説明

電気泳動表示装置およびその駆動方法

【課題】対象画素の階調制御を容易かつ精度よく実現すること。
【解決手段】所定幅のスペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板(28,29)と、一方の基板(28)の基板面に形成された複数の画素電極(21)と、他方の基板(29)の基板面に形成された共通電極(22)と、基板間に封入された色および極性が異なる2種類の帯電粒子を分散させてなる電気泳動素子(23)と、画素電極(21)と共通電極(22)との間に帯電粒子を移動させる電位差を発生させる書込みパルスを生成する駆動回路(3〜6)と、を備えた電気泳動表示装置(1)において、駆動回路(3〜6)は、対象画素(20)の階調が所要の階調に到達するまで、前記書込みパルスの電圧値を段階的に引き上げるとともに各段階の電圧値にて前記書込みパルスの印加を所定回数繰り返すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子に電界を作用させて可逆的に視認状態を変化させる電気泳動表示装置およびその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気泳動表示装置の階調を制御する方法として、駆動パルスのパルス長を制御しながら対象画素の電極間に電圧を印加する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、パルス長は変化させずに、対象画素の電極間に駆動パルスを印加する回数(印加回数)のみを制御して階調表示を行う方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−116733号公報
【特許文献2】特開2009−237543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1記載の駆動方法では、きわめて短いパルス長を精密に制御する必要があり、多階調を表現することが困難であった。また、上述した特許文献2記載の駆動方法では、多階調表示を行うために高速のパルスを複数回印加する必要があり、動作速度の遅いTFT(例えば、有機TFT)では多階調表示を実現することが不可能であった。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、対象画素の階調制御を容易かつ精度よく実現することができる電気泳動表示装置およびその駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電気泳動表示装置は、所定幅のスペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、前記一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された複数の画素電極と、前記一対の基板のうち他方の基板の基板面に前記複数の画素電極に対向して形成された共通電極と、前記一対の基板間に封入された色および極性が異なる2種類の帯電粒子を分散させてなる液状体と、前記画素電極と前記共通電極との間に前記帯電粒子を移動させる電位差を発生させる書込みパルスを生成する駆動回路と、を具備し、前記駆動回路は、対象画素の階調が所要の階調に到達するまで、前記書込みパルスの電圧値を段階的に引き上げるとともに各段階の電圧値にて前記書込みパルスの印加を所定回数繰り返すことを特徴とする。
【0007】
この構成により、印加するパルスの電圧値および印加回数に応じて光透過性を有する基板(表示面)側の反射率がなだらかに変化するため、均等な16階調を得ることができる。したがって、印加するパルスの電圧値および印加回数に応じて、純黒色表示から中間調、純白色表示へと(純白色表示から中間調、純黒色表示へと)階調を制御することができるため、対象画素の階調制御を容易かつ精度よく実現することが可能となる。
【0008】
上記電気泳動表示装置において、制御対象エリアとなる全画素または所定エリアの画素を階調表示の上限または下限となる飽和反射率に初期設定し、飽和反射率の近傍では中間領域に比較して階調変化が相対的に小さくなるように前記書込みパルスの電圧値および印加回数を制御してもよい。この場合には、最初に小さな電圧値のパルスを印加することにより、反射率の急激な変化を抑制することができるため、中間階調における低い階調を確実に表現することが可能となる。
【0009】
上記電気泳動表示装置において、前記初期設定において相対的に移動速度が速い帯電粒子を光透過性を有する基板側の電極に集結させてもよい。この場合には、初期状態から所望の階調表示への移行時間を短縮する効果が期待できる。
【0010】
上記電気泳動表示装置において、制御対象エリアとなる全画素または所定エリアの画素の全体に対して、各画素の前記画素電極および前記共通電極間に、短時間に電圧の極性が交互に反転するシェイキングパルスを印加してもよい。この場合には、シェイキングパルスを印加することにより長時間放置されて大きな塊となった帯電粒子をほぐすことができ、その後に印加される書込みパルスにより帯電粒子がより容易に移動可能となる。
【0011】
本発明の電気泳動表示装置の駆動方法は、所定幅のスペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、前記一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された複数の画素電極と、前記一対の基板のうち他方の基板の基板面に前記複数の画素電極に対向して形成された共通電極と、前記一対の基板間に封入された色および極性が異なる2種類の帯電粒子を分散させてなる液状体と、前記画素電極と前記共通電極との間に前記帯電粒子を移動させる電位差を発生させる書込みパルスを生成する駆動回路と、を具備した電気泳動表示装置の駆動方法において、対象画素の階調が所要の階調に到達するまで、前記書込みパルスの電圧値を段階的に引き上げるとともに各段階の電圧値にて前記書込みパルスの印加を所定回数繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、対象画素の階調制御を容易かつ精度よく実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態に係る電気泳動表示装置の全体構成図である。
【図2】上記電気泳動表示装置における画素の電気的な構成を示す等価回路図である。
【図3】上記電気泳動表示装置における表示部の部分断面図である。
【図4】図4Aは上記電気泳動表示装置において16階調表示を行う場合の書込みパルスの電圧値および印加回数を示す図であり、図4Bは上記電気泳動表示装置において16階調表示を行った場合の反射率の測定例を示すグラフである。
【図5】上記電気泳動表示装置における電子泳動素子の階調変化を模式的に示す図である。
【図6】図5に示す階調制御の一例について説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る電気泳動表示装置の全体構成図である。この電気泳動表示装置1は、マトリクス状に画素配置された表示部2と、表示部2に画像信号を供給するデータ線駆動回路3と、表示部2に走査信号を供給する走査線駆動回路4と、表示部2の各画素に共通電位を与える共通電位供給回路5と、装置全体の動作を制御するコントローラ6と、を備えて構成される。このうち、データ線駆動回路3、走査線駆動回路4、共通電位供給回路5およびコントローラ6は、駆動回路を構成する。
【0015】
表示部2には、データ線駆動回路3から列方向(Y方向)に並列に伸びるn本のデータ線X1からXnが延在するとともに、これらのデータ線と交差して走査線駆動回路4から行方向(X方向)に並列に伸びるm本の走査線Y1からYmが延在している。表示部2において、データ線(X1,X2,…Xn)と、走査線(Y1,Y2,…Ym)とが交差する各交差部に画素20がそれぞれ形成されている。このように、表示部2には、m行n列のマトリクス状に複数の画素20が配置されている。
【0016】
データ線駆動回路3は、コントローラ6から供給されるタイミング信号に基づいて、各データ線(X1,X2,…Xn)に画像信号を供給する。画像信号は、高電位VH(例えば、40V)から低電位VL(例えば、0V)の間で任意の電位をとる。特に、共通電位供給回路5から与えられる共通電位を固定して、画像信号の電圧値を階段状に変化させて所望の階調を実現する駆動方法では、画像信号(書込みパルス)の電圧値は、書込みパルスの印加回数に応じて階段状に上がるように制御される。例えば、画像信号の複数の電圧値は、25V,30V,40Vの3段階に制御される。
【0017】
走査線駆動回路4は、コントローラ6から供給されるタイミング信号に基づいて、各走査線(Y1,Y2,…Ym)に固定パルス幅の走査信号を順次供給する。これにより、駆動対象となる画素20に対して、走査信号が供給される。走査信号によって階調制御対象となる画素を選択するので、走査信号のことを選択信号と呼ぶこともできる。
【0018】
表示部2を構成する各画素20には、共通電位供給回路5から共通電位線11を介して共通電位Vcomが印加される。共通電位Vcomは一定の電位であってもよいし、例えば書き込む階調に応じて変化してもよい。特に、データ線駆動回路3から与えられる画像信号の電圧値を固定して、共通電位Vcomの電圧値を階段状に変化させて所望の階調を実現する駆動方法では、共通電位(書込みパルス)の電圧値は、書込みパルスの印加回数に応じて階段状に上がるように制御される。例えば、共通電位の電圧値は、25V,30V,40Vの3段階に制御される。
【0019】
コントローラ6は、クロック信号、スタートパルス等のタイミング信号を、データ線駆動回路3、走査線駆動回路4および共通電位供給回路5に供給して各回路を制御する。コントローラ6は、対象画素の階調データをデータ線駆動回路3または共通電位供給回路5に供給する。データ線駆動回路3または共通電位供給回路5は、階調データに応じて書込みパルスの印加回数および電圧値を決定し、走査線駆動回路4の画素行選択動作に同期して対象画素に画像信号または共通電位を供給する。
【0020】
図2は、画素20の電気的な構成を示す等価回路図である。表示部2にマトリクス状に配置された各画素20は同一構成であるので、画素20を構成する各部には共通の符号を付して説明する。
【0021】
画素20は、画素電極21と、共通電極22と、電気泳動素子23と、画素スイッチング用トランジスタ24と、保持容量25と、を備えている。画素スイッチング用トランジスタ24は、例えば、N型トランジスタで構成される。画素スイッチング用トランジスタ24のゲートは、対応する行の走査線(Y1,Y2,…Ym)に電気的に接続されている。画素スイッチング用トランジスタ24のソースは、対応する列のデータ線(X1,X2,…Xn)に電気的に接続されている。また、画素スイッチング用トランジスタ24のドレインは、画素電極21および保持容量25に電気的に接続されている。画素スイッチング用トランジスタ24は、データ線駆動回路3からデータ線(X1,X2,…Xn)を介して供給される画像信号を、走査線駆動回路4から対応する行の走査線(Y1,Y2,…Ym)を介してパルス的に供給される走査信号に応じたタイミングで、画素電極21および保持容量25に出力する。
【0022】
画素電極21には、データ線駆動回路3からデータ線(X1,X2,…Xn)および画素スイッチング用トランジスタ24を介して、画像信号が供給される。画素電極21は、電気泳動素子23を介して共通電極22と互いに対向して配置されている。共通電極22は、共通電位Vcomが供給される共通電位線11に電気的に接続されている。
【0023】
電気泳動素子23は、複数の電気泳動粒子を含んでなる液体であり、電極間に図示しない封止材にて漏れ出さないように保持されている。
【0024】
保持容量25は、誘電体膜を介して対向配置された一対の電極からなり、一方の電極が画素電極21および画素スイッチング用トランジスタ24に電気的に接続され、他方の電極が共通電位線11に電気的に接続されている。保持容量25によって、画像信号を一定期間維持することができる。
【0025】
次に、電気泳動表示装置1の表示部2の具体的な構成について、図3に基づいて説明する。図3は、電気泳動表示装置1における表示部2の部分断面図である。表示部2は、素子基板28と、対向基板29とが、図示しないスペーサを介して対向配置され、基板間に電気泳動素子23が封入された構成となっている。なお、本実施の形態では、対向基板29側に画像を表示することを前提として説明する。
【0026】
素子基板28は、例えば、ガラスやプラスチック等からなる基板である。素子基板28上には、ここでは図示を省略するが、図2を参照して上述した画素スイッチング用トランジスタ24、保持容量25、走査線(Y1,Y2,…Ym)、データ線(X1,X2,…Xn)、共通電位線11などが作り込まれた積層構造が形成されている。この積層構造の上層側に、複数の画素電極21がマトリクス状に設けられている。
【0027】
対向基板29は、例えば、ガラスやプラスチック等からなる光透過性の基板である。対向基板29における素子基板28との対向面上には、共通電極22が、複数の画素電極21と対向して形成されている。共通電極22は、例えば、マグネシウム銀(MgAg)、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)などの透明導電材料から形成されている。
【0028】
電気泳動素子23は、正に帯電した黒色粒子83と、負に帯電した白色粒子82と、これらの黒色粒子83および白色粒子82を分散させる分散媒81と、からなる電気泳動表示用液であり、素子基板28と対向基板29との間に封入されている。また、素子基板28と対向基板29との間には、基板間の間隙を規定値に保つための図示しないスペーサが設けられ、基板の端面には間隙を封止するための図示しない封止材が設けられている。
【0029】
図3において、画素電極21と共通電極22との間に、相対的に共通電極22の電位が高くなるように電圧が印加された場合には、正に帯電した黒色粒子83は、クーロン力によって画素電極21側に引き寄せられるとともに、負に帯電した白色粒子82は、クーロン力によって共通電極22側に引き寄せられる。この結果、表示面側(共通電極22側)には、白色粒子82が集まり、表示部2の表示面は白色表示となる。一方、画素電極21と共通電極22との間に、相対的に画素電極21の電位が高くなるように(相対的に共通電極22の電位が低くなるように)電圧が印加された場合には、正に帯電した黒色粒子83は、クーロン力によって共通電極22側に引き寄せられるとともに、負に帯電した白色粒子82は、クーロン力によって画素電極21側に引き寄せられる。この結果、表示面側(共通電極22側)には、黒色粒子83が集まり、表示部2の表示面は黒色表示となる。
【0030】
なお、白色粒子82、黒色粒子83に用いる顔料を、例えば、赤色、緑色、青色などの顔料に変えることによって、表示部2の表示面を赤色表示、緑色表示、青色表示などにすることができる。
【0031】
次に、以上のように構成された電気泳動表示装置1において好適な階調表示を実現するための駆動方法について説明する。階調表示の解像度は、一例として、純黒色表示(最低側飽和反射率)を1階調目、純白色表示(最高側飽和反射率)を16階調目とする。
【0032】
本駆動方法は、対象画素の電極間(画素電極21と共通電極22との間)に電位差を生じさせる書込みパルスの電圧値を階段状に上昇するように制御するとともに各段階の電圧値での印加回数を制御して所望の階調表示を実現する。書込みパルスは、画素電極21に印加される画像信号の電圧値と共通電極22に印加される共通電位Vcomとの組み合わせで決まる電位差が電圧値となる。上記した通り、共通電位Vcomを固定して、画像信号の電圧値を階段状に変化させる駆動方法と、画像信号の電圧値を固定して、共通電位Vcomを階段状に変化させる駆動方法と、共通電位Vcomおよび画像信号の電圧値両方を変化させて所要の電圧を印加する駆動方法とがある。
【0033】
1階調目から16階調目まで連続的に階調変化させる場合、電圧値aVの書込みパルスを対象画素20に所定回数印加し、その後、電圧値bV(ただし、a<b)の書込みパルスを所定回数印加し、さらに、電圧値cV(ただし、b<c)の書込みパルスを所定回数印加することになる。階調表示の解像度が16階調以外の場合も書込みパルスの電圧値を階段状に上昇するように制御するとともに各段階の電圧値での印加回数を制御する駆動方法は変わらない。すなわち、本駆動方法は、純黒色表示を1階調目、純白色表示を16階調目とした場合に、中間階調を表示するために必要とされる書込みパルスの電圧値および印加回数は階調により一義的に決定される。例えば、a=25,b=30,c=40である場合に、13階調目は、画素電極21に25Vのパルスを10回印加し、その後、30Vのパルスを5回印加し、さらに、40Vのパルスを2回印加することにより得られる。
【0034】
図4Aは、16階調表示する場合に各階調に対応した書込みパルスの電圧値変化と印加回数との関係を示している。図4Aにおいて、横軸は書込みパルスを対象画素に印加する印加回数に対応し、縦軸は書込みパルスの電圧値に対応している。
【0035】
上記した通り、1階調目である純黒色表示(または純白色表示)から16階調目である純白色表示(または純黒色表示)に向けて連続的に階調変化させ、目的の階調まで変化した時点で当該対象画素の駆動を停止する。
【0036】
図4Aに示すように、書込みパルスの電圧値25Vにて印加回数を1回より10回まで順次増加させることで、1階調目から11階調目まで連続的に変化する。12階調目以降は書込みパルスの電圧値を30Vに1段階だけ上げて印加回数を1回(初期状態からの積算では11回)から2回(初期状態からの積算では12回)まで順次増加させることで、12階調目から13階調目まで連続的に変化する。14階調目以降は書込みパルスの電圧値を40Vに上げて印加回数を1回(初期状態からの積算では13回)から8回(初期状態からの積算では20回)まで順次増加させることで、14階調目から16階調目まで連続的に変化する。
【0037】
図4Bは、図4Aに示すように書込みパルスの電圧値および印加回数を制御して階調表示を変化させた際の反射率の変化状態を示す図である。例えば、「25V×10+30V×2+40V×2」とは、対象画素20に電圧値が25Vの書込みパルスを10回印加し、その後、電圧値が30Vの書込みパルスを2回印加し、さらに、40Vの書込みパルスを2回印加した場合の反射率に対応している。なお、各書込みパルスのパルス幅は略同一である。図4Bに示すように、印加する書込みパルスの電圧値および印加回数に応じて反射率がなだらかに変化するため、均等な16階調が得られることがわかる。これにより、印加する書込みパルスの電圧値および印加回数に応じて、純黒色表示から中間調、純白色表示へと階調を精度よく制御することが可能となる。
【0038】
上記書込みパルスによる駆動方法において、対象画素20に印加する書込みパルスの電圧値を、最初は小さな値とし、段階的に大きな値に変化させている。初期状態が純黒色表示(最低側飽和反射率)である場合に、純黒色表示から純白色表示(最高側飽和反射率)へ階調変化させるためには、例えば、40Vの書込みパルスを20回印加する必要がある。しかしながら、純黒色表示の状態から40Vの書込みパルスを1パルスずつ印加していくと、最初の数回のうちに反射率が急激に変化する。このような印加回数−反射率特性の下では、中間階調における低い階調(例えば、濃いグレー)を表現することが非常に困難である。
【0039】
そこで、本実施の形態では、飽和反射率の近傍(書込みパルスの印加回数が1回から5回程度の付近で反射率(Y値)10未満)では、書込みパルスの電圧値を小さな値(例えば、25V)に設定してパルス印加を繰り返す。これにより、反射率の急激な変化を抑制することができるため、中間階調における低い階調を表現することが可能となる。ただし、書込みパルスの電圧値が小さな値であると、複数回印加している間に反射率の変化が飽和する。この対策として、本実施の形態では、対象画素20に印加する書込みパルスの電圧値を、印加回数の増大とともに段階的に大きな値に切り替えることで、印加回数に対応した反射率の変化を一定とし、最高反射率の純白色表示まで反射率を変化させることを可能にした。
【0040】
また、上記書込みパルスによる駆動方法において、画素スイッチング用トランジスタ24のゲート選択時間は0.2m秒程度とすることができる。したがって、例えば、有機TFTのように動作速度の遅いトランジスタであっても画素スイッチング用トランジスタ24に適用することができる。これにより、有機TFTのように表示部2のフレキシブル化に適した有機TFTを用いて必要な階調制御が実現されるので、電気泳動表示装置1をフレキシブル化することが可能となる。
【0041】
次に、本実施の形態に係る電気泳動表示装置1の駆動方法について、具体例に基づいて説明する。
【0042】
本駆動方法は、個々の対象画素の階調表示を制御するのに先立ち、表示部2の画素20全体に対して、短時間に電圧の極性が交互に反転するシェイキングパルスを印加する。シェイキングパルスによる駆動は、すべてのデータ線(X1,X2,…Xn)に高電位VH(例えば40V)、共通電位線11に低電位VL(例えば0V)を印加し、すべての走査線(Y1,Y2,…Ym)を所定時間(例えば、10m秒)選択した後、すべてのデータ線(X1,X2,…Xn)と共通電位線11の電圧極性を反転し、すべての走査線(Y1,Y2,…Ym)を所定時間(例えば、10m秒)選択することを所定回数(例えば、10回)繰り返すことにより実現できる。
【0043】
このように、書込みパルスの印加に先立ってシェイキングパルスを印加することにより、長時間放置されて大きな塊となった白色粒子82および黒色粒子83を開放する(ほぐす)ことができる。したがって、その後に印加される書込みパルスにより、帯電粒子がより容易に移動可能となる。
【0044】
次に、本駆動方法は、まず表示部2の表示面全体を純黒色表示または純白色表示の状態にする。この純黒色表示または純白色表示の状態を初期状態と呼ぶこととする。ここで、純黒色表示または純白色表示のいずれを初期状態にしてもよいが、相対的に移動速度が遅い帯電粒子を初期状態での表示色に選ぶことが望ましい。これにより、初期状態から所望の階調表示への移行時間を短縮する効果が期待できる。例えば、帯電粒子の特性によって、黒色粒子83よりも白色粒子82の方が移動速度が速いものと仮定して説明する。なお、階調表示の制御対象エリアが表示部2の一部であれば、該当する所定エリアの画素を初期状態にする。
【0045】
初期状態にするために、すべてのデータ線(X1,X2,…Xn)に高電位VH(例えば40V)、共通電位線11に低電位VL(例えば0V)を印加した状態で、すべての走査線(Y1,Y2,…Ym)を選択して選択信号(1パルス)を印加する1走査を、所定回数(例えば、20回)繰り返す。また、走査を行わず、走査線駆動回路4によりすべての走査線(Y1,Y2,…Ym)を選択し続け、表示部2における画素20に約1秒間電圧を印加し続ける方法によっても、同様の結果を得ることができる。
【0046】
以上のように、最初に表示部2の表示面全体を純黒色表示とした後、純黒色表示から中間調、そして純白色表示へと移行させる。
【0047】
本駆動方法は、初期状態から対象画素が所要の階調に到達するまで、書込みパルスの電圧値を段階的に上げるとともに書込みパルスを所定回数印加する。以下では、図5および図6に基づいて、書込みパルスによる階調制御の具体例を説明する。
【0048】
図5は、データ線をX、走査線をYとするm行n列の表示部2における画素20のマトリクス表示である。簡単のために、表示部2のうち、最初の2行2列の画素20のみ(20a〜20d)に注目して説明する。図6は、図5に示したm行n列に配列された電気泳動素子23に対応したタイミングチャートである。図6において、S1,S2,…Smが各走査線(Y1,Y2,…Ym)に供給される走査信号を示し、D1,D2,…Dnが各データ線(X1,X2,…Xn)に供給される画像信号を示している。
【0049】
表示部2全体が純黒色表示である初期状態から、図5Aから図5Dの順番に階調変化させて、最終的に表示すべき階調として図5Dの階調表示を実現する。最終表示すべき階調は、図5Dのごとく1列1行目の画素20aが純黒色(最低側飽和反射率)である第1階調、画素20cが暗い灰色である第3階調、画素20bが明るい灰色である第12階調、画素20dが純白色(最高側飽和反射率)である第16階調とする。
【0050】
第1回走査では、図5Aに示すように、画素20b,20c,20dを中間階調へと移行する。第1回走査時には、共通電極22に共通電位Vcomとして25Vを印加する。データ線駆動回路3からデータ線(X1,X2,…Xn)および画素スイッチング用トランジスタ24を介して、非選択画素となる画素20aには25Vの画像信号を供給し、選択画素となる画素20b,20c,20dには0Vの画像信号をそれぞれ供給する。図6に示すように、走査線駆動回路4から各走査線(Y1,Y2,…Ym)に対して供給される走査信号S1,S2,…Smの電位が順次高電位(選択状態)とされる。画素20aにおいては、画素電極21に与えられる電位(25V)と、共通電極22に与えられる共通電位Vcom(25V)とが同電位となるので、相対的な電位差が生じず、電気泳動素子23は移動しない。そのため、第1回走査終了時に、画素20aは、純黒色表示のままである(図5A参照)。画素20b,20c,20dにおいては、画素電極21に与えられる電位(0V)に対して、共通電極22に与えられる共通電位Vcom(25V)が相対的に高電位となり、負に帯電した白色粒子82がクーロン力によって共通電極22側に引き寄せられる。これにより、第1回走査終了時に、画素20b,20c,20dの階調は、濃いグレーとなる(図5A参照)。
【0051】
続いて、第2回走査に移る。第2回走査では、第1回走査とデータ線駆動に変更はなく、第1回走査と同等の走査が行われる。したがって、第2回走査終了時には、非選択画素の画素20aは、純黒色表示のままであり、選択画素となる画素20b,20c,20dは、さらに白色粒子82が共通電極22側に移動するので、より反射率の高い第3階調に相当する濃いグレーとなる(図5B参照)。
【0052】
続いて、第3回走査に移る。第2回走査終了時点で画素20cは所望の階調に達したため、第3回走査では、画素20a、20cは非選択画素となり、図5Cに示すように、選択画素となる画素20b,20dの階調のみを変更する。第3回走査時には、共通電極22に共通電位Vcomとして25Vを印加する。データ線駆動回路3からデータ線(X1,X2,…Xn)および画素スイッチング用トランジスタ24を介して、画素20a,20cには25Vの画像信号を、画素20b,20dには0Vの画像信号をそれぞれ供給する。このように、各画素20における所望の階調およびそれに伴うデータ線駆動は、コントローラ6によって制御される。図6に示すように、走査線駆動回路4から各走査線(Y1,Y2,…Ym)に対して供給される走査信号S1,S2,…Smの電位が順次高電位(選択状態)とされる。画素20a,20cにおいては、画素電極21に与えられる電位(25V)と、共通電極22に与えられる共通電位Vcom(25V)とが同電位となるので、相対的な電位差が生じず、電気泳動素子23は移動しない。そのため、第3回走査終了時に、画素20aは、純黒色表示のままである(図5C参照)。また、画素20cの階調は、第2回走査終了時点の階調(濃いグレー)のままである(図5C参照)。選択画素となる画素20b,20dにおいては、画素電極21に与えられる電位(0V)に対して、共通電極22に与えられる共通電位Vcom(25V)が相対的に高電位となり、負に帯電した白色粒子82がクーロン力によって共通電極22側に引き寄せられる。これにより、第3回走査終了時に、画素20b,20dの階調は、さらに薄いグレーとなるが、希望の階調レベルには達していない。画素20bの目標階調度は明るい灰色である第12階調であるので、本例では25Vの書込みパルスを10回印加し、その後に30Vの書込みパルスを1回印加することで得られる。そこで、第10回走査までは第3回走査と同等の駆動を繰り返す。そして、第10回走査(パルス数=10)では、画素20a、20cは非選択画素となり、図5Cに示すように、選択画素の画素20b,20dの階調のみを変更する。第11回走査時には、共通電極22に共通電位Vcomとして30Vを印加し、データ線駆動回路3からデータ線(X1,X2,…Xn)および画素スイッチング用トランジスタ24を介して、画素20a,20cには30Vの画像信号を、画素20b,20dには0Vの画像信号をそれぞれ供給する。これにより、画素20b,20dの階調は、明るい灰色である第12階調になる(図5C参照)。
【0053】
第12回走査以降は、画素20dの階調を移行させるため、図4Aに示すように書込みパルスの印加回数に対応して画素20dに印加する書込みパルスの電圧値を上げつつ、同様に走査を繰り返す。この結果、第20回走査終了時点で画素20dが第16階調である白色表示に到達する(図5D参照)。これで所望の画像を表示部2の表示面に表示させることができたため、走査は終了となる。なお、第13回走査(パルス数=13)に対応した階調レベルからは、共通電極22の共通電位Vcomとして40Vを印加する。
【0054】
所望の画像が得られ画面が完成すれば、その表示はそのまま表示部2に保持される。したがって、走査終了後は、省電力のためにデータ線駆動回路3や走査線駆動回路4の電源を切ることも可能である。再度、画面書き換えを行う場合は、最初に表示部2の表示面全体を純黒色表示とし、新しい画像データに基づいて走査を行えばよい。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態に係る電気泳動表示装置1の駆動方法においては、印加するパルスの電圧値および印加回数に応じて共通電極22側の反射率がなだらかに変化するため、均等な16階調を得ることができる。したがって、印加するパルスの電圧値および印加回数に応じて、純黒色表示から中間調、純白色表示へと(純白色表示から中間調、純黒色表示へと)階調を制御することができるため、対象画素20の階調制御を容易かつ精度よく実現することが可能となる。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、さまざまに変更して実施可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更が可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施可能である。
【0057】
例えば、上記実施の形態においては、共通電極22の電位を遷移させることで電気泳動粒子を駆動する、いわゆるコモン振り駆動と称する駆動方法を採用している。しかし、この駆動方法に限られず、共通電極22の電位を固定して、画素電極21の電位を正負にわたって変化させる駆動方法を採用することも、当然可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 電気泳動表示装置
2 表示部
3 データ線駆動回路
4 走査線駆動回路
5 共通電位供給回路
6 コントローラ
11 共通電位線
20 画素
21 画素電極
22 共通電極
23 電気泳動素子
24 画素スイッチング用トランジスタ
25 保持容量
28 素子基板
29 対向基板
81 分散媒
82 白色粒子
83 黒色粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定幅のスペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、前記一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された複数の画素電極と、前記一対の基板のうち他方の基板の基板面に前記複数の画素電極に対向して形成された共通電極と、前記一対の基板間に封入された色および極性が異なる2種類の帯電粒子を分散させてなる液状体と、前記画素電極と前記共通電極との間に前記帯電粒子を移動させる電位差を発生させる書込みパルスを生成する駆動回路と、を具備し、
前記駆動回路は、対象画素の階調が所要の階調に到達するまで、前記書込みパルスの電圧値を段階的に引き上げるとともに各段階の電圧値にて前記書込みパルスの印加を所定回数繰り返すことを特徴とする電気泳動表示装置。
【請求項2】
前記駆動回路は、制御対象エリアとなる全画素または所定エリアの画素を階調表示の上限または下限となる飽和反射率に初期設定し、飽和反射率の近傍では中間領域に比較して階調変化が相対的に小さくなるように前記書込みパルスの電圧値および印加回数を制御することを特徴とする請求項1記載の電気泳動表示装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、前記初期設定において相対的に移動速度が速い帯電粒子を光透過性を有する基板側の電極に集結させることを特徴とする請求項1記載の電気泳動表示装置。
【請求項4】
前記駆動回路は、制御対象エリアとなる全画素または所定エリアの画素の全体に対して、各画素の前記画素電極および前記共通電極間に、短時間に電圧の極性が交互に反転するシェイキングパルスを印加することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電気泳動表示装置。
【請求項5】
所定幅のスペースを介して対向配置され少なくとも一方が光透過性を有する一対の基板と、前記一対の基板のうち一方の基板の基板面に形成された複数の画素電極と、前記一対の基板のうち他方の基板の基板面に前記複数の画素電極に対向して形成された共通電極と、前記一対の基板間に封入された色および極性が異なる2種類の帯電粒子を分散させてなる液状体と、前記画素電極と前記共通電極との間に前記帯電粒子を移動させる電位差を発生させる書込みパルスを生成する駆動回路と、を具備した電気泳動表示装置の駆動方法において、
対象画素の階調が所要の階調に到達するまで、前記書込みパルスの電圧値を段階的に引き上げるとともに各段階の電圧値にて前記書込みパルスの印加を所定回数繰り返すことを特徴とする電気泳動表示装置の駆動方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−198467(P2012−198467A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64078(P2011−64078)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】