を融解し、不活性ガスの例えばアルゴンまたは窒素(所望により少量の水素を含む)中でアークを用いて高温に加熱することによって発生したプラズマ流れ中で金属を噴霧する。本明細書において“プラズマ溶射”という用語は、プラズマ溶射が好ましいが、この用語は一般には、電磁流体溶射(magnetohydrodynamic spraying)、フレーム溶射、及びアーク溶射等の熱溶射を含むよう意味しており、従って、溶射は単に“融解溶射(melt spraying)”と呼ばれることがあることは理解できるはずである。本明細書において使用できるプラズマ溶射済み表面形態を有する基板は、米国特許第5,324,407号において開示されている。
【0017】
適切に粗面化された表面が得られた後、所望によりバリヤー層の施用を含むことができる。融解溶射済みセラミック酸化物粗面は、満足なバリヤー層としても役立つことができる。粗面化が使用可能なバリヤー層を提供していない場合、金属基板を酸素含有雰囲気中で加熱することによって、金属基板表面に適切なバリヤー層を形成するのが経済性の点から好ましい。熱処理に適した粗面化された金属表面は従って、粒界がエッチングされた表面、尖鋭グリットブラスティングされ続いてグリット除去された表面、及び融解溶射済み金属を有する表面が含まれよう。最も多くの場合、この熱処理は、代表的なチタン金属基板表面の場合に使用されよう。加熱はいかなる酸素含有雰囲気中でも行うことができるが、空気を用いるのが経済性の点から好ましい。代表的なチタン金属表面の場合、バリヤー層を形成するためのこの加熱に際しての使用可能な温度は一般に、約450℃を超えるが約700℃未満の範囲であろう。酸素含有雰囲気中でのこの範囲内の温度でのこのような熱処理は、金属基板表面に表面酸化物バリヤー層を形成するだろうということは理解できよう。代表的なチタン金属の場合、酸素雰囲気加熱のための好ましい温度範囲は、約525℃〜約650℃である。典型的に、金属は、約15分〜約2時間以上このような高温加熱にさらされ、代表的なチタン金属のための好ましい時間は約30分〜約60分の範囲内である。ドーピング剤の洗浄溶液を、この熱処理と共に使用してよい。ニオブを提供するための塩化ニオブまたはイオン形態のタンタル若しくはバナジウム成分を提供するためのタンタル若しくはバナジウム塩のようなドーピング剤が洗浄溶液中に存在することができる。
【0018】
さらに、このような表面に適切な前駆体置換物質及び熱処理を使用して前駆体置換物質を酸化物に転換することで、任意のバリヤー層を有効に得ることができると予測されている。代表的な酸化チタンバリヤー層について、前駆体置換物質を用いたこの熱分解処理を使用する場合、適切な前駆体置換物質は有機組成物または無機組成物とすることができる。有機前駆体置換物質は、通常酸溶液中のTiClまたはTiClを含む。酸化スズが所望のバリヤー層成分である場合、適切な前駆体置換物質は、SnCl、SnSO、または他の無機スズ塩を含むことができる。
【0019】
このような前駆体置換物質はドーピング剤と共に使用してよく、これは例えばドーピング剤前駆体として組成物中に取り入れられて、得られたバリヤー層酸化物の伝導率を増大させると思われるものである。例えば、ニオブ塩を使用して、酸化物格子中にイオン形態のニオブドーピング剤を提供してよい。他のドーピング剤は、ルテニウム、イリジウム、白金、ロジウム及びパラジウム、並びに任意のドーピング剤の混合物を含む。このようなドーピング剤を酸化チタンバリヤー層のために使用することは周知である。酸化スズバリヤー層に適したドーピング剤は、アンチモン、インジウムまたはフッ素を含む。
【0020】
前駆体置換物質は、液体媒質中に溶解または分散した金属塩を含む前駆体溶液または分散系であるのが適切であろう。従って、このような組成物は、基板の上に液体組成物をコーティングする通常の方法によって、例えば、はけ塗り、空気または静電噴霧を含む噴霧の使用、及び浸漬によって、適切に調整された表面に施用することができる。施用された前駆体組成物中に存在してよいドーパントに加えて、このような組成物はさらに他の材料を含むことがあり得る。こうした他の材料は微粒子としてよく、このような微粒子は繊維の形状を取ることができる。繊維はコーティングの健全性(integrity)を向上させるか、または三次元表面形態を向上させるために役立つ。こうした繊維は、例えばガラス繊維などのシリカをベースとしたものとすることができ、または、他の酸化物の繊維、例えば酸化チタン及び酸化ジルコニウム繊維を含む弁金属酸化物繊維、並びに前述のものの混合物としてよい。コーティング組成物において、追加の成分は改質剤を含むことができ、これは一般的に酸化チタンに至る前駆体置換物質を含む組成物中に含まれる。このような改質剤は、熱処理サイクルの最中のバリヤー層のいかなる泥割れ(mud cracking)も最少にするために有用である。
【0021】
基板に施用される金属塩の熱酸化は、一般に酸素含有雰囲気中、好ましくは経済性の点から空気中で、約400℃を超えて最高約650℃までの範囲内の温度で行われよう。効果的な熱転換のための好ましい温度は、約500℃〜約600℃の範囲内であろう。コーティングが液体媒質として施用される場合、それぞれの施用されたコーティング後にこのような熱処理が行われ、このときこのような温度を1コーティング当り約1分〜約60分維持する。好ましくは、効率及び経済性の点から、温度は1コーティング当り約3分〜約10分維持されよう。コーティングサイクルの数は、バリヤー層の必要な量に依存して変化し、5〜40コーティングが通常であるが、より少ないコーティング及び単一のコーティングでさえも予測されている。
【0022】
通常、オルトチタン酸チタンブチルの熱分解によって形成されるような、代表的な酸化チタンコーティングのコーティング数は、約20を超えず、好ましくは経済プラス有効電極寿命の点から、10コーティング未満であろう。得られたバリヤー層の量は通常、経済性の点から約0.025インチを超えないだろう。
【0023】
やはり熱の適用を必要とする手順で、従って施用される前駆体の熱酸化とは完全には異ならない手順として、化学気相成長法によって適切なバリヤー層を形成することも予測されている。この方法の場合、熱酸化手順に関して本明細書において上記に言及した有機チタン化合物、例えばオルトチタン酸チタンブチル、チタンエトキシド、またはチタンプロポキシドのうちの1種のような、適切な揮発性出発原料を利用することができる。使用可能なバリヤー層を得るためのこの化学気相成長法において、熱酸化手順に関して本明細書において上記に言及した有機チタン化合物、例えばオルトチタン酸チタンブチル、チタンエトキシド、及びチタンプロポキシドのうちの1種のような揮発性出発原料を用いる。この化学気相成長法において、揮発性出発原料は、窒素、ヘリウム、アルゴン、及びその他同様なものを含む不活性キャリヤガスによって、適切な粗面に移動することができる。この化合物は、化合物が対応する酸化物に酸化されるのに十分な温度にまで移動する。有機チタン化合物を適用する場合、このような温度は約250℃〜約650℃の範囲内とすることができる。熱酸化処理について上文で検討したように、化学気相成長手順においてもドーピング化合物を利用するのが適切である。このようなドーピング化合物については本明細書において上文で検討した。例えば、揮発性出発原料を移送するキャリヤガスにニオブ塩を加えるか、または別個のキャリヤガス流れによって、加熱された基板にこのようなものを適用してよい。熱酸化プロセスと同様に、この化学気相成長手順は特に、エッチング、尖鋭グリットブラスティングとそれに続く表面処理、金属の融解溶射によって適度に調整された粗面を作製した後に使用することが予測されている。
【0024】
陽極ベース表面は、コーティング前の前処理を含めた様々な手順によって処理することができることは理解できよう。例えば、表面を水素化処理または窒化処理にさらしてよい。電気化学的に活性なコーティングでコーティングする前に、基板を空気中で加熱することによって、または基板の陽極酸化(米国特許第3,234,110号において説明されている)によって酸化物層を形成することが提案されている。欧州特許出願第0,090,425号は、基板に白金電気めっきし、次にルテニウム、パラジウムまたはイリジウムの酸化物を化学的に析出させることを提案している。主として保護及び伝導性中間体として役立つ下位層表面に電気化学的に活性な材料の外側層を析出させるという様々な提案もなされている。英国特許第1,344,540号は、ルテニウム−酸化チタン層または同様な活性外側層の下に酸化コバルトまたは酸化鉛の電着層を利用することを開示している。酸化スズをベースとした様々な下層が、米国特許第4,272,354号、同第3,882,002号、及び同第3,950,240号において開示されている。さらに、陽極ベース表面は、アンチパッシベーション層と同様に作製してよいと予測されている。
【0025】
表面処理に続いて、陽極ベース部材の作製において電気触媒的に活性なコーティングを弁金属基板に施用することができる。施用される電気化学的に活性なコーティングまたは本明細書において使用される際の“表面”コーティングの代表的なものは、白金または他の白金族金属から提供されるものであるか、または白金族金属酸化物、磁鉄鉱、フェライト、コバルトスピネル、または金属酸化物混合物のコーティング等の活性酸化物コーティングによって表すことができる。このようなコーティングは典型的に、電気化学工業における陽極コーティングとして使用するために開発されている。こうしたコーティングは、水をベースとしたものまたは溶媒をベースとしたもの(例えば、アルコール溶媒を使用)としてよい。このタイプの適切なコーティングは、米国特許第3,265,526号、同第3,632,489号、同第3,711,385号、及び同第4,528,084号の1つ以上に概略的に説明されている。金属酸化物混合物のコーティングはしばしば、弁金属の少なくとも1種の酸化物を、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びルテニウムまたはこれらの混合物を含む白金族金属の酸化物と共に、及び他の金属と共に含むことができる。さらなるコーティングは、二酸化マンガンコーティング、二酸化鉛コーティング、酸化コバルトコーティング、酸化第二鉄コーティング、白金酸塩(例えば、MPt[式中、Mはアルカリ金属であり、xは典型的に約0.5を目標とする。])コーティング、ニッケル−酸化ニッケルコーティング、及びニッケル+酸化ランタニドコーティングを含む。
【0026】
電気触媒表面コーティングは、実用的には酸化イリジウムとしてよく、またはコーティングは酸化イリジウムを酸化タンタルと一緒に含もう。さらに実用可能なものとしては、酸化ルテニウムを酸化チタン自体と組み合わせて、または酸化ルテニウムを酸化イリジウムと組み合わせて含むコーティングがある。こうしたコーティング組成物は従来技術において周知であり、例えば米国特許第3,632,498号、同第3,751,296号、同第3,778,307号、同第3,840,443号、同第3,933,616号、同第3,878,083号、及び同第3,926,751号において開示されている。
【0027】
さらに、電気触媒的に活性な表面コーティングは、前述のコーティング組成物に加えて酸化スズを含んでよいと予測されている。酸化スズが所望の活性な表面コーティング層である場合、適切な前駆体置換物質は、SnCl、SnSO、または他の無機スズ塩を含むことができる。酸化スズをドーピング剤(例えば、組成物中にドーピング剤前駆体として取り入れられて、伝導率を改良すると思われるもの)と共に使用してよい。SnOのための通常のドーピング剤はアンチモン及びインジウムである。例えば、アンチモン塩を使用して、酸化物格子中にイオン形態のアンチモンドーピング剤を提供してよい。酸化スズバリヤー層に適したドーピング剤は、アンチモン、インジウム、フッ素、塩素、モリブデン、タングステンまたはタンタルを含む。酸化スズ含有活性層中にドーピング剤を利用する場合、ドーピング剤は典型的に、酸化物として約1重量%〜約20重量%のドーピング成分の量で存在する。ドーピング剤の好ましい範囲は約0.1重量%〜約10重量%である。
【0028】
選択するコーティング組成物にかかわらず、好ましいコーティング溶液組成物は典型的に、IrCl(TaClはあってもなくてもよい)及び塩酸(いずれも水溶液中)で構成されるものである。アルコールをベースとした溶液も用いてよい。従って、塩化イリジウムをブタノール中に溶解し、これをイソプロパノールまたはブタノール中に溶解した塩化タンタルと混合し、全てを少量の塩酸と組み合わせる。
【0029】
本発明において利用される任意のコーティング層は、液体コーティング組成物を金属基板に施用するのに有用な任意の手段によって施用されようと予測されている。このような方法としては、ディップスピン法(dip spin technique)、ディップドレイン法(dip drain technique)、はけ塗り、ローラー塗り、および噴霧塗布法(例えば、静電噴霧)がある。さらに、噴霧塗布法及び組合せ技術の例えばディップドレイン法と噴霧塗布法とを組み合わせたものを利用できる。電気化学的に活性な表面コーティングを提供するための上述のコーティング組成物の場合、ローラー塗りの操作が最も実際的となり得る。
【0030】
コーティングを施用する方法にかかわらず、従来は、1回のみのコーティングによって実現されるものよりも大きい均一なコーティング重量が得られるように、前述のコーティング手順が繰り返されている。ここで言う“均一”とは、電気触媒的に活性な層が、単一組成を含む層(例えば、他の金属や金属酸化物を含むことなく、TaCl及びIrClから誘導されるコーティング)を含むことを意味する。通常、上文で言及したタイプの代表的な電気化学的に活性な表面コーティング(例えば、熱分解によって形成される)を得るためのコーティング回数は、約2回〜約25回であり、約50回を超えず、電気化学的に活性なコーティングの量に関しては、コーティングの白金族金属含量を基準として50グラム毎平方メートル(g/m)を超えないのが好ましい。
【0031】
前述のコーティング手順のいずれかを行った後、液体コーティング組成物から分離し、コーティング済み金属表面を単にディップドレインするか、または他のポストコーティング技術の例えば強制空気乾燥にさらしてよい。さらに、コーティングの後に、電気触媒的に活性なコーティング層を硬化してよい。電気触媒コーティングのための典型的な硬化条件は、約300℃〜最高約600℃までの硬化温度を含むことができる。硬化時間は、各コーティング層につきわずか数分〜1時間以上である(例えば、幾つかのコーティング層の後ではより長い硬化時間が適用される)。しかしながら、高温プラスこのような高温への長時間暴露というアニーリング条件を繰り返すような硬化手順は、操作の経済性という点から一般に避けられる。一般に、用いられる硬化技術は、金属基板表面のコーティングを硬化するために使用してよい任意のものとすることができる。従って、コンベヤーオーブンを含むオーブン硬化を利用してよい。さらに、赤外線硬化技術は有用となり得る。最も経済的な硬化とするためにはオーブン硬化を使用するのが好ましく、電気触媒コーティングのために使用される硬化温度は約450℃〜約550℃の範囲内である。このような温度で、各施用されたコーティング層につき最も多くの場合わずか数分(例えば、約2〜10分)の硬化時間が使用されるが、最高約60分までのより長い時間を利用してよい。
【0032】
電気触媒的に活性な表面コーティングの形成に続いて、トップコーティング層を形成することができる。このようなトップコーティング層は、表面コーティングとは対照的に、実質的に伝導性でも電気触媒でもなく、セラミック材料の例えば弁金属酸化物、または酸化スズ、またはこれらの混合物、またはペロブスカイト、ガーネット若しくはスピネル型の酸化物とすることができる。トップコートが弁金属酸化物である場合、トップコーティング層は、アルコール溶媒中の弁金属アルコキシドから形成することができ、このとき酸が存在してもしなくてもよく、または溶解した金属の塩を利用してよい。弁金属アルコキシドが本発明において使用するために予測されている場合、こうしたものは、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、及びブトキシドを含む。例えば、オルトチタン酸チタンブチル、チタンエトキシド、チタンブトキシド、チタンプロポキシド、タンタルエトキシド、またはタンタルイソプロポキシドが有用かもしれない。さらに、溶解した金属の塩を利用してよく、適切な無機置換物質は、酸溶液中の塩化物、ヨウ化物、臭化物、硫酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩及びクエン酸塩、例えば、TiCl、TiClまたはTaClを含むことができる。好ましい弁金属酸化物トップコーティング層は、イソプロピルアルコール(IPA)またはBuOH中のTaClから形成される。
【0033】
酸化チタンを利用する場合、これは一般には二酸化チタンである。しかしながら、チタン亜酸化物(すなわち、TiO[式中、xは1.5〜1.999である。])も有用となり得ると予測されている。さらに、弁金属酸化物はドーピング剤(例えば、組成物中にドーピング剤前駆体として取り入れられて、得られた弁金属酸化物層の伝導率を増大させると思われるもの)と共に使用してよいと予測されている。例えば、ニオブ塩を使用して、酸化物格子中にイオン形態のニオブドーピング剤を提供してよい。他のドーピング剤は、白金族金属、ルテニウム、イリジウム、白金、ロジウム及びパラジウム、Ta、Zr、Mo、W、Re、及びBiを含む非白金族金属並びに任意のドーピング剤の混合物を含む。弁金属酸化物のためのこのようなドーピング剤は典型的に、約0.1重量%〜約10重量%の量で存在してよい。
【0034】
弁金属酸化物トップコートの使用に加えて、他のセラミック材料をトップコートとして施用して、電気めっき溶液中の有機置換物質の消費の低減を達成する可能性があることがさらに予測されている。従って、特にスピネル、ガーネット、ガラス、及びペロブスカイトは電解液中の攻撃に対して耐性があり、電気触媒的に活性なコーティング上のトップコートとして施用される可能性があることが予測されている。スピネルは、式:AB[式中、Aは二価金属イオンの例えばマグネシウム、鉄、ニッケル、マンガン及び/または亜鉛のうちの1種以上であり;Bは三価金属イオンの例えばアルミニウム、鉄、クロム及び/またはマンガンを表す。]によって表される。チタンも4電荷を有してこの位置を占めてよく、2の鉛はこの位置を占めることができる。スピネルの例は、MgAl、FeMnO、AlFeO、及びAlZnO、並びにその他同様なものを含む。ガーネットは、一般式:A(SiO[式中、Aは二価金属の例えばカルシウム、鉄、マグネシウム及び/またはマンガンのうちの1種以上であり、Bは三価金属の例えばアルミニウム、クロム、鉄及び/またはマンガンのうちの1種以上であり、より稀なガーネットにおいて、バナジウム、チタン、ジルコニウム及び/またはケイ素である。]によって表される。ペロブスカイトは、一般式:ABO[式中、Aは一価または二価陽イオン(金属)であり、Bは四価または五価陽イオン(金属)である。]によって表される。例は、CaTiO、BaTiO、LaCoO、YAlO及びその他同様なものを含む。
【0035】
上文で言及したように、トップコーティング層は酸化スズ層としてよいと予測されている。酸化スズが所望のトップコーティング層である場合、適切な前駆体置換物質は、SnCl、SnSO、または他の無機スズ塩を含むことができる。酸化スズはドーピング剤(例えば、組成物中にドーピング剤前駆体として取り入れられて、伝導率を改良すると思われるもの)と共に使用してよい。酸化スズトップコート層に適したドーピング剤は、アンチモン、インジウム、フッ素、塩素、モリブデン、タングステン、またはタンタルを含む。酸化スズトップコーティング層中にドーピング剤を利用する場合、ドーピング剤は典型的に、酸化物として約1重量%〜約20重量%のドーピング成分の量で存在しよう。
【0036】
弁金属酸化物または酸化スズトップコートを、第1の電気化学的に活性なコーティング層に関して本明細書において上文で説明した任意の仕方で施用してよい。ペロブスカイトまたはスピネルの形態のトップコートも、熱分解によって施用してよい。ガーネットトップコートを利用する場合、これを一般に熱溶射技術によって施用し、この技術はまたペロブスカイト及びスピネルに適している。さらに、やはり熱の適用を必要とする手順で、従って施用される前駆体の熱酸化とは完全には異ならない手順として、化学気相成長法によって適切な弁金属酸化物層を形成することも予測されている。この方法の場合、熱酸化手順に関して本明細書において上記に言及した有機チタン化合物、例えばオルトチタン酸チタンブチル、チタンエトキシド、またはチタンプロポキシドのうちの1種のような、適切な揮発性出発原料を利用することができる。弁金属酸化物層を得るためのこの化学気相成長法において、揮発性出発原料は、窒素、ヘリウム、アルゴン、及びその他同様なものを含む不活性キャリヤガスによって、適切に調整され粗面化されコーティングされた表面に移動することができる。この化合物は、化合物が対応する酸化物に酸化されるのに十分な温度に加熱されている加熱された基板に移動する。有機チタン化合物を適用する場合、このような温度は約250℃〜約650℃の範囲内とすることができる。熱酸化処理について上文で検討したように、化学気相成長手順においてもドーピング化合物を利用するのが適切である。このようなドーピング化合物については本明細書において上文で検討した。例えば、揮発性出発原料を移送するキャリヤガスに揮発性ニオブ化合物を加えるか、または別個のキャリヤガス流れによって、加熱された基板にこのようなものを適用してよい。
【0037】
単数または複数の弁金属酸化物前駆体等のトップコーティング層を施用した後、トップコーティング層に熱処理を行ってよい。弁金属の塩を利用する場合、この熱処理は、第1の電気化学的に活性なコーティング層に施用された弁金属塩の熱酸化として行ってよい。熱処理は一般に、酸素含有雰囲気中、好ましくは経済性の点から空気中で、約250℃を超えて最高約700℃までの範囲内の温度で加熱することによって行われよう。効果的な熱転換のための好ましい加熱温度は、約300℃〜約600℃の範囲内であろう。コーティングが液体媒質として施用される場合、それぞれの施用されたコーティング後にこのような熱処理が行われ、このときこのような温度を1コーティング当り約1分〜約60分維持する。しかしながら、連続した回数のコーティングサイクルの後に熱処理を行うことは、本発明の概念の範囲内である。好ましくは、効率及び経済性の点から、温度は1コーティング当り約3分〜約10分維持されよう。コーティングサイクルの数は変化し得るが、最も典型的に弁金属酸化物層の必要な量は約6〜約20コートであろう。
【0038】
通常、オルトチタン酸チタンブチルの熱分解によって形成されるような、代表的な弁金属酸化物コーティングのコーティング数は約30を超えず、経済性の点から約20を超えないのが有利である。しかしながら、弁金属酸化物コーティングの所望の負荷を提供するように、電気化学的に活性なコーティング層に複数の層、すなわち約10〜約20層を施用してよい。
【0039】
トップコーティングを施用する仕方または施用後のそれに続くトップコーティングの処理にかかわらず、トップコーティングは多孔質コーティングであろうということは理解できよう。この点に関して、“多孔質”とは、電解液の少なくとも一部分が制御された速度で下にある電気触媒コーティングに近づくことを可能にするマイクロクラック、チャネルまたは穴(細孔)(これらの組合せ、例えばマイクロクラック及び細孔を含む)を含むコーティングを意味する。本発明を限定することを意図するものではないが、多孔質トップコートの有効な特徴は、電解液中の特定の種が電気触媒表面に近づくことを阻害し、従ってその酸化を防ぐことであると推測される。これは、より大きな分子(例えば、有機化合物)、錯体またはクラスターは容易にはコーティング中の細孔を貫通して実際の電気触媒表面にまで達しないような立体障害の形態を取る可能性がある。他に、トップコートは、種の酸化の速度が減少し、すなわちこの反応のための限界電流を大きく超えるように、電気触媒コーティングの露出した表面積を制限する可能性がある。この多孔性はコーティング自体に固有としてよく、または様々な置換物質を加えることによって向上することができる。従って、いわゆる“細孔形成体”を弁金属酸化物トップコーティングに加えることが予測されている。こうした細孔形成体は、トップコーティング溶液中に不溶性で硬化温度に対して熱的に安定でありそれに続きコーティングから浸出可能な無機化合物とすることができる。このような細孔形成体は特に、炭酸塩(例えば、NaCO)、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、ケイ酸塩、及びその他同様なものの微細粒子を含む。さらに、有機化合物をトップコーティング溶液に加える可能性があり、これは、その後の熱酸化の最中に分解し、多孔質コーティングを残す。このような有機化合物は、ポリマー、例えばポリエチレンまたはポリプロピレンビーズ、ポリエチレングリコール、ポリカーボネート、ポリエステル、及びその他同様なものを含む可能性がある。このような細孔形成体を利用する場合、これは一般に総コーティング組成物の約0.1〜約20重量%の量で存在しよう。
【0040】
次に図1を参照すると、トップコートのない場合及び様々な数のトップコートの層を有する場合の電気触媒コーティングを有するめっき陽極のための標準的なめっき試験の最中の有機光沢剤の消費の量のグラフ図が示される。了解されるように、トップコート施用を有するめっき陽極は、かなり低減した量の添加剤の量を消費し、多くのめっき系において標準的な陽極である可溶性陽極と同等になった。
【0041】
前述の検討は、電気めっき溶液中の有機成分の消費の低減のためのセラミック材料トップコートの使用に関するものだったが、トップコートは、電気めっき溶液の他の低レベル成分の例えば塩化物、ヨウ化物、臭化物、第一鉄イオン及び第一スズイオンの酸化を減少する際に有用となり得ることも見い出された。従って、本発明のトップコートは、陰極防食系、クロムめっき系、電気めっき、電解採取、金属回収、水処理、酸素発生(例えば、水酸素化)、いわゆる“機能性水(functional water)”、すなわち殺菌のための酸及びアルカリ流れ、海水電気分解、水電気分解(例えば、H及びOの生成)、塩分解(例えば、NaSOからのHSO及びNaOHの回収)または低レベルの塩化物若しくは他の酸化可能な種を含み、酸化的生成物(例えば、塩素種)の発生を制限するのが望ましい任意の電気化学的系において有用性を見い出すことができると予測されている。このようなトップコーティング済み陽極は、単独または主陽極として役立つことができ、並びに補助陽極として使用するために役立つことができる。
【0042】
以下の実施例は、特に断らない限り比較例として、一般に、電気化学的電池における弁金属酸化物トップコーティングによる、酸化からの電解液成分の保護を証明する。
【実施例】
【0043】
実施例1
第1等級チタンの膨張及び平坦化メッシュを試験のために提供した。18〜20%のHCl中、約95℃でチタンメッシュをエッチングして、表面を清浄化し、粗面化した。
【0044】
チタンメッシュエッチング済み表面に、少量のHClを有するn−ブタノール中のIrCl及びTaClを使用して、モル比(金属基準)75:25のIr酸化物/酸化タンタルの市販の電気化学的に活性な酸化物コーティングを提供した。ハンドローラーを使用して試料プレートにコーティングした。
【0045】
コーティング済みメッシュを次に、酸化タンタルコーティングでトップコーティングした。コーティング溶液組成物は、イソプロパノール中の50gplのTa(TaClとして)だった。コーティングを層として施用し、各層を室温で乾燥し、次に515℃で7分間ベークした。試料を、ハンドローラーで合計8、10、12及び14コーティング層に作製した。トップコート無しの試料を比較試料として使用し、これは銅材料の試料(“可溶性陽極”)であり、目下多くのめっき用途において使用されている陽極に相当する。
【0046】
調整済み陽極の部片を切断してサイズ6.4×10cmにし、次に市販の有機光沢剤を加えた標準化銅めっき浴中の陽極として試験した。65.5グラム/1リットルの銅(硫酸銅として)、230グラム/1リットルの硫酸、及び60ppmの塩化物(NaClとして)を使用して、銅めっき溶液を作製した。10ml/lの濃度の必要なキャリアと一緒に標準的な市販の光沢剤を加えて、初期濃度5.0ml/lにした。
【0047】
溶液を、黄銅陰極(6.4×7.6cm、電気接続のために表面の上に延在する小さなタブを有する)と一緒に1リットル容器中に入れた。陽極を深さ7.6cmに浸漬した。直流電流を印加して、電流密度16mA/cm(ミリアンペア毎平方センチメートル)を実現した。試験を1時間実行した。残存している光沢剤濃度(従って、消費の量)を、ECIテクノロジー・クアリ−ラブQL−10分析計(ECI Technology Quali-lab QL-10 analyzer)を使用し、修正線形近似手法(Modified Linear Approximation Technique)(MLAT)を使用して決定した。
【0048】
結果を表Iに列挙し、図1に示す。データから了解されるように、トップコートを加えることで、光沢剤消費の量を溶性銅陽極と同等のレベルにまでかなり低減した。
【0049】
【表1】

実施例2
非分離槽を利用して、トップコートを有する場合と有しない場合のIr酸化物/酸化タンタルコーティング済みチタン陽極を使用して、希NaCl溶液(2及び28gpl)から発生した次亜塩素酸塩を測定した。陰極はステンレス鋼(25−6Mo)だった。印加陽極の電流密度は1.25kA/m(キロアンペア毎平方メートル)であり、電解液温度は約25℃だった。1つの陽極試料はIrO/Ta電気触媒コーティングのみを有したが、他のものは追加の20層の酸化タンタルトップコートを有した。Ta酸化物層を、n−ブタノール中のTaCl(50gplのTa)の溶液から施用した。各コーティングを100〜110℃で3分間乾燥し、次に525℃で7分間硬化した。合計20層を施用した。タンタルトップコートを有する場合と有しない場合の陽極の次亜塩素酸塩発生のための電流効率を表IIに示す。
【0050】
【表2】

トップコートの存在は、次亜塩素酸塩発生のための電流効率を1/2を超えて削減することを示し、陽極でかなりより少ない塩化物が酸化されたことを示す。
実施例3
10及び12のTaトップコートを有する実施例1において作製したメッシュの試料をサイクリックボルタンメトリー(標準的な電気化学的手法)によって測定して、トップコートが塩化物酸化に及ぼす阻害効果を証明した。比較例として、実施例1と同様に試料を作製し、ただしTa酸化物のトップコートを施用しなかった。
【0051】
サイクリックボルタンメトリー測定を実行するために、150gplのHSOの溶液を作製した。この溶液の一部分に塩化ナトリウム(NaCl)を加えて濃度25ミリモルにした。サイクリックボルタンモグラムをまずHSO溶液のみの中で、次にNaClを含む溶液中で実行した。ボルタンモグラムを、室温、走査速度200mV/秒、0.5V〜1.5V対SCEで測定した。次に、HSO溶液のボルタンモグラムをNaCl溶液のものからデジタル的に差し引いてバックグラウンド効果を除去し、塩化物から塩素への酸化の場合の正味のボルタンモグラムを生成した。実施例3及び比較例3の正味のボルタンモグラムを図2に示す。本発明の場合、塩化物イオンの酸化は実質的に低減される(非常に低いピーク高さ)。実際のピーク高さの測定は、酸化の量は係数で21低減されたことを示す。
実施例4
メッシュの試料を実施例1と同様にTa/Ir酸化物電気触媒層でコーティングし、この上に酸化タンタルのみの層を8回コーティングした。
【0052】
比較例4を実施例1と同様に作製し、ただし酸化タンタルのみの層を電気触媒的に活性なコーティング上に施用しなかった。
実施例4及び比較例4の両方に関して、面積約7.8cmである部分をサイクリックボルタンメトリーによって調べた。電解液は、まず150gplのHSOであり、次に0.025Mの硫酸第一鉄(FeSO)を含む150gplのHSOだった。全ての測定を、室温で飽和カロメル電極(SCE)を参照電極として使用して行った。電圧掃引を、掃引速度100mV/秒で0.0V対SCEから1.0V対SCEまで実行し、次に0.0V対SCEに戻った。HSO溶液の場合の曲線を、FeSOを用いて行った曲線からデジタル的に差し引いた(バックグラウンド効果を除去するため)。結果を図3に提供し、これは、比較例の場合の第一鉄から第二鉄イオンへの予想酸化ピーク(それに続き生成した第二鉄の還元)を示す。トップコート層を有する実施例4の場合の試料は、第一鉄の酸化ピークが実質的に無いことを示し、トップコートが第一鉄イオンの酸化を阻害することを示す。
【0053】
本発明を好適な具体例に関連して説明してきた。修正及び変更は、本明細書を読み、理解することで他の人々にも思い浮かぼう。全てのこのような修正及び変更は、添付の請求の範囲またはこの同等物の範囲内に入る限り含まれるというのが本願出願人らの意図するところである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】めっき浴において消費される有機添加剤の量を示すグラフである。
【図2】本発明のコーティングが電解槽中の塩化物の酸化に及ぼす影響を示すサイクリックボルタンモグラムである。
【図3】本発明のコーティングが電解槽中の第一鉄イオンの酸化に及ぼす影響を示すサイクリックボルタンモグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの陽極を中に有する電解槽中の電解質溶液から金属を電気めっきする方法であって、前記陽極は陽極ベース表面に電気触媒表面コーティングを有し、前記電解質溶液は有機置換物質を含み、前記方法は:
(a)前記表面コーティングの表面全体の上に多孔質トップコートを形成し、該トップコートは、弁金属酸化物、酸化スズ若しくはこれらの組合せ、ペロブスカイト、ガーネット若しくはスピネル型の酸化物、またはガラスのうちの1つ以上である工程と;
(b)前記有機置換物質の消費が低減し、同時に前記槽中の陽極電位を維持するように、前記陽極を前記槽中で作動させる工程と;
を含む方法。
【請求項2】
前記陽極ベースは、弁金属陽極ベースであり、該弁金属は、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、タングステン、アルミニウム、それらの合金及び金属間混合物からなる群から選択され、前記ベースは、メッシュ、シート、ブレード、管またはワイヤ形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記弁金属陽極ベースの表面は調整された表面である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記表面は、粒間エッチング、グリットブラスティング、または熱溶射のうちの1つ以上によって調整される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記調整された表面の前処理層としてセラミック酸化物バリヤー層が確立される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記表面コーティングは、白金族金属または金属酸化物、磁鉄鉱、フェライト、酸化コバルトスピネル、酸化スズ、及び酸化アンチモンから本質的になり、及び/または弁金属の少なくとも1種の酸化物及び白金族金属の少なくとも1種の酸化物の混合結晶材料を含み、及び/または二酸化マンガン、二酸化鉛、白金酸塩置換物質、ニッケル−酸化ニッケルまたはニッケル+酸化ランタンの混合物のうちの1種以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記トップコートは、弁金属酸化物コーティング層であり、該弁金属酸化物は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、モリブデン、アルミニウム、ハフニウム、若しくはタングステンまたはこれらの混合物からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記トップコートは、Sb、F、Cl、Mo、W、Ta、Ru、Ir、Pt、Rh、Pd、またはIn及びこれらの酸化物のうちの1種以上をドープした酸化スズコーティング層であり、ドーピング剤は、約0.1%〜約20%の範囲内の量である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記陽極は、酸素発生陽極である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記電解質溶液中の前記金属は、銅、ニッケル、亜鉛またはスズである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記トップコートは、スピネル、ガーネット、ガラス、及びペロブスカイトのうちの1種以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記トップコートは、実質的に非伝導性のコーティングである、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記陽極ベースの前記金属はチタンであり、前記電気触媒表面コーティングは、酸化イリジウムであり、酸化タンタルはあってもなくてもよく、前記トップコートは、IPAまたはBuOH中のTaClから形成された酸化タンタルである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記陽極ベースの前記金属はチタンであり、前記電気触媒表面コーティングは、酸化イリジウムであり、酸化タンタルはあってもなくてもよく、前記トップコートは、BuOH中のチタンブトキシドから形成された酸化チタンである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記電解液中に細孔形成体を提供することをさらに含み、該細孔形成体は、無機化合物または有機化合物であり、前記細孔形成体は、約0.1〜約20重量%の量で前記電解液に加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記無機化合物は、炭酸塩、ケイ酸塩、シリカまたはアルミナのうちの1種以上である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記有機化合物は、ポリエチレン、ポリプロピレンビーズ、ポリエチレングリコール、ポリカーボネートまたはポリエステルのうちの1種以上である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
2種以上の酸化可能な種を含み電解槽中に含まれる電解液の電気分解の方法において、前記槽は弁金属ベースを有する少なくとも1つの陽極を中に有し、前記方法は前記酸化可能な種のうちの少なくとも1つの酸化を最小にし、前記方法は:
電解槽を提供する工程と;
2種以上の酸化可能な種を含む電解液を前記槽中に確立する工程と;
前記電解液と接触した状態になっている前記槽中に陽極を提供し、該陽極は弁金属ベース及びその表面に電気触媒表面コーティングを有し、前記電気触媒コーティングの少なくとも実質的に表面全体を被覆する多孔質セラミック材料のトップコートが提供される工程と;
前記陽極表面に電流を印加する工程と;
前記電解液の電気分解を行う工程と;
を含む、方法。
【請求項19】
前記槽は、分離槽または非分離槽である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記酸化可能な種は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、第一鉄イオン及び第一スズイオンのうちの1種以上である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記陽極の前記弁金属ベースは、チタン、タンタル、ジルコニウム、アルミニウム、タングステン、それらの合金及びそれらの金属間混合物のうちの1種以上であり、前記弁金属ベースは、メッシュ、シート、ブレード、管、またはワイヤ形態である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記弁金属陽極ベースの表面は調整された表面である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記表面は、粒間エッチング、グリットブラスティング、または熱溶射のうちの1つ以上によって調整される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記粗面上の前処理層としてセラミック酸化物バリヤー層が確立される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
電気触媒表面コーティングは、白金族金属または金属酸化物、磁鉄鉱、フェライト、酸化コバルトスピネル、酸化スズ、及び酸化アンチモンから本質的になり、及び/または弁金属の少なくとも1種の酸化物及び白金族金属の少なくとも1種の酸化物の混合結晶材料を含み、及び/または二酸化マンガン、二酸化鉛、白金酸塩置換物質、ニッケル−酸化ニッケルまたはニッケル+酸化ランタンの混合物のうちの1種以上を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記セラミック材料は、弁金属酸化物、酸化スズ、またはペロブスカイト、ガーネット若しくはスピネル型の酸化物のうちの1種以上である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記セラミック材料は、弁金属酸化物であり、前記弁金属酸化物は、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、アルミニウム、タングステン、それらの合金及び金属間混合物からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記弁金属酸化物は、酸化タンタル若しくは酸化チタンまたはこれらの混合物である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記弁金属酸化物は、約6〜約20層の量で施用される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記セラミック材料は、ペロブスカイト、ガーネットまたはスピネル型の酸化物のうちの1種以上である、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記多孔質セラミック材料は、熱溶射によって施用されるガラスである、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記セラミック材料は、酸化スズである、請求項24に記載の方法。
【請求項33】
前記電解液中に細孔形成体を提供することをさらに含み、該細孔形成体は、無機化合物または有機化合物であり、前記細孔形成体は、約0.1〜約20重量%の量で前記電解液に加えられる、請求項16に記載の方法。
【請求項34】
前記無機化合物は、炭酸塩、ケイ酸塩、シリカまたはアルミナのうちの1種以上である、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記有機化合物は、ポリエチレン、ポリプロピレンビーズ、ポリエチレングリコール、ポリカーボネートまたはポリエステルのうちの1種以上である、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記槽は、非分離槽であり、前記方法は、電解採取、陰極防食、銅箔析出、クロムめっき、電気めっき、金属回収、水処理、酸素発生、及び海水電気分解のうちの1つ以上である、請求項19に記載の方法。
【請求項37】
前記槽は、分離槽であり、前記方法は、クロル−アルカリ、塩分解、次亜塩素酸塩生成、または水電気分解のうちの1つ以上である、請求項19に記載の方法。
【請求項38】
前記方法は、前記セラミック材料の前記トップコートを加熱する工程をさらに含み、該加熱は、温度約250℃〜約700℃でベーキングすることによる、請求項19に記載の方法。
【請求項39】
電気触媒プロセスにおいて使用するための弁金属基板の金属物品であって、該弁金属基板はその表面に電気触媒表面コーティングを有し、改良は該表面コーティングの少なくとも実質的に表面全体を被覆するセラミック材料トップコートを含み、前記セラミック材料トップコートは、前記電気触媒プロセスにおいて利用される電解液中に含まれる有機置換物質または酸化可能な種の酸化を最小にする、金属物品。
【請求項40】
前記電気触媒表面コーティングは、白金族金属または金属酸化物、磁鉄鉱、フェライト、酸化コバルトスピネル、酸化スズ、及び酸化アンチモンから本質的になり、及び/または弁金属の少なくとも1種の酸化物及び白金族金属の少なくとも1種の酸化物の混合結晶材料を含み、及び/または二酸化マンガン、二酸化鉛、白金酸塩置換物質、ニッケル−酸化ニッケルまたはニッケル+酸化ランタンの混合物のうちの1種以上を含む、請求項39に記載の金属物品。
【請求項41】
前記セラミック材料トップコートは、弁金属酸化物、酸化スズ若しくはこれらの組合せ;ペロブスカイト、スピネル若しくはガーネット型の酸化物;またはガラスのうちの1種以上である、請求項40に記載の金属物品。
【請求項42】
前記セラミック材料トップコートは、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、アルミニウム、タングステン、それらの合金及び金属間混合物からなる群から選択される弁金属酸化物である、請求項41に記載の金属物品。
【請求項43】
前記弁金属酸化物は、酸化タンタル若しくは酸化チタンまたはこれらの混合物である、請求項42に記載の金属物品。
【請求項44】
前記セラミック材料は、ペロブスカイト、スピネル若しくはガーネット型の酸化物またはガラスである、請求項41に記載の金属物品。
【請求項45】
前記弁金属基板の表面は調整された表面であり、該表面は、粒間エッチング、グリットブラスティング、または熱溶射のうちの1つ以上によって調整される、請求項39に記載の金属物品。
【請求項46】
前記物品は、酸素発生陽極である、請求項39に記載の金属物品。
【請求項47】
前記物品は、酸素発生陽極以外の電極である、請求項39に記載の金属物品。
【請求項48】
前記電気触媒コーティングは、白金族金属または白金族金属酸化物の群のうちの1種以上を含む、請求項37に記載の金属物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−503187(P2006−503187A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546853(P2004−546853)
【出願日】平成15年10月14日(2003.10.14)
【国際出願番号】PCT/US2003/032472
【国際公開番号】WO2004/038071
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(591041783)エルテック・システムズ・コーポレーション (6)
【氏名又は名称原語表記】ELTECH Systems Corporation