説明

電気抵抗溶接機

【課題】ガイドピン同士の当接が発生せず、しかも弾性力の調整を不要にする。
【解決手段】上部電極1に内挿され、上部電極1と一体となって移動可能であるとともに、上部電極1に対して移動可能な部品保持ロッド4と、上部電極1が部品保持ロッド4と一体となって移動し、部品保持ロッド4に保持されたナットNが板状ワークWの手前まで接近したとき、上部電極1の移動を継続させつつ部品保持ロッド4の移動を停止させる突出部8及びストッパー部11とを備え、突出部8及びストッパー部11により部品保持ロッド4が移動停止した後、ナットNは、移動継続中の上部電極1により部品保持ロッド4から離脱し、上部電極1によって板状ワークWに押付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状ワークにナットなど有孔部品(孔明き部品)を溶接する電気抵抗溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気抵抗溶接機として、鋼板部品(孔明きワーク)にプロジェクションナット(孔明き部品)を溶接する溶接機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の電気抵抗溶接機は、鋼板部品側及びナット側にそれぞれ対応して上部電極(可動電極)及び下部電極(固定電極)を配置し、上部電極側に、弾性力によって常時下端部が上部電極の下面から突出した状態にあるテーパ付きガイドピンを備え、下部電極側に、ナットを下方から支持し弾性力によって常時上端部が下部電極の上面から突出した状態にある保持ガイドピンを備える。そして、テーパ付きガイドピンは、下端にテーパ部を有しており、このテーパ部は、溶接の際、上部電極と一体となって下降し、鋼板部品の下孔を貫通して保持ガイドピンを押し下げ、ナットを下部電極に接近させる作用をするとともに、ナットのテーパ孔に合致し、ナットを位置決めする作用をする。
【特許文献1】特許第3624279号公報(図1、2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献記載の電気抵抗溶接機によると、ナットを鋼板部品に溶接するたびにテーパ付きガイドピンと保持ガイドピンとが当接する構成をとっているため、テーパ付きガイドピン及び保持ガイドピンに耐摩耗性、絶縁保持性、耐久性が要求される。また、テーパ付きガイドピンにより保持ガイドピンが押し下げられるよう、テーパ付きガイドピンを下方へ突出させようとする弾性力を、進入ガイドピンを上方へ突出させようとする弾性力よりも強く設定する必要があり、これらの弾性力の調整が必要となる。
【0005】
本発明は、上記従来技術のようなガイドピン同士の当接が発生せず、しかも弾性力の調整が不要な電気抵抗溶接機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電気抵抗溶接機は、板状ワークに有孔部品を溶接する電気抵抗溶接機であって、前記有孔部品側の電極が可動電極からなる電気抵抗溶接機において、前記可動電極に内挿され、該可動電極と一体となって移動可能であるとともに、前記可動電極に対して移動可能な部品保持ロッドと、前記可動電極が前記部品保持ロッドと一体となって移動し、前記部品保持ロッドに保持された前記有孔部品が前記板状ワークの手前まで接近したとき、前記可動電極の移動を継続させつつ前記部品保持ロッドの移動を停止させるストッパー手段とを備え、前記ストッパー手段により前記部品保持ロッドが移動停止した後、前記有孔部品は、移動継続中の前記可動電極により前記部品保持ロッドから離脱し、前記可動電極によって前記板状ワークに押付けられることを特徴とする。
【0007】
本発明によると、有孔部品が板状ワークの手前まで接近したとき、ストッパー手段によって部品保持ロッドの移動を停止させ、移動継続中の可動電極によって有孔部品を部品保持ロッドから離脱させ板状ワークに押付けるよう構成したため、従来技術のようなガイドピン同士の当接が発生せず、しかも弾性力の調整が不要になる。
【0008】
ここで、前記板状ワーク側の電極は、前記部品保持ロッドから離脱した前記有孔部品の孔に進入し、該有孔部品を前記板状ワークの溶接位置へ誘導するガイドピンを備えるよう構成すると、有孔部品を溶接位置まで確実に誘導することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る電気抵抗溶接機の要部を概念的に示した構成図、図2は、電気抵抗溶接方法を説明するための工程図、図3は、図2図示の工程図における主要工程の拡大図をそれぞれ示す。
【0011】
図1に示す電気抵抗溶接機は、板状ワークWの上面に有孔部品であるナットNを抵抗溶接する溶接機であり、上部電極1と下部電極2を備える。
【0012】
上部電極1は、溶接機の本体フレーム(図示せず)側に配設された電極駆動装置3によって昇降駆動される可動電極である。
【0013】
電極駆動装置3は、例えばエアシリンダにより構成される。電極駆動装置3がエアシリンダである場合、上部電極1は、エアシリンダ3のピストンロッド側に連結された電極ホーン(図示せず)に固定されている。
【0014】
上部電極1には、部品保持ロッド4が内挿される。部品保持ロッド4の先端部5は部品保持部を構成し、部品保持部5にナットNが保持される。部品保持部5は、例えば圧縮変形可能な弾性部により構成され、上部電極1に対して部品保持ロッド4が下降し、弾性部5が上部電極1の下面1aから突出してナットNの孔Naに挿入されたとき弾性部5の弾性復帰力によってナットNを保持するよう構成される。なお、部品保持部5は弾性部に限定されるものではなく、磁気吸着力によりナットNを保持する磁石、あるいは、真空吸着力によりナットNを保持する真空吸着部によって部品保持部5を構成してもよい。
【0015】
部品保持ロッド4は、上部電極1に対しロッド駆動装置6によって昇降駆動される。ロッド駆動装置6は、例えば両ロッド型エアシリンダにより構成される。ロッド駆動装置6が両ロッド型エアシリンダである場合、部品保持ロッド4は、エアシリンダ6の下側ピストンロッド7に固定連結される。
【0016】
部品保持ロッド4には、部品保持ロッド4の移動方向と直交する方向へ突出した突出部8を有する延長ロッド9が延設される。延長ロッド9は、ロッド駆動装置6が両ロッド型エアシリンダである場合、エアシリンダ6の上側ピストンロッド10に固定連結される。延長ロッド9は、エアシリンダ6を介して部品保持ロッド4と一体となって昇降動作をする。
【0017】
溶接機の本体フレーム側には、ストッパー部11が配設される。ストッパー部11は、部品保持ロッド4の下降時、部品保持ロッド4と一体となって下降中の延長ロッド9の突出部8と当接可能な位置に設置され、突出部8が当接すると、延長ロッド9の下降を停止させ、ひいては部品保持ロッド4の下降を停止させる。
【0018】
下部電極2は、溶接機の本体フレーム側に配設され、固定電極であり、上面2aに板状ワークWがセットされる。
【0019】
下部電極2はガイドピン12を有する。ガイドピン12は下部電極2の上面2aから突出可能とされ、板状ワークWの孔Waに挿入され、板状ワークWの位置決めを行う。また、ガイドピン12は、部品保持ロッド4の部品保持部5からナットNを受け止める際、ナットNの孔Naに進入してナットNを板状ワークWの溶接位置まで誘導する。ガイドピン12は、進退可能、固定のいずれでも構わない。
【0020】
次に、図2及び図3に基づいて電気抵抗溶接方法を説明する。
【0021】
図2において、(a)は、上部電極1及び部品保持ロッド4がともに上端位置に保持され、部品保持ロッド4の部品保持部5が上部電極1内に収容されている状態を表している。また、(a)は、上部電極1の下面1aの直下にナットNが供給装置(図示せず)により1個セットされていると共に、下部電極2の上面2aに板状ワークWがセットされている状態を表している。
【0022】
(a)の状態から、両ロッド型エアシリンダ6の上側通路6aにエアーを供給すると、エアシリンダ6のピストン13が下方へ押し下げられ、下側ピストンロッド7を介して部品保持ロッド4が下降し、部品保持ロッド4の部品保持部5が上部電極1の下面1aから下方へ突出し、ナットNの孔Naに進入してナットNを圧縮変形による弾性復帰力によって保持するようになる。(b)は、部品保持ロッド4が下端位置まで下降した状態を表している。
【0023】
次に、電極駆動装置3により上部電極1を下降させる。(c)は、上部電極1の下降途中を表している。また、(d)及び図3図示(a)は、(c)の状態から上部電極1が更に下降し、延長ロッド9の突出部8がストッパー部11に当った状態を表している。この状態は、部品保持ロッド4の部品保持部5が下部電極2のガイドピン12と接触しない位置であって、ナットNが板状ワークWの手前まで接近したときに対応している。この状態のとき、すでに、エアシリンダ6の上側通路6aへのエアーの供給は解除しており、ピストン13の上方への移動は可能とされる。
【0024】
延長ロッド9の突出部8がストッパー部11に当ると、それまで上部電極1と一体となって下降していた部品保持ロッド4は下降できなくなり、上部電極1だけが下降を継続するようになる。この上部電極1の下降により、部品保持ロッド4の部品保持部5に保持されているナットNは上部電極1の下面1aによって押し下げられてゆき、部品保持部5から離脱するようになる。(e)及び図3図示(b)は、部品保持部5からナットNが離脱した状態を表している。
【0025】
部品保持部5から離脱したナットNは、ナットNの落下速度が上部電極1の下降速度よりも速い場合、上部電極1の下降途中で板状ワークWの上面Wbに落下する。(f)及び図3図示(c)は、ナットNが板状ワークWの上面Wbに落下した状態を表している。このナットNの落下時、ナットNの孔Naに下部電極2のガイドピン12が進入し、ナットNは、ガイドピン12によって板状ワークWの溶接位置まで誘導される。なお、ナットNの落下速度が上部電極1の下降速度よりも遅い場合には、上部電極1によってナットNが押し下げられることになる。
【0026】
ナットNが板状ワークWの上面Wbに達した後、上部電極1はナットNの上面Nbまで下降し、ナットNを加圧する。(g)及び図3図示(d)は、上部電極1がナットNを加圧している状態を表している。この加圧中に上部電極1と下部電極2との間に電圧が印加され、ナットNは板状ワークWに抵抗溶接される。なお、この溶接終了後、エアシリンダ3により上部電極1を上昇させる。また、この上部電極1の上昇途中でエアシリンダ6の下側通路6bにエアーを供給し、ピストン13をエアシリンダ6の上方に保持する。したがって、上部電極1及び部品保持ロッド4は、図2図示(a)の状態に復帰する。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係る電気抵抗溶接機は、板状ワークWにナットN(有孔部品)を溶接する電気抵抗溶接機であって、上部電極1(有孔部品側の電極)が可動電極からなる電気抵抗溶接機において、上部電極1(可動電極)に内挿され、上部電極1(可動電極)と一体となって移動可能であるとともに、上部電極1(可動電極)に対して移動可能な部品保持ロッド4と、上部電極1(可動電極)が部品保持ロッド4と一体となって移動し、部品保持ロッド4に保持されたナットN(有孔部品)が板状ワークWの手前まで接近したとき、上部電極1(可動電極)の移動を継続させつつ部品保持ロッド4の移動を停止させる突出部8及びストッパー部11(ストッパー手段)とを備え、突出部8及びストッパー部11(ストッパー手段)により部品保持ロッド4が移動停止した後、ナットN(有孔部品)は、移動継続中の上部電極1(可動電極)により部品保持ロッド4から離脱し、上部電極1(可動電極)によって板状ワークWに押付けられる。
【0028】
本実施形態によると、ナットN(有孔部品)が板状ワークWの手前まで接近したとき、突出部8及びストッパー部11(ストッパー手段)によって部品保持ロッド4の移動を停止させ、移動継続中の上部電極1(可動電極)によってナットN(有孔部品)を部品保持ロッド4から離脱させ板状ワークWに押付けるよう構成したため、従来技術のようなガイドピン同士の当接が発生せず、しかも弾性力の調整が不要になる。
【0029】
また、下部電極2(板状ワークW側の電極)は、部品保持ロッド4から離脱したナットN(有孔部品)の孔Naに進入し、ナットN(有孔部品)を板状ワークWの溶接位置へ誘導するガイドピン12を備えるため、ナットN(有孔部品)を溶接位置まで確実に誘導することが可能になる。
【0030】
上述した実施形態では、上部電極1側にナットNを保持させ、下部電極2側に板状ワークWをセットする構成としたが、上記構成とは上下逆の構成をとるようにしてもよい。この場合、部品保持ロッド4から離脱したナットNは、下部電極(可動電極)の上面によって支持されながら板状ワークWまで移動することになる。また、下部電極2側のガイドピン12を省略すると共に板状ワークWから孔Waを削除するようにしても本発明は適用可能である。また、上記実施形態では下部電極2を固定電極としたが、板状ワークWを上部電極1と下部電極2との間に固定し、板状ワークWに向かって上昇可能な可動電極で構成しても、上記実施形態と同様な作用効果を生じ得る。また、上記実施形態では有孔部品としてナットNを使用したが、ナットNのように孔Naを有する部品であれば、本発明は適用可能である。
【0031】
なお、部品保持ロッド4の部品保持部5を真空吸着部で構成した場合、真空吸着の開始タイミング及び終了タイミングを制御する必要があるが、これらの制御は比較的容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気抵抗溶接機の要部を概念的に示した構成図である。
【図2】電気抵抗溶接方法を説明するための工程図である。
【図3】図2図示の工程図における主要工程の拡大図である。
【符号の説明】
【0033】
W 板状ワーク
N ナット(有孔部品)
Na 孔
1 上部電極(有孔部品側の電極、可動電極)
2 下部電極(板状ワーク側の電極)
4 部品保持ロッド
8 突出部(ストッパー手段)
11 ストッパー部(ストッパー手段)
12 ガイドピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状ワークに有孔部品を溶接する電気抵抗溶接機であって、前記有孔部品側の電極が可動電極からなる電気抵抗溶接機において、
前記可動電極に内挿され、該可動電極と一体となって移動可能であるとともに、前記可動電極に対して移動可能な部品保持ロッドと、
前記可動電極が前記部品保持ロッドと一体となって移動し、前記部品保持ロッドに保持された前記有孔部品が前記板状ワークの手前まで接近したとき、前記可動電極の移動を継続させつつ前記部品保持ロッドの移動を停止させるストッパー手段と
を備え、
前記ストッパー手段により前記部品保持ロッドが移動停止した後、前記有孔部品は、移動継続中の前記可動電極により前記部品保持ロッドから離脱し、前記可動電極によって前記板状ワークに押付けられる
ことを特徴とする電気抵抗溶接機。
【請求項2】
前記板状ワーク側の電極は、前記部品保持ロッドから離脱した前記有孔部品の孔に進入し、該有孔部品を前記板状ワークの溶接位置へ誘導するガイドピンを備えることを特徴とする請求項1に記載の電気抵抗溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−172655(P2009−172655A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15169(P2008−15169)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(593038000)矢島技研株式会社 (13)