説明

電気掃除機用集塵袋

【課題】捕集性能に優れるだけでなく、使用後の廃棄も容易である電機掃除機用集塵袋を提供する。
【解決手段】本発明は、生分解性を有する繊維から構成されるメルトブロー不織布と生分解性を有する繊維から構成されるスパンボンド不織布が積層一体化されてなることを特徴とする電気掃除機用集塵袋を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布からなる電気掃除機用集塵袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気掃除機のゴミを集塵するための袋である電気掃除機用集塵袋には、パルプを主材とする紙製のものが多く使用されている。しかしながら、紙製の集塵袋は、吸引空気の圧力損失を低くして電気掃除機に対する負荷を小さくしようとするとゴミの捕集性能が低下し、逆にゴミの捕集性能を向上させようとすると圧力損失が高くなり、電気掃除機に対する負荷が増大するという問題を有していた。
【0003】
このような問題を解消するため、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン等を主原料とした合成繊維製不織布からなる電気掃除機用集塵袋が種々提案されている(例えば、特許文献1、2、3)。しかしながら、これら合成繊維製不織布を使用した電気掃除機用集塵袋は、圧力損失や捕集性能に優れるものの、使用後、一般的に埋め立て処理や焼却処理が行われており、埋め立てられた場合、化学的に安定なため長期間に渡ってそのままの形状を保ち続けてしまうという問題があった。
【0004】
また、使用後の不織布を焼却処理した場合には、焼却時の発熱量が高いため焼却炉を傷めるだけでなく、ナイロン系の不織布を消却した場合にはシアンガスなどの有毒ガスが発生するという問題点もあった。電気掃除機用集塵袋は通常1回使用した後に、集塵したゴミと一緒に廃棄されるため廃棄量が膨大であり、これら廃棄の方法が大きな問題となっていた。
【特許文献1】特開2003−093290号公報
【特許文献2】特開2003−135333号公報
【特許文献3】特開2003−310498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、圧力損失や捕集性能に優れるだけでなく、使用後の廃棄も容易である電機掃除機用集塵袋を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題、つまり、電気掃除機用集塵袋として十分な強度、捕集性能などを有し、かつ生分解性を有する繊維から構成されるため使用後の廃棄処分が容易である不織布について鋭意検討し、生分解性を有する繊維から構成される数種類の不織布を積層することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。すなわち、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0007】
(1)生分解性を有する繊維から構成されるメルトブロー不織布と、生分解性を有する繊維から構成されるスパンボンド不織布とが積層一体化されてなることを特徴とする電気掃除機用集塵袋。
【0008】
(2)前記メルトブロー不織布がエレクトレット加工されてなることを特徴とする前記(1)記載の電気掃除機用集塵袋。
【0009】
(3)前記スパンボンド不織布と前記メルトブロー不織布が少なくともポリ乳酸系樹脂を含んでなることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の電気掃除機用集塵袋。
【0010】
(4)前記スパンボンド不織布が脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1〜5.0wt%含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の電気掃除機用集塵袋。
【0011】
(5)前記メルトブロー不織布と前記スパンボンド不織布の積層一体化が部分的熱接着処理によりなされていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の電気掃除機用集塵袋である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生分解性を有する繊維から構成されるため、電気掃除機用集塵袋として使用された後、廃棄処分が容易であり、かつ、電気掃除機用集塵袋に用いられる不織布として十分な強度、捕集性能を長期間維持可能な特性を兼ね備えた電機掃除機用集塵袋を提供することができる。さらに好ましい態様とすることにより、目詰まりしにくく、柔軟性に富んだ電機掃除機用集塵袋を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明にて使用されるメルトブロー不織布は、生分解性を有する繊維から構成され、溶融したポリマーに加熱高速ガス流体を吹き当てることにより該溶融ポリマーを引き伸ばして極細繊維化し、捕集してシートとする、いわゆるメルトブロー法により製造されたものであれば特に限定されない。前記メルトブロー不織布の目付は特に限定されるものではないが、5〜70g/mが好ましい。目付が5g/mよりも低い場合にはシートの均一性が低くなり捕集性能が低下する傾向であり好ましくない。また目付が70g/mよりも高い場合は、シートの均一性は向上するものの、シート全体の重量が重く、嵩張り、風合いが劣り、さらに製造コストも高くなるため好ましくない。より好ましいメルトブロー不織布の目付量は、7〜50g/mである。ここでいう目付は、縦50cm×横50cmのサイズの試料を3個採取して各重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点以下第一位を四捨五入することで求められる。
【0014】
さらに前記メルトブロー不織布を構成する繊維の平均繊維径は1〜10μmであることが好ましい。平均繊維径が10μmを超えるとメルトブロー不織布の空隙率が増加し、シートの均一性が著しく低下するため、捕集性能が低下する傾向であり好ましくない。平均繊維径が1μmより小さい場合は、ポリマー状の塊が混入しやすく、生産安定面から好ましくない方向である。さらには不織布の圧力損失が高くなるため、品質面からも好ましくない方向である。より好ましいメルトブロー不織布を構成する繊維の平均繊維径は2〜8μmである。なお、ここでいう平均繊維径は、不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の直径を測定し、それらの平均値の小数点以下第一位を四捨五入し算出することで求められるものをいう。円形でない繊維の繊維径は、繊維断面に対して外接円と、内接円を取り、それぞれの直径の平均値を繊維径とする。
【0015】
また、本発明にて使用されるスパンボンド不織布は、生分解性を有する繊維から構成され、溶融したポリマーをノズルより押し出し、これを高速吸引ガスにより吸引延伸した後、移動コンベア上に捕集してウェブとし、さらに連続的に熱処理、絡合等を施すことによりシートとする、いわゆるスパンボンド法により製造されたものであれば特に規定されない。
【0016】
前記スパンボンド不織布の目付は特に限定されるものではないが、10〜100g/mが好ましい。目付が10g/mよりも低い場合には、強度が低くなる場合があり好ましくない。また、目付が100g/mよりも高い場合には、圧力損失が大きくなって掃除機の吸引力が低下する場合があり好ましくない。さらに製造コストも高くなる方向にあり好ましくない。さらに好ましい該スパンボンド不織布の目付量は15〜70g/mである。ここでいう目付は、縦50cm×横50cmのサイズの試料を3個採取して各重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点以下第一位を四捨五入することで求められる。
【0017】
また、前記スパンボンド不織布を構成する繊維の平均繊維径は10〜40μmであることが好ましい。平均繊維径が10μmよりも小さい場合には、シートにコシがなく柔軟になり過ぎる傾向があること、不織布の圧力損失が高くなる傾向であること、さらには生産時に糸切れが発生しやすいなど生産安定性の面からも好ましくない方向である。また、平均繊維径が40μmを超える場合には、柔軟性が低下して風合いが硬くなり、シートが嵩張って加工性も悪化する傾向であること、さらに生産時に糸条の冷却不足が発生しやすく生産安定性の点からも好ましくない方向である。より好ましい該スパンボンド不織布を構成する繊維の平均繊維径は12〜30μmである。なお、ここでいう平均繊維径は、不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の直径を測定し、それらの平均値の小数点以下第一位を四捨五入し算出することで求められるものをいう。円形でない繊維の繊維径は、繊維断面に対して外接円と、内接円を取り、それぞれの直径の平均値を繊維径とする。
【0018】
さらに前記スパンボンド不織布を構成する繊維の断面形状は何ら制限されるものではないが、円形、中空丸形、楕円形、扁平型、あるいはX型、Y型等の異形型、多角型、多葉型、等が好ましい形態である。
【0019】
本発明の電気掃除機用集塵袋は、前記メルトブロー不織布の少なくとも片面に前記スパンボンド不織布を積層して一体化したシートからなるものである。シートのより好ましい形態は、電機掃除機用集塵袋の強度を向上させ、粉塵等との擦過による毛羽立ちを抑えるため、前記メルトブロー不織布の両面に前記スパンボンド不織布を積層一体化したものである。ここで前記メルトブロー不織布の両面に積層一体化させる前記スパンボンド不織布は、それぞれの構成繊維の平均繊維径や繊維形状、さらには目付が異なっていても前述の平均繊維径や繊維形状、目付の範囲内であれば何ら問題ない。
【0020】
また、本発明の電気掃除機用集塵袋においては、捕集性能を向上させるために、少なくとも前記メルトブロー不織布が、エレクトレット加工されてなるものが好ましい。かかるエレクトレット化の方法としては特に限定されるものではないが、コロナ荷電法と水を不織布シートに付与した後に乾燥させることによりエレクトレット化する方法(例えば、特表平9−501604号公報、特開2002−249978号公報等に記載されている方法)が好適に用いられる。特に好ましくはコロナ荷電法であり、ワイヤー電極とアース極となるコンベアとの距離を2〜10cm程度とし、エレクトレット加工を実施する不織布をアース極に接した状態として、10kV以上の直流電圧印加のもとで1〜30秒程度、不織布の両面をそれぞれ高電圧処理することが好ましい。すなわち、不織布の片面にマイナスの直流電圧を印加した後に、その反対面にプラスの直流電圧を印可する方法である。なお本発明においては、電気掃除機用集塵袋を構成するスパンボンド不織布も前記方法でエレクトレット加工されていても何ら問題はない。
【0021】
本発明の電機掃除機用集塵袋において、メルトブロー不織布およびスパンボンド不織布を構成する生分解性を有する繊維(生分解性繊維)の原料となる生分解性樹脂は、自然環境下で、日光、紫外線、熱、水、酵素、微生物等の作用により化学的に分解され、さらには形態的に崩壊するものであれば何ら制限されるものではないが、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート系樹脂等が好適に用いられる。またこれらの樹脂を複数種類複合して用いてもよく、複数種共重合して用いてもよい。また前記生分解性樹脂を複合する方法としては、溶融した複数種類の樹脂を混合する方法や、2種類の生分解性樹脂を芯鞘型、あるいはサイドバイサイド型に複合する方法が好ましい方法である。さらに前記生分解性樹脂に結晶核剤や艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、親水剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0022】
またさらに前記メルトブロー不織布およびスパンボンド不織布を構成する生分解性繊維の原料となる生分解性樹脂は、熱安定性や強度の面から、少なくともポリ乳酸系樹脂を含んでなるものが好ましく、具体的にはポリ乳酸系樹脂の含有量が50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であることがより好ましい。かかるポリ乳酸系樹脂としては、ポリ(D−乳酸)と、ポリ(L−乳酸)と、D−乳酸とL−乳酸の共重合体、あるいはこれらのブレンド体が好ましいものである。最も好ましいポリ乳酸系樹脂は、構成成分の60重量%以上がL−乳酸からなるポリ乳酸である。
【0023】
かかるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は5万〜30万が好ましく、より好ましくは7万〜30万である。重量平均分子量が5万を下回る場合は、繊維の強力が低くなる傾向があり、また、重量平均分子量が30万を越える場合は、粘度が高いためノズルから押し出したポリマーの曳糸性が乏しく、高速延伸ができにくくなり、究極的には未延伸状態になり、十分な繊維強度を得ることができない傾向がでてくる。
【0024】
本発明のスパンボンド不織布を構成する生分解性繊維は、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1〜5.0wt%含有するものが好ましい。
【0025】
本発明では、滑材としての効果を発揮する脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドをスパンボンド不織布を構成する生分解性繊維の繊維表面に存在させることにより、繊維表面の摩擦抵抗が低減され、捕集した粉塵が繊維表面から離脱しやすくなり、集塵袋が目詰まりしにくい傾向となるため好ましいものである。さらに生分解性繊維の繊維間の摩擦抵抗も低減されるため、不織布の柔軟性も向上し製袋加工性も向上する傾向となるものである。さらにまたスパンボンド不織布にエンボスロール等で熱処理を行う際には、熱ロールからの離型性が向上し、操業性を安定させることもできるという効果も奏する。よって本発明の電気掃除機用集塵袋においては、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを不織布全体に対して0.1〜5.0wt%含有するスパンボンド不織布を、粉塵と接する面に使用するのが好ましい使用法である。
【0026】
前記脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドの含有量が0.1wt%よりも少ない場合は、上記の効果が不十分となる場合があり、含有量が5.0wt%を超える場合は、紡糸性が不安定となる傾向がある。より好ましい含有量の範囲は0.3〜4.0wt%、最も好ましい範囲は0.5〜2.0wt%である。脂肪族ビスアミドまたはアルキル置換型の脂肪族モノアミドをそれぞれ単独で用いてもよいし、両者を併用して含有するものでもよい。
【0027】
また、脂肪族ビスアミドやアルキル置換型の脂肪族モノアミドは、繊維表面もしくは表面近傍に存在することが好ましいから、スパンボンド不織布を構成する生分解性繊維を芯鞘型繊維とし、その芯鞘型繊維の鞘成分のみにそれらを含有する形態も好ましいものである。本発明においてスパンボンド不織布に芯鞘型繊維を採用し、鞘成分のみに脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを含有させる形態は、芯成分にそれらを含有させる必要がないことから、生産安定性や製造コスト面から好ましい形態である。脂肪族ビスアミド、アルキル置換型の脂肪族アミドを鞘成分に含有する芯鞘型繊維は、鞘成分に前記量の脂肪族ビスアミド、アルキル置換型の脂肪族アミド、または両者を含有させて紡糸すればよい。
【0028】
なお、本発明における芯鞘型繊維は、芯成分の周りを鞘成分が同心円状に、あるいは偏心円状に被覆してなるもの、さらには芯成分の周りに鞘成分を断続的に配してなるものが最も好ましい形態である。また芯:鞘の重量比率は特に制限されるものではないが、30:70〜95:5の範囲が好ましく、40:60〜90:10の範囲がより好ましい。
【0029】
本発明において用いられる脂肪族ビスアミドは特に制限されるものではないが、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、および芳香族系脂肪酸ビスアミド等であり、例えばメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスバルミチン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等が挙げられ、これらを複数種類混合して使用してもよい。
【0030】
また、本発明において用いられるアルキル置換型の脂肪族モノアミドとしては、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置換した構造の化合物を示し、N−ラウリルラウリル酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド等が挙げられ、これらを複数種類混合して使用してもよい。
【0031】
脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを、紡糸するための原料となる生分解性樹脂に添加する方法は何ら制限されるものではないが、予め原料樹脂と添加する物質を加熱溶融混合したマスターチップを作製し、これを紡糸の際に原料樹脂に必要量添加して、添加物質量を調整する方法が最も好ましい。
【0032】
またさらに本発明の電気掃除機用集塵袋においては、これを構成するメルトブロー不織布についても、前記スパンボンド不織布と同様の構成で、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを含んでなるものも好ましい態様である。
【0033】
本発明の電気掃除機用集塵袋は、前記メルトブロー不織布の少なくとも片面に前記スパンボンド不織布を積層し、一体化したシートからなるものである。メルトブロー不織布とスパンボンド不織布の積層方法は何ら制限されるものではないが、一旦メルトブロー不織布とスパンボンド不織布をそれぞれ製作した後に積層する方法、一旦製作したスパンボンド不織布の上にメルトブロー法にて糸条を噴射し積層する方法、一旦製作したメルトブロー不織布の上にスパンボンド法にて糸条を噴射し積層する方法、さらにはこれらの方法の組み合わせにより実施することが出来る。
【0034】
メルトブロー不織布とスパンボンド不織布は、積層した後に一体化するが、本発明の電機掃除機用集塵袋におけるメルトブロー不織布とスパンボンド不織布の一体化は部分的圧着処理によりなされていることが好ましい。部分的に圧着する方法は特に限定されるものではないが、加熱した一対のエンボスロールによる圧着、あるいは超音波発振装置とエンボスロールによる圧着が好ましいものである。加熱したエンボスロールによる圧着の温度は、メルトブロー不織布およびスパンボンド不織布の繊維表面に存在する最も融点の低いポリマーの融点より5〜50℃低いことが好ましく、10〜40℃低いことがより好ましい。熱エンボスロールによる熱接着の温度が、メルトブロー不織布およびスパンボンド不織布の繊維表面に存在する最も融点の低いポリマーの融点より5℃未満低い温度であった場合、ポリマーの溶融が激しく、エンボスロールへのシート取られ、ロール汚れが発生、またシートが硬くなるばかりかロール巻付きも頻発するなど安定生産も不可能となる。またメルトブロー不織布およびスパンボンド不織布の繊維表面に存在する最も融点の低いポリマーの融点より50℃を超えて低い温度であった場合、ポリマーの融着が不十分であり、一体化した不織布は物性的に弱いものとなる傾向が生じる。なお本発明において、融点は示差走査型熱量計を用い、昇温速度20℃/分の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度とする。また示差走査型熱量計において融解吸熱曲線が極値を示さない樹脂については、ホットプレート上で加熱し、顕微鏡観察により樹脂が溶融した温度を融点とする。
【0035】
前記一体化の方法としては、超音波発振装置とエンボスロールによる圧着が、ポリマーの融点を考慮する必要がなく、一体化したシートの柔軟性に優れる点から最も好ましい方法である。
【0036】
前記部分的圧着によりメルトブロー不織布とスパンボンド不織布との一体化を実施する場合の部分的圧着部の圧着面積率は、メルトブロー不織布とスパンボンド不織布との全接触面積に対して3〜50%であることが好ましい。より好ましくは5〜40%である。前記圧着部の圧着面積率が3%を下回る場合は、メルトブロー不織布とスパンボンド不織布との一体化が不十分となり、不織布の層間が剥離したり、強度的に低くなる傾向となり好ましくない。圧着部の圧着面積率が50%を超える場合は、圧着により溶融変形する繊維が多くなり、繊維間の空隙が少なくなる結果、粉塵の捕集性能が低下し、圧力損失が上昇する傾向となり好ましくない。なお、前記部分的圧着部の圧着面積率とは、メルトブロー不織布とスパンボンド不織布とが一体化している接触面における圧着された部分の面積の、両不織布の全接触面積に対する割合であり、スパンボンド不織布を一旦製作する場合に実施する熱圧着部分の面積はこれに含まれない。
【0037】
また本発明においては、メルトブロー不織布とスパンボンド不織布を積層した後に、柱状水流処理やニードルパンチ処理により機械的絡合を施し、その後に部分的圧着により一体化させる方法も好ましいものである。
【0038】
本発明の電気掃除機用集塵袋は、前記メルトブロー不織布とスパンボンド不織布が積層一体化したものを、超音波溶断加工や縫製加工により、袋状に加工して用いられることが好ましい態様である。加工の簡便さや、強度の点から超音波溶断加工により袋状に加工するものが最も好ましいものである。
【0039】
電気掃除機用集塵袋は、通常1回の使用後、集塵したゴミと一緒に廃棄処分されるため、その処分量は膨大なものとなる。生分解性を有さないポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン等を原料として使用した場合は、焼却あるいは埋め立て処分が必要であるが、焼却処理をした場合、焼却時の発熱量が高いため焼却炉を傷めるという問題点があり、また埋め立て処分をした場合には、これら原料が化学的に安定なため、長期間に渡って形状を保ち続けてしまうという環境上の問題点がある。
【0040】
本発明に用いられる不織布は、生分解性を有する樹脂を原料として使用しているため、本発明の電気掃除機用集塵袋は使用した後、焼却処分の必要はなく、埋め立て等の処分後、化学的に分解され自然環境を汚染することがない。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお下記実施例における各特性値は、次の(1)〜(8)の方法で測定したものである。
【0042】
(1)目付
縦50cm×横50cmのサイズの試料を3個採取して各重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点以下第一位を四捨五入して求めた。
【0043】
(2)繊維径
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の直径を測定し、それらの平均値の小数点以下第一位を四捨五入し算出した。
【0044】
(3)ポリ乳酸の重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とし、これをWaters社製ゲルパーミテーションクロマトグラフ(GPC)Waters2690を用いて、25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。各試料につき3回の測定を行い、平均値を算出し、千の位を四捨五入してそれぞれの重量平均分子量とした。
【0045】
(4)メルトフローレート(MFR)(g/10分)
ポリプロピレンのMFRはASTM D1238に準じて測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0046】
(5)IV
ポリエステルのIVは以下の方法で測定した。
オルソクロロフェノール100mlに対し試料8gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを下記式により求めた。
【0047】
η=η/η=(t×d)/(t×d
ここで、η:ポリマー溶液の粘度
η:オルソクロロフェノールの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm
:オルソクロロフェノールの落下時間(秒)
:オルソクロロフェノールの密度(g/cm
ついで、相対粘度ηから下記式
IV=0.0242η+0.2634
によりIVを算出した。
【0048】
(6)融点(℃)
パーキンエルマ社製示差走査型熱量計DSC−2型を用い、昇温温度20℃/分の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を融点とした。各試料につき3回の測定を行い、その平均値をそれぞれの融点とした。また示差走査型熱量計において融解吸熱曲線が極値を示さない樹脂については、ホットプレート上で加熱し、顕微鏡観察により樹脂が溶融した温度を融点とした。
【0049】
(7)引張強度、5%伸長時応力
不織布の長さ方向の引張強度をJIS L 1096(2000年版)の5.3.1に順じ、サンプルサイズ5cm×30cmの試料をつかみ間隔20cm、引張速度10cm/minの条件でシート縦方向、横方向とも3個のサンプルについて定速伸長型引張試験機にて引張試験を行い、サンプルが破断するまで引っ張ったときの最大強力を引張強力とし、シート縦方向、横方向それぞれの平均値について小数点以下第一位を四捨五入して算出した。また不織布の柔軟性を表す指標として、上記引張試験時に試験片が5%伸長した時の応力を、シート縦方向、横方向それぞれについて、小数点以下第一位を四捨五入して平均値を算出した。
【0050】
(8)捕集性能(%)
不織布シートの幅方向に10カ所測定用サンプルを採取し、それぞれのサンプルについて、図1に示す捕集性能測定装置で測定した。この捕集性能測定装置は、測定サンプルMをセットするサンプルホルダー1の上流側にダスト収納箱2を連結し、下流側に流量計3、流量調整バルブ4、ブロワ5を連結している。また、サンプルホルダー1にパーティクルカウンター6を使用し、切替コック7を介して、測定サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数をそれぞれ測定することができる。さらに、サンプルホルダー1は圧力計8を備え、サンプルM上流、下流の静圧差を読みとることができる。
【0051】
捕集性能の測定にあたっては、直径0.3μmのポリスチレン標準ラテックスパウダー(ナカライテック製0.309Uポリスチレン10重量%溶液を蒸留水で200倍に希釈)をダスト収納箱2に充填し、サンプルMをホルダー1にセットし、風量をフィルター通過速度が6.5m/分になるように流量調整バルブ4で調整し、ダスト濃度を1万〜4万個/2.83×10−4(0.01ft)の範囲で安定させ、サンプルMの上流のダスト個数Dおよび下流のダスト個数dをパーティクルカウンター6(リオン社製、KC−01B)で1サンプルあたり10回測定し、下記算式にて、捕集性能(%)を求め、10サンプルの平均値を小数点以下第一位を四捨五入して算出した。
捕集性能(%)=〔1−(d/D)〕×100
ここで、d:下流ダストの10回測定トータル個数
D:上流ダストの10回測定トータル個数。
【0052】
[製造例1]
重量平均分子量が15万のポリ乳酸樹脂を原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率13%となるようなエンボスロールとフラットロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊維径14μm、目付20g/mと30g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0053】
[製造例2]
重量平均分子量が7万のポリ乳酸樹脂を、紡糸温度230℃、熱風温度250℃の熱風で細化し、移動するネット上に捕集して繊維径8μm、目付10g/mと20g/mのポリ乳酸メルトブロー不織布を得た。この不織布にコロナ荷電法により25kV/cmの印加電圧でエレクトレット処理を実施した。
【0054】
<実施例1>
製造例2で得られた目付20g/mのメルトブロー不織布の両面に、製造例1で得られた目付20g/mのスパンボンド不織布を積層し、超音波接着装置とエンボスパターンロールを用いて圧着面積が16%となるように圧着して、スパンボンド不織布とメルトブロー不織布を一体化した。
【0055】
<実施例2>
製造例2で得られた目付10g/mのメルトブロー不織布の両面に、製造例1で得られた目付30g/mのスパンボンド不織布を積層し、超音波接着装置とエンボスパターンロールを用いて圧着面積が16%となるように圧着して、スパンボンド不織布とメルトブロー不織布を一体化した。
[製造例3]
重量平均分子量が15万のポリ乳酸樹脂にエチレンビスステアリン酸アミド(日本油脂株式会社製“アルフロー”(登録商標)H−50T)を0.5wt%添加したものを原料とし、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率13%となるようなエンボスロールとフラットロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊維径14μm、目付20g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
[製造例4]
製造例2と同様の方法で、繊維径のみ3μmとし、目付20g/mのメルトブロー不織布を得た。この不織布にコロナ荷電法により25kV/cmの印加電圧でエレクトレット処理を実施した。
【0056】
<実施例3>
製造例4で得られたメルトブロー不織布の両面に、製造例3で得られたスパンボンド不織布を積層し、超音波接着装置とエンボスパターンロールを用いて圧着面積が13%となるように圧着して、スパンボンド不織布とメルトブロー不織布を一体化した。
【0057】
[製造例5]
重量平均分子量が15万のポリ乳酸樹脂を芯成分の原料とし、重量平均分子量が15万のポリ乳酸樹脂にN−ステアリルステアリン酸アミド(日本化成社製“ニッカアマイドS”)を0.5wt%添加したものを鞘成分の原料とし、芯:鞘の重量比80:20の芯鞘複合繊維として、紡糸温度230℃で、高速圧空にて紡速4400m/分で紡糸し、移動するネット上に捕集、連続的に圧着率13%となるようなエンボスロールとフラットロールで温度120℃、線圧50kg/cmで熱処理を行い、繊維径12μm、目付20g/mのポリ乳酸スパンボンド不織布を得た。
【0058】
<実施例4>
製造例4で得られたメルトブロー不織布の両面に、製造例5で得られたスパンボンド不織布を積層し、超音波接着装置とエンボスパターンロールを用いて圧着面積が13%となるように圧着して、スパンボンド不織布とメルトブロー不織布を一体化した。
【0059】
得られたシートの評価結果は表1の通りであり、実施例1〜4の不織布は生分解性を有する上に、強度、捕集性能にも優れており、電気掃除機用集塵袋として適したものであった。特に実施例3、4の不織布は、5%伸長時応力の値も小さく、柔軟性が高い傾向であり、製袋加工により適したものであった。
【0060】
<比較例1>
MFR=800g/10minのポリプロピレンを原料とした平均繊維径3μm、目付20g/mのメルトブロー不織布の両面に、MFR=800g/10minのポリプロピレンを原料とした平均繊維径20μm、目付30g/mのスパンボンド不織布を積層し、圧着率12%となるようにエンボスロールとフラットロールで熱圧着して、スパンボンド不織布とメルトブロー不織布を一体化した。この不織布にコロナ荷電法により25kV/cmの印加電圧でエレクトレット処理を実施した。
【0061】
<比較例2>
IV0.65のポリエステル樹脂を原料とし、平均繊維径が15μm、目付が50g/m、圧着率18%のスパンボンド不織布を得た。
【0062】
得られたシートの評価結果は表1の通りであるが、比較例1の不織布は捕集性能も高く、強度にも優れていたが、生分解性を有するものではなく、使用後の廃棄に問題のあるものであった。また比較例2の不織布は、強度的には優れていたが、生分解性を有するものではなく、また捕集性能も低いため、電気掃除機用集塵袋としては好ましいものではなかった。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の不織布は、強度や捕集性能に優れていることから、電気掃除機用集塵袋として好適に使用することができる。また生分解性繊維から構成されているため、使用後の廃棄が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】捕集性能測定装置の概略図である。
【符号の説明】
【0066】
1 サンプルホルダー
2 ダスト収納箱
3 流量計
4 流量調整バルブ
5 ブロワ
6 パーティクルカウンター
7 切替コック
8 圧力計
M 測定サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性を有する繊維から構成されるメルトブロー不織布と、生分解性を有する繊維から構成されるスパンボンド不織布とが積層一体化されてなることを特徴とする電気掃除機用集塵袋。
【請求項2】
前記メルトブロー不織布がエレクトレット加工されてなることを特徴とする請求項1に記載の電気掃除機用集塵袋。
【請求項3】
前記スパンボンド不織布と前記メルトブロー不織布が少なくともポリ乳酸系樹脂を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の電気掃除機用集塵袋。
【請求項4】
前記スパンボンド不織布が脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1〜5.0wt%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気掃除機用集塵袋。
【請求項5】
前記メルトブロー不織布と前記スパンボンド不織布の積層一体化が部分的圧着処理によりなされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電気掃除機用集塵袋。

【図1】
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【公開番号】特開2007−236835(P2007−236835A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67039(P2006−67039)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】