説明

電気生理測定デバイス

【課題】本発明は、検体にダメージを与えることなく測定中の検体あるいはその近傍の検体が分泌する化合物による影響を抑制することができる電気生理測定デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、本発明の電気生理測定デバイスは検体を捕捉するため少なくとも一つ以上の導通孔5を備えたセンサチップ3と、前記センサチップ3を保持する保持板4と、前記保持板4の上面に接合された貫通孔2を備えたウェルとからなり、センサチップ3の上面および下面を溶液で満たし検体7の電気生理現象を測定するための電気生理測定デバイスであって、この溶液で満たされた部分に前記検体7が分泌する分泌物吸着手段6を備えた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の電気生理的活動の測定に用いられる電気生理測定デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気生理学におけるパッチクランプ法は、細胞膜に存在するイオンチャンネルを測定する方法として知られており、このパッチクランプ法によってイオンチャンネルの様々な機能が解明されてきた。そして、イオンチャンネルの働きは細胞学において重要な関心事であり、これは薬剤の開発にも応用されている。
【0003】
しかし、一方でパッチクランプ法は測定技術に微細なマイクロピペットを1個の細胞に高い精度で挿入するという極めて熟達した操作を必要としているため、熟練作業者でさえ多くの測定をこなせないことがある。従って高いスループットで測定を必要とする場合には適切な方法でない。
【0004】
このため、微細加工技術を利用した基板型プローブの開発がなされており、これらは個々の細胞についてマイクロピペットの挿入を必要としない自動化システムに適している。
【0005】
例えば、プローブを細胞またはその部分の表面近くに制御し、プローブを該表面に垂直になるように表面に接触させるというパッチクランプ法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、基質上または基質内に形成された管状通路内における電気浸透流を用いて細胞を測定位置に自動的に配置するための手段を備えたオートパッチ方式が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献としては、下記の特許文献に挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2004−528553号公報
【特許文献2】特表2004−510980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の構成によるオートパッチ方式の電気生理測定デバイスにおいては、測定精度が低下することがあった。その理由は、電気生理測定中の検体が、検体自身が分泌する化合物あるいは近傍の検体が分泌する化合物の影響を受けるため、精度よく測定するためには検体周囲の溶液を交換することによって分泌される化合物の影響を取り除く必要があったが、検体周囲の溶液を交換することにより測定中の検体がダメージを受け、測定そのものが失敗してしまうためである。そしてその結果検体にダメージを与えることなく精度よく電気生理測定するのが難しいという課題があった。
【0010】
本発明は、オートパッチ方式の電気生理測定デバイスの有する前記従来の課題を解決するもので、検体にダメージを与えることなく測定中の検体あるいはその近傍の検体が分泌する化合物による影響を抑制することができる電気生理測定デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の電気生理測定デバイスは、溶液で満たされた部分に検体が分泌する分泌物を吸着するための分泌物吸着手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気生理測定デバイスによれば、検体にダメージを与えることなく検体近傍の検体が分泌する化合物の検体に対する影響を抑制することによって精度良く電気生理測定ができる電気生理測定デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)本発明の実施の形態1における電気生理測定デバイスの構成を示す透過斜視図、(B)本発明の実施の形態1における電気生理測定デバイスの構成を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1における電気生理測定方法を示す電気生理測定デバイスの断面図
【図3】本発明の実施の形態2における電気生理測定デバイスの構成を示す断面図
【図4】本発明の実施の形態2における電気生理測定デバイスの構成を示す断面図
【図5】本発明の実施の形態3における電気生理測定デバイスの構成を示す断面図
【図6】(A)本発明の実施の形態4における電気生理測定デバイスの構成を示す要部拡大断面図、(B)本発明の実施の形態4における電気生理測定デバイスの構成を示す要部拡大透過斜視図
【図7】本発明の実施の形態4における電気生理測定デバイスの製造工程を示す断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれら実施の形態に限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における電気生理測定デバイスおよびこれを用いた測定方法について図面を用いて説明する。
【0016】
図1(A)は本発明の実施の形態1における電気生理測定デバイスの構成を示す透過斜視図、図1(B)は同横断面図、図2は電気生理測定デバイスを用いた測定方法を示す電気生理測定デバイスの断面図である。
【0017】
図1(A)に示すように、本実施の形態の電気生理測定デバイスは、貫通孔2を有するウェル1と、このウェル1の底部に接合されたセンサチップ3を保持した保持板4とからなり、センサチップ3には少なくとも一つの導通孔5が設けられている。
【0018】
また図1(B)に示すように、ウェル1の側面には分泌物吸着手段6が備えられている。
【0019】
ウェル1は例えばポリプロピレンやポリスチレン、ポリカーボネートなどの有機材料で形成することができ、また、センサチップ3は、例えば、ガラスやシリコン、熱酸化シリコンなどの無機材料で形成することができるほか、ポリプロピレンなどの樹脂フィルムで形成することもできる。
【0020】
導通孔5としては例えば1〜5μmの直径の円形の穴であり、シリコン基板上にエッチングやフォトリソグラフィーなどの技術を用いることによって真円度の高い穴を形成することができるようになる。
【0021】
なお、例えばセンサチップ3としてシリコンを使用した場合は、フォトリソグラフィー法やドライエッチング法を用いることで、導通孔5の形状を精度よく成形することができ、例えばセンサチップ3としてポリプロピレンなどの樹脂フィルムで形成した場合はCO2レーザー照射によって容易に導通孔5を形成することができる。
【0022】
分泌物吸着手段6とは、例えば検体7として動物細胞を用いた場合に、当該電気生理測定デバイスを用いて電気生理測定をしている最中に該動物細胞が分泌する物質を吸着する材料で構成されており、例えば、酸化チタンや酸化ニオブ、炭酸ルビジウム、酸化ジルコニウム、炭酸ナトリウムなどの金属を焼成して得られるKイオンに対して選択的に吸着する吸着材を用いることができる。
【0023】
また、分泌物吸着手段6として、例えば、動物細胞が分泌する成長ホルモンやの前駆体プロオピオメラノコルチン(POMC)、エンケファリン、インスリンなどのタンパク質やペプチドに対して親和性を持った抗体やイオン交換樹脂、または、これら低分子をターゲット分子として選択的吸着特性を持つように重合し作製された分子インプリンティングポリマーを用いることもできる。
【0024】
なお、図1ではウェル1に分泌物吸着手段6を備えた構成を示しているが、後述する電気生理測定を行う際に、測定液に分泌物吸着手段6が浸漬するように配置することでも同様の効果を得ることができる。
【0025】
次に図2を用いて電気生理測定デバイスを用いた電気生理測定方法について説明する。図2に示すように、検体7を含んだ第一の測定液8をセンサチップ3の上面が満たされるようにウェル1の中に導入し、第二の測定液9をセンサチップ3の下面が満たされるように配置する。また、第一の測定液8に接するように第一の電極10が配置され、第二の測定液9に接するように第二の電極11が配置されている。
【0026】
このとき、第二の測定液9を効率良くウェル1の下面に配置させるために、第二の測定液9を流す流路(図示せず)を用いることができ、その場合、流路とウェル1を一体成型することによって作業が容易になる。
【0027】
検体7とは例えば、CHO細胞やHEK細胞、RBL細胞等の動物細胞のことであり、また、イオンチャネルなどのタンパク質を組み込んだリポソームを用いることができる。
【0028】
第一の測定液8および第二の測定液9は、例えば、生理食塩水やタイロード液など電気生理測定に用いる水溶液のことであり、この中に新薬の候補となる化合物を含ませて、検体7の電気生理特性への影響を評価することによって薬理効果の判定に用いることもできる。
【0029】
上記構成において、導通孔5に陰圧を外部より印加することによって検体7を導通孔5に捕捉し密着させる。そして、第一の電極10と第二の電極11で回路を形成し、所望の電圧を印加することによって検体7の電気生理測定をすることができる。このとき第一の電極10と第二の電極11の間では導通抵抗が発生し、細胞膜によって第一の測定液8と第二の測定液9が遮断された場合は通常500M〜10GΩの高い抵抗値が得られるようになる。
【0030】
続いて、第一の電極10と第二の電極11の間に10mV程度の固定電圧を印加すると、例えば検体7としてRBL細胞を用いた場合、RBL細胞膜上の整流性Kイオンチャネルを流れるイオン流を電流値として計測することができる。なお、図2では、電極をセンサチップ3の外部に設けた例を示したが、個々のセンサチップ3にそれぞれ設けることもできる。
【0031】
電気生理測定をする際、例えば、電位依存性のKイオンチャネルの測定をすると、電圧の印加と共に、検体7の細胞膜上にあるKイオンチャネルが開口し、動物細胞内のKイオンが第一の測定液8中に流れ込むことでイオン電流として検出されるが、Kイオンは第二の測定液9によって供給され続けることによって、電圧を印加している間はKイオンが枯渇することなく、第一の測定液8中に放出され続けることとなる。
【0032】
前述のごとくKイオンが第一の測定液8中に放出され続けることによって、第一の測定液8のイオン濃度組成が変化し、第一の測定液8と第二の測定液9との間に当初形成されていたイオン勾配が減少し、その結果、計測中の細胞に印加される電圧の値が影響を受け、正確に電気生理測定をすることができなくなってしまう。
【0033】
また、他の種類のイオンチャネルにおいても同様の現象によって、測定開始時に導通孔5の内外に形成されていたイオン濃度勾配が電圧印加時間と共に低下し測定精度の低下の原因となりうる。
【0034】
そこで、例えば分泌物吸着手段6としてKイオンを選択的に吸着する金属酸化物をウェル1内に備えることによって、第一の測定液8中に放出されたKイオンが分泌物吸着手段6に吸着されることによって、第一の測定液8中のKイオン濃度を低く抑えることができるようになり、その結果、計測初期に形成された第一の測定液8と第二の測定液9の間のイオン濃度勾配を維持することができ、第一の測定液8を交換することなく、連続して初期状態と同じ計測を繰り返すことができるようになる。
【0035】
このとき、第一の測定液8のKイオンの初期濃度を維持するために、第一の測定液8のKイオンの初期濃度と平衡状態になるように分泌物吸着手段6のKイオンに対する結合力を調節する必要がある。Kイオンの初期濃度と平衡状態にあるので、第一の測定液8中に細胞からKイオンが放出された場合、分泌物吸着手段6が増加分のKイオンを吸着することによって、第一の測定液8中のKイオン濃度を維持することができるようになる。
【0036】
なお、異なるKイオン濃度の第一の測定液8を利用する場合は、例えば、分泌物吸着手段6としての金属酸化物の量を調節し、Kイオンの初期濃度と平衡状態になるようにすることによって同様の効果を得ることができる。
【0037】
第一の測定液8を交換する必要がないために、測定液の交換に伴う検体7へのダメージを回避することができるようになり、長時間にわたって、正確に電気生理測定をすることができるようになる。
【0038】
ここで、分泌物吸着手段6として例えばKイオンを選択的に吸着する金属焼成体からなる吸着剤をウェル1内に樹脂バインダーなどで接着させることによって一体化することができる。
【0039】
また分泌物吸着手段6として例えば成長ホルモンを鋳型分子として重合した分子インプリンティングポリマーを使用した場合、第一の測定液8中に分泌された成長ホルモンを吸着することによって、成長ホルモンの検体7への濃度依存的作用を低減させることができるようになる。
【0040】
成長ホルモンを鋳型分子とした分子インプリンティングの作製方法としては、例えば、成長ホルモン、アクリル酸、メタクリル酸、メチレンビスアクリルアミドを所望の濃度で混合し、重合開始剤として過酸化二硫酸カリウムを添加することによって重合させ、重合後にイオン強度の高い塩水溶液で洗浄することによって成長ホルモンを抽出することによって容易かつ安価に合成することができる。
【0041】
成長ホルモンは調節性分泌経路に含まれる分泌タンパク質で、成長ホルモン調節ホルモンやソマトスタチンなどのホルモンの刺激を細胞が受けることによって数分のうちに分泌される。分泌された成長ホルモンは通常は細胞膜上の成長ホルモン受容体に結合することによって細胞内情報伝達系に作用したり、Naイオンチャネルに直接作用したりすることによって細胞の応答性に影響を及ぼすと考えられている。
【0042】
リガンド型受容体に作用する薬剤の評価を行う場合、細胞内情報伝達系へのシグナルが、リガンド型受容体の応答性に作用するため、成長ホルモンなどの細胞内情報伝達系に作用するホルモンが第一の測定液8中に存在すると、測定したい化合物の作用だけを抽出することができずに正確に電気生理測定することができなくなる。
【0043】
上記のごとく、動物細胞を検体7として使用した場合には、薬剤の添加によって細胞自身が、成長ホルモンなどの生理活性物質を放出し、細胞の電気生理応答性を調節しうるが、分泌物吸着手段6がこれらの生理活性物質を吸着することによって、計測対象である動物細胞への作用を防止することができるようになり、計測時間が長くなっても測定液中の生理活性物質濃度をあげることなく、正確に電気生理測定をすることができるようになる。
【0044】
上記構成において、電気生理測定中に検体7から分泌される分泌物質を分泌物吸着手段6が吸着することによって、分泌物質による検体7への影響を抑制することができ、また、測定液の組成変化を防止することができるため、検体7周囲の溶液を交換することなく連続して電気生理測定をすることができるようになるため、検体7へダメージを与えることなく長時間にわたって精度良く電気生理測定をすることができるようになる。
【0045】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2における電気生理測定デバイスについて図面を用いて説明する。なお、実施の形態1で説明した箇所と同じ箇所については説明を省略する。実施の形態1と異なる点はウェルを分泌物吸着手段6で構成している点である。
【0046】
図3は本発明の実施の形態2における電気生理測定デバイスを示す横断面図である。
【0047】
図4は本発明の実施の形態2における電気生理測定デバイスを示す横断面図である。
【0048】
図3に示すように、本実施の形態の電気生理測定デバイスは、導通孔5を有したセンサチップ3を保持した保持板4が分泌物吸着手段6で形成されたウェルの底部に設けられている。例えば、グルコースをテンプレートとして、メタクリル酸を配位性モノマーとして、エチレンジメタクリル酸を架橋性モノマーとして、アゾビスイソブチルニトリルを重合開始剤として混合し、ウェル形状の金型を用いて射出成型することでグルコースを吸着する機能を備えた樹脂プレートを容易に作製することができる。
【0049】
上記のようにウェルを形成する樹脂として分泌物吸着機能を有した機能性ポリマーを用いることによって、ウェルを成形した後に改めて分泌物吸着手段を設けるよりも成形工程が簡略化されることとなり、製造コストを低減させる事ができるようになる。
【0050】
また、図4に示したように、分泌物吸着手段6aと分泌物吸着手段6bでウェルを形成し、2種類以上の分泌物に対して吸着機能を有する電気生理測定デバイスを作製することもできる。この場合、ウェルを射出成型する際に2種類のテンプレートを用いることで作製することもできるが、2種類のウェルを成形した後に接合することで作製することもできる。
【0051】
なお、図4では2種類の分泌物吸着手段6を示したが、同様に3種類以上の分泌物吸着手段6を設けることによって、3種類以上の分泌物に対する吸着機能を付与することもできる。
【0052】
上記構成において、検体が測定液中に分泌する分泌物質が2種類以上あっても、複数の分泌物吸着手段6を設けることによって、分泌物の測定溶液中濃度の変化を抑え、検体への影響を抑制することができるようになり、計測をより正確に行うことができるようになる。
【0053】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3における電気生理測定デバイスについて図面を用いて説明する。
【0054】
図5は本発明の実施の形態3における電気生理測定デバイスの横断面図である。
【0055】
なお、実施の形態1で説明した箇所と同じ箇所については説明を省略する。実施の形態1と異なる点は分泌物吸着手段6を保持板4の下面に設けた点である。
【0056】
図5に示すように、分泌物吸着手段6を保持板4の底面に設け、第二の測定液9に浸漬するように構成することもできる。例えば、Naイオンに対して吸着特性を有する酸化金属組成物をセンサチップ3の底面に熱酸化により構成したり、分子インプリンティングをラミネート加工で形成したりすることができる。この場合、Naイオンチャネルの活性化に伴って、第二の測定液9中に流入してきたNaイオンを吸着することによって、Naイオン濃度の変化を抑えることができるようになり、Naイオン濃度勾配の低下を抑制することができるため、測定液を交換することなく、イオン濃度勾配を維持することができるようになり、精度良く電気生理測定をすることができるようになる。
【0057】
なお、分泌物吸着手段6はセンサチップ3の下面に設けた場合であっても同様の効果を得ることもできる。
【0058】
なお、実施の形態1と組み合わせることによって、第一の測定液8と第二の測定液9の両方の組成変化を抑制し、検体の電気生理的応答による細胞内液および細胞外液両方への影響を抑制することができるようになり、より精度良く電気生理測定ができるようになる。
【0059】
(実施の形態4)
以下、本発明の実施の形態4における細胞電気生理測定デバイスについて図面を用いて説明する。
【0060】
図6は本発明の実施の形態4におけるセンサチップの構成を示す図である。なお、実施の形態1で説明した箇所と同じ箇所については説明を省略する。実施の形態1と異なる点は分泌物吸着手段6をセンサチップ3の表面に膜状に構成した点である。
【0061】
図6に示すように、キャビティ12を有したセンサチップ3の表面に分泌物吸着手段6が膜状に形成されている。例えば、分泌物吸着手段6として、実施の形態1で示したような金属コロイドをスピンコート法で薄膜化した後1200℃で焼成することによって、Kイオンに対して選択的な吸着特性を有する100nm程度の金属薄膜が得られる。
【0062】
例えば、図6(B)のように水平断面が多角形になるようにドライエッチング法やフォトリソグラフィー法で成形した溝に前記金属薄膜を形成することによって、表面積の大きな分泌物吸着手段6を構成することができる。
【0063】
また、金属薄膜を製膜する方法として、CVD法やスパッタリングを用いることもできるが、金属薄膜の吸着金属の選択性を高めるため、製膜方法はスパッタリング法が好ましい。なお、所望の金属イオン吸着選択性が得られれば、蒸着法や、CVD法も用いることができる。
【0064】
また、図6(B)のようにキャビティ12に前記金属薄膜を製膜した後に、キャビティ12底面の導通孔5の周囲をドライエッチングやウェットエッチングすることによって、キャビティ12底部の金属薄膜を除くように加工することもできる。この場合、検体と接触する底部をガラス、シリコン、酸化シリコンなどの材料であらかじめ成形しておくことによって、例えばCHO細胞やHEK細胞などの動物細胞を検体として用い、電気生理測定する場合に効率良く動物細胞表面の細胞膜とシール形成をすることができ、イオンチャネルなどの動物細胞膜内外でイオン流を発生させるような蛋白質の電気生理的機能を測定することができる。
【0065】
なお、図7で示したように、スパッタリング法によって製膜する際に、真空度を下げ、例えば数Paから大気圧でスパッタリングすることによって、イオン14の飛行方向をランダムにし、なおかつあらかじめ形成してあるキャビティ12の上部にキャビティ12と相似形をなす遮蔽物13を設けることによってキャビティ12底面に向かって垂直に飛行するイオン14を遮断することによって、キャビティ12底部に製膜することなく、キャビティ12側面のみに金属薄膜を製膜することができるようになる。
【0066】
ここで遮蔽物13とは例えば金属やガラスなどで成形された、キャビティ12と相似形の形状を持った板を用いることができ、この遮蔽物13をセンサチップ3のキャビティ12上部に、センサチップ3と平行に配置させることによって利用することができる。
【0067】
また、シリコン基板の上面にキャビティ12を形成する前にCVD法やスパッタリング法によって金属イオンを選択的に吸着する金属薄膜を成形した後に、ドライエッチングあるいはウェットエッチング法によってキャビティ12を形成し、シリコン表面を露出させることもできる。
【0068】
上記のごとく、シリコン基板上に金属イオンを選択的に吸着する金属薄膜を製膜することによって、電気生理的測定の際に捕捉された動物細胞のごく近傍に分泌物吸着手段6を配置することができ、また、接着剤などのバインダーを用いることなく一体成形しているので、バインダーから放出される微量な有機分子による動物細胞への計測妨害作用を無視することができ、逆に、動物細胞自身が分泌する影響分子を吸着作用によって取り除くことができるので、精度よく電気生理的測定を行うことができるようになる。
【0069】
上記構成において、センサチップ3の内壁表面に分泌物吸着手段6を形成することによって分泌物が分泌物吸着手段6の近傍に分泌されることとなり、検体の分泌物に対して迅速に吸着作用を示すことができるようになり、また、表面積を大きくとることによって、分泌物の吸着量を多くすることができるため、検体の分泌物に対して効果的に吸着作用を示すことができるようになる。
【0070】
なお、実施の形態1と組み合わせることによって、分泌物吸着手段6による吸着量を増やすこともできる。検体量が多い場合、検体量に応じて分泌物の分泌量も増加するため、より分泌物の吸着量が多い方がより長時間安定して計測することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の電気生理測定デバイスを用いることによって、検体自身が測定液中に分泌する化合物を吸着し、化合物による細胞への影響を低減させることによって、測定液を交換することなく、連続して正確に検体の電気生理測定をすることができるようになり、測定液を交換する必要がないので、測定に用いる化合物の消費量を少量に抑えることができるようになり、また、細胞にダメージを与えることなく長時間精度高く電気生理測定することができるようになる。また、製薬メーカーの新薬開発リスクの低減化および、開発コストの低下を実現することができるようになることから、医療コストの圧縮も期待される。
【符号の説明】
【0072】
1 ウェル
2 貫通孔
3 センサチップ
4 保持板
5 導通孔
6 分泌物吸着手段
6a 分泌物吸着手段a
6b 分泌物吸着手段b
7 検体
8 第一の測定液
9 第二の測定液
10 第一の電極
11 第二の電極
12 キャビティ
13 遮蔽物
14 イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を捕捉するため少なくとも一つ以上の導通孔を備えたセンサチップと、
前記センサチップを保持する保持板と、
前記保持板の上面に接合された貫通孔を備えたウェルとからなり、
センサチップの上面および下面を溶液で満たし検体の電気生理現象を測定するための電気生理測定デバイスであって、
この溶液で満たされた部分に前記検体が分泌する分泌物を吸着するための分泌物吸着手段を備えた電気生理測定デバイス。
【請求項2】
前記ウェルが分泌物吸着手段である請求項1に記載の電気生理測定デバイス。
【請求項3】
前記ウェルが複数の分泌物吸着手段である請求項2に記載の電気生理測定デバイス。
【請求項4】
センサチップは前記導通孔上部にキャビティを有し、
前記分泌物吸着手段を前記センサチップのキャビティに備えた請求項1〜3のいずれか一つに記載の電気生理測定デバイス。
【請求項5】
前記分泌物吸着手段をセンサチップのキャビティの側面に備えた請求項4に記載の電気生理測定デバイス。
【請求項6】
前記分泌物吸着手段をセンサチップの下面および/または保持板の下面に備えた請求項1〜5のいずれか一つに記載の電気生理測定デバイス。
【請求項7】
前記分泌物吸着手段は金属焼成物からなる請求項1〜6のいずれか一つに記載の電気生理測定デバイス。
【請求項8】
前記分泌物吸着手段は分子インプリンティングポリマーからなる請求項1〜7のいずれか一つに記載の電気生理測定デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−205995(P2011−205995A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78441(P2010−78441)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】